(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694978
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】超臨界水による品質向上させた石油の製造
(51)【国際特許分類】
C10G 31/08 20060101AFI20200511BHJP
C10G 31/06 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
C10G31/08
C10G31/06
【請求項の数】71
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-19395(P2019-19395)
(22)【出願日】2019年2月6日
(62)【分割の表示】特願2016-541321(P2016-541321)の分割
【原出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2019-116622(P2019-116622A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】14/132,226
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,キ−ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】リー,チュ−ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ガーハウシュ,モハンマド,エス.
(72)【発明者】
【氏名】アッシャリーフ,アリ,エイチ.
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/066852(WO,A1)
【文献】
特表2013−530293(JP,A)
【文献】
特表2013−540856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 31/06
C10G 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界水石油品質向上システムを使用して石油原料を品質向上させる方法であって、
前記超臨界水石油品質向上システムに前記石油原料を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに水を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに補助原料を導入するステップであって、前記補助原料は、超臨界水を含み、前記補助原料は、さらにナフサ改質器からの芳香族炭化水素を含み、ナフサ改質器からの前記芳香族炭化水素は、前記補助原料の約1重量%(wt.%)〜約75wt.%の範囲で存在するステップと;
前記石油原料および前記水が混じり合って混合石油原料を形成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記混合石油原料および前記補助原料が上昇流超臨界水反応器の下部に別々にかつ同時に導入されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップであって、
前記上昇流反応器の底部近傍に位置する前記上昇流反応器内に含まれる流体の一部が流体運動量を失わないように、前記補助原料が前記上昇流反応器に導入される、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体が、水のほぼ臨界温度またはそれを超える温度、水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力で維持され、全体として上向き方向に動いているように、前記上昇流超臨界水反応器を運転し、その結果、前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された水から超臨界水が形成されるステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された石油原料と前記超臨界水との間の反応生成物として前記品質向上させた脱硫石油生成物が形成されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップと;
前記品質向上させた脱硫石油生成物を含む前記上昇流反応器生成物流体が前記上昇流反応器の上部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、通過する上昇流反応器生成物流体の量は、前記導入された混合石油原料と前記補助原料の合計量に等しいステップと;
気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物が前記上昇流反応器生成物流体から別々に選択的に分離されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップとを含む方法。
【請求項2】
導入される水と導入される石油原料の体積流量比が標準条件で約10:1〜約1:10の範囲で維持されるように、前記石油原料および前記水が導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合石油原料に混ぜ合わせる前記石油原料が、約150℃以下の温度および水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
周囲温度およびそれぞれの圧力条件で前記補助原料と前記混合石油原料の体積流量比が標準条件で約2:1〜約1:1000の範囲となるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記補助原料と前記混合石油原料の間の温度差が約−50℃〜約250℃の範囲で維持されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記上昇流反応器内の前記流体の温度が約380℃〜約600℃の範囲で維持されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記上昇流反応器生成物流体および前記混合石油原料の間の温度差が、約50℃〜約300℃の範囲で維持され、前記上昇流反応器生成物流体の圧力が約3,200psig〜約6,000psigの範囲で維持されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記補助原料が前記反応器中の流体の平均空塔速度より大きい上向きの流体速度を有するように前記補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記上昇流反応器の下部の前記流体が乱流の流動様式で維持されるように前記補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記補助原料が触媒物質をさらに含み、前記触媒物質は、前記補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記補助原料が触媒前駆体をさらに含み、前記触媒前駆体は前記上昇流超臨界水反応器の運転条件で前記触媒物質に変換することが実施可能であり、前記触媒前駆体は、前記補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記補助原料がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助原料の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記補助原料がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄が、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記補助原料が軽質炭化水素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記補助原料がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助原料の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記上昇流反応器生成物流体が下降流超臨界水反応器の上部に導入されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記下降流反応器に含まれる流体が、水の臨界温度および臨界圧またはそれを超える温度および圧力でそれぞれ維持され、全体として下向き方向に移動しているように、前記下降流超臨界水反応器を運転するステップと;
下降流反応器生成物流体が前記下降流超臨界水反応器の下部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、
通過する下降流反応器生成物流体の量は、導入された上昇流反応器生成物流体の量と等しいステップとをさらに含み;
前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップは、前記気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および前記水相生成物が、前記上昇流反応器生成物流体の代わりに前記下降流反応器生成物流体の別々の選択的分離によって生じるようなものであり;
前記超臨界水石油品質向上システムはまた前記下降流超臨界水反応器を含み、前記下降流反応器は、前記上昇流超臨界水反応器の下流に流体的に連結され、前記下降流反応器の上部に前記上昇流反応器生成物流体を受け取ることが実施可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記下降流反応器に含まれる前記流体の温度が、前記上昇流反応器に含まれる前記流体の温度より約0℃〜約100℃高い範囲の温度で維持されるように前記下降流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記導入された石油原料から前記品質向上させた脱硫石油生成物の間の収率が約92重量パーセントまたはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記品質向上させた脱硫石油生成物と前記導入された石油原料の間のAPI比重の差異が約8度またはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記品質向上させた脱硫石油生成物が約3wt.%未満の不溶性物質を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記補助原料が、V字形二重底を通るように複数の注入ポイントを通って前記上昇流反応器に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
予備加熱された補助原料を形成するために、補助供給流と予備加熱された水部分とを混合すること、および前記予備加熱された補助原料を前記上昇流反応器の前記下部に導入するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
超臨界水石油品質向上システムを使用して石油原料を品質向上させる方法であって、
前記超臨界水石油品質向上システムに前記石油原料を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに水流を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに補助原料流を導入するステップと;
前記石油原料の圧力および温度が上昇して予備加熱された石油原料を生成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記水流の圧力および温度が上昇して予備加熱された水流を生成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記予備加熱された石油原料と前記予備加熱された水の一部が混合して混合石油原料を形成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記補助原料流と前記予備加熱された水流の一部が混合して予備加熱された補助原料を形成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記混合石油原料および前記予備加熱された補助原料が上昇流超臨界水反応器の下部に別々にかつ同時に導入されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップであって、前記上昇流反応器の底部近傍に位置する前記上昇流反応器内に含まれる流体の一部が流体運動量を失わないように、前記予備加熱された補助原料が前記上昇流反応器に導入される、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体が、水のほぼ臨界温度またはそれを超える温度、水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力で維持され、全体として上向き方向に動いているように、前記上昇流超臨界水反応器を運転し、その結果、前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された水から超臨界水が形成されるステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された予備加熱された石油原料と前記超臨界水との間の反応生成物として前記品質向上させた脱硫石油生成物が形成されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップと;
前記品質向上させた脱硫石油生成物を含む前記上昇流反応器生成物流体が前記上昇流反応器の上部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、通過する上昇流反応器生成物流体の量は、前記導入された混合石油原料と前記補助原料の合計量に等しいステップと;
気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物が前記上昇流反応器生成物流体から別々に選択的に分離されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップとを含む方法。
【請求項24】
導入される水と導入される石油原料の体積流量比が標準条件で約10:1〜約1:10の範囲で維持されるように、前記石油原料および前記水が導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記混合石油原料に混ぜ合わせる前記予備加熱された石油原料が、約150℃以下の温度および水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
周囲温度およびそれぞれの圧力条件で前記予備加熱された補助原料と前記混合石油原料の体積流量比が標準条件で約2:1〜約1:1000の範囲となるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記予備加熱された補助原料と前記混合石油原料の間の温度差が約−50℃〜約250℃の範囲で維持されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記上昇流反応器内の前記流体の温度が約380℃〜約600℃の範囲で維持されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記上昇流反応器生成物流体および前記混合石油原料の間の温度差が、約50℃〜約300℃の範囲で維持され、前記上昇流反応器生成物流体の圧力が約3,200psig〜約6,000psigの範囲で維持されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記予備加熱された補助原料が前記反応器中の流体の平均空塔速度より大きい上向きの流体速度を有するように前記予備加熱された補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記上昇流反応器の下部の前記流体が乱流の流動様式で維持されるように前記予備加熱された補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記補助供給流が超臨界水を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記補助供給流の約1重量パーセント(wt.%)〜約75wt.%の範囲で存在する芳香族炭化水素を前記補助供給流がさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記芳香族炭化水素が本質的にトルエンからなる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記芳香族炭化水素がナフサ改質器からの改質油を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記補助供給流が触媒物質をさらに含み、前記触媒物質は、前記補助供給流の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記補助供給流が触媒前駆体をさらに含み、前記触媒前駆体は前記上昇流超臨界水反応器の運転条件で前記触媒物質に変換することが実施可能であり、前記触媒前駆体は、前記補助供給流の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記補助供給流がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助供給流の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記パラフィン型硫黄が、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記補助供給流が軽質炭化水素を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項41】
前記補助供給流がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助供給流の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記上昇流反応器生成物流体が下降流超臨界水反応器の上部に導入されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記下降流超臨界水反応器である下降流反応器に含まれる流体が、水の臨界温度および臨界圧またはそれを超える温度および圧力でそれぞれ維持され、全体として下向き方向に移動しているように、前記下降流超臨界水反応器を運転するステップと;
下降流反応器生成物流体が前記下降流超臨界水反応器の下部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、
通過する下降流反応器生成物流体の量は、導入された上昇流反応器生成物流体の量と等しいステップとをさらに含み;
前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップは、前記気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および前記水相生成物が、前記上昇流反応器生成物流体の代わりに前記下降流反応器生成物流体の別々の選択的分離によって生じるようなものであり;
前記超臨界水石油品質向上システムはまた前記下降流超臨界水反応器を含み、前記下降流反応器は、前記上昇流超臨界水反応器の下流に流体的に連結され、前記下降流反応器の上部に前記上昇流反応器生成物流体を受け取ることが実施可能であるステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項43】
前記下降流反応器に含まれる前記流体の温度が、前記上昇流反応器に含まれる前記流体の温度より約0℃〜約100℃高い範囲の温度で維持されるように前記下降流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記導入された石油原料から前記品質向上させた脱硫石油生成物の間の収率が約92重量パーセントまたはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項45】
前記品質向上させた脱硫石油生成物と前記導入された石油原料の間のAPI比重の差異が約8度またはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項46】
前記品質向上させた脱硫石油生成物が約3wt.%未満の不溶性物質を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項47】
予備加熱された補助原料が、V字形二重底を通るように複数の注入ポイントを通って前記上昇流反応器に導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項48】
超臨界水石油品質向上システムを使用して石油原料を品質向上させる方法であって、
前記超臨界水石油品質向上システムに前記石油原料を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに水を導入するステップと;
前記超臨界水石油品質向上システムに補助原料を導入するステップと;
前記石油原料および前記水が混じり合って混合石油原料を形成するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記混合石油原料および前記補助原料が上昇流超臨界水反応器の下部に別々にかつ同時に導入されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップであって、
前記上昇流反応器の底部近傍に位置する前記上昇流反応器内に含まれる流体の一部が流体運動量を失わないように、前記補助原料がV字形二重底を通って前記上昇流反応器に導入される、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体が、水のほぼ臨界温度またはそれを超える温度、水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力で維持され、全体として上向き方向に動いているように、前記上昇流超臨界水反応器を運転し、その結果、前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された水から超臨界水が形成されるステップと;
前記上昇流反応器内に含まれる前記流体中の前記導入された石油原料と前記超臨界水との間の反応生成物として前記品質向上させた脱硫石油生成物が形成されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップと;
前記品質向上させた脱硫石油生成物を含む前記上昇流反応器生成物流体が前記上昇流反応器の上部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、通過する上昇流反応器生成物流体の量は、前記導入された混合石油原料と前記補助原料の合計量に等しいステップと;
気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物が前記上昇流反応器生成物流体から別々に選択的に分離されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップとを含む方法。
【請求項49】
導入される水と導入される石油原料の体積流量比が標準条件で約10:1〜約1:10の範囲で維持されるように、前記石油原料および前記水が導入される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記混合石油原料に混ぜ合わせる前記石油原料が、約150℃以下の温度および水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
周囲温度およびそれぞれの圧力条件で前記補助原料と前記混合石油原料の体積流量比が標準条件で約2:1〜約1:1000の範囲となるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記補助原料と前記混合石油原料の間の温度差が約−50℃〜約250℃の範囲で維持されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記上昇流反応器内の前記流体の温度が約380℃〜約600℃の範囲で維持されるように前記上昇流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
前記上昇流反応器生成物流体および前記混合石油原料の間の温度差が、約50℃〜約300℃の範囲で維持され、前記上昇流反応器生成物流体の圧力が約3,200psig〜約6,000psigの範囲で維持されるように、前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項55】
前記補助原料が前記反応器中の流体の平均空塔速度より大きい上向きの流体速度を有するように前記補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項48に記載の方法。
【請求項56】
前記上昇流反応器の下部の前記流体が乱流の流動様式で維持されるように前記補助原料が前記上昇流超臨界水反応器に導入される、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
前記補助原料が超臨界水を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項58】
前記補助原料の約1重量パーセント(wt.%)〜約75wt.%の範囲で存在する芳香族炭化水素を前記補助原料がさらに含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記芳香族炭化水素が本質的にトルエンからなる、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記芳香族炭化水素がナフサ改質器からの改質油を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記補助原料が触媒物質をさらに含み、前記触媒物質は、前記補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記補助原料が触媒前駆体をさらに含み、前記触媒前駆体は前記上昇流超臨界水反応器の運転条件で触媒物質に変換することが実施可能であり、前記触媒前駆体は、前記補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
前記補助原料がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助原料の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する、請求項58に記載の方法。
【請求項64】
前記パラフィン型硫黄が、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記補助原料が軽質炭化水素を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項66】
前記補助原料がまたパラフィン型硫黄を含み、前記パラフィン型硫黄は、硫黄のみの基準で計算して前記補助原料の0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在し、1〜8の範囲の炭素数を有するチオール化合物およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記上昇流反応器生成物流体が下降流超臨界水反応器の上部に導入されるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップと;
前記下降流反応器に含まれる流体が、水の臨界温度および臨界圧またはそれを超える温度および圧力でそれぞれ維持され、全体として下向き方向に移動しているように、前記下降流超臨界水反応器を運転するステップと;
下降流反応器生成物流体が前記下降流超臨界水反応器の下部を通過するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転し、
通過する下降流反応器生成物流体の量は、導入された上昇流反応器生成物流体の量と等しいステップとをさらに含み;
前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップは、前記気相炭化水素生成物、前記品質向上させた脱硫石油生成物および前記水相生成物が、前記上昇流反応器生成物流体の代わりに前記下降流反応器生成物流体の別々の選択的分離によって生じるようなものであり;
前記超臨界水石油品質向上システムはまた前記下降流超臨界水反応器を含み、前記下降流反応器は、前記上昇流超臨界水反応器の下流に流体的に連結され、前記下降流反応器の上部に前記上昇流反応器生成物流体を受け取ることが実施可能である、請求項48に記載の方法。
【請求項68】
前記下降流反応器に含まれる前記流体の温度が、前記上昇流反応器に含まれる前記流体の温度より約0℃〜約100℃高い範囲の温度で維持されるように前記下降流超臨界水反応器を運転するステップをさらに含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記導入された石油原料から前記品質向上させた脱硫石油生成物の間の収率が約92重量パーセントまたはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項70】
前記品質向上させた脱硫石油生成物と前記導入された石油原料の間のAPI比重の差異が約8度またはそれを超えるように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項71】
前記品質向上させた脱硫石油生成物が約3wt.%未満の不溶性物質を有するように前記超臨界水石油品質向上システムを運転するステップをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は石油を品質向上させる方法およびシステムに関する。より具体的には、本分野は、石油を品質向上させるために超臨界水を使用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油は、エネルギーおよび石油系化学物質に必須の供給源である。しかし、石油中の不純物、とりわけ硫黄は、石油消費に潜在する環境への影響を緩和するため、処理を必要とする。大量に入手可能な石油が重質石油またはサワーオイルであり、その両方が、燃料として使用する前に削減すべき大量の不純物を含んでいることが問題を悪化させている。
【0003】
石油原料を「品質向上させる」従来の方法として、水素化法および熱的方法がある。水素化法には水素処理法や水素化分解などがあり、不純物を除去し、石油中の重質留分を軽質または中間範囲の生成物に変換するために、水素および水和触媒を使用する。水素化法の主な問題点は、必要とされる水素の量、および硫黄の存在下で比較的失活しやすい触媒の量などが挙げられる。熱的方法にはコーキング法やビスブレーキング法などがあり、これらは反応促進のために外部から水素または触媒を添加する必要がない。しかし、熱的方法は、副生物としてコークス、オレフィンおよびジオレフィンを生ずる。また、熱的方法は、硫黄や窒素ヘテロ原子種の除去に効果がないことが知られている。
【0004】
石油原料への超臨界水の適用は、炭化水素を品質向上させ脱硫するための有効な技法として知られている。コークス形成は抑制されるが、導入される石油原料を効果的に品質向上させるのに必要とする超臨界水反応条件および滞留時間によって、反応器や後段のユニットおよび付属物へ被膜を形成する予備コーキングおよびコーキング反応をもたらすおそれがある。超臨界水反応器中で滞留時間が長くなると、品質向上のための変換および脱硫を増加させることができるが、コーキングの確率や、炭化水素が軽質ガスやオレフィンへ過剰分解する確率も増加する。重質留分を分解しつつ、予備コーキング物質の形成を最小限にする、石油原料の重質留分を超臨界水に曝露する方法およびシステムを有することが望ましい。
【0005】
石油系コークスはラジカル間反応により生成される。ラジカル間反応は、石油原料の高炭素炭化水素間で局所的な二量化、オリゴマー化および重合反応を引き起こす。コーキングは、一般には、ナフサ、灯油、ディーゼル油といった原油の軽質留分の熱的品質向上処理方法では、観察されない。理論によって束縛される意図はないが、炭化水素(例えば、アスファルテン)の多環芳香族環は、非局在化によって遊離基を安定させると考えられる。この非局在化効果は結果として、パラフィン、オレフィンまたはナフテン化合物と関係した遊離基の寿命よりも、多環芳香族環上の遊離基の寿命をはるかに長くする。多環芳香族環を最も多く有する原油の留分は重質留分である。
【0006】
その上、たとえ超臨界水が一般に炭化水素に対し強い溶媒として作用しても、石油原料の重質留分に係る炭化水素は、それと容易に混和しない。重質留分を品質向上できるように、超臨界水を重質留分と混和するシステムおよび方法を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
超臨界水石油品質向上システムを用いた、石油原料の品質向上方法は、石油原料、水および補助原料を導入するステップを含む。本方法は、石油原料と水を混合するシステムを運転して混合石油原料を形成するステップを含む。本方法は、混合石油原料および補助原料が上昇流超臨界水反応器の下部に別々に同時に導入されるようにシステムを運転するステップを含む。上昇流反応器の底部近傍に位置する上昇流反応器内に含まれる流体の一部が流体運動量を失わないように、補助原料は上昇流反応器に導入される。本方法は、上昇流反応器内に含まれる流体が水のほぼ臨界温度またはそれを超える温度で、水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力で維持され、全体として上向きの方向に動いているように上昇流反応器を運転するステップを含む。上昇流反応器内に含まれる流体の中のうち、導入された水から、上昇流反応器内の条件で超臨界水が形成される。本方法は、品質向上させた脱硫石油生成物が形成されるように上昇流反応器を運転するステップを含む。品質向上させた脱硫石油生成物は、導入された石油原料と超臨界水の間の反応生成物であり、上昇流反応器内に含まれる流体中に形成される。本方法は、上昇流反応器生成物流体が上昇流反応器の上部を通過するようにシステムを運転するステップを含む。生成物流体は品質向上させた脱硫石油生成物を含む。通過する上昇流反応器生成物流体の量は、導入された混合石油原料と補助原料の合計量と等しい。本方法は、気相炭化水素生成物、品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物が、上昇流流体から別々に選択的に分離されるようにシステムを運転するステップを含む。
【0008】
超臨界水石油品質向上システムを使用した、石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、上昇流反応器生成物流体が下降流超臨界水反応器の上部に導入されるように超臨界水石油品質向上システムを運転するステップを含む。実施形態の方法において超臨界水石油品質向上システムはまた、下降流超臨界水反応器を含む。下降流反応器は、流体的に上昇流反応器の下流に連結され、上昇流反応器生成物流体を下降流反応器の上部に受け取ることが実施可能である。本方法の実施形態は、下降流反応器に含まれる流体が、それぞれ水の臨界温度および臨界圧またはそれを超える温度および圧力で維持され、全体として下向き方向に移動しているように下降流反応器を運転するステップを含む。本方法の実施形態は、下降流反応器生成物流体が下降流反応器の下部を通過するようにシステムを運転するステップを含む。通過する下降流反応器生成物流体の量は、導入された上昇流反応器生成物流体の量と等しい。本方法のそのような実施形態において、超臨界水石油品質向上システムを運転するステップは、上昇流反応器生成物流体の代わりに、下降流反応器生成物流体を別々に選択的に分離することにより、気相炭化水素生成物、品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物を生成する。
【0009】
超臨界水石油品質向上システムは上昇流超臨界水反応器を含む。上昇流反応器は、下部、上部および囲み壁によって画定された内部を有する。上昇流反応器は、内部に含まれる流体を超臨界水条件で維持し、上昇流反応器の下部近傍の上昇流反応器内部に混合石油原料および補助原料の両方を別々に分配し、内部流体の上向きの動きを促進させることができる。下部には、上昇流反応器の下部に沿って内部と外部の流体連結を別々に操作可能な補助原料ポートと混合石油原料ポートを備える。上昇流反応器の下部近傍に位置する流体が流体運動量を失わないように、上昇流反応器の下部に補助原料を分配することが可能である。上部は、上昇流反応器の上部に沿って内部と外部の流体連結を設けることができる出口ポートを備える。システムの実施形態は内在流体分配装置を含む。内在流体分配装置は、上昇流反応器の下部近傍に位置する流体が流体運動量を失わないように、補助原料ポートに流体連結し、上昇流反応器の下部に補助原料を分配することが可能である。
【0010】
超臨界水石油品質向上システムの実施形態は下降流超臨界水反応器を備える。下降流反応器は、下部、上部および囲み壁によって画定された内部を有する。実施形態の下降流反応器は、内部に含まれる流体を超臨界水条件で維持することが可能であり、実施形態において、上部は、下降流反応器の上部に沿って内部と外部の流体連結を設けることができる入口ポートを備え、下部は、下降流反応器の下部に沿って内部と外部の流体連結を設けることができる出口ポートを備える。実施形態の下降流反応器は上昇流反応器の下流にあり、下降流反応器の上部は、上昇流反応器の上部と流体連結されている。
【0011】
石油原料を品質向上させるのに有用なシステムは、上昇流超臨界水反応器を備える。この反応器および上昇流反応器内の流体運動により、上昇流反応器における固体コークスまたは生成流体におけるコーキング前駆体(反応器下流でコークス形成の原因となる)の生成が促進されない。上昇流反応器の垂直流動性により、導入された石油原料の重質留分の成分は、軽質留分の成分よりも滞留時間が長くなり、導入された超臨界水へより長く曝露されることにより、重質留分の品質向上および脱硫が促進される。下降流超臨界水反応器がある場合、軽質留分の成分は、重質留分の成分よりも滞留時間が長くなり、品質向上および脱硫が促進される。
【0012】
石油原料を品質向上させる本方法は、従来の水素化分解または水素処理法に必要な水素導入法を必要としない。上昇流反応器の内部で、また下降流反応器を有する場合は下降流反応器中で、水、具体的には超臨界状態の水が、水素供与体として働く。石油原料を品質向上させる本方法はまた、導入前の石油原料の軽質留分から重質留分を分離する必要がない。本方法はまた、品質向上中および脱硫中に、水から石油原料を分離する必要がない。
【0013】
上昇流反応器の底部へ補助原料を別で導入することにより、上昇流反応器の底部から重質の石油原料成分を分散させ、反応器に存在するバルク流体に戻すことが容易になる。重質成分を分散させ、希釈することにより、反応器底部近傍の流体におけるコーキングを防止し、蓄積した重質の石油原料成分を全体として上向き方向に移動させることができる。
【0014】
触媒物質、水素移動剤、または導入補助原料で遊離基を吸着できる化学物質を任意に含むことにより、コーキングに関係する遊離基反応を軽減することができ、一般に、上昇流反応器中の流体の残りに対して多環芳香族および重質ヘテロ原子種を含む石油原料成分部へ、補助原料を直接導入することによって、品質向上反応を促進することができる。
【0015】
本発明のこれらおよび他の特徴、態様ならびに利点は、好ましい実施形態、添付の特許請求の範囲および添付の図の、以下の詳細な説明に関してよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】超臨界水石油品質向上システムの実施形態の一般的な概略図である。
【0017】
【
図2】超臨界水石油品質向上システムの実施形態の一般的な概略図である。
【0018】
【
図3】超臨界水石油品質向上システムの実施形態の一般的な概略図である。
【0019】
添付の図において、類似したコンポーネント、特徴、またはその両方は、同じまたは類似した参照符号を有することができる。
図1から3は、超臨界水石油品質向上システムの幾つかの実施形態および使用の方法の一般的な概略図である。図およびその説明は、システムおよびその使用の方法のより良好な理解を容易にする。図は、本発明の範囲を決して限定または規定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の概要、図面の簡単な説明、発明を実施するための形態、および添付の特許請求の範囲を含む本明細書は、本発明の具体的な特徴(プロセスまたは方法のステップを含む)に言及する。本発明が、本明細書において記載される具体的な特徴のあらゆる可能な組み合わせおよび使用を含むことを当業者は理解している。本発明が、本明細書において示される実施形態の記載に限定されず、またはその記載によって限定されないことを当業者は理解している。本発明の主題は、本明細書および添付の特許請求の範囲の趣旨以外には制限されない。
【0021】
当業者は、具体的な実施形態を記載するために使用される用語が本発明の範囲または広さを限定しないことも理解している。本明細書および添付の特許請求の範囲を解釈する際に、すべての用語は、各用語の文脈と一致した可能な限り広い様式で解釈されるべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるすべての技術および科学用語は、別段定義されない限り、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「この(the)」は、文脈上別段明確に示されない限り、複数の言及を含む。動詞「含む(comprises)」およびその活用形は、非排他的様式で要素、コンポーネントまたはステップを指すと解釈されるべきである。参照される要素、コンポーネントまたはステップは、明示的に言及されない他の要素、コンポーネントまたはステップと共に存在し、利用され、組み合わせられてよい。動詞の「連結する(couple)」およびその活用形は、電気的、機械的または流体的な連結を含む、任意のタイプの必要な接合を完了させ、もともと未接合の2つ以上物体から単一の物体を形成することを意味する。第1の装置が第2の装置と連結する場合、直接または共通の接続具により接続することができる。「場合によって(Optionally)」およびその変形は、その後に記述される事象または状況が発生してもしなくてもよいことを意味する。記載は、事象または状況が発生する事例および発生しない事例を含む。「実施可能(Operable)」およびその変形は、その正しい機能に適合することを意味し、その意図される用途のために使用することが可能である。「関連する(Associated)」およびその変形は、一緒に発生するか、もしくは一方が他方を生成するが故に、両者が関連している、ということを意味する。
【0023】
空間的用語は、ある物体または物体群の、別の物体または物体群に対する相対位置を記載する。空間的関係は、垂直および水平軸に沿って適用される。「上向き(up)」、「下向き(down)」、「上(higher)」、「下(lower)」および他の同様な用語を含む配向および関連単語は、記載の便宜のためであり、別段の指示がない限り、限定されるものではない。
【0024】
本明細書または添付の特許請求の範囲がある範囲の値を提供する場合、その間隔は、上限と下限の各介在値ならびに上限および下限を包含すると理解される。本発明は、任意の特定の除外対象の提供に従い、より小さい間隔の範囲を包含し、境界を示す。
【0025】
定義されるステップが2つ以上である方法に対して本明細書および添付の特許請求の範囲が言及する場合、定義されるステップは、文脈がその可能性を排除する場合を除いて、任意の順序または同時に実行することができる。
【0026】
[
図1]
超臨界水石油品質向上システム100は、水および補助原料の両方を使用して、石油原料を脱硫石油生成物に品質向上させる。品質向上システム100は、給水配管102を使用して、品質向上システム100の外側の供給源から水を導入する。品質向上システム100は、石油原料配管104を使用して、品質向上システム100の外側の供給源から石油原料を導入する。品質向上システム100は、補助原料配管106を使用して、品質向上システム100の外側の供給源から補助原料を導入する。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、水と石油原料の体積流量比が、標準条件(60°F、1気圧)で約10:1〜約1:10の範囲になるように、水および石油原料を品質向上システムに導入するステップを含む。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、水と石油原料の体積流量比が、標準条件で約10:1〜約1:2の範囲になるように、水および石油原料を品質向上システムに導入するステップを含む。
【0027】
超臨界水石油品質向上システム100は、生成物および副生物を生成する。品質向上システム100は、気相生成物管路110を使用して気相炭化水素生成物を通す。品質向上システム100は、炭化水素生成物管路112を使用して、品質向上させた脱硫石油生成物を通し、品質向上システム100は、水生成物管路114を使用して、水相水生成物を通す。
【0028】
超臨界水石油品質向上システム100は、ポンプ120および121、予備加熱器125および126を使用して、導入された水および石油原料を加圧し予備加熱する。予備加熱された水は、予備加熱された水流路130に進む。本方法の実施形態は、予備加熱された水が約300℃〜約800℃の範囲の温度で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、予備加熱された水が約400℃〜約650℃の範囲の温度で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、予備加熱された水が水の臨界圧またはそれを超える圧力で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。予備加熱された石油原料流路132中の予備加熱された石油原料は、約30℃〜約300℃の範囲の温度を有する。石油原料を品質向上させる本方法の実施形態は、予備加熱された石油原料が約50℃〜約150℃の範囲の温度を有するように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、予備加熱された石油原料が150℃以下の温度を有するように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、予備加熱された石油原料が水のほぼ臨界圧またはそれを超える圧力を有するように品質向上システムを運転するステップを含む。予備加熱された石油原料が150℃を超えないようにすることにより、石油原料の熱分解を防止し、品質向上システム100を汚す石油スラッジを作り得る、供給管路内のコークス前駆体およびコークスの形成を防止できる。
【0029】
超臨界水石油品質向上システム100は、予備加熱された石油原料流路132および予備加熱された水流路130の内容物を混合流路134へ混ぜ合わせる。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、混合流路中の予備加熱された水と予備加熱された石油原料のモル流量比が約7:1〜約145:1の範囲で維持されるように、水および石油原料を品質向上システムに導入するステップを含む。品質向上システム100は、予備加熱された流路の内容物を一緒に混合し、その結果得られたものを混合流路134に通すために、専用混合装置、例えばスタティック混合物、インラインミキサーまたはインペラー内蔵混合機を備えることができる。
【0030】
図1に示すように、超臨界水石油品質向上システム100はまた、ポンプ122および予備加熱器127を使用して、別に導入される補助原料を加圧し予備加熱する。石油原料を品質向上させる本方法の実施形態は、周囲温度、ならびに予備加熱された補助原料および混合流路のそれぞれの圧力条件で決定された予備加熱された補助原料と混合流路の体積流量比が、標準条件で約2:1〜約1:1000の範囲で維持されるように、補助原料を品質向上システムに導入するステップを含む。品質向上システム100は、予備加熱された補助原料を予備加熱された補助原料管路136に通す。本方法の実施形態は、予備加熱された補助原料と混合石油原料の間の温度差が、約−50℃〜約250℃の範囲で維持されるように、品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、予備加熱された補助原料と混合石油原料の間の温度差が、約−20℃〜約100℃の範囲で維持されるように、品質向上システムを運転するステップを含む。
【0031】
超臨界水石油品質向上システム100は上昇流超臨界水反応器140を備える。上昇流反応器140は、内部142を画定する囲まれた壁141、底部143、頂部144、下部146および上部148を有する。品質向上システム100は、混合流路134の内容物、即ち予備加熱された石油原料および水の混合物を下部146、および底部143近傍の上昇流反応器140の内部142に通す。内部142中の内在流体分配器145は、予備加熱された補助原料管路136に流体的に下部146で連結している。品質向上システム100は、予備加熱された補助原料管路136の内容物を、内在流体分配器145を介して上昇流反応器140の内部142に通す。上昇流反応器140は、反応器生成物流路147が連結した頂部144を有する。反応器生成物流路147は、改質された炭化水素生成物および残存水の、上昇流反応器140内の品質向上運転からの排出口として働く。
【0032】
超臨界水石油品質向上システム100は、混合流路134の内容物、予備加熱された補助原料管路136の内容物、および上昇流反応器140の内部142の流体が反応器運転条件で相互作用して、その結果、品質向上した脱硫石油生成物が形成されるように、上昇流超臨界水反応器140を運転する。上昇流反応器140の内部142の流体は、様々な反応状態の炭化水素の混合物、超臨界状態の水、場合によって触媒、場合によってパラフィン硫黄化合物、ヘテロ原子含有炭化水素および硫黄などのヘテロ原子種を含む。
【0033】
上昇流反応器140は、外部供給される水素を使用せず、コークスまたはコークス前駆体を生成することなく、重質留分中に通常存在する大きな炭化水素分子を分解し、ヘテロ原子不純物を除去することが可能である。上昇流反応器を運転する条件は、水の臨界温度および臨界圧またはそれを超える温度および圧力で運転することを含む。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、運転温度が約380℃〜約600℃の範囲で維持されるように上昇流超臨界水反応器を運転するステップを含む。本方法の実施形態は、運転温度が約390℃〜約500℃の範囲で維持されるように上昇流超臨界水反応器を運転するステップを含む。
【0034】
上昇流反応器140は、全体として上向き方向に内部142の流体を方向付けることが可能である。
図1に示すように、超臨界水石油品質向上システム100は、混合流路134および予備加熱された補助原料管路136の内容物を、下部146の上昇流反応器140の内部142へ、上昇流反応器140の下部146に既に存在する流体と、両方の流路が別々に混合するように、導入する。上昇流反応器140からの流体を統合導入し、通過させることにより、内部142の流体を、上向き方向の反応器流体流動矢印149に沿って底部143から頂部144への全体として上向き方向に流れるように促す。
【0035】
上昇流反応器140内の全体の滞留時間、超臨界水との溶解力または非溶解力、分子量の違い、および流体の比重といった様々な問題により、石油原料の重質留分と共に導入され、内部142に既存の流体の重質炭化水素およびヘテロ原子種は、流体が下部146から上部148に上向きに動くにつれて上昇流反応器140中で流体の残りから分離する傾向がある。上昇流反応器140で未反応のままの重質炭化水素成分は、最終的に重力の影響下で下向きに循環し、上部148から底部143に向かって下降する。
【0036】
また、上昇流反応器140は、上向きの流体運動量が与えられ底部143近傍の内部142中の流体との混合が生じるように、下部146に連結した予備加熱された補助原料管路136を通過する、予備加熱された補助原料を導入することが実施可能である。内在流体分配器145が、反応器140の流体へ補助原料を分配することにより、反応器140の流体から分離し、底部143に向かって下向きに移行した可能性のある重質炭化水素およびヘテロ原子成分の凝集を妨害し、希釈し、上向きの流体運動量を与えることができる。反応器140の配置は、内在流体分配器145が予備加熱された補助原料を導入することを可能にする。内在流体分配器145は、底部143近傍の下部146に位置し、そこに位置する流体に補助原料を分配する。希釈および流体運動量は、熱の保持や、重質炭化水素成分からの水の分離を防止し、底部143近くの概して下部146における予備コーキングおよびコーキング反応を鈍らせる。
【0037】
超臨界水石油品質向上システム100は、上昇流反応器140の上部148の内部142から反応器生成物流路147に水、様々な分子量および反応状態の炭化水素、分離された不純物、および他の物質の混合物を通す。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、混合石油原料の内容物と上昇流反応器生成物流体間の温度差が約50℃〜約300℃の範囲で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、上昇流反応器生成物流体が約3,200psig〜約6,000psigの範囲の圧力で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、反応器生成物流路物質が約3,300psig〜約4,500psigの範囲の圧力で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。
【0038】
超臨界水石油品質向上システム100は、凝縮器150および減圧弁152を使用して反応器生成物流路147の内容物を減圧、冷却し、放出流路154に冷却、減圧された物質を通す。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、放出流路物質が約−10psig〜約30psigの範囲の圧力で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、放出流路物質が約−10psig〜約10psigの範囲の圧力で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、放出流路物質が約10℃〜約200℃の範囲の温度で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、放出流路物質が約30℃〜約150℃の範囲の温度で維持されるように品質向上システムを運転するステップを含む。
【0039】
放出流路154は、気液分離器156を超臨界水反応器140に連結する。超臨界水石油品質向上システム100は、放出流路154の内容物を気液分離器156に通す。気液分離器は、導入された放出流路154の内容物からの気相炭化水素生成物として低炭素数の炭化水素、水素、サワーガス、一酸化炭素および二酸化炭素のような他のガス状生成物およびいくらかの水蒸気を分離し、気相生成物管路110を使用して気相炭化水素生成物を生成することが可能である。品質向上システム100は、液体相流路158に残りの液体を通す。
【0040】
液体相流路158は、油水分離器160を気液分離器156に連結する。超臨界水石油品質向上システム100は、油水分離器160に液体相流路158の内容物を通す。油水分離器160は、導入された液体相流路158から炭化水素相の品質向上させた脱硫石油生成物を分離し、炭化水素生成物管路112を使用して生成物を生成することが可能である。品質向上システム100は、水生成物管路114を使用して水相水生成物を通す。
【0041】
[
図2]
超臨界水石油品質向上システム200は、超臨界水石油品質向上システム100と同様の品質向上させた脱硫石油生成物に石油原料を品質向上させるために、水および補助原料の両方を使用する。しかし、品質向上システム100と品質向上システム200の運転の間の幾つかの差異は、
図1と2の間で容易に明らかになる。
【0042】
図1において、補助原料は予備加熱され、予備加熱された補助原料管路136によって上昇流反応器140の内部に通される。補助原料は、超臨界水石油品質向上システム100の外部の専用供給源から始まる。
図2においては、超臨界水石油品質向上システム200は、予備加熱された水を予備加熱された水流路230から第1の予備加熱された水部分流路270および第2の予備加熱された水部分流路272に配分することによって、上昇流反応器240で使用するための予備加熱された補助原料を形成する。品質向上システム200は、予備加熱された石油原料流路232および第1の予備加熱された水部分流路270の内容物を混ぜ合わせて、混合流路234が上昇流反応器240の下部246に運ぶ混合物を形成する。品質向上システム200は、また、第2の予備加熱された水部分流路272、ならびに、水、低炭素の炭化水素、芳香族、不均一または均一触媒、他のプロセス添加剤およびその組み合わせを含む任意選択の補助供給流路276の内容物を混ぜ合わせて、予備加熱された補助原料を形成し、予備加熱された補助原料管路236が上昇流反応器240の下部246に運ぶ。第2の予備加熱された水部分流路272および任意選択の補助供給流路276の物理的交点で、混合機278により2つの流路の内容物を混合して予備加熱された補助原料とする。
【0043】
また、
図1において、超臨界水反応器140は、上昇流反応器140の内部142の流体を混合し、これに下部146への上向き運動量を与え、分散させるための内在流体分配器145を備える。
図2においては、予備加熱された補助原料管路236は、幾つかの流路に配分され、上昇流反応器240と複数の補助注入ポート280で連結する。上昇流反応器240は、重質炭化水素成分が移行する下部246に内在V字形二重底282を有する。
【0044】
図2で示されるように補助注入ポート280での補助原料管路236の上昇流反応器240との連結方式は、予備加熱された補助原料が、内部242に、上向きに方向付けた反応器流体流動矢印249と平行に導入されないことを示す。むしろ、補助原料が作用して、上昇流反応器240の底部243近傍の流体中の分離、濃縮された重質炭化水素成分を物理的に混合し、それに物理的流体運動量を与え、それを化学的に希釈するように、補助原料は、V字形二重底282を通して複数の補助注入ポート280によって導入される。
【0045】
[
図3]
超臨界水石油品質向上システム300は、超臨界水石油品質向上システム100と同様の品質向上させた脱硫石油生成物に石油原料を品質向上させるために、水および補助原料の両方を使用する。品質向上システム300は、下降流超臨界水反応器390を上昇流超臨界水反応器340の下流に備える。
【0046】
超臨界水石油品質向上システム300は、上昇流超臨界水反応器340および下降流超臨界水反応器390を備える。上昇流超臨界水反応器340は、混合流路334および予備加熱された補助原料管路336の両方が連結する下部346、ならびに中継管路395が連結する頂部344を有する。下降流反応器390は、内部392を画定する壁391、反応器生成物流路347が、改質された炭化水素生成物および残存水の品質向上プロセスからの排出口として働く底部393、下部396、中継管路395がまた、上昇流反応器340および下降流反応器390を流体的に直列で結合して頂部394近傍で連結する上部398を有する。
【0047】
超臨界水石油品質向上システム300は、それぞれの反応器運転条件で水と混ぜ合わせて導入された石油原料および導入された補助流路の内容物が、品質向上させた脱硫石油生成物を形成するように、上向き流および下向き流の反応器340および390の両方を運転する。上昇流および下降流反応器340および390は、外部供給水素を使用せず、コークスまたはコークス前駆体を生じることなく、炭化水素分子を分解し、その上さらに、石油原料中の硫黄、窒素および金属含有ヘテロ原子種を含む不純物を除去することが可能である。上昇流反応器340は、上昇流反応器340が重質炭化水素成分を品質向上させるように運転し、下降流反応器390が軽質炭化水素成分を品質向上させるように運転するように下降流反応器390と同じまたは低い温度で一般に運転する。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、各反応器の温度が約420℃となるように上昇流および下降流反応器を運転するステップを含む。本方法の実施形態は、反応器に含まれる流体の温度が、上昇流反応器に含まれる流体が維持される温度を約0℃〜約100℃超える範囲の温度で維持されるように下降流反応器を運転するステップを含む。本方法の実施形態は、反応器に含まれる流体の温度が、上昇流反応器に含まれる流体が維持される温度を約0℃〜約50℃超える範囲の温度で維持されるように下降流反応器を運転するステップを含む。
【0048】
上昇流反応器340は、全体として上向き方向の内部342に含まれる流体を方向付けすることが実施可能であるが、下降流反応器390は、全体として下向き方向の内部392に含まれる流体を方向付けすることが実施可能である。
図3に示すように、超臨界水石油品質向上システム300は、混合流路334および予備加熱された補助原料管路336の内容物を下側部分346に導入する。流体を統合導入および通過させることにより、全体として上向き方向に、底部343から上向き方向の反応器流体流動矢印349に沿って頂部344に向かって流動し、中継管路395によって上昇流反応器340から出るように上昇流反応器340内の流体を促すことができる。上向きの流体運動量は、内在流体分配器345を使用して、上昇流反応器340内に含まれる流体中に与えられる。炭化水素成分は、流体流動運動量によって絶えず上昇流反応器340内で流体中に再分配され、上向きに運ばれ、最終的に出る。重質炭化水素成分は、軽質炭化水素およびヘテロ原子成分より長い時間、上昇流反応器340中に滞留する傾向がある。
【0049】
超臨界水石油品質向上システム300は、下降流反応器390の上部398に中間流路395の内容物を導入する。流体の統合された導入および通過、ならびに重力は、下向きに方向付けた反応器流体流動矢印399に沿って全体として下向き方向に流れるように下降流反応器390の流体を促す。下降流反応器390中の流体は、頂部394から底部393に流動し、反応器生成物流路347を通って出る。下降流反応器390中の炭化水素成分は、流体流動運動量によって絶えず再分配され、全体として下向きに運ばれる。炭化水素成分は、最終的に下降流反応器390から出る。より軽質の炭化水素成分は、より重質の炭化水素成分より長時間、下降流反応器390中に滞留する傾向がある。下降流反応器390は、水の混合物、様々な分子量および反応性状態の炭化水素、分離された不純物および他の物質を反応器生成物流路347に通す。
【0050】
[石油原料ならびにより軽質およびより重質の石油原料留分]
石油原料を品質向上させる方法は、混合流路の一部として石油原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。「石油原料」は、単一供給源に由来してもよいし、または炭化水素を有する物質のブレンドであってもよい。有用な石油原料の例には、原油、精油所から生じる原油の留出液または留分、蒸留残渣、水素化分解または熱分解設備からの「分解」生成物、天然ガス生産からの凝縮液および他の炭化水素を有する液体、完成した石油製品、液化石炭、瀝青質およびバイオマス変換プロセスからの炭化水素生成物が含まれる。
【0051】
導入される石油原料は、重質留分および軽質留分を有する。導入される石油原料の重質留分は、ASTM D1160を使用して測定して留分の5体積パーセント(vol.%)が540℃で蒸発する部分として定義される。重質留分は、硫黄、窒素および金属を有する化合物を含む、軽質留分より多量のアスファルテン、多環芳香族およびヘテロ原子化合物を有する。アルキル化ジベンゾチオフェンなどのパラフィン−芳香族硫黄化合物は、重質留分中に存在する硫黄ヘテロ原子化合物の例である。例えば、全範囲のアラビア重質原油は、34重量パーセント(wt.%)の重質留分および残部の軽質留分を有する。重質留分は14.5wt.%のアスファルテン、8.53wt.%の硫黄(硫黄の重量で)および217百万分率(ppm)wt.%の金属(金属の重量で)を含む。アラビア重質原油の範囲全体について測定した場合、アスファルテン、硫黄および金属の含有率は、それぞれ4.9wt.%、2.88(硫黄)wt.%および73ppm(金属)wt.%である。
【0052】
[上昇流超臨界水反応器]
超臨界水石油品質向上システムは上昇流超臨界水反応器を備える。システムは、混合石油原料を上昇流反応器の下部に導入することが実施可能である。上昇流反応器の内部において、超臨界水は、重質留分の炭化水素成分を低炭素の炭化水素および副生物に分解する。
【0053】
混合石油原料は、上昇流反応器中に既に存在する流体が上向きの流体運動量を維持するように上昇流超臨界水反応器に導入される。比較的安定した全体の上向きの空塔流体速度を維持することによって、導入された混合石油原料は、上昇流反応器の内部で上昇する流体の一部として、軽質および重質の留分の成分に分留する。重力および流体摩擦の作用により、重質炭化水素およびヘテロ原子成分、例えば、多環芳香族の上向きの進行が遅れる。大きな分子ほど大量の潜在エネルギーを吸収するので、上昇流反応器中の流体の温度も、重質および軽質の留分の成分の分離に役割を果たす。軽質留分の成分は、超臨界水に容易に混和し、内部の流体の上向きの流動中に留まる傾向がある。重質留分の成分は、超臨界水とそれほど混和性がなく、上昇流反応器中で流体から分離する傾向がある。
【0054】
滞留時間の二分法(より軽質の成分では比較的短く、より重質の成分であるほど長い)によると、より重質の成分は超臨界水の作用に対してはるかに強い被曝を受ける。上昇流反応器のより軽質の成分および反応生成物は、比較的短い時間枠で上昇流反応器を通り抜け排出される傾向がある。軽質成分の滞留時間の短縮により、望ましくない大気圧炭化水素ガスへの(熱または触媒いずれかによる)分解を防止する。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、気相炭化水素、品質向上させた脱硫石油生成物および水相生成物の合計のうち、気相炭化水素生成物(大気圧で35℃未満の沸点温度を有する炭化水素ガス)が、約1wt.%〜約5wt.%の範囲でるように品質向上システムを運転するステップを含む。
【0055】
重質成分は、上向きの流体流動から分離する傾向があり、超臨界水への反復曝露によってより軽質の反応生成物に変換されるまで上昇流反応器中で再循環する。内在循環により、炭化水素の品質向上、脱硫、脱硝および脱金属反応が促進される。超臨界水は、重質炭化水素を、軽質留分中に存在する炭化水素と同様の中間および低炭素の炭化水素に変換する。超臨界水はまた、ヘテロ原子種を低炭素の炭化水素、ならびに金属含有化合物に変換する。これらの非炭化水素もまた上昇流反応器から排出される。
【0056】
上昇流超臨界水反応器は、流体が導入される少なくとも2種類のポートを備える。上昇流反応器は、混合石油原料の導入のためのポートを有する。上昇流反応器は、補助原料の導入のためのもう一つの別のポートを有する。両種のポートは、導入された流体が上昇流反応器中の流体を全体として上向き方向に動かすように上昇流反応器の底部近傍に位置する。上昇流反応器は、第3のポート、即ち頂部近傍に位置する出口ポートを有する。出口ポートは、反応生成物流体(超臨界水および炭化水素反応生成物の混合物)、反応副生物、および未反応の軽質石油原料を通すことが実施可能である。
【0057】
先に記載されたように、重質留分の炭化水素およびヘテロ原子種は、上昇流反応器中の流体摩擦、重力および流体からの分離が、炭化水素種に停止および逆流を引き起こし上昇流反応器の底部の方に沈降するまでは、全体として上向き方向に上昇流反応器の内部の流体と一緒に流動する傾向がある。追加の流体または化学的介入がなければ、重質炭化水素およびヘテロ原子成分は、上昇流反応器の下部に溜まりや渦になって蓄積する。重質コンポーネントは、上昇流中の流体から分離し(超臨界水と親和性がないより高炭素の炭化水素)、低流動性環境中でより密でより高密度になり、より多くの熱を保持し、縮合および遊離基反応を始め、底部でのコーキングを引き起こす。
【0058】
上昇流超臨界水反応器は、底部近傍の反応器中の流体が静止しないように、またはそうでなければ流体運動量が不足しないように、上昇流反応器の下部に補助原料を導入することが実施可能である。補助原料導入ポートは、ほぼ平行から垂直の範囲の、全体として上昇流反応器の流体流動方向に対して平行でない角度で補助流体が上昇流反応器の内部に導入されるように方向付けすることができる。超臨界水石油品質向上システムの実施形態は、複数の補助原料導入ポートを有する上昇流反応器を備える。
【0059】
超臨界水石油を品質向上させるシステムの実施形態は、上昇流反応器内に含まれる流体に補助原料を分配することが実施可能である内在分配装置を有する上昇流反応器を備える。ある流体を別の流体に分配することが実施可能な公知の内在分配装置の例は、流体多孔分散管、ノズル、噴霧器および分配板を含む。
【0060】
導入の方式に関係なく、上昇流反応器は、上昇流反応器の底部に沈滞した流体帯域の形成を防止するために、上昇流反応器内部の流体が十分な全体の空塔流体速度を維持するように上昇流反応器の底部に補助原料を分配するように運転する。その結果、上昇流反応器の底部の固体または液体の蓄積がない、もしくは最小限となり、上昇流反応器および下流の管路およびユニット中でのコークス形成の防止を促進する。
【0061】
最小限の空塔流体速度とは、所与の上昇流反応器配置にとっての最小限の流体流速である。最小限の空塔流体速度は、長時間導入された混合石油原料と補助原料の合計量に対する、通過する上昇流反応器生成物流体の質量によって求めて98%を超える物質収支を有することが必要な最小限の流体流速である。「長時間(extended period)」とは、上昇流反応器中で100回流体が回転する時間である。「流体反転(Fluid turnover)」は、補助原料および混合石油原料を含む原料の合計量に対し、時間当たりの加重平均体積流量で除した上昇流反応器の体積として計算される。最小限の空塔流体速度未満では、重質留分の炭化水素およびヘテロ原子成分が上昇流反応器に蓄積するおそれがある。そのために、上昇流反応器の物質収支が98%未満になり、長時間の間に上昇流反応器内で質量蓄積する。この条件下で上昇流反応器中の流体は、大量の重質炭化水素種を含み始める。
【0062】
上昇流反応器内の滞留時間は約0.5分〜約60分の範囲にある。本方法の実施形態は、上昇流反応器内の滞留時間が約5分〜約15分の範囲にある場合を含む。約60分より長い滞留時間をもたらす全体の空塔流体速度は遅すぎ、恐らく、流体運動量を用いてより重質の炭化水素およびヘテロ原子成分を懸濁するには効果的ではない。
【0063】
補助原料および石油原料の別々の導入は、上昇流超臨界水反応器の下部の流体に流体運動量を与えるが、また下部の流体を特別に処理してもいる。補助原料の導入は、上昇流反応器の底部近傍の凝集した重質炭化水素成分を妨害し、希釈し、分散させることによりコーキングを防止することに向けられる。コーキングは、多環芳香族およびアスファルテンなどのより高炭素の炭化水素種間でのラジカル間縮合(即ちオリゴマー化および重合)に起因すると知られている。物理的に破壊し化学的に希釈するという利点は、通常、補助原料流路の体積が混合石油原料と比較して小さいので、補助原料を混合石油原料と混ぜ合わせることによっては存在しない。
【0064】
超臨界水石油品質向上システムの実施形態は、上昇流反応器の下部の流体が乱流の流動様式で維持されるように補助流体を導入することが実施可能な上昇流反応器を備える。そのような方式(約5000より大きいレイノルズ数を有する流体流動様式を維持する)での補助流体の導入は、上昇流反応器の内部での混合を支援するだけでなく、また、底部からの流体が回転し、内部のバルク流体とブレンドし、上昇流反応器の壁に当たって、上昇流反応器の下部または底部の熱の保持を防止する。これによって、密で静止した流動体中の蓄熱を防止する。超臨界水石油品質向上システムの実施形態は、補助流体が反応器中の流体の平均空塔速度より大きい上向きの流体速度を有するように上昇流反応器の内部の流体に補助流体を導入することが実施可能である上昇流反応器を備える。上昇流反応器の底部近傍に位置する流体に上向きの流体運動量を与えるように補助流体を導入することは、上昇流反応器の底部近くに位置する流体である、より高炭素の炭化水素およびヘテロ原子成分だけでなく、全体として内部の流体にも上向きの流体運動量を与えることができ、それによって全体の反応器循環、熱伝達および品質向上変換を改善する。
【0065】
上昇流反応器の下部の流体への補助流体の破壊および希釈効果は幾つかの方法でモニターすることができる。1つの方法は、補助流体の組み込みが底部近傍の流体の流体全体の組成(したがって熱容量)を変えるときの上昇流反応器の底部の温度変化を検知することである。他の手段は、下部の補助流体コンポーネントの検知のための直接の流体試料採取、下部の内部の内容物を直接観察するための観察セル、および濁度を測定するための光散乱またはレーザー散乱を含む。
【0066】
[補助原料組成物]
別々の供給流路としての上昇流超臨界水反応器への補助原料の添加は、幾つかの目的に役立ち、その幾つかは上昇流反応器の配置および運転に関して先に記載された。補助原料は、また、上昇流反応器中の底部近傍の流体に分配および希釈する機能を有する。補助原料は、より高炭素の炭化水素成分の品質向上および変換に有益である上昇流反応器の底部近くの流体に物質を導入することが実施可能である。補助原料は、遊離基を吸着し重合および縮合反応を防止することによって遊離基移動を失活させる化合物を含んでもよい。補助原料は、触媒または触媒前駆体を含み、上昇流反応器の底部近くの流体にそれらを分配して、存在するより重質の炭化水素、とりわけより高炭素の炭化水素の接触分解を支援することができる。補助原料は、水素移動剤を導入して、不飽和炭素結合の飽和を支援し、上昇流反応器中の炭化水素の品質向上を促進することができる。補助原料は、また、上昇流反応器の底部近くの流体中の炭化水素の混和性を増し、全体密度を減少させる物質を導入することができ、底部近くの流体をより浮遊性にし、上昇流反応器中の流体の残りとブレンドすることを可能にする。
【0067】
補助原料、例えば、炭化水素および水を形成するために異種物質を混ぜ合わせる際に、原料コンポーネントは、ホモジナイザーまたは超音波混合機を含む当業界で公知の混合機を使用して混ぜ合わせられてもよい。幾つかの事例における補助原料はまた、異種物質間の表面張力の低下を容易にし、互いの間のより高い分散を可能にする小量の界面活性剤を含んでもよい。補助原料のコンポーネントはまた、超臨界水石油品質向上システムに別々に導入され、システムポンプ、熱交換器およびミキシングティーにおいて見られる乱流の混合作用によって互いにブレンドされてもよい。2種以上のコンポーネントが混じり合って補助原料を形成する場合、混ぜ合わせは上昇流反応器への導入の前に行う。
【0068】
[超臨界水]
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、超臨界水を含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。水は374℃および22.1メガパスカル(MPa)に臨界点を有する。374℃および22.1MPaより高い温度および圧力条件で、液体水とガス状水の間の相境界は消滅する。超臨界水は、非超臨界水に対して有機化合物とのより高い溶解性、およびガスとの無限の混和性を有し、そのため、上昇流反応器の底部近傍の流体に対して希釈効果を有する。超臨界水の密度は、約25MPaの圧力および約380℃〜約450℃の温度範囲で約0.11グラム/ミリリットル(g/mL)〜約0.45g/mLの範囲である。超臨界水はまた、ラジカル間縮合反応を阻止する分子のラジカル化した部分を囲むことによって遊離基を有する炭化水素を安定させることができる特性がある。超臨界水は、また水蒸気変成および水性ガスシフト型反応において水素を解放し、反応流体中の炭化水素およびヘテロ原子種の品質向上を支援することができる遊離水素をもたらすことができる。
【0069】
[芳香族炭化水素]
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、芳香族炭化水素を含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。そのような実施形態において、芳香族炭化水素は、補助原料の約1重量パーセント(wt.%)〜約75wt.%の範囲で存在する。そのような実施形態において、芳香族炭化水素は、補助原料の約5wt.%〜約50wt.%の範囲で存在する。芳香族炭化水素は、ベンゼン、トルエンおよびキシレンを含む1種または複数のC
6−12芳香族およびアルキル芳香族化合物を含む。本方法の実施形態は、本質的にトルエンからなる芳香族炭化水素を導入するステップを含む。
【0070】
芳香族炭化水素の混合物として有用な供給源はナフサ改質器からの改質油である。ナフサ改質器からの改質油中に存在する芳香族化合物は、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ナフタレン、アルキル化ナフタレン、テトラヒドロナフタレンまたは「テトラリン」、アルキル化テトラヒドロナフタレン、およびその化学構造の一部としてベンゼンを有する他の化合物を含む。接触ナフサ改質からの改質油は、約30℃〜約220℃の沸点範囲を有する。代表的な改質油は、約70〜約80体積パーセント(vol.%)の芳香族化合物を含む。
【0071】
芳香族化合物の存在は、補助原料が接触する上昇流反応器内の流体中の補助原料および超臨界水と共に導入される超臨界水の混和性を高める。芳香族化合物は、また遊離基を遮りその芳香族構造内に一時的にそれを安定させることによりコーキングを引き起こし得る、反応器流体中の任意の遊離基反応を抑制するのを助ける。
【0072】
[軽質炭化水素]
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、軽質炭化水素を含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。「軽質炭化水素」は、標準大気圧および温度条件(即ち60°F、1気圧)で液体である、1種または複数のパラフィン、ナフテン、オレフィンおよび芳香族化合物を含む。軽質炭化水素の初留点(initial boiling point、IBP)および終点(final boiling point、FBP)温度は、約30℃〜約360℃の範囲にある。軽質炭化水素の体積の少なくとも30パーセントは、芳香族炭化水素を含む。有用な軽質炭化水素の例は、原油蒸留ユニットからのナフサおよびディーゼル分級物を含む。そのような分級物は、その芳香族体積含有率が30パーセントを超えるように、先に精製した芳香族炭化水素を補われてもよい。
【0073】
軽質炭化水素は、上昇流反応器中の有機化合物および超臨界水と高い溶解性を有する。軽質炭化水素は、上昇流反応器の底部近傍の流体への効果的な希釈剤である。同様に、軽質炭化水素の芳香族含有率は、先に記載された遊離基縮合反応を抑制するのに有用である。
【0074】
[触媒物質および触媒前駆体]
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、触媒物質をさらに含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。そのような実施形態において、触媒物質は、補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する。触媒物質は、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる。
【0075】
本方法の実施形態は、触媒物質が炭化水素可溶性の均一触媒である場合を含む。本方法の実施形態は、触媒が水溶性の均一触媒である場合を含む。均一触媒は、運転条件で上昇流超臨界水反応器へ導入すると、反応器内で循環する流体が取り込むことが実施可能である小さい粒子を形成する。
【0076】
本方法の実施形態は、触媒物質が固体の不均一触媒である場合を含む。不均一触媒は、レーザー回折で測定して約0.1マイクロメートル(μm)〜約10μmの範囲の平均粒径を有する。不均一触媒は、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の元素からなる。
【0077】
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、触媒前駆体を含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。そのような実施形態において、触媒前駆体は、補助原料の約100ppm wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する。触媒前駆体は、鉄、ニッケル、バナジウム、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、タングステン、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される1〜5種の活性金属からなる。触媒前駆体中の活性金属は、反応器中に存在する超臨界水との水熱反応によって金属酸化物に変換して触媒物質を形成する。
【0078】
触媒物質は、石油原料の重質留分と関係した炭化水素およびヘテロ原子種の接触分解を容易にする。補助原料は、触媒物質または触媒物質に変換する触媒前駆体、またはその両方を、上昇流超臨界水反応器の底部近傍の反応器流体に分配する。そのため、触媒物質は、反応器の底部近傍で凝集する傾向があり得る炭化水素およびヘテロ原子種とより長い接触時間を有し、接触分解を容易にする。
【0079】
[パラフィン型硫黄]
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、パラフィン型硫黄を含む補助原料を上昇流超臨界水反応器に導入するステップを含む。そのような実施形態において、パラフィン型硫黄は、硫黄のみの重量基準で計算して補助原料の約0.05wt.%〜約1wt.%の範囲で存在する。パラフィン型硫黄はパラフィン型チオール化合物を含む。本方法の実施形態は、C
1−8の範囲の炭素数を有する1種または複数のチオール化合物を含む補助原料を導入するステップを含む。
【0080】
パラフィン型硫黄化合物、とりわけチオール化合物は、上昇流超臨界水反応器の運転条件で、低炭素の炭化水素および硫化水素に崩壊する。理論によって束縛される意図はないが、反応器を運転する条件では、硫化水素は超臨界条件で水から選択的に水素を除去し、上昇流反応器の底部近傍のより高炭素の炭化水素およびヘテロ原子成分に水素を移動することによって水素移動剤として働くと考えられる。これにより、高炭素分子をより小さな分子へと分割し、結合炭化水素構造から金属および非金属汚染物質を解放することが促進される。
【0081】
[導入温度]
補助原料の導入温度は、上昇流反応器の底部近傍に位置する流体に有用な影響を及ぼすことができる。石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、上昇流反応器の運転温度より低温で補助原料を上昇流反応器に導入するステップを含む。反応器の運転温度より低温で補助原料を上昇流反応器に導入すると、流体から熱を吸収することによって上昇流反応器の底部近傍の流体中での、コーキングを含む、任意の熱により推進される非接触反応を遅らせることができる。補助原料の組成物に応じて、冷却器の補助原料は、また、導入される上昇流反応器中の流体より密であってもよい。より密な流体は、導入された補助流体から上昇流反応器の底部の流体に流体運動量を移すことができる。補助原料が触媒前駆体を含む、本方法の実施形態において、補助原料の低い温度は、また、触媒物質への触媒前駆体の早すぎる熱崩壊を防止することができる。導入後に補助原料が温度上昇すると、補助原料成分は、上昇流反応器中の流体より密でなく、浮遊性になり得る。全体として上向き方向に動くより浮遊性の流体は、「泡立ち」作用によって上昇流反応器中の流体を上向きに引き上げ得る。
【0082】
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、上昇流反応器の運転温度より高い温度で上昇流反応器に補助原料を導入するステップを含む。芳香族炭化水素を有する補助原料のより高い温度での導入は、上昇流反応器の底部の流体においてコーキング遊離基反応の失活を促進し得る。遊離基伝播を遮る芳香族炭化水素の能力は、温度が高いほど改善する。同様に、より高い温度はまた補助原料を反応器流体より浮遊性にすることができ、それによって、反応器流体への補助原料の混合を「持ち上げ」または「泡立ち」作用によって容易にすることができる。これによって、触媒物質およびパラフィン型硫黄の上昇流反応器の流体への移動の利益を得ることができる。
【0083】
[下降流超臨界水反応器]
超臨界水石油を品質向上させるシステムの実施形態は、上昇流反応器と直列にその下流に連結した下降流超臨界水反応器を備える。下降流反応器を備えるシステムの実施形態において、システムは、上昇流反応器の出口から下降流反応器の入口に流体を移すことが実施可能である。下降流反応器の内部で、上昇流反応器中の補助原料と共に導入された超臨界水および任意の他の活性コンポーネントは、先に上昇流反応器中で処理されなかった中間および低炭素の炭化水素ならびにヘテロ原子成分を品質向上させるように働く。
【0084】
上昇流反応器を通過する高炭素の炭化水素成分は、下降流反応器を迅速に通って底部から出る。高炭素の炭化水素は超臨界水と容易に混和しないので、これは分離し、流路を作り、下降流反応器中で底部近傍の流出口へ都合よく下向きに流れる傾向がある。上昇流反応器に導入され形成された中間および低炭素の炭化水素ならびにヘテロ原子成分は、浮力により下降流反応器中で再循環する傾向がある。上昇流反応器中の重質成分と同様、より軽質の成分は、超臨界水、および、場合によって補助原料と共に導入された任意のコンポーネントと共に脱硫および品質向上の時期を経験する。任意の導入された触媒および連鎖移動剤は、先に進んで、下降流反応器中で中間および低炭素の炭化水素成分に働きかける。
【0085】
石油原料を品質向上させる方法の実施形態は、上昇流反応器より高い温度で下降流反応器を運転するステップを含む。同じ温度でより重質の炭化水素成分ほど反応性ではないより軽質の成分の品質向上および脱硫を増強するために、下降流反応器の温度を上昇流反応器より高くすることができる。高い温度は、残存する高炭素の炭化水素およびヘテロ原子成分中のコーキング反応を促進しないが、なぜなら、下降流反応器の下向きの流動配置、および下降流反応器中の流体での低減された混和性が、重質成分を下降流反応器から迅速に排出させるからである。その上に、プロセス中のこの点でほとんどの残存する高炭素の炭化水素種は、既に中程度に品質向上され、そのため、遊離基の予備コーキングまたはコーキング反応を開始しにくくなる。本方法の実施形態は、上昇流反応器の温度より0℃〜100℃高い範囲の温度で下降流反応器を運転するステップを含む。本方法の実施形態は、上昇流反応器の温度より0℃〜50℃高い範囲の温度で下降流反応器を運転するステップを含む。
【0086】
[品質向上させた脱硫石油生成物のコークスおよびコークス前駆体の内容物]
記載される方法およびシステムは、コークスおよびコークス前駆体の形成を極小化し、石油原料によってシステムに導入される不溶性物質の量を減少させることが実施可能である。本方法の実施形態は、品質向上させた脱硫石油生成物が、導入された石油原料より不溶性物質の含有が少なくなるように、品質向上システムを運転するステップを含む。本方法の実施形態は、品質向上させた脱硫石油生成物が約3wt.%未満の不溶性物質を有するように品質向上システムを運転するステップを含む。導入された石油原料、または品質向上させた脱硫石油生成物のいずれか、またはその両方のコークス、コークス前駆体および他の不溶性物質の測定は、トルエンまたはテトラヒドロフラン(THF)を使用する当業者に周知理解された試験を使用して遂行することができる。
【0087】
運転上、何らかの減圧装置に通す前の石油原料を含む流路と、品質向上させた脱硫石油
生成物を含む反応器生成物流路の間の圧力差は、反応器(複数可)の運転圧の5%を超え
るべきでない。入口と出口の管路間の5%を超える圧力低下は、不溶性物質の蓄積を示す
ものであり、入口供給または出口生成物管路、または反応器自体の内部において流体摩擦
の原因となりうる。
【0088】
[支援設備]
システムの実施形態は、記載される装置、プロセス、方法およびシステムを可能にし、実施可能にする多数の追加の標準コンポーネントまたは設備を含む。かかる当業者に公知の標準設備の例は、熱交換、ポンプ、送風機、再沸器、蒸気発生、凝縮液処理、膜、単一および多段圧縮機、分離および分留設備、弁、スイッチ、コントローラ、ならびに圧力、温度、水準および流動感知装置を含む。
【0089】
プロセスまたは方法の一部または全ステップの運転、制御および性能は、人間の相互作用、予めプログラムされた計算機制御および応答システム、またはその組み合わせによって生じ得る。
【実施例】
【0090】
特定の実施形態の例証となる例は、超臨界水石油品質向上システムを使用する、石油原料を品質向上させる方法のより良好な理解を容易にする。実施例は、決して本発明の範囲を限定し定義するものではない。
【0091】
用語「同等である」は同様または類似であることを意味する。比較例および実施例のプロセスを、類似の運転を基準として比較するために、実施例と比較例の間の流速および運転条件の差は、1%以内でなければならない。理論によって束縛される意図はないが、偏差が観察される場合、実施例と比較例の間の偏差に対する現在の理解を伝えようとして説明がなされる。
【実施例1】
【0092】
実施例1および比較例1について、
図1と同様の超臨界水石油品質向上システム配置を使用する。実施例1および比較例1の流路の特性に関して、
図1の記載および流路番号を使用する。実施例1については、超臨界水反応器140は、混合流路134と予備加熱された補助原料管路136の両方の内容物を受け取る。しかし、比較例1では、超臨界水反応器140は、混合流路134の内容物を受け取るが、予備加熱された補助原料管路136の内容物は受け取らない。比較例1のプロセスの一部として補助原料を導入しないことを別にすれば、実施例1と比較例1の間のプロセスの他のすべての運転上の態様は同等である。
【0093】
実施例1および比較例1の両方について、全範囲のアラビア重質原油を、標準条件で約20,000バレル/日の流速でそれぞれのシステムに導入する。石油原料(流路104)をポンプによって約3.611ポンド毎平方インチゲージ(psig)に加圧し、次いで、約120℃(流路132)に予備加熱する。脱イオン水(流路102)を、標準条件で約20,000バレル/日の流速でそれぞれのシステムに導入し、約3.611psigに加圧し、次いで、加熱器によって約500℃を超えて予備加熱する(流路130)。脱イオン水は、約10.0μmhos/cm未満の電気伝導率値を有する。混合機によって生じた混合流路(流路134)を上昇流反応器の底部に導入する。上昇流反応器での流体全体の滞留時間は約10分である。反応器生成物流路(流路147)の流出物を上昇流反応器の頂部から排出し、冷却する。減圧装置として働くスロットリング弁による減圧後(流路154)、三段の分離容器は、ガス、液体油および水生成物を生ずる(それぞれ流路110、112および114)。
【0094】
実施例1について、揺動機を用いて均質に予備ブレンドした、約90wt.%の水および約10wt.%のトルエンを含む補助原料(流路106)を、標準条件で200バレル/日の速度で導入する。補助原料を加圧し、加熱し(流路136)、上昇流反応器に導入する。補助原料に導入するトルエンの重量は、導入する石油原料の重量の約0.0011倍である。
【0095】
実施例1の流路の特性を表1に示す。比較例1の流路の特性は、補助原料の導入がないことを別にすれば実施例1のものと同等である。
【表1】
表1:
図1の管路番号に基づく実施例1の選択された流路特性
【0096】
実施例1について、導入した石油原料および結果として得られた液体石油生成物の特性を表2に示す。比較例1について、導入した石油原料および結果として得られた液体石油生成物の特性を表3に示す。
【表2】
表2:実施例1について、導入した石油原料および結果として得られた液体石油生成物の選択された特性
【表3】
表3:比較例1について、導入した石油原料および結果として得られた液体石油生成物の選択された特性
【0097】
表2および3に示す結果を比較する際に、比較例1の低い液体油生成物の収率は、軽質炭化水素ガスをより多く生成した結果である。上昇流反応器内部の流体に分配するために上昇流反応器の底部へ補助原料を添加しないと、より重質の炭化水素の部分は、上昇流反応器の底部近くに蓄積し、大気圧炭化水素ガスに過剰分解されるように思われる。実施例1および比較例1のどちらについてもガス生成物は、メタン、エタンおよびプロパンを含むアルカン炭化水素を主として含む。これらの大気圧炭化水素ガスは、液体炭化水素生成物より炭素−炭素基準で比較的低い市場価値を有し、そのため、より少ないガスとより多い液体炭化水素生成物を生成することが望ましい。
【0098】
実施例1の液体石油生成物特性を比較例1と比較すると、実施例1の液体石油生成物はより高品質の物質である。両物質とも超臨界水処理によって品質向上させたが、実施例1の品質向上物質はより高いAPI比重値を有し、これは、比較例1の品質向上物質に比べて下流のシステムによる処理がより容易であったこと示す。実施例1の液体石油生成物はまた、比較例1の液体石油生成物より少ないアスファルテン、硫黄および蒸留残渣を含む。上昇流反応器の下部への補助原料の添加は、液体石油生成物の品質および量を改善した。
【実施例2】
【0099】
実施例2および比較例2については、
図3と同様の超臨界水石油品質向上システム配置を使用する。システムは、直列で連結する2つの反応器:上昇流反応器および下降流反応器を使用する。中継管路は、上昇流反応器の頂部を通過する中間生成物が、下降流反応器の頂部に移動するように上昇流および下降流の反応器を連結する。下降流反応器の底部の反応器生成物流路は、一連の反応器の生成物を通す。各反応器の容積は約1リットル(L)である。上昇流および下降流反応器の両方とも、約420℃の運転温度および圧力軽減装置を使用して約3,600psigの運転圧で維持する。
【0100】
実施例2および比較例2の両方について、第1の上昇流超臨界水反応器の底部に導入した混合流路を、0.6L/時間のアラビア重質原油および1.0L/時間の水(どちらの量も標準条件で提示して)を間断なくブレンドすることによって作る。混合流路は導入前に予備加熱する。第1の上昇流反応器の頂部からの中間流路は、第2の下降流反応器の頂部に進み、品質向上プロセスを継続する。各反応器内の流体全体の滞留時間は平均約10分となる。ガス生成物量は湿式試験計量器によって測定する。約12時間の連続運転後、生成物試料を油/水分離および液体油生成物の比較のために回収する。
【0101】
実施例2については、補助原料を上昇流反応器の底部に別々に導入する。補助原料は、約0.13L/時間の流速で上昇流反応器に導入する。実施例2の補助原料は、約95wt.%の水および約5wt.%のトルエンを含み、超音波混合機によって均質化する。均質化後、補助原料を加圧し、約470℃の温度に予備加熱し、上昇流反応器への導入の直前に、水を超臨界流体に変換する。比較例2は補助原料を受け取らないが、他の点では、実施例2と比較例2の間のプロセスの他のすべての運転上の態様は同等である。
【0102】
実施例2については、液体油生成物収率は約96wt.%である。実施例2液体生成物油は、約36のAPI比重および硫黄重量基準で約2.1wt.%の硫黄含有率値を有する。比較例2については、液体油生成物収率は約91wt.%である。低い液体油生成物収率は、比較例2のガス生産における対応する増加を反映し、石油原料を品質向上させる場合、必ずしも望ましくない。比較例2はまた、実施例2より低いAPI比重値(約34度)およびより高い硫黄含有量値(硫黄重量基準で約2.4wt.%)を有する。実施例2および比較例2は、上昇流反応器の下部への補助原料の添加が、補助原料導入を受け取らない同等のシステムに対して、液体油生成物の品質を改善し、ガス生産を低減することを示す。