特許第6695140号(P6695140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6695140水性カプサイシノイド配合物ならびにその製造法および使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695140
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】水性カプサイシノイド配合物ならびにその製造法および使用法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20200511BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200511BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200511BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20200511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   A61K31/165
   A61K9/08
   A61K47/10
   A61K47/34
   A61K47/36
   A61P19/02
   A61P43/00 121
【請求項の数】20
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-542018(P2015-542018)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公表番号】特表2015-536998(P2015-536998A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】US2013069711
(87)【国際公開番号】WO2014075084
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年11月8日
【審判番号】不服2018-10946(P2018-10946/J1)
【審判請求日】2018年8月9日
(31)【優先権主張番号】61/725,161
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516140395
【氏名又は名称】ヴィズリ・ヘルス・サイエンスィズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ,チャールズ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ,フィリップ・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】バックス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】コフリン,メアリー
【合議体】
【審判長】 藤原 浩子
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−280668(JP,A)
【文献】 特表2008−525505(JP,A)
【文献】 特表2008−521815(JP,A)
【文献】 特表2008−524267(JP,A)
【文献】 特開2000−204046(JP,A)
【文献】 特開2006−298944(JP,A)
【文献】 特開2007−137879(JP,A)
【文献】 特開昭63−130540(JP,A)
【文献】 特開昭63−145228(JP,A)
【文献】 特開昭60−214733(JP,A)
【文献】 米国特許第6573302(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0312912(US,A1)
【文献】 米国特許第6579543(US,B1)
【文献】 米国特許第5962532(US,A)
【文献】 国際公開第2012/54090(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/110894(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)0.0002重量%〜0.1重量%のカプサイシノイド、
ii)0.01重量%〜1重量%の、メントールおよび/またはオイゲノールである鎮痛剤
iii)カプサイシノイドおよび上記鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよび/またはエチルアルコールを含む水性ビヒクル、ならびに
iv)0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸
を含む、関節内投与に用いるための水性医薬組成物。
【請求項2】
前記カプサイシノイドがカプサイシンである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
前記カプサイシノイドがトランス−カプサイシンである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
前記鎮痛剤がメントールである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
前記水性ビヒクルが:
i)15〜50重量%のポリエチレングリコール、および/または
ii)0.5〜40重量%エチルアルコール
を含む、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸を含み、および0.01〜0.1重量%フェノールをさらに含む、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
20〜35重量%のポリエチレングリコール、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
を含む、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
i)非イオン性界面活性剤で形成されるカプサイシノイド濃縮物、
ii)メントールおよび/またはオイゲノールである鎮痛剤、
iii)カプサイシノイド濃縮物および鎮痛剤を水中で可溶化する、エチルアルコールを含む水性ビヒクル、および
iv)0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸
を含む、関節内投与に用いるための水性医薬組成物。
【請求項9】
カプサイシノイドの量が0.0002重量%〜0.05重量%であり、非イオン性界面活性剤の量が0.001重量%〜2.5重量%であり、鎮痛剤の量が0.01重量%〜0.5重量%である、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
前記カプサイシノイドがカプサイシンであり、そして前記非イオン性界面活性剤がポリオキシ40水素化ひまし油である、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項11】
前記カプサイシノイドがカプサイシンであり、そして前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、請求項9に記載の水性医薬組成物。
【請求項12】
カプサイシン対ポリソルベート80の重量比が1対5である、請求項11に記載の水性医薬組成物。
【請求項13】
前記カプサイシノイドがトランスカプサイシンである、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、さらにフェノールを含有する、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項15】
麻酔剤をさらに含む、請求項1または8に記載の水性医薬組成物。
【請求項16】
前記麻酔剤が、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、プリロカイン、メピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、およびキシロカイン、ならびにその混合物からなる群より選択される、請求項15に記載の水性医薬組成物。
【請求項17】
前記水性ビヒクルが、カプサイシノイド濃縮物および鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよびエチルアルコールを含む、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項18】
0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸を含む、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項19】
0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.025〜0.15重量%のポリソルベート80、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
0〜15重量%のポリエチレングリコール300または400、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
を含む、請求項8に記載の水性医薬組成物。
【請求項20】
哺乳動物の部位で疼痛を治療するための方法において使用するための、請求項1〜19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2012年11月12日提出の米国仮出願第61/725,161号に基づく優先権を主張し、該出願の全内容は本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、カプサイシノイドの局所領域内への投与のための組成物に向けられる。該組成物は、疼痛(急性および慢性、中程度から重度)を伴う多数の障害の治療に有用であり、そして該組成物は拡張された疼痛緩和を提供する。本発明はまた、カプサイシノイド注射に関連する灼熱痛および刺痛を制限する前処置を含む方法にも関する。
【発明の概要】
【0003】
背景技術
カプサイシンは、唐辛子(capsicum)植物の果実中の刺激性物質であり、Cニューロン末端の局所分解を引き起こすことによって疼痛を緩和するように働く;カプサイシノイドは、この機構によって疼痛を緩和することが知られる唯一の鎮痛剤である。カプサイシン活性は、バニロイド受容体1(VR1)と呼ばれるイオンチャネルに結合し、そして該チャネルを活性化することから生じる。通常の状況下では、VR1イオンチャネルが活性化されると、これが短期間開放され、Cニューロンから脳に向かう疼痛シグナル伝達を引き起こす。カプサイシンがVR1に結合し、そしてこれを活性化すると、C神経末端またはCニューロンの末端を分解する一連の事象が細胞内で引き起こされ、それによってニューロンが疼痛シグナルを伝達することが防止される。
【0004】
カプサイシンの鎮痛効果は、サブスタンスPの枯渇のためであると考えられていたが、最近の証拠によって、侵害受容線維の「脱機能化」のプロセスが、カプサイシンの鎮痛効果の原因であることが示唆されてきている(Anand P, Bley K. 疼痛管理のための局所カプサイシン:新規高濃度カプサイシン8%パッチの療法的潜在能力および作用機構 Br J Anaesth. 2011;107(4):490−502.)。
【0005】
カプサイシン局所軟膏およびクリームは、筋肉および関節の重大でない痛みおよび疼痛を緩和する。カプサイシンは現在、低用量でカプサイシンを含有するOTC局所適用非滅菌クリームおよびパッチとして販売されている。カプサイシン濃度は、典型的には0.025重量%〜0.075重量%の間である。これらのOTC局所調製物は、消費者によって疼痛を軽減するために局所的に使用され、変形性関節症、帯状疱疹(ヘルペス・ゾスター)、乾癬および糖尿病性ニューロパシーなどの状態を治療するために用いた際、多様で、そしてしばしば不適切な結果を生じる。カプサイシンはまた、背中に適用可能な大型粘着性包帯(adhesive bandage)中にも利用可能である。
【0006】
カプサイシンの局所調製物は、疼痛およびかゆみを伴う多様な皮膚障害、とりわけ、例えばヘルペス後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、掻痒症、乾癬、群発性頭痛、乳房切除後疼痛症候群、鼻症、口腔粘膜炎、皮膚アレルギー、排尿筋過反射、腰痛/血尿症候群、首痛、切断断端痛、反射交感神経性ジストロフィー、皮膚腫瘍、関節リウマチおよび変形性関節症を含む関節炎、術後疼痛、口腔痛、ならびに傷害によって引き起こされる疼痛において用いられる(Martin Hautkappeら, 有痛性皮膚障害および神経機能不全のためのカプサイシンの有効性の総括, Clin. J. Pain, 14:97−106, 1998)。
【0007】
抗炎症剤は、組織部位での炎症および腫脹を減少させる。抗炎症剤は、特定の生理学的活性物質をブロックすることによってこれを行う。例えばこれらの物質、プロスタグランジン、サブスタンスPおよびヒスタミンは、小動脈を拡張させ、続いて浮腫または体液形成を引き起こしうる。軟組織、筋肉、および神経細胞は、過敏になり、炎症性となり、そして過剰に興奮性となる。抗炎症薬剤は、この炎症プロセスを阻害しうる。しかし、抗炎症剤での慢性疼痛の治療は限定される。
【0008】
完全股関節形成術および人工膝関節全置換術後の疼痛緩和の中心は、オピオイドである。これらの薬剤は優れた鎮痛剤であるが、オピオイドはその有効性を制限する問題を有する。代替鎮痛剤は、これらの処置によって引き起こされる疼痛には穏やかすぎると見なされてきている。
【0009】
米国特許5962532は、カプサイシンまたはその類似体の有効濃度で、特定の部位の疼痛を治療するための方法および組成物を開示する。該方法は、カプサイシンまたはその類似体を投与しようとする部位に麻酔を提供し、そして次いで、関節にカプサイシンの有効濃度を投与する工程を含む。
【0010】
米国特許8,158,682は、患者において疼痛を治療するかまたは減弱させるための方法に関する。具体的には、該発明は、開放創または外科切開部位近傍の疼痛を減弱させるための方法であって、カプサイシノイドを含む医薬組成物を創傷または切開内に滴下注入して、医薬組成物をあらかじめ決定された期間、留まらせ、そして創傷または切開を吸引して医薬組成物を除去する工程を含む、前記方法を提供する。該発明はまた、関節近傍の疼痛を減弱させるための方法であって、関節内に、カプサイシノイドを含む医薬組成物を関節内注射して、医薬組成物をあらかじめ決定された期間、留まらせ、そして関節を吸引して医薬組成物を除去する工程を含む、前記方法も提供する。該発明の特定の態様において、カプサイシノイドはカプサイシンである。
【0011】
米国特許8,420,600は、ヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための組成物および方法であって、分散した位置の外側に影響を引き起こすことなく、分散した部位を除神経するために有効な量のカプサイシン用量をヒトまたは動物の分散した部位に投与することによる、前記組成物および方法を開示する。
【0012】
US 2004/0161481は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そしてカプサイシノイドの望ましくない影響を減少させるために有効な量のNSAIDを同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0013】
US 2004/0156931は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして血管拡張剤を同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0014】
US 2004/0186182は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして非麻酔性ナトリウムチャネルブロッカーを同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0015】
US 2005/0019436は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための組成物および方法であって、分散した位置の外側に影響を引き起こすことなく、分散した部位を除神経するために有効な量のカプサイシン用量を、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の分散した部位に投与することによる、ここでカプサイシン用量が1μg〜3000μgの範囲である、前記組成物および方法を開示する。
【0016】
US 2005/0020690は、疼痛を減弱させるかまたは緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を減弱させるかまたは緩和するための組成物および方法であって、手術部位または開放創の外側に実質的に影響を引き起こすことなく、手術部位または開放創を除神経するために有効な量のカプサイシノイド用量をヒトまたは動物の手術部位または開放創に浸潤させることによる、前記組成物および方法を開示する。
【0017】
US 2005/0058734は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして血管収縮剤を同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0018】
US 2006/0269628は、疼痛を減弱させるかまたは緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で、疼痛を減弱させるかまたは緩和するための組成物および方法であって、手術部位または開放創の外側に実質的に影響を引き起こすことなく、手術部位または開放創を除神経するために有効な量のカプサイシノイド用量をヒトまたは動物の手術部位または開放創に浸潤させることによる、前記組成物および方法を開示する。
【0019】
米国特許出願2006/0100272は、疼痛、および特にニューロパシー疼痛を治療するための組成物および方法を開示する。
【0020】
US 2006/0148903は、ヒトまたは動物の部位で、術前および術後疼痛を緩和するためのカプサイシノイドゲル配合物および方法であって、その必要があるヒトまたは動物の手術部位で、手術部位の術後疼痛を減弱させるために有効な量のカプサイシノイドゲル用量を投与することによる、ここでカプサイシン用量が100μg〜10,000μgの範囲である、前記方法を提供する。
【0021】
US 2007/0293703は、カプサイシンおよび/またはカプサイシン様化合物のトランス異性体を合成するための方法であって、合成反応のはじめからトランス幾何を設定し、そして合成プロセス全体で実行するプロセスを利用することによる、前記方法を提供する。
【0022】
US 2008/0153780は、疼痛を治療するための剤を産生するため、グルコサミノグリカンと一緒にバニロイド受容体アゴニストを使用することに関する。
【0023】
US 2007/0036876は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で、疼痛を緩和するための組成物および方法であって、分散した位置の外側に影響を引き起こすことなく、分散した部位を除神経するために有効な量のカプサイシン用量を、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の分散した部位に投与することによる、ここでカプサイシン用量が1μg〜3000μgの範囲である、前記組成物および方法を開示する。
【0024】
US 2008/0260791は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で、疼痛を緩和するための組成物および方法であって、分散した位置の外側に影響を引き起こすことなく、分散した部位を除神経するために有効な量のカプサイシン用量を、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の分散した部位に投与することによる、ここでカプサイシン用量が1μg〜5000μgの範囲である、前記組成物および方法を開示する。
【0025】
US 2008/0262091 A1は、疼痛を減弱させるかまたは緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で、疼痛を減弱させるかまたは緩和するための組成物および方法であって、手術部位または開放創の外側に実質的に影響を引き起こすことなく、手術部位または開放創を除神経するために有効な量のカプサイシノイド用量をヒトまたは動物の手術部位または開放創に浸潤させることによる、前記組成物および方法を開示する。
【0026】
US 2009/0062359は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして非麻酔性ナトリウムチャネルブロッカーを同時投与する工程を含む、前記方法に関する。
【0027】
US 2009/0054527は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして血管拡張剤を同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0028】
US 2009/0111792は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして三環系抗うつ剤を同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0029】
US 2009/0117167 A1は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そして血管収縮剤を同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0030】
US 2009/0118242は、疼痛を緩和する必要があるヒトまたは動物の部位で疼痛を緩和するための方法であって、注射または浸潤により、カプサイシノイド用量を投与し、そしてカプサイシノイドの望ましくない影響を減少させるために有効な量のNSAIDを同時投与する工程を含む、前記方法を開示する。
【0031】
US 2011/0311592は、ほとんど溶解性でない化合物の溶解性を増加させる方法、およびこうした化合物の配合物を作製し、そして用いる方法を解説する。
【0032】
ALGRX−4975は、変形性関節症、腱炎および術後状態に関連する疼痛、ならびに神経傷害および他の慢性疼痛状態に続いて起こるニューロパシー性疼痛を治療するために臨床的に開発されていた。Cニューロン疼痛線維のみをターゲティングすることによって、ALGRX−4975は有意な長期鎮痛を生じることが可能であった。臨床研究において、ALGRX−4975は、表Iに要約するように、単回治療から疼痛の長期緩和を提供した。
【0033】
表I−ALGRX−4975臨床試験の要約
【0034】
【表1】
(1)Cantilon, M.ら, 膝の変形性関節症(OA)における、ALGRX 4975の予備的安全性、許容性および効能, The Journal of Pain, Vol. 6, March, 2005.
(2)Diamond, E.ら, ALGRX 4975は中足骨間神経腫の疼痛を減少させる:ランダム化二重盲検プラセボ対照第II期多施設臨床試験の予備的結果, The Journal of Pain, Vol. 7, April, 2006.
(3)Aasvang, E.ら, ヘルニア切開術後疼痛に対する、新規精製カプサイシン配合物の創傷滴下注入の効果:二重盲検ランダム化プラセボ対照研究, Anesthesia and Analgesia, 2008, 107(1), p.282−291
いくつかの臨床試験に関しては、PEG−300に溶解した0.5mg/mlの濃度の精製カプサイシン5mLを含有するバイアル中に、高純度トランス−カプサイシンが供給された。カプサイシン/PEG−300濃縮物は、15℃〜25℃の間の温度で保存された。注射前、4時間以内に、カプサイシン濃縮物を希釈して、約20%PEG−300、約1.5mg/mlヒスチジンおよび約5%スクロースを含む配合物が作製された。表IIに示すように、米国特許8,420,600に列挙される3つの例のカプサイシン濃度は、0.002mg/ml、0.02mg/mlおよび0.06mg/mlである。
【0035】
表II−注射用カプサイシン用量レベル
【0036】
【表2】
臨床試験におけるカプサイシン注射に際して、自発的な灼熱痛および痛覚過敏が直ちに経験され、そして最長60分まで持続した。これらの望ましくない副作用は、カプサイシン適用部位での末梢侵害受容器の激しい活性化および一時的感作に起因すると考えられた。この活性化および感作は、脱感作期の前に起こる。カプサイシン注射に際しての灼熱痛および刺痛を管理する試みの中で、局所麻酔剤が注射され、そして次いでカプサイシン注射前に退薬された。
【0037】
注射用カプサイシン配合物の使用に際する現在の制限は、最長1時間の灼熱痛および刺痛(B&S)、ならびにさらに1〜2時間の穏やかな疼痛の可能性である。カプサイシン用量の予期されるB&Sは、侵害受容器脱感作前の興奮期中に起こる激しい侵害受容器放出によると考えられる。
【0038】
多くのモデルにおける研究によって、カプサイシンが感覚神経を活性化して、神経ペプチド、特にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)および炎症性サブスタンスP(SP)の放出を誘導しうることが示されてきている。Lundbergら, カプサイシンの心臓血管および気管支収縮効果に関連した、感覚神経におけるサブスタンスPおよびカルシトニン遺伝子関連ペプチド様免疫反応性の共存。 Eur. J. Pharmacol., 108, 315−319, (1985)。Martlingら, カルシトニン遺伝子関連ペプチドおよび肺:カプサイシンおよび血管拡張効果によって放出されるサブスタンスPとのニューロン共存 Regul. Pept., 20, 125−139, (1988)。
【0039】
カプサイシン誘導性浮腫は、抗炎症性ステロイドであるデキサメタゾンでの治療に非感受性であることが立証されてきており、これは炎症性浮腫形成の他の形式とは対照的である。Newboldら, ウサギ皮膚におけるカプサイシン誘導性浮腫の機構に関する研究, Brit. J. of Pharma., 114, 570−577, (1995)。
【0040】
カプサイシン注射後に生じる急性の灼熱感覚を最小限にする、注射用カプサイシン配合物および疼痛治療措置に関する、満たされていない必要性がある。カプサイシノイド注射を用いて行われた臨床研究によって、カプサイシンが術前術後の疼痛、変形性関節症、腱炎および他の外科処置によって引き起こされる疼痛を減少させる能力が示された。多くの現在の疼痛療法は、作用開始が緩慢である。疼痛の不快感は、オピオイドおよびNSAIDで管理されることが最も多く、そしてこれらの長期使用は副作用によって制限される。慢性疼痛を治療するための安全でそして有効な療法に関する、満たされていない必要性がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
本発明の目的は、注射用カプサイシノイドを通じて、哺乳動物において疼痛緩和を提供するための配合物および方法であって、カプサイシノイドの投与とともに経験される激しい灼熱痛を克服する、前記配合物および方法を考案することである。
【0042】
本発明のさらなる目的は、カプサイシノイド注射投与と関連する灼熱痛または刺痛を寛解させるかまたは防止する配合物および使用法を提供することである。
【0043】
本発明の別の目的は、完全に混和性である水性および親油性成分を含有する、光学的に透明な溶液を提供することである。
【0044】
本発明の別の目的は、ある範囲の療法適用のため、神経、脊髄または硬膜外ブロックなどの鎮静または麻酔を伴わない、拡張された疼痛緩和のための配合物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0045】
本発明には:
i)0.0002重量%〜0.1重量%のカプサイシノイド、
ii)0.01重量%〜1重量%の鎮痛剤、および
iii)カプサイシノイドおよび鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよび/またはエチルアルコールを含む水性ビヒクル
を含む、水性医薬組成物が含まれる。
【0046】
鎮痛剤は、典型的には、フェノール、メントールおよび/またはオイゲノールである。水性ビヒクルは:
i)15〜50重量%のポリエチレングリコール、および/または
ii)0〜40%のエチルアルコール
を含む。場合によって、組成物には、0.1重量%〜1.25重量%のヒアルロン酸が含まれる。構成要素の好適な量は:
0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
20〜35重量%のポリエチレングリコール、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
である。
【0047】
別の態様において、本発明は:
i)0.0002重量%〜0.05重量%のカプサイシノイド、
ii)0.001重量%〜2.5重量%の非イオン性界面活性剤、
iii)量0.01重量%〜0.5重量%の鎮痛剤、および
iv)カプサイシノイドおよび鎮痛剤を水中で可溶化する量のエチルアルコールを含む水性ビヒクル
を含む、水性医薬組成物を含む。
【0048】
好適には、非イオン性界面活性剤はポリソルベート80であり、そしてカプサイシン対ポリソルベート80の重量比は1対5である。好適には、カプサイシノイドは、非イオン性界面活性剤での濃縮物の形成によって可溶化される。鎮痛剤は、典型的には、フェノール、メントールおよび/またはオイゲノールである。1つの態様において、組成物は、麻酔剤をさらに含む。
【0049】
好適には、水性ビヒクルは、カプサイシノイドおよび鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよびエチルアルコールを含む。場合によって、組成物は、0.1重量%〜1.25重量%のヒアルロン酸をさらに含む。構成要素の好適な量は:
0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.025〜0.15重量%のポリソルベート80、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
5〜15重量%のポリエチレングリコール300または400、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
である。
【0050】
別の態様において、水性混合物は:
i)0.0002重量%〜0.1重量%のカプサイシノイド、
ii)0.001重量%〜1.0重量%の非イオン性界面活性剤、および
iii)0.01重量%〜1.0重量%の鎮痛剤
を含む、水性医薬組成物を含む。
【0051】
好適には、非イオン性界面活性剤は、Cremophor(登録商標)RH40(ポリオキシル40水素化ひまし油;あるいはCremophor(登録商標)ELP、またはSolute(登録商標)HS15)であり、そしてカプサイシン対Cremophor(登録商標)RH40の重量比は、1/1〜1/6まで変わりうる。好適には、カプサイシノイドは、非イオン性界面活性剤での無水濃縮物の形成によって可溶化される。鎮痛剤は、典型的には、フェノール、メントールおよび/またはオイゲノール、あるいはその混合物である。1つの態様において、組成物は、麻酔剤をさらに含む。場合によって、組成物は、0.1重量%〜1.25重量%のヒアルロン酸をさらに含む。
【0052】
構成要素の好適な量は:
0.005〜0.05重量%のカプサイシン、
0.025〜0.3重量%のCremophor(登録商標)RH40、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
である。
【0053】
好適な態様において、水性組成物は:
i)非イオン性界面活性剤で形成されるカプサイシノイド濃縮物、
ii)鎮痛剤、および
iii)カプサイシノイド濃縮物および鎮痛剤を水中で可溶化する水性ビヒクル
を含む。
【0054】
本発明には、完全に混和性である水性および親油性成分を含有する、光学的に透明な溶液が含まれる。透明でそして安定な水性混合物を産生する結果として形成される透明な溶液は、溶液、ミセル、マイクロエマルジョンおよびサブミクロンエマルジョンまたは懸濁物(すなわちナノサイズ微粒子の)である。
【0055】
本発明はまた、哺乳動物における疼痛、すなわち変形性関節症、関節リウマチ、腱炎、滑液包炎、創傷または手術部位由来の疼痛を治療するための方法であって:
i)疼痛部位に、療法的に有効な量のコルチコステロイドを投与し;そして続いて
ii)疼痛部位に、療法的に有効な量のカプサイシノイド組成物を投与する
工程を含む、前記方法にも関する。
【0056】
哺乳動物における関節疼痛を治療するための方法であって:
i)関節に、療法的に有効な量のコルチコステロイドを関節内投与し;そして続いて、
ii)関節に、療法的に有効な量の水性カプサイシノイド組成物を関節内投与する
工程を含む、前記方法が含まれる。
【0057】
場合によって、前記カプサイシノイド組成物を投与した後の1分の間に、関節を反復して屈曲させ、そして伸張させる。カプサイシノイド投与の前、投与中、および/または投与後に、部位にアイスパックまたは冷却パックを適用してもよい。関節疼痛を治療する別の態様において、工程i)を除去し、すなわちコルチコステロイド投与を含まない。
【0058】
場合によって、前記カプサイシノイド組成物より前、またはそれと同時に、麻酔剤を関節内投与する。例は、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、プリロカイン、メピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、およびキシロカイン、ならびにその混合物である。
【0059】
本発明にはまた、哺乳動物の部位へのカプサイシノイドの投与に由来する灼熱痛および刺痛を減少させるための方法であって、前記カプサイシノイドの投与前に、コルチコステロイドを投与する工程を含む、前記方法も含まれる。
【0060】
コルチコステロイドは、典型的には、前記カプサイシノイド投与の少なくとも4時間前に投与される。コルチコステロイドの例は、酢酸デキサメタゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾン、およびその混合物である。好適には、選択されるコルチコステロイドは長期作用性である。
【0061】
これらの方法において、好適には、カプサイシン用量レベルは0.001mg〜1mgの範囲であり、そして水性カプサイシノイド組成物は、約0.1ml〜25mlの体積中、薬学的に許容されうるビヒクル中で投与される。
【0062】
本発明の1つの態様において、疼痛は、局所カプサイシノイド配合物の局所投与より前(30分前、1時間前または4時間前)の、局所コルチコステロイド、好適には非常に強力なコルチコステロイド局所調製物の投与によって治療される−本明細書にその全内容が援用される、US出願2013/0157985 A1を参照されたい。別の態様において、局所コルチコステロイドは、局所適用のためのカプサイシノイドとともに配合される。
【0063】
本発明はまた:
a)少なくとも1単位用量のコルチコステロイド、
b)少なくとも1単位用量のカプサイシノイド
を含む、カプサイシノイドを投与するためのキットであって、前記グルココルチコイドが前記カプサイシノイドより前に投与されるように準備される前記キットに関する。キットには、場合によって、少なくとも1単位用量の麻酔剤(これは場合によってカプサイシノイドとともに配合される)、a)およびb)の投与のための手段(例えばシリンジ)、投与のための使用説明書、および/または冷却手段(例えばゲルパック)が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1図1は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係を示す。リドカインが投与されなかった唯一の膝である。
図2図2は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係示す。
図3図3は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係示す。
図4図4は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係示す。
図5図5は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係示す。
図6図6は、カプサイシン注射で処置した膝について、経過時間と疼痛レベルの関係示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明の配合物は、中程度から重度の長期(3ヶ月より長い)または急性疼痛の管理のための、長期作用性、非オピオイド性治療オプションを提供する。有効なカプサイシノイド注射療法には、カプサイシノイド投与後の潜在的な激しい急性灼熱痛に取り組む治療様式が含まれなければならない。
【0066】
部位特異的カプサイシン注射による長期疼痛状態を無効にする、患者における感覚ニューロンの選択的および可逆的脱機能化は、長期持続性(数週から数ヶ月)疼痛緩和のための魅力的なアプローチである。しかし、疼痛を緩和するための、カプサイシンの注射での関節等の治療は、投与に際してカプサイシンが誘発する激しい灼熱痛によって困難になる。
【0067】
本明細書に開示するカプサイシノイド配合物および方法を利用して、典型的には、分散した部位での注射を通じて、哺乳動物における疼痛を治療し/減弱させて、延長された期間、疼痛緩和を提供することも可能である。浸潤のため、薬学的に許容されうるビヒクル中で、配合物を投与する。方法および配合物には、カプサイシノイド投与の灼熱痛および痛覚過敏効果を減弱させる量の鎮痛剤および/または麻酔剤の投与がさらに含まれる。これは、カプサイシノイド注射の前またはこれに続いて、アイスパックまたはゲルパックの適用と組み合わせて、実行可能である。
【0068】
本発明は、疼痛治療のための水性カプサイシノイド配合物の投与を提供する。カプサイシノイド配合物の単回用量を、分散した部位、手術部位または開放創に、注射部位、手術部位(例えば腹腔鏡検査)または創傷(例えば骨折または靱帯損傷)を除神経するために有効な量で、投与する。部位の例は、関節、筋肉、腱、神経または腫瘍である。部位特異的カプサイシン注射による感覚ニューロンの選択的および可逆的脱機能化は、全身副作用をまったくまたはわずかしか伴わず、患者において慢性疼痛状態を無効にする、長期持続性(数週から数ヶ月)疼痛緩和を提供する。
【0069】
本発明のカプサイシノイド配合物は、延長された期間、部位の疼痛を緩和するかまたは減弱させる。変形性関節症などの関節炎状態に関与する疼痛に関しては、特定の態様において、単回単位用量カプサイシノイド注射または移植は、少なくとも約3ヶ月〜少なくとも約4ヶ月、部位での疼痛を減弱させる。関節疼痛に関しては、特定の態様において、単回単位用量カプサイシノイド注射または移植は、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約3ヶ月、そして約3〜約6ヶ月、部位での疼痛を減弱させる。術後疼痛に関しては、単回単位用量カプサイシノイド注射または移植は、少なくとも約1週間、そして特定の態様において、少なくとも約1ヶ月、部位で疼痛を減弱させる。
【0070】
本発明の組成物
カプサイシノイドの用量を、適用に際して灼熱感覚が減少した投与のため、薬学的にそして生理学的に許容されうる水性ビヒクル内に取り込むことによって、局所適用、注射、移植または浸潤のために調製する。本発明は、疼痛の治療および軽減のための、分散した局所領域内への、マイクログラムおよび/またはマイクログラムの一部の量のカプサイシンの注射用投与に関する。重要な利点は、限定された領域において、感覚神経機能(TRPV−1)機能の改変を通じて療法的結果を生じるために、カプサイシン量がミリグラムおよび/またはミリグラムの一部であることから生じる。
【0071】
カプサイシノイド
本発明のカプサイシノイドの一般的な議論に関しては、各々、その全体が本明細書に援用される、米国特許出願2008/0262091、および同一所有の米国第13/609,100号(疼痛緩和組成物、製造および使用)を参照されたい。用語「カプサイシノイド」には、本明細書において、カプサイシン、カプサイシン以外のカプサイシノイド、1またはそれより多いカプサイシノイドとカプサイシンの混合物が含まれる。使用する薬剤の量は、カプサイシン用量に対する療法的用量に基づく。あるいは、レシニフェラトキシンなどのカプサイシン類似体をカプサイシノイドの一部またはすべての代わりに投与してもよい。投与される類似体の量は、カプサイシンと療法的に同等な用量である−本明細書にその全体が援用される米国特許出願2008/0262091を参照されたい。別の態様において、カプサイシノイド以外のTRPV1アゴニストを本発明の配合物および方法において利用する。
【0072】
送達ビヒクル
本発明の水性医薬組成物は、薬学的に許容されうる溶媒で構成される単相水性/水系である薬学的に許容されうる送達ビヒクルを利用し、これには、ポリエチレングリコール(例えばPEG300およびPEG400)、エタノールおよび非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(PS80);緩衝剤;浸透圧勾配を調節する塩化ナトリウムおよび/または糖;ならびに配合物の粘性を調節し、そして配合物安定性を補助するヒアルロン酸が含まれる。開示される水性配合物の重要な利点は、水濃度が90重量%を超えうることである。水性薬学的ビヒクル中のさらなる構成要素の例には、浸透圧および緊張力を調整するデキストロースおよび/または塩化ナトリウム溶液、ならびにpHを調整する緩衝剤が含まれる。さらに、カプサイシン/PS80水溶液中の0.9%NaCl、0.25%フェノール、0.25%メントールおよび5%デキストロースは、曇った外見または沈殿物形成を生じなかった。
【0073】
ポリエチレングリコール
ポリエチレングリコールは、PEGとも称され、薬学産業において不活性成分として、溶媒、可塑化剤、界面活性剤、軟膏および座薬基剤として、そして錠剤およびカプセル中で潤滑剤として、用いられる。PEGは、低い全身毒性を有し、全身吸収は0.5%未満である。用語「PEG」は、数字と組み合わせて用いられる。薬学産業内で、数字は平均分子量を示す。低分子量液体ポリエチレングリコールPEG300および400は、水に容易に溶解しない多数の物質の優れた溶媒および共溶媒である。したがって、これらは液体および半固形調製物中の活性物質および賦形剤の溶媒および可溶化剤として、広く用いられる。PEGが活性物質と複合体を形成する能力は、優れた溶媒力に原因がある。ポリエチレングリコールを用いて、液体薬学的調製物の粘性を調整し、そして吸収特性を修飾し、そして調製物を安定化させることもまた可能である。
【0074】
平均分子量400までのポリエチレングリコールは、室温で不揮発性の液体である。PEG600までの液体PEGは、任意の比率で水と混和性である。しかし、さらにより高い分子量の固形PEG等級も、水中で優れた可溶性を有する。
【0075】
ポリエチレングリコールは、非経口/吸収/排出研究によって裏付けられるように、急性および慢性経口毒性、胚毒性または皮膚適合性に関して、優れた毒性学的安全性を示す。したがって、これらは、長年、化粧品、食品および薬学産業において使用されてきている。これらの化合物の多くは、処方製品で使用するため、FDA不活性成分リストに列挙されている。
【0076】
界面活性剤
非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、例えばPS80および/またはCremophor(登録商標)RH40(ポリオキシル40水素化ひまし油);あるいはCremophor(登録商標)ELP、またはSolute(登録商標)HS15)を、本明細書に先に記載する薬学的に許容されうるビヒクルの1またはそれ以上と組み合わせて、界面活性剤が湿潤剤および乳化剤として働くようにし、そしてカプサイシノイド投与と関連する初期の刺痛または灼熱不快感を弱めることも可能である。
【0077】
さらに、界面活性剤/カプサイシン(または他のカプサイシノイド)濃縮物を、本明細書にその全体が援用される、同一所有の米国特許出願2011/0311592(ほとんど溶解しない化合物の溶解性を増加させる方法、およびこうした化合物の配合物を作製しそして用いる方法)に記載されるように、本発明の配合物および方法で使用するために形成することも可能である。
【0078】
アルコール
さらに、エチルアルコール、グリセロール、ポリエチレングリコール等を含むアルコールを、有効なカプサイシン可溶化剤として、および/または注射用に安全であるとして、配合物に添加することも可能である。
【0079】
ヒアルロン酸
非イオン性界面活性剤PS80および/またはCremophor(登録商標)RH40を、多様な組織(皮膚、関節の滑液および結合組織)で生じるヒト体内に天然に存在する物質であるヒアルロン酸およびその塩と一緒に用いたカプサイシンの可溶化は、局所および注射用カプサイシン配合物に関連する灼熱痛および刺痛を寛解させるのに寄与する。好適には、〜1%から2%のヒアルロン酸またはその塩を用いる。本明細書記載の実験試験に用いるヒアルロン酸分子量は、800〜1,200キロダルトンの範囲の平均分子量を有した。理論によって束縛されることは望ましくないが、ヒアルロン酸構成要素をミセル可溶化カプサイシンに添加すると、水溶液内に多糖ネットワークが形成されて、これがミセルを安定化させ、そしてミセル集塊および凝集を防止するように働く一方、カプサイシンがより緩慢に徐放方式で放出されるようにして、その結果、灼熱痛および刺痛を弱めると考えられる。
【0080】
鎮痛剤
鎮痛成分は、本発明の配合物中で用いられて、カプサイシンに関連する初期の急性灼熱痛または刺痛を寛解させるかまたは防止する。多様な鎮痛剤が本発明において使用可能である。
【0081】
フェノールおよびメントール
フェノールおよび/またはメントールを、治療しようとする外科切開、開放創、または注射部位に投与してもよい。フェノールおよびメントールをカプサイシノイドの投与前に投与してもよいし、またはカプサイシノイド用量と同時投与してもよい。ボーラス注射されたフェノールおよびメントール濃度に関する有効24時間カプセル内カプセル濃度は、10mlの関節液注射体積に関して、〜25μg/mlまたは〜250μgであるべきである。
【0082】
フェノールおよびメントールはどちらも、(1)注射配合物と接触した表面に迅速に浸透し、そして(2)TRPV1アゴニスト(例えばカプサイシン)の投与と関連する急性灼熱痛および刺痛感覚を減少させるかまたは除去するように働く。オイゲノールもまた使用可能である。本発明には、カプサイシンの灼熱感覚効果を有効に和らげるため、カプサイシンに比較して迅速な「作用発現」を有する、特定の注射用鎮痛剤(フェノールおよびメントール)の使用が含まれる。化合物の作用発現は、生理化学的特性に関連し;いくつかの剤を表IIIに列挙する。
【0083】
表III−選択した鎮痛および麻酔成分の作用発現
【0084】
【表3】
迅速な作用発現を有する、これらの選択した鎮痛剤の使用は、同時投与した際、カプサイシンの灼熱効果を有効に和らげるが、また、カプサイシンに比較してより即時の疼痛緩和も提供する。本発明の1つの態様において、注射された鎮痛剤は、160またはそれ未満の分子量を有する。カプサイシンは、これらの迅速作用発現注射用鎮痛剤に比較して、より長期/長持続性疼痛緩和を提供する。
【0085】
非ステロイド性抗炎症薬剤(NSAID)
非ステロイド性抗炎症剤、例えばアスピリン、ナプロキシン、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、レフェコキシブ、およびイブプロフェンは、酵素シクロオキシゲナーゼを阻害し(COX−2阻害剤)、そしてしたがって、プロスタグランジン合成を減少させる。プロスタグランジンは、アレルギーおよび炎症プロセス中に放出される、炎症仲介因子である。全体として、NSAIDは、プロスタグランジンが合成されるのを防止し、疼痛を減少させるかまたは除去する。
【0086】
NSAID抗炎症剤、例えばジクロフェナク、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ベノキサプロフェン、フルルビプロフェン、フェノプロフェン等を注射用組成物に添加して、最小限の全身吸収でまたは全身吸収をまったく伴わずに、局所疼痛緩和を提供することも可能である。
【0087】
麻酔剤
局所麻酔剤、例えばリドカインは、関節内注射に一般的な添加物である。これらは、短期間、知覚麻痺を生じさせる多くの基本的医学法において用いられ、こうした方法には、損傷を受けたまたは深刻でない外科的処置を必要とする領域を知覚麻痺させるため、診療所または病院で用いられるものが含まれる。局所麻酔剤を注射用ビヒクルに添加して、局所疼痛緩和を提供することも可能である。麻酔剤の例は、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、プリロカイン、メピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、およびキシロカイン(xylocale)である。好適には、化合物の作用発現の相違のため、麻酔剤を、カプサイシノイド投与の前、すなわち2〜20分前に投与する。
【0088】
コルチコステロイド
本発明の好適な態様において、補助剤、例えばコルチコステロイド(グルココルチコイド)を、カプサイシンより前に、またはカプサイシンと同時に投与して、カプサイシンの投与用量に由来する初期の急性灼熱痛および刺痛を減弱させる。最も強力な抗炎症剤のいくつかは、コルチコステロイドである。コルチコステロイドは、炎症を引き起こす物質の産生を阻害することによって、炎症を減少させることが示されてきている。注射用コルチコステロイドの使用は、疼痛管理において受け入れられてきている。これらの薬剤は、その抗炎症特性のおかげで、有痛性病巣を減少させるかまたは除去することも可能である。コルチコステロイド注射は、炎症部位に直接薬剤を送達するため、非常に有効でありうる。コルチコステロイド注射は、カプサイシンの存在による、TRPV−1神経末端からの炎症性物質から生じるものを含めて、炎症を緩和させる有効な方法である。理論によって束縛されることは望ましくないが、コルチコステロイドの前投与は、神経を鎮め、そして続くカプサイシノイド投与から生じる特定の生物伝達物質、例えばサブスタンスPおよびブラジキニンの炎症効果を減少させることによって作用すると考えられる。
【0089】
使用可能ないくつかのコルチコステロイドがあり、これには、デキサメタゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムおよびその混合物が含まれる。当業者に知られる他の同等のコルチコステロイドもまた使用可能である。1つの態様において、本明細書にその全体が援用される米国出願2011/0311592にしたがって、コルチコステロイド濃縮物の形成(例えばPS80またはポリオキシ40水素化ひまし油を用いて)によって、コルチコステロイド可溶性が増加する。
【0090】
注射用コルチコステロイドは、水溶性またはデポ配合物のいずれかで利用可能である。水溶性コルチコステロイドは、注射領域から迅速に拡散し、全身効果を発揮するため、典型的には関節内注射には用いられない。デポ配合物は、注射部位により長い期間留まり、局所効果を維持し、そして関節注射には好適である。使用のために利用可能な、多様なデポコルチコステロイドがあり、これには、酢酸メチルプレドニゾロン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸ベタメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン・テビュレート(tebulate)、トリアムシノロン・アセトニド、トリアムシノロン・ヘキサセトニドおよびその混合物が含まれる。溶解性がより高い化合物に比較して、溶解性がより低いコルチコステロイドは、有効な滑膜レベルをより長時間維持する付加された利点を有し、そしてより低い全身レベルしか生じない。
【0091】
カプサイシノイド投与前に局所コルチコステロイドを投与した際、コルチコステロイド投与は、カプサイシノイドで治療しようとする領域に、灼熱痛および刺痛緩和を提供する(実施例6を参照されたい)。コルチコステロイド前投与は、関節内関節空間内へのカプサイシン含有配合物の注射に関して、許容されうる疼痛レベルを生じた。
【0092】
重要なことに、カプサイシン投与後の1分以内に、関節を屈曲させ、そして/または歩くことによって、関節を運動させると、配合物を循環させ、そして灼熱痛および刺痛を減少させるように働いた。外部冷却手段、例えばゲルおよび/またはアイスパックを通じた関節の冷却もまた、カプサイシン投与からの疼痛効果を減少させる。
【0093】
カプサイシンまたはカプサイシン様化合物の投与前にコルチコステロイドを投与すると、カプサイシン投与に際してより少ない疼痛を生じ、そして延長された期間、1ヶ月より長く、好適には3ヶ月より長く、そして最も好適には6ヶ月より長く、部位での疼痛緩和を生じる。
【0094】
整形外科手術において、カプサイシン配合物とともに、強力な抗炎症活性を持つコルチコステロイドを使用すると、カプサイシン投与に由来する急性疼痛が除去されるかまたは実質的に減少する。これによって、安全でそして有効な方式で拡張された疼痛緩和が可能になる。
【0095】
水性カプサイシン注射用配合物−ミセル/遊離
表IVに言及する配合物は、カプサイシン、ならびに鎮痛剤、フェノールおよびメントールを可溶化するため、PEGおよびエチルアルコールに頼る。フェノールおよびメントールの単相水溶液を維持するには、〜15−40重量%PEGおよび〜0−40重量%エチルアルコールの名目上の内容量が必要である。
【0096】
表IV−高PEG300/400カプサイシン配合物(ミセル不含)
【0097】
【表4】
水性カプサイシン注射用配合物−ミセル中にカプサイシンを含有
特許出願US 2006/0148903の実施例Vおよび実施例VI A〜VI Dに示されるように、水溶液内に1mg/mlのカプサイシンを含有する組成物は、水溶液中に10mg/mlのPS80を必要とした。また、PS80濃度の各10mg/mlの増加あたり、カプサイシンの水溶性は、約1mg/ml増加することも注目された。
【0098】
しかし、同一所有の米国特許出願2011/0311592(ほとんど溶解しない化合物の溶解性を増加させる方法、およびこうした化合物の配合物を作製しそして用いる方法)の実施例は、予期せぬことに、1mg/mlのカプサイシンを可溶化するには、水溶液内の半分(1/2)のPS80濃度、すなわち5mg/mlのPS80を必要とすると解説する。5mg/mlのPS80で達成された、比較的水に不溶性のカプサイシンの比例的な1mg/mlの濃度は、カプサイシンがミセル内に含有されていることを示す(実施例1を参照されたい)。したがって、0.06mg/mlのカプサイシン濃度を達成するため、0.3mg/mlのPS80しか必要ではない。
【0099】
以下の表Vに示す配合物は、ミセル形成を通じてカプサイシンを可溶化するために、PS80に頼り、そして鎮痛剤、フェノールおよびメントールを可溶化するために、PEGおよびエチルアルコール内容物に頼る。フェノールおよびメントールの単相水溶液を維持するには、5〜20重量%のPEGおよび0〜40重量%のエチルアルコールが必要である。
【0100】
表V−PS80カプサイシン配合物
【0101】
【表5】
以下の表VIに示す配合物は、カプサイシン、ならびに鎮痛剤、フェノールおよびメントールを可溶化するために、Cremophor(登録商標)RH40(あるいはCremophor(登録商標)ELP、またはSolute(登録商標)HS15)に頼る。
【0102】
表VI−Cremophor(登録商標)RH40カプサイシン配合物
【0103】
【表6】
ゲル
ポリエチレングリコール、例えばPEG−300またはPEG−400(〜5−10%)の油性液体配合物への添加によって、水の添加(〜10%)が可能になる。続くゲルは、セルロース性ゲル化添加剤の添加によって形成されてきている。
【0104】
本発明の組成物の使用および投与
本発明の配合物は、1)関節内部位または体内空間で、疼痛を緩和し;2)臨床ケア施設からの退院後、患者によって経験される術後疼痛を緩和し;3)患者によって摂取される麻薬の量が減少し、それによって術後リハビリテーション期間が減少するように、有効な術後鎮痛剤を提供する際に有用である。
【0105】
本発明の組成物の使用および方法には、限定されるわけではないが、膝、肩、股関節、背部、脊椎、首、肘、手、足の整形外科的障害、および特定の部位での疼痛を伴う他の障害が含まれる。関節内投与の例には、膝、肘、股関節、手根骨、足根骨、手首、椎間板、くるぶし、および関節炎状態に感受性である任意の他の関節への注射が含まれる。体内空間の例には、滑液包または腹腔が含まれる。
【0106】
本発明の組成物を、変形性関節症、関節リウマチ、腱炎、滑液包炎、術前および術後の状態に関連する哺乳動物における疼痛の管理および緩和延長のために、ならびに神経傷害に続いて生じるニューロパシー性疼痛と関連する、哺乳動物における知覚過敏疼痛のために用いてもよい。投与の他の使用および方法は、各々、その全体が本明細書に援用される、米国特許8,420,600および同一所有のUS第13/609,100号(疼痛緩和組成物、製造および使用)に記載される。
【0107】
本明細書において、「注射」は、皮膚を通じた部位への投与を意味する。「移植」は、皮膚、筋肉、腱または関節内に物質用量を包埋することによる、部位での投与を意味するものとする。
【0108】
カプサイシン配合物を、注射または浸潤を通じて、部位に投与してもよい。手術または創傷に関しては、用量を、手術または創傷部位周囲の筋肉、組織、または骨に投与する。カプサイシノイドを浸潤によって投与する際、カプサイシノイドを浸潤を通じて投与するために当業者に知られる装置、例えば針およびシリンジを用いて、手術部位または創傷に、カプサイシノイドを投与する。
【0109】
本明細書において、「療法的に有効な量」は、臨床的に望ましい結果、例えば生物学的反応、あるいは疾患または状態の症状の減少、例えば疼痛の減少または除去を生じる剤の量または用量を指す。
【0110】
カプサイシンの単回用量を注射によって投与する際、カプサイシンの注射体積は、投与の局所部位に応じる。送達すべき適切な注射体積は、好適には、約0.1〜約20ml、より好適には約0.5〜約10ml、そして最も好適には約1.0〜約5mlであり、これは治療しようとする部位に応じる。
【0111】
関節疼痛の治療のための、そして注射用カプサイシンの灼熱痛および刺痛効果を最小限にするかまたは除去するための、本発明の注射用組成物の好適な使用を以下に示す。感染のリスクを減少させるため、注射のために、滅菌技術を用いなければならない。皮膚をまずベタジンまたは他の適切な消毒剤で清浄にする。
【0112】
・関節内に針を挿入して、そして過剰な液体を抜き取る。
【0113】
・コルチコステロイド(好適には緩慢作用性)液を関節内領域に注入する。カプサイシノイド注射に際して起こるであろう灼熱痛および刺痛を減少させるかまたは除去するために必要な期間、このコルチコステロイド注射が、周囲組織に浸潤し、そして浸透することを可能にすることが推奨される(1時間より長く、好適には4、8、16または24時間より長く)。
【0114】
・コルチコステロイド注射の後、場合によって、麻酔剤、例えばリドカインを投与して、関節内領域をさらに麻酔する。〜5−10分後(麻酔剤が、周囲の関節内表面に浸潤することを可能にする)、カプサイシノイド配合物を投与する。好適には、麻酔剤は、カプサイシノイド投与の前に、関節から除去されない。
【0115】
・好適な態様において、カプサイシノイドの投与後の1分間(好適には30秒間)、関節を、反復して動かす(屈曲させ、そして伸張させる)。関節を屈曲させ、そして伸張させる前、その間、および/またはその後、関節にアイスパックまたは冷却パックを、場合によって適用する。
【0116】
本発明の方法は、0.001mg〜1.0mg、好適には0.2mg〜0.4mgのトランス−カプサイシン用量レベル範囲を用いる。方法は、約0.1ml〜25ml、好適には5〜10mlの体積中の水性ビヒクルを利用する。小さい関節または非関節適用のために用いられるカプサイシノイドおよびビヒクルの量は、当業者に決定されるように、多様であろう。
【0117】
本発明の配合物および方法は、2〜5日間、好適には7〜21日間、またはより好適には6〜8週間、または14週間より長く(1から4ヶ月)、疼痛緩和を提供する。
【0118】
関節疼痛以外の疼痛緩和のために、類似の技術を使用してもよい。
【0119】
以下の例は例示的であり、本発明の組成物および方法を限定しない。当業者には明らかである、通常出会う多様な状態およびパラメータの他の適切な修飾および適応は、本発明の精神および範囲内にある。
【実施例】
【0120】
実施例1
濃縮カプサイシン/PS80溶液の調製
米国特許出願2011/0311592(ほとんど溶解しない化合物の溶解性を増加させる方法、およびこうした化合物の配合物を作製しそして用いる方法)は、1mg/mlのカプサイシンを可溶化するために5mg/mlのPS80が必要である;すなわち、0.06mg/mlのカプサイシン濃度を達成するために、0.3gm/mlのPS80しか必要とされないと教示する。また、カプサイシン溶解度の各1mg/mlの増加には、5mg/mlのPS80が必要であるため、比較的水に不溶性のカプサイシンは、ミセル内に含有されていることが決定された。Croda Incより得られる高純度PS80中でカプサイシンを可溶化する際に、この出願の教示を利用した。
【0121】
工程I−カプサイシンおよびPS80濃縮物の調製
成分には以下が含まれる:
・10グラムのポリソルベート80(PS80)、超精錬、Croda Inc.、CAS#9005−65−6
・2グラムのトランス−カプサイシン、Aversion Technologies Inc.、USP 30、95.7%トランス−カプサイシン、バランス・シス−カプサイシン
手順:
1. 10グラムのPS80を50ml「Pyrex」(登録商標)ガラスバイアルに添加する。
【0122】
2. 2グラムのトランス−カプサイシンを工程1のPS80に添加する。
【0123】
3. 工程2由来の混合物を〜55℃に加熱して、トランス−カプサイシンを溶解し、そしてトランス−カプサイシン/PS80濃縮物を形成する。
【0124】
室温のカプサイシン/PS80溶液に少量のカプサイシン微粒子を添加した結果、カプサイシン沈殿物は形成されず、したがって、カプサイシン溶液が過飽和されていないことが示された。予期せぬことに、高い濃度レベル;すなわち1.0mlのPS80中、200mgカプサイシン(200mg/ml)が達成された。このカプサイシン/PS80濃縮物2mlを98グラムの〜70℃の水に添加すると、濁った溶液が生じ、溶液混合物を室温に冷却するにつれて、次第に非常に透明になった。したがって、この20%カプサイシン/PS80濃縮物の水への添加は、4mg/mlのカプサイシン水溶性レベルを生じた。同様に、このカプサイシン/PS80濃縮物10mlを90グラムの〜70℃の水に添加すると、濁った溶液が生じ、溶液混合物を室温に冷却するにつれて、次第に非常に透明になった。したがって、この2%カプサイシン/PS80濃縮物の水への添加は、20mg/mlのカプサイシン水溶性レベルを生じた。
【0125】
PS濃度の各5mg/ml増加に関して、カプサイシン水溶性が約1mg/ml増加することもまた注目された。理論によって束縛されることは望ましくないが、これは、カプサイシンがPS80ミセル中に含有されることを示唆する。
【0126】
実施例2
実施例1由来のカプサイシン/PS80濃縮物およびヒアルロン酸を含有する200グラム水溶液の調製
工程I−ヒアルロン酸濃縮物の調製
成分には以下が含まれる:
・1グラムのヒアルロン酸、M.W.=1,000キロダルトン、Lotioncrafter LLC、CAS#9067−32−7
・191.8グラムの蒸留水、Poland Springs
手順:
1. 1グラムのヒアルロン酸を400cc Pyrex(登録商標)ビーカーに添加する。
【0127】
2. 191.8グラムの水をヒアルロン酸に添加し、そして透明な溶液が得られるまで、完全に混合する。ヒアルロン酸を完全に溶解するには、長い期間;おそらく30分間を要する。
【0128】
工程II−0.6mg/mlカプサイシン、3.0mg/ml PS80および5mg/mlヒアルロン酸水溶液の調製
成分には以下が含まれる:
・実施例1由来の7.2グラムのカプサイシン/PS80濃縮物
・工程I由来の192.8グラムのヒアルロン酸
手順:
1. 工程Iで調製し、そして400ccPyrex(登録商標)ビーカー内に入れた192.8グラムのヒアルロン酸溶液に、実施例1で調製したカプサイシン/PS80 7.2グラムをよく攪拌しながらゆっくり添加する。
【0129】
2. 工程1由来の混合物は、ここで、続くパッケージングの用意ができている。
【0130】
成分を完全に混合した後、生じた混合物は非常に透明であり、そして中程度に粘性であった。混合物の粘性は、ヒアルロン酸含量を変化させることによって調整可能である。
【0131】
PS80中のカプサイシンの上昇した温度での可溶化は重要である。PS80およびカプサイシンを水に添加した後、〜70℃−90℃の温度に加熱する試みが何度かなされているが、カプサイシンの一部の溶解しか生じなかった。
【0132】
前述の本文中に記載するような水性媒体内でのカプサイシン溶解性レベル増加を達成することが可能であれば、注射すべきカプサイシンの液体体積のかなりの減少が可能になる。PEG−400での実験は、PS80(ミセル可溶化)界面活性剤に比較した際のカプサイシン溶解性レベルを達成しなかった。
【0133】
実験はまた、HPMC、HEC.Carbomersなどのゲル化剤の添加で、カプサイシン含有ゲルの形成が起こっていることも示す。
【0134】
実施例3
200グラムの0.06mg/mlカプサイシン注射用溶液(ミセル不含)の調製
工程I−カプサイシン、フェノール、メントール溶液の調製
成分には以下が含まれる:
・60グラムのPEG−300、Spectrum Chemical、NF、CAS#25322−68−3
・16グラムのエチルアルコール、グラーブ・グレイン・アルコール、190度
・0.2グラムのフェノール、液化(石炭酸)、Spectrum Chemical、USP、CAS#108−95−2
・0.2グラムのL−メントール、結晶、Spectrum Chemical、USP、CAS#2216−51−5
・0.012グラムのトランス−カプサイシン、Aversion Technologies Inc.、USP 30、95.7%トランス−カプサイシン、バランス・シス−カプサイシン
手順:
1. 60グラムのPEG−300を400cc Pyrex(登録商標)ビーカー中に添加する。
【0135】
2. PEG−300に、16グラムのエチルアルコールを添加し、そしてよく混合する。
【0136】
3. 工程2の混合物に、0.2グラムの液化フェノールを添加する。
【0137】
4. 工程3の混合物に、0.2グラムのL−メントール結晶を添加する。
【0138】
5. 工程4の混合物に、0.012グラムのトランス−カプサイシンを添加する。
【0139】
6. 工程5の混合物を〜40℃に加熱して、メントールおよびカプサイシン溶液の形成を加速する。
【0140】
7. 工程6由来の溶液を脇に置き、そして室温に冷却させる。
【0141】
工程II−ヒアルロン酸溶液の調製
成分には以下が含まれる:
・1グラムのヒアルロン酸、M.W.=1,000キロダルトン、Lotioncrafter LLC、CAS#9067−32−7
・122.6グラムの蒸留水、Poland Springs
手順:
1. 1グラムのヒアルロン酸を250cc Pyrex(登録商標)ビーカー中に添加する。
【0142】
2. 122.6グラムの水をヒアルロン酸に添加し、そして透明な溶液が得られるまで、よく混合する。ヒアルロン酸を完全に溶解するには、長い期間;おそらく30分間を要する。
【0143】
工程III−工程Iおよび工程IIの溶液を合わせる
成分には以下が含まれる:
・工程I由来の溶液混合物
・工程II由来の溶液混合物
手順:
1. 工程II由来のヒアルロン酸溶液を、工程I由来のカプサイシン含有溶液に、よく攪拌しながらゆっくり添加する。
【0144】
2. 工程1由来の混合物は、ここで、続くパッケージングの用意ができている。
【0145】
表6は、0.06mg/mlカプサイシン溶液内に含有される成分を含有する。
【0146】
実施例4
200グラムの0.06mg/mlカプサイシン/PS80ミセル注射用溶液の調製
工程I−カプサイシンおよびPS80濃縮物の調製
成分には以下が含まれる:(注:重量測定精度を確実にするため、調製したカプサイシン/PS80濃縮物の量は、0.06mg/ml注射用溶液に必要な量の8倍であった)
・2グラムのポリソルベート80(PS80)、超精錬、Croda Inc.、CAS#9005−65−6
・0.125グラムのトランス−カプサイシン、Aversion Technologies Inc.、USP 30、95.7%トランス−カプサイシン、バランス・シス−カプサイシン
手順:
1. 2グラムのPS80を16ml Pyrex(登録商標)ガラスバイアルに添加する。
【0147】
2. 0.125グラムのトランス−カプサイシンを工程1のPS80に添加する。
【0148】
3. 工程2由来の混合物を〜55℃に加熱して、トランス−カプサイシンを溶解し、そしてトランス−カプサイシン/PS80濃縮物を形成する。
【0149】
工程II−カプサイシン/PS80、PEG−300、エチルアルコール、フェノールおよびメントール溶液の調製
成分には以下が含まれる:
・20mgのPEG−300、Spectrum Chemical、NF、CAS#25322−68−3
・10グラムのエチルアルコール、グラーブ・グレイン・アルコール、190度
・工程I由来の0.27グラムのトランス−カプサイシン/PS80濃縮物
・0.2グラムのフェノール、液化(石炭酸)、Spectrum Chemical、USP、CAS#108−95−2
・0.2グラムのL−メントール、結晶、Spectrum Chemical、USP、CAS#2216−51−5
手順:
1. 20グラムのPEG−300を400cc Pyrex(登録商標)ビーカー中に添加する。
【0150】
2. PEG−300に、10グラムのエチルアルコールを添加し、そしてよく混合する。
【0151】
3. 工程2の混合物に、0.27グラムのトランス−カプサイシン/PS80濃縮物を添加し、そしてよく攪拌する。
【0152】
4. 工程3の混合物に、0.2グラムの液化フェノールを添加する。
【0153】
5. 工程4の混合物に、0.2グラムのL−メントール結晶を添加する。
【0154】
6. 工程5の混合物を〜40℃に加熱して、メントール溶液を加速する。
【0155】
7. 工程5由来の溶液を脇に置き、そして室温に冷却させる。
【0156】
工程III−ヒアルロン酸溶液の調製
成分には以下が含まれる:
・1グラムのヒアルロン酸、M.W.=1,000キロダルトン、Lotioncrafter LLC、CAS#9067−32−7
・169.5グラムの蒸留水、Poland Springs
手順:
1. 1グラムのヒアルロン酸を400cc Pyrex(登録商標)ビーカー中に添加する。
【0157】
2. 169.5グラムの水をヒアルロン酸に添加し、そして透明な溶液が得られるまで、完全に混合する。ヒアルロン酸を完全に溶解するには、長い期間;おそらく30分間を要する。
【0158】
工程III−工程Iおよび工程IIの溶液を合わせる
成分には以下が含まれる:
・工程I由来の溶液混合物
・工程II由来の溶液混合物
手順:
1. 工程II由来のヒアルロン酸溶液を、工程II由来のカプサイシン含有溶液に、よく攪拌しながらゆっくり添加する。
【0159】
2. 工程1由来の混合物は、ここで、続くパッケージングの用意ができている。
【0160】
表6は、0.06mg/mlカプサイシン溶液内に含有される成分を含有する。
【0161】
実施例5
200グラムの4mg/mlカプサイシン、1mg/mlメントールおよび1mg/mlフェノール透明水性濃縮物の調製
4mg/mlカプサイシン、1mg/mlメントールおよび1mg/mlフェノール濃縮物の調製の際、以下の工程にしたがった。
【0162】
成分には以下が含まれる:
・0.40グラムのトランス−カプサイシン、Aversion Technologies Inc.、USP 30、95.7%トランス−カプサイシン、バランス・シス−カプサイシン
・0.10グラムのフェノール、液化(石炭酸)、Spectrum Chemical、USP、CAS#108−95−2
・0.10グラムのL−メントール、結晶、Spectrum Chemical、USP、CAS#2216−51
・Cremophor(登録商標)RH40、CAS番号61788−85−0、Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイスより得られる
手順:
1. 0.4グラムのカプサイシン粉末、0.1グラムのメントール結晶および0.1グラムの液化フェノールを300cc Pyrex(登録商標)ビーカーに添加する。
【0163】
2. 2.0グラムのCremophor(登録商標)RH40を工程1由来の混合物に添加する。
【0164】
3. 工程2由来の混合物を約125℃に加熱する。
【0165】
4. 工程3由来の混合物に、よく攪拌しながら水をゆっくり添加して、重量200グラムの水性混合物を提供する。
【0166】
4mg/mlカプサイシン、1mg/mlメントール、1mg/mlフェノールおよび20mg/ml Cremophor(登録商標)RH40を含有する、光学的に透明な水溶液が生じた。カプサイシン、メントールおよびフェノール混合物対Cremophor(登録商標)40界面活性剤の合わせた重量比は、1.0/3.33であった。
【0167】
実施例6
ヒトにおけるカプサイシノイド注射による疼痛に対するコルチコステロイド前処置の効果
本研究は、膝関節内へのカプサイシン関節内注射で生じる灼熱および刺痛効果を減弱させるための、カプサイシン投与前の補助剤としてのコルチコステロイド投与を調べた。
【0168】
カプサイシン配合物
マサチューセッツ州ウォルサムのJohnson Compoundingは、無菌液体カプサイシン溶液として注射配合物を、そして注射に使用する前に、カプサイシン溶液を希釈するための無菌希釈ビヒクルを供給した。
【0169】
カプサイシン溶液および希釈ビヒクルはどちらも、GMPにしたがって製造され、そして販売された。ロット販売試験には、外見、強度、純度(HPLC)、不純物(HPLC)、細菌内毒素、および無菌性(USP<71>)に関する試験が含まれた。
【0170】
100%ポリエチレングリコール300(PEG300)中にカプサイシンを溶解することによって、カプサイシン溶液を製造した。生じた溶液を滅菌濾過して、そして5ml無菌I型ガラスバイアル内に無菌的に充填し、次いでバイアルを密封した。カプサイシン溶液の構成要素および組成を表VIIに列挙する。
【0171】
表VII−カプサイシン溶液の構成要素
【0172】
【表7】
(1)Formosa Laboratories、台湾より調達されたcGMP 99重量%カプサイシン
(2)Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス(カタログ#81162)
カプサイシンを送達するために利用する薬学的ビヒクルの構成要素および組成を表VIIIに列挙する。
【0173】
表VIII−カプサイシンビヒクルの構成要素
【0174】
【表8】
(1)Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス(カタログ#81162)
(2)Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス(カタログ#H3911)
(3)Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス(カタログ#84097)
臨床研究
カプサイシン配合物注射前の部位内へのコルチコステロイド注射の有効性を評価する試験を行った。関節炎膝関節を有する被験体を選択し、そして以下のように処置した。
【0175】
・処置しようとする膝関節をベタジンまたは他の適切な消毒剤で清浄にした。
【0176】
・関節内に針を挿入し、そして過剰な液体を抜き取った。
【0177】
・60mgの用量レベルのDepo−Medrol(登録商標)(酢酸メチルプレドニゾロン注射用懸濁物、USP)を、カプサイシン注射投与の前日に、処置する関節中に注射した。Depo−Medrol(登録商標)は、関節内軟組織筋内注射または病変内注射用の抗炎症グルココルチコイドである。
【0178】
・コルチコステロイド注射翌日、麻酔剤(1%リドカイン)を関節内に注射し、そして周囲の関節内表面に〜5分間浸潤させた。
【0179】
・次いで、5ml中、0.2mgの用量レベルのカプサイシンを関節内に注射した(リドカイン注射の30分以内)。
【0180】
結果
手順、および経過時間の関数として0.2mg用量レベルのカプサイシン配合物を注射した被験体の注射によって経験される生じる疼痛レベルを、表IX〜XVに要約する。これらの結果を図1〜6にグラフで例示する。カプサイシン注射で処置した6つの膝の説明は以下の通りである。
【0181】
注射した膝第1号、患者第1号
両方の膝に有痛性変形性関節症を有する76歳の男性の、左膝の関節腔内に60mg用量のDepo−Medrol(酢酸メチルプレドニゾロン)を投与した。翌日、0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の注射の1分前に、膝を消毒パッドで清浄にした。カプサイシン注射後、被験体は疼痛レベルが許容されうるレベルに鎮まるまでに約1時間の期間、極端な疼痛を経験した。屈曲させそしてまっすぐにし、そして関節にアイスパックを複数適用しても、カプサイシン注射の不快感は緩和されなかった。該手順は、被験体が関節炎疼痛症状の有意な緩和を得るまで、ほぼ80分間を必要とした。表IXおよび図1には、経過時間の関数としての手順の疼痛レベルの要約が含まれる。これは、本実施例において、リドカインが投与されなかった唯一の膝である。
【0182】
表IX
注射した膝#1
(患者#1、処置した左膝)
【0183】
【表9】
注射した膝第2号、患者第2号
両方の膝に有痛性変形性関節症を有する67歳の男性の、左膝の関節腔内に60mg用量のDepo−Medrol(酢酸メチルプレドニゾロン)を投与した。翌日、1%リドカインを含有する溶液8mlをこの同じ膝の関節腔内に注射し、そして0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の関節内注射前、約4分間、歩き、そして膝を屈曲させることによって、関節腔全体に分布させた。カプサイシン注射直後に、〜30秒間、膝を活発に屈曲させ、そしてまっすぐにして、カプサイシン溶液を関節腔内に分布させた。疼痛レベルは一時的に中程度のレベルに上昇し、そして休息し、そしてこの膝にアイスパックを適用すると、迅速に鎮まった。約30分後、手順は完了し、そして被験体は、変形性関節炎疼痛症状の完全な緩和を経験した。表Xおよび図2には、経過時間の関数としての手順の疼痛レベルの要約が含まれる。
【0184】
表X
注射した膝#2
(患者#2、処置した左膝)
【0185】
【表10】
注射した膝第3号、患者第3号
両方の膝に、重度で、そして有痛性の変形性関節症を有すると以前診断され、そして3ヶ月中に左膝置換術が予定されている67歳の男性の、左膝の関節腔内に60mg用量のDepo−Medrol(酢酸メチルプレドニゾロン)を注射した。翌日、1%リドカインを含有する溶液8mlをこの同じ膝の関節腔内に注射し、そして0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の関節内注射前、約3分間、膝を屈曲させ、そしてまっすぐにすることによって、関節腔全体に分布させた。左膝を〜30秒間活発に屈曲させて、関節腔内にカプサイシン液を分布させた。カプサイシン注射から3分後、疼痛レベルは迅速に許容しえないレベルに上昇したが、アイスパックの適用によって直ちに減少した。カプサイシン注射の5分後、疼痛レベルは許容されうるレベルに減少した。手順は約23分で終了し、そして被験体は、有痛性関節炎症状に関して完全な緩和を示した。表XIおよび図3には、経過時間の関数としての手順の疼痛レベルの要約が含まれる。
【0186】
表XI
注射した膝#3
(患者#3、処置した左膝)
【0187】
【表11】
注射した膝第4号、患者第4号
両方の膝に、重度の関節炎を有する66歳の女性の、左膝の関節腔内に60mg用量のDepo−Medrol(酢酸メチルプレドニゾロン)を注射した。翌日、ゲルパックを膝に適用し、次いで、1%リドカインを含有する溶液8mlを左膝の関節腔内に注射し、そして0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の関節内注射前、約6分間、歩き、そして膝を屈曲させることによって、関節腔全体に分布させた。カプサイシン注射直前にゲルパックで膝をあらかじめ冷却した。被験体は、ゲルパックの冷却による、穏やかな疼痛レベルに気づいた。カプサイシン注射直後、膝を〜20秒間活発に屈曲させて、関節腔全体にカプサイシン液を分布させた。約13分間、疼痛レベルは穏やかなレベルのままであり、そしてその後、患者は有痛性の重度の変形性関節症疼痛の完全な寛解を経験した。この患者は次いで、もう一方の膝を同じ様式で処置するよう要望した。表XIIおよび図4には、経過時間の関数としての手順の疼痛レベルの要約が含まれる。
【0188】
表XII
注射した膝#4
(患者#4、コルチコステロイド処置した左膝)
【0189】
【表12】
注射した膝第5号、患者第4号
上記の66歳の女性は、左膝が、カプサイシン投与の結果として、有意な疼痛緩和を経験した直後、重度の変形性関節症を有する右膝を処置するように要望した。注目すべきことに、この右膝はあらかじめ前日にコルチコステロイド(酢酸メチルプレドニゾロン)で処置されていなかった。1%リドカインを含有する溶液8mlを右膝の関節腔内に注射し、そして0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の関節内注射前、約5分間、歩き、そして膝を屈曲させることによって、関節腔全体に分布させた。中程度のレベルの疼痛が経験され、そしてアイスパックが適用された。右膝の疼痛レベルは、穏やかなレベルに減少し、そして〜25分後、患者は両方の膝へのカプサイシン処置が、有痛性関節炎症状を緩和したことに気づき、そしてさらなる疼痛なしに歩いていた。表XIIIおよび図5には、経過時間の関数としての手順の疼痛レベルの要約が含まれる。
【0190】
表XIII
注射した膝#5
(患者#4、コルチコステロイドで処置しなかった右膝)
【0191】
【表13】
注射した膝第6号、患者第1号
両方の膝に有痛性変形性関節症を有する76歳の男性は、左膝のカプサイシン処置成功を経験した。3週間後、この患者は、右膝の処置を要望した。右膝には、右膝関節腔内に60mg用量のDepo−Medrol(酢酸メチルプレドニゾロン)を投与した。翌日、この膝に冷却パックを適用し、そして1%リドカインを含有する溶液8mlを注射し、そして0.2mgカプサイシンを含有する5ml溶液の関節内注射前、約3分間、膝を屈曲させ、そしてまっすぐにし、そして歩くことによって、関節空間全体に分布させた。右膝を〜20秒間活発に屈曲させて、カプサイシン溶液を関節腔内に分布させた。アイスパックの適用により、疼痛レベルは許容されうるレベルに維持された。手順は約17分で完了し、そして被験体は、有痛性関節炎症状の完全な緩和を示した。被験体は、左膝のカプサイシン処置での先の経験に比較して、迅速でそして非常に許容されうるカプサイシン投与を生じた、方法の相違に満足感を示した。表XIVおよび図6には、経過時間の関数としての方法の疼痛レベルの要約が含まれる。
【0192】
表XIV
注射した膝#6
(患者#1、処置した右膝)
【0193】
【表14】
すべての患者は、本出願日現在、処置した膝に、疼痛を伴わないままである(1つの症例では3週間以上)。
【0194】
上記に引用するすべての文書および参考文献は、その全体が本出願に援用される。
【0195】
本発明は、例示的な態様に言及して記載されてきているが、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、多様な変化を作製可能であり、そしてその要素に対して同等物で置換することも可能であることが理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、本発明の解説に特定の状態または材料を適応させるため多くの修飾を行うことが可能である。したがって、本発明は、本発明を実行するために意図される最適の様式として開示される特定の態様には限定されず、本発明は、付随する請求項の範囲内に属するすべての態様を含むであろうことが意図される。
本明細書は以下の発明の開示を包含する。
[1]i)0.0002重量%〜0.1重量%のカプサイシノイド、
ii)0.01重量%〜1重量%のメントールおよび/またはオイゲノール、ならびに
iii)カプサイシノイドおよび鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよび/またはエチルアルコールを含む水性ビヒクル
を含む、水性医薬組成物。
[2]前記カプサイシノイドがカプサイシンである、[1]におけるような水性医薬組成物。
[3]前記カプサイシノイドがトランス−カプサイシンである、[1]におけるような水性医薬組成物。
[4]前記鎮痛剤がメントールである、[1]におけるような水性医薬組成物。
[5]前記水性ビヒクルが:
i)15〜50重量%のポリエチレングリコール、および/または
ii)0.5〜40%エチルアルコール
を含む、[1におけるような水性医薬組成物。
[6]0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸および/または0.01〜0.1%フェノールをさらに含む、[1]におけるような水性医薬組成物。
[7]0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
20〜35重量%のポリエチレングリコール、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
を含む、[1]におけるような水性医薬組成物。
[8]i)非イオン性界面活性剤で形成されるカプサイシノイド濃縮物、
ii)鎮痛剤、および
iii)カプサイシノイド濃縮物および鎮痛剤を水中で可溶化する水性ビヒクル
を含む、水性医薬組成物。
[9]i)0.0002重量%〜0.05重量%のカプサイシノイド、
ii)0.001重量%〜2.5重量%の非イオン性界面活性剤、
iii)0.01重量%〜0.5重量%の鎮痛剤、および
iv)カプサイシノイド濃縮物および鎮痛剤を水中で可溶化する量のエチルアルコールを含む水性ビヒクル
を含む、[8]におけるような水性医薬組成物。
[10]前記カプサイシノイドがカプサイシンであり、そして前記非イオン性界面活性剤がポリオキシ40水素化ひまし油である、[8]におけるような水性医薬組成物。
[11]前記カプサイシノイドがカプサイシンであり、そして前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、[9]におけるような水性医薬組成物。
[12]カプサイシン対ポリソルベート80の重量比が1対5である、[11]におけるような水性医薬組成物。
[13]前記カプサイシノイドがトランスカプサイシンである、[8]におけるような水性医薬組成物。
[14]前記鎮痛剤が、フェノール、メントールおよびオイゲノールからなる群より選択される1またはそれ以上である、[8]におけるような水性医薬組成物。
[15]麻酔剤をさらに含む、[1]または[8]におけるような水性医薬組成物。
[16]前記麻酔剤が、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、プリロカイン、メピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、およびキシロカイン、ならびにその混合物からなる群より選択される、[14]におけるような水性医薬組成物。
[17]前記水性ビヒクルが、カプサイシノイドおよび鎮痛剤を水中で可溶化する量のポリエチレングリコールおよびエチルアルコールを含む、[8]におけるような水性医薬組成物。
[18]0.1重量%〜1.5重量%のヒアルロン酸をさらに含む、[8]におけるような水性医薬組成物。
[19]0.005〜0.03重量%のカプサイシン、
0.025〜0.15重量%のポリソルベート80、
0.01〜0.1重量%のフェノール、
0.01〜0.1重量%のメントール、
0〜15重量%のポリエチレングリコール300または400、
5〜15重量%のエチルアルコール、および
0.2〜1重量%のヒアルロン酸
を含む、[8]におけるような水性医薬組成物。
[20]哺乳動物の部位で疼痛を治療するための方法であって:
前記哺乳動物の前記部位で、前記哺乳動物に療法的に有効な量の[1]または[8]の水性カプサイシノイド組成物を投与することを含む、前記方法。
[21]哺乳動物における疼痛を治療するための方法であって:
iii)疼痛部位に、療法的に有効な量のコルチコステロイドを投与し;そして続いて
iv)疼痛部位に、療法的に有効な量のカプサイシノイド組成物を投与する
ことを含む、前記方法。
[22]哺乳動物における関節疼痛を治療するための方法であって:
iii)関節に、療法的に有効な量のコルチコステロイドを関節内投与し;そして続いて、
iv)関節に、療法的に有効な量の水性カプサイシノイド組成物を関節内投与する
ことを含む、前記方法。
[23]前記カプサイシノイド組成物の前に、またはそれと同時に麻酔剤を投与する、[22]におけるような方法。
[24]前記カプサイシノイド組成物を投与した後の1分の間に、関節を反復して屈曲させ、そして伸張させる、[22]におけるような方法。
[25]哺乳動物の部位へのカプサイシノイドの投与に由来する灼熱痛および刺痛を減少させるための方法であって、前記カプサイシノイド組成物の投与前に、コルチコステロイドを投与することを含む、前記方法。
[26]前記コルチコステロイドを、前記カプサイシノイド投与の少なくとも4時間前に投与する、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[27]前記カプサイシノイド組成物投与の前、投与中、および/または投与後に、前記部位にアイスパックまたは冷却パックを適用する、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[28]前記カプサイシノイド組成物を注射によって投与する、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[29]前記カプサイシノイドを浸潤によって投与する、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[30]麻酔剤をカプサイシノイドの投与前に投与する、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[31]疼痛が創傷または手術部位由来である、[21]におけるような方法。
[32]前記カプサイシノイドがトランス−カプサイシンである、[21]、[22]または25におけるような方法。
[33]トランス−カプサイシン用量レベルが0.001mg〜0.5mgの範囲である、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[34]カプサイシノイド組成物を、約0.1ml〜25mlの体積中、薬学的に許容されうるビヒクル中で投与する、[33]におけるような方法。
[35]麻酔剤を、約0.1ml〜25mlの体積中、薬学的に許容されうるビヒクル中で投与する、[30]におけるような方法。
[36]前記コルチコステロイドが、酢酸デキサメタゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾン、およびその混合物からなる群より選択される、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[37]前記カプサイシノイド組成物が、カプサイシノイド、ヒアルロン酸、および水性キャリアーを含む、[21]、[22]または[25]におけるような方法。
[38]前記麻酔剤が、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、クロロプロカイン、プリロカイン、メピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、およびキシロカイン、ならびにその混合物からなる群より選択される、[30]におけるような方法。
[39]c)少なくとも1単位用量のコルチコステロイド、
d)少なくとも1単位用量のカプサイシノイド
を含む、関節内注射によってカプサイシノイドを投与するためのキットであって
前記コルチコステロイドを前記カプサイシノイドの前に投与するように準備されている前記キット。
[40]a)およびb)の投与のための手段をさらに含む、[39]におけるようなキット。
[41]投与のための使用説明書をさらに含む、[39]におけるようなキット。
[42]少なくとも1単位用量の麻酔剤をさらに含む、[39]におけるようなキット。
[43]カプサイシノイドおよび麻酔剤が一緒に配合されている、[39]におけるようなキット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6