(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695142
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】抗精神病薬に基づく処置により誘導される錐体外路症状(EPS)の発症を予測する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20200511BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20200511BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20200511BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20200511BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20200511BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20200511BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
C12Q1/6827 ZZNA
A61P25/16
A61P25/18
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
G01N33/50 P
C12N15/09 Z
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-554151(P2015-554151)
(86)(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公表番号】特表2016-512950(P2016-512950A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014051369
(87)【国際公開番号】WO2014114734
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2017年1月17日
(31)【優先権主張番号】13382027.4
(32)【優先日】2013年1月25日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315018842
【氏名又は名称】ウニベルシタット、デ、バルセロナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT DE BARCELONA
(73)【特許権者】
【識別番号】511096673
【氏名又は名称】ホスピタル クリニク デ バルセロナ
(73)【特許権者】
【識別番号】511027275
【氏名又は名称】インスティチュート デ インベスティガシオンス バイオメディクス アウグスト ぺーアイ アイ スンジェル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT DE INVESTIGACIONS BIOMEDIQUES AUGUST PI I SUNYER
(73)【特許権者】
【識別番号】515202852
【氏名又は名称】セントロ、デ、インベスティガシオン、バイオメディカ、エン、レッド (セイベエエレ)
【氏名又は名称原語表記】CENTRO DE INVESTIGACION BIOMEDICA EN RED (CIBER)
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】セルジ、マス、エレーロ
(72)【発明者】
【氏名】パトリシア、ガッソ、アストルガ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティナ、マラゲラダ、グラウ
(72)【発明者】
【氏名】ミケル、ベルナルド、アリョヨ
(72)【発明者】
【氏名】アマリア、ラフエンテ、フロ
【審査官】
井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/144874(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/148379(WO,A1)
【文献】
特表2011−521963(JP,A)
【文献】
Journal of Surgical Oncology,2012年,Vol.105,p.167-174
【文献】
Carcinogenesis,2009年,Vol.30, No.12,p.2047-2052
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6827
A61K 45/00
A61P 25/16
A61P 25/18
A61P 43/00
C12N 15/09
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導される錐体外路症状(EPS)の発症の予測を支援する方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214(配列番号1)、rs456998(配列番号2)、rs7211818(配列番号3)およびrs1053639(配列番号4)の一塩基多型(SNP)の配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて前記対象がEPSを発症するリスクを予測することを含んでなる、方法。
【請求項2】
ハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが高いことを示し、あるいは、ハプロタイプi〜xxviiによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが低いことを示す、請求項1に記載の方法であって、ハプロタイプA〜Sが以下の通り定義されるものであり、
【表1】
上記表Iの各SNPにおいて、0は対立遺伝子1のホモ接合を、1は対立遺伝子1/対立遺伝子2のヘテロ接合を、2は対立遺伝子2のホモ接合を表し、
rs1130214(配列番号1)において、対立遺伝子1は配列番号1の27番目の塩基がGである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号1の27番目の塩基がTである遺伝子であり、
rs456998(配列番号2)において、対立遺伝子1は配列番号2の27番目の塩基がTである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号2の27番目の塩基がGである遺伝子であり、
rs7211818(配列番号3)において、対立遺伝子1は配列番号3の27番目の塩基がAである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号3の27番目の塩基がGである遺伝子であり、
rs1053639(配列番号4)において、対立遺伝子1は配列番号4の27番目の塩基がTである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号4の27番目の塩基がAである遺伝子であり、かつ、ハプロタイプi〜xxviiが以下の通り定義されるものであり、
【表2】
上記表IIの各SNPにおいて、0は対立遺伝子1のホモ接合を、1は対立遺伝子1/対立遺伝子2のヘテロ接合を、2は対立遺伝子2のホモ接合を表し、
rs1130214(配列番号1)において、対立遺伝子1は配列番号1の27番目の塩基がGである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号1の27番目の塩基がTである遺伝子であり、
rs456998(配列番号2)において、対立遺伝子1は配列番号2の27番目の塩基がTである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号2の27番目の塩基がGである遺伝子であり、
rs7211818(配列番号3)において、対立遺伝子1は配列番号3の27番目の塩基がAである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号3の27番目の塩基がGである遺伝子であり、
rs1053639(配列番号4)において、対立遺伝子1は配列番号4の27番目の塩基がTである遺伝子であり、対立遺伝子2は配列番号4の27番目の塩基がAである遺伝子である、前記方法。
【請求項3】
抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象の選択を支援するための方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214(配列番号1)、rs456998(配列番号2)、rs7211818(配列番号3)およびrs1053639(配列番号4)のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいてDRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける前記対象を選択することを含んでなる、方法。
【請求項4】
請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が試料において検出される場合に、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象として選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するために適切な抗精神病薬に基づく療法の選択を支援するための方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214(配列番号1)、rs456998(配列番号2)、rs7211818(配列番号3)およびrs1053639(配列番号4)のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて適切な抗精神病薬に基づく療法を選択することを含んでなり、前記抗精神病薬が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法および任意の抗精神病薬に基づく療法からなる群から選択される、方法。
【請求項6】
請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示し、あるいは、請求項2の表IIにおいて定義されたハプロタイプi〜xxviiによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、任意の抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
任意の抗精神病薬に基づく療法が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬、DRD2遮断効力が中程度の抗精神病薬およびDRD2遮断効力が高い抗精神病薬からなる群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法が、さらに補助的抗パーキンソン病薬を含んでなる、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗パーキンソン病薬が、抗コリン薬である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
DRD2遮断効力が低い抗精神病薬を含んでなる、抗精神病薬により処置可能な疾患の処置に用いるための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、請求項3または4に記載の方法によって選択された対象か、あるいは、該対象から単離された遺伝物質を含有する試料がrs1130214(配列番号1)、rs456998(配列番号2)、rs7211818(配列番号3)およびrs1053639(配列番号4)の一塩基多型(SNP)において請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つを示すことにより特徴づけられる対象の治療に用いるための、前記医薬組成物。
【請求項11】
さらに補助的抗パーキンソン病薬を含んでなる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記抗パーキンソン病薬が、抗コリン薬である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症の予測を支援するための、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択するためのデータを得るための、または抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するための適切な抗精神病薬に基づく療法の選択を支援するための、rs1130214(配列番号1)、rs456998(配列番号2)、rs7211818(配列番号3)およびrs1053639(配列番号4)のSNPの使用であって、請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法が前記患者の処置のために選択されることを示し、かつ、請求項2の表IIにおいて定義されたハプロタイプi〜xxviiによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、任意の抗精神病薬に基づく療法が前記患者の処置のために選択されることを示す、前記使用。
【請求項14】
請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが高いことを示し、あるいは、請求項2の表IIにおいて定義されたハプロタイプi〜xxviiによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが低いことを示し、あるいは、請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が試料において検出された場合に、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象として選択され、あるいは、請求項2の表Iにおいて定義されたハプロタイプA〜Sによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示し、あるいは、請求項2の表IIにおいて定義されたハプロタイプi〜xxviiによる対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、任意の抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示す、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗精神病薬に基づく処置により誘導される錐体外路症状(EPS)の発症を予測する方法および患者に合わせた医療を提供する方法に関する。本発明はまた、診断および予測の医療方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗精神病薬処置により発現する錐体外路症状(EPS)は、抗精神病薬の高頻度かつ重篤な急性有害反応であり、この徴候は投薬の開始から数日以内に現れ得る。EPSは、いくつかの認められた症候群、すなわち、パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニアおよびジスキネジアを含む複合表現型である。クロザピンのない時代から状況は改善されているが、EPSの問題は解決していない;例えば、大規模な有効性試験であるCATIE(統合失調症を有する患者における抗精神病薬投薬の比較有効性)において、10.5%の患者がEPS関連の理由により割り当てられた投薬を中止した。
【0003】
EPSの根底にある正確なメカニズムは明らかではないが、線条体ドーパミンD2受容体(DRD2)の遮断が主な原因と考えられている。運動活性の本質的な制御は、主要な構成要素が線条体である大脳基底核が担っている。背側線条体において、ドーパミンはドーパミンD1受容体(DRD1)またはDRD2のいずれかと相互作用することにより運動活性を調節し、2つの異なる投影経路(「直接」および「間接」経路)と、最も重要なことには、視床の反対の刺激をもたらす。このモデルによれば、ドーパミンは、直接経路の活性を増加させ、同時に間接経路を阻害することにより運動活性を促進させる。
【0004】
EPSの発症についての潜在的なリスク因子、例えば、若年、男性および精神医学的診断、特には、気分障害等、を同定するためのいくつかの研究が試みられている。薬理遺伝学マーカーも試験されている(Zhang and Malhotra, 2011, Expert Opin Drug Metab Toxicol 7:9-37)。いくつかの遺伝的バリアントがEPSの出現に大きな影響を与え得るにも関わらず(Gasso et al., 2009, Pharmacogenomics J 9:404-10; Greenbaum et al., 2009, Pharmacogenomics J 9:103-10)、いずれの単一の因子もこの現象を予測することができない。
【0005】
Almogueraら(2012, Pharmacogenomics J. doi: 10.1038/tpj.2011.57 (Epub ahead of print Jan 3 2012))には、いくつかの遺伝子における遺伝的バリアントと統合失調症を有する患者においてリスペリドンにより引き起こされる有害作用との関連が記載されている。分析された遺伝子バリアントはいずれもリスペリドンに反応するあるいは有害作用を示す患者を予測する能力に関して既に記載されている。Almogueraらにはまた、ADRB2遺伝子バリアントである16Gly、SLC6A4 L/S、SLC6A4 S/SおよびDRD3 9Glyが、リスペリドンにより処置された患者における性的有害事象、傾眠、EPSおよび体重増加の発症と相関することが開示されている。
【0006】
国際公開第2011/148379号には、パーキンソニズムおよび他の抗精神病薬誘導EPSへの耐性に関連する遺伝子型、特には、遺伝子ZFPM2におけるrs12678719のSNPおよび遺伝子RGS2におけるrs4606のSNPが記載されている。
【0007】
国際公開第2007/144874号には、抗精神病薬により誘導されるEPSへの耐性に関連する遺伝子型、特には、rs2179652、rs1933695、rs2746073、rs4606、rs1819741およびrs1152746のSNPが記載されている。さらに、この文献では、EPSの発症または悪化の素因と関連する遺伝子型が同定された。EPSと関連する遺伝子バリアントはRGS2遺伝子に存在する。
【0008】
Xuら(2007, J.Clin.Psychiatry, 68:1358-67)には、遺伝子AKT1におけるrs3803300のSNPおよび統合失調症の発症に関連する該遺伝子における5つのSNPからなるハプロタイプの同定が記載されている。しかしながら、rs3803300のSNPもハプロタイプもEPSの発症とは何ら関係を示さない。
【0009】
このように、抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症の予測を可能にする方法が当技術分野においてなお求められている。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、抗精神病薬による処置を受けている患者において錐体外路症状(EPS)の発症を予測するための信頼できる方法を提供する一塩基多型(SNP)のセット初めて同定した。例えば、本明細書の実施例1に示されるように、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の組み合わせのいくつかが、対象がEPSを発症するリスクが高いことを予測し、一方で、他の対立遺伝子の組み合わせが、対象がEPSを発症するリスクが低いことを予測する。
【0011】
したがって、第一の面において、本発明は、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導される錐体外路症状(EPS)の発症を予測する方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639の一塩基多型(SNP)の配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて前記対象がEPSを発症するリスクを予測すること
を含んでなる方法に関する。
【0012】
別の面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択する方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいてDRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択すること
を含んでなる方法に関する。
【0013】
別の側面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するために適切な抗精神病薬に基づく療法を選択する方法であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて適切な抗精神病薬に基づく療法を選択すること
を含んでなり、前記抗精神病薬が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法および任意の抗精神病薬に基づく療法からなる群から選択される方法に関する。
【0014】
別の面において、本発明は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定するのに適切な試薬を含んでなるキットであって、前記試薬が、DNAまたはRNAプローブを含んでなるキットに関する。
【0015】
別の面において、本発明は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定するのに適切な試薬を含んでなるキットの、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列に基づいて、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測するための使用に関する。
【0016】
別の面において、本発明は、対象において抗精神病薬により処置可能な疾患の処置に用いるためのDRD2遮断効力が低い抗精神病薬であって、前記対象が、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択する方法を用いて選択された、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に関する。
【0017】
別の面において、本発明は、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測するための、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択するための、または抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するための、適切な抗精神病薬に基づく療法を選択するためのrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの使用に関する。
【0018】
本発明者らは、抗精神病薬により処置を受けている患者において錐体外路症状(EPS)の発症を予測するための信頼できる方法を提供する一塩基多型(SNP)のセット初めて同定した。
【0019】
本発明者らは、9つのSNPについて抗精神病薬に基づく療法を受けている241人の精神病患者をスクリーニングする研究を行い、EPSのリスクへのそれらの寄与を検討した。本発明者らは、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの組み合わせが統計的に有意であることを見出した。この知見は、抗精神病薬で処置可能な疾患の処置におけるEPSの新たな遺伝的予測因子への道を開き、医師が対象に合わせて療法を設計するのを助ける。これらの知見に基づいて、本発明者らは、ここに詳細に記載される本発明の方法を開発した。
【0020】
誤解を避けるために、本発明の方法はヒトまたは動物体に実施する診断を含むものではない。本発明の方法は、好ましくは、対象からあらかじめ取り除いた試料に対して行われる。以下に記載される本発明のキットは、対象から試料を取り出す手段を含み得る。
【0021】
対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測する方法
第一の面において、本発明は、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測する方法(以下「
本発明の第一の方法」という)であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639の一塩基多型(SNP)の配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて前記対象がEPSを発症するリスクを予測すること
を含んでなる方法に関する。
【0022】
本明細書で用いられる「
抗精神病薬に基づく処置により誘導される錐体外路症状(EPS)の発症を予測する」との用語は、抗精神病薬に基づく処置の結果として患者がEPSを発症する見込みをいう。本発明の予測方法は、任意の特定の患者に最も適当な処置様式を選択することにより処置を決定するために臨床的に用いることができる。本発明の予測方法は、患者が抗精神病薬に基づく処置等の処置計画に良好に反応してEPSを発症する可能性がある場合に診断の有益な手段である。予測は診断因子を含み得る。
【0023】
当業者であれば理解できるであろうが、予測は、評価される対象の100%について正確であることが好ましいが、その必要はない。しかしながら、この用語は、統計的に有意な部分の対象が所定の転帰を有する可能性が高いと同定できることを要する。よく知られた種々の統計的評価手段、例えば、信頼区間の決定、p−値の決定、交差検証分類率等を用いることによる当業者によるさらなる手間をかけずに、対象が統計的に有意であるか否かを決定することができる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出すことができる。好ましい信頼区間は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%である。p−値は、好ましくは、0.01、0.005またはそれ以下である。
【0024】
本明細書で使用される「
錐体外路症状」または「
EPS」または「
錐体外路副作用(EPSE)」との用語は、抗精神病薬の摂取の結果として患う、急性ジストニア反応、偽パーキンソニズム、アカシジア(静座不能)、震え、不随意で反復的な体の動き(遅発性ジスキネジア)を含む運動制御への種々の影響をいう。EPSは通常シンプソン−アンガス評価尺度で評価される。この尺度は10項目を含む:歩行、腕落下、肩の振動、肘の硬直、手首の硬直、脚の揺れ、頭部落下、眉間反射(glabella tap)、振戦および唾液分泌。各項目は0〜4の間で評価される。全体スコアは項目を足し、10で割ることにより得られる。0.3以下のスコアが正常範囲内と考えらえる。
【0025】
「
処置」または「
療法」との用語は、処置中に、対象の状態を直接的または間接的に改善すること、または対象における状態または障害の進行を遅らせること、または疾患または障害の少なくとも1つの症状を寛解させることを目的としてヒトを含む対象に医療的支援が提供される任意のプロセス、作用、適用、療法等を含む。本明細書で用いられる「
抗精神病薬に基づく処置」または「
抗精神病薬に基づく療法」との用語は、少なくとも1つの抗精神病薬を含んでなる任意の処置または療法をいう。
【0026】
本明細書で用いられる「
抗精神病薬」または「
神経遮断薬」との用語は、主に精神病(妄想または幻覚および病的な思考を含む)に対処するのに使用される精神病薬物をいい、非精神病性障害の対処における使用も増加している。抗精神病薬は、解剖治療化学(ATC)コードN05Aを考慮して設計される。抗精神病薬は、定型すなわち第一世代の抗精神病薬および非定型すなわち第二世代の抗精神病薬の2つのグループに大別される。定型抗精神病薬は化学構造に従って分類されるが、非定型抗精神病薬は薬理学的特性に従って分類される。これらには、しばしば非定型として分類されるセロトニン−ドーパミン拮抗薬(ドーパミン拮抗薬およびセロトニン拮抗薬を参照)、多元受容体標的化抗精神病薬(MARTA、いくつかの系を標的とするもの)およびドーパミン部分作動薬が含まれる。
【0027】
近年、ドーパミン作動性受容体D2(DRD2)を遮断する効力に従って抗精神病薬を分ける、すなわち抗精神病薬をDRD2遮断効力が低い、中程度および高い抗精神病薬に分ける新しい分類系が使用されている。DRD2遮断効力が低い抗精神病薬は対象においてEPSを誘導する可能性がより低いことが当技術分野において知られているが、DRD2遮断効力が中程度および高い抗精神病薬は対象においてはEPSを誘導する可能性がより高いことが当技術分野において知られている。DRD2遮断効力が低い抗精神病薬の非限定例としては、クロザピン、ジプラシドン、クエチアピンおよびオランザピンが挙げられる。DRD2遮断効力が中程度の抗精神病薬の非限定例としては、アミスルプリド、リスペリドンおよびズクロペンチキソール(zuclopenixol)が挙げられる。DRD2遮断効力が高い抗精神病薬の非限定例としては、ハロペリドールおよびクロルプロマジンが挙げられる(Gardner et al., 2005, Can Med Assoc J 172:1703-11)。
【0028】
本明細書で用いられる「
対象」との用語は、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーならびに他の類人猿およびサル種)等の個体;トリ、魚、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ等の家畜;イヌおよびネコ等の家庭哺乳類;マウス、ラットおよびモルモット等の齧歯類を含む実験動物をいう。この用語は特定の年齢または性別を示すものではない。本発明の特定の態様において、対象は哺乳類である。本発明の好ましい態様において、対象はヒトである。本発明のより好ましい態様において、対象は、抗精神病薬により処置可能な疾患と診断されている。
【0029】
当業者に認識されているように、抗精神病薬に基づく処置は、精神病を示す障害または疾患を処置することに向けられるだけではなく、他の種類の障害または疾患を処置するのに用いることができる。よって、本発明の第一の方法の別の特定の態様において、対象は抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している。本明細書で使用される「
抗精神病薬により処置可能な疾患」は、抗精神病薬による処置中に、状態を改善することができる、進行を遅らせることができる、または、少なくとも1つの症状を寛解させることができる任意の障害または疾患をいう。抗精神病薬により処理可能な疾患の非限定例としては、統合失調症、統合失調感情障害、急性精神病性障害、妄想性障害、統合失調型パーソナリティ障害、双極性障害、強迫性障害、パーソナリティ障害、精神病性うつ病、行為障害、認知障害、悪心嘔吐およびアルツハイマー病が挙げられる。
【0030】
第一の工程において、本発明の第一の方法は、前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639の一塩基多型(SNP)の配列を決定することを含んでなる。
【0031】
本明細書で用いられる「
一塩基多型」または「
SNP」との用語は、単一のヌクレオチド(A、C、TまたはG)に起こる核酸のヌクレオチド配列の多様性であって、可能性のある各配列が集団の1%以上の割合で存在することをいう。SNPは典型的にはhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/でアクセス可能な国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベース(dbSNP)のアクセッション番号を用いて命名される。一般に、SNPは遺伝的多様性の最も一般的な形態の1つを表す。これらの多型はゲノムにおいて単一のヌクレオチドが(例えば、置換、付加または欠失を介して)変更された際に現れる。多型部位についての配列の各型は多型部位の対立遺伝子と呼ばれる。SNPは何世代にもわたって進化的に安定な傾向があり、それ自体を集団全体にわたる特異的な遺伝的異常を研究するのに使用することができる。SNPがタンパク質コード領域に生じる場合は、遺伝的疾患の発症を導き得るタンパク質のバリアント型の発現(欠損であることもある)を導くことができる。SNPは非コード領域で生じることもあるが、そのような場合であっても特異なまたは欠陥のあるスプライシングやタンパク質発現レベルの変更という結果となり得る。それゆえSNPは遺伝的疾患の有効な指標として機能することができる。SNPはまた、疾患または疾患の早い進行の素因を有する個体の同定、該疾患に罹患している個体の遺伝子型決定、および発病プロセスにおける標的タンパク質の役割に関して明らかにされた見識に基づく薬剤開発の促進のための診断および/または予後手段として使用することができる。SNPについての配列の各型はSNPの対立遺伝子と呼ばれる。
【0032】
本明細書で用いられる「
対立遺伝子」との用語は、遺伝子、座位または遺伝的多型の2またはそれ以上の形態の1つに関する。異なる対立遺伝子が異なる形質をもたらすことがある;しかしながら、異なる対立遺伝子が同じ遺伝子の発現をもたらすこともあろう。大部分の多細胞生物は2セットの染色体を有する、すなわち、2倍体である。これらの染色体は相同染色体と呼ばれる。2倍体生物は各染色体上の各遺伝子(1つの対立遺伝子)の1コピーを有する。双方の対立遺伝子が同一である場合それらはホモ接合体である。双方の対立遺伝子が異なる場合それらはヘテロ接合体である。
【0033】
本明細書で用いられる「
試料」または「
生体試料」との用語は、対象から単離された生体材料をいう。生体試料は所望のSNPを検出するのに適切な任意の生体材料を含有し、対象の細胞および/または非細胞の材料を含むことができる。本発明において、試料は、研究中の対象由来の遺伝物質、例えば、DNA、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、RNA、ヘテロ核RNA(hnRNA)、mRNA等を含んでなる。試料は任意の適切な組織または体液(例えば、血液、唾液、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)、便、頬または頬咽頭の拭き取り検体(swab)、外科標本および生検から得られた標本等)から単離することができる。細胞または組織試料を単離する方法は当業者によく知られている。特定の態様において、試料は血液、尿、唾液、血清、血漿、頬または頬咽頭の拭き取り検体、毛髪、外科標本および生検から得られた標本からなる群から選択される。好ましい態様において、試料は血液、毛髪、尿および唾液から選択される。
【0034】
「
SNPの配列を決定する」または「
SNPを検出する」との用語は、本発明において区別せずに使用され、研究中の対象の双方の対立遺伝子における特定のSNPの配列の決定をいう。SNPの配列の決定は当業者に知られる多様なプロセスにより行うことができる。
【0035】
いくつかの態様において、例えば、SNPの配列の決定が全血由来の試料において行われる際には、これが前記SNPの検出に直接使用され得る。他の態様において、第一段階として、核酸が体液(例えば、全血、唾液、滑液等)に存在する細胞から抽出され、このような場合において、前記試料から抽出された全核酸は、続く増幅に適切な作業物質となろう。試料の核酸の単離は、当業者に知られる方法により行うことができる。前記方法としては、例えば、Sambrook et al., 2001. “Molecular cloning: a Laboratory Manual”, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., Vol. 1-3に見出すことができる。さらに、上述のように、いくつかの態様において、試料からの分析のための核酸の作出は核酸の増幅を必要とする。多くの増幅法は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)等の酵素連鎖反応または自己保持配列複製、ローリングサークル増幅アッセイ等を用いる;この列挙は例示に過ぎず、限定されるものではない。核酸を増幅する方法はSambrook et al., 2001(上述)に記載される。
【0036】
核酸の単離および(必要であれば)増幅後、本発明の異なるSNPの配列が検出される。患者の核酸における本明細に開示される1またはいくつかのSNPまたは多型に存在するヌクレオチドの分析が、SNPまたは多型に存在するヌクレオチドを決定することができる任意の方法または技術により行うことができることは当業者に容易に認識されよう。例えば、配列決定、ミニ配列決定、ハイブリダイゼーション、制限酵素断片分析、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ、対立遺伝子特異的PCRまたはこれらの組み合わせを実施することにより、本発明の第一の方法においてSNPを検出し得る。したがって、一般的なSNPの検出のための系および方法としては、限定されるものではないが、核酸配列決定、ハイブリダイゼーション法およびアレイ技術(例えば、Aclara BioSciences、Affymetrix、Agilent Technologies、Illumina Inc.等から入手可能な技術)を含む;増幅された核酸断片における移動度シフト、1本鎖DNA高次構造多型(SSCP)、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)、化学的ミスマッチ切断(CMC)、制限酵素断片長多型(RFLP)およびWAVE分析等に基づく技術も使用することができる(Methods Mol. Med. 2004; 108: 173-88)。当然、この列挙は例示に過ぎず、限定されるものではない。当業者であればこのような検出を達成する任意の適当な方法を使用することができる。当技術分野において明らかように、前記SNPの配列はいずれか一方の核酸鎖あるいは両鎖から決定することができる。本発明において、前記SNPの配列は両鎖から決定される。
【0037】
別の特定の態様において、前記SNPの配列の決定はリアルタイムPCRにより行われる。
【0038】
本発明で使用されるSNPは以下に同定される:
−rs1130214はAKT1遺伝子に位置し、配列番号1;
【化1】
に対応し、
−rs456998はFCHSD1遺伝子に位置し、配列番号2;
【化2】
に対応し、
−rs7211818はRPTOR遺伝子に位置し、配列番号3;
【化3】
に対応し、および
−rs1053639はDDIT4遺伝子に位置し、配列番号4;
【化4】
に対応する。
【0039】
第二の工程において、本発明の第一の方法は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列に基づいて前記対象がEPSを発症するリスクを予測することを含んでなる。
【0040】
これに関連して、本発明によれば、組み合わせて対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測することと有意に関連するいくつかの特異的なSNPのみならず、表1および2に記載されるようなEPSを発症する高いおよび低いリスクに対応する前記SNPの対立遺伝子の組み合わせが提供される。よって、特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが高いことを示す。別の特定の態様において、表2による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、対象がEPSを発症するリスクが低いことを示す。
【0041】
【表1】
各SNPについて:0=対立遺伝子1のホモ接合;1=対立遺伝子1/対立遺伝子2のヘテロ接合;2=対立遺伝子2のホモ接合
rs1130214: −対立遺伝子1=G;対立遺伝子2=T;
−遺伝子型0=GG;遺伝子型1=GT;遺伝子型2=TT
rs456998: −対立遺伝子1=T;対立遺伝子2=G;
−遺伝子型0=TT;遺伝子型1=GT;遺伝子型2=GG
rs7211818: −対立遺伝子1=A;対立遺伝子2=G;
−遺伝子型0=AA;遺伝子型1=AG;遺伝子型2=GG
rs1053639: −対立遺伝子1=T;対立遺伝子2=A;
−遺伝子型0=TT;遺伝子型1=AT;遺伝子型2=AA
【0042】
【表2】
各SNPについて:0=対立遺伝子1のホモ接合;1=対立遺伝子1/対立遺伝子2のヘテロ接合;2=対立遺伝子2のホモ接合
rs1130214: −対立遺伝子1=G;対立遺伝子2=T;
−遺伝子型0=GG;遺伝子型1=GT;遺伝子型2=TT
rs456998: −対立遺伝子1=T;対立遺伝子2=G;
−遺伝子型0=TT;遺伝子型1=GT;遺伝子型2=GG
rs7211818: −対立遺伝子1=A;対立遺伝子2=G;
−遺伝子型0=AA;遺伝子型1=AG;遺伝子型2=GG
rs1053639: −対立遺伝子1=T;対立遺伝子2=A;
−遺伝子型0=TT;遺伝子型1=AT;遺伝子型2=AA
【0043】
本明細書で用いられる「
EPSを発症するリスク」との用語は、抗精神病薬に基づく療法により処置されている対象がEPSを発症する素因、罹患性または見込みをいう。EPSを発症するリスクとは一般的には高いまたは低いリスクがあることを意味する。この点において、EPSを発症するリスクが高い、抗精神病薬に基づく療法により処置されている対象は、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つを示す対象である。よって、EPSを発症するリスクが高い対象は、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%、または少なくとも100%のEPSを発症する可能性を有する。同様に、EPSを発症するリスクが低い、抗精神病薬に基づく療法により処置されている対象は、表2による対立遺伝子の組み合わせの1つを示す対象である。よって、EPSを発症するリスクが低い対象は、少なくとも0%、または少なくとも1%、または少なくとも2%、または少なくとも3%、または少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも49%のEPSを発症する可能性を有する。
【0044】
一般に、「
リスクを予測する」、「
リスクの予測」または類似の表現は、抗精神病薬に基づく療法により処置されている対象のEPSを発症する高いまたは低いリスクに関する。当業者であれば理解できるであろうが、予測(またはリスク)は、評価される対象の100%について正確であることが好ましいが、その必要はない。しかしながら、この用語は、統計的に有意な部分の対象がEPSを発症する可能性が高いと同定できることを要する。よく知られた種々の統計的評価手段、例えば、信頼区間の決定、p−値の決定、ステューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を用いることによる当業者によるさらなる手間をかけずに対象が統計的に有意であるか否かを決定することができる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出すことができる。好ましい信頼区間は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p−値は、好ましくは、0.1、0.05、0.02、0.01またはそれ以下である。
【0045】
抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択する方法
rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの予測値はさらに、抗精神病薬により誘導されるEPSを発症するリスクが高い患者であって、EPSを誘導する可能性が低い療法、すなわち、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける患者の選択を実現できることが当業者に理解されよう。よって、別の面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択する方法(以下「
本発明の第二の方法」という)であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいてDRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける前記対象を選択すること
を含んでなる方法に関する。
【0046】
「
対象」、「
抗精神病薬」、「
抗精神病薬により処置可能な疾患」、「
DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法」、「
SNP」、「
rs1130214」、「
rs456998」、「
rs7211818」、「
rs1053639」および「
遺伝物質を含んでなる試料」との用語ならびにこれらの詳細については、本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明による第二の方法に関しても同義に用いられる。
【0047】
第一の工程において、本発明の第二の方法は、前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定することを含んでなる。SNPの配列を決定することの詳細のみならず検出すべきSNPの詳細についても本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明による第二の方法に関しても同義で適用される。
【0048】
第二の工程において、本発明の第二の方法は、前記SNPの配列に基づいてDRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける前記対象を選択することを含んでなる。
【0049】
本発明の第二の方法の特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が試料において検出される場合に、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象として選択される。好ましい態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬は、クロザピン、ジプラシドン、クエチアピンおよびオランザピンからなる群から選択される。
【0050】
別の特定の態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法は補助的抗パーキンソン病薬をさらに含んでなる。本明細書で用いられる「補助的(adjuvant)」または「補助療法」との用語は、通常は抗精神病薬がEPSを誘導する可能性を低減するために付加的処置として与えられる抗精神病薬により処置可能な疾患の任意の型の処置をいう。このような補助処置の目的は、療法を受ける対象がEPSを発症するリスクを改善することである。
【0051】
本明細書で用いられる「
抗パーキンソン病薬」は、パーキンソン病(PD)またはパーキンソニズムの症状を処置および緩和することを意図する薬剤の種類をいう。これらの薬剤の大部分は中枢神経系においてドーパミン活性を増加させるか、アセチルコリン活性を低減させることのいずれかにより作用する。抗パーキンソン病薬の例としては、ドーパミン作動性前駆体、選択的モノアミン酸化酵素B阻害剤、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、ドーパミン受容体作動薬および抗コリン薬が挙げられる。好ましい態様において、抗パーキンソン病薬は抗コリン薬である。本明細書に用いられる「
抗コリン薬」との用語は、神経細胞において神経伝達物質であるアセチルコリンがその受容体へ結合することを選択的に遮断することにより副交感神経の神経インパルスを阻害する薬剤群をいう。副交感神経系の神経線維は、胃腸管、尿路、肺等に存在する平滑筋の不随意運動に関与している。抗コリン薬は、影響を受ける受容体に従って、ムスカリン性アセチルコリン受容体に作動する抗ムスカリン作用薬およびニコチン性アセチルコリン受容体に作動する抗ニコチン作用薬に分類される。抗コリン薬の例としては、限定されるものではないが、ベンズトロピン、イプラトロピウム、オキシトロピウム、チオトロピウム、グリコピロレート、オキシブチニン、トルテロジン、クロロフェナミン、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、ブプロピオン、ヘキサメトニウム、ツボクラリン、デキストロメトルファン、メカミラミンおよびドキサクリウムが挙げられる。
【0052】
抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するために適切な抗精神病薬に基づく療法を選択する方法
本発明はまた、処置すべき対象に存在するrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の組み合わせに従って個別療法を選択することについても検討する。
【0053】
よって、別の面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するために適切な抗精神病薬に基づく療法を選択する方法(以下「
本発明の第三の方法」という)であって、
i)前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定すること、および
ii)前記SNPの配列に基づいて適切な抗精神病薬に基づく療法を選択すること
を含んでなり、前記抗精神病薬が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法および任意の抗精神病薬に基づく療法からなる群から選択される方法に関する。
【0054】
「
対象」、「
抗精神病薬」、「
抗精神病薬に基づく療法」、「
抗精神病薬により処置可能な疾患」、「
DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法」、「
SNP」、「
rs1130214」、「
rs456998」、「
rs7211818」、「
rs1053639」および「
遺伝物質を含んでなる試料」との用語ならびにこれらの詳細については、本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明による第三の方法に関しても同義に用いられる。
【0055】
第一の工程において、本発明の第三の方法は、前記対象由来の遺伝物質を含んでなる試料において、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定することを含んでなる。SNPの配列を決定することの詳細のみならず検出すべきSNPの詳細についても本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明による第三の方法に関しても同義で適用される。
【0056】
第二の工程において、本発明の第三の方法は、前記SNPの配列に基づいて適切な抗精神病薬に基づく療法を選択することを含んでなり、前記抗精神病薬は、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法および任意の抗精神病薬に基づく療法からなる群から選択される。
【0057】
特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示し、表2による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が、任意の抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択される対象であることを示す。
【0058】
好ましい態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬は、クロザピン、ジプラシドン、クエチアピンおよびオランザピンからなる群から選択される。
【0059】
別の好ましい態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法は補助的抗パーキンソン病薬をさらに含んでなる。より好ましい態様において、補助的抗パーキンソン病薬は抗コリン薬である。「補助的」および「補助的抗パーキンソン病薬」との用語ならびにこれらの詳細については、本発明の第二の方法に関して詳細に記載されており、本発明による第三の方法に関しても同義に用いられる。
【0060】
本明細書で用いられる「
任意の抗精神病薬に基づく療法」との用語は、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬、DRD2遮断効力が中程度の抗精神病薬およびDRD2遮断効力が高い抗精神病薬からなる群から区別なく選択される抗精神病薬に基づく療法をいう。よって、好ましい態様において、任意の抗精神病薬に基づく療法は、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬、DRD2遮断効力が中程度の抗精神病薬およびDRD2遮断効力が高い抗精神病薬からなる群から選択される。より好ましい態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬はクロザピン、ジプラシドン、クエチアピンおよびオランザピンからなる群から選択される。別のより好ましい態様において、DRD2遮断効力が中程度の抗精神病薬はアミスルプリド、リスペリドンおよびズクロペンチキソールからなる群から選択される。別のより好ましい態様において、DRD2遮断効力が高い抗精神病薬はハロペリドールおよびクロルプロマジンからなる群から選択される。
【0061】
本発明のキット
本発明はまた本発明に従って用いるためのキットの製造も検討する。
【0062】
よって、別の面において、本発明は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列を決定するのに適切な試薬を含んでなるキットであって、該キットの試薬がDNAまたはRNAプローブを含んでなるキット(以下「
本発明のキット」という)に関する。
【0063】
適切なキットは、チューブ、バイアルならびに収縮包装およびブロー成形されたパッケージを含む適切な容器および包装材料における、本発明に従って用いるための種々の試薬を含む。加えて、本発明のキットは、キット中の異なる要素の同時、逐次または個別使用のための説明書を含むことができる。前記説明書は、印刷物の形態とすることもできるし、電子記録媒体(磁気ディスク、テープ等)、光媒体(CD−ROM、DVD)等の、対象が読めるように説明書を記憶することができる電子保持体の形態であってもよい。追加としてまたは代わりに、媒体は前記説明書を提供するインターネットアドレスを含むことができる。
【0064】
本発明に従う例示的キットに含まれるのに適切な材料は、以下:rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPに隣接するDNAまたはcDNA配列ドメインにアニールする遺伝子特異的PCRプライマー対(オリゴヌクレオチド);PCRの実施を必要とすることなく、ゲノムDNAまたはcDNAのいずれかにおける特異的配列ドメインを増幅することができる試薬;PCRまたは非PCR増幅により増幅された配列ドメインにおける可能性のある種々の対立遺伝子を区別するのに必要な試薬(例えば、制限エンドヌクレアーゼ、多型の対立遺伝子の1つに優先的にアニールするオリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチドからのシグナルを増幅し、より安定に対立遺伝子を区別する酵素または蛍光化学基を含有するように修飾されるものを含む));または種々の対立遺伝子に由来する生成物を物理的に分離するのに必要な試薬(例えば、アガロースもしくはポリアクリルアミドおよび電子泳動に使用するための緩衝液、HPLCカラム、SSCPゲル、ホルムアミドゲルまたはMALDI−TOFのためのマトリックス支持体)の1または複数を含んでなる。
【0065】
2またはそれ以上の対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド対を含んでなるキットであって、各対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド対がそれぞれrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの1つに向けられるキットについて特に検討する。ここで「
に向けられる」との用語は、SNPに存在する対立遺伝子を同定することができるオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド対を意味することは理解されよう。例として、本発明は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPを調べる複数のオリゴヌクレオチドプローブを含んでなるプローブセットを含んでなるキットであって、前記オリゴヌクレオチドプローブが、プローブセット中のオリゴヌクレオチドプローブの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%を構成するキットを検討する。
【0066】
特定の態様において、該キットは、少なくとも4つのオリゴヌクレオチドプローブのセットを含み、各オリゴヌクレオチドプローブはrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の1つに特異的であり、前記オリゴヌクレオチドプローブは、プローブセット中のオリゴヌクレオチドプローブの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%を構成する。好ましい態様において、該キットは、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の1つにそれぞれ特異的である4つのオリゴヌクレオチドプローブのセットを含む。
【0067】
特定の態様において、該キットは、少なくとも4つのオリゴヌクレオチド対プローブのセットを含み、各オリゴヌクレオチド対プローブはrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の1つに特異的であり、前記オリゴヌクレオチド対プローブは、プローブセット中のオリゴヌクレオチドプローブの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%を構成する。好ましい態様において、該キットは、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの対立遺伝子の1つにそれぞれ特異的である4つのオリゴヌクレオチド対プローブのセットを含む。
【0068】
別の面において、本発明は、rs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの配列に基づいて、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測するための、本発明によるキットの使用に関する。本発明によるキットの詳細は本発明のキットに関して詳細に記載されており、前記キットの使用に関しても同義で適用される。
【0069】
本発明の個別療法
上に定義された第二の方法は、また、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している患者への個別療法の提供を可能にする。特には、EPSを発症する高いリスクを有すると考えらえる患者は、EPSを誘導する可能性がより低いことが知られている抗精神病薬に基づく療法からおそらく最も利益を受けるであろう。反対に、EPSを発症するリスクが低いことを示す患者は任意の抗精神病薬に基づく療法で処置され得る。
【0070】
このように、別の面において、本発明は、対象において抗精神病薬で処置可能な疾患の処置に用いるための、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬(以下「
本発明の個別療法」という)であって、前記対象が本発明の第二の方法に従って選択される抗精神病薬に関する。
【0071】
本発明の第二の方法の詳細は、本発明の第二の方法に関して詳細に記載されており、本発明による個別療法に関しても同義で適用される。
【0072】
「
対象」、「
抗精神病薬」、「
処置」、「
抗精神病薬により処置可能な疾患」および「
DRD2遮断効力が低い抗精神病薬」との用語ならびにこれらの詳細については、本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明による個別療法に関しても同義に用いられる。
【0073】
特定の態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬は、クロザピン、ジプラシドン、クエチアピンおよびオランザピンからなる群から選択される。
【0074】
別の特定の態様において、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法は補助的抗パーキンソン病薬をさらに含んでなる。より好ましい態様において、補助的抗パーキンソン病薬は抗コリン薬である。「
補助的」および「
補助的抗パーキンソン病薬」との用語ならびにこれらの詳細については、本発明の第二の方法に関して詳細に記載されており、本発明の個別療法に関しても同義に用いられる。
【0075】
本発明の使用
別の面において、本発明は、対象において抗精神病薬に基づく処置により誘導されるEPSの発症を予測するためのrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの使用(以下「
本発明の第一の使用」という)に関する。
【0076】
本発明の第一の使用の特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在は、対象がEPSを発症するリスクが高いことを示す。
【0077】
本発明の第一の使用の別の特定の態様において、表2による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在は、対象がEPSを発症するリスクが低いことを示す。
【0078】
別の面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象であって、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象を選択するためのrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの使用(以下「
本発明の第二の使用」という)に関する。
【0079】
本発明の第二の使用の特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在が試料において検出された場合に、DRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受ける対象として選択される。
【0080】
別の面において、本発明は、抗精神病薬により処置可能な疾患に罹患している対象を処置するための適切な抗精神病薬に基づく療法を選択するためのrs1130214、rs456998、rs7211818およびrs1053639のSNPの使用(以下「
本発明の第三の使用」という)に関する。
【0081】
本発明の第三の使用の特定の態様において、表1による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在は、対象がDRD2遮断効力が低い抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択されることを示す。
【0082】
本発明の第一の使用の別の特定の態様において、表2による対立遺伝子の組み合わせの1つの存在は、対象が任意の抗精神病薬に基づく療法を受けるものとして選択されることを示す。
【0083】
本発明の第一、第二および第三の方法の用語および詳細については本発明の方法に関して詳細に記載されており、本発明による使用に関しても同義に用いられる。
【0084】
本発明について、単に例示とする以下の実施例を用いて本発明の範囲を限定することなく以下に詳説する。
【実施例】
【0085】
材料および方法
対象
有意性の5%レベル、80%パワーおよび2倍のEPSリスク(オッズ比)を前提とするサンプルサイズ計算は、検討する対立遺伝子の担持と関連した(対立遺伝子頻度>0.1)。計算はQuanto1.2 software(http://hydra.usc.edu/gxe)を用いて行った。
【0086】
抗精神病薬療法を受ける321名の精神科入院患者のコホートは、ホスピタルクリニック(バルセロナ、スペイン)の精神科において3年の期間(2002−2004)にわたり継続的に採用された。このコホートの241名の対象がここに示されるEPSの遺伝薬理学的研究に参加した。対象はDSM−IV基準に従って診断された:184名の対象が統合失調症(n=125)および関連する障害(n=22 統合失調感情障害;n=27 急性精神病性障害;n=9 妄想性パラノイド障害;n=1 統合失調型障害)と診断された;40名は双極性障害を有すると診断された;および17名は他の診断結果(パーソナリティ障害、精神病性うつ病、行動障害、軽度認知障害および強迫性障害を含む)を有した。抗精神病薬投薬により誘導される急性EPSはシンプソン−アンガス尺度48を用いて評価した。入院期間および/または運動障害の病歴の間にEPSを示した(シンプソン−アンガス>3)69名の患者は症例と考えられた。検討の際または以前にEPSを示さなかった(シンプソン−アンガス≦3)172名の患者は対照とした。これらの集団の全記述は以前の研究に見出すことができる(Gasso et al., 2009, cited supra; Mas et al., 2012, Pharmacogenomics J 12:255-9)。同意書および全血試料は各対象から得た。本研究はホスピタルクリニックの倫理委員会により承認されたものである。
【0087】
予測構築および予測因子評価のための独立したデータセットを得るために、データセットは訓練集団と検証集団に分けた。この目的のために、分割は抗精神病薬処置に従って行った:リスペリドンで処置した患者のコホート(n=114、39症例および75対照)(コホート1)はデータを訓練し、最良の予測因子を試験するのに使用した;リスペリドンとは異なる他の抗精神病薬(ハロペリドール n=27;クロザピン n=24;アミスルプリド n=3;オランザピン n=34;ズクロペンチキソール n=6;ジプラシドン n=10;クエチアピン n=22)で処置した残りの患者による第二のコホート(n=127、30症例および97対照)(コホート2)は予測因子を検証するのに使用した。最終工程として、本発明者らは、コホート3と呼ばれる全コホート(n=241)(コホート1+コホート3)において予測因子を試験した。
【0088】
SNP選択および遺伝子型決定
以下の方法に従って、mTOR経路遺伝子の制御に関与している異なる9つの遺伝子のSNPを選択した;第一に、精神障害に関連する遺伝子におけるSNPを見つけるために、数種のデータベース(PubMed、Ensembl、Genetic Association Database、SZGene、PDGene、AlzGene、MSGene)を用いて文献調査を行った;第二に、SNPが見つからなかった場合は、他の疾患に関連するSNPを探した。というのもこの関連がタンパク質における機能変化を意味することもあるからである;第三に、いくつかの遺伝子について、前工程でSNPを選択できなかった場合は、PupaSuitデータベースを用いて検索を行い、予測された機能性を有するSNPを検出した;最後に、該SNPのタイプ(同義をコードする、非同義をコードする、イントロン、mRNA utr)および頻度をNCBIのSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp)で確認した。10%より低い頻度は排除する。選択されたSNPを表3に特定する。
【0089】
アプライドバイオシステムズより入手したTaqMan対立遺伝子識別プレデザインアッセイ(TaqMan−SNP遺伝子型決定アッセイ;rs7874234を検出するためのプローブC_32127211_20、rs13335638を検出するためのプローブC_3282533_10、rs2024627を検出するためのプローブC_11647371_10、rs1130214を検出するためのプローブC_26352825_10、rs456998を検出するためのプローブC_31167105_10、rs1801582を検出するためのプローブC_8701299_10、rs3737597を検出するためのプローブC_2747617_30、rs7211818を検出するためのプローブC_1971465_10、rs1053639を検出するためのプローブC_9596692_10)によるリアルタイムPCRにより、製造業者のガイドラインに従って(アプライドバイオシステムズ、フォスターシティ、カリフォルニア)、多型(表3)を検出した。
【0090】
【表3】
【0091】
統計
EPSのリスクに対する各SNPの独立した寄与を評価するために、SNPassoc Rパッケージを用いてロジスティック回帰分析に基づく多変数方法により遺伝子型頻度を評価した。また、症例および対照の両集団においてハーディ・ワインベルグ平衡からの任意の逸脱に関してSNPデータを確認した。次に、オープンソースのMDRプロジェクト (www.epistasis.org/software.html)で入手可能なMDR2.0ソフトウェアを用いて、他の部分に記載されるような多因子次元削減(MDR)により遺伝子−遺伝子相互作用を分析した。第一に、コホート1を用いて、徹底的な調査における10倍交差検証を使用して可能なすべての2〜4座位の相互作用を試験することにより可能なすべてのSNPの組み合わせを構築した(試料はデータを訓練する9つの部分と試験する1つの部分を用いて10の部分に分けた。プロセスを10回繰り返し、各回で試験するための異なる部分を用いた。)。転帰パラメーターとして、本発明者らは、交差検証の一致性(cross-validation consistency)(10倍交差検証の間に計算に適用された最も良好なモデルに基づいて選択された多様性の同定の一致性を測定する)、試験均衡正確度(testing balanced accuracy)(相互作用が正確に症例−対照状態を予測する程度を測定するものであって、10倍交差検証において行われた試験の平均である(ラベル1は該モデルによる良好な予測を示す;ラベル0.5は該モデルが対照から症例を選択する可能性に過ぎないことを示す))および統計的有意性(最も良好なモデルのp−値はMDR並べ替え試験モジュール1.0を用いる10,000の並べ替えによる多重試験について補正した)を検討した。第二に、得られた最も良好なモデルにより新たな多座位特性を作り出した。これが上記の最も良好な転帰パラメーターを有するモデルである。新たな特性を構築および再分析して、コホート1全データセットにおいて統計値を計算し、オッズ比およびその信頼区間、p−値、感度(TP/TP+FN、EPS症例を正確に予測する能力を測定する)、特異度(TN/TN+FP、非EPS対象を正確に却下する能力を測定する)、正確度(TP+TN/TP+TN+FP+FN、EPSおよび非EPS患者を正確に予測する能力を測定する)ならびに精度(TP/TP+FP、EPS症例を正しく予測する能力を測定する)を得た。第三に、構築された特性をコホート2およびコホート3で検証し、コホート1全データセットについてと同様の統計値;オッズ比およびその信頼区間、p−値、感度、特異度、正確度ならびに精度を得た。
【0092】
結果
コホート1において試験した際には、検討した9つのSNPはいずれも単独ではEPSのリスクに有意に寄与しなかった。表3に症例および対照における対立遺伝子の頻度、性別および年齢により調整したロジスティック回帰分析ならびにハーディ・ワインベルグ平衡に関するp−値を要約する。
【0093】
徹底的なMDR分析の結果を表4に示す。rs1130214(AKT1)、rs456998(FCHSD1)、rs7211818(Raptor)およびrs1053639(DDIT4)バリアントを含む4元モデルが最も良好な総合的性能(試験正確度0.660)および10/10の交差検証の一致性(並び替え検定 p<0.0001)を有した。
【0094】
【表4】
【0095】
同定された4つのSNPに起因する多座位を構築し、コホート1の全データセットにおいて試験した。2種の特性、すなわち、素因(表1)および非素因(表2)を同定した。素因特性の保因者(症例の78.9%と対照の11.8%)は該特性を有しない者と比較して27倍EPSに罹患しやすかった(OR 27.91;95% CI 9.81−79.39;p−値<0.0001)。構築された素因の遺伝的特性は、EPSを有する症例39名中30名(76.9%感度)およびEPSを有しない対照75名中67名(89.3%特異度)を含む114名の患者中97名(85.1%正確度)を正確に予測した。この特性は38の症例、30の真陽性および8の偽陽性(78.9%精度)を予測した(表5)。
【0096】
【表5】
【0097】
データを訓練するのに使用した同じ集団において予測因子を試験することは楽観的過ぎるため、本発明者らはコホート2を使用して独立に構築された特性を検証した。コホート2の全データにおいて特性を試験すると正確度は73.23%に低下した。コホート2は異なるタイプの抗精神病薬により処置された患者により形成されたものであるから(リスペリドンにより処置された患者のみを含むコホート1とは対照的に)、このばらつきの原因となる新たな変数がモデルに含まれた。抗精神病薬はDRD2を遮断するそれらの能力に従って分類された。この新しい変数(抗精神病薬効力)がコホート1で同定された素因の遺伝的特性に加えられると、コホート2の正確度が80.36%に上昇した(127名中109名の患者が正確に予測された)(表5);新たな素因特性の保因者(症例の70.0%と対照の9.27%)は該特性を有しない者と比較して22倍EPSに罹患しやすかった(OR 22.81;95% CI 8.06−64.50;p−値<0.0001)。
【0098】
4つのSNP(コホート1で同定された)と抗精神病薬効力(コホート2での分析に含まれる)を含む新たな予測因子はコホート3(コホート1およびコホート3)で検証した。素因特性の保因者(症例の85.5%と対照の16.3%)は該特性を有しない者と比較して30倍EPSに罹患しやすかった(OR 30.24;95% CI 13.86−66.39;p−値<0.0001)。表3において認められるように、正確度 (241名中203名の症例が正確に予測された)、感度(EPSを有する症例69名中59名が正確に予測された)および特異度(172名中EPSを有しない対照149名が正確に予測された)について同様の値がコホート3で得られた。精度はコホート1に対しコホート3で低下した(78.95%から67.82%)。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]