特許第6695171号(P6695171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695171
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】点眼容器モニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20200511BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20200511BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   A61F9/007 170
   A61B3/10 100
   A61J1/05 313C
   A61J1/05 313H
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-42276(P2016-42276)
(22)【出願日】2016年3月4日
(65)【公開番号】特開2017-153873(P2017-153873A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田淵 仁志
(72)【発明者】
【氏名】仁平 馨
(72)【発明者】
【氏名】竹内 楽
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−528793(JP,A)
【文献】 特表2013−501553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/00
A61J 1/05
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点眼容器の動作を検知する点眼動作検知手段検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析手段を有し、
前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、
前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリングシステム。
【請求項2】
点眼容器を用いた点眼をモニタリングする点眼容器モニタリングシステムであって、
点眼動作情報を発信する発信手段と、
前記発信手段から発信された点眼動作情報を記録する点眼動作記録手段と、
前記点眼動作記録手段に記録された前記点眼動作情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された点眼動作情報と、入力された患者の眼情報と、患者の日毎または月毎の点眼の回数のデータをもとに患者の点眼動作状況を解析する解析手段と
を有し、
前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、
前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリングシステム。
【請求項3】
点眼容器の動作を検知する点眼動作検知ステップと、
前記点眼動作検知ステップで検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析ステップと
を有し、
前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、
前記解析ステップでは、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、
前記解析ステップでは、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、
前記解析ステップは、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリング方法。
【請求項4】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータを点眼容器の動作を検知する点眼動作検知手段が検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析手段として動作させ、
前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、
前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、
前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリング用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば緑内障患者の眼球内圧力を低下させる点眼剤を患者が処方するための点眼容器をモニタリングする点眼容器モニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、緑内障患者へ、例えば眼内圧を低下させるための点眼剤等が処方されている。眼科疾患の治療において点眼薬は非常に重要であり、適切な利用を前提として多くの点眼薬が処方される。
【0003】
しかしながら、近年では自己判断にて点眼を中止するなどで生じた「残薬」の廃棄処分により、非常に大きな経済損失が生じている点が指摘されている。残薬の発生を回避するものとして、点眼指導などが薬剤師などにより行われているが、すべての患者に対して有効な手段とは言えない状況にある。そもそも、点眼薬の使用量には、年齢、性別、疾患重症度、理解度などの個人に依存するものと、粘ちょう度、比重や点眼瓶構造などの薬液の差に依存するものと、さらに同時に点眼する本数などの様々なパラメータが関与する。そのため、その使用状況の確認は、適切に用いられているかどうかについてだけではなく、点眼が実施されているかですら把握できていないのが現状である。実際に処方される点眼薬の内およそ2/3は残薬として廃棄されると推測されており、その経済損失は数千億円ないし数兆円に上ると推測される。
【0004】
そのような状況下において、現状では、緑内障患者に対し処方された点眼薬の効果が明確に表れていない。これは、その処方された点眼剤が緑内障患者の疾患に対し全く効果がなかったのか、または、緑内障患者がその点眼剤を適切に使用していないのか、あるいは点眼していないのではないか、原因が特定できないからである。そのため、緑内障が悪化した原因が特定できず、かつ薬の効果が認められない場合、やむを得ず、手術に踏み切る必要がある。
【0005】
特許文献1には、点眼剤(眼科用ディスペンサー)に動作検出センサーや圧力センサーを取り付け、点眼容器の動作を検出し、点眼量を記録し、家族や医師のコンピュータ又は携帯通信装置にデータを送信するモジュールを備えた点眼薬のポータブル管理及びモニタリングシステムが開示されている(特許文献1の請求項1、公報第2欄第33行〜同欄第51行、第4欄第15行〜同欄第55行、第5欄第16行〜同欄第61行、第6欄第7行〜同欄第24行、図2図5〜7)。
【0006】
また、特許文献2には、点眼剤(眼科用ディスペンサー)に加速度計および/またはGPSなどの追加のセンサーを含めて眼科医薬品分配の位置およびタイミングを追跡する技術が記載されている(特許文献2の行番号0017、0057、0074)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US8998861号公報
【特許文献2】特表2014−528793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1では、点眼の動作を検出する動作検出センサー、圧力センサー、滴下量検出センサー等を備え、点眼剤の動作、点眼量等を検出し、点眼剤が使用されているかどうかを検出し、点眼剤の使用を促すモニタリングシステムに関するものであり、例えば緑内障患者の眼圧、視野または眼底疾患部の疾患進行状況と点眼剤の点眼状況との関係を分析し、点眼剤を変えるべきか、あるいは眼底疾患部を手術すべきかどうかを判断させるデータを提供することはできない。また、特許文献2に書かれたように、眼科医薬品分配の位置およびタイミングを追跡するだけでは、緑内障患者の点眼状況を分析することができない。
【0009】
そこで、本発明では、点眼動作検知手段により点眼容器の動作を検知すると共に、患者の眼圧、視野等の状況または眼底疾患部の疾患状況を検査し、例えば緑内障患者の眼圧、視野または眼底疾患部の疾患進行状況と点眼剤の点眼状況との関係を分析し、点眼剤を変えるべきか、あるいは眼底疾患部を手術すべきかどうかを判断させるデータを提供することを目的とする。
【0010】
また、患者の、点眼治療の重要性の啓発をもたらし、薬の効果が認められないということで手術を選択するということを減少させることを他の目的とする。
【0011】
また、投薬情報と患者のカルテの連携を図ることができ、発病する可能性の高い疾患を解析する疾患解析における予測精度を向上させることを他の目的とする。また、薬が残ってしまい破棄されるという問題を減少させ、保険医療費の削減に寄与することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、点眼容器の動作を検知する点眼動作検知手段検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析手段を有し、前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリングシステムである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、点眼容器を用いた点眼をモニタリングする点眼容器モニタリングシステムであって、点眼動作情報を発信する発信手段と、前記発信手段から発信された点眼動作情報を記録する点眼動作記録手段と、前記点眼動作記録手段に記録された前記点眼動作情報を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された点眼動作情報と、入力された患者の眼情報と、患者の日毎または月毎の点眼の回数のデータをもとに患者の点眼動作状況を解析する解析手段とを有し、前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリングシステムである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、点眼容器の動作を検知する点眼動作検知ステップと、前記点眼動作検知ステップで検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析ステップとを有し、前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、前記解析ステップでは、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、前記解析ステップでは、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、前記解析ステップは、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリング方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータを点眼容器の動作を検知する点眼動作検知手段が検知した点眼動作情報と、入力された患者の眼情報とをもとに、患者の点眼状況及び疾患の状況を解析する解析手段として動作させ、前記眼情報は、OCTにより計測した眼底の視神経乳頭部のリム部分の厚さであり、前記解析手段は、点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの関係を求め、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、将来における前記リム部分の厚さを第1の予想値として予想し、前記解析手段は、前記点眼を開始してからの経過時間と前記視神経乳頭部のリム部分の厚さの前記関係に基づき、前記点眼容器を用いて点眼されていた点眼液と異なる他の点眼液を用いた場合の将来における前記リム部分の厚さを第2の予想値として予想する点眼容器モニタリング用プログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、点眼容器の動作を検知すると共に、患者の眼底疾患部の疾患状況を検査し、例えば緑内障患者の眼圧、視野又は眼底の疾患部の疾患進行状況と点眼剤の点眼状況との関係を分析し、点眼剤を変えるべきか、あるいは眼底疾患部を手術すべきかどうかを判断させることができる。また本発明によれば、患者に対し点眼状況を常時モニタリングすることにより、点眼治療を促進させることができる。
【0021】
また本発明によれば、患者の、点眼治療の重要性の啓発をもたらし、薬の効果が認められないということで手術を選択する事態を減らすことできる。
【0022】
また本発明によれば、薬が残ってしまい破棄されるという問題を減少させ、投薬情報と患者のカルテの連携を図ることができ、発病する可能性の高い疾患を解析する疾患解析における予測精度を向上させることができる。また本発明によれば、残薬の減少による保険医療費の削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態の概念図である。
図2】実施形態のブロック図である。
図3】実施形態を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
加速度センサー、及び加速度センサーの信号を送信する送信機を取り付けた点眼容器を用意する。図1に上記の点眼容器の概要を示す。図1には、点眼容器100が示されている。点眼容器100は、容器本体101、容器本体101に固定された加速度センサー102を備えている。加速度センサー102には、フレキシブルな配線によって送信機103が接続されている。なお、送信機103には電源となるバッテリーが内蔵され、このバッテリーの電力は、配線を介して加速度センサー102にも供給されている。加速度センサー102は、直交するxyz方向の加速度を検出する。加速度センサー102は、A/Dコンバータを備えており、検出した加速度のデータは、デジタル信号として加速度センサー102から出力される。加速度センサー102の出力は、送信機103に送られ、送信機103から外部に無線送信される。送信機102は、Blue tooth(登録商標)規格の無線送信を行う。送信機102としては、赤外線光通信、携帯電話の通信回線等を利用することもできる。
【0025】
患者の家庭には、送信機102からの信号を記録する小型記録装置200を設置する。小型記録装置200には、加速度センサー102の検出データが検出時刻と関連付けされて記憶される。患者は、病院に診察に来るときに、小型記録装置200を持参する。小型記録装置200の代わりにPC(パーソナルコンピュータ)やタブレットあるいはスマートフォンを用いることもできる。この場合、点眼容器100からの信号は、PCやタブレットあるいはスマートフォンで受信および記録される。またこの場合、点眼容器100からの受信内容をインターネット回線や電話回線を介して病院に送信することもできる。
【0026】
病院では、患者が持参した小型記録装置200から、点眼容器100の動作状況に関するデータを取得する。また例えば、小型記録装置200の代わりにスマートフォンを用いた場合、当該スマートフォンに記憶させた点眼容器100の動作状況に関するデータを病院側で取得する。点眼容器の動作状況に関するデータは、患者の日毎または月毎の点眼の回数のデータである。
【0027】
(緑内障の場合)
診察では、眼圧計を用い、患者の眼圧を測定する。または、視野計を用い、患者の視野を測定する。あるいは、眼底断層撮影装置であるOCT(Optical Coherent Tomography)を用い、患者の眼底部における乳頭部、黄斑部等の断層画像を撮像する。
【0028】
OCTを用いた患者の眼底部における診察の例では、眼底乳頭部のカップ部分、リム部分の厚みを測定し、データを記録する。この診察を定期的に行う。なお、診察の間隔は必ずしも等間隔でなくてもよい。診断で得た緑内障の状況に応じ、点眼剤を処方する。例えば、患者が通常眼圧にもかかわらず、緑内障が進行している場合、タブロス(登録商標)点眼液0.0015%等の点眼剤を処方する。この場合、医師に指定された間隔(例えば、1日1回や2日に1回といった間隔)で患者は点眼を行う。
【0029】
図2には、診断装置300が示されている。この例では、医師が用いるパーソナルコンピュータに図2の機能を実行するプログラムがインストールされ、ソフトウェア的に診断装置300が構成されている。図示する各機能部の一部または全部を専用の演算回路によって構成しもよい。例えば、図示する各機能部は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。各機能部を専用のハードウェアで構成するのか、CPUにおけるプログラムの実行によりソフトウェア的に構成するのかは、要求される演算速度、コスト、消費電力等を勘案して決定される。例えば、特定の機能部をFPGAで構成すれば、処理速度の上では優位であるが高コストとなる。他方で、CPUでプログラムを実行することで特定の機能部を実現する構成は、ハードウェア資源を節約できるので、コスト的に優位となる。しかしながら、CPUで機能部を実現する場合、処理速度は、専用のハードウェアに比較して見劣りする。また、CPUで機能部を実現する場合、複雑な演算に対応できない場合もあり得る。なお、機能部を専用のハードウェアで構成することとソフトウェア的に構成することは、上述した違いはあるが、特定の機能を実現するという観点からは、等価である。
【0030】
診断装置300は、点眼データ取得部301、点眼効果判定部302、患部計測データ取得部303、記憶部306、表示部307を備えている。点眼データ取得部301は、小型記録装置200に記録された加速度センサー102のデータから、点眼容器100を用いた点眼の動作に係るデータを抽出する。患者が点眼を行う際、まず点眼容器が持ち上げられ、次いで点眼容器が逆さまたはそれに近い状態にされ、眼への薬液の滴下が行われる。この動作における加速度センサー102が検出する加速度の検出パターンは予め調べられており、そのデータは、記憶部306に記憶されている。点眼データ取得部301は、記憶部306に記憶された点眼動作に係る加速度検出パターンと小型記憶装置200に記憶された生データとを比較し、当該生データから点眼容器100を用いた点眼動作に係るデータを抽出する。抽出されたデータは、点眼動作が行われた時刻と関連付けされて記憶部306に記憶される。
【0031】
点眼効果判定部302は、後述する判定基準に従って点眼の効果を判定する。この判定の結果は、診断装置300として動作するPCのディスプレイである表示部307に表示される。患部計測データ取得部303は、OCT(optical coherence tomography)により計測した眼底の情報(この例では、乳頭部(視神経乳頭)のリム部分の厚み(mm)の情報)を取得する。
【0032】
記憶部306は、診断装置300で扱うデータ、診断装置300を動作させるプログラムを記憶する。記憶部306としては、半導体メモリやハードディスク装置に設けられた記憶領域が利用される。表示部307は、診断装置300として動作させるPCのディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ)である。その他、当該PCが有するインターフェースを利用して診断装置300へのデータの入力、診断装置300から外部機器へのデータの出力が可能である。
【0033】
以下、点眼効果判定部302で行われる判定の基準について説明する。表1には、当該判定に用いられる判定表の一例が示されている。
【0034】
【表1】
【0035】
図3には、縦軸に乳頭部のリム部分の厚み(mm)、横軸に日時をとり、1〜2年前から現在までの経過データをプロットした場合の一例が示されている。緑内障の場合、縦軸に乳頭部のリム部分の厚み(mm)等の疾病の状況を示す眼底部位(眼底層の膜厚(mm))のデータを取り、横軸に、1〜2年前から現在までの経過時間(t)を取り、リム部分の厚みの変化をグラフにすることで診断が行われる。なお、図3の縦軸と横軸の値は、相対値である。
【0036】
図3には、点眼剤(A)を投与し始めた時点からの、OCTにて計測した乳頭部のリム部分の厚みをプロットしていき、リム部分の厚みの変化が右下がりの直線で示され、現在の時点以後も点眼剤(A)を投与し続け、X日後(あるいはX年後)にリム部分が消滅し、失明に至る場合が示されている。ここで、ある時点において、点眼剤を点眼剤(B)に変え投与し始め、OCTにて計測した乳頭部のリム部の厚みをプロットしていく。このとき、点眼剤(B)に変えたときの乳頭部のリム部分の厚みと、点眼剤(A)を投与し続けたときの乳頭部のリム部分の厚みの予想値との差Δtを求める。ここで、予想値は、これまで得られたデータに基づき外挿により求める。なお、図3には、横軸と縦軸の関係が右下がりの直線の場合が示されているが、測定値から得られるフィッティング関数は、直線に限定されない。
【0037】
Δtが例えば0.5mm以上の場合は、点眼剤(B)が投与された結果、眼圧が抑えられ効果が出ているものと判定する。このとき、0.5mmとは、視力を維持し続けるリム部分の最小限の厚みである。
【0038】
ところが、Δtが例えば0.1mm〜0.5mmの場合、点眼容器動作データが一日に少なくとも1回点眼していることを検知した場合、点眼剤(B)は効果がなかったと解析する。
【0039】
同様に、その差が例えば0.1mm〜0.5mmの場合、点眼容器動作データが一週間に一回しか点眼していないことを検知した場合、点眼剤(B)は点眼されていないと解析する。この場合、その結果を患者の携帯電話等に点眼するように注意を促し、毎日点眼するように指導する。例えば、患者のスマートフォンを図1の小型記憶装置200として用いる場合、当該スマートフォンの表示部に点眼を促す報知表示を行うことができる。
【0040】
このように、点眼剤を投与しなかったときにいつ頃失明に至るのかを示す経過予測グラフとの差を割り出し、1カ月、あるいは数か月、1年、数年と経過観察を行い、点眼剤の効果が表れているのかどうかチェックする。この判定が診断装置300の患部計測データ判定部304において行われる。この結果は、表示部307に表示される。医師はこの判定結果を参照し、このままその点眼剤を投与するか、あるいは点眼剤を変えるか、手術を行うか判断し、治療を進めていく。
【0041】
また、点眼容器動作データが検知されず、全く点眼されなかった場合にも、点眼するように、患者の携帯電話等に注意広告を表示させ、毎日点眼するように指導する。以上のとおり、点眼容器動作データ及びOCT等の眼底観察装置等のデータを組み合わせ、点眼状況を把握することができる。
【0042】
まとめると、イベント(処方変更日)に対して得られる点眼薬の効能期待との差を基に、
(1)点眼薬が効いていない、あるいは、(2)点眼薬を使用していない、の判断材料を提供する。
点眼薬モニタリングにより患者の行動を把握し、患者の疾患進行状況を見ながら、同じ点眼剤の投与を続けるか、点眼剤を変えるか、あるいは、手術等の治療を行うかどうか、適切な判断を行う。
【0043】
表1では、日単位で点眼の頻度を判定しているが、症状や薬剤によっては、3日単位、週単位、月単位といった単位で点眼の頻度を判定してもよい。
【0044】
本実施形態によれば、
1. 加速度センサーを用いることで使用回数、使用量 (点眼ごと、総使用量) 等のパラメータを取得する。
2. 正確な使用量および使用量の変動など、パラメータ間の関係性を導く。
3. 2項により、標準の使用量を推定可能である。
4. 標準の使用量を把握することで、それを基準にした「薬剤師の点眼指導」が可能となる。
(基準より点眼量が多いのか少ないのかは指導する際の基本的な目安となる)
5. (過度に使用されている場合) 使用基準量を減らすための取組が可能である。
6. 副次的な効果として、センサーを管轄する医院で使用する点眼剤の総使用量の推定が可能になり、在庫量をコントロールできるようになる。
(薬局経営のリスクが小さくなるため、院内薬局へ再移行という手段も検討できる)
【0045】
ここでは、緑内障を一例として説明したが、本願発明は、緑内障に限定されず、前眼部、眼圧等の疾患部、あるいは白内障手術後あるいは網膜手術後においても、点眼薬の投与と、スリットランプ、眼圧計、視野計、OCT等による、角膜、水晶体、眼球内、または網膜等の疾患部の疾患状況との関係から、点眼薬の効能のチェックを行い、点眼薬モニタリングにより患者の行動を把握し、患者の疾患進行状況を見ながら、同じ点眼剤の投与を続けるか、点眼剤を変えるか、あるいは、手術等の治療を行うかどうか、適切な判断を行うことができる。
【0046】
例えば、眼圧計により、点眼剤を投与する前後で点眼剤の患者に対する適正さを患者の眼圧値と点眼容器のセンサー値で判断し、例えば患者が適正眼圧緑内障の場合、眼圧値が適正な範囲(成人の場合、13mmヘクトパスカル以下)から更に9〜10mmヘクトパスカルに落ちているのかどうかを検査し、9〜10mmヘクトパスカルの低眼圧値に落ちていない場合、点眼剤(例えば、タブロス(登録商標)点眼液0.0015%)を変えるか、別の点眼剤と併用して投与するか、あるいは、手術等の治療を行うのかどうか、適切な診断を行うことができる。この場合、図2の診断装置を用い、縦軸を眼圧値として図3と同様なグラフを作成する。そして、図3に関連して説明したのと同様の処理を行い点眼の効果に関する判定結果を得る。
【0047】
同様に、視野計により、点眼剤を投与する前後で点眼剤の患者に対する適正さを患者の視野値(視野検査結果)と点眼容器のセンサー値で判断し、例えば患者が適正眼圧緑内障の場合、視野値が適正な範囲(成人の場合、画角120度以上)から画角100度に落ちているのかどうかを検査し、画角100度の低視野値に落ちていない場合、点眼剤(例えば、タブロス(登録商標)点眼液0.0015%)を変えるか、別の点眼剤と併用して投与するか、あるいは、手術等の治療を行うのかどうか、適切な診断を行うことができる。この場合、図2の診断装置を用い、縦軸を視野値として図3と同様なグラフを作成する。そして、図3に関連して説明したのと同様の処理を行い点眼の効果に関する判定結果を得る。
【0048】
このように、眼底乳頭部のリム厚と点眼容器のセンサー値との関係性、眼圧値と点眼容器のセンサー値との関係性、視野値(視野検査結果)と点眼容器のセンサー値との関係性等から、処方した点眼剤と、その利用状況と、患者の被検眼の各測定値とが全て連携することで医師にとって患者の病状を管理するうえで非常に有用なデータを得ることができる。
【0049】
角膜感染症・ドライアイや、ブドウ膜炎治療等においても、同様に、点眼薬の投与と、OCTによる、水晶体、眼球内、または網膜等の疾患部の疾患状況との関係から、点眼薬の効能のチェックを行い、点眼薬モニタリングにより患者の行動を把握し、患者の疾患進行状況を見ながら、同じ点眼剤の投与を続けるか、点眼剤を変えるか、あるいは、手術等の治療を行うかどうか、適切な判断を行うことができる。
【0050】
本願発明は、術後点眼(白内障術後・網膜手術 (網膜剥離等) 後の点眼)に利用することもできる。白内障に関しては、使用量についての基準は学術的に定められている。点眼薬センサーは必要以上の投与を抑制するための重要な指標を得ることが可能になる。網膜手術の後の管理もほぼ同様である。なお、現状ではかなり大雑把な管理であり、過剰投与が通常である。
【0051】
本願発明は、下記の用途に利用することも可能である。
1.角膜感染症やドライアイの治療
本願発明によれば、治療効果と点眼量をリンクさせることで臨床の質を大きく上げることが可能になる。具体的には次の通り。
(ア)より短い期間での治癒を目指すことが可能になる。
(イ)治療効果が上がらない理由を明確にすることが可能になる。
抗生剤のタイプやドライアイ点眼の種類など、点眼剤自体の問題ではなく点眼量であることが明確になることは非常に重要な意味を持つ。
2.ブドウ膜炎治療
角膜領域と同様のニーズがあると予想される。
3.入院中又は入院中手術期の点眼管理
入院中又は入院中手術期に行う点眼の管理にセンサーが使用できる。実際に病院で患者に対して実施される点眼はかなり煩雑で記録が困難であるが、センサーにより記録の手間を省くことができる。
【0052】
本願発明では、点眼容器の動作信号として、加速度センサーの信号を用いているが、これに限定されず。それ以外に、傾斜センサーや慣性計測装置(すなわちIntertial Measurement Unit、略称IMU)を装着してもよい。慣性計測装置とは、点眼容器の動作運動をつかさどる3軸の角度(または角速度)と加速度を検出する装置であり、基本的に、3軸のジャイロスコープと3方向の加速度計によって、3次元の角速度と加速度を求めることができる。
【0053】
また、圧力センサーを点眼容器に配置し、点眼剤をどの程度使用したのかを検知し、使用料を算出し、投与する薬剤の分量と疾患の変化状況との相関関係を求め、次に処方すべき治療をどうすべきかの判断材料に用いることもできる。
【0054】
点眼容器に限らず、スマートフォン等の携帯通信端末、眼鏡枠、マスカラやアイシャドウ等の化粧品、腕時計、帽子等の内部に点眼剤を収納する点眼容器を内蔵させ、点眼する時刻である点眼タイムを知らせ、定期的に点眼治療を促進させることができる。
【0055】
また、眼科以外に、内科、外科等の疾患部に適用してもよい。薬局が配布する外用薬袋、内用薬袋、又は薬剤容器等に、同様の加速度センサー、傾斜センサー、慣性計測装置、圧力センサーなどのセンサーを配置し、薬剤の服用頻度等の服用状況を検知し、服用料を算出し、投与する薬剤の分量と疾患の変化状況との相関関係を求め、次に処方すべき治療をどうすべきかの判断材料に用いることもできる。
【符号の説明】
【0056】
100…点眼容器、101…容器本体、102…加速度センサー、103…送信機、200…小型記録装置。
図1
図2
図3