特許第6695191号(P6695191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695191
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/88 20060101AFI20200511BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20200511BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   B60T8/88
   B60T17/22 Z
   B60T8/1761
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-69778(P2016-69778)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-178111(P2017-178111A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日信ブレーキシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 友規
【審査官】 的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−062605(JP,A)
【文献】 特開昭59−038160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧源に連通する入口弁と車輪ブレーキに連通する出口弁を有し前記車輪ブレーキに作用する制御液圧を制御する制御弁ユニットと、前記制御弁ユニットを制御するプログラムと該プログラムにより参照されるデータを記憶するメモリとを有するECUと、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧に異常が生じているか否かを判定する圧力異常判定手段と、
車輪の減速度である車輪減速度を算出する車輪減速度算出手段と、
前記車輪減速度を微分して車輪減速度微分値を算出する微分値算出手段と、を備え、
液圧制御における減圧制御後に、前記微分値算出手段によって算出された前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きい場合、前記圧力異常判定手段による判定を中断する
ことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記圧力異常判定手段は、
液圧制御中に、前記入口弁の閉弁後に前記制御液圧が低下したときから時間を計時し、当該圧力異常判定手段による判定の前記中断がなされないまま、計時時間が第1閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には、前記計時時間をリセットする
ことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記圧力異常判定手段は、
液圧制御中に、前記車輪ブレーキに作用する前記制御液圧を推定し、推定した制御液圧の液圧閾値より低下後からの時間を計時し、計時時間が第2閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には、前記計時時間をリセットする
ことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液圧源と車輪ブレーキとの間に設けられた制御弁ユニットを制御することで、前記車輪ブレーキに作用する制御液圧を制御する車両用ブレーキ液圧制御装置に関し、二輪車、四輪車等の車両に適用して好適な車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車輪速度が基準速度(前記車輪速度から演算した近似車体速度から所定速度差を減算した速度)以下の期間に、車体の横滑りを抑止するブレーキゆるめ信号を発生して制動力を調整する車両用ブレーキ液圧制御装置が開示されている(特許文献1の第2頁右下欄末行〜第3頁17行)。
【0003】
特許文献1に開示された車両用ブレーキ液圧制御装置では、前記ブレーキゆるめ信号の継続時間が0.5秒を上回ったときに故障が発生したものとし、ブレーキゆるめ信号をカットするフェールセーフ機能を構成している。ブレーキゆるめ信号がカットされることで、ABS制御が停止され、ブレーキ油圧の減圧動作が停止されると開示されている(特許文献1の第3頁右上欄5行〜11行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−38160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、液圧制御時に、例えば、前後輪各輪への液圧(制動力)の配分の可能なEBD(Electronic Brake force Distribution)機能が作用して保持時間が長くなる場合に、誤判定する虞がある。
【0006】
この発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、車輪ブレーキに作用する制御液圧の異常の有無の誤判定を抑制することを可能とする車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両用ブレーキ液圧制御装置は、液圧源に連通する入口弁と車輪ブレーキに連通する出口弁を有し前記車輪ブレーキに作用する制御液圧を制御する制御弁ユニットと、前記制御弁ユニットを制御するプログラムと該プログラムにより参照されるデータを記憶するメモリとを有するECUと、を備える車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧に異常が生じているか否かを判定する圧力異常判定手段と、車輪の減速度である車輪減速度を算出する車輪減速度算出手段と、前記車輪減速度を微分して車輪減速度微分値を算出する微分値算出手段と、を備え、液圧制御における減圧制御後に、前記微分値算出手段によって算出された前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きい場合、前記圧力異常判定手段による判定を中断する。
【0008】
液圧制御における減圧制御後に、車輪減速度{(現在の車輪速度−微小時間前の車輪速度)/微小時間}の微分値である車輪減速度微分値{(現在の車輪減速度−微小時間前の車輪減速度)/微小時間}が所定閾値より大きいということは、車輪減速度の増加量が大きいということである。
車輪減速度の増加量が大きいということは、車輪速度が増加傾向にあるということであるから、減圧制御開始直前までは車輪にかかっていた制動力が弱まったと判定できる。
つまり、減圧制御までは制御液圧による制動力が車輪にかかっていたと言える。従って、減圧制御までは制御液圧に異常が生じていなかったと判断できるので、液圧制御における減圧制御後に、微分値算出手段によって算出された車輪減速度微分値が所定閾値より大きい場合、圧力異常判定手段による判定を中断することで、制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
例えば、EBD機能等が作用して保持時間が長くなったとしても、制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
このようにこの発明によれば、液圧制御における減圧制御後に、車輪減速度の変化を表す車輪減速度微分値が所定閾値以上であるか否かを判定することで制御液圧に異常が生じているか否かを判定するという簡易な構成で、車輪ブレーキに作用する制御液圧の異常の有無の誤判定を抑制することができる。
【0009】
また、前記圧力異常判定手段は、液圧制御中に、前記入口弁の閉弁後に前記制御液圧が低下したときから時間を計時し、当該圧力異常判定手段による判定の前記中断がなされないまま、計時時間が第1閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には、前記計時時間をリセットする。
【0010】
液圧制御中に、例えば、入口弁閉弁後の保持時間が長くなったとしても、入口弁閉弁後の制御液圧の低下後からの計時時間が、当該圧力異常判定手段による判定の前記中断がされないまま、第1閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には前記計時時間(カウント値)がリセットされるので、プログラムとデータの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【0011】
なお、前記圧力異常判定手段は、液圧制御中に、前記車輪ブレーキに作用する前記制御液圧を推定し、推定した制御液圧の液圧閾値より低下後からの時間を計時し、計時時間が第2閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には、前記計時時間(カウント値)をリセットする。
【0012】
液圧制御中に、例えば、一時的なノイズ等によって一時的に制御液圧の推定精度が低くなり、推定した制御液圧が液圧閾値より低下したとしても、推定した制御液圧の液圧閾値より低下後からの時間を計時し、計時時間が第2閾値時間を上回ったとき、前記制御液圧に異常が生じているとみなし、前記車輪減速度微分値が所定閾値より大きいと判定された場合には、前記計時時間(カウント値)がリセットされるので、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、液圧制御における減圧制御後に、車輪減速度の変化を表す車輪減速度微分値が所定閾値以上であるか否かを判定することで制御液圧に異常が生じているか否かを判定するという簡易な構成で、車輪ブレーキに作用する制御液圧の異常の有無の誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
図2】車両用ブレーキ液圧制御装置の第1実施例の動作説明に供されるフローチャートである。
図3】第1実施例の異常判定処理の説明に供されるタイムチャートである。
図4】キャリパ圧減少時近傍の拡大図である。
図5】第1実施例の判定中断条件の説明に供されるタイムチャートである。
図6】車両用ブレーキ液圧制御装置の第2実施例の動作説明に供されるフローチャートである。
図7】第2実施例の異常判定処理の説明に供されるタイムチャートである。
図8】第2実施例の判定中断条件の説明に供されるタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係る車両用ブレーキ液圧制御装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
車両用ブレーキ液圧制御装置は、車両に搭載され、前記車両の挙動、路面状況、ブレーキの操作状況等に応じて、車輪のスリップを抑制するABS制御、前後輪各輪への液圧配分を制御するEBD制御、車両の挙動を安定化させる横滑り制御やトラクション制御(以下、挙動安定化制御という。)等を実行する。
【0017】
図1は、この実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置10の概略構成を示している。
【0018】
なお、図1では、煩雑さを回避し、且つ理解の便宜のために、4つの車輪ブレーキ(前輪右側の車輪ブレーキFR、後輪左側の車輪ブレーキRL、前輪左側の車輪ブレーキFL、後輪右側の車輪ブレーキRR)のうち、2つの車輪ブレーキFR、RLに制動力を付与するブレーキ系統K1を図示している。残りの2つの車輪ブレーキFL、RR(不図示)に制動力を付与するブレーキ系統K2は、実質的に同一の構成であるので図示を省略し、以下、主としてブレーキ系統K1について説明し、ブレーキ系統K2については適宜説明する。
【0019】
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置10は、基本的に、液圧源としてのマスタシリンダ12と、ブレーキ系統K1、K2と、このブレーキ系統K1、K2を制御する制御部としてのECU(Electronic Control Unit)16と、から構成されている。
【0020】
マスタシリンダ12は、2つのブレーキ系統K1、K2に対応して備えられた各出力ポート24a、24bに連通する各上流側液路104、103に、ブレーキペダル20(操作子)に加えられた踏力に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧という。)Pmcを発生する。実際上、ブレーキペダル20に加えられた踏力は、ブースタ22を介して増圧され、マスタシリンダ12に作用される。マスタシリンダ12の出力ポート24a、24bは、それぞれ配管を介してアクチュエータ14と接続されている。
【0021】
ブレーキ系統K1は、アクチュエータ14と、車輪ブレーキFR、RLとから構成されている。各車輪ブレーキFR、RLは、それぞれ配管を介してアクチュエータ14と接続されている。
【0022】
アクチュエータ14は、基本的に、マスタシリンダ12に連通される上流側液路104、車輪ブレーキFR、RLに連通する車輪ブレーキ液路(ホイールシリンダ液路ともいう。)106a、106b、及びブレーキ液の逃がし液路108の間に設けられた制御弁ユニット30と、前記逃がし液路108に連通するリザーバ34と、ポンプ70の吸入液路110及び吐出液路118の間に設けられた前記ポンプ70と、ポンプ70を駆動するモータ72と、上流側液路104に設けられ該上流側液路104のブレーキ液圧(上流側ブレーキ液圧)であるマスタシリンダ圧Pmcを検出する圧力センサ82と、を備える。なお、ポンプ70の吐出液路118は、制御弁ユニット30の上流側液路104に連通している。
【0023】
制御弁ユニット30の下流側液路である車輪ブレーキ液路106a、106bは、それぞれ、車輪ブレーキFR、RLを構成するホイールシリンダの一例としてのブレーキキャリパ18a、18bに連通している。車輪ブレーキFRは、ブレーキキャリパ18aとブレーキディスク等のブレーキ部材とから構成され、車輪ブレーキRLは、ブレーキキャリパ18bとブレーキディスク等のブレーキ部材とから構成される。
【0024】
車輪ブレーキ液路106a、106b側から制御弁ユニット30を通じてブレーキ液を逃がすための逃がし液路108が、吸入液路110を介してリザーバ34に連通している。
【0025】
制御弁ユニット30は、常開型の比例電磁弁である入口弁51、61と、常閉型の電磁弁である出口弁52、62と、チェック弁53、63とを備える。入口弁51、61は、ECU16からの電磁コイルへの通電量によって、弁の開弁量が自由に調整可能になっている。なお、公知のように、入口弁51、出口弁52、及びチェック弁53を、並びに入口弁61、出口弁62、及びチェック弁63を、それぞれ1個の3ポジション電磁弁で代替してもよい。
【0026】
制御弁ユニット30は、上流側液路104と、車輪ブレーキ液路106a、106bと、逃がし液路108と、の交差部分に設けられていて、上流側液路104と車輪ブレーキ液路106a、106bを連通(開放)して逃がし液路108を遮断する増圧状態、上流側液路104と車輪ブレーキ液路106a、106bを遮断して逃がし液路108を連通(開放)する減圧状態、及び車輪ブレーキ液路106a、106bを上流側液路104及び逃がし液路108から遮断する保持状態を切り替える機能を有している。つまり、制御弁ユニット30は、ブレーキキャリパ18a、18bに作用する車輪ブレーキ液路106a、106bのブレーキ液圧、換言すれば、制御液圧としてのキャリパ圧Pcca、Pccbを増圧する状態、減圧する状態又は保持する状態に切り替える。なお、以下の説明において、区別して説明する必要がある場合を除き、キャリパ圧Pcca、Pccbは、代表してキャリパ圧Pccという。
【0027】
チェック弁53、63は、入口弁51、61にそれぞれ並列に設けられ、車輪ブレーキ液路106a、106bから上流側液路104へのブレーキ液の流入のみを許容する。
【0028】
入口弁51、61は、それぞれ、上流側液路104と車輪ブレーキ液路106a、106bとの間に設けられ、液圧制御が行われない通常時の開いているとき(常開時)に、マスタシリンダ12から各車輪ブレーキFR、RLへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。
【0029】
その一方、入口弁51、61は、液圧制御中に、車輪がロックしそうになったときに閉弁されることで、ブレーキペダル20から各車輪ブレーキFR、RLに伝達するブレーキ液圧を遮断する。さらに、その液圧制御中に、入口弁51、61は、ECU16によって所定の開弁量となるように制御されることで、各車輪ブレーキFR、RL内のブレーキ液圧を所定の傾きで増加させる。
【0030】
出口弁52、62は、それぞれ、車輪ブレーキ液路106a、106bと逃がし液路108との間に設けられ、閉弁状態にあるときにブレーキキャリパ18a、18b側からリザーバ34側へのブレーキ液の流入を遮断し、開弁状態にあるときにブレーキキャリパ18a、18b側からリザーバ34側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0031】
リザーバ34は、吸入液路110に設けられており、ブレーキキャリパ18a、18b及び車輪ブレーキ液路106a、106bから制御弁ユニット30の出口弁52、62を介し逃がし液路108及び吸入液路110を通じて逃がされたブレーキ液を一時的に貯留する機能を有している。
【0032】
ポンプ70は、吸入液路110と吐出液路118との間に設けられ、モータ72の回転力によって駆動され、リザーバ34に一時的に貯留されたブレーキ液を、吸入液路110を通じて吸入し圧力を高めてマスタシリンダ12側の吐出液路118に吐出する。このようにリザーバ34に貯留されたブレーキ液を上流側液路104に連通される吐出液路118に還流させることにより、ブレーキ液をマスタシリンダ12側に戻す。
【0033】
ECU16は、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM(EEPROMも含む。)とRAM(ランダムアクセスメモリ)、その他、A/D変換器、D/A変換器、及び駆動回路等の入出力装置、並びに計時部としてのタイマ(計時器)等を有しており、入力信号等に基づきCPUがROMに記録されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)、例えば制御部、演算部、及び処理部等として機能する。これらの機能は、ハードウエアにより実現することもできる。
【0034】
この実施形態において、ECU16は、ハードウエアでも実現可能な圧力異常判定手段90、減圧量算出手段91、車輪減速度算出手段94、微分手段(本発明の微分値算出手段)95、及びキャリパ圧推定手段96としての機能を有している。圧力異常判定手段90は、後述するフェールカウンタ102の機能をも備える。
【0035】
ECU16は、また、常開型の比例電磁弁である入口弁51、61の弁体を駆動する電磁コイルを励磁する通電量に係る電流値を0値から最大値又は最大値近傍まで調節することにより、開弁量が最大の弁の全開状態から弁の閉弁状態までの間での所定量開弁(所定開弁量)状態に調節し、消磁することにより開弁状態(全開状態)にする。また、ECU16は、常閉型の電磁弁である出口弁52、62の弁体を駆動する電磁コイルを励磁することにより開弁状態とし、消磁することにより閉弁状態にする。
【0036】
モータ72は、ブレーキ系統K1、K2中のポンプ70の共通の動力源であり、ECU16からのモータ駆動信号Sdに基づいて作動する。
【0037】
さらに、ECU16は、4つの車輪(不図示)にそれぞれ設けられた車輪速センサ19からの車輪の回転速度(車輪速度)Vw、及び圧力センサ82で検出したマスタシリンダ圧Pmc等の各検出信号を取り込む。
【0038】
ECU16は、取り込んだ各前記検出信号に基づき、制御弁ユニット30(入口弁51、61、出口弁52、62からなる各電磁弁)、及びモータ72等を制御することで液圧制御を行う。
【0039】
また、ECU16の圧力異常判定手段90は、取り込んだ各前記検出信号、車輪減速度算出手段94、微分手段95、減圧量算出手段91及びキャリパ圧推定手段96等の算出結果等に基づき、前記プログラムと前記メモリに記憶されたデータの偶発的な書き換わり等を原因として制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているか否かを判定する。
【0040】
ECU16の減圧量算出手段91は、液圧制御時に、後述するようにキャリパ圧Pccの減圧量Pdを算出する。
【0041】
さらに、ECU16の車輪減速度算出手段94は、次の(1)式に示すように、車輪減速度Aw[m/s2]を、現在の車輪速度Vw(Vwpとする。)[m/s]から微小時間(一定時間)Δt前の車輪速度Vw(Vwbとする。)を差し引いた車輪速度差ΔVw(ΔVw=Vwp−Vwb)を微小時間Δtで割った値(商)として算出する。なお、微小時間Δtは、例えば、msオーダーの時間である。
車輪減速度Aw=(現在の車輪速度−微小時間前の車輪速度)/微小時間
=(Vwp−Vwb)/Δt
=ΔVw/Δt …(1)
【0042】
ECU16の微分手段95は、次の(2)式に示すように、車輪減速度微分値Daw[m/s3]を、車輪減速度Awの微小変化分ΔAwを微小時間Δtで割った値(商)として算出する。
車輪減速度微分値Daw=車輪減速度の微小変化分/微小時間
=ΔAw/Δt …(2)
【0043】
なお、図1においては、煩雑さを回避するために、ECU16と各電磁弁との間、ECU16とモータ72との間、及びECU16と各種センサとの間の各配線の図示を省略している。
【0044】
基本的には以上のように構成されるこの実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置10の動作について、次に、<<基本的な動作>>、及び<<制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常判定処理>>の順に説明する。
【0045】
<<基本的な動作>>
車両用ブレーキ液圧制御装置10の基本的な動作は、この種の公知・周知のブレーキ制御装置と同様であるので、ここでは、その詳細な説明は省略し概略的に説明する。
【0046】
例えば、ブレーキを作用させるため、ブレーキペダル20が操作されると、ペダル作動スイッチ(不図示)により、その操作に応じた検出信号がECU16に入力される。
【0047】
このとき、ブレーキペダル20の操作に応じた液圧のブレーキ液がマスタシリンダ12から制御弁ユニット30を通じてブレーキキャリパ18a、18bのシリンダに供給され、車輪ブレーキFR、RLに制動力が付与される。この場合、マスタシリンダ圧Pmc及びキャリパ圧Pccは、上流側液路104と車輪ブレーキ液路106a(106b)の液路が連通しているので同圧である。
【0048】
ECU16が、ABS制御等の液圧制御が必要であると判断し、例えば、ブレーキ液圧を減圧すべきであると判断すると、ECU16により出口弁52、62が励磁されて開弁状態にされると同時に入口弁51、61が励磁されて閉弁状態にされることで瞬時に液圧制御における減圧制御が開始される。その結果、ブレーキキャリパ18a、18bのブレーキ液が出口弁52、62を介し、逃がし液路108及び吸入液路110を通じてリザーバ34へ排出され車輪ブレーキ液路106a、106bのブレーキ液圧、すなわちキャリパ圧Pcc(Pcca、Pccb)が減圧される。キャリパ圧Pccが減圧されている場合の液圧制御の制御モードを減圧モードという。
【0049】
なお、ECU16は、出口弁52、62を励磁すると同時にモータ72を駆動することにより、リザーバ34に貯留されたブレーキ液がポンプ70によって吸入液路110を通じて吸入され、吐出液路118を介して上流側液路104、換言すれば、マスタシリンダ12側に還流される。
【0050】
ECU16が、ブレーキ液圧を保持すべきであると判断すると、出口弁52、62を消磁して閉弁する。これにより、車輪ブレーキ液路106a、106bは、上流側液路104及び逃がし液路108に対して非連通状態とされ、キャリパ圧Pccが一定に保持される。キャリパ圧Pccが保持されている場合の液圧制御の制御モードを保持モードという。
【0051】
ECU16が、ブレーキ液圧を増圧すべきであると判断すると、出口弁52、62が消磁されて閉弁され、入口弁51、61が高めの電流値から徐々に低くされて入口弁51、61が所定の開弁量で開弁される結果、キャリパ圧Pccが徐々に増圧される。キャリパ圧Pccが増圧されている場合の液圧制御の制御モードを増圧モードという。
【0052】
以下、ABS制御等の液圧制御が不要と判断されるまで、このような減圧モード、保持モード、及び増圧モードの液圧制御が適宜選択されて実行される。
【0053】
<<制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常判定処理>>
制御液圧としてのキャリパ圧Pccの異常判定処理は、ECU16によりABS制御等の液圧制御が必要であると判断されたその液圧制御中に、前記プログラムと前記メモリに記憶されたデータの偶発的な書き換わりを原因として制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常(キャリパ圧Pccの顕著な不足)が生じているか否かをECU16の圧力異常判定手段90により車輪(一輪)毎に判定する処理である。
【0054】
以下、A.第1実施例(キャリパ圧Pccの減圧量Pd及び判定中断条件で判定、又は入口弁51、61の閉時間及び判定中断条件で判定)、B.第2実施例(推定キャリパ圧Pecc及び判定中断条件で判定)の順に説明する。なお、煩雑さを回避し、理解の便宜のために、原則として、後輪左側の車輪ブレーキRL(入口弁61と出口弁62)を対象として説明する。
【0055】
A.第1実施例(キャリパ圧Pccの減圧量Pd及び判定中断条件で判定、又は入口弁51、61の閉時間及び判定中断条件で判定)
【0056】
図2のフローチャートを参照して説明する。なお、以下に説明するフローチャートに係るプログラムの実行主体は、ECU16(のCPU)である。
【0057】
図2のフローチャートは、ABS制御等の液圧制御中、所定(一定)の微小な制御時間(制御サイクル、処理サイクル又はサイクルタイムという。)毎に繰り返し実行される。
【0058】
ステップS1にて、ECU16は、各車輪速センサ19からの各車輪速度Vw、圧力センサ82からのマスタシリンダ圧Pmc等各種センサからの検出信号(各種センサ値)を取得する。取得した検出信号に基づき制御に必要になる上記した(1)式の車輪減速度Aw及び(2)式の車輪減速度微分値Daw等の物理量を、さらに、そのステップS1にて算出する。なお、微小時間Δtは、この実施形態において、フローチャートの制御サイクルに一致させている。
【0059】
ステップS2にて、ECU16は、液圧制御の制御モードが減圧モードになっているか否かを判定する。
【0060】
減圧モードになっているとECU16が判定した(ステップS2:YES)場合、減圧量算出手段91は、この減圧モード下で、ステップS3にて、次の(3)式に基づき、左辺の現在の減圧量Pd(Pdは、累積した減圧量を表し、Pd≧0の値を採る。)を算出する。
減圧量Pd=前回減圧量Pd´+今回減圧分 …(3)
【0061】
ここで、右辺の今回減圧分(今回減圧分も0以上の値を採る。)は、今回の制御サイクルでの出口弁62の開時間に比例する減圧量である。また、右辺の前回減圧量Pd´は、前回算出された減圧量(前回時点までに累積された減圧量)を示す。減圧量Pdは、増圧モードの開始時又は液圧制御の終了時にゼロ値にクリアされる。ステップS3の後、ステップS6に移行する。
【0062】
なお、ステップS2の判定にて、制御モードが減圧モードではない(ステップS2:NO)と判定した場合には、ステップS4にて、制御モードが保持モード(入口弁61及び出口弁62が閉弁状態)になっているか否かを判定する。ステップS4の判定で制御モードが保持モードである(ステップS4:YES)場合、ステップS6へ移行する。
【0063】
ステップS4の判定にて保持モードではない(ステップS4:NO)と判定した場合、ステップS5にて(2)式の左辺の現在の減圧量Pdをクリアして(減圧量Pd=0)、ステップS6の判定処理を実行する。
【0064】
ステップS6の判定処理では、ステップS3で算出した減圧量Pdが次の(4)式に示すように減圧量閾値Pdth以上の値になり、且つ制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常判定処理の判定中断条件(後述)が不成立になっているか否かを判定する。
減圧量Pd≧減圧量閾値Pdth …(4)
【0065】
ステップS3で算出した減圧量Pdが減圧量閾値Pdth未満の減圧量である(減圧量Pd<減圧量閾値Pdth、ステップS6:NO)場合、又は異常判定の判定中断条件が成立している(ステップS6:NO)場合、前記プログラムと前記メモリに記憶されたデータの偶発的な書き換わりを原因として制御液圧(キャリパ圧Pcc)に異常(キャリパ圧Pccの顕著な不足)が生じていないと判定する。
【0066】
そして、ステップS6の判定が否定的(ステップS6:NO)である場合、ステップS7にて、フェールカウンタ102のカウント値Cf(本発明の計時時間に相当)をリセット(カウント値Cf=0)し、ステップS8にて、異常判定フラグFbsをクリア(Fbs=0)して、今回の処理を終了し、次回の制御サイクルで上述のような処理を繰り返す。
【0067】
なお、ステップS6の判定が否定的な場合とは、液圧制御中に減圧制御が発生したときの減圧量Pdが減圧量閾値Pdth未満の値(Pd<Pdth)になっている場合や、異常判定の判定中断条件{減圧制御後の車輪減速度微分値Daw>所定閾値Dawth(Dawth>0)}が成立している場合である。
【0068】
ここで、異常判定の中断条件である、車輪減速度微分値Daw>所定閾値Dawth(Dawth>0)は、少なくとも減圧制御後の車輪減速度微分値Dawが正の値であることを条件としているので、車輪減速度Awに正方向の変化があったということである。
【0069】
そして、減圧制御後の車輪減速度Awに正方向の変化があったということは、減圧制御開始直前までは車輪にかかっていた制動力が小さくなった(弱くなった)結果といえるので、結局、減速制御が発生したときには、その時点では車輪に制動力がかかっていたということができる。つまり、少なくとも車輪減速度Awに正方向の変化があった時点以前では、制御液圧であるキャリパ圧Pccが正常に発生していたといえる。
【0070】
その一方、ステップS6の判定が肯定的(ステップS6:YES)であった場合、すなわち、ステップS3で算出した現在の減圧量Pdが減圧量閾値Pdth以上の値であって、且つ異常判定の判定中断条件{車輪減速度微分値Daw>所定閾値Dawth}が不成立(Daw≦Dawth)になっている場合には、ステップS9にて、フェールカウンタ102を加算(累算)する{カウント値Cfをカウントアップ(Cf=Cf+1)する}。
【0071】
次いで、ステップS10にて、フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth1以上の値(Cf≧Cth1)になったか否かを判定する。
【0072】
フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth1未満の値(Cf<Cth1)である(ステップS10:NO)場合には、今回の処理を終了し、次回の制御サイクルで上述のような処理を繰り返す。
【0073】
フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth1以上の値(Cf≧Cth1)になった(ステップS10:YES)場合、すなわち、Pd≧Pdth及び判定中断条件不成立の期間(ステップS6:YESの期間)が、カウント閾値Cth1に対応する時間継続したとき、圧力異常判定手段90は、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧(キャリパ圧Pcc)に異常が生じているとみなし、ステップS11にて異常判定フラグFbsをセット(Fbs=1)する。
【0074】
この場合、ステップS12にて、制御液圧に異常が生じていると判定する。
【0075】
[第1実施例の具体的動作例]
第1実施例の具体的動作例について、図3図5のタイムチャートを参照して説明する。
【0076】
例えば、プログラム及び/又はデータの偶発的な書き換わりを原因として誤作動が生じ、この誤作動により制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常な低下状態が発生した場合、この誤作動を誘発している液圧制御を直ちに停止させなければならない。その場合、制御液圧の異常な低下状態の発生を判定することが必要になる。
【0077】
図3は、この第1実施例の圧力異常判定手段90による異常判定処理を説明するタイムチャートである。
【0078】
図3の例では、プログラム及び/又はデータの偶発的な書き換わりを原因として、時点t1で誤作動による減圧制御が発生したものとする。時点t1で減圧制御(入口弁が閉弁、出口弁が開弁)が開始されると、実キャリパ圧であるキャリパ圧Pccが減圧する。ここで、減圧量Pdは、減圧を開始する時点t1のキャリパ圧Pccを基準のゼロ値として算出される。
【0079】
図4図3の時点t1近傍の拡大図を示す。図3及び図4に示すように、減圧開始時点t1のキャリパ圧Pccを基準のゼロ値(Pd=0)としたキャリパ圧Pccの減圧量Pdが、減圧量閾値Pdth(値は予めシミュレーション等により定める)まで低下した時点t2にて、フェールカウンタ102のカウントを開始させる。なお、フェールカウンタ102のカウント値Cfは、所定量(減圧量閾値Pdth)分だけ減圧した後の入口弁閉弁継続時間を意味し、入口弁61の開弁時にはリセットされる。
【0080】
フェールカウンタ102のカウント値Cfがカウント閾値Cth1(予めシミュレーション等により決定しておく。)になった時点t4にて、制御液圧であるキャリパ圧PccがPcc≒0とみなされる異常状態になったものと判定する(異常判定の正しい判定が成立)。このようにすれば、偶発的な誤作動を正しく判定することができる。
【0081】
なお、時点t3は、キャリパ圧Pccがゼロ値に近くなった時点を示している。
【0082】
・判定中断条件の説明
次に、上述した第1実施例の判定中断条件(車輪減速度微分値Daw>所定閾値Dawth)に関して図5のタイムチャートを参照して説明すると、入口弁61が開弁状態、出口弁62が閉弁状態の時点t11にて、ブレーキペダル20が踏み込まれることでキャリパ圧Pccが上昇を開始する。時点t12にて、液圧制御、例えばEBD制御が開始され、入口弁61が閉弁状態とされ、出口弁62が閉弁状態となっている保持モードに制御される。
【0083】
この場合、車輪速度Vwは、時点t11までの一定速度の状態から時点t11で減速状態に入る。時点t11から時点t13の間では、車輪速度Vwの負の勾配が略一定であり、車輪減速度Awは、略負の一定値に保持される。ここで、時点t11近傍では、車輪速度Vwが一定速度から略一定の負の勾配に向かって変化するので、車輪減速度微分値Dawは、負のパルス状の波形変化を示す。
【0084】
時点t12にて保持モードに入り、その後、時点t13にて減圧モードになると、その直後の時点t14近傍で、キャリパ圧Pccの減圧量Pdが減圧量閾値Pdthを上回り(Pd≧Pdth、図4参照)、さらに、時点t13から時点t16の間で車輪速度Vwが回復して正の勾配で増加すると、時点t13から時点t16の間で車輪減速度Awが正値となる。従って、車輪減速度Awが負値から正値に変化する時点t14近傍から時点t15の間で車輪減速度微分値Dawが所定閾値(車輪減速度微分値閾値)Dawthを上回る(Daw≧Dawth)。時点t14で減圧量Pdが減圧量閾値Pdthを上回り、ステップS6の条件Pd≧Pdthを満たすが、判定中断条件「(Daw>Dawth)が不成立」は、満たしていない(Daw≧Dawth)ので時点t14〜時点t15の間はフェールカウンタ102は、カウントを開始しない(上述したステップS6:NOの判定に対応する。)。
【0085】
時点t15(Pd>Pdth and Daw≦Dawth)にて、判断中断条件が不成立になると、フェールカウンタ102は、計時(カウント)を開始する(ステップS6:YES対応)。
【0086】
次いで、時点t17までの保持モードの間、フェールカウンタ102は、カウントを継続する(カウント値Cfをアップする。)。時点t17にて減圧モードが開始され、時点t18にて判定中断条件が成立(Daw>Dath)すると、その時点t18から判定中断条件が継続する時点t19の間でフェールカウンタ102のカウント値Cfがリセット(ステップS6:NO→ステップS7対応)される。
【0087】
これにより、時点t21では、フェールカウンタ102が、破線で示しているように、カウント閾値Cth1までカウントされないので、時点t21において異常判定であると誤判定されることを抑制できる。
【0088】
なお、車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthを上回っている期間(t14−t15、t18−t19)では、フェールカウンタ102のカウント値CfをリセットするリセットパルスRpの発生期間になっている。
【0089】
B.第2実施例(キャリパ圧Pccの推定圧である推定キャリパ圧Pecc及び上述した判定中断条件で判定)
【0090】
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0091】
図6のフローチャートは、ABS制御等の液圧制御中、所定の微小な制御時間(制御サイクル又はサイクルタイムという。)毎に繰り返し実行される。
【0092】
ステップS21にて、ステップS1と同様に、ECU16は、各車輪速センサ19からの各車輪速度Vw及び圧力センサ82からのマスタシリンダ圧Pmc等各種センサの検出信号(各種センサ値)を取得する。また、ステップS1にて、取得した検出信号に基づき制御に必要になる車輪減速度Aw、車輪減速度微分値Daw及び推定キャリパ圧Pecc等の物理量を算出する。
【0093】
ここで、推定キャリパ圧Peccは、液圧制御開始時におけるマスタシリンダ圧Pmcと、液圧制御開始時以降の入口弁61と出口弁62の開閉制御履歴とに基づいて算出される。
【0094】
次いで、ステップS22にて、ECU16は、ステップS21で算出された推定キャリパ圧Peccが(5)式に示すようにキャリパ圧閾値Pccthを下回る値となり、且つ上述した判定中断条件(Daw>Dawth)が不成立(Daw≦Dawth)になっているか否かを判定する。
推定キャリパ圧Pecc<キャリパ圧閾値Pccth …(5)
【0095】
推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccth以上の圧力である(ステップS22:NO)場合、又は異常判定の判定中断条件(Daw>Dawth)が成立している(ステップS22:NO)場合、前記プログラムと前記メモリに記憶されたデータの偶発的な書き換わりを原因として制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常(キャリパ圧Pccの顕著な不足)が生じていない(ステップS22:NO)と判定する。
【0096】
ステップS22の判定が否定的(ステップS22:NO)である場合、ステップS23にて、フェールカウンタ102のカウント値Cfをリセット(カウント値Cf=0)し、ステップS24にて、異常判定フラグFbsをクリアして、今回の処理を終了し、次回の制御サイクルで上述のような処理を繰り返す。
【0097】
その一方、ステップS22の判定が肯定的(ステップS22:YES)であった場合、すなわち、推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccth未満の値であって、且つ制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常判定処理の上述した判定中断条件が不成立(Daw≦Dawth)になっている場合には、ステップS25にて、フェールカウンタ102を加算(累算)する{カウント値Cfをカウントアップ(Cf=Cf+1)する}。
【0098】
次いで、ステップS26にて、フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth2(シミュレーション等により設定)以上の値(Cf≧Cth2)になったか否かを判定する。
【0099】
フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth2未満の値(Cf<Cth2)である(ステップS26:NO)場合には、今回の処理を終了し、次回の制御サイクルで上述のような処理を繰り返す。
【0100】
フェールカウンタ102のカウント値Cfが、カウント閾値Cth2以上の値(Cf≧Cth2)になった(ステップS26:YES)場合には、圧力異常判定手段90は、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧(キャリパ圧Pcc)に異常が生じているとみなし、ステップS27にて異常判定フラグFbsをセットする。
【0101】
この場合、ステップS28にて、制御液圧に異常が生じていると判定する。
【0102】
[第2実施例の具体的動作例]
第2実施例の具体的動作例について、図7及び図8のタイムチャートを参照して説明する。
【0103】
例えば、プログラム及び/又はデータの偶発的な書き換わりを原因として誤作動が生じ、この誤作動により制御液圧(キャリパ圧Pcc)の異常な低下状態が発生した場合、この誤作動を誘発している制御を直ちに停止させなければならない。その場合、制御液圧の異常な低下状態の発生を判定することが必要になる。
【0104】
具体的に、液圧制御における減圧時以降の推定キャリパ圧Peccを算出することで制御液圧の異常を判断できる。
【0105】
図7は、この第2実施例の圧力異常判定手段90による異常判定処理を説明するタイムチャートである。
【0106】
図7の例では、プログラム及び/又はデータの偶発的な書き換わりを原因として、時点t31で誤作動による減圧制御が発生したものとする。時点t31以降、実キャリパ圧であるキャリパ圧Pccが減圧する。
【0107】
キャリパ圧推定手段96は、時点t31から減圧する推定キャリパ圧Peccを算出し、時点t32にて、推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccthを下回ったとき、フェールカウンタ102のカウントを開始させる。フェールカウンタ102のカウント値Cfがカウント閾値Cth2になった時点t33にて、制御液圧であるキャリパ圧PccがPcc≒0とみなされる異常状態になったものと判定される(異常判定の正しい判定が成立)。このようにすれば、偶発的な誤作動を正しく判定することができる。
【0108】
・判定中断条件の説明
次に、この第2実施例について、上述した判定中断条件(車輪減速度微分値Daw>Dawth)に関して図8のタイムチャートを参照して説明すると、時点t41にて、通常制御下(入口弁61が開弁状態、出口弁62が閉弁状態)でブレーキペダル20に踏力が加えられると、時点t41以降、実キャリパ圧であるキャリパ圧Pccが比例的に増圧される。
【0109】
その後、時点t42にて、車輪速度Vwの急減に対応して液圧制御が開始され、入口弁61が閉弁状態、出口弁62が減圧パルスによる開弁状態である減圧モードに制御される。
【0110】
一方、車輪速度Vwは、時点t41までの一定速度の状態から時点t41から時点t42の間で負の一定勾配で減速し、さらに、時点t42から時点t43の間で負の一定勾配が大きくなって減速し、時点t43から時点t44の間では一定速になる。
【0111】
車輪減速度Awは、時点t41までのゼロ値の状態から時点t41から時点t42の間で負の一定値となり、さらに、時点t42から時点t43の間で負の一定値が大きくなり、時点t43から時点t44の間ではゼロ値になる。
【0112】
したがって、車輪減速度微分値Dawは、車輪減速度Awの変化(遷移)した時点において、変化量(遷移量)に応じた、負の方向に変化した時点t41、t42では、負方向のパルス的変化となり、正の方向に変化した時点t43、時点t44では、正方向のパルス的な変化になる。
【0113】
車輪減速度微分値Dawの正方向のパルス的な変化が所定閾値Dawthを上回っている(Daw>Dawth)間(すなわち判定中断条件が成立している間)には、フェールカウンタ102のリセットパルスRpが発生し、フェールカウンタ102がリセットされ、カウント値Cfがリセット(Cf=0)される。
【0114】
そのため、時点t44にて、推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccthを下回ったとしてもフェールカウンタ102のカウントが開始されない。フェールカウンタ102は、Pecc<Pccthが成立中の時点t45(Pecc<Peccth and Daw≦Dawth)にて判定中断条件が不成立になるとカウントが開始される。
【0115】
時点t45から時点t46まで車輪速度Vwが回復し、時点t46から時点t47まで車輪速度Vwの回復速度が増加すると、時点t45から時点t46まで車輪減速度Awは、正の一定値となり、時点t46から時点t47まではさらにおおきな正の一定値になる。時点t48から車輪速度Vwは、再び減速状態になる。
【0116】
車輪減速度微分値Dawは、時点t46から時点t47の間で所定閾値Dawthを上回る。
【0117】
したがって、フェールカウンタ102のカウント値Cfは、時点t45から時点t46までは増加するが、その時点t46で判断中断条件が成立するためリセットされる。時点t46から時点t47までは、フェールカウンタ102は、リセットパルスRpによりリセットされ、カウントを開始しない。
【0118】
時点t47にて判定中断条件が不成立(Pecc<Pccth and Daw>Dawth不成立)になると、フェールカウンタ102はカウントを開始するが、時点t49にて、Pecc>Pccthとなる(ステップS22:NO対応)ので、再びリセットされる。
【0119】
このように、推定キャリパ圧Peccの推定精度が一時的に低下してしまい、時点t44から時点t49の間で、推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccthを下回っていても、時点t46から時点t47の間でフェールカウンタ102がリセットされる(ステップS23対応)ので、時点t48にてフェールカウンタ102がカウント閾値Cth2を上回ることがなく、異常判定の誤判定が抑制される。
【0120】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、上述した実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置10は、車輪ブレーキFR、RLに作用する制御液圧としてのキャリパ圧Pccを制御する入口弁51、61と出口弁52、62とを有し液圧源としてのマスタシリンダ12と車輪ブレーキFR、RLとの間に設けられた制御弁ユニット30と、制御弁ユニット30及びモータ72を制御するプログラムと該プログラムにより参照されるデータとを記憶するメモリを有するECU16と、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因としてキャリパ圧Pccに異常が生じているか否かを判定する圧力異常判定手段90と、車輪の減速度である車輪減速度Awを算出する車輪減速度算出手段94と、車輪減速度Awを微分して車輪減速度微分値Dawを算出する車輪減速度微分値算出手段(微分値算出手段)としての微分手段95と、を備え、前記液圧制御における減圧制御後に、微分手段95によって算出された車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きい場合、圧力異常判定手段90による判定を中断するようにしている。
【0121】
このように、液圧制御における減圧制御後に、車輪減速度Aw{(現在の車輪速度−微小時間前の車輪速度)/微小時間}の微分値である車輪減速度微分値Daw{(現在の車輪減速度−微小時間前の車輪減速度)/微小時間}が所定閾値Dawthより大きいということは、車輪減速度Awの増加量が大きいということである。車輪減速度Awの増加量が大きいということは、車輪速度Vwが増加傾向にあるということであるから、減速制御開始直前までは車輪にかかっていた制動力が弱まったと判定できる。
【0122】
つまり、減圧までは制御液圧による制動力が車輪にかかっていたと言える。従って、減圧までは制御液圧に異常が生じていなかったと判断できるので、液圧制御における減圧制御後に、微分手段95によって算出された車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きい場合、圧力異常判定手段90による判定を中断することで、制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【0123】
例えば、EBD機能等が作用して保持時間が長くなったとしても、制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【0124】
このようにこの実施形態によれば、液圧制御における減圧制御後に、車輪減速度Awの変化を表す車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawth以上であるか否かを判定することで制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているか否かを判定するという簡易な構成で、車輪ブレーキFR、FLに作用する制御液圧の異常の有無の誤判定を抑制することができる。
【0125】
また、圧力異常判定手段90は、液圧制御中に、入口弁51、61の閉弁後に前記制御液圧としてのキャリパ圧Pccの低下開始(図3の時点t2)からフェールカウンタ102によるカウントを開始することで時間を計時し、圧力異常判定手段90による判定の前記中断がされないまま、計時時間が第1閾値時間Cth1を上回ったとき、制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているとみなす(時点t4)。その一方、車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きい(Daw>Dawth)と判定された場合には、前記計時時間をリセットする(図5のリセットパルスRpの波形参照)。
【0126】
このように、液圧制御中に、例えば、入口弁51、61閉弁後の保持時間が長くなったとしても、入口弁51、61閉弁後の制御液圧としてのキャリパ圧Pccの低下後(図3の時点t2)からの計時時間(又はカウント値Cf)が、圧力異常判定手段90による判定の前記中断処理がされないまま、第1閾値時間Cth1を上回った(時点t4)とき、キャリパ圧Pccに異常が生じているとみなす。その一方、車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きいと判定された(図5のリセットパルスRpの発生期間参照)場合には計時時間(又はカウント値Cf)がリセットされるので、プログラムとデータの偶発的な書き換わりを原因として制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【0127】
さらにまた、圧力異常判定手段90は、液圧制御中に、車輪ブレーキFR、FLに作用する制御液圧であるキャリパ圧Pccを推定し、推定キャリパ圧Peccが液圧閾値であるキャリパ圧閾値Pccthより低下(図7の時点t32、図8の時点t44)後からの時間をフェールカウンタ102によりカウント(計時)し、カウント値Cf(計時時間)がカウント閾値Cth2(第2閾値時間)を上回ったとき、制御液圧としてのキャリパ圧Pccに異常が生じているとみなす(図7の時点t33)。その一方、車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きいと判定された場合には、前記計時時間(カウント値)をリセットする(図8の時点t46〜t47間のリセットパルスRp参照。)ので異常判定の誤判定が抑制される。
【0128】
例えば、一時的なノイズ等によって一時的に制御液圧としてのキャリパ圧Pccの推定精度が低くなり、推定キャリパ圧Peccがキャリパ圧閾値Pccthより低下したとしても、推定キャリパ圧Peccのキャリパ圧閾値Pccthより低下後(図7の時点t32参照)からの時間を計時し(フェールカウンタ102でのカウントを開始し)、計時時間(カウント値Cf)が第2閾値時間(カウント閾値Cth2)を上回った(時点t33)とき、キャリパ圧Pccに異常が生じているとみなす。その一方、車輪減速度微分値Dawが所定閾値Dawthより大きいと判定された場合には、前記計時時間(カウント値)がリセットされるので、前記プログラムと前記データの偶発的な書き換わりを原因として前記制御液圧に異常が生じているとする誤判定を抑制できる。
【0129】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0130】
10…車両用ブレーキ液圧制御装置 12…マスタシリンダ(液圧源)
14…アクチュエータ 16…ECU
19…車輪速センサ 30…制御弁ユニット
51、61…入口弁 52、62…出口弁
90…圧力異常判定手段 94…車輪減速度算出手段
95…微分手段 96…キャリパ圧推定手段
102…フェールカウンタ Aw…車輪減速度
Daw…車輪減速度微分値 FR、RL…車輪ブレーキ
Pcc…キャリパ圧 Pd…減圧量
Pecc…推定キャリパ圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8