(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1は車両に搭載される電動ファンを背面側から見た平面図を、
図2は
図1の電動モータの内部構造を示す断面図を、
図3は
図2の回転軸およびコンミテータを示す斜視図を、
図4は実施の形態1のセグメント(打ち抜き加工後)を示す平面図を、
図5は
図4のA−A線に沿う部分拡大断面図を、
図6はライザ部の折り曲げ加工を説明する斜視図を、
図7は変形例のセグメントを示す
図4に対応した平面図を、
図8(a)は実施の形態1、(b)は変形例、(c)は比較例のコイルの接続状態をそれぞれ示す拡大断面図を、
図9(a)は実施の形態1、(b)は変形例のコイルの表面を観察した模式図を、
図10は実施の形態2のコンミテータを示す斜視図を、
図11は
図10のB−B線に沿う部分拡大断面図をそれぞれ示している。
【0018】
[実施の形態1]
図1に示される電動ファン10は、車両(図示せず)の前方側に設けられたラジエータに向けて空気を送風するものである。これにより、エンジンを冷却する冷却水の温度が下げられて、オーバーヒート等が未然に防止される。電動ファン10は、複数の羽根11a(本実施の形態では5つ)を備えたファン11を有している。なお、ファン11は、プラスチック等の樹脂材料により形成され、軽量化が図られている。また、ファン11の回転中心には、略椀形状に形成されたファン本体11bが一体に設けられている。そして、ファン本体11bの回転中心には、ファンモータ20の回転軸21の先端部が、固定ナット等(図示せず)により相対回転不能に固定されている。
【0019】
ここで、ファンモータ20は、長手方向両側に一対のコネクタ12,13がそれぞれ設けられたワイヤハーネス14を介して、車両側の車載コントローラ15に電気的に接続されている。そして、車載コントローラ15は、冷却水の温度情報(水温センサ等からの信号)に基づいて、ファンモータ20を駆動させたり停止させたり制御する。
【0020】
図2に示されるように、ファンモータ20は、断面が円形の丸鋼棒よりなる回転軸21を有し、減速機構等を備えない1軸の電動モータとなっている。また、ファンモータ20は、その直径寸法よりも回転軸21の軸方向に沿う厚み寸法の方が短い扁平型となっている。これにより、電動ファン10(
図1参照)の軸方向への大型化(肉厚化)が抑えられて、種々の車両への搭載性を向上させている。なお、ファンモータ20の周囲には、
図1に示されるように、ブラケット16(
図1参照)が固定され、当該ブラケット16は、3箇所の固定脚16aにより車両側の固定部(図示せず)に固定される。すなわち、ファンモータ20は、ブラケット16を介して車両側の固定部に固定される。
【0021】
ファンモータ20は、
図2に示されるように、鋼板をプレス加工等することで有底筒状に形成されたヨーク(モータケース)22を備えている。ヨーク22は底壁部22aと、当該底壁部22aから垂直に立ち上げられた側壁部22bと、を有している。底壁部22aは、略円盤状に形成され、その中心部分には、略筒状に形成された第1軸受装着部22cが設けられている。この第1軸受装着部22cには、回転軸21の軸方向先端側を回転自在に支持する第1軸受23が装着されている。なお、第1軸受23には、外輪(アウターレース),内輪(インナーレース)および複数の鋼球(ボール)を備えたボールベアリングが採用されている。ただし、ボールベアリングに換えて、鋼球を備えていない「すべり軸受」を採用することもできる。
【0022】
側壁部22bは筒状に形成され、その径方向内側には4つの永久磁石24(
図2では2つのみ示す)が装着されている。これらの永久磁石24は、回転軸21の軸方向と交差する方向に沿う断面形状が略円弧形状に形成され、ヨーク22の周方向に等間隔(90度間隔)で配置されている。つまり、ファンモータ20は、4極の電動モータとなっている。
【0023】
4つの永久磁石24の内側には、回転子としてのアーマチュア25が所定の隙間(エアギャップ)を介して回転自在に設けられている。つまり、アーマチュア25は、ヨーク22の内部に回転自在に収容されている。また、アーマチュア25は、アーマチュアコア26を備えており、このアーマチュアコア26は、複数の鋼板(磁性材料)を積層することで略円柱形状に形成されている。
【0024】
アーマチュアコア26には、複数のスロット(図示せず)が形成され、これらのスロット数は、本実施の形態では10個(10スロット)に設定されている。そして、これらのスロットには、インシュレータ(絶縁部材)27を介して、所定の巻き方および巻き数で、アルミニウム製のコイル(巻線)28が巻装されている。ここで、コイル28の表面には、絶縁性を有する被膜28a(
図9中網掛部分)が設けられている。この被膜28aは、コイル28の製造段階において、当該コイル28の表面にエナメル塗料を塗布することで形成される。
【0025】
アーマチュアコア26の回転中心には、回転軸21の軸方向に沿う略中央部が固定されている。すなわち、回転軸21は、アーマチュアコア26の回転に伴って回転される。また、回転軸21の軸方向先端側には第1軸受23が装着され、回転軸21の軸方向基端側には第2軸受29が装着されている。なお、第2軸受29においても、第1軸受23と同様にボールベアリングが採用されている。ただし、第2軸受29においても、ボールベアリングに換えてすべり軸受を採用することができる。
【0026】
ここで、第1軸受23の方が、第2軸受29よりも大型となっている。これは、回転軸21の先端部にファン11(
図1参照)が固定され、ファン11の回転ブレに伴う振動が、回転軸21の先端部に伝達され易いからである。すなわち、第1軸受23を大型(高剛性)とすることで、ファン11の回転ブレに対する耐久性が高められている。
【0027】
回転軸21の先端部には、当該回転軸21にファン11を固定するための固定ナット(図示せず)がねじ結合される雄ねじ部21aが設けられている。また、回転軸21の軸方向基端側で、かつアーマチュアコア26と第2軸受29との間には、略円筒形状に形成されたコンミテータ(整流子)40が固定されている。そして、コンミテータ40の外周部分には、合計4つのブラシ30(図示では2つのみ示す)が摺接されるようになっている。このように、ファンモータ20は、4つのブラシ30を有するブラシ付きの電動モータとなっている。
【0028】
4つのブラシ30は、それぞれブラシホルダ31に保持されており、このブラシホルダ31は、ヨーク22の軸方向に沿う底壁部22a側とは反対側の開口部22dに装着されている。ここで、ヨーク22の開口部22dは、鉄板等をプレス加工してなるカバー部材32によって閉塞されている。つまり、ブラシホルダ31は、カバー部材32によって覆われている。なお、カバー部材32の中心部分には、略筒状に形成された第2軸受装着部32aが設けられている。この第2軸受装着部32aには、回転軸21の軸方向基端側を回転自在に支持する第2軸受29が装着されている。
【0029】
ブラシホルダ31は、プラスチック等の樹脂材料により略円盤状に形成され、その中心部分には、コンミテータ40の軸方向基端側(図中下側)の一部が、非接触の状態で挿入された貫通孔31aが形成されている。これにより、各ブラシ30をコンミテータ40の所定箇所(ブラシ摺接部43)に対向させつつ、ファンモータ20の軸方向寸法を詰められるようにしている。
【0030】
ブラシホルダ31には、4つのブラシ30に対応して、4つのブラシボックス31b(図示では2つのみ示す)が設けられている。これらのブラシボックス31bの内側には、それぞれブラシ30がコンミテータ40に向けて、移動自在に収容されている。ここで、各ブラシボックス31bの内側で、かつ各ブラシ30の背面側には、それぞれブラシスプリング33が設けられている。これらのブラシスプリング33は、ブラシ30をコンミテータ40に向けて所定圧で押圧するもので、これによりコンミテータ40が高速で回転したとしても、各ブラシ30をコンミテータ40に対して確実に電気的に接触させることができる。
【0031】
また、ブラシホルダ31には、一対のチョークコイル34や、その他、コンデンサ等の電子部品(図示せず)が装着されている。なお、一対のチョークコイル34等は、ブラシ30が発生する電気ノイズを吸収して、当該電気ノイズがファンモータ20の外部に放散されるのを防止する。すなわち、これらのチョークコイル34は、雑防素子として機能する電子部品である。
【0032】
図2および
図3に示されるように、コンミテータ40は、絶縁性を有する本体部41と、本体部41の径方向外側に設けられ、当該本体部41の周方向に複数並べられたセグメント(整流子片)42とを備えている。
【0033】
本体部41は、溶融したプラスチック等の樹脂材料を射出成形することで略円筒形状に形成され、その径方向内側には回転軸固定穴41aが形成されている。回転軸固定穴41aには、回転軸21が圧入等により固定されている。また、本体部41の径方向外側には、複数のセグメント42が固定されるセグメント固定壁41bが形成されている。そして、複数のセグメント42は、本体部41を射出成形する際に、セグメント固定壁41bに一体化されるようになっている。
【0034】
本体部41の軸方向基端側(
図2中下側)には、収容凹部41cが設けられている。この収容凹部41cは、本体部41の軸方向先端側(
図2中上側)に所定の深さで窪んで設けられ、その内部には、第2軸受装着部32a(第2軸受29)の一部が非接触の状態で入り込んでいる。このように、コンミテータ40の軸方向基端側に、第2軸受装着部32aの一部を入り込めるようにして、ファンモータ20の軸方向寸法を詰めている。
【0035】
本実施の形態のコンミテータ40では、20個のセグメント42を備えている。これらのセグメント42は、導電性に優れた銅製となっている。セグメント42には、複数(4つ)のブラシ30がそれぞれ摺接されるブラシ摺接部43と、アーマチュアコア26に巻装されたコイル28が電気的に接続されるライザ部44と、が設けられている。
【0036】
ブラシ摺接部43は、コンミテータ40の軸方向に沿う略2/3の部分を占めており、ブラシ摺接部43の先端側(
図3中下側)に、ライザ部44のライザ本体44aが一体に接続されている。ライザ本体44aには、先端側が屈曲されたコイルフック44bが一体に設けられ、このコイルフック44bにコイル28が引っ掛けられるようになっている。
【0037】
ここで、コイルフック44bは、ライザ本体44aに対して、コンミテータ40の径方向外側に略直角に折り曲げられている。つまり、各コイルフック44bの先端側は、コンミテータ40を中心に放射状にそれぞれ延在されている。これにより、コンミテータ40の軸方向寸法が大きくなるのを抑えて、回転軸21の軸方向に沿うファンモータ20の厚み寸法を詰めている。
【0038】
次に、ライザ部44の詳細構造について、図面を用いて説明する。
【0039】
図4に示されるように、複数のセグメント42は、それぞれ銅板をプレス加工等することで形成され、各セグメント42の製造初期の段階においては、それぞれが繋げられて板状となっている。なお、
図4において、各セグメント42を横切る第1破線L1は、ブラシ摺接部43とライザ部44との境界部分を示している。また、第2破線L2は、ライザ本体44aとコイルフック44bとの境界部分を示している。さらに、第3破線L3は、コイルフック44bの内側を形成する第1面S1と第2面S2との境界部分を示している。
【0040】
図4に示されるワークWは、銅板をプレス加工等した後の状態を示す製造初期の段階を示しており、ワークWの長手方向(図中左右方向)に沿うブラシ摺接部43の幅寸法よりも、ライザ部44の幅寸法の方が幅狭になっている。なお、
図4におけるワークWの手前側の面は、各ブラシ30(
図2参照)が摺接される側であり、かつコイル28(
図2参照)が引っ掛けられる側となっている。
【0041】
そして、コイル28が引っ掛けられる側で、かつコイルフック44bの第1面S1および第2面S2には、複数の溝部45および複数の平坦部46が設けられている。これらの溝部45および平坦部46は、ワークWの長手方向に延在され、かつワークWの長手方向と交差する短手方向に互いに交互に並べられている。すなわち、平坦部46は、溝部45と溝部45との間に配置されている。
【0042】
ここで、溝部45および平坦部46は、銅板をプレス加工等して
図4に示されるワークWを形成する際に、図示しない打ち抜き金型により、所謂「平目ローレット」として同時に形成される。ただし、この平目ローレットを形成するタイミングは、ワークWを打ち抜く工程の後に行われる別の工程であっても良い。このように、ワークWのうちのコイルフック44bの第1面S1および第2面S2の部分は、ローレット加工品となっている。
【0043】
複数の溝部45および複数の平坦部46(平目ローレット加工の部分)は、より詳しくは、
図5に示すような形状となっている。すなわち、ワークWの短手方向に沿う溝部45の断面形状は、略三角形形状に形成され、溝部45は、平坦部46(第1面S1,第2面S2)からワークWの板厚方向に窪むようにして設けられている。なお、ワークWの板厚方向に沿う平坦部46の高さ位置は、第1面S1および第2面S2の高さ位置と同じ高さ位置になっている。
【0044】
図5に示されるように、ワークWの短手方向(図中左右方向)に沿う溝部45の幅寸法W1は、ワークWの短手方向に沿う平坦部46の幅寸法W2よりも幅狭に設定されている。具体的には、溝部45の幅寸法W1は、平坦部46の幅寸法W2の略半分の幅寸法に設定されている(W1≒1/2×W2)。すなわち、第1面S1および第2面S2における平坦部46の占める割合の方が、第1面S1および第2面S2における溝部45の占める割合よりも大きくなっている。
【0045】
そして、
図8に示されるように、ライザ部44にコイル28をヒュージング(熱かしめ)により電気的に固定した後の状態において、第1面S1および第2面S2は、互いに対向するように配置されている。そのため、ライザ部44にコイル28をヒュージングする際に、コイル28が各溝部45に入り込み、ひいてはコイル28のライザ部44に対する結合強度が高められる。また、コイル28の多くの部分は各平坦部46により挟持されているので、コイル28が切断される等の不具合の発生が確実に防止されている。
【0046】
ここで、本実施の形態においては、
図4に示されるように、コイルフック44bの内側に配置される第1面S1および第2面S2の全域(全体)に、溝部45および平坦部46が設けられている。これにより、コイル28をライザ部44にヒュージングする際に、コイル28のライザ部44に対する引っ掛け位置が多少ずれたとしても、コイル28を確実に各溝部45に入り込ませることができる。すなわち、ヒュージング時に発生し得るばらつき(接続不良等)を、より確実に抑えられるようにしている。
【0047】
ただし、コイル28のライザ部44に対する位置決めを精度良くできるのであれば、第1面S1および第2面S2の全域に溝部45および平坦部46を設けなくても済む。具体的には、少なくとも第1面S1および第2面S2のコイル28との対向部分に設ければ足りる。この場合、ライザ部44の強度低下を抑制することができる。
【0048】
次に、以上のように形成されたコンミテータ40の組み立て手順について、図面を用いて詳細に説明する。
【0049】
[打ち抜き加工(プレス加工とローレット加工)]
まず、所定の厚みおよび所定の大きさに設定された銅板を準備する。次いで、準備された銅板を、図示しないプレス成形機に投入する。すると、
図4に示すような、プレス加工とローレット加工(平目ローレット)とが同時に施されたワークWが形成される。これにより、打ち抜き加工が終了する。
【0050】
[ライザ部の折り曲げ加工]
次に、
図4に示されるワークWを、図示しない折り曲げ装置にセットする。折り曲げ装置を駆動させると、
図6に示されるように、ライザ部44の先端側にあるコイルフック44bが屈曲される。より具体的には、第1面S1と第2面S2との境界部分である第3破線L3を中心に、破線矢印M1に示されるように、第1面S1と第2面S2とが互いに向き合うようコイルフック44bが屈曲される。このとき、後工程においてコイル28(
図2参照)を引っ掛け易くするために、第1面S1に対する第2面S2の相対角度は約45度とされる。
【0051】
次いで、コイルフック44bの基端側の部分が、ライザ本体44aとコイルフック44bとの境界部分である第2破線L2を中心に、破線矢印M2に示されるように屈曲される。このとき、ライザ本体44aに対するコイルフック44bの基端側の部分の相対角度は直角(90度)とされる(
図3参照)。これにより、ライザ部44の折り曲げ加工が終了する。
【0052】
[筒状加工]
引き続き、折り曲げ装置を駆動させることにより、ワークWを筒状に折り曲げ加工する。具体的には、コイルフック44bが径方向外側を向くように、ワークWが筒状に折り曲げられる。これにより、径方向外側に複数(20個)のコイルフック44bが放射状に延在された筒状のワークW(図示せず)が形成され、筒状加工が終了する。
【0053】
[射出成形]
次に、筒状に形成されたワークWを、射出成形装置の金型(図示せず)にセットする。その後、射出成形装置を駆動させて、金型の内部(キャビティ)に溶融された樹脂材料を充填していく。これにより、ワークWの内側に溶融樹脂が充填され、ワークWの径方向内側に絶縁性を有する筒状の本体部41(
図2および
図3参照)が形成される。その後、樹脂材料を冷却して硬化させることで、ワークWと本体部41とを一体化させる射出成形(ホットメルトモールディング)が終了する。
【0054】
[切断加工]
その後、本体部41が一体化されたワークWの径方向外側に、図示しない切断機を臨ませて、コイルフック44bの1つ1つに対応させて、ワークWをその軸方向に切断し、20個のセグメント42(
図3参照)を形成していく。このとき、回転する切断刃(図示せず)に対して、ワークWをその軸方向に移動させるようにする。また、切断刃のワークWに対して入り込む深さは、本体部41にまで入り込む深さとする。これにより、切断加工が終了して、コンミテータ40が完成する。なお、
図3に示される符号CUが、切断刃によって切断された部分(切り込み部分)を示している。
【0055】
[アーマチュアサブアッシーの組み立て]
次に、アーマチュアコア26が固定された回転軸21(
図2参照)を準備するとともに、上述の各工程で形成されたコンミテータ40を準備する。その後、コンミテータ40の軸方向に沿うコイルフック44b側をアーマチュアコア26側に向けた状態で、コンミテータ40を回転軸21に固定する。このとき、回転軸21を本体部41の回転軸固定穴41a(
図2参照)に圧入することで、回転軸21の軸方向に沿う規定の位置に本体部41を位置決めする。これにより、アーマチュアサブアッシー(コイル28が巻装されていないもの)が完成する。
【0056】
[巻線作業]
次いで、図示しない巻線機にアーマチュアサブアッシーをセットして、巻線機を作動させる。これにより、所定の巻き方および巻き数でコイル28(
図2参照)がアーマチュアコア26のスロットに巻装され、かつ、コンミテータ40のコイルフック44bにコイル28が引っ掛けられていく。その後、全てのスロットおよびコイルフック44bにコイル28が行き渡ったところで、巻線作業が終了する。なお、これらの一連の巻装作業は、巻線機により自動で行われるため、コイル28の巻き具合が製品毎にばらつくことは無い。
【0057】
[ヒュージング加工]
次に、コイルフック44b(銅製)とコイル28(アルミニウム製)とを電気的に接続する。具体的には、コイル28が巻装されたアーマチュアサブアッシーを熱かしめ装置(図示せず)にセットし、その後、熱かしめ装置に設けられた一対の電極(図示せず)を作動させて、各電極間にコイルフック44bを挟み込む。これにより、第1面S1と第2面S2との双方にコイル28が密着される。その後、当該状態で各電極に所定電圧を負荷する。すると、
図8(a)に示されるように、コイル28が熱で溶融され、コイル28の一部が溝部45に入り込む。これにより、コイル28のコイルフック44bに対する固定強度が十分に確保される。
【0058】
ここで、
図8(a)に示されるように、本実施の形態に係る「平目ローレット」においては、ヒュージング後におけるコイル28の最大厚み寸法はt1となっており、
図8(c)の「ローレット無し」の比較例の場合におけるコイル28の最大厚み寸法t3よりも大きくなっている(t1>t3)。したがって、銅製のセグメント42に対するアルミニウム製のコイル28の固定強度不足が十分に解消され、従前に比して構造を簡素化することができ、十分に実用可能であることが判った。
【0059】
また、ヒュージング後のコイル28の表面を観察すると、
図9(a)に示されるような結果が得られた。具体的には、
図9(a)に示されるように、コイル28の表面にある絶縁性を有する被膜28aが十分に除去されて、コイル28とコイルフック44b(
図6参照)とが確実に電気的に接続されていることが判った。ここで、ヒュージングにより溶融された被膜28aは、その殆どが溝部45(
図6参照)を介してコイルフック44bの外部に排出されたことが判った。
【0060】
なお、本実施の形態のような「平目ローレット」に限らず、
図7に示されるような「アヤ目ローレット」(変形例)であっても良い。具体的には、コイルフック44bの内側を形成する第1面S1および第2面S2に、互いに交差する複数の溝部45を設けるようにする。そして、これにより、溝部45と溝部45との間には、略菱形形状の平坦部46(図中網掛部分)が配置されることになる。ただし、
図7に示される「アヤ目ローレット」の場合においても、第1面S1および第2面S2における平坦部46の占める割合の方を、第1面S1および第2面S2における溝部45の占める割合よりも大きくする。
【0061】
また、
図8(b)に示されるように、「アヤ目ローレット」においても、ヒュージング後におけるコイル28の最大厚み寸法は、
図8(c)の「ローレット無し」の比較例の場合におけるコイル28の最大厚み寸法t3よりも大きいt2となっている(t2>t3)。したがって、上述した「平目ローレット」の場合と同様に、セグメント42に対するコイル28の固定強度不足が十分に解消され、従前に比して構造を簡素化することができ、十分に実用可能であることが判った。
【0062】
さらに、ヒュージング後のコイル28の表面を観察すると、
図9(b)に示されるような結果が得られた。具体的には、
図9(b)に示されるように、「アヤ目ローレット」においても、コイル28の被膜28aが十分に除去されて、コイル28とコイルフック44bとが確実に電気的に接続されていることが判った。また、ヒュージングにより溶融された被膜28aは、その殆どが溝部45を介してコイルフック44bの外部に排出されたことが判った。
【0063】
なお、
図9(b)に示される「アヤ目ローレット」の方が、溝部45への食い込み部分が網目状に形成されるため、「平目ローレット」に比して、コイル28のコイルフック44bに対するがたつきの発生を、より抑えることが可能である。
【0064】
[ブラシ摺接部の成形(表面仕上げ)]
ヒュージング加工の後は、ブラシ摺接部43(
図3参照)の表面を仕上げる処理が行われる。具体的には、コンミテータ40を回転させつつ、ブラシ摺接部43の表面を切削する。これにより、ブラシ摺接部43の真円度が確保され、ファンモータ20を高速で回転させたとしても、各セグメント42に対する各ブラシ30の安定接触を可能とする。このように、ブラシ摺接部43は、各セグメント42の表面を切削することで仕上げられるので、
図3に示すように、ブラシ摺接部43は、最終的にライザ本体44a(ライザ部44)から本体部41の径方向内側に窪んだ位置に設けられている。
【0065】
ただし、このブラシ摺接部43の平坦部46からの窪み量は、複数の溝部45の平坦部46からの窪み量(深さ寸法)よりも小さく設定されている。これにより、ブラシ摺接部43の強度が低下することを抑制している。
【0066】
以上詳述したように、本実施の形態に係るコンミテータ40によれば、銅製のライザ部44に、アルミニウム製のコイル28を挟持する第1面S1および第2面S2が設けられ、第1面S1および第2面S2のコイル28との対向部分に、第1面S1および第2面S2から窪んだ複数の溝部45、および溝部45と溝部45との間に配置された複数の平坦部46が設けられている。
【0067】
したがって、溝部45にコイル28の一部を食い込ませることができ、その分、第1面S1と第2面S2との間でのコイル28の厚み寸法t1が十分に確保され、ライザ部44とコイル28との接続強度を高めることができる。よって、セグメント42の構造を複雑化させること無く、アルミニウム製のコイル28を採用できるようになり、ひいては製造コストの上昇を抑えることができる。
【0068】
また、本実施の形態に係るコンミテータ40によれば、第1面S1および第2面S2における平坦部46の占める割合の方が、第1面S1および第2面S2における溝部45の占める割合よりも大きいので、ヒュージングの際に、コイル28が切断される等の不具合が発生することを確実に防止することができる。
【0069】
さらに、本実施の形態に係るコンミテータ40によれば、第1面S1および第2面S2の全体に、溝部45および平坦部46が設けられているので、コイル28のライザ部44に対する引っ掛け位置が多少ずれたとしても、コイル28を確実に各溝部45に入り込ませることができる。よって、ヒュージングの際に発生し得るばらつきを無くして、歩留まりを向上させることができる。
【0070】
[実施の形態2]
図10および
図11に示すように、実施の形態2に係るコンミテータ50は、実施の形態1のコンミテータ40(
図3参照)に比して、銅製のセグメント51の数を10個にした点と、ライザ部52の形状を変更することでコンミテータ50の軸方向寸法をより詰められるようにした点と、が主に異なっている。つまり、実施の形態1のコンミテータ40よりも小型化に優れたものとなっている。
【0071】
なお、上述した実施の形態1と同一の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0072】
図11に示すように、ライザ部52のコイルフック52aの内側には、互いに対向される第1面S1と第2面S2とが設けられている。そして、詳細には図示しないが、第1面S1および第2面S2には、ローレット加工により「平目ローレット」(
図4参照)または「アヤ目ローレット」(
図7参照)が施されている。つまり、第1面S1および第2面S2は、ローレット形成面(図中破線部分)となっている。
【0073】
コイルフック52aの先端側、つまりコイルフック52aの長手方向に沿うブラシ摺接部43側とは反対側には、コイルフック52aに引っ掛けられたコイル28が、矢印Sに示されるように脱落するのを防止する引っ掛け爪52bが一体に設けられている。この引っ掛け爪52bは、コイルフック52aの先端側をブラシ摺接部43側に折り曲げることで形成されている。
【0074】
以上のように形成された実施の形態2に係るコンミテータ50においても、上述した実施の形態1のコンミテータ40と同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態2のコンミテータ50では、ライザ部52の折り曲げ加工時において、コイル28がコイルフック52aから脱落することを、より確実に防止することができる。
【0075】
したがって、ライザ部52の長さ寸法を短くすることができ、ひいてはコンミテータ50のさらなる小型化を実現できる。また、コイル28のコイルフック52aからの脱落が防止されるので、組み立て性を大幅に向上させて、歩留まりの向上を実現できる。さらに、コイル28のコイルフック52aからの脱落が防止されるので、図示のように2本のコイル28を引っ掛けることもでき、仕様の異なるファンモータ20に容易に対応することができる。
【0076】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態では、コンミテータ40,50を、ファンモータ20に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、車両に搭載されるワイパ装置やパワーウィンド装置等の車載機器の駆動源(電動モータ)に適用することもできる。
【0077】
その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。