(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1〜9により、図面を用いながら説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1である界磁巻線型同期電動機の外観図である。本実施例1は、数十MW級のLNGプラント等に適用され、駆動電源として三相交流電源が供給され、回転速度が750〜1800min
−1の範囲で回転する。
【0018】
図1に示すように、界磁巻線型同期電動機13は、回転機部3、回転機部3を冷却するための熱交換器15、並びに励磁用のACエキサイター4(本実施例では、ブラシレスACエキサイター)を備えている。回転機部3の筐体内部において、後述するような、回転子、固定子およびシャフトが配置されている。図示していないが、回転機部3の内部で冷却風を循環するためのファンが設けられる。ACエキサイター4は、回転子の界磁巻線に直流電流を通電して励磁するための装置である。熱交換器15は、回転機部3内の冷却風を熱交換するための装置であり、本実施例では水冷式の熱交換器であるが、空冷式の熱交換器を適用しても良い。
【0019】
図2は、実施例1における回転子および固定子の断面図である。
【0020】
図2に示すように、回転子8は、回転子鉄心26、回転軸となるシャフト9、および回転子鉄心26に巻装される界磁巻線10を備えている。界磁巻線10は、周方向に交互に極性が変わるように、巻線方向を変えて配置される。回転子鉄心26は、ダンパー効果を得るために、塊状鉄心としている。これにより、始動時のトルクを増加させることができる。なお、回転子鉄心26として、積層電磁鋼板を用いても良い。固定子5においては、固定子鉄心27が軸方向に電磁鋼板が積層されて構成され、固定子スロット6にはコイル7が設けられる。
【0021】
図2に示すように、実施例1では、回転子極数は4極、固定子スロット数は84個であるが、他の極数、スロット数でも良い。また、コイル7の巻線方法は分布巻や集中巻のいずれでも良い。
【0022】
図3は、実施例1における同期投入装置の回路構成を示す。以下、
図3を用いて回路動作を説明する。
【0023】
始動時、サイリスタ1はオフ状態である。よって、界磁巻線10はACエキサイター4を含む励磁回路から電気的に切り離されるが、界磁巻線10にはDR14(放電抵抗)が並列接続される。すなわち、界磁巻線10の両端はDR14を介して短絡される。これにより、始動時、固定子5に三相電圧を印加することで、界磁巻線10には誘導起電流が発生し、誘導電動機と同様の動作原理で始動できる。DR14を設けることで、誘導電動機において二次回路の抵抗によって始動トルクを調整できるのと同様に、始動トルクの低下を抑制することができる。
【0024】
ここで、サイリスタ1に代えて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGTO(Gate Turn Off)サイリスタなどの開閉装置を用いても良い。
【0025】
なお、本実施例1において、放電抵抗は固定抵抗によって構成される。
【0026】
次に、界磁巻線型同期電動機が同期速度付近まで加速されると、同期投入装置は、界磁巻線型同期電動機を同期運転に切り替えるために界磁投入動作を行う。ここで、ACエキサイター4の発電原理はいわゆる交流励磁式同期発電機と同様であり、ACエキサイター4の固定子側に励磁電流を流し、ACエキサイター4の回転子が回転機部3の回転子8と同軸に回転することにより、ACエキサイター4の回転子に発電電流が発生する。これにより、ブラシレスにて界磁巻線10に励磁電流を供給することができる。このような動作により、発電電流は、電動機が加速するに従い増加する。ACエキサイター4から流れる三相交流電流は、六個のダイオード11bから構成される三相ブリッジ型整流回路によって直流電流へ変換される。
【0027】
直流電流は、始動時、サイリスタ1がオフ状態であるため、界磁巻線10には通電されない。始動用制御回路30からサイリスタ1のゲートへ制御信号すなわちゲート駆動信号が発信されると、サイリスタ1はターンオンとなり、これにより界磁巻線10へ直流電流が通電される。
【0028】
サイリスタ1をターンオンする条件としては、始動特性の特長を検出して、同期速度付近でターンオンさせることが好ましい。そのため、始動用制御回路30には、サイリスタ1のカソード側から、始動時の誘導起電圧を入力信号として取り込む(a)。
【0029】
図4は、始動用制御回路30の入力信号となる誘導起電圧の波形例を示す。
【0030】
図4に示すように、始動時は電圧の振幅が大きく周波数も高い。これは誘導電動機のすべりが大きい状態と同様であり、同期速度(定格速度)に向けて加速して行くに従い、誘導起電圧23の振幅および周波数は共に減衰していく。従って、誘導起電圧23の振幅または周波数が予め設定される所定値以下に低下したことを検知すれば、回転速度が同期速度付近になり、同期運転へ切り替えるタイミングであることを検知することができる。
【0031】
図5は、始動用制御回路30の機能ブロック図を示す。
図5に示すように、始動用制御回路30は、主にピークホールド回路19、F/Vコンバータ20(Frequency/Voltageコンバータ)、時限設定回路33、信号発信回路28で構成される。各々の機能は次のとおりである。
【0032】
ピークホールド回路19は、入力された誘導起電圧23(
図4)のピーク値を検出する。ピークホールド回路19において、誘導起電圧23は端子aに入力され、電源は端子cに接続され、グランドは、入力および電源に対して共通の端子bに接続される。ピークホールド回路19の電源は、ACエキサイター4(
図3)の交流出力電圧がダイオード11b(
図3)を介して直流電圧に変換され、さらに抵抗18(
図3)とツェナーダイオード16b(
図3)から構成される定電圧回路を経て定電圧で供給される。検出した誘導起電圧の電圧値と、電圧設定34にて設定される電圧値とが比較器32で比較され、両電圧が同じになったら、比較器32は信号発信回路28に信号を出力する。
【0033】
F/Vコンバータ20は、すべりを検出する回路である。F/Vコンバータ20の入力、出力、電源、グラウンドはピークホールド回路19と共通である。F/Vコンバータ20は、すべりを電圧に変換し、周波数設定31にて設定される周波数と比較器32で比較し、両者が同じになったら、信号発信回路28に信号を出力する。
【0034】
これらピークホールド回路19側およびF/Vコンバータ20側により、回転速度が同期速度付近であること、すなわち同期運転に切り替えるタイミングであることが検出される。
【0035】
なお、上述したピークホールド回路19は電圧を検出できる機能を有するものであれば良い。また、F/Vコンバータ20も周波数を検出できる機能を有するものでれば良く、例えばカウンター機能を有した回路であれば、ゼロクロス点をカウントすることで、周波数とゼロクロス点を検出することが可能である。
【0036】
信号発信回路28は、ピークホールド回路19側およびF/Vコンバータ20側のいずれかから信号を入力すると、界磁巻線型同期電動機の運転状態を同期運転に切り替えるために、サイリスタ1をオンして界磁投入する制御信号を作成して出力する。これにより、同期運転に切り替えるタイミング検出の信頼性が向上する。なお、ピークホールド回路19側およびF/Vコンバータ20側のいずれか一方のみを設けるようにしても良い。
【0037】
ここで、予め設定される誘導起電圧の電圧値やすべりの周波数値に基づいて界磁投入を制御する詳細な理由は、次のとおりである。誘導電動機は始動時の負荷状態により、加速状態が異なり、これに伴いすべり周波数も変化していく。負荷状態を考慮し、適切な電圧振幅とすべりを設定して、これらに基づき界磁投入を制御することで、安定した始動特性を得ることができる。すなわち、電圧設定34および周波数設定31は適位相条件を設定する。
【0038】
図5における時限設定回路33は、クロック43、カウンター44、比較器、時限設定45で構成される。時限設定回路33においては、回路電源およびグランドが、それぞれ端子cおよびbに接続される。時限設定回路33は、誘導起電圧23を入力信号とすることなく、動作する。時限設定回路33に電源が印加される時点で、クロック43が起動し、クロック信号がカウンター44によってカウントされる。カウント数と、時限設定45にて予め設定される時間とが比較器32で比較され、両者が同じになったら、比較器は信号発信回路28に、制御信号を出力させるための指令信号を出力する。このような時限設定回路33を始動用制御回路30に設けることで、始動用制御回路30に回路駆動用の電源が供給されれば、後述するように、誘導起電圧23を検出することなく界磁投入することが可能となる。すなわち、時限設定回路33は、界磁巻線10の誘導起電圧の振幅あるいは周波数に関わらず、界磁巻線型同期電動機の回転速度が同期回転速度(定格回転速度)になるのに要する時間が経過したらACエキサイター4を界磁巻線10に接続する機能を備える。
【0039】
図5に示す始動用制御回路は、アナログ回路、デジタル回路、ソフトウェアによって制御される演算処理装置など各種の回路によって構成できる。また、これらの回路が混在しても良く、例えば、少なくとも時限設定回路33をFPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成し、他をアナログICなどによって構成しても良い。これにより、時限設定を任意に設定することが容易になる。
【0040】
図6は、始動用制御回路30が周波数設定に基づき動作する場合について、始動から界磁投入後までにおいて界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の波形例を示す。なお、
図6において、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0041】
界磁投入する位相として、
図6に示すように誘導起電圧が負極性側に切り替わるゼロクロス点に合わせて界磁投入すると適位相となる。界磁投入後は整流回路を介したACエキサイター側からの界磁電圧29に切り替わる。界磁電圧29が始動用制御回路30から出力された単一のパルスからなる制御信号により切り替わった直後に直流電圧に到達する。なお、ゼロクロス点検出機能は、ピークホールド回路19およびF/Vコンバータ20に持たせることができる。
【0042】
図7は、始動用制御回路30が電圧設定に基づき動作する場合について、始動から界磁投入後までにおいて界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の波形例を示す。なお、
図6と同様に、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0043】
図7に示すように、電圧設定の場合、周波数設定の場合とは異なり、電圧位相に関わらず界磁投入される。なお、設定電圧を適切に設定すれば、例えば、電動機の容量が数MW以上であれば、数十ボルト程度に設定すれば、すべりも小さい状態で界磁投入されるので、電圧位相に関わらず界磁投入できる。このときの条件式は次のとおりである。
S<(242/N)・(P
m/(GD
2・F))
1/2×100
P
m=S
n・(E・V/X
d)
ここで、S:すべり[%]、N:同期回転速度[min
−1]、GD
2:はずみ効果[kg・m
2]、F:同期周波数[Hz]、S
n:定格皮相出力[kVA]、E:無負荷誘起電圧[p.u]、V:電機子電圧[p.u]、X
d:d軸リアクタンス[p.u]。界磁投入時のすべりSが、上式を満足している場合、すなわち不等式の右辺において算出されるすべりより小さければ、電圧位相に関わらず界磁投入すること、すなわち非適位相投入が可能となる。また、界磁投入時のすべりが算出したすべりより大きい場合は、回転速度、トルク、固定子電流のいずれかが不安定となる。
【0044】
図6,7に示すように、誘導起電圧23を健全に検知できる場合には、始動用制御回路30は制御信号を出力し、界磁投入される。しかし、誘導起電圧23に異常が生じると、始動用制御回路30自体は正常であっても、始動用制御回路30は制御信号を出力できず、界磁投入されないことになる。このような場合を、
図8および
図9に示す。
【0045】
図8は、始動用制御回路30が検知する誘導起電圧23に異常が生じた場合における、界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の波形例を示す。なお、本
図8は、時限設定回路33(
図33)が設けられない場合であり、かつ周波数設定の場合である。
図6,7と同様に、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。図中には、電動機の回転速度も示す。従って、縦軸は回転速度も示す。
【0046】
図8においては、誘導起電圧23の周波数が設定された周波数になる前に、回転速度が同期速度まで急激に加速されている。この場合、図示のように、本来、誘導起電圧の周波数が設定周波数に到達した時に出力される出力信号(制御信号)(破線)が出力されない。このため、サイリスタ1(
図3)をターンオンできないので、界磁投入できない。
【0047】
図9は、誘導起電圧23に異常が生じた場合における、界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の他の波形例を示す。なお、本
図8は、時限設定回路33(
図33)が設けられない場合であり、かつ周波数設定の場合である。
図6,7と同様に、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0048】
図9においては、誘導起電圧23の周波数が設定された周波数になる前に、不具合等により誘導起電圧23が消失している。この場合も、
図8と同様に、出力信号(制御信号)(破線)が出力されない。このため、サイリスタ1(
図3)をターンオンできないので、界磁投入できない。なお、誘導起電圧23が消失する要因としては、例えば、検出信号経路における断線や、ピークホールド回路やF/Vコンバータ(例えば、アナログICによって構成される)の故障などがある。
【0049】
図5で示した時限設定回路33を設けることで、
図8,9のような状況のもとにおいても、始動用制御回路は制御信号を出力することができる。
【0050】
図10は、時限設定回路33が動作する場合における、界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の波形例を示す。
【0051】
図10に示すように、時間と共に界磁電圧は増加していく。始動用制御回路30は界磁電圧を電源としている。このため、時間がゼロ付近の場合、界磁電圧も小さいため、始動用制御回路30は起動しておらず、始動途中から起動する。時限設定45(
図5)には、始動用制御回路30が起動してからの所定時間が設定される。時限設定に設定される所定時間は、電動機が定常状態となり、
図10に示すように、すべりが小さい状態になるのに十分な時間とする。こうすることで、電圧位相に関わらず、非適位相で界磁投入することが可能になる。
【0052】
なお、本実施例1は、界磁巻線型電動機を他の電動機で回しながら発電機として検査する場合に、界磁投入を可能にする。特に無負荷飽和電圧を測定する場合、固定子の巻線端子を開放状態にするため、固定子5の界磁巻線10には誘導起電圧23が発生しない。このため、始動用制御回路30への入力信号が無い状態となるため、界磁投入できない。これに対し、本実施例1によれば、制御信号が出力されるための時限設定により、無負荷飽和電圧の測定時も始動用制御回路30から信号を出力し界磁投入することが可能となる。
【0053】
上述のように、本実施例1によれば、時限設定回路を設けることにより、始動制御回路への誘導起電圧の検出入力信号が消失した場合など、検出入力信号に異常がある場合でも確実に界磁投入ができる。従って、界磁巻線型同期電動機における界磁投入の信頼性が高くなる。
【実施例2】
【0054】
図11は、本発明の実施例2である界磁巻線型同期電動機における同期投入装置の回路構成を示す。なお、本実施例2の外観、並びに、回転子および固定子の断面図は、それぞれ
図1、並びに
図2に示す実施例1と同様である。以下、実施例1と異なる点について説明する。
【0055】
本実施例2の同期投入装置は、界磁投入後にDR14を電気的に切り離すための回路を備える。DR14は、前述のように、始動時のトルク低下を抑制するために設けられ、界磁投入後に電流が流れると電力損失を生じる。このため、電動機の効率低下や発熱を招く。そこで、本実施例2では、次に説明するように、界磁投入後はDR14が電気的に切り離される。
【0056】
本実施例2において、DR14は、サイリスタ2とダイオード11aの逆並列回路を介して、界磁巻線10と並列に接続される。すなわち、界磁巻線10の両端は、サイリスタ2とダイオード11aの逆並列回路を介して、DR14によって短絡される。サイリスタ2のカソード・ゲート間には、サイリスタ2に、ゲート信号として、界磁巻線10の誘導機電流をゲートに与えるために、ツェナーダイオード16aとダイオード11aの直列接続回路が接続される。
【0057】
始動時において、サイリスタ1はオフ状態であり、固定子5(
図2)に三相電圧が印加されると、界磁巻線10には発生する誘導起電圧が、抵抗17,DR14を介してツェナーダイオード16aに印加される。一定以上の逆方向電圧が加わると、ツェナーダイオード16aの降伏現象によりサイリスタ2のゲートに電流が流れる。これにより、サイリスタ2はターンオンし、プラス側の誘導電流がDR14に流れる。一方、マイナス側の誘導電流は、ダイオード11aを含む経路でDR14に流れる。
【0058】
ここで、一定以上の逆方向電圧は、誘導起電圧23(
図4)であり、
図4で示したように、始動時は電圧の振幅も大きく周波数も高い状態となる。そこで、ツェナーダイオード16aの電圧特性を、発生する誘導起電圧23に応じて選定すれば、同期速度付近でサイリスタ2をターンオフさせて、サイリスタ2を介してDR14に流れるプラス側の電流を遮断することができる。このように、始動してから同期速度付近までは、誘導起電流がDR14に流れ、同期速度付近になるとDR14には、ダイオード11aを介して誘導起電流のマイナス側の電流のみ流れる。
【0059】
界磁投入時に界磁巻線10には直流電流が流れるため、サイリスタ2をターンオフすれば、直流電流はダイオード11aに対しては逆方向電流となるため、DR14に電流は流れない。従って、界磁投入後に、DR14を界磁巻線10から電気的に切り離される。これにより、DR14により始動時のトルク低下を抑制しながらも、電動機の効率低下や発熱を防止することができる。
【0060】
なお、サイリスタ1に代えて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGTO(Gate Turn Off)サイリスタなどの開閉装置を用いても良い。
【実施例3】
【0061】
図12は、本発明の実施例3である界磁巻線型同期電動機における同期投入装置の回路構成を示す。なお、本実施例3の外観、並びに、回転子および固定子の断面図は、それぞれ
図1、並びに
図2に示す実施例1と同様である。また、本実施例3の同期投入装置においては、実施例2(
図11)と同様に、DR14は、サイリスタ2とダイオード11aの逆並列回路を介して、界磁巻線10と並列に接続されると共に、サイリスタ2のカソード・ゲート間には、サイリスタ2にゲート信号を与えるためにツェナーダイオード16aとダイオード11aの直列接続回路が接続される。
【0062】
以下、実施例2と異なる点について説明する。
【0063】
本実施例3においては、サイリスタ2とダイオード11aの並列接続回路とDR14との接続点と、ツェナーダイオード16aのカソード、すなわち抵抗17とツェナーダイオード16aとの接続点との間に、フィルターコンデンサ24が接続される。
【0064】
上述したように、サイリスタ1がターンオンすることで界磁投入される。界磁投入されると、ACエキサイター4からの三相交流電流が、六個のダイオード11bから構成される整流回路によって直流電流に変換されて界磁巻線10に供給される。
【0065】
図13は、整流回路が出力する直流電圧波形を示す。
【0066】
図13に示すように、直流電圧波形は三相全波整流のため、ACエキサイターの周波数の6倍の周波数でリップルが発生する。この波形から判るように、サージ電圧39が周期的に発生している。サージ電圧39の大きさは、直流電圧の平均値の数倍となる。サージ電圧39は、ダイオード11bの逆回復電流の影響により発生する。ダイオード11bには、交流電圧が印加されるので、順方向と逆方向にバイアス電圧が加わる。逆回復電流は、逆方向にバイアス電圧が加わった時に発生し、時間経過と共に減少する。この時の逆方向電流の減少率(di/dt)により、回路中の寄生インダクタンス(L)にサージ電圧39(L×(di/dt))が発生する。
【0067】
サージ電圧39はツェナーダイオード16aにも印加されるので、サージ電圧39が過大になると、ツェナーダイオード16aが降伏してサイリスタ2がターンオンし、切り離したDR14が再び界磁巻線10に接続される可能性がある。これに対し、本実施例3では、上述のようなフィルターコンデンサ24がローパスフィルタとして機能するため、サージ電圧39によるサイリスタ2の再ターンオンを防止することができる。
【0068】
サージ電圧39の周波数成分は直流リップル(周波数の6倍成分)よりも、更に高い周波数となるため、ACエキサイターの周波数に応じて、コンデンサの容量を適宜設定することが好ましい。さらに、ノイズ等の突発的な電圧変化に対しても、フィルターコンデンサ24がローパスフィルタとなるため(一般的にノイズは高周波)、サイリスタ2をオフ状態に維持し、DR14を界磁巻線10から確実に切り離すことができる。また、フィルターコンデンサ24としては、比較的経年変化の影響が小さいフィルムコンデンサを適用することが好ましい。さらに、本実施例3によれば、フィルターコンデンサ24を追加すればよいので、サージ電圧39によるサイリスタ2の再ターンオンを防止する機能を付加しながらも、部品点数の増加は抑制される。
【実施例4】
【0069】
図14は、本発明の実施例4である界磁巻線型同期電動機における同期投入装置の回路構成を示す。なお、本実施例4の外観、並びに、回転子および固定子の断面図は、それぞれ
図1、並びに
図2に示す実施例1と同様である。また、本実施例3の同期投入装置においては、実施例2(
図11)と同様に、DR14は、サイリスタ2とダイオード11aの逆並列回路を介して、界磁巻線10と並列に接続されると共に、サイリスタ2のカソード・ゲート間には、サイリスタ2にゲート信号を与えるためにツェナーダイオード16aとダイオード11aの直列接続回路が接続される。さらに、実施例3(
図12)と同様に、サイリスタ2とダイオード11aの並列接続回路とDR14との接続点と、ツェナーダイオード16aのカソード、すなわち抵抗17とツェナーダイオード16aとの接続点との間に、フィルターコンデンサ24が接続される。
【0070】
以下、実施例3と異なる点について説明する。
【0071】
図14に示すように、本実施例4においては、界磁巻線10に温度センサー35を取付けて、界磁巻線10の温度を検出する。温度センサー35からの信号は温度検出回路21へ入力され、予め設定される温度以上になった場合、サイリスタ1と界磁巻線10の間に設けられる開閉装置22をターンオフする。
【0072】
温度検出回路21において、温度センサー35からの信号は端子eへ入力され、電源は端子aに接続され、グランドは入力および電源に対して共通の端子bに接続される。温度センサー35からの信号に基づいて温度検出回路21は開閉装置22の制御信号を作成して端子fに出力する。この制御信号は開閉装置の制御端子に与えられると、開閉装置22は制御信号に応じてターンオンおよびターンオフする。なお、開閉装置22としては、オン・オフが可能な自己消弧形素子、例えばIGBTなどが適用される。
【0073】
図15は、温度検出回路21の内部構成を示す。
【0074】
図15に示すように、端子aに入力される温度センサー35からの信号は、増幅回路36によって増幅される。増幅回路36の駆動用電源は、ACエキサイター4(
図14)の交流出力電圧がダイオード11b(
図14)を介して直流電圧に変換され、さらに抵抗18(
図14)とツェナーダイオード16b(
図14)から構成される定電圧回路を経て定電圧で供給される。比較器32は、増幅回路36より増幅された信号の電圧と、温度設定37にて予め設定される電圧を比較器32で比較し、両者が同じになったら、開閉装置22への制御信号を端子dに出力する。
【0075】
本実施例4によれば、界磁巻線10の温度が、巻線に許容されている温度上限値になった場合、開閉装置22がオフして、同期運転状態からDOL状態に戻る。DOL状態に戻り、すべりが低い場合は、界磁電流よりも誘導起電流は小さくなるため、界磁巻線10のオーバーヒートを回避することができる。一方、DOL状態に戻り、すべりが高い場合は、回転速度自体も低下するため、電動機自体が異常状態であることを検知することができる。
【実施例5】
【0076】
図16は、本発明の実施例5である界磁巻線型同期電動機における同期投入装置の回路構成を示す。なお、本実施例5の外観、並びに、回転子および固定子の断面図は、それぞれ
図1、並びに
図2に示す実施例1と同様である。
【0077】
本実施例5の同期投入装置の回路構成は、実施例3(
図12)とほぼ同様であるが、実施例3とは異なり、放電抵抗DR(
図12ではDR14)を可変抵抗38としている。DRを可変抵抗38にすることにより、電動機の素性(出力、周波数)が変わった場合でも、最適な抵抗値に設定することができる。DRの抵抗値を最適化にすることにより、始動電流を最小限にすることができる。
【実施例6】
【0078】
図17は、本発明の実施例6である界磁巻線型同期電動機における同期投入装置の回路構成を示す。なお、本実施例6の外観、並びに、回転子および固定子の断面図は、それぞれ
図1、並びに
図2に示す実施例1と同様である。
【0079】
本実施例6の同期投入装置の回路構成は、実施例4(
図14)とほぼ同様であるが、以下、実施例4とは異なる点について説明する。
【0080】
図17に示すように、ツェナーダイオード16bのアノード側とグランド間に、ツェナーダイオード16bに流れる電流を検出する電流センサー40が設けられる。
【0081】
電流センサー40からの信号は電流検出回路41へ入力され、電流検出回路41は、信号の示す検出電流が予め設定した電流以上になった場合、サイリスタ1と界磁巻線10の間に設けられる開閉装置22をオフする。
【0082】
電流検出回路41において、電流センサー40からの信号は端子eへ入力され、電源は端子aに接続され、グランドは入力・電源に対して共通の端子bに接続される。電流センサー40からの信号に基づいて電流検出回路41は開閉装置22の制御信号を作成して端子fに出力する。この制御信号は開閉装置の制御端子に与えられると、開閉装置22は制御信号に応じてターンオンおよびターンオフする。なお、開閉装置22としては、オン・オフが可能な自己消弧形素子、例えばIGBTなどが適用される。
【0083】
図18は、電流検出回路41の内部構成を示す。
【0084】
図18に示すように、端子aに入力される電流センサー40からの信号は、増幅回路36によって増幅される。増幅回路36の駆動用電源は、ACエキサイター4(
図17)の交流出力電圧がダイオード11b(
図17)を介して直流電圧に変換され、さらに抵抗18(
図17)とツェナーダイオード16b(
図17)から構成される定電圧回路を経て定電圧で供給される。比較器32は、増幅回路36より増幅された信号の電圧と、電流設定42にて予め設定される電圧を比較器32で比較し、両者が同じになったら、開閉装置22への制御信号を端子dに出力する。
【0085】
本実施例6によれば、ACエキサイターからの電流が過電流状態になった場合、開閉装置22がオフして、同期運転状態からDOL状態に戻る。DOL状態に戻り、すべりが低い場合は、界磁電流よりも誘導起電流は小さくなるため、界磁巻線10のオーバーヒートを回避することができる。一方、DOL状態に戻り、すべりが高い場合は、回転速度自体も低下するため、電動機自体が異常状態であることを検知することができる。また、ツェナーダイオード16bのアノード側の電流を検出しているため、電流は界磁電流よりも低いことから、電流センサー40の体格も小さくコンパクトにすることが可能となる。
【0086】
なお、回路中における電流検出箇所は、本実施例における検出箇所に限らず、界磁巻線を流れる電流あるいはACエキサイターからの電流が直接あるいは間接に検出可能な場所であれば良い。
【実施例7】
【0087】
図19は、本発明の実施例7である界磁巻線型同期電動機における、始動から界磁投入後までにおいて界磁巻線に発生する電圧と始動用制御回路から出力される信号の波形例を示す。なお、
図19において、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。また、
図19は、時限設定回路33(
図5)が動作していない場合について示すが、動作している場合も同様である。
【0088】
本実施例7においては、実施例1とは、始動用制御回路から出力される信号の波形が次のように異なっている。
【0089】
図19に示すように、本実施例7においては、界磁投入の条件成立後に、始動用制御回路から、断続的に信号が出力される。
【0090】
界磁投入によりACエキサイターからの直流電圧に切り替わる時に、すべりが大きい場合等に、切り替わった直後に電圧が大きく動揺する場合がある。このとき、動揺した電圧の振幅が負極性側まで振れた場合、サイリスタ1がターンオフする可能性がある。このように、サイリスタ1がターンオフするとき、始動用制御回路30からの出力信号が1パルスのみであると、再度、界磁投入することが難しくなる。すなわち、界磁投入がなされず誘導電動機として運転し続けることになる。これに対し、本実施例7では、界磁投入の条件成立後に断続的にパルス信号を出力し続けること、すなわち連続する複数のパルスからなるパルス列を出力することで、再度、界磁投入することが可能となる。
【実施例8】
【0091】
図20は、本発明の実施例8である界磁巻線型同期電動機の回路構成を示す。
【0092】
本実施例8においては、実施例1の界磁巻線型同期電動機に励磁用電源47および励磁用制御器46が接続される。
【0093】
図20に示すように、ACエキサイター(AC・EX)は励磁用電源47にて励磁される。始動前は、界磁投入用のサイリスタがオフ状態であり、界磁巻線の通電は遮断されているため、停止状態で励磁用電源47を印加して、界磁巻線を励磁する。始動用制御回路から制御信号が発信され界磁投入されると、励磁用制御器46から励磁用電源47に制御信号が発信され励磁電流が制御される。励磁用制御器46は固定子と系統48の間に接続される。
【0094】
本実施例8の界磁巻線型同期電動機が、界磁投入後、同期状態になると、励磁用制御器46は固定子の電圧および電流を測定し力率を算出し、力率が1.0ではない場合、励磁電流を制御して力率1.0にする。このため、励磁用制御器46は、同期状態になったことを確認して制御される。励磁用制御器46の制御開始を時間で設定する場合、始動用回路が起動するまでの時間と時限設定した時間の和よりも、長い時間に設定する。または、速度センサー等を適用し同期速度に到達したことを確認した後に、励磁用制御器46の制御を開始する。こうすることで、同期状態になる前に励磁電流が制御されることを防止でき、安定した始動特性を得られる。
【実施例9】
【0095】
図21は、本発明の実施例9である界磁巻線型同期電動機の外観図である。
【0096】
本実施例9においては、界磁巻線型同期電動機13において回転軸となるシャフトが、増速ギア25を介してコンプレッサー12と連結される。界磁巻線型同期電動機13としては、実施例1〜8のいずれかが適用される。
【0097】
本実施例9によれば、界磁巻線型同期電動機を、LNGや薬品の製造プラント、化学プラントなどの圧縮機を必要とするプラントへ設置し、運転することが可能となる。
【0098】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。