特許第6695265号(P6695265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695265
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20200511BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20200511BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20200511BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20200511BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20200511BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   F02D45/00 368A
   F02D9/02 Q
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301Y
   F02D45/00
   F02D41/04
   F02D41/22
   F02P5/15 B
   F02P5/15 L
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-238088(P2016-238088)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-96205(P2018-96205A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】江幡 将史
【審査官】 平井 功
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/104186(WO,A1)
【文献】 特開2015−34500(JP,A)
【文献】 特開2001−234801(JP,A)
【文献】 特開2008−267148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00−28/00
F02D 41/00−45/00
F02P 5/145− 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度と、前記内燃機関の冷却水の温度又は潤滑油の温度である代表温度と、に基づき、前記内燃機関の駆動力を制御する制御部を有する内燃機関制御装置において、
前記制御部は、
更に、前記壁部の温度と前記代表温度との差分又は比率に対応する値が、第1の閾値未満の状態から第1の閾値以上かつ第2の閾値未満の状態となった場合、前記内燃機関の点火時期を遅角させる遅角制御処理を開始し、
前記遅角制御処理の実行中に、前記値が前記第2の閾値以上となった場合、前記内燃機関のスロットル開度を所定開度以下に制限する制限制御処理を開始し、
前記制限制御処理の実行に際し、遅角制御処理の実行を終了することを特徴とする内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記値が前記第2の閾値以上の状態が所定時間継続した場合に、前記制限制御処理を開始することを特徴とする請求項に記載の内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関制御装置に関し、特に自動二輪車等の車両の内燃機関に適用される内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の内燃機関における点火装置や燃料噴射装置では、内燃機関の運転状態をセンサによって検出し、予め準備した特性マップに従ってサイクル毎に点火時期や燃料噴射量を設定することが行われている。他方、特性マップの設定においては、内燃機関に課せられるであろう最も過酷な運転状態においてもノッキングを生じることがないよう、点火時期や燃料噴射量を設定している。
【0003】
しかしながら、通常は、センサの検出遅れによるノッキングを防止するべく、ノッキングを生じる過酷な運転状態を想定して点火時期を遅角傾向に、又は混合気の空燃比を濃厚傾向に設定したり、内燃機関の圧縮比を低めに設定しているので、燃料消費量が増加する等の経済性に影響が出る場合がある。
【0004】
かかる状況下で、特許文献1は、内燃機関のノッキング防止運転方法に関し、冷却水センサが所定以上の温度を検出し、かつ燃焼室内の壁面温度センサがそれを所定温度だけ上回る壁面温度を検出した場合、点火時期を所定角度だけ遅角制御する、又は空燃比を所定割合だけ濃厚化制御する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−1749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1には、壁面温度等を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合の対処内容については何等開示、示唆されていない。特に、壁面温度を示す壁部温度や内燃機関の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合、通常の点火時期補正だけでは内燃機関の燃焼温度を安全領域まで低下させることが困難となり、内燃機関を損傷させる可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合、簡便な構成で、内燃機関に不要な影響が生じることを抑制することができる内燃機関制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するべく、本発明は、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度と、前記内燃機関の冷却水の温度又は潤滑油の温度である代表温度と、に基づき、前記内燃機関の駆動力を制御する制御部を有する内燃機関制御装置において、前記制御部は、さらに、前記壁部の温度と前記代表温度との差分又は比率に対応する値が、第1の閾値未満の状態から第1の閾値以上かつ第2の閾値未満の状態となった場合、前記内燃機関の点火時期を遅角させる遅角制御処理を開始し、前記遅角制御処理の実行中に、前記値が前記第2の閾値以上となった場合、前記内燃機関のスロットル開度を所定開度以下に制限する制限制御処理を開始し、前記制限制御処理の実行に際し、遅角制御処理の実行を終了することを第1の局面とする。
【0010】
本発明は、第の局面に加えて、前記制御部は、前記値が前記第2の閾値以上の状態が所定時間継続した場合に、前記制限制御処理を開始することを第3の局面とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明の第1の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、制御部が、壁部の温度と代表温度との差分又は比率に対応する値が、第1の閾値未満の状態から第1の閾値以上かつ第2の閾値未満の状態となった場合、内燃機関の点火時期を遅角させる遅角制御処理を開始し、遅角制御処理の実行中に、値が第2の閾値以上となった場合、内燃機関のスロットル開度を所定開度以下に制限する制限制御処理を開始するものであるので、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合であっても、簡便な構成で、内燃機関に不要な影響が生じることを抑制することができる。
【0012】
更に、本発明の第の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、制御部が、制限制御処理の実行に際し、遅角制御処理の実行を終了するものであるので、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合であっても、内燃機関に不要な影響が生じることを的確に抑制することができる。
【0013】
本発明の第の局面にかかる内燃機関制御装置によれば、制御部が、前記値が第2の閾値以上の状態が所定時間継続した場合に、制限制御処理を開始するものであるので、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合であっても、内燃機関に不要な影響が生じることをより的確に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態における内燃機関制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2(a)は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する点火時期設定処理の流れを示すフローチャートであり、図2(b)は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する目標スロットル開度設定処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理を説明するためのタイミングチャートである。
図4図4(a)は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する点火時期設定処理の変形例の流れを示すフローチャートの一部であり、図4(b)は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する目標スロットル開度設定処理の変形例の流れを示すフローチャートの一部であり、また、図4(c)は、本実施形態における内燃機関制御装置が実行する点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理の変形例を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における内燃機関制御装置につき、詳細に説明する。
【0016】
[構成]
まず、図1を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置の構成について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態における内燃機関制御装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関制御装置1は、電子制御システムSに含まれて自動二輪車等の車両に搭載され、車両の内燃機関の運転状態を制御する。本実施形態における内燃機関制御装置1は、アクセル開度センサ10、スロットル開度センサ20、クランク角センサ30、壁部温度センサ40、及び冷却水温センサ50に電気的に接続されたECU(Electronic Control Unit)60を備えている。なお、説明の便宜上、車両や内燃機関の構成についての具体的な図示は、省略している。また、内燃機関に適用される燃料としては、原理的には、現在入手可能なものが適用でき、例えば、ガソリン、エタノール及びメタノール等の種別を問わず、ガソリンのオクタン価の種別も問わないものである。
【0019】
アクセル開度センサ10は、車両のアクセルペダルの開度をアクセル開度として検出し、このように検出したアクセル開度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0020】
スロットル開度センサ20は、内燃機関のスロットル装置の本体部に装着され、スロットルバルブの開度をスロットル開度として検出し、このように検出したスロットル開度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0021】
クランク角センサ30は、内燃機関において、リラクタの外周面に形成されている歯部に対向した態様でシリンダブロックの下部に組み付けられたロアケース等に装着され、クランクシャフトの回転に伴って回転する歯部を検出することによって、クランクシャフトの回転速度を内燃機関の回転速度として検出する。クランク角センサ30は、このように検出した内燃機関の回転速度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0022】
壁部温度センサ40は、内燃機関の燃焼室を画成する部材、つまりシリンダブロック又はシリンダヘッドの壁部に装着されてその壁部の温度を検出し、このように検出した壁部の温度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0023】
冷却水温センサ50は、内燃機関の冷却水通路にその検出部が配置された態様でシリンダブロックに装着され、冷却水通路内を流通する冷却水の温度を検出し、このように検出した冷却水の温度を示す電気信号をECU60に入力する。
【0024】
ECU60は、車両が備えるバッテリからの電力を利用して動作する。ECU6は、A/D変換回路601a、601b、601c及び601d、波形整形回路602、アクセル開度算出部603、スロットル開度算出部604、壁部温度算出部605、冷却水温算出部606、運転状態制御部607、並びに駆動回路608a、608b及び608cを備えている。なお、アクセル開度算出部603、スロットル開度算出部604、壁部温度算出部605、冷却水温算出部606、及び運転状態制御部607は、ECU60が備えるCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置が図示を省略するメモリから必要な制御プログラム及び制御データを読み出して内燃機関の運転状態を制御する際の機能ブロックとして示している。
【0025】
A/D変換回路601aは、アクセル開度センサ10から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換してアクセル開度算出部603に入力する。
【0026】
A/D変換回路601bは、スロットル開度センサ20から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換してスロットル開度算出部604に入力する。
【0027】
A/D変換回路601cは、壁部温度センサ40から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換して壁部温度算出部605に入力する。
【0028】
A/D変換回路601dは、冷却水温センサ50から入力されたアナログ形態の電気信号をデジタル形態に変換して冷却水温算出部606に入力する。
【0029】
波形整形回路602は、クランク角センサ30から入力された電気信号に対して整形処理を施した後に電気信号を運転状態制御部607に入力する。
【0030】
アクセル開度算出部603は、A/D変換回路601aから入力された電気信号を用いてアクセル開度を算出し、このようにアクセル開度算出部603が算出したアクセル開度は、運転状態制御部607で用いられる。
【0031】
スロットル開度算出部604は、A/D変換回路601bから入力された電気信号を用いてスロットル開度を算出し、このようにスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度は、運転状態制御部607で用いられる。
【0032】
壁部温度算出部605は、A/D変換回路601cから入力された電気信号を用いて内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を算出し、このように壁部温度算出部605が算出した壁部の温度は、運転状態制御部607で用いられる。かかる壁部の温度は、内燃機関の燃焼状態を直接的に反映する内燃機関の温度であって、内燃機関のシリンダ内で発生する発生熱量を直接的に反映した温度であると評価され得るものである。
【0033】
冷却水温算出部606は、A/D変換回路601dから入力された電気信号を用いて冷却水の温度を内燃機関の温度(内燃機関の代表温度)として算出し、このように冷却水温算出部606が算出した内燃機関の代表温度は、運転状態制御部607で用いられる。かかる冷却水の温度は、内燃機関の温度を代表的に示す内燃機関の代表温度であって、内燃機関のシリンダを冷却する冷却熱量を反映した温度であると評価され得るものである。なお、かかる内燃機関の代表温度としては、冷却水の温度の他に、内燃機関の潤滑油の温度等を用いてもよい。
【0034】
運転状態制御部607は、点火時期算出部607a、目標スロットル開度算出部607b、差分温度算出部607c、リンプ処理部607d、及び計時部607eを備え、内燃機関制御装置1全体の動作を制御すると共に、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度に基づいて、内燃機関の運転状態を制御する。運転状態制御部607及びこれら各部の機能の詳細については後述する。
【0035】
駆動回路608aは、運転状態制御部607から入力された制御信号に従ってスロットルモータ70を駆動することによってスロットル開度を制御する。
【0036】
駆動回路608bは、運転状態制御部607から入力された制御信号に従って点火栓80を駆動することによって内燃機関の点火時期を制御する。
【0037】
駆動回路608cは、運転状態制御部607から入力された制御信号に従って燃料噴射弁90を駆動することによって内燃機関の燃料噴射量を制御する。
【0038】
このような構成を有する内燃機関制御装置1は、以下に示す点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理を実行することによって、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の電子制御システムSに異常が生じた場合、内燃機関に不要な影響が生じることを抑制する。以下、更に図2及び図3をも参照して、これらの点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理を実行する際の内燃機関制御装置1の動作について詳細に説明する。
【0039】
[点火時期設定処理]
まず、図2(a)及び図3を参照して、点火時期設定処理を実行する際の内燃機関制御装置1の動作について説明する。
【0040】
図2(a)は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する点火時期設定処理の流れを示すフローチャートである。また、図3は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理を説明するためのタイミングチャートである。
【0041】
図2(a)に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられてECU60が起動したタイミングで開始となり、点火時期設定処理はステップS1の処理に進む。かかる点火時期設定処理は、ECU60が起動状態である間、メモリから必要な制御プログラム及び制御データを読み出して所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、かかる点火時期設定処理においては、差分温度算出部607cが算出した代表温度TWと壁部の温度TCCとの差分値である差分温度TCCDに代えて、差分温度算出部607cが算出した代表温度TWと壁部の温度TCCとの比率を用いてもよい。
【0042】
ステップS1の処理では、運転状態制御部607が、差分温度TCCDの値に応じたTCCD補正量を算出する。ここで、差分温度TCCDは、壁部温度算出部605によって算出された壁部の温度と冷却水温算出部606によって算出された内燃機関の代表温度との差分値として、差分温度算出部607cにより算出されたものである。これにより、ステップS1の処理は完了し、点火時期設定処理はステップS2の処理に進む。
【0043】
ステップS2の処理では、運転状態制御部607が、ステップS1の処理において算出された差分温度TCCDが高温燃焼温度近傍の高温燃焼温度T1以上であるか否かを判別する。ここで、高温燃焼温度T1は、内燃機関の燃焼状態がノッキングを起こす可能性が高まった状態であることを示す所定の温度である。判別の結果、差分温度TCCDが高温燃焼温度T1以上である場合(ステップS2:Yes)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS3の処理に進める。一方、差分温度TCCDが高温燃焼温度T1未満である場合には(ステップS2:No)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS4の処理に進める。
【0044】
ステップS3の処理では、運転状態制御部607が、ステップS1の処理において算出された差分温度TCCDが高温燃焼温度T2(>高温燃焼温度T1)以上であるか否かを判別する。ここで、高温燃焼温度T2は、高温燃焼温度T1よりも高温であって、内燃機関の燃焼状態がノッキングを起こす可能性が極めて高まった状態であることを示す所定の温度である。判別の結果、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上である場合(ステップS3:Yes)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS6の処理に進める。一方、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2未満である場合には(ステップS3:No)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS5の処理に進める。
【0045】
ステップS4の処理では、運転状態制御部607が、点火時期算出部607aが基本点火時期をステップS1の処理において算出されたTCCD補正量だけ遅角させることによって算出した点火時期を、今回の内燃機関の点火時期として設定する(図3に示す時刻t=t0から時刻t=t2の期間)。ここで、基本点火時期は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度に基づいて点火時期算出部607aによって算出されたものである。これにより、ステップS4の処理は完了し、今回の一連の点火時期設定処理は終了する。
【0046】
ステップS5の処理では、運転状態制御部607が、点火時期算出部607aが基本点火時期を、ステップS1の処理において算出されたTCCD補正量に加え、これとリンプ補正量との和だけ遅角させることによって算出した点火時期を、今回の内燃機関の点火時期として設定する(図3に示す時刻t=t2から時刻t=t3の期間)。ここで、基本点火時期は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度に基づいて点火時期算出部607aによって算出されたものであり、リンプ補正量は、差分温度TCCDの値に応じて点火時期算出部607aによって算出されたものである。これにより、ステップS5の処理は完了し、今回の一連の点火時期設定処理は終了する。
【0047】
ステップS6の処理では、運転状態制御部607が、基本点火時期を今回の内燃機関の点火時期として設定する(図3に示す時刻t=t3以降の期間)。ここで、基本点火時期は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度に基づいて点火時期算出部607aによって算出されたものである。併せて、リンプ処理部607dが、インジケータ等を点灯させて運転者等に対して目標スロットル開度を制限開度に制限するリンプ処理を実行中であることを報知する(図3に示す時刻t=t3以降の期間)。これにより、ステップS6の処理は完了し、今回の一連の点火時期設定処理は終了する。
【0048】
[目標スロットル開度設定処理]
次に、図2(b)及び図3を参照して、目標スロットル開度設定処理を実行する際の内燃機関制御装置1の動作について説明する。
【0049】
図2(b)は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する目標スロットル開度設定処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
図2(b)に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられてECU60が起動したタイミングで開始となり、目標スロットル開度設定処理はステップS11の処理に進む。かかる目標スロットル開度設定処理は、ECU60が起動状態である間、メモリから必要な制御プログラム及び制御データを読み出して所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、かかる目標スロットル開度設定処理においては、差分温度算出部607cが算出した代表温度TWと壁部の温度TCCとの差分値である差分温度TCCDに代えて、差分温度算出部607cが算出した代表温度TWと壁部の温度TCCとの比率を用いてもよい。
【0051】
ステップS11の処理では、運転状態制御部607が、リンプ処理部607dが目標スロットル開度を制限開度に制限するリンプ処理を実行中であるか否かを示すフラグF1の値に基づいてリンプ処理を実行中であるか否かを判別する。判別の結果、リンプ処理を実行中である場合(ステップS11:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS13の処理に進める。一方、リンプ処理を実行中でない場合には(ステップS11:No)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS12の処理に進める。なお、リンプ処理を実行中であるか否かを示すフラグF1の値が1のときには、リンプ処理を実行中であることを示し、フラグF1の値が0のときには、リンプ処理を実行中でないことを示す。
【0052】
ステップS12の処理では、運転状態制御部607が、差分温度算出部607cによって算出された差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上であるか否かを判別する。判別の結果、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上である場合(ステップS12:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS13の処理に進める。一方、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2未満である場合には(ステップS12:No)、運転状態制御部607は、今回の一連の目標スロットル開度設定処理を終了する。
【0053】
ステップS13の処理では、運転状態制御部607が、スロットル開度が全閉状態にあるか否かを示すフラグF2の値に基づいてスロットル開度が全閉状態にあるか否かを判別する。判別の結果、スロットル開度が全閉状態にある場合(ステップS13:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS19の処理に進める。一方、スロットル開度が全閉状態にない場合には(ステップS13:No)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS14の処理に進める。なお、スロットル開度が全閉状態にあるか否かを示すフラグF2の値が1のときには、スロットル開度が全閉状態にあることを示し、フラグF2の値が0のときには、スロットル開度が全閉状態にないことを示す。
【0054】
ステップS14の処理では、運転状態制御部607が、目標スロットル開度算出部607bによって算出された目標スロットル開度がアクセル開度算出部603によって算出されたアクセル開度以上であるか否かを判別する。判別の結果、目標スロットル開度がアクセル開度以上である場合(ステップS14:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS15の処理に進める。一方、目標スロットル開度がアクセル開度未満である場合には(ステップS14:No)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS16の処理に進める。
【0055】
ステップS15の処理では、運転状態制御部607が、目標スロットル開度算出部607bによって算出された目標スロットル開度を今回の内燃機関の目標スロットル開度として設定する。ここで、目標スロットル開度算出部607bによって算出された目標スロットル開度は、差分温度算出部607cによって算出された差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上になったタイミングでの目標スロットル開度から目標スロットル開度設定処理の周期毎に所定開度減算した開度である。これにより、ステップS15の処理は完了し、目標スロットル開度設定処理はステップS17の処理に進む。
【0056】
ステップS16の処理では、運転状態制御部607が、基本スロットル開度を今回の内燃機関の目標スロットル開度として設定する。ここで、基本スロットル開度は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びアクセル開度算出部603が算出したアクセル開度に基づいて目標スロットル開度算出部607bによって算出されたものである。これにより、ステップS16の処理は完了し、目標スロットル開度設定処理はステップS17の処理に進む。
【0057】
ステップS17の処理では、運転状態制御部607が、スロットル開度算出部604が算出したスロットル開度が全閉状態にあるか否かを判別する。判別の結果、スロットル開度が全閉状態にある場合(ステップS17:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS18の処理に進める。一方、スロットル開度が全閉状態にない場合には(ステップS17:No)、運転状態制御部607bは、今回の一連の目標スロットル開度設定処理を終了する。
【0058】
ステップS18の処理では、運転状態制御部607が、スロットル開度が全閉状態にあるか否かを示すフラグF2の値をスロットル開度が全閉状態にあることを示す1に設定し、スロットル開度の全閉判断を完了する。これにより、ステップS18の処理は完了し、今回の一連の目標スロットル開度設定処理は終了する。
【0059】
ステップS19の処理では、運転状態制御部607が、基本スロットル開度を今回の内燃機関の目標スロットル開度として設定する(図3に示す時刻t=t5以降の期間)。ここで、基本スロットル開度は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びアクセル開度算出部603が算出したアクセル開度に基づいて目標スロットル開度算出部607bによって算出されたものである。これにより、ステップS19の処理は完了し、目標スロットル開度設定処理はステップS20の処理に進む。
【0060】
ステップS20の処理では、リンプ処理部607dが、目標スロットル開度を制限開度に制限するリンプ処理を実行する(図3に示す時刻t=t6から時刻t=t7の期間、及び時刻t=tt8から時刻t=t9の期間)。ここで、目標スロットル開度の制限開度は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度に応じて目標スロットル開度算出部607bによって算出されたものであり、図3に示す時刻t=t3以降の期間で算出されるものである。また、スロットル開度が最初に制限開度を超えようとするタイミング(図3に示す時刻t=t6)においては、スロットル開度を直ちに制限開度に制限するのではなく、スロットル開度が唐突に変化しないように目標スロットル開度をフィルタリング処理してスロットル開度を制限開度に一致させる制御を行うことが好ましい。これにより、ステップS20の処理は完了し、目標スロットル開度設定処理はステップS21の処理に進む。
【0061】
ステップS21の処理では、リンプ処理部607dが、目標スロットル開度を制限開度に制限するリンプ処理を実行中であるか否かを示すフラグF1の値を、リンプ処理を実行中であることを示す1に設定する。これにより、ステップS18の処理は完了し、今回の一連の目標スロットル開度設定処理は終了する。
【0062】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における内燃機関制御装置1では、制御部607が、差分温度TCCDが高温燃焼温度T1未満の状態から高温燃焼温度T1以上かつ高温燃焼温度T2未満の状態となった場合、内燃機関の点火時期を遅角させる遅角制御処理を開始し、遅角制御処理の実行中に、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上となった場合、内燃機関のスロットル開度を所定開度以下に制限する制限制御処理を開始するものであるので、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の電子制御システムSに異常が生じた場合であっても、簡便な構成で、内燃機関に不要な影響が生じることを抑制することができる。なお、本実施形態では、差分温度TCCDに対応する値に基づいて制御を行ったが、壁部の温度と内燃機関の代表温度との比率に対応する値に基づいて同様の制御を行ってもよい。
【0063】
また、本実施形態における内燃機関制御装置1は、制御部607が、制限制御処理の実行に際し、遅角制御処理の実行を終了するので、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の電子制御システムSに異常が生じた場合であっても、内燃機関に不要な影響が生じることを的確に抑制することができる。
【0064】
[変形例]
最後に、図4(a)から図4(c)を参照して、点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理の変形例を実行する際の内燃機関制御装置1の動作について説明する。
【0065】
図4(a)は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する点火時期設定処理の変形例の流れを示すフローチャートの一部であり、図4(b)は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する目標スロットル開度設定処理の変形例の流れを示すフローチャートの一部であり、また、図4(c)は、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する点火時期設定処理及び目標スロットル開度設定処理の変形例を説明するためのタイミングチャートである。
【0066】
まず、図4(a)を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する点火時期設定処理の変形例の流れについて説明する。
【0067】
図4(a)に示す本変形例における点火時期設定処理は、図2(a)に示すステップS6の処理が図4(a)に示すステップS6aからステップS6cの処理に置き換わっている点で、図2(a)に示す点火時期設定処理と相違しており、本変形例における点火時期設定処理の残余の部分は、図2(a)に示す点火時期設定処理と同一である。
【0068】
具体的には、ステップS6aの処理では、運転状態制御部607が、計時部607eによって計時された差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上になってからの経過時間が所定時間経過したか否かを判別する。判別の結果、所定時間経過した場合(ステップS6a:Yes)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS6bの処理に進める。一方、所定時間経過していない場合には(ステップS6a:No)、運転状態制御部607は、点火時期設定処理をステップS6cの処理に進める。なお、計時部607eは、減算タイマとして例示している。
【0069】
ステップS6bの処理では、運転状態制御部607が、基本点火時期を今回の内燃機関の点火時期として設定する(図4(c)に示す時刻t=t3’以降の期間)。ここで、基本点火時期は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度に基づいて点火時期算出部607aによって算出されたものである。併せて、リンプ処理部607dが、インジケータ等を点灯させて運転者等に対して目標スロットル開度を制限開度に制限するリンプ処理を実行中であることを報知する(図3に示す時刻t=t3’以降の期間)。これにより、ステップS6bの処理は完了し、今回の一連の点火時期設定処理は終了する。
【0070】
ステップS6cの処理では、運転状態制御部607が、点火時期算出部607aが基本点火時期をステップS1の処理において算出されたTCCD補正量だけ遅角させることによって算出した点火時期を、今回の内燃機関の点火時期として設定する(図4(c)に示す図3に示す時刻t=t3から時刻t=t3’の期間)。ここで、基本点火時期は、運転状態制御部607が算出した内燃機関の回転速度及びスロットル開度算出部604が算出したスロットル開度に基づいて点火時期算出部607aによって算出されたものである。これにより、ステップS6cの処理は完了し、今回の一連の点火時期設定処理は終了する。
【0071】
次に、図4(b)を参照して、本実施形態における内燃機関制御装置1が実行する目標スロットル開度設定処理の変形例の流れについて説明する。
【0072】
図4(b)に示す本変形例の目標スロットル開度設定処理は、図2(b)に示すステップS12の処理とステップS13の処理との間に図4(b)に示すステップS12aの処理が挿入されている点で、図2(b)に示す目標スロットル開度設定処理と相違しており、本変形例における目標スロットル開度設定処理の残余の部分は、図2(b)に示す目標スロットル開度設定処理と同一である。
【0073】
具体的には、ステップS12aの処理では、運転状態制御部607が、計時部607eによって計時された差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上になってからの経過時間が所定時間経過したか否かを判別する。判別の結果、所定時間経過した場合(ステップS12a:Yes)、運転状態制御部607は、目標スロットル開度設定処理をステップS13の処理に進める。一方、所定時間経過していない場合には(ステップS12a:No)、運転状態制御部607は、今回の一連の目標スロットル開度設定処理を終了する。
【0074】
以上の説明から明らかなように、本変形例における内燃機関制御装置1では、制御部607が、差分温度TCCDが高温燃焼温度T2以上である状態が所定時間継続した場合、制限制御処理が開始されるので、内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の電子制御システムSに異常が生じた場合であっても、内燃機関に不要な影響が生じることをより的確に抑制することができる。
【0075】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明は、内燃機関の代表温度及び内燃機関の燃焼室を画成する壁部の温度を検出する検出系やそれを含む内燃機関の制御システムに異常が生じた場合、簡便な構成で、内燃機関に不要な影響が生じることを抑制することができる内燃機関制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の車両の内燃機関に広く適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0077】
1…内燃機関制御装置
10…アクセル開度センサ
20…スロットル開度センサ
30…クランク角センサ
40…壁部温度センサ
50…冷却水温センサ
60…ECU
70…スロットルモータ
80…点火栓
90…燃料噴射弁
601a、601b、601c、及び601d…A/D変換回路
602…波形整形回路
603…アクセル開度算出部
604…スロットル開度算出部
605…壁部温度算出部
606…冷却水温算出部
607…運転状態制御部
607a…点火時期算出部
607b…目標スロットル開度算出部
607c…差分温度算出部
607d…リンプ処理部
607e…計時部
608a、608b及び608c…駆動回路
図1
図2
図3
図4