(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪を有する作業車両の車体に設けられた電動モータと、軸方向の基端が前記電動モータに接続され前記電動モータの回転を出力する出力軸と、前記車体に設けられ前記出力軸の回転を減速して前記車輪に伝達する減速機構と、前記出力軸の軸方向の先端に形成された有底状の穴スプラインと、前記穴スプラインにスプライン結合される軸スプラインを有し前記出力軸の回転を前記減速機構に入力する入力軸とを備えている作業車両の走行装置において、
前記出力軸には、前記穴スプラインの軸方向の奥所に形成され潤滑油を溜める油溜り空間と、前記油溜り空間から前記基端側に向けて軸方向に離間し前記出力軸の外周側に全周に亘って形成された全周油路と、前記油溜り空間と前記全周油路との間を連通し前記全周油路に供給された潤滑油を前記油溜り空間に供給する油通路とが設けられ、
前記油溜り空間の内径寸法は、前記穴スプラインの歯底円径よりも大きく形成され、前記出力軸の回転により前記油溜り空間内の潤滑油が前記穴スプラインと前記軸スプラインとのスプライン結合部に供給されるように構成していることを特徴とする作業車両の走行装置。
前記油通路は、径方向の外端が前記全周油路に開口し前記出力軸の径方向に延びる複数の径方向油通路と、前記各径方向油通路の径方向の内端と前記油溜り空間との間を接続し前記出力軸の軸方向に延びて設けられた複数の軸方向油通路とにより構成していることを特徴とする請求項1に記載の作業車両の走行装置。
前記全周油路は前記出力軸の外周面に環状に凹設された環状油溝であり、前記潤滑油は前記出力軸の外周側に配置されたノズルを通じて前記環状油溝内に供給されるように構成していることを特徴とする請求項1に記載の作業車両の走行装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態による作業車両の走行装置を、後輪駆動式のダンプトラックの走行装置を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
図1ないし
図11は本発明の第1の実施の形態を示している。
図1および
図2において、車輪を有する作業車両としてのダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造をなす車体2を有している。車体2の前部側には左,右の前輪3(左側のみ図示)が回転可能に設けられ、車体2の後部側には左,右の後輪4が回転可能に設けられている。左,右の前輪3は、ダンプトラック1の運転者によって操舵(ステアリング操作)される操舵輪を構成するものである。車体2と左,右の前輪3との間には、油圧緩衝器等からなる前輪側サスペンション3Aが設けられている。
【0016】
左,右の後輪4は、ダンプトラック1の駆動輪を構成するもので、後述の走行装置11によって回転駆動される。
図2および
図3に示すように、後輪4は、複輪式タイヤからなる軸方向内側と外側のタイヤ4Aと、各タイヤ4Aの径方向内側に配設されるリム4Bとを含んで構成されている。車体2と左,右の後輪4との間には、油圧緩衝器等からなる後輪側サスペンション4Cが設けられている。
【0017】
ベッセル(荷台)5は、車体2上に起伏可能に搭載されている。ベッセル5は、例えば砕石物等の重い荷物を多量に積載するため全長が10〜13m(メートル)にも及ぶ大型の容器として形成されている。ベッセル5の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン6等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル5の前側上部には、後述のキャブ7を上側から覆う庇部5Aが一体に設けられている。
【0018】
キャブ7は、ベッセル5に設けられた庇部5Aの下側に位置して車体2の前部に設けられている。キャブ7は、ダンプトラック1の運転者が乗降する運転室を形成し、その内部には運転席、起動スイッチ、アクセルペダル、ブレーキペダル、操舵用のハンドルおよび複数の操作レバー(いずれも図示せず)等が設けられている。ベッセル5の庇部5Aは、キャブ7を上側から全体を覆うことにより、例えば岩石等の飛び石からキャブ7を保護すると共に、ダンプトラック1の転倒時等にもキャブ7内の運転者を保護する機能を有している。
【0019】
エンジン8は、キャブ7の下側に位置して車体の前側に設けられている。エンジン8は、例えば大型のディーゼルエンジン等により構成され、車載の発電機、油圧源となる油圧ポンプ(いずれも図示せず)等を回転駆動する。油圧ポンプから吐出される圧油は、後述のホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0020】
ホイストシリンダ9は、車体2とベッセル5との間に上,下方向に伸縮可能に設けられている。ホイストシリンダ9は、前輪3と後輪4との間に位置して車体2の左,右両側(左側のみ図示)に配置されている。ホイストシリンダ9は、前記油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、連結ピン6を中心にしてベッセル5を起伏(傾転)させるものである。
【0021】
作動油タンク10は、ベッセル5の下方に位置して車体2の側面等に取付けられている。作動油タンク10内に収容された作動油は、前記油圧ポンプにより吸込まれつつ吐出され、圧油となってホイストシリンダ9および前記パワーステアリング用の操舵シリンダ等に給排されるものである。
【0022】
走行装置11は、ダンプトラック1の後輪4側に設けられている。
図3に示すように、走行装置11は、後述するアクスルハウジング12、電動モータ16、車輪取付筒18、減速歯車機構27を含んで構成されている。走行装置11は、電動モータ16の回転を減速歯車機構27により減速し、ダンプトラック1の駆動輪となる後輪4を車輪取付筒18と一緒に大なる回転トルクで走行駆動するものである。
【0023】
後輪4用のアクスルハウジング12は、車体2の後部側に設けられている。
図2に示すように、アクスルハウジング12は、左,右の後輪4間を軸方向に延びる筒状体として形成されている。アクスルハウジング12は、後輪側サスペンション4Cを介して車体2の後部側に取付けられる中間の懸架筒13と、懸架筒13の左,右両側にそれぞれ設けられた後述のスピンドル14とにより構成されている。
【0024】
スピンドル14は、アクスルハウジング12の軸方向両端側にそれぞれ設けられている。スピンドル14は、軸方向一側に位置してテーパ形状をなし懸架筒13にボルト15等を介して着脱可能に固着された大径筒部14Aと、大径筒部14Aの軸方向他側に一体形成された円形筒部14Bとにより構成されている。円形筒部14Bは、後述の車輪取付筒18内を軸方向に延びるように配置され、円形筒部14Bの外周側は、後述の軸受20,21を介して後輪4側の車輪取付筒18を回転可能に支持している。
【0025】
スピンドル14の外周側には、大径筒部14Aの長さ方向(軸方向)中間部から径方向外向きに突出した環状フランジ部14Cと、円形筒部14Bの軸方向一側に設けられた環状の段差部14Dとが一体に形成されている。大径筒部14Aの軸方向一側には、径方向内向きに突出する複数のモータ取付座14Eが一体に形成され、このモータ取付座14Eには後述の電動モータ16が取付けられている。
【0026】
一方、円形筒部14Bの軸方向他側(先端側)は開口端となり、その内側には後述するキャリア41の筒状突出部41Aがスプライン結合されている。円形筒部14Bの軸方向の中間部の内周側には、環状の内側鍔部14Fが一体に形成され、内側鍔部14Fには後述の外側リテーナ44がボルト等を介して取付けられている。円形筒部14Bの下部側には、上,下方向(円形筒部14Bの径方向)に貫通して延びる径方向孔14Gが穿設され、この径方向孔14G内には後述の吸込管49が挿通されている。
【0027】
走行用の電動モータ16は、アクスルハウジング12内に着脱可能に取付けられている。電動モータ16は、車体2に搭載された発電機(図示せず)から供給される電力によってロータ(図示せず)が正方向または逆方向に回転し、このロータの回転が後述する出力軸17によって出力される。
図2に示すように、電動モータ16は、懸架筒13の左,右両側に位置してスピンドル14内にそれぞれ取付けられ、左,右の後輪4を互いに独立して回転駆動するものである。電動モータ16のケーシングには複数の取付フランジ16Aが設けられ、これらの取付フランジ16Aは、スピンドル14のモータ取付座14Eにボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。
【0028】
出力軸17は、軸方向の基端が電動モータ16のロータに一体に接続され、電動モータ16(ロータ)の回転を出力するものである。出力軸17の軸方向の先端は電動モータ16のケーシングから外部に突出し、出力軸17の先端には後述の穴スプライン53が形成されている(
図4参照)。出力軸17の先端には、後述する入力軸42が同軸に接続されている。
【0029】
車輪取付筒18は、後輪4のリム4Bが圧入等の手段を用いて着脱可能に取付けられるものである。車輪取付筒18は、後述の軸受20,21間にわたって軸方向に延び中空構造をなした中空筒部18Aと、中空筒部18Aの外周側端部から後述の内歯車38に向けて軸方向に一体に延びた延設筒部18Bとを有する段付筒状体として形成されている。
【0030】
車輪取付筒18の延設筒部18Bには、後述の内歯車38と外側ドラム25とが長尺ボルト26等を用いて一体的に固着され、車輪取付筒18は内歯車38と一体に回転されるものである。即ち、車輪取付筒18には、電動モータ16の回転を減速歯車機構27で減速することにより大トルクとなった回転が内歯車38を介して伝えられる。これにより、車輪取付筒18は、駆動輪となる後輪4を大なる回転トルクで回転させるものである。
【0031】
リムスペーサ19は円筒体からなり、車輪取付筒18の外周側に設けられている。リムスペーサ19は、後輪4の軸方向内側および軸方向外側のリム4B間に配置されることにより両者間に一定の間隔を確保し、後輪4の軸方向内側と軸方向外側のタイヤ4Aの軸方向の間隔を設定するものである。
【0032】
軸受20,21は、スピンドル14の円形筒部14Bと車輪取付筒18の中空筒部18Aとの間に設けられている。軸受20,21は、例えば同一の円錐ころ軸受等を用いて構成され、スピンドル14の外周側で車輪取付筒18を回転可能に支持している。ここで、一方の軸受20は、スピンドル14の段差部14Dに後述する軸受リテーナ22を介して位置が決められ、他方の軸受21は、円形筒部14Bの開口端側外周に後述する他の軸受リテーナ23を介して位置が決められている。
【0033】
軸受リテーナ22は、スピンドル14の円形筒部14Bの外周面に嵌合して設けられている。軸受リテーナ22の軸方向一側はスピンドル14の環状の段差部14Dに当接し、軸受リテーナ22の軸方向他側は軸受20の内輪に当接している。従って、軸受20は、外輪側が車輪取付筒18の中空筒部18Aにより軸方向に位置が決められ、内輪側が軸受リテーナ22により軸方向に位置が決められている。
【0034】
他の軸受リテーナ23は、スピンドル14の円形筒部14Bの開口端に複数のボルト24を用いて取付けられている。他の軸受リテーナ23は円形筒部14Bに固定され、軸受21の内輪側を軸方向に位置決めしている。即ち、軸受21は、外輪側が車輪取付筒18の中空筒部18Aにより軸方向に位置が決められ、内輪側が他の軸受リテーナ23により軸方向に位置が決められている。これにより、車輪取付筒18は、軸受20,21と軸受リテーナ22,23とを用いて、スピンドル14に対し軸方向に位置が決められると共に、周方向に回転可能に支持されている。
【0035】
外側ドラム25は、内歯車38と共に車輪取付筒18の一部を構成している。外側ドラム25は、車輪取付筒18の軸方向外側となる位置に内歯車38を挟んで配置され、複数の長尺ボルト26を用いて車輪取付筒18に着脱可能に固着されている。
【0036】
減速機構としての減速歯車機構27は、スピンドル14と車輪取付筒18との間に設けられている。減速歯車機構27は、後述する1段目の遊星歯車減速機構28と2段目の遊星歯車減速機構36とにより構成され、後述する入力軸42を介して出力軸17の回転が伝達されることにより、出力軸17の回転を減速して車輪取付筒18に伝える。これにより、車輪取付筒18は、減速して得られた大きな回転力(トルク)をもって後輪4と一緒に回転駆動される。
【0037】
1段目の遊星歯車減速機構28は、入力軸42の先端側にスプライン結合された太陽歯車29と、太陽歯車29とリング状の内歯車30とに噛合する複数(1個のみ図示)の遊星歯車31と、遊星歯車31を支持ピン32を介して回転可能に支持するキャリア33とにより構成されている。
【0038】
キャリア33の外周側は、車輪取付筒18に一体化された外側ドラム25の開口端(軸方向外側の端面)にボルト等を介して着脱可能に固定され、キャリア33は、車輪取付筒18、外側ドラム25と一体に回転する。キャリア33の内周側には、例えば円板状の蓋板34が着脱可能に取付けられ、蓋板34は、例えば太陽歯車29と遊星歯車31の噛合部を保守、点検する場合にキャリア33から取外されるものである。
【0039】
リング状の内歯車30は、太陽歯車29、各遊星歯車31を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車30は、外側ドラム25の内周面との間に小さな径方向の隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車30の回転(公転)は、後述のカップリング35を介して2段目の遊星歯車減速機構36に伝えられる。
【0040】
1段目の遊星歯車減速機構28は、電動モータ16によって入力軸42と一体に太陽歯車29が回転すると、この太陽歯車29の回転を各遊星歯車31の自転運動と公転運動とに変換する。各遊星歯車31の自転(回転)は、内歯車30に減速した回転として伝えられ、この内歯車30の回転がカップリング35を介して2段目の遊星歯車減速機構36に伝達される。一方、各遊星歯車31の公転は、キャリア33の回転となって車輪取付筒18側の外側ドラム25に伝達される。しかし、車輪取付筒18は、後述する2段目の内歯車38と一体に回転するため、各遊星歯車31の公転は、内歯車38(車輪取付筒18)に同期した回転に抑えられる。
【0041】
カップリング35は、1段目の遊星歯車減速機構28と2段目の遊星歯車減速機構36との間に設けられ、1段目の内歯車30と一体に回転するものである。カップリング35の外周側は1段目の内歯車30にスプライン結合され、カップリング35の内周側は後述する2段目の太陽歯車37にスプライン結合されている。これにより、カップリング35は、1段目の内歯車30の回転を2段目の太陽歯車37に伝達し、この太陽歯車37を1段目の内歯車30と一体に回転させる。
【0042】
2段目の遊星歯車減速機構36は、入力軸42の外周側に配置されカップリング35と一体に回転する円筒状の太陽歯車37と、太陽歯車37とリング状の内歯車38とに噛合する複数の遊星歯車39(1個のみ図示)と、遊星歯車39を支持ピン40を介して回転可能に支持するキャリア41とにより構成されている。
【0043】
ここで、2段目の内歯車38は、太陽歯車37、遊星歯車39等を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車38は、車輪取付筒18の一部を構成する延設筒部18Bと外側ドラム25との間に長尺ボルト26を用いて一体的に固着されている。内歯車38の内周側に全周に亘って形成された内歯は、複数の遊星歯車39に対して噛合状態に保持されるものである。
【0044】
2段目のキャリア41の中心部には筒状突出部41Aが一体形成され、この筒状突出部41Aは、スピンドル14の円形筒部14B内に開口端側から嵌合されている。即ち、筒状突出部41Aの外周側は、円形筒部14Bの内周側に着脱可能にスプライン結合されている。筒状突出部41Aの内周側には、入力軸42が挿通されると共に後述の供給管51が挿入されている。
【0045】
ここで、2段目の遊星歯車減速機構36は、キャリア41の筒状突出部41Aがスピンドル14の円形筒部14Bにスプライン結合されることにより、各遊星歯車39の公転(キャリア41の回転)が拘束される。従って、2段目の遊星歯車減速機構36は、太陽歯車37がカップリング35と一体に回転すると、この太陽歯車37の回転を各遊星歯車39の自転に変換しつつ、該各遊星歯車39の自転を2段目の内歯車38に伝達し、この内歯車38を減速して回転させる。これにより、内歯車38が固定された車輪取付筒18に対し、1段目の遊星歯車減速機構28と2段目の遊星歯車減速機構36との2段階で減速された大出力の回転トルクが伝達されるものである。
【0046】
入力軸42は、出力軸17と減速歯車機構27との間に設けられ、出力軸17の回転を減速歯車機構27に入力するものである。入力軸42は、スピンドル14の円形筒部14B内を軸方向に延びる1本の棒状体により構成されている。入力軸42の軸方向の基端は出力軸17に接続(スプライン結合)され、入力軸42の軸方向の中間部は後述のシャフトベアリング45を介してスピンドル14に回転可能に支持されている。そして、入力軸42の軸方向の先端側はスピンドル14の円形筒部14Bから突出し、その先端(突出端)には1段目の太陽歯車29が取付けられている。ここで、入力軸42の軸方向の基端には後述する軸スプライン54が形成され、この軸スプライン54は出力軸17の穴スプライン53にスプライン結合されている(
図4参照)。
【0047】
内側リテーナ43は、入力軸42の軸方向中間部に嵌合して設けられている。内側リテーナ43は、その内周側が入力軸42の中間部に圧入されることにより、入力軸42と一体に回転する。外側リテーナ44は、スピンドル14の内側鍔部14Fにボルト等を用いて固定されている。外側リテーナ44と内側リテーナ43との間にはシャフトベアリング45が設けられている。
【0048】
シャフトベアリング45は、入力軸42側の内側リテーナ43とスピンドル14側の外側リテーナ44との間に配設され、入力軸42の軸方向中間部をスピンドル14の円形筒部14B内で回転可能に支持している。これにより、長尺な入力軸42は、軸方向中間部での芯振れが抑制され、1段目の太陽歯車29に対して出力軸17の安定した回転を伝えることができる。
【0049】
湿式ブレーキ46は、車輪取付筒18の回転(即ち、左,右の後輪4)に制動力を与えるもので、湿式多板型の油圧ブレーキにより構成されている。この湿式ブレーキ46は、アクスルハウジング12のスピンドル14と車輪取付筒18との間に後述のブレーキハブ47を介して設けられている。湿式ブレーキ46は、車輪取付筒18と一体に回転するブレーキハブ47に対して制動力を付与するものである。
【0050】
ブレーキハブ47は湿式ブレーキ46の一部を構成し、車輪取付筒18と一体に回転するものである。このブレーキハブ47は、スピンドル14と湿式ブレーキ46との間を軸方向に延びる筒状体として形成されている。ブレーキハブ47の軸方向一側には、湿式ブレーキ46の各回転側ディスクが廻止め状態で、軸方向に移動可能に取付けられている。ブレーキハブ47の軸方向他側は、車輪取付筒18の中空筒部18Aに複数のボルトを介して着脱可能に固定されている。
【0051】
ここで、車輪取付筒18の内部には潤滑油100が貯留され、各遊星歯車減速機構28,36は、常に潤滑油100が供給された状態で作動する。この場合、潤滑油100の液面は、例えばスピンドル14を構成する円形筒部14Bの最下部よりも低い位置にあり、かつ軸受20,21の下側部位が浸漬されるような位置に設定されている。これにより、走行装置11の作動時に、潤滑油100が各遊星歯車減速機構28,36によって攪拌されて温度上昇するのを抑えることができ、かつ潤滑油100の攪拌による抵抗を小さく抑えることができる。
【0052】
隔壁48は、スピンドル14の大径筒部14A内に設けられている。隔壁48は環状の板体により形成され、その外周側がスピンドル14の大径筒部14Aの内周側にボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。隔壁48は、スピンドル14内で電動モータ16が収容されるモータ収容空間部48Aと、車輪取付筒18の内部と常時連通する筒状空間部48Bとを形成している。
【0053】
吸込管49は、スピンドル14内で入力軸42よりも下方となる位置に設けられ、スピンドル14と入力軸42との間を軸方向に延びている。吸込管49は、車輪取付筒18内に貯溜された潤滑油100を回収するもので、吸込管49の長さ方向の一側は、潤滑油ポンプ50の吸込側に接続されている。吸込管49の長さ方向の他側(先端側)は、入力軸42の下側から下向きにL字状に屈曲し、スピンドル14の径方向孔14G内に挿通されている。
【0054】
供給管51は、スピンドル14内で入力軸42よりも上方となる位置に設けられ、スピンドル14と入力軸42との間を軸方向に延びている。供給管51の長さ方向の一側は、潤滑油ポンプ50の吐出側にオイルクーラ52を介して接続されている。供給管51の長さ方向の他側(先端側)は、自由端となって2段目のキャリア41の筒状突出部41A内に挿入されている。従って、車輪取付筒18内に貯溜された潤滑油100は、吸込管49を通じて潤滑油ポンプ50に吸込まれる。潤滑油ポンプ50から吐出された潤滑油は、オイルクーラ52によって冷却された状態で供給管51を通じてキャリア41の筒状突出部41A内に供給され、減速歯車機構27等の潤滑を行う。吸込管49および供給管51の長さ方向の途中部位は、外側リテーナ44を軸方向に貫通して延び、スピンドル14内で外側リテーナ44を介して位置が決められている。
【0055】
ここで、車輪取付筒18の内部に貯留された潤滑油100は、ダンプトラック1の走行時に後輪4が回転するときの遠心力によって車輪取付筒18の内周面に張付くような挙動を生じる。この場合には、吸込管49の吸込口が潤滑油100の液面から離れ、潤滑油ポンプ50によって潤滑油100を吸込むことができず、潤滑油ポンプ50が空転状態となる不具合がある。このため、例えばダンプトラック1の走行時には、潤滑油ポンプ50は停止される。一方、ベッセル5への積荷の積込み作業やベッセル5からの積荷の排出作業を行うためにダンプトラック1が停車しているときには、潤滑油ポンプ50が作動し、吸込管49、供給管51等を介して潤滑油100が減速歯車機構27等に供給される構成となっている。
【0056】
次に、出力軸17と入力軸42とのスプライン結合部を潤滑する潤滑機構について説明する。この潤滑機構は、
図4および
図5に示すように、後述の穴スプライン53、軸スプライン54、油溜り空間55、環状油溝56、油通路57、ノズル60等を含んで構成されている。
【0057】
穴スプライン53は、出力軸17の先端に形成された有底穴の内周面に設けられている。穴スプライン53は、出力軸17の先端側が開口端53Aとなり、この開口端53Aから後述する油溜り空間55に向けて軸方向に延在している。ここで、穴スプライン53を構成する複数のスプライン歯53Bの歯底53Cの直径は、歯底円径D1となっている。
【0058】
軸スプライン54は、入力軸42の軸方向の基端の外周面に設けられている。軸スプライン54は、穴スプライン53の各スプライン歯53Bに噛合する複数のスプライン歯54Aを有し、穴スプライン53に対応する軸方向長さをもって軸方向に延在している。軸スプライン54は、穴スプライン53とスプライン結合され、これにより、出力軸17と入力軸42とは同軸上に接続されている。
【0059】
油溜り空間55は、出力軸17に設けられた穴スプライン53の軸方向の奥所(電動モータ16側)に設けられている。即ち、油溜り空間55は、穴スプライン53が形成された有底穴のうち穴スプライン53のスプライン歯53Bと軸スプライン54のスプライン歯54Aとの噛合部よりも底部側(後述の軸方向油通路59側)となる範囲に設けられている。油溜り空間55は、穴スプライン53と同心状に配置された円筒状の有底穴からなり、底面55Aと内周面55Bとによって囲まれている。この油溜り空間55は、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部に供給される潤滑油100を溜めるものである。ここで、油溜り空間55の内径寸法D2は、穴スプライン53の歯底円径D1よりも大きく形成されている(D2>D1)。これにより、油溜り空間55内に溜められた潤滑油100が、スプライン結合された穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間に供給される構成となっている。
【0060】
全周油路としての環状油溝56は、出力軸17の先端側の外周面に凹設されている。具体的には、環状油溝56は、出力軸17のうち油溜り空間55から基端側(電動モータ16側)に離間した位置の外周面を全周に亘って凹陥させることにより環状の凹陥溝として形成されている。この環状油溝56は、後述するノズル60の真下の位置に配置され、ノズル60から潤滑油100が供給されるものである。
【0061】
油通路57は出力軸17に設けられ、油溜り空間55と環状油溝56との間を連通させるものである。油通路57は、複数の径方向油通路58および複数の軸方向油通路59を含んで構成されている。
【0062】
複数(例えば4本)の径方向油通路58は、周方向に一定の角度間隔(例えば90度)をもって配置され、出力軸17の径方向に延びて設けられている。これら複数の径方向油通路58は、出力軸17の軸心を中心として放射状に延び、各径方向油通路58の径方向の外端58Aは、環状油溝56の溝底にそれぞれ開口している。一方、各径方向油通路58の径方向の内端58Bは、出力軸17の軸心の近傍に配置され、後述する各軸方向油通路59に接続されている。
【0063】
複数(例えば4本)の軸方向油通路59は、油溜り空間55の底面55Aから出力軸17の軸方向に延びて設けられている。これら複数の軸方向油通路59は、軸方向の基端が各径方向油通路58の径方向の内端58Bに連通し、軸方向の先端が油溜り空間55に開口している。即ち、各軸方向油通路59は、各径方向油通路58の径方向の内端58Bと油溜り空間55との間を接続している。これにより、油溜り空間55は、径方向油通路58および軸方向油通路59からなる油通路57を介して環状油溝56に連通している。
【0064】
ノズル60は、出力軸17の外周側に配置され、環状油溝56に潤滑油100を供給するものである。ノズル60は、例えば供給管51の長さ方向の途中部位、即ち環状油溝56の真上となる部位から下向きに分岐して設けられている。従って、ダンプトラック1の停車時において潤滑油ポンプ50から供給管51に吐出された潤滑油100の一部は、
図6に示すように、ノズル60から環状油溝56に向けて供給される。環状油溝56に供給された潤滑油100は、環状油溝56に沿って流れた後、径方向油通路58、軸方向油通路59を通じて油溜り空間55に導入され、この油溜り空間55内に溜められる。
【0065】
この場合、
図7および
図8に示すように、各径方向油通路58は、周方向に一定の角度間隔(例えば90度)をもって配置されているので、ダンプトラック1が停車した状態で、少なくとも1本の径方向油通路58の外端58Aは上方に向けて開口するようになる。従って、ノズル60から環状油溝56に供給された潤滑油100を、確実に径方向油通路58、軸方向油通路59を通じて油溜り空間55内に導入することができる。
【0066】
そして、
図9および
図10に示すように、ダンプトラック1の走行時に出力軸17が矢示R方向に回転すると、油溜り空間55内に溜められた潤滑油100は、遠心力によって油溜り空間55の内周面55Bに押付けられ、この内周面55Bの全周に張付くような挙動を生じる。この場合、油溜り空間55の内径寸法D2は、穴スプライン53の歯底円径D1よりも大きく形成されている。このため、油溜り空間55の内周面55Bに押付けられた潤滑油100は、
図11に示すように、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間に流入し、油溜り空間55から穴スプライン53の開口端53Aに向けて軸方向に流動する構成となっている。なお、油溜り空間55の内周面55Bに押付けられた潤滑油100は、油溜り空間55に開口した各軸方向油通路59の先端から離間するので、油溜り空間55内の潤滑油100が、各軸方向油通路59、各径方向油通路58を介して環状油溝56へと逆流することはない。
【0067】
第1の実施の形態によるダンプトラック1の走行装置11は上述の如き構成を有するもので、以下、その作動について説明する。
【0068】
まず、ダンプトラック1のキャブ7に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧源となる油圧ポンプが回転駆動されると共に、発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行時には、前記発電機から電動モータ16に電力が供給されることにより、電動モータ16が作動して出力軸17が回転し、この出力軸17にスプライン結合された入力軸42が回転する。
【0069】
入力軸42の回転は、1段目の遊星歯車減速機構28の太陽歯車29から各遊星歯車31に減速されて伝達され、各遊星歯車31の回転は、内歯車30およびカップリング35を介して2段目の遊星歯車減速機構36の太陽歯車37に減速されて伝達される。2段目の遊星歯車減速機構36では、太陽歯車37の回転が各遊星歯車39に減速されて伝達される。このとき、各遊星歯車39を支持するキャリア41は、筒状突出部41Aがスピンドル14の円形筒部14Bにスプライン結合されているため、各遊星歯車39の公転(キャリア41の回転)は拘束される。
【0070】
これにより、各遊星歯車39は、太陽歯車37の周囲で自転のみを行い、車輪取付筒18に固定された内歯車38には、遊星歯車39の自転により減速された回転が伝達される。従って、車輪取付筒18は、1段目の遊星歯車減速機構28と2段目の遊星歯車減速機構36とで2段階に減速された大きな回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左,右の後輪4は、車輪取付筒18と一体に回転し、ダンプトラック1を走行駆動することができる。
【0071】
そして、ダンプトラック1は、例えばベッセル5に対する積荷の積込み作業を行う積込み作業エリアと、ベッセル5からの積荷の排出作業を行う排出作業エリアとの間を走行する。ダンプトラック1は、積込み作業エリアおよび排出作業エリアでは停車し、走行装置11の作動は停止される。
【0072】
ダンプトラック1の走行時(電動モータ16の作動時)においては、車輪取付筒18内に貯溜された潤滑油100が、車輪取付筒18の回転と第1,第2の遊星歯車減速機構28,36の各遊星歯車31,39等によって順次上方へと掻き上げられる。この潤滑油100は、各太陽歯車29,37、各遊星歯車31,39の噛合部位、各軸受20,21等に供給された後、車輪取付筒18の下部側へと溜められる。ここで、ダンプトラック1の走行時には潤滑油ポンプ50が停止されるので、環状油溝56に対するノズル60からの潤滑油100の供給は行われない。
【0073】
一方、ダンプトラック1の停車時(電動モータ16の停止時)においては、潤滑油ポンプ50が作動し、車輪取付筒18の下部側に収容された潤滑油100は、吸込管49を通じて潤滑油ポンプ50に吸込まれ、オイルクーラ52で冷却された後に供給管51に吐出される。これにより、供給管51の先端から2段目のキャリア41の筒状突出部41A内に潤滑油100を供給することができ、車輪取付筒18内の減速歯車機構27の周囲を潤滑油100で満たしておくことができる。
【0074】
このとき、潤滑油ポンプ50から供給管51に吐出された潤滑油100の一部は、供給管51から分岐したノズル60を通じて、出力軸17の外周面に形成された環状油溝56に供給される。
図6ないし
図8に示すように、環状油溝56に供給された潤滑油100は、環状油溝56に沿って流れた後、径方向油通路58、軸方向油通路59を通じて油溜り空間55に導入される。このように、ダンプトラック1の走行時(電動モータ16の作動時)には、出力軸17の油溜り空間55内に十分な量の潤滑油100を溜めることができる。
【0075】
そして、
図9および
図10に示すように、ダンプトラック1の走行時に出力軸17が矢示R方向に回転すると、油溜り空間55内に溜められた潤滑油100は、遠心力によって油溜り空間55の内周面55Bに押付けられ、この内周面55Bの全周に張付くような挙動を生じる。ここで、油溜り空間55の内径寸法D2は、穴スプライン53の歯底円径D1よりも大きく形成されている。このため、遠心力によって油溜り空間55の内周面55Bに押付けられた潤滑油100は、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間に押出される(
図11参照)。従って、潤滑油100は、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間を通り、油溜り空間55から穴スプライン53の開口端53Aへと流れ、開口端53Aから外部に排出される。
【0076】
このように、ダンプトラック1の走行時には、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部の全域に亘って清浄な潤滑油100を十分に供給することができる。従って、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部に対して大トルクの回転負荷が作用することにより、このスプライン結合部に摩耗粉が生じたとしても、この摩耗粉を、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間を流れる潤滑油100によってスプライン結合部の外部に排出することができる。これにより、残留した摩耗粉によって穴スプライン53、軸スプライン54の摩耗が促進されるのを抑えると共に、スプライン結合部の全周に潤滑油100を供給することができる。この結果、穴スプライン53、軸スプライン54の寿命を延ばすことができるので、走行装置11の信頼性を高めることができる。
【0077】
しかも、第1の実施の形態によれば、穴スプライン53が形成された出力軸17に油溜り空間55、環状油溝56、油通路57を設け、吸込管49、潤滑油ポンプ50と共に車輪取付筒18内での潤滑油100の循環系路を構成する供給管51にノズル60を設けるだけの簡単な構成を採用している。この結果、走行装置11の構成を複雑化させることなく、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部を適正に潤滑することができ、製造コストも抑えることができる。
【0078】
かくして、本実施の形態による走行装置11は、前輪3および後輪4を有するダンプトラック1の車体2に設けられた電動モータ16と、軸方向の基端が電動モータ16に接続され電動モータ16の回転を出力する出力軸17と、出力軸17の軸方向の先端に形成された有底状の穴スプライン53と、穴スプライン53にスプライン結合される軸スプライン54を有し出力軸17の回転を減速歯車機構27に入力する入力軸42とを備えている。出力軸17には、穴スプライン53の奥所に形成された油溜り空間55と、油溜り空間55から基端側に向けて軸方向に離間した環状油溝56と、油溜り空間55と環状油溝56との間を連通し環状油溝56に供給された潤滑油を油溜り空間55に供給する油通路57とが設けられている。油溜り空間55の内径寸法D2は、穴スプライン53の歯底円径D1よりも大きく形成され、出力軸17の回転により油溜り空間55内の潤滑油が穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部に供給される。
【0079】
これにより、油溜り空間55内に溜められた潤滑油100を、出力軸17の回転による遠心力を利用して、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間に押出すことができる。この結果、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部に生じた摩耗粉を、潤滑油100によって外部に排出することができ、スプライン結合部の全周を適正に潤滑することができる。
【0080】
しかも、油通路57は、径方向の外端58Aが環状油溝56に開口し出力軸17の径方向に延びる複数の径方向油通路58と、各径方向油通路58の径方向の内端58Bと油溜り空間55との間を接続し出力軸17の軸方向に延びて設けられた複数の軸方向油通路59とにより構成されている。これにより、油通路57を構成する径方向油通路58と軸方向油通路59とを、出力軸17に容易に形成することができる。
【0081】
さらに、全周油路は出力軸17の外周面に環状に凹設された環状油溝56により構成され、潤滑油100は出力軸17の外周側に配置されたノズル60を通じて環状油溝56内に供給される。この場合、ノズル60は、吸込管49、潤滑油ポンプ50と共に車輪取付筒18内での潤滑油100の循環系路を構成する供給管51を利用して設けられている。従って、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部に潤滑油100を供給するための装置を新たに追加する必要がなく、走行装置11の構成を簡素化することができる。
【0082】
次に、
図12は本発明の第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、出力軸の外周側に出力軸を取囲む円筒部材を設け、この円筒部材の内周面に全周油路としての全周溝を形成したことにある。なお、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
図中、出力軸61は、第1の実施の形態による出力軸17と同様に、軸方向の先端側に穴スプライン53、油溜り空間55、複数の径方向油通路58、複数の軸方向油通路59が形成されている。しかし、出力軸61は、その外周面に後述する一対のOリング取付溝62が形成されている点で第1の実施の形態による出力軸17とは異なるものである。
【0084】
一対のOリング取付溝62は、出力軸17の外周面のうち各径方向油通路58を軸方向で挟む2箇所に全周に亘って形成されている。各Oリング取付溝62には、それぞれゴム等の弾性材からなるOリング63が取付けられると共に、後述する各シールリング66の内周側が挿入されている。
【0085】
円筒部材64は、例えば
図3に示す電動モータ16のケーシング、あるいはスピンドル14にブラケット等(図示せず)を用いて固定され、その内周側は出力軸61の外周面に挿嵌されている。即ち、出力軸61は円筒部材64に対して回転可能となっている。円筒部材64の内周面のうち出力軸61の各径方向油通路58に対応する部位には、全周油路としての環状の全周溝64Aが形成され、各径方向油通路58の径方向の外端58Aは全周溝64Aに開口している。円筒部材64には全周溝64Aに連通する油路64Bが形成され、この油路64Bは、例えば
図3に示す供給管51の途中部位に接続管65を介して接続されている。これにより、潤滑油ポンプ50から供給管51内に吐出された潤滑油100の一部は、接続管65、油路64Bを介して全周溝64Aに供給される構成となっている。また、円筒部材64の内周面のうち全周溝64Aを軸方向で挟む2箇所はシール摺接面64Cとなり、これら各シール摺接面64Cは各シールリング66の外周面が摺接するものである。
【0086】
一対のシールリング66は、出力軸61と円筒部材64との間に設けられ、円筒部材64の全周溝64Aに供給された潤滑油が、出力軸61と円筒部材64との間の隙間を通じて外部に漏れるのを抑えるものである。各シールリング66の内周側は出力軸61のOリング取付溝62内に配置され、各シールリング66の外周面は、円筒部材64のシール摺接面64Cに適度な押付力をもって摺接している。
【0087】
第2の実施の形態による走行装置は、上述の如きスプライン結合部の潤滑機構を有するもので、ダンプトラック1の走行時に潤滑油ポンプ50から供給管51に吐出された潤滑油100の一部は、供給管51から分岐した接続管65を通じて円筒部材64の全周溝64Aに供給される。全周溝64Aに供給された潤滑油100は、出力軸61に設けられた径方向油通路58、軸方向油通路59を通じて油溜り空間55に導入される。
【0088】
そして、ダンプトラック1の走行時に出力軸61が回転すると、油溜り空間55内に溜められた潤滑油100は、遠心力によって油溜り空間55の内周面55Bに押付けられる。これにより、第2の実施の形態においても、潤滑油100が、穴スプライン53の各スプライン歯53Bと軸スプライン54の各スプライン歯54Aとの間の隙間を通り、油溜り空間55から穴スプライン53の開口端53Aへと流れる。この結果、スプライン結合部に生じた摩耗粉を外部に排出することができ、穴スプライン53と軸スプライン54とのスプライン結合部を適正に潤滑することができる。
【0089】
なお、実施の形態では、潤滑油ポンプ50から供給管51に吐出された潤滑油100の一部を油溜り空間55に供給する構成を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば潤滑油ポンプ50とは別個のポンプを用いて油溜り空間55に潤滑油100を供給する構成としてもよい。
【0090】
実施の形態では、出力軸17(61)に4本の径方向油通路58と4本の軸方向油通路59とを設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば3本、または5本以上の径方向油通路および軸方向油通路を設ける構成としてもよい。さらに、出力軸の軸心に1本の軸方向油通路を形成し、この1本の軸方向油通路に各径方向油通路の径方向の内端が開口する構成としてもよい。
【0091】
実施の形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前輪駆動式または前,後輪を共に駆動する4輪駆動式のダンプトラックに適用してもよい。さらに、本発明はダンプトラックに限らず、ホイール式ショベル、ホイールローダ等の車輪を有する作業車両に広く適用することができるものである。