(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、2015年8月31日に出願し、本願優先権主張の基礎となる特願JP2015-171097号の特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の開示内容は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)の種類には、特に制限はないものの、耐熱性、難燃性の点で芳香族ポリカーボネート樹脂の使用が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量の分岐剤とを、ホスゲンもしくはトリホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。
【0014】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)中のポリカーボネート樹脂(A)の割合は、特に限定されないが、通常99.989〜69質量%である。ハロゲン系難燃剤を配合した場合では、通常70〜90質量%、好ましくは75〜80質量%であり、リン系難燃剤を配合した場合は、通常75〜95質量%、好ましくは80〜92質量%である。有機金属塩系難燃剤を配合した場合は、通常99〜99.989質量%、好ましくは99.5〜99.985質量%、より好ましくは99.7〜99.98質量%、特に好ましくは99.85〜99.97質量%である。シリコーン系難燃剤を配合した場合は、通常80〜99.989質量%、好ましくは90〜99.5質量%、より好ましくは95〜99質量%である。
【0016】
原料のジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。好ましくは耐熱性、入手性の点でビスフェノールAを主成分として用いることが好ましい。ビスフェノールAが主成分のポリカーボネート樹脂とは、使用するビスフェノールの内、ビスフェノールAを60〜100モル%、好ましくは90〜100モル%使用したものである。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0017】
また、上記ジヒドロキシ化合物とシロキサン構造を有する化合物との共重合体等のポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0018】
分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、上述したジヒドロキシ化合物の一部を分岐剤で置換すればよい。分岐剤としては、特に限定されないが、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(すなわち「イサチンビスフェノール」)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これら置換する化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)から誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち「ビスフェノールA」)と他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。
【0020】
上述したポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量を調節するには、末端停止剤として一価のヒドロキシ化合物、例えば芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は用途により任意であり、難燃剤(B)およびフルオロポリマー(C)との配合比により適宜選択して決定すればよい。成形性、成形品の強度等の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、粘度平均分子量[Mv]で、好ましくは12,000〜50,000、より好ましくは17,000〜40,000、さらに好ましくは20,000〜30,000である。粘度平均分子量が12,000以上であれば機械的強度が向上し、溶融押出法でのフィルム成形性に優れる。一方、粘度平均分子量を50,000以下であればポリカーボネート樹脂組成物が一定の流動性を有するため、押出加工性および生産速度が良好であり、さらに樹脂温度の上昇による添加剤の劣化が防止される。さらに、17,000以上、さらには20,000以上とすることで、溶融押出法によるシート・フィルムの成形性が向上する。また、40,000以下、さらには30,000以下とすることで、加工温度を下げることができ、難燃剤(B)由来のガス発生によるロール汚れを低減できる。
【0023】
ここでポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量〔Mv〕は以下に記載の方法により測定することができる。
<粘度平均分子量(Mv)測定条件>
粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、下記Schnellの粘度式から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。
【数1】
ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0025】
[難燃剤(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性の改善のために難燃剤(B)を含有する。本発明において用いられる難燃剤(B)は、特に限定されず、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤などが挙げられる。ハロゲン系難燃剤はこれらの中で難燃効果が最も高い。有機金属塩系難燃剤およびシリコーン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比べ難燃効果がやや低いものの、環境面で望ましい。リン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に次いで難燃性能が高いものの、添加量が多くなると耐熱性が低下するおそれがある。本発明では、用途や目的に応じて、これらの難燃剤を単独でまたは組み合わせて使用することができる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(100質量%)中の難燃剤(B)の割合は特に限定されないが、通常0.01〜30質量%である。
【0026】
<ハロゲン系難燃剤>
ハロゲン系難燃剤の代表的なものとしては、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールSカーボネートオリゴマー、1,2−ビス(2’,3’,4’,5’,6’−ペンタブロモフェニル)エタン、1,2−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、2,6−または2,4−ジブロモフェノール、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、2,2−ビス[4’(2’’,3’’−ジブロモプロポキシ)−,3’,5’−ジブロモフェニル]−プロパン、ビス(3,5−ジブロモ,4−ジブロモプロポキシフェニル)スルホン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有化合物を含む臭素系難燃剤;塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、パークロロペンタシクロデカン、ドデカクロロドデカヒドロジメタノジベンゾシクロオクテン、ドデカクロロオクタヒドロジメタノジベンゾフランなどの塩素含有化合物を含む塩素系難燃剤が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、熱安定性や、成形品の力学特性のバランスの観点から、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー類が特に好ましく用いられる。ここで、テトラブロモビスフェノールAのポリカーボネートオリゴマー類などの臭素含有芳香族ポリカーボネートオリゴマーは重合度1では成形時に成形品からブリードアウトし易く、他方重合度が大きくなると満足する流動性が得られ難くなる。好ましくは重合度2〜15である。これらの要件を満たす臭素含有芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、市販品があり、容易に入手することが可能である。例えば、2,4,6−トリブロモフェノール(「TBPH」と略称することがある。)を分子量調節剤としてのTBAおよびホスゲンを反応させて得られたオリゴマー(平均重合度5)は、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)から、商品名:ユーピロンFR−53として市販されている。
【0027】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のハロゲン系難燃剤の含有量は、特に制限されないが、通常5〜30質量%であり、好ましくは10〜30質量%であり、特に好ましくは20〜25%である。
【0028】
<リン系難燃剤>
難燃剤(B)の好ましい形態として、リン系難燃剤が挙げられる。リン系難燃剤は優れた難燃性を付与し得る。しかし、従来は添加量が多くなると樹脂成分の耐熱性(ガラス転移温度)の低下および溶融粘度の低下により、フィルム・シートへと成形する際に厚みムラが生じるため、優れた難燃性を有しかつ厚みムラの少ないフィルム・シートを得ることは困難であった。本発明においては、特定の流れ値を有するフルオロポリマー(C)を樹脂組成物に配合することで、樹脂成分の耐熱性の低下が抑制され、優れた難燃性を有し、かつ、厚みムラの低減されたフィルム・シートを得ることができる。
【0029】
リン系難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤等を用いることができる。リン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
(リン酸エステル系難燃剤)
リン系難燃剤としては、中でも難燃化効果が高く、流動性向上効果があることから、リン酸エステル系難燃剤が好ましく用いられる。リン酸エステル系難燃剤は限定されないが、特に、このリン酸エステル系難燃剤としては、下記の一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
【0031】
【化1】
(式(IIa)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、炭素数1〜8のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基、又は炭素数1〜8のアルキル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいフェニルで置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、0〜5の整数であり、Xは、アリーレン基または下記式(IIb)で表される二価の基を示す。)
【化2】
(式(IIb)中、Bは、単結合、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−である。)
【0032】
上記一般式(IIa)において、R
1〜R
4のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Xのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。tが0の場合、一般式(IIa)で表される化合物はリン酸エステルであり、tが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。本発明には、特に縮合リン酸エステルが好適に用いられる。
【0033】
上記一般式(IIa)で表されるリン酸エステル系難燃剤としては、具体的には、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリクレジルフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジイソプロピルフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジフォスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルジフォスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の種々のものが例示される。これらのうち好ましくは、トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールテトラフェニルジフォスフェート、レゾルシノールビスジ2,6−キシレニルホスフェート等が挙げられる。市販品のリン酸エステル系難燃剤の例として、(株)ADEKA社のFP−600、大八化学工業社製のPX−200等が挙げられる。
【0034】
上述したリン酸エステル系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
<ホスファゼン系難燃剤>
ホスファゼン系難燃剤は、リン酸エステル系難燃剤と比較して難燃剤の添加による樹脂組成物の耐熱性の低下を抑制できるため、効果的なリン系難燃剤として用いられる。ホスファゼン系難燃剤は、分子中に−P=N−結合を有する有機化合物であり、ホスファゼン系難燃剤としては、好ましくは下記一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物、下記一般式(IIIa)及び下記一般式(IIIb)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物が挙げられる。架橋ホスファゼン化合物としては、下記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなるものが難燃性の点から好ましい。
【0036】
【化3】
(式(IIIa)中、mは3〜25の整数であり、R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0037】
【化4】
(式(IIIb)中、nは3〜10,000の整数であり、Zは、−N=P(OR
5)
3基又は−N=P(O)OR
5基を示し、Yは、−P(OR
5)
4基又は−P(O)(OR
5)
2基を示す。R
5は、同一又は異なっていてもよく、アリール基又はアルキルアリール基を示す。)
【0038】
【化5】
(式(IIIc)中、Aは−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−S−、又は−O−であり、lは0又は1である。)
【0039】
一般式(IIIa)及び(IIIb)で表される環状及び/又は鎖状ホスファゼン化合物としては、例えば、R
5が炭素数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基であるものが好ましく挙げられる。具体的には、R
5がフェニル基などのアリール基である環状又は鎖状のホスファゼン化合物;R
5がトリル基(o−,m−,p−トリルオキシ基)、キシリル基(2,3−、2,6−、3,5−キシリル基)などの、炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキルで置換された炭素数6〜20のアリール基である環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;または当該R
5を組み合わせた環状又は鎖状フェノキシホスファゼン;が挙げられる。より具体的にはフェノキシホスファゼン、(ポリ)トリルオキシホスファゼン(例えば、o−トリルオキシホスファゼン、m−トリルオキシホスファゼン、p−トリルオキシホスファゼン、o,m−トリルオキシホスファゼン、o,p−トリルオキシホスファゼン、m,p−トリルオキシホスファゼン、o,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)キシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
1−6アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼンや、(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン(例えば、フェノキシo−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm−トリルオキシホスファゼン、フェノキシp−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p−トリルオキシホスファゼン、フェノキシo,m,p−トリルオキシホスファゼン等)、(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン、(ポリ)フェノキシトリルオキシキシリルオキシホスファゼン等の環状及び/又は鎖状C
6−20アリールC
1−10アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状C
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン、C
6−20アリールオキシC
1−3アルキルC
6−20アリールオキシホスファゼン(例えば、環状及び/又は鎖状トリルオキシホスファゼン、環状及び/又は鎖状フェノキシトリルフェノキシホスファゼン等)である。なお、ここで、「C
1−6」の記載は「炭素数1〜6の」を意味し、「C
6−20」「C
1−10」等についても同様である。また、「(ポリ)フェノキシ・・・」の記載は「フェノキシ・・・」と「ポリフェノキシ・・・」の一方、又は両方をさす。
【0040】
一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。また、該環状フェノキシホスファゼン化合物は、一般式(IIIa)中のmが3〜8の整数である化合物が好ましく、mの異なる化合物の混合物であってもよい。具体的には、シクロフェノキシシクロトリホスファゼン(m=3の化合物)、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン(m=4の化合物)、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン(m=5の化合物)等の化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。なかでも、m=3のものが50質量%以上、m=4のものが10〜40質量%、m=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
【0041】
このような環状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換することにより製造することができる。
【0042】
一般式(IIIb)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、R
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られる環状フェノキシホスファゼン化合物の塩化物(例えばヘキサクロロシクロトリホスファゼン)を220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10,000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。該直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、一般式(IIIb)中のnは、好ましくは3〜1,000、より好ましくは3〜100、さらに好ましくは3〜25である。
【0043】
架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
【0044】
また、架橋ホスファゼン化合物としては、一般式(IIIa)においてR
5がフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物又は、上記一般式(IIIb)においてR
5がフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記一般式(IIIc)で表される架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
【0045】
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、一般式(IIIa)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は一般式(IIIb)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0046】
本発明においては、ホスファゼン系難燃剤は、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記一般式(IIIa)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、難燃性及び機械的特性の点から好ましい。市販品のホスファゼン系難燃剤としては、例えば、環状フェノキシホスファゼンである伏見製薬所社製の「ラビトルFP−110」、「ラビトルFP−110T」及び大塚化学社製の「SPS100」等が挙げられる。
【0047】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のリン系難燃剤の含有量は、特に制限されないが、通常5〜25質量%である。また耐熱性、難燃性の観点から8〜20質量%であることが好ましい。
【0048】
上述したホスファゼン系難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
<有機金属塩系難燃剤>
有機金属塩化合物は炭素原子数1〜50、好ましくは1〜40の有機酸のアルカリ(土類)金属塩、好ましくは有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩であることが好ましい。本発明のある態様では、この有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩には、炭素原子数1〜10、好ましくは2〜8のフッ素置換アルキルスルホン酸(パーフルオロアルキルスルホン酸)の金属塩(好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩)が含まれる。このようなパーフルオロアルキルスルホン酸の金属塩は少量の配合で難燃性が得られるため、ハロゲン系難燃剤を配合した場合と比較して比重の増加がなく、リン系難燃剤を配合した場合と比較して耐熱性の低下がない点で好ましい。本発明の別の態様では、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩には、炭素原子数7〜50、好ましくは7〜40の芳香族スルホン酸の金属塩(好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩)が含まれる。このような芳香族スルホン酸の金属塩は少量の配合で難燃性が得られるため、ハロゲン系難燃剤を配合した場合と比較して比重の増加がなく、リン系難燃剤を配合した場合比較して耐熱性の低下がない点で好ましい。
【0050】
金属塩を構成するアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられる。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属であり、樹脂組成物の熱安定性及び難燃性の点でカリウム、ナトリウムが特に好ましい。
【0051】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0052】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウム、5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p−ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウム、α,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、およびアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。
【0053】
スルホン酸アルカリ(土類)金属塩以外の有機金属塩化合物としては、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩などが好適に例示される。硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、およびステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。
【0054】
芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩としては、例えばサッカリン、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミド、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN−(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の有機金属塩系難燃剤の含有量は、特に制限されないが、通常0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.3質量%、特に好ましくは0.03〜0.15質量%である。
【0056】
<シリコーン系難燃剤>
シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、燃焼時の化学反応によって難燃性を向上させるものである。該化合物としては、従来、ポリカーボネート樹脂の難燃剤として提案された各種の化合物を使用することができる。官能基としては具体的にはアルコキシ基およびハイドロジェン(即ちSi−H基)から選択された少なくとも1種の基を所定量含有されていることが好ましい。一般的にシリコーン化合物の構造は、以下に示す4種類のシロキサン単位を任意に組み合わせることによって構成される。すなわち、M単位:(CH
3)
3SiO
1/2、H(CH
3)
2SiO
1/2、H
2(CH
3)SiO
1/2、(CH
3)
2(CH
2=CH)SiO
1/2、(CH
3)
2(C
6H
5)SiO
1/2、(CH
3)(C
6H
5)(CH
2=CH)SiO
1/2等の1官能性シロキサン単位、D単位:(CH
3)
2SiO、H(CH
3)SiO、H
2SiO、H(C
6H
5)SiO、(CH
3)(CH
2=CH)SiO、(C
6H
5)
2SiO等の2官能性シロキサン単位、T単位:(CH
3)SiO
3/2、(C
3H
7)SiO
3/2、HSiO
3/2、(CH
2=CH)SiO
3/2、(C
6H
5)SiO
3/2等の3官能性シロキサン単位、Q単位:SiO
2で示される4官能性シロキサン単位である。シリコーン系難燃剤に使用されるシリコーン化合物の構造は、具体的には、示性式としてD
n、T
p、M
mD
n、M
mT
p、M
mQ
q、M
mD
nT
p、M
mD
nQ
q、M
mT
pQ
q、M
mD
nT
pQ
q、D
nT
p、D
nQ
q、D
nT
pQ
qが挙げられる。この中で好ましいシリコーン化合物の構造は、M
mD
n、M
mT
p、M
mD
nT
p、M
mD
nQ
qであり、さらに好ましい構造は、M
mD
nまたはM
mD
nT
pである。
【0057】
ここで、前記示性式中の係数m、n、p、およびqはそれぞれ独立に各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる。この平均重合度は好ましくは3〜150の範囲、より好ましくは3〜80の範囲、更に好ましくは3〜60の範囲、特に好ましくは4〜40の範囲である。かかる好適な範囲であるほど難燃性において優れるようになる。またm、n、p、qのいずれかが2以上の数値である場合、その係数の付いたシロキサン単位は、結合する水素原子や有機残基が異なる2種以上のシロキサン単位とすることができる。
【0058】
シリコーン化合物は、直鎖状であっても分岐構造を持つものであってもよい。またシリコン原子に結合する有機残基は炭素数1〜30、より好ましくは1〜20の有機残基であることが好ましい。かかる有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、およびデシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリール基、並びにトリル基などのアラルキル基を挙げることがでる。さらに好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、またはアリール基である。本発明の一態様において、アルキル基は、メチル基、エチル基、およびプロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基である。かかる場合には市場入手性の点でメチル基好ましい。さらに本発明の別の態様においてシリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物はアリール基を含有する。かかる場合にはアリール基により、ポリカーボネートとの相溶性の向上および難燃性の向上の点で好ましい。一方、二酸化チタン顔料の有機表面処理剤としてのシラン化合物およびシロキサン化合物は、アリール基を含有しない方が好ましい効果が得られる点で、シリコーン系難燃剤とはその好適な態様において明確に区別される。シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、前記Si−H基およびアルコキシ基以外にも反応基を含有していてもよく、かかる反応基としては例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、およびメタクリロキシ基などが例示される。
【0059】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のシリコーン系難燃剤の含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0060】
[フルオロポリマー(C)]
フルオロポリマー(C)は本発明のポリカーボネート樹脂組成物における燃焼物の滴下防止のために添加される。
【0061】
本発明で用いるフルオロポリマー(C)とは、400℃での流れ値が0.1×10
−3cm
3/sec以上であることを特徴とする。
【0062】
フルオロポリマーとしては、例えば、フルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フルオロオレフィン樹脂は、通常、フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体である。フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体は、フルオロエチレン構造(構成単位)主成分とするポリマーであり、具体的には、フルオロエチレン構造(フルオロエチレンの構成単位)はフルオロポリマーを構成するモノマー単位全体の好ましくは40〜100質量%であり、より好ましくは50〜100質量%であり、さらに好ましくは60〜100質量%である。
【0063】
具体例としてはポリジフルオロエチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルアルキルビニルエーテル共重合樹脂等が挙げられる。なかでも難燃性の点で好ましくはポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
【0064】
本発明では、低分子量体フルオロポリマーの指標として、JIS K7210−1:2014付属書JAに記載のフローテスター(島津製作所社製)での溶融粘度測定によって得られた流れ値を用いる。測定は2.1mm径−8mm長のダイを用い、予め400℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.98MPaの荷重にて上記温度に保って測定を行う。本発明では流れ値(高化式フローテスターによる流動性(測定温度400℃、測定荷重0.98MPa、ダイ穴径2.1mmの条件))が0.1×10
−3cm
3/sec以上であるフィブリル形成能の低いフルオロポリマーを使用することを特徴とする。フルオロポリマーの流れ値の上限は特に制限されないが、通常500×10
−3cm
3/sec以下である。
【0065】
フルオロポリマーの流れ値は、フルオロポリマーの分子量、種類等を制御することで調節することができる。一般に、フルオロポリマーの分子量が小さいほど流れ値は増大する傾向がある。すなわち、本発明の一態様において、フルオロポリマー(C)は、一般的には数平均分子量が60万以下の低分子量体からなるフィブリル形成能の低いフルオロポリマーである。好ましい態様において、フルオロポリマー(C)の数平均分子量は1万以上である。
【0066】
なお、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう。
【0067】
従来、優れた滴下防止効果を有することからフルオロポリマーとしてフィブリル化PTFEが一般的に使用されてきた。一般的なフィブリル化形成能の高いフルオロポリマーの流れ値は0.1×10
−3cm
3/secより低くなるため、実際のフローテスターの測定ではほぼ流動することがない。このようなフィブリル化形成能が高く流動性に劣るフルオロポリマーは樹脂組成物およびフィルム・シート成形品内での分散性に劣る。さらに、フィブリル化PTFEは分子量が高いため、剪断が掛かった場合に繊維化し、その繊維が樹脂組成物を収縮させる効果を引き起こしうる。特に、収縮の問題は薄肉品において重大な影響、例えば薄肉成形品における厚みムラやエージング時の収縮、を与える。具体的には、フィルム・シート成形時、特に薄肉とした場合に、ダイスから吐出されるフィルム・シートの収縮の均一性が失われるため、フィルム・シートの厚みムラが大きくなる問題および薄肉フィルムの燃焼試験時での接炎時に試験片が溶融し割けるため難燃性が得られないといった問題を生じ得る。さらに、成形後においても、エージング時の収縮を引き起こし得る。すなわち、従来の樹脂組成物を用いた場合には優れた難燃性を有するフィルム・シートを得ることは困難であった。
【0068】
本発明者らは、驚くべきことに、上記特定の流れ値を有するフルオロポリマーは剪断(樹脂の流れ、スクリューによる練りによって生じる力)によって繊維状とならず、樹脂組成物およびフィルム・シート成形品内での分散性に優れるため、樹脂組成物の収縮を抑制することができることを見出した。具体的には、上記特定のフルオロポリマーを配合することにより樹脂組成物の成形時の熱収縮(ダイスから吐出されるフィルム・シートの収縮)が抑制され、厚みムラが抑制されたフィルム・シートが得られる。さらに、得られたフィルム・シートは、フィブリル化によるPTFEの極端な配向が存在しないことによりエージンング時の熱収縮も抑制され得る。
【0069】
本発明の一つの態様のポリカーボネート樹脂組成物において、上記特定の流れ値を有するフルオロポリマー(C)とリン系難燃剤とが併用される。一般にリン系難燃剤を使用した場合には樹脂組成物の成形時の熱収縮が生じやすい。本態様では上記特定の流れ値を有するフルオロポリマー(C)とリン系難燃剤との併用により成形時の熱収縮が抑制され、難燃性の向上と厚みムラの低減とが両立されたフィルム・シートが得られうる。特に、リン系難燃剤とフルオロポリマー(C)とを併用する場合には、厚さが30〜200μm(さらに好ましくは30〜100μm)の範囲の薄膜(フィルム・シート)であっても、厚みムラが低減され、かつ、優れた難燃性が達成され得る。
【0070】
本発明の別の態様のポリカーボネート樹脂組成物において、上記特定の流れ値を有するフルオロポリマー(C)とハロゲン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、およびシリコーン系難燃剤の少なくとも一つとが併用される。ハロゲン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、またはシリコーン系難燃剤を配合する場合には、リン系難燃剤を配合した場合に比べて、難燃剤の配合による樹脂成分の耐熱性の低下が抑制されるため成形時の厚みムラの発生は低いが、成形後の熱収縮による不良の問題が生じうる。本発明では、特定の流れ値のフルオロポリマーを配合することによって、エージング時の収縮量が低減されたフィルム・シートを得ることが可能となる。
特に、ハロゲン系難燃剤とフルオロポリマー(C)とを併用する場合には、熱収縮の問題(エージング時の収縮量)が顕著に低減されうる。かかる効果は、特に厚さ200〜500μmのフィルム・シートにおいて顕著である。
【0071】
フィブリル形成能の高いフルオロエチレン樹脂の例としては、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6−J」、「テフロン(登録商標)640J」、ダイキン工業社製のポリフロンFシリーズ(例えば、「ポリフロンFA−500シリーズ」、「ポリフロンF−201シリーズ」、「ポリフロンF103シリーズ」)、三菱レイヨン社製の「メタブレンA−3800」、「メタブレンA−3750」等が挙げられる。これらは従来熱可塑性樹脂の難燃化を行う際、ドリップ防止剤としてされてきたものであり、本発明のフルオロポリマーとして該当しない。さらに、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン化学工業社製「フルオンD−1」等が挙げられ、これらも本発明のフルオロポリマーに該当しない。また、ダイキン工業社製の「ポリフロンMシリーズ」は、後述する30%粒径が4.0μmを超えるため、発明のフルオロポリマーに該当しない。
【0072】
また本発明の一形態におけるフルオロポリマー(C)は、30%粒径が4.0μm以下であることも特徴とする。30%粒径とは、体積基準の粒度分布曲線において粒径の細かい方から30%位置(通過体積百分率30%)における粒径である。粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって乾式法で測定することにより得られる。30%粒径が4.0μm以下だと良好な外観、厚み精度を示す。より好ましくは3.5μm以下であり、この場合さらに厚み精度向上に加え、難燃性をさらに高めることができる。難燃性の一層の向上のためにさらに好ましくは3.2μm以下である。一方30%粒径が4.0μmより大きいとフィルムの外観の低下、充分な厚み精度が得られない場合がある。30%粒径の下限値は特に制限されず、分散性向上の観点からは小さいほどよいが、通常、0.5μm以上であり、例えば0.7μm以上、1.0μ以上でありうる。
【0073】
30%粒径が4.0μm以下であり、フィブリル形成能の低いフルオロエチレン樹脂の例としては、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)TLP 10F−1」、ダイキン工業社製「ルブロンL−2」、「ルブロンL−5F」等が挙げられる。
【0074】
なお、フルオロポリマー(C)は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0075】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のフルオロポリマーの含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常1質量%以下、好ましくは0.75質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。フルオロポリマーの含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、フルオロポリマーによる難燃性改良の効果が不十分となる可能性があり、フルオロポリマーの含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じるおそれがある。
【0076】
[その他の成分]
(その他の樹脂成分)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂(A)やフルオロポリマー(C)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、(A)成分以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用されうる。
【0077】
(その他添加剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、無機充填材(ケイ酸塩化合物、ガラス繊維、炭素繊維等)などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0078】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0079】
その具体例を挙げると、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)と難燃剤(B)とフルオロポリマー(C)と必要に応じて配合されるその他の成分とを、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0080】
[ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、様々な形態の成形体にすることができる。特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いることで従来のポリカーボネート樹脂組成物では困難であった薄肉での難燃性に優れた成形品の提供が可能となる。本発明の成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、本発明の成形品は、その優れた難燃性から、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品及び銘板へ用いて好適であり、電気電子機器、照明機器の部品、シート部材に用いて特に好適である。なかでも本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、シート及びフィルムへの成形に好適に用いられ、厚みムラが小さく薄肉難燃性に優れたシート及びフィルムが得られる。
【0081】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からシート及びフィルムを得る方法に特に制限はなく、例えば溶融押出成形法、溶液流延法、ブロー成形法、インフレーション成形法等の成形方法を用いることができる。なかでも好ましくは生産性の点で押出成形法である。好ましい一実施形態において、シートまたはフィルムの製造方法は、ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形する工程を含む。
【0082】
本発明におけるポリカーボネート樹脂製シートおよびフィルムは、表層の片面または両面に非強化の熱可塑性樹脂層を積層していても良い。すなわち、本発明の一形態によれば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一面に熱可塑性樹脂層を有する積層シートまたはフィルムが提供される。このようにすることにより、良好な表面平滑性、光沢感、耐衝撃性が得られ、非強化層の裏面に印刷を施した場合には深みのある外観が得られる。
【0083】
また、積層する熱可塑性樹脂は種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、衝撃強度改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0084】
なお、「シート」とは、一般に、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう。しかし、本明細書では「シート」と「フィルム」とは明確に区別されるものではなく、双方とも同じ意味として用いられる。
【0085】
[フィルム・シートの厚み]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシート(積層体の場合にはポリカーボネート樹脂層)の厚みは、10〜1000μmの範囲であることが好ましく、30〜500μmの範囲がより好ましい。
好ましい一形態は、難燃剤(B)がリン系難燃剤を含み、フィルムまたはシートの厚さが30〜200μmの範囲である。かかる形態においては、優れた薄膜難燃性および低減されたは厚みムラが達成され得る。
好ましい他の一形態は、難燃剤(B)がハロゲン系難燃剤を含み、フィルムまたはシートの厚さが200〜500μmの範囲である。かかる形態においては、成型後の過熱収縮を顕著に低減することができる。
く、30〜200μmの範囲がさらに好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られるフィルムまたはシートは厚みムラが小さい。
【0086】
<フィルム・シートの難燃性>
本発明の樹脂組成物から得られるフィルムまたはシートは、優れた難燃性を有する。具体的には、UL94/VTM燃焼試験に準拠した方法で評価した場合に、VTM−2以上、好ましくはVTM−1以上、より好ましくはVTM−0である。なお、UL94/VTM燃焼試験は下記の実施例に記載の方法で行うことができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0088】
<フルオロポリマーの流れ値測定>
JIS K7210−1:2014付属書JAに記載の方法を参考にフルオロポリマー(C)の流れ値を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFT−500EXを用いて、穴径2.1mm、長さ8mmのダイを用い、試験温度400℃、試験力0.98MPa、余熱時間500secの条件で排出された溶融樹脂量を流れ値として用いた。なお表中には「PTFE流れ値」と表記する。
【0089】
<フルオロポリマーの粒径測定>
島津製作所社製サイクロン噴射型乾式測定ユニットDS5を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2300を用い測定を行った。測定は、試料カップに充填し、分散圧力を0.5MPa、テーブル上昇速度10mm/sec、屈折率1.65−0.05iを用いて測定を行った。粒度分布曲線を作成の後、通過体積百分率30%における粒径(30%粒径)を算出した。なお表中には「30%粒径」と表記する。
【0090】
<樹脂フィルムの厚み(膜厚分布)測定>
樹脂フィルムの膜厚分布は、山文電気社製の接触式卓上型オフライン厚み計測装置(TOF−5R)を用いて測定した。フィルムの中央部分の厚みを押出成形時の流れ方向(MD方向)に沿って10mm間隔で計140点測定し、フィルム膜厚の平均値と標準偏差を求め、膜厚のばらつきを評価した。なお表中には「平均膜厚」、「膜厚標準偏差」と表記する。膜厚のばらつき(厚みムラ)について、膜厚標準偏差が0μm以上4μ未満のものを「良好」、4μm以上を「不良」と判断することができる。
【0091】
<難燃性評価>
ポリカーボネート樹脂フィルムの難燃性評価は、幅50mm×長さ200mm×厚み50μmに切削したフィルムを用い、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94/VTM燃焼試験に準拠した方法で評価した。本評価では下記表1に示す基準から、VTM−0〜VTM−2と判定されたものを適合、接炎時における試験片の変形(溶融裂け)が標線を超えたものを不適合とした。なお、表中、「UL94難燃性」と表記する。
(評価方法)
(i)測定試料準備
測定試料を上記サイズ(上記幅50mm×長さ200mm×厚み50μmに切削する。
23℃、50%RH中で48時間放置した試料を試料A、温度70℃、168時間放置後、温度23℃、20%RH以下で4時間冷却した試料を試料Bとして、それぞれ試料5枚を1セットとして準備する。
(ii)測定方法
各試料の短辺から125mmのところに短辺と平行方向に線を引き、直径12.7mmの棒に、短辺が上下方向となるように巻きつける。125mmマークより上の75mm部分内は感圧テープで留めたあと棒を引き抜く。試料の上端はテスト中に煙突効果がないように閉じておく。次に、各試料を垂直にセットし、その300mm下方に脱脂綿を置く。試料の下端から10mmのところにバーナーの筒が位置するように、径9.5mm、炎長20mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、試料の下端の中央に青色炎を3秒間接炎し、1回目の離炎後の燃焼時間(t1)を測定する。次いで、炎が消えたらすぐに再び3秒間接炎し、2回目の離炎後の燃焼時間(t2)を測定する。また、脱脂綿を着火させるような燃焼落下物があったかの観察も行う。試料A、試料Bについて、各1セット(5枚)ずつ、上記の測定を行なう。
各試料の1回目(t1)または2回目(t2)離炎後の燃焼時間の大きい方(t1またはt2)を「各試料の最大燃焼時間」として評価した。5試料の合計燃焼時間(5試料のt1+t2の合計)を「5試料の合計燃焼時間」として評価した。脱脂綿を着火させるような燃焼落下物の存在の有無を「ドリップによる綿着火」の有無として評価した。
【0092】
【表1】
【0093】
<熱収縮率測定>
難燃ポリカーボネート樹脂フィルムのエージングによる収縮量の測定は以下のように行った。エージングは100mm×100mm×厚み0.25mmに切削したフィルムを160℃の熱風式乾燥機の中に設置した100メッシュの金網の上に平置きすることにより行った。2週間のエージングの後、フィルムを取り出し、23℃、50%RHの環境下で1日間状態調節を行った後、フィルム流れ方向(MD)の寸法を測定した。熱収縮率は、エージング前とエージング後のフィルムの面内寸法差(長さ)をエージング前の寸法で割ることで算出した。
【0094】
[使用材料]
<ポリカーボネート樹脂(A)>
(a−1)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標)S−3000F」、ビスフェノールA型、粘度平均分子量23,000
(a−2)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製「ユーピロン(登録商標E−2000F」、ビスフェノールA型、粘度平均分子量28,000
<難燃剤(B)>
(b−1)フェノキシホスファゼン(伏見製薬所社製「ラビトルFP−110T」)(上記式(IIIa)においてm≧3(主構造:環状3量体)、R
5=フェニル基である化合物)
(b−2)レゾルシノールビス−2,6−キシレニルホスフェート(大八化学工業製「PX−200」)
(b−3)テトラブロモビスフェノールAを含有する臭素化ポリカーボネートオリゴマー(三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンFR−53」)(平均重合度:5量体)
(b−4)パーフルオロブタンスルホン酸カリウム(DIC社製「メガファックF−114」)
<フルオロポリマー(C)>
(c−1)三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)TLP 10F−1」
(c−2)ダイキン工業社製「ルブロンL−2」
(c−3)ダイキン工業社製「ルブロンL−5F」
(c−4)ダイキン工業社製「ポリフロンFA−500H」、フィブリル形性能を有するポリテトラフルオロエチレン
【0095】
表2に30%粒径、PTFE流れ値の結果を示す。なお、表中のc−4のポリフロンFA−500Hの「流動せず」は流れ値が0.1×10
−3未満であることを示す。
【0096】
【表2】
【0097】
<その他添加剤(D)>
(d−1)酸化防止剤:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、((株)ADEKA社製 アデカスタブ「AO−60」)
(d−2)酸化防止剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、((株)ADEKA社製 アデカスタブ「2112」
【0098】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
<樹脂ペレットの製造>
表3,4の配合表に従い、難燃ポリカーボネート樹脂組成物のコンパウンドは、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機TEX30α(C18ブロック、L/D=55)を用い、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、リン系難燃剤を配合した材料はバレル温度280℃、有機金属塩系難燃剤およびハロゲン系難燃剤を配合した材料はバレル温度300℃の条件で混練し、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0099】
<樹脂フィルムの製造>
難燃ポリカーボネートペレットのシート成形として、(株)プラエンジ社製単軸押出機PSV−30を用いた。リン系難燃剤を配合した材料はシリンダー温度280℃、ダイス温度300℃、ロール温度110℃、スクリュー回転数30rpmの条件で幅25cm×長さ10m×厚み0.05mmのフィルムを得た。有機金属塩系難燃剤およびハロゲン系難燃剤を配合した材料はシリンダー温度300℃、ダイス温度300℃、ロール温度135℃、スクリュー回転数40rpmの条件で厚み0.25mmのフィルムを成形した。
【0100】
評価結果を表3、4に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
表3に示されるように、ポリカーボネート樹脂(A)、難燃剤(B)、およびフルオロポリマー(C)を含み、かつ、フルオロポリマー(C)として特定の流れ値のものを用いた実施例1〜4のポリカーボネート樹脂組成物から製造されたフィルムはいずれも難燃性に優れる。特に、実施例1〜4は、難燃剤(B)としてリン系難燃剤を用いており、これを特定の流れ値のフルオロポリマー(C)と併用することで、約50μmの薄膜においても、厚みムラが小さく、かつ、優れた難燃性を有することが示される。また、実施例1〜4では、押出し成形時の熱収縮が抑制され、厚みムラの小さいフィルムが得られた。
【0104】
これに対し、フルオロポリマー(C)として流れ値が0.1×10
−3cm
3/sec未満であるフィブリル化ポリフルオロエチレンを用いた比較例1では、厚さのムラが大きく、難燃性に劣る結果となった。このようなフィブリル化ポリフルオロエチレンは成形時の熱収縮が大きく、特に、リン系難燃剤と組み合わせて用いた場合には、樹脂組成物の耐熱性(ガラス転移温度)の低下が生じ、溶融粘度が低下するため、フィルムの厚みムラが大きくなったと推定される。また、フルオロポリマー(C)を含まない比較例2は滴下しやすくなり、UL94燃焼試験規格に不適合であった。
【0105】
表4に示されるように、フルオロポリマー(C)として特定の流れ値を有するものを用いた実施例5はエージング時の熱収縮が抑制されている。一方、流れ値が0.1×10
−3cm
3/sec未満であるフィブリル化ポリフルオロエチレンを用いた比較例3では、エージング時の熱収縮が大きかった。特に、実施例5及び比較例3は、難燃剤(B)としてハロゲン系難燃剤を含んでおり、実施例5ではハロゲン系難燃剤を特定の流れ値のフルオロポリマー(C)と併用することで、加熱収縮率が有意に低減できることが示される。
【0106】
以上より、ポリカーボネート樹脂(A)、難燃剤(B)および特定の流れ値を有するフルオロポリマー(C)を含むポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた難燃性の付与および熱収縮の低減が達成されることが確認された。