特許第6695360号(P6695360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6695360(R)−および(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデート、組成物ならびにその使用方法および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695360
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】(R)−および(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデート、組成物ならびにその使用方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/24 20060101AFI20200511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200511BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200511BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   C07F9/24 FCSP
   A61P43/00 105
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61K31/675
【請求項の数】16
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2017-563179(P2017-563179)
(86)(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公表番号】特表2018-517710(P2018-517710A)
(43)【公表日】2018年7月5日
(86)【国際出願番号】US2016062114
(87)【国際公開番号】WO2017087428
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2017年12月5日
(31)【優先権主張番号】62/255,905
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/324,259
(32)【優先日】2016年4月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517319271
【氏名又は名称】アセンタウィッツ ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】デュアン ジャン−シン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ イェユ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ シャオホン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ハイロン
(72)【発明者】
【氏名】マ ジン ユアン
(72)【発明者】
【氏名】マテウッチ マーク
【審査官】 伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−502743(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0214798(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(R)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデート:
【化1】
I
またはその同位体変種、溶媒和物もしくは水和物。
【請求項2】
化合物(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデート:
【化2】
II
またはその同位体変種、またはその薬学的に許容される溶媒和物もしくは水和物。
【請求項3】
80%以上の鏡像体過剰率を有する、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
90%以上の鏡像体過剰率を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
95%以上の鏡像体過剰率を有する、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
実質的に純粋である請求項1または2に記載の化合物を含む混合物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の化合物を含む混合物であって、前記化合物の純度が少なくとも50%である、混合物。
【請求項8】
前記化合物の純度が少なくとも90%である、請求項7に記載の混合物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の化合物を含む、対象において増殖性疾患の1つまたは複数の症状を処置する、または改善するための医薬組成物であって、
前記疾患が、肝臓がん、肝細胞癌(HCC)、非小細胞肺がん、黒色腫、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳腫瘍、膀胱がん、子宮頸がん、卵巣がん、頭頸部がん、子宮内膜がん、すい臓がん、肉腫がん、および直腸がんを含むがんである、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の化合物を含む、細胞の増殖を阻害するための医薬組成物。
【請求項12】
細胞ががん細胞である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
式I
【化3】
I
の化合物を製造する方法であって:
式II
【化4】
II
の化合物をPOCl3およびH2NCH2CH22またはその塩と接触させて式III
【化5】
III
(式中、L1およびL2は独立して脱離基であ
の化合物を用意するステップと、
式IIIの化合物を式Iの化合物に変換させるステップとを含む、
方法。
【請求項14】
請求項1の化合物のラセミ体または請求項1の前記化合物の任意の鏡像体過剰率を有する混合物の鏡像異性体のうちの1つに分割する方法であって、以下のステップを含む方法:
a)請求項1の化合物を光学的分割プロセスに供するステップであって、
1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートのラセミ体または鏡像異性的に濃縮されている混合物が、その2つの鏡像異性体である(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートと(R)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートとに、固定相および移動相を備えるキラルクロマトグラフィーによって分離され、前記固定相が、官能化多糖が共有結合されたシリカゲルを備え、かつ前記移動相がアルコールおよび別の溶媒を含んでいる、
ステップ。
【請求項15】
前記アルコールがメタノールである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記別の溶媒がCO2である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療剤として適切な、化合物1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの光学活性体、そのような化合物の医薬組成物、およびがんを処置する方法、ならびに、化合物(R,S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートのラセミ混合物の、鏡像異性体の1つからそれらを分割する方法、もしくは鏡像異性体の1つに濃縮する方法、または光学的に純粋な(R)および(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートを立体選択的に合成する方法を、提供する。
【背景技術】
【0002】
がんは、ヒトの罹患率および死亡率の主たる原因の1つである。正常細胞を損傷することなくまたは死滅させることなくがん細胞を死滅させることは困難であるため、がんの処置は難題である。がん処置中の正常細胞の損傷または死滅は、患者において有害な副作用の原因であり、がん患者に投与される抗がん薬の量を制限する可能性がある。
アルド−ケト還元酵素ファミリー1メンバーC3(AKR1C3)は、ヒトにおいて、AKR1C3遺伝子によりコードされている酵素である。この遺伝子は、40種類以上の既知の酵素およびタンパク質からなるアルド/ケト還元酵素スーパーファミリーの一つのメンバーをコードしている。これらの酵素は、補因子としてNADHおよび/またはNADPHを利用することによって、アルデヒドおよびケトンのこれらの相応するアルコールへの変換を触媒する。
多くのがん細胞が正常細胞と比べてAKR1C3還元酵素を過剰発現している(例えば、Cancer Res. 2010; 70:1573-1584; Cancer Res. 2010; 66: 2815-2825を参照されたい)。PR104
【化1】
PR 104
は、AKR1C3に対する弱い基質であることが示され、治験にて試験された。この化合物はまた低酸素状態中でも活性化され得るので、選択的なAKR1C3活性化プロドラッグではない。PR104は治験では無効であった。
したがって、がん患者を処置するための選択的AKR1C3還元酵素活性化プロドラッグを含めて、がん患者を処置するのに適した化合物が依然として必要である。本発明は、この必要性を満たす。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本明細書では、式IaおよびIb:
【化2】
Ia;および
【化3】
Ib
の化合物またはそれらの同位体変種、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
本明細書で提供される化合物にはそれぞれの鏡像異性体ならびに鏡像異性体の濃縮混合物が含まれる。
別の態様では、本明細書では、本明細書で提供される化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。別の態様では、本明細書では、本明細書で提供される医薬組成物の単位用量が提供される。
【0004】
別の態様では、本明細書では、患者においてがんを処置する方法であって、本明細書で提供される化合物のまたは薬学的に許容される組成物の治療有効量を患者に投与するステップが含まれる方法が提供される。一実施形態では、がんは、AKR1C3還元酵素のレベルが高いかまたはそのようながんにおいて通常より高いものである。一実施形態では、がんは肝臓がん、具体的には肝細胞癌(HCC)である。一実施形態では、がんは非小細胞肺がんまたは黒色腫である。一実施形態では、がんは前立腺がんである。一実施形態では、がんは乳がんである。一実施形態では、がんは白血病である。一実施形態では、がんは食道がんである。一実施形態では、がんは、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、子宮頸がん、卵巣がん、頭頸部がん、子宮内膜がん、すい臓がん、肉腫、または直腸がんである。さらなる一態様では、本発明の方法は、AKR1C3抗体を使用する方法によりがんのAKR1C3還元酵素レベルを決定するステップと、前記レベルが所定値に等しいかまたはそれより高い場合、本明細書で提供される化合物または薬学的に許容される組成物の治療有効量を前記患者に投与するステップとを含む。一態様では、本発明の方法は、投与するステップの前に、患者から分離した試料中の腫瘍内AKR1C3還元酵素レベルを決定するステップと、そのレベルが所定レベルに等しいかまたはそれより高い場合、治療のために患者を選択するステップとを含む。一部の実施形態では、そのレベルが前記所定値を超えていないかまたはそれ未満である場合、本明細書で提供される化合物または薬学的に許容される組成物の投与を含む処置以外のがん処置の治療有効量が投与される。本明細書で提供される化合物および組成物の治療有効量、投与の適切なモードを決定する方法については、当業者であれば、本開示を読むことによって、および当業者に既知の他の方法に基づいて、明白となるであろう。AKR1C3レベルについては、当業者に周知されている慣用的方法に従って測定される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A図1は、1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの2つの鏡像異性体の分割に関するLCクロマトグラムを示す図である。クロマトグラムは、CHIRALPAK OZ―H 6×250mm、65/35CO2/メタノールで溶出する5μm(Daicel)キラルカラム上でのキラル高速液体クロマトグラフィーによる。
図1B図1は、1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの2つの鏡像異性体の分割に関するLCクロマトグラムを示す図である。クロマトグラムは、CHIRALPAK OZ―H 6×250mm、65/35CO2/メタノールで溶出する5μm(Daicel)キラルカラム上でのキラル高速液体クロマトグラフィーによる。
図1C図1は、1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの2つの鏡像異性体の分割に関するLCクロマトグラムを示す図である。クロマトグラムは、CHIRALPAK OZ―H 6×250mm、65/35CO2/メタノールで溶出する5μm(Daicel)キラルカラム上でのキラル高速液体クロマトグラフィーによる。
図2】プロゲストロンと比較した、アルドケト還元酵素AKR1C3によるTH2870の活性化を示す図である。
図3】肝臓がん細胞株におけるAKR1C3発現を示す図である。
図4】前立腺がん細胞株におけるAKR1C3発現を示す図である。
図5】各群における平均体重を示す図である。
図6】各群における腫瘍量の典型的な蛍光像を示す図である。
図7】各群における腫瘍発育曲線を示す図である。
図8】各群における腫瘍量の蛍光像を示す図である。
図9】様々な群における平均腫瘍質量を示す図である。
図10】様々な群における体重変化を示す図である。
図11】末梢血における腫瘍量発育曲線を示す図である。
図12】様々な群における終了点での血液、脾臓および骨髄のヒトCD45抗体陽性のパーセントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
以下の定義は、読み手を補助するために提供する。特に規定のない限り、本明細書で使用する技術、表記法および他の科学用語もしくは医学用語または用語法は全て、化学技術分野および医学技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。一部の場合において、一般的に理解されている意味を有する用語を、明瞭性および/または参照容易性のために本明細書において定義する。そのような定義を本明細書に含めることは、当該技術分野で一般的に理解されている用語の定義を超えて実質的に異なることを示すものと、解釈されるべきでない。
【0007】
全ての数値指定、例えば、それぞれの範囲を含めて、pH、温度、時間、濃度、および質量は、適宜、0.1、1.0、または10.0の増分だけ(+)または(−)に一般的には変化し得る近似値である。全ての数値指定は、用語「約」が先行しているものとして理解することができる。本明細書に記載の試薬は、例示的なものであり、そのようなものの均等物は当該技術分野で知られている。
「a」、「an」および「the」は、本文中に明示していない限り、複数の指示対象物を包含する。したがって、例えば、化合物(a compound)に対する言及は、1つまたは複数の化合物または少なくとも1つの化合物を示す。したがって、用語「1つ(a)」(または「an」)、「1つまたは複数」、および「少なくとも1つ」は、本明細書において互換可能に使用される。
【0008】
用語「約」または「およそ」とは、通常の当業者によって決定される特定の値の許容し得る誤差を意味し、これは、その値がどのように測定されるかまたは決定されるかに一部依存する。ある特定の実施形態では、用語「約」または「およそ」とは、標準偏差が1、2、3または4以内を意味する。ある特定の実施形態では、用語「約」または「およそ」とは、所定の値または範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.05%以内を意味する。
本明細書で使用する、用語「含む(comprising)」は、組成物および方法が、列挙された要素を含むが他のものを除かないことを意味することを意図する。組成物および方法を定義するために使用される場合の「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、組成物または方法に対して任意の本質的な重要なもののその他の要素を除くことを意味するものとする。「からなる(consisting of)」とは、特許請求された組成物および特許請求された実質的な方法のステップについて、その他の成分の微量要素を超えるものを除くことを意味するものとする。これらの移行用語のそれぞれによって定義された実施形態は、本発明の範囲内である。したがって、方法および組成物はさらなるステップおよびさらなる成分を含む場合もあり(含む(comprising))、あるいは、重要ではないステップおよび組成物を含む場合もあり(から本質的になる(consisting essentially of))、あるいは、記載された方法のステップまたは組成物のみを意図する場合もある(からなる(consisting of))、ものとする。
「脱離基」とは、当業者に周知されている求核置換条件下で置換し得る部分をいう。脱離基としては、限定されないがハロおよび−OSO2−R20があるが、R20は置換されたアルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、またはヘテロアリールでもよい。
薬物を患者に「投与すること」または「投与」(およびこの語句の文法的等価物)は、医療専門家による患者への投与の場合もありもしくは自己投与の場合もある直接投与、
および/または薬物を処方する行為の場合もある間接投与、をいう。例えば、患者に薬物の自己投与を指示する医師、および/または患者に薬物の処方箋を給する医師は、薬物を患者に投与しているとする。
【0009】
「がん」とは、白血病、リンパ腫、がん腫、ならびに浸潤によって局所的におよび転移によって全身に広がることがあり得る、無制限に増殖する可能性のある、固形腫瘍を含めてその他の悪性腫瘍をいう。がんの例としては、それらに限定されないが、副腎、骨、脳、乳房、気管支、結腸および/または直腸、胆嚢、頭頸部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、神経組織、膵臓、前立腺、副甲状腺、皮膚、胃、ならびに甲状腺のがんが挙げられる。がんのある特定の他の例としては、急性および慢性のリンパ球性および顆粒球性の腫瘍、腺癌、腺腫、基底細胞癌、子宮頚部形成異常および上皮内癌、ユーイング肉腫、類表皮癌、巨細胞腫瘍、多形性神経膠芽腫、ヘアリーセル腫瘍、腸の神経節細胞腫、過形成性角膜神経腫瘍、膵島細胞癌、カポジ肉腫、平滑筋腫、白血病、リンパ腫、悪性カルチノイド、悪性黒色腫、悪性高カルシウム血症、マルファン症候群様体質腫瘍、髄様癌、転移性皮膚癌、粘膜神経腫、骨髄腫、菌状息肉腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、骨原性および他の肉腫、卵巣腫瘍、褐色細胞腫、真性赤血球増加症、原発性脳腫瘍、小細胞肺腫瘍、潰瘍形成性および乳頭型両方の扁平上皮細胞癌、過形成、精上皮腫、軟部組織肉腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫、腎細胞腫、局所皮膚病変、細網肉腫(veticulum cell sarcoma)、ならびにウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0010】
用語「接触させること(contacting)」または「接触させる(contact)」とは、そのような接触の結果として、生理学的および/または化学的効果が生じるように、治療剤と細胞もしくは組織を一緒にすることをいう。接触させることは、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで行うことができる。一実施形態では、治療剤を、細胞培養(インビトロ)で細胞と接触させ、治療剤の細胞におよぼす効果を決定する。別の実施形態では、治療剤を細胞または組織と接触させることには、接触させるべき細胞または組織を有する対象に治療剤を投与することが含まれる。
【0011】
用語「光学的に活性な」および「鏡像異性的に活性な」とは、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、または約99.9%以上の鏡像体過剰率を有する分子の集団をいう。ある特定の実施形態では、光学的に活性なまたは鏡像異性的に活性な化合物の鏡像体過剰率は、約90%以上、約95%以上、約98%以上、または約99%以上である。
【0012】
光学的に活性のある化合物について説明する際に、接頭語RとSは、そのキラル中心を中心にして分子の絶対立体配置を表示するのに使用される。(+)および(−)は、化合物の旋光度、すなわち、偏光面が、光学的に活性な化合物よって回転している方向を表示するのに使用する。接頭語(−)は、化合物が左旋性であること、すなわち、化合物が、偏光面を左または反時計回りに回転させることを示す。接頭語(+)は、化合物が右旋性であること、すなわち、化合物が、偏光面を右または時計回りに回転させることを示す。しかしながら、旋光性の記号(+)および(−)は、分子の絶対立体配置RおよびSに関係しない。
【0013】
用語「光学的に純粋」および「鏡像異性的に純粋」とは、約80%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、または約99.9%以上の鏡像体過剰率(ee)を有する分子の集団をいう。ある特定の実施形態では、光学的に純粋なまたは鏡像異性的に純粋な化合物に関する鏡像体過剰率は、約90%以上、約95%以上、約98%以上、または約99%以上である。化合物の鏡像体過剰率は、それらに限定されないが、光学的に活性な固定相を使用するカイロオプティカル(chiroptical)クロマトグラフィー(ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、および薄層クロマトグラフィー)、同位体希釈、電気泳動、熱量測定、旋光分析、キラル誘導体によるNMR分割法、およびキラル溶媒和剤またはキラルシフト試薬によるNMR法を含めて、通常の当業者により使用される任意の標準方法により決定することができる。
【0014】
用語「実質的に純粋」および「実質的に均一」とは、それらに限定されないが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、核磁気共鳴(NMR)、および質量分析(MS)を含めて、通常の当業者により使用される標準の分析方法により決定した場合、容易に検出可能な不純物は含まれていないと思えるように十分に均一であること;あるいは、さらなる精製によって、物質の物理的特性、化学的特性、生物学的特性、ならびに/または薬理学特性が、例えば酵素活性および生物活性が、検出可能なほどに変更することがないほどに、十分に純粋であることを意味する。ある特定の実施形態では、「実質的に純粋」または「実質的に均一」とは、標準の分析方法により決定した場合、分子の少なくとも約50質量%、少なくとも約70質量%、少なくとも約80質量%、少なくとも約90質量%、少なくとも約95質量%、少なくとも約98質量%、少なくとも約99質量%、または少なくとも約99.5質量%が、化合物の単一の立体異性体である分子の集団をいう。
【0015】
用語「同位体変種」とは、そのような化合物を構成する原子のうち1個または複数において、天然ではない割合の同位体を含有する化合物をいう。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は、それらに限定されないが、水素(1H)、重水素(2H)、トリチウム(3H)、炭素−11(11C)、炭素−12(12C)、炭素−13(13C)、炭素−14(14C)、窒素−13(13N)、窒素−14(14N)、窒素−15(15N)、酸素−14(14O)、酸素−15(15O)、酸素−16(16O)、酸素−17(17O)、酸素−18(18O)、フッ素−17(17F)、フッ素−18(18F)、リン−31(31P)、リン−32(32P)、リン−33(33P)、イオウ−32(32S)、イオウ−33(33S)、イオウ−34(34S)、イオウ−35(35S)、イオウ−36(36S)、塩素−35(35Cl)、塩素−36(36Cl)、塩素−37(37Cl)、臭素−79(79Br)、臭素−81(81Br)、ヨウ素−123(123I)、ヨウ素−125(125I)、ヨウ素−127(127I)、ヨウ素−129(129I)、およびヨウ素−131(131I)を含めて、天然でない割合の1個または複数の同位体を含有する。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は安定した形態、すなわち非放射性である。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は、それらに限定されないが、水素(1H)、重水素(2H)、炭素−12(12C)、炭素−13(13C)、窒素−14(14N)、窒素−15(15N)、酸素−16(16O)、酸素−17(17O)、酸素−18(18O)、フッ素−17(17F)、リン−31(31P)、イオウ−32(32S)、イオウ−33(33S)、イオウ−34(34S)、イオウ−36(36S)、塩素−35(35Cl)、塩素−37(37Cl)、臭素−79(79Br)、臭素−81(81Br)、およびヨウ素−127(127I)を含めて、天然でない割合の1個または複数の同位体を含有する。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は不安定な形態、すなわち放射性である。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は、それらに限定されないが、トリチウム(3H)、炭素−11(11C)、炭素−14(14C)、窒素−13(13N)、酸素−14(14O)、酸素−15(15O)、フッ素−18(18F)、リン−32(32P)、リン−33(33P)、イオウ−35(35S)、塩素−36(36Cl)、ヨウ素−123(123I)、ヨウ素−125(125I)、ヨウ素−129(129I)、およびヨウ素−131(131I)を含めて、天然でない割合の1個または複数の同位体を含有する。本明細書で提供される化合物において、当業者の判断に従い実現可能である場合は、任意の水素は例えば2Hとすることができ、または、任意の炭素は例として13Cとすることができ、または任意の窒素は例として15Nとすることができ、および任意の酸素は18Oとすることができることが理解されるであろう。ある特定の実施形態では、化合物の「同位体変種」は、天然でない割合の重水素を含有する。
【0016】
語句「その同位体変種;または、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ」とは、語句「そこで言及された化合物の同位体変種;または、そこで言及された化合物の薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはプロドラッグ、またはそこで言及された化合物の同位体変種」と同じ意味を有する。
「患者」および「対象」は、がんの処置を必要とする哺乳動物をいうために互換的に使用されている。一般的に、患者とはヒトである。一般的に、患者とは、がんと診断されたヒトである。ある特定の実施形態では、「患者」または「対象」とは、薬物および治療薬のスクリーニング、特性確認および評価に使用される、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、マウスまたはラットなどの非ヒト哺乳動物を指す場合もある。
【0017】
用語「薬学的に許容される担体」、「薬学的に許容される賦形剤」、「生理学的に許容される担体」、または「生理学的に許容される賦形剤」とは、液体のもしくは固体の充填剤、希釈剤、溶媒、または封入材料などの、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを指す。一実施形態では、各構成成分は、医薬製剤の他の成分と相容性であるという意味において、また合理的な利益/危険比で釣り合って、度を超えた毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、または他の問題もしくは合併症なしで、ヒトおよび動物の組織または臓器との接触に使用するのに適するという意味において、「薬学的に許容される」とする。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed.; Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia, Pa., 2005; Handbook of Pharmaceutical Excipients, 6th ed.; Rowe et al., Eds.; The Pharmaceutical Press and the American Pharmaceutical Association: 2009; Handbook of Pharmaceutical Additives, 3rd ed.; Ash and Ash Eds.; Gower Publishing Company: 2007; and Pharmaceutical Preformulation and Formulation, 2nd ed.; Gibson Ed.; CRC Press LLC: Boca Raton, Fla., 2009を参照されたい。
【0018】
「プロドラッグ」とは、投与されると、少なくとも1つの性質に関して生物学的に活性なまたはより活性な化合物(または薬物)に代謝されるかまたは本来なら変換される化合物をいう。プロドラッグは、当該薬物と比べて、それを活性が低いかまたは不活性とするような様式で、その薬物に対して、化学的に修飾されているが、この化学修飾とは、プロドラッグが投与された後、代謝的または他の生物学的プロセスによって対応する薬物が生成されるようなものである。プロドラッグは、活性薬物と比べて、改変された代謝安定性もしくは輸送特性、少ない副作用もしくは低毒性、または改善された風味を有し得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれる参考文献Nogrady, 1985, Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388-392を参照されたい)。プロドラッグは、相応する薬物以外の反応体を使用して合成することができる。
「固形腫瘍」とは、それらに限定されないが、骨、脳、肝臓、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、皮膚および軟組織(肉腫)における転移性の腫瘍を含む固形腫瘍をいう。
【0019】
用語“溶媒和物”とは、溶質の、例えば本明細書で提供される化合物の、1個または複数の分子と、化学量論的量または非化学量論的量で存在する溶媒の1個または複数の分子とにより形成される複合体または凝集体をいう。好適な溶媒としては、それらに限定されないが、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、および酢酸がある。ある特定の実施形態では、溶媒は薬学的に許容し得る。一実施形態では、この複合体または凝集体は、結晶形態である。別の実施形態では、この複合体または凝集体は、非晶質形態である。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。水和物の例としては、それらに限定されないが、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、および五水和物である。
薬物の「治療有効量」とは、がんに罹患している患者に投与した場合、意図される治療効果を、例えば、患者におけるがんの1または複数の症状の緩和、改善、軽減または消失を、有する薬物の量をいう。治療効果は、必ずしも1回の用量の投与で生じるものではなく、一連の用量を投与してからのみに生じる場合もある。したがって、治療有効量は、1回または複数の投与によって投与してもよい。
【0020】
病状または患者「を処置すること」、「の処置」、または「の治療」とは、臨床結果を含めて有益なまたは所望の結果を得るために取るステップをいう。本発明では、有益なまたは所望の臨床結果としては、それらに限定されないが、がんの1つまたは複数の症状の緩和もしくは改善;疾患の程度の減弱;疾患進行の遅延もしくは遅滞;疾患状態の改善、軽減もしくは安定化;または他の有益な結果が挙げられる。がんの処置は、場合によっては、部分奏効または疾患の安定をもたらし得る。
「腫瘍細胞」とは、適切な任意種の、例えばマウス、イヌ、ネコ、ウマまたはヒトなどの哺乳動物の、腫瘍細胞をさす。
【0021】
記述的実施形態
本明細書では、式IaおよびIb:
【化4】
Ia;および
【化5】
Ib
の化合物またはそれらの同位体変種、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0022】
別の態様では、本明細書では、式I:
【化6】
I
の化合物を製造する方法であって:
式II
【化7】
II
の化合物をPOCl3およびH2NCH2CH22・、またはその塩、と接触させて式III
【化8】
III
の化合物を用意するステップを含む方法が提供され、
ここで、L1およびL2は独立して脱離基であり、次いで
式IIIの化合物を取って、式Iの化合物を提供する。
【0023】
本明細書で提供される化合物を合成するためのある特定の方法が本明細書では提供されている。本明細書で提供されるこれらの化合物およびその他の化合物を合成するための他の方法は、当業者に周知されている合成法の適用とそれにおける試薬および反応物の置換とに基づけば、当業者には明白であろう。例えば、Hay et al., J. Med. Chem. 2003, 46, 2456-2466 and Hu et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 21 (2011) 3986-3991を参照されたい。本明細書で提供される化合物の調製に有用な出発材料は、市販されているか、または慣用的方法に従って調製することができる。反応は不活性溶媒中で通常は行われ、必要であれば加熱する。当業者であれば、ある特定の反応には保護基の使用が必要であろうことを、容易に理解するであろう。保護基については当業者に周知されており、例えば、Greene's Protective Groups in Organic Synthesis. Peter G. M. Wuts and Theodora W. Greene, 4th Edition or a later edition, John Wiley & Sons, Inc., 2007に記載されてある。反応生成物は、結晶化、析出、蒸留、および/またはクロマトグラフィーなどの慣用法に従って分離することができる。化合物または中間体の純度については、1H−NMR、HPLC、TLC等などの周知されている方法を使用して確認することができる。
【0024】
別の実施形態では、本発明は式Iの化合物を光学的に分割する方法に関する。本発明の式IaおよびIbの化合物の薬学的重要性からみて、効果的な工業プロセスを使用して式Iの化合物を、とりわけ良好な収率でおよび卓越した化学的および鏡像異性的純度で、分割することは必要不可欠である。
【0025】
出願人は、式I
の化合物を光学的に分割する方法を開発したが、この方法によって、収率と化学的および鏡像異性的純度とに関して良好な特性を備える式IaおよびIbの化合物を得ることが可能である。本発明の方法により、生産性が高く収率が卓越しているとともに使用する溶媒を節減して、卓越した鏡像異性体過剰率で式Iの化合物のいずれかの鏡像異性体を得ることが可能である。より詳細には、本発明は、式I
【化9】
I
の化合物を光学的に分割して、絶対立体配置(R)および(S)の、それぞれ式(Ia)および(Ib)
【化10】
Ia;および
【化11】
Ib
の式Iの化合物の鏡像異性体を得る方法に関し:
ここで、式Iの化合物のラセミ混合物または鏡像異性的に濃縮されている混合物がその2つの鏡像異性体、式(Ia)の(R)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートと式(Ib)の(S)−1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートとに、キラルクロマトグラフィーによって分離される。
光学的分割とは、ラセミ混合物のうちの2つの鏡像異性体またはこれら2つの鏡像異性体の任意の混合物のうちの2つの鏡像異性体を分離することを意味すると理解される。
ラセミ混合物とは、55:45から45:55の比にある、好ましくは50:50の比にある2つの鏡像異性体の混合物を意味すると理解される。
鏡像異性的に濃縮されている混合物とは、55:45と90:10との間で変動する比にある鏡像異性体の内の1つのより多くを有意に含有する2つの鏡像異性体の混合物を意味すると理解される。
キラルクロマトグラフィーとは、キラル固定相と溶媒または溶媒およびガスの混合物で構成される移動相とによって、ある混合物の鏡像異性体の分離を可能とする装置を意味すると理解される。
本発明の実施形態の1つにおいては、キラルクロマトグラフィーに使用する固定相は官能化多糖で含浸されたシリカゲルを備えている。
【0026】
一実施形態でキラルクロマトグラフィーに使用する移動相はアルコールおよび有機ガスの混合物を含む。キラルクロマトグラフィーに使用し得るアルコールのうちには、何ら制限を意味するものではないが、イソプロパノール、エタノールおよびメタノールを記載することができる。一実施形態では、キラルクロマトグラフィーに使用するアルコールはメタノールである。
キラルクロマトグラフィーに使用し得る有機ガスのうちには、何ら制限を意味するものではないが、高圧で使用することができる有機ガスを記載することができる。使用するのに好ましい有機ガスはCO2である。一実施形態では、キラルクロマトグラフィーに使用する移動相はメタノールおよびCO2の混合物を含む。本発明の一実施形態では、キラルクロマトグラフィーに使用する移動相は、50:50から2:98に変動する比でメタノールおよびCO2の混合物を含む。
【0027】
本発明の一実施形態では、キラルクロマトグラフィーに使用する移動相は再利用される。本発明の一実施形態では、キラルクロマトグラフィーは15℃以上から40℃以下までの温度にて実施される。本発明の実施形態の一つでは、光学的分割は式(I)の1:1のラセミ混合物で実施される。本発明の実施形態の一つにおいては、1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの(R)−鏡像異性体が使用される。本発明の実施形態の一つでは、1−(3−(3−N,N−ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル−4−ニトロフェニル)−1−エチル−N,N’−ビス(エチレン)ホスホルアミデートの(S)−鏡像異性体が使用される。
本発明の一実施形態においては、連続マルチカラム分離プロセスが使用される。
【0028】
本発明の別の実施形態においては、疑似移動床クロマトグラフィー法が使用される。疑似移動床クロマトグラフィーとは、移動相の移動と反対の方向に固定相の移動をシミュレートするのを可能にする、連続的クロマトグラフィー法を意味すると解される。このような方法を使用すると、従来のクロマトグラフィーの手法によって分離するのが困難であるかまたは不可能である化合物を分離することが可能となる。キラル固定相を用いる場合、そのような方法は、鏡像異性体の分離にとりわけ役立つ。疑似移動床クロマトグラフィーを使用すると、不連続的クロマトグラフィー法と比較して、使用される固定相および移動相の量を節減しつつ、高い生産性で鏡像異性体混合物を連続的に分割することを実施することが可能となる。
【0029】
使用される略字のリスト
DMF:ジメチルホルムアミド
TEA:トリエチルアミン
RT:室温
IPM.:イソホスホルアミドマスタード
THF:テトラヒドロフラン
DIAD:アゾジカルボン酸ジイソプロピル
以下に、本発明を実施例で説明する。
【実施例】
【0030】
(例1)
化合物TH2870の調製。
【化12】
化合物2〜6を以下に記載の通り合成した。
a.化合物3の合成:
化合物1(3g、16.2mmol)をDMF(3滴)とともにSOCl2(10mL)中で3時間還流し、次いで真空中でSOCl2を除去した。残留物をトルエン(5mL)で希釈し、さらなる精製をせずに以下のステップで使用した。
【0031】
MgCl2(930mg、9.8mmol)、TEA(4.7mL、33.4mmol)およびマロン酸ジメチル(1.9mL、16.6mmol)の混合物をRTにて1.5時間攪拌し、その後化合物2の上記トルエン溶液を添加した。結果として得られる混合物をRTにて1.5時間再度攪拌し、次いで濃HCl(4mL)を添加し、5分間攪拌した。混合物をEtOAcで抽出し(30mL×3)、脱水し(Na2SO4)、ろ過し、減圧中で濃縮した。残留物に6NHCl(30mL)を添加し、混合物を一晩還流した。混合物をEtOAcで抽出し(30mL×3)、脱水し(Na2SO4)、ろ過し、減圧中で濃縮した。残留物をFCC(シリカゲル、EtOAc/ヘキサン)により精製して、淡黄色固形物として化合物3を得た(1.9g、収率63%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.16 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.86 (t, d = 9.2 Hz, 2H), 2.68 (s, 3H) ppm.
【0032】
b.化合物4の合成
MeOH(20mL)中に化合物3(1.9g、10.4mmol)を含む混合物にNaBH4(418mg、11mmol)を小分けして−10℃にて添加した。混合物を−10℃と0℃との間で、20分間攪拌し、EtOAc(300mL)で希釈し、飽和NH4Cl水溶液で洗浄し、食塩水で洗浄し、脱水した(Na2SO4)。ろ過し、減圧中で濃縮した。残留物をFCC(シリカゲル、EtOAc/ヘキサン)により精製して、淡黄色油状物として化合物4を得た(1.44g、収率75%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.06 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.35 (d, J = 11.6 Hz, 1H), 7.30 (d, J = 11.6 Hz, 1H), 5.01-4.99 (m, 1H), 1.52 (d, J = 6.4 Hz, 3H) ppm.
【0033】
c.化合物5の合成
THF(60mL)中に、化合物4(1.44g、7.78mmol)、Br−IPM(2.88g、9.34mmol)、PPh3(3.06g、11.67mmol)を含む混合物にDIAD(2.34g、11.67mmol)を0℃にて添加した。混合物を0℃にて1.5時間攪拌し、減圧中で濃縮し、FCC(シリカゲル、EtOAc/ヘキサン)により精製して、淡黄色油状物として化合物5を得た(1.0g、収率27%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.09 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 8.31 (dd, J = 2.4, 13.6 Hz, 2H), 5.52-5.60 (m, 1H), 3.54-3.19 (m, 8H), 1.63 (d, J = 6.4 Hz, 3H) ppm.
【0034】
d.化合物6の合成
THF(50mL)中に、化合物5(1g、2.1mmol)およびAg2O(3g)を含む混合物を65℃にて3時間攪拌した。ろ過し、減圧中で濃縮した。残留物をFCC(シリカゲル、アセトン/ヘキサン)により精製して、黄色固形物として化合物6を得た(0.6g、収率90%)。
1HNMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.08 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 11.6 Hz, 1H), 7.31(d, J = 8.4 Hz, 1H), 5.70-5.67 (m, 1H), 2.25-2.08 (m, 8H), 1.64 (d, J = 6.4 Hz, 3H)ppm.
e.化合物7の調製
【化13】
【0035】
化合物7−2の調製
Ac2O(562mL、1.5eq)をピリジン(700mL)中に化合物7−1(150g、1.08mol)を含む溶液に0℃にて滴下添加し、r.t.にて6時間攪拌した。蒸発させ、氷水中に注ぎ、ろ過し、ろ過物を脱水して白色固形物として化合物7−2を得た(150g、収率74%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ ppm 8.00~7.98 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 8.03(s, 1H), 7.83(s, 1H), 7.51~7.47 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.36~7.34 (dd, J = 8.0 Hz 1.2 Hz, 1H), 2.34 (s, 3H).
化合物7−3の調製
DCM(1500mL)中に化合物7−2(150g、833mmol)を含む溶液に、DMF(15mL)を添加し、0℃に冷却し、その後にオキサイルクロリド(oxayl chloride)(225mL、2.50mol)を添加し、r.t.にて4時間攪拌した。蒸発させ、残留物をDCM(1000mL)に溶解させ、0℃に冷却し、その後にTHF(900mL、1.8mol)中のジメチルアミン2M溶液を添加し、r.t.にて20時間攪拌した。H2O(1500mL)でクエンチし、DCMで抽出し(2000mL×3)、蒸発させて薄い黄色の液体として粗化合物7−3(137g、収率80%)を得た。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ ppm 7.43~7.39 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.29~7.28(d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.17~7.13 (m, 2H), 3.00(s, 6H), 2.32(s, 3H).
【0036】
化合物7の調製
MeOH(1000mL)中に化合物7−3(137g、661mmol)を含む溶液に、K2CO3(276g、2mol)を添加し、r.t.にて5時間攪拌した。ろ過し、ろ液を蒸発させた。残留物を水(1000mL)に溶解させ、4NHClでpH6.0に酸性化し、ろ過し、ろ過物を脱水して白色固形物として化合物7を得た(60g、収率55%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ ppm 8.25 (s, 1H), 7.19~7.15(d, J = 8.0 Hz, 1H), 6.96~6.95 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.84~6.81 (s, 2H), 3.11(s, 3H), 2.96(s, 3H).
【0037】
f.TH2870の合成
DMF(60mL)中に化合物7を含む混合物にNaH(60%、0.508g、12.7mmol)を小分けして0℃にて添加した。混合物を0℃にて5時間攪拌した後、化合物6(2g、6.35mmol)を添加し、次いで0℃にて2.5時間攪拌した。混合物をEtOAc(500mL)で希釈し、食塩水で洗浄し(50mL×3)、Na2SO4で脱水し、ろ過し、減圧中で濃縮し、FCC(シリカゲル、アセトン/ヘキサン)により精製して、黄色油状物としてTH2870を得た。
【0038】
TH2870の最終精製:
上記のTH2870を半分取HPLC(C18カラム、アセトニトリル/水)により精製した。合わせた採取物を減圧中で濃縮して最終生成物として淡黄色油状物を得た。アセトニトリルを蒸発に共沸剤として添加して水を取り除いた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ ppm 7.98~7.96(d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.43~7.39(m, 1H), 7.27~7.21(m, 2H), 7.10~7.06(m, 3H), 5.62~5.55(m, 1H), 3.09(s, 3H), 2.97(s, 3H), 2.19~2.00(m, 8H), 1.58~1.57(d, J = 6.4 Hz, 3H). MS: m/z 460.8[M+1]+. PLC: 254 nm: 94.8%.
【0039】
(例2)
化合物TH2870の代替調製。
【化14】
a.化合物3の調製
化合物1(200g、1.08mol)をDMF(10ml)とともにSOCl2(700mL)中で3時間還流し、次いで真空中でSOCl2を除去した。残留物をトルエン(400mL)で希釈し、さらなる精製をせずに以下のステップで使用した。
【0040】
MgCl2(103g、1.08mol)、TEA(500mL、3.60mol)およびマロン酸ジメチル(145g、1.1mol)の混合物をRTにて1.5時間攪拌した後、化合物2の上記トルエン溶液を滴下添加した。結果として得られる混合物をRTにて1.5時間再度攪拌した。H2O(2L)で洗浄し、EtOAcで抽出し(2L×5)、蒸発させ、PH6.0まで4NHClを添加し、5分間攪拌した。混合物をEtOAcで抽出し(2L×5)、蒸発させた。
残留物に6NHCl(1500mL)を添加し、混合物を一晩還流した。
混合物をEtOAcで抽出し(2L×5)、濃縮し、シリカゲルカラム(石油エーテル:EtOAc=20:1)で精製して黄色固形物として化合物3を得た(80g、収率41%)。
【0041】
b.化合物4の調製
MeOH(2L)中に化合物3(150g、824mol)を含む混合物にNaBH4(31.2g、824mmol)を小分けして−10℃にて添加した。混合物を−10℃と0℃との間で、20分間攪拌し、EtOAc(5L)で希釈し、飽和NH4Cl水溶液で洗浄し、食塩水で洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮した。残留物をシリカゲルカラム(石油エーテル:EtOAc=5:1)により精製して黄色油状物として化合物4を得た(90g、収率60%)。
【0042】
c.化合物5の調製
DCM(20ml)中にPOCl3(2ml、21.6mmol)を含む溶液に化合物4(2g、10.8mmol)を添加し、次いでDCM(10ml)中のTEA(3.6ml、27mmol)を−40℃にてN2中で添加し、−40℃にて5時間攪拌した。次いで、2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(17.6g、86.8mmol)を添加し、DCM(40ml)中のTEA(12ml、86.8mmol)を上記溶液に−40℃にてゆっくりと添加し、0.5時間攪拌した。K2CO3(10%、10.4g、100ml)を添加し、r.t.にて5分間攪拌した。DCMで抽出し(300ml×3)、蒸発させ、シリカゲルカラム(EtOAc)により精製して黄色油状物として化合物5を得た(2.3g、収率43%)。
【0043】
d.化合物6の調製
THF(40mL)中に、化合物5(4g、8.42mmol)およびAg2O(5.85g、25.26mmol)を含む混合物を65℃にて3時間攪拌し、ろ過し、濃縮した。残留物をシリカゲルカラム(EtOAc)により精製して黄色油状物として化合物6を得た(2.3g、収率87%)。
【0044】
e.化合物TH2870の調製
DMF(10mL)中に化合物7(1.81g、10.95mmol)を含む溶液にNaH(60%、438mg、1095mmol)を0℃にて添加し、10分間攪拌し、次いでDMF(10mL)中の化合物6(2.3、7.3mmol)を添加し、0℃にて30分間攪拌した。
2Oでクエンチし、EtOAcで抽出し(100mL×5)、水で洗浄し(150ml)、食塩水で洗浄し、蒸発させ、シリカゲルカラム(DCM:MeOH=40:1)により精製して黄色油状物として化合物TH2870を得た(2.3g、収率69%)。
【0045】
(例3)
分取用キラルクロマトグラフィーによるTH2870の鏡像異性体の分離
式(I)の化合物983mgをメタノール36mLに溶解し、カラム温度35〜40℃にて流速3.0ml/分およびバックプレッシャー120Barで、SFC−80 Method Station(Thar社、Waters社)においてCHIRALPAK OZ−H 4.6×250mm、5μm(Daicel社)に1mLを注入し、CO2/メタノール(65〜60/35〜40)の混合物においてこの流速で溶出する。式(Ia)の鏡像異性体(立体配置(R))は収率86.5%でおよび鏡像異性的純度100%で得られる。式(Ib)の鏡像異性体(立体配置(S))は収率83.8%でおよび鏡像異性的純度100%で得られる。LCMSによるキラル分離後の、TH2870鏡像異性体1(TH3423)およびTH2870鏡像異性体2(TH3424またはAST106)の純度チェックが図1に示されている。
TH3423および3424のキラル合成
【化15】
【0046】
化合物2
化合物1(65g)をDMF(2.5mL)とともにSOCl2(150mL)中で5時間還流して清澄な溶液を得、次いで真空中でSOCl2を除去した。残留物をトルエン(30mL)で希釈し、溶媒を再度除去した。残留物をさらなる精製をせずに以下のステップで使用した。
化合物3
MgCl2(21.0g、221mmol)、TEA(100.0mL、717mmol)およびマロン酸ジメチル(41.0mL、359mmol)の混合物を機械的攪拌によりRTにて2時間攪拌し、その後THF(80mL)中の化合物2を添加した。結果として得られる混合物をRTにて4時間攪拌し、その後濃HCl(90mL)を添加し、30分間攪拌した。混合物をEtOAcで抽出し(300mL×3)、減圧中で濃縮した。残留物に6NHCl(300mL)を添加し、混合物を一晩還流した。混合物をEtOAcで抽出し(300mL×3)、有機層をNaHCO3(aq.)で洗浄し、脱水し(Na2SO4)、ろ過し、減圧中で濃縮した。残留物をAcOEt/Hex=1/3(V/V)から再結晶化させて、淡黄色固形物として化合物3を得た(46g)。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.16 (d, 1H), 7.86 (t, 2H), 2.68 (s, 3H)
【0047】
化合物5
アルゴン中で、BH3.THF(1M、11mL)を、1Mトルエン中に化合物4を含む溶液(3mL、3mmol)に0℃にて添加した。この溶液を30分間攪拌し、次いで−40℃に冷却した。THF(40mL)中に化合物3(1.83g、10mmol)を含む溶液を−40℃にて4時間の間ゆっくりと添加した。この系を−40℃にて2時間攪拌した(TLCはSMが消失したことを示した)。MeOH(20ml)を溶液周辺に−40℃にて添加し、この溶液を30分間攪拌した。溶媒をrtにて除去した後、残留物を(Hex/AcOEt=3/1(V/V))カラムにより精製して化合物5を得た(1.6g)。
1HNMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.05 (t, 1H), 7.34 (d, 1H), 7.27 (d, 1H), 4.99 (m, 1H), 1.51 (d, 3H).
【0048】
化合物6
DCM(10ml)中にPOCl3(1.6mL、17.25mmol)を含む溶液に化合物5(1.6g、8.65mmol)をアルゴン中−40℃にて添加し、次いでDCM10mL中のTEA(2.9ml、22.9mmol)を添加した。混合物を−40℃にて6時間攪拌し、次いで、2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(14.2g、69.3mmol)を添加し、DCM(10ml)中のTEA(9.6mL)を滴下添加した。反応混合物を−40℃からrtまで一晩攪拌した。K2CO3(水80mL中に8.3g)を添加し、混合物を5分間攪拌した。混合物をDCMで抽出し、Na2SO4で脱水した。ろ過し、濃縮し次いでシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィー、Acetone/Hexane=0〜100%で溶出して、黄色油状物として化合物6を得た(2.68g、収率:65%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.08 (t, 1H), 7.32 (d, 1H), 7.29 (d, 1H), 5.56 (m, 1H), 3.34-3.56 (m, 2H), 3.32-3.42 (m, 4H), 3.08-3.26 (m, 4H), 1.62 (d, 3H). 31PNMR:14.44.
【0049】
代替的に、TH3424は以下の手順により合成することもできる:
トルエン(11ml/g)を4つの首付きガラスボトルに窒素中で加えた。攪拌を開始して、POCl3を窒素中容器1に添加した(1.025eq)。容器1の内容物を−2〜2℃に冷却した。化合物1の溶液を添加し(1.0eq)、トルエン(11ml/g)中のTEA(1.435eq)を−2〜2℃にて滴下添加した。容器1の内容物を−2〜2℃にて1〜2時間攪拌した。内容物を、情報用にHPLC分析向けにサンプル採取した。2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(3eq)を容器1に添加した。TEA(6eq)を−2〜2℃にて容器1に滴下添加した。容器1の内容物を0℃〜RTにて一晩攪拌した。内容物を、HPLC分析向けにサンプル採取した。後処理手順については次の通りとした:H2O(19ml/g)を容器1に添加し、5〜10分間攪拌した。混合物をEA(19ml/g)で3回抽出した。有機相をNa2SO4で脱水し、ろ過した。母液を40〜50℃にて濃縮した。粗生成物をシリカゲルのクロマトグラフィーで精製して精製生成物を得た。
【0050】
代替的に、TH3424は以下の手順により合成することもできる:
トルエン(11ml/g)を4つの首付きガラスボトルに窒素中で加えた。攪拌を開始して、化合物1(1.0eq)およびTEA(1.435eq)を窒素中容器1に添加した。容器1の内容物を−2〜2℃に冷却した。POCl3(1.025eq)を容器1に窒素中−2〜2℃にて滴下添加した。容器1の内容物を−2〜2℃にて1〜2時間攪拌した。内容物を、情報用にHPLC分析向けにサンプル採取した。2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(3eq)を容器1に添加した。TEA(6eq)を−2〜2℃にて容器1に滴下添加した。容器1の内容物を0℃〜RTにて一晩攪拌した。内容物を、HPLC分析向けにサンプル採取した。後処理手順については上と同じとした。
【0051】
代替的に、TH3424は以下の手順により合成することもできる:
DCM(2.2ml/g)およびPOCl3(1.91eq)を4つの首付きガラスボトルに窒素中で加えた。攪拌を開始して、容器1の内容物を窒素中−35〜−40℃に冷却した。化合物1(1.0eq)/DCM(4.5g/ml)の溶液を容器1に窒素中−35〜−40℃にて滴下添加した。TEA(4.0eq)/DCM(4.5g/ml)の溶液を容器1に窒素中−35〜−40℃にて滴下添加した。容器1の内容物を−35〜−40℃にて4〜6時間攪拌した。内容物を、情報用にHPLC分析向けにサンプル採取した。2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩(8eq)を容器1に−30〜−40℃にて添加した。TEA(12eq)を容器1に−30〜−40℃にて滴下添加した。容器1の内容物を−30〜−40℃にて1〜2時間攪拌した。内容物を、HPLC分析向けにサンプル採取した。後処理手順:H2O(15ml/g)を容器1に添加し、5〜10分間攪拌した。水性相をDCM(12.5ml/g)で1回抽出した。有機相をNa2SO4で脱水し、ろ過した。ろ液を20〜30℃にて濃縮した。粗生成物をクロマトグラフィーで精製して精製生成物を得た。
化合物7
THF(30mL)中に、化合物6(2.68g)、Ag2O(3.92g)を含む混合物を55℃にて一晩攪拌した。真空中で溶媒を除去した後、残留物をシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにより分離して化合物7の軽液体(light liquid)1.0gを得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.05 (t, 1H), 7.34 (d, 1H), 7.29 (d, 1H), 5.66 (m, 1H), 2.02-2.24 (m, 8H), 1.61 (d, 3H). 31PNMR:31.55.
【0052】
TH3424(TH2870 鏡像異性体2)
DMF(8mL)中に化合物7(1.0g)、化合物8(785mg)、K2CO3(880mg)を含む混合物をrtにて一晩攪拌した。混合物を水で希釈し、DCMで抽出し、Na2SO4で脱水した。ろ過し、濃縮し、次いでフラッシュクロマトグラフィーで黄色油状物として化合物9を得た(1.1g)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 7.97 (d, 1H), 7.41 (t, 1H), 718-7.27 (m, 4H), 7.02-7.12 (m, 3H), 5.59 (m, 1H), 3.08 (s, 3H), 2.97 (s, 3H), 2.01-2.21 (m, 8H), 1.66 (d, 3H). 31P NMR: 31.27.
化合物11
化合物5と同一手順。化合物3の代わりに化合物8を使用した。収率:50%
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.05 (t, 1H), 7.34 (dd, 1H), 7.27 (d, 1H), 4.99 (m, 1H), 1.51 (d, 3H).
化合物12
化合物6と同一手順(収率:35%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.08 (t, 1H), 7.32 (d, 1H), 7.29 (d, 1H), 5.56 (m, 1H), 3.34-3.56 (m, 2H), 3.32-3.42 (m, 4H), 3.08-3.26 (m, 4H), 1.62 (d, 3H). 31PNMR:14.47.
【0053】
化合物13
化合物7と同一手順(収率:36%)。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 8.06 (t, 1H), 7.34 (d, 1H), 7.30 (d, 1H), 5.67 (m, 1H), 2.02-2.25 (m, 8H), 1.62 (d, 3H). 31PNMR:31.56.
TH3423(TH2870 鏡像異性体1)
化合物9と同一手順(収率:68%)。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 7.97 (d, 1H), 7.41 (t, 1H), 718-7.27 (m, 4H), 7.02-7.12 (m, 3H), 5.59 (m, 1H), 3.08 (s, 3H), 2.97 (s, 3H), 2.01-2.21 (m, 8H), 1.66 (d, 3H). 31P NMR: 31.25.
【0054】
(例4)
インビトロでのヒト腫瘍細胞株の細胞毒性アッセイ
H460非細胞肺がんのヒト腫瘍細胞株に関するインビトロ増殖データが、化合物の表において上に報告されている。IC50値がマイクロモルで報告されているが、これは、種々の濃度で化合物による2時間の曝露を行い、続いて洗浄ステップを行いかつ新鮮な培地の添加を行い、続いて、増殖および細胞バイアビリティ染色行い、かつコントロールのみで処理した培地との比較を行うことの結果である。
【0055】
具体的には、対数増殖期細胞を96ウェルプレートにウエル当たり4×103細胞の密度で播種し、試験化合物を添加する前にCO25%、空気95%、および相対湿度100%で37℃にて24時間インキュベートした。化合物は、所望の最終試験濃度の200倍で100%DMSO中で可溶化した。薬剤添加時に、化合物は完全培地で所望の最終濃度の4倍にさらに希釈した。特定濃度にある化合物の一定分量50μlを150μlの培地をすでに含有するマイクロタイターウェルに加えて、報告されている薬物の最終濃度とした。薬物を加えた後、プレートをCO25%、空気95%、および相対湿度100%で、37℃にてさらに2時間インキュベートし、次いで薬物を洗浄除去し、新鮮な培地を加え、プレートをCO25%、空気95%、および相対湿度100%で、37℃にてさらに70時間インキュベートした。このインキュベーション終了後に、生細胞をAlamarBlueアッセイを使用して定量した。50%増殖阻害(IC50)が得られた薬物濃度をPrism software(Irvine社、CA)を使用して算出し、その結果を表に列記した。
H460肺がん細胞に対するその抗増殖有効性も下に表にまとめる。
【化16】

上のH460データは、わずか2時間の曝露に対して、種々の化合物について低ナノモ
ルに低下したレベルにて阻害があるという、実質的な抗腫瘍効果を実証している。
【0056】
(例5)
アルドケト還元酵素、AKR1C3によるTH2870の活性化
組換えヒトAKR1C3を、NADPH2mMを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4(37℃)中で25μg/mLに希釈した。30%メタノール/70%水中のTH2870またはプロゲストロン(陽性対照)を、最終濃度5μMの濃度にて反応混合物に添加し、37℃にて120分間インキュベートした。最大120分まで種々の時間にて、反応混合物50μLを取り、内部標準としてプロプラノロールを含むアセトニトリル200μLを添加し、ボルテックス混合し、10分間遠心分離した。結果として得られる上清(5μL)を、TH2870およびプロゲストロンの残留%を定量するためにLC/MS/MSに注入した。これらの化合物については2回繰り返しで試験した。
【0057】
AKR1C3の存在下でTH2870は急速に消失するが、既知の物質プロゲストロンは緩慢に低下することが、図2のデータによって実証されている。NADPHを含むが酵素は含まないバッファー対照では、いずれかの化合物を有する中で反応は見られなかった(データは示されていない)。
【0058】
(例6)
インビトロでのヒト腫瘍細胞株の細胞毒性アッセイ
TH2870、TH3423およびTH3424についてはまた、次の材料および手順を使用して様々ながん細胞株において試験した。10*セルライセートバッファー(Cell Signaling Technology社、Cat.No.9803);哺乳動物組織用のプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma社、Cat.No.P8340);セリン/スレオニンホスファターゼおよびアルカリホスファターゼのL−アイソザイム用のホスファターゼインヒビターカクテル(Sigma社、Cat.No.P0044);チロシンタンパク質ホスファターゼ、酸およびアルカリホスファターゼ用のホスファターゼインヒビターカクテル(Sigma社、Cat.No.P5726);BCAキット(Thermo社、Cat.No.23225);1次抗体、マウスモノクローナルAKR1C3抗体(clone NP6.G6.A6;Sigma−Aldrich社);1次抗体、α−チューブリン(クローンB−5−1−2;Sigma−Aldrich社);2次抗体、ヤギ抗マウスIgG HRP複合体(A4416;Sigma−Aldrich社)を使用した。細胞は良好な条件で2世代継代し、消化した。適当数の細胞を6cm細胞培養皿に接種し、37℃、CO25%にて一晩インキュベートした。細胞が80%密度までに増殖したとき、培養皿をインキュベーターから取り出した。培地を吸引し、氷冷PBSで2回洗浄し、残留PBSを除去した。適当量の氷冷1*セルライセートを添加し、氷上で10分間インキュベートした。セルライセートを氷で冷やした微量遠心管に移し、4℃、12,000rpm、15分間遠心分離した。上清を別の微量遠心管に移した。セルライセートを10*セルライセートで希釈し、哺乳動物組織用のプロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma社、#P8340)、セリン/スレオニンホスファターゼおよびアルカリホスファターゼのL−アイソザイム用のホスファターゼインヒビターカクテル、チロシンタンパク質ホスファターゼ、酸およびアルカリホスファターゼ用のホスファターゼインヒビターカクテルを添加した。タンパク質定量用のBCAタンパク質定量キットを1*セルライセートとともに使用して、セルライセートを同一濃度に希釈した。相応する試料を5*SDS−ローディングバッファーへ添加し、85℃まで10分間加熱し、手短に遠心分離した。試料は−20℃に保存するかまたはタンパク質電気泳動に直接使用した。これら試料は標準的な実施法に従って電気泳動を行い、メンブレンに転写し、製造元の指示に従って1次抗体を、次いで2次抗体を適用した。Odyssey赤外レーザーイメージングシステムを使用してシグナルをスキャンした。
【0059】
結果については下の図3および図4に示され、以下の表に列記されている。
【表1】

【0060】
(例7)
インビボでのヒト腫瘍異種移植片モデルおよび抗腫瘍活性
非小細胞肺H460モデル、非小細胞肺A549モデル、および黒色腫A375モデルを利用する3種類のヒト異種移植片抗腫瘍モデルを使用して、本明細書で提供される化合物の有効性を実証した。
【0061】
特定病原体未感染であるホモ接合体のメスヌードマウス(nu/nu、Charles River Laboratories社)を使用した。マウスは食餌および飲料水自由摂取とし、マイクロアイソレータケージ(microisolator cage)に収容した。実験時には、4〜6週齢の動物をマイクロチップ(Locus Technology社、Manchester、MD、米国)にて特定した。動物試験の全てがThreshold Pharmaceuticals、Inc社における動物実験委員会によって承認されたものである。
全ての細胞株はアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC、Rockville、MD、米国)を起源とした。細胞は10%ウシ胎児血清を含む推奨培地で培養し、CO25%の加湿環境下37℃にて維持した。
【0062】
細胞をマトリゲル(H460中30%)と混合し、マウス毎に0.2mlを動物の脇腹領域に皮下移植した。腫瘍サイズが100〜150mm3に達したとき、マウスを10匹マウス/群で実験群とビヒクル群とに無作為化し、処置を開始した(1日目)。試験化合物をD5Wにおいて5%DMSO中に製剤化した。全ての化合物は、1サイクルとしてQD×5/週(5日オン、2日オフ)を、計2サイクルの間、IPにより投与した。腫瘍の増殖および体重を週2回測定した。腫瘍体積を(長さ×幅2)/2として算出した。薬物有効性は、腫瘍増殖阻害(TGI)および腫瘍増殖遅延(TGD)として評価した。TGIは(1−ΔT/ΔC)×100として規定し、ここでΔT/ΔCは、処置群のおよび対照群の平均(群内の変動が比較的大きかった場合、中間)腫瘍体積の変化の割合を示した。TGDは、処置された腫瘍が、対照群と比べて、500mm3に達する追加の日数として算出した。個々の腫瘍サイズが2000mm3超に達した場合または群の平均腫瘍体積が1000mm3を超えた場合、動物は殺処分した。データは平均±SEMとして表されている。Dunnettの多重比較試験による一元配置分析(GraphPad Prism 4)または両側スチューデントのt検定を使用して解析した。Pレベル<0.05を統計的に有意とみなした。
【0063】
(例8)
インビボ有効性の結果:
本試験では、A375黒色腫ヒト腫瘍異種移植片モデルを用い、本明細書で提供される化合物をチオテパおよび認可されている抗黒色腫薬アブラキサンと比較した。抗腫瘍効果および投与の安全性が下に図表で示されている。Mpkとはmg/kgである。
【表2】
総合すれば、これらの試験は、標準化学療法に対して、3種の異なる腫瘍細胞株において有意な抗腫瘍有効性を実証している。
【0064】
(例9)
ヒト肝臓がんのマウスモデルにおけるTH3424
雌の無胸腺ヌードマウス(6週齢)を本試験で使用した。動物はBeijing HFK Bioscience、Co.,Ltd社から購入し、照射またはオートクレーブにより殺菌したケージ、食料、および寝床を使用して、高性能微粒子エアフィルター(HEPA)によりフィルター処理した環境に維持した。試験には計32匹のヌードマウスを使用した。HepG2―GFPヒト肝細胞癌細胞(AntiCancer、Inc.社、San Diego、CA)をFBS10%を含むRPMI―1640(Gibco−BRL、Life Technologies、Inc.社)とインキュベートした。細胞は、37℃およびCO25%/空気95%の雰囲気に維持されているウォータージャケットCO2インキュベーター(Forma Scientific社)で増殖させた。細胞バイアビリティはトリパンブルー排除分析により決定した。5匹の雌無胸腺ヌードマウスは単回用量5×106 HepG2−GFP細胞を皮下注射した。腫瘍のサイズが1cm3に達したとき腫瘍を採取し、次いで腫瘍組織1mm3の小断片に切断した。40匹の雌ヌードマウスは、皮下腫瘍モデルであるHepG2−GFPヒト肝細胞癌に由来する腫瘍断片の単一ピースを同所性に移植した。腫瘍組織は、各マウスの肝臓の右葉にSOI(外科的同所移植)により同所的に移植した。要約すると、麻酔下で1cmの上腹部切開を行った。肝臓の右葉を露出させ、肝臓表面の一部を鋏で機械的に傷つけた。次いで、腫瘍断片のピースを肝臓組織内に固定し、肝臓を腹腔内に戻し、最終的に腹壁を閉じた。マウスは特定病原体未感染状態でラミナーフローキャビネットで飼育した。
【0065】
処置については、移植腫瘍が平均サイズほぼ1mm2に達したとき、腫瘍移植してから3日後に開始した。担癌である32匹のマウスをそれぞれ8匹マウスの4実験群に無作為に分けた。ケージ当たり4匹のマウスであるその群毎に、各ケージを明瞭にマーキングした。各マウスが識別のため耳標を有した。試験設計は下の表に示してある。
【表3】
【0066】
試験期間の間、実験マウスの全てを、死亡および罹病の徴候について日毎にチェックした。動物は腫瘍を移植して38日後まで観察した。試験期間中週2回マウスの体重を計測した。FluorVivo画像化システム、Model 300/Mag(INDEC社、CA、米国)を使用して、試験期間中週2回腫瘍の増殖および進行の画像を得た。全ての実験動物は、腫瘍移植して38日後にペントバルビタールナトリウムの過剰用量を注射して安楽死させた。画像向けに肝臓を露出させ、その後に腫瘍を取り出し、電子天秤(Sartorius BS 124S、ドイツ)にて秤量した。腫瘍組織はさらなる分析用にホルマリン中に保存した。様々な群の体重および腫瘍量に関する比較をα=0.05(両側)でスチューデントのt検定を使用して解析した。試験薬剤の静注後、マウスは横たわることなく、自立活動の低下を有することはなかった。実験動物は概して良好な状態にあった。各群の体重変化が図5および下の表に示してある。
【表4】
【0067】
図5および上の表に示すように、試験の35日目に、各群のマウスの平均体重は21%〜41%増加した。TH2870−2群と陰性対照群との間に統計学的な有意差はなかった。このことにより、低用量または高用量のTH2870−2の腹腔内投与により実験マウスに対する明白な急性毒性は存在しなかったことが、示唆された。しかし、ソラフェニブ処置群において、平均体重は陰性対照群の平均体重より統計学的に有意に低かった。試験用量でのソラフェニブの投与によって実験マウスにある程度の毒性が存在することが示唆された。
【0068】
各群における腫瘍進行
様々な群の同所性HepG2−GFP肝細胞癌の進行をリアルタイム撮像によりモニターした。画像は週2回得た。Power Station software(INDEC Biosystems社、CA、米国)を使用して解析した、各群の試験終了時点の典型的な腫瘍画像および腫瘍蛍光シグナルからもたらされた腫瘍発育曲線が、それぞれ、図6および図7に示されている。
【表5】
図6図7および上の表に示すように、陽性対照群の平均腫瘍サイズは陰性対照群の平均腫瘍サイズより約39%小さいが、この2つの対照群間では統計学的有意差はなかった(P=0.0577)。
【0069】
TH3424(2.5mg/kg)群およびTH3424(5mg/kg)群において、蛍光画像読取領域の平均は、陰性対照群のその平均より著しく有意に小さく、強力な阻害効果および明白な用量−効果関係を示した。それらのうち、蛍光画像読取領域は、TH3424(5mg/kg)群では0であった。この群では、投与を処置の3サイクル後に停止させた;腫瘍蛍光画像読取は実験の終了まで依然として0であった。しかし、TH3424(2.5mg/kg)群では、処置の3サイクル後に1週の間薬物投与を停止し、次いで別途3サイクルの処置を再スタートした。35日目の蛍光画像読取領域の平均は、1.2±1.1であり、これは陰性対照群のその平均のほぼ8%であり、処置して49日後では、陰性対照群のその平均の2.0±2.2(およそ8%)であった。試験終了時での全ての腫瘍が図8に示されてあり、実験群のそれぞれにおける腫瘍質量の平均値が図9に示されている。
【表6】
図8図9および上の表に示すように、陽性対照群の平均腫瘍質量は陰性対照群の平均腫瘍質量より小さく(P=0.0159)、これにより、陽性対照の薬物(ソラフェニブ)が同所性HepG2−GFPヒト肝細胞癌のマウスモデルに対して、試験用量で阻害効果を有することが示された。
【0070】
TH3424(2.5mg/kg)およびTH3424(5mg/kg)の群の平均腫瘍質量は、それぞれ、0.0081gおよび0gであった。全てが陰性対照群の平均腫瘍質量よりも統計学的に有意に小さかった。これらのうち、平均質量は高用量群で0gであるとともに、低用量群ではわずか0.0081±0.0088gであり、これは陰性対照群の平均腫瘍質量の、それぞれ、0%および5.2%であった。これにより、TH3424が同所性HepG2−GFPヒト肝細胞癌のマウスモデルに対して、試験用量で非常に強力な阻害効果を有するとともに明瞭な用量−効果関係を示すことも、示唆された。
【0071】
腫瘍IRは式:
IR(%)=(1−処置群(t)/対照群(c))×100
に従って最終平均腫瘍質量に基づいて算出した:
各処置群に対するIR:
IR(%)=(1−PC/NC)×100=(1−0.0637/0.1543)×100≒58.7%
IR(%)=(1−TH2870−2 LT/NC)×100=(1−0.0081/0.1543)×100≒94.8%
IR(%)=(1−TH2870−2 HT/NC)×100=(1−0.0000/0.1543)×100≒100%
注記:
NCは陰性対照群を表す
PCは陽性対照群を表す
【0072】
ソラフェニブ処置群における腫瘍阻害率は58.7%であり(P=0.0159対対照群)、同所性HepG2−GFPヒト肝細胞癌のマウスモデルに対して、試験用量で強力な阻害効果を示した。しかし、この群では、実験マウスの平均体重は陰性対照群の平均体重より統計学的に有意に小さかった。試験用量でのソラフェニブの投与によって実験マウスにある程度の毒性が存在することが示唆された。TH3424(2.5mg/kg)およびTH3424(5mg/kg)の腫瘍阻害率は、それぞれ、94.8%および100%であり、同所性HepG2−GFPヒト肝細胞癌のマウスモデルに対して、非常に強力な腫瘍阻害効果および明瞭な用量−効果関係を示した。試験用量のTH3424では、実験マウスに対する明瞭な毒性は存在しなかった。
【0073】
(例10)
T細胞白血病の動物モデルにおけるTH3423
白血病細胞をおよそ150×106個のAL7473細胞をLN2(約2〜3バイアル)から解凍することによりかつこれを37℃ウォーターバスに速やかに置くことにより、調製した。細胞の全てを、予め加温した完全培地40mlを有する50mlファルコンチューブの中に移した。細胞を1200rpmにて5分間遠心分離した。細胞を40mlのRPMI1640で再懸濁させた。次いで細胞をカウントした。細胞を1200rpmにて5分間遠心分離し、氷冷PBSで2百万個細胞毎PBS100μlに再懸濁させた。上で調製した2×106個の細胞を含む生理食塩水100μlを使用して各マウスにIVにより注射した。試料をFACSチューブに移し、全ての試料についてヒトCD45 FITCと同位体とを相応するチューブに添加し、細胞を氷上30分間暗所でインキュベートすることにより、実験期間中週1回血液についてFACS分析を行った。赤血球溶解バッファー2mlを各チューブに加え、別途30分間氷上で暗所でインキュベートした。全ての試料についてこのプロセス中数回ボルテックス混合を行い、試料を1500rpmで4℃にて5分間遠心分離した。上清を捨て、各チューブに氷冷洗浄バッファー2mlを加えた。試料を1500rpmで4℃にて5分間遠心分離し、これらのステップを繰り返した。FACS収集のため、細胞を洗浄バッファー/PBS150μlに再懸濁させた。試料は、Cell QuestまたはFlowjoを使用することによってBD Caliburで分析し、結果をPrism 5.0を使用することによって解析した。
【0074】
群前の細胞接種を行って26、33、42日後にFACS用の血液試料を採取した。群前の試料採取の後、試験を終えるまでFACSを週1回行った(細胞を接種して50日、57日、64日後)。細胞接種後57日目に、各マウスについて血漿試料10μlを採取し、各群(群1:#7、#43、#52;群2:#11、#15、#23;群3:#5、#9、#48;群4:#25、#28、#36)から3つの血液塗布標本を採取した。サンプルリストについては下にまとめてある。
【表7】
【0075】
マウスの体重変化の結果が図10に示してある。細胞接種後43日目に処置を始めて以降、処置の間に検出されるヒトCD45抗体FACS向けに末梢血を週1回採取した。マウスは、それぞれ、細胞接種して43日後、50日後、57日後および64日後(群1および群2のみに投与)に投与された。グループ化後の腫瘍量発育曲線が図11に示されている。各群の末梢血におけるヒトCD45+白血病細胞の百分率は疾患が進行するにつれ上昇し、百分率曲線は、群2を除いて、初回投与を行って7日後に低下した(P>0.05)。第2回の投与後、処置群(群2〜4)はビヒクル群(群1)より有意に低かった(P<0.001)。全てのマウス(計4群、各群において10匹のマウス)は第4回の投与を行って6日後に殺処分した。検出されるヒトCD45 FACS用に全てのマウスの血液、脾臓および骨髄を採取した。各群の3匹のマウスの脾臓および骨をFFPE用に採取した。終了点での詳細なデータおよび試料リストが付属書の10.3にまとめられている。試験終了点でのマウスの末梢血、脾臓および骨髄の腫瘍量が図12に示されている。群1の末梢血、脾臓および骨髄とそれぞれ比較して、群2の骨髄がわずかな有意差を示したこと(P<0.05)を除いて、全ての処置群(群2〜4)が有意差を示した(P<0.01)。
【0076】
(例10)
非ナイーブサルにおける薬物動態および急性毒性試験
30分点滴静注で、非ナイーブサル(2mg/kgでの各化合物毎に1匹の雄および1匹の雌)において、TH3423およびTH3424について試験し、TKサンプリングを1日目および15日目、点滴開始後0.25、0.5、0.75、1および2時間とした。血清化学検査および血液学的検査:投薬前(1日目)、5日目、8日目(投薬前)、15日目(投薬前)、22日目および28日目。臨床観察:試験中毎日、計35日。摂餌量:試験中毎日、計35日。体重計測:5週の間週2回。
【0077】
TKパラメーターが以下の表に列記されている:
【表8】

【0078】
血清化学検査が以下の表に示されている:
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
血液学的検査データが以下の表に示されている:
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
体重変化が下の表に列記されている:
【表11】
【0079】
本発明は、ある特定の態様、実施形態および任意選択である特徴により具体的に開示されてきたが、当業者であればそのような態様、実施形態および任意選択である特徴の改変、改善および変更を講じることができること、ならびにそのような改変、改善および変更が、本開示の範囲内にあるとみなされることが理解されるべきである。
【0080】
本発明について、本明細書において広範に、かつ一般的に説明してきた。一般的な開示の中に含まれる、より狭い種および亜属の分類のそれぞれも、本発明の一部を形成するものである。また、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群の表現で記載されている場合、本発明はまた、マーカッシュ群の任意の個々の構成要素または構成要素の下位集団の表現で記載されていることが、当業者であれば理解されよう。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12