(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶媒、及び塗布液全体に対して、光触媒粒子を0.1〜6質量%含有し、光触媒粒子100質量部に対してシリカ粒子を10〜300質量部、溶媒可溶性ジルコニウム化合物を酸化物換算で20〜100質量部、及び酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるアルミニウム化合物の粒子を酸化物換算で10〜200質量部含有する光触媒層形成用塗布液を基材表面の少なくとも一部に接着層を設けることなく直接塗布した後、500℃以上1500℃以下で焼付けを行う工程を含む、光触媒担持構造体の製造方法。
前記シリカ粒子は、球状コロイダルシリカ粒子が細長い形状に結合したコロイダルシリカ粒子が分散したシリカゾルを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒担持構造体の製造方法。
前記基材が、セラミックス、石、金属、ガラス、コンクリート、又は以上の材料の2種以上からなる複合材料のいずれかである、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒担持構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、各種材料の表面に担持させることにより、建築物の外装材や水回り製品において汚れを落ち易くしたり、親水性によってガラス製品等の曇りを防止したりするために利用されている。
セラミックス等の耐熱性材料を基材とする場合には、高温焼成によって光触媒を担持させる方法が容易である。しかしこの方法では、光の散乱、反射によるギラツキや干渉による着色で、材料の外観が劣ることがある。
特許文献1には、酸化チタンゾルと、アルミナやジルコニア等のゾルとを含む塗布液を塗布し、高温焼成により基材上に担持させてなる、親水性を有する光触媒材が記載されている。また特許文献2には、基材上に、酸化チタン粒子を含む表面層を高温焼成により担持させてなる光触媒機能材が記載され、光の散乱や干渉を防ぐために、屈折率が2よりも小さいシリカ、アルミナ等の成分を表面層中に含有させるとよいことが記載されている。
特許文献3には、光触媒粒子、非晶質Zr−O系粒子、及びアルカリシリケートを含む塩基性の光触媒コーティング液、またこれを無機基材上に塗布し焼成してなる材料が記載されている。
特許文献4には、酸化チタンゾルに二酸化ジルコニウム又はジルコニウム塩を添加して基材に塗布し、高温焼成してなる固定化光触媒が記載されている。しかし塗布液に用いている酸化チタンは光触媒活性を有しないアモルファス状態であり、Zr/Tiのモル比を0.3以上にすると、焼成後にも光触媒活性が現れないことが示されている。
特許文献5には、光触媒性酸化チタン微粒子、水不溶性無機化合物である酸化アルミニウムの粒子、水溶性化合物であるヒドロキシ塩化ジルコニウム、及び水系溶媒を含むコーティング組成物が記載され、干渉色のない薄膜を形成できることが示されているが、酸化アルミニウムとしては光触媒微粒子に比較して大きい粒子径のものを少量用いているのみであり、また高温焼成は具体例としては示されていない。
特許文献6及び7には、酸化チタン光触媒、シリカゾル、オキシ硝酸ジルコニウム及びアルミナゾルを含有する光触媒形成用液状組成物が記載されている。しかしこれらの組成物は、比較的低温で乾燥させるためのものであって、高温焼成した場合にどのような効果が得られるかは記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒層においては、バインダーとしてシリカ等を含有させることが普通に行われている。しかし、このような屈折率が低い成分を含有させても、膜厚を薄くしないと、干渉色を防止することは困難であった。
本願発明は、高温焼成により十分な光触媒活性を発揮する光触媒層を容易に形成し、しかも外観が優れた、光触媒担持材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、可溶性ジルコニウム化合物及びアルミナゾルを含む光触媒層形成用塗布液を基材上に塗布し、これを高温焼成することにより、上記課題を解決した光触媒担持構造体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
(1)高温焼付け用の光触媒層形成用塗布液であって、溶媒、及び塗布液全体に対して、光触媒粒子を0.1〜6質量%、シリカ粒子を0.5〜9質量%、ジルコニウム化合物を酸化物換算で0.1〜5質量%、及びアルミニウム化合物を酸化物換算で0.5〜9質量%含有してなる、光触媒層形成用塗布液。
(2)前記光触媒粒子が二酸化チタンを含有するものである、(1)記載の光触媒層形成用塗布液。
(3)前記ジルコニウム化合物は、溶媒可溶性である、(1)又は(2)に記載の光触媒層形成用塗布液。
(4)前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である、(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒層形成用塗布液。
(5)前記アルミニウム化合物は粒子であり、その平均粒子径が1nm〜50nmである、(4)に記載の光触媒層形成用塗布液。
(6)前記シリカ粒子は、球状コロイダルシリカ粒子が細長い形状に結合したコロイダルシリカ粒子が分散したシリカゾルを含有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒層形成用塗布液。
(7)球状コロイダルシリカ粒子の平均粒子径が10〜50nmである、(6)に記載の光触媒層形成用塗布液。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の光触媒層形成用塗布液を基材表面の少なくとも一部に塗布した後、300℃以上で焼付けを行う工程を含む、光触媒担持構造体の製造方法。
(9)前記基材が、セラミックス、石、金属、ガラス、コンクリート、又は以上の材料の2種以上からなる複合材料のいずれかである、(8)に記載の光触媒担持構造体の製造方法。
(10)(8)又は(9)に記載の製造方法により得られる光触媒担持構造体。
(11)基材表面に光触媒層が担持された光触媒担持構造体であって、300℃以上で焼付けを行う工程を経て得られ、かつ光触媒層が光触媒、シリカ、ジルコニウム酸化物、及びアルミニウム酸化物を含有することを特徴とする光触媒担持構造体。
(12)(10)又は(11)に記載の光触媒担持構造体であって、光触媒層が光触媒粒子、シリカ粒子、連続相を形成するジルコニウム酸化物、及びアルミニウム酸化物粒子を含有することを特徴とする光触媒担持構造体。
(13)光触媒層が、基材表面の少なくとも一部を、直径0.1mm以上にわたり連続して被覆することを特徴とする、(10)〜(12)のいずれかに記載の光触媒担持構造体。
(14)前記基材が、セラミックス、石、金属、ガラス、コンクリート、又は以上の材料の2種以上からなる複合材料のいずれかである、(10)〜(13)のいずれかに記載の光触媒担持構造体。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(高温焼付け用の光触媒層形成用塗布液)
本発明の光触媒層形成用塗布液は、溶媒、及び塗布液全体に対して、光触媒粒子を0.1〜6質量%、シリカ粒子を酸化物換算で0.5〜9質量%、ジルコニウム化合物を酸化物換算で0.1〜5質量%、及びアルミニウム化合物を酸化物換算で0.5〜9質量%含有してなる、高温焼付け用の光触媒層形成用塗布液である。
【0009】
本発明の光触媒層形成用塗布液に用いられる光触媒粒子は、特に限定されるものではないが、二酸化チタンを含有するものであることが好ましい。二酸化チタンの結晶形としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の各種があるが、特に光触媒が二酸化チタンからなる場合には、光触媒活性が高い点で、アナターゼ型であることが好ましい。
前記光触媒粒子及び/又はゾルは、二酸化チタン以外の成分を含有する光触媒複合体であってもよい。例えば、1価又は2価の銅化合物を二酸化チタンに担持させた光触媒複合体、炭素、窒素、硫黄等の元素をドープした光触媒複合体、あるいは二酸化チタンと酸化タングステンを含む光触媒複合体等が例示され、このようなものは可視光による光触媒活性を示す点で、室内等の紫外線が少ない環境でも光触媒として利用することができる。
光触媒は、有害物質の分解、固体表面の親水化、防汚、防曇等の効果に加え、抗菌、防カビ、防藻、抗ウイルス等の抗微生物効果をも発揮する。この点から、さらに銅、銀、亜鉛、ニッケル等の金属化合物を含有する光触媒複合体も使用することができる。これらの金属化合物は、それ自体が抗微生物活性に優れ、光触媒成分が示す抗微生物活性との相乗的効果が期待できる。
前記光触媒粒子は、さらに平均粒子径が好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下であるか、比表面積が好ましくは50m
2/g以上、より好ましくは200m
2/g以上であることが好ましい。光触媒粒子の少なくとも一部は光触媒層形成用塗布液中でゾルとして存在してもよく、特に光触媒粒子の全部がゾルであることが好ましい。
本発明の光触媒層形成用塗布液は、前記光触媒粒子を、0.5〜3質量%含有することが好ましい。
【0010】
本発明の光触媒層形成用塗布液に用いられるシリカ粒子は1種若しくは2種以上からなるものである。シリカ粒子の一部は光触媒層形成用塗布液中でゾルとして存在してもよく、少なくとも一部はシリカゾルであることが好ましい。
前記シリカゾルとしては、球状コロイダルシリカ粒子が細長い形状に結合したコロイダルシリカ粒子が分散したシリカゾルを含有することが好ましい。この細長い形状において、その長さは50〜400nmの範囲が好ましく、その太さは10〜50nmの範囲が好ましい。また前記球状コロイダルシリカ粒子の平均粒子径は、10〜50nmの範囲が好ましい。
本発明の光触媒層形成用塗布液は、前記シリカ粒子を総計0.8〜5質量%含有することが好ましい。
【0011】
本発明の光触媒層形成用塗布液に用いられるジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物は、焼成後に均一な光触媒層を形成させるとともに、光触媒層の耐アルカリ性を高め、かつ光触媒層の屈折率を低くするために用いられるものである。特に、後記の光触媒層担持構造体の項に述べるように、塗布液を連続的に塗布すれば、光触媒層が基材表面で不連続になることがない。
【0012】
本発明の光触媒層形成用塗布液に用いられるジルコニウム化合物は、焼成後の光触媒層を低屈折率にするとともに、耐アルカリ性を高める効果を有する。このジルコニウム化合物は、必ずしも限定されるものではないが、前記溶媒に可溶性であることが好ましい。特に溶媒が水を含む場合には、水可溶性であることが好ましい。このような成分は、本発明の光触媒層形成用塗布液中で安定かつ均一に存在することができ、また焼成後には、光触媒層中で均一な連続相を形成することができる。
前記の溶媒可溶性のジルコニウム化合物としては、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムジブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムジブトキシドラクテート、ジルコニウムブトキシドの加水分解生成物、ジルコニウムイソプロポキシドの加水分解生成物等を例示することができる。この中でオキシ硝酸ジルコニウムが好ましい。
本発明の光触媒層形成用塗布液は、前記ジルコニウム化合物を酸化物換算で0.2〜1質量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明の光触媒層形成用塗布液に用いられるアルミニウム化合物は、塗布工程で均一な成膜を実現するために用いられ、また光触媒層の耐アルカリ性を高めるとともに、ヘイズ率の上昇を抑制する効果を有する。アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の混合物の粒子であることが好ましい。
前記アルミニウム化合物の粒子の平均粒子径は、1nm〜50nmであることが好ましく、2nm〜20nmであることがより好ましい。さらに、前記アルミニウム化合物は、光触媒層形成用塗布液中でゾルであることが好ましい。このような粒子径のものを使用することで、光触媒層の透明性が向上する。
本発明の光触媒層形成用塗布液は、前記アルミニウム化合物を酸化物換算で0.8〜5質量%含有することが好ましい。
【0014】
さらに、光触媒粒子及び/又はゾルの固形分100質量部に対する他の構成成分の含有量に関しては、シリカ粒子及び/又はゾルの固形分を好ましくは10〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部、ジルコニウム化合物を酸化物換算で好ましくは20〜100質量部、より好ましくは30〜70質量部、アルミニウム化合物を酸化物換算で好ましくは10〜200質量部、より好ましくは50〜150質量部、とするのがよい。この組成により、屈折率が低く、光の散乱や回折が防止された光触媒層が形成され、基材の美観を損ねないことが可能となる。
【0015】
本発明の光触媒形成用塗布液に含有される溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、また以上から選ばれる2種以上からなる均一な液体等を挙げることができる。
このうち、水と、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の水と混和するアルコール類との混合物が好ましい。
【0016】
本発明の光触媒形成用塗布液には、ゾル状の成分を用いる場合に、安定化のために酸やアルカリの解膠剤を添加することもできる。また接着性や操作性を向上させるために界面活性剤を添加することもできる。この界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系、ノニルフェニルエーテル系、フッ素ポリマー系等の非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤の添加量は、光触媒に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の光触媒形成用塗布液は、前記光触媒粒子、前記シリカ粒子、及び前記ジルコニウム化合物を含有する、合計固形分濃度が5〜20質量%の液状組成物(A)と、前記アルミニウム化合物の粒子を含有する固形分濃度が0.5〜5質量%の液状組成物(B)を作製しておき、これらをA:Bの質量比1:10〜10:1で塗布直前に混合して用いることが好ましい。さらに組成物A及びBには、各々0.0005〜0.5重量%の界面活性剤を添加することが好ましい。このように2種の液状組成物としておけば、長期保存しても粘度が上昇して塗布に支障を来す心配がない。
【0018】
(光触媒担持構造体の製造方法)
本発明の光触媒担持構造体の製造方法は、前記のいずれかの光触媒層形成用塗布液を、基材表面の少なくとも一部に塗布した後、塗布面の温度が300℃以上で焼付けを行う工程を含む製造方法である。
塗布の方法は特に限定されず、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、印刷法等の公知の方法を用いればよい。また、形成する膜厚としては、特に制限されるものではなく、具体的には、0.1〜20μmの範囲を例示することができる。
焼付けにおける塗布面の温度は、300℃以上であり、好ましくは500℃以上である。この温度は基材の焼成に通常用いられる温度の範囲であれば、その上限は特に限定されないが、1500℃以下であることが好ましい。光触媒がアナターゼ型二酸化チタンを含む場合には、高温でのルチル型への相転移により光触媒活性が低下することがあるため、上記温度は1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましい。但し、ルチル型二酸化チタンであっても、親水性、それに基づく防汚性、防曇性等は有しているため、これらの性質のみを利用する用途であれば800℃以下に限定する必要はない。なお、必要に応じ、上記温度での焼付けの前に、300℃未満で乾燥させる工程をさらに設けてもよい。
【0019】
前記焼付け工程の継続時間は特に限定されないが、1分以上60分以下が好ましく、5分以上30分以下がより好ましい。焼付け温度における基材の安定性に問題がある場合には、短時間で表面のみを規定温度とする方法を用いることもできるが、そのような問題がなければコスト上問題とならない程度の長時間で焼付けを行えばよい。
【0020】
前記基材は、焼付け温度でそれ自体が安定であり、かつ形成される光触媒層との接着に問題がないような材料である限り特に限定されないが、陶磁器等のセラミックス、石、金属、ガラス、コンクリート、又は以上の材料の2種以上からなる複合材料のいずれかであることが好ましい。なお、前記セラミックスには、セラミックス原料を成形し、必要に応じ釉薬等を塗布した後であって、前記焼付けの前段階にある材料も含めるものとする。特にセラミックス製のタイルを基材とすることが、美観を保つ効果の面から好ましい。
本発明の光触媒担持構造体の製造方法において、一般には、塗布液の塗布前に基材の表面に接着層を設ける等の特殊な処理をする必要はない。しかし、基材の種類にもよるが、塗布工程で塗膜の均一性をさらに高める等の必要があれば、基材の表面に予めそのための処理を行ってもよい。
【0021】
(光触媒担持構造体)
本発明の光触媒担持構造体は、
(1)前記光触媒担持構造体の製造方法のいずれかにより製造された光触媒担持構造体、及び
(2)基材表面に光触媒層が担持された光触媒担持構造体であって、300℃以上で焼付けを行う工程を経て得られ、かつ光触媒層が光触媒、シリカ、ジルコニウム酸化物、及びアルミニウム酸化物を含有することを特徴とする光触媒担持構造体
のいずれかである。
【0022】
前記(2)の「300℃以上で焼付けを行う工程」は、前記「光触媒担持構造体の製造方法」の項で記載したものと同様の工程である。また基材も、前記「光触媒担持構造体の製造方法」の項で記載したものと同様の材料である。
300℃以上で焼付けを行う工程より前の工程は、特に限定されるものではないが、例えば、前記光触媒構造体の製造方法のいずれかに記載された、光触媒形成用塗布液を基材上に塗布する方法を用いれば、(2)の光触媒担持構造体を得ることができる。すなわち、300℃以上での焼付けにより、前記ジルコニウム化合物からジルコニウム酸化物が生じ、光触媒、シリカ、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物の各成分を含有する光触媒層が得られる。
また例えば、光触媒、シリカ、ジルコニウム酸化物、及びアルミニウム酸化物の各原料を混合された状態で基材上に接着させ、これに前記の「300℃以上で焼付けを行う工程」を施すことによっても、(2)の光触媒担持構造体を得ることができる。
【0023】
前記(2)の光触媒担持構造体中における、光触媒、シリカ、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物の各成分の含有量に関しては、以下の通りである。
【0024】
光触媒の含有量は、光触媒層全体に対して、酸化物に換算して5質量%〜60質量%が好ましい。5質量%未満になると光触媒活性が著しく低下する。一方、60質量%を越える場合には光触媒活性は高くなるものの、接着層との接着性が乏しくなる。
光触媒としては、前記の高温焼付け用の光触媒層形成用塗布液の項に記載したものと同様の種類が挙げられる。
【0025】
シリカの含有量は特に制限されず、光触媒層の他の構成成分の含有量に応じて決定すればよいが、光触媒層全体に対して、5〜50質量%であるのが好ましい。
【0026】
ジルコニウム酸化物の含有量は、光触媒層全体に対して、5〜40質量%であるのが好ましい。5質量%未満では光触媒層が耐アルカリ性に乏しくなる。一方、40質量%を越えると透明性が悪くなる。
【0027】
アルミニウム酸化物の含有量は、光触媒層全体に対して、20〜90質量%であるのが好ましい。20質量%未満では光触媒層のヘイズ率の上昇を抑制する効果及び耐アルカリ性を高める効果に乏しくなる。一方、添加量が90質量%を越えると光触媒活性が低下する。
さらに、光触媒100質量部に対する他の構成成分の含有量に関しては、アルミニウム酸化物を好ましくは10〜200質量部、より好ましくは50〜150質量部、シリカを好ましくは10〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部、ジルコニウム酸化物を好ましくは20〜100質量部、より好ましくは30〜70質量部とするのがよい。この組成により、光触媒層は、屈折率が低く、光の散乱や回折が防止されたものとなり、基材の美観を損ねないことが可能となる。
【0028】
(1)又は(2)の光触媒担持構造体は、好ましくは、(3)光触媒層が光触媒粒子、シリカ粒子、連続相を形成するジルコニウム酸化物、及びアルミニウム酸化物粒子を含有することを特徴とする。
すなわち、300℃以上での焼付けにより、光触媒、アルミニウム酸化物、シリカの各成分は光触媒層中で粒子状の形態をなし、光触媒形成用塗布液中の溶媒に可溶性のジルコニウム酸化物は、粒子状とならず、均一な連続相を形成することが好ましい。
【0029】
本発明の光触媒担持構造体では、光触媒層が、直径0.1mm以上にわたり連続して被覆することを特徴とする。
高温焼成により基材表面に光触媒層を形成させる方法では、光触媒形成用塗布液を不連続に塗布する等の特殊な方法を用いなくても、焼成後に光触媒層が直径1〜100μm程度で不連続となり基材表面上に分散した状態となることがある。これは走査型電子顕微鏡(SEM)で基材表面又はその断面を観察することにより確認することができる。
しかし、本発明の光触媒担持構造体はこのようなことがなく、上記の特殊な方法を用いない限り基材表面を直径0.1mm以上にわたり連続して被覆することができる。この連続被覆領域の直径は、さらに5mm以上とすることが好ましい。
上記の連続的に被覆する効果は、必ずしも限定されるものではないが、例えば、前記の本発明の光触媒層形成用塗布液を基材上に塗布し、高温焼付けすることで実現することができる。
【0030】
前記基材としては、光触媒層担持構造体の製造方法の項に記載したのと同様の材料を用いることができ、特にセラミックス製のタイルを基材とすることが、美観を保つ効果の面から好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
A液の調製
下記に示す光触媒、シリカゾル、オキシ硝酸ジルコニウム液及びイオン交換水を、pH1.5〜9の適当な範囲に調整して、固形分の酸化物換算質量比がTiO
2:SiO
2:ZrO
2=33.3:49.0:17.7、固形物濃度10質量%となるように混合し、0.01質量%の界面活性剤を加えてA液を得た。
【0033】
(1)光触媒
硝酸酸性酸化チタンゾル(結晶粒子径7nm)
(2)シリカゾル溶液
ネックレス状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックス(登録商標)PS:日産化学(株)製)
(3)オキシ硝酸ジルコニウム化合物液
試薬特級オキシ硝酸ジルコニウム6水和物(和光純薬(株)製)を水に溶解させて10質量%水溶液とし、12時間加熱して半量の水を常圧で留去して得られた液
【0034】
B液の調製
下記に示すアルミニウム化合物液、イオン交換水及びアルコールを固形分濃度1.6質量%となるように混合し、0.003質量%の界面活性剤を加えてB液を得た。
(4)アルミニウム化合物液
アルミナゾル(商品名:アルミナゾル−200、日産化学(株)製)
【0035】
光触媒層形成用塗布液の調製
上記で得たA液とB液とを、質量比で1:3の割合で混合して、光触媒層形成用塗布液を調製した。この塗布液に含有される固形分の酸化物換算質量比はTiO
2:SiO
2:ZrO
2:Al
2O
3=23.4:34.4:12.4:29.7である。
【0036】
基材として、タイルを準備し、この基材上に、上記の光触媒層形成用塗布液を60cm/minでディップ成膜した。次いで、500℃、15分の条件下で塗膜を焼成した。
【0037】
(実施例1’)
基材として石英ガラス基板を用い、塗膜の焼成時間を5分とした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0038】
(実施例2)
塗膜の焼成温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0039】
(実施例3)
塗膜の焼成時間を5分とした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0040】
(比較例1)
ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタンのイソプロパノール溶液(濃度5質量%)を光触媒層形成用塗布液とした。
基材として、実施例1と同じタイルを準備し、この基材上に、上記の光触媒層形成用塗布液を60cm/minでディップ成膜した。次いで、500℃、15分の条件下で塗膜を焼成した。
【0041】
(比較例1’)
基材として石英ガラス基板を用い、塗膜の焼成時間を5分とした以外は、比較例1と同様にして実施した。
【0042】
(比較例2:ブランク)
実施例1と同じタイルをそのまま光触媒活性試験に用いた。
【0043】
(比較例3)
A液の調製において、オキシ硝酸ジルコニウム液を使用せず、シリカゾル溶液を増量し、固形分の酸化物換算質量比をTiO
2:SiO
2:ZrO
2=33.3:66.7:0とした以外は、実施例3と同様の方法で塗膜を得た。
【0044】
(比較例4)
B液の調製において、アルミニウム化合物液に代えて前記のシリカゾル溶液を使用した(固形分濃度は同量)以外は、実施例3と同様の方法で塗膜を得た。
【0045】
(比較例5)
A液の調製において、シリカゾル溶液を使用せず、オキシ硝酸ジルコニウム液を増量し、固形分の酸化物換算質量比をTiO
2:SiO
2:ZrO
2=33.3:0:30.9とするとともに、B液の調製において、アルミニウム化合物液を増量し固形分濃度4.0質量%とした以外は、実施例3と同様の方法で塗膜を得た。
【0046】
(比較例6)
A液の調製において、シリカゾル溶液を使用せず、固形分の酸化物換算質量比をTiO
2:SiO
2:ZrO
2=33.3:0:17.7とした以外は、実施例3と同様の方法で塗膜を得た。
【0047】
(光触媒形成用塗布液の性状及び成膜性)
実施例1〜3、及び比較例4、6は、光触媒形成用塗布液の粘度及び安定性は良好で、成膜性にも問題はなかった。
それに対し、比較例3は、光触媒形成用塗布液が分離しやすかった。また比較例5は、光触媒形成用塗布液調製時に増粘しさらにゲル化し、そのため塗布が困難で均一な塗膜が得られなかった。
【0048】
(強度)
実施例1〜3、比較例1、4、6の各塗膜は、良好な強度を示した。それに対し、比較例3は指で擦ると塗膜が脱落し、比較例5は指で触れるだけで塗膜がはがれた。
【0049】
(外観)
実施例1及び比較例1のタイルの写真を、
図1及び
図2にそれぞれ示す。
実施例1のタイルは基材と同様の自然な外観を呈していた。それに対し、比較例1のタイルはシルバーメタリックな干渉色を呈していた。
実施例2及び3も実施例1と同様であった。それに対し、比較例3及び4は艶がなく、比較例4は若干の白みがあった。比較例5は全体に白く若干の干渉色を呈した。比較例6は基材に比べ艶が増したが、若干の干渉色も呈した。
【0050】
(SEMによる観察)
実施例1及び比較例1の各タイルサンプルの表面および断面を、SEMにより観察した。実施例1及び比較例1の表面の平面SEM像をそれぞれ
図3、
図4に、実施例1及び比較例1の表面付近の断面SEM像をそれぞれ
図5、
図6に示す。実施例1の断面像における光触媒層膜厚は850nm、比較例1の断面像における光触媒層膜厚は207nm(ただし位置により大きく異なる。)であった。実施例1の光触媒層は平滑で表面を均一に被覆しているが、比較例1の光触媒層は不連続で膜厚も不均一であることがわかる。
【0051】
(屈折率の測定)
分光光度計UV−U4000(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、実施例1’及び比較例1’のサンプルの表面における反射率を測定し、これから屈折率を算出した。
その結果、実施例1’の屈折率は1.51、比較例1’の屈折率は2.02であった。前記の外観観察における干渉色の有無は、この屈折率の違いによるものと考えられる。
【0052】
(光触媒活性)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のタイルサンプルを、容積4Lのガラス容器中に設置した。この容器中に空気とアセトアルデヒドの混合ガスを、アセトアルデヒドの濃度が50ppmとなるように加えた。次いで、タイル表面の紫外線強度が1mW/cm
2となるようにブラックライトの光を一定時間照射後、容器内部のアセトアルデヒドと二酸化炭素のガス濃度をガスクロマトグラフにより測定し、光触媒活性を評価した。測定結果を
図7〜
図10に示す。
図7:実施例1、実施例2及び比較例2のアセトアルデヒド濃度(ppm)
図8:実施例1、実施例2及び比較例2の二酸化炭素総生成量(μmol)
図9:比較例1及び比較例2のアセトアルデヒド濃度(ppm)
図10:比較例1及び比較例2の二酸化炭素総生成量(μmol)
その結果、実施例1、実施例2、比較例1とも同程度の活性を示した。