(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の液体フィルター用ろ材は、繊維径が4.0μm以下(好ましくは0.1〜4.0μm、より好ましくは0.1〜2.0μm、特に好ましくは0.1〜0.8μm)かつアスペクト比が100〜2500の主体繊維と、繊維径が3.0μm以下(好ましくは0.1〜3.0μm、より好ましくは0.1〜1.8μm、特に好ましくは1.0〜1.8μm)かつアスペクト比が100〜2500のバインダー繊維とを含む。
【0020】
ここで、前記の繊維径は、透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影し測定することができる。その際、測長機能を有するTEMでは、測長機能を活用して測定することができる。また、測長機能の無いTEMでは、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0021】
また、アスペクト比とは、繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dである。
【0022】
前記主体繊維において、繊維径が4.0μmよりも大きいと、ろ材の孔径が大きくかつ不均一となり、捕集性能が低下し好ましくない。逆に該繊維径が0.1μm(100nm)よりも小さいと抄紙の際、抄紙網の目から繊維が脱落しやすくなるおそれがある。また、前記主体繊維のアスペクト比が2500よりも大きいと、抄紙の際、繊維同士がからんでブロックの原因になるおそれがある。逆に、前記主体繊維のアスペクト比が100より小さいと、繊維の裁断が困難となるため、ばらつきが大きくなって分散性が低下したり、または、繊維が抄紙網から脱落しやすくなり抄紙性が低下するおそれがある。
【0023】
前記主体繊維の繊維種類としては特に限定されないが、ポリエステル繊維またはポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維またはポリオレフィン繊維またはナイロン(Ny)繊維が好ましい。
【0024】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5−スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009−091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0025】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維を形成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができる。その中でも、p−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p−フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0026】
また、ポリオレフィン繊維には、ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維が含まれる。
【0027】
また、ナイロン繊維にはナイロン6繊維とナイロン66繊維が含まれる。
【0028】
前記主体繊維の製造方法としては、特に限定されないが、国際公開第2005/095686号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、繊維径およびその均一性の点で、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。
【0029】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維
形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が100以上(好ましくは300〜3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の繊維が得られないおそれがある。
【0030】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。さらに具体例を挙げれば、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが、アルカリ水溶液に対して溶解しやすく好ましい。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。これ以外にも、海成分と、該海成分を溶解する溶液の組合せとしては、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶削、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0031】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度が低下するおそれがある。
【0032】
一方、島成分を形成する難溶解性ポリマーとしては、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリオレフィン類などが好適な例として挙げられる。具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステル類では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5−スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。また、ポリアミド類では、ナイロン6(Ny−6)、ナイロン66(Ny−66)等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。また、ポリオレフィン類は酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合率が20モル%以下のポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が高い融点による耐熱性や力学的特性を備えているので、ポリビニルアルコール/ポリアクリロニトリル混合紡糸繊維からなる極細フィブリル化繊維に比べ、耐熱性や強度を要求される用途へ適用でき、好ましい。なお、島成分は丸断面に限らず、三角断面や扁平断面などの異型断面であってもよい。
【0033】
前記の海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の主体繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、艶消し剤、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0034】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0035】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲であるこの比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0036】
次に島数は、100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。また、その海島複合重量比率(海:島)は、20:80〜80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方、20%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0037】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200〜5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪くなるおそれがある。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪くなるおそれがある。
【0038】
得られた繊維は、海成分を抽出後に得られる極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもよい。
【0039】
次に、かかる複合繊維を、島径Dに対する繊維長Lの比L/Dが100〜2500の範囲内となるようにカットする。かかるカットは、数十本〜数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0040】
前記の繊維径Dを有する繊維は、前記複合繊維にアルカリ減量加工を施すことにより得られる。その際、アルカリ減量加工において、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1〜5%であることが好ましく、さらには0.4〜3%であることが好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%以上では繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
また、アルカリ減量加工の処理時間は5〜60分であることが好ましく、さらには10〜30分であることが好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分以上では島成分までも減量されるおそれがある
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2〜10%であることが好ましい。2%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0041】
かくして得られた主体繊維において、主体繊維が延伸されたポリエステル繊維である場合、複屈折率(Δn)が0.05よりも大となる。
【0042】
なお、前記のカット工程とアルカリ減量工程の順序を逆にして、まずアルカリ減量加工を行った後、カットを行ってもよい。
【0043】
一方、前記バインダー繊維において、繊維径が3.0μmよりも大きいと、ろ材の孔径が大きくかつ不均一となり、捕集性能が低下するおそれがあり好ましくない。逆に該繊維径が0.1μm(100nm)よりも小さいと、抄紙の際に抄紙網の目から繊維が脱落しやすくなるおそれがある。また、前記バインダー繊維のアスペクト比が2500よりも大きいと、抄紙の際に繊維同士がからんでフロック(繊維塊)の原因になるおそれがある。逆に、前記主体繊維のアスペクト比が100より小さいと、繊維の裁断が困難となり、ばらつきが大きく分散性が低下したり、または、繊維が抄紙網から脱落しやすくなり抄紙性が低下するおそれがある。
【0044】
かかるバインダー繊維としては、複合繊維または未延伸繊維であることが好ましい。未延伸繊維の場合、複屈折率Δnは通常、0.05以下となる。また、未延伸繊維の伸度は通常、100%以上(好ましくは100〜800%)となる。
【0045】
ここで、複合繊維としては、抄紙後に施す80〜170℃の熱処理によって融着し接着効果を発現するポリマー成分(例えば、非晶性共重合ポリエステル)が鞘部に配され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの通常のポリエステル)が芯部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0046】
なお、バインダー繊維は、バインダー成分(低融点成分)が単繊維の表面の全部または一部を形成している公知のバインダー繊維でもよい。例えば、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維などが例示される。
【0047】
ここで、上記非晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分と、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分とのランダムまたはブロック共重合体として得られる。中でも、従来から広く用いられているテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコストの面で好ましい。このような共重合ポリエステルは、ガラス転移点が50〜100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0048】
また、未延伸繊維としては、紡糸速度が好ましくは800〜1500m/分(さらに好ましくは900〜1150m/分)で紡糸された未延伸繊維が挙げられる。ここで、未延伸繊維は、前記海島型複合繊維の島成分または海成分に用いられるポリエステルを少なくとも一成分として用いた未延伸繊維であることが好ましい。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを少なくとも一成分として用いた未延伸ポリエステル繊維や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を少なくとも一成分として用いた未延伸ポリフェニレンスルフィド(PPS)バインダー繊維、ナイロン6やナイロン66などのナイロンを少なくとも一成分として用いた未延伸ナイロン繊維や、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンを少なくとも一成分として用いた未延伸ポリオレフィン繊維が好ましい。海島型複合繊維の未延伸糸を用いることもできる。
【0049】
未延伸ポリフェニレンスルフィド(PPS)バインダー繊維を形成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げる事ができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0050】
本発明の液体フィルター用ろ材において、構造および製法は特に限定されないが、湿式不織布であることが好ましい。また、前記主体繊維および前記バインダー繊維以外の繊維をさらに用いてもよい。
【0051】
その際、前記バインダー繊維の重量比率がろ材重量に対して10〜50重量%の範囲内であることが肝要である。該バインダー繊維の重量比率が10重量%より小さいと、強度・伸度が小さく、プリーツなど組立加工工程において、処理スピードが低下するなどの問題が発生するおそれがある。逆に該バインダー繊維の重量比率が50重量%よりも大きいと、相対的に主体繊維の含有量が小さくなり捕集性能が低下するおそれがある。
【0052】
湿式不織布を製造する方法としては、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機、あるいはこれらを複数台組み合わせて多層抄きなどとして抄紙した後、熱処理する製造方法が好ましい。その際、熱処理工程としては、抄紙工程後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも可能である。また、熱処理の後、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーなどのカレンダー加工またはエンボス加工を施してもよい。特に、不織布にカレンダー加工またはエンボス加工を施すと、表面平滑性の向上(厚みの均一化)、接着点を形成することによる強度アップという効果を奏する。また、未延伸繊維からなるバインダー繊維を用いる場合は、熱圧着工程が重要であるため、かかるカレンダー加工またはエンボス加工が重要である。
【0053】
かくして得られた液体フィルター用ろ材において目付けが5〜80g/m
2(好ましくは5〜40g/m
2)の範囲内であることが肝要である。目付けは液体フィルターのろ材の有効面積、通水量、捕集効率、圧力損失などに大きく影響する。目付けが5g/m
2未満の場合、ろ材の強度が弱く、シート自身およびそれをろ材として使用する液体フィルターを形成することが難しくなるおそれがある。逆に、目付けが80g/m
2よりも大きいと、厚さが厚くなったり、圧力損失が大きくなったり、さらには、液体フィルター用ろ材を用いてカートリッジ型液体フィルターを構成した場合、搭載できるろ材面積が小さくなるおそれがある。
【0054】
また、液体フィルター用ろ材の厚さとしては10〜100μm(より好ましくは10〜60μm)の範囲内であることが好ましい。厚さが10μm未満の場合、ろ材の強度が弱く、シート自身およびそれをろ材として使用する液体フィルターを形成することが難しくなるおそれがある。逆に、厚さが100μmよりも大きい、液体が透過する際の圧力損失(圧損)が大きくなったり、さらには、液体フィルター用ろ材を用いてカートリッジ型液体フィルターを構成した場合、搭載できるろ材面積が小さくなるおそれがある。
【0055】
また、液体フィルター用ろ材の空隙率が50〜90%の範囲内であることが好ましい。該空隙率が50%未満では液体が透過する際の圧力損失(圧損)が大きくなるおそれがある。逆に該空隙率が90%よりも大きいと、厚さが厚くなり、カートリッジに搭載できる濾材面積が小さくなるおそれがある。
【0056】
また、液体フィルター用ろ材のガーレ透気度が10sec/100cc以下であることが好ましい。ガーレ透気度が10sec/100ccよりも大きいと、十分な処理流量を吐出することが難しくなるおそれがあり、さらには圧力損失が大きくなるおそれがある。
【0057】
また、液体フィルター用ろ材において、引張強度がMD方向8N/15mm以上(より好ましくは8〜50N/15mm)、かつCD方向3N/15mm以上(より好ましくは8〜50N/15mm)であると、ハンドリング性および組立性が向上し好ましい。また、引張伸度がMD方向10%以上(好ましくは10〜50%)、かつCD方向10%以上(好ましくは10〜50%)である、ハンドリング性および組立性が向上し好ましい。強度や伸度が該範囲よりも小さい場合は、カートリッジ型液体フィルターを構成する際、プリーツ形成プロセスの際のテンションにより、亀裂が入ったり、折り速度の低減が必要となり工程性が低下するおそれがある。
【0058】
また、液体フィルター用ろ材において、平均孔径が2.0μm以下(好ましくは0.1〜2.0μm)であると、微細な粒子の捕集を可能とし、その際、高空隙率性および低目付け(厚さが小さい)により、低圧力損失が達成され、微細粒子の捕集において、長寿命化や変形能のゲル化物を通り抜けなく、捕集することが可能となり好ましい。
【0059】
本発明の液体フィルター用ろ材において、主体繊維だけでなくバインダー繊維も繊維径が小さいので、低目付け(厚さが小さい)でありながら、高強度、高捕集性、高寿命を有する。
【0060】
次に、本発明の液体フィルターは、前記の液体フィルター用ろ材を用いてなる、カートリッジ型液体フィルターである。かかる液体フィルターは前記の液体フィルター用ろ材を用いているので、高強度、高捕集性、高寿命を有するので、食品・飲料・製薬・エレクトロニクス等工業製品の製造プロセスなどで好適に使用される。
【0061】
かかるカートリッジ型液体フィルターにおいて、形状は特に限定されないが、
図1に模式的に示すように、カートリッジ型液体フィルターを円筒状とし、最内層のコア材と最外層のプロテクターとの間に、前記の液体フィルター用ろ材をプリーツ状に配することが好ましい。
【0062】
その際、プリーツの折りピッチ(山と谷との距離)としては、5〜30mmの範囲内であることが好ましい。また、コア材の径としては、10〜200mmの範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。ただし、繊維径は、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(n数5の平均値)。
(2)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維(短繊維A)を基盤上に寝かせた状態とし、20〜500倍で繊維長Lを測定した(n数5の平均値)。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長Lを測定した。
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付けを測定した。
(4)厚さ
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cm
2にて、n=5で測定し、平均値を求めた。
(5)空隙率
上記目付け、厚さ、繊維密度から下記式にて計算した。なお、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の繊維密度は1.36g/cm
3である。
空隙率(%)=100−((目付け)/(厚さ)/繊維密度×100)
(6)引張強度
JIS P8113 (紙および板紙の引張強さと試験方法)に基づいて実施した。
(7)平均孔径
PMI社製パームポロメーターにより測定した。
(8)ガーレ透気度
JIS P8117 (紙および板紙の透気度試験方法)に基づいて実施した。
(8)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのデータをもとに、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000sec
−1の時の溶融粘度を読み取った。
(9)アルカリ減量速度比
海成分および島成分のポリマーを、それぞれ、径0.3mm、長さ0.6mmの円孔を24孔持つ口金から吐出し、1000〜2000m/分の紡糸速度で引き取って得た未延伸糸を残留伸度が30〜60%の範囲となるように延伸して83dtex/24フィラメントのマルチフィラメントを作製した。これを1.5wt%NAOH(水酸化ナトリウム)水溶液80℃を用い、浴比100として、溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
【0064】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート(PET)、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=10:90の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/分で引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍であった。これを3.9倍に延伸した後、ギロチンカッターで0.5mmにカットして、海島型複合繊維を得た。これを4%NaOH水溶液で75℃にて10%減量し、本繊維を主体繊維1とした(延伸されたポリエステル繊維、繊維径700nm、繊維長0.5mm、アスペクト比714、丸断面、複屈折率Δnが0.05より大)。
【0065】
一方、ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸して得られた未延伸ポリエステル繊維を用意しバインダー繊維1とした(繊維径1.2μm、繊維長0.4mm、アスペクト比333、丸断面、複屈折率Δnが0.05以下、伸度が200〜400%)。
【0066】
次いで、前記主体繊維1(60wt%)とバインダー繊維1(40wt%)とを混合撹拌した後、傾斜短網抄紙機で湿式抄紙を行い、ヤンキードライヤー140℃で乾燥し湿式不織布を得た。その湿式不織布をカレンダー熱処理185℃で実施し、フィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0067】
次いで、該フィルター用ろ材を用いて
図1に示すようなカートリッジ型液体フィルター(折りピッチPが11mm、コア材の径が40mm)を得たところ、高強度、高捕集性、高寿命を有するものであった。
【0068】
[実施例2]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=10:90の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/分で引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍であった。これを3.9倍に延伸した後、ギロチンカッターで0.4mmにカットして、海島型複合繊維を得た。これを4%NaOH水溶液で75℃にて10%減量し、本繊維を主体繊維2とした(延伸されたポリエステル繊維、繊維径400nm、繊維長0.4mm、アスペクト比1000、丸断面、複屈折率Δnが0.05より大)。
【0069】
一方、実施例1と同じバインダー繊維1を用意した。また、ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸して得られた未延伸ポリエステル繊維を用意しバインダー繊維2とした(単繊維繊度0.2dtex、繊維径4.3μm、繊維長3mm、アスペクト比697、丸断面、複屈折率Δnが0.05以下、伸度が200〜400%)。
【0070】
次いで、前記主体繊維2(60wt%)とバインダー繊維1(30wt%)とバインダー繊維2(10wt%)とを混合撹拌した後、実施例1と同様にしてフィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸・延伸して得られた延伸ポリエステル繊維を用意し主体繊維3とした(単繊維繊度0.1dtex、繊維径3.05μm、繊維長3mm、アスペクト比983、丸断面、複屈折率Δnが0.05より大)。
【0072】
次いで、前記主体繊維3(60wt%)と実施例1と同じバインダー繊維1(40wt%)とを混合撹拌した後、実施例1と同様にしてフィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0073】
[実施例4]
実施例1と同じ主体繊維1(30wt%)と実施例2と同じ主体繊維2(30wt%)と実施例3と同じ主体繊維3(20wt%)と実施例1と同じバインダー主体繊維1(20wt%)を混合撹拌した後、実施例1と同様にしてフィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0074】
[実施例5]
島成分に295℃での溶融粘度が130Pa・secのポリフェニレンスルフィド(PPS)、海成分に295℃での溶融粘度が145Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=30:70の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/分で引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍であった。これを3.5倍に延伸した後、ギロチンカッターで0.5mmにカットして、海島型複合繊維を得た。これを4%NaOH水溶液で75℃にて10%減量し、本繊維を主体繊維4とした(延伸されたポリフェニレンスルフィド繊維、繊維径700nm、繊維長0.5mm、アスペクト比714、丸断面、複屈折率Δnが0.05より大)。
【0075】
一方、ポリフェニレンスルフィドを常法により紡糸して得られた未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維を用意しバインダー繊維3とした(繊維径1.2μm、繊維長0.4mm、アスペクト比333、丸断面、複屈折率Δnが0.05以下)。
【0076】
次いで、前記主体繊維4(60wt%)とバインダー繊維2(40wt%)とを混合撹拌した後、傾斜短網抄紙機で湿式抄紙を行いヤンキードライヤー150℃で乾燥し湿式不織布を得た。その湿式不織布にカレンダー加工(熱処理温度200℃)を実施し、フィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0077】
次いで、該フィルター用ろ材を用いてカートリッジ型液体フィルターを得たところ、高強度、高捕集性、高寿命を有するものであった。
【0078】
[実施例6]
島成分に285℃での溶融粘度が125Pa・secのナイロン6(Ny−6)、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=30:70の重量比率で島数800の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/minで引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍以上であった。これを3.2倍に延伸した後、ギロチンカッターで0.5mmにカットして、海島型複合繊維を得た。これを4%NaOH水溶液で75℃にて10%減量し、本繊維を主体繊維5とした(延伸されたナイロン6繊維、繊維径400nm、繊維長0.5mm、アスペクト比714、丸断面、複屈折率Δnが0.05より大)。
【0079】
一方、ナイロン6を常法により紡糸して得られた未延伸ナイロン6繊維を用意しバインダー繊維4とした(繊維径1.2μm、繊維長0.4mm、アスペクト比333、丸断面、複屈折率Δnが0.05以下、伸度が200〜400%)。
【0080】
次いで、前記主体繊維5(60wt%)とバインダー繊維4(40wt%)とを混合撹拌した後、傾斜短網抄紙機で湿式抄紙を行いヤンキードライヤー130℃で乾燥し湿式不織布を得た。その湿式不織布にカレンダー加工(熱処理温度180℃)で実施し、フィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0081】
次いで、該フィルター用ろ材を用いてカートリッジ型液体フィルターを得たところ、高強度、高捕集性、高寿命を有するものであった。
【0082】
[比較例1〜8]
表1に示すように、主体繊維とバインダー繊維を選択し混合撹拌した後、実施例1と同様にしてフィルター用ろ材を作製した。評価結果を表1に示す。
【0083】
比較例1〜3では、繊維径が3.0μm以下の極細バインダー繊維が含まれていないため、強度・伸度が小さく、プリーツなど組立加工工程において、処理スピードが低下するなどの問題があった。比較例4では、繊維径が3.0μm以下の極細バインダー繊維の量が少ないために、強度・伸度が小さく、プリーツなど組立加工工程において、処理スピードが低下するなどの問題があった。比較例5では、目付けが小さいために、均一なシート形成が不可能であった。また比較例6では、目付けが90g/m
2と大きいため、微細孔径を有し、強度・伸度も大きな値を示すが、ガーレ透気度が大きく、また厚さも大きいため、フィルターカートリッジを作製した場合に、十分な処理流量を吐出することが難しく、さらには圧力損失が大きいため、微粒子やゲル化物などの透過が困難であった。比較例7では、主体繊維のアスペクト比が大きいため、抄紙スラリー中の分散性が不良であり、均一性に劣るシートとなり、強度・伸度が小さい結果となった。また比較例8では、極細バインダー繊維のアスペクト比が小さく、抄紙網からの抜けのためと思われるが、投入繊維量に比べて、目付けが小さく、また強度・伸度ともに不十分であった。
【0084】
【表1】
【0085】
なお、表中の( )内はアスペクト比である。