(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における実施形態では、車両の走行安定性を高めるための制御に通常使用されるセンサを用いて取得可能な車両の物理量を参照して、車両の車輪における接地荷重を十分に高い精度で推定する。なお、本明細書において物理量を「参照」とは、当該物理量を直接または間接的に使用することの総称であり、これらの一方または両方を意味する。
【0012】
〔接地荷重推定装置〕
本発明の実施形態における接地荷重推定装置は、車両の接地荷重を推定する。当該接地荷重推定装置は、取得部と慣性荷重推定部とを備える。
【0013】
[取得部]
取得部は、車両に関する物理量を取得する装置である。また、取得部は、後述する慣性荷重推定部および補正値演算部に、当該物理量を出力する。取得部の例には、各種センサ、および、当該物理量を演算して出力する装置、が含まれる。
【0014】
本実施形態において、センサは、車両の走行に係る標準的な制御に通常使用されるセンサ(以下「汎用センサ」とも言う)であってよく、ロールレートセンサおよびピッチレートセンサを含まなくてよい。取得部としてのセンサ(汎用センサ)の例には、車両の前後加速度を取得する前後加速度センサ、車両の横加速度を取得する横加速度センサ、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサ、および、車両の旋回情報を取得する旋回情報センサ、が含まれる。旋回情報センサの例には、ヨーレートセンサおよび操舵角センサが含まれる。
【0015】
上記の物理量の例には、前後加速度センサの値、横加速度センサの値、車輪速センサの値、旋回情報センサの値、車両の質量、車両の重心高、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、車両の前車軸重心間距離、車両の後車軸重心間距離、車両のフロントトレッド長、および、車両のリアトレッド長、が含まれる。
【0016】
[慣性荷重推定部]
慣性荷重推定部は、基準慣性荷重演算部と補正値演算部とを含む。慣性荷重推定部は、基準慣性荷重演算部で演算した基準慣性荷重に、補正値演算部で演算した慣性荷重補正値を加算して慣性荷重を推定する。慣性荷重とは、車両の旋回の効果および加減速の効果による接地荷重の変動を意味する。基準慣性荷重演算部は、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重を演算する。基準慣性荷重とは、後述する車両の慣性荷重を表す方程式の解を意味する。慣性荷重補正値とは、基準慣性荷重と、真の慣性荷重とのずれを低減するように基準慣性荷重を補正する補正値である。
【0017】
本実施形態において、基準慣性荷重の演算に使用する物理量は、前述の汎用センサで取得される物理量および車両に特有の物理量であってよい。たとえば、基準慣性荷重演算部は、前後加速度センサの値、横加速度センサの値、車両の質量、車両の重心高、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、車両の前車軸重心間距離、車両の後車軸重心間距離、フロントトレッド長、および、リアトレッド長を用いて、車両の各車輪における基準慣性荷重を、車両のモデルに基づき演算することができる。
【0018】
ここで、上記の「車両のモデル」とは、基準慣性荷重の演算について、それを実現可能にするためのモデルである。当該モデルは、基準慣性荷重を演算するための数式に応じて適宜に決めることができる。たとえば、車両のモデルは、線形システムで表される運動方程式の最小ノルム法による解のモデルであってよい。
【0019】
補正値演算部は、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値を演算する。補正値演算部が慣性荷重補正値の演算に使用する物理量も、前述したように、汎用センサで取得される物理量および車両に特有の物理量であってよい。たとえば、補正値演算部は、車両の質量、車両の重心高、車輪速センサの値、旋回情報センサの値、ロール慣性モーメント、フロントトレッド長、および、リアトレッド長を用いて、慣性荷重補正値を演算することができる。旋回情報センサの値には、ヨーレートセンサの値、または、操舵角センサの値を好適に用いることができる。
【0020】
[路面荷重推定部]
本実施形態の接地荷重推定装置は、本発明の効果が得られる範囲において、さらなる構成を有していてもよい。たとえば、接地荷重推定装置は、車両の路面荷重を推定する路面荷重推定部をさらに備えていてもよい。
【0021】
路面荷重とは、路面の凹凸などの路面の効果による接地荷重の変動を意味する。路面荷重推定部は、限定されないが、汎用センサで取得される物理量および車両に特有の物理量を使用して路面荷重を推定することが、路面荷重の推定についてのセンサなどの取得部のコストを削減する観点から好ましい。たとえば、路面荷重推定部は、以下に説明するタイヤ有効半径変動に第一ゲインを乗じて路面荷重を推定することが好ましい。この場合、前述の取得部は、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサを含むことが好ましく、当該車輪角速度、車両の定常荷重および慣性荷重を含む前記物理量を取得する装置であることが好ましい。
【0022】
当該路面荷重推定部は、第一ゲイン演算部と、タイヤ有効半径変動演算部とを含む。第一ゲイン演算部は、少なくとも車両の定常荷重および車両の慣性荷重から第一ゲインを演算する。第一ゲインは、少なくとも、車両が備える車輪(たとえばタイヤ)の剛性を示すパラメータである。第一ゲインは、車輪に固有の値であり、後述するように、車輪に特定の接地荷重を印加した場合の車輪の剛性を実質的に表す式から求めることができる。
【0023】
タイヤ有効半径変動演算部は、車輪角速度の変動に、第二ゲインを乗じてタイヤ有効半径変動を演算する。タイヤ有効半径変動とは、車輪速の変動を用いて、路面の影響によるタイヤの半径変動を表した値である。車輪角速度の変動は、車輪速センサの検出結果を参照して求めることが可能である。当該車輪角速度の変動は、接地荷重の推定工程における車輪角速度の変動を実質的に表すものであればよく、当該変動の近似値であってもよい。
【0024】
第二ゲインは、車輪角速度の変動が推定結果に及ぼす影響を減らすためのパラメータである。一般に、車両の接地荷重のような車両の状態量の推定では、車両の実際の走行に関する条件が、車両の通常の走行に関する所定の条件から外れる程、推定結果と実際の走行状態とのずれが大きくなる傾向にある。第二ゲインは、例えば、接地荷重の推定値が、車両の走行について想定される様々な条件において、車両の接地荷重の実測値と実質的に同じとなるような適当な数値を、実験またはシミュレーションを通じて導き出すことにより決めることができる。
【0025】
路面荷重推定部は、本実施形態の効果が得られる範囲において、さらなる構成を含んでいてもよい。たとえば、路面荷重推定部は、第二ゲイン補正部をさらに含んでいてもよい。
【0026】
第二ゲイン補正部は、車輪速センサの値から車両のスリップ比関連値を演算し、少なくともスリップ比関連値および車両の加加速度から第二ゲインを補正する。この場合、上記の取得部は、車両の加加速度をさらに取得する。当該加加速度は、例えば加速度センサによって取得することが可能である。
【0027】
[接地荷重の推定方法]
本実施形態において、車両の接地荷重は、車両に関する物理量を取得するステップと、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重を演算するステップと、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値を演算するステップと、基準慣性荷重に慣性荷重補正値を加算して慣性荷重を算出するステップとを含む方法によって推定することが可能である。車両の接地荷重を推定する当該方法は、前述した接地荷重推定装置を用いて実施することができる。
【0028】
本実施形態において、慣性荷重推定部が推定した慣性荷重と、車両の定常荷重とを足すことにより、車両の接地荷重の推定値が得られる。定常荷重とは、車両の1Gにおける接地荷重であり、例えば、車両の質量に基づく算出値であってもよいし、車両に特有の定数であってもよい。接地荷重推定装置が路面荷重推定部をさらに含む場合には、慣性荷重推定部が推定した慣性荷重と路面荷重推定部が推定した路面荷重と定常荷重とを足すことにより、車両の接地荷重の推定値を得ることができる。
【0029】
[制御装置]
本発明の実施形態における制御装置は、車両に作用する接地荷重を推定して、前記接地荷重を直接的または間接的に用いて、前記車両に備えられた一または複数の他の装置を制御する。本実施形態の制御装置は、前述の接地荷重推定装置を含む以外は、車両が備える一以上の装置を接地荷重に基づいて制御する公知の装置と同様に構成することが可能である。なお、接地荷重を間接的に用いる場合とは、例えば、推定した接地荷重を用いて更なる推定を行い、該更なる推定の結果の値を用いて他の装置を制御する構成が含まれる。
【0030】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0031】
〔実施形態1:接地荷重推定装置の第一の実施形態〕
[接地荷重推定装置の機能的構成]
図1は、本発明の実施形態1に係る接地荷重推定装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図1に示されるように、接地荷重推定装置100は、慣性荷重推定部110、路面荷重推定部120、前後加速度センサおよび横加速度センサ(前後、横加速度センサ)131、操舵角センサまたはヨーレートセンサ(操舵角/ヨーレートセンサ)132、車輪速センサ133、定常荷重提供部141、遅延部142および加算部143、144を備えている。
【0032】
前後、横加速度センサ131、操舵角/ヨーレートセンサ132および車輪速センサ133は、慣性荷重推定部110に接続されている。前後、横加速度センサ131、および車輪速センサ133は、路面荷重推定部120に接続されている。前後、横加速度センサ131、操舵角/ヨーレートセンサ132および車輪速センサ133は、慣性荷重推定部110が取得すべき車両に関する物理量を提供しており、慣性荷重推定部110に対して、取得部となっている。
【0033】
慣性荷重推定部110は、算出した慣性荷重の信号を出力する。慣性荷重推定部110は、遅延部142を介して加算部143に接続されている。定常荷重提供部141は、定常荷重の信号を出力する。定常荷重提供部141も加算部143に接続されている。加算部143は、加算部144および路面荷重推定部120のそれぞれに接続されている。路面荷重推定部120は、加算部144と接続されている。
【0034】
前後、横加速度センサ131、操舵角/ヨーレートセンサ132、車輪速センサ133、定常荷重提供部141および慣性荷重推定部110は、路面荷重推定部120が取得すべき車両に関する物理量を提供しており、路面荷重推定部120に対して、取得部となっている。
【0035】
また、図示しないが、慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120は、それぞれ、車両が有する制御系のネットワーク(例えば後述のCANなど)に接続されており、当該ネットワークを介して、車両の質量、車両の重心の高さ、車両の重心に対応する路面上の点を基準とするロール慣性モーメント、当該路面上の点を基準とするピッチ慣性モーメント、前車軸重心間距離、後車軸重心間距離、フロントトレッド長、および、リアトレッド長などの、車両に特有の物理量を取得する。当該ネットワークも、本実施形態における取得部に該当する。
【0036】
図2は、本発明の実施形態1における慣性荷重推定部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図2に示されるように、慣性荷重推定部110は、基準慣性荷重演算部111および補正値演算部112を有している。
【0037】
図3は、本発明の実施形態1における基準慣性荷重演算部の機能的構成の一例を示すブロック図である。基準慣性荷重演算部111は、
図3に示されるように、システム行列部301、入力行列部302、加算部303および遅延部304を含む。システム行列部301は、加算部303に接続しており、加算部303は、遅延部304に接続しており、遅延部304は、システム行列部301に接続している。入力行列部302は、外部、例えば前述したネットワークに接続されており、かつ加算部303に接続している。
【0038】
路面荷重推定部120は、路面荷重を推定する公知の装置で構成される。たとえば、路面荷重推定部120は、不図示のカメラによって撮影した画像等から路面荷重を推定する装置である。
【0039】
[接地荷重推定のロジック]
本実施形態における接地荷重は、以下の式(1)により表される。式(1)において、F
z0nomは、1G状態における接地荷重を表し、dF
z0,inertiaは、慣性荷重を表し、dF
z0,roadは、路面荷重を表す。前述したように、慣性荷重とは、車両の旋回の効果および加減速の効果による接地荷重の変動を意味し、路面荷重とは、路面の凹凸などの路面の効果による接地荷重の変動を意味する。
【0041】
図4は、車体のロール挙動に係る物理量を説明するための図である。また、
図5は、車体のピッチ挙動に係る物理量を説明するための図である。
図6は、車体の重心周りにおけるロール角加速度を説明するための図である。
【0042】
dF
z0,inertiaは、下記式(2A)、(2B)および(2C)の三つの運動方程式によって表される。式(2A)は、上下方向の運動を表現しており、式(2B)は、ロール挙動を表現しており、式(2C)は、ピッチ挙動を表現している。なお、本明細書において、車輪の位置について、前を「f」、後ろを「r」、右を「r」、左を「l」で表現する。また、車両に関する方向として、前後方向を「x」、横方向を「y」、上下方向を「z」で表現する。
【0044】
図4および
図5に示されるように、mは、車両の質量を表し、h
0は、車両重心の高さを表し、a
xは、車両の前後加速度を表す。a
yは、車両の横加速度を表す。a
zは、車両の鉛直加速度を表す。I
1、I
2は、それぞれ、重心COG1、COG2を通る軸周りの慣性モーメントを用いて路面点周りでの慣性モーメントを算出するための補正値を表す。重心COG1は、車体200の幅方向における重心を表し、重心COG2は、車体200の前後方向における重心を表す。
【0045】
また、
図4に示されるように、I
x+I
1は、路面点周りでのロール慣性モーメントを表し、I
xは、重心COG1を通るロール軸周りの慣性モーメントを表し、t
rrは、車両のリアトレッドの半分の長さ(リアトレッド長に1/2を乗じたもの)を表し、t
rfは、車両のフロントトレッドの半分の長さ(フロントトレッド長に1/2を乗じたもの)を表す。また、pドットは、路面点を中心とするロール角加速度を表す。
【0046】
さらに、
図5に示されるように、I
y+I
2は、路面点周りでのピッチ慣性モーメントを表し、I
yは、重心COG2を通るピッチ軸周りの慣性モーメントを表す。また、l
fは、前後方向における車体200の重心COG2と前の車軸との距離を表し、l
rは、重心COG2と後ろの車軸との距離を表し、l
f+l
rは、ホイールベースを示す。また、qドットは、路面点を中心とするピッチ角加速度である。
【0047】
ある時点における接地荷重の変動の算出値をdF
est(k)とすると、そのベクトルは以下の式(3)で表される。下記式(3)中、kは算出回数を表す。
【0049】
また、式(2A)〜(2C)を行列に変形すると、下記式(4)で表され、式(4)から下記式(5)が導き出される。式(5)中の右辺における3×3行列を行列K’とも言い、右辺かっこ内の3×1行列を行列a’とも言う。
【0051】
ここで、「dF
z0fl」を「Z」とすると、式(3)は、下記式(6)で表される。Zは、式(2A)〜(2C)を満足する変数である。式(6)の右辺第一項における4×1行列は、ベクトルaを表している。式(6)中の右辺第二項における4×3行列を行列Kとも言い、同項の3×1行列を行列Uとも言う。ベクトルaは、式(5)における行列K’および行列a’を用いると、式(7)の行列で表される。また、式(6)中の行列Kは、式(5)における行列K’を用いると、式(8)の行列で表される。
【0053】
式(6)の右辺における行列Kおよび行列Uの積をベクトルdF
est,pとすると、式(6)は、下記式(9)で表される。dF
est,pは、式(2A)〜(2C)における任意の解を表す。このように、前述の運動方程式(2A)〜(2C)は、式(9)で表される。すなわち、運動方程式(2A)〜(2C)の解は、直線式で表され、求めるべき接地荷重の算出値は、当該式が表す直線のいずれかに存在する。
【0055】
<最小ノルム法の適用>
ところで、運動方程式(2A)〜(2C)では、変数(dF
z0fl、dF
z0fr、dF
z0rlおよびdF
z0rr)が四つあり、それに対して方程式が三つである。そこで、式(9)に最小ノルム法(Minimum Norm Solution)を適用する。下記式(10)で表される条件、すなわち、上記運動方程式の解のうち、前回における接地荷重の変動の算出値との差分が最小になる値、を式(9)の解と定義する。式(10)中、dF
est(k−1)は、接地荷重の前回の算出値を表す。dF
est,pは、上記運動方程式の解のうちの任意の解を表している。
【0057】
上記の定義を適用すると、式(9)から、以下に示すようにして式(11)が導き出される。なお、式(11)中、aハットはベクトルaの単位ベクトルである。
【0059】
<線形モデル化>
式(11)を線形モデルで表現すると、式(11)は下記式(12)で表され、さらに式(13)で表される。
【0061】
上記式中、Uは入力値を表し、Aはシステム行列を表し、Bは入力行列を表す。以下に示すように、ベクトルdF
est,pは、行列Kと行列Uの積で表される。なお、行列Kおよび行列Uは以下のように表され、AおよびBは、それぞれ、行列を用いて以下のように表される。
【0063】
求めるべき変数dF
est(k)は、上記の線形モデルである式(13)に行列Uを入力することによって取得できる。
【0064】
<補正値の算出>
行列Uは、前述の汎用センサの検出値からでは算出されない鉛直加速度a
z、ロール角加速度pドットおよびピッチ角加速度qドットを含む。これらに所定の値(例えばゼロ)を代入すれば、式(13)の解を求めることができるが、その一方で、a
z、pドットおよびqドットの影響を補正することが必要となる。
【0065】
補正対象となる「dF
est(k)」を以下「基準慣性荷重」とも言い、a
z、pドットおよびqドットの影響を補正するための補正値を以下「慣性荷重補正値」ともいい、「dF
Z0,corr」で表す。求めるべき慣性荷重「dF
Z0,inertia」は、下記式(14)で表される。なお、基準慣性荷重の初期値dF
est(0)は「0」とする。
【0067】
(ロール角加速度(pドット)の影響の補正)
慣性荷重補正値は、汎用センサから取得可能な物理量を用い、a
z、pドットおよびqドットの影響の大きさおよび頻度に応じた適切な式から算出することが可能である。たとえば、慣性荷重補正値dF
Z0,corrは、下記式(15)で表される。式(15)中、K
pは調整パラメータを表し、ΣF
y0は車両のロール時おけるタイヤ横力の総和を表す。ベクトルpは、式(16)で表される。式(15)中の右辺におけるΣFy
0以外部分は、pドットの影響を補正するものであり、車両の旋回時に重要となる。K
pは、例えば、旋回時の車両における接地荷重の実測値と式(15)を用いて推定される接地荷重の推定値とを比較し、実測値を測定した車両の走行条件から拡張された条件においても当該推定値が実質的に有効になるように適宜に設定することにより決めることができる。
【0069】
ここで、pドットの影響を「eのpドット」と表現すると、当該影響は下記式(17)で表される。式(17)の左辺がpドットの影響「eのpドット」である。式(17)中におけるBに乗じる3×1行列は、前述の行列Uにおいて、a
x、a
y、a
zおよびqドットのいずれもゼロとした行列である。
【0071】
ここで、
図6は、車体の重心周りにおけるロール角加速度を説明するための図である。
図6に示されるように、
図6中のpドットは、車体の重心COG1周りのロール角速度を表す。この車体の重心周りにおけるpドットは、下記式(18)で表される。式(18)中の右辺における行列の積は、無視できるほどに微小であり、ゼロと見なすことができる。
【0073】
ΣF
y0は、式(19)で表される。ここで、
図7は、車両の実舵角に対する旋回半径を説明するための図である。
図7は、車両が左に旋回する場合を示している。
図7は、前輪のみで操舵する車両の旋回を示している。
図7において、Cは旋回中心であり、Oは車輪中心点である。「R
turn」は、旋回半径を表し、旋回中心Cから車両の重心COG3までの距離である。「R
turn,l」は、車体の幅方向における旋回中心Cから車両左側の車輪の交点Oまでの距離を表し、「R
turn,r」は、車体の幅方向における旋回中心Cから車両右側の車輪の交点Oまでの距離を表す。δは実舵角である。
【0074】
V
flベクトルおよびV
frベクトルは、前輪点での進行方向ベクトルであり、β
flおよびβ
frは前輪スリップ角である。β
flは、線Lω
flに対してV
flベクトルがなす角度で表され、β
frは、線Lω
frに対してV
frベクトルがなす角度で表される。破線Lω
flは、車輪の転がり方向に沿って延在する線であり、車輪の中心O
flを通る直線である。破線Lω
frは、車輪の転がり方向に沿って延在する線であり、車輪の中心O
frを通る直線である。V
rlベクトルおよびV
rrベクトルは、後輪点での進行方向ベクトルである。β
rlおよびβ
rrは後輪スリップ角であり、車体200の前後方向に対してV
rlベクトルおよびV
rrベクトルがなす角度で表される。なお、車両が前輪および後輪の両方で操舵する場合では、β
flおよびβ
frは、後輪での操舵を考慮して適宜に補正される。
【0075】
式(19)中の「R
turn」は、式(20)で表されることから、式(19)は、式(21)で表される。「R
turn」については、後に説明する。下記式(21)中、「u」は、全車輪の周速の平均値であり、式(22)で表される。式(22)中、ωは車輪の角速度を表し、「R
e,init」は、タイヤ有効半径の初期値を表す。また、「δ」は、式(23)で表される。式(23)中、δsは、操舵角センサの検出値を表し、k
δは、ステアリングギヤレシオを表す。
【0077】
よって、pドットの影響を「eのpドット」とすると、当該「eのpドット」は、下記式(24)で表される。
【0079】
ここで、式(20)について説明する。R
turn,lは、式(25)で表される。同様に、R
turn,rは、式(26)で表される。
【0081】
R
turnは、車両のホイールベースに比べて十分に大きく、βおよびδはいずれも十分に小さいと仮定できる。R
turnは、式(25)および(26)を用いると、式(27)で表される。式(27)の導出過程において、式(28)に示されるように、車両の左右の車輪間において、前後の車輪におけるβの差同士の積は十分に小さく、ゼロと見なすことができる。また、式(29)に示されるように、車両の前方の車輪におけるβの和から後方の車輪におけるβの和を引いたf(β)も、R
turnに比べると十分に小さく、ゼロと見なすことができる。よって、「R
turn」は、前述の式(20)で表される。
【0083】
なお、「R
turn」を実舵角δで表現するように説明したが、実舵角δに代えてヨーレートを用いても、「R
turn」を適切に表現することができる。
【0084】
[接地荷重の推定]
前後、横加速度センサ131は、車両における前後加速度および横加速度を検出して出力し、(操舵角/ヨーレートセンサ)132は、車両における操舵角またはヨーレートを検出して出力し、車輪速センサ133は、車両の車輪における車輪速を検出して出力する。また、前述のネットワークは、車両に関する種々の物理量を出力する。このように、前述の取得部は、車両に関する物理量を取得して出力する。
【0085】
基準慣性荷重演算部111は、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重dF
est(k)を演算する。
【0086】
補正値演算部112は、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値dF
Z0,corrを演算する。具体的には、補正値演算部112は、前述の式(15)に基づいて、旋回時のpドットの影響を補正する慣性荷重補正値を算出する。
【0087】
慣性荷重推定部110は、基準慣性荷重演算部111が演算した基準慣性荷重に、補正値演算部112が演算した慣性荷重補正値を加算して慣性荷重の推定値dF
Z0,inertiaを得る。具体的には、慣性荷重推定部110は、前述の式(14)に基づいて慣性荷重の推定値を得る。
【0088】
慣性荷重推定部110は、慣性荷重dF
Z0,inertiaを遅延部142に出力する。遅延部142は、必要に応じて、その後の制御に応じた適当なタイミングとなるように遅らせて当該慣性荷重を出力する。たとえば、後述する路面荷重推定部120における移動平均処理の遅れに対して、同期するように遅らせる。加算部143は、定常荷重提供部141から出力された定常荷重F
Z0nomと慣性荷重とを合算する。定常荷重と慣性荷重との合計値は、路面荷重推定部120および加算部144に出力される。
【0089】
一方で、路面荷重推定部120は、路面荷重の推定値を出力する。それに際して、路面荷重推定部120は、定常荷重と慣性荷重との合計値を参照することができる。この場合、定常荷重と慣性荷重とを参照した路面荷重の推定値が得られる。
【0090】
路面荷重推定部120から出力された路面荷重の推定値は、加算部144において、上記の合計値と合算される。この場合、定常荷重、慣性荷重および路面荷重の合計値が、車両の接地荷重の推定値Fz
0として得られる。
【0091】
[作用効果]
本実施形態では、汎用センサで取得可能な物理量を用いて基準慣性荷重を演算するとともに慣性荷重補正値を演算する。よって、センサに係るコストを削減することができる。また、車両に接地荷重をより直接的に検出するセンサを搭載し、接地荷重の実測値を求める一方で、本実施形態による接地荷重の推定値を求め、両者を比較すると、本実施形態によれば、当該実測値に実質的に重なるほどに高い精度を有する接地荷重F
z0の推定値を得ることができる。
【0092】
本実施形態では、最小ノルム法を適用して得られる運動方程式の解を用いることができる。よって、高い精度での接地荷重の推定により効果的であり、またそのような推定を、車両の幅広い走行条件に適用できるような補正を行うのにより効果的である。
【0093】
本実施形態では、路面荷重の推定において、定常荷重と推定した慣性荷重とを参照する。よって、これらを参照しない場合に比べて、路面荷重をより高い精度で推定することができる。
【0094】
〔実施形態2:接地荷重推定装置の第二の実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0095】
(a
z、pドットおよびqドットの影響の補正)
本実施例において、慣性荷重補正値dF
Z0,corrは、下記式(30)で表すことができる。式(30)中の右辺における大かっこの中の第一項(K
aとaベクトルの積)は、最小ノルム法によるa
z、pドットおよびqドットの誤差を補正するものである。式(30)中、aベクトルは下記式(31)で表され、pベクトルは、前述の式(16)で表される。
【0097】
式(30)中、K
aは、調整パラメータである。K
aは、式(30)で得られる推定値と実測値とを比較して、推定値が実測値に対して車両の接地荷重の推定において実質的に同じになるように適宜に設定することにより決めることができる。
【0098】
[接地荷重の推定]
前後、横加速度センサ131は、車両における前後加速度および横加速度を検出して出力し、(操舵角/ヨーレートセンサ)132は、車両における操舵角またはヨーレートを検出して出力し、車輪速センサ133は、車両の車輪における車輪速を検出して出力する。また、前述のネットワークは、車両に関する種々の物理量を出力する。このように、前述の取得部は、車両に関する物理量を取得して出力する。
【0099】
基準慣性荷重演算部111は、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重dF
est(k)を演算する。具体的には、基準慣性荷重演算部111は、前述の式(13)に基づいて、最小ノルム法を適用した解として、基準慣性荷重を演算する。たとえば、システム行列部301は、前回の接地荷重の算出値dF
est(k−1)に前述の行列Aを掛けて加算部303に出力し、入力行列部302は、前述の行列Uに行列Bを掛けて加算部303に出力する。加算部303は、これらを加算して基準慣性荷重を算出する。基準慣性荷重は、基準慣性荷重演算部111から出力される。遅延部304は、次回における基準慣性荷重の算出において、システム行列部301に入力する基準慣性荷重が前回の算出値となるようにタイミングを調整して、遅延部304に入力した基準慣性荷重を出力する。
【0100】
補正値演算部112は、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値dF
Z0,corrを演算する。具体的には、補正値演算部112は、式(30)に基づいて、pドット、a
zおよびqドットの影響を補正する慣性荷重補正値を算出する。
【0101】
慣性荷重推定部110は、基準慣性荷重演算部111が演算した基準慣性荷重に、補正値演算部112が演算した慣性荷重補正値を加算して慣性荷重の推定値dF
Z0,inertiaを得る。具体的には、慣性荷重推定部110は、前述の式(14)に基づいて慣性荷重の推定値を得る。
【0102】
慣性荷重推定部110は、慣性荷重dF
Z0,inertiaを遅延部142に出力する。遅延部142は、必要に応じて、その後の制御に応じた適当なタイミングとなるように遅らせて当該慣性荷重を出力する。たとえば、後述する路面荷重推定部120における移動平均処理の遅れに対して、同期するように遅らせる。加算部143は、定常荷重提供部141から出力された定常荷重F
Z0nomと慣性荷重とを合算する。定常荷重と慣性荷重との合計値は、路面荷重推定部120および加算部144に出力される。
【0103】
一方で、路面荷重推定部120は、路面荷重の推定値を出力する。それに際して、路面荷重推定部120は、定常荷重と慣性荷重との合計値を参照することができる。この場合、定常荷重と慣性荷重とを参照した路面荷重の推定値が得られる。
【0104】
路面荷重推定部120から出力された路面荷重の推定値は、加算部144において、上記の合計値と合算される。この場合、定常荷重、慣性荷重および路面荷重の合計値が、車両の接地荷重の推定値Fz
0として得られる。
【0105】
本実施形態において、路面荷重は、以下に説明するように推定される。本実施形態における路面荷重の推定について、その機能的構成およびそのロジックを以下に説明する。
【0106】
[路面荷重推定部の機能的構成]
図8は、本実施形態における路面荷重推定部の機能的構成の一例を示すブロック図である。本実施形態において、路面荷重推定部120は、
図8に示されるように、タイヤ有効半径変動演算部121、第一ゲイン演算部122および第二ゲイン補正部123を有している。
【0107】
[路面荷重推定のロジック]
車両の車輪について、非線形なタイヤ特性は、線形に近似され、下記式(51)および式(52)で表される。式(52)においては、「F
z0」は、式(53)に示されるように、定常荷重と慣性荷重の和である。
【0109】
上記式中、a
1は第一ゲインを表し、a
11は第一パラメータを表し、a
12は第二パラメータを表す。
【0110】
第一ゲインa
1は、車両が備える車輪の剛性を示す。第一ゲインa
1は、タイヤの接地荷重に対するバネ定数の関係におけるバネ定数で表される。当該関係は、非線形の曲線で表されるが、式(52)に示されるように、一次式に近似することが可能である。
【0111】
第一パラメータa
11および第二パラメータa
12は、いずれも、第一ゲインa
1を幅広い条件に適用させるための調整パラメータである。第一パラメータは、上記の近似による一次式における傾きで表され、第二パラメータは、当該一次式の切片で表される。
【0112】
図9は、車両の任意の車輪に係る物理量を説明するための図である。
図9中、R
eはタイヤの有効半径を表し、ωは車輪の角速度を表し、u
0は路面に平行なホイル中心点速度を表している。タイヤのスリップ比を考慮すると、タイヤの有効半径R
eは、下記式(54)で表される。式(54)の全微分により下記式(55)が導き出される。
【0114】
スリップ比が変化しないと仮定すると、式(55)から式(56)が導かれ、さらに式(57)が導き出される。該式(57)中、a
2は第二ゲインを表す。第二ゲインa
2は、車輪角速度の変動が推定結果に及ぼす影響を調整するパラメータである。第二ゲインは、例えば、車輪角速度が変化する条件で走行する車両の接地荷重について、実測値と推定値とを比較し、様々な走行条件において当該推定値が実測値に対して実質的に同等に有効になるように適宜に設定することにより決めることができる。
【0116】
式(57)中のかっこ内は、式(58)に示されるように近似できる。式(58)中、「movavg(ω)」は、車輪角速度の移動平均を表す。よって、式(57)から式(59)が導き出される。
【0118】
式(59)を式(51)に代入すると、式(60)が導き出される。式(60)より、路面荷重が算出される。式(60)は、movavg(ω)を含む。
【0120】
第二ゲインa
2は、下記式(61)で表すことができる。式(61)中、a
21は第三パラメータを表す。第三パラメータa
21は、第二ゲインと同様の調整パラメータである。式(61)では、第三パラメータは、結果的には第二ゲインと同じとなる。
【0122】
第二ゲインは、第三パラメータに加えて、特定の車両状態によりタイヤにもたらされる影響を補正するためのさらなる補正値を用いて表現することが可能である。たとえば、第二ゲインは式(62)で表すことが可能である。
【0124】
式(62)中、F
sは、スリップ比の影響を補正するための補正値を表し、F
jerkは、加加速度による誤差を補正するための補正値を表す。この場合、第三パラメータは、これらの補正値が対象とする走行条件以外の車両の走行時における、当該補正値による補正の影響を緩和するための調整パラメータである。F
s、F
jerkは、それぞれ、後述の第二ゲイン補正部によるスリップ比関連値の算出値、または、取得部による加加速度の取得値、を増減するものであってもよいし、所定の閾値に応じて当該算出値または取得値を実質的に取り消すものであってもよい。このような補正を行う場合、路面荷重は、式(63)から算出することができる。
【0126】
[路面荷重の推定]
路面荷重推定部120において、第一ゲイン演算部122は、少なくとも定常荷重および慣性荷重を用いて第一ゲインa
1を演算する。第一ゲインa
1は、前述したように車両が備える車輪(タイヤ)の剛性(バネ定数)で表され、接地荷重に対する当該バネ定数の非線形の曲線に近似する一次式で表すことができる。ここでの接地荷重は、前述したように、定常荷重と慣性荷重の合計値である。第一ゲイン演算部122は、式(52)に当該合計値を代入することにより、第一ゲインを演算する。
【0127】
第二ゲイン補正部123は、取得部から車両の加加速度をさらに取得する。具体的には、第二ゲイン補正部123は、CANなどのネットワークを介して車両の加加速度を取得する。
【0128】
また、第二ゲイン補正部123は、車輪速センサの値から車両のスリップ比関連値を演算する。具体的には、第二ゲイン補正部123は、式(62)におけるF
sに対応する数値を取得する。
【0129】
さらに、第二ゲイン補正部123は、少なくともスリップ比関連値および加加速度に基づいて第二ゲインを補正する。第二ゲインは、前述したように、調整パラメータとして設定されているとする。具体的には、第二ゲイン補正部123は、式(62)に基づいて、スリップ比および加加速度の影響を緩和するF
sおよびF
jerkを決定し、それらを用いて式(62)に基づいて、第二ゲインを補正する。
【0130】
F
sは、スリップ比関連値の変化が推定結果に及ぼす影響が大きいと考えられる場合に、その影響を調整するように設定することができる。たとえば、F
sは、スリップ比関連値に掛ける係数であり、スリップ比関連値が所定の値を下回る場合には0であり、所定の値以上である場合には、そのスリップ比関連値を採用するように、1であってよい。
【0131】
F
jerkは、加加速度の変化が推定結果に及ぼす影響が大きいと考えられる場合に、その調整するように設定することができる。たとえば、F
jerkは、取得した加加速度に掛ける係数であり、加加速度が所定の値よりも大きい場合には0であり、所定値以下である場合には、取得した加加速度を採用するように、1であってよい。
【0132】
第二ゲイン補正部123は、式(62)に示されるように、F
sおよびF
jerkに第三パラメータを掛けて補正された第二ゲインを算出する。式(61)における第三パラメータa
21と式(62)における第三パラメータa
21とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0133】
タイヤ有効半径変動演算部121は、車輪角速度の変動に第二ゲインを乗じてタイヤ有効半径変動を演算する。車輪角速度の変動は、車輪角速度ωの変動値dωを含む数値である。具体的は、タイヤ有効半径変動演算部121は、式(60)における右辺のa
1以外を掛けることにより、タイヤ有効半径変動を演算する。
【0134】
路面荷重推定部120は、タイヤ有効半径変動演算部121が演算したタイヤ有効半径変動に第一ゲインを乗じて路面荷重を推定する。具体的には、路面荷重推定部120は、式(60)に基づき、タイヤ有効半径変動に第一ゲインを乗じて路面荷重の推定値を得る。
【0135】
接地荷重推定装置100は、定常荷重、慣性荷重推定部110が推定した慣性荷重、および、路面荷重推定部120が推定した路面荷重を足して、車両の接地荷重F
z0の推定値を得る。
【0136】
[作用効果]
本実施形態は、前述した実施形態1の効果に加えて、以下の効果をさらに奏する。本実施形態によれば、車両の路面荷重をより高い精度で推定することができ、またこのような路面荷重の推定値を含むことで車両の接地荷重をより一層高い精度で推定することができる。さらには、車輪の加減速の変化に応じて第二ゲインを補正することにより、路面荷重の推定精度をより一層高めることができる。
【0137】
〔実施形態3:懸架装置の制御装置の実施形態〕
本実施形態に係る物理量推定装置を、車両が有する懸架装置を制御する制御装置に適用する例について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0138】
本実施形態の制御装置は、懸架装置を有する車両に作用する接地荷重を推定して、前記懸架装置の減衰力を当該接地荷重に応じて制御する。当該制御装置は、前述した接地荷重推定装置を含み、当該接地荷重推定装置で推定した接地荷重に応じて懸架装置の減衰力を制御する以外は、懸架装置における公知の制御装置と同様に構成することが可能である。
【0139】
図10は、上記の接地荷重推定装置を有する車両の構成の一例を模式的に示す図である。
図10に示されるように、車両900は、懸架装置(サスペンション)150、車体200、車輪300、車速(V)を検出する車速センサ450、エンジン500およびECU(Electronic Control Unit)600を備えている。ECU600は、前述したプロセッサに該当し、前述の接地荷重推定装置を含む。
【0140】
なお、符号中のアルファベットA〜Eは、それぞれ、車両900における位置を表している。Aは、車両900の左前の位置を表し、Bは、車両900の右前の位置を表し、Cは、車両900の左後ろを表し、Dは、車両900の右後ろを表し、Eは、車両900の後ろを表している。
【0141】
また、車両900は、車両900の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ340などの各種センサを有している。当該センサは、前述した汎用センサに該当する。また、車両900は、記憶媒体を有している。記憶媒体には、物理量の推定に要する種々の情報が記憶されている。当該情報の例には、車輪半径および車両の質量(車重)などの車両に関する種々の物理量が含まれる。
【0142】
各種センサの出力値のECU600への供給、および、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。各センサは、後述の物理量の推定のために新たに設けられてもよいが、コストの面から、車両900に既存のセンサであることが好ましい。
【0143】
本実施形態によれば、車両の接地荷重について実測値と同等の精度を有する推定値に基づいて、懸架装置の減衰力が制御される。よって、汎用センサ以外の特別なセンサを用いずとも、車両の走行安定性を十分に高めることができる。
【0144】
なお、本実施形態では、制御装置において推定した接地荷重を直接的に用いて、車両の懸架装置の減衰力を制御している。本発明では、懸架装置と同様に、推定した接地荷重を、車両が有する種々の装置の制御に用いることができる。このような装置の例には、通常の懸架装置に加えて、電子制御式サスペンション、操舵装置、および、電子制御式駆動力伝達装置、が含まれる。推定した接地荷重は、車両におけるこれらの装置の一またはそれ以上の装置の制御に用いることが可能である。これらの装置の制御において、接地荷重の推定結果は、当該装置の制御に、本実施形態のように直接的に用いられてもよいし、間接的に用いられてもよい。接地荷重の推定結果における間接的な使用とは、例えば、他の状態量に変換し、変換後の状態量の推定値を当該他の装置の制御に用いること、である。上記の他の装置の制御において前述の接地荷重の推定値を用いることにより、本実施形態と同様に、汎用センサ以外の特別なセンサを用いずとも、車両の走行安定性を十分に、あるいはより一層高めることができる。
【0145】
〔ソフトウェアによる実現例〕
接地荷重推定装置100の制御ブロック(特に慣性荷重推定部110および路面荷重推定部120)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0146】
後者の場合、接地荷重推定装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。
【0147】
上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。
【0148】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0149】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0150】
〔変形例〕
なお、本発明において、接地荷重を求める方法として、例えば特開2008−074184号公報の段落0024に記載の方法を用いてもよい。
【0151】
前述の実施形態1では、接地荷重の推定において期待する精度に応じて、慣性荷重推定部110以外の構成を適宜に省略することが可能である。たとえば、実施形態1では、路面荷重推定部120および加算部144を省略してもよい。この場合、接地荷重の推定値は、定常荷重と慣性荷重との和となる。
【0152】
前述の実施形態2では、接地荷重の推定において期待する精度に応じて、その一部の構成を適宜に省略することが可能である。たとえば、実施形態2では、第二ゲインの補正を実施しない場合は、第二ゲイン
補正部を省略してもよい。
【0153】
あるいは、演算処理の簡略化などの理由から、演算処理の一部を適宜に省略または統合してもよい。たとえば、実施形態2において路面荷重を算出するにあたり、第一ゲインa
1および第二ゲインa
2を乗じた値を求め、得られたゲイン値を例えば前述の式(60)に適用することによって路面荷重を算出してもよい。
【0154】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態における接地荷重推定装置(100)は、車両(900)の接地荷重を推定する接地荷重推定装置であって、車両に関する物理量を取得する取得部と、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重を演算する基準慣性荷重演算部(111)、および、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値を演算する補正値演算部(112)を含み、基準慣性荷重に慣性荷重補正値を加算して慣性荷重を推定する、慣性荷重推定部(110)とを備える。
【0155】
この構成によれば、センサに係るコストを削減可能であるとともに十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することができる。
【0156】
本発明の実施形態において、取得部は、物理量として、車両の前後加速度を取得する前後加速度センサ(131)の値、車両の横加速度を取得する横加速度センサ(131)の値、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサ(133)の値、車両の旋回情報を取得する旋回情報センサの値、車両の質量、車両の重心高、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、車両の前車軸重心間距離、車両の後車軸重心間距離、車両のフロントトレッド長、および、車両のリアトレッド長を取得してよい。また、基準慣性荷重演算部は、前後加速度センサの値、横加速度センサの値、車両の質量、車両の重心高、ロール慣性モーメント、ピッチ慣性モーメント、車両の前車軸重心間距離、車両の後車軸重心間距離、フロントトレッド長、および、リアトレッド長を用いて、基準慣性荷重を車両のモデルに基づき演算してよい。さらに、補正値演算部は、車両の質量、車両の重心高、車輪速センサの値、旋回情報センサの値、ロール慣性モーメント、フロントトレッド長、および、リアトレッド長を用いて慣性荷重補正値を演算してよい。
【0157】
この構成によれば、汎用センサで取得可能か、車両特有の物理量に基づいて十分に高い精度で接地荷重を推定することが可能である。
【0158】
本発明の実施形態において、上記のモデルは、線形システムで表される運動方程式の最小ノルム法による解のモデルであってもよい。
【0159】
この構成によれば、適切な運動方程式から適切な補正が施された解を用いて接地荷重の推定値を得ることが可能であるので、車両の幅広い走行条件に適用される接地荷重の推定値を高い精度で得る観点から、より一層効果的である。
【0160】
本発明の実施形態において、旋回情報センサは、ヨーレートセンサまたは操舵角センサ(132)であってもよい。
【0161】
この構成によれば、汎用センサで取得される物理量を用いて高い精度で車両の接地荷重を推定する観点からより一層効果的である。
【0162】
本発明の実施形態において、取得部は、車両の車輪角速度を取得する車輪速センサを含み、当該車輪角速度、車両の定常荷重および慣性荷重を含む物理量を取得し、接地荷重推定装置は、車両の路面荷重を推定する路面荷重推定部(120)をさらに備えてもよい。路面荷重推定部は、少なくとも定常荷重および慣性荷重を用いて、少なくとも車両が備える車輪(300)の剛性を示す第一ゲインを演算する第一ゲイン演算部(122)と、車輪角速度の変動に、車輪角速度の変動が推定結果に及ぼす影響を減らすための第二ゲインを乗じてタイヤ有効半径変動を演算するタイヤ有効半径変動演算部(121)と、を含み、タイヤ有効半径変動に第一ゲインを乗じて路面荷重を推定してもよい。そして、接地荷重推定装置は、慣性荷重推定部が推定した慣性荷重と、路面荷重推定部が推定した路面荷重とを足して車両の接地荷重を推定してもよい。
【0163】
この構成によれば、汎用センサで取得可能か、あるいは車両に特有の物理量に基づいて車両の路面荷重を十分に高い精度で推定することができ、またこのような路面荷重を含むより高い精度の接地荷重を推定することが可能となる。
【0164】
本発明の実施形態において、取得部は、車両の加加速度をさらに取得し、路面接地荷重推定部は、第二ゲインを補正する第二ゲイン補正部(123)をさらに備えてもよい。第二ゲイン補正部は、車輪速センサの値から車両のスリップ比関連値を演算し、少なくともスリップ比関連値および加加速度に基づいて第二ゲインを補正してもよい。
【0165】
この構成によれば、路面荷重の推定における精度を高める観点からより一層効果的である。
【0166】
本発明の実施形態における制御装置は、車両に作用する接地荷重を推定して、接地荷重を直接的または間接的に用いて、車両に備えられた一または複数の他の装置を制御する制御装置(ECU600)である。当該制御装置は、車両に関する物理量を取得する取得部と、取得部が取得した物理量を用いて基準慣性荷重を演算する基準慣性荷重演算部、および、取得部が取得した物理量を用いて慣性荷重補正値を演算する補正値演算部を含み、基準慣性荷重に慣性荷重補正値を加算して慣性荷重を推定する、慣性荷重推定部とを備える。
【0167】
この構成によれば、センサに係るコストを削減可能であるとともに十分に高い精度で推定された接地荷重に基づいて車両における当該車両の運転状態を制御する上記の他の装置を制御することができ、車両の走行安定性を十分に高めることができる。
【0168】
本発明の実施形態において、上記の他の装置は、電子制御式サスペンション、操舵装置、および、電子制御式駆動力伝達装置、からなる群から選ばれる一以上の装置であってよい。
【0169】
この構成によれば、車両の走行安定性を高める観点からより一層効果的である。
【0170】
本発明の実施形態における接地荷重推定方法は、車両の接地荷重を推定する接地荷重推定方法であって、車両に関する物理量を取得するステップと、取得した物理量を用いて基準慣性荷重を演算するステップと、取得した物理量を用いて慣性荷重補正値を演算するステップと、基準慣性荷重に慣性荷重補正値を加算して慣性荷重を推定するステップとを含む。
【0171】
この構成によれば、センサに係るコストを削減可能であるとともに十分に高い精度で車両における接地荷重を推定することができる。
【解決手段】接地荷重推定装置(100)は、車両に関する物理量を取得部で取得し、上記の物理量を用いて基準慣性荷重演算部(111)で基準慣性荷重を演算し、上記の物理量を用いて補正値演算部(112)で慣性荷重補正値を演算し、これらを慣性荷重推定部(110)で加算して慣性荷重を推定する。