(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6695540
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 31/10 20060101AFI20200511BHJP
B29B 7/90 20060101ALI20200511BHJP
B29B 7/92 20060101ALI20200511BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
B29C31/10
B29B7/90
B29B7/92
B29B17/04
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-226085(P2019-226085)
(22)【出願日】2019年12月16日
【審査請求日】2019年12月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518398110
【氏名又は名称】株式会社手工仁久
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】上手 正行
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−226956(JP,A)
【文献】
特開2010−24425(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0251733(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第107364041(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102277216(CN,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2019−0066441(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00−5/00
B29B 1/00−17/04
B29C 31/00−31/10
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の複数種類のプラスチックが混在した状態の海洋浮遊プラスチックごみ30〜80重量%と、直径又は一辺が5mm以下で、200℃の温度条件下において溶融しない第二材料20〜70重量%とを、ミキサーによって混合し、
海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の混合物を粉砕装置に供給し、直径又は一辺が1mm以下の粉末となるように粉砕し、
得られた粉末を、合成樹脂成形品の原料として成形機に供給して成形工程を実施することを特徴とする、海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
粉砕装置としてローターが1500rpm以上の高速で回転するものを使用して、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の混合物を粉砕することを特徴とする、請求項1に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
第二材料として木材チップ、竹チップ、貝殻の粉砕物、又は、穀物の籾殻を使用することを特徴とする、請求項1に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
回収された海洋浮遊ごみから、プラスチックの種類毎に分別することなく海洋浮遊プラスチックごみを選別し、
複数種類のプラスチックが混在した状態の選別した海洋浮遊プラスチックごみを、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下となるように破砕し、その後、直径又は一辺が5mm以下で、200℃の温度条件下において溶融しない第二材料と混合することを特徴とする、請求項1に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
選別した海洋浮遊プラスチックごみに対して乾燥工程を実施してその含水率を7%以下とし、その後、破砕することを特徴とする、請求項1に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
回収された海洋浮遊ごみから、プラスチックの種類毎に分別することなく海洋浮遊プラスチックごみを選別するとともに、200℃の温度条件下において溶融しない第二材料を選別し、
複数種類のプラスチックが混在した状態の選別した海洋浮遊プラスチックごみ、及び、選別した第二材料を、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下となるようにそれぞれ破砕し、その後、それらを混合することを特徴とする、請求項1に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
回収された海洋浮遊ごみを、海洋浮遊プラスチックごみ、及び、200℃の温度条件下において溶融しない第二材料からなるグループと、それ以外のグループとに分けることにより、回収された海洋浮遊ごみから、複数種類のプラスチックが混在した状態の海洋浮遊プラスチックごみと第二材料を選別し、
選別した海洋浮遊プラスチックごみと第二材料を、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下となるように破砕し、
海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の破砕物をミキサーによって混合し、
海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の混合物を粉砕装置に供給し、直径又は一辺が1mm以下の粉末となるように粉砕し、
得られた粉末を、合成樹脂成形品の原料として成形機に供給して成形工程を実施することを特徴とする、海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
選別した海洋浮遊プラスチックごみと第二材料を破砕する前に、海洋浮遊プラスチックごみが30〜80重量%の範囲内、かつ、第二材料が20〜70重量%の範囲内となるように割合を調整することを特徴とする、請求項7に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
選別した海洋浮遊プラスチックごみ、及び、第二材料に対して乾燥工程を実施してそれらの含水率を7%以下とし、その後、破砕することを特徴とする、請求項6又は請求項7に記載の海洋浮遊プラスチックごみを使用した合成樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回収された海洋浮遊プラスチックごみを、新たな合成樹脂成形品の原料として再利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、大量に漂流するプラスチックごみによる海洋汚染の深刻化が懸念されており、海洋浮遊プラスチックごみの有効な処理方法を確立することが、世界中で喫緊の課題となっている。例えば、回収された海洋浮遊プラスチックごみを、新たな合成樹脂成形品の原料として再利用すること(マテリアルリサイクル、再商品化)ができれば、海洋汚染を減らし、枯渇性資源の有効活用を図ることができ、自然環境への悪影響を低減することができる。
【0003】
但し、海洋浮遊プラスチックごみは、多数種類のプラスチックが混在した状態で回収されることになるところ、プラスチックは、種類によって物性(軟化溶融温度等)が異なっているため、多数種類のプラスチックが混在した状態のままでは、マテリアルリサイクルに利用することは非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6408896号公報
【特許文献2】特開2005−66515号公報
【特許文献3】特開昭62−297112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回収された海洋浮遊プラスチックごみを、種類毎に分別することができれば、それらをマテリアルリサイクルに利用できる可能性は大きくなる。しかしながら、現在の技術では、回収された海洋浮遊プラスチックごみのすべてを種類毎に分別することは極めて困難であり、分別又は選別しやすい一部の種類のプラスチックを除く大半のプラスチックは、マテリアルリサイクルに利用することができないという問題がある。
【0006】
具体的には、回収された海洋浮遊プラスチックごみに含まれるプラスチックのうち、例えばPET樹脂等は、多数種類のプラスチックが混在した状態からの選別が比較的容易であるため、現に、海洋浮遊プラスチックごみの中から選別されたPETボトルを、新たなPET樹脂製の成形品の原料として再利用することが試みられている。しかし、多数種類のプラスチックが混在した状態から容易に選別できるプラスチックの種類は極めて少なく、大半のプラスチックは、現在の技術では、マテリアルリサイクルに利用することができない。
【0007】
尚、回収された海洋浮遊プラスチックごみを、種類毎に分別せずに、多数種類のプラスチックが混在した状態で、製品原料の一部として使用する例もみられるが、コンクリートと混ぜてブロックを製造したり、アスファルトや石と混ぜて路上材に使用する程度で、それらは、海洋浮遊プラスチックごみを単に他の製品中に封じ込めただけであり、マテリアルリサイクルとはかけ離れているのが現状である。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解決しようとするものであって、回収された海洋浮遊プラスチックごみを、プラスチックの種類毎に分別する必要がなく、そのほとんどを原料として再利用することができる合成樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法は、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の複数種類のプラスチックが混在した状態の海洋浮遊プラスチックごみ30〜80重量%と、直径又は一辺が5mm以下で、200℃の温度条件下において溶融しない第二材料20〜70重量%とを、ミキサーによって混合し、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の混合物を粉砕装置に供給し、直径又は一辺が1mm以下の粉末となるように粉砕し、それらの粉末を、合成樹脂成形品の原料として成形機に供給して成形工程を実施することを特徴としている。
【0010】
尚、粉砕装置としてローターが1500rpm以上の高速で回転するものを使用して、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の混合物を粉砕することが好ましく、また、第二材料として木材チップ、竹チップ、貝殻の粉砕物、又は、穀物の籾殻を使用することが好ましい。
【0011】
直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の海洋浮遊プラスチックごみは、回収された海洋浮遊ごみから、プラスチックの種類毎に分別することなく選別した後、破砕することによって得ることができる。尚、選別後、破砕前に、必要に応じて乾燥工程を実施して、海洋浮遊プラスチックごみの含水率を7%以下とすることが好ましい。
【0012】
また、海洋浮遊プラスチックごみと混合される第二材料(200℃の温度条件下において溶融しないもの)についても、回収された海洋浮遊ごみから選別し、破砕することによって得ることができる。この場合も、選別後、破砕前に、必要に応じて乾燥工程を実施して、海洋浮遊プラスチックごみ、及び、第二材料の含水率を7%以下とし、その後、破砕することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法によれば、回収された海洋浮遊プラスチックごみを、プラスチックの種類毎に分別する必要がなく、そのほとんどを合成樹脂成形品の原料として再利用することができる。このため、海洋汚染を減らし、枯渇性資源をより有効に活用することができ、環境負荷を低減し、更に、海洋浮遊プラスチックごみの有効な処理方法を確立することができ、地球環境の保全に大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る合成樹脂成形品の製造方法の説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一実施形態に係る合成樹脂成形品の製造方法において使用することができる粉砕装置4の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一実施形態に係る合成樹脂成形品の製造方法において使用することができる粉砕装置4の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る「海洋浮遊プラスチックごみを利用した合成樹脂成形品の製造方法」は、回収された海洋浮遊プラスチックごみを第一の原料とし、これに第二の原料(以下、「第二材料」と称する。)を加えて混合し、それらを粉砕して成形機に投入して、合成樹脂成形品を製造することを特徴とするものである。以下、本発明の実施形態(第一〜第三実施形態)についてそれぞれ具体的に説明する。
【0016】
・第一実施形態
本実施形態においては、海洋浮遊プラスチックごみを回収した後、乾燥、破砕、第二材料との混合、粉砕、及び、成形という工程が実行される。
【0017】
1.回収工程
海面又は海面下において浮遊する海洋浮遊ごみを、漁網等によって回収する。回収された海洋浮遊ごみの中に、プラスチック以外のもの(例えば、生物の生体又は死骸、海藻類、流木、木質ごみ等)が含まれている場合には、海洋浮遊ごみの中から、海洋浮遊プラスチックごみを選別する。尚、漁網、ブイ、FRP製の船体の一部等の大型ごみは、選別する海洋浮遊プラスチックごみから除外することができる。
【0018】
選別された海洋浮遊プラスチックごみは、通常、各種のプラスチック(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ウレタン(URE)、ポリカーボネート(PC)、ABS等)が混在した状態となっているが、本実施形態においては、それらを種類毎に分別する必要はなく、多数種類のプラスチックが混在した状態のまま、次工程に移送することができる。尚、選別された海洋浮遊プラスチックごみには、プラスチック以外の物質(例えば、プラスチックフィルムにラミネートされたアルミニウム、紙類、繊維類、その他の異物)が混入していてもよい。但し、プラスチック以外の物質の混入量は、選別された海洋浮遊プラスチックごみ全体の10重量%以下であることが好ましい。
【0019】
2.乾燥工程
選別した海洋浮遊プラスチックごみに対して乾燥工程を実施して、含水率を7%以下(好ましくは5%以下)とする。乾燥工程は、各種の熱源を利用した乾燥機を用いて実施することもできるが、単純に太陽光や風に晒すことによって海洋浮遊プラスチックごみを乾燥させてもよい。
【0020】
3.破砕工程
海洋浮遊プラスチックごみを、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の大きさの小片となるように破砕する。破砕工程は、破砕機等を用いて実施することができる。破砕した海洋浮遊プラスチックごみPは、
図1に示す第一タンク1に収容される。尚、破砕された海洋浮遊プラスチックごみPの中には、糸屑状にまとまったものが含まれていてもよい。また、破砕機によって破砕することが困難なプラスチックごみ(例えば、ブイ、漁網、FRP製の船体の一部等の大型ごみ)は、適宜取り除くことができる。
【0021】
4.混合工程
破砕された海洋浮遊プラスチックごみPを、第二材料と混合する。第二材料としては、200℃の温度条件下において溶融しない材料を使用する。尚、用意した第二材料の中に、直径又は一辺が5mmを超える大きさを有するものが含まれている場合には、混合前に、直径又は一辺が5mm以下となるように、破砕機等を用いて破砕する。
【0022】
本実施形態においては、第二材料として木材チップWが使用される。木材チップWは、
図1に示す第二タンク2に収容される。ここに言う「木材チップ」とは、天然木材、集成木材、MDF、又は、合板等の木材の破片又は木粉を意味し、製材所或いは木工製品の製造工場等において木材の加工に伴って生じるおが屑や鉋屑、及び、廃棄された木材、その端材、又は、木製品(木製家具、木製建材等)を破砕したものを含む。回収された海洋浮遊ごみに含まれていた流木や木質ごみを破砕することによって、木材チップWを得ることもできる。
【0023】
尚、木材チップWには、紙類、繊維類、ラミネートシート、塗料等の異物が、混入していてもよい。但し、異物の混入量は、木材チップW全体の20重量%以下であることが好ましい。また、木材チップWの代わりに、FRPに使用されるカーボンファイバー、グラスファイバーの破砕物又は粉砕物、或いは、貝殻の粉砕物、竹チップ、穀物の籾殻等)を第二材料として使用することもできる。
【0024】
第一タンク1に収容されている海洋浮遊プラスチックごみP、及び、第二タンク2に収容されている木材チップWを、搬送装置(図示せず)によってそれぞれ搬送し、ミキサーに投入して混合する。本実施形態においては、ミキサーの具体的な構成は限定されないが、例えば
図1に示すように、ボウル3a内において撹拌用インペラー3bが低速(例えば、600rpm以上)で回転するように構成され、投入された処理対象物をボウル3a内で撹拌し、混合することができるミキサー3を用いる。
【0025】
海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWとの混合割合は、同量(50重量%ずつ)とすることが好ましいが、条件に応じて適宜増減する(海洋浮遊プラスチックごみPを30〜80重量%、木材チップWを20〜70重量%とする)ことができる。
【0026】
また、海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWは、混合される時点で大きさ(上限サイズ)が揃えられているが、比重及び形状が相違している等の理由により、短時間の撹拌では全体を均質に混ぜ合わせることが難しい場合がある。このような場合には、十分に時間をかけて撹拌することが好ましい。撹拌タンクの加熱や、撹拌に伴って生じる摩擦熱によって、海洋浮遊プラスチックごみPの中の軟質プラスチック(特に、フィルム状のプラスチック)や、融点の低いプラスチック等が僅かに軟化して、木材チップWと馴染み合い、全体を均質に混合することができる。但し、短時間(例えば、1分程度)の撹拌で全体を均質に混ぜ合わせることができる場合もある。従って、撹拌時間は、混合具合を確認しながら、適宜決定することができる。
【0027】
5.粉砕工程
海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWとが十分に混ざり合ったら、それらの混合物をミキサー3から排出し、粉砕装置4に定量的に供給して粉砕する。本実施形態においては、粉砕装置4の具体的な構成は限定されないが、直径又は一辺が5mm又は重量が0.1g程度の大きさの海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWとを導入した場合において、直径又は一辺が1mm以下の粉末となるように粉砕することができる粉砕装置4を使用する。
【0028】
例えば
図2に示すように、複数枚の回転刃11(或いは、複数個のハンマー)を外周部に取り付けたローター12と、回転刃11の回転軌道の半径方向外側を取り囲むように配置されたやすり状の固定刃13とを有する粉砕機であって、ローター12を高速回転させることにより、回転軸14の内部に形成された供給路15を介して導入した処理対象物を、回転刃11と固定刃13による強い衝撃作用で微粉砕することができる衝撃型微粉砕機4Aを、粉砕装置4として使用することができる。
【0029】
また、
図3(1)に示すようなやすり状の凹凸面21が表面に形成されたローター22を有し、
図3(2)に示すように、二つのローター22a,22bを、所定の間隔をおいて凹凸面21同士が対向するように配置した粉砕機であって、ローター22a,22bをそれぞれ反対方向へ高速回転させた状態で、回転軸23の内部に形成された供給路24を介して、ローター22a,22bの間の領域に処理対象物を供給し、凹凸面21に衝突させて微粉砕できるように構成された微粉砕機4Bを、粉砕装置4として使用することができる。
【0030】
尚、粉砕装置4によって、直径又は一辺が5mm又は重量が0.1g程度の大きさの処理対象物を、直径又は一辺が1mm以下となるように、効率良く、短時間で粉砕するためには、粉砕装置4のローター(例えば、
図2に示すローター12、或いは、
図3に示すローター22,22a,22b)を高速(例えば、1500rpm以上)で回転させることが必要になる。そして、ローターが高速で回転する粉砕装置4に処理対象物を供給した場合、処理対象物同士、及び、処理対象物と粉砕装置4内の要素との摩擦によって熱が発生することになり、そのような粉砕工程を継続的に実施すると、粉砕装置4の内部、及び、処理対象物が高温(例えば、80℃以上)となってしまうことがある。
【0031】
本実施形態においては、海洋浮遊プラスチックごみPが粉砕装置4に投入されて粉砕されることになるが、海洋浮遊プラスチックごみPは、複数種類のプラスチックが混在した状態となっているため、海洋浮遊プラスチックごみPの中に、融点が低いプラスチックシートやフィルム類、或いは、成形時に低融点添加剤が添加されたプラスチック等が含まれている可能性があり、この場合、粉砕装置4の内部が80℃程度まで上昇すると、それらが軟化して、粉砕装置4内の要素(例えば、
図2に示す回転刃11、固定刃13、又は、
図3に示すローター22の凹凸面21)に付着、堆積して、粉砕効率が低下し、或いは、粉砕不能な状態となってしまうことが懸念される。
【0032】
尚、粉砕装置4には、冷却装置を付帯したものも存在するが、高速回転するローター12,22や回転刃11の先端を冷却することは困難である。このため、融点が低いプラスチックが含まれている海洋浮遊プラスチックごみPを粉砕装置4に供給して粉砕工程を継続的に実施すると、やはりプラスチックが付着、堆積してしまうことになり、粉砕効率の低下、粉砕不能等の問題が生じてしまう。
【0033】
また、
図2に示す衝撃型微粉砕機4Aは、回転刃11と固定刃13との隙間寸法を調節することにより、粉砕物の粒径を調整できるように構成されている(隙間寸法をより小さく設定することにより、粉砕物の粒径をより小さくすることができる)が、100μm程度の厚さのプラスチックフィルムが海洋浮遊プラスチックごみP中に含まれている場合には、回転刃11と固定刃13との隙間寸法を可能な限り小さく設定した場合でも、極めて薄いプラスチックフィルムがそれらの隙間をすり抜けてしまうことがあり、この場合、直径又は一辺1mm以下に粉砕することができない。
【0034】
但し、本実施形態においては、海洋浮遊プラスチックごみPのみが粉砕装置4に供給されるのではなく、海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWとの混合物が粉砕装置4に供給されて粉砕工程が実施されるため、上記のような問題を好適に回避することができる。
【0035】
具体的には、海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWとの混合物を粉砕装置4に供給して粉砕工程を実施すると、摩擦熱によって粉砕装置4の温度が上昇した場合であっても、混合物に含まれる残留水分の蒸発等により、温度上昇を抑えることができ、残留水分を極力減らすことができ、また、プラスチックの一部が軟化して、瞬間的に粉砕装置4内の要素に付着してしまった場合でも、木材チップWによってそれらがスクラビングされることになり(即ち、付着したプラスチックに木材チップWが衝突して、それらを物理的に引き剥がすことになり)、その結果、粉砕工程を継続的に実施した場合においても、粉砕装置4のローター等へのプラスチックの付着及び堆積を好適に回避することができる。
【0036】
また、海洋浮遊プラスチックごみPは、粉砕装置4内において木材チップWと混在した状態でかき回されることになるため、海洋浮遊プラスチックごみPの中に極めて薄いプラスチックフィルムが含まれている場合であっても、それらが単独で回転刃11と固定刃13の隙間をすり抜けてしまうことを好適に回避することができる。
【0037】
尚、木材チップWの混合割合が20重量%未満(海洋浮遊プラスチックごみPの混合割合が80重量%以上)であると、上述のようなプラスチックの付着防止効果、及び、すり抜け防止効果が低減してしまう可能性があるため、木材チップWの混合割合は、20重量%以上とすることが好ましい。また、海洋浮遊プラスチックごみPの混合割合が30重量%未満(木材チップWの混合割合が70重量%以上)であると、粉砕物を合成樹脂成形品の原料として利用する際に、プラスチック成分をバインダーとして良好に機能させることができない(成形不良が生じる)可能性があるため、海洋浮遊プラスチックごみPの混合割合は、30重量%以上とすることが好ましい。
【0038】
上述した通り、従来、回収された海洋浮遊プラスチックごみに含まれる大半のプラスチックが、マテリアルリサイクルに利用することができず、現状では主にサーマルリサイクル(焼却による熱エネルギー回収、RPF化等)に利用されているが、海洋浮遊プラスチックごみを直径又は一辺1mm以下の粉末に粉砕することができれば、マテリアルリサイクルに利用できる(即ち、新たなプラスチック製品の原料として利用することができる)可能性がある。
【0039】
しかしながら、海洋浮遊プラスチックごみは、複数種類のプラスチックが混在した状態となっているため、従来の粉砕装置4、又は、粉砕方法によってそれらを粉砕しようとすると、粉砕装置4のローター等へプラスチックの一部が付着、堆積してしまい、従って、付着したプラスチックを除去する工程を間歇的に実施する必要が生じ、粉砕工程を継続的に実施することができず、また、プラスチックフィルムのすり抜けが生じて、直径又は一辺1mm以下の粉末に粉砕することができないという問題があった。
【0040】
これに対し本実施形態においては、複数種類のプラスチックが混在した状態の海洋浮遊プラスチックごみPを木材チップWと混合し、それらを粉砕装置4に供給して粉砕工程を実施することにより、そのような問題を好適に回避することができ、直径又は一辺1mm以下の粉末に粉砕することができる。
【0041】
粉砕装置4のローターを高速回転させることによって、粉砕装置4の内部の温度が上昇した場合でも、海洋浮遊プラスチックごみPに混合される第二材料(木材チップW)が200℃程度の耐熱性を有していれば、粉砕装置4内部におけるプラスチックの付着及び堆積を問題なく防止することができる。
【0042】
6.成形工程
海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWの混合物を粉砕して得られた粉末を、合成樹脂成形品の原料として押出成形機に供給し、成形工程を実施する。このとき、顔料、その他の添加剤を、必要に応じて原料に添加することができる。
【0043】
押出成形機における加熱温度を適正な値(例えば、150〜200℃)に設定して成形工程を実施すると、成形機内で原料(及び添加剤)が加熱され、プラスチック粉末が溶融した状態で原料がダイから押し出され、冷却されて成形される。本実施形態においては、海洋浮遊プラスチックごみPと混合される第二材料として、200℃の温度条件下において溶融しない材料(木材チップW)が使用されているため、それらの粉末(木粉)が、バインダーとして機能するプラスチックの内部に分散した状態でフィラーとして機能し、成形品の形状を安定化させることができる。
【0044】
尚、原料となる海洋浮遊プラスチックごみP及び木材チップWを、直径又は一辺が1mm以下の粉末に粉砕せずに(つまり、直径又は一辺が1mmよりも大きく、かつ、大きさが不揃いの状態で)混合して押出成形機に供給し、成形工程を実施した場合、押出成形機における加熱温度(約200℃)以下で溶融しない海洋浮遊プラスチックごみP中の小片が、1mmを超える大きさで成形品の表層に現れる可能性があり、この場合、使用者の手や足等に直接触れると危険であり、また、成形品の美感を損ねてしまうという問題が生じるが、本実施形態に係る方法によれば、そのような問題を好適に回避することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、成形工程を実施する成形機として、押出成形機を使用しているが、その他の成形機(射出成形機、プレス成形機、注型成形機等)を使用して成形工程を実施することもできる。
【0046】
・第二実施形態
第一実施形態においては、回収された海洋浮遊ごみから、海洋浮遊プラスチックごみのみを選別しているが、本実施形態においては、回収された海洋浮遊ごみの中に、例えば、流木、木質ごみ等のように、第二材料として使用できるもの(200℃の温度条件下において溶融しないもの)が含まれている場合に、それらを海洋浮遊ごみから選別して、第二材料として使用する。
【0047】
つまり、回収された海洋浮遊ごみから、海洋浮遊プラスチックごみを選別するとともに、第二材料(流木、木質ごみ等)を個別に選別する。そして、それらを乾燥させて、含水率をそれぞれ7%以下(好ましくは5%以下)とする。次にそれらを、直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の大きさの小片となるように破砕する。その後の工程(混合工程、粉砕工程、及び、成形工程)は、第一実施形態と同じである。
【0048】
・第三実施形態
本実施形態においては、回収された海洋浮遊ごみから、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料(流木、木質ごみ等)とを個別に選別するのではなく、海洋浮遊ごみを、海洋浮遊プラスチックごみ、及び、第二材料からなるグループと、それ以外のグループとに分け、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料を、それらが混在した状態のまま破砕機に投入して破砕工程を実施する。次に、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の破砕物を、ミキサーによって十分に混合し、その後、粉砕工程及び成形工程を順番に実行する。
【0049】
尚、破砕工程の前に、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の割合(重量比)が、いずれか一方側に偏り過ぎていないかどうか確認し、必要に応じて適宜調整を行うことが好ましい。具体的には、海洋浮遊プラスチックごみと第二材料の量を目視により比較し、概ね同量であると認められる場合には、それらを破砕機に投入して破砕工程を実行し、いずれか一方が他方に対して多すぎ、或いは、少なすぎる場合には、いずれか一方又は双方の量を増減させて、概ね同量となるように調整し、その後、粉砕工程を実行する。両者の割合が、実際には「同量」ではなくとも、海洋浮遊プラスチックごみが30〜80重量%の範囲内、第二材料が20〜70重量%の範囲内であれば、粉砕工程、及び、成形工程を問題なく実行することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:第一タンク、
2:第二タンク、
3:ミキサー、
3a:ボウル、
3b:撹拌用インペラー、
4:粉砕装置、
4A:衝撃型微粉砕機、
4B:微粉砕機、
11:回転刃、
12:ローター、
13:固定刃、
14:回転軸、
15:供給路、
21:凹凸面、
22,22a,22b:ローター、
23:回転軸、
24:供給路
【要約】
【課題】回収された海洋浮遊プラスチックごみを、プラスチックの種類毎に分別する必要がなく、そのほとんどを原料として再利用することができる合成樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】直径又は一辺が5mm以下又は重量が0.1g以下の海洋浮遊プラスチックごみP(30〜80重量%)と、直径又は一辺が5mm以下で、200℃の温度条件下において溶融しない木材チップW(第二材料)(20〜70重量%)とを、ミキサー3によって混合し、海洋浮遊プラスチックごみPと木材チップWの混合物を粉砕装置4に供給し、直径又は一辺が1mm以下の粉末となるように粉砕し、得られた粉末を、合成樹脂成形品の原料として成形機に供給して成形工程を実施することを特徴とする。
【選択図】
図1