(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、磁気軸受装置を備えた磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。ターボ分子ポンプ1は、
図1に示すポンプ本体と、ポンプ本体を駆動制御するコントロールユニットとにより構成されている。なお、
図1では、コントロールユニットの図示を省略した。
【0010】
ポンプロータ3に設けられたロータ軸5は、ラジアル磁気軸受4A,4Bおよびアキシャル磁気軸受4Cによって非接触支持される。ラジアル磁気軸受4A,4Bの各々は、ロータ軸5の径方向に配置された4つの磁気軸受電磁石を備えている。アキシャル磁気軸受4Cの磁気軸受電磁石は、ロータ軸5の下部に固定されたスラストディスク10を軸方向に挟むように配置されている。
【0011】
ロータ軸5の変位は、ラジアル方向の変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,とアキシャル方向の変位センサ51によって検出される。変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51には、センサコアにコイルを巻き回した構成のインダクタンス式変位センサが用いられている。
【0012】
磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたポンプロータ3は、モータ42により高速回転駆動される。モータ42にはブラシレスDCモータ等が用いられる。なお、
図1では、模式的にモータ42と記載しているが、より詳細には、符号42で示した部分はモータステータを構成し、ロータ軸5側にモータロータが設けられている。
【0013】
モータ42によって回転駆動されるロータ軸5の下端には、センサターゲット29が設けられている。上述したアキシャル方向の変位センサ51は、センサターゲット29の下面と対向する位置に配置されている。磁気軸受が動作していないときには、ロータ軸5は非常用のメカニカルベアリング26a,26bによって支持される。
【0014】
ポンプロータ3には、回転側排気機能部を構成する複数段の回転翼3aと円筒部3bとが形成されている。一方、固定側には、固定側排気機能部である固定翼22とネジステータ24とが設けられている。複数段の固定翼22は、軸方向に対して回転翼3aと交互に配置されている。ネジステータ24は、円筒部3bの外周側に所定のギャップを隔てて設けられている。
【0015】
各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ポンプロータ3を磁気浮上させつつモータ42により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0016】
図2は、コントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、コントロールユニットに設けられたDC電源40によって交流から直流に変換される。DC電源40は、インバータ41用の電源、励磁アンプ43用の電源、制御部44用の電源をそれぞれ生成する。
【0017】
モータ42に電力を供給するインバータ41には、複数のスイッチング素子が備えられている。これらのスイッチング素子のオンオフを制御部44によって制御することにより、モータ42が駆動される。
【0018】
上述したように、ロータ軸5を磁気浮上支持する磁気軸受は、ラジアル方向に4軸、アキシャル方向に1軸を備える5軸制御型磁気軸受である。各軸毎に一対の磁気軸受電磁石が設けられているので、
図2に示すように10個の磁気軸受電磁石45が設けられている。磁気軸受電磁石45に電力を供給する励磁アンプ43は、10個の磁気軸受電磁石45のそれぞれに設けられている。
【0019】
モータ42の駆動および磁気軸受の駆動を制御する制御部44は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル演算器とその周辺回路により構成される。モータ制御に関しては、インバータ41に設けられている複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号41aが、制御部44からインバータ41へ入力される。また、インバータ41から制御部44へは、モータ42に関する相電圧および相電流に関する信号41bが入力される。
【0020】
磁気軸受制御に関しては、励磁アンプ43に設けられたスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWMゲート駆動信号43aが、制御部44から各励磁アンプ43へ入力される。また、各励磁アンプ43から制御部44へは、各磁気軸受電磁石45の電流値に関する電流検出信号43bが入力される。
【0021】
各変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51には、センサ回路33がそれぞれ設けられている。制御部44から各センサ回路33には、センサキャリア信号(搬送波信号)305が入力される。各センサ回路33から制御部44には、ロータ軸の変位により変調されたセンサ信号306が入力される。
【0022】
図3は、
図1に示したラジアル磁気軸受4A,4Bに関する磁気軸受制御系の概略構成を示すブロック図である。
図3において、磁気軸受電磁石45はラジアル4軸分の8個の磁気軸受電磁石を表しており、同様に、変位センサ50、センサ回路33、励磁アンプ43についても8個の磁気軸受電磁石に対応して各々設けられた8個の変位センサ、センサ回路、励磁アンプを表している。励磁アンプ43から磁気軸受電磁石45に供給される励磁電流は電流センサ46によって検出される。
【0023】
制御部44は、モータ42を制御するモータ制御部410と、磁気軸受電磁石45の励磁電流を制御する磁気軸受制御部420とを備えている。磁気軸受制御部420は、復調部421,振動補償部422および浮上制御部423を備えている。
【0024】
変位センサ50で変調されたセンサ信号は、センサ回路33に入力される。センサ回路33では、ロータ軸5を挟んで対向配置された一対の変位センサ(後述する
図4を参照)からのセンサ信号に関して差分が取られ、その差分信号はバンドパスフィルタ(不図示)によりフィルタ処理される。センサ回路33から出力された差分信号は、制御部44のADコンバータ(不図示)によりADサンプリングされ、磁気軸受制御部420の復調部421に入力されて復調処理が行われる。復調部421からは、変位センサ信号に基づく変位信号、すなわち、
図1の変位センサ50x1,50y1の位置における変位を表す変位信号xs1,ys1および変位センサ50x2,50y2の位置における変位を表す変位信号xs2,ys2が出力される。なお、ADサンプリング処理にて復調される、所謂ダイレクト検波方式の場合は、ADコンバータ自体が復調部となる。
【0025】
振動補償部422は、復調部421から出力された変位信号に対して、ロータ振れ回りに起因する振動に関する補償制御を行う。振動補償部422にはモータ制御部410からロータ回転に関する電気角θが入力され、振動補償部422は電気角θに基づいて振動補償制御を行う。なお、振動補償部422における振動補償制御の詳細については後述する。
【0026】
浮上制御部423では、振動補償部422から出力された信号に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正、その他の制御補償を行い、浮上制御電流設定を生成する。励磁アンプ43に設けられたスイッチング素子は、浮上制御電流設定に基づいてオンオフ制御される。その結果、オンオフ制御のスイッチングパターンに応じた電圧が磁気軸受電磁石45のコイルに印加され、それにより磁気軸受電磁石45の励磁電流が制御される。励磁電流は電流センサ46により検出され、検出結果は浮上制御部423にフィードバックされる。
【0027】
(振動補償について)
次に、振動補償部422における振動補償処理について説明する。
図4は、磁気軸受電磁石45の制御軸1軸分に関係する構成を示す模式図である。
図4においては、
図1のラジアル磁気軸受4Aのx方向の一軸に関する構成を示した。ロータ軸5を挟むように、ラジアル方向の磁気浮上支持を行う一対の磁気軸受電磁石45m,45pが対向配置されている。Jはロータ軸5を磁気浮上させる際の浮上目標位置である。各磁気軸受電磁石45m,45pには、励磁アンプ43m,43pが設けられている。磁気軸受電磁石45mを流れる励磁電流は電流センサ46mにより検出され、検出結果は浮上制御部423に入力される。磁気軸受電磁石45pを流れる励磁電流は電流センサ46pにより検出され、検出結果は浮上制御部423に入力される。また、磁気軸受電磁石45m,45pに対応付けてラジアル方向の変位センサ50x1m,50x1pが設けられている。
【0028】
図4に示すようにロータ軸5が変位Δdrだけ磁気軸受電磁石45pに近づいて、磁気軸受電磁石45m,45pとロータ軸5とのギャップが変化すると、そのギャップ変化は一対の変位センサ50x1m、50x1pによって検出される。磁気軸受電磁石45pの励磁電流を減少させるとともに、反対側の磁気軸受電磁石45mの励磁電流を増加させると、磁気軸受電磁石45mの方向に引き寄せられる。その結果、浮上目標位置Jに対するロータ軸5の浮上位置のずれが小さくなるように制御される。
【0029】
磁気軸受電磁石45m、45pを流れる励磁電流には、所定の軸受剛性を確保するためのバイアス電流(DC電流成分)と、ロータ軸5の浮上位置を制御するための制御電流とが含まれている。すなわち、ロータ軸5の浮上位置に応じて制御電流が変化する。制御電流=0のときのロータ軸5の浮上位置が浮上目標位置Jであったとした場合、
図3に示すようにロータ軸5を磁気軸受電磁石45pの側に変位させる場合には、磁気軸受電磁石45pの制御電流を+Δiとし、反対側の磁気軸受電磁石45mの制御電流を−Δiとする。ここで、+Δiおよび−Δiは励磁電流の電流変動分に相当する。
【0030】
図4に示すような変位Δdrおよび制御電流の変化(±Δi)に対して、磁気軸受電磁石45pによる図示右方向の力Fp、および磁気軸受電磁石45mによる図示左方向の力Fmは比例係数kを用いて次式(1),(2)のように表される。式(1),(2)において、Dはロータ軸5が浮上目標位置Jに磁気浮上されているときのギャップ寸法であり、Iは励磁電流に含まれるバイアス電流(DC電流成分)である。
Fp=k((I+Δi)/(D−Δdr))
2 …(1)
Fm=k((I−Δi)/(D+Δdr))
2 …(2)
【0031】
力Fp、Fmの変化分ΔFp、ΔFmを式(1)、(2)の線形近似により求めると、式(3)、(4)のようになる。よって、ロータ軸5に作用する電磁石力ΔF(=Fp−Fm)は、次式(5)のように表される。
ΔFp=(2kI/D
2)Δi+(2kI
2/D
3)Δdr …(3)
ΔFm=(−2kI/D
2)Δi+(−2kI
2/D
3)Δdr …(4)
ΔF=ΔFp−ΔFm
=(4kI/D
2)Δi+(4kI
2/D
3)Δdr …(5)
【0032】
式(5)に示すように、制御電流Δi(励磁電流の電流変動分)および変位Δdrによる電磁石力ΔFは、制御電流Δiに依存する力(4kI/D
2)Δiと変位Δdrに依存する力(4kI
2/D
3)Δdrとの和として表される。これらの力の大きさは、式(6)のように励磁電流に起因する力のほうが大きい。
(4kI/D
2)|Δi|>(4kI
2/D
3)|Δdr| …(6)
【0033】
ロータアンバランスによるロータ振れ回りが発生すると、ロータ振れ回りを抑えるように制御電流Δiが流れるので、変位Δdrに起因する電磁力(式(5)の第2項)に加えて、制御電流Δiに起因する電磁石力(式(5)の第1項)が発生する。そして、その電磁石力の反作用により固定側であるポンプ本体が振動することになる。
【0034】
ところで、制御電流Δiは、変位センサの検出結果である変位信号Δdsに基づいて生成される。磁気浮上制御系の伝達関数Gcontを用いると、入力である変位信号Δdsと出力である制御電流Δiとの関係は式(7)のように表される。式(7)を用いると、式(5)は式(8)のように表される。
Δi=−Gcont・Δds …(7)
ΔF=(4kI/D
2)(−Gcont)Δds+(4kI
2/D
3)Δdr …(8)
【0035】
なお、変位信号Δdsは、バンドパスフィルタ等のフィルタ処理によって変位センサ50から出力された検出信号に対して位相ずれしている。そのため、変位信号Δdsによって表される変位の位相は、一般的に実際の変位Δdrとは異なることになる。
【0036】
式(7)、(8)から分かるように、制御電流Δiを適当な値とすることによって、ΔF(=ΔFp−ΔFm)を低減することができる。そこで、本実施形態では、以下に説明する振動補償制御により、ロータ振れ回りに起因する回転成分(回転周波数成分)の振動を低減するようにした。なお、これまで回転周波数成分について説明してきたが、回転周波数成分の整数倍の高調波成分に対しても同様に適用できる。また、以下の説明においても同様である。
【0037】
図5は、回転成分振動の低減補償制御を説明するブロック図である。なお、
図5は、
図3の変位信号xs1,ys1,xs2,ys2に対応する4軸分の内の2軸分、すなわち、(変位信号xs1,ys1または変位信号xs2,ys2に関する構成を示したものである。上述した伝達関数Gcontは、
図5に示す浮上制御部423と励磁アンプ43とを合わせたものの伝達関数を表している。
【0038】
振動補償部422は、第1変換処理部600、ローパスフィルタ601、第2変換処理部602および高調波電気角生成部610を備えている。モータ制御部410から入力された電気角θの信号は2つに分岐され、一つは高調波電気角生成部610に入力される。高調波電気角生成部610は、入力された電気角θから高調波の電気角nθを生成する。
【0039】
上述の式(8)で示した電磁石力ΔFの内、ロータ振れ回りに関する電磁石力の回転成分ΔF(θ)は、Δds、Δdrの回転成分に関する部分をΔds(θ)、Δdr(θ)のように表すと、次式(9)のように表される。符号(θ)は、電気角θのn倍高調波の場合には電気角nθを表すものとする。
ΔF(θ)=(4kI/D
2)(−Gcont(θ))Δds(θ)
+(4kI
2/D
3)Δdr(θ) …(9)
【0040】
振動補償部422における振動補償処理は、上述した各回転成分に対して行われる。すなわち、電気角θの回転成分に関する振動補償処理を行う場合には、モータ制御部410からの電気角θが第1および第2変換処理部600,602の変換処理に用いられ、高調波の電気角nθの回転成分に関する振動補償処理を行う場合には、高調波電気角生成部610からの電気角nθが第1および第2変換処理部600,602の変換処理に用いられる。さらに、回転成分およびそのn倍高調波成分の両方の機能を並列に設けて、回転成分およびそのn倍高調波成分の両方に対して振動低減することも可能である。
【0041】
図5に示すように、復調部421から振動補償部422に入力された変位信号xs,ys(xs1,ys1またはxs2,ys2)は、振動補償部422において2つに分岐される。分岐された変位信号xs,ysの一方は第1変換処理部600に入力される。第1変換処理部600は、固定座標系における変位信号xs,ysを、電気角θ(または、nθ)で回転する回転座標系の信号へと変換する。上述したように、電気角θはモータロータの磁極位置を表す角度であり、モータ制御部410から入力される。なお、モータ制御部410における電気角生成の詳細は後述する。
【0042】
次いで、第1変換処理部600から出力された信号に対してローパスフィルタ601においてローパスフィルタ処理を行い、回転成分以外の周波数成分を除去する。磁気浮上制御では、第1変換処理部600に入力される変位信号xs,ysは回転成分以外の信号も含まれるので、変換処理直後に回転成分以外の信号を除去するためのローパスフィルタ処理を必要とする。
【0043】
第2変換処理部602では、ローパスフィルタ処理された信号に対して回転座標系から固定座標系への変換処理を行い、変位信号xs,ysの内の回転成分だけの信号(Δds(θ))を生成する。そして、変位信号xs,ysから、第2変換処理部602から出力された回転成分だけの信号が減算される。この処理によって、変位信号xs,ysに含まれる回転成分(Δds(θ))がキャンセルされることになる。ここで、変位信号xs,ysに含まれる回転成分は互いに90°位相が異なる信号になるが、以下においても説明をシンプルにするため、xs,ysで区別せずにΔds(θ)で表す。
【0044】
振れ回り成分が除去された変位信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)は浮上制御部423に入力され、変位信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)に基づいて励磁アンプ43のスイッチング動作が行われる。その結果、ロータ軸5が振れ回っていても、その振れ回りを抑えるための制御電流に起因する電磁石力(式(9)の右辺第1項の電磁石力)が除去され、ポンプ本体側へ伝達される振動が低減されることになる。
【0045】
(電気角θの生成について)
次に、モータ制御部410における電気角θの生成について説明する。
図6は、センサレスモータ制御に関する主要構成を示すブロック図である。モータ42は、インバータ46によって駆動される。インバータ46は、モータ制御部410からの制御信号により制御される。
【0046】
モータ42に流れる3相電流は電流検知部60により検出され、検出された電流検知信号はローパスフィルタ408に入力される。一方、モータ42の3相電圧は電圧検知部61により検出され、検出された電圧検知信号はローパスフィルタ409に入力される。ローパスフィルタ408を通過した電流検知信号およびローパスフィルタ409を通過した電圧検知信号は、それぞれモータ制御部410の回転速度・電気角推定部417に入力される。回転速度・電気角推定部417は、電流検知信号および電圧検知信号に基づいて、モータ42の推定回転速度ωeおよび磁極位置である推定電気角θeを演算する。
【0047】
なお、回転速度・電気角推定部417における推定電気角θeおよび推定回転速度ωeの演算方法については、例えば、特開2014−147170号公報等に開示されている公知の方法が用いられる。推定回転速度ωeは速度制御部411、等価回路電圧変換部413および切替指令部418に入力される。また、推定電気角θeはdq−2相電圧変換部414、位置制御部419および切替部434に入力される。
【0048】
モータ制御部410は、設定部432にて予め設定された目標回転速度(以下では、設定回転速度と呼ぶ)ωsにモータ42を制御する。設定部432では、θs=∫ωsdtで算出される目標電気角(以下では、設定電気角と呼ぶ)θsが設定される。また、本実施の形態では、後述する所定の条件の下においては、設定電気角θsに基づく位置制御出力も考慮してモータ42の制御が行われる。設定電気角θsは位置制御部419および切替部434に入力される。設定回転速度ωsは、切替指令部418および速度制御部411に入力される。
【0049】
ところで、回転速度ωからθ=∫ωdtにより算出される電気角θは、回転速度ωとの間に
図7(a)に示すような関係がある。
図7(b)は、設定回転速度ωsに基づく設定電気角θsと、回転速度・電気角推定部417で算出される推定電気角θeと実際の電気角θrealとの関係を模式的に示したものである。設定電気角θsおよび設定回転速度ωsは実際の電気角θrealおよび回転速度ωrealからずれており、演算される推定電気角θeおよび推定回転速度ωeも実際の電気角θrealおよび回転速度ωrealからずれている。さらに、推定電気角θeおよび推定回転速度ωeは、実際の電気角θrealおよび回転速度ωrealに対してオフセット誤差以外にリップル誤差も含んでいる。
図7(b)では、斜めの一点鎖線に対する上下への変化がリップル誤差を表している。
【0050】
回転センサレス方式でモータ駆動制御を行う場合には、回転速度の10倍程度以上速い制御周期にて推定電気角θeおよび推定回転速度ωeの推定演算を行っているので、
図7(b)のように、推定電気角θeおよび推定回転速度ωeはオフセット誤差および回転周波数よりも高い周波数成分のリップル誤差を含んでいる。そして、実際の回転速度ωrealおよび電気角θrealの変化が緩慢な場合には、すなわち、推定回転速度ωeが設定回転速度ωsに近い場合には、推定値(θe、ωe)の変動誤差が相対的にきわだつことになる。
【0051】
そのため、推定電気角θeを上述した振れ回りの回転成分を除去する軸受制御の電気角θに適用する場合、制御電流に起因する電磁石力を上述した磁気軸受制御で数分の1の振動レベルに低減することは可能であるが、(A)制御電流起因の電磁石力(式(9)の右辺第1項)をより改善して0に近づける際には精度および安定性の確保という課題がでてくる。また、さらに要求が厳しい(B)低振動環境で使用される際には、制御電流起因の電磁石力の1/10以下のレベルである変位起因の電磁石力(式(9)の右辺第2項)への配慮も課題となる。なお、課題(B)への対策は後述する第2の実施の形態において説明する。
【0052】
第1の実施の形態では、上述した課題(A)の制御電流起因の電磁石力を0に近づける際の精度および安定性を確保するために、推定回転速度ωeが設定回転速度ωsの近傍にある場合(|ωe−ωs|<ε:εは所定の閾値)には、振動補償部422の処理における電気角θとして、リップル誤差を含む推定電気角θeではなく設定電気角θsを適用するようにした。すなわち、推定角速度ωeが定格回転に相当する設定回転速度ωsの近傍に安定して留まっている場合には、設定電気角θsを適用して精度および安定性を確保する。一方、推定回転速度ωeが設定回転速度ωsの近傍外の場合(|ωe−ωs|≧ε)には、例えば、設定回転速度ωsへ加速・減速を行っている場合や、外乱等により推定回転速度ωeが設定回転速度ωsから乖離した場合には、推定電気角θeを適用する。
【0053】
図6の切替指令部418,切替部433,434は、そのような推定電気角θeと設定電気角θsとの切り替えのために設けたものである。切替部434には、設定電気角θsと、回転速度・電気角推定部417で算出された推定電気角θeとが入力される。切替指令部418には、設定回転速度ωsと回転速度・電気角推定部417で算出された推定回転速度ωeとが入力される。位置制御部419は、設定電気角θsと推定電気角θeとの差分=θs−θeに基づくPI制御により位置制御出力値を出力する。
【0054】
(|ωe−ωs|≧εの場合)
回転速度・電気角推定部417で算出される推定電気角θeが|ωe−ωs|≧εを満たす場合には、切替指令部418は切替部433をオフすると共に切替部434を推定電気角θe側へ切り替える。その結果、推定電気角θeが振動補償部422に入力される。また、速度制御部411には、推定回転速度ωeと目標回転速度である設定回転速度ωsとが入力され、位置制御部419からの位置制御出力値は入力されない。
【0055】
速度制御部411は、入力された設定回転速度ωsと推定回転速度ωeとの差=ωs−ωeに基づいて、PI制御(比例制御および積分制御)あるいはP制御(比例制御)を行い、電流指令Iを出力する。Id・Iq設定部412は、電流指令Iに基づき、回転座標dq系における電流指令Id,Iqを設定する。
【0056】
等価回路電圧変換部413は、回転速度・電気角推定部417で算出された推定回転速度ωeおよびモータ42の電気等価回路定数に基づく次式(10)を用いて、電流指令Id,Iqを回転座標dq系における電圧指令Vd,Vqに変換する。ここに、L、rはモータ巻き線のインダクタンスと抵抗、Keはモータ自体が誘起する逆起電圧の定数である。
【数1】
【0057】
dq-2相電圧変換部414は、変換後の電圧指令Vd,Vqと回転速度・電気角推定部417から入力された推定電気角θeとに基づいて、回転座標dq系における電圧指令Vd,Vqを固定座標αβ系の電圧指令Vα,Vβに変換する。2相-3相電圧変換部415は、2相の電圧指令Vα,Vβを3相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。PWM信号生成部416は、3相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、インバータ46に設けられたスイッチング素子をオンオフ(導通または遮断)するためのPWM制御信号を生成する。インバータ46は、PWM信号生成部416から入力されたPWM制御信号に基づいてスイッチング素子をオンオフし、モータ42に駆動電圧を印加する。
【0058】
(|ωe−ωs|<εの場合)
一方、推定回転速度ωeが|ωe−ωs|<εを満たす場合には、切替指令部418は、切替部433をオンすると共に切替部434を設定電気角θs側へ切り替える。その結果、設定電気角θsが振動補償部422に入力されると共に、位置制御部419からの位置制御出力値が速度制御部411に入力される。すなわち、|ωe−ωs|<εの場合には、速度制御部411は、設定回転速度ωs、位置制御出力値および推定回転速度ωeに基づいて電流指令Iを演算する。なお、Id・Iq設定部412以降のブロックにおける処理は上述した|ωe−ωs|≧εの場合と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0059】
さて、設定電気角θsと推定電気角θeを切り替え選択して使用することを説明したが、より良い精度、安定性を確保する観点で設定電気角θsの信号生成について2点説明する。
【0060】
まず1点目は、推定電気角θeから設定電気角θsへの切り替えタイミングにおいて、両電気角間で位相ずれが大きい場合である。例えば、
図13(a)のような場合であり、θe適用期間からθs適用期間に切り替わる際に、電気角の位相が急激に大きく変化する。なお、
図13(a),(b)においては、破線で示すラインが切替前後の電気角の推移を示している。電気角としてこのような信号が速度制御器411が入力されると、位相ずれの影響で設定回転速度ωsに対する推定回転速度ωeのズレが大きくなって、再び|ωe−ωs|<εを満たせなくなる可能性がある。
【0061】
このような状況を防ぐためには、設定電気角θsへの切り替えタイミングにおいて、予め両電気角の位相を確実にそろえておく必要がある。そのために、
図12に示すように、設定部432へ切替司令部418からの切替信号および推定電気角θeをさらに入力して対処する。
【0062】
例えば、
図13(b)に示すように、|ωe−ωs|≧ε状態(θe適用期間)において予め設定電気角θsの信号生成にあたり、推定電気角θeと位相を一致させる処理を設ける。
図13(b)では、推定電気角θeが+πから−πへ立ち下がるタイミングにて毎周期位相をそろえる、すなわち−πへ強制的に合わせ込む。つまり、予め定めたタイミングにおける推定電気角θeと∫ωsdtの位相差をΔψとすると、毎周期ごとにΔψを∫ωsdtに加算して設定電気角θsを生成する。これに対して、|ωe−ωs|<εの状態(θs適用期間)では毎周期の位相を強制的にそろえる処理をストップする。つまり、切替直前の周期(|ωe−ωs|≧εの最後の周期)で決まったΔψをその後一定のまま加算する。そうすることで切り替え時の電気角の不連続を低減できる。
【0063】
次いで、2点目としては、信号生成がデジタル処理のために生じる離散時間誤差へ対処すると、より精度、安定性を確保できる。
図14(a)は、離散時間誤差への対処を行わない場合の一例を示す。制御周期Tの離散時間で演算処理するため電気角の値も当然ながら離散値となり、+πから−πへ立ち下がる時に誤差が生じる。この離散時間誤差に対しては、
図14(b)に示すように、一旦制御周期の10倍程度速い周期(すなわち、1/10程度の短い周期)で設定電気角θsを生成演算し、その高サンプリングの設定電気角θsデータ(小さな黒丸)から、もとの制御周期Tで間引いたデータ(大きな黒丸)を抽出することで周期誤差を低減できる。その際、演算処理も少ないため処理負荷は比較的小さくできる。なお、
図14(b)に示す例ではT/10の周期で高サンプリングをしている。
【0064】
ただし、処理負荷が無視できず、もとの制御周期で処理する場合には、例えば、
図14(c)に示すような処理を行う。予め制御周期Tにおける位相角増分Δθ=ωs*Tを求めておき、現在の制御周期kのデータθs_kに対して+π−θs_k<Δθの場合は、次回周期k+1に−πからでなく、−π+(θs_k+Δθ−π)から開始するようにする。
【0065】
(変形例)
図8は、上述した第1の実施の形態の変形例を示す図である。変形例では、フィードバックラインで回転成分Δds(θ)を抽出して、それとゲイン定数Bとの積を変位信号xs、ysから差し引くような構成とした。この構成の場合、振動補償部422から浮上制御部423へは、B/(1+B)・Δds(θ)がキャンセルされた変位信号xs−B/(1+B)・Δds(θ)、ys−B/(1+B)・Δds(θ)が入力されることになる。ゲイン定数Bの値を大きく設定することで、回転成分(振れ回り成分)が
図5に示す構成の場合と同程度キャンセルされる。
【0066】
(C1)以上のように、本実施の形態では、回転センサレス方式のモータ42により一定の設定回転速度ωsで回転駆動されるロータ軸5を備える磁気軸受装置において、モータ42の推定回転速度ωeおよび推定電気角θeが入力され、磁気軸受の電磁石力に含まれるロータ回転に起因する振動成分を低減するように変位センサ50からの変位信号を処理する振動補償部422と、振動補償部422で処理された処理後変位信号(例えば、
図5に示す信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ))に基づいて磁気軸受の電流を制御する浮上制御部423と、推定回転速度ωeが設定回転速度ωsを含む所定回転速度範囲の範囲内か否か、すなわち、|ωe−ωs|<εか否かを判定する切替指令部418と、を備え、振動補償部422は、切替指令部418により|ωe−ωs|<εと判定されると設定回転速度ωsから演算生成される設定電気角θsに基づいて変位信号の処理を行い、切替指令部418により|ωe−ωs|≧εと判定されると推定電気角θeに基づいて変位信号の処理を行う。
【0067】
変位センサからの変位信号にはロータ軸5の振れ回りに起因する振動成分(回転成分)が含まれているが、上述のように磁気軸受の電磁石力に含まれる推定回転速度ωeに関する振動成分を低減するように変位センサ50からの変位信号を処理することで、ポンプ振動の低減を低コストで達成することができる。特に、|ωe−ωs|<εの場合に、すなわち、定格回転数付近で安定的に回転している場合に、オフセット誤差や回転周波数よりも高い周波数成分のリップル誤差を含む推定電気角θeに代えて設定電気角θsに基づいて変位信号の処理を行うことで、制御電流に起因する振動をより低減することができる。
【0068】
(C2)振動補償部422における補償制御としては、
図5に示すように、変位信号xs,ysから変位信号の回転成分Δds(θ)を除去した信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)を生成し、信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)に基づいて磁気軸受の電流を生成するようにしても良い。その結果、変位信号xs、ysに含まれる回転成分に起因する電磁石力を除去することができ、ポンプ振動の低減を図ることができる。
【0069】
−第2の実施の形態−
図9は、本発明の第2の実施の形態を説明する図であり、振動補償制御に関係する構成を示すブロック図である。上述した第1の実施の形態では、制御電流起因の電磁石力から回転成分を除去したが、第2の実施の形態では変位に起因する電磁石力についても考慮することで、前述した課題(B)を解決してポンプ本体の振動低減をさらに図るようにした。
【0070】
図9に示す振動補償部422は、
図5に示した第1変換処理部600,ローパスフィルタ601,第2変換処理部602および高調波電気角生成部610に加えて、第3変換処理部603,補正部604および位相補正部611を備えている。
【0071】
(位相補正部611について)
振動補償部422には、モータ制御部410から回転速度ωおよび電気角θが入力される。入力される回転速度ωおよび電気角θについては、|ωe−ωs|≧εの場合には推定回転速度ωeおよび推定電気角θeが入力され、|ωe−ωs|<εの場合には設定回転速度ωsおよび設定電気角θsが入力される。位相補正部611には回転速度ω、電気角θおよび高調波電気角生成部610からの高調波電気角nθが入力される。
【0072】
上述したように、振動補償部222に入力される変位信号xs、ysは、センサ回路33におけるバンドパスフィルタの影響により位相ずれが発生しており、さらに、伝達関数Gcontによっても位相ずれが発生する。位相補正部611ではこの位相ずれを補正し、補正された補正電気角θ1を出力する。例えば、位相ずれが位相遅延であれば、入力された電気角θと位相ずれに基づく進み位相φ(ω)を用いて次式(11)のように算出される。なお、振動補償部422おいて高調波成分について処理する場合には、位相補正部611は、高調波電気角生成部から入力された高調波電気角nθに基づいて補正電気角θ1を生成する。
θ1=θ+φ(ω) …(11)
【0073】
本実施の形態における振動補償部422では、第1の実施の形態で説明した式(9)のΔF(θ)をΔF(θ)=0とする目的で、制御電流Δiを決定するΔds(θ)の部分が、Δds(θ)→「Δds(θ)−Δds(θ)+AΔds’(θ)」となるように、変位信号xs,ysに対する補償処理を行う。ここで、式「Δds(θ)−Δds(θ)+AΔds’(θ)」において、−Δds(θ)の部分は、第1変換処理部600,ローパスフィルタ601および第2変換処理部602が設けられたラインの補償処理(第1補償処理と呼ぶ)が対応する。一方、+AΔds’(θ)の部分は、第1変換処理部600,ローパスフィルタ601,第3変換処理部603および補正部604が設けられたラインの補償処理(第2補償処理と呼ぶ)が対応している。
【0074】
このとき、振動補償部422から出力された信号に基づいて生成される補償後の電磁石力の変動ΔF’(θ)は、次式(12)のように表される。第2補償処理によるAΔds’(θ)は、式(12)の第1項「(4kI/D
2)(−Gcont(θ)){AΔds’(θ)}」と第2項「(4kI
2/D
3)Δdr(θ)」とが打ち消し合うように設定される。
ΔF’(θ)=(4kI/D
2)(−Gcont(θ)){Δds(θ)−Δds(θ)+AΔds’(θ)}
+(4kI
2/D
3)Δdr(θ)
=(4kI/D
2)(−Gcont(θ)){AΔds’(θ)}
+(4kI
2/D
3)Δdr(θ) …(12)
【0075】
一方、第2補償処理は、上述したように振れ回りによる実際の変位Δdrに依存する電磁石力の変動、すなわち式(9)の右辺第2項をキャンセルするために設けられた補償処理である。
図9の第3変換処理部603では、ローパスフィルタ601から入力された変位信号xs(θ),ys(θ)に対して回転座標系から固定座標系への変換処理を行う。
【0076】
ところで、変位信号xs,ysは、上述したようにバンドパスフィルタ等の影響で位相ずれが生じており、また、浮上制御部423および励磁アンプ43の処理においても、伝達関数Gcontに応じたゲインおよび位相のずれが発生する。そのため、変位Δdrによる電磁石力の変動を第2補償処理によりキャンセルするために、第3変換処理部603の変換の際に補正された電気角θ1を用いて位相ずれを補正し、補正部604でゲイン補正を行う。
【0077】
上述したΔds’(θ)は、補正後の変位信号である。この変位信号Δds’(θ)はバンドパスフィルタや伝達関数Gcontによる位相ずれが補正されているので、変位信号Δds’(θ)により生成される制御電流Δiは、実際の変位Δdrと逆位相になる。そのために、第3変換処理部603の変換処理においては、モータ制御部410から出力される電気角θを上記位相ずれの分だけ補正した補正電気角θ1を用いて、変換処理を行う。
【0078】
補正部604では、補正係数Aにより信号xs(θ),ys(θ)の振幅補正を行う。補正係数Aは、伝達関数Gcont(θ)によるゲインのずれを補正し、変位信号AΔds’(θ)による電磁石力の大きさを変位Δdrによる電磁石力と同じ大きさに補正するものである。理論的には、A=(I/D)/|Gcont(θ)|と表される。第3変換処理部603で補正電気角θ1を用いて変換を行っているので、変位信号Δds’(θ)により生成される制御電流Δiは変位Δdrと逆位相になっている。そのため、変位Δdrによる電磁石力は変位信号AΔds’(θ)による電磁石力により相殺される。
【0079】
なお、上述のようにバンドパスフィルタおよび伝達関数Gcont(θ)の位相ずれは周波数によって異なるので、高周波電気角nθを補正する際の位相ずれには、周波数に対応した位相ずれが採用される。また、補正係数Aは伝達関数Gcont(θ)のゲインに依存するが、伝達関数Gcont(θ)のゲインも周波数によって異なるので、補正係数Aは周波数に応じて設定されている。
【0080】
(C3)上述した第2の実施の形態では、信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)に加えて、ロータ軸5の変位Δdrの回転成分Δdr(θ)に起因する電磁石力を打ち消す電磁石力を発生させる信号AΔds’(θ)を生成し、信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)と信号AΔds’(θ)とに基づいて磁気軸受の電流を制御するようにした。その結果、変位Δdrの回転成分Δdr(θ)に起因する電磁石力による本体振動も除去され、より低振動な磁気軸受装置を提供することができる。
【0081】
なお、上述した第1および第2の実施形態は、ラジアル磁気軸受を対象に説明したが、軸方向1軸のみのアキシャル磁気軸受に対しても同様に適応可能である。
【0082】
−第3の実施の形態−
図10は、本発明の第3の実施の形態を説明する図である。第2の実施の形態の
図9に示す振動補償制御では、第2補償処理において変位Δdrに起因する電磁石力を除去する補償処理を行っている。この場合、変位Δdrは電磁石位置における変位を表している。そのため、
図4における変位センサ50x1p,50x1mの軸方向位置と磁気軸受電磁石45p、45mの軸方向位置とが一致しない場合には、第2補償処理に関する部分の構成を
図10に示すような構成とするのが好ましい。すなわち、変位センサ位置における変位を表している変位信号xs,ysを、変位変換部612で電磁石位置における変位信号xr,yrに変換し、電磁石位置における変位信号xr,yrに関して第2補償処理を行う。
【0083】
変位変換部612から出力された電磁石位置における変位信号xr,yrは、第4変換処理部613において、固定座標系から補正電気角θ2で回転する回転座標系の信号へと変換される。その後、ローパスフィルタ614においてフィルタ処理が行われ、第3変換処理部603により固定座標系の信号に変換される。なお、位相補正部611は、センサ回路33のバンドパスフィルタの影響による位相ずれ、浮上制御部423の伝達関数Gcおよび励磁アンプ43の伝達関数Gmによる位相ずれを補正し、補正された補正電気角θ2を出力する。上述した、第4変換処理部613および第3変換処理部603においては、位相補正部611から出力された補正電気角θ2を用いて変換処理が行われる。
【0084】
第3変換処理部603から出力された信号は補正部604においてゲイン補正され、補正部604から信号AΔdr’(θ)が出力される。補正部604から出力された信号AΔdr’(θ)は、浮上制御部423から出力された信号に対して減算処理される。よって、補償後の電磁石力の回転成分ΔF’(θ)は、次式(13)のように表される。
ΔF’(θ)
=(4kI/D
2)(−Gc(θ)Gm(θ)){Δds(θ)−Δds(θ)}
−(4kI/D
2)Gm(θ)AΔdr’(θ)
+(4kI
2/D
3)Δdr(θ)
=(4kI/D
2)(−Gm(θ)){AΔdr’(θ)}+(4kI
2/D
3)Δdr(θ)…(13)
【0085】
図11は、変位変換部612における変位変換処理を説明する図である。
図11はx軸方向の変位に関して示したものであり、ロータ軸5の浮上目標位置Jをz軸に一致させて図示した。z軸方向に関して、上側の変位センサ位置をzs1、下側の変位センサ位置をzs2とし、上側の電磁石位置をzm1、下側の電磁石位置をzm2とする。ロータ軸5は剛体とみなし、ロータ軸5の中心軸J1の各位置zs1,zs2,zm1,zm2におけるx座標をxs1,xs2,xm1,xm2とする。
【0086】
また、ロータ軸5が浮上目標位置Jに浮上している場合(ただし、垂直状態の場合)のポンプロータ3(
図1参照)の重心位置をCGとする。重心位置CGから変位センサ位置zs1,zs2までの距離をL1,L2とし、重心位置CGから電磁石位置zm1,zm2までの距離をl1,l2とする。
【0087】
図11では、浮上目標位置Jをz軸と一致させているので、変位センサ位置zs1,zs2におけるx座標xs1,xs2は、変位センサにより検出されるセンサ位置変位を表している。同様に、電磁石位置zm1,zm2におけるx座標xm1,xm2は、電磁石位置zm1,zm2における磁石位置変位を表している。
【0088】
このとき、磁石位置変位xm1,xm2は、センサ位置変位xs1,xs2を用いて次式(14)、(15)のように表される。なお、式(14)、(15)では、変位xs1,xs2,xm1,xm2を時間tの関数として記載した。同様に、y軸方向の磁石位置変位ym1(t),ym2(t)は、変位センサ位置におけるy軸方向のセンサ位置変位ys1(t),ys2(t)を用いて次式(16)(17)のように表される。
xm1(t)=(l1−L1)/(L1+L2)×{xs1(t)−xs2(t)}+xs1(t)…(14)
xm2(t)=(−l2−L1)/(L1+L2)×{xs1(t)−xs2(t)}+xs1(t)…(15)
ym1(t)=(l1−L1)/(L1+L2)×{ys1(t)−ys2(t)}+ys1(t)…(16)
ym2(t)=(−l2−L1)/(L1+L2)×{ys1(t)−ys2(t)}+ys1(t)…(17)
【0089】
(C4)本実施の形態では、
図10に示すように、変位センサにより検出されたセンサ位置変位を、磁気軸受の位置における軸受位置変位に変換する変位変換部612を備え、振動補償部422は、軸受位置変位の回転成分に起因する電磁石力を打ち消す電磁石力を発生させる信号AΔdr’(θ)を生成する。そして、信号xs−Δds(θ),ys−Δds(θ)と信号AΔdr’(θ)とに基づいて磁気軸受の電流を制御するようにした。これにより磁気軸受位置とセンサ位置との不一致による誤差を低減でき、回転成分に関する振動をより低減することができる。
【0090】
(C8)さらに、
図6に示すように、モータ制御部410は、モータ42の相電圧および相電流に基づいてロータ軸5の推定回転速度ωeおよび推定電気角θeを推定する回転速度・電気角推定部417、速度制御部411および位置制御部419を備え、|ωe−ωs|<εと判定されると速度制御部411および位置制御部419による各処理を適用してモータ42を制御し、|ωe−ωs|≧εと判定されると速度制御部411による処理のみを適用してモータ42を制御するのが好ましい。これにより、設定回転速度ωs近傍におけるモータ制御をより精度良く行うことができる。
【0091】
なお、上述した実施の形態では、回転翼3aおよび固定翼22とで構成されるターボポンプ部と、円筒部3bとネジステータ24とで構成されるドラッグポンプ部とを有するターボ分子ポンプを例に説明したが、ポンプロータを磁気軸受装置で磁気浮上支持する構成の真空ポンプであれば、本発明を同様に適用することができる。さらに、本発明に係る磁気軸受装置は、真空ポンプに限らずブロアなどの種々の回転装置の軸受機構に適用することができる。
【0092】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。