【実施例】
【0056】
本実施形態を、以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実験例1]
実験例1では、出発原料の混合及び焼成を行って焼成物を作製した。ここでは出発原料の種類や焼成条件の影響を調べた。
【0058】
例1−1(参考例)
(1)焼成物の作製
<原料混合工程>
出発原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)及び酸化アルミニウム(Al
2O
3)の各粉末を準備した。そして目標組成(Li
6.25Al
0.25La
3Zr
2O
12)に対してリチウム源(炭酸リチウム)が6質量%の量で過剰となるように出発原料を配合した。次いで配合した出発原料をアルミナ乳鉢中で混合した。混合の際にイソプロピルアルコール(IPA)を出発原料に加えた。
【0059】
<焼成工程>
得られた混合物をアルミナるつぼに入れて焼成(仮焼)して焼成物(仮焼物)とした。この際、1000℃×12時間の条件で1回の焼成を行った。
【0060】
例1−2(参考例)
焼成工程の際に焼成を2回行った。それ以外は例1−1と同様にして焼成物を作製した。
【0061】
例1−3(参考例)
原料混合工程の際に、リチウム源として炭酸リチウム(Li
2CO
3)の代わりに水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を用いた。それ以外は例1−1と同様にして焼成物を作製した。
【0062】
例1−4
焼成工程の際に焼成を2回行った。それ以外は例1−3と同様にして焼成物を作製した。
【0063】
(2)評価
例1−1〜例1−4につき、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0064】
<X線回折>
得られた焼成物を粉末X線回折法により分析して、焼成物中の結晶相を同定した。分析条件は以下のとおりとした。
【0065】
‐X線回折装置:ブルカー D2 Phaser
‐線源:CuKα線
‐管電圧:30kV
‐管電流:10mA
‐スキャン速度:2.4°/min
‐スキャン範囲(2θ):10〜70°
【0066】
<SEM観察>
走査電子顕微鏡(SEM;FEI製、SIRION)を用いて焼成物の観察を行った。観察は2000倍または20000倍の条件で行った。
【0067】
(3)評価結果
例1−1〜例1−4について、焼成物のX線回折パターンを
図1及び
図2に示す。なお
図2は
図1の拡大図である。また
図1及び
図2において、「〇」印は立方晶ガーネット相(LLZO)の回折線を、「▽」印はパイロクロア相(La
2Zr
2O
7)の回折線を、「×」印は不純物相の回折線を示す。
【0068】
図1に示されるように、全ての試料(例1−1〜例1−4)で立方晶ガーネット型化合物(図中「〇」印)が主相として生成していた。また1回の焼成を行った試料(例1−1及び例1−3)は不純物相(図中「×」印)を含んでいた。一方で2回の焼成を行った試料(例1−2及び例1−4)では、XRDピークの狭幅化、バックグラウンドノイズの低減に加えて、不純物相(図中「×」印)が消滅し、少量のパイロクロア相(図中「▽」印)が生成していた。不純物相(図中「×」印)は過剰に添加したリチウム(Li)を含む相であり、パイロクロア相は、2回焼成によるリチウム(Li)揮発により生じたと推察される。したがって2回焼成で立方晶ガーネット単相を得るためには、配合時のリチウム(Li)源の過剰添加量を8質量%程度にすることが適切と考えられる。またリチウム(Li)源として炭酸リチウム(Li
2CO
3)を用いた試料(例1−2)は、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を用いた試料(例1−4)に比べて不純物相の量が少なかった。
【0069】
例1−2及び例1−4それぞれのSEM写真を
図3及び
図4に示す。
【0070】
SEM写真からリチウム(Li)源の違いによる微細構造の影響が観察された。具体的には、炭酸リチウム(Li
2CO
3)を用いた試料(例1−2)は、10μm程度の大きさの角状粒子が表面で融着した構造を示した。これに対して、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)を用いた試料(例1−4)は、直径2〜3μmの小さな球状粒子が融着した構造を示した。例1−2の方が立方晶の特徴をより反映した形状であると考えられる。微細構造が異なる原因として、その詳細は不明であるが、リチウム源の融点(Li
2CO
3:723℃、LiOH:462℃)が関係すると考えられている。
【0071】
これらの結果から、純度の高い立方晶ガーネット型LLZO化合物を作製するためには、リチウム(Li)源として炭酸リチウム(Li
2CO
3)を用い、リチウム(Li)過剰添加量(配合量)を6質量%程度とし、1000℃で12時間の焼成を2回行うことが好ましいと考えられる。
【0072】
[実験例2]
実験例2では、焼成物の粉砕及び熱処理を行って複合酸化物粉末を作製し、粉砕条件や熱処理条件の影響を調べた。
【0073】
例2−1(比較例)
<粉砕工程>
実験例1の例1−1で得られた焼成物を湿式ビーズミルを用いて水(H
2O)中で粉砕した。粉砕条件は、粉砕室容量:1.2L、粉砕メディア:ジルコニアビーズ(0.8mmφ)、ビーズ充填率:80体積%、アジテーター先端速度:10m/秒、流量:1500mL/分とした。また粉砕溶媒(水)を焼成物の20質量%となる量(20L)で投入した。さらに粉砕時間は0.5、1.0又は2.0時間とした。これにより粉砕物を得た。なお水(H
2O)中で粉砕した場合、粉砕時間2.0時間で粉砕物がかなり凝集したため、2.0時間を超えた粉砕を行わなかった。
【0074】
<熱処理工程>
得られた粉砕物に熱処理を施して複合酸化物粉末を得た。熱処理は700℃×4時間の条件で行った。
【0075】
例2−2
焼成物の粉砕をイソプロピルアルコール(IPA)中で0.5、1.0、2.0又は4.0時間行い、熱処理を400℃×2時間の条件で行った。それ以外は例2−1と同様にして複合酸化物粉末を作製した。
【0076】
例2−3
焼成物の粉砕をトルエン中で4.0時間行い、熱処理を400℃×2時間の条件で行った。それ以外は例2−1と同様にして複合酸化物粉末を作製した。
【0077】
(2)評価
例2−1〜例2−3につき、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0078】
<X線回折>
得られた粉砕物及び複合酸化物粉末の分析を粉末X線回折法により行い、結晶相を同定した。分析条件は実験例1と同様にした。
【0079】
<粒径分布>
光学式の粒径分布測定により複合酸化物粉末の粒径分布を求めた。測定は次のようにして行った。すなわち純水中に粉末試料を投入し超音波分散器で5分間分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−1100)を用いて測定した。
【0080】
<SEM観察>
走査電子顕微鏡(SEM;FEI製、SIRION)を用いて粉砕物及び複合酸化物粉末の観察を行った。
【0081】
(3)評価結果
【0082】
例2−1及び例2−2につき、粉砕物のSEM写真を
図5(a)〜(f)に示す。ここで(a)、(b)及び(c)のそれぞれは、イソプロピルアルコール(IPA)中で0.5、1.0又は2.0時間粉砕した試料(例2−2)のSEM写真である。また(d)、(e)及び(f)のそれぞれは、水(H
2O)中で0.5、1.0又は2.0時間粉砕した試料(例2−1)のSEM写真である。
【0083】
図5(a)〜(f)で示されるように、イソプロピルアルコール(IPA)中で粉砕した試料(例2−2)は、0.5時間の処理で粒子はほぼ1μm以下にまで粉砕されている(
図5(a))。処理時間を1.0時間、2.0時間とすることで、粉砕がさらに進んでいるように見える(
図5(b)及び(c))。これに対して、水(H
2O)中で粉砕した試料(例2−1)は、1μm程度にまで粉砕は進んでいるが、IPA中で粉砕した場合に比べて粒子径がやや大きい。また粉砕された粒子の凝集が見られる(
図5(d)〜(f))。
【0084】
例2−1〜例2−3について、焼成物、粉砕物及び熱処理物(複合酸化物粉末)のX線回折パターンを
図6に示す。
【0085】
図6に示されるように、水(H
2O)中で粉砕した試料(例2−1)は、粉砕物の段階では、回折線が高角度側にシフトしており、結晶格子が収縮していることが分かる。また不純物相のピーク(図中「×」印)のピークが見られる。この粉砕物を熱処理した熱処理物では、高角度側へのシフトはなくなるが、パイロクロア相(図中「▽」印)によるピークが大きくなった。水(H
2O)中での粉砕では、リチウム(Li)が溶け出したLLZO結晶から、熱処理によりパイロクロア相が生じたと考えられる。実際、溶媒として用いた水(H
2O)は粉砕後に強アルカリ性を示すことが確認されており、このことはリチウム(Li)の溶出を裏付ける。
【0086】
イソプロピルアルコール(IPA)中で粉砕した試料(例2−2)は、焼成物の段階では(211)回折線の回折角(2θ)が16.74°であったのに対し、粉砕物の段階ではこの回折角が16.58°であった。このことから粉砕によりピークが低角度側にシフトし、格子が膨張していることが分かる。また新たな不純物は生じていない。この不純物を熱処理した複合酸化物粉末では、(211)回折線の回折角が16.68°であり、ピークのシフトが緩和していた。またパイロクロア相の生成が確認されたものの、X線回折のピーク強度比から見積もった含有割合は約3質量%と少なかった。さらに(211)回折線のピーク半値幅は0.25°であった。
【0087】
トルエン中で4時間の粉砕を行った試料(例2−3)は、立方晶ガーネット構造を保持している。また回折線はやや低角側にシフトしており、このことは結晶格子が膨張していることを示す。粉砕物に400℃で2時間の熱処理を施することにより、回折線のシフトは見られなくなり、トルエン中粉砕ではパイロクロア等の不純物相は生じなかった。
【0088】
以上の結果から、水(H
2O)を溶媒として粉砕処理した場合には、LLZO中のリチウム(Li)イオンが水中に溶け出して、結晶格子が収縮すると考えられる。またその後の熱処理でもリチウム(Li)イオンは結晶格子内に完全には戻らず、溶け出したリチウム(Li)イオンがパイロクロア相(La
2Zr
2O
7)として結晶化すると考えられる。これに対して、イソプロピルアルコール(IPA)やトルエンなどの有機溶媒中で粉砕処理した場合には、粉砕処理後に結晶格子が少し膨張し、熱処理によって元に戻る。詳細なメカニズムは不明であるが、微細化処理における溶媒の働きが重要であると考えられる。
【0089】
IPA中粉砕して作製した例2−2について熱処理物(2時間粉砕+700℃×4時間熱処理)の粒径分布を
図7に示す。50%径(D50)は0.4μmであり、約80%が粒子径1μm以下の粒子であった。
【0090】
[実験例3]
実験例3では複合酸化物粉末を作製し、さらにこの複合酸化物粉末を成形及び本焼成して焼結体(固体電解質体)を作製した。そして焼結性及びイオン伝導度の評価を行った。
【0091】
例3−1
<原料混合工程>
出発原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)の各粉末を準備した。式:Li
7−3xAl
xLa
3Zr
2O
12で表される組成においてアルミニウム(Al)ドープ量xが0.3となり且つリチウム源(炭酸リチウム)の過剰添加量が10質量%となるように出発原料を配合した。次いで配合した出発原料をアルミナ乳鉢中で混合した。混合の際にイソプロピルアルコール(IPA)を出発原料に加えた。
【0092】
<焼成工程>
得られた混合物をアルミナるつぼに入れて焼成して焼成物を作製した。焼成は900℃×12時間で1回及び1035℃×12時間で1回行った。
【0093】
<粉砕工程>
得られた焼成物を湿式ビーズミルを用いてイソプロピルアルコール(IPA)中で粉砕した。粉砕媒体としてジルコニアビーズ(0.8mmφ)を用いた。また粉砕時間は4.0時間とした。これにより粉砕物を得た。
【0094】
<熱処理工程>
得られた粉砕物に熱処理を施した。熱処理は400℃×2時間の条件で行った。これにより複合酸化物粉末を得た。得られた複合酸化物粉末は、その粒径が0.3〜0.5μm(D50は0.41μm)であった。
【0095】
<成形工程>
得られた複合酸化物粉末をプレス成形した。成形は直径17mmのダイスを用い200MPaの条件で行った。これにより円板状の成形体を得た。
【0096】
<本焼成工程>
得られた成形体をLLZO粉末中に埋め込んだ状態でアルミナるつぼに入れ、これを本焼成した。本焼成は1150℃又は1250℃×12時間の条件で行った。これにより焼結体を得た。
【0097】
例3−2
粉砕時間を3時間とし、熱処理を800℃×3時間の条件で行った。それ以外は例3−1と同様にして複合酸化物粉末及び焼結体を作製した。
【0098】
例3−3(比較例)
焼成物の粉砕処理及び熱処理を行わなかった。それ以外は例3−1と同様にして複合酸化物粉末及び焼結体を作製した。得られた複合酸化物粉末は、その粒径が1〜10μmであった。
【0099】
例3−4(比較例)
アルミニウム(Al)ドープ量xが0.25となるように出発原料を配合した。それ以外は例3−3と同様にして複合酸化物粉末及び焼結体を作製した。得られた複合酸化物粉末は、その粒径が1〜10μmであった。
(2)評価
例3−1〜例3−4につき、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0100】
<X線回折>
得られた焼成物及び粉砕物を粉末X線回折法により分析して、結晶相を同定した。分析条件は実験例1と同様にした。
【0101】
<外観観察>
焼結体の外観を目視にて観察した。
【0102】
<焼結体密度>
焼結体の寸法(直径、厚さ)及び質量を測定し、密度を算出した。またLLZOの理論密度(5.14g/cm
3)を用いて相対密度を求めた。
【0103】
<イオン伝導度>
焼結体のイオン伝導度を交流インピーダンス法で測定した。まず焼結体の両面を研磨し、スパッタリング成膜により金を蒸着しして測定試料を作製した。測定はインピーダンスアナライザ(Solartron製、1260A)を用いて室温で行った。
【0104】
(3)評価結果
例3−1〜例3−4につき、焼成温度1250℃の条件で作製した焼結体の外観写真を
図8に示す。例3−1はほぼ白色であるが、例3−2、例3−3及び例3−4の順にベージュがかった色で着色されていた。
【0105】
例3−1〜例3−4につき、焼成温度1150℃又は1250℃の条件で作製した焼結体の密度と相対密度を表1に示す。表1に示されるように、同じ焼成温度で比較すると、微粒子を原料とした例3−1及び例3−2は、粒径数μmの粒子を原料とした例3−3及び例3−4より密度が向上し、緻密に焼結していることが分かる。
【0106】
【表1】
【0107】
例3−1から例3−4につき、焼成温度1250℃の条件で作製した焼結体の交流インピーダンスのナイキストプロットを
図9に示す。
図9に示されるように、微粒子化した粉末を焼成した例3−1及び例3−2ではバルク抵抗により左側(高周波数側)の半円が例3−3及び例3−4に比べて小さくなっている。このことより、微粒子化した粉末を焼成することによりバルクのイオン伝導度が向上していることが分かる。インピーダンス結果より計算されたバルクイオン伝導度は、例3−1で3.8×10
−4Scm
−1、例3−2で4.7×10
−4Scm
−1であり、例3−3で2.9×10
−4Scm
−1、例3−4で2.8×10
−4Scm
−1であった。
【0108】
図9に示されるように、例3−3及び例3−4では粒界抵抗による2つ目の半円が明確にみられる一方で、例3−1及び例3−2では2つ目の半円が明確には見られない。このことより、例3−1及び例3−2では粒界抵抗が小さくなっていることが分かる。