特許第6695571号(P6695571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6695571-経皮吸収型製剤 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695571
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】経皮吸収型製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/135 20060101AFI20200511BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20200511BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   A61K31/135
   A61P25/04
   A61K9/70 401
   A61K47/18
   A61K47/04
   A61K47/32
   A61K47/14
   A61K47/12
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-235652(P2016-235652)
(22)【出願日】2016年12月5日
(65)【公開番号】特開2018-90539(P2018-90539A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 傑
(72)【発明者】
【氏名】才 貴史
【審査官】 大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/066457(WO,A1)
【文献】 特開平07−304672(JP,A)
【文献】 国際公開第00/061120(WO,A1)
【文献】 特開2011−020997(JP,A)
【文献】 特開2001−231812(JP,A)
【文献】 特開2006−169238(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/013613(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/016219(WO,A1)
【文献】 特開2011−51947(JP,A)
【文献】 特開平9−143066(JP,A)
【文献】 特開平9−208463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と薬物含有層とを有する経皮吸収型製剤であって、該薬物含有層が、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、ならびに粘着剤を含有する、経皮吸収型製剤。
【請求項2】
前記粘着剤が、ゴム系樹脂を主成分として含有する、請求項1に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項3】
前記ゴム系樹脂が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及び粘着付与剤を含有する、請求項2に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項4】
前記粘着付与剤が、水添ロジングリセリンエステルである、請求項3に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項5】
前記脂肪酸アルカノールアミドが、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、およびラウリン酸モノイソプロパノールアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項6】
前記薬物含有層が、吸収促進剤をさらに含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項7】
前記吸収促進剤が、脂肪酸エステルおよび有機酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項8】
前記脂肪酸エステルが、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルから選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項9】
前記有機酸が、酢酸、カプリル酸、オレイン酸、およびイソステアリン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項10】
前記薬物含有層が、トラマドールの薬学的に許容される酸付加塩および塩基性化合物を含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項11】
前記塩基性化合物が、無機塩基および脂肪族アルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項12】
請求項1に記載の経皮吸収型製剤の製造方法であって、
トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、ならびに粘着剤を含む混合物を調製すること、
当該混合物を剥離ライナー上に塗布または展延して薬物含有層を形成すること、ならびに
当該薬物含有層に支持体を貼り合せること
を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トラマドール((1RS, 2RS)-2-[(ジメチルアミノ)メチル]-1-(3-メトキシフェニル)シクロヘキサノール)は、オピオイド系鎮痛剤の一つであり、WHO方式がん疼痛治療法では軽度から中等度の痛みに用いられる弱オピオイドに分類されている。トラマドールの鎮痛作用は、μオピオイド受容体に結合することによる侵害刺激伝達の抑制およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害による下行性疼痛抑制系の活性化によると考えられている。トラマドールは、各種癌における疼痛および慢性疼痛の軽減に有効であり、現在はトラマドール塩酸塩として注射剤、経口剤、坐剤などの剤形で使用されている。トラマドール塩酸塩は、下記式(I)の化学構造を有する。
【0003】
【化1】
【0004】
オピオイド系鎮痛剤の経皮吸収型製剤に関しては、これまでにいくつかの報告がなされている。
特許文献1には、トラマドール含有ヒドロゲルに、吸収促進剤としてメントール、O−エチルメントール、またはリモネンを配合すると、吸収促進剤としてコール酸を配合した場合よりもトラマドールの経皮吸収性が亢進したことが開示されている。
特許文献2には、吸収促進剤としてミリスチン酸イソプロピルならびに、モノカプリル酸グリセリン、モノカプリン酸グリセリンおよびモノラウリル酸グリセリンからなる群から選択される化合物を使用することにより、オピオイドレセプター拮抗剤であるペンタゾシンの経皮吸収が向上したことが開示されている。特許文献2にはオピオイドレセプター拮抗剤として塩酸トラマドールも挙げられているが、上記吸収促進剤によりトラマドールの経皮吸収が向上することを示す実施例は開示されていない。
特許文献3には、フリー体のトラマドールを脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルを含有するオルガノゲルとして製剤化することにより、トラマドールの高い皮膚透過性が得られたことが開示されている。一方、特許文献3には、トラマドール塩酸塩含有オルガノゲルではトラマドールの皮膚透過性は極めて低かったことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−36687号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/085521号公報
【特許文献3】国際公開WO2011/059037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を含有する経皮吸収型製剤においてトラマドールの皮膚透過性を向上させるために検討を重ねる中で、粘着剤を含有する薬物含有層について、吸収促進剤を配合するとブリーディング(粘着剤を含有する薬物含有層から液状成分がにじみ出す現象)が生じ、また凝集性が低下する場合があるという問題が存在することを認識するに至った。特許文献1〜3には、このような課題について全く記載されていない。
【0007】
したがって本発明は、トラマドールの皮膚透過性を維持しながら、ブリーディングが生じず、かつ凝集性が維持された、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を含有する経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、吸収促進剤として脂肪酸アルカノールアミドを用いることでトラマドールの高い皮膚透過性が得られることを見出した。さらに本発明者らは、皮膚透過性をさらに向上させるために脂肪酸アルカノールアミドの含有量を一定値以上に増加させた場合や、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤をさらに配合した場合に、ブリーディングが生じ、また凝集性が低下することがあるという新たな問題が存在することを見出した。そこで更に研究を重ねた結果、そのような場合であっても薬物含有層中にケイ酸を配合することにより、ブリーディングを生じさせず、また良好な凝集性を維持することができることを見出した。さらに、予想外なことに、そのようにして得られた薬物含有層中ではトラマドールが高い保存安定性を示すことを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]支持体と薬物含有層とを有する経皮吸収型製剤であって、該薬物含有層が、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、ならびに粘着剤を含有する、経皮吸収型製剤。
[2]前記粘着剤が、ゴム系樹脂を主成分として含有する、[1]に記載の経皮吸収型製剤。
[3]前記ゴム系樹脂が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及び粘着付与剤を含有する、[2]に記載の経皮吸収型製剤。
[4]前記粘着付与剤が、水添ロジングリセリンエステルである、[3]に記載の経皮吸収型製剤。
[5]前記脂肪酸アルカノールアミドが、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、およびラウリン酸モノイソプロパノールアミドから選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[4]のいずれかに記載の経皮吸収型製剤。
[6]前記薬物含有層が、吸収促進剤をさらに含有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の経皮吸収型製剤。
[7]前記吸収促進剤が、脂肪酸エステルおよび有機酸から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の経皮吸収型製剤。
[8]前記脂肪酸エステルが、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルから選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載の経皮吸収型製剤。
[9]前記有機酸が、酢酸、カプリル酸、オレイン酸、およびイソステアリン酸から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載の経皮吸収型製剤。
[10]前記薬物含有層が、トラマドールの薬学的に許容される酸付加塩および塩基性化合物を含有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の経皮吸収型製剤。
[11]前記塩基性化合物が、無機塩基および脂肪族アルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種である、[10]に記載の経皮吸収型製剤。
[12][1]に記載の経皮吸収型製剤の製造方法であって、
トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、ならびに粘着剤を含む混合物を調製すること、
当該混合物を剥離ライナー上に塗布または展延して薬物含有層を形成すること、ならびに
当該薬物含有層に支持体を貼り合せること
を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を含有する経皮吸収型製剤において、良好な凝集性を維持しながらトラマドールの皮膚透過性を向上させることができる。また本発明によれば、薬物含有層中のトラマドールの保存安定性を高めることができる。そのため利便性をより向上させたトラマドールの投与手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の経皮吸収型製剤の製造フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において経皮吸収型製剤とは、非経口製剤であって、有効成分が皮膚を通して吸収され血流に送達されるものをいう。本発明の経皮吸収型製剤は、支持体と薬物含有層とを有する貼付剤であり、例えばテープ剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0013】
本発明の経皮吸収型製剤は、薬物含有層に粘着剤を含有するマトリックス型貼付製剤でもよく、薬物含有層の皮膚貼付側に、薬剤の経皮吸収を調節するための放出制御膜および皮膚へ貼付するための粘着層をさらに有するリザーバー型貼付製剤であってもよい。このような構造により、トラマドールを効率的に経皮吸収させることが可能となる。
【0014】
製剤設計および製造の容易さの観点からは、マトリックス型貼付製剤であることが好ましい。以下、マトリックス型貼付製剤を例に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、「を含有する」または「を含む」との用語は、「から本質的になる」または「のみからなる」の意味も包含する。
【0016】
<薬物含有層>
1.有効成分
本発明の経皮吸収型製剤において、薬物含有層は、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を含有する。トラマドールは鎮痛作用を有し、疼痛の治療に用いられる。
【0017】
本明細書において、疼痛としては、トラマドールにより軽減され得るものであれば特に限定されないが、例えば、各種癌における疼痛、慢性疼痛(侵害受容性疼痛(例えば、腰痛症、変形性関節症など)、神経障害性疼痛(例えば、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害性疼痛など)、および心因性疼痛)などが挙げられる。
【0018】
トラマドールの薬学的に許容される塩としては、酸付加塩、例えば、無機酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩など;および有機酸塩、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、カンファー酸塩、アジピン酸塩、ソルビン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシレート)、フタル酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、コハク酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、パモ酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、ベンゼンスルホン酸塩(ベシレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
トラマドールまたはその薬学的に許容される塩は、結晶の形態で使用されてもよく、該結晶は、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩のみから形成されていても、共結晶や溶媒和物(例えば水和物、好ましくは一水和物)を形成していてもよい。トラマドールまたはその薬学的に許容される塩は、いずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。本発明では、疼痛治療薬として、既に筋肉内投与および経口投与における有用性が確立されているトラマドール塩酸塩を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の経皮吸収型製剤におけるトラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量は、疼痛の治療に対する有効量である。ここで有効量とは、本発明の経皮吸収型製剤を生体の皮膚に適用した場合に、疼痛の治療に有効なトラマドールの血中濃度を達成しうる量である。そのような含有量は、経口投与の薬理動態に関する情報に基づいて適宜調整することができ、投与対象、疾患、症状などにより異なりうる。例えば、薬物含有層に対して(即ち、薬物含有層の全質量を基準として;以下同じ)1〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
【0021】
疼痛の治療に有効なトラマドールの血中濃度は、トラマドールの筋肉内投与または経口投与の場合と同程度とすることができる。
【0022】
本発明の経皮吸収型製剤において、トラマドールの皮膚透過速度を調整することによって、疼痛の治療に有効な血中濃度を達成することができる。皮膚透過速度の調整は、薬物含有層中のトラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量を調整すること、後述の吸収促進剤を薬物含有層に添加することなどの、任意の手段によって行うことができる。なお、本発明においてトラマドールの皮膚透過速度とは、後述の実施例に記載するインビトロ皮膚透過性試験により測定される値を意味する。
【0023】
トラマドールの皮膚透過速度は、通常40μg/cm/時間以上であり、好ましくは50μg/cm/時間以上であり、より好ましくは60μg/cm/時間である。皮膚透過速度が40μg/cm/時間以上であれば、十分な血中濃度を得ることができる。またトラマドールの皮膚透過速度は、通常100μg/cm/時間未満であり、好ましくは90μg/cm/時間未満であり、より好ましくは80μg/cm/時間未満である。皮膚透過速度が100μg/cm/時間未満であれば、血中濃度が高くなりすぎず、安全性の観点から好ましい。
【0024】
2.塩基性化合物
トラマドールの薬学的に許容される塩として酸付加塩を用いる場合には、薬物含有層中に塩基性化合物を含有させることが好ましい。塩基性化合物としては、無機塩基および有機塩基が挙げられ、例えば、塩基性窒素を含有する低分子化合物(例えば、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の脂肪族アルカノールアミン);塩基性窒素を含有する高分子化合物(例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピリジン等);塩基性アルカリ金属塩(例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ケイ酸ナトリウム);アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)が挙げられる。また、オイドラギットシリーズ(オイドラギットE100、オイドラギットEPO:エボニックインダストリー社製)などの市販の塩基性アクリル系樹脂を使用してもよい。なかでも、無機塩基および脂肪族アルカノールアミンが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびジイソプロパノールアミンがより好ましい。
【0025】
塩基性化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。塩基性化合物の含有量は、トラマドールの薬学的に許容される塩の当量に対して0.5〜3当量であることが好ましく、0.7〜2当量であることがより好ましい。また、塩基性化合物の含有量は、薬物含有層に対して0.1〜35質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましく、1〜25質量%であることがさらに好ましい。このような塩基性化合物を含有することにより、塩基性化合物がトラマドールの薬学的に許容される塩に作用し、トラマドールの皮膚透過性が向上する。特に、塩基性化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、上記範囲外である場合と比較して皮膚透過性の向上効果がより顕著になる。
【0026】
3.脂肪酸アルカノールアミド
本発明の経皮吸収型製剤において、薬物含有層は、吸収促進剤として脂肪酸アルカノールアミドを含有する。脂肪酸アルカノールアミドは、例えばC12〜C18で飽和、または1以上の二重結合(好ましくは1または2の二重結合)を有する脂肪酸部分と、例えば1以上のヒドロキシで置換されたC〜Cアルキル(好ましくはモノヒドロキシC2−4アルキル)を含むアルカノールアミド部分またはジアルカノールアミド部分とを含んでなり、例えば、ラウリン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミドなどが挙げられる。なかでも、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、およびラウリン酸モノイソプロパノールアミドが好ましい。
【0027】
脂肪酸アルカノールアミドは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。本発明の経皮吸収型製剤における脂肪酸アルカノールアミドの含有量は、一態様として、薬物含有層の全質量に対して15質量%以下(例えば14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、または3質量%以下)であり、例えば1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることがさらに好ましい。脂肪酸アルカノールアミドの含有量が1質量%以上であれば、疼痛の治療に有効な血中濃度を達成し得る、トラマドールの皮膚透過速度を与えることができる。
【0028】
4.その他の吸収促進剤
本発明の経皮吸収型製剤において、薬物含有層は、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤をさらに含有してもよい。脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤は、経皮投与において皮膚透過促進作用が認められているいずれの化合物であってもよく、例えば、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ソルビン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、シュウ酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、安息香酸、ニコチン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、サッカリンなどの有機酸またはそれらの塩;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸ヘキサデシル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オレイル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、モノオレイン酸グリセリル、モノカプリル酸プロピレングリコール、モノカプリン酸プロピレングリコール、モノラウリン酸プロピレングリコール、モノパルミチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノオレイン酸プロピレングリコール、モノベヘン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコールなどの脂肪酸エステル類;トリアセチン、乳酸エチル、クエン酸トリエチルなどのエステル類;モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル類;モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;モノオレイン酸ポリエチレングリコール;モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどのポリオキシエチレン脂肪酸エステル類;デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、ベンジルアルコールなどの脂肪族または芳香族アルコール類もしくはそれらのエーテル類;炭素数3〜8の多価アルコール類(例えば、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、オクタンジオール等);ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのフェノールエーテル類;ヒマシ油または硬化ヒマシ油;オレオイルサルコシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤;炭素数10〜22のポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等);ジメチルラウリルアミンオキサイドなどの非イオン性界面活性剤;ジメチルスルホキサイド、デシルメチルスルホキサイドなどのアルキルメチルスルホキサイド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類;1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、1−ゲラニルアザシクロヘプタン−2−オンなどのアザシクロアルカン類;メントール、カンフル、リモネンなどのテルペン類などが挙げられる。脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい態様において、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤は、有機酸および脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である。有機酸は、酢酸、カプリル酸、オレイン酸、およびイソステアリン酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、およびラウリン酸ヘキシルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
薬物含有層は、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤を含まなくてもよく、含む場合には、その含有量は、一態様において、薬物含有層の全質量に対して1質量%以上、例えば2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、または5質量%以上、20質量%以下、例えば19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、または10質量%以下である。脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤の含有量は、例えば0〜20質量%であることが好ましく、0〜15質量%であることがより好ましく、0〜10質量%であることがさらに好ましい。また薬物含有層中の脂肪酸アルカノールアミドおよび脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤の合計の含有量は、ブリーディングが発生しない限り、1質量%以上、25質量%までであってよく、例えば20質量%未満、15質量%未満、10質量%未満である。
【0030】
5.ケイ酸
本発明の経皮吸収型製剤において、薬物含有層は、ケイ酸を含有する。本発明においてケイ酸とは、二酸化ケイ素(無水ケイ酸)またはその塩を意味し、例えば、無水ケイ酸、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムナトリウムなど)が挙げられ、好ましくは無水ケイ酸である。
【0031】
ケイ酸の含有量は、薬物含有層の全質量に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましい。ケイ酸の含有量が0.1質量%以上であれば、脂肪酸アルカノールアミドおよびその他の吸収促進剤を薬物含有層に配合した場合に発生するブリーディングを抑え、良好な凝集性を維持することができる。またケイ酸1質量部に対して脂肪酸アルカノールアミドおよびその他の吸収促進剤の合計が2〜5質量部となるように、薬物含有層にケイ酸を含有させることが好ましい。なお本発明においてブリーディングとは、粘着剤を含有する薬物含有層から液状成分がにじみ出す現象を意味し、後述の実施例に記載されるように目視により発生の有無を評価することができる。また本発明において凝集性は、後述の実施例に記載する試験方法により調べられる粘着剤の凝集力に基づいて評価される。
【0032】
6.粘着剤
本発明の経皮吸収型製剤において、薬物含有層は、粘着剤を含有する。薬物含有層に含有される粘着剤としては、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂およびシリコーン系樹脂等を含むものが挙げられる。
【0033】
粘着剤としては、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂およびシリコーン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有するものが好ましく、さらにゴム系樹脂およびアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有するものがより好ましい。ここで、「主成分」とは、粘着剤の全質量に対し、通常70質量%以上、さらに80質量%以上、よりさらに90質量%以上、特に100質量%を意味する。
【0034】
アクリル系樹脂としては、例えば、モノマー単位として、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどに代表される(メタ)アクリル酸エステルを少なくとも1種含有する重合体または共重合体が挙げられる。具体的には、例えば、アクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体溶液、アクリル酸2−エチルエキシル・N−ビニル−2−ピロリドン・ジメタクリル酸−1,6−ヘキサングリコール共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸2−エチルヘキシル・アクリル酸2−ヒドロキシエチル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体溶液、アクリル酸メチル・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂アルカノールアミン液などが挙げられる。また、DURO−TAK(登録商標)アクリル粘着剤シリーズ(DURO TAK 87-900A、DURO TAK 87-9301、DURO TAK 87-4098、DURO TAK 387-2510、DURO TAK 87-2510、DURO TAK 387-2287、DURO TAK 87-2287、DURO TAK 87-4287、DURO TAK 387-2516、DURO TAK 87-2516、DURO TAK 87-2074、DURO TAK 387-235A、DURO TAK 387-2353、DURO TAK 87-2353、DURO TAK 87-2852、DURO TAK 387-2051、DURO TAK 87-2051、DURO TAK 387-2052、DURO TAK 87-2052、DURO TAK 387-2054、DURO TAK 87-2054、DURO TAK 87-2194、DURO TAK 87-2196:ヘンケル社製)、GELVAシリーズ(GELVA GMS 3083、GELVA GMS 3253、GELVA GMS 788、GELVA GMS 9073:ヘンケル社製)、MAS−683、MAS−811、MASCOS10、MAS11D1(コスメディ製薬社製)などの市販のアクリル系樹脂を使用してもよい。
【0035】
ゴム系樹脂としては、例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブテン、ブチルゴム、天然ゴム、生ゴム、アラビアゴム、アラビアゴム末、イソプレンゴムなどが挙げられるが、好ましくはSISである。またQuintac(登録商標)シリーズ(Quintac3570Cなど:日本ゼオン社製)、クレイトンDポリマーシリーズ(クレイトンポリマージャパン社製)、JSR SIS/TRシリーズ(JSRライフサイエンス社製)などの市販のゴム系樹脂を使用してもよい。
【0036】
シリコーン系樹脂としては、例えば、オルガノポリシロキサン骨格を有するポリマーおよびその誘導体が挙げられ、具体的には、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどが挙げられる。また、BIO−PSAシリーズ(ダウコーニング社製)などの市販のシリコーン系樹脂を使用してもよい。
【0037】
本発明の経皮吸収型製剤の薬物含有層に含有される粘着剤として、上述のアクリル系樹脂、ゴム系樹脂、およびシリコーン系樹脂のうちの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。より好ましくは、アクリル系またはゴム系樹脂である。
【0038】
薬物含有層中に含有される粘着剤の量は、薬物含有層の形成、トラマドールの十分な皮膚透過性などを考慮して調整される。粘着剤の含有量は、薬物含有層に対して通常10〜97.8質量%、好ましくは15〜90質量%である。粘着剤がゴム系樹脂の場合は、粘着剤の含有量は、薬物含有層に対して10〜97.8質量%が好ましく、15〜90質量%がより好ましく、20〜80質量%がさらに好ましい。粘着剤がアクリル系樹脂の場合は、粘着剤の含有量は、薬物含有層に対して10〜97.8質量%が好ましく、15〜90質量%がより好ましく、20〜80質量%がさらに好ましい。粘着剤がシリコーン系樹脂の場合は、薬物含有層に対して10〜97.8質量%が好ましく、15〜90質量%がより好ましく、20〜80質量%がさらに好ましい。
【0039】
7.粘着付与剤
薬物含有層は、粘着力向上のために粘着付与剤をさらに含有してもよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジングリセリンエステルなどのロジン誘導体、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、テルペン樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、マレイン酸レジン、カルナウバロウ、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、キトサン、グリセリン、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、軽質無水ケイ酸、酢酸ベンジル、タルク、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。また粘着付与剤として、アルコンシリーズ(荒川化学社製)、パインクリスタルシリーズ(荒川化学社製)、クリアロンシリーズ(ヤスハラケミカル社製)、YSレジンシリーズ(ヤスハラケミカル社製)などの市販されているものを適宜使用してもよい。特に粘着剤として前記ゴム系樹脂を用いる場合には、水添ロジングリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、テルペン樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂を粘着付与剤として使用することが好ましく、水添ロジングリセリンエステルがより好ましい。粘着付与剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
粘着付与剤の含有量は、貼付剤としての十分な粘着力を考慮して、粘着剤としてゴム系樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して5〜70質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましく、15〜50質量%がさらに好ましい。粘着剤としてアクリル系樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して0〜40質量%が好ましく、0〜30質量%がより好ましく、0〜20質量%がさらに好ましい。粘着剤としてシリコーン樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましく、0〜10質量%がさらに好ましい。
【0041】
8.可塑剤
薬物含有層は、可塑剤をさらに含有してもよい。可塑剤としては、石油系オイル(例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、流動パラフィンなど)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(例えば、オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油など)、シリコーンオイル、二塩基酸エステル(例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、液状ゴム(例えば、ポリブテン、液状イソプレンゴムなど)、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、サリチル酸グリコール、クロタミトンなどが挙げられる。また可塑剤として、モレスコホワイトシリーズ(モレスコ社製)、ハイコールシリーズ(カネダ社製)などの市販されているものを適宜使用してもよい。特に粘着剤として前記ゴム系樹脂を用いる場合には、流動パラフィンを可塑剤として使用することが好ましい。可塑剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
可塑剤の含有量は、トラマドールの十分な透過性、経皮吸収型製剤としての十分な凝集力の維持などを考慮して調整される。粘着剤としてゴム系樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して0〜70質量%が好ましく、0〜60質量%がより好ましく、0〜40質量%がさらに好ましい。粘着剤としてアクリル系樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して0〜50質量%が好ましく、0〜40質量%がより好ましく、0〜30質量%がさらに好ましい。粘着剤としてシリコーン系樹脂を用いる場合は、薬物含有層に対して合計で0〜40質量%が好ましく、0〜30質量%がより好ましく、0〜20質量%がさらに好ましい。
【0043】
9.その他の任意成分
薬物含有層は、必要に応じて、pH調節剤、架橋剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、充填剤、または、防腐剤などの公知の添加剤をさらに含有してもよい。
【0044】
pH調節剤は、トラマドールの溶解性、安定性、および皮膚透過性の向上、皮膚に対する安全性の向上などの目的で、薬物含有層のpHを調節するために使用することができる。pH調節剤は、医薬品の分野において通常pH調整に用いられる酸もしくは塩基またはそれらの塩であればいずれの化合物であってもよく、例えば、塩酸、硫酸、コハク酸、酢酸、メタンスルホン酸、エデト酸、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メグルミン、トロメタモール、グリシン、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0045】
架橋剤としては、例えばアミノ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機系架橋剤、金属または金属化合物等の無機系架橋剤が挙げられる。なかでも、イソシアネート化合物またはブロックイソシアネート化合物が好ましい。
【0046】
抗酸化剤としては、例えばトコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ノルジヒドログアヤレチン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。
【0047】
着色剤としては、例えばインジゴカルミン、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カーボンブラック、カラメル、感光素201号、クマザサエキス、黒酸化鉄、ケッケツ、酸化亜鉛、酸化チタン、三二酸化鉄、アマランス、水酸化ナトリウム、タルク、銅クロロフィリンナトリウム、ハダカムギ緑葉エキス末、d−ボルネオール、ミリスチン酸オクチルドデシル、メチレンブルー、リン酸マンガンアンモニウム、ローズ油などが挙げられる。
【0048】
紫外線吸収剤としては、例えばアミノ酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸誘導体、シアノアクリレート誘導体、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、クマリン誘導体、イミダゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ジオキサン誘導体などが挙げられる。
【0049】
充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムナトリウム等)、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどが挙げられる。
【0050】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどが挙げられる。
【0051】
その他の任意成分の合計の含有量は、薬物含有層に対して0〜10質量%が好ましく、0〜5質量%がより好ましい。
【0052】
本発明の経皮吸収型製剤における薬物含有層の面積は、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量、トラマドールの皮膚透過速度などに応じて適宜調整することができる。典型的には、2〜140cm、好ましくは10〜100cm、さらに好ましくは20〜70cmの範囲である。またその形状は、特に限定されず、正方形、長方形、円形、楕円形などであってよい。
【0053】
本発明の経皮吸収型製剤における薬物含有層の厚さは、粘着剤の種類、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量、トラマドールの皮膚透過速度などに応じて適宜調整することができ、特に限定されない。典型的には、20〜300μm、好ましくは25〜200μm、さらに好ましくは30μm〜150μmの範囲である。
【0054】
予想外なことに、脂肪酸アルカノールアミドを含む本発明の経皮吸収型製剤の薬物含有層中では、脂肪酸アルカノールアミドを含まない経皮吸収型製剤と比較してトラマドールは高い保存安定性を示す。本発明において保存安定性とは、経皮吸収型製剤をアルミニウム袋に密封包装し、60℃で4週間保存した後、薬物含有層中に残存するトラマドールの割合(対開始時含量(%))を意味し、後述の実施例に記載する試験方法により調べられる。対開始時含量(%)が98%以上である場合、保存安定性が高いと評価される。
【0055】
また薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを含まない経皮吸収型製剤は、皮膚刺激性が比較的高い場合があるが、薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを含む本発明の経皮吸収型製剤は、同程度のトラマドールの皮膚透過性を示すが薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを含まない経皮吸収型貼付剤と比較して、低い皮膚刺激性を示す。本発明において皮膚刺激性は、モルモットの刈毛・剃毛した左右側胴部に経皮吸収型製剤を貼付し、24時間後に経皮吸収型製剤を除去し、貼付から24、48、および72時間後に皮膚反応を観察し、Draizeの基準(1959年)に基づき皮膚刺激性指数(Primary irritation index:P.I.I.)を算出することにより評価される。P.I.I.が低い値であるほど皮膚刺激性が低く、経皮吸収型製剤としては皮膚刺激性が低いほど好ましい。皮膚刺激性はより具体的には、後述の実施例に記載する試験方法により調べられる。
【0056】
本発明の経皮吸収型製剤における薬物含有層の1つの態様として、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、ならびに粘着剤を含有するものが挙げられる。
トラマドールまたはその薬学的に許容される塩としては、トラマドール酸付加塩(特に塩酸塩)が好ましい。この場合、薬物含有層は塩基性化合物を含有することが好ましい。
脂肪酸アルカノールアミドとしては、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、およびラウリン酸モノイソプロパノールアミドが好ましい。
ケイ酸としては、無水ケイ酸が好ましい。
粘着剤としては、ゴム系樹脂およびアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有するものが好ましい。
薬物含有層に対し、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量が1〜40質量%、塩基性化合物の含有量が0.1〜35質量%、脂肪酸アルカノールアミドの含有量が1〜9質量%、ケイ酸の含有量が0.1〜20質量%、粘着剤の含有量が10〜97.8質量%であることが好ましい。
【0057】
本発明の経皮吸収型製剤における薬物含有層の別の態様として、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤、ケイ酸、ならびに粘着剤を含有するものが挙げられる。
トラマドールまたはその薬学的に許容される塩としては、トラマドール酸付加塩(特に塩酸塩)が好ましい。この場合、薬物含有層は塩基性化合物を含有することが好ましい。
脂肪酸アルカノールアミドとしては、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、およびラウリン酸モノイソプロパノールアミドが好ましい。
脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤は、脂肪酸エステルおよび有機酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシルであることが好ましい。有機酸は、酢酸、カプリル酸、オレイン酸、およびイソステアリン酸が好ましい。
ケイ酸としては、無水ケイ酸が好ましい。
粘着剤としては、ゴム系樹脂およびアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有するものが好ましい。
薬物含有層に対し、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量が1〜40質量%、塩基性化合物の含有量が0.1〜35質量%、脂肪酸アルカノールアミドの含有量が1〜15質量%、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤の含有量が1〜20質量%、ケイ酸の含有量が0.1〜20質量%、粘着剤の含有量が10〜96.8質量%であることが好ましい。
【0058】
<支持体>
本発明の経皮吸収型製剤における支持体には、薬物不透過性で伸縮性または非伸縮性の支持体を使用することができる。このような支持体としては、医薬品の分野において通常用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、ナイロン、ポリウレタンなどの合成樹脂フィルムもしくはシートまたはこれらの積層体、多孔質体、発泡体、フィルムにアルミニウムを蒸着させたものが挙げられる。また、粘着層との良好な投錨性を得るため、支持体として、紙、織布、不織布、またはこれらとフィルムの積層体を用いることもできる。
【0059】
<剥離ライナー>
本発明の経皮吸収型製剤は、剥離ライナーをさらに有してもよい。この場合、剥離ライナーは、支持体上に積層された薬物含有層の、支持体に接する面と反対側の面上に積層され、経皮吸収型製剤を皮膚に適用するまで薬物含有層を保護することができる。剥離ライナーは、少なくとも薬物含有層中のトラマドールまたはその薬学的に許容される塩について不透過性であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートなどの高分子材料で作られたフィルム、フィルムにアルミニウムを蒸着させたもの、紙の上にシリコーンオイルなどを塗付したものなどが挙げられる。
【0060】
<経皮吸収型製剤の製造>
本発明の経皮吸収型製剤は、公知の方法に従って製造することができる。トラマドールまたはその薬学的に許容される塩、脂肪酸アルカノールアミド、ケイ酸、および粘着剤、ならびに必要に応じその他の成分を含む混合物を調製し、この混合物を剥離ライナー上に塗布または展延して薬物含有層を形成し、この薬物含有層に支持体を貼り合わせることにより、製造することができる。
【0061】
具体的には、上記薬物含有層中の成分を、前記含有量となるように有機溶媒に加え、混合撹拌して塗布液を調製する。
【0062】
有機溶媒としては、酢酸エチル、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、トルエン、シクロヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、それらの混合溶媒などを用いることができる。塗布液中の有機溶媒の含有量は、特に限定されず、例えば、塗布液全体に対して30〜90質量%、好ましくは40〜80質量%である。
【0063】
次に、この塗布液を剥離ライナー上に塗布または展延し、当該塗布液中の溶媒を蒸発させて薬物含有層を形成した後、支持体を貼り合わせることによって経皮吸収型製剤を得ることができる。または、塗布液を支持体上に塗布または展延し、当該塗布液中の溶媒を蒸発させて薬物含有層を形成した後、剥離ライナーを貼り合わせることによって経皮吸収型製剤を得ることもできる。製造容易かどうかの観点からは、塗布液を剥離ライナー上に塗布または展延し、当該塗布液中の溶媒を蒸発させて薬物含有層を形成した後、支持体を貼り合わせる方法が好ましい。塗布液の塗布または展延は、ナイフコーター、コンマコーター、リバースコーター、ダイコーターを用いて行うことができる。製造フローの一例を図1に示すが、これに限定されない。
【0064】
また本発明の経皮吸収型製剤は、上記薬物含有層中の成分を、加熱溶融させ、この溶融物を剥離ライナー上に塗布または展延し、薬物含有層を形成した後、支持体を貼り合わせることによって経皮吸収型製剤を製造することもできる。溶融物を支持体上に塗布または展延し、薬物含有層を形成した後、剥離ライナーを貼り合わせることによって経皮吸収型製剤を製造してもよい。
【0065】
<投与方法>
本発明の経皮吸収型製剤による疼痛の治療は、本発明の経皮吸収型製剤を対象の皮膚に直接貼付して、トラマドールを経皮投与することによって行うことができる。本発明における対象は、ヒトなどの哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0066】
本発明の経皮吸収型製剤によりトラマドールを経皮投与する場合、疼痛の治療に有効な血中濃度を達成するように、薬物含有層中のトラマドールまたはその薬学的に許容される塩の含有量、トラマドールの皮膚透過速度、薬物含有層の面積、薬物含有層の厚さ等を適宜調整した上で、本発明の経皮吸収型製剤を皮膚に貼付する。
【0067】
本発明の経皮吸収型製剤は、貼付可能であれば身体のいずれの部位の皮膚に適用してもよく、例えば、上腕部、腹部、胸部、頸部、腰背部、臀部または脚部などに貼付できる。
【0068】
本発明の経皮吸収型製剤の対象への経皮投与は、必要に応じて、トラマドール以外の医薬成分を含有する医薬組成物の投与と組み合わせてもよい。この場合、投与形態は、同時投与であっても、時間差をおいての投与であってもよく、当該医薬組成物は、静脈内、腹腔内、皮下および筋肉内、経口、局所または経粘膜を含む種々の経路により投与できる。またトラマドール以外の医薬成分を含有する医薬組成物は、当該医薬成分について通常用いられる投与経路によって対象に投与される。トラマドール以外の医薬成分としては、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウムなどの非ステロイド系消炎鎮痛薬、リドカインなどの局所麻酔薬などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また各実施例において、%は、特に断りがない限りは全て質量%である。
【0070】
(トラマドール塩酸塩含有経皮吸収型貼付剤の製造)
実施例1
・ゴム系樹脂組成物の調製
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(クインタック3570C、日本ゼオン社製)、水素添加ロジングリセリンエステル(パインクリスタルKE−311、荒川化学工業社製)、ポリイソブチレン(Oppanol B12SFN、BASF社製)を固形分濃度が30%になるようにトルエンとヘキサンの混液に溶解し、ゴム系樹脂組成物を得た。
成分名 配合比率
Quintac3570C(日本ゼオン社製) 45%
パインクリスタルKE−311(荒川化学工業社製) 45%
Oppanol B12SFN(BASF社製) 10%
【0071】
・経皮吸収型貼付剤の製造
塗布乾燥後の固形分が下記の配合比率となるように、有効成分としてトラマドール塩酸塩、粘着剤としてゴム系樹脂組成物、塩基性化合物として適量のエタノールに溶解した水酸化ナトリウム(関東化学社製)、脂肪酸アルカノールアミドとしてラウリン酸ジエタノールアミド、ケイ酸として無水ケイ酸、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤としてミリスチン酸イソプロピルを、適量のトルエン中で混合撹拌した後、塗布液を得た。
成分名 配合比率
トラマドール塩酸塩 15%
ゴム系樹脂組成物 65%
水酸化ナトリウム 2%
ラウリン酸ジエタノールアミド 3%
無水ケイ酸 5%
ミリスチン酸イソプロピル 10%
【0072】
塗布液を剥離フィルム(フィルムバイナ75E−0010 BD:藤森工業社製)上に、溶媒留去後の厚さが約75μmになるように塗布し、乾燥させた後、支持体(EH−1212:日本バイリーン社製)を貼り合わせ、経皮吸収型製剤を製造した。
【0073】
実施例2〜7
表1に示す通り、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤をそれぞれパルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、酢酸、カプリル酸、オレイン酸、およびイソステアリン酸に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜7の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0074】
実施例8および9
表1に示す通り、脂肪酸アルカノールアミドをそれぞれオレイン酸ジエタノールアミドおよびラウリン酸モノイソプロパノールアミドに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜7の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0075】
比較例1
表2に示す通り、ケイ酸を配合せず、ゴム系樹脂組成物の配合比率をその分増加させた以外は実施例1と同様にして、比較例1の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0076】
比較例2〜10
表2に示す通り、脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤をそれぞれラウリン酸ヘキシル、オレイン酸、イソステアリン酸、モノカプリル酸プロピレングリコール、イソステアリルアルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、トリアセチン、および炭酸プロピレンに変更した以外は比較例1と同様にして、比較例2〜10の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0077】
比較例11
表2に示す通り、ケイ酸を配合せず、ゴム系樹脂組成物の配合比率をその分増加させた以外は実施例8と同様にして、比較例11の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0078】
比較例12
表2に示す通り、ケイ酸を配合せず、ゴム系樹脂組成物の配合比率をその分増加させた以外は実施例9と同様にして、比較例12の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0079】
比較例13〜15
表3に示す通り、ラウリン酸ジエタノールアミドをそれぞれPOE(4.2)ラウリルエーテル(BL-4.2:日光ケミカルズ社製)、モノラウリン酸ソルビタン(SPAN20:クローダジャパン製)、およびモノカプリル酸グリセリン(Capmul 708G:ABITEC Corporation社製)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例13〜15の経皮吸収型貼付剤を製造した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
試験例1 インビトロ(in vitro)皮膚透過性試験
上記で得た経皮吸収型貼付剤を用いて、以下の手順に従ってインビトロ皮膚透過性試験を行った。
7週齢の雄性ヘアレスマウス摘出皮膚(Hos:HR−1系、星野実験動物飼育所社製)の角層側に各実施例及び比較例の経皮吸収型貼付剤をそれぞれ貼付した後、32.5℃の温水を外周部に循環させた縦型拡散セル(商品名:パームセル縦型TP−6:ビードレックス社製)に、皮膚基底膜がレシーバー側となるように装着した。レシーバーセルに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−)、和光純薬工業社製)を満たし、経時的にレシーバー液をサンプリングし、HPLC法によりレシーバー液中のトラマドール量を測定した。測定結果より各時間における透過薬物量を算出し、トラマドールの皮膚透過速度を算出した(n=3の平均値)。
【0084】
<HPLC測定条件>
装置:ACQUITY UPLC H−Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×50mm(Waters社製)
カラム温度:40℃
流速:約 0.5mL/min
検出波長:215nm
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル混液
【0085】
得られた結果を表1〜3に示す。実施例1〜9および比較例1〜15の経皮吸収型貼付剤ではいずれも、皮膚透過速度が40μg/cm/hであり、良好な皮膚透過性を示した。
【0086】
試験例2 凝集性評価
各実施例及び比較例の経皮吸収型貼付剤の凝集性を以下の手順で評価した。経皮吸収型貼付剤から剥離ライナーを除去し、薬物含有層表面を指で強く抑え、引き剥がす際に指に残る粘着剤の量を目視にて観察し、以下の基準に従って評価した。
A:粘着剤が残ることなく、良好な凝集力を有する。
B:粘着剤がわずかに残る程度であり、凝集力を有する。
C:粘着剤が多量に残り、凝集力が弱い。
【0087】
得られた結果を表1〜3に示す。実施例1〜9および比較例1〜15の経皮吸収型貼付剤の評価はいずれもAまたはBであり、経皮吸収型貼付剤として十分な凝集性を有していた。ただし、実施例1、3、8、および9の経皮吸収型貼付剤の評価はAであったのに対して、無水ケイ酸を配合していない比較例1、2、11、および12の経皮吸収型貼付剤の評価はBであり、薬物含有層に無水ケイ酸を配合した場合の方が高い凝集性が得られることが示唆された。
【0088】
試験例3 ブリーディング評価
各実施例及び比較例の経皮吸収型貼付剤について、除去した剥離ライナーの表面を目視にて観察し、ブリーディングを評価した。
○:ブリーディングなし
×:ブリーディングあり
【0089】
得られた結果を表1〜3に示す。実施例1〜9の経皮吸収型貼付剤ではブリーディングは見られなかった。比較例1〜12の経皮吸収型貼付剤ではブリーディングが見られた。したがって、薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドおよび脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤を配合することによって生じるブリーディングの発生を、ケイ酸を配合することによって抑制することができることが示された。また比較例13〜15の経皮吸収型貼付剤ではブリーディングが見られたことから、薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを配合した方が脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤を配合するよりもブリーディングの発生を抑制することができることが示された。
【0090】
試験例4 安定性試験
各実施例及び比較例の経皮吸収型貼付剤を、アルミニウム袋に密封包装し、60℃で4週間保存した後、各貼付剤の薬物含有層中のトラマドール含量をHPLC法により測定した。試料の調製方法及びHPLC測定条件を以下に示す。
【0091】
<試料溶液の調製法>
各経皮吸収型貼付剤の剥離ライナーをはがした後、スクリュー管に入れ、内標準溶液(4−アミノ安息香酸エチル/テトラヒドロフラン溶液)5mLを加えて振とう抽出した。この液にメタノール20mLを加え、振とうした。この液1mLをとり、水4mLを加えた後、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、試料溶液とした。
【0092】
<HPLC測定条件>
装置:ACQUITY UPLC H−Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×50mm(Waters社製)
カラム温度:40℃
流速:約 0.5mL/min
検出波長:215nm
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル混液
【0093】
保存サンプル中のトラマドールの含有量及び初期サンプル中のトラマドールの含有量から、次式により対開始時含量(%)を算出した。
対開始時含量(%)=保存サンプル中のトラマドール含有量/初期サンプル中のトラマドール含有量×100
【0094】
得られた結果を表1〜3に示す。実施例1〜9の経皮吸収型貼付剤ではいずれも、60℃、4週間保存後の対開始時含量(%)が98%以上であり、高い保存性を示した。一方、比較例1〜4、6、11、および12の経皮吸収型貼付剤では対開始時含量(%)が98%以上であったものの、比較例5および7〜10の経皮吸収型貼付剤では対開始時含量(%)が98%未満であった。
また実施例1の経皮吸収型貼付剤では対開始時含量(%)が98%以上であったのに対して、比較例13〜15の経皮吸収型貼付剤では対開始時含量(%)が98%未満であった。したがって、薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを配合した方が脂肪酸アルカノールアミド以外の吸収促進剤を配合した場合よりもトラマドールの保存安定性が高いことが示された。
【0095】
試験例5 モルモット皮膚一次刺激性試験
6週齢のHartley雄性モルモットを用いた。投与前日にモルモットの左右側胴部を約4×8cmの大きさに刈毛・剃毛した。刈毛翌日、実施例1、実施例2、実施例6、比較例13〜15の貼付剤(直径15mm)を左右側胴部に貼付し、粘着剤付フォームパッドM(3Mヘルスケア社製)で固定し、ポリエチレンフィルムテープ(キープポアA、ニチバン社製)を胴体に巻いた後、シルキーテック(ALCARE、5号)で固定した。投与24時間後、各貼付剤を除去し、アセトンで湿らせた脱脂綿で貼付部位を清拭した。投与より24、48、および72時間後に皮膚反応を観察し、表4に示すDraizeの基準(1959年)を参考に皮膚刺激性指数(Primary irritation index:P.I.I.)を算出し、皮膚刺激性を評価した。但し、投与24時間後の観察は、清拭約1時間後に行った。被験物質ごとに、投与24、48および72時間後における個体別評点を算出し、観察回数(3回)で除して個体別P.I.I.(Individual P.I.I.)を算出した。Individual P.I.I.値を合計し、その平均値を経皮吸収型貼付剤のP.I.I.とした。
【0096】
【表4】
【0097】
なお、刺激性の評価は、P.I.Iが0の場合「無刺激物」、0より大きく2未満の場合「軽度刺激物」、2以上5未満の場合「中等度刺激物」、5以上のときは「強度刺激物」とした。評価に際して統計処理は実施しなかった。
【0098】
結果を表5に示す。いずれの経皮吸収型貼付剤の皮膚刺激も軽度であったが、実施例1、2および6の経皮吸収型貼付剤は比較例13〜15の経皮吸収型貼付剤よりも低いP.I.Iを示した。したがって、本願発明の経皮吸収型貼付剤は、同程度のトラマドールの皮膚透過性を示すが薬物含有層に脂肪酸アルカノールアミドを含まない経皮吸収型貼付剤と比較して、大幅に皮膚刺激性が低減していることが示された。
【0099】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、トラマドールの保存安定性が高く、良好な凝集性を維持しながらトラマドールの皮膚透過性を向上させた、トラマドールまたはその薬学的に許容される塩を含有する経皮吸収型製剤が提供される。そのため利便性をより向上させたトラマドールの投与手段を提供することができる。
図1