特許第6695646号(P6695646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695646
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】シルクハット型波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20200511BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20200511BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20200511BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20200511BHJP
   F16J 3/02 20060101ALI20200511BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20200511BHJP
   F16C 33/78 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
   F16H57/029
   F16J15/3204 201
   F16J15/3232 201
   F16J3/02 B
   F16C19/36
   !F16C33/78 Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-512075(P2019-512075)
(86)(22)【出願日】2017年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2017014727
(87)【国際公開番号】WO2018189798
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】手塚 俊一
(72)【発明者】
【氏名】清澤 芳秀
(72)【発明者】
【氏名】山岸 俊実
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/037105(WO,A1)
【文献】 特開2002−339991(JP,A)
【文献】 実開昭61−70631(JP,U)
【文献】 特開2004−190706(JP,A)
【文献】 特開平9−250611(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0141793(US,A1)
【文献】 特開2000−179545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/36
F16H 57/029
F16J 3/02
F16J 15/3204
F16J 15/3232
F16C 33/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置された可撓性の円筒状胴部、当該円筒状胴部に形成された外歯、前記円筒状胴部の端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム、および、当該ダイヤフラムの外周縁に連続して形成した環状の剛性ボスを備えたシルクハット形状の外歯歯車と、
前記外歯歯車の前記円筒状胴部を非円形に撓めて前記外歯を前記内歯歯車の内歯にかみ合わせ、前記内歯に対する前記外歯のかみ合い位置を円周方向に回転させる波動発生器と、
前記内歯歯車および前記外歯歯車を相対回転可能な状態で支持しているベアリングと、
前記ダイヤフラムの前記外周縁から、当該ダイヤフラムおよび前記円筒状胴部に沿って、前記内歯および前記外歯のかみ合い部分まで延びている環状断面の歯車側隙間部分と、
前記ベアリングにおける一方の第1端面に開口している内輪と外輪との間の第1隙間部分、および、前記ベアリングにおける他方の第2端面に開口している前記内輪と前記外輪との間の第2隙間部分と、
前記第1隙間部分を封止しているオイルシールと、
前記第2隙間部分と前記歯車側隙間部分との間を仕切っているベアリングシールと、
を有しており、
前記ベアリングシールは、前記歯車側隙間部分から前記第2隙間部分への潤滑剤の流入を阻止可能で、かつ、前記第2隙間部分から前記歯車側隙間部分への潤滑剤の流出が可能となるように、前記歯車側隙間部分に連通している前記第2隙間部分の開口端を、前記歯車側隙間部分の側から封鎖しているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ベアリングの前記内輪は、中心軸線の方向において、前記ダイヤフラムと前記内歯歯車との間に位置し、前記内歯歯車に同軸に固定されており、
前記ベアリングの前記外輪は、前記剛性ボスに同軸に固定されており、
前記歯車側隙間部分には、前記かみ合い部分から、前記円筒状胴部と前記内輪の内周面との間に形成されている軸線方向隙間部分と、前記ダイヤフラムと前記内輪の端面との間に形成されている半径方向隙間部分とが形成されており、
前記半径方向隙間部分の外周端側の部分に、前記第2隙間部分の前記開口端が位置しており、
前記ベアリングシールは、
前記外輪と前記剛性ボスとの間の接合面を封止している環状の外周側シール部分と、
前記外周側シール部分から前記半径方向隙間部分内に延びて、前記第2隙間部分の前記開口端を封鎖している環状の内周側シール部分と、
を備えているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、更に、
前記内輪における前記第2隙間部分の前記開口端が位置する内輪端面を覆う状態に、当該内輪端面に取り付けた環状のベアリングシール用プレートを有しており、
前記ベアリングシールの前記内周側シール部分は、前記ベアリングシール用プレートに摺動可能な状態で押し付けられているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ベアリングの前記内輪は、前記内輪および前記外輪の間に転動体を挿入するための挿入穴、および、当該挿入穴を封鎖している栓を備えており、
前記挿入穴は、前記内輪端面に開口しており、
前記挿入穴および前記栓は、前記ベアリングシール用プレートによって覆い隠されているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項5】
請求項1において、更に、
前記第1隙間部分における前記オイルシールに対して、前記ベアリングの転動体の側に隣接した位置に、環状の仕切りプレートが配置されており、
前記仕切りプレートは前記内輪に固定されており、
前記仕切りプレートと当該仕切りプレートに対峙する前記外輪の内周面部分との間には、ラビリンスシールが形成されているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項6】
請求項1において、更に、
前記第1隙間部分における前記オイルシールに対して、前記ベアリングの転動体の側に隣接した位置に、多孔質素材からなる環状のシートが配置されているシルクハット型波動歯車装置。
【請求項7】
請求項1において、更に、
前記内輪における前記第2隙間部分の前記開口端が位置する内輪端面を覆う状態に、当該内輪端面に取り付けた環状のベアリングシール用プレートを有しており、
前記ベアリングはクロスローラベアリングであり、
前記クロスローラベアリングの前記内輪は、前記内輪および前記外輪の間に転動体を挿入するための挿入穴、および、当該挿入穴を封鎖している栓を備えており、
前記挿入穴は前記内輪端面に開口しており、
前記ベアリングシール用プレートは、前記挿入穴および前記栓を覆い隠す状態で前記内輪端面に取り付けられており、
前記内輪は、軸線方向において前記ダイヤフラムと前記内歯歯車との間に位置し、前記内歯歯車に同軸に固定されており、
前記外輪は、前記剛性ボスに同軸に固定されており、
前記歯車側隙間部分には、前記かみ合い部分から、前記円筒状胴部と前記内輪の内周面との間に形成されている軸線方向隙間部分と、前記ダイヤフラムと前記内輪の端面との間に形成されている半径方向隙間部分とが形成されており、
前記半径方向隙間部分の外周端側の部分に、前記第2隙間部分の前記開口端が位置しており、
前記ベアリングシールは、
前記外輪と前記剛性ボスとの間の接合面を封止している環状の外周側シール部分と、
前記外周側シール部分から前記半径方向隙間部分内に延びて、前記第2隙間部分の前記開口端を封鎖している環状の内周側シール部分と
を備えており、
前記ベアリングシールの前記内周側シール部分は、前記ベアリングシール用プレートに摺動可能な状態で押し付けられているシルクハット型波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシルクハット型波動歯車装置に関し、特に、内歯歯車と外歯歯車を相対回転可能な状態で支持しているクロスローラベアリング等のベアリングを備えたシルクハット型波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シルクハット型波動歯車装置では、内歯歯車と外歯歯車との間に、ベアリング、例えば、クロスローラベアリングが配置され、内歯歯車と外歯歯車とが相対回転可能な状態で支持される。クロスローラベアリングにおいて、コロの両側に形成されている内外輪の間の隙間部分のうち、外部に開口する外側の隙間部分は、オイルシールによって封止され、外部への潤滑剤の漏出を防止している。この構成のシルクハット型波動歯車装置は、特許文献1、2に記載されている。
【0003】
外歯歯車の外周側には、半径方向に撓む外歯歯車が、その外周側の部品に干渉しないように、隙間が設けられている。特許文献1においては、外歯歯車と、この外周を取り囲むクロスローラベアリングの内輪との間に、外歯歯車の円筒状胴部およびダイヤフラムに沿って環状断面の隙間が形成されている。特許文献2においては、外歯歯車と、この外周を取り囲むクロスローラベアリングの内輪に固定された内歯歯車の内周側部分との間に、環状断面の隙間が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−186718号公報
【特許文献2】特開2007−16838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外歯歯車の外周表面に沿って形成されている隙間は、外歯歯車と内歯歯車とのかみ合い部分から、クロスローラベアリングの内側の端面まで延びている。クロスローラベアリングの内側の端面には、内輪と外輪との間の隙間が開口している。この隙間に、外歯歯車の外周表面に沿って形成されている隙間が連通している。
【0006】
波動歯車装置の動作時においては、外歯歯車が繰り返し半径方向に撓められ、また、外歯歯車あるいは内歯歯車が回転する。このような動作に伴って、かみ合い部分に供給されている潤滑剤が、外歯歯車の外周表面に沿って形成されている隙間を通って、外周側に押し出され、クロスローラベアリングの隙間からその内部に流入する。クロスローラベアリングにおける反対側の隙間はオイルシールによって封止されているので、潤滑剤はクロスローラベアリング内に留まる。しかしながら、過剰な量の潤滑剤がクロスローラベアリング内に流入すると、オイルシールから外部に潤滑剤漏れが発生するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、外歯歯車と内歯歯車を相対回転可能に支持しているベアリングから外部への潤滑剤漏れを防止あるいは抑制可能なシルクハット型波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のシルクハット型波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置された可撓性の円筒状胴部、当該円筒状胴部に形成された外歯、前記円筒状胴部の端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム、および、当該ダイヤフラムの外周縁に連続して形成した環状の剛性ボスを備えたシルクハット形状をしている外歯歯車と、
前記外歯歯車の前記円筒状胴部を非円形に撓めて前記外歯を前記内歯歯車の内歯にかみ合わせ、前記内歯に対する前記外歯のかみ合い位置を円周方向に回転させる波動発生器と、
前記内歯歯車および前記外歯歯車を相対回転可能な状態で支持しているベアリングと、
前記外歯歯車における前記ダイヤフラムの前記外周縁から、当該ダイヤフラムおよび前記円筒状胴部に沿って、前記内歯および前記外歯のかみ合い部分まで延びている環状断面の歯車側隙間部分と、
前記ベアリングにおける一方の第1端面に開口している内輪と外輪との間の環状断面の第1隙間部分、および、前記ベアリングにおける他方の第2端面に開口している前記内輪と前記外輪との間の環状断面の第2隙間部分と、
前記第1隙間部分を封止しているオイルシールと、
前記第2隙間部分と前記歯車側隙間部分との間を仕切っているベアリングシールと、
を有しており、
前記ベアリングシールは、前記歯車側隙間部分から前記第2隙間部分への潤滑剤の流入を阻止可能で、かつ、前記第2隙間部分から前記歯車側隙間部分への潤滑剤の流出が可能となるように、前記歯車側隙間部分に連通している前記第2隙間部分の開口端を、前記歯車側隙間部分の側から封鎖している。
【0009】
ベアリングシールによって、歯車側隙間部分とベアリング側の第2隙間部分との間が遮断され、ベアリング内に、過剰な量の潤滑剤が流入することが防止あるいは抑制される。また、ベアリング内に流入した過剰な潤滑剤は、ベアリングシールを介して、歯車側隙間部分に戻ることが可能である。ベアリング内に流入した過剰な潤滑剤が、オイルシールを介して、外部に漏れ出てしまうことを、防止あるいは抑制できる。
【0010】
また、第2隙間部分を通常のオイルシールを用いて封止する場合とは異なり、ベアリングシールでは、ベアリング側の第2隙間部分から歯車側隙間部分への潤滑剤の流出が可能である。ベアリング内に供給された過剰な潤滑剤を、オイルシールの側から漏れ出る前に、ベアリングシールを通って歯車側隙間部分に戻すことができる。
【0011】
本発明のシルクハット型波動歯車装置において、前記ベアリングの前記内輪を、中心軸線の方向において、前記ダイヤフラムと前記内歯歯車との間に配置し、前記内歯歯車に対して、直接、固定することができる。前記外輪を、前記剛性ボスに対して、直接、固定することができる。この場合、前記歯車側隙間には、前記かみ合い部分から、前記円筒状胴部と前記内輪の内周面との間に形成されている軸線方向隙間部分と、前記ダイヤフラムと前記内輪の端面との間に形成されている半径方向隙間部分とが形成され、前記半径方向隙間部分の外周端側の部分に、前記第2隙間の前記開口端が位置する。また、この場合には、前記ベアリングシールには、前記外輪と前記剛性ボスとの間の接合面を封止している環状の外周側シール部分と、前記外周側シール部分から前記半径方向隙間部分内に延びて、前記第2隙間の開口端を封止している環状の内周側シール部分とを形成することができる。
【0012】
ベアリングシールの外周側シール部分は、外輪と剛性ボスとの間の接合面を封止する。外輪と剛性ボスとの間の接合面を封止するために、Oリング等の別のシール部材が不要になる。
【0013】
ここで、前記内輪における前記開口端が位置する内輪端面を覆う状態に、当該内輪端面に環状のベアリングシール用プレートを取り付け、前記ベアリングシールの前記内周側シール部分を、前記ベアリングシール用プレートに対して摺動可能な状態で押し付けることができる。
【0014】
ベアリングシールは外輪の側に固定されるので、その内周側シール部分は、内輪端面に沿って相対的に摺動する。内輪端面に段差、切れ目などが付いている場合がある。内輪端面を摺動する内周側シール部分が、段差、切れ目等によって損傷し、あるいは、そのシール性が低下するおそれがある。このような弊害は、ベアリングシール用プレートを取り付け、その平坦な表面に沿って内周側シール部分を摺動させることにより、回避できる。
【0015】
例えば、内輪に形成した挿入穴から転動体を内外輪の間に挿入するタイプのベアリングの場合には、内輪端面には、挿入穴と、ここを封鎖している栓との間に、段差あるいは切れ目ができる。この場合に、ベアリングシール用プレートを内輪端面に取り付けて、挿入穴および栓を覆い隠せばよい。
【0016】
次に、ベアリングにおいて、オイルシールを介して外部に潤滑剤が漏出することを確実に防止するために、前記第1隙間部分内において、前記オイルシールに対して転動体の側に隣接した位置に、環状の仕切りプレートを配置してもよい。前記仕切りプレートは、例えば、前記内輪の外周面に圧入固定する。また、前記仕切りプレートと、当該仕切りプレートに対峙する前記外輪の内周面部分とによって、これらの間に、ラビリンスシールを形成する。
【0017】
仕切りプレートを配置する代わりに、前記第1隙間部分において、前記オイルシールに対して転動体の側に隣接した位置に、不織布その他の多孔質素材からなる環状のシートを配置してもよい。前記シートは、例えば、前記外輪と前記オイルシールとの間に挟み込めばよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)本発明を適用したシルクハット型波動歯車装置の一例を示す概略縦断面図であり、(b)はその概略端面図である。
図2】シルクハット型波動歯車装置の部分断面図である。
図3】外輪分割型のクロスローラベアリングを用いる場合を示す部分断面図である。
図4】(a)および(b)は、それぞれ、ベアリングのオイルシール構造の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したシルクハット型波動歯車装置の実施の形態を説明する。以下に述べる実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実施の形態の構造に限定されるものではない。
【0020】
図1(a)はシルクハット型波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、図1(b)はその概略端面図であり、b−b線で切断した場合の断面、およびa−a線で切断した場合の端面を示す。図2はシルクハット型波動歯車装置の部分断面図である。シルクハット型波動歯車装置1(以下、単に「波動歯車装置1」と呼ぶ。)は、剛性の内歯歯車2と、内歯歯車2の内側に同軸に配置された可撓性の外歯歯車3と、外歯歯車3の内側に配置された波動発生器4と、内歯歯車2および外歯歯車3を相対回転可能な状態で支持しているクロスローラベアリング5(以下、単に「ベアリング5」と呼ぶ。)とを備えている。
【0021】
内歯歯車2は、ほぼ矩形断面の円環状部材21の円形内周面に形成された内歯22を備えている。外歯歯車3はシルクハット形状をしており、半径方向に撓み可能な円筒状胴部31、当該円筒状胴部31の前端開口の側の外周面部分に形成された外歯32、円筒状胴部31の後端部分から半径方向の外方に広がる円盤状のダイヤフラム33、および、当該ダイヤフラム33の外周縁に連続して形成した矩形断面の円環状の剛性ボス34を備えている。波動発生器4は、外歯歯車3の円筒状胴部31を非円形、例えば楕円形に撓めて、外歯32を内歯22にかみ合わせ、内歯22に対する外歯32のかみ合い位置を円周方向に回転させる。
【0022】
ベアリング5は、外歯歯車3の円筒状胴部31を同軸に取り囲む状態に配置されている。ベアリング5の内輪51は、中心軸線1aの方向において、外歯歯車3のダイヤフラム33と内歯歯車2との間に位置し、内歯歯車2の円環状端面23に同軸に固定されている。ベアリング5の外輪52は、剛性ボス34に隣接配置され、剛性ボス34の円環状端面34aに同軸に固定されている。ベアリング5における内輪51と外輪52の間には、コロ53が挿入された矩形断面の軌道溝が形成されている。軌道溝の両側には、第1隙間部分54と第2隙間部分55とが形成されている。内歯歯車2の側に位置する第1隙間部分54は、ベアリング5の一方の端面から外部に開口しており、第2隙間部分55は、ベアリング5の他方の端面に開口している。外部に開口する第1隙間部分54は、オイルシール6によって封止されている。
【0023】
波動歯車装置1には、内歯22と外歯32のかみ合い部分7から、外歯歯車3の円筒状胴部31およびダイヤフラム33に沿って延びている環状断面の歯車側隙間部分8が形成されている。歯車側隙間部分8は、かみ合い部分7から、円筒状胴部31と内輪51の内周面との間に形成されている軸線方向隙間部分8aと、ダイヤフラム33と内輪51との間に形成されている半径方向隙間部分8bとを備えている。半径方向隙間部分8bにおける外周端側の部分に、ベアリング側の第2隙間部分55の開口端55aが位置している。
【0024】
半径方向隙間部分8bとベアリング側の第2隙間部分55との間は、円環状のベアリングシール9によって仕切られている。本例では、第2隙間部分55の開口端55aは、半径方向隙間部分8bの側から、円環状のベアリングシール9によって封鎖されている。ベアリングシール9は、歯車側隙間部分8から第2隙間部分55への潤滑剤の流入を阻止可能であり、かつ、第2隙間部分55から歯車側隙間部分8への潤滑剤の流出が可能なシールである。
【0025】
ベアリング5は、内輪51に形成した挿入穴56から、内輪51と外輪52との間の軌道溝内にコロ53を挿入する形式のベアリングである。挿入穴56は、内輪端面51bから内輪内周面51cに掛けて、開口している。挿入穴56は、そこに取り付けた栓57によって封鎖されている。内輪端面51bと内輪内周面51cの一部分とを覆う状態に、L型断面の円環状のベアリングシール用プレート10が取り付けられている。ベアリングシール用プレート10によって、挿入穴56、栓57および、それらの間の段差、切れ目等が覆い隠されている。ベアリングシール用プレート10は例えば金属板である。
【0026】
ベアリングシール9は、外輪52と剛性ボス34との間の接合面(52a、34a)を封止している円環状の外周側シール部分9aと、外周側シール部分9aから半径方向隙間部分8b内に延びて、第2隙間部分55の開口端55aを封止している環状の内周側シール部分9bとを備えている。
【0027】
外周側シール部分9aは、金属環とニトリルゴム等の合成ゴムから構成され、ほぼ長方形断面をしている。剛性ボス34の円環状端面34aに接する外輪52の端面52aには、その内周縁部分に,矩形断面の切り欠き部が形成されている。この切り欠き部に、外周側シール部分9aが装着されている。外周側シール部分9aの内周縁部分からは、それよりも細幅で合成ゴムからなる内周側シール部分9b(シールリップ部)が内輪側に向けて傾斜した方向に延びている。内周側シール部分9bの先端部分9c(リップ先端部分)は、ベアリングシール用プレート10に対して摺動可能な状態で押し付けられている。ベアリングシール9とダイヤフラム33との間には、隙間部分8cが形成されている。隙間部分8cによって、波動発生器4によって撓められる外歯歯車3のダイヤフラム33が、ベアリングシール9に干渉しない。
【0028】
本例の波動歯車装置1は、逆止め弁として機能するベアリングシール9を備えている。かみ合い部分7などを潤滑するための潤滑剤が、歯車側隙間部分8からベアリング5の内側の第2隙間部分55に流れ込むことが阻止される。ベアリング5の内部(第2隙間部分55、軌道溝部分、第1隙間部分54)に、過剰な量の潤滑剤が流入することを防止あるいは抑制できる。また、ベアリング5の内部に過剰な潤滑剤が流入した場合には、過剰な潤滑剤は、外側のオイルシール6から外部に漏れ出る前に、ベアリングシール9を通って歯車側隙間部分8の側に戻る。よって、ベアリング5のオイルシール6から外部に潤滑剤が漏れ出ることを防止あるいは抑制できる。
【0029】
(外輪分割型のクロスローラベアリングの場合)
上記のクロスローラベアリング5は、内輪51に形成した挿入穴56からコロ53を挿入するベアリングである。外輪分割型のクロスローラベアリングを用いてもよい。
【0030】
図3は、外輪分割型のクロスローラベアリングを用いたシルクハット型波動歯車装置を示す部分断面図である。シルクハット型波動歯車装置1Aの基本構成は上記の波動歯車装置1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。本例のクロスローラベアリング5Aは、内輪58と、軸線方向に同軸に固定された2個の外輪片59a、59bからなる外輪59と、これらの間に挿入された複数個のコロ60とを備えている。ベアリングシール9の内周側シール部分9bの先端部分9cは、外輪片59aの側から、第2隙間部分55の開口端55aを超えて、内輪58の内輪端面58aまで延びている。また、内周側シール部分9bの先端部分9cは、内輪58の内輪端面58aに対して、摺動可能な状態で押圧されて、開口端55aを封止している。
【0031】
(オイルシールの別の例)
図4(a)および図4(b)は、クロスローラベアリング5の外側の第1隙間部分54を封止しているオイルシール構造の2例を示す部分拡大断面図である。これらのオイルシール構造を、上記のオイルシール6の代わりに用いることができる。
【0032】
図4(a)に示すオイルシール構造6Aは、第1隙間部分54において、オイルシール6に対してコロ53の側に隣接した位置に、仕切りプレート12が配置されている。仕切りプレート12は、例えば樹脂素材から形成されたL型断面形状をしており、円環状部分12aと、円環状部分12aの内周縁部分に一体形成した圧入用円筒部12bとを備えている。圧入用円筒部12bが内輪51の外周面51dに圧入固定される。
【0033】
仕切りプレート12の階段状輪郭の外周面部分12cに対応する階段状輪郭の内周面部分52eが外輪52の内周面に形成されている。これらの外周面部分12cと内周面部分52eとは微小な隙間で対峙し、これらの間にラビリンスシールが形成される。仕切りプレート12とオイルシール6とによって、潤滑剤が外部に漏れ出ることが確実に防止される。
【0034】
図4(b)に示すオイルシール構造6Bは、第1隙間部分54において、オイルシール6に対してコロ53の側に隣接した位置に、不織布、その他の多孔質素材からなる円環状のシート13が配置されている。例えば、ヒメロン(商品名)シートを用いることができる。
【0035】
シート13は、外輪52の内周面部分に形成した円環状の段差面52fと、外輪内周面に圧入固定されたオイルシール6との間に挟み込まれている。シート13とオイルシール6とによって、潤滑剤が外部に漏れ出ることが確実に防止される。また、外部からオイルシール6を通って内部に侵入する異物がシート13に捕捉され、軌道溝内に侵入することを確実に防止できる。
【0036】
[その他の実施の形態]
上記の実施の形態では、内歯歯車と外歯歯車を相対回転可能な状態で支持するために、クロスローラベアリング5を用いている。クロスローラベアリング5の代わりに、複列ボールベアリング等の他のベアリングを用いてもよい。
図1
図2
図3
図4