(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
なお、本明細書において、用語の頭に、「第1」、「第2」を付す場合があるが、この第1などは、用語を区別するためだけに付加されたものであり、その順序や優劣などの特別な意味を持たない。「下限値X〜上限値Y」で表される数値範囲は、下限値X以上上限値Y以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値〜任意の上限値」の数値範囲を設定できるものとする。各図に表された厚み及び長さなどの寸法は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。
【0013】
本発明の積層体は、直接的に積層され且つ接着された、少なくとも2層の部材(第1部材及び第2部材)を有し、好ましくは、直接的に積層され且つ接着された2層の部材(第1部材及び第2部材)のみからなる。第1部材は、熱可塑性高分子を含んでおり、レーザー光が透過する。第2部材は、熱可塑性高分子を含んでおり、レーザー光を吸収する。
本発明においては、第1部材及び第2部材に含まれる各熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータの距離Dと、第1部材及び第2部材の各表面自由エネルギーに従って算出される付着仕事Waと、から規定されるAが零より大きいことを特徴とする。
【0014】
<第1部材>
第1部材は、熱可塑性高分子を含み、レーザー光が透過し得るような材料から形成されている。以下、第1部材に含まれる熱可塑性高分子を「第1熱可塑性高分子」、第2部材に含まれる熱可塑性高分子を「第2熱可塑性高分子」という場合がある。
【0015】
第1熱可塑性高分子としては、熱可塑性を有する材料(熱によって溶融し得る材料)であれば、特に限定されない。第1熱可塑性高分子としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴムなどが挙げられる。第1熱可塑性高分子は、これらから選ばれる1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
前記第1熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−αオレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのエステル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂;6−ナイロンなどのアミド系樹脂;塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;酢酸ビニル系樹脂;などが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー;スチレンブタジエンスチレンエラストマー(SBS)、スチレンイソプレンスチレンエラストマー(SIS)、スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマー(SEBS)、水添スチレン系エラストマーなどのスチレン系エラストマー;ウレタン系エラストマー;エステル系エラストマー;フッ素系エラストマー;ポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
前記熱可塑性ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレン(CR)などの合成ゴム;天然ゴム(NR);スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンブタジエンスチレンゴム(SBSR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンイソプレン共重合体(SIR)、ブチルゴム(IIR)などの共重合体ゴム;などが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
なお、熱可塑性エラストマーと熱可塑性ゴムは、その種類によって明確に区別できない場合もあることに留意されたい。
第1部材において、第1熱可塑性高分子の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性高分子が余りに少ないと第1部材が第2部材に十分な接着強度で接着しないおそれがある。従って、第1熱可塑性高分子の配合量は、通常、第1部材全体100質量%に対して、60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。一方、第1熱可塑性高分子の配合量の上限は、理論的には100質量%である。
【0019】
第1部材は、ゴム弾性を有していてもよく、或いは、ゴム弾性を有さないものでもよい。好ましくは、ゴム弾性を有する第1部材が用いられる。例えば、第1熱可塑性高分子として熱可塑性エラストマーや熱可塑性ゴムを用いることにより、ゴム弾性を有する第1部材を容易に形成できる。
【0020】
第1部材は、発泡体から形成されていてもよいし、或いは、非発泡体から形成されていてもよい。好ましくは、第1部材は、非発泡である。なお、第1部材が発泡体から形成される場合、その発泡体の形成方法などの詳細は、下記<第2部材>の欄に記載が援用される。
また、第1部材に含まれる第1熱可塑性高分子は、架橋されていてもよく、或いは、架橋されていなくてもよい。
熱可塑性高分子を架橋する場合、その架橋方法は特に限定されず、例えば、電子線架橋、化学架橋などが挙げられる。電子線としては、X線、α線、β線、γ線などが挙げられる。また、化学架橋を行う場合には、過酸化物などの架橋剤が熱可塑性高分子に配合される。
【0021】
第1部材を形成する材料は、上記第1熱可塑性高分子を含んでいることを条件として、特に限定されない。例えば、第1部材は、第1熱可塑性高分子のみから形成されていてもよく、或いは、第1熱可塑性高分子及び各種添加剤を含んでいてもよい。
前記添加剤としては、軟化剤、架橋剤、架橋助剤、充填剤、耐候性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、静電防止剤、分散剤、発泡剤などが挙げられる。
前記軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、エクステンダーオイルなどの鉱物油;トール油脂肪酸、ひまし油、亜麻仁油などの植物油などが挙げられる。前記架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミンなどが挙げられる。前記架橋助剤としては、例えば、脂肪酸、酸化亜鉛、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアネートなどが挙げられる。充填剤としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0022】
第1部材のレーザー光の透過率は、高ければ高いほど好ましい。具体的には、第1部材のレーザー光の透過率は、少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。なお、第1部材のレーザー光の透過率の上限は、理論上、100%である。
ただし、前記透過率は、第1部材の厚みを2mmとし、それに波長808nmのレーザー光を照射したときのそのレーザー光の透過率である。前記透過率は、例えば、レーザーパワーメーター(OPHIR社製、製品名「NOVA II」)を用いて測定できる。
なお、第1部材は、レーザー光を吸収し得る吸収剤が含まれていてもよい。もっとも、レーザー光を第2部材に十分に作用させるために、第1部材は、レーザー光を吸収し得る吸収剤が実質的に含まれていないことが好ましい。
【0023】
第1部材の厚みは、特に限定されず、使用目的に合わせて適宜な厚みに設定できる。もっとも、第1部材の厚みが余りに薄いと、レーザー光照射時の熱によって第1部材に穴が生じるおそれがある。かかる観点から、第1部材の厚みは、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることが好ましい。第1部材の厚みの上限は、レーザー光の透過を阻害しない程度であればよく、例えば、第1部材の厚みは、50mm以下である。
第1部材は、第1熱可塑性高分子及び必要に応じて配合される各種添加剤を含む材料を、溶融プレス法などの従来公知の方法で成形することによって得ることができる。
【0024】
<第2部材>
第2部材は、第2熱可塑性高分子を含み、レーザー光を吸収し得るような材料から形成されている。
第2熱可塑性高分子としては、熱可塑性を有する材料(熱によって溶融し得る材料)であれば、特に限定されない。第2熱可塑性高分子としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴムなどが挙げられる。第2熱可塑性高分子は、これらから選ばれる1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
第2熱可塑性高分子の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及び熱可塑性ゴムとしては、上記<第1部材>の欄の第1熱可塑性高分子で例示したようなものが挙げられる。
なお、第1熱可塑性高分子及び第2熱可塑性高分子は、互いに同一の高分子でもよく、或いは、同系統の高分子でもよく、或いは、互いに異なる高分子でもよい。
【0025】
第2部材を形成する材料は、第2熱可塑性高分子を含んでいることを条件として、特に限定されない。例えば、第2部材は、第2熱可塑性高分子のみから形成されていてもよく、或いは、第2熱可塑性高分子及び各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、上記<第1部材>の欄で例示したようなものが挙げられる。
【0026】
第2部材は、ゴム弾性を有していてもよく、或いは、ゴム弾性を有さないものでもよい。好ましくは、ゴム弾性を有する第2部材が用いられる。例えば、第2熱可塑性高分子として熱可塑性エラストマーや熱可塑性ゴムを用いることにより、ゴム弾性を有する第2部材を容易に形成できる。
【0027】
レーザー光の照射時に発熱させるため、第2部材には、レーザー光を吸収し得る吸収剤が配合されている。前記吸収剤とは、それを添加することによってレーザー吸収率が向上し得る剤を意味する。前記吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化物系顔料などの無機顔料;フタロシアニン系顔料、レーキ顔料、多環式系顔料などの有機顔料;使用されるレーザー光に応じた吸収波長を有する染料;などが挙げられる。
前記吸収剤の配合量は、特に限定されないが、通常、第2部材全体100質量%に対して、0.1質量%〜15質量%である。
【0028】
第2部材において、第2熱可塑性高分子の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性高分子が余りに少ないと第2部材が第1部材に十分な接着強度で接着しないおそれがある。従って、第2熱可塑性高分子の配合量は、通常、第2部材全体100質量%に対して、60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。一方、第2熱可塑性高分子の配合量の上限は、理論的には100質量%であるが、現実的には99.9質量%以下である。
【0029】
第2部材は、発泡体から形成されていてもよいし、或いは、非発泡体から形成されていてもよい。好ましくは、第2部材は、発泡体から形成される。発泡体から形成された第2部材は、気泡を有する。第2部材の表面は、その気泡に基づく凹凸面となっている。つまり、第2部材の表面には、気泡部分に対応して小さな無数の凹みが存在している。なお、第2部材の表面を平面状にするため、第2部材の表面にスキン層が形成されていてもよい。
発泡体は、熱可塑性高分子を含む材料を発泡させることにより得られる。発泡方法は、化学的発泡法、物理的発泡法又は機械的発泡法などの従来公知の方法が挙げられる。なお、これら発泡方法に対応して、適切な発泡剤が必要に応じて配合される。
発泡体の密度(見かけ密度)は、特に限定されない。もっとも、前記密度が余りに小さい又は余りに大きいと、良好な弾力性を有する発泡体が得られない。かかる観点から、発泡体の密度(見かけ密度)は、好ましくは0.05g/cm
3〜0.8g/cm
3である。
【0030】
第2部材の厚みは、特に限定されず、使用目的に合わせて適宜な厚みに設定できる。もっとも、第2部材の厚みが余りに薄いと、レーザー光照射時の熱によって第2部材に穴が生じるおそれがある。かかる観点から、第2部材の厚みは、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることが好ましい。
第2部材は、第2熱可塑性高分子、吸収剤及び必要に応じて配合される各種添加剤を含む材料を、溶融プレス法などの従来公知の方法で成形することによって得ることができる。
【0031】
<ハンセン溶解度パラメータ及び付着仕事>
上記第1部材と第2部材は、式1で表されるAが零より大きいものが用いられる。
【0033】
式1において、Dは、下記式2に従って算出される第1部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータと第2部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータの距離を表す。また、式1において、Waは、第1部材と第2部材の各表面自由エネルギーから下記式3に従って算出される付着仕事を表す。
【0036】
式2において、δ
d1、δ
p1及びδ
h1は、第1部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項及び水素結合項を表し、δ
d2、δ
p2及びδ
h2は、第2部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータにおける分散項、極性項及び水素結合項を表す。
式3において、γ
d1、γ
p1及びγ
h1は、第1部材の表面自由エネルギーにおける分散成分、極性成分及び水素結合成分を表し、γ
d2、γ
p2及びγ
h2は、第2部材の表面自由エネルギーにおける分散成分、極性成分及び水素結合成分を表す。
【0037】
δ
d1、δ
p1及びδ
h1(第1熱可塑性高分子の分散項、極性項及び水素結合項)並びにδ
d2、δ
p2及びδ
h2(第2熱可塑性高分子の分散項、極性項及び水素結合項)は、文献値を用いることもできるが、本発明では、高分子の構造に基づいたハンセン溶解度パラメータを算出した値を用いるものとする。
第1熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータ及び第2熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータの算出は、温度23℃±2℃で、溶解度パラメータ算出法に基づいてソフトウェア名「HSPiP」を用いて計算することができる。ハンセン溶解度パラメータの算出方法の詳細は、下記実施例の欄を参照できるものとする。
【0038】
γ
d1、γ
p1及びγ
h1(第1部材の分散成分、極性成分及び水素結合成分)並びにγ
d2、γ
p2及びγ
h2(第2部材の分散成分、極性成分及び水素結合成分)は、第1部材の接合面及び第2部材の接合面の各表面自由エネルギーを測定することによって得られた値をいう。
表面自由エネルギーの測定は、温度23℃±2℃で、第1部材の接合面及び第2部材の接合面に水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを付着させ、接触角計を用いて接触角を測定することによって得られる。表面自由エネルギーの測定方法の詳細は、下記実施例の欄を参照できるものとする。
なお、後述するように、積層体となった状態では、第1部材の接合面と第2部材の接合面は強固に接着している。このため、積層体の状態では、第1部材の接合面及び第2部材の接合面の各表面自由エネルギーを測定することは困難である。よって、積層体の状態で、第1部材及び第2部材の各表面自由エネルギーを測定する際には、第1部材及び第2部材をそれぞれ切断し、各切断面の表面における表面自由エネルギーを測定するものとする。
【0039】
<積層体及びその製法>
本発明の積層体の製造方法は、第1部材と第2部材を重ね合わせる工程、その重ね合わせた二重物の第1部材側からレーザー光を照射する工程、を有する。
具体的には、
図1に示すように、所望形状に形成された上記第1部材1と第2部材2を準備する。この第1部材1の下面と第2部材2の上面が直接接触するように、第1部材1と第2部材2を重ね合わせる(
図2参照)。この互いに重なり合う面が、第1部材1の接合面1aと第2部材2の接合面2aである。図示例では、第1部材1の下面が第1部材1の接合面1aであり、第2部材2の上面が第2部材2の接合面2aである。
なお、
図1及び
図2の紙面上、第2部材2の上面(接合面)に第1部材1の下面(接合面)が接した状態で、第1部材1と第2部材2が積層されているが、反対であってもよい。つまり、第1部材1の上面に第2部材2の下面が直接接した状態で、第1部材1と第2部材2が積層されていてもよい(図示せず)。
【0040】
第1部材1の接合面1a及び第2部材2の接合面2aは、それぞれ独立して、凹凸面とされていてもよい。もっとも、両接合面を全体的に密着させて接触させることができることから、第1部材1の接合面1a及び第2部材2の接合面2aは、いずれも平滑な面とされていることが好ましい。なお、平滑な面は、平面のほか、平滑な曲面も含まれる。
そして、この重ね合わせた二重物の第1部材1側(第1部材1の接合面1aとは反対側の面1b側)からレーザー光を照射する。
照射されるレーザー光の波長は、780nm〜1000nmであり、通常、波長808nmのレーザー光が用いられる。レーザー光の照射速度は、第1部材1及び第2部材の形成材料に応じて適宜適切に設定され、例えば、3mm/sec〜15mm/secである。レーザー光の出力は、1本あたり3W〜25Wのダイオードを4本〜50本使用し、全体として100W〜625Wであることが好ましい。
【0041】
レーザー光は第1部材1の厚み方向に透過し、第2部材2へと至る。第2部材2の吸収剤がレーザー光を吸収するため、第2部材2が発熱する。この熱によって第2熱可塑性高分子が溶融すると共に、その熱が伝わって第1熱可塑性高分子も溶融する。放熱後、第1熱可塑性高分子及び第2熱可塑性高分子が再び固化することにより、第1部材1と第2部材2が直接的に接着された積層体が得られる。
【0042】
図3及び
図4は、本発明の積層体の断面図である。
本発明の積層体3は、(1)第1部材1と第2部材2が界面を有さずに接着している(
図3参照)、或いは、(2)第1部材1と第2部材2の境界に界面を有しつつ両部材が接着している(
図4参照)。
図3を参照して、1つの実施形態では、本発明の積層体3は、第1部材1と第2部材2の間において、第1部材1を構成する材料と第2部材2を構成する材料が入り交じっている。第1部材1と第2部材2は、構造的に互いの材料を分離できないような状態で、強固に接着されている。
図3の×で表された領域が第1部材1の材料と第2部材2の材料が入り交じった領域である。
図4を参照して、もう1つの実施形態では、本発明の積層体3は、第1部材1と第2部材2の境界付近に、界面4が存在する。ただし、この界面4において第1部材1の材料と第2部材2の材料が明確に分離されているわけでなく、構造的にその界面4で互いの材料を概ね分離できるという意味である。第1部材1と第2部材2は、界面4において強固に接着されている。
【0043】
本発明の積層体は、例えば、第1部材と第2部材の接着強度が3kgf/2cm以上(約29.4N/2cm以上)であり、両部材が強固に接着している。
このような積層体は、式1:A=−9×D+Wa−45で表されるAが零より大きい第1部材と第2部材を用いることによって得られる。すなわち、前記積層体は、A>0の関係を満たす第1部材と第2部材を用いることによって得られる。
従来、所謂レーザー接着の分野においては、2つの部材の間に接着用シートを介在させて両部材を接着していた。両部材を直接的に強固接着させる1つの方法として、レーザー光によって直接的に接着するような両部材の材料を選択することが挙げられる。しかし、その材料選択が困難である。
本発明によれば、A>0の関係を満足する材料(第1熱可塑性高分子及び第2熱可塑性高分子)により、レーザー光によって第1部材と第2部材を直接的に強固に接着できる。本発明の別の局面では、レーザー光を用いて第1部材と第2部材を直接的に接着する際に、その第1部材と第2部材を容易に選択できるスクリーニング方法を提供する。すなわち、本発明の別の局面によれば、レーザー光によって第1部材と第2部材を直接的に接着するに当たって、A>0を指標にして、第1部材と第2部材を選択するものである。A>0を満足する第1部材及び第2部材は、それらのハンセン溶解度パラメータの距離Dと付着仕事Waに基づいて容易に取捨選択できる。
【0044】
式1においてAは零より大きければ、特に制限はないが、好ましくは、Aは、0.1以上であり、より好ましくは0.5以上である。また、Aの上限は特にないが、現実的には、20以下である。
また、式1中のDの数値の上限は、特に制限がないが、好ましくは、3(J/cm
3)
1/2以下であり、より好ましくは、2(J/cm
3)
1/2以下であり、さらに好ましくは、1(J/cm
3)
1/2以下である。前記Dの下限値は、理論上、零である。
式1中のWaの数値は、特に制限がないが、好ましくは45〜70mN/mであり、より好ましくは55〜65mN/mである。
【0045】
<積層体の使用>
本発明の積層体の用途は特に限定されない。積層体は、その用途に応じて、適宜な平面形状又は立体形状及び厚みに形成され得る。
本発明の積層体は、レーザー光の照射により第1部材及び第2部材が強固に接着されているので、過酷な環境下で使用され得る製品の構成部材として好適に使用できる。積層体の好ましい用途は、シューズの構成部材である。例えば、本発明の積層体は、靴底として利用できる。靴底は、アウトソールを有するが、第1部材又は第2部材の何れか一方でそのアウトソールが形成される。
好ましくは、靴底は、ミッドソールと、前記ミッドソールの下面に積層接着されたアウトソールとを有し、そのミッドソールが第1部材又は第2部材の何れか一方で構成され且つアウトソールがもう一方で構成される。より好ましくは、ミッドソールが第1部材で形成され且つアウトソールが第2部材で形成される。
【0046】
図5及び
図6は、1つの実施形態のシューズを示す。
図2及び
図3において、シューズ5は、例えば、スポーツシューズである。シューズは、足の甲を覆う本体51と、本体の下方に設けられた靴底52と、を有する。
図示例の靴底52は、ミッドソール521と、ミッドソール521の下方に直接接着されたアウトソール522と、からなる。例えば、非発泡の第1部材を所定形状に形成して前記ミッドソール521とし、発泡された第2部材を所定形状に形成して前記アウトソール522とすることができる。
なお、アウトソールは、靴底のうち、地面に接する部材であり、ミッドソールは、靴底のうち、アウトソールと本体の間に介在する部材である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
[使用材料]
(A)熱可塑性高分子
・LDPE:低密度ポリエチレン。東ソー株式会社製、製品名「ペトロセン226」。
・HDPE:高密度ポリエチレン。東ソー株式会社製、製品名「ニポロンハード1000」。
・EVA1:エチレン−酢酸ビニル共重合体。東ソー株式会社製、製品名「ウルトラセン540」。
・EVA2:エチレン−酢酸ビニル共重合体。東ソー株式会社製、製品名「ウルトラセン630」。
・EVA3:エチレン−酢酸ビニル共重合体。東ソー株式会社製、製品名「ウルトラセン631」。
・SBS:スチレンブタジエンスチレンエラストマー。JSR株式会社製、製品名「TR2003」。
・SIS:スチレンイソプレンスチレンエラストマー。株式会社クラレ製、製品名「ハイブラー7125F」。
・SEBS1:スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマー。旭化成株式会社製、製品名「タフテックH1062」。
・SEBS2:スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマー。旭化成株式会社製、製品名「タフテックH1041」。
・SEBS3:スチレンエチレンブチレンスチレンエラストマー。旭化成株式会社製、製品名「タフテックH1043」。
・ALLOY1:前記LDPEの70質量部とEVA1の30質量部の混合物。
・ALLOY2:前記LDPEの35質量部とHDPEの35質量部とEVA1の30質量部の混合物。
【0049】
(B)レーザー吸収剤
・カーボンブラック:カーボンブラックマスターバッチタイプ。盛強國際有限公司社製、製品名「黒粒50」。
・NIR1:フタロシアニン系化合物。BASF社製、製品名「lumogen IR765」。
・NIR2:多環系化合物。昭和電工株式会社製、製品名「IR−T」。
【0050】
(C)各種の添加剤
・充填剤:軟質炭酸カルシウム。丸尾カルシウム株式会社製。
・ステアリン酸:新日本理化株式会社製。
・亜鉛華:活性亜鉛華No.2。本荘ケミカル株式会社製。
・架橋剤:パーオキサイド。日油株式会社製、製品名「パークミルD」。
・架橋助剤:トリアリルイソシアネート。日本化成株式会社製、製品名「TAIC M60]。
・発泡剤:アゾジカルボンアミド。永和化成工業株式会社製、製品名「ビニホール AC#3C」。
【0051】
[第1部材(レーザー透過材)の作製]
次の手順で、厚み2mm、横長さ20mm、縦長さ50mmの平板状の第1部材を作製した。なお、第1部材は、熱可塑性高分子のみから形成した。
LDPEからなる第1部材(以下、LDPE−第1部材)は、射出成形機(ノズル温度約200℃)にてLDPEを成形することにより作製した。
EVA1からなる第1部材(以下、EVA1−第1部材)、EVA2からなる第1部材(以下、EVA2−第1部材)、及びEVA3からなる第1部材(以下、EVA3−第1部材)は、射出成形機(ノズル温度約200℃)にてEVA1、2、3をそれぞれ成形することにより作製した。
SBSからなる第1部材(以下、SBS−第1部材)は、射出成形機(ノズル温度約200℃)にてSBSを成形することにより作製した。
SISからなる第1部材(以下、SIS−第1部材)は、射出成形機(ノズル温度約230℃)にてSISを成形することにより作製した。
SEBS1からなる第1部材(以下、SEBS1−第1部材)、SEBS2からなる第1部材(以下、SEBS2−第1部材)、及びSEBS3からなる第1部材(以下、SEBS3−第1部材)は、射出成形機(ノズル温度約230℃)にてSEBS1、2、3をそれぞれ成形することにより作製した。
【0052】
[第2部材(レーザー吸収材)の作製]
次の手順で、厚み4mm、横長さ20mm、縦長さ50mmの平板状のLDPEを含む第2部材(以下、LDPE(a)−第2部材)を作製した。
LDPE、レーザー吸収剤(カーボンブラック)、充填剤、発泡剤、架橋剤などを、表1に示す配合割合で混合した。なお、表1に示す数値は、質量部表示である。前記混合物を、混練機を用いて混練した後、プレス機を用いて、160℃、圧力15MPaで約20分間加圧することにより、前記発泡体を成形した。この発泡体が、LDPE(a)−第2部材である。
配合割合を表1に示すように変え、同様にして、LDPEを含む別の第2部材(以下、LDPE(b)−第2部材、LDPE(c)−第2部材、LDPE(d)−第2部材)を作製した。
【0053】
熱可塑性高分子及び配合割合を表1に示すように変え、同様にして、EVA3を含む第2部材(以下、EVA3−第2部材)を作製した。
熱可塑性高分子及び配合割合を表1に示すように変え、同様にして、SBSを含む第2部材(以下、SBS−第2部材)を作製した。
熱可塑性高分子及び配合割合を表1に示すように変え、同様にして、SISを含む第2部材(以下、SIS−第2部材)を作製した。
熱可塑性高分子及び配合割合を表1に示すように変え、同様にして、ALLOY1を含む第2部材(以下、ALLOY1−第2部材)を作製した。
熱可塑性高分子及び配合割合を表1に示すように変え、同様にして、ALLOY2を含む第2部材(以下、ALLOY2−第2部材)を作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
[ハンセン溶解度パラメータの算出]
上記第1部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータにおける分散項δ
d1、極性項δ
p1及び水素結合項δ
h1、並びに、上記第2部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータにおける分散項δ
d2、極性項δ
p2及び水素結合項δ
h2を、それぞれ、次のようにして算出した。
チャールズハンセンが提唱した溶解度パラメータ算出法(文献名Hansen C.M.;Hansen Solubility Parameters,CRS Press(2000))に基づき、チャールズハンセンらによって開発されたソフトフェア(ソフト名:Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP) Version 4.0.04)で求めた。算出温度は、基本設定の25℃を使用した。
その結果を、表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[表面自由エネルギーの測定]
上記各第1部材の表面自由エネルギーにおける、分散成分γ
d1、極性成分γ
p1及び水素結合成分γ
h1を測定した。
同様に、上記各第2部材の表面自由エネルギーにおける、分散成分γ
d2、極性成分γ
p2及び水素結合成分γ
h2を測定した。
表面自由エネルギーの測定は、協和界面科学株式会社製の接触角計「DMs−401」を用い、表面自由エネルギーの各成分が既知の液体(水、ジヨードメタン及びエチレングリコール)を使用した。具体的には、23℃±2℃、50%RH下で、前記接触角計を用いて、第1部材の接合面における前記既知の液体の接触角θを測定し、協和界面科学株式会社製の多機能統合ソフトウェア「FAMAS」を用いて、表面自由エネルギーの各成分(γ
d1、γ
p1及びγ
h1)を求めた。第2部材の接合面における表面自由エネルギーのγ
d2、γ
p2及びγ
h2も同様にして求めた。それらの結果を表3及び表4に示す。
接触角θの測定条件。
測定:液滴法
液量:1μL
着滴認識:自動
画像処理:アルゴリズム−無反射
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
[実施例1乃至22及び比較例1乃至16]
上記各第1部材及び第2部材を、表5及び表6のように組み合わせた。表5及び表6中のDは、第1部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータと前記第2部材の熱可塑性高分子のハンセン溶解度パラメータの距離を表し、Waは、付着仕事を表す。各Dは、式2:D={4×(δ
d1−δ
d2)
2+(δ
p1−δ
p2)
2+(δ
h1−δ
h2)
2}
1/
2に、表2の数値を代入して求め、各Waは、式3:Wa=2×(γ
d1×γ
d2)
1/
2+2×(γ
p1×γ
p2)
1/
2+2×(γ
h1×γ
h2)
1/
2に、表3及び表4の数値を代入して求めた。また、Aは、式1:A=−9×D+Wa−45から算出した。
【0061】
それぞれの組み合わせにおいて、第2部材の上面(接合面)上に第1部材の下面(接合面)を重ね合わせ、その第1部材の上面側から、下記の条件でレーザー光を照射した。
レーザー照射装置:日本エマソン株式会社製。
レーザー光の波長:波長808nm。
レーザー光の照射速度:表5及び表6参照。
ダイオード1本当たりのレーザー光の出力:4.5W。
ダイオードの本数:25本。
レーザー光の照射時間:5秒。
【0062】
レーザー光を照射することにより、第1部材と第2部材が接着された実施例1乃至22及び比較例1乃至16の各積層体を得た。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
[剥離試験]
上記各実施例及び比較例の積層体について、引張試験機を用いて、剥離試験を行った。
具体的には、各積層体について、第1部材の縁部と第2部材の縁部を、引張試験機のそれぞれのチャックで掴み、引張り速度50mm/minにて両チャックを引き離すことによって、前記第1部材と第2部材を180度剥離した。言い換えると、第1部材の縁部と第2部材の縁部が約180度方向に離反するように、引張り速度50mm/minにて両者を引張った。そして、第1部材と第2部材が分離したときの最大応力を接着強度とした。
その結果を表5及び表6に示す。
【0066】
さらに、前記剥離試験後の状態を目視で観察した。その結果を、表5及び表6に示す。
なお、表5及び6の剥離状態において、「材料破壊」は、第1部材と第2部材の界面において両者が剥離せず、第2部材自体が破断していたという結果を表し、「界面剥離」は、第1部材と第2部材の界面において両者が剥離していたという結果を表す。
【0067】
図7及び
図8は、剥離試験の結果をグラフ化したものであり、
図7は、各実施例及び比較例の溶解度パラメータの距離と接着強度の関係を、
図8は、各実施例及び比較例の付着仕事と接着強度の関係を示す。
なお、接着強度が3kgf/2cm以上(約29.4N/2cm以上)である場合には、第1部材と第2部材が十分な強度で接着していると言える。グラフ図から明らかなように、全ての実施例は接着強度が3kgf/2cm以上であった。
【0068】
図9は、各実施例及び比較例の溶解度パラメータの距離と付着仕事の関係をグラフ化したものであり、横軸に溶解度パラメータの距離を、縦軸に付着仕事を取った。各実施例は、このグラフ図の概ね上側(特に、上側且つ左側)に集まっており、比較例は反対に下側に集まっていた。このグラフ図において、各実施例と比較例との境界線を引き、その境界線の式を決定したところ、Wa=9×D+45となった。この境界線の右上の領域は、十分な接着強度で接着する第1部材と第2部材の組み合わせに該当している領域であると推定される。この領域は、Wa−9×D−45>0を満たす領域である。
図10は、
図9で決定した−9×D+Wa−45=Aを横軸に取り、そのAと接着強度の関係を示すグラフ図である。全ての実施例は、Aが零より大きい領域(A>0の領域)に含まれ、全ての比較例は、Aが零以下の領域に含まれている。