(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695672
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】装置部品の個別的焼入れ硬化処理のための装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/667 20060101AFI20200511BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
C21D1/667
C21D1/18 E
C21D1/18 F
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-197479(P2015-197479)
(22)【出願日】2015年10月5日
(65)【公開番号】特開2016-74983(P2016-74983A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】P.409705
(32)【優先日】2014年10月6日
(33)【優先権主張国】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】515276510
【氏名又は名称】セコ/ワーウィック・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィエスワフ・フヤク
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ・コレツキー
(72)【発明者】
【氏名】ヨゼフ・オレジニク
(72)【発明者】
【氏名】マレク・スタンキビッチ
(72)【発明者】
【氏名】エミリア・ボウォビエツ−コレツカ
【審査官】
橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−281394(JP,A)
【文献】
特開2013−221200(JP,A)
【文献】
特開平03−090510(JP,A)
【文献】
特開2009−185349(JP,A)
【文献】
特開2011−208838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02−1/84
C21D 9/00−9/40,9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア、ピニオン、ベアリングリングといった技術装置の部品を真空炉設備内で個々に焼入れするための装置であって、
前記真空炉設備の焼入れチャンバが、加工品を装入しかつ取り出すための緊密にシールされたドアを備え、
前記焼入れチャンバの内部に、単一の加工品が載置される移動可能なテーブルと、該テーブルを囲む移動可能なノズルの組とが設けられ、
前記焼入れチャンバの入口に、前記ノズルにガス状の冷却剤を供給するためのタンクが接続され、
前記焼入れチャンバからの膨張したガス状の冷却剤を集めるタンクの入口に前記焼入れチャンバの出口が接続され、
さらに 両タンク間にコンプレッサが接続され、前記冷却剤の流れの閉ループを構成しており、
前記焼入れチャンバは、閉止弁を介して、空気を除去し真空状態において焼入れチャンバへの加工品の装入を可能とする真空ポンプに接続されてなる装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記冷却剤を供給するためのタンクの出口と前記焼入れチャンバの入口との間に、供給ガス量を調節するための制御器(10)と、閉止弁とが接続され、かつ、前記焼入れチャンバの出口と前記冷却剤を集めるタンクの入口との間に、閉止弁と、受入れガスの流量を制御するための制御器と、焼入れ処理中に昇温した前記冷却剤を冷却するための熱交換器(12)とを備えてなる装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、前記冷却剤を集めるタンクの出口は、閉止弁を介して前記コンプレッサの入口に接続されており、かつ、前記コンプレッサの出口は、閉止弁並びに前記冷却剤の冷却のための熱交換器を介して、前記冷却剤を供給するためのタンクの入口に接続されてなる装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、移動可能な前記テーブル及び前記ノズルの組の配置及びパラメータは、焼入れ工程において冷却される前記加工品の形状に適合させてその都度調整され、これにより、前記冷却剤の均一かつ最適な流入量が得られる、装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項記載の装置において、前記冷却剤は、空気もしくは窒素、アルゴンもしくはヘリウム、水素もしくは二酸化炭素、又は、これらの混合物である、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の主題は、技術的装置部品の個別的焼入れ硬化処理のための装置、すなわち変形を最小限に抑えることを目的とした、冷媒を用いた個々の部品を制御された状態で硬化させる装置である。
【背景技術】
【0002】
焼入れは、鋼に対して施される熱処理であり、加工品をオーステナイト化温度から略常温にまで急速冷却する処理である。焼入れ硬化は、鋼の微細構造の変態によって生じ、機械的特性及び使用特性の双方、例えば耐久性、硬さ、及び耐摩耗性といったものを向上させる。
【0003】
種々の周知の解決策は、専用の装置あるいは焼入れ用チャンバを用い、オイル、水、塩等の異なる液体冷媒、又は希にはガスあるいは空気といった冷媒によってなされる焼入れに関連している。さしあたり、焼入れの媒体としてはオイルが最も一般的である。
【0004】
焼入れ硬化処理された加工品は通常、いわゆるワークロードを経て、専用の設備(トレイ、バスケット、等)内にバッチ式に並べられるか、あるいは、炉内で前記オーステナイト化温度にまで加熱されるべくばら荷状態でコンベヤベルト上に載置され、焼入れ装置内で硬化処理される。焼入れ装置は、オーステナイト化炉と一体的に構成される場合も、独立的または個別的に構成される場合もある。
【0005】
全ての焼入れ装置の特徴は、冷却液の強制循環を保証するためのユニットの存在である。それらは例えば、冷媒が液体の場合であればミキサー、気体の場合であればファンである。熱を焼入れ済み加工品から熱交換器に効果的に移動させるため、冷却剤の強制循環は必要である。その熱は次いで、通常は水、あるいは他の外部冷却剤を用いて焼入れ装置の外部に導かれる。つまり、一つあるいは複数の熱交換器の存在がまた伝統的な焼入れ装置の特徴でもある。
【0006】
従来の焼入れ硬化処理装置では、次のような操作がなされる。加工品は、オーステナイト化温度まで加熱された後、炉から焼入れ装置まで移動され、そこにおいて冷却液が熱を吸収して、加工品を冷却する。次いで、前記冷却液(前記加工品によって温度上昇している)は熱交換器に導かれ、当該熱交換器において冷却されてから、加工品のところに再度導かれ、熱を吸収する。前記冷却液の最適な流れは、ミキサー(液体用)及びファン(気体用)によって保証され、好適な案内羽根及びダクトによって導かれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼入れ硬化処理においては、適切な機械的特性が得られることに加えて、温度勾配及び焼入れ中の材料構造の変形によって引き起こされる応力による変形を最小とすることが重要である。変形は、個々の要素部品の形状を滑らかにするための機械加工のコストを発生させる。従って、目指すところは、変形を最小とし、かつ繰り返し可能性を最大とすることである。
【0008】
理論的には、単一の加工品及び全ての加工品の双方に対して同一かつ均一な冷却条件を提供することによって変形を最小にすることは可能である。これは大量生産においては特に重要である。従来のオイル焼入れは、そのプロセスにおける三相特性(蒸気クッション、気泡相、及び対流層)及び、関連した熱吸収の強度の不均一さのために変形が増大する。同様に、個々の加工要素をバッチ式のワークロードに置くことは最適な解決とならない。というのは、個々の加工品が、前記ワークロードにおける特異な位置故に、特異かつ異なる態様の硬化処理を受けることとなり、いつかは他の加工品とは異なる変形を呈する。
【0009】
従来の焼入れ装置の、変形の最小化並びに繰り返し性に係る上記の欠点を考慮し、冷却剤内で個々の加工品を繰り返し硬化させる装置の開発が始まった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
個々の焼入れのための装置の本発明を構成する主たる特徴は、焼入れチャンバ内に設けられた以下の要素、すなわち個々の加工品が載置される移動可能なテーブル及び該テーブルの周囲に配置された移動可能な複数のノズルのセットを有して構成されている。焼入れチャンバの入口には、前記ノズルに冷却剤を供給するタンクが接続されている。一方、焼入れチャンバの出口は、前記チャンバからの膨張した冷却剤を受けるタンクの入口に接続されている。さらに、2つの前記タンクの間に接続されたコンプレッサが存在しており、前記冷却剤の閉ループ流れを保証する。
【0011】
有利には、タンク出口と焼入れチャンバ入口との間には、供給ガスの流量を調整する制御器、及び閉止弁が接続されている。一方、好ましくは、前記焼入れチャンバの出口とタンク入口との間には下記の装置が取り付けられている。すなわち、閉止弁、受入れガス量を調節する制御器、及び、焼入れ工程で加熱された冷却剤を冷却する熱交換器である。
【0012】
有利には、タンク出口は、閉止弁を介して前記コンプレッサに接続され、かつ、コンプレッサ出口は、閉止弁及び圧縮された媒体を冷却するための熱交換器を介して、タンク入口に接続されている。
【0013】
また、焼入れチャンバが閉止弁を介して真空ポンプの組の入口に接続され、空気の除去、並びに、真空状態での焼入れチャンバ内への装入を可能とすると有利である。
【0014】
有利なことに、前記移動可能なテーブル及び囲みノズルの組は、焼入れ工程において冷却される加工品の形状にその都度調節され、これにより冷却剤の流入は均一かつ最適なものとされる。冷却剤は、好ましくは空気、窒素、ヘリウム、水素、もしくは二酸化炭素、又はこれらの混合物である。
【0015】
本発明に係る装置は、冷却工程中のいかなる点においても、特定の時間冷却剤の強制流れを阻止し、かつその後、一度あるいは何度か繰り返される種々の流れ・圧力の条件で流れを再開することにより、焼入れされる加工品の制御された冷却を可能にする。この方法により、冷却曲線を自由に作ること、鋼の最適微小構造および機械的特性をもたらすこと、及び焼き戻し工程(通常は硬化後に必要である)を排除することが可能となる。
【0016】
個々の加工品の制御された焼入れを適用することにより、各加工品の変形の最小化、並びに、同一のタイプの全品物に対する変形の完全な繰り返し性が得られ、同時に、卓越した機械的特性が得られる。
【0017】
以下、本発明を、冷却システムとともに、図示される焼入れチャンバの特定の実施形態を例に詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る装置は、加熱及び浸炭、拡散、予備冷却、及び冷却のための個別の真空チャンバを備えた連続真空炉内で動作する。焼入れチャンバ1には、加工品14の装入及び取出しのために構成された密閉ドア2,3が互いに対向する位置に取り付けられている。該焼入れチャンバ1は、空気を除去して前記焼入れチャンバ1内に真空状態を作り出すために閉止弁19を介して真空ポンプシステム18の入口に接続されている。
【0020】
焼入れチャンバ1の内部には、個々の加工品14が載置される移動可能なテーブル4が設けられ、該テーブルを、一組の移動可能なノズル5が囲んで設けられている。焼入れチャンバ1の入口には、複数の前記ノズル5に冷却剤を供給するタンク6が接続され、一方、焼入れチャンバ1の出口には、焼入れチャンバ1からの膨張した冷却剤を集めるタンク7の入口が接続されている。また、タンク7とタンク6との間には、冷却剤の閉ループ流れを保証するコンプレッサ15が接続されている。
【0021】
移動可能な前記テーブル4及び、移動可能な状態に囲繞した前記ノズル5の組の配置及びパラメータは、焼入れ工程中に冷却される加工品14の形状にその都度適合され、これにより、冷却剤の均一かつ最適な流入がもたらされる。
【0022】
前記タンク6の出口と焼入れチャンバ1の入口との間には、供給ガス流量を調節するための制御器及び閉止弁8が接続されている。一方、焼入れチャンバ1の出口とタンク7との間には、好ましくは、閉止弁9と、受入れガスの流量を制御するための制御器11と、焼入れ工程中に温度上昇した冷却剤を冷却するための熱交換器12とが設けられている。
【0023】
タンク7の出口は、閉止弁16を介して前記コンプレッサ15の入口に接続され、かつ、コンプレッサ15の出口は、閉止弁17及び冷却剤を冷却するための熱交換器13を介して、タンク6の入口に接続されている。
【0024】
上述した実施形態のものでは、機械構造鋼よりなる焼入れチャンバ1内に、熱処理理される加工品14として20 MnCr5 浸炭鋼からなる150mm ギアが入れられ、冷却剤として窒素が適用される。
【0025】
加工品14は、炉内にてオーステナイト化温度(例えば950℃)を超える温度で加熱しかつ所要の層厚さまで浸炭した後、真空内を前記焼入れチャンバ1に移される。焼入れチャンバ1内は、前記弁19を開き、前記真空システム18を用いることによって、少なくとも0.1hPa の真空状態とされる。次いで、装入ドア2を開き、加工品14が、搬送機構あるいはマニピュレータによって焼入れチャンバ1内に運ばれ、前記テーブル4上に載置される。装入ドア2及び真空バルブ19は閉じられる。次いで、焼入れチャンバ1へのガス入口における前記弁8、及びガス出口における前記弁9が開けられる。供給タンク6からの冷却ガスは2MPa で前記ノズル5から流れ出て加工品14に向けられ、冷却される。前記ガスが加工品14の熱を吸収することによって加工品14は冷却される。加熱されたガスは、大気圧で前記受入れタンク7に流れる。このガスは、タンク7に至る前に、ガス−ガス(窒素−空気)熱交換器12で冷却される。冷却ガスの流量(従って冷却速度)は、制御器10及び11によって調節される。これら制御器は、焼入れチャンバ1内のガス圧も設定する。前記受入れタンク7内の圧力が0.1 MPa まで上昇したら、前記コンプレッサ15が作動し、閉止弁16及び17が開き、かつ、前記ガスが他方の熱交換器13を介して前記供給タンク6にポンプにより引き戻され、これにより冷却ガスループが閉じられる。数十秒後、加工品14は、焼入れ(急冷)され、取出可能な温度まで、すなわち通常は200℃未満まで冷却される。閉止弁8が閉じられ、焼入れチャンバ1内の圧力が略常圧となるレベルまで降下した後、前記閉止弁9及び停止されていた前記コンプレッサ15の双方が閉じられる。同時に、閉止弁16及び17が閉じられる。次いで、取出しドア3が開かれ、搬送機構又はマニピュレータによって前記加工品14を焼入れチャンバ1から取り除くことが可能となる。上述の手順に従う処理によって、前記加工品14は適正に焼入れされ、表面において60〜62 HRC のレベルの、そして中心部において32〜34 HRC のレベルの硬さが得られる。また、ドア3を閉じた後、焼入れチャンバ1を0.1 hPa の真空として、別の加工品14を入れ、別の焼入れサイクルを進めることができる。各サイクルの継続時間は10〜1000秒である。
【0026】
冷却剤としてガスを用いることにより均等な冷却(専ら対流に基づいた単相プロセス)、並びに、ガス濃度あるいは流量の調節によるプロセス強度の完全な制御が実現される。個々の部品の焼入れ硬化処理によって、加工品形状に対して冷却ガスの流れを正確に調節することができ、大量生産された加工品の各々について冷却条件を完全に繰り返し提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 焼入れチャンバ
2 装入ドア
3 取出しドア
4 テーブル
5 ノズル
6 冷却剤をノズルに供給するタンク
7 焼入れチャンバから膨張した冷却剤を受け入れるタンク
8 閉止弁
9 閉止弁
10,11 制御器
12,13 熱交換器
14 焼入れ硬化処理される加工品
15 コンプレッサ
16,17 閉止弁
18 真空ポンプ システム
19 閉止弁