特許第6695736号(P6695736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695736
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】断熱材及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   F16L59/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-97200(P2016-97200)
(22)【出願日】2016年5月13日
(65)【公開番号】特開2017-203541(P2017-203541A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 幸久
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−225916(JP,A)
【文献】 特開昭54−075659(JP,A)
【文献】 特開平11−094189(JP,A)
【文献】 特開2012−092998(JP,A)
【文献】 実開昭57−030494(JP,U)
【文献】 特開2005−133837(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0144482(US,A1)
【文献】 特開平09−137890(JP,A)
【文献】 特開平07−280174(JP,A)
【文献】 特開2000−171085(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第01334196(GB,A)
【文献】 実開昭52−010663(JP,U)
【文献】 実開昭49−080462(JP,U)
【文献】 特開昭60−201196(JP,A)
【文献】 特開2000−249290(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0291984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/00−59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面状の内周面に複数の付属部材を付設してなる曲面状設備に設置される断熱材であって、
柔軟性のない複数個の単位断熱材を連結してなり、その任意の連結位置で折り曲げ可能であり、
前記付属部材は、前記曲面状設備の内周面に付設されている基端部に対して先端部が広がった形状であり、
前記曲面状設備に隣接して設置される他の断熱材との隣接面に、前記付属部材の基端部を挿入可能な切り欠き又は開孔を有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記複数個の単位断熱材は、その外周面どうしが粘着テープで連結されている、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の断熱材の施工方法であって、
前記断熱材を前記曲面状設備の内空側で一旦折り畳み、
当該折り畳んだ断熱材を前記付属部材間に挿入し、当該付属部材間で当該断熱材を広げ、前記切り欠き又は開孔に前記付属部材の基端部を挿入して前記曲面状設備の内周面に設置することを特徴とする断熱材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面状の内周面に複数の付属部材を付設してなる曲面状設備(工業炉、蓋、配管等)を断熱するための断熱材及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業炉及びその蓋、あるいは配管には、省エネ、CO削減、背面鉄皮の保護等を目的として断熱材が使用されている(例えば特許文献1)。これらの設備の中には、内周面が曲面状で、さらにその内周面にスタッド、熱電対用配管、ヒーター用配管、冷却用配管、ガス配管等の付属部材が複数(多数)配設される設備もある(本明細書では、このような設備を「曲面状設備」という。)。
【0003】
このような曲面状設備の内周面に設置する断熱材は、柔軟性のある(フレキシブルな)断熱材と柔軟性のない(リジッドな)断熱材とに大別される。前者は、柔軟性を有するため施工性には優れるものの、柔軟性を有するということは反面、断熱材の組織が破壊されやすいということであり、施工時に作用する外力等の影響で断熱材が粉化するなど劣化し、結果として断熱性に劣るという問題がある。したがって、高い断熱性を確保するには、柔軟性のない断熱材の使用が望まれる。
【0004】
しかし、柔軟性のない断熱材は施工性に劣るという問題がある。すなわち、曲面状設備においては、その内周面に多数の付属部材が付設(立設)されているので、これら付属部材間の先端側周長が内周の設置側長さより狭い場合、断熱材を挿入することができず施工できない。また、断熱材の外周長を先端側周長とした場合は、隣接する断熱材の周方向目地間に大きな隙間が生じ断熱性が低下する問題が起きる。さらに、付属部材の中には斜めに取り付けたり、ナット留めなどにより直径が一様でないものもあり、このような複雑な付属部材への対応も考えると、柔軟性のない断熱材の施工は容易なことではない。特に、複数の付属部材が混在する曲面状設備の場合は通常、配管などの大きさが大小様々で、さらにランダムに設置されることになるため、施工はより複雑化することになる。
【0005】
そこで、従来、曲面状設備における柔軟性のない断熱材の施工は、断熱材を周方向に短冊状になるように切断加工し、その小片を周方向に敷き並べるように施工することが一般的である。
【0006】
しかし、小片化することは目地数が増えることになるので、本質的に目地数相応の断熱性を犠牲にすることに繋がる。また、幅が狭くなるよう過剰に切断すると目地幅が大きくなるので、実質的な断熱性が低下する問題もある。さらに、付属部材の設置間隔は一定の誤差を含むので、事前に加工した形状の断熱材であっても、現地で再加工を余儀なくされることが多々あり、施工性が悪化する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−44510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、曲面状設備の内周面に容易に設置することができ、しかも高い断熱性を確保できる断熱材及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の断熱材は、曲面状の内周面に複数の付属部材を付設してなる曲面状設備に設置される断熱材であって、柔軟性のない複数個の単位断熱材を連結してなり、その任意の連結位置で折り曲げ可能であり、前記付属部材は、前記曲面状設備の内周面に付設されている基端部に対して先端部が広がった形状であり、前記曲面状設備に隣接して設置される他の断熱材との隣接面に、前記付属部材の基端部を挿入可能な切り欠き又は開孔を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の施工方法は、前記本発明の断熱材を使用した断熱構造の施工方法であって、前記断熱材を前記曲面状設備の内空側で一旦折り畳み、当該折り畳んだ断熱材を前記付属部材間に挿入し、当該付属部材間で当該断熱材を広げ、前記切り欠き又は開孔に前記付属部材の基端部を挿入して前記曲面状設備の内周面に設置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の断熱材は、柔軟性のない複数個の単位断熱材を連結し、その任意の連結位置で折り曲げ可能であるので、施工時に折り畳んで小さくすることができる。したがって、曲面状設備の内周面に容易に設置することができる。また、過剰に小片化する必要もないので目地数及び目地幅を低減でき、高い断熱性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の断熱材の一実施形態を示す概略斜視図である。
図2図1の断熱材を折り畳んだ状態の例を示す概略斜視図である。
図3図1の断熱材を曲面状設備の内周面に設置した状態を示す概略斜視図である。
図4図3に示す断熱材の設置状態を部分的に拡大して示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の断熱材の一実施形態を示す概略斜視図、図2図1の断熱材を折り畳んだ状態の例を示す概略斜視図、図3図1の断熱材を曲面状設備の内周面に設置した状態を示す概略斜視図である。
【0014】
図1の断熱材10は7個の単位断熱材1を連結したものである。具体的には、各単位断熱材1の外周面どうしが粘着テープ2で連結されている。これにより、断熱材10は、単位断熱材1の任意の連結位置で折り曲げ可能であり、例えば図2に示すように折り畳むことができる。
【0015】
ここで、各単位断熱材1(断熱材10)の外周面とは、図3に示すように、断熱材10を曲面状設備20の内周面21に設置するときにその内周面21に面する面のことである。また、単位断熱材1は、曲面状設備20の内周面21に沿う周方向の断面形状が台形状であり、その台形の長い方の底辺が単位断熱材1(断熱材10)の外周面を構成している。
【0016】
単位断熱材1は、断熱材本体1aを被覆材1bで覆ったもので、全体として柔軟性のない断熱材である。単位断熱材本体1aの材質は、断熱性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、粒径5〜30nmの超微粉(ヒュームドシリカ)を主原料とし、100nm以下の微細なマイクロポアー構造を有する微細多孔性断熱材(例えば特開2000−104110号公報の段落0013参照)など、高い断熱性を有する柔軟性のない断熱材を使用することができる。
【0017】
被覆材1bは、単位断熱材本体1aを水分などから保護するもので、アルミラミネートフィルム、ポリエチレンフィルム、アルミ箔などを使用することができる。被覆材1bは、単位断熱材本体1aを保護するために必要最小限の厚さであればよく、具体的には被覆材の厚さは150μm以下であることが好ましい。
【0018】
次に、断熱材10の施工方法について説明する。
【0019】
図3に示すように、曲面状設備20の内周面21には、付属部材として複数のスタッド22が、内周面21の周方向に一定の間隔で付設(立設)されている。これに対して断熱材10は、周方向に隣接するスタッド22間の内周の設置側長さと同じ長さを有する。したがって、先に説明したとおり、断熱材10は広げたままではスタッド22間に挿入することはできず施工できない。そこで、本発明の施工方法では、断熱材10を曲面状設備20の内空側で例えば図2のように一旦折り畳み、この折り畳んだ断熱材10をスタッド22間に挿入し、このスタッド22間で断熱材10を広げて曲面状設備20の内周面21に設置する。これにより、図3に示すように、各スタッド22間の内周面21に1枚の断熱材10が隙間なく設置できる。なお、図3において曲面状設備20の内周面21には、その周方向に加え長手方向にも付属部材(スタッド22a)が立設されているが、このような場合であっても、断熱材10にスタッド22aを挿入可能な切欠き又は開孔3を設ければ、問題なく施工できる。
【0020】
図4は、図3に示す断熱材10の設置状態を部分的に拡大して示す概略正面図である。図4に示すように、断熱材10を曲面状設備20の内周面21に設置した状態では、各単位断熱材1の側面どうしが接触して空目地を構成している。すなわち、断熱材10の設置状態において各単位断熱材1の側面どうしが接触して空目地を構成するように、施工対象の内周面21の形状(曲率)に合せて各単位断熱材1の形状・寸法を設定している。これにより、各単位断熱材1の側面どうしの隙間をなくすことができ、断熱性を向上させることができる。
【0021】
なお、曲面状設備の内周面に複数枚の断熱材を設置する施工の場合、各断熱材は、施工対象の内周面の設計形状に合わせてそれぞれ作製するので、その施工対象の内周面が設計形状どおりであれば各断熱材どうしの周方向あるいは長手方向の間に隙間が生じることはなく空目地となる。ただし、施工対象の内周面の形状が設計形状からずれている場合など、実際に断熱材を設置しようとすると、各断熱材どうしの周方向あるいは長手方向の間に隙間が生じることがある。このような場合、断熱材を構成する単位断熱材と同じ材質の調整用シートを各断熱材どうしの周方向あるいは長手方向の隙間に挟むか、又は事前に断熱材の周方向あるいは長手方向の端面に前記調整用シートを取り付けて施工すれば、各断熱材どうしの周方向あるいは長手方向の隙間をなくして空目地とすることができる。
【0022】
再び図4を参照すると、各単体断熱材1の外周面と内周面21との間の最大隙間Sは、7mm未満となるようにすることが好ましい。この最大隙間Sが7mm以上であると、隙間を埋めるモルタルが厚くなってしまい、ダレが生じて施工性が低下するとともに、曲面状設備20の有効内容積が小さくなってしまう。
【実施例】
【0023】
実施例として、5個の単位断熱材の外周面どうしを粘着テープで連結した本発明の断熱材を曲面状設備の内周面に設置する施工を行った。施工対象の内周面の内径は3000mmで、この内周面には周方向に725mmの間隔をおいて2本の付属部材(スタッド)を立設した。すなわち、内周の設置側長さは725mmである。一方、各単位断熱材の外周面の周方向長さは145mmで、これを5個連結することで、断熱材の周方向長さを前記内周の設置側長さと同じ長さとした。
【0024】
また、比較例として、前記5個の単位断熱材を個別に前記曲面状設備の内周面に設置する施工を行った。
【0025】
そして、実施例及び比較例について、施工性と断熱性を評価した。その評価結果を表1に示す。表1において、施工性は施工時間で評価し、施工時間が40秒以下を○(合格)、40秒超を×(不合格)とした。また、断熱性は施工対象の内周面に対する断熱材の設置面積率で評価し、設置面積率が99.6%以上を○(合格)、99.6%未満を×(不合格)とした。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すように、実施例では比較例に比べはるかに短い施工時間で断熱材を設置することができ、施工性の向上が確認できた。また、実施例では、5個の単位断熱材を連結して施工対象の内周面に合せた形状の1枚の断熱材を使用しているので、設置面積率が100%となり、高い断熱性を確保することができることも確認できた。
【0028】
これに対して、比較例では、5個の単位断熱材を個別に設置することから施工時間が長くなった。また、各単位断熱材を個別に設置すると、どうしても各単位断熱材どうしの間に隙間が生じるので、設置面積率が99.3%に低下した。
【符号の説明】
【0029】
1 単位断熱材
1a 単位断熱材本体
1b 被覆材
2 粘着テープ
3 切欠き又は開孔
10 断熱材
20 曲面状設備
21 内周面
22,22a 付属部材(スタッド)
図1
図2
図3
図4