(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無機化合物の陰イオンを含み、且つpH4〜9である溶液をポリ乳酸多孔質粒子に接触させることにより、前記陰イオンを前記ポリ乳酸多孔質粒子に吸着させることを特徴とする陰イオン吸着方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《陰イオン吸着方法》
本発明の第一態様の陰イオン吸着方法は、無機化合物の陰イオンを含み、且つpH4〜9である溶液(以下、処理対象液と呼ぶことがある。)をポリ乳酸多孔質粒子に接触させることにより、前記陰イオンを前記ポリ乳酸多孔質粒子に吸着させる方法である。
【0010】
前記無機化合物としては、例えば、セレン、ヒ素、クロム、フッ素、硫黄、リン等の無機元素を含む無機化合物が挙げられる。具体的には、例えば、セレン、ヒ素、クロムのオキソ酸、フッ化水素酸(フッ酸)、硫酸、リン酸等が挙げられる。
【0011】
前記無機化合物としては、オキソ酸が好ましく、前記無機元素を含む、1価又は2価の無機オキソ酸がより好ましい。
ここで、オキソ酸とは、1つの無機原子に水酸基(−OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、且つその水酸基のプロトンが脱離し得る無機化合物である。オキソ酸は水中では前記プロトンが脱離したオキソ酸イオンとなり得る。
【0012】
前記オキソ酸としては、セレンのオキソ酸が好ましく、セレンのオキソ酸イオンとしては、セレン酸イオン(SeO
42−)、セレン酸水素イオン(HSeO
4−)、亜セレン酸イオン(SeO
32−)、亜セレン酸水素イオン(HSeO
3−)が挙げられる。
【0013】
処理対象液に含まれる無機化合物の陰イオンは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0014】
処理対象液にポリ乳酸多孔質粒子を接触させる方法は特に限定されず、例えば、処理対象液にポリ乳酸多孔質粒子の粉末を投入して撹拌する方法、処理対象液にポリ乳酸多孔質粒子を含む懸濁液を投入して撹拌する方法、保持部材に保持されたポリ乳酸多孔質粒子に処理対象液を掛けて流す方法等が挙げられる。
【0015】
本発明において陰イオン吸着剤として使用するポリ乳酸多孔質粒子は、陰イオンを吸着する程度に小さい微細孔を有するものであれば特に限定されない。ポリ乳酸多孔質粒子の微細孔の平均孔径は、0.001μm〜5μmであることが好ましく、0.001μm〜1μmであることがより好ましく、0.001μm〜0.5μmであることがより好ましい。ポリ乳酸多孔質粒子の多孔質構造が上記の好適な微小孔を有することによって、目的の陰イオンがその微小空間に物理的又は化学的に捕捉され易くなる。また、上記の好適な微小孔を有するポリ乳酸多孔質粒子の多孔質構造は、活性炭と同様に目的の陰イオンを吸着し得る広い表面積を提供するので好ましい。
【0016】
処理対象液にポリ乳酸多孔質粒子を添加し、目的の陰イオンをポリ乳酸多孔質粒子に吸着させる際の処理中の処理対象液(ポリ乳酸多孔質粒子分散液)のpHは、4以上9以下が好ましく、4以上7以下がより好ましく、4以上6以下の酸性であることさらに好ましい。処理対象液のpHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムを添加する方法が挙げられる。
【0017】
処理中の処理対象液のpHが4以上7以下であると、ポリ乳酸多孔質粒子の加水分解を抑制し、ポリ乳酸多孔質粒子による目的の陰イオンの吸着力をより高めることができる。
処理対象液が弱酸性側であると、目的の陰イオンの吸着力がより高まるメカニズムは不明であるが、次のことが要因として考えられる。すなわち、(1)pHが多孔質構造に影響を与えること、(2)ポリ乳酸の主鎖を構成するエステル結合の一部が多孔質構造の形成時に切断されており、その切断で生じたカルボキシル基及び水酸基のプロトンの脱離(負電荷の形成)が抑制されること、等が考えられる。
【0018】
処理対象液とポリ乳酸多孔質粒子を接触させる際の処理対象液の温度は特に限定されず、例えば、4〜40℃が好ましく、4〜30℃がより好ましく、4〜20℃がさらに好ましい。
上記温度範囲であると、ポリ乳酸多孔質粒子による目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。上記温度範囲の下限値以上であると、処理対象液中における目的の陰イオンの拡散速度が高まり、ポリ乳酸多孔質粒子に接触して吸着する効率がより高められる。上記温度範囲の上限値以下であると、ポリ乳酸多孔質粒子の加水分解を抑制し、ポリ乳酸多孔質粒子による目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。
【0019】
処理対象液に含まれる目的の陰イオンの含有量に対して、この処理対象液に接触するポリ乳酸多孔質粒子の量は特に限定されず、予備実験を行って経験的に目的の陰イオンを充分に吸着できることを確認した量に設定すればよい。
通常、ポリ乳酸多孔質粒子の添加量を多くすれば、吸着可能な陰イオンの量も多くなり、例えば、ポリ乳酸多孔質粒子による無機オキソ酸イオンの吸着量として、例えば0.45〜1.5mol/kgが挙げられる。
【0020】
処理対象液にポリ乳酸多孔質粒子の粉末を投入して撹拌する吸着方法を採用した場合には、前記陰イオンを吸着したポリ乳酸多孔質粒子を処理対象液から回収することができる。
処理対象液からポリ乳酸多孔質粒子の粉末を回収する方法としては、例えば、沈殿法、濾過法等が挙げられる。沈殿法としては、例えば、処理対象液を静置して沈殿させる方法、処理対象液に硫酸バンド、PAC、高分子ポリマー凝集剤等を添加して凝集させて沈殿させる方法等が挙げられる。
【0021】
ポリ乳酸多孔質粒子の粉末をカラムに充填し、このカラムに目的の陰イオンを含む処理対象液を流入させる吸着方法も採用することができる。この場合、ポリ乳酸多孔質粒子が目的の陰イオンを吸着し、目的の陰イオンが除去された処理対象液をカラムから流出させて得ることができる。
【0022】
《陰イオン吸着体》
本発明で用いる陰イオン吸着体は、無機化合物の陰イオンを吸着する吸着剤の主要な成分としてポリ乳酸多孔質粒子を有することが好ましい。ここで「主要な成分」とは、吸着剤の各成分間における目的の陰イオンの吸着量を比較した場合、最も吸着量の多い成分ということを意味する。前記吸着体は、前記吸着剤を保持する保持部材をさらに有していてもよい。
【0023】
吸着剤としてのポリ乳酸多孔質粒子の形状は特に限定されず、真球状であってもよいし、回転楕円体形状であってもよいし、その他の不定形状であってもよい。これらの形状のポリ乳酸多孔質粒子を水などの溶媒に分散させたポリ乳酸多孔質粒子懸濁液を吸着剤とすることもできる。
【0024】
前記保持部材としては、内部にポリ乳酸多孔質粒子を入れて保持する容器、カラム(筒)、笊、網等が挙げられる。また、表面にポリ乳酸多孔質粒子を固定することが可能な保持部材も採用でき、例えば、板材の表面にポリ乳酸多孔質粒子を固定した形態が挙げられる。
【0025】
《ポリ乳酸多孔質粒子の合成》
本発明で用いるポリ乳酸多孔質粒子は公知の方法で化学合成されたものであり、特開2009−242728号公報に開示されたポリ乳酸多孔質粒子の製造方法によって得られたものが好ましい。
【0026】
上記公報に記載されたポリ乳酸多孔質粒子の製造方法は、(i)ポリ乳酸と、ポリ乳酸の良溶媒である第1溶媒とを混合し、当該混合物を加熱してポリ乳酸を溶融する溶融工程;及び(ii)前記溶融工程によって得られた溶融液をポリ乳酸が結晶化又は固化する温度で冷却する冷却工程を有する。この製造方法は、さらに(iii)冷却工程後の溶融液からポリ乳酸の結晶を分離する分離工程と、(iv)分離工程によって得られたポリ乳酸の結晶と、ポリ乳酸の溶解度に比して第1溶媒の溶解度が高い第2溶媒とを接触させ、ポリ乳酸の結晶を洗浄する洗浄工程と、(v)洗浄工程後のポリ乳酸の結晶を乾燥する乾燥工程と、を有することが好ましい。
【0027】
上記の製造方法によれば、例えば、平均粒子径が99〜700μmであり、多孔質構造を構成する孔の平均孔径が0.27μm〜1.4μm程度であり、孔径の変動係数が25%以下であり、結晶化度が50%以上であるポリ乳酸多孔質粒子が容易に得られる。
【0028】
ここでポリ乳酸多孔質粒子の「粒子径」は、ポリ乳酸多孔質粒子を電子顕微鏡によって観察し、その二次元形状に対する最大内接円の直径である。例えば、ポリ乳酸多孔質粒子の二次元形状が、円に近似することが妥当な形状である場合(他の形状よりも円に近い場合)はその円の直径が粒子径であり、楕円に近似することが妥当な場合はその楕円の短径が粒子径であり、正方形に近似することが妥当な場合はその正方形の辺の長さが粒子径であり、長方形に近似することが妥当な場合はその長方形の短辺の長さが粒子径である。また「平均粒子径」は、無作為に選択された複数の粒子の粒子径を電子顕微鏡で観察して計測し、その平均値を計算することによってもとめられる。測定する粒子の数は特に限定されないが、例えば20個以上が好ましい。
【0029】
ポリ乳酸多孔質粒子の群の粒子径の変動係数は、観察した粒子径の標準偏差÷平均値×100(%)の式によって算出され、その値が小さいほど均一な粒子径を有することを示す。
本発明で用いるポリ乳酸多孔質粒子の群の上記変動係数は、25%以下が好ましく、20%以下が好ましく、15%以下がさらに好ましい。均一な粒子径を有するポリ乳酸多孔質粒子を用いることによって、安定して均質な吸着性能が得られる。
【0030】
ポリ乳酸多孔質粒子の「孔径」は、孔の開口形状に対する最大内接円の直径であり、例えば、孔の開口形状が、円に近似することが妥当な形状である場合(他の形状よりも円に近い場合)はその円の直径であり、楕円形に近似することが妥当な場合はその楕円の短径であり、正方形に近似することが妥当な場合はその正方形の辺の長さであり、長方形に近似することが妥当な場合はその長方形の短辺の長さである。また「平均孔径」は、無作為に選択された複数の孔の孔径を顕微鏡で観察して計測し、その平均値を計算することによってもとめられる。測定する孔の数は特に限定されないが、例えば20個以上が好ましい。
【0031】
ポリ乳酸多孔質粒子の多孔質構造を構成する孔の孔径の変動係数は、観察した孔径の標準偏差÷平均値×100(%)の式によって算出され、その値が小さいほど均一な孔径を有する多孔質粒子であることを示す。
本発明で用いるポリ乳酸多孔質粒子の上記変動係数は、45%以下が好ましく、35%以下が好ましく、25%以下がさらに好ましい。均一な孔径を有するポリ乳酸多孔質粒子を用いることによって、安定して均質な吸着性能が得られる。
【0032】
ポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度の測定は、示差走査熱量測定法(DSC法)により行うことができる。DSC法は、例えば、5〜10mgの試料をアルミパンに詰め、DSC装置内に窒素を微量流しながら、5℃/分で室温から150℃まで5℃/分で昇温して行うことができる。結晶化度χcは、次式で求められる。
(式) χc(%)=ΔHm÷ΔHf×100
上式中ΔHmはDSC装置で実測したサンプルの融解熱を示し、ΔHfは100%結晶ポリ乳酸の平衡融解熱を示す。
本発明で用いるポリ乳酸多孔質粒子の結晶化度は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。結晶化度が高いほど、ポリ乳酸多孔質粒子の靱性などの機械的強度が高まり、本発明の陰イオン吸着方法を実施する際の取り扱いや操作が容易になる。
【実施例】
【0033】
[ポリ乳酸多孔質粒子の合成]
アンプル管中のフタル酸ジエチルに、高純度のポリL−乳酸(分子量10〜30万)を濃度10w/w%となるように添加した。アンプル管内の空気を窒素で置換し、ガスバーナーを用いてアンプル管を封管した後、アンプル管を160℃のオイルバス中に10分間浸し、ポリL−乳酸を溶融させ、さらに0℃のウォーターバス中に20分間浸漬した。この冷却によってアンプル管内にポリ乳酸の粒子が生成した。
上記の粒子をアンプル管から取り出してろ過法によって粒子を回収した。得られた粒子の約10gに対して1000mlのメタノールを添加して洗浄した後、ろ過法によって粒子を回収した。この粒子を真空乾燥によって乾燥し、目的のポリ乳酸多孔質粒子を得た。
作製したポリ乳酸多孔質粒子の一部について金スパッタリングを行い、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その粒子径等を測定した。
測定の結果、作製したポリ乳酸多孔質粒子の平均粒子径は約40μmであり、その変動係数は約25%であり、平均孔径は約0.4μmであり、その変動係数は約40%であった。
【0034】
[実施例1]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液(pH6)を調製した。上記合成で得たポリ乳酸多孔質粒子を用いて、以下の実験を行った。
セレン酸イオンを含む上記水溶液に、上記で合成したポリ乳酸多孔質粒子を、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。この水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、ポリ乳酸多孔質粒子をろ過法で回収し、ポリ乳酸多孔質粒子が除かれた濾液のセレン酸イオン濃度をJIS K0102:2013年の「67.セレンの水素化合物発生ICP発光分光分析法」によって測定した。
上記実験によって、ポリ乳酸多孔質粒子のセレン酸イオンに対する吸着等温線を得た(
図1)。
図1に示す結果から、ポリ乳酸多孔質粒子の添加によって、溶存セレン酸イオンの平衡濃度が環境基準(0.01 mg/L)以下になることが確認された。
【0035】
[比較例1]
ポリ乳酸多孔質粒子に代えて、市販の架橋型アクリル樹脂粒子(平均粒子径約20μm、非多孔質)を用いた以外は、実施例1と同様に実験した。
その結果、上記水溶液のセレン酸イオン濃度は、試験前と同じ10mg/Lであった。
【0036】
[比較例2]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液に、水酸化ナトリウムを添加して、pH11に調製した水溶液を用いて、40℃で3日間撹拌した以外は、実施例1と同様に実験した。
その結果、いずれの濃度で添加した場合においても、上記水溶液のセレン酸イオン濃度は約10mg/Lであり、初期濃度と同じであった。回収後のポリ乳酸多孔質粒子を観察したところ、粒子の一部が加水分解して、多孔質構造が崩壊していると考えられた。
【0037】
[比較例3]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液に、酢酸を添加して、pH約3に調製した水溶液を用いて、40℃で3日間撹拌した以外は、実施例1と同様に実験した。
その結果、いずれの濃度で添加した場合においても、上記水溶液のセレン酸イオン濃度は約10mg/Lであり、初期濃度と同じであった。回収後のポリ乳酸多孔質粒子を観察したところ、粒子の一部が加水分解して、多孔質構造が崩壊していると考えられた。
【0038】
[比較例4]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液に、硫酸を添加して、pH約3に調製した水溶液を用いて、40℃で3日間撹拌した以外は、実施例1と同様に実験した。
その結果、いずれの濃度で添加した場合においても、上記水溶液のセレン酸イオン濃度は約10mg/Lであり、初期濃度と同じであった。回収後のポリ乳酸多孔質粒子を観察したところ、粒子が硬化して、多孔質構造が崩壊していると考えられた。
【0039】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。