【実施例】
【0039】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、γ‐アルミナと、γ‐アルミナに担持された白金と、から構成される柱状の水素化触媒を分析した。γ‐アルミナは、多孔質の担体である。白金は、活性金属である。水素化触媒は元来炭素を含有しない。実施例1の水素化触媒は、有機化合物を水素化する活性を有する。実施例1の水素化触媒は、四葉型の端面を有する柱状体であった。
【0041】
実施例1の被覆工程では、上記水素化触媒を、シアノアクリレートの液溜めに浸漬して、水素化触媒の表面全体を、シアノアクリレート及びポリシアノアクリレートのうち少なくともいずれか一つを含む樹脂膜で覆った。
【0042】
実施例1の包埋工程では、包埋材として、エポキシ樹脂を用いた。エポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂の一種である。エポキシ樹脂としては、BUEHLER社製のEpoxiCure
TM2を用いた。実施例1の包埋工程では、上記樹脂膜で覆われた水素化触媒を、円柱状の空の容器の中心部に立てた。続いて、未硬化のエポキシ樹脂を容器内へ注ぎ込み、水素化触媒をエポキシ樹脂中に埋没させた。続いて、熱硬化性樹脂を30℃で加熱して硬化させた。
【0043】
以上の工程により、水素化触媒が包埋された実施例1の試料を得た。
【0044】
実施例1の断面形成工程では、水素化触媒の側面に垂直な方向において、試料を研磨した。換言すれば、実施例1の断面形成工程は、水素化触媒の端面に平行な方向において、試料を研磨した。この研磨により、試料の断面を露出させた。試料の断面は、分析の対象である水素化触媒の断面と、水素化触媒の断面を囲む包埋材(エポキシ樹脂)の断面と、から構成されていた。試料の研磨には、研磨紙及び研磨布を用いた。続いて、導電材である金を、研磨された試料8の断面8cへ蒸着した。
【0045】
続く分析工程では、水素化触媒の断面を含む試料の断面を、SEM及びEPMAで分析した。分析の結果、水素化触媒とエポキシ樹脂との界面に隙間がないことが確認された。EPMAを用いた分析では、電子線を試料の断面へ照射し、試料の断面に存在する炭素の特性X線を検出した。検出された特性X線の強度に基づき、試料の断面における炭素の分布図を得た。実施例1の試料の断面における炭素の分布図を、
図3の(a)に示す。
【0046】
さらに、EPMAを用いた分析工程では、水素化触媒の表面に略垂直な方向に沿って、水素化触媒の断面、及び包埋材の断面を電子線で走査した。換言すれば、
図3の(a)に示す四葉型の水素化触媒の断面の外縁を横断する線分に沿って、試料の表面を電子線で走査した。電子線で走査された試料の表面から放出された白金の特性X線を検出し、水素化触媒の表面に垂直な方向における白金の特性X線の強度の分布を得た。水素化触媒の表面に垂直な方向とは、水素化触媒の深さ方向と言い換えてもよい。実施例1の水素化触媒の表面に垂直な方向における白金の特性X線の強度の分布を、
図4に示す。
【0047】
白金の場合と同様の方法で、水素化触媒の表面に垂直な方向におけるアルミニウムの特性X線の強度の分布を得た。実施例1の水素化触媒の表面に垂直な方向におけるアルミニウムの特性X線の強度の分布を、
図5に示す。
【0048】
白金の場合と同様の方法で、水素化触媒の表面に垂直な方向における酸素の特性X線の強度の分布を得た。実施例1の水素化触媒の表面に垂直な方向における酸素の特性X線の強度の分布を、
図6に示す。
【0049】
(実施例2)
実施例2の被覆工程では、シアノアクリレートの代わりに、トップコート剤を用いた。つまり、実施例2の被覆工程では、水素化触媒をトップコート剤の液溜めに浸漬して、水素化触媒の表面全体をトップコート剤からなる塗膜(樹脂膜)で覆った。トップコート剤としては、大創産業社製のWinmax Quick Dry TOP COATを用いた。
【0050】
被覆工程が異なること以外は実施例1と同様の方法で、実施例2の試料を得た。
【0051】
実施例1と同様の方法で、実施例2の試料の断面をSEM及びEPMAにより分析した。分析の結果、水素化触媒とエポキシ樹脂との界面に隙間がないことが確認された。実施例2の試料の断面における炭素の分布図を、
図3の(b)に示す。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、被覆工程を行わなかった。つまり、比較例1では、水素化触媒の表面を樹脂膜で覆うことなく、水素化触媒をエポキシ樹脂中へ包埋した。被覆工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1の試料を得た。
【0053】
実施例1と同様の方法で、比較例1の試料の断面をSEM及びEPMAにより分析した。分析の結果、水素化触媒とエポキシ樹脂との界面に隙間がないことが確認された。比較例1の水素化触媒の表面に垂直な方向における白金の特性X線の強度の分布を、
図7に示す。比較例1の水素化触媒の表面に垂直な方向におけるアルミニウムの特性X線の強度の分布を、
図8に示す。比較例1の水素化触媒の表面に垂直な方向における酸素の特性X線の強度の分布を、
図9に示す。
【0054】
(比較例2)
比較例2の被覆工程では、シアノアクリレートの代わりに、光硬化性樹脂の一種であるアクリル樹脂を用いた。つまり、比較例2の被覆工程では、水素化触媒を未硬化のアクリル樹脂の液溜め中に浸漬して、水素化触媒の表面全体を、アクリル樹脂から構成される樹脂膜で覆った。比較例2で用いたアクリル樹脂は、日本電子社製の可視光硬化性包埋樹脂D-800であった。
【0055】
被覆工程が異なること以外は実施例1と同様の方法で、比較例2の試料を得た。
【0056】
実施例1と同様の方法で、比較例2の試料の断面をSEM及びEPMAにより分析した。分析の結果、水素化触媒と光硬化性樹脂との界面に隙間がないことが確認された。比較例2の試料の断面における炭素の分布図を、
図3の(c)に示す。
【0057】
[
図3の(a)、(b)及び(c)の比較]
図3の(a)は、実施例1の試料の断面における炭素の分布図である。
図3の(b)は、実施例2の試料の断面における炭素の分布図である。
図3の(c)は、比較例2の試料の断面における炭素の分布図である。
図3の(a)、(b)及び(c)其々において、四葉状の水素化触媒の断面の外縁よりも外側の領域が白色(明色)である。この白色(明色)は、外縁よりも外側の領域における炭素の濃度が非常に高いことを示している。つまり、
図3の(a)、(b)及び(c)により、水素化触媒の断面の外縁よりも外側の領域は、被覆工程の樹脂膜、及び包埋工程のエポキシ樹脂であることが確認される。四葉状の水素化触媒の断面の外縁は、水素化触媒の表面に相当する。
図3の(a)及び(b)では、四葉状の水素化触媒の断面の外縁よりも内側の領域が暗色(黒色)である。この暗色(黒色)は、水素化触媒の外縁よりも内側の領域における炭素の濃度が非常に低いことを示している。つまり、
図3の(a)及び(b)は、樹脂膜を構成する樹脂、及び包埋材を構成するエポキシ樹脂の水素化触媒への浸み込みが抑制されていることを示唆している。
【0058】
図3の(c)は、比較例2の試料の断面における炭素の分布図である。
図3の(a)及び(b)とは対照的に、
図3の(c)では、四葉状の水素化触媒の断面の外縁に沿って、グレー(淡色)の部分が存在している。また、
図3の(c)では、グレーの部分よりも内側に、黒色(暗色)の領域が存在している。色の薄さ(明るさ)は、炭素の濃度の高さを意味するので、グレーの外縁における炭素の濃度は、黒色の領域における炭素の濃度よりも高い。したがって、
図3の(c)は、光硬化性樹脂の一部が水素化触媒の表面に開口する細孔の内部に浸み込み、光硬化性樹脂を構成する炭素が水素化触媒の外縁において検出されたことを示唆している。
【0059】
[
図4〜9の比較]
図4〜9の横軸の方向は、水素化触媒の表面に略垂直な方向である。
図4〜9の横軸の方向は、電子線で走査された方向と言い換えてもよい。
図4〜9の横軸の原点(ゼロ)は、水素化触媒の表面に相当する。
図4〜9の横軸における正の値は、水素化触媒の表面と、水素化触媒の内部にある測定点と、の距離(μm)である。
図4〜9の横軸における負の値の絶対値は、水素化触媒の表面と、水素化触媒の外側にある測定点と、との距離(μm)である。
【0060】
上述の通り、実施例1及び比較例1では、同じ水素化触媒を分析した。
図4及び
図7のいずれも、原点からの距離が+10μm以内である領域(水素化触媒の表面近傍)に白金が局在していることを示している。しかし、
図4に示す実施例1の白金の特性X線の極大値は、
図7に示す比較例1の白金の特性X線の極大値よりも大きいことが確認された。したがって、
図4及び
図7は、比較例1の水素化触媒の表面に染み込んだエポキシ樹脂が、白金の特性X線の検出を妨げていることを示唆している。つまり、実施例1では、比較例1に比べて、硬化の過程におけるエポキシ樹脂の水素化触媒への浸み込みが抑制され、水素化触媒における白金の分布が正確に分析された。
【0061】
アルミニウム及び酸素其々の特性X線はいずれも、γ‐アルミナ(担体)に由来するので、
図5に示すアルミニウムの特性X線の強度分布のプロファイルは、
図6に示す酸素の特性X線の強度分布のプロファイルと略一致していた。
【0062】
(比較例3)
比較例3の被覆工程では、シアノアクリレートの代わりに、市販の木工用ボンドを用いた。つまり、比較例3の被覆工程では、水素化触媒の表面全体を、木工用ボンドから構成される樹脂膜で覆った。比較例3で用いた木工用ボンドは大創産業社製の木工用ボンドであった。
【0063】
被覆工程が異なること以外は実施例1と同様の方法で、比較例3の試料を得た。
【0064】
実施例1と同様の方法で露出させた比較例3の試料の断面をSEM及びEPMAにより分析した。分析の結果、木工用ボンドとエポキシ樹脂(包埋材)との界面に隙間があることが確認された。つまり、エポキシ樹脂の一部が、木工用ボンドで被覆された水素化触媒の表面から剥離していることが確認された。また比較例3の分析の結果は、木工用ボンド及びエポキシ樹脂の水素化触媒の内部に浸み込みが抑制されていることを示唆していた。
【0065】
(比較例4)
比較例4の被覆工程では、シアノアクリレートの代わりに、市販の接着剤を用いた。つまり、比較例4の被覆工程では、水素化触媒の表面全体を、市販の接着剤から構成される樹脂膜で覆った。市販の接着剤は、セメダイン株式会社製のセメダインCであった。被覆工程が異なること以外は実施例1と同様の方法で、比較例4の試料を得た。市販の接着剤は、シアノアクリレート及びトップコート剤に比べて、水素化触媒の表面全体へ塗り難く、実用に向かないことが確認された。