特許第6695965号(P6695965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6695965進行している鋼基材上にある酸化物層のキャラクタリゼーションステップを含む、鋼製品の製作のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695965
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】進行している鋼基材上にある酸化物層のキャラクタリゼーションステップを含む、鋼製品の製作のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3563 20140101AFI20200511BHJP
【FI】
   G01N21/3563
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-516414(P2018-516414)
(86)(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公表番号】特表2018-529965(P2018-529965A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】IB2016055879
(87)【国際公開番号】WO2017056061
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年5月22日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/057496
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】IB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリク,ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】グリジェ,ダビッド
【審査官】 中澤 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−325755(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102507462(CN,A)
【文献】 特開2013−044729(JP,A)
【文献】 特開平08−219891(JP,A)
【文献】 特開平10−206125(JP,A)
【文献】 Sergio Rodriguez et al,Automatic Slag Characterization based on Hyperspectral Image Processing,2010 IEEE 25th Conference on Emerging Technologies and Factory Automation,米国,2010年 9月13日,第1-4頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
21/17−21/61
21/84−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行している鋼基材上に存在する酸化物層のキャラクタリゼーションステップを含む、鋼製品の製作のための方法であって、前記キャラクタリゼーションステップが、
・酸化物表面を画定している部位である、酸化物層を備える前記鋼基材の部位を用意するステップ、
・各部分(Lrλ,M)が、それぞれ前記酸化物表面上に位置する複数の箇所のうちの1つ(M)から集められ、それぞれ複数の波長(λ1、λ2、...)のうちの波長(λ)を有する場合において、当該集められた光(Lr)の部分(Lrλ,M)の強度をそれぞれ表す強度値(Iλ,M)を得るために、ハイパースペクトルカメラ(20)を使用して前記酸化物表面から光(Lr)を集めるステップ、
・前記得られた強度値(Iλ,M)を、参照用酸化物を対象にして得られた参照用強度値(Rλ,M)と比較するステップ
・前記酸化物層中の参照用酸化物の量を計算するステップ
・前記複数の波長(λ1、λ2、...)に対比させて前記吸光度値(Aλ、Μ)をプロットすることによって得られた曲線(C7、C8、C9、C10、C11)より下に位置する領域の表面を表すパラメータ(B)を計算するステップ、および、
・少なくとも前記パラメータ(B)の関数として得られる厚さである、前記酸化物層(22)の厚さ(E)を計算するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
参照用酸化物の量を計算する前記ステップが、
・前記参照用強度値(Rλ,M)を使用して、参照用吸光度値(OAλ、Μ)を計算するサブステップと、
・前記強度値(Iλ,M)を使用して、吸光度値(Aλ、Μ)を計算するサブステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記参照用吸光度値(OAλ、Μ)および前記吸光度値(Aλ、Μ)を計算する前記ステップが、前記参照用吸光度値(OAλ、Μ)および前記吸光度値(Aλ、Μ)のそれぞれを
【数1】
および
【数2】
(式中、Dλ,Mが、前記ハイパースペクトルカメラ(20)のノイズを表し、Rλ,Mが、前記参照用強度値(Rλ,M)を表し、Iλ,Mが、前記強度値を表し、Wλ,Mが、白色度の値を表す。)と表すことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハイパースペクトルカメラ(20)の前記ノイズDλ,Mおよび前記白色度の値Wλ,Mを判定するための較正ステップを含む、請求項3に記載の方法
【請求項5】
参照用酸化物の量を計算する前記ステップが、ベースライン補正ステップを含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記関数が、線形である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
複数の参照用酸化物試料(11)の使用によって、前記参照用酸化物の少なくとも1つを対象にして前記関数を判定するステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、前記複数の参照用酸化物試料がそれぞれ、前記鋼から製造された基材(121)および前記基材(121)上に堆積された前記少なくとも1種の参照用酸化物からできた層(122)を備え、前記層(122)が、それぞれ複数の厚さを有する、方法。
【請求項8】
前記入射光(Li)が、前記酸化物表面(22A)に対して垂直な方向(D)との間の角度(α)を画定しており、前記角度(α)が、40°から80°の間に含まれる、請求項3からのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記集められた光(Lr)および前記集められた参照用の光(Lrr)が、前記酸化物表面(22A)および前記鋼から製造された前記表面のそれぞれによる自然発生的な光の放出によって得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の波長(λ1、λ2...)が、8μmから12μmまでの範囲の波長を含む、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記複数の波長(λ1、λ2...)のうちのすべての波長が、8μmから12μmの間に含まれる、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記参照用酸化物が、SiO、SiOCHおよび非晶性TiOの1つまたは複数を含む、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
・前記酸化物層の前記キャラクタリゼーションステップの完了後、比較結果を少なくとも得るために、前記酸化物層を対象にして得られた前記キャラクタリゼーションを、前記酸化物層の仕様を表す1種または複数のパラメータと比較するステップ、および、
・前記比較結果が所定の許容範囲に収まっていない場合、前記酸化物層の補正のさらなるステップ
をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
酸洗いラインの出口またはアニーリングラインの出口で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
補正の前記さらなるステップが、前記鋼基材の酸洗いである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
鋼基材上に存在する酸化物層をキャラクタリゼーションするための装置(10)であって、
・各部分(Lrλ,M)が、それぞれ前記酸化物表面上に位置する複数の箇所のうちの1つ(M)から集められ、それぞれ複数の波長(λ1、λ2、...)のうちの波長(λ)を有する場合において、当該集められた光(Lr)の部分(Lrλ,M)の強度をそれぞれ示す強度値(Iλ,M)を得るために、酸化物層を有する前記鋼基材の部位の酸化物表面から光(Lr)を集めるようになされたハイパースペクトルカメラ(20)、
・前記得られた強度値(Iλ,M)を、参照用酸化物を対象にして得られた参照用強度値(Rλ,M)と比較するための手段、および、
・前記酸化物層中における参照用酸化物の量を計算するための手段
・前記複数の波長(λ1、λ2、...)に対比させて前記吸光度値(Aλ、Μ)をプロットすることによって得られた曲線(C7、C8、C9、C10、C11)より下に位置する領域の表面を表すパラメータ(B)を計算する手段、および、
・少なくとも前記パラメータ(B)の関数として得られる厚さである、前記酸化物層(22)の厚さ(E)を計算する手段
を備える、装置。
【請求項17】
赤外光を生成するようになされた光源(15)をさらに備える、請求項16に記載の装置(10)。
【請求項18】
前記ハイパースペクトルカメラ(20)が、LWIRハイパースペクトルカメラである、請求項16または17に記載の装置(10)。
【請求項19】
請求項1から15のいずれかに記載の方法を実施するようになされており、前記キャラクタリゼーションステップを実施するようになされた装置(10)を備える、鋼帯(2)の表面を処理するための設備(1)であって、前記鋼帯(2)が、鋼基材(21)および前記鋼基材(21)上に存在する酸化物層(22)を有する、設備(1)。
【請求項20】
連続亜鉛めっきラインまたは酸洗いラインである、請求項19に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼基材上に存在する酸化物層のキャラクタリゼーションステップを含む、鋼製品の製作のための方法であって、酸化物層によって形成された酸化物表面から光を集めるステップならびにこの酸化物層の組成および場合により厚さを得るために、集められた光を使用するステップを含む、方法に関する。
【0002】
本発明は、上記方法を実施するようになされた装置を備える、例えば亜鉛めっき処理において、鋼帯のような鉄合金ストリップの表面を処理するための設備にも関する。
【背景技術】
【0003】
このような酸化物層の厚さは、例えば、数十ナノメートルから数百ナノメートルまでの範囲である。
【0004】
通常、アニーリングステップ中において、例えば亜鉛めっきによるコーティング前において、鋼帯の加熱が、直接燃焼式アニーリング炉または放射管式アニーリング炉内で実施される。しかしながら、これらの炉を使用して、ストリップを加熱すると、ストリップの表面上に酸化物が形成される可能性があり、これらの酸化物は通常、コーティング前に、さらなる酸洗いステップおよび/またはショットブラストステップによって除去される。もしこれらの酸化物が除去されなかった場合、鋼板表面上に塗布しようとする液体金属の濡れ性が低すぎ、鋼表面上にむき出しの場所が発生する可能性がある。
【0005】
この欠点は、ストリップ組成物が、Si、Mn、Al、Cr、BおよびP等の容易に酸化される著しい量の元素を含む場合、特に見受けられる。
【0006】
それを超えると上記欠点が発生し得る含量は、当該元素が単独で採用される場合、Si、Mn、Al、PおよびCrが重量において約0.5%であり、Bが5ppmである。しかしながら、これらの限度は、これらの元素の幾つかが鋼中に存在する場合、顕著に低下し得る。例えば、0.2%のMn、0.02%のSiおよび5ppmのBを有する極低炭素焼付け硬化型鋼は、ストリップ表面に至るまで迅速に拡散し、Mn酸化物およびSi酸化物を連続フィルムとして沈殿させる、Bが存在するため、かねてより、このような濡れの課題が付随し得る。
【0007】
一般的に言えば、この液体金属による濡れ不良の危険性は、デュアルフェーズ鋼、TRIP(変態誘起塑性)鋼、TWIP(双晶誘起塑性)鋼および電気鋼等のようなすべての高強度鋼においても見受けられるが、理由として、これらの鋼が、が前記元素の少なくとも1種を含むという点がある。デュアルフェーズ鋼の場合、Mnの量は一般に、3重量%未満であり、Cr、SiまたはAlが、一般に1重量%未満の量で添加されている。TRIP鋼の場合、Mnの量は一般に、2重量%未満であり、最大2重量%のSiまたはAlが伴う。TWIP鋼の場合、Mnの量は、25重量%という多さであってよく、AlまたはSi(最大3重量%)が伴い得る。
【0008】
例えば熱処理のための高Crステンレス鋼と同様に、特に大量(最大10重量%)のAlおよび/またはSiを含有する低密度鋼もまた、上記の酸化物形成という現象に影響されやすい。
【0009】
従って、鋼帯上にある酸化物層の検出および確定は、重要な課題である。最近、鋼基材の表面上に存在する酸化物の種類を判定するために最も一般的に使用されている技法は、赤外分光法、より厳密にはIRRAS(赤外反射吸収分光法)である。赤外分光法は、非破壊式であるという利点を有する。
【0010】
このような技法を用いた場合、酸化物層の厚さを査定することもできる。しかしながら、層の厚さを判定するための好ましい非破壊式の光学的技法は、ナノメートルによる偏光解析である。
【0011】
残念ながら、赤外分光法と偏光解析は両方とも、数秒から数分までの範囲の比較的長い取得時間を必要とし、これにより、赤外分光法と偏光解析は、製造施設においてオンライン式に実施することができない。
【0012】
さらに、一般的に公知の技法の大部分は、アニーリング炉の内部にある製品等の高温の製品または酸洗いラインの出口にある製品等の低温の製品を対象にして作業することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一目的は、上記課題の少なくとも一部を解決または低減する、特に、より高速であり、製造施設においてオンライン式に実施することができる、鋼基材上に存在する酸化物層をキャラクタリゼーションする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的のために、本発明は、進行している鋼基材上に形成された酸化物層のキャラクタリゼーションステップを含む、鋼製品の製作のための方法であって、このキャラクタリゼーションステップが、
・酸化物表面を画定している部位である、酸化物層を備える鋼基材の部位を用意するステップ、
・各部分(Lrλ,M)が、それぞれ前記酸化物表面上に位置する複数の箇所のうちの1つ(M)から集められ、それぞれ複数の波長(λ1、λ2、...)のうちの波長(λ)を有する場合において、集められた光(Lr)の部分(Lrλ,M)の強度をそれぞれ表す強度値(Iλ,M)を得るために、ハイパースペクトルカメラを使用して前記酸化物表面から光(Lr)を集めるステップ、
・得られた強度値(Iλ,M)を、参照用酸化物を対象にして得られた参照用強度値(Rλ,M)と比較するステップ、および、
・酸化物層中の参照用酸化物の量を計算するステップ
を含む、方法を提案している。
【0015】
別の実施形態において、上記方法は、
・参照用酸化物の量を計算するステップが、
・参照用強度値(Rλ,M)を使用して参照用吸光度値(OAλ、Μ)を計算するサブステップと、
・強度値(Iλ,M)を使用して吸光度値(Aλ、Μ)を計算するサブステップと
を含むこと、
・参照用吸光度値(OAλ、Μ)および吸光度値(Aλ、Μ)を計算するステップが、参照用吸光度値(OAλ、Μ)および吸光度値(Aλ、Μ)のそれぞれを
【0016】
【数1】
および
【0017】
【数2】
(式中、Dλ,Mが、ハイパースペクトルカメラ(20)のノイズを表し、Rλ,Mが、参照用強度値(Rλ,M)を表し、Iλ,Mが、強度値を表し、Wλ,Mが、白色度の値を表す。)と表すことを含むこと、
・上記方法が、ハイパースペクトルカメラ(20)のノイズDλ,Mおよび白色度の値Wλ,Mを判定するための較正ステップを含むこと、
・参照用酸化物の量を計算するステップが、ベースライン補正ステップを含むこと、
・上記方法が、
・複数の波長(λ1、λ2、...)に対比させて吸光度値(Aλ、Μ)をプロットすることによって得られた曲線より下に位置する領域の表面を表すパラメータ(B)を計算するステップ、および、
・少なくとも前記パラメータ(B)の関数として得られる厚さである、前記酸化物層の厚さ(E)を計算するステップ
を含むこと、
・前記関数が、線形であること、
・上記方法が、複数の参照用酸化物試料の使用によって、参照用酸化物の少なくとも1つを対象にして前記関数を決定するステップを含み、複数の参照用酸化物試料がそれぞれ、前記鋼から製造された基材および基材上に堆積された前記少なくとも1種の参照用酸化物からできた層を備え、前記層が、それぞれ複数の厚さを有すること、
・入射光(Li)が、酸化物表面に対して垂直な方向(D)との間に角度(α)を画定しており、角度(α)が、40°から80°の間、好ましくは50°から70°の間、より好ましくは55°から65°の間に含まれること、
・集められた光(Lr)および集められた参照用の光(Lrr)が、酸化物表面および前記鋼から製造された前記表面のそれぞれによる自然発生的な光の放出によって得られること、
・複数の波長(λ1、λ2...)が、8μmから12μmまでの範囲の波長を含むこと、
・複数の波長(λ1、λ2...)のうちのすべての波長が、8μmから12μmの間に含まれること、
・参照用酸化物が、SiO、SiOCHおよび非晶性TiOの1種または複数を含むこと、
・上記方法が、酸化物層のキャラクタリゼーションステップの完了後、比較結果を少なくとも得るために、酸化物層を対象にして得られたキャラクタリゼーションを、酸化物層の仕様を表す1種または複数のパラメータと比較するステップ、および、比較結果が所定の許容範囲に収まっていない場合、酸化物層を補正するさらなるステップをさらに含むこと、
・上記方法が、酸洗いラインの出口で実施されること、
・上記方法が、アニーリングラインの出口で実施されること、ならびに、
・補正する前記さらなるステップが、鋼基材の酸洗いであること
という、単独で採用されるまたは技術的に実現可能な任意の組合せとして採用される特徴の1つまたは複数を含む。
【0018】
対象とする鋼基材の酸化層は、酸化物層の厚さの目標および/または組成の目標を含んでもよく、鋼のグレードに依存し得る。
【0019】
本発明は、鋼基材上に存在する酸化物層をキャラクタライゼーションするための装置であって、
・各部分(Lrλ,M)が、それぞれ前記酸化物表面上に位置する複数の箇所のうちの1つ(M)から集められ、それぞれが複数の波長(λ1、λ2、...)のうちの波長(λ)を有する場合において、集められた光(Lr)の部分(Lrλ,M)の強度をそれぞれ表す強度値(Iλ,M)を得るために、酸化物層を有する鋼基材の部位の酸化物表面から光(Lr)を集めるようになされたハイパースペクトルカメラ、
・得られた強度値(Iλ,M)を、参照用酸化物を対象にして得られた参照用強度値(Rλ,M)と比較するための手段、および、
・酸化物層中における参照用酸化物の量を計算するための手段
を備える、装置も対象としている。
【0020】
別の実施形態において、上記装置は、
・上記装置が、赤外光を生成するようになされた光源を含むこと、および、
・ハイパースペクトルカメラが、LWIRハイパースペクトルカメラであること
という、単独で採用されるまたは技術的に実現可能な任意の組合せとして採用される特徴の1つまたは複数を含む。
【0021】
別の実施形態において、上記装置は、
・設備が、連続亜鉛めっきラインであること、および、
・設備が、酸洗いラインであること
という、単独で採用されるまたは技術的に実現可能な任意の組合せとして採用される特徴の1つまたは複数を含む。
【0022】
本発明は、上記方法を実施するようになされており、上記キャラクタリゼーションステップを実施するようになされた装置を含む、鋼帯の表面を処理するための設備であって、鋼帯が、鋼基材と、鋼基材上に存在する酸化物層とを有する、設備も対象としている。
【0023】
本発明に関する他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら、例として与えられた下記の記述を読んだときに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】鋼帯を処理するための本発明による設備の概略図である。
図2図1に提示の鋼帯を対象にして本発明による方法を実施するための、図1に提示の装置の概略図である。
図3A】参照用酸化物試料を対象にして本発明による方法を実施するための装置の概略図である。
図3B】参照用酸化物試料の拡大概略図である。
図4】本発明による方法の一実施形態の主要ステップを示している、図である。
図5図3に提示の装置、ならびにそれぞれSiOの薄層、SiOCHの薄層および非晶性TiOの薄層を有する3種の参照用酸化物試料によって得られた吸光度値を示しており、さらには、フーリエ変換赤外(FTIR)分光計を使用して、同じ試料によって得られた吸光度値も示している、3つのグラフである。
図6図3に提示の装置、ならびにそれぞれSiOの薄層、SiOCHの薄層および非晶性TiOの薄層を有する3種の参照用酸化物試料によって得られた吸光度値を示しており、さらには、フーリエ変換赤外(FTIR)分光計を使用して、同じ試料によって得られた吸光度値も示している、3つのグラフである。
図7図3に提示の装置、ならびにそれぞれSiOの薄層、SiOCHの薄層および非晶性TiOの薄層を有する3種の参照用酸化物試料によって得られた吸光度値を示しており、さらには、フーリエ変換赤外(FTIR)分光計を使用して、同じ試料によって得られた吸光度値も示している、3つのグラフである。
図8図3に提示の装置およびSiOの薄層を有する参照用酸化物試料によって得られた幾つかの吸光度曲線を示している、グラフであり、各曲線は、入射光の異なる入射角に対応する。
図9図3に提示の装置および参照用酸化物試料を使用して得られたパラメータを酸化物層の厚さと対比させて示している、3種のグラフであり、酸化物は、それぞれSiO、SiOCHおよび非晶性TiOである。
図10図3に提示の装置および参照用酸化物試料を使用して得られたパラメータを酸化物層の厚さと対比させて示している、3種のグラフであり、酸化物は、それぞれSiO、SiOCHおよび非晶性TiOである。
図11図3に提示の装置および参照用酸化物試料を使用して得られたパラメータを酸化物層の厚さと対比させて示している、3種のグラフであり、酸化物は、それぞれSiO、SiOCHおよび非晶性TiOである。
図12】本発明による方法によって得られた吸光度曲線を示している、グラフである。
図13】本発明による方法によって得られた吸光度曲線を示している、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1および図2を参照しながら、本発明による設備1について記述する。設備1は、鋼帯2の表面を継続的に処理するようになされている。
【0026】
設備1は、鋼帯2のアニーリングを実施するためのオーブン3を備え、有利には、冷却モジュール4も備える。設備1は、亜鉛めっきモジュール等のコーティングモジュール5をさらに備え、コーティングモジュール5では、鋼帯2が、溶融した亜鉛または亜鉛合金の浴6に浸漬される。コーティングモジュール5の出口において、ストリップ2は、ふき取りモジュール7および冷却モジュール8を通過する。
【0027】
鋼帯2は例えば、上記種類の鋼帯である。鋼帯2は、方向Fに沿って進行し、設備1を通過するが、このとき、中断がないことが有利である。鋼帯2は通常、150m/minから800m/minの間に含まれる速度を有する。鋼帯2は、特にアニーリング工程中に、表面酸化を施される。アニーリングの最中または後、鋼帯2は、鋼基材21および鋼基材21上に形成された酸化物層22を備える。
【0028】
設備1は、層22のキャラクタリゼーションを実施するための装置10をさらに備える。
【0029】
層22は、装置10に割り当てられる酸化物表面22Aを画定している。
【0030】
層22は、例えば10ナノメートルから500ナノメートルまでの範囲の厚さを有する。
【0031】
幾つかの実施形態によれば、装置10は、オーブン3内に配置されており、または、(図1に提示のように)オーブン3の出口に配置されている。図示されていない別の実施形態において、装置10は、酸洗いライン(図示なし)の入口または出口に配置されている。
【0032】
図2および図3を参照すると、これらの図には、本発明による方法を実施するための装置10が記載されている。装置10は有利には、鋼帯2をオンライン式に取り扱うようになされており(図2)、または、設備1の外部で参照用酸化物試料11を取り扱うようになされている(図3)。
【0033】
装置10は、ハイパースペクトルカメラ20、光源15およびコンピュータ25を備える。別の実施形態において、装置10は、光源15を備えない。図3に提示のように装置10が参照用酸化物試料と一緒に使用される場合、装置10は、試料保持システム12をさらに備える。
【0034】
試料保持システム12は、試料11を保持し、ハイパースペクトルカメラ20を基準にして図3に提示の作業位置にまで試料11を一つずつ移動させるようになされている。
【0035】
両方の変形形態において、図2および図3に提示のように、光源15は有利には、例えばニッケル−クロムシールド付き電気抵抗を備える、赤外光源である。光源15は有利には、金製の鏡によって焦点合わせされている。光源15は、方向Dに対して入射角αをなした状態で、酸化物層22のある部位に向かって入射光Liを誘導するのに適している。
【0036】
入射光Liを受容する部位は、酸化物表面22A、122Aを画定している。
【0037】
入射角αは、有利には20°から80°の間、好ましくは40°から70°の間、より好ましくは55°から65°の間に含まれる。
【0038】
ハイパースペクトルカメラ20は、光源15を基準にして方向Dの反対側に向かって、方向Dに対して観測角βで酸化物表面22A、122Aによって反射される、集光対象の光Lrを集め、集められた光Lrの部分Lrλ,Mの強度をそれぞれ表す強度値Iλ,Mを生成するようになされている。
【0039】
集光対象の光Lrの各部分Lrλ,Mは、それぞれ酸化物表面22A上に位置する複数の箇所M(図2および図3では、複数の箇所Mのうちの1つの箇所のみが示されている。)から集められ、それぞれ複数の波長λ1、λ2、...のうちの波長λを有する。
【0040】
強度値Iλ,Mは、光を集める単一のステップによって得られた酸化物表面22Aのハイパースペクトル画像を形成する。一変形形態(図示なし)によれば、光源15は存在せず、集められた光Lrは、例えば鋼帯2が350℃超の温度を有する場合、酸化物表面22Aによる自然発生的な光の放出によって得られる。この変形形態は、光源が使用される「反射モード」とは反対に、「発光モード」と呼ぶ。
【0041】
有利には、箇所Mは、例えば数平方ミリメートルの表面であると理解すべきである。この表面のサイズは、使用される光学的手段に依存する。
【0042】
例えば、装置10は、大抵の場合、炉の外部に配置可能であるが、ストリップによって放出された光を集めるために炉の内部に配置された光ファイバーを有してもよい。この場合、表面のサイズは、光ファイバーの直径に依存する。
【0043】
装置10が炉3の内部に配置されている場合、鋼帯2の温度は、約800℃である。この結果、鋼帯2は、光源15等の光源を必要とすることなく、光を自然に放出する。
【0044】
発光モードにおいて、装置10は、方向Dに対して観測角βで放出された光から集光対象のLrを集め、強度値Iλ,Mを生成するようになされている。
【0045】
「ハイパースペクトル」は、カメラ20が、幾つかの別個の波長において、試料または鋼帯2の写真を同時に撮影するのに適していることを意味する。言い換えると、カメラ20によって撮影された各写真は、複数の波長λ1、λ2、...を含む。
【0046】
両方のモードにおいて、ハイパースペクトルカメラ20は有利には、LWIR(遠赤外)ハイパースペクトルカメラ、例えばSpecimというハイパースペクトルカメラである。
【0047】
ハイパースペクトルカメラ20は例えば、少なくとも8μmから12μmまでのスペクトル感度を有する。
【0048】
ハイパースペクトルカメラ20は、集光用光学機器およびプリズムの後ろに設置されたデジタルセンサー(図示なし)またはスペクトログラフを備える。
【0049】
センサーは例えば、複数の箇所Mおよび複数の波長λ1、λ2、...のそれぞれにおいて、38050ピクセルのサイズを有する。
【0050】
ハイパースペクトルカメラ20のフレームレートは、例えば、60Hzである。
【0051】
反射モードにおいて、観測角βは、有利には20°から80°の間、好ましくは40°から70°の間、より好ましくは55°から65°の間に含まれる。有利には、観測角βは、入射角αにほぼ等しく、この結果、集められた光Lrが、入射光Liの正反射によって実際に得られる。
【0052】
複数の箇所Mは、有利には、ストリップ幅に沿って規則的に間隔を置かれており、例えば、380の箇所を有する。
【0053】
複数の波長λ1、λ2...は、8μmから12μmまでの範囲の波長を含む。有利には、前記波長はすべて、8μmから12μmの間に含まれる。
【0054】
複数の波長λ1、λ2...は有利には、8μmから12μmの間で規則的に分布する値、例えば30の値を含む。
【0055】
コンピュータ25は、ハイパースペクトルカメラ20から強度値Iλ,Mを受信し、強度値Iλ,Mを記憶し、計算を実施するようになされている。コンピュータ25は、ヒューマンとコンピュータの対話型操作(図示なし)のための、例えば結果を表示するための手段をさらに有する。
【0056】
ここで、図1から図12を参照しながら、本発明による方法200を記述する。方法200は、酸化物層22の組成および場合により厚さの確定によって、鋼帯2の表面に形成された酸化物層22をキャラクタリゼーションすることを目的としている。
【0057】
基材の構成鋼のグレードおよび基材上に堆積させようとするコーティングに応じて、当業者は、必要とされるコーティングの厚さまたはコーティングの付着性等の所望の特性を有するコーティングの形成を可能にするように、酸化物層に関する仕様を確立する。
【0058】
従って、当業者は、酸化物層をキャラクタリゼーションするパラメータの目標値を決定することができる。目標値は、仕様を表すことができる。
【0059】
目標値は、例えば所与の参照用酸化物中における最大の重量百分率による、酸化物層の組成に関し得る。
【0060】
目標値は、コーティングの厚さに関し得る。コーティングの厚さは、酸化物層の組成に依存し得る。
【0061】
さらに、目標値の許容差の範囲が確立されていてもよい。
【0062】
反射モードにおいて、光源15から来た入射光Liは、酸化物表面22Aを形成する層22の部位に向かって誘導される。
【0063】
第1の取得ステップ202において、集められた光Lrが、ハイパースペクトルカメラ20を使用して集められたものである。
【0064】
1回の取得のみが、複数の波長λ1、λ2、...においてデータを得るために必要とされる。
【0065】
ハイパースペクトルカメラ20は、酸化物表面22Aのハイパースペクトル画像を形成する強度値Iλ,Mを送信し、次いで、これらの強度値Iλ,Mがコンピュータ25に送達される。
【0066】
強度値Iλ,Mが取得されたら、コンピュータ25が計算ステップ204を実施する。この計算ステップ204は、
【0067】
【数3】
(式中、Dλ,Mが、暗さの参照値とも呼ばれるハイパースペクトルカメラ20のノイズを表し、Wλ,Mは、白色度の参照値である。)
として吸光度値Aλ,Μのそれぞれを計算するものである。
【0068】
これらの暗さの参照値Dλ,Mおよび白色度の参照値Wλ,Mは、専用の較正ステップ203において得ることができる。
【0069】
この較正ステップ203は、一組の暗さの参照値Dλ,Mおよび白色度の参照値Wλ,Mを周期的に取得するサブステップを含む。暗さの参照値Dλ,Mは例えば、光学レンズが覆われているときに撮影された画像から得られる。白色度の参照値Wλ,Mは、酸化物層が付いていない鋼基材自体の撮影画像から得られる。
【0070】
この較正ステップ203は、製造操作の開始時に1回実施されてもよいし、または好ましい一実施形態において、参照値を更新するために定期的に実施されてもよい。
【0071】
従って、(Iλ,M−Dλ,M)/(Wλ,M−Dλ,M)は、10−Aλ,Μに等しい(10の、符号を逆のマイナスにした吸光度値の累乗)。
【0072】
一変形形態(図示なし)として、吸光度値Aλ,Μが、同様の数式を使用して表されている。例えば、異なる対数が使用される。
【0073】
異なる一実施形態において、吸光度値Aλ,Μの代わりに、表面反射率値Reλ,Mまたは表面透過率値Tλ,Mを計算ステップ204中に計算し、次のステップで使用してもよい。
【0074】
次いで、比較ステップ206において、参照用酸化物のうちのどれが層22中にどのくらいの量で存在するかを判定するために、有利にはコンピュータ25単体によって、吸光度値Aλ,Μを複数の参照用酸化物の吸光度値OAλ,Μと比較する。
【0075】
これらの参照用酸化物の吸光度値OAλ,Μは、強度値Iλ,Mの代わりに参照用強度値Rλ,Mを使用して、吸光度値に関する同じ式によって表されている。
【0076】
表面反射率値Reλ,Mまたは表面透過率値Tλ,Mが吸光度値Aλ,Μの代わりに使用される場合、表面反射率値Reλ,Mまたは表面透過率値Tλ,Mは、それぞれ参照用表面反射率値OReλ,Mおよび表面透過率値OTλ,Mと比較される。
【0077】
参照用強度値Rλ,Mは、入射光Liが、鋼帯2ではなく参照用酸化物試料11に向かって誘導されている点を除いて、強度値Iλ,Mと同じように得られる。次いで、ハイパースペクトルカメラ20が、鋼表面から集光対象の参照用の光Lrrを集め、参照値Rλ,Mを提供する。
【0078】
得られた参照値Rλ,Mは、コンピュータ25のメモリに記憶される。
【0079】
図3Bに提示のように、各参照用酸化物試料11は、鋼基材121および酸化物層122を備える。
【0080】
鋼基材121は例えば、包装用途のために使用されるDWI鋼である。鋼基材121は、有利には物理気相成長(PVD)によって酸化物層122が堆積された、鋼表面131を画定している。
【0081】
酸化物層122を構成する酸化物は、既知である。
【0082】
下記で参照用酸化物とされている、公知の種類の酸化物には、例えば、CaO、SiO、MgO、Al、Fe+FeO、MnO、TiO、NaO、Cr、BaO、SrO、P、KO、ZrO、ZnO、CuO、SiOCHが挙げられる。
【0083】
比較ステップ206を実施するために、コンピュータ25は例えば、形状ならびに/または最大吸光度値および最低吸光度値に関して、複数の波長λ1、λ2、...の関数として参照用吸光度値OAλ,Μをプロットすることによって得られたどの曲線(図5から図7のC2、C4およびC6)が、複数の波長λ1、λ2、...の関数として吸光度値Aλ,Μをプロットすることによって得られた曲線との類似性を有するかを確定させる。所与の波長λにおける吸光度値Aλ,Μを比較することもできる。
【0084】
例えば、吸光度値Aλ,Μを表す曲線の形状が曲線C2と合致する場合、箇所Mの酸化物は、SiOだと確定される。吸光度値Aλ,Μを表す曲線の形状が曲線C4と合致する場合、箇所Mの酸化物は、SiOCHだと確定される。吸光度値Aλ,Μを表す曲線の形状が曲線C6と合致する場合、箇所Mの酸化物は、非晶性TiOだと確定される。
【0085】
各箇所Mにおける酸化物の確定により、どの酸化物が、酸化物層22中にどのくらいの量で存在するかを判定することができる。
【0086】
この比較ステップ206は、例えば分光法における発生源分別のために開発されたアルゴリズム等の公知のアルゴリズムを使用して実施することもできる。
【0087】
場合により、比較ステップ206の前に、吸光度値Aλ,Μを表す曲線を、ベースライン補正ステップ205に供する。実際、信号は、波長の関数における強度の偏差によって阻害され得るが、この現象は、ベースラインとして公知である。このベースライン補正ステップは、手動により実施されてもよいし、または、V.Mazet et al.in Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems,2005,vol.76,pp.121−133の文献に記載のアルゴリズム等の当業者に公知のアルゴリズムを使用して自動的に実施されてもよい。
【0088】
場合により、比較の前に、吸光度値Aλ,Μを表す曲線を、アンミキシングステップに供する。このステップは好ましくは、酸化物層22中の酸化物の量を決定するために使用される。
【0089】
吸光度値Aλ,Μは、箇所Mにおけるこの種類の酸化物の量ρによって重み付けされた、各種類の純粋な酸化物Aλ,M(n)の吸光度値の合計である。
【0090】
λ,M=Aλ,M(n1).ρn1+Aλ,M(n2).ρn2+Αλ,M(n).ρn3...
鋼グレードの組成が既知であるとき、どの酸化物が鋼帯の表面上に存在する可能性がより高いかを知ることができ、この結果、各種類の純粋な酸化物Aλ,M(n)の吸光度値を知ることができる。次いで、コンピュータは、箇所Mにおける各種類の酸化物nの量ρを決定するように、上記式を解くことができる。
【0091】
主成分分析(PCA)、頂点成分分析(Vertex Component analysis:VCA)または部分的最小二乗回帰(PLS)等の当業者に知られた他の分析法を使用して、このアンミキシングステップを実施してもよい。
【0092】
場合により、さらなるステップ207において、酸化物層22の厚さが判定される。酸化物層22の厚さを判定するために、コンピュータ25は、複数の波長λ1、λ2、...の関数として吸光度値Aλ,Μをプロットすることによって得られた曲線より下に位置する領域の表面を表すパラメータB(図6)を計算する。
【0093】
次いで、コンピュータ25は、確定された酸化物の種類に対応するパラメータBおよび厚さ関数(図9から図11の曲線C12、C13およびC14のうちの一つ)を使用して、層22の厚さEを計算する。
【0094】
各参照用酸化物の厚さ関数は、abaqusから公知であり、または、酸化物の種類が同じであるが酸化物層の厚さEが異なる幾つかの参照用酸化物試料11を使用して判定されている。
【0095】
発光モードに対応する本方法の別の実施形態において、層22中の酸化物の存在および組成を判定するために、表面状態を表す信号が、公知のモデル、例えばSλ,M=k.Plλ,T(M)+fλ,Mを使用して強度値Iλ,Mとして単離され、式中、
が、箇所Mにおいてパイロメータ等の外部装置によって提示される鋼帯2の温度であり、
Plλ,T(M)が、波長λおよび温度Tにおけるプランクの法則であり、
が、信号にプランクの法則を当てはめることによって得られた、係数擬似放射率係数であり、
λ,Mが、鋼帯の表面状態を表す値である。
【0096】
λ,Mは、判定された強度値Iλ,Mにモデルk.Plλ,T(M)+fλ,Mを当てはめることによって得られる。
【0097】
次いで、参照用酸化物のうちのどれが薄層22中のどのくらいの量で存在するかを判定するために、有利にはコンピュータ25によって、値fλ,Μを参照用酸化物の発光値Ofλ,Μと比較する。
【0098】
参照用酸化物試料11を使用して、参照用酸化物の発光値Ofλ,Μのそれぞれを、参照用酸化物の吸光度値OAλ,Μと同様に得られる。
【0099】
本発明による装置がアニーリング炉内または炉の出口に配置されている場合、本発明のキャラクタリゼーションステップにより、鋼基材の表面上に存在する酸化物層の特性を判定することができる。
【0100】
次いで、上記特性を、あらかじめ決定した目標値と比較することができる。次いで、この比較の結果および許容差の範囲に応じて、鋼基材は、亜鉛めっき設備に直接送達して、コーティングすることもできるし、この酸化物層を除去または低減するために酸洗い施設に送達することもできるし、または廃棄することもできる。
【0101】
本方法により、コーティングの欠損またはコーティングの付着不良等の欠陥を有するコーティング付き鋼製品の発生がなくなり、この結果、生産性の向上が可能になる。
【0102】
参照用試料
SiO、SiOCH、(xが、1から2の間に含まれ、yが、0から3の間に含まれる。)という3種の異なる参照用酸化物および非晶性TiOならびに4種の異なる厚さEを有する、12個の参照用酸化物試料を調製した。基材を構成する鋼は、包装のための商用DWI鋼であった。
【0103】
酸化物の薄層が、PVDによって鋼基材上に堆積された。
【0104】
層の厚さおよび酸化物の種類は、製造中に制御されていた。
【0105】
これらのパラメータを検証するという目的で、各参照用酸化物試料の表面状態をキャラクタリゼーションするために、異なる参照分析が実施された。
【0106】
このとき、酸化物の種類は、赤外分光法によって、例えばEurolab製の可変角付属品を装着したNicolet8700分光計を使用して確認された。観測角βは、80°であった。
【0107】
各試料を対象にして、4cm−1の分解能によって50のスペクトルを取得した。
【0108】
参照値Rλ,Mを提供する参照用試料は、表面上に酸化物が付いていない同じ種類の鋼からできていた。
【0109】
酸化物層の厚さを確認するために、偏光解析による判定が、Horiba Jobin Yvon UVISELを使用して実施された。観測角は、標準マージモード(I:M=0°、A=+45°、II:M=−45°、A=+45°)において、箇所ごとに300msにより、70°であった。分析およびモデリングのスペクトル範囲は、500nmから800nmであった(Δ=10nm)。厚さの計算のために使用された分散式は、古典的モデルであった。
【0110】
参照用酸化物試料に関する情報は、表1に要約されている。
【0111】
【表1】
【0112】
図5から図7は、8μmから12μmの間であるμmによる複数の波長λ1、λ2、...と対比させて、本発明による方法によって得られた吸光度値Aを示している。観測角βは、正反射のとき、60°であった。
【0113】
曲線C2は、試料4(SiO、96nm)に関する。曲線C4は、試料6(SiOCH、82nm)に関する。曲線C6は、試料10(非晶性TiO、70nm)に関する。
【0114】
図5から図7のグラフは、古典的FTIR分光法を使用して同じ試料4、6、10によって得られた吸光度曲線C1、C3、C5も示している。曲線C1は、SiOに関する。曲線C3は、SiOCHに関する。曲線C5は、非晶性TiOに関する。
【0115】
同じ試料に関する曲線C1からC6は、概して、同じ形状および同じ最大値を有する。曲線どうしのわずかな差異は、異なるスペクトル分解能(FTIR分光計およびハイパースペクトルカメラ20の場合、それぞれ6nmおよび200nm)が原因である。さらに、光源15は、FTIR分光計の焦点合わせに比べて、焦点合わせの度合いが減じていた。
【0116】
曲線C2とC1との類似性、曲線C4とC3との類似性および曲線C6とC5との類似性は、本発明による方法によって使用された吸光度曲線の正確度を実証している。
【0117】
図8は、40°から60°の間の観測角βが、試料4(SiO、96nm)によって得られた吸光度値Aに与える影響を示している。曲線C7は、40°の入射によって得られており、曲線C8は、45°の入射によって得られており、曲線C9は、50°の入射によって得られており、曲線C10は、55°の入射によって得られており、曲線C11は、60°の入射によって得られた。観測角βが大きいほど、同じ波長λにおける吸光度値Aが高くなっていく。
【0118】
これは、入射角αが大きいほど、図4に提示の酸化物層122中における光の経路が長くなっていくことが理由である。より大きな入射角α1を有する入射光Li1を用いた場合、入射光Li1から集光対象の光Lr1への経路の方が、より小さな入射角α2を有する入射光Li2と集光対象の光Lr2との間の経路に比べて長い。
【0119】
60°の観測角βは、図3に提示の装置10における実現が容易でありながら、大きな吸光度値Aをもたらすため最適であることが判明している。
【0120】
8μmから12μmの間で曲線C11(βは、60°に等しい。)より下の領域は、試料4(SiO、96nm)のパラメータBを提供している。
【0121】
すべての試料1から12のパラメータBが、60°という同じ入射角αを使用して計算されており、図9から図11に提示されている。
【0122】
図9において、曲線C12は、nmによる厚さEと対比させた、試料1から4(SiO)のBパラメータを対象にして実施された線形回帰である。
【0123】
図10において、曲線C13は、nmによる厚さEと対比させた、試料5から8(SiOCH)のBパラメータを対象にして実施された線形回帰である。
【0124】
図11において、曲線C14は、nmによる厚さEと対比させた、試料9から12(非晶性TiO)のBパラメータを対象にして実施された線形回帰である。
【0125】
曲線C12からC14によって得られた相関係数は、それぞれ0.9951、0.991および0.9802である。これは、曲線C12からC14に対応する線形関数により、パラメータBに基づいて厚さEを査定できることを示している。
【0126】
実験点を持っているコンピュータ25は、パラメータBに基づいて厚さEを非常に正確に計算するための線形関数を得るために上記線形回帰を実施する。
【0127】
試行1
上記のようにハイパースペクトルカメラおよび光ファイバーから構成されており、コンピュータに接続された装置10を、図1に提示のような工業用亜鉛めっきラインに実装した。ハイパースペクトルカメラは、保護ハウジングの内部にあるアニーリング炉3の外部に配置されており、ハイパースペクトルカメラに接続された光ファイバーは、アニーリング炉3の内部に配置されていた。より特定すると、光ファイバーは、アニーリング炉3の浸漬領域の端部に配置されていた。
【0128】
従って、本方法は、発光モードで使用された。
【0129】
アニーリングされているストリップは、ArcelorMittalから商品化されているTRIP 780であった。このグレードは、容易に酸化されるマンガンの含量が高い。
【0130】
アニーリング炉内の雰囲気は、ストリップの外部酸化を示唆する可能性がある露点(DP)に到達するように、制御されていた。
【0131】
本発明による方法によって得られた吸光度曲線C15およびC16が、図12に示されている。いずれの場合においても、確定された酸化物は、MnAlである。
【0132】
次いで、ストリップの試料をアニーリング炉の出口で採取し、分析して、酸化物層の組成を判定した。化学的分析により、ストリップ表面の酸化物層がMnAlから構成されることを確認した。
【0133】
試行2
上記のように、コンピュータに接続されたハイパースペクトルカメラから構成される装置10を、図1に提示のような工業用亜鉛めっきラインに実装した。ハイパースペクトルカメラは、保護ハウジングの内部にあるアニーリング炉3の浸漬領域の端部に配置されていた。ハイパースペクトルカメラにより、移動している鋼帯を観察する。
【0134】
従って、本方法は、発光モードで使用された。アニーリングされているストリップは、ArcelorMittalから商品化されているTRIP 780であった。このグレードは、容易に酸化されるマンガンおよびケイ素の含量が高い。アニーリング炉内の雰囲気は、ストリップの外部酸化を示唆する可能性がある露点(DP)に到達するように、制御されていた。本発明による方法によって得られた吸光度曲線C17およびC18が、図13に示されている。
【0135】
いずれの場合においても、8μmにおけるSiOおよび10μmから11μmまでにおけるMnSiOという、2種類の酸化物が確定された。次いで、ストリップの試料をアニーリング炉の出口で採取し、分析して、酸化物層の組成を判定した。化学的分析により、ストリップ表面の酸化物層が、SiOおよびMnSiOから構成されることを確認した。
【0136】
上記特徴のおかげで、本発明による方法は高速であり、製造現場で容易に実施される。キャラクタリゼーションは、製造現場でオンライン式に実施することができる。キャラクタリゼーションにより、幾つかの参照用酸化物の中から酸化物層122が正確に確定され、鋼帯2の層22の組成も正確に確定される。場合により、キャラクタリゼーションにより、層22の厚さEも正確に評価される。
【0137】
装置10がオーブン内またはアニーリング炉の出口に実装されている場合、装置10は、鋼帯2の表面上に存在する酸化物の量および厚さが濡れ性の課題を誘発させる可能性があり、この結果、ストリップのグレード低下等の必要なステップを採用することになるかどうかを判定することができる。
【0138】
装置10が酸洗いラインの出口に設置されている場合、装置10は、酸洗いステップがすべての酸化物を除去するほどに効率的であったか、またはさらなる酸洗いステップが必要であるかを判定することができる。
【0139】
キャラクタリゼーションステップにより、アニーリング炉の内部にある製品等の高温の製品または酸洗いラインの出口にある製品等の低温の製品を対象にして作業することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13