【文献】
松尾正之・江刺正喜・飯沼一浩,“生体用絶縁物電極―チタン酸バリウム磁器を用いた生体用誘導電極―”,医用電子と生体工学,1973年,第11巻,第3号,p.156−162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<非防水型低周波電気刺激装置用防水ケースの実施形態>
非防水型低周波電気刺激装置用防水ケースとは、室内で使用する非防水の低周波電気刺激装置の本体を収容することで低周波電気刺激装置本体が入浴中に使用できるようになるというものである。
図1は本発明の非防水型低周波電気刺激装置用防水ケース101の全体構成を示す。
図2は該防水ケース101の上蓋1015を開いた内部の構成を示す。本防水ケース101は、上蓋1015と、下ケース1014と、該下ケースに接続された低周波電気刺激用絶縁体電極1011や通電許可スイッチ1012と、そして、収容される非防水型低周波電気刺激装置本体102からの電気刺激出力線と低周波電気刺激用絶縁体電極及び通電許可スイッチとを電気的に接続する端子接続部1013と、などから構成されている。本絶縁体電極の数は2個以上あれば良く数には限定されない。
【0019】
本防水ケース101を使用する場合は、収容される非防水型低周波電気刺激装置本体102の出力ジャック部1021に端子接続部1013から延出している接続プラグ10131を挿入し、該装置本体102を本防水ケース101に納め、Oリング1018を挟んで
上蓋1015を閉め、バックル1017を閉めることで使用できる。上蓋1015には防水スイッチ10151が設けられており、防水スイッチを押すことで、本装置本体102の操作スイッチ1022を操作することができる。本防水ケースの上蓋1015や下ケー
ス1014の材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂など一般的な樹脂材料が使用できる。尚、本実施形態例では、上蓋1015と下ケース1014がヒンジ1019で結合され、Oリング1018を挟んで密閉される構造となっているが、防水ケースの構造はこれに限定される必要は無い。本防水ケースは浴室の壁に吊下げて使用する。又は、湯面に浮かべて使用してもよい。防水ケース本体は水没しないので簡易な防水構造をとることができる。収容される非防水型低周波電気刺激装置本体102が内部で移動することが無いように、適宜、固定用のスペーサや係止片などを配置しても良い。絶縁体電極の静電容量を適宜設定することで、色々な出力電圧仕様を有する非防水型低周波電気刺激装置本体に対応することができる。
【0020】
[低周波電気刺激用絶縁体電極1011]
(動作原理と必要な静電容量及び比誘電率)
電極として用いた絶縁体膜を絶縁体電極膜と呼ぶことにする。また、絶縁体電極膜を用いた電極を絶縁体電極と呼ぶことにする。本発明者は、約40℃の水中において人体が低周波電気刺激を感じることができる、低周波電気刺激用絶縁体電極の静電容量と低周波電気刺激矩形波パルスの波高値電圧との関係を測定した。測定に用いた絶縁体電極膜としてはチタン酸バリウム系の燒結膜や各種の樹脂フィルムを使用した。低周波電気刺激では一般的に1Hzから1200Hz程度の周波数が用いられるが、人体が低周波電気刺激を感じる波高値電圧の周波数依存性は小さいので標準的な周波数として50Hzを用いた。矩形波パルス電圧のオンタイムは一般的に数十μ秒から数百μ秒なので300μ秒とした。同一極性の矩形波パルスを200回発生したのち0.5秒の休止を置き、その後、逆極性の矩形波パルスを200回発生するサイクルを繰り返した。絶縁体電極の面積は大きい程、低い波高値電圧で低周波電気刺激を感じるが、面積が50cm
2を超えると低周波電気刺激を感じ始める波高値電圧は一定となることから絶縁体電極の面積を50cm
2とした。
【0021】
測定結果を
図29に示す。縦軸は波高値電圧の半分の電圧[V]であり片側の絶縁体電極に印加された電圧である。横軸は片側の低周波電気刺激用絶縁体電極の単位面積当たりの静電容量Cn[nF/cm
2]である。黒三角マーク(▲)は人体が低周波電気刺激を感じ始める感知下限電圧である。黒丸マーク(●)は低周波電気刺激が強すぎて不快や苦痛を感じ始める許容上限電圧である。Cnが大きくなると両電圧は横ばいとなり、Cnが小さくなると両電圧が急激に立ち上がることが分かる。水中における皮膚の静電容量は20nF/cm
2程度なので絶縁体電極のCnがこれよりも大きくなると静電容量の直列合成による律速の影響が無くなってくることが分かる。また、皮膚の静電容量よりも大幅に小さな静電容量の絶縁体電極であっても人体に低周波電気刺激を与えられる条件があることが明らかになった。
【0022】
図29の縦軸の原点付近を拡大したものが
図30である。感知下限電圧は44nF/cm
2以上では約2Vで一定となっている。一方、許容上限電圧は94nF/cm
2以上では約9Vで一定となっている。つまり、許容上限電圧を下げるという観点ではCnをこれ以上大きくしても有効ではない。
図29の横軸の原点付近を拡大したものが
図31である。感知下限電圧、許容上限電圧ともに、Cnが小さくなるにつれ急激に電圧が上昇している。
【0023】
感知下限電圧(U[V]とおく)について、Cnが4nF/cm
2よりも小さい範囲で被験者数5人のデータについて、最少二乗法により累乗近似曲線を求めた。その結果、(1)式が得られた。
U = 17.7*Cn^−0.861 1) (1)
(R^2 = 0.9551 )
Cnを小さくしてゆくと感知下限電圧が急速に上昇してしまい安全性や有効性の観点から望ましくない。つまり、実用上のUの最大電圧は250Vと考えられる。上記(1)式を用いて、U=250VのときのCnを求めると、Cn=0.063nF/cm
2が得られる。この値が、低周波パルス電圧を用いて人体に電気刺激を与えるために必要な、片側の絶縁体電極における単位面積当たりの最少の静電容量であると言える。一方、許容上限電圧では、Cnが0.36nF/cm
2のときに255Vとなっている。従って、許容上限までの刺激を感じさせるために必要な最小のCnは0.36nF/cm
2と考えられる。このとき電極間には波高値510Vが印加され、ピーク電流は2.3Aに達しているが、時定数は1μ秒程度であり、人体が傷害を受けるようなことは起こらない。
【0024】
以上の結果より、低周波電気刺激を人体に与える低周波電気刺激用絶縁体電極において、感知下限刺激を与えるためには、片側の絶縁体電極の単位面積当たり静電容量が0.063nF/cm
2以上必要であり、更に、許容上限刺激を与えるためには0.36nF/cm
2以上必要であると結論できる。また、低周波電気刺激装置の出力電圧(両側の絶縁体電極に印加される電圧)としては、感知下限刺激を与えるためには4V以上の、許容上限刺激を与えるためには18V以上の、波高値電圧が必要であると結論できる。
【0025】
以上の結論より、低周波電気刺激用絶縁体電極の静電容量は0.36nF/cm
2以上であることが望ましい。更に望ましくは1nF/cm
2以上であるとよい。1nF/cm
2以上あれば、家庭用低周波治療器で用いられる最大電圧であるパルス波高値200Vで許容上限刺激を与えることができる。より望ましくは、2nF/cm
2以上あるとよい。2nF/cm
2以上であれば一般的に普及している家庭用低周波治療器で用いられているパルス波高値100Vで許容上限刺激を与えることができる。更に最も望ましくは、安全特別低電圧(SELV)でも許容上限刺激まで感じることができるように5nF/cm
2であるとよい。
【0026】
(低周波電気刺激用絶縁体電極膜10111)
絶縁体電極膜の静電容量C[F]は次式により与えられる。
C = ε
0ε
r×S/d (2)
ここで、ε
0は真空の誘電率8.854×10
−12[F/m]、ε
rは絶縁体電極膜の比誘電率、Sは電極面積[m
2]、dは絶縁体電極膜の厚さ[m]である。これより、絶縁体電極面積1cm
2当たりの静電容量Cn[nF/cm
2]は次の式で簡便に求めることができる。
Cn[nF/cm
2] = 0.8854ε
r/t (3)
ここで、tは絶縁体電極膜の厚さを[μm]単位で表した値である。つまり、例えば比誘電率が10で膜厚が10μmとした場合、Cnは0.8854nF/cm
2となる。
【0027】
従って、絶縁体電極膜の比誘電率は大きい程望ましい。チタン酸バリウム系の強誘電体セラミックでは比誘電率が15000を超えるが、曲げると割れてしまう。低周波電気刺激用絶縁体電極は人体に当接して使用するためフレキシブルである方がよい。樹脂フィルムはフレキシブルであるが比誘電率は一般的に3〜10程度と小さいため薄くしないと静電容量が得られない。だが薄くすると機械的強度、耐電圧、耐久性が低下する。膜厚を厚くすると機械的強度、耐電圧、耐久性は高くなるが静電容量が小さくなるために印加電圧を高くしないと使えなくなる。このように膜厚と静電容量との間にはトレードオフの関係がある。
【0028】
表1に要求される静電容量Cn[nF/cm
2]を達成するために必要となる絶縁体電極膜の比誘電率を示した。樹脂フィルムの膜厚は4μm以上としてある。4μm未満では、薄すぎて機械的強度、耐電圧、耐久性が弱く実用的でなくなる。例えば、Cnが0.36の場合は500Vの波高値電圧が必要になるが、この場合、4μm厚では耐電圧的に不足である。膜厚が20μm以上あれば耐電圧的にも耐久性的にも問題は無い。従って、比誘電率が8.1以上の樹脂フィルムであれば使用できることになる。例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)であれば使用できることが分かる。500Vは両側の絶縁体電極に印加される波高値電圧であるが、片側だけでも500Vの耐電圧、耐久性を有することが望ましい。Cnが1の場合は波高値電圧が200Vとなるが、耐電圧、耐久性的に10μmは必要となるので比誘電率は11.3以上必要になる。Cnが2の場合は波高値電圧100Vとなる。耐電圧的には4μmでも耐えられるが耐久性的に懸念がある。10μm以上が望ましい。つまり、比誘電率が22.6以上であれば良い。Cnが5の場合は42V印加で使用できる。この場合、4μmの膜厚でも印加電圧が低いので使用可能であり、比誘電率が22.6以上であれば良いことになる。
【0029】
印加電圧は低い方が望ましく、また、膜厚は厚い方が望ましい。つまり、表1の右下方向で使えることが望ましい。即ち、比誘電率が大きければ大きい程望ましい。上述のように比誘電率は、8又は8以上の値が必要であり、望ましくは25以上の値であるとよい。更
に望ましくは比誘電率は、50以上の値であることがよい。最も望ましくは、比誘電率は、100以上の値であることがよい。
【0030】
表1.要求される静電容量を達成できる絶縁体電極膜の比誘電率
【表1】
【0031】
このような絶縁体電極膜の材料としては、ポリビニリデンフロライド(PVDF)モノマーを始め、PVDF系の材料として、ビニリデンフロライド(VDF)と、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、クロロフルオロエチレン(CFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロジフルオロエチレン(CDFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、などとのコポリマー、或は、ポリビニリデンフロライド(PVDF)系のターポリマーとして、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TFE−CTFE)、P(VDF−TFE−CFE)、P(VDF−TFE−HFP)、P(VDF−TFE−CDFE)などが挙げられる。ここで、TFEはテトラフルオロエチレンを表す。また、PVDFホモポリマーと上記コポリマーやターポリマーとの混合物
、或は、上記コポリマーとターポリマーとの混合物なども挙げられる。また上記コポリマーやターポリマーが、或は、上記コポリマー、ターポリマーそしてPVDFホモポリマーの混合物が、一軸、或は、二軸方向に延伸されたフィルムであってもよい。特に、P(VDF−TrFE−CTFE)ターポリマーやP(VDF−TrFE−CFE)ターポリマーでは、40℃で40〜50程度の比誘電率が得られるため好適に使用できる。
【0032】
樹脂に比誘電率の大きい無機酸化物の微粒子を分散することで樹脂の比誘電率を大幅に向上することができる。樹脂としては上記PVDF系の樹脂の他に、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリイミドとビスマレインイミドの混合樹脂などが使用できる。また、比誘電率の大きい無機酸化物の微粒子としては、チタン酸バリウム、CCTO(CaCu
3Ti
4O
12)、チタン酸バリウムのバリウムとチタンをそれぞれランタンとクロムで置換したBLTC、リチウムとチタンを共ドープしたNiO(LTNO)、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられるが、特に、チタン酸バリウムが好適である。コンポジット膜の比誘電率を大きくする目的ではカーボンブラックやカーボンナノファイバー、銀ナノワイヤーなどを分散することで大きな比誘電率を実現できるが、このような導電性のフィラーを分散した場合、水中での電気化学的非反応性や絶縁耐久性が低下するので望ましくない。
【0033】
PVDFやエポキシ樹脂にチタン酸バリウムの微粒子を10体積%から70体積%の範囲で分散することで好適なフィルムを得ることができる。10体積%以下では比誘電率の改善が小さく、70体積%以上では樹脂としての機械的強度や絶縁耐久性が損なわれる。例えば、二液性のフレキシブルエポキシ樹脂(ボンドE2420)にチタン酸バリウム微粒子(共立マテリアルBT−HP150)を35体積%分散したフィルムでは比誘電率が40℃で約40となる。従って、17μm厚のフィルムとすることで約2.1nF/cm
2の静電容量を実現できる。
【0034】
好適な実施形態として、ARKEMA社PIEZOTECH(登録商標)製P(VDF−TrFE−CTFE)ターポリマーにチタン酸バリウム微粒子(共立マテリアルBT−HP150)を30体積%分散した絶縁体電極膜の測定結果を表2に示す。膜厚11μm、80×110mmの絶縁体電極膜を20μm厚のステンレス箔上に溶媒キャストにより形成した。電極面積Φ15mmとし、LCRメータ(HP4262A)を用いて38℃で静電容量と誘電損失(tanδ)を測定した。この結果、1kHzでの静電容量は10.1n
F/cm
2、tanδは0.05、比誘電率は103が得られた。
【0035】
絶縁体膜を水中に浸漬し低周波電気刺激用電極として用いた場合、絶縁体膜内での分極により変位電流は流れるが電子伝導電流は流れず、電極と水との間での電子の授受は実質的には起こらない。従って、電気分解や電極材料の溶出などの電気化学反応は起こらない。また、絶縁体電極膜を直接濡れている皮膚に当接しても、汗腺や毛孔などの低抵抗部への電流の集中が起こらない。同様に、電極の一部が皮膚から離れても皮膚に当接している部分への電流集中が起こらない。更に、回路の事故により直流電流が電極部へ漏洩したとしても絶縁体膜は直流を遮断する。このように絶縁体電極を用いることにより水中でも安全に電気刺激を人体に与えることができる。
表2.P(VDF−TrFE−CTFE)ターポリマーにチタン酸バリウム微粒子を分散した絶縁体電極膜の特性
【表2】
【0036】
(低周波電気刺激用絶縁体電極1011の構成)
図3に低周波電気刺激用絶縁体電極の一実施形態を示す。低周波電気刺激用絶縁体電極1011は、導電性基板10112の上に形成された絶縁体電極膜10111と、導電性基板10112に電気的に接続された電気刺激出力芯線10113と、電気刺激出力芯線を保護する防水コード10114と、そして、導電性基板及び電気刺激出力芯線などの導電性充電部、及び、絶縁体電極膜の一部と防水コードの一部、を被覆する絶縁性被覆10115と、より構成されている。
【0037】
{導電性基板}
導電性基板10112には、銅、アルミニウム、ステンレススチール、チタン、ニッケル、チタンニッケル合金などの金属シートや導電性粘着材の付いた金属メッシュ、PEDOT/PSSなどの有機導電性インキ、或は、白金、アルミニウム、チタン、ニッケルなどの金属を蒸着或はスパッタリングした膜などを使用することが出来る。有機導電性インキや金属を真空成膜した上に更にどう導電性接着剤を用いて金属箔やシートを貼り合わせてもよい。導電性基板の上に絶縁体電極膜を形成しても良いし、或は逆に絶縁体電極膜を先に形成しておいて後からその表面に導電性基板を形成してもよい。
【0038】
{絶縁性被覆}
絶縁性被覆10115は熱可塑性樹脂によるインサート成型や樹脂のポッティング、熱可塑性樹脂シートによる封止溶着などにより形成できる。或は、絶縁性被覆10115は、複数の樹脂部品を用いて構成し、樹脂部品間の界面や絶縁体電極膜面との界面は接着剤、粘着材、シーラントなどで封止することができる。また、絶縁性被覆10115は、パッキンやOリングを介在させて螺子や圧入係止機構などにより圧着結合した構成でもよい。
【0039】
{防水コード}
防水コード10114には絶縁被覆電線やビニルキャブタイヤケーブルなどが使用できる。更に、絶縁被覆電線の防水保護配管として、例えば、シリコーンチューブや軟質フッ素樹脂チューブなどを絶縁性被覆10115と接合し、その中に、絶縁被覆電線を挿通してもよい。防水コードの長さは2m前後となるが、絶縁被覆電線をシリコーンチューブの中に挿通する場合、表面の摺動抵抗が大きいため挿通しにくい。フッ素被覆電線、及び/或は、軟質フッ素樹脂チューブを用いた場合は、摺動抵抗が小さく挿通しやすいため、チュ
ーブの内径を必要以上に大きくする必要がなく好適である。
【0040】
本発明の低周波電気刺激用絶縁体電極は水中で使用するだけでなく、室内でも使用できる。室内で使用する場合は、絶縁体電極表面に水を含んだ吸水布や導電性粘着パッドなどを配することで使用できる。吸水布を用いた場合は、吸水布そして本電極とも水洗可能であり衛生的に使用できる。また、導電性粘着パッドのような消耗品の交換や廃棄が発生しない。絶縁体電極表面が乾燥すると絶縁体電極膜と皮膚との間の空気層により電界が遮断され電気刺激は感じなくなる。
[通電許可スイッチ1012]
低周波電気刺激用絶縁体電極を水中で使用する場合、本電極を皮膚から離間しても水を通して電流が流れ続けるため、低周波電気刺激装置本体側では使用を終了したのかどうか判定ができない。強い電気刺激が出力されたまま水中に放置される恐れがあり、それを知らずに第三者が不用意に電極表面に触れた場合、強い衝撃を受ける恐れがある。また、電力の浪費にもなる。このような事故を未然に防止するためには使用者が使用を止めたときには電気刺激出力が停止する機構が必要になる。
【0041】
通電許可スイッチ1012は、スイッチ表面に押圧を加えることでONし、押している間だけON動作が継続し、押圧が解放されるとOFFに戻るモーメンタリスイッチであり、水中でも使用できるように柔軟性のある防水被覆の中に納められている。押圧は使用者が手や体の一部で印加してもよいし、絶縁体電極と一緒に固定ベルトに貼り付けておき、人体に巻き付ける押圧で印加してもよい。通電許可スイッチにはメンブレンスイッチやタクタイルスイッチなどのプッシュスイッチを用いることができる。
【0042】
図4は通電許可スイッチ1012の断面構造の一例を示す。タクタイルスイッチを防水被覆で被覆した構造としている。10121は下部電極、10122はクリック感を与える金属製の反転ばね上部電極である。それぞれの電極に防水コード10124のスイッチ芯線10123が電気的に接続されている。10126はプランジャであり押圧を反転ばねに伝達する。本タクタイルスイッチは柔軟性のある防水被覆10125により被覆されており、上方から押圧を受けることでONすることができる。防水被覆10125の材料としては、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、熱可塑性樹脂などが好適である。インサート成型やポッティング、或は樹脂シートの溶着などの方法で形成できる。
【0043】
図5は通電許可スイッチ1012の配線図を示す。本通電許可スイッチは端子接続部1013において、片側の電気刺激出力線10132と片側の絶縁体電極1011の電気刺激出力芯線10113に電気的に直列に接続されている。このように構成することで通電許可スイッチ1012に押圧を印加することで電気刺激出力をONすることができ、押圧が解放されたときには電気刺激出力をOFFすることができる。このようにして、水中において不使用時に電気刺激出力を遮断することができるようになる。
【0044】
[通電許可センサー1112]
電気刺激電圧が高くなる場合や電流が大きくなる場合、電気刺激出力を直接メンブレンスイッチやタクタイルスイッチなどのモーメンタリスイッチでON/OFFするのはスパークの発生により適切ではなくなる場合もある。このような場合は通電許可スイッチ1012を単に使用状態を検出するセンサーとして用い、センサー出力信号に応じて電気刺激出力をON/OFFできるスイッチを別途に設けることもできる。通電許可スイッチ1012をこのようにセンサーとして使う場合、通電許可センサー1112と呼ぶことにする。
【0045】
図6は通電許可スイッチ1012を通電許可センサー1112として用いた場合のセンサー回路1113の実施形態例を示している。センサー回路1113は、電源スイッチ11131、電池11132、フォトカプラー11134、NチャネルMOSFET1113
5、そしてLEDランプ11136、などから構成されている。電源スイッチ11131を入れることで本センサー回路がONしLEDランプ11136が点灯する。電源スイッチを設けることで不使用時に誤って通電許可センサーが押されても電池の無駄な消耗を防ぐことができる。本センサー回路1113は端子接続部1013の内部に納められている。
【0046】
通電許可センサー1112が押圧を受けONになると、フォトカプラー11134に電流が供給されフォトカプラーからの光起電圧がMOSFET11135のゲートに印加されMOSFET11135がONし、電気刺激出力が低周波電気刺激用絶縁体電極1011に伝わる。通電許可センサー1112のモーメンタリスイッチがOFFすると、フォトカプラーへの電流供給がOFFするのでMOSFETはOFFとなり、電気刺激出力も遮断される。このように構成することで通電許可センサーのモーメンタリスイッチにはフォトカプラーの駆動電圧しか印加されないためモーメンタリスイッチへの負担が軽減し耐久性が向上する。また、通電許可センサーを電気刺激出力線10132から絶縁でき安全性が高まる。
【0047】
通電許可センサーとして用いるスイッチはタクタイルスイッチ以外にもメンブンスイッチ、或は、歪ゲージや圧力センサーなどを用いても良い。また、電気刺激出力線のスイッチとしてNチャンネルMOSFETとフォトカプラーを用いる回路例を示したが、通電許可センサーの出力を受けて電気刺激出力をON/OFFする回路は当業者によって多様なセンサー回路が考え得るものであり、本回路に限定される必要はない。
【0048】
[低周波電気刺激用絶縁体電極と通電許可センサーが一体化した実施形態]
図7に低周波電気刺激用絶縁体電極1011に通電許可センサー1112が一体的に設けられている通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極1111の例を示す。通電許可センサー1112が絶縁体電極1011の表面に内蔵されている。電極を人体に押し付けたときに本センサーがONし、人体から離間したときにOFFする。本センサーのセンサー芯線11123と本電極の電気刺激出力芯線10113は共に防水コード10114の中を通っている。本通電許可センサーは本電極の裏面側に設けられていても良い。この様に構成することで、非防水型低周波電気刺激用防水ケースにおいて低周波電気刺激用絶縁体電極と通電許可センサーを別体とせずに一体化することができる。この場合、複数の絶縁体電極の内少なくとも一つが通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極1111であればよい。複数の通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極を用いた場合は、どれか一つがONになれば電気刺激出力がONになるように構成する。
【0049】
<非防水型低周波電気刺激装置用防水ケースの他の実施形態>
図8は、
図1で示した非防水型低周波電気刺激装置用防水ケース101の防水スイッチ部
分が透明な樹脂フィルムに置き換わった非防水型低周波電気刺激用防水ケース201を示している。また、
図9は本防水ケース201の上蓋2015を開いた様子を示している。上蓋2015には開口20152があり、本開口を透明樹脂フィルム20151が塞いでいる。また、同様にセンサー回路1113の電源スイッチ11131を押せるようにするための開口20153、及び、LEDランプ11136が見えるための開口20154があり、これらの開口が透明樹脂フィルム20155で塞がれている。収容される非防水型低周波電気刺激装置本体202の操作スイッチ2022は透明樹脂フィルム20151の上から指で押すことで操作ができる。本例では通電許可センサー1112を具備した例を示したが、電許可スイッチが具備されていても良い。上蓋2015に透明な材質を使用した場合には、開口20154は不要である。
【0050】
透明樹脂フィルムの材料としては、透明で柔軟なフィルムであれば良いが、特に、水蒸気透過率の小さい熱可塑性樹脂が望ましい。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチ
レンテレフタレート(PET)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE
)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられるがこれに限定はされない。本樹脂フィルムと上蓋との接合は、溶着や両面テープなどで行うことができる。
【0051】
図10は非防水型低周波電気刺激装置用防水ケースに柔軟な樹脂製の袋を用いた例を示す。非防水型低周波電気刺激装置用防水ケース301は透明で柔軟な樹脂製の袋3011でできており、開閉自在の防水シール3012を有している。収納される非防水型低周波電気刺激装置本体302の操作スイッチ3022は本防水ケースの上から指で押して操作することが出来る。本防水ケース内部には端子接続部1013が収納されており、端子接続部には低周波電気刺激用絶縁体電極及び通電許可スイッチ或は通電許可センサーが接続している。
【0052】
透明で柔軟な樹脂製の袋の材料としては、透明で柔軟なフィルムであれば良いが、特に、水蒸気透過率の小さい熱可塑性樹脂が望ましい。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(E
TFE)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられるがこれに限定はされない。
【0053】
<防水型低周波電気刺激装置の実施形態1>
図11は防水型低周波電気刺激装置の一例を示す。防水型低周波電気刺激装置401は防水型低周波電気刺激装置本体402に、低周波電気刺激用絶縁体電極1011と、通電許可スイッチ1012又は通電許可センサー1112と、を具備している。防水型低周波電気刺激装置本体402には、電源スイッチ4023、電気刺激出力の強さや波形パターンを選択できる操作スイッチ4022、表示部4024、防水コード取込部4025などから構成される。電源スイッチや操作スイッチは防水構造を有するメンブレンスイッチやタクタイルスイッチなどで構成される。防水コード取込部には汎用の防水ケーブルグランドなどを使用できる。本装置本体402は防水構造を有しており湯面に浮かせることができる。また、本装置本体402は、壁面に吊り下げて使用することもできる。本防水構造は一般的な防水型電子機器と同様の技術で実現することが出来る。本実施形態において、低周波電気刺激用絶縁体電極1011と、通電許可スイッチ1012又は通電許可センサー1112の代わりに通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極1111を用いても良い。
【0054】
図12は防水型低周波電気刺激装置本体402の回路ブロック図を示す。本装置本体402の本体回路部4026は、電源部、操作部、制御部、波形生成部、表示部などから構成される。波形生成部は主にスイッチング素子などから構成され、制御部のマイクロコンピュータから出力される指示に応じて単極や双極のパルス波形などからなる電気刺激出力を電気刺激出力線40261に出力する。本例では、低周波電気刺激用絶縁体電極1011、そして、通電許可スイッチ1012が具備されており、本通電許可スイッチは電気刺激出力線40261に直列に接続されている。
【0055】
図13は防水型低周波電気刺激装置401として通電許可センサー1112を具備した場合の回路ブロック図を示している。本体回路部4027の制御部にあるマイクロコンピュ
ータ(不図示)の端子に直接、通電許可センサー1112のセンサー芯線11123が接続されており、マイクロコンピュータは端子の電圧変化からスイッチのON/OFFを検出し、電気刺激出力のON/OFFを制御している。このように、通電許可センサー出力を直接、防水型低周波電気刺激装置本体の制御部に取り込むことで、別途に電気刺激出力をON/OFFするスイッチを設ける必要がなくなる。通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極1111を用いた場合も同様の回路を使用できる。
【0056】
<プッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水袋の実施形態>
プッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水袋とは、該ケース内部にプッシュスイッチを有するコードレス低周波電気刺激装置などを収容することで、コードレス低周波電気刺激装置などを水中や皮膚が濡れている状態でも安全に使用できるようにするための防水ケースである。
図14は、プッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水袋501の操作面側の平面図を示す。本図では、コードレス低周波電気刺激装置の操作面を表面側にして収容するものとする。
図15は本防水袋501の裏面側を示している。本防水袋501は、操作面側シート5011、電極面側シート5012、防水シール5013、そして、電極面側シート5012に設けられた一対の開口50121、該開口を塞ぐように貼られた絶縁体電極膜10111、などから構成される。操作面側シート5011に不透明なシートを用いた場合、収容されたコードレス低周波電気刺激装置の操作スイッチなどが外から視認できるように操作面側シート5011に開口50111を設け、本開口を透明樹脂シート5015で塞ぐ。
【0057】
プッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水袋にコードレス低周波電気刺激装置を収納して水中で使用した場合、水の屈折率による反射の影響で水中の本袋の中にある本装置の操作スイッチは視認し難い。従って、指先の感触で操作スイッチの位置を探すことになる。指先で容易にスイッチ位置を検出できるように本装置の操作スイッチに該当する位置の操作面側シート5011表面に、或は、透明樹脂シート5015の表面に突起部5017を設けてある。
【0058】
操作面側シートと電極面側シートを接続する第三のシート(接続シートと称す、不図示)があって本防水袋501が立体的に膨らむ構造としてもよい。或は、操作面側シート及び/或は電極面側シートが平面のシートではなく、立体的に膨らみを持つように成形されたシートであってもよい。特に、内部に収容されるコードレス低周波電気刺激装置の立体形状とぴったり嵌合できる立体形状をしていることが望ましい。そのような立体形状を持つことで無駄な空気の巻き込みが無くなる為、水中に浸漬したときに無駄な浮力の発生を低減でき、水中での取り扱いが容易になる。また、コードレス低周波電気刺激装置を本防水袋に挿入するときに、該装置の電極位置と本防水袋の絶縁体電極膜の位置とを合致させる必要があるが、該装置の立体凸部が本防水袋の凹部に嵌合することで位置合わせが容易になる。
【0059】
[断面構成]
図16は本防水袋501にコードレス低周波電気刺激装置502を収容した状態でのBB断面図を示す。コードレス低周波電気刺激装置502は本体部5021と左右に延出したシート状電極部5022より構成される。本体部5021には本体回路部50211や操作スイッチ部50212などが内蔵されている。本電極部5022には導電性電極シート5023が表出し、該導電性電極シートの表面には導電性粘着ゲル5024が粘着している。該導電性粘着ゲルは電極面側シート5012の開口部を通して絶縁体電極膜10111に粘着している。本例では操作面側シート5011には開口があり該開口を透明樹脂シート5015が塞いでいる。操作面側シート5011が透明である場合は本開口及び透明樹脂シート5015は不要である。本例では絶縁体電極膜が電極面側シート5012の外側に貼り付けられているが、電極面側シートの内側に貼り付けられていても良い。また、
絶縁体電極膜の単膜が用いられているが、絶縁体電極膜と導電性基板などから構成される絶縁体電極シート(後述)を用いても良い。
【0060】
[使用法、固定法]
本防水袋501を使用するには、まず、コードレス低周波電気刺激装置の電極部に粘着している導電性粘着ゲル5024が絶縁体電極膜10111に粘着するように位置を合わせながら本装置を本防水袋に収納する。次に防水シール5013を閉める。絶縁体電極膜10111を皮膚に当接させるようにして伸縮性のある固定ベルトで固定する。
図25に本防水袋501に固定ベルトを取り付けた一例を示す。本防水袋の左右両端部に熱可塑性樹脂50191を溶着することで四角リング50192を取り付ける。該リングに伸縮性のある固定ベルト50193を通してから身体に巻き付けマジックテープ(登録商標)などで固定する。或は、
図26に示す本体部嵌合穴50195が明いた別体の伸縮性のある固定ベルト50194を用いて本防水ケースの上から巻き付けても良い。本嵌合穴50195には凸状の本体部5021を嵌合させる。固定ベルトは、一般的に普及している弾性繊維などによって構成できる。例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロンなどから成るストレッチ繊維やストレッチ織物などを用いることができる。
【0061】
操作スイッチ50213及び操作スイッチ部50212は本防水ケースの上から指で押して操作する。或は、コードレス低周波電気刺激装置502にブルートゥース(登録商標)
を用いた通信機能がある場合は、スマートホンなどからブルートゥース(登録商標)を用いて無線で操作することもできる。コードレス低周波電気刺激装置502を本防水袋501から取り出すときは防水シール5013を開け、導電性粘着ゲル5024を絶縁体電極膜10111から引き剥がして取り出す。
【0062】
本例では絶縁体電極膜10111は2枚が個別に存在しているが、一枚の絶縁体電極膜が複数の導電性電極をカバーしてもよい。更に、電極面側シートそのものが絶縁体電極膜であっても構わない。また、一つの防水袋の中に、2個以上のコードレス低周波電気刺激装置を収納してもよい。また、一つのコードレス低周波電気刺激装置の電極数は3個以上あ
っても構わない。また、
図14では、防水シール5013は操作面側シート5011に設けられているが、電極面側シート5012に設けられていても良い。本例では防水袋にコードレス低周波電気刺激装置を収納する場合について説明したが、コード付き電極を有する低周波電気刺激装置を収納しても良い。この場合、電極にはコードが付いており、絶縁体電極膜に電極を貼り付ける位置に自由度がある。絶縁体電極膜の数や面積を広くしておくことでその自由度を高められる。コード付き低周波電気刺激装置の本体が防水ケースの中で移動しないように当該装置本体の裏面を適宜固定しても良い。
【0063】
[絶縁体電極シート]
絶縁体電極膜10111の機械的強度を補強するために、該膜の裏面に導電性基板を積層して絶縁体電極シートとした場合、ハイドロポリマーから成る導電性粘着ゲル5024を導電性基板に貼り付けて使用すると、通電後短時間で金属製の導電性基板には電食により食孔ができる。水分を含まない導電性粘着ゲルであればこのような事故は起こらないが一般的には水分を含んだハイドロポリマーが導電性粘着ゲルとして普及している。導電性基板の裏面側にも絶縁体電極膜を形成した3層の絶縁体電極シートとすることで、機械的強度を補強しながら食孔の発生も防止することができる。また、絶縁体電極シートから導電性粘着ゲルを剥がす際も容易に剥がせるようになる。
【0064】
図17に絶縁体電極シート5016の断面図を示す。絶縁体電極シートでは導電性基板10112の外側表面に絶縁体電極膜10111が形成されており、また、本導電性基板の内側表面に内側絶縁体電極膜50161が形成されている。内側絶縁体電極膜の材料は絶
縁体電極膜10111の材料と同一でもよいし、或は、比誘電率の高い樹脂で違う材料を用いてもよい。絶縁体電極シート全体で表1に示した静電容量を実現する必要が有る為、内側絶縁体電極膜50161は絶縁体電極膜10111よりも薄くする必要がある。内側絶縁体電極膜においては使用に伴う擦過や摩耗が起こりにくいので膜厚を薄くできる。絶縁体電極シート5016を用いた場合は、該シート1枚で複数の導電性電極をカバーすることはできないので、導電性電極ごとに独立した絶縁体電極シートを設ける必要がある。
【0065】
[防水袋の材質]
操作面側シート5011、電極面側シート5012、透明樹脂シート5015、そして、接続シートには一般的な樹脂シートを用いることができるが、特に、水蒸気透過率が低い熱可塑性樹脂が好適である。具体的には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリ
塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。がこれに限定はされない。
【0066】
また、上記シートを複層化したものでもよい。例えば、軟質PVCシートにPCTFEフィルムを貼り合わせて水蒸気透過率を低減したラミネートシートなどが使用できる。更に、アルミ箔に熱可塑性樹脂をラミネートしたシートを用いることで、水蒸気透過率を大幅に低減し、また、熱の透過も低減することができる。このようなシートは一般的にレトルトのパウチケースなどで使用されている。但し、このようなアルミ箔ラミネートシートは不透明であるので、操作面側シートとしてこれを用いるときには、本体部の操作スイッチなどが外から視認できるように、本体部が位置する部分の操作面側シートに開口を設けて、その開口を透明な熱可塑性樹脂フィルム、例えば、PCTFEやPCTFEと軟質PVCのラミネートフィル
ムなどで塞いで透明窓シートとするのが良い。操作面側シート、電極面側シート、そして、透明窓シートの好適な厚さは材料によっても異なるが、30μmから1mmの範囲が望
ましい。30μm以下では耐久性が弱く、1mm以上では柔軟性が損なわれる。
【0067】
[防水シール]
防水シールは開閉自在であって、水中に浸漬しても防水性が維持できる構造のものであればよい。例えば、米国LOKSAK社のポリエチレン製の防水ケースaLOKSAK(登録商標)は線
状の凸部と凹部を嵌合するシンプルな構造のシール部であるが、水中での完全防水を保証している。YKK製アクアシール(登録商標)やプロシール(登録商標)のようにファスナ
ータイプの防水シールもある。このような防水シールを適宜選択することが出来る。
【0068】
[部材同士の接合]
本防水袋を構成する部材である、操作面側シート、電極面側シート、接続シート、防水シール、絶縁体電極膜、そして、透明樹脂シートなどは、溶着や両面テープ、接着剤などによって接合される。例えば、操作面側シートと電極面側シートは熱可塑性樹脂であり溶着によって接合し防水の袋を構成できる。アルミ箔ラミネートシートの場合でも、最外層に熱可塑性樹脂を用いることで、アルミ箔ラミネートシート同士を溶着できる。絶縁体電極膜に熱可塑性樹脂を用いることで電極面側シートと溶着できる。また、絶縁体電極膜にPVDFのような熱可塑性樹脂にチタン酸バリウムなどの無機微粒子を分散したコンポジットフィルムを用いた場合も熱可塑性樹脂の電極面側シートと溶着できる。溶着する部材同士が同じ熱可塑性樹脂であることが望ましいが、異種材料同士であっても条件を工夫することで溶着できる。例えば、PVDFと軟質PVCの場合、間に、PVDFと相溶性の高いアクリル系の樹脂を介在させることで溶着できる。
【0069】
また、3M社のVHB(登録商標)両面テープを用いて簡便に防水封止することもできる。3M VHB Y−4180(登録商標)は粘着しづらいポリプロピレン、ポリエチレンに対しても粘着が可能である。透明窓シートとしてPCTFEと軟質PVCのラミネートフィルムを用いる場合も、操作面側シートと溶着できる。溶着する手法としては、熱板による加圧溶着や超音波溶着、レーザー溶着など一般的な手法を利用できる。防水の信頼性を得るためには、部材同士の接合面を熱可塑性樹脂で構成し溶着によって接合することが望ましい。
【0070】
<防水型低周波電気刺激装置の実施形態2>
本防水型低周波電気刺激装置は、上述のプッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水袋501の中に、通電許可センサー対応機能や水中通信機能を搭載した防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置を収容したものである。
図18に防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602の操作面側を示す。
図19に本装置の電極面側を示す。
【0071】
防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602は本体部6021とシート状電極部6022から構成される。本体部の表面には操作スイッチ60213及び充電用レセプタクル60215が具備されている。使用者は操作スイッチ60213を指で押すことでON/OFFすることができる。また、使用者は、電気刺激強度や波形を調整してもよい。本シート状電極部の電極面側は導電性電極シート6023とその表面に粘着している導電性粘着ゲル6024より構成されている。
【0072】
図20に本装置602の本体回路部60211のブロック図を示す。本体回路部60211は制御部、指示操作部、通信モジュール、波形生成部、そして、蓄電池などから構成されている。操作スイッチ60213により指示操作部を操作できる。また、通信モジュールを経由してブルートゥース(登録商標)などの無線通信手段を用いてスマートホンなど
の外部通信端末から指示操作することもできる。これらの指示を受けて制御部から波形生成部に電気刺激波形の生成指示を行う。作成された電気刺激波形は導電性電極シート6023へ出力される。充電は充電用レセプタクル60215に充電用プラグ(不図示)を接続することで行われる。本図では充電用レセプタクル60215に通電許可センサー1212を接続した様子が示されている。
【0073】
[通電許可センサー1212]
充電用プラグ及びレセプタクルには一般的にマイクロUSBが用いられる。マイクロUSBプラグ/レセプタクルには5本のピンがあるが充電用途では2〜4番目のピンは使用されていない。そこで、
図20に示すように、通電許可センサー1212のセンサー芯線12123をマイクロUSBの4番ピンとグランドである5番ピンに接続する。そして4番ピンを制御部内のマイクロコンピュータの端子に接続する。マイクロコンピュータは4番ピンがグランドに落ちていれば電気刺激出力をONし4番ピンがオープンのときには電気刺
激出力をOFFできる。本例では4番ピンと5番ピンを使用したが、2〜4番ピンの任意の二つのピンを使用しても良い。
図21に本通電許可センサー1212の構成を示す。通電許可センサー1212には電線コード12124が付いており、本電線コードの中にセンサー芯線12123が挿通している。本電線コードの先端にはマイクロUSBプラグ12127が接続されている。
【0074】
本通電許可センサー1212は防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602の充電用レセプタクル60215に接続され、本装置602とともに、防水ケース501の中に収容される。通電許可センサー1212は本装置602のシート状電極部6022の表面などに置かれており、防水ケースを人体に当接し固定ベルトで巻き付け固定するときに発生する圧力により本通電許可センサーがONし、固定ベルトによる巻き付け固定を解放すると押下圧力もなくなり本通電許可センサーはOFFとなる。本通電許可センサー121
2の内部構造は
図4で示したものと同じ構造を使用できる。本通電許可センサーは防水ケース内に納められるので、電線コード12124は防水コードである必要は無く一般的な絶縁被覆電線を使用できる。
【0075】
(プラグ/レセプタクルの他の実施形態例)
通電許可センサー1212に装着するプラグはマイクロUSBに限定される必要はない。例えば、フォーンミニプラグやフォーンマイクロプラグなどを用いてもよい。この場合、防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602の本体部6021に充電用レセプタクル60215とは別に、フォーンプラグ用のフォーンジャック(不図示)を設け、フォーンジャックからの配線を制御部内のマイクロコンピュータの端子に接続する。これによりマイクロコンピュータは本通電許可センサーのON/OFFを検出できる。
(通電許可センサーの他の実施形態例)
通電許可センサーとしてのモーメンタリスイッチを防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602に内蔵し、シート状電極部6022表面などに、凸状に飛び出すように配置してもよい。その断面構造は、他の実施形態における断面図ではあるが
図24の通電許可センサー7025と同じである。固定ベルトで人体に巻き付け固定することで、防水ケース501の操作面側シートを介して押下圧力を受けてONすることができる。固定ベルトを解放した時には押下力が消えモーメンタリ―スイッチがOFFし電気刺激出力を遮断できる。
【0076】
[水中へのブルートゥース(登録商標)通信]
コードレス低周波電気刺激装置を背中など手の届かない位置に貼り付けた場合、装置本体部に配備されている操作スイッチを押すことができない。この為、スマートホンなどの外部端末からブルートゥース(登録商標)を使って無線で出力制御できる製品が増えている
。コードレス低周波電気刺激装置を防水袋に入れて水中で使用する場合、ブルートゥース(登録商標)の電波が水及び人体に吸収されてしまうという課題が発生する。現在一般的
に使用されているブルートゥース(登録商標)クラス2の電波強度の場合、浴槽の水深程
度の距離であれば水中でも安定して送受信できる。しかし、スマートホンを手に持ち、本装置が水中にある人体の陰に隠れた場合、人体内部での電波の吸収が大きいため、通信が不安定になる。一方、ブルートゥース(登録商標)クラス1.5(電波出力10mW)以
上であれば、お風呂の中でも安定した通信が可能となる。従って、本発明の防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602にはブルートゥース(登録商標)クラス1.5(電
波出力10mW)以上の電波出力を有する通信モジュールを搭載する必要がある。
【0077】
このように、既存のコードレス低周波電気刺激装置に、通電許可センサー機能、及び、水中でも使用できる通信機能を搭載することで、防水袋対応型コードレス低周波電気刺激装置602が完成し、本装置602を上記プッシュスイッチ式低周波電気刺激装置用防水ケース501に収納することで本実施形態2の防水型低周波電気刺激装置601(不図示)が完成する。
【0078】
<防水型低周波電気刺激装置の実施形態3>
本実施形態の防水型低周波電気刺激装置701は、通常のコードレス低周波電気刺激装置にワイヤレス充電機能と通電許可センサー及び水中通信機能を内蔵した防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702を、樹脂フィルムで密閉封止したものである。
図22に操作面側平面図を示す。防水封止対応型コードレス低周波治療器702は、本体部7021、シート状電極部7022より構成されており、本体部7021には操作スイッチ70213が設けられている。更に、電極部表面から突出するように通電許可センサー7025が内蔵されている。
【0079】
図23は本装置701の電極面側を示している。7023は導電性電極シート、7024
は導電性電極シートの上に粘着された導電性粘着ゲルである。電極面側シート7012の開口を塞ぐように絶縁体電極シート5016が貼られている。防水封止対応型コードレス低周波治療器702は、操作面側シート7011と電極面側シート7012によって被覆され、両シートの周縁部7018は溶着或は両面テープなどによって密閉封止されている。
【0080】
図24は防水型低周波電気刺激装置701の断面図を示す。電極面側シート7012には、開口部があり該開口部を絶縁体電極シート5016が塞いでいる。防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702の導電性電極シート7023の上には導電性粘着ゲル7024が粘着しており、本粘着ゲルの外側面は絶縁体電極シート5016に粘着している。尚、絶縁体電極シート5016の代わりに絶縁体電極膜10111を用いても良い。また、導電性粘着ゲルにハイドロポリマーを用いない導電性粘着ゲルを使う場合は、絶縁体電極膜10111と金属製導電性基板10112で構成される2層の絶縁体電極シートを用いても良い。導電性粘着ゲル7024の代わりに導電性接着剤を用いる場合も本2層の絶縁体電極シートを用いることができる。
【0081】
[ワイヤレス充電機能]
防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702の本体回路部70211の底面には、外部からの電磁誘導や磁界共鳴による充電エネルギーをワイヤレスで受電するための受電コイル70214及び磁束の漏洩を防止するための磁性シート70215、そして受電回路基板70216が設けられており、外部からワイヤレスで本体回路部内の蓄電池(不図示)を充電することが出来る。ワイヤレス給電に係る部品やユニットは一般的に入手できる製品を使用できる。例えばTDK製の2ワットの受電コイルでは直径が2cmであり、磁性シートと一体化した厚みは1mm以下である。また、受電回路基板70216も同程度の基板サイズに納めることができる。充電は、送電コイルを内部に有する充電器(不図示)に、受電コイル70214を近接させ磁界結合させることでワイヤレス充電することができる。電極面側シート7012にアルミ箔ラミネートフィルムを用いた場合、受電コイル70214と送電コイル(不図示)との間にアルミ箔が介在することになる。給電は高周波交流で行われるためにアルミ箔内に渦電流が発生し発熱するとともに給電エネルギーを損失する。従って、この場合、受電コイル70214に対面する電極面側シート部分に開口(不図示)を設けこの開口を樹脂シート(不図示)で塞ぐ。
【0082】
[通電許可センサー]
図24においては通電許可センサー7025が防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702のシート状電極部表面に内蔵されている。シート状電極部7022はシート状のエラストマーなどで被覆されているため人体への巻き付けによる押圧で通電許可センサー7025のモーメンタリスイッチを押下することができる。通電許可センサーの構造としては
図4と同じものを使用できる。通電許可センサーのセンサー芯線は本体回路部70211にあるマイクロコンピュータの端子に接続されており、センサースイッチが押圧から解放されると不使用状態と判定し電気刺激出力を遮断する。
[水中へのブルートゥース(登録商標)通信]
本体回路部70211には通信モジュール(不図示)も搭載されており、ブルートゥース(登録商標)クラス1.5(10mW)以上の電波出力を有しているため、スマートホン
などとの間でお風呂の中でも安定した通信ができる。
【0083】
以上のように構成することで充電可能で防水性に優れた防水型低周波電気刺激装置701を実現することができる。上記説明では、防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702の電極数を2個としたが、電極数は3個以上あっても構わない。電極数を増やすことでより広範囲に電気刺激を与えることができる。また、密閉封止される防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置は1個ではなく2個以上であっても構わない。上記説明で
は、絶縁体電極膜10111を導電性粘着ゲルの位置に対応してそれぞれ独立して配置したが、1枚の絶縁体電極膜が複数の導電性電極を被覆していても構わない。更には、電極面側シートそのものが絶縁体電極膜であっても構わない。
【0084】
[防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702の他の実施形態]
防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702自体を防水構造とし、電極部分を絶縁体電極膜或は絶縁体電極シートとすることで、操作面側シート7011と電極面側シート7012を排除してもよい。通電許可センサー及びワイヤレス充電機能は内蔵されているため、レセプタクルや開閉機構などが存在しないため、防水構造をとりやすい。防水構造の一例としては、防水封止対応型コードレス低周波電気刺激装置702を熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーで被覆した構造とすることで絶縁体電極膜或は絶縁体電極シートと溶着封止することができる。
【0085】
<防水型低周波電気刺激装置の実施形態4>
図27に支持体と一体化した防水型低周波電気刺激装置801を示す。本装置は、防水型低周波電気刺激装置本体802及び、低周波電気刺激用絶縁体電極1011、そして、通電許可スイッチ1012或は通電許可センサー1112が固定ベルト支持体8011に一体的に取り付けられている。8022は操作スイッチを示す。図中の点線は固定ベルト支持体内部を挿通する防水コードを示している。防水型低周波電気刺激装置本体802は前記防水型低周波電気刺激装置本体402と同じ機能を有するものであるが、水中に浸漬できる防水性能を有している。また、ブルートゥース(登録商標)クラス1.5以上の電波
出力を有する通信機能を搭載してスマートホンなどの外部端末から操作できるようにしても良い。絶縁体電極1011及び通電許可スイッチ1012又は通電許可センサー1112は、使用者が貼り付け位置を自由に調整できるように自由度を持たせマジックテープ(登録商標)などで固定してもよい。低周波電気刺激用絶縁体電極と通電許可センサーの代わりに通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極を用いても良い。
【0086】
<防水型低周波電気刺激装置の実施形態5>
図28は肩や首や背中への低周波電気刺激に用いることができる肩掛け型支持体9011を有する防水型低周波電気刺激装置901である。絶縁体電極1011は複数設けられ、通電許可センサー1012又は通電許可センサー1112は2個設けられている。902は防水型低周波電気刺激装置本体であり、9022は本装置本体の操作スイッチである。2個のスイッチ又はセンサーは並列に電気接続されており、どちらか一つがONすれば電気刺激出力はONとなり、両方の通電許可センサーが同時にOFFのときに電気刺激出力がOFFとなるように構成されている。このように支持体の形状は限定されるものではなく、人体への当接部位に応じて人体形状に合わせて自由な形態をとることが出来る。低周波電気刺激用絶縁体電極と通電許可センサーの代わりに通電許可センサー一体型低周波電気刺激用絶縁体電極を用いても良い。
【0087】
固定ベルト支持体8011としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、などから成るストレッチ繊維やストレッチ織物を用いて構成された弾力性のあるベルトなどを用いることができる。肩掛け型支持体9011の場合は、伸縮性のある弾性繊維で構成する以外に、弾力と強度のある素材でシェルを構成し、人体の三次元形状に沿える柔らかい素材を内張することで構成してもよい。骨格や形状を構成するには、繊維強化型プラスチックや軟質塩化ビニルなどの樹脂やエラストマーなどが使用できる。内張を構成するには、樹脂系エラストマー、樹脂発泡体、或は、繊維を三次元的に編んだ網状弾性体、ゴム弾性をもつ熱可塑性エラストマーからなる連続線条のランダムループを三次元構造化したものなどが使用できる。