特許第6696474号(P6696474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6696474オキサビシクロオクタン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696474
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】オキサビシクロオクタン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/00 20060101AFI20200511BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C07D307/00
   !C07B53/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-84766(P2017-84766)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-58809(P2018-58809A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-125040(P2016-125040)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-149109(P2016-149109)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-192390(P2016-192390)
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】西野 繁栄
(72)【発明者】
【氏名】小田 広行
(72)【発明者】
【氏名】笠井 惇如
(72)【発明者】
【氏名】生野 謙
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智親
(72)【発明者】
【氏名】細見 卓
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131663(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/16302(WO,A1)
【文献】 特開2017−210468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、下記式(2)で示されるヨウ素酸及び/又はその塩、下記式(3)で示されるヨウ化物、並びに酸(前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を除く)を混合して混合液を得ることと、得られる混合液中で下記式(4)で示されるオキサビシクロオクタン化合物を生成させることとを含み、前記ヨウ素酸は前記酸を兼ねていてもよい、オキサビシクロオクタン化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

(式中、Aは水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【化3】

(式中、Aはアルカリ金属を示す。)
【化4】
【請求項2】
前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸が、下記式(5)で示される(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸であり、
前記オキサビシクロオクタン化合物が、下記式(6)で示される(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンである、請求項1に記載の製造方法。
【化5】

【化6】
【請求項3】
前記酸が塩酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
温度5〜70℃で、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、前記ヨウ化物、並びに前記酸を混合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
温度10〜50℃で、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、前記ヨウ化物、並びに酸を混合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して、0.9〜1.4モルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して、1.0〜1.2モルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ヨウ素酸及びその塩の物質量の和が、前記ヨウ化物1モルに対して0.4〜0.8モルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合液を得ることが、
前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して混合物を得ることと、
前記混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記混合液を得ることが、
前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して第1の混合物を得ることと、
前記第1の混合物に前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を添加して第2の混合物を得ることと、
前記第2の混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のオキサビシクロオクタン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサビシクロオクタン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキサビシクロオクタン化合物は、例えば、医薬品、機能性材料等の原料として有用な化合物である。具体的には、下記式(6)で示される(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンは、血栓性疾患の予防又は治療薬として有用な化合物の原料であることが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
【化1】
【0004】
この(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンの製造方法として、例えば、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を、ヨウ素、ヨウ化カリウム、及び炭酸水素ナトリウムと反応させる製造方法が知られている(例えば、特許文献1及び2並びに非特許文献1及び2参照)。
【0005】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/131663号
【特許文献2】国際公開第2003/016302号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.,32,1991,1613−1616.
【非特許文献2】Tetrahedron Asymmetry 15,2004, 2057-2060.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1及び2並びに非特許文献1及び2では、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を、ヨウ素、ヨウ化カリウム、及び炭酸水素ナトリウムと反応させることにより(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンを得ているが、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸に対して、合計4〜7モル倍量のヨウ素原子を添加しており、いずれの製造方法も経済的に好適な製造方法ではなかった。また、ヨウ素を過剰量添加するため、ヨウ素の廃液が多量に生成するという問題もあった。したがって、過剰にヨウ素を使用することなく、工業的に好適な収率でオキサビシクロオクタン化合物を合成する製造方法が求められている。また、(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンを医薬品の原料として用いる場合、異性体及びその他の化合物の副生量を低減することが重要である。
【0009】
以上より、本発明の課題は、過剰なヨウ素を使用することなく、工業的に好適な方法により、オキサビシクロオクタン化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の事項に関する。
【0011】
1.下記式(1)で示される3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、下記式(2)で示されるヨウ素酸及び/又はその塩、下記式(3)で示されるヨウ化物、並びに酸(前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を除く)を混合して混合液を得ることと、得られる混合液中で下記式(4)で示されるオキサビシクロオクタン化合物を生成させることとを含み、前記ヨウ素酸は前記酸を兼ねていてもよい、オキサビシクロオクタン化合物の製造方法。
【化3】

【化4】

(式中、Aは水素原子又はアルカリ金属を示す。)
【化5】

(式中、Aはアルカリ金属を示す。)
【化6】
【0012】
2.前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸が、下記式(5)で示される(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸であり、
得られる前記オキサビシクロオクタン化合物が、下記式(6)で示される(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンである、請求項1に記載の製造方法。
【化7】

【化8】
【0013】
3.前記酸が塩酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記1又は2に記載の製造方法。
【0014】
4.温度5〜70℃で、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、前記ヨウ化物、並びに前記酸を混合する、前記1〜3のいずれか一つに記載の製造方法。
【0015】
5.温度10〜50℃で、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、前記ヨウ化物、並びに酸を混合する、前記1〜4のいずれか一つに記載の製造方法。
【0016】
6.前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して、0.9〜1.4モルである、前記1〜5のいずれか一つに記載の製造方法。
【0017】
7.前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して、1.0〜1.2モルである、前記1〜6のいずれか一つに記載の製造方法。
【0018】
8.前記ヨウ素酸及びその塩の物質量の和が、前記ヨウ化物1モルに対して0.4〜0.8モルである、前記1〜7のいずれか一つに記載の製造方法。
【0019】
9.前記混合液を得ることが、
前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して混合物を得ることと、
前記混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む、前記1〜8のいずれか一つに記載の製造方法。
【0020】
10.前記混合液を得ることが、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して第1の混合物を得ることと、
前記第1の混合物に前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を添加して第2の混合物を得ることと、
前記第2の混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む、前記1〜8のいずれか一つに記載のオキサビシクロオクタン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、過剰なヨウ素を使用することなく、工業的に好適な方法により、工業的に好適な収率で高純度なオキサビシクロオクタン化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0023】
以下、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態のオキサビシクロオクタン化合物の製造方法は、前記式(1)で示される3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記式(2)で示されるヨウ素酸及び/又はその塩、前記式(3)で示されるヨウ化物、並びに酸(前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を除く)を混合して混合液を得ることと、得られる混合液中で前記式(4)で示されるオキサビシクロオクタン化合物を生成させることとを含む。例えば、前記式(1)で示される3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記式(2)で示されるヨウ素酸及び/又はその塩、及び前記式(3)で示されるヨウ化物を混合し、さらに酸(前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を除く)と接触させることで、前記式(4)で示されるオキサビシクロオクタン化合物を得る。本実施形態の製造方法では、例えば、以下の反応式にしたがって、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸が、ヨウ素酸及び/又はその塩、ヨウ化物並びに酸と反応する。
【0025】
【化9】

(式中、A、及びAは前記と同義である。)
【0026】
本実施形態では、前記ヨウ素酸は前記酸を兼ねていてもよい。すなわち、前記ヨウ素酸を用いる場合には、ヨウ素酸の使用量に応じて、ヨウ素酸以外の酸を用いなくてもよいことがある。
【0027】
(3−シクロヘキセン−1−カルボン酸)
本実施形態において使用する、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸は、下記式(1)で示される。
【0028】
【化10】
【0029】
本化合物は、例えば、前記非特許文献1に記載のとおり、アクリル酸4,4−ジメチル−2−オキソテトラヒドロフラン−3−イルより合成することができる。本化合物は、前記特許文献1に記載のとおり、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸のメチルベンジルアミン塩より合成することもできる。本化合物は、市販品として入手することもできる。
【0030】
3−シクロヘキセン−1−カルボン酸は、光学活性体であり、(R)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸(以下、「R体」と称することもある。)、及び下記式(5)で示される(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸(以下、「S体」と称することもある。)を包含する。3−シクロヘキセン−1−カルボン酸は、R体とS体の混合物であっても構わない。3−シクロヘキセン−1−カルボン酸としては、誘導化後の化合物の薬理活性向上の観点から、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸が好ましい。なお、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を用いる場合、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン中に(R)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸が含まれていてもよいが、誘導化後の化合物の薬理活性向上の観点から、鏡像体過剰率は99%ee以上であることが好ましい。
【0031】
【化11】
【0032】
本実施形態では、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸の塩(カルボン酸塩)を用いてよく、該カルボン酸塩を後述の酸と接触させ、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸としてから、本実施形態の製造方法に用いてもよい。カルボン酸塩としては、例えば、カルボン酸アルカリ金属塩、カルボン酸アルカリ土類金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等を使用することができる。
【0033】
(ヨウ素酸及びその塩)
本実施形態において使用するヨウ素酸及びその塩は、下記式(2)で示される。
【0034】
【化12】
【0035】
式(2)中、Aは水素原子又はアルカリ金属を示す。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びフランシウムが挙げられる。Aは、好ましくはナトリウム、カリウム、又はセシウムであり、より好ましくはナトリウム、又はカリウムであり、更に好ましくはカリウムである。このようなヨウ素酸及び/又はその塩を用いることで、工業的により好適な反応速度及び収率で、オキサビシクロオクタン化合物を得ることができる。本実施形態では、前記式(2)におけるAが異なる、複数種のヨウ素酸及び/又はその塩を用いてもよいが、単一種のヨウ素酸及び/又はその塩を用いることが好ましい。また、ヨウ素酸及び/又はその塩は、そのまま使用してよく、水、アルコール等の有機溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させて使用してもよい。
【0036】
本実施形態では、ヨウ素酸のみを用いてよく、ヨウ素酸塩のみを用いてもよく、ヨウ素酸及びその塩を混合して使用してもよい。本実施形態では、後述のとおり、ヨウ素酸とは別に酸を添加することが好ましいため、ヨウ素酸塩のみを使用することが好ましい。
【0037】
(ヨウ化物)
本実施形態において使用するヨウ素化物は、下記式(3)で示される。
【0038】
【化13】
【0039】
式(3)中、Aはアルカリ金属を示す。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、又はフランシウムが挙げられる。Aは、好ましくはナトリウム、カリウム、又はセシウムであり、より好ましくはナトリウム、又はカリウムであり、更に好ましくはカリウムである。このようなヨウ化物又はその塩を用いることで、工業的により好適な反応速度及び収率で、オキサビシクロオクタン化合物を得ることができる。本実施形態では、前記式(3)におけるAが異なる、複数種のヨウ化物を用いてもよいが、単一種のヨウ化物であることが好ましい。また、ヨウ化物は、そのまま使用してよく、水、アルコール等の有機溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させて使用してもよい。
【0040】
(前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の使用量)
ヨウ素酸及びその塩はヨウ化物と併用する必要がある。前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和は、ヨウ素の廃棄量を低減しながら、効率よくオキサビシクロオクタン化合物を製造する観点から、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して、好ましくは0.9モル〜2.0モルであり、より好ましくは0.9モル〜1.4モルであり、更に好ましくは0.9モル〜1.2モルであり、更により好ましくは1.0モル〜1.2モルであり、特に好ましくは1.0モル〜1.1モルである。前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が上記下限値以上であると、反応が十分に進行しやすく、上記上限値以下であると、副反応の進行、無機物の残渣等による、生成物の純度の低下が起こりにくい。
【0041】
前記ヨウ素酸及びその塩の物質量の和は、効率よくオキサビシクロオクタン化合物を製造する観点から、前記ヨウ化物1モルに対して、好ましくは0.4モル〜0.8モルであり、より好ましくは0.4モル〜0.6モルである。このような範囲とすることで、工業的に好適な反応速度を維持しながら、副反応の進行を抑え、より高い収率でオキサビシクロオクタン化合物を製造することができる。
【0042】
以上のことから、本実施形態では、前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して0.9〜1.4モルであり、前記ヨウ素酸及びその塩の物質量の和が、前記ヨウ化物1モルに対して0.4〜0.8モルであることが好ましく、前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の物質量の和が前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1モルに対して1.0〜1.2モルであり、前記ヨウ素酸及びその塩の物質量の和が、前記ヨウ化物1モルに対して0.4〜0.6モルであることがより好ましい。
【0043】
(酸)
本実施形態において、酸(前記式(1)で示されるカルボン酸を除く)としては、無機酸、有機酸及びこれらの水溶液を使用できる。無機酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;過ヨウ素酸等のハロゲンオキソ酸類;硫酸、フルオロスルホン酸等の硫酸類;リン酸、ヘキサフルオロリン酸等のリン酸類;ホウ酸、テトラフルオロホウ酸等のホウ酸類;硝酸等の硝酸類;クロム酸等のクロム酸類;ヘキサフルオロアンチモン酸等のアンチモン酸類などが挙げられる。有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;酢酸、ギ酸、クエン酸、安息香酸等のカルボン酸類(前記式(1)示されるカルボン酸は除く。);クレゾール、カテコール等のフェノール類などが挙げられる。ここでの酸の一部又は全部が、上述の式(2)のヨウ素酸であってもよいが、使用するヨウ素を低減するため、前記酸としてヨウ素酸を使用しないことが好ましい。本実施形態において使用する酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、又は酢酸であり、更に好ましくは塩酸、又は酢酸であり、より好ましくは酢酸である。なお、これらの酸は単独で又は二種以上を混合して使用してもよい。これらの酸を使用することで、異性体及びその他の化合物の副生量を低減することができる。かかる効果は、酢酸を用いた場合に特に顕著である。
【0044】
本実施形態において、ヨウ素酸以外の酸を使用する場合、使用するその酸の使用量は、例えば、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1.0モルに対して、0.3モル〜5.0モルであり、好ましくは0.4モル〜2.0モルであり、より好ましくは0.5モル〜2.0モルであり、更に好ましくは0.8モル〜1.5モルであり、更により好ましくは1.0モル〜1.2モルであり、特に好ましくは1.0モル〜1.1モルである。このような範囲とすることで、工業的に好適な反応速度を維持しながら、より高い収率でオキサビシクロオクタン化合物を得ることができる。ヨウ素酸を前記酸として兼ねて使用する場合は、(前記ヨウ素酸及びその塩、並びに前記ヨウ化物の使用量)に記載の範囲内で、ヨウ素酸を使用することが好ましい。
【0045】
(オキサビシクロオクタン化合物)
本実施形態により得られるオキサビシクロオクタン化合物は、下記式(4)で示される。
【0046】
【化14】
【0047】
前記式(4)で示される化合物は不斉炭素を3つ有する。前記式(4)で示される化合物は、ビシクロ構造を有していることから、4種の立体異性体を包含する。前記式(4)で示される化合物の立体構造は、原料として用いる3−シクロヘキセン−1−カルボン酸化合物の構造に依存する。例えば、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸化合物を用いた場合には、下記式(6)で示される化合物が得られる。(R)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸化合物を用いた場合には、下記式(7)で示される化合物が得られる。
【0048】
【化15】
【0049】
【化16】
【0050】
前記式(4)で示される化合物は、化合物の入手容易性及び誘導化後の化合物の薬理活性向上の観点から、式(6)で示される化合物が好ましい。したがって、好ましいオキサビシクロオクタン化合物としては、医薬品、機能性材料等の原料として有用な化合物であることから、式(6)で示される(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンが挙げられる。なお、(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オン中に(1R、4R、5R)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンが含まれていてもよいが、誘導化後の化合物の薬理活性向上の観点から、鏡像体過剰率は99%ee以上であることが好ましい。
【0051】
(本実施形態の製造方法)
本実施形態の製造方法では、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸と、ヨウ素酸及び/又はその塩、ヨウ化物、並びに酸とを混合し、得られる混合液中でオキサビシクロオクタン化合物を生成させる。具体的には、例えば、以下の方法によって、オキサビシクロオクタン化合物を生成させる。
A.前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して混合物を得ることと、前記混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む方法。
B.前記ヨウ素酸及び/又はその塩、並びに前記ヨウ化物を混合して第1の混合物を得ることと、前記第1の混合物に、前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を添加して第2の混合物を得ることと、前記第2の混合物に前記酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む方法。
C.前記ヨウ素酸及び/又はその塩、前記ヨウ化物、並びに酸を混合して混合物を得ることと、前記混合物に前記3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を添加して前記混合液を得ることと、を含む方法。
【0052】
ヨウ素の廃棄量を低減しながら、効率よくオキサビシクロオクタン化合物を製造する観点から、好ましくは方法A又は方法Bであり、より好ましくは方法Bである。
【0053】
(溶媒)
本実施形態の製造方法では溶媒を用いてよく、溶媒を用いなくてもよい。すなわち、本実施形態では、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸とヨウ素酸及び/又はその塩、ヨウ化物、並びに酸との反応を、溶媒の非存在下、又は溶媒の存在下で行うことできる。本実施形態では、溶媒を用いる(溶媒存在下で反応を行う)ことが好ましい。
【0054】
使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されない。溶媒として、例えば、水及び種々の有機溶媒を使用できる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、イソブタノール、2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、n−オクタノール、ベンジルアルコール、及びテルピネオール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、及びイソホロン等のケトン類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸ブチル、サリチル酸メチル、マロン酸エチル、酢酸2−エトキシエタン、及び酢酸2−メトキシ−1−メチルエチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、及びヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び1,3−ジメチルイミダゾリジン−2,4−ジオン等の尿素類;ジメチルスルホキシド、及びジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル類;γ―ブチロラクトン等のラクトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、アニソール、フェネトール、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン、1,2−メチルアニソール、1,3−メチルアニソール、1,4−メチルアニソール、1,2−メチレンジオキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、フタラン、オクチルオキシベンゼン、ジフェニルエーテル、及びエチルセロソルブ等のエーテル類;炭酸ジメチル、及び1,2−ブチレングリコールカーボネート等のカーボネート類;チオアニソール、及びエチルフェニルスルフィド等のチオエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン、ヘミメリテン、デュレン、イソデュレン、プレーニテン、エチルベンゼン、クメン、tert−ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、フェニルアセチレン、インダン、メチルインダン、インデン、テトラリン、ナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、フェニルオクタン、及びジフェニルメタン等の芳香族炭化水素類;フェノール、1,2−クレゾール、1,3−クレゾール、1,4−クレゾール、1,2−メトキシフェノール、1,3−メトキシフェノール、及び1,4−メトキシフェノール等のフェノール類;クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,3−ジブロモベンゼン、1,4−ジクロロトルエン、1−クロロナフタレン、2,4−ジクロロトルエン、2−クロロ−1,3−ジメチルベンゼン、2-クロロトルエン、2−クロロ−1,4−ジメチルベンゼン、4−クロロ−1,2−ジメチルベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、m−クロロトルエン、1−クロロ−2,3−ジメチルベンゼン、4−(トリフルオロメトキシ)アニソール、及びトリフルオロメトキシベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、及びリモネン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、及び1,2−ジブロモエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;2,6−ジメチルピリジン、及び2,6−ジtert-ブチルピリジン等のピリジン類などが挙げられる。本実施形態において用いられる溶媒は、好ましくは水、アルコール類、又はニトリル類であり、更に好ましくは水である。なお、これらの溶媒は、単独で又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
前記溶媒を使用する場合、その使用量は、反応液の均一性、攪拌性等により適宜調節される。溶媒の使用量は、例えば、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸1gに対して、好ましくは0.1〜1000gであり、より好ましくは0.3〜500gであり、更に好ましくは0.5〜200gであり、特により好ましくは0.5〜100gである。
【0056】
(温度)
本実施形態の反応温度は、オキサビシクロオクタン化合物を製造する上では、特に限定されない。反応温度は、冷却、昇温等の操作面の煩雑さを避ける観点では、好ましくは5℃〜100℃であり、より好ましくは10℃〜80℃であり、更に好ましくは10℃〜60℃である。反応温度は、副反応を抑制し、工業的に好適な反応速度で(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンを得る観点では、好ましくは5℃〜70℃であり、より好ましくは10℃〜50℃であり、更に好ましくは15℃〜40℃であり、更により好ましくは15℃〜30℃である。反応温度の上昇に伴い、(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンのジアステレオマー、その他のオキサビシクロ化合物(以下、「類縁化合物」ともいう)等の副生成物の生成量が増加することがある。そのため、医薬品中間体として有用な生成物を得るためには、前記範囲に反応温度を制御する必要がある。特に、ジアステレオマーは、(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンと化学的性質及び物理的性質が類似しており、除去が困難となることがあることがあるため、ジアステレオマーの生成量を低減する必要がある。なお、反応温度とは、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸、ヨウ素酸及び/又はその塩、ヨウ化物、並びに酸を混合する際の反応系の温度(例えば、反応溶液の温度)を意味する。上述の方法A及び方法Bのように、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を多段階で反応させる場合、それぞれの段階の反応温度(混合時の温度)は同じであってよく、異なっていてもよい。
【0057】
(圧力、ガス)
本実施形態の製造方法における反応圧力(混合時の圧力)は、特に限定されない。また、反応環境(混合時の環境)も特に限定されない。反応(混合)は、例えば、空気中で行ってよく、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム)中で行ってもよく、これらの混合ガス中で行ってもよい。反応(混合)は不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0058】
(還元操作)
本実施形態において、未反応の前記式(2)で示されるヨウ素酸及び/又はその塩等が反応系(例えば反応後の溶液)に残存することがあるが、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、又はチオ硫酸ナトリウム等の還元剤を用いる(例えば反応後の溶液に混合する)ことによって、ヨウ素酸及び/又はその塩等を失活させることもできる。還元剤の使用量は、反応終了後に溶液中に残存するヨウ素酸及びその塩の合計に対して、好ましくは1.0倍モル〜6.0倍モルである。なお、ヨウ素酸及び/又はその塩等が失活することは、ヨウ化カリウムデンプン紙等により、確認することができる。
【0059】
(中和操作)
本実施形態では、酸を用いるため、精製前に、反応系を中和する中和操作を行ってもよい。中和操作に使用する塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩、塩基性イオン交換樹脂、塩基点を持つゼオライト等が挙げられる。塩基性化合物としては、好ましくはアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩が使用され、より好ましくは炭酸塩が使用される。これらの塩基性化合物は単独で用いてよく、複数を混合して用いてもよい。
【0060】
塩基性化合物の使用量は、例えば、使用した酸1モルに対し、単体基準で0.1モル以上であってよい。塩基性化合物を水に溶解させて使用する場合の塩基性化合物の使用量は、反応装置の容量等も考慮して、適宜調整される。
【0061】
(精製操作)
本実施形態では、混合液中で生成させたオキサビシクロオクタン化合物を含む粗生成物を精製してよい。オキサビシクロオクタン化合物を含む粗生成物は、例えば、濾過、抽出、蒸留、昇華、再結晶、カラムクロマトグラフィー等による一般的な方法によって単離・精製できる。より収率よく、高純度なオキサビシクロオクタン化合物を得ることができる観点では、再結晶及び/又は抽出により精製することが好ましく、再結晶により精製することがより好ましい。特定の立体構造を有する3−シクロヘキセン−1−カルボン酸化合物を原料として用いた場合、鏡像体過剰率が高い、オキサビシクロオクタン化合物を得ることができる。
【0062】
再結晶(再結晶操作)は、一般的に知られた方法で行うことができる。例えば、昇華により再結晶する方法、オキサビシクロオクタン化合物の溶液を減圧濃縮することにより再結晶する方法、オキサビシクロオクタン化合物の溶液に対し溶解度の低い溶媒を滴下することにより再結晶する方法、溶液中室温(20℃)下で長時間放置することにより再結晶する方法、オキサビシクロオクタン化合物の飽和溶液に対し種晶を添加することにより再結晶する方法等が知られている。再結晶の方法は、溶解度、結晶構造等に応じて適宜設定される。オキサビシクロオクタン化合物は種々の溶媒に可溶であることから、用いる溶媒を適宜調節しながら、オキサビシクロオクタン化合物を結晶化させることができる。(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンの結晶を得る方法についても同様である。
【0063】
再結晶操作では、水及び種々の有機溶媒を溶媒として使用できる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びアセトフェノン等のケトン類:酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、及び酢酸2−メトキシ−1−メチルエチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジエチルホルムアミド等のアミド類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び1,3−ジメチルイミダゾリジン−2,4−ジオン等の尿素類;ジメチルスルホキシド、及びジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル類;γ―ブチロラクトン等のラクトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、アニソール、フェネトール、1,2−ジメトキシベンゼン、及び2,3−ジヒドロベンゾフラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、及び1,2−ブチレングリコールカーボネート等のカーボネート類;チオアニソール、及びエチルフェニルスルフィド等のチオエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、及びナフタレン、等の芳香族炭化水素類;フェノール、及び1,2−クレゾール等のフェノール類;クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、及び4−(トリフルオロメトキシ)アニソール等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、及びリモネン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及び1,2−ジブロモエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;2,6−ジメチルピリジン、及び2,6−ジtert-ブチルピリジン等のピリジン類などが挙げられる。
【0064】
本再結晶操作においては、他の精製操作に用いた溶媒をそのまま使用してもよいし、新たに前述の溶媒を添加して、再結晶操作を行ってもよい。
【0065】
再結晶操作後、濾過により、オキサビシクロオクタン化合物を結晶として取得することができ、オキサビシクロオクタン化合物の溶解度が低い溶媒等で結晶を洗浄することで、高純度なオキサビシクロオクタン化合物を取得することができる。
【0066】
抽出(抽出操作)では、不純物を水層に溶解させることで除去し、オキサビシクロオクタン化合物が溶解した有機層を取り出して、得られた有機溶媒を減圧濃縮する。これにより、オキサビシクロオクタン化合物の固体を得ることができる。
【0067】
抽出操作に使用される溶媒としては、前記再結晶操作に使用される溶媒と同じである。
【0068】
以上の再結晶操作及び抽出操作により、より高純度なオキサビシクロオクタン化合物を得ることができる。なお、精製操作は、製造されるオキサビシクロオクタン化合物の沸点、溶解度等の物性に応じて適宜変更されるが、上記再結晶操作及び抽出操作は、オキサビシクロオクタン化合物の中でも前記式(6)で示される化合物を精製する際に、特に好適に適用される。
【実施例】
【0069】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
((1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの合成)
【0071】
【化17】
【0072】
[第一工程]
還流冷却器、滴下漏斗、温度計及び攪拌装置を備えた内容積500mLの容器に、水270mL、ヨウ素酸カリウム28.2g(0.13モル)、及びヨウ化カリウム43.8g(0.26モル)を加えて混合した後、攪拌しながら(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸45.0g(0.36モル、>99%ee)を加え、撹拌しながら室温(20℃)で2.5時間反応させた。
【0073】
[第二工程]
第一工程の反応終了後、得られた反応溶液に35質量%塩酸37.2g(0.36モル)を加えて混合し、攪拌しながら室温(20℃)で3時間反応させた。
【0074】
[第三工程]
第二工程の反応終了後、得られた反応溶液に20質量%亜硫酸ナトリウム水溶液56.2g(0.089モル)を加え、室温(20℃)で攪拌した。その後、析出した結晶を濾過した。得られた結晶を水90mLで2回洗浄した後、乾燥させ、黄土色結晶として、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オン85.3g(0.34モル)を得た(収率;95%、>99%ee、含量98.2%)。得られた結晶中に褐色の粒状物(褐色粒)は見られなかった。なお、褐色粒の有無については目視で確認した。
【0075】
得られた(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析したところ、HPLCチャートにおいて、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンに対応するピークの面積%値は99.27面積%、ジアステレオマーを含むと推定される類縁化合物に対応するピークの面積%値の合計は0.73面積%であった。
【0076】
(実施例2)
((1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの合成)
[第一工程]
還流冷却器、滴下漏斗、温度計及び攪拌装置を備えた内容積100mLの容器に、水30mL、アセトニトリル3.9g、ヨウ素酸カリウム3.4g(15.8ミリモル)、及びヨウ化カリウム5.3g(31.7ミリモル)を加えて混合した後、攪拌しながら(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸5.0g(39.6ミリモル、>99%ee)を加え、撹拌しながら室温(20℃)で2.5時間反応させた。
【0077】
[第二工程]
第一工程の反応終了後、得られた反応溶液に35質量%塩酸4.1g(39.6ミリモル)を加えて混合し、攪拌しながら室温(20℃)で3時間反応させた。
【0078】
[第三工程]
第二工程の反応終了後、得られた反応溶液に20質量%亜硫酸ナトリウム水溶液6.3g(9.9ミリモル)を加え、室温(20℃)で攪拌した。その後、析出した結晶を濾過した。得られた結晶を水10mLで2回洗浄した後、乾燥させ、黄土色結晶として、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オン9.3g(36.7ミリモル)を得た(収率;93%、>99%ee、含量97.3%)。得られた結晶中に褐色の粒状物(褐色粒)は見られなかった。
【0079】
得られた(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析したところ、HPLCチャートにおいて、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンに対応するピークの面積%値は99.09面積%、ジアステレオマーを含むと推定される類縁化合物に対応するピークの面積%値の合計は0.10面積%であった。
【0080】
(実施例3)
((1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの合成)
[第一工程]
還流冷却器、滴下漏斗、温度計及び攪拌装置を備えた内容積500mLの容器に、水270mL、ヨウ素酸カリウム28.2g(0.13モル)、及びヨウ化カリウム43.8g(0.26モル)を加えて混合した後、攪拌しながら(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸45.0g(0.36モル、>99%ee)を加え、撹拌しながら室温(20℃)で2.5時間反応させた。
【0081】
[第二工程]
第一工程の反応終了後、得られた反応溶液に酢酸22.1g(0.37モル)を加えて混合し、攪拌しながら室温(20℃)で3時間反応させた。
【0082】
[第三工程]
第二工程の反応終了後、得られた反応溶液に7質量%亜硫酸ナトリウム水溶液96.8g(0.054モル)を加え、室温(20℃)で攪拌した。その後、析出した結晶を濾過した。得られた結晶を水180mLで洗浄した後、乾燥させ、黄白色結晶として、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オン86.0g(0.34モル)を得た(収率;96%、>99%ee、含量99.4%)。得られた結晶中に褐色の粒状物(褐色粒)は見られなかった。
【0083】
得られた(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンを高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、HPLCチャートにおいて、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンに対応するピークの面積%値は99.69面積%、ジアステレオマーを含むと推定される類縁化合物に対応するピークの面積%値の合計は0.31面積%であった。
【0084】
[実施例4〜23]
((1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの合成)
下記表1に示すとおり、第一工程〜第三工程における反応温度、第二工程における反応時間、ヨウ化カリウムの当量数、ヨウ素酸カリウムの当量数、酸の種類、酸の当量数、及び亜硫酸ナトリウムの当量数を変更した以外は、実施例3と同様に実験を行った。得られた(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの収率及び含量、ジアステレオマー及び類縁化合物の含量、並びに褐色粒の有無についても下表に示すとおりである。
【0085】
【表1】
【0086】
(実施例24)
(4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの合成)
【0087】
【化18】
【0088】
[第一工程]
還流冷却器、滴下漏斗、温度計及び攪拌装置を備えた内容積300mLの容器に、水120mL、ヨウ素酸カリウム12.6g(0.06モル)、及びヨウ化カリウム19.5g(0.12モル)を加えて混合した後、攪拌しながら3−シクロヘキセン−1−カルボン酸のラセミ体20.0g(0.16モル)を加え、撹拌しながら室温(20℃)で2.5時間反応させた。
【0089】
[第二工程]
第一工程の反応終了後、得られた反応溶液に酢酸9.5g(0.36モル)を加えて混合し、攪拌しながら室温(20℃)で3時間反応させた。
【0090】
[第三工程]
第二工程の反応終了後、得られた反応溶液に13質量%亜硫酸ナトリウム水溶液23.0g(0.02モル)を加え、室温(20℃)で攪拌した。その後、析出した結晶を濾過した。得られた結晶を水40mLで2回洗浄した後、乾燥させ、黄土色結晶として、(1S,4S,5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オン及び(1R,4R,5R)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−7−オンの混合物38.2g(0.15モル)を得た(収率;96%)。これより、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸のラセミ体であっても、(S)−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸を用いた場合と同様に反応が進行し、オキサビシクロオクタン化合物が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、過剰なヨウ素を使用することなく、工業的に好適な方法により、オキサビシクロオクタン化合物の製造することができる。また、オキサビシクロオクタン化合物の一種である、(1S、4S、5S)−4−ヨード−6−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−7−オンは、医薬品の製造原料としても重要な化合物である。