(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第一の実施形態
以下、第一の実施形態に係るロータの製造方法ついて図面に基づいて説明する。ここでは、ロータ1として、インナーロータ型の回転電機に備えられるロータ1(回転電機用のロータ1)を例として説明する。
【0012】
以下では、ロータ1、ロータ1を製造するときに使用する固着材充填装置11、ロータ1の製造方法について順に説明する。以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」、「径方向R」、「周方向C」は、ロータ1の軸心Xを基準とする。また、ロータ1の径方向Rの一方側を径第一方向R1側、径方向Rの他方側を径第二方向R2側とする。
図1に示すように、インナーロータ型の回転電機のロータ1を例示する本実施形態では、「径第一方向R1」は、径方向Rの内側(軸心X側)へ向かう方向を表し、「径第二方向R2」は、径方向Rの外側(不図示のステータ側)へ向かう方向を表す。即ち、「径第一方向R1側」は「径方向内側」であり、「径第二方向R2側」は、「径方向外側」である。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関しては、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態も含む。
【0013】
1−1.ロータ
図1から
図3に示すように、ロータ1は、ロータコア2、永久磁石4、ハブ5(支持部材)を備えている。本実施形態では、軸方向Lにおけるロータコア2の両端部に、いわゆるエンドプレートと称されるような固定部材は設けられていない。
ロータコア2は、複数枚の電磁鋼板3を軸方向Lに積層して構成されている。複数枚の電磁鋼板3の夫々は、円環板状に形成されている。複数枚の電磁鋼板3の夫々には、周方向Cの複数箇所に、軸方向Lに貫通する矩形状の挿入孔3aが形成されている。この挿入孔3aは、磁石挿入孔7になるものであり、ロータコア2の周方向Cに沿って均等間隔で複数(本例では16個)設けられる。また、複数枚の電磁鋼板3の夫々における、複数の挿入孔3aより径第一方向R1側である電磁鋼板3の径方向中心部には、軸方向Lに貫通する円形状の中心孔3bが形成されている。
【0014】
複数枚の電磁鋼板3は、複数の挿入孔3a及び1つの中心孔3bの位置が軸方向Lに見て互いに一致するように積層されている。このように複数枚の電磁鋼板3が積層されることで、複数枚の電磁鋼板3の挿入孔3aは、軸方向Lに連続してロータコア2を軸方向Lに貫通する磁石挿入孔7を形成している。また、複数枚の電磁鋼板3の中心の中心孔3bは、軸方向Lに連続してロータコア2を軸方向Lに貫通する貫通孔8を形成している。このように、ロータコア2は、ロータコア2の径第二方向R2側の部分においてロータコア2を軸方向Lに貫通する複数の磁石挿入孔7と、ロータコア2の径方向中央部においてロータコア2を軸方向Lに貫通する1つの貫通孔8と、を備えている。
【0015】
磁石挿入孔7に挿入されている永久磁石4の軸方向Lの長さは、ロータコア2の磁石挿入孔7の軸方向Lの長さと同じ長さ又は短い長さとなっている。ちなみに、磁石挿入孔7に挿入されている永久磁石4の長さは、例えば、磁石挿入孔7に軸方向Lに沿って1つの永久磁石4を挿入している場合は、その1つの永久磁石4の軸方向Lの長さであり、磁石挿入孔7に軸方向Lに沿って複数の永久磁石4を並べて挿入している場合は、その複数の永久磁石4の軸方向Lの長さの合計である。本実施形態では、磁石挿入孔7の軸方向Lの長さより僅かに短い長さの永久磁石4を1つ磁石挿入孔7に挿入している。
【0016】
そして、永久磁石4は、ロータコア2の磁石挿入孔7に挿入された状態で、永久磁石4の外面と磁石挿入孔7の内面とが固着材6を用いて固着されている。本実施形態では、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との間に、固着材充填装置11(
図4及び
図5参照)を使用して固着材6としての樹脂材9を充填し、この樹脂材9により磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させている。本実施形態では、この樹脂材9が「樹脂」に相当する。尚、樹脂材9としては、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の双方を用いることができる。そして、熱可塑性樹脂としては、例えば、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマーを用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等を用いることができる。本実施形態では、樹脂材9として、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いる。なお、樹脂材9として熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれを用いた場合であっても、当該樹脂材9が硬化することによって永久磁石4の外面と磁石挿入孔7の内面とが固着される。
【0017】
1−2.固着材充填装置
次に、固着材充填装置11について説明する。
図4及び
図5に示すように、固着材充填装置11は、ロータコア2の軸方向Lが上下方向に沿う姿勢となるようにロータコア2を支持する下型12と、この下型12より上方に設置されている上型13と、上下方向において下型12と上型13との間に設置されているゲートプレート14と、溶融した樹脂材9を供給する固着材供給部15と、を備えている。
【0018】
下型12は、基部12aと環状部12bと棒状部12cとを備えている。基部12aは、その上面によりロータコア2を下方から支持する支持面を形成している。環状部12bは、基部12aの支持面に支持されたロータコア2の径第二方向R2に位置している。棒状部12cは、退避高さ(
図4に示す高さ)とこの退避高さより高い規制高さ(
図5に示す高さ)とに昇降可能に構成されている。退避高さは、棒状部12cの上端が基部12aの支持面と同じとなる高さであり、規制高さは、基部12aの支持面に支持されたロータコア2の貫通孔8に挿入される高さである。基部12aの支持面に支持されたロータコア2は、環状部12bと規制高さの棒状部12cとにより水平方向への移動が規制される。
【0019】
上型13は、図外の駆動部により、第1案内体16に沿って上下方向に移動することで、基準高さ(
図4に示す高さ)と、この基準高さより低い高さ(
図5に示す高さ)と、に移動自在に構成されている。ゲートプレート14は、第2案内体17を介して上型13に支持されており、第2案内体17に沿って上下方向に移動することで上型13に対して相対的に上下方向に移動自在に構成されている。固着材供給部15は、上型13と一体的に上下方向に移動するように上型13に支持されている。
【0020】
上型13には、溶融された樹脂材9が通流する第1流路13aが備えられている。この第1流路13aは、固着材供給部15の吐出部15aに接続されている。また、ゲートプレート14には、溶融された樹脂材9が通流する第2流路14aが備えられている。この第2流路14aは、上型13の下面がゲートプレート14の上面に接触している状態において、第1流路13aに接続される。
【0021】
固着材充填装置11は、上型13が基準高さにある基準状態(
図4に示す状態)から上型13を下降させることで、まず、ゲートプレート14の下面が、下型12に支持されているロータコア2の上面に接触する状態となる。固着材充填装置11がこの状態に変化するのに伴って、第2流路14aと磁石挿入孔7とが接続される。
そして、更に、上型13を下降させることで、ロータコア2に接触するゲートプレート14の高さは維持されたままで上型13が下降して、固着材充填装置11は、上型13の下面がゲートプレート14の上面に接触する接触状態(
図5に示す状態)となる。
【0022】
固着材充填装置11は、上述の接触状態において、上型13を更に下降させるように駆動部を駆動して、ロータコア2に対して軸方向Lに加える圧力を高める。そして、固着材充填装置11は、ロータコア2に対して軸方向Lに加える圧力が第1圧力になった際に、駆動部を停止させて、ロータコア2に対して軸方向Lに第1圧力を加えた状態を維持する。本実施形態では、ロータコア2を構成する複数枚の電磁鋼板3の隙間がなくなり、それ以上加圧してもロータコア2の軸方向Lの長さが短くならない限界の圧力付近に、第1圧力を設定している。
【0023】
固着材供給部15は、上述の如くロータコア2に対して軸方向Lに第1圧力で加圧している状態で、加熱部15bの加熱により溶融した樹脂材9を吐出部15aから吐出する。
吐出された樹脂材9は、第1流路13aと第2流路14aとを流動して、ロータコア2の磁石挿入孔7に充填される。これにより、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との間に樹脂材9が充填される。そして、ロータコア2の磁石挿入孔7に供給した樹脂材9が硬化するまで、ロータコア2に対して軸方向Lに第1圧力を加えた状態を維持し、磁石挿入孔7の樹脂材9が硬化した後、上型13を基準高さまで上昇させる。
【0024】
1−3.ロータの製造方法
次に、ロータ1の製造方法について説明する。
図6に示すように、ロータ1の製造方法は、コア準備工程S1と、磁石挿入工程S2と、樹脂硬化工程S3と、溶接工程S4と、支持部材固定工程S5と、を有する。本実施形態では、これらの各工程は、記載の順に行われる。すなわち、磁石挿入工程S2は、コア準備工程S1の後に行われる。樹脂硬化工程S3は、磁石挿入工程S2より後に行われる。溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3より後に行われる。支持部材固定工程S5は、溶接工程S4より後に行われる。
【0025】
〔コア準備工程〕
コア準備工程S1は、複数枚の電磁鋼板3を軸方向Lに積層して構成され、軸方向Lに延びる磁石挿入孔7を備えたロータコア2を準備する工程である。このコア準備工程S1で準備されるロータコア2は、複数枚の電磁鋼板3を軸方向Lに積層して、軸方向Lに延びる磁石挿入孔7を備えたロータコア2であり、複数枚の電磁鋼板3を積層した状態であるが、複数枚の電磁鋼板3は互いに接合されておらず、また、磁石挿入孔7に永久磁石4は挿入されていない。なお、このコア準備工程S1の前に、コア製造工程が実施されてもよい。コア製造工程では、所定の厚さのコア板(鋼板)を打ち抜いて、円環板状であって予め定められた位置に複数の挿入孔3a及び1つの中心孔3bを有する形状の電磁鋼板3を複数枚の製造し、当該複数枚の電磁鋼板3を軸方向Lに積層してロータコア2を製造する。
【0026】
〔磁石挿入工程〕
磁石挿入工程S2は、コア準備工程S1より後に行われる工程であり、磁石挿入孔7に永久磁石4を挿入する工程である。この磁石挿入工程S2では、ロータコア2における複数の磁石挿入孔7の夫々に永久磁石4が挿入される。
【0027】
〔樹脂硬化工程〕
樹脂硬化工程S3は、磁石挿入工程S2の後、ロータコア2を軸方向Lに加圧した状態で、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との間に設けられた樹脂材9を硬化させる工程である。本実施形態では、この樹脂硬化工程S3により、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを樹脂材9で固着させる。すなわち、樹脂硬化工程S3は、ロータコア2を軸方向Lに加圧した状態で、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる磁石固着工程と言い換えることもできる。本実施形態では、固着材充填装置11を使用して、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との間に樹脂材9を充填し、この樹脂材9により磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる。
【0028】
具体的には、
図4及び
図5に示すように、固着材充填装置11を用い、ロータコア2を軸方向Lに第1圧力で加圧する。このようにロータコア2を軸方向Lに加圧するのは、ロータコア2を軸方向Lに圧縮することによって複数枚の電磁鋼板3に隙間がない状態又は非常に少ない状態とし、最終的なロータ1として完成した状態でのロータコア2における鉄の占有率を高めてロータコア2の高密度化を図るためである。そして、このように、ロータコア2を軸方向Lに加圧した状態で、溶融した樹脂材9をロータコア2の磁石挿入孔7に充填し、充填された樹脂材9を固化(硬化)させることにより磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを樹脂材9により固着させる。樹脂材9による磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との固着が完了するまで、ロータコア2を軸方向Lに第1圧力で加圧した状態を維持する。樹脂材9による固着が完了した後は、軸方向Lの加圧力を減少させ、或いは無くしてもよい。上記のとおり、本実施形態では、樹脂材9として液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いて、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる。この場合、充填された樹脂材9は冷却されることにより固化(硬化)する。なお、樹脂材9としてフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。この場合、充填された樹脂材9は加熱されることにより固化(硬化)する。つまり、樹脂硬化工程S3を行うにあたり、熱可塑性樹脂を使用する固着材充填装置11に代えて、熱硬化性樹脂を使用する充填装置を用いてもよい。
【0029】
〔溶接工程〕
溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3の後、軸方向Lに沿って複数枚の電磁鋼板3を溶接する工程である。本実施形態では、溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3より後に行われる工程であり、軸方向Lにおけるロータコア2の全域にわたって連続的に、複数枚の電磁鋼板3を溶接する工程である。但し、複数枚の電磁鋼板3の溶接は、必ずしも、軸方向Lにおけるロータコア2の全域にわたって連続的に行われる必要はない。溶接工程S4では、軸方向Lにおけるロータコア2の一部の領域にわたって複数枚の電磁鋼板3を溶接してもよい。また、例えば、パルス溶接等により、軸方向Lに沿って断続的に溶接してもよい。
図2及び
図3に示すように、ロータコア2の内周面に、複数枚の電磁鋼板3を互いに溶接するための溶接対象箇所としての溶接部10が形成されている。溶接工程S4では、例えば、ロータコア2に対して軸方向Lに第2圧力で加圧した状態で、溶接部10に電子ビームやレーザービーム等のエネルギービームBを照射して電磁鋼板3を溶融させ、その後凝固させることで、軸方向Lにおいて、隣接する複数枚の電磁鋼板3同士を溶接する。本例では、溶接工程S4は、レーザービームを用いたレーザ溶接により行う。これにより、溶接対象箇所を局所的に加熱することが可能となる。溶接工程S4では、貫通孔8の内周面に対して溶接を行う。第1溶融凝固部W1は、軸方向Lに沿って照射されるエネルギービームBによって、複数枚の電磁鋼板3が溶接し凝固した部分を示している。尚、溶接部10の溶接は、エネルギービームBによる溶接以外でもよく、例えば、TIG溶接やアーク溶接等による溶接でもよい。
【0030】
溶接工程S4においてロータコア2に対して軸方向Lに加圧する圧力である第2圧力は、樹脂硬化工程S3においてロータコア2に対して軸方向Lに加える圧力である第1圧力より小さな圧力である。このように第2圧力を第1圧力より小さくできるのは、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とが樹脂材9により固着されているためである。すなわち、樹脂硬化工程S3において軸方向Lに第1圧力で圧縮されて複数枚の電磁鋼板3の隙間がなくなったロータコア2は、当該第1圧力がなくなった後、残留応力により軸方向Lに伸びようとする。しかし、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とが樹脂材9により固着されているため、このような軸方向Lに伸びようとする残留応力を永久磁石4及び樹脂材9により支持することができ、複数枚の電磁鋼板3を隙間がない状態又は非常に少ない状態に維持できる。従って、溶接工程S4においては、複数枚の電磁鋼板3の隙間をなくすためにロータコア2を軸方向Lに圧縮する必要がない。そのため、ロータコア2に対して軸方向Lに加圧する圧力を、樹脂硬化工程S3においてロータコア2に対して軸方向Lに加える第1圧力より小さくできる。すなわち、溶接工程S4においては、ロータコア2に対して軸方向Lに加圧しない(第2圧力を0にする)、又は、溶接による熱で電磁鋼板3が変形して他の電磁鋼板3から浮き上がることを防止できる程度の圧力、例えば、第1圧力の1/10程度の圧力とすることができる。
【0031】
〔支持部材固定工程〕
支持部材固定工程S5は、溶接工程S4より後に行われる工程であり、貫通孔8にハブ5を挿入し、当該ハブ5とロータコア2の軸方向Lの両端部との接合部18のみを溶接する工程である。
図1及び
図3に示すように、軸方向Lの両端部において、ハブ5とロータコア2とが当接する円周状の接合部18にエネルギービームBを照射して、ハブ5とロータコア2とが溶接される。ハブ5とロータコア2とが当接する接合部18には、第2溶融凝固部W2が形成される。
【0032】
1−4.比較例
比較例として、溶接工程S4の前に樹脂硬化工程S3を行わない場合について検討する。この場合でも、ロータコア2の高密度化を図るため、ロータコア2を軸方向Lに加圧することは行われ、そのような加圧は、ロータコア2の軸方向Lの長さが決定される溶接工程において行われることになる。すなわち、ロータコア2を軸方向Lに第1圧力で加圧した状態で、溶接工程S4が行われる。しかし、溶接工程S4が完了した時点では、磁石挿入孔7の内面とその磁石挿入孔7に挿入された永久磁石4の外面とは固着されていない。
そのため、複数枚の電磁鋼板3は、第1溶融凝固部W1で互いに固着されているだけであり、溶接工程S4の終了後、ロータコア2に対する軸方向Lの加圧を解除すると、
図7に模式的に示すように、ロータコア2の残留応力により複数枚の電磁鋼板3は軸方向Lに互いに離れようとする。このようなロータコア2の残留応力により、第1溶融凝固部W1に引っ張り荷重や曲げ荷重が作用し、第1溶融凝固部W1に割れが生じ易い。
【0033】
これに対して、溶接工程S4の前に、ロータコア2を軸方向Lに加圧した状態で磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる樹脂硬化工程S3を行った場合、溶接工程S4が完了した時点では、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とが固着されているとともに、複数枚の電磁鋼板3は、第1溶融凝固部W1で互いに固着されている。そのため、溶接工程S4においてロータコア2に対する加圧を解除しても、ロータコア2の残留応力を、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面の固着部と、第1溶融凝固部W1との双方で支えることができる。従って、
図8に模式的に示すように、複数枚の電磁鋼板3が軸方向Lに互いに離れようとすることを規制でき、第1溶融凝固部W1に割れが生じる可能性を低減できる。
【0034】
2.第二の実施形態
次に、第二の実施形態に係るロータの製造方法について説明する。第二の実施形態では、樹脂材9(樹脂)は、加熱により膨張して硬化するように構成されている。そして、
図9に示すように、樹脂硬化工程S3に加熱工程を含む点が、第一の実施形態と異なる。樹脂硬化工程S3において、樹脂材9を膨張及び硬化させるための加熱工程を行い、この加熱工程によって生じた余熱が残留している期間内に、溶接工程S4を行う。なお、以下において特に説明しない点については、第一の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
本実施形態では、樹脂材9が加熱により膨張して硬化するように、樹脂材9として、膨張材を含んだ熱硬化性樹脂を用いる。ここでは、一例として、膨張材に発泡材を用いる。また、基材としての熱硬化性樹脂にエポキシ系樹脂を用いる。このような樹脂材9として、例えば、エポキシ系樹脂を含む基材の中に加熱膨張するカプセルが配合されたものを使用すると好適である。このようなカプセルとして、例えば、加熱によって気化する液体等が封入された熱可塑性樹脂のカプセルを用いることができる。以下では、このような樹脂を、発泡樹脂25として説明する。この発泡樹脂25は、加熱されることにより発泡して膨張し、その後硬化する。
【0036】
図10に示すように、発泡樹脂25は、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面との間に設けられている。発泡樹脂25は、加熱されることにより膨張及び硬化して、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる。ここで、発泡樹脂25は、永久磁石4におけるステータ(不図示)に対向する面とは反対側の面と、磁石挿入孔7の内面と、の間に設けられていると好適である。これにより、発泡樹脂25の膨張に伴い永久磁石4を磁石挿入孔7内におけるステータ側(ここではロータコア2の外周面側)に押し付けることができる。その結果、ステータに作用する永久磁石4の磁界を強めることができる。また、発泡樹脂25は、加熱が行われていない永久磁石4の挿入段階においては厚みが小さいため、永久磁石4の外面と磁石挿入孔7の内面との間に、ある程度の隙間を持たせることができる。これにより、磁石挿入孔7への永久磁石4の挿入中に、永久磁石4に塗布された樹脂材9(発泡樹脂25)が磁石挿入孔7の内面に接触して剥がれることなどを抑制できる。なお、
図10には、発泡樹脂25の膨張前における永久磁石4の位置が二点鎖線により示され、発泡樹脂25の膨張後における永久磁石4の位置が実線により示されている。
【0037】
第二実施形態では、インナーロータ型の回転電機に備えられるロータ1を例示しているため、発泡樹脂25は、永久磁石4における径第一方向R1(径方向内側)の面と、磁石挿入孔7の内周面における径第一方向R1(径方向内側)の面と、の間に設けられている(
図10参照)。
【0038】
また、第二実施形態では、発泡樹脂25は、永久磁石4(磁石挿入孔7)における軸方向Lの全域にわたって設けられている(
図11参照)。これにより、発泡樹脂25の膨張による径第二方向R2に向けた永久磁石4の押圧を、軸方向Lの全域にわたって均一に行うことができる。
【0039】
第二実施形態では、磁石挿入工程S2は、永久磁石4に発泡樹脂25が塗布された状態で行う。つまり、磁石挿入工程S2の前に、永久磁石4に発泡樹脂25を塗布する。発泡樹脂25の塗布は、永久磁石4の面に沿って発泡樹脂25の厚みが均一になるように行われると好適である。発泡樹脂25が塗布された後は、発泡樹脂25が発泡しない程度の温度である非発泡温度で加熱することにより、当該発泡樹脂25を乾燥させる(一次硬化)。そして、発泡樹脂25の一次硬化が完了した後は、永久磁石4に発泡樹脂25が塗布された状態で、磁石挿入工程S2を行う。なお、永久磁石4に塗布された発泡樹脂25の厚みを均一化させる工程は、発泡樹脂25の一次硬化の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。
【0040】
磁石挿入工程S2の後は、樹脂硬化工程S3を行う。樹脂硬化工程S3では、まず、発泡樹脂25の発泡材が発泡する発泡温度で加熱することにより発泡樹脂25(樹脂材9)を膨張させる。その後、発泡樹脂25(樹脂材9)を更に硬化温度で加熱することにより硬化させる(本硬化)。これにより、発泡樹脂25は、膨張及び硬化して、永久磁石4をステータ側に押圧すると共に、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる。
【0041】
発泡樹脂25の加熱は、磁石挿入孔7に永久磁石4(及び発泡樹脂25)が挿入された状態のロータコア2の全体を加熱することにより行われる。本実施形態では、炉にてロータコア2の全体を加熱することにより、発泡樹脂25の加熱を行う。このように、第二実施形態では、樹脂硬化工程S3がロータコア2の加熱工程を含む。
【0042】
そして、樹脂硬化工程S3の後に、溶接工程S4を行う。一般的に、溶接対象箇所(ここでは第1溶融凝固部W1)における溶接前の温度と溶接中の温度(融点)との差が大きくなるに従って、溶接後の熱収縮量が大きくなり、溶接対象箇所の割れが生じやすくなる傾向がある。ここで、溶接部分の溶接中の温度は、材料(ここでは電磁鋼板3)の融点により定まるため、溶接前の材料の温度が低くなるに従って溶接対象箇所の割れ(溶接割れ)が生じやすくなる。特に、レーザ溶接等により溶接対象箇所を局所的に加熱する際には、溶接対象箇所とその周辺部分との温度勾配も大きくなるため、このような溶接割れの問題も顕著となる。
【0043】
そこで、第二実施形態では、溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3での加熱によってロータコア2の温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う。言い換えると、溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3での加熱(加熱工程)の余熱が残留している状態で行う。これにより、ロータコア2の全体の温度が高い状態で溶接対象箇所を溶接することができる。従って、ロータコア2を加熱せずに溶接工程S4を行う場合に比べて、溶接前後での溶接対象箇所の温度差を小さくすることができるため、溶接対象箇所(溶融凝固部W1)の割れが生じる可能性を低くすることができる。
【0044】
3.その他の実施形態
次に、その他の実施形態について説明する。
【0045】
(1)上記の実施形態では、磁石挿入孔7に永久磁石4を挿入した後に磁石挿入孔7に固着材6としての樹脂材9を充填する例を説明した。しかし、樹脂材9を充填することに代えて、固着材6として接着剤23を用いてもよい。この場合、例えば、磁石挿入孔7に挿入される前の永久磁石4の表面に接着剤23を塗布した後、永久磁石4を磁石挿入孔7に挿入する。なお、永久磁石4が挿入される前の磁石挿入孔7の内面に接着剤23を塗布した後、永久磁石4を磁石挿入孔7に挿入してもよい。
【0046】
より具体的には、磁石挿入工程S2において、磁石挿入孔7に永久磁石4を挿入する前に、永久磁石4又は磁石挿入孔7に接着剤23を塗布する。そして、
図12に示すように、樹脂硬化工程S3において、押圧装置19の上板20と下板21とでロータコア2を軸方向Lに加圧し、この上板20と下板21とでロータコア2を軸方向Lに加圧した状態を接着剤23が凝固するまで維持して、磁石挿入孔7の内面と永久磁石4の外面とを固着させる。押圧装置19の上板20及び下板21には、上板20と下板21とでロータコア2を軸方向Lに加圧したときに磁石挿入孔7から溢れた接着剤23を逃がす溝22が形成されている。なお、接着剤23としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤を用いることができる。或いは、接着剤23として、エポキシ樹脂系接着剤に膨張カプセルを配合した発泡接着剤を用いることもできる。
【0047】
(2)上記の実施形態では、軸方向Lにおけるロータコア2の両端部に固定部材を設けない例を説明した。しかし、
図13に示すように、軸方向Lにおけるロータコア2の両端部に固定部材としてのエンドプレート24を設けてもよい。このように、ロータコア2の両端部にエンドプレート24を設けた場合は、複数枚の電磁鋼板3と2枚のエンドプレート24とにハブ5を挿入し、ハブ5とエンドプレート24とが当接する円周状の部分にエネルギービームBを照射して、ハブ5とエンドプレート24とを溶接する。ハブ5とエンドプレート24とが当接する部分には、第3溶融凝固部W3が形成される。
【0048】
(3)上記の実施形態では、第2圧力が、第1圧力より小さい圧力である場合の例について説明した。しかし、第2圧力を、第1圧力と同じ、又は、第1圧力より大きい圧力とすることも除外されない。また、第2圧力をゼロとすることも妨げない。
【0049】
(4)上記形態では、溶接工程S4において、ロータコア2の内周面に対する溶接を行う例を示したが、溶接工程S4において、ロータコア2の外周面に対する溶接を行ってもよい。
【0050】
(5)上記形態では、ロータコア2とハブ5とを溶接により固定する例を説明したが、ロータコア2とハブ5との接合はこれに限定されない。すなわち、ロータコア2の内周面とハブ5の外周面とを、溶接に代えて、或いは溶接に加えて、焼嵌めやキー溝などの他の方法によって固定されていてもよい。
【0051】
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0052】
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明したロータ(1)の製造方法の概要について説明する。
上述したロータ(1)の製造方法は、複数枚の電磁鋼板(3)を軸方向(L)に積層して構成され、前記軸方向(L)に延びる磁石挿入孔(7)を備えたロータコア(2)を準備するコア準備工程(S1)と、前記磁石挿入孔(7)に永久磁石(4)を挿入する磁石挿入工程(S2)と、前記磁石挿入工程(S2)の後、前記ロータコア(2)を前記軸方向(L)に加圧した状態で、前記磁石挿入孔(7)の内面と前記永久磁石(4)の外面との間に設けられた樹脂(9)を硬化させる樹脂硬化工程(S3)と、前記樹脂硬化工程(S3)の後、前記軸方向(L)に沿って前記複数枚の電磁鋼板(3)を溶接する溶接工程(S4)と、を有する。
【0053】
この方法によれば、樹脂硬化工程(S3)を行った後に溶接工程(S4)を行う。このように先に行う樹脂硬化工程(S3)において、磁石挿入孔(7)の内面と永久磁石(4)の外面との間の樹脂(9)を硬化させることで、複数枚の電磁鋼板(3)を一体化させることができる。
また、このように磁石挿入孔(7)の内面と永久磁石(4)の外面との間の樹脂(9)を硬化させるときに、複数枚の電磁鋼板(2)を軸方向(L)に加圧した状態で行うことで、上述の如く複数枚の電磁鋼板(3)が一体化されたロータコア(2)における鉄の占有率を高めロータコア(2)の高密度化を図ることができる。
そして、樹脂硬化工程(S3)の後に溶接工程(S4)を行うことで、複数枚の電磁鋼板(3)に対する溶接が完了した時点で、複数枚の電磁鋼板(3)は、複数枚の電磁鋼板(3)に対する溶接に加えて、磁石挿入孔(7)の内面と永久磁石(4)の外面とを、樹脂(9)により固定していることになる。そのため、複数枚の電磁鋼板(3)が溶接のみで接合している場合に比べて、軸方向(L)の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板(3)を接合する溶融凝固部(W1)に割れが生じることを抑制できる。
【0054】
ここで、前記樹脂硬化工程(S3)において前記ロータコア(2)に対して前記軸方向(L)に加える圧力を第1圧力として、前記溶接工程(S4)は、前記ロータコア(2)を、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向(L)に加圧した状態で行うと好適である。
【0055】
上記の方法によれば、樹脂硬化工程(S3)において、ロータコア(2)を第1圧力で加圧した状態で磁石挿入孔(7)の内面と永久磁石(4)の外面との間の樹脂(9)を硬化させることで、ロータコア(2)の鉄の占有率を高めた状態で複数枚の電磁鋼板(3)を一体化させることができる。そして、ロータコア(2)に作用する軸方向(L)に伸びようとする残留応力を、硬化した樹脂(9)により支持することができる。従って、樹脂硬化工程(S3)が完了した後に軸方向(L)の加圧力を低下させたとしても、複数枚の電磁鋼板3が軸方向Lに互いに離れようとすることを制限できる。よって、溶接工程(S4)を行う場合の第2圧力は、例えば、溶接中に複数枚の電磁鋼板(3)が部分的に軸方向Lに浮き上がることを規制する程度の圧力等、第1圧力より小さい圧力で十分である。そして、溶接工程(S4)における軸方向(L)の加圧力を小さくできることにより、溶接工程(S4)をより簡易に行うことができる。
【0056】
ここで、前記ロータコア(2)は、当該ロータコア(2)の径方向(R)中央部を前記軸方向(L)に貫通する貫通孔(8)を更に備え、前記溶接工程(S4)では、前記貫通孔(8)の内周面に対する溶接を行うと好適である。
【0057】
この方法によれば、ロータ(1)がインナーロータの場合、溶接による溶融凝固部(W1)がステータ側とは反対側に設けられることになるため、溶融凝固部(W1)の影響によるロータの磁気特性の低下を抑制できる。一方、貫通孔(8)の内周面に対する溶接を行い、ロータコア(2)の外周面に溶接を行わない構成において、上述した比較例のように溶接工程(S4)の前に樹脂硬化工程(S3)を行わない場合には、ロータコア(2)の外周面側において複数枚の電磁鋼板3が軸方向Lに互いに離れようとすることにより、径方向内側の溶接部に作用する応力が大きくなり、溶融凝固部(W1)の割れが生じ易い。しかし、上記実施形態の構成によれば、このような応力を磁石挿入孔(7)の内面と永久磁石(4)の外面との間に設けられた樹脂(9)により支持できるため、溶融凝固部(W1)に割れが生じる可能性を低減できる。
【0058】
ここで、前記ロータコア(2)は、当該ロータコア(2)の径方向(R)中央部を軸方向(L)に貫通する貫通孔(8)を更に備え、前記溶接工程(S4)の後、前記貫通孔(8)に支持部材(5)を挿入し、当該支持部材(5)と前記ロータコア(2)の前記軸方向(L)の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程(S5)を更に有すると好適である。
【0059】
この方法によれば、支持部材(5)とロータコア(2)の軸方向(L)の両端部との接合部を溶接することで、支持部材(5)とロータコア(2)とを接合できる。そして、樹脂硬化工程(S3)が完了した時点で、鉄の占有率を高めた状態で複数枚の電磁鋼板(3)が一体化されているため、支持部材固定工程(S5)において、ロータコア(2)を軸方向(L)に加圧しながら溶接する必要がない。従って、そのような加圧しながらの溶接が必要な場合に比べて支持部材固定工程(S5)を簡略化することができる。
【0060】
ここで、前記樹脂硬化工程(S3)が前記樹脂(9)の硬化のための前記ロータコア(2)の加熱工程を含み、前記溶接工程(S4)は、前記樹脂硬化工程(S3)での加熱によって前記ロータコア(2)の温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行うと好適である。
【0061】
この方法によれば、溶接工程(S4)の開始時のロータコア(2)の温度を雰囲気温度よりも高くしておくことができる。その結果、従って、溶接前後での溶接対象箇所の温度差を小さくすることができるため、溶接対象箇所の割れが生じる可能性を低くすることができる。
【0062】
ここで、前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔(7)の内面と前記永久磁石(4)の外面とを前記樹脂(9)で固着させると好適である。
【0063】
この方法によれば、複数枚の電磁鋼板(3)を、より確実に一体化させることができる。これにより、複数枚の電磁鋼板(3)について、軸方向(L)の残留応力に対する剛性を更に高めることができ、その結果、溶接対象箇所(W1)に割れが生じることを更に抑制できる。
【0064】
ここで、前記樹脂(9)は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程(S2)は、前記永久磁石(4)に前記樹脂(9)が塗布された状態で行うと好適である。
【0065】
この方法によれば、加熱により硬化した樹脂(9)により、複数枚の電磁鋼板(3)を一体化させることができる。また、樹脂(9)が加熱により膨張する特性を利用して、例えば磁石挿入孔(7)のいずれか一方の内面に永久磁石(4)を押し付けるように樹脂(9)を膨張させるなど、磁石挿入孔(7)の内部における永久磁石(4)の位置決めを適切に行うことが容易となる。また、磁石挿入工程(S2)では、樹脂(9)は膨張前であるため、磁石挿入孔(7)に永久磁石(4)を挿入する場合に、永久磁石(4)の外面と磁石挿入孔(7)の内面との間に、ある程度の隙間を持たせることができる。これにより、磁石挿入孔(7)への永久磁石(4)の挿入中に、永久磁石(4)に塗布された樹脂(9)が磁石挿入孔(7)の内面に接触して剥がれることも抑制することができる。
【0066】
ここで、前記溶接工程(S4)は、レーザ溶接により行うと好適である。
【0067】
この方法によれば、局所的な加熱が可能となり、溶接対象箇所を確実に加熱することができる。