【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0018】
図1は本発明の実施例に係る防振ハンドル機構をディスクグラインダ1に適用した電動工具の全体構成を示す断面図(一部側面図)である。ディスクグラインダ1は、駆動源たるモータ5と、モータ5によって駆動される作業機器(ここでは先端工具として砥石10を用いるグラインダ)を含む本体部(電動工具本体)2と、本体部2の後方側に設けられ作業者が把持するためのハンドル部60を有して構成される。ディスクグラインダ1は、本体部(電動工具本体)2とハンドル部60が、モータ5の回転軸線A1を中心に所定角度だけ回動可能(摺動可能)なように構成される。ハンドル部60は回転軸線A1回りに
図1の状態から一方側に90度、他方側に90度回転させることができ、その回転させた状態でハンドル部60をモータハウジング3に対して固定できる。この回転軸線A1まわりの回動を実現するために回動機構を介して本体部2とハンドル部60が接続される。回動機構はハンドル部60側に保持される中間部材50と、中間部材50を回転軸線A1まわりに回動可能なように軸支する支持部材30を含んで構成される。ここでは、ハンドル部60の回動機構に加えて制振機構をも実現するために、中間部材50がハンドルハウジング61と一体回転するものであるが、ハンドルハウジング61が中間部材50に対してわずかに揺動可能なように構成される。即ち、中間部材50の後方側に中空状のコーン状の部分が形成され、その釣り鐘状の外周面(曲面部分)にハンドルハウジング61の取付部材62を取り付けるようにした。ハンドル部60の取付部材62は略球状の内周摺動面を有し、内周摺動面が中間部材50の後方の外周面を摺動できるように嵌め合わされることによりハンドル部60が中間部材50に対して揺動可能とされる。
【0019】
本体部2は、例えば金属材料から成るモータハウジング3と、例えば金属材料から成るギヤケース4と、ギヤケース4に軸受22によって軸支されるスピンドル21に取付けられたディスク状の砥石10と、砥石10の一部を保護するホイルガード27を備える。モータハウジング3は略円筒状に形成され、前方側と後方側に開口を有するようにして金属製の一体構成とされる。内部には、インバータ回路20によって制御される駆動電流によって回転するブラシレスDC方式のモータ5が収容される。モータ5は、筒状のモータハウジング3の前方側開口から内部に収容される。モータ5の回転軸5cは、モータハウジング3の中央部付近に設けられる軸受8bと、ギヤケース4により保持される前方側の軸受8aにより回動可能に保持される。モータ5の前方側であって、軸受8aとの間には、回転軸5cと同軸に取り付けられモータ5と同期して回転する冷却ファン6が設けられ、モータ5の後方には、モータ5を駆動するためのインバータ回路基板19が配設される。冷却ファン6によって起こされる空気流は、ハンドル部60側に形成されるスリット状の空気取入孔66から取り込まれ、中間部材50と支持部材30により構成される回動機構の風窓(
図4〜
図6で後述。
図1では図示されない)を流れてモータハウジング3側の一方側から流入する。モータハウジング3に流入された空気流は、主にロータ5aとステータ5bの間を通過するように流れ、冷却ファン6の軸心付近から吸引されて冷却ファン6の径方向外側に流れ、軸受ホルダ7の空気孔を通過してモータハウジング3の前方向に排出される。排出される冷却風の一部はギヤケース4に形成された排気口(図示せず)を介して矢印9aのように外部に排出される。冷却ファン6から流出する空気の残りは軸受ホルダ7の下側付近の排気口(図示せず)を介して矢印9bのように外部に排出される。
【0020】
インバータ回路基板19はモータ5の外形とほぼ同径の略円形の両面基板であり、回転軸線A1と直交するように配置される。この回路基板上には図示しない6つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等のスイッチング素子が搭載される。制御回路基板18は、インバータ回路基板19に平行するようにその前方側に配置されるものであって、モータ5とほぼ同径の略円形の両面基板であり、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と称する)を含む制御回路を搭載する。回転軸5cの後端付近には円盤状のセンサーマグネット12が設けられ、センサーマグネット12の後方側に所定の隙間を隔てるように小型のセンサ基板13が配置される。センサ基板13のセンサーマグネット12に面する側(モータ側)には、3つのホールIC等の図示しない位置検出素子が搭載される。センサ基板13と制御回路基板18とインバータ回路基板19は、カップ状の円筒ケース15に収容された状態で、モータハウジング3の後方側の開口から軸受8bの保持部後方の空間内に収容される。円筒ケース15はその後方側に装着される支持部材30によって固定される。
【0021】
ハンドル部60は作業時に作業者が把持する部分となるもので、プラスチックの成型によって左右二分割式にて構成されたハンドルハウジング61を含んで構成される。ハンドル部60の後端側には外部から商用電力を供給するための電源コード11が接続される。ハンドルハウジング61の内部には、電源コード11に接続された整流回路(図示せず)やトリガスイッチ(図示せず)やノイズ防止用の電気部品(図示せず)等が収容される。ハンドルハウジング61の下側には、モータ5のオン・オフを制御するためのトリガレバー64が設けられる。トリガレバー64は図示しないトリガスイッチを操作するもので、トリガスイッチは複数本(例えば2本)の信号線により制御回路基板18に接続される。電源コード11から供給される交流電源(例えば商用100V)は、図示しない整流回路によって高電圧の直流(例えば直流141V)に変換される。整流回路はダイオードブリッジと平滑回路を含む公知の構成で実現でき、整流回路はハンドル部60の内部に配置するか又はインバータ回路基板19に搭載される。整流回路の出力は2本の図示しない電力線を介して中間部材50、支持部材30の中心部の貫通孔(後述)を通ってインバータ回路基板19に伝達される。中間部材50、支持部材30の中心部の貫通孔(後述)にはさらに、トリガレバー64によって動作されるスイッチと制御回路基板18を接続するための図示しない信号線が貫通する。
【0022】
ギヤケース4内には、モータ5の回転軸5cの回転力を方向変換してスピンドル21に伝達する一対の傘歯車23、24が配置される。スピンドル21の下端には、受け金具25を介して押さえ金具26によって砥石10が固定される。 ギヤケース4の上部にはサイドハンドル取付孔4aが設けられ、図示はしないがギヤケース4右側面及び左側面にも同様のサイドハンドル取付孔が設けられており、それぞれの箇所にサイドハンドル(図示せず)が取り付け可能である。本実施例ではハンドル部60が本体部2に対して回動可能としたので、ハンドル部60を90度回動させた際に使いやすい位置(上、右、左のいずれか)にサイドハンドルを取り付けることができる。作業者がディスクグラインダ1を使用する場合は、一方の手でハンドル部60を把持して、他方の手でサイドハンドルを把持し、トリガレバー64を引くことにより、モータ5を回転させて被削材(被加工物)に砥石10を押し当てて鉄材の研削作業等を行う。この時、砥石10はスピンドル21の軸を中心に回転するので、スピンドル21を中心とした回転方向の反力がモータハウジング3に伝達される。
【0023】
モータハウジング3の後端側開口の周縁部には、第1の弾性体たる防振部材45が嵌め込まれる。モータハウジング3の端部及びハンドルハウジング61の対向端部は、中心軸垂直方向の断面外形において、特に限定されないが、円形を成している。防振部材45は、モータハウジング3の後端部分(ここでは支持部材30)と、ハンドルハウジング61の前方側開口円の周縁部(前方外周縁)との間に介在されるもので、ハンドルハウジング61のモータハウジング3に対する軸ぶれ方向の動きを抑えることにより、本体部2側からハンドル部60に伝わる振動を抑制する。モータハウジング3の後端上側には、ハンドルハウジング61の回転軸線A1回りの回転を阻止するためのストッパ28が設けられる。ストッパ28は、回転軸線A1と平行方向(前後方向)に移動可能とされ、軸方向後方に延びるストッパ片28aが中間部材50の後述する固定孔に係合することによりハンドル部60の回動方向の位置を固定する。ここでは、ハンドル部60を
図1の状態から回転軸線A1回りに+90度の位置(トリガレバー64が左方向を向く位置)と、−90度の位置(トリガレバー64が右方向を向く位置)に回動させて3カ所のいずれかの位置に固定できる。ハンドル部60を回動させるときには、ストッパ28を前方側に移動させてストッパ片28aと中間部材50との係合状態を解除させてからハンドル部60を回転させる。
【0024】
次に、
図2を用いてディスクグラインダ1の回動機構付近の構成を説明する。
図2は
図1の回動機構付近の部分拡大図である。支持部材30はモータハウジング3にネジ止めされるもので、モータハウジング3に対して相対回転しない。中間部材50は支持部材30に対して回転軸58を中心に回動可能に軸支される。中間部材50はハンドルハウジング61に対してわずかに摺動できるように保持される。中間部材50の中心軸付近の後方側(支持部材30とは反対側)にはコーン状に拡径する保持部51が形成され、保持部51の外周面は釣り鐘状になるように、中間部材50の中心より後方の放射方向外側にむけて湾曲した外周面を有するように構成され、ハンドルハウジング61の揺動を支持する部分となる。この保持部51には、球状の内壁面62bが接するようにして取付部材62が保持される。取付部材62はハンドルハウジング61と一体成形で製造されるものであり、ハンドルハウジング61は回転軸線A1を含む鉛直面において、左右方向に2分割可能に形成され、ネジ止めされる。保持部51と取付部材62の接触面の前側にはOリング等の弾性部材68、69が設けられる。これらは取付部材62の保持部51上での摺動を抑制するための防振部材として働くものである。
【0025】
先端工具から加わる力の反動としてハンドル部60に矢印91の方向に力が加わると、取付部材62が矢印92及び93の方向に揺動する。この揺動はほんのわずかであるが、上側部分においては弾性部材69が圧縮される方向に力が作用し、下側部分においては弾性部材68が圧縮される方向に力が作用する。つまり、弾性部材68、69は第二の防振部材として作用し、弾性部材68、69によってハンドル部60の揺動が抑制される。また、ハンドルハウジング61の前方側円筒縁の下側が、矢印95のようにして防振部材45に接触し、一方、ハンドルハウジング61の前方側円筒縁の上側では矢印94のようにして防振部材45から離間する。防振部材45は回転軸部(中間部材50と支持部材30の接続箇所)と軸方向でオーバーラップする位置に配置されるので、ハンドル部60の回転支持箇所と防振部材45を回転軸線A1と平行方向に離間させずに配置でき、本体の大型化を抑制しつつ、防振部材45の作用によってハンドル部60の揺動が効果的に抑制される。このようにハンドルハウジング61は回転軸58によって支持部材30に対して中間部材50が回動可能に保持されるともに、取付部材62からみて内側と外側の内外の2箇所で防振されるように構成した。この結果、矢印94、95のように軸方向のわずかなぶれを許容しながら、それらを防振部材45と弾性部材68、69によって減衰させるので、結果として本体部2側から発生した振動がハンドル部60へ伝わることを大幅に減衰できる。
【0026】
図3は
図2のB−B部の断面図であって、支持部材30、防振部材45、中間部材50及び取付部材62の位置関係を説明するための図である。中間部材50には円筒状の回転軸58が前方側に延びるように形成され、回転軸58は2分割構造の支持部材30によって軸支される。回転軸58には外周面から径方向外側に伸びるフランジ部59a、59bが形成され、これらは支持部材30に形成された環状溝39a、39bに嵌合するように保持されることにより中間部材50が支持部材30から軸方向に抜け落ちないように軸支される。回転のための溝部である環状溝39a、39bを1本で無く複数本設けることにより、ハンドル部60の本体部2からの離脱防止(抜止め防止)を行うことができる。尚、取付部材62の保持部51の摺動部分(外面)の外径d1は、機械的強度を確保する理由から比較的大きく設定すると良く、環状溝39a、39bの内径d2もそれと同等程度の大きさを有するようにすると強度上も有利である。
【0027】
上述したハンドルハウジング61および取付部材62の接続構成により、本体部2が振動した場合には、中間部材50の球面状の外周面の球形中心点(揺動中心点)を中心としてハンドルハウジング61が振動することになるが、その際、取付部材62が中間部材50の半球面状の外周面においてすべりまたは摺動することによって曲面(内壁面62b)に沿って動き、中間部材50と取付部材の間に配置されたOリング状の弾性部材68、69を圧縮することにより振動を減衰させることが可能となる。内壁面62bは揺動中心点を中心とした球体の一部と同様に形成される。また、取付部材62の円筒状の外周前縁が防振部材45に接触する。防振部材45は、
図4にて後述する回り止め用の突起部46a〜46dを除いて周方向にほぼ同型の断面形状を有している。防振部材45は断面形状で見ると外周面から外側にフランジ状の突出する2本の突起部47a、47bが形成され、防振効果の向上を図っている。また、防振部材45の後方側には、軸方向にフランジ状に延びる突起部47cが形成される。突起部47cは取付部材62の外縁の前端面と微小距離で接することにより初期減衰特性を向上させる。尚、突起部47a〜47cの形成は必ずしも必須の形状では無く、防振部材45として目的とする減衰効果を有するならば他の形状であっても良いし、突起部47a〜47cを形成せずにシンプルな断面形状の弾性部材であっても良い。
【0028】
ハンドルハウジング61が揺動中心点を中心として揺動した時には、その揺動中心点からの距離によってハンドルハウジング61の移動距離が部分的に異なっており、具体的には揺動中心点から遠い方がハンドルハウジング61の部分的な移動距離が大きい。防振部材45は弾性部材68、69の配置箇所よりも揺動中心点からの距離が遠く、接触するハンドルハウジング61の部分的な移動距離が比較的大きい。そこで本実施例においては、Oリング状の内側の弾性部材68、69のバネ定数を外側の防振部材45のバネ定数よりも高くした。つまりOリング状の弾性部材68、69は防振部材45よりも硬い弾性体となっている。これによって、ハンドルハウジング61に所定の負荷がかかった際の揺動時において、防振部材45よりも内側に配置したとしても弾性部材68、69は少ない圧縮で十分な防振効果を奏することができる。またこの構成によれば、異なる周波数成分の振動を効果的に打ち消すことができる。すなわち、高周波数の振動はバネ定数の大きい弾性部材68、69によって打消し、低周波数の振動はバネ定数の小さい防振部材45にて打消すことが可能となり、作業時の振動を低減できる。
【0029】
中間部材50の貫通孔51aの外周側にはコーン状の保持部51が形成される。保持部51の後方側開口縁の外周部分には、径方向外側に延びるつば部51bが形成され、取付部材62の回動可能範囲を制限すると共に、取付部材62が中間部材50から後方側に抜け落ちないように押さえている。保持部51と取付部材62の接触角θをある程度大きくすることにより、揺動のしやすさと揺動時の防振部材45における制振作用を向上させることができる。また、揺動角θが大きいほどスラスト方向の荷重を効果的に受けることができる。弾性部材69はつば部51bと取付部材62との間に配置されることになる。また、弾性部材68は中間部材50の円盤部50aと 取付部材62との間に配置されることになる。防振部材45は、取付部材62の外縁部分との協働作用により、荷重がかかった際にハンドルハウジング61の摺動距離を制限することができるため、これによって操作性を向上させることが可能となる。ハンドルハウジング61の取付部材62の外周形状は円筒状に形成される。この円筒部分にはさらに、外側が前方側に突出し、内側が後方側に後退するような段差部62cが形成され、内側の後退した領域で防振部材45と接触する。ハンドルハウジングの外縁部付近は、支持部材30や中間部材50とは接触せずに、防振部材45だけと接触する。さらに防振部材45の後方側は、軸方向にリブ状に延びる突起部47cが形成されるので、非回転部材である防振部材45と回転部材であるハンドルハウジング61の回動時の抵抗を低減すると共に、振動の初期入力時に効果的に制振できる。また、振動の振幅が大きくなったら突起部47cが十分つぶれた後に防振部材45本体部分と接触するので、剛性が高くて制振効果の大きな減衰機構が実現できる。尚、ハンドルハウジング61の初期の減衰特性をどの程度にするのか、外周面の形状等をどのようにするのかは、要求される減衰特性や剛性等に応じて、最適に設定すれば良い。
【0030】
図4は、
図2の回動機構の展開斜視図である。回動機構は、回転軸58(
図3参照)が形成された中間部材50と支持部材30により主に形成され、それに防振部材45とストッパ28が付加される。支持部材30と中間部材50は、ポリアミド系合成繊維等の合成樹脂の成型品により製造され、中間部材50は一体に製造され、支持部材30は回転軸A1を通る鉛直面から左右2分割に形成される。支持部材30の右側部31aと左側部31bは分割面に対して面対称の形状に形成される。支持部材30は中央に貫通孔32(32a、32b)が形成され、貫通孔32a、32bの内周面にはそれぞれ周方向に連続する環状溝39a、39bが形成される。支持部材30は中間部材50の回転軸58(
図3参照)を挟んだ形で4つのネジ穴33a〜33d(
図4ではネジ穴33bは見えない)を用いて図示しないネジによりモータハウジング3にネジ止めされる。なお、支持部材30をモータハウジング3に固定する際には、支持部材30は中間部材50を保持した状態で固定される。支持部材30の貫通孔32a、32bよりも径方向外側には、軸方向に風を流すための複数の風窓35a、35b、36a、36b、37a、37bが形成される。また、右側部31aと左側部31bの接合部の上側付近にはストッパ28を軸方向に移動可能に保持する空間となるストッパ保持溝34(34a、34b)が形成される。ストッパ保持溝34a、34b内に収容されるストッパ28は、後方側に延びて中間部材50の固定孔54a〜54c(但し
図4では54bは見えない)のいずれかに嵌合する。ストッパ28はモータハウジング3との間に配置されるスプリング29によって軸方向後方側に付勢される。さらに、風窓37a、37bの外周側には、中間部材50のストッパ片52cの(
図2参照)の回動範囲を制限するための切り欠き部38が形成される。
【0031】
防振部材45はリング状に形成され、支持部材30をモータハウジング3にネジ止めした後に、支持部材30の後面外周縁付近に形成された段差部40に嵌め込まれる。防振部材45は制振効果の高い弾性体、例えばゴム製であって内周側の4カ所に、ネジ穴33a〜33d部分係合させることにより防振部材45の回転軸線A1回りの回転を阻止する突起部46a〜46dが設けられる。突起部46a〜46dは、ネジ穴33a〜33dにドライバー等の工具を当てるための窪み部分(ネジ穴33a〜33dの後方に設けられた支持部材30の逃げ溝部分)に嵌合するため、防振部材45は支持部材30に対して相対回転しない。防振部材45の回転軸線A1を含む面の断面形状は任意であるが、軸方向に対する圧縮荷重による振動を良好に抑制するために外周面において、軸方向に連続するフランジ状の突起部47a、47bが形成される。
【0032】
中間部材50は、円盤部50aにおいて複数の風窓55、56a、56b、57(但し
図4では56aは見えない)が形成され、外周縁には固定孔54a、54cやネジ穴33a〜33dに装着されるネジ(図示せず)を通すためのネジ通し溝53c、53dが形成される。中間部材50の貫通孔51aの外周側にはコーン状の保持部51が形成される。保持部51は中空状に形成され、内側には貫通孔51aが形成される。中間部材50の上側と下側の2カ所には、ハンドルハウジング61が中間部材50に対して相対回転しないように回り止めとするための回転抑止部52a、52bが形成される。
【0033】
図5は支持部材30の形状を示す図であって、(1)は上面図であり、(2)は背面図であり、分割面から分離された状態で図示している。支持部材30の後方側周縁部には、防振部材45を装着するための段差部40(40a、40b)が形成される。
図5(2)には、複数形成された風窓の位置を示している。風窓は点線で示すように貫通孔32(32a、32b)よりも上側部分の風窓35a、35bと、右側部分の風窓36a及び左側部分の風窓36bと、下側部分の風窓37a、37bが形成される。それぞれの風窓は軸方向に貫通する複数の切り抜き部分より形成される。このように多数の切り抜きを形成したことにより、冷却ファン6(
図1参照)によって生成された冷却風がハンドルハウジング61の内部空間側から支持部材30を通過してモータハウジング3の内部に流れ、モータハウジング3内の収容部品(インバータ回路基板19や制御回路基板18など)を冷却することができる。特に、スイッチング素子であるIGBTを搭載したインバータ回路基板19を、モータハウジング3の内部において冷却風の最も上流に位置させたので、インバータ回路基板19を効率よく冷却することができる。
【0034】
図6は中間部材50の形状を示す図であって、(1)は正面図であり、(2)は側面図であり、(3)は背面図である。中間部材50においても貫通孔51aよりも上側部分の風窓55と、右側部分の風窓56a、左側部分の風窓56b、下側部分の風窓57が形成される。これらの風窓は支持部材30に形成された風窓35a、35b、36a、36b、37a、37bに対応する位置に形成される。また、中間部材50を支持部材30に対して後方からみて時計回り又は反時計回りに90度回転させた場合であっても対向する風窓の位置が良好に一致することにより中間部材50の後方側から支持部材30の前方側へ良好に冷却風を通すことができる。尚、貫通孔51aの部分には、図示しない2本の電力線と数本の信号線(トリガスイッチの出力線)が配置されるが、貫通孔51aの内径は電力線及び信号線を合わせた太さよりも十分大きくて隙間を有しているので、貫通孔51aの部分も冷却風を通過させるために利用できる。
【0035】
図6(2)は側面図である。中間部材50は回転軸58を形成すると共にハンドル部60を保持するための保持部材として機能する。支持部材30は周方向に等間隔で配置された4本のネジによってモータハウジング3に対して強固に固定されるが、中間部材50は円盤部50aの後方側に釣り鐘状の外観形状を有する保持部51が形成され、保持部51によってハンドルハウジング61が保持される。保持部51の外周面は断面視で円弧状に形成された摺動面51cが形成され、摺動面51cの後端側は外側に延在するようなつば部51bが形成される。摺動面51cにおいては周方向に連続した形状であるため、何らかの回転阻止部材が無ければハンドルハウジング61が回転軸線A1に対して連続して回転可能となってしまう。そこで、本実施例の中間部材50は2つの回転抑止部52a、52bを設けてこれらがハンドルハウジング61の内壁側に形成された窪み部分に係合させることによって中間部材50に対するハンドルハウジング61の回転方向の移動を阻止し、ハンドルハウジング61と中間部材50とが回転軸線A1を中心に一体回転するようにした。さらに、中間部材50の前方側下部にはストッパ片52cを形成して、支持部材30の切り欠き部38内を移動させることにより支持部材30に対する中間部材50の回動範囲を制限するようにした。
【0036】
図6(3)は背面図である。図(1)にて示した風窓55、56a、56b、57が円盤部50aの前側から後ろ側にまで貫通するように形成される。回転抑止部52a、52bは、上部と下部の2カ所に設けられるが、これらの配置だけに限られずに、ハンドルハウジング61と中間部材50の軸ぶれ方向のわずかなる揺動を許容しつつ、回転軸A1回りの回転を阻止することができるならば図示したような形状で無くても良い。
【0037】
図7は
図4の支持部材30と中間部材50を組み立てた状態の斜視図である。ここではストッパ28と防振部材45(共に
図4参照)はまだ取り付けられていない。製造組み立て時において、支持部材30の右側部31aと左側部31bを合わせるようにして、中間部材50の回転軸58(
図6(2)参照)を挟持する。この状態では支持部材30の右側部31aと左側部31bが固定されていない状態であるが、これらの仮組体をハンドルハウジング61の後方側開口部に固定する。この固定は4つのネジ穴33a〜33d(
図7ではネジ穴33cしか見えない)に図示しないネジを貫通させることにより行う。これらの仮組体のネジ止めは、ストッパ28とスプリング29をストッパ保持溝34にセットした後に行われる。このネジ止めによって、中間部材50はモータハウジング3の後方側に回転可能なように軸支されることになる。このあと支持部材30の段差部40a、40bにリング状の防振部材45を装着する。その後、中間部材50の保持部51を、左右に分割されるハンドルハウジング61により挟み込む。ハンドルハウジング61の右側部分と左側部分は回転軸線A1と直交する向きに延びる複数のネジ(図示せず)によって固定できる。このようにして、ハンドルハウジング61が支持部材30によって回転可能に支持されるとともに、中間部材50によって揺動可能に支持されるので、ディスクグラインダ1におけるハンドル部60の回動機構が実現できる。
【0038】
次に
図8を用いてモータ5の駆動制御系の回路構成を説明する。電源回路71にはブリッジダイオード72等によって構成される整流回路が含まれる。電源回路71の出力側であって、インバータ回路80との間には平滑回路73が接続される。インバータ回路80は6つのスイッチング素子Q1〜Q6を含んで構成され、演算部98から供給されるゲート信号H1〜H6によってスイッチング動作が制御される。インバータ回路80の出力は、モータ5のコイルのU相、V相、W相に接続される。ブリッジダイオード72の出力側には低電圧電源回路90が接続される。
【0039】
ブリッジダイオード72は商用交流電源100から入力される交流を全波整流し、平滑回路73へ出力する。平滑回路73は、電源回路71によって整流された電流の中に含まれている脈流を、直流に近い状態に平滑化してインバータ回路80へ出力する。平滑回路73は、電解コンデンサ74aとフィルムコンデンサ74bと放電用の抵抗75を含んで構成される。インバータ回路80は、3相ブリッジ形式に接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含んで構成される。ここで、スイッチング素子Q1〜Q6は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いているが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いるようにしても良い。
【0040】
モータ5のステータ5bの内側では、永久磁石を有するロータ5aが回転する。ロータ5aの回転軸5cには位置検出用のセンサーマグネット12が接続され、センサーマグネット12の位置をホールIC等の回転位置検出素子77にて検出することにより演算部98はモータ5の回転位置を検出する。回転位置検出素子77はセンサ基板13(
図1参照)上であって、センサーマグネット12に対面する位置に搭載される。
【0041】
演算部98は、モータのオン・オフ及び回転制御を行うための制御装置であって、図示しないマイコンを用いて主に構成される。演算部98は制御回路基板18に搭載され、トリガスイッチ65の操作に伴い入力される起動信号に基づき、モータ5を回転させるためにコイルU、V、Wへの通電時間と駆動電圧を制御する。尚、ここでは図示していないが、モータ5の回転速度を設定する変速ダイヤルを設けて、変速ダイヤルによって設定された速度に合わせるようにマイコンが速度調整を行うようにしても良い。演算部98の出力は、インバータ回路80の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートに接続され、各スイッチング素子Q1〜Q6をオン・オフするための駆動信号H1〜H6を供給する。
【0042】
インバータ回路80の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各エミッタ又は各コレクタは、スター接続されたコイルのU相、V相、W相に接続される。スイッチング素子Q1〜Q6は、演算部98から入力される駆動信号H1〜H6に基づきスイッチング動作を行い、商用交流電源100から電源回路71及び平滑回路73を介して供給された直流電圧を、3相(U相、V相、W相)電圧Vu、Vv、Vwとして、モータ5に供給する。モータ5に供給される電流の大きさは、平滑回路73とインバータ回路80との間に接続された電流検出抵抗76の両端の電圧値を検出することにより演算部98によって検出される。
【0043】
低電圧電源回路90は、ブリッジダイオード72の出力側に直接接続され、マイコン等により構成される演算部98への安定化した基準電圧(低電圧)の直流を供給するための低電圧定電源回路である。低電圧電源回路90は、ダイオード、平滑用のコンデンサ、IPD回路、レギュレータ等を含んで構成される公知の電源回路である。低電圧電源回路90は、
図1には図示していないが、制御回路基板18又はインバータ回路基板19に搭載するのが好ましく、そこに配置することにより支持部材30と中間部材50の間を貫通させる配線の本数を低減させることができる。
【0044】
図9は
図1の円筒ケース15単体の斜視図である。インバータ回路はモータ5の回転軸5cと略直交する方向に延びるインバータ回路基板19に搭載され、インバータ回路基板19は開口を有した円筒ケース15に収容される。円筒ケース15は合成樹脂の一体成形によって製造され、底面17の外縁部から外周面16が容器状に形成される。円筒ケース15の開口は、空気取入孔66側(ここでは後方)を向いており、外周面16の4箇所にはネジ止め用の図示しないネジボス(モータハウジング3の内壁面に形成されている)を避けるための窪み部16a〜16dが形成される。センサ基板13と制御回路基板18は、インバータ回路基板19と共に円筒ケース15内に固定される。円筒ケース15の底面17の4隅には制御回路基板18とインバータ回路基板19を底面17から浮いた状態で保持するための段差部17a、17bが形成される。また、ここでは図示していないが底面17の中央にはセンサ基板13を固定するための円筒状のリブが形成される。制御回路基板18とインバータ回路基板19に電子部品を搭載して、段差部17a、17bにて保持させた状態で、インバータ回路基板19に搭載されるIGBT等の金属製の端子部を覆うように円筒ケース15内に液体の樹脂を流し込んで硬化させる。
【0045】
以上、実施例1では略円筒形のモータハウジングと、その後方に延びるハンドル部を有するディスクグラインダの例で説明したが、本発明はディスクグラインダだけに限られずに、モータを含む本体部分と、本体部分から後方側または側方側に延びるハンドル部を有する任意の電動工具の回動機構においても同様に適用できる。また、上述の実施例においては、前から後方向に向けてモータハウジング3、支持部材30、中間部材50、ハンドル部60と順に配置したが、この順番に限定されない。本発明はハンドル部が支持部材30によって回転可能に支持されつつ中間部材50によって揺動可能に支持される構造の電動工具であれば良く、例えば支持部材30と中間部材50の位置を逆にしてもよい。なお、上述の実施例ではモータ5の回転軸線とハンドル部60の回転軸線が一致している電動工具の例で説明したが、これらの回転軸線を一致させないような電動工具であっても良い。
【実施例2】
【0046】
次に、電動工具における回路基板の配置を改良した第二の実施例について説明する。
図10は回路基板の配置を改良したディスクグラインダ101の全体構成を示す断面図である。ディスクグラインダ101としての基本的な構成は実施例1と同様であり、円筒形のモータハウジング200の内部に駆動源たるモータ105が収容され、作業機器(砥石10)を駆動する。本体部102の後方側には作業者が把持するためのハンドル部160が回動可能に配置される。
【0047】
本体部102は、円筒形のモータハウジング200に収容される部分と、その前方側に接続された動力伝達機構により構成される。モータハウジング200の内部には、ブラシレス方式のモータ105が収容される。モータ105は、永久磁石を有するロータ105aが内周側に配置され、外周側にコイルを有するステータ105bを有し、モータハウジング200の前方側開口から内部に収容される。モータ105の回転軸105cは、モータハウジング200の中央部付近に設けられる軸受108bと、ギヤケース104により保持される前方側の軸受108aにより回動可能に保持される。動力伝達機構は、第一の実施例と寸法や形状を除いてほぼ同じ構成であり、ギヤケース104に軸受122によって軸支されるスピンドル121に取付けられたディスク状の砥石10と、ホイルガード127を備える。ギヤケース104内には、一対の傘歯車123、124が配置され、モータ105の回転軸105cの回転力を方向変換してスピンドル121に伝達する。スピンドル121の下端には、受け金具125を介して押さえ金具126によって砥石10が固定される。ギヤケース104の上部にはサイドハンドル取付孔104aが設けられ、ギヤケース104右側面及び左側面にも同様のサイドハンドル取付孔(図示せず)が設けられる。
【0048】
モータハウジング200の後端側開口からインバータ回路部230が挿入され、その後に開口部分は支持部材130と中間部材150によって覆われる。支持部材130は複数に分割された部材を接合して、その外周部を第1の弾性体たるゴムダンパー158にて固定する。この支持部材130の左右の分割片の接合の際に、中間部材150の揺動支持部151を支持部材130の中心付近に挟み込む。また、ゴムダンパー158の後方側にはワッシャ159が嵌め込まれる。インバータ回路部230の回路基板241はモータ105の外形よりもわずかに大きい径の略円形の多層基板であり、その面が回転軸線A1と直交するように配置される。このように回路基板241を回転軸線A1と直交するように配置したので、電動工具の全長(前後方向の寸法)を短縮できる。回路基板241上には6つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等のスイッチング素子(後述)が搭載される。スイッチング素子を搭載した回路基板241は、容器状の円筒ケース231の内部に収容された状態でモータハウジング200内に配置される。実施例2で用いられるモータ105は、実施例1で用いられるモータ5に比べて大きくて高出力のものであるため、それらを駆動するインバータ回路も大電流の電流をスイッチング可能な大型の半導体素子(IGBT)が用いられ、それらを搭載するのに必要な回路基板241が大型化する。そのため、インバータ回路部230を収容する部分のモータハウジング200の直径は、モータ105を収容する部分に比べてやや太くなるように形成される。回転軸線A1方向にみて軸受108bとステータ105bの間には、円環状の小さなセンサ基板117が搭載される。センサ基板117は円環状の基板部分を有し、ステータ105bと面する側に、ホールIC等の回転位置検出素子114(後述)が60度間隔にて3つ搭載される。回転位置検出素子114(後述)は、ロータ105aにより発生する磁界を検出することによりロータ105aの位置を検出する。センサ基板117の基板部分の対向する2箇所から径方向外側に延びる取り付け部(図示せず)が設けられ、取り付け部に設けられたネジ穴とリブ211部分に形成されたネジボス(図示せず)を利用してセンサ基板117がモータハウジング200にネジ止めされる。
【0049】
モータ105の前方側であって軸受108aとの間には冷却ファン106が設けられる。冷却ファン106は遠心ファンであってモータ105側の空気を吸引して径方向外側に排出する。冷却ファン106によって起こされる空気流によって、図中の黒矢印に示す方向に空気流を生成する。最初に、ハンドル部160側に形成されるスリット状の空気取入孔165から外気が取り込まれ、中間部材150と支持部材130に形成される貫通孔や風窓(
図11、12で後述。
図10では図示されない)を流れてモータハウジング200の後方側開口からモータハウジング200の内部空間に流入する。流入した空気流は、最初にインバータ回路部230に搭載された電子部品を冷却し、インバータ回路部230の側方の切り込み部(
図11にて後述)を通過し、インバータ回路部230の円筒ケース231の外周側であって、モータハウジング200との間の隙間を通って軸受ホルダ210付近に到達する。軸受ホルダ210の外周側には風窓212が複数形成されるので、その風窓212を通過して空気流はモータ105側に到達する。
【0050】
空気流は、ロータ105aとステータ105bの間、及び、ステータ105bとモータハウジング200の内壁部分との間を通過するように流れ、冷却ファン106の軸心付近から吸引されて冷却ファン106の径方向外側に流れ、軸受ホルダ107の外周側に形成された空気孔を通過する。軸受ホルダ107から排出される冷却風の一部は、ギヤケース104に形成された排気口(図示せず)を介して矢印109aのように外部に排出され、残りは軸受ホルダ107の下側付近の排気口(図示せず)を介して矢印109bのように外部に排出される。以上のように、冷却ファン106を用いてハンドル部160にて外気を吸引して、モータハウジング200の後方側から前方側に空気を流す。この際、一番発熱の多いインバータ回路部230をモータ105(軸受108b)よりも先の部分であって一番冷えやすい冷却風の風上側に配置したので、インバータ回路部230に搭載される電子素子、特に半導体スイッチング素子を効率良く冷却できる。また、筒型一体のモータハウジング200とすることで、分割可能なハウジングで支持するよりもモータ105を強固に軸支可能であり、十分な剛性を確保できる。
【0051】
ハンドル部160は、作業時に作業者が把持する部分となるもので、その筐体はプラスチックの成型によって左右二分割式にて構成されたハンドルハウジング161からなり、4本のネジ166a〜166dによって固定される。ハンドル部160は回転軸線A1回りに
図10の状態から一方側に90度、他方側に90度回転させることができ、その回転させた状態でハンドル部160をモータハウジング200に対して固定できる。この結果、回転式のハンドル部160による作業性の向上を図ることができる。この回転軸線A1まわりの回転を実現するために回動機構は、実施例1で示した回動機構とは異なる。実施例1ではモータハウジング3に固定される支持部材30に対して、ハンドルハウジング61側に固定される中間部材50が相対回転するように構成される。つまり、支持部材30と中間部材50が回動機構を構成する。
【0052】
支持部材130と中間部材150は、相対回転不能状態にてモータハウジング200側に保持され、中間部材150に対してハンドルハウジング161が相対回転可能なようにしてハンドル部160の回動機構を実現した。つまり、中間部材150とハンドルハウジング161とが回動機構を構成する。また、中間部材150の前方側に中空状でコーン状(釣り鐘状)の揺動支持部151が形成され、その釣り鐘状の外周面(曲面部分)が支持部材130にて保持される。よって、支持部材130と中間部材150はハンドル部160の制振機構を実現するために配置され、中間部材150が支持部材130に対してわずかに揺動可能し、その揺動範囲内に後述する弾性体が配置される。制振のための原理、つまり揺動支持部151と中間部材150の動きは、実施例1の取付部材62の保持部51の動き(
図2、
図3参照)と同様である。ハンドルハウジング161の前方下側端部には、ハンドルハウジング161の回転軸線A1回りの回転を阻止するためのストッパ機構128が設けられる。ストッパ機構128は、回転軸線A1と平行方向(前後方向)に移動可能とされ、軸方向後方に延びるストッパ片が中間部材150に形成された窪み部154a〜154c(
図12で後述)のいずれかに係合することによりハンドル部160の回動方向の位置を固定する。ここでは第一の実施例と同様に、ハンドル部160を
図10の基準位置から回転軸線A1回りに+90度の位置と、−90度の位置に回動させて3カ所のいずれかにて固定できる。
【0053】
中間部材150の後方には、制御回路部260が収容される。制御回路部260は、回転軸A1と直交する方向に延びるようにハンドルハウジング161により挟持される。制御回路部260は、浅い容器状のケースの内部に第2の回路基板たる制御回路基板262(後述)を収容したものである。制御回路基板262にはマイコンを含むモータ105の制御回路が搭載される。インバータ用と制御用の回路を別基板(第一回路基板と第二回路基板)に分けることで、単一基板に全回路を集中させたときの回路基板の大型化を抑制し、工具の小型化を図ることができる。制御回路部260は空気取入孔165の形成位置と回転軸線A1方向にみてやや後方側に設けられ、風窓たる空気取入孔165が回路基板241と回路基板部260との間に配置される。制御回路部260に搭載される電子部品の発熱量はさほど大きくないので、冷却風での冷却における優先度はインバータ回路を搭載した回路基板241よりも低く、空気取入孔165を回路基板241と回路基板部260との間に配置することで、空気取入孔165から流入した冷却風は電子素子の中で最初に回路基板241及びその搭載物に当たり、回路基板241(インバータ回路)を優先的に冷却することができる。このように、回路基板241(インバータ回路を搭載した基板)を優先的に冷却可能であれば、空気取入孔165の形成位置はハンドル部160において自由に設定して良い。
【0054】
ハンドル部160の後端側には商用交流電源供給用の電源コード11が接続され、引き込まれた電源コード11に近い位置には、雑防用の電気部品を搭載するフィルタ回路部270が設けられる。フィルタ回路部270の構成は、制御回路部260の構成と同様に実現され、直方体で一面に開口部を有する図示しない収容ケース内に、チョークコイル272、放電抵抗、フィルムコンデンサ、バリスタ、パターンヒューズ等のフィルタ回路を搭載した第三回路基板を収容し、収容ケースの内部に硬化性樹脂を流し込んで硬化させたものである。ここでは、チョークコイル等の部品の一部は硬化性樹脂から外部に露出した状態にあるが、その他の部品のほぼ全体は硬化性樹脂によって覆われている。
【0055】
フィルタ回路部270は、第三回路基板と平行な中央面C1が、鉛直面に対して角度θ
1となるように前屈した状態で配置される。この際の収容ケースの開口部は前側となり、開口部の一部からチョークコイル272が前側に突出する。つまり、フィルタ素子たるチョークコイル272の突出方向と、把持部の延在方向が交差するようにして、フィルタ回路部270の第三回路基板が回転軸A1に対して傾斜させて収容される。このようにフィルタ回路部270を前側に傾けた状態で配置したのは、中央面C1を斜めにすることによりハンドル部160の把持する部分(把持部)よりも後方側の形状が、下側に斜めに延びる形状とするためである。把持部162aは操作性確保のため小径に形成されるところ、ネジボスの形成によって内部の空間に制限が起きやすくなるが、第三回路基板を斜めに収容してフィルタ素子の突出方向を調整することで、把持部に隣接する鍔部に第三回路基板を収容することが容易となる。また、この構造により斜線280の部分が確保された形状となり、作業者が把持部を握る際にフィルタ回路部270を収容するための鍔部(突出部)162cが指に当たりにくくなりスムーズに把持することができる。また、フィルタ回路部270を前側に傾けることによってチョークコイル272がネジ166b用のネジボス167bに干渉することを避けることができる。さらにフィルタ回路部270の後方側に電源コード11を引き入れるスペースが確保できるので、電源コード11の引き回しの点でも有利である。
【0056】
ハンドルハウジング161の中央部分には、モータ105のオン・オフを制御するためのスイッチユニット170が配置される。スイッチユニット170は、トリガスイッチ174と、その下方に配置された揺動式のトリガレバー176を有する。トリガレバー176はトリガスイッチ174のプランジャ178を移動させる操作体で、後方の揺動軸177により片側が軸支される。トリガスイッチ174とトリガレバー176の間には、トリガレバー176を所定の方向に付勢するスプリング175が設けられる。作業者はハンドル部160を把持することによりトリガスイッチ174を操作できる。トリガスイッチ174は、商用電源の複数本(例えば2本)の電力線を同時にオン又はオフすることができ、その出力側の電力線(図示せず)は、中間部材150、支持部材130の中心部の貫通孔(後述)を通ってインバータ回路部230に伝達される。中間部材150、支持部材130の中心部の貫通孔(後述)にはさらに、制御回路部260から半導体スイッチング素子(後述)へのゲート信号を伝達するための6本の信号線(図示せず)と、その他の信号線(図示せず)が貫通する。
【0057】
以上のように実施例2では、回転軸A1方向において後方から、電源コード11、第三回路基板271、スイッチユニット170、第二回路基板(制御回路基板262)、第一回路基板(回路基板241)、モータ105がこの順に収容され、かつ電気的にもこの順で接続される。よって、回路構成順に電気素子を配置できるので、配線が短縮かつ容易となり、低コスト化と、無駄な配線による工具の大型化を抑制できる。
【0058】
次に、
図11の展開図を用いてモータハウジング200とその後方側に収容されるインバータ回路部230の内部構造を説明する。モータハウジング200は、合成樹脂の一体成形によって製造されるもので、モータ105を収容するモータ収容部202の前方側に外径が大きく形成されたファン収容部201が形成される。ファン収容部201の内部には冷却ファン106(
図10参照)を収容するために外径が大きく形成されるとともに、外周の4箇所には、ギヤケース104(
図10参照)をネジで固定するためのネジボス部205a〜205d(但し、図では205bは見えない)が形成される。モータハウジング200の後方開口部付近には、インバータ回路部230を収容するための大径の回路基板収容部204が形成される。ここでは、モータ収容部202の直径に対して回路基板収容部204の直径が大きいように形成される。そのため、モータ収容部202から回路基板収容部204に至る接続部分は、テーパー状に広がるテーパー部203となっている。テーパー部203の内側部分には、軸受108bを保持するための軸受ホルダ210と風窓212(ともに
図10参照)が形成される。
【0059】
インバータ回路部230は、回路基板241に電子部品が搭載されたIGBT回路素子群240と、それらを収容するための容器状の円筒ケース231によって形成される。円筒ケース231は略円筒状の外周面233の一方側(前方側)を底面232にて塞いだもので、その内部空間にIGBT回路素子群240が収容される。円筒ケース231内にモータ駆動用のスイッチング素子を配置することにより、制御回路基板262よりもモータ105側に配置可能となるので、回路基板241からモータ105への配線を短くすることができ、組み立てが容易となるとともに、無駄な配線を巡らせる分の空間を省略することで電動工具の大型化を抑制できる。円筒ケース231は、開口側がハンドル部160側(後向き)、即ち空気の吸気側になるように配置され、閉鎖面である底面232がモータ105側(前向き)になるように配置される。インバータ回路部230がモータハウジング200の後方側の回路基板収容部204の内部に収容されると、その後方側から支持部材130が装着される。支持部材130は中間部材150(
図10参照)を支持することにより、中間部材150を支持部材130に対してわずかに摺動できるように構成する。支持部材130の中心軸付近には、中間部材150のコーン状に拡径する揺動支持部151(
図11参照)を挟み込むための貫通孔132a、132bが形成される。貫通孔132a、132bの内面形状は、中間部材150の後面より前方側に向けて放射状に湾曲した釣り鐘状の外周面を有するように構成される。この揺動支持部151を挟むことを可能にするため、支持部材130は合成樹脂の成型品により左右方向に2分割可能に形成される。支持部材130の右側部131aと左側部131bは分割面に対して面対称の形状に形成される。支持部材130は中間部材150の揺動支持部151を挟むように右側部131aと左側部131bが接合された状態で4つのネジ穴134a〜134d(
図11ではネジ穴134aと134dは見えない)を用いて図示しないネジによりモータハウジング200の後方側開口部分に固定される。
【0060】
モータハウジング200の後方側開口部分にはネジを貫通させるに穴の形成されたネジボス206a〜206dが形成される。支持部材130のネジの通る周囲には、前方側に延在する半円筒状の押さえ部材133a〜133dが形成される。押さえ部材133a〜133dはモータハウジング200側のネジボス206a〜206dの円筒状の外周面と当接する位置にあって、円筒ケース231の後方側開口縁の一部を押さえることにより円筒ケース231をモータハウジング200の内部に安定して固定する。貫通孔132a、132bよりも径方向外側には複数のリブ136a、136bによる網状構成により、軸方向に風を流すための複数の風窓137a、137bが形成される。また、右側部131aと左側部131bの外縁付近から後方側に向けて円筒外周面を形成する複数の円筒リブ135a〜135fが形成される。円筒リブ135a〜135fは、支持部材130の右側部131aと左側部131bが左右方向に外れないように固定するためのゴムダンパー158(
図12にて後述)をはめ込むための保持部となる。
【0061】
円筒ケース231の外周形状は、モータハウジング200の回路基板収容部204の内側形状に沿った形で軸方向に連続する窪みやレール部等が形成される。まず、モータハウジング200の円筒状のネジボス206a〜206dを避けるために窪ませた回り止め保持部234a〜234dが形成される。また、モータハウジング200の内壁部分に形成された溝部207a、207bと嵌合するために回転軸線A1方向に延びるレール部237a、237bが形成される。円筒ケース231の左右両側部分には、支持部材130の軸方向後方側から流れてIGBT付近に当たった冷却風をモータ105側へ流す風路を確保するための切り込み部236a、236bが形成される。
【0062】
図12は
図11よりも後方側の部品の展開図である。中間部材150はハンドルハウジング161をモータハウジング200に対してわずかに揺動可能にして弾性体による制振効果を得るためと、回転軸線A1を中心に左右方向に回動可能なように保持するための回動軸とするために設けられる。中間部材150の前方側にはコーン状の揺動支持部151が形成され、その釣り鐘状の外周面(曲面部分)にOリング等の弾性部材148、149が設けられる。揺動支持部151は支持部材130に対する中間部材150の摺動を可能とすると共にその摺動を抑制するための第二の防振部材(弾性部材148、149)の設置を可能にするものであって、その作動原理は実施例1で説明した弾性部材68、69(
図2参照)の作用と同様である。中間部材150のハンドルハウジング161を揺動可能に支持する部分(揺動支持部151)は、ハンドルハウジング161を支持する負荷がかかる上、二重防振構造のために小径・小型に形成されているので耐久性を確保する必要があるが、中間部材150を一体形成して剛性を確保する代わりに支持部材130を分割形状としたことで、中間部材150の剛性を確保した二重防振構造とすることができる。
【0063】
中間部材150は、中心に貫通孔151aが形成されるが、貫通孔151aの大きさは図示しない2本の電力線とマイコンからインバータ回路部230に至る信号線を貫通させるのに十分な大きさとする。また、貫通孔151aの部分も冷却風を通過させるために利用する。貫通孔151aの外周側には空気の軸方向への通過を可能とするように網状に形成され、複数のリブ155が網状に形成されることにより複数の風窓156が形成される。これらの風窓156は支持部材130に形成された風窓137a、137bと対応する位置に形成されることにより、冷却風が中間部材150の後方側から支持部材130の前方側に向けて、風窓156及び風窓137a、137b(
図12参照)を貫通して容易に流れるように形成される。中間部材150の後方側外周縁付近には、リブ状に形成された回転レール157(157a、157b)が形成される。回転レール157a、157bに、ハンドルハウジング161に形成された回動溝部163a、163b(後述する
図13参照)が嵌め合わされることにより、ハンドルハウジング161が中間部材150に対して回転軸線A1を中心とした周方向に摺動するようにして相対回転を可能とする。
【0064】
ゴムダンパー158は支持部材130の円筒リブ135a〜135fの外周側に嵌め合わせる第1の弾性体であり、支持部材130に右側部131aと左側部131bを保持する。ゴムダンパー158は、ハンドルハウジングが作業進行方向(研磨であれば下方向、切断であれば左右方向)にハンドルハウジング161が揺動した際に圧縮され、ハンドルハウジング161のモータハウジング200に対する軸ぶれ方向の動きを抑えることにより、本体部102側からハンドル部160に伝わる作業時の振動を効果的に打ち消すことができる。尚、ゴムダンパー158はゴム製だけに限られずに、シリコン等の弾力性のある樹脂やその他の材質による弾性体で制振効果を得ることができる部材や機構で実現しても良い。
図12ではゴムダンパー158は中間部材150の後方側に図示しているが、装着時には
図10に示したように中間部材150と軸方向にみて同位置に配置される。中間部材150には、径方向外側に向けて延びる回転抑止部152aが形成され、支持部材130の円筒リブ135a、135b(
図11参照)の内側の窪み部分に回転抑止部152aが配置される。同様にして、支持部材130の円筒リブ135c、135fの内側の窪み部分135g、135h(
図11参照)に回転抑止部152aが配置される。このように回転抑止部152a、152bを形成したことによって支持部材130に対する中間部材150の制振効果を得るためのわずかな移動だけを許容しつつ、支持部材130と中間部材150の連続相対回転を阻止できる。中間部材150の外周部の3箇所には、ストッパ機構128の軸方向に移動するストッパ片と係合する窪み部154a〜154cが形成される。金属製の円環部材たるワッシャ159は、ゴムダンパー158の後端部分、ハンドルハウジング161の前方側開口の周縁部(前方外周縁)との間に介在される。ワッシャ159を介在させたことでハンドルハウジング161の回転時にゴムダンパー158が磨耗することを抑制できる。
【0065】
中間部材150の後方側であって、ハンドルハウジング161の内部空間には制御回路部260が収容される。制御回路部260は略直方体であって一面に開口部(図では見えない)を有する容器状の収容ケース261に、マイコンや定電圧回路等の電子素子(図示せず)を搭載した制御回路基板262を収容したものである。収容ケース261の内部には、液体状の硬化性樹脂を流し込み、制御回路基板262とそれに搭載される電子素子全体を覆う状態にて硬化させることにより、搭載されるマイコンや電子素子が塵埃や水にさらされないようにした。収容ケース261は、左右分割式に構成されるハンドルハウジング161によって挟持されるようにしてハンドル部160内に保持される。
【0066】
図13はハンドル部160におけるハンドルハウジング161の形状を示す斜視図である。ハンドルハウジング161は、右側部161aと左側部161bのように左右に分割可能な構成とし、ネジボス167a〜167dにおいて4本の図示しないネジによって矢印の方向に固定される。右側部161aと左側部161bの内側形状は、接合部分やネジボス167a〜167dの部分を除いて、左右対称でありほぼ同形状である。ハンドルハウジング161の形状は、回転軸A1方向にみて中央付近に作業者が片手で把持する把持部162bが形成され、その前方側が中間部材150に回転可能に連結するための拡径部162aが形成される。拡径部162aは回動機構を収容すると共に、制御回路部260を収容する部分である。モータハウジング200の接続部として拡径する必要があるハンドルハウジング161の一端部分に、第二回路基板たる制御回路基板262を収容するようにしたので、大型の制御回路基板262を収容可能となる。拡径部162aの左右両側には、ハウジング内部に冷却用の空気を取り込むためのスリット状の空気取入孔165が形成される。空気取入孔165の設けられる位置や形状は任意であるが、所定の空気を取り込むのに全体として十分な開口面積を確保しつつ、個々の開口の大きさを制限してゴミ等の侵入を防止する。このように空気取入孔165を把持部162bよりも大径な拡径部162aに設けたので、作業者が作業時に誤って手で風窓たる空気取入孔165の全体を塞いでしまうことを抑制できる。また、表面積が大きい拡径部162aに空気取入孔165が設けられるので、設計自由度が高くモータハウジング200の内部に吸引される冷却空気の量を確保することができる。
【0067】
拡径部162aの前方側は円形の開口部が形成され、その内周面には回動溝部163(163a、163b)が形成される。回動溝部163よりも後方側には、制御回路部260の収容ケース261(
図12参照)を挟持するための挟持溝部164が形成される。制御回路基板262を分割式のハンドルハウジング161で挟持して保持するようにしたので、制御回路基板262の固定用の部品(ネジ等)が不要となり組み立てが容易となる。ハンドルハウジング161の把持部162bの後方側には、フィルタ回路部270を収容するために下方向及び左右方向に突出する鍔部162cが形成される。鍔部162cの内部空間には、フィルタ回路部270(
図10参照)の収容ケースが右側部161aと左側部161bの内壁面にて挟持されるようにして保持される。このように分割した制御回路基板262とフィルタ回路基板をそれぞれ縦置きしたので、モータ軸方向の工具の大型化を抑制できる。拡径部162aと鍔部162cは把持部162bから離れるにつれ緩やかに拡径していくような形状とされる。このように把持部162bの前後に大径部分を形成することで、作業者の手が前後に滑ってズレることを抑制できると共に、拡径した鍔部162cに第三の回路基板たるフィルタ回路基板を収容したので、大型化したフィルタ回路部270でも収容可能となる。
【0068】
次に
図14を用いて、
図11のモータハウジング200の内部構造を、モータハウジング200にて保持されるインバータ回路部230の形状を説明する。
図14(1)はモータハウジング200の回転軸A1を通る水平断面で分割した際の上側部分の斜視図である。実施例1だけでなく実施例2でも、モータハウジング200以外の部分にそれぞれ風窓(吸気口)と排出口(排気口)を設けたので、モータハウジング200の側面には空気を吸引もしくは排気するための孔を設ける必要が無い。モータハウジング200のテーパー部203の内側部分には、軸受108bを保持するための円筒状の軸受ホルダ210が形成される。軸受ホルダ210を支えるためにモータハウジング200の内壁との間には複数のリブ211が格子状に形成される。リブ211は回転軸A1に対して平行に配置された支持壁であって、それらの間は風窓212となって冷却風の軸方向後方から前方側への流れることができる。リブ211が、上下及び左右方向に延在する板状の部位によって格子状に形成されることで、一方向(例えば上下方向)にのみ延在するリブで前後方向の冷却風の通過を許容する場合と比較して、モータハウジング200の強度を向上させることができる。
【0069】
リブ211の後方側はインバータ回路部230を収容するための空間となっており、回路基板収容部204の内周面には溝部207a、207bとレール部208が形成される。円筒形の軸受ホルダ210の後端位置はリブ211の後端位置よりも後方側になるように配置され、軸受ホルダ210の後端開口面がインバータ回路部230の円筒ケース231の底面232の中央付近に形成された円筒状の凸部と嵌合する。この結果、容器状の円筒ケース231に回路基板241を収容させることで組み立てが容易となり、かつ円筒ケース231の開口を吸気口側に向けたので吸気口からの空気が基板に当たり易くなり(ケース内に入り込みやすくなり)、冷却効果が向上する。さらに、底面232と風窓212の入り口部分には、軸方向に対して所定の隙間が形成されるので、風窓212よりも上流側から流れ込む冷却風が、軸方向だけでなく径方向にも流れることができる。モータ105はモータハウジング200の前方側の開口から挿入され、モータ105のステータ105bを保持するための溝部209a、209bが形成される。溝部209a、209bの溝部分にはモータ105のステータ105bの外面部に形成されたレール部が係合することによりモータ105を保持する。
【0070】
図14(2)はインバータ回路部230の斜視図である。インバータ回路部230は
図11にて示したようにカップ状の円筒ケース231の内部空間に、スイッチング素子Q1〜Q6と、ブリッジダイオード242とコンデンサ243、244を搭載したIGBT回路素子群240が収容される。スイッチング素子には、放熱板245a〜245dが取り付けられる。またブリッジダイオード242の背面にも放熱板242aが取り付けられて、これらの放熱板が円筒ケース231の開口縁よりも後方側に突出するように配置される。このように交流を整流して発熱する整流回路を回路基板241に搭載したので、スイッチング素子Q1〜Q6と同様に、優先的に空気による冷却を行うことができる。また、電気的にスイッチユニット170とスイッチング素子Q1〜Q6との間にブリッジダイオード242を配置したので、ブリッジダイオード242をスイッチユニット170の後方に配置する場合と比較してブリッジダイオード242からスイッチング素子Q1〜Q6への配線が短くでき、低コスト化及び組み立て性の向上を図ることができる。尚、ここでは図示していないが、円筒ケース231の内部には、円筒ケース231の底面が水平になるようにおいた状態にて内部に液体の硬化性樹脂を流し込んで硬化させることにより、回路基板241の全体と、ブリッジダイオード242、コンデンサ243、244、スイッチング素子Q1〜Q6の端子部を樹脂によってすべて覆うようにした。この構成により放熱板部分を除く金属端子部が外部に露出しないため、粉塵や水分等の影響をうけることがないため、振動に強く製品寿命を延ばすことができる。また、硬化性樹脂から外部に露出するのは、ブリッジダイオード242、コンデンサ243、244、スイッチング素子Q1〜Q6の一部であって、特に放熱が必要な部位であるので、樹脂で搭載素子を完全に覆うことによる冷却効率の低下の虞もない。円筒ケース231の放熱板245a〜245dの左右両側部分は、切り込み部236a、236bが形成される。このため、軸方向後方から流れてきた冷却風は、放熱板245a〜245dに当たったあとに水平方向に流れて左右両側の切り込み部236a、236bから側方に出て、モータ105側に流れる。
【0071】
図15(1)は
図11の円筒ケース231を示す斜視図であり、(2)はIGBT回路素子群240の背面図である。円筒ケース231の底面232の4隅には回路基板241を底面232から浮いた状態で保持するための段差部235が形成される。回路基板241に電子部品を搭載して、段差部235にて保持させた状態で、円筒ケース231内を回路基板241が全部埋まる程度に液体の樹脂を流し込んで硬化させる。回路基板241に搭載される主要な電子部品は、6つの半導体スイッチング素子Q1〜Q6である。スイッチング素子Q1〜Q3には、独立した金属製の放熱板245a〜245cが取り付けられ、その面方向が左右及び前後方向に延びるように、即ち冷却風の流入方向に対して平行になるように配置される。これらスイッチング素子Q1〜Q3の放熱面はエミッタ端子に接続されるため、放熱板245a〜245cはそれぞれが分離して設けられ、さらには非導電部材からなる仕切り板246によって遮蔽される。スイッチング素子Q1〜Q3の上方側には3つのスイッチング素子Q4〜Q6がその面方向が左右及び前後方向に延びるように配置される。これらのスイッチング素子Q4〜Q6のエミッタ端子は共通に接地されるため放熱板245dは共通の左右方向に長い金属の放熱板245dが設けられる。仕切り板246は、
図15(2)の方向から見た際に水平方向に延びる主要部分の2箇所から下方向に延びる2枚の垂直板246a、246bが形成される。垂直板246aの下端は円筒ケース231の内壁に形成された軸方向に延びる溝部239に嵌合させることにより、仕切り板246が円筒ケース231内の適切な位置に設置される。仕切り板246は根元部分が回路基板241と接触するように、又は接近するように位置づけられた後に、円筒ケース231内に充填される樹脂によって仕切り板246の半分程度が埋まるように覆われる。
【0072】
円筒ケース231の上部にはブリッジダイオード242が設けられる。ブリッジダイオード242は、4つのダイオードを4つ組み合わせて1つのパッケージに収めたものであり、ブリッジダイオード242の背面には金属製の放熱板242aが取り付けられる。ブリッジダイオード242は、放熱板242aの面方向が左右及び前後方向に延びるように、即ち冷却風の流入方向に対して平行になるように配置される。ブリッジダイオード242の下側部分には、2つのコンデンサ243、244が搭載される。コンデンサ243、244はブリッジダイオード242と共に整流回路を構成するためであって、ここでは大容量の電解コンデンサが用いられる。回路基板241のコンデンサ244、半導体スイッチング素子Q1、Q4の右側部分は、ここでは図示していないが、トリガスイッチ174から接続される電力線を半田付けするための端子と、モータ105へU相、V相、W相の駆動電力を伝達する電力線を半田付けするための端子と、制御回路部260との接続用のワイヤハーネスを接続するためのコネクタ端子が設けられる。モータ105に接続される電力線は、外周部において電力線引き込み用の窪み238a、238bとモータハウジング200の内壁面との間にできる空間を介して配線される。
【0073】
図16はディスクグラインダ101の駆動制御系の回路構成図である。基本的な回路構成は
図8で示した回路構成と同様であるが、ここでは
図8にて図示を省略していた商用交流電源100からブリッジダイオード242に至る回路中のトリガスイッチ174(174a、174b)と、フィルタ回路部270の回路基板271に搭載される電子素子も図示している。フィルタ回路部270は、回路基板271に搭載されたバリスタ275と、コンデンサ274と、チョークコイル272によって主に構成される。バリスタ275は両端子間の電圧が低いときに電気抵抗が高く、ある程度以上に電圧が高くなると急激に電気抵抗が低くなることにより他の電子部品を高電圧から保護するための素子である。突発的なサージ電圧から他の素子を保護するバイパス回路用として用いられ、バリスタ275と直列にパターンヒューズ276が設けられる。チョークコイル272は、高い周波数の交流の流れを阻止して、低い周波数の交流だけを通すためのインダクタである。共振回路を構成するために、チョークコイル272と共に抵抗273とコンデンサ274も設けられる。ヒューズ277は、定格以上の大電流から回路を保護するための電子部品である。
【0074】
トリガスイッチ174は、2つの接点174a、174bを同時にオン又はオフにできる2極スイッチである。本実施例ではブリッジダイオード242の上流側にトリガスイッチ174を設けることによって、回路基板241に搭載されるインバータ回路部230への電力供給を直接制御することができる。トリガスイッチ174の上流側からは、制御回路基板262へ電力を供給するための分岐線269a、269bが接続され、これらは低電圧電源回路263に接続される。制御回路基板262には演算部298と、それに所定の定電圧を供給するための低電圧電源回路263が設けられる。低電圧電源回路263は、ブリッジダイオード267と、電解コンデンサ268と、IPD回路264と、コンデンサ265と、三端子レギュレータ266を含んで構成される。
【0075】
インバータ回路部230には、6つのIGBTからなる半導体スイッチング素子Q1〜Q6が搭載され、モータを駆動するための駆動回路を構成する。半導体スイッチング素子Q1〜Q6とブリッジダイオード242との間には、並列にコンデンサ243、244が設けられる。半導体スイッチング素子Q1〜Q6への回路の途中にはシャント抵抗248が搭載され、その電圧は演算部298によって監視される。半導体スイッチング素子Q1〜Q6のゲート信号H1〜H6は演算部298によって供給される。インバータ回路部230の出力は、モータ105のコイルのU相、V相、W相に接続される。
【0076】
演算部298は、モータのオン・オフ及び回転制御を行うための制御装置であって、図示しないマイコンを用いて構成される。演算部298はトリガスイッチ174の操作に伴い入力される起動信号(図示しない電子スイッチより得られる)に基づき、モータ105を回転させるためにコイルU、V、Wへの通電時間と駆動電圧を制御する。演算部298の出力は、インバータ回路部230の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートに接続される。インバータ回路230の6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各コレクタ又は各エミッタは、スター接続されたコイルのU相、V相、W相に接続される。モータ105の回転速度は、永久磁石を有するロータ105aの磁極の変化をホールIC等の回転位置検出素子114にて検出することにより演算部298はモータ105の回転位置を検出する。
【0077】
以上、実施例2によれば、インバータ回路部230に対する冷却効率を上げるために、インバータ回路部230をモータ105の後ろ側に配置することで、冷却ファン106によって生成された冷却風を効率的にあてるような構造とした。また、入力電力の高い電動工具は大きいサイズの半導体スイッチング素子と大容量のコンデンサを必要とするため、1枚の回路基板上にこれらをまとめて搭載するのはスペース的に難しいという問題を、インバータ回路用の回路基板241と、制御回路用の制御回路基板262を分離することで解決した。しかも、インバータ回路用の回路基板241をモータハウジング200の内部に搭載し、制御回路基板262をハンドルハウジング161の内部に分散して搭載したので、電動工具の大型化を抑制することができた。また、制御回路基板262とインバータ回路用の回路基板241は本体部102とハンドル部160の間に配置された中間部材150の中心の貫通孔151aを通って接続されるが、インバータ回路用の回路基板241をモータ105のステータ105bの後方に直接固定するのではなく、モータハウジング200内の軸受ホルダ210及びリブ211によって軸方向の前方側と後方側に分離された空間内に離して配置したので、製造時においてモータ105に接続させる必要の配線数を少なくできる。さらに、第二の実施例の構造では半導体スイッチング素子Q1〜Q6等を搭載した回路基板241を円筒ケース231に配置した後に液体状のウレタンを注入して硬化させることにより、半導体スイッチング素子Q1〜Q6と回路基板241の溶接部分を一度に覆うことができるため、量産性を向上させて安価に製造することができる。