(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、軸受構造および過給機の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、構成を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1は、過給機Cの概略断面図である。以下では、
図1に示す矢印L方向を過給機Cの左側として説明する。
図1に示す矢印R方向を過給機Cの右側として説明する。
図1に示すように、過給機Cは、過給機本体1を備える。過給機本体1は、ベアリングハウジング2を備える。ベアリングハウジング2の左側には、締結機構3によってタービンハウジング4が連結される。また、ベアリングハウジング2の右側には、締結ボルト5によってコンプレッサハウジング6が連結される。ベアリングハウジング2、タービンハウジング4、コンプレッサハウジング6は、一体化されている。
【0016】
ベアリングハウジング2のタービンハウジング4近傍の外周面には、突起2aが形成されている。突起2aは、ベアリングハウジング2の径方向に突出する。また、タービンハウジング4のベアリングハウジング2近傍の外周面には、突起4aが形成されている。突起4aは、タービンハウジング4の径方向に突出する。ベアリングハウジング2とタービンハウジング4は、突起2a、4aを締結機構3によってバンド締結して取り付けられる。締結機構3は、例えば、突起2a、4aを挟持するGカップリングで構成される。
【0017】
ベアリングハウジング2には軸受孔2bが形成されている。軸受孔2bは、過給機Cの左右方向に貫通する。軸受孔2bにはセミフローティング軸受7が設けられる。セミフローティング軸受7によって、シャフト8が回転自在に軸支されている。
【0018】
シャフト8の左端部にはタービンインペラ9が一体的に取り付けられている。このタービンインペラ9は、タービンハウジング4内に回転自在に収容されている。また、シャフト8の右端部にはコンプレッサインペラ10が一体的に取り付けられている。このコンプレッサインペラ10は、コンプレッサハウジング6内に回転自在に収容されている。
【0019】
コンプレッサハウジング6には吸気口11が形成されている。吸気口11は、過給機Cの右側に開口する。吸気口11は、不図示のエアクリーナに接続される。ベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6の対向面によって、ディフューザ流路12が形成される。ディフューザ流路12は、空気を昇圧する。ディフューザ流路12は、シャフト8の径方向内側から外側に向けて環状に形成される。また、ディフューザ流路12は、径方向内側において、コンプレッサインペラ10を介して吸気口11に連通している。
【0020】
また、コンプレッサハウジング6には、環状のコンプレッサスクロール流路13が設けられている。コンプレッサスクロール流路13は、ディフューザ流路12よりもシャフト8の径方向外側に位置する。また、コンプレッサスクロール流路13は、不図示のエンジンの吸気口と、ディフューザ流路12とに連通している。コンプレッサインペラ10が回転すると、吸気口11からコンプレッサハウジング6内に空気が吸気される。吸気された空気は、コンプレッサインペラ10の翼間を流通する過程において遠心力の作用により増速される。増速された空気は、ディフューザ流路12およびコンプレッサスクロール流路13で昇圧されてエンジンの吸気口に導かれる。
【0021】
タービンハウジング4には、吐出口14が形成されている。吐出口14は、過給機Cの左側に開口する。吐出口14は、不図示の排気ガス浄化装置に接続される。また、タービンハウジング4には、流路15が設けられている。また、タービンハウジング4には、環状のタービンスクロール流路16が設けられている。タービンスクロール流路16は、流路15よりもタービンインペラ9の径方向外側に位置する。また、タービンスクロール流路16は、不図示のガス流入口と連通する。ガス流入口には、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスが導かれる。また、タービンスクロール流路16は、流路15にも連通している。したがって、ガス流入口からタービンスクロール流路16に導かれた排気ガスは、流路15およびタービンインペラ9を介して吐出口14に導かれる。排気ガスは、流通過程においてタービンインペラ9を回転させる。
【0022】
そして、上記のタービンインペラ9の回転力は、シャフト8を介してコンプレッサインペラ10に伝達される。コンプレッサインペラ10が回転すると、上記のとおりに、空気が昇圧される。こうして、空気がエンジンの吸気口に導かれる。
【0023】
図2は、
図1の一点鎖線部分を抽出した図である。
図2に示すように、ベアリングハウジング2の内部には、軸受構造Sが設けられている。軸受構造Sでは、ベアリングハウジング2に油路2cが形成される。潤滑油は油路2cから軸受孔2bに流入する。軸受孔2bには、セミフローティング軸受7が配されている。セミフローティング軸受7の本体部30(軸受本体)には、貫通孔31が形成される。貫通孔31は、本体部30をシャフト8の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に貫通する。貫通孔31には、シャフト8が挿通されている。貫通孔31の内周面32のうち、タービンインペラ9側には、ラジアル軸受面33が形成されている。貫通孔31の内周面32のうち、コンプレッサインペラ10側には、ラジアル軸受面34が形成されている。2つのラジアル軸受面33、34は、シャフト8の軸方向に離隔する。
【0024】
本体部30のうち、2つのラジアル軸受面33、34の間には、油孔36が開口する。油孔36は、本体部30を内周面32から外周面35まで貫通する。軸受孔2bに供給された潤滑油の一部は、油孔36を通って本体部30の貫通孔31に流入する。貫通孔31に流入した潤滑油は、油孔36からタービンインペラ9側およびコンプレッサインペラ10側に広がる。そして、潤滑油は、シャフト8とラジアル軸受面33、34との間隙に供給される。シャフト8とラジアル軸受面33、34との間隙に供給された潤滑油の油膜圧力によって、シャフト8が軸支される。
【0025】
また、本体部30には、位置決め孔37が設けられる。位置決め孔37は、本体部30を内周面32から外周面35まで貫通する。ベアリングハウジング2には、ピン孔2dが形成されている。ピン孔2dは、ベアリングハウジング2のうち、軸受孔2bを形成する
図2中、下側の壁部2eを貫通する。ピン孔2dは、位置決め孔37に対向する。ピン孔2dに、
図2中、下側から位置決めピン20が圧入される。位置決めピン20の先端は、位置決め孔37に挿入され、セミフローティング軸受7の回転、および、軸方向の移動が規制される。
【0026】
また、本体部30の外周面には、2つのダンパ部38、39が形成される。ダンパ部38は、本体部30のうち、
図2中、左側(タービンインペラ9側)に設けられる。ダンパ部39は、本体部30のうち、
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)に設けられる。2つのダンパ部38、39は、軸方向に離隔する。ダンパ部38、39と、軸受孔2bの内周面2fとの間隙には、油路2cから潤滑油が供給される。この潤滑油の油膜圧力によってシャフト8の振動が抑制される。
【0027】
また、シャフト8には、油切り部材21が設けられている。油切り部材21は、環状部材である。油切り部材21は、本体部30に対して、
図2中、右側(コンプレッサインペラ10側)に配される。油切り部材21は、本体部30に軸方向に対向する。油切り部材21のうち、本体部30との対向面21aの外径は、例えば、ラジアル軸受面34の内径よりも大きく、本体部30の外径よりも小さい。
【0028】
潤滑油の一部は、セミフローティング軸受7からコンプレッサインペラ10側に流れる。油切り部材21は、この潤滑油を径方向外側に飛散させる。こうして、油切り部材21は、コンプレッサインペラ10側への潤滑油の漏出を抑制する。
【0029】
シャフト8には、大径部8aが設けられている。大径部8aは、本体部30に対して、
図2中、左側(タービンインペラ9側)に位置する。大径部8aは、本体部30に軸方向に対向している。大径部8aの外径は、例えば、本体部30のラジアル軸受面33の内径よりも大きい。大径部8aの外径は、例えば、本体部30の外径よりも大きい。
【0030】
本体部30は、油切り部材21および大径部8aによって軸方向に挟まれている。本体部30の軸方向の長さは、大径部8aと油切り部材21との距離よりも僅かに短い。シャフト8は、軸方向に僅かに移動できる。本体部30と油切り部材21との間隙、および、本体部30と大径部8aとの間隙には、それぞれ、潤滑油が供給されている。シャフト8が軸方向に移動すると、油切り部材21または大径部8aと本体部30との間の油膜圧力によって軸方向の荷重が支持される。
【0031】
すなわち、本体部30のうち、タービンインペラ9側の端面は、スラスト軸受面40となっている。本体部30のうち、コンプレッサインペラ10側の端面は、スラスト軸受面41となっている。2つのスラスト軸受面40、41は、スラスト荷重を受ける。
【0032】
図3は、
図2のセミフローティング軸受7の抽出図である。ラジアル軸受面33、34には、軸方向に亘ってラジアル溝42が形成される。ラジアル溝42は、ラジアル軸受面33、34それぞれに、シャフト8の回転方向(すなわち、貫通孔31の内周面32の周方向、以下、単に回転方向と称す)に離隔して複数(ここでは、例えば、4つずつ)設けられる。ラジアル軸受面33に設けられたラジアル溝42は、スラスト軸受面40側の一端33aから他端33bまで延在する。ラジアル軸受面34に設けられたラジアル溝42は、スラスト軸受面41側の一端34aから他端34bまで延在する。油孔36から貫通孔31に流入した潤滑油の一部は、ラジアル溝42に流入する。ラジアル溝42に流入した潤滑油の一部は、シャフト8の回転に伴ってラジアル軸受面33、34に供給される。ラジアル溝42に流入した潤滑油の一部は、スラスト軸受面40、41に供給される。
【0033】
図4(a)は、スラスト軸受面40を示す図である。
図4(b)は、スラスト軸受面41を示す図である。
図4(a)、
図4(b)では、回転方向を矢印で示す。スラスト軸受面40、41は、貫通孔31が開口する。スラスト軸受面40、41には、貫通孔31との境界に面取り部40a、41aが形成される。スラスト軸受面40、41のうち、外周側には、面取り部40b、41bが形成される。
【0034】
スラスト軸受面40、41には、ランド部43およびテーパ部44が形成される。ランド部43は、本体部30の中心軸に対して垂直な面である。ランド部43は、回転方向に離隔して複数(ここでは、例えば4つ)設けられる。テーパ部44は、回転方向に隣り合う2つのランド部43の間に1つずつ形成される。ランド部43は、テーパ部44に対応し、下記のように、テーパ部44の回転方向の後方側に位置する。
【0035】
テーパ部44は、シャフト8の挿通方向の突出高さ(以下、単に突出高さと称す)が、回転方向の前方側の方に向って高くなる傾斜面である。例えば、
図4(a)において、テーパ部44は、回転方向の前方側ほど、紙面手前側(大径部8aと近接する方向)に向って突出する。テーパ部44のうち、回転方向の前方側の端部44aは、ランド部43と面一となっている。また、
図4(a)において、テーパ部44は、回転方向の後方側ほど、紙面奥側(大径部8aと離隔する方向)に向って低くなる。テーパ部44のうち、回転方向の後方側の端部44bは、ランド部43より低い。テーパ部44の端部44bとランド部43の境界は、段差面45となっている。
【0036】
テーパ部44には、それぞれスラスト溝46が形成される。スラスト溝46は、貫通孔31から径方向外側に形成される。スラスト溝46は、テーパ部44の外周端44cより径方向内側まで延在する。すなわち、テーパ部44は、外周端44c(テーパ部44と面取り部40b、41bとの境界)とスラスト溝46との間に、スラスト溝46が形成されていない傾斜面44dが残されている。
【0037】
スラスト溝46の外周端46aは、テーパ部44のうち、径方向の中心近傍に位置する。ただし、外周端46aは、テーパ部44のうち、径方向の中心より内側に位置してもよい。また、外周端46aは、テーパ部44のうち、径方向の中心より外側に位置してもよい。
【0038】
スラスト溝46は、外周端46aに向って浅くなる。外周端46aは、テーパ部44のうち、スラスト溝46が形成されていない傾斜面44dと面一となっている。すなわち、スラスト溝46は、外周端46aにおいて傾斜面44dに接続される。
【0039】
この場合、テーパ部44とスラスト溝46との段差が少ない分、スラスト溝46から傾斜面44dに流出する潤滑油の流れ方向の変化は、小さくなる。そして、潤滑油の圧力変化が抑制される。また、例えば、スラスト溝46から流出する潤滑油中に、キャビテーションが発生し難くなる。スラスト溝46から流出する潤滑油の流れが乱れ難い。ただし、スラスト溝46と傾斜面44dとの境界に、軸方向に平行な段差が形成されてもよい。
【0040】
スラスト溝46は、テーパ部44のうち、回転方向の後方側に位置する。すなわち、スラスト溝46は、テーパ部44における回転方向の幅中心Mよりも、回転方向の後方側に位置する。
【0041】
図5(a)は、
図4(a)のスラスト溝46近傍の抽出図である。
図5(b)は、
図5(a)におけるセミフローティング軸受7のV(b)矢視図である。以下、重複説明を避けるため、スラスト軸受面40、41の双方に設けられた構成については、スラスト軸受面40側を例に挙げて説明することがある。
【0042】
図5(a)に示すように、スラスト溝46は、回転方向の後方側のランド部43から離隔している。スラスト溝46は、回転方向の前方側および後方側の双方が、テーパ部44の傾斜面44d内に位置している。上記のように、テーパ部44は、ランド部43よりも突出高さが低い。そのため、スラスト溝46にエッジが形成されても、大径部8aや油切り部材21にエッジが接触し難い。ただし、スラスト溝46のエッジを十分に小さく抑えられる場合には、スラスト溝46は、回転方向の後方側のランド部43と隣接してもよい。
【0043】
テーパ部44に対して回転方向の後方側のランド部43と、スラスト溝46との回転方向の距離Laは、スラスト溝46の回転方向の幅よりも短い。ここでは、スラスト溝46の回転方向の幅は、例えば、スラスト溝46の回転方向の最大幅Lbとする。スラスト溝46の回転方向の幅は、例えば、面取り部40aの外周端上で最大値となる。スラスト溝46は、外周端46aに向って先細りとなっている。
【0044】
図5(b)に示すように、スラスト溝46は、回転方向の幅の中心(中央部)が最も深い。スラスト溝46は、回転方向の両端側に向って浅くなる。スラスト溝46は、径方向内側から見たとき、大凡三角形状となっている。
図5(a)に示すように、ラジアル溝42は、回転方向の幅の中心が最も深い。ラジアル溝42は、回転方向の両端側に向って浅くなる。ラジアル溝42は、軸方向から見たとき、大凡三角形状となっている。すなわち、スラスト溝46およびラジアル溝42は、深い位置(径方向外側)ほど、回転方向の幅が小さくなっている。
【0045】
スラスト溝46は、軸方向に面取り部40aまで延在し開口している。ラジアル溝42は、径方向内側に面取り部40aまで延在している。スラスト溝46とラジアル溝42は面取り部40aで連続(連通)する。ラジアル溝42の回転方向の幅Lcは、スラスト溝46の回転方向の最大幅Lbよりも小さい。ラジアル溝42の幅Lcは、例えば、スラスト溝46との連続部分の幅とする。
【0046】
スラスト溝46には、ラジアル溝42から潤滑油が流入する。スラスト溝46に流入した潤滑油は、シャフト8の回転に伴って、スラスト溝46から流出する。潤滑油は、テーパ部44のうち、スラスト溝46が形成されていない傾斜面44dに供給される。そして、潤滑油は、シャフト8の回転に伴って、ランド部43に供給される。
【0047】
スラスト溝46は、テーパ部44のうち、貫通孔31からテーパ部44の外周端44cより径方向内側までしか延在しない。そのため、スラスト溝46がテーパ部44の外周端44cまで形成される場合に比べ、シャフト8の遠心力によって、テーパ部44を流通せず(スラスト軸受面40、41で消費されず)に、スラスト軸受面40、41の外へ流出する潤滑油の油量が抑制される。そして、スラスト軸受面40、41のうち、内周側に供給される潤滑油の油量が増える。その結果、スラスト軸受面40、41のうち、テーパ部44へ供給される潤滑油の油量が増加し、負荷能力の偏りが抑制されて、軸受性能が向上する。
【0048】
また、上記のように、スラスト溝46は、テーパ部44に設けられる。テーパ部44は、ランド部43よりも、シャフト8の挿通方向の突出高さが低い。そのため、スラスト溝がテーパ部44の外(例えば、ランド部43、または、ランド部43とテーパ部44の間)に設けられる場合に比べ、以下の利点がある。すなわち、スラスト軸受面40、41のうち、スラスト溝46が形成されていない傾斜面44dと、スラスト溝46との段差が小さくなる。その結果、潤滑油の流れ方向の変化が小さくなり、潤滑油の圧力変化が抑制される。スラスト溝46から流出する潤滑油中に、例えば、キャビテーションが発生し難くなる。スラスト溝46から流出する潤滑油の流れが乱れ難い。
【0049】
図6は、
図3のVI−VI線断面図である。
図6には、セミフローティング軸受7のシャフト8に直交する断面を示す。ラジアル溝42は、
図6に示す断面において大凡三角形状となっている。ラジアル溝42は、後方連続部42a(後方端部)および前方連続部42b(前方端部)を有する。後方連続部42aおよび前方連続部42bは、ラジアル軸受面33上に位置する。後方連続部42aおよび前方連続部42bは、ラジアル溝42のうち、ラジアル軸受面33と連続する部位である。前方連続部42bは、後方連続部42aよりも回転方向の前方側に位置する。
【0050】
ラジアル溝42のうち、後方連続部42aと前方連続部42bの間には、後方壁面部42cおよび前方壁面部42dが形成される。後方壁面部42cは、前方壁面部42dより回転方向の後方側に位置する。ラジアル溝42のうち、後方壁面部42cと前方壁面部42dの境界部が最も深い。後方壁面部42cは、後方連続部42aから前方壁面部42dとの境界部まで直線状に延在している。前方壁面部42dは、前方連続部42bから後方壁面部42cとの境界部まで直線状に延在している。ここでは、後方壁面部42cと前方壁面部42dは、
図6に示す断面において大凡同じ長さとなっている。ここでは、後方壁面部42cと前方壁面部42dがなす角が大凡直角に近い鈍角となっている。ただし、後方連続部42aと前方壁面部42dがなす角は、直角でもよいし鋭角でもよい。
【0051】
前方壁面部42dは、仮想線Xよりも回転方向の前方側に、前方連続部42bから延在する。ここで、仮想線Xは、前方連続部42bにおけるラジアル軸受面33の接線Yと30度で交わる直線とする。また、仮想線Xは、前方連続部42bから、回転方向の後方側に延在する。すなわち、接線Yと前方壁面部42dとのなす角αが30度以上となっている。
【0052】
ここでは、前方壁面部42dは、仮想線Xよりも回転方向の前方側に、前方連続部42bから延在する場合について説明した。ただし、前方壁面部42dは、仮想線Xに沿って前方連続部42bから延在してもよい。すなわち、角αが30度でもよい。
【0053】
図7(a)は、本実施形態のラジアル溝42を示す図である。
図7(b)は、比較例のラジアル溝Rbを示す図である。
図7(b)に示す比較例のラジアル溝Rbは、接線Yと前方壁面部Rcとのなす角αが30度未満となっている。
【0054】
比較例では、ラジアル溝Rbに異物が進入した場合、シャフト8の回転に伴って、異物(
図7(b)中、黒丸で示す)がラジアル軸受面Raとシャフト8との軸受隙間Saに進入し易い。一方、本実施形態では、ラジアル溝42に異物(
図7(a)中、黒丸で示す)が進入した場合、比較例に比べて、異物がラジアル軸受面33とシャフト8との軸受隙間Saに進入し難い。そのため、異物は、ラジアル溝42を通って、スラスト軸受面40から排出されやすい。
【0055】
また、角αが大きくなり過ぎると、ラジアル溝42から軸受隙間Saに潤滑油が流れるとき、抵抗が大きくなってしまう。そのため、角αは、潤滑油の流れに対する抵抗が大きくなり過ぎないように、上限値が設定される。
【0056】
角αの上限値は、例えば、30度〜45度の範囲とすることができる。
【0057】
図8(a)は、スラスト軸受面40を示す図である。
図8(b)は、スラスト軸受面41を示す図である。
図8(a)、
図8(b)に示すように、ラジアル溝42は、ラジアル軸受面33、34のうち、本体部30に挿通されるシャフト8の軸心Oの直下Hを含む所定範囲を除く位置に形成される。
図8(a)、
図8(b)には、所定範囲のラジアル軸受面33、34の中心角を角βとして示す。角βは、例えば、60度〜120度の範囲となっている。
【0058】
ここで、仮にラジアル溝42の配置間隔(隣り合うラジアル溝42の回転方向の間隔、スラスト軸受面40の周方向の間隔)をγ度とする。角βの角度範囲は、γ−γ/2〜γ−γ/3とすることができる。本実施形態の一例では、ラジアル溝42は、周方向に等間隔90度ごとに、4か所配置されている。角βの下限値は、90/2=45度であることから、90度−45度=45度と計算できる。また角βの上限値は、90/3=30度であることから、90度−30度=60度と計算できる。また例えば、ラジアル溝42は周方向に等間隔45度毎に、8カ所配置されている場合を考える。角度範囲の下限値は、45/2=22.5度であることから、45度−22.5度=22.5度と計算できる。また角度範囲の上限値は、45/3=15度であることから、45度−15度=30度と計算できる。
【0059】
この場合、例えば、シャフト8の軸心Oの直下Hにラジアル溝が形成される場合に比べ、シャフト8の回転始動時、異物がラジアル軸受面33とシャフト8との軸受隙間Saに進入し難い。シャフト8の回転始動時は、シャフト8が自重で鉛直下側に沈下している。ここで重力により、異物はラジアル軸受面33の直下Hとシャフト8との軸受隙間Saおよびラジアル溝42に堆積し易い。この状態で、シャフト8が回転し始めるとすると、直下Hにラジアル溝42が形成される場合、回転始動時に圧力差によって堆積した異物がラジアル軸受面33に進入する懸念がある。また、回転始動時にシャフト8は油膜圧力により浮上するが、軸心Oの直下Hにラジアル溝42が形成された場合、油膜反力が減少し、シャフト8が浮上し難いため、軸受隙間Saが狭くなっている。
【0060】
本実施形態では、ラジアル軸受面33、34のうち、シャフト8の軸心Oの直下Hを含む所定範囲を除く位置にラジアル溝42が形成される。そのため、回転始動時に直下Hのラジアル溝42がある場合に比べ、異物がラジアル軸受面33に進入する確率を低減できる。また、ラジアル溝42が直下Hにないことで、油膜反力を回転始動時に発生させることが可能であり、シャフト8とラジアル軸受面33との軸受隙間Saが小さくなることを防止できる。
【0061】
図9(a)は、シャフト8とスラスト軸受面40を示す図である。
図9(b)は、セミフローティング軸受7とシャフト8(大径部8a)における
図9(a)の一点鎖線部分の断面のIX(b)線矢視図である。
図9(b)では、
図9(a)の一点鎖線部分の円筒状の断面を平面に展開して一部を抽出して示す。ここでは、
図9(a)中、
図9(b)の断面位置を示す一点鎖線を面取り部40aの外周端より僅かに内周側に図示する。ただし、実際には、
図9(b)の断面位置は、面取り部40aの外周端上に位置する。
図9(a)、
図9(b)では、回転方向を破線の矢印で示す。
図9(a)では、シャフト8とラジアル軸受面33との軸受隙間Sa(クロスハッチングで示す)を実際より拡大して示す。
図9(b)では、円筒状の断面を平面に展開して示す。
図9(b)では、シャフト8(大径部8a)とスラスト軸受面40との軸受隙間Sb(クロスハッチングで示す)を実際より拡大して示す。
図9(b)では、テーパ部44の傾斜を実際より大きく示す。
図9(b)では、スラスト溝46を実際より大きく示す。
【0062】
上記のように、シャフト8は軸方向に僅かに移動できる。シャフト8の軸方向の移動に伴って、2つのスラスト軸受面40、41の軸受隙間Sbは拡大、縮小する。ここでは、2つのスラスト軸受面40、41の軸受隙間Sbが等しい状態をノミナルという。
【0063】
ここで、2つの軸受隙間Sa、Sbの流路断面積を比較する。ラジアル軸受面33の軸受隙間Saの流路断面積は、軸方向に垂直な断面とする。スラスト軸受面40の軸受隙間Sbの流路断面積は、ノミナル時における、面取り部40aの外周端を通る軸方向に平行な円筒面による断面とする。軸受隙間Sbの流路断面積は、軸受隙間Saの流路断面積に対して、大きくてもよい。この場合、ラジアル軸受面33の軸受隙間Saからスラスト軸受面40の軸受隙間Sbに潤滑油が流れ易くなる。
【0064】
図10(a)は、第1変形例における
図5(a)に対応する部位の図である。
図10(b)は、第1変形例における
図5(b)に対応する部位の図である。
図10(a)、
図10(b)に示すように、第1変形例では、スラスト溝146は、径方向内側から見たとき、大凡円弧形状(曲面形状の一例)となっている。ラジアル溝142は、軸方向から見たとき、大凡円弧形状となっている。
【0065】
また、上述した実施形態と同様、スラスト溝146およびラジアル溝142は、面取り部40aまで延在している。スラスト溝146とラジアル溝142は面取り部40aで連続する。ラジアル溝142の回転方向の幅Lcは、スラスト溝146の回転方向の最大幅Lbよりも小さい。
【0066】
図11は、第1変形例における
図6に対応する部位の図である。ラジアル溝142は、
図11に示す断面において大凡円弧形状となっている。ラジアル溝142は、上述した実施形態と同様、後方連続部142aおよび前方連続部142bを有する。後方連続部142aおよび前方連続部142bは、ラジアル軸受面33上に位置する。前方連続部142bは、後方連続部142aよりも回転方向の前方側に位置する。
【0067】
ラジアル溝142のうち、後方連続部142aと前方連続部142bの間には、後方壁面部142cおよび前方壁面部142dが形成される。ここでは、ラジアル溝142のうち、最も深い位置Dを境界として、回転方向の後方側を後方壁面部142c、前方側を前方壁面部142dとする。
【0068】
前方壁面部142dは、仮想線Xよりも回転方向の前方側に、前方連続部142bから延在する。ここで、仮想線Xは、前方連続部142bにおけるラジアル軸受面33の接線Yと30度で交わる。また、仮想線Xは、前方連続部142bから、シャフト8に対して離隔する方向であって、回転方向の後方側に延在する。すなわち、前方連続部142bにおける前方壁面部142dの接線Zと、接線Yとのなす角αが30度以上となっている。
【0069】
第1変形例においても、上述した実施形態と同様、ラジアル溝142に異物が進入した場合、異物がラジアル軸受面33とシャフト8との軸受隙間Saに進入し難い。そのため、異物は、ラジアル溝142を通って、スラスト軸受面40から排出される。
【0070】
図12(a)は、第2変形例における
図5(a)に対応する部位の図である。
図12(b)は、第2変形例における
図5(b)に対応する部位の図である。
図12(a)、
図12(b)に示すように、第2変形例では、スラスト溝246は、径方向内側から見たとき、大凡四角形状となっている。スラスト溝246は、回転方向の位置によらず深さが大凡一定となっている。また、スラスト溝246の深さは、径方向外側に向かうほど浅くなる。スラスト溝246は、外周端246aにおいて、テーパ部44と面一となる。
【0071】
また、上述した実施形態と同様、スラスト溝246およびラジアル溝242は、面取り部40aまで延在している。スラスト溝246とラジアル溝242は面取り部40aで連続する。ただし、ラジアル溝242の回転方向の幅Lcは、スラスト溝246の回転方向の最大幅Lbよりも大きい。このように、ラジアル溝242の回転方向の幅Lcは、スラスト溝246の回転方向の最大幅Lbよりも大きくてもよい。また、ラジアル溝242の回転方向の幅Lcは、スラスト溝246の回転方向の最大幅Lbと等しくてもよい。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら一実施形態について説明したが、各構成は上記の実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
例えば、上述した実施形態および変形例では、スラスト溝46、146、246は、テーパ部44における回転方向の幅中心Mよりも、回転方向の後方側に位置する場合について説明した。この場合、テーパ部44のうち、クサビ効果に寄与する面積が大きくなる。そのため、油膜圧力を高めやすい。ただし、スラスト溝46、146、246は、幅中心Mに位置してもよい。また、スラスト溝46、146、246は、幅中心Mよりも回転方向の前方側に位置してもよい。
【0074】
また、上述した実施形態および変形例では、テーパ部44に対して回転方向の後方側のランド部43と、スラスト溝46、146、246との回転方向の距離Laは、スラスト溝46、146、246の回転方向の幅よりも短い場合について説明した。この場合、テーパ部44のうち、クサビ効果に寄与する面積が大きくなる。そのため、油膜圧力をさらに高めやすい。ただし、距離Laは、スラスト溝46、146、246の回転方向の幅と同じでもよい。また、距離Laは、スラスト溝46、146、246の回転方向の幅よりも長くともよい。
【0075】
また、上述した実施形態および第1変形例では、スラスト溝46、146は、径方向外側に向って先細り形状である場合について説明した。この場合、潤滑油がスラスト溝46、146からテーパ部44の傾斜面44dに流れ易い。ただし、スラスト溝46、146は、径方向外側に向って先細り形状でなくともよい。例えば、上述した第2変形例のように、スラスト溝246は、径方向の位置に拘らず、回転方向の幅が大凡一定でもよい。また、スラスト溝は、径方向外側に向って回転方向の幅が拡がってもよい。
【0076】
また、上述した実施形態では、スラスト溝46は、径方向内側から見たとき、大凡三角形状である場合について説明した。ラジアル溝42は、軸方向から見たとき(または、
図6に示す断面形状が)大凡三角形状となっている場合について説明した。この場合、スラスト溝46とラジアル溝42を同じ工具による機械加工で形成できる。そのため、工具の換装工程が少なくなり、作業性が向上する。上述した第1変形例も同様の効果を奏する。
【0077】
また、スラスト溝46、146、246は、上述した実施形態や変形例に示される形状に限られない。例えば、スラスト溝46、146、246は、径方向内側から見たとき、台形でもよい。すなわち、スラスト溝46に底面が形成されていてもよい。
【0078】
また、ラジアル溝42、142、242は、上述した実施形態や変形例に示される形状に限られない。例えば、ラジアル溝42、142、242は、シャフト8の軸心に直交する断面において台形でもよい。
【0079】
また、上述した実施形態および第1変形例では、ラジアル溝42、142の回転方向の幅Lcは、スラスト溝46、146の回転方向の最大幅Lbよりも小さい場合について説明した。この場合、ラジアル溝42、142からスラスト溝46、146に潤滑油が流れ易くなる。そのため、ラジアル溝42、142に異物が進入した場合、ラジアル溝42、142からスラスト溝46、146に異物が迅速に排出される。その結果、ラジアル軸受面33、34とシャフト8との軸受隙間Saへの異物進入が抑制される。
【0080】
また、上述した実施形態および変形例では、スラスト軸受面40、41が、セミフローティング軸受7に形成される場合について説明した。しかし、セミフローティング軸受7とは別に、スラスト軸受を設け、このスラスト軸受にスラスト軸受面が形成されてもよい。この場合、セミフローティング軸受7の代わりに、フルフローティング軸受、転がり軸受など、他のラジアル軸受と併せてスラスト軸受を別に設けてもよい。つまり、上記実施形態では、スラスト軸受面とラジアル軸受面とが同一の部材に形成されている。しかしながら、スラスト軸受面とラジアル軸受面とが、それぞれ別の部材に形成されてもよい。
【0081】
上述した実施形態および変形例では、セミフローティング軸受7の本体部30のうち、2つのラジアル軸受面33、34の間に油孔36が設けられる場合について説明した。ただし、ラジアル軸受面33に開口する油孔と、ラジアル軸受面34に開口する油孔をそれぞれ設けてもよい。この場合、油孔は、例えば、ラジアル軸受面33、34のうち、ラジアル溝42に開口する。また、油路2cは、分岐して2つのダンパ部38、39に各々対向し、軸受孔2bの内周面2fに開口するように形成されてもよい。