(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を、実施例1のレーザ加工装置51及びそれを用いて行うレーザ加工方法により説明する。
以下の説明において、板厚tが6mm以上の板材を、厚板材と称する。また、板厚tが3mm以上6mm未満の板材を中厚板材と称する。
【0011】
図1は、レーザ加工装置51の概略全体構成を示す図である。
レーザ加工装置51は、ワークテーブル1,加工ヘッド2,駆動部3,及び制御装置5を備えている。
ワークテーブル1には、鉄系板材のワークWが載置される。加工ヘッド2は、ワークテーブル1上に載置されたワークWに対しレーザ光Lsを照射する。駆動部3は、ワークテーブル1及び加工ヘッド2の少なくとも一方を移動させて両者の3次元的相対位置を変化させる。制御装置5は、加工ヘッド2及び駆動部3の動作を制御する。
また、レーザ加工装置51は、レーザ発振器6及びアシストガス供給装置7を備えている。
レーザ発振器6は、プロセスファイバ6aを介して加工ヘッド2にレーザ光Lsを供給する。レーザ発振器6は、例えば、波長が1μm帯のレーザ光Lsを出力して加工ヘッド2に供給する。
アシストガス供給装置7は、加工ヘッド2にアシストガスAGとして窒素ガスを供給する。アシストガス供給装置7は、例えば、窒素ガスのボンベを用いて純度99.999%の窒素ガスを加工ヘッド2に供給する。よって、加工ヘッド2は、いわゆる無酸素切断を目的とするアシストガス流を切断面へ提供する。
【0012】
加工ヘッド2は、本体部2a,ノズル2b,及びセンサ4を備えている。
本体部2aは、動作状態において、上下方向(鉛直方向)に延びる軸線CL2を軸とする筒状を呈する。ノズル2bは、本体部2aの下端に着脱自在に取り付けられている。センサ4は、ノズル2bの下方の先端部2b1とワークテーブル1上に載置されたワークWの表面Waとの距離であるノズルギャップGp(以下、単にギャップGpと称する)を測定する。
また、レーザ加工装置51は、ノズル2bを自動交換するノズルチェンジャ8を備えている。ノズルチェンジャ8は、この例において、ノズル番号N1〜N5のノズルをストック可能とされ、制御装置5が有するノズル選択部14(詳細は後述)の制御により指定された番号のノズルを、本体部2aに脱着する。
【0013】
図2は、ノズル2bの縦断面形状を示している。
図1の使用姿勢と対応した上下方向を矢印で示してある。
【0014】
ノズル2bは、アウタノズル部2baとインナノズル部2bbとを有するいわゆるダブルノズルである。
ノズル2bは、本体部2aの下部に対し、ねじによって着脱自在に装着可能とされている
【0015】
アウタノズル部2baの先端部2b1には開口部2b2がノズル開口部として開口し、インナノズル部2bbの先端部2bb1には開口部2bb2が開口している。
インナノズル部2bbの先端部2bb1の位置は、アウタノズル部2baの先端部2b1に対し上側であるノズル2bの軸線CL2に沿った奥側にあり、アウタノズル部2baの開口縁と先端部2bb1との間に開口径Dを内径とする円筒状の空間Vaが形成されている。
インナノズル部2bbの開口部2bb2が開口した先端部2bb1と、アウタノズル部2baの開口部2b2が開口した先端部2b1との軸線CL2方向の距離を、ノズル段差Hnと称する。ノズル段差Hnは、例えば5.5mmである。
アウタノズル部2baとインナノズル部2bbとの間には、横断面形状が略環状となるアシストガスのアウタ流路R1が形成される。
インナノズル部2bbには、インナ流路R2が形成されている。インナ流路R2は、下方先端に向かうに従って内径が小さくなるように形成されている。
【0016】
本体部2aには、アシストガス供給装置7から窒素ガスがアシストガスAGとして供給される。供給されたアシストガスAGは、アウタ流路R1及びインナ流路R2を流れ、空間Vaで合流し、
図1に示されるように、先端部2b1の開口部2b2から下方へ噴出する。
アシストガスAGのガス圧Pn(詳細は後述)は、本体部2a内の圧力としてアシストガス供給装置7によって制御される。
レーザ発振器6から本体部2aに供給されたレーザ光Lsは、本体部2a内に備えられたコリメーションレンズ及びフォーカスレンズ(いずれも不図示)を経て、インナ流路R2内を軸線CL2上に進み開口部2b2から下方に射出する。
【0017】
図1に戻り、制御装置5は、中央処理装置(CPU)11,記憶部12,倣い制御部13,及びノズル選択部14を含んで構成されている。
【0018】
ワークWを切断加工するための加工プログラムPG及びノズル選択テーブルTn(詳細後述)は予め作成され、通信インターフェース(不図示)などを介して外部から供給され或いは作業者により直接入力されて、記憶部12に記憶される。
切断加工において、CPU11は、加工プログラムPGにより規定される切断経路に沿ってレーザ光LsがワークWに照射されるように、レーザ発振器6及び駆動部3の動作を制御する。
ノズル2bの先端部2b1とワークWの表面Waとの距離であるギャップGpは、センサ4の検出結果に基づき、倣い制御部13による駆動部3の上下駆動制御で加工ヘッド2の上下方向位置が制御されて維持される。
【0019】
ワークWをレーザ光Lsによって切断加工する際にアシストガスAGを使用する場合、CPU11は、アシストガス供給装置7によるアシストガスAGの供給動作を制御する。
供給されたアシストガスAGは、既述のようにノズル2bの開口部2b2から下方へ噴出する。
【0020】
図1に示されるように、記憶部12にはノズル選択テーブルTnが格納される。
図10は、ノズル選択テーブルTnの構成例を示している。ノズル選択テーブルTnは、開口径Dの異なる複数種類のノズル番号N1〜N5のノズルの中から、加工するワークWの板厚t及びレーザ光の出力Mに応じて利用可能な選択すべきノズルが、対応付けにされることにより特定可能とされたテーブルである。
【0021】
ノズル選択テーブルTnに示された、板厚t及び出力Mと、ノズル(開口径D)との関係は、アシストガスAGが低いガス圧Pnで噴出しても厚板材のワークWを良好に切断できる関係である。次に説明するように、レーザ加工装置51によるワークWの切断に際し、ノズル選択テーブルTnに示される関係が予め把握されている。
以下、ノズル選択テーブルTnを取得する方法及びその技術的意義について、
図3〜
図8を参照して説明する。
【0022】
まず、ワークWのレーザ光による切断性の良否判定について
図3を参照して説明する。
切断性の良否は、ワークWにおける切断部位の、加工ヘッド2とは反対側の面(下面)におけるドロスの下方への突出量の大小で判定する。
ドロスの突出量が少ないほど切断性が良好であり、切断経路に沿って付着したドロスの最大突出量が所定の基準値以下の場合、切断性が良(以下、良切断と称する)と判定する。
基準値は、板厚t及びレーザ光Lsの出力Mに依存し、板厚tが6〜20mm、出力Mが6kWの場合、例えば
図3に示される特性とされる。
具体的には、基準値は、板厚tが6mmでは50μm(基準比率0.0083)、板厚tが12mmでは300μm(基準比率0.025)、板厚tが20mmでは1200μm(基準比率0.06)とされる。
以下、ドロスの最大突出量をドロス高さとも称する。
図3に示された基準値のプロットは、板材の板厚t及び使用するノズル2bの開口径Dなどが連続的ではなく段階的であることから、滑らかな線上に乗る性質のものではない。
図3では、理解を深める参考として、滑らかな近似曲線を破線で付記してある。
【0023】
鉄系板材のワークに対し、いくつかの基本的な加工条件を、次に示す<固定条件A>として固定する一方、<パラメータ>として示した項目を変えてレーザ切断を試切断として実行し、切断性をドロス高さで評価した。また、切断性が良(良切断)として維持できる最大切断速度Vmaxを求めた。
<固定条件A>
レーザ光の出力M:6kW
レーザ光の波長:1.08μm
プロセスファイバーコア径:100μm
ノズル2bの開口径D:7mm
ノズル段差Hn:5.5mm
ギャップGp:0.3mm
ビーム品質(BPP): ≦4.0mm*mrad
ワーク材質:SUS304
アシストガスAGの種類:窒素ガス
<パラメータ>
ワークの板厚t:6,12,20mm の3種
アシストガスAGのガス圧Pn:0.4〜1.2MPaの範囲で0.2MPa毎
【0024】
各板厚tにおける切断性の良判定は、
図3を参照した既述のようにそれぞれ次の通りである。
板厚t=6mm :ドロス高さ 50μm以下
板厚t=12mm :ドロス高さ 300μm以下
板厚t=20mm :ドロス高さ 1200μm以下
【0025】
図4〜
図6は、得られた鉄系材料の結果のうち、SUS304を代表として、それぞれワークの板厚tが6,12,20mmの場合の結果を示したグラフである。SUS304以外の軟鋼などの鉄系材料も、概ね同様の結果を得た。
【0026】
(板厚t=6mm)
図4に示される板厚tが6mmの場合において、ガス圧Pnが0.4〜0.6MPaの範囲で、ドロス高さは基準値(50μm)以下となり、切断性は良と判定された。
また、最大切断速度Vmaxは、ガス圧Pnが0.4〜1.2MPaの範囲すべてにおいて8000〜8500mm/minの範囲内で得られた。
【0027】
(板厚t=12mm)
図5に示される板厚tが12mmの場合において、ガス圧Pnが0.4〜0.6MPaの範囲で、ドロス高さは基準値(300μm)以下となり、切断性は良と判定された。また、ガス圧Pnが0.8〜1.2MPaの範囲で、ドロス高さは基準値(300μm)を超え、切断性は不良と判定された。
また、最大切断速度Vmaxは、ガス圧Pnが0.4〜0.8MPaの範囲で約2800mm/minが得られ、0.8MPaを超えると低下傾向にあり、1.2MPaにおいて約2000mm/minに低下した。
【0028】
(板厚t=20mm)
図6に示される板厚tが20mmの場合において、ガス圧Pnが0.4〜1.2MPaすべての範囲で、ドロス高さは基準値(1200μm)以下となり、切断性は良と判定された。
また、最大切断速度Vmaxは、ガス圧Pnが0.4〜1.2MPaすべての範囲で400〜600mm/minが得られた。
【0029】
以上の結果から、開口径Dが7mmのノズルを用いた場合、少なくともガス圧Pnが0.4〜0.6MPaの範囲において、板厚tが6〜20mmの厚板材であるSUS304材を、切断性を良として切断可能であることが明らかになった。
また、最大切断速度Vmaxは、0.4〜1.2MPaのガス圧範囲において、ガス圧Pnが小さいほど、大きくなることが明らかになった。
【0030】
この方法を用い、ノズルの開口径Dをパラメータとし、開口径Dが2.0,4.0,7.0,10.0,12.0mmのそれぞれのノズルにおいて、ガス圧Pnが0.4〜0.6MPaの範囲において、切断性が良となる切断が可能か否かを実験し、ノズルの開口径Dに対する良切断が可能なSUS304の板厚を調べた。
図7は、その結果を示すグラフである。
【0031】
また、
図9に示されるように、開口径Dが2.0,4.0,7.0,10.0,12.0mmのノズルを、それぞれノズル番号N1〜N5として特定する。
【0032】
図7に示されるように、概ね、開口径Dが大きくなる程、厚い板厚でも良切断が可能になる傾向があることが判明した。
すなわち、良切断可能な板厚最大値は、ノズルの開口径Dに依存している。
また、開口径Dが10mm以上において切断可能板厚は飽和傾向となることが判明した。
【0033】
図7によれば、例えば、固定条件A(開口径Dは除く)によって板厚tが10mmの板材のレーザ切断加工を行う場合、ノズル番号N1〜N5のすべてのノズルを選択可能であることがわかる。
また、板厚tが20mmの板材のレーザ切断加工を行う場合、ノズル番号N3〜N5のノズルを選択可能であることがわかる。
【0034】
次に、選択可能なノズル2bがレーザ光Lsの出力Mに依存するか否かを、固定条件Aにおけるレーザ光Lsの出力Mをパラメータとして変えて、同様の実験を行った。
具体的には、出力Mを、既述の6kW以外の、4kW、9kWの二つの場合とし、それぞれにおいて、良切断可能な板厚tと開口径Dとの関係を実験で求めた。
そして、良切断が可能な開口径Dのノズル2bが複数種類ある場合には、最大切断速度Vmaxが大きい方を選択した。最大切断速度Vmaxが大きいほど、加工所要時間が短くてアシストガスAGの消費量が少なくなる。
図8にその結果を示す。
【0035】
図8に示される結果から、出力Mが大きいほど、より厚いワークを良切断できることが明らかになった。
また、出力Mによらず、板厚tが厚いほど、良切断のために開口径Dの大きいノズルが必要となる傾向にあることがわかった。
【0036】
図8に示される結果から、実際の切断加工において、前の加工(第1の切断加工)で切断したワークW(第1の板材)の板厚(第1の板厚)に対する次の加工(第2の切断加工)で切断しようとするワークW(第2の板材)の板厚(第2の板厚)の増減(厚薄)に応じて、レーザ光Lsの出力M及びノズル2bの開口径Dの一方又は両方を変えて、ワークWの板厚によらず良切断を維持できることが判明した。
これについて次に詳述する。
【0037】
<開口径Dのみを変える場合>
レーザ光Lsの出力Mを変えずに板厚の異なるワークWを切断したい場合は、板厚tに応じて開口径Dの異なるノズル2bを選択するとよい。
詳しくは、次の加工で切断するワークWの板厚tが前の加工で切断したワークWの板厚tより増大(厚くなる)する場合は、前の加工で使用したノズル2bの開口径Dよりも大きい開口径Dを有するノズル2bを選択する。減小する(薄くなる)場合は、前の加工で使用したノズル2bの開口径Dよりも小さい開口径Dを有するノズル2bを選択する。そして、選択したノズル2bを、現状のノズル2bと交換して次の切断加工を実行する。
例えば、
図8において、前の加工で切断したワークWの板厚tが10mmで、次の加工で切断するワークWの板厚tが16mmの場合、出力Mは6kWを維持し、ノズル2bを、開口径が2mmのものから7mmのものに変更する。
【0038】
<レーザ光Lsの出力Mのみを変える場合>
使用中のノズル2bを交換せずに、板厚tの異なるワークWを切断したい場合は、その板厚tに応じてレーザ光Lsの出力Mを異なる値に設定するとよい。
詳しくは、次の加工で切断するワークWの板厚tが前の加工で切断したワークWの板厚tより増大する(厚くなる)場合は、レーザ光Lsの出力Mを前の加工で設定した出力Mよりも大きく設定し、減小する(薄くなる)場合は、レーザ光Lsの出力Mを前の加工で設定した出力Mよりも小さく設定して切断加工を実行するとよい。
例えば、
図8において、前の加工で切断したワークWの板厚tが10mmで、次の加工で切断するワークWの板厚tが16mmの場合、開口径Dが4mmのノズル2bはそのままとし、レーザ光Lsの出力Mを4kWから9kWに上げて設定する。
【0039】
<ノズル2bの開口径D及びレーザ光Lsの出力Mの両方を変える場合>
また、次の加工対象のワークWが、良切断した前の加工のワークWと同じ板厚tの場合、開口径D及び出力Mの一方を大きくなるように変え、他方を小さくなるように変えることで、良切断を維持することができる。
例えば、
図8において、前の加工及び次の加工共にワークWの板厚が12mmの場合で、前の加工で用いたノズル2bの開口径が2mmで出力が9kWのとき、次の加工で、ノズル2bを開口径Dの大きい7mmのものに交換し、出力Mを4kWに小さくする。
【0040】
次の加工で、ノズル2bを開口径Dの異なるものに交換するかレーザ光Lsの出力Mを変更するかは、次以降の加工に供されるワークWの板厚t、レーザ発振器6の消費電力、用いるノズル2bの履歴(メンテナンス時期)など、種々の条件を基に適宜決定できる。
この2つのパラメータの選択で良切断が維持できることにより、生産効率の低下を抑制できる。これは、例えば、ある開口径Dのノズル2bが損傷した、或いはレーザ発振器6の故障である値以上の出力が得られなくなった、などの不具合に対して、前者はレーザ発振器6の出力Mを調整する、後者は開口径Dの異なるノズル2bに選択交換することで良切断を維持できる可能性が増すことによる。
【0041】
このように、所望の板厚材のワークWを良切断するために選択可能なノズル2bは、レーザ光Lsの出力Mに応じて決めることができる。
同じ開口径Dの場合に、レーザ光Lsの出力Mが大きいほど厚い板材を良切断できる理由は次のように推察される。
すなわち、出力Mが大きいほどレーザパワー密度が高くなるので、カーフ内の溶融金属の粘度が低下する。噴出させるアシストガスAGのガス圧Pnが同じであるならば、アシストガスAGによる溶融金属の冷却熱量は変わらない。そのため、出力Mが増大した分だけ、溶融金属の粘度低下が生じ、溶融金属のカーフ外への排出が良好となる。従って、同じ開口径Dのノズル2bを用いてもより厚いワークWに対し良切断が可能となる。
【0042】
また、上述の同じ開口径Dのノズルを用いた場合に、出力Mが大きいほど厚い板材を良切断できる理由を、カーフ内のプラズマ状態を考慮すると次のように推考される。
すなわち、噴出させるアシストガスAGのガス圧Pnが同じであればカーフ内のプラズマ状態も変化しない。そのため、レーザ光Lsの出力Mが大きいほど、照射するレーザ光Lsのエネルギのうちのプラズマの影響を受けないエネルギが増加する。このエネルギの増加により、ワークWのカーフ側面の融解が促進されてより厚い板材の良切断が可能になる。
【0043】
以上の結果から、切断実験によって、ワークWの板厚tと、その板厚tのワークWを良切断するために選択すべきノズル番号と、の関係を特定可能であることがわかる。
そこで、異なる出力M及び異なるワークWの板厚tの組み合わせそれぞれにおいて、最小のアシストガス消費量で良切断できるノズル番号を実験により把握し、テーブル化した。
図10は、そのノズル選択テーブルTnの内容例を示している。
【0044】
図10に示されたノズル選択テーブルTnは、各板厚tに対し、レーザ光Lsの出力M以外の項目を固定し出力Mを変えた場合の、板厚tと出力M毎に選択すべきノズル番号を、紐付けによって特定可能にするものである。
【0045】
例えば、板厚tが10.0mmで、出力Mが9kWの場合、N1番のノズルを選択すれば、良切断をアシストガスAGの消費量を最も少なく行うことができる、ということがわかる。
また、板厚tが20mmの場合、出力Mが4kWでは、N1〜N5番の中から選択できるノズルがなく、出力Mが6kW及び9kWでN3番のノズルを選択すれば、良切断をアシストガスAGの消費量を最も少なく行うことができる、ということがわかる。
【0046】
このノズル選択テーブルTnは、外部から制御装置5に入力され記憶部12に記憶される。
ノズル選択テーブルTnを記憶したレーザ加工装置51は、
図11に示される手順例によりノズルを選択し、切断加工を実行する。
【0047】
制御装置5のノズル選択部14は、記憶部12に記憶された加工プログラムPGから、次の切断加工で切断するワークWの板厚tを取得し(Step1)、その切断加工で照射するレーザ光Lsの出力Mを取得する(Step2)。
【0048】
次にノズル選択部14は、記憶部12に記憶されたノズル選択テーブルTnを参照し、(Step1)で取得した板厚t及び出力Mに対応したノズル番号を把握する。
例えば、
図10において、取得した板厚tが12.0mmで出力Mが6kWであれば、N2番のノズルが対応することを把握する(Step3)。
【0049】
ノズル選択部14は、ノズルチェンジャ8に対し、選択したN2番のノズルをノズル2bの本体部2aに装着するよう指示し、ノズルチェンジャ8は、本体部2aに対し、指示されたN2番のノズルを装着する(Step4)。
CPU11の指示により、レーザ発振器6は、指定された6kWの出力でレーザ光Lsを加工ヘッド2に供給する。また、アシストガス供給装置7は、アシストガスのガス圧Pnを、0.4〜0.6MPaの範囲内で維持する。また、駆動部3は加工プログラムPGの指定経路にレーザ光Lsが照射されるよう加工ヘッド2及びワークWを相対移動させてワークWの切断加工を実行する(Step5)。
【0050】
図12及び
図13は、アシストガスAGの消費量を破線で示したグラフである。
図12は、従来のCO
2レーザにおける消費量を示している。
図13は、ファイバレーザ光を発振するレーザ発振器6及び記憶部12に格納されたノズル選択テーブルTnを用いて、ノズルを選択使用する加工方法におけるアシストガスAGの消費量を示している。
【0051】
上述のレーザ加工方法によれば、板厚tが6mm以上のSUS304の板材に対し、それぞれの板厚tに応じた開口径Dを有するノズルを用いることで、0.4〜0.6MPaの比較的低いアシストガスAGのガス圧Pnで高速の良切断が可能になる。そして、板厚tに応じ、少ないアシストガスAGで良切断を可能とする開口径Dのノズルを特定できるノズル選択テーブルTnを予め用意し、そのノズル選択テーブルTnを切断加工に際し参照することで、切断加工に最適なノズルを、容易に選択使用できる。
このように、実施例のレーザ加工装置51及びレーザ加工方法によれば、
図13に示されるように、厚板のワークWのレーザ光による切断を、アシストガスAGの消費量を少なく低コストで行うことができる。
【0052】
上述のレーザ加工方法における切断は、ギャップGpを固定条件Aに含め、ギャップGp=0.3mm一定とした場合を説明した。
更に、発明者は、ギャップGpをパラメータとした実験を行い、ドロス高さ及びアシストガス消費量が、ギャップGpに少なからず依存することを明らかにしたので、
図14〜
図16を参照して説明する。
【0053】
図14〜
図16は、それぞれ板厚tが6mm,12mm,20mmのSUS304材の切断において、ガス圧Pn(横軸)と、最大切断速度Vmax(左縦軸)及びドロス高さ(右縦軸)と、の関係を、3種のギャップGpで示したグラフである。3種のギャップGpは、0.3mm,0.5mm,0.7mmである。
【0054】
まず、板厚tが6mmの場合を示す
図14によれば、ガス圧Pnが0.4MPaにおいて、ギャップGpが0.7mmの場合のドロス高さが他の場合よりも高く、良切断ができず切断性が劣化することがわかる。
また、ガス圧Pnが0.6MPaにおいて、ギャップGp違いによる切断性の差は認められず、良切断が実行される。
一方、ガス圧Pnが0.8MPaにおいて、ギャップGpが0.3mmの場合、ドロス高さが他の場合よりも高く、良切断ができず切断性が劣化することがわかる。
さらに、ガス圧Pnが1.0MPa以上において、いずれのギャップにおいても、良切断は実行できないことがわかる。
最大切断速度Vmaxは、ギャップGpによらず、0.4〜1.2MPaすべての範囲で8500〜9000mm/minが得られる。
【0055】
板厚tが12mmの場合を示す
図15によれば、ガス圧Pnが0.4〜0.6MPaの範囲では、ギャップGpが0.7mmの場合のドロス高さが、他の場合よりも高く、良切断ができず切断性が劣化することがわかる。
一方、ガス圧Pnが0.8MPa以上の範囲で切断性は逆転する傾向を示している。また、ギャップGpが0.7mmの場合、ガス圧Pnが0.8MPaでドロス高さはギャップGpが0.3mmの場合よりも低く良切断可能となる。また、1.0MPa以上でドロス高さは他の2種のギャップの場合よりも低くなって、良切断が可能で切断性が良化することがわかる。
また、最大切断速度Vmaxは、ギャップ違いでの差は大きくないものの、ギャップGpが0.7mmの場合、ガス圧Pnによらず3種のギャップのなかでの最大値を維持することがわかる。
【0056】
板厚tが20mmの場合を示す
図16によれば、ガス圧Pnが0.4MPaにおいて、ギャップGpが0.5mm及び0.7mmの場合、ドロス高さが、0.3mmの場合よりも高く、特に0.7mmの場合は良切断ができず切断性が劣化することがわかる。
一方、ガス圧Pnが0.6MPa以上では、ギャップGp間でドロス高さに顕著な差はなく良切断が可能となることがわかる。
また、最大切断速度Vmaxは、ガス圧Pnが0.4〜1.2MPaの範囲内でギャップGp間の顕著な差はなく、ガス圧Pnが大きくなるほど低下する傾向が認められる。
【0057】
図14〜
図16から、ギャップGpが大きいほど、良切断が可能なガス圧Pnの最大値が大きくなる傾向にあることが把握される。
そして、ガス圧Pnが0.4〜0.8MPaの範囲においては、良切断が得られない板厚tであっても、ギャップGpを例えば1段階大きく(広く)することで、良切断できる可能性のあることがわかる。また、仮にギャップGpをこのように大きくした場合に、微調整として切断速度を下げガス圧Pnを上げる操作が必要になったとしても、0.6MPa以下の場合と遜色のない高速で実行できることは、
図14〜
図16での説明のように明らかである。従って、ギャップGpを大きくした場合に、アシストガス消費量Qが、ガス圧Pnが1MPaを超える場合と比べて少なくて済むことも期待できる。
【0058】
具体的に
図4〜
図6を参照して説明した例を踏まえて説明する。
ガス圧Pnを、ガス消費量を少なくすべく低く設定した切断加工において(例えばガス圧Pn=0.4〜0.6MPa)、特定の板厚(例えば板厚t=12mm)で良切断が難しい場合、その板厚の加工時にギャップGpを大きくし、ガス圧Pnを上げることで良切断が可能になる。例えば、ギャップGpを0.3mmから0.5mmにし、ガス圧Pnを0.4〜0.6MPaから0.8MPaにする。
【0059】
図17は、3種(0.3mm,0.5mm,0.7mm)のギャップGpについて、ガス圧Pn(横軸)とアシストガス消費量Q(縦軸)との関係を示すグラフである。ノズル2bの開口径Dは7mmである。
図17から、アシストガス消費量Qは、ガス圧Pnが大きいほど多くなり、いずれのガス圧Pnにおいても、ギャップGpが大きいほど多くなることがわかる。
ギャップGpが小さい(狭い)と、ノズル2bから噴出するアシストガスが受けるワークWによる抵抗が大きく、本体部2a内のガス圧Pnが同じであっても噴出するガスの量が抑えられ消費量が抑制すると考えられる。
従って、アシストガス消費量Qの観点からは、ギャップGpは小さい(狭い)方が好ましい。
【0060】
この結果から、ギャップGpが0.7mm以上での切断は、ガス圧Pnを0.4〜0.6MPaよりも高くすることで、高速で良切断を行うことができるが、アシストガス消費量Qが他の2種の小さいギャップGpのときよりも増える。
従って、ギャップGpに関しての、アシストガス消費量Qの低減最適化観点では、次例のような設定方法が有効である。
すなわち、倣い制御部13は、通常のギャップGpを0.3〜0.5mm程度に小さく設定し、駆動部3を制御する。そして、ワークWの表面Waの局部的にうねりが大きい部位を切断する場合に、倣い移動におけるワークWとノズル2bとの接触の可能性を低減すべく、一時的にギャップGpを大きくするよう駆動部3の上下動作を制御する。
【0061】
また、発明者は、インナノズル部2bbの先端部2bb1と、アウタノズル部2baの先端部2b1との軸線CL2方向の距離であるノズル段差Hnをパラメータとした実験を行った。
その結果、ノズル段差Hnと、ドロス高さ(μm)及び良切断となるレーザ光の焦点距離の幅である良好切断焦点幅(mm)との関係が明らかになったので、
図18〜
図22を参照して説明する。
図18〜
図22は、材質又は板厚が異なる5種類のワークWにおける結果である。便宜的に、良好切断焦点幅を棒線で示し、ドロス高さを折れ線で示している。
図18は、熱間圧延鋼板(SPH)の板厚4.5mm、
図19は、一般構造用圧延鋼板(SS400)の厚さ9.0mm、
図20〜
図23は、それぞれステンレス鋼(SUS304)の板厚8.0mm,12.0mm,16.0mmでの結果である。
各図の横軸となるノズル段差Hnは、0mm(段差なし)と、段差有りの1mm,3mm,5.5mmとの合計で4種で実験を行った。
良好切断焦点幅は、値が大きいほど焦点調節に余裕が生じるので、加工動作の容易性の観点で好ましい。
【0062】
図18に示されるSPH材(板厚4.5mm)の結果において、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnが5.5mmの場合、3mm以下の場合よりも大きい値が得られる。一方、ドロス高さについては、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも、1mm以上の場合の方が低くなる。
良好切断焦点幅が大きいほど、次のメリットが得られる。
レーザ加工装置の製造者が加工現場に提供する加工条件の基となる加工環境と、実際の加工現場における手配材料及び設置機械などを含む加工環境と、に多少の差異がある場合、製造者が推奨するレーザ光の焦点位置に対し、加工現場での実際のレーザ加工の焦点位置が多少ずれる場合が想定される。この場合でも、ワークWを良好に切断できる焦点位置の幅(範囲)である良好切断焦点幅が大きければ(広ければ)、他の条件を調整することなくワークWを良好に切断できる。
【0063】
図19に示されるSS材(板厚9.0mm)の結果では、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも1mm以上の場合の方が大きい値が得られる。一方、ドロス高さについては、ノズル段差Hnが5.5mmの場合、3mm以下の場合よりも低くなる。
【0064】
図20に示されるSUS材(板厚8.0mm)の結果では、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも1mm以上の場合の方が大きい値が得られる。一方、ドロス高さについては、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも、1mm以上の場合の方が低くなる。
【0065】
図21に示されるSUS材(板厚12.0mm)の結果では、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも1mm以上の場合の方が大きい値が得られる。一方、ドロス高さについては、ノズル段差Hnによる顕著な違いは認められない。
【0066】
図22に示されるSUS材(板厚16.0mm)の結果では、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnが0(ゼロ)の場合よりも1mm以上の場合の方が大きい値が得られる。一方、ドロス高さについては、ノズル段差Hnが5.5mmの場合、3mm以下の場合よりも低くなる。
【0067】
図18〜
図22に示された各種材料を用いた結果から、良好切断焦点幅については、ノズル段差Hnを1mm以上とすることは、いずれの結果においても、ノズル段差Hnがない0(ゼロ)mmの場合と比較して同等以上の値が得られるので、好ましい。
特に、ノズル段差Hnを5.5mmにすることは、いずれの結果においても、3mm以下とした場合と比べて同等以上の値が得られるので、より好ましい。
【0068】
ドロス高さについては、ノズル段差Hnが0(ゼロ)mmの場合と1mm以上とした場合との比較では、全結果について共通の傾向は認められない。
一方、ノズル段差Hnを5.5mmとした場合は、3mm以下とした場合と比べて同等以下の低さとなり、好ましい。
以上の結果から、ノズル段差Hnを0(ゼロ)ではなく少なくとも1mm以上に設定することは、好ましく、さらに、5.5mmに設定することは、より好ましいことが判明した。
【0069】
以上詳述した切断加工条件での切断加工手順は、実験に供したSUS材,SPH材,SS材はもとより、SPCC(冷間圧延鋼板)材を含むいわゆる鉄系材料において同様に実行でき、同様の効果が得られる。
また、レーザ発振器6は、ファイバレーザに限らず、ファイバレーザの波長と同様に、波長がCO
2レーザの約1/10程度のダイレクトダイオードレーザであってもよく、ファイバレーザの場合と同様の効果が得られる。
【0070】
図4〜
図6を参照して説明したドロス高さの実験結果において、ガス圧Pnが高くなるほど、最大切断速度Vmaxが低下しドロス高さが増す傾向にある。
【0071】
ここでドロスのクーラント効果を考慮すると、ガス圧Pnが高くなるほどアシストガスAGの流量及び流速が増加するため、カーフ内の溶融金属は、冷却が促進されて粘度が上昇しカーフから排出されにくくなる。
一方で、板厚tが厚いほど、カーフ内を貫流しようとするアシストガスAGの流れが妨げられるため、カーフ内のアシストガスAGによる冷却促進は抑制される。
【0072】
そのため、上述の条件での厚さが6mm〜20mmのワークWの切断において、ワークWの板厚tが薄いほど、カーフ内の溶融金属に対して冷却の促進よりもガス流の勢いによる排出が勝り、ドロス高さは抑制される。
一方、ワークWの板厚tが厚いほど、カーフ内の溶融金属に対して冷却の促進が抑制されるので、薄板の場合と同様にガス流の勢いによる溶融金属の排出が勝り、ドロス高さが抑制される。
これらから、ワークWが中間厚において、カーフ内の溶融金属の冷却がガス流による排出作用に勝り、溶融金属の粘度が上がってその排出が抑制され、ドロス高さが大きくなる場合のあることが推察される。
【0073】
予め行う実験で、切断対象のワーク板厚範囲においてこのようなドロス高さが極大となる範囲が存在することが確認できた場合、その極大となる範囲について、レーザ光Lsの出力Mを大きくする、或いは
図14を参照して説明したようにガス圧Pnを大きくして良切断を可能にする、という設定が可能である。
【0074】
上述において、レーザ加工装置51のアシストガス供給装置7は、アシストガスAGとして、窒素ガスのボンベから99.999%の窒素ガスを供給するものとした。
これ以外に、窒素ガスを、大気などからフィルタなどを通して精製し供給してもよく、この場合、アシストガスAGに任意割合の(例えば数パーセントの)酸素を含ませることができる。
【0075】
例えば数パーセントの酸素を含有する窒素リッチのアシストガスAGaを、レーザ光Lsと共に使用して軟鋼を切断すれば、切断時に酸化反応熱が発生する。この酸化反応熱は、アシストガスAGaの流れによる溶融金属の奪熱(冷却)を抑制するように作用するので、溶融金属の粘度上昇を抑制し、カーフ外への排出が促進されてドロス高さが低くなる、と考えられる。
すなわち、
図4〜
図6を参照して説明した良切断加工を、ガス圧Pnが0.8MPa以上の領域においても行うことが可能になる。
【0076】
レーザ加工装置51は、アシストガスAGのガス圧Pnが少なくとも0.4〜0.6MPaで、鉄系厚板材のレーザ切断加工が良切断として可能である。また、ワークWの板厚に応じてギャップGpを選択調整する場合は、少なくとも0.4〜0.8MPaで、鉄系厚板材のレーザ切断加工が良切断として可能である。
0.4〜0.6MPaのガス圧は、一般に、ピアス加工でのガス圧と同等であるため、従来、ピアス加工に対し高圧に切り換えて行っていた切断加工を、ピアス加工と同等のガス圧で実行可能となっている。
すなわち、従来、ピアス加工と切断加工との切り換えで行っていたガス圧Pnの昇降切り換えを行う必要がない。これにより、ガス圧Pnの高低切り換えに伴うガス圧静定時間がなくなって切断加工効率が向上する。
【0077】
本発明の実施例1は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0078】
ノズル2bの種類は、ダブルノズルに限定されず、シングルノズルであってもよい。開口部2b2が先端部2b1近傍で急峻に拡径せず、円筒又は円筒に近く緩やかに径変化する空間Vaが形成されていれば、
図23(a)〜(e)に例示される種々の形状のノズルを用いて同様の効果を得ることができる。
また、一般にダブルノズルの方がシングルノズルよりもアシストガスAGの消費量が少ないので、ノズル2bとしてダブルノズルを用いることは好ましい。
【0079】
切断性の良否判定を、ドロス高さの大小で行うことを説明したが、これに限定されない。例えば、切断面の表面粗さの大小で判定してもよい。
【0080】
レーザ加工装置51は、ノズルチェンジャ8を備えていなくてもよい。
この場合、ノズル選択部14は、使用するノズルの番号を、情報出力部15(
図1参照)から音声又は画像で出力し、使用者の手作業によるノズル交換を促す。
もちろん、ノズルチェンジャ8によるノズル2bの自動交換が可能な場合においても、情報出力部15から、使用するノズルの番号などのノズルを特定する情報を外部に出力することは好ましい。
【0081】
次に、上述のノズル2bと同じノズルA2bを用いると共にアシストガスAGを窒素リッチガスのアシストガスAAGとして良切断が可能となる例を実施例2として説明する。
【0082】
(実施例2)
本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法の実施例2として、レーザ加工装置A51及びそれを用いて行うレーザ加工方法により説明する。
【0083】
図24は、レーザ加工装置A51の概略全体構成を示す図である。
レーザ加工装置A51は、ワークテーブルA1,加工ヘッドA2,駆動部A3,及び制御装置A5を備えている。
ワークテーブル1には、板材のワークAWが載置される。加工ヘッドA2は、ワークテーブルA1上に載置された板材のワークAWに対しレーザ光ALsを照射する。駆動部A3は、ワークテーブルA1及び加工ヘッドA2の少なくとも一方を移動させて両者の3次元的相対位置を変化させる。制御装置A5は、加工ヘッドA2及び駆動部A3の動作を制御する。
【0084】
また、レーザ加工装置A51は、レーザ発振器A6及びアシストガス供給装置A7を備えている。
レーザ発振器A6は、ファイバレーザのレーザ光ALsを加工ヘッドA2に供給する。
レーザ発振器A6は、波長900nm〜1100nmのいわゆる1μm帯のレーザ光を生成出力するものであればファイバレーザに限定されず、DDL(ダイレクトダイオードレーザ)やディスクレーザであってもよい。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザ光を出力し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザ光を出力する。
アシストガス供給装置A7は、加工ヘッドA2にアシストガスAAGとして窒素リッチガスAAG1を供給する。
アシストガス供給装置A7は、例えば、気体分離膜である中空糸膜のフィルタを用いた気体分離ユニットA7aを有し、アシストガスAAGとして窒素リッチガスAAG1を出力する周知構造のガス供給装置である。
【0085】
加工ヘッドA2は、本体部A2a,ノズルA2b,及びセンサA4を備えている。
本体部A2aは、動作状態において、上下方向(鉛直方向)に延びる軸線CL2を軸とする筒状を呈する。ノズルA2bは、本体部A2aの下端に着脱自在に取り付けられている。センサA4は、ノズルA2bの下方の先端部A2b1とワークテーブルA1上に載置されたワークAWの表面AWaとの距離であるノズルギャップAGp(以下、単にギャップAGpと称する)を測定する。
ノズルA2bは、実施例1において説明したノズル2bと同じものであり、実施例に応じ、便宜的に異なる符号を付与してある。
なお、実施例2のノズルA2bは、ノズル2bとは異なるシングルノズルのものであってもよい。これは、実施例2のアシストガスAAGが酸素を含む窒素リッチガスAAG1であり、ワークAWを切断する際に、鉄と酸素との反応熱が切断に寄与してアシストガスAAGの流れが単にワークAWを冷却するのみではないことによる。
【0086】
制御装置A5は、中央処理装置(CPU)A11,記憶部A12,及び倣い制御部A13を含んで構成されている。
【0087】
ワークAWを切断加工するための加工プログラムAPGは、通信インターフェース(不図示)などを介して外部から供給され、記憶部A12に格納される。
中央処理装置A11は、切断加工において、加工プログラムAPGにより規定される切断経路に沿ってレーザ光ALsがワークWに照射されるように、レーザ発振器A6及び駆動部A3の動作を制御する。
レーザ光ALsは、ノズルA2bの先端部A2b1に形成された開口部A2b2(照射口)を通って軸線ACL2上に下方へ射出される。以下、この開口部A2b2の内径を、開口径ADと称する。
ノズルA2bにおける先端部A2b1,開口部A2b2,及び開口径ADは、それぞれ実施例1で説明したノズル2bにおける先端部2b1,開口部2b2,及び開口径Dに対応する。
【0088】
レーザ光ALsによる切断加工をアシストガスAAGの併用で行う場合、中央処理装置A11は、アシストガス供給装置A7によるアシストガスAAGの供給動作を制御する。
アシストガスAAGは、軸線ACL2を含む所定の横断面形状の流束として(例えば円形断面の流束)、所望のガス圧で、ノズルA2bにおける先端部A2b1の開口部A2b2から下方に噴射される。ここで、ガス圧は、例えば加工ヘッドA2の本体部A2a内の圧力として、制御装置A5により制御される。
【0089】
図25は、アシストガス供給装置A7の構成を示す図である。
アシストガス供給装置A7は、流路上流側(
図25における右側)から、塵埃除去フィルタA7b,気体分離ユニットA7a,及び電磁開閉弁A7cを有する。
塵埃除去フィルタA7bは、例えば工場内に敷設され、洗浄などに用いる1MPa程度の圧縮空気ラインAPに接続され、流入する高圧空気に混在している塵埃を除去する。
塵埃が除去された高圧空気は、気体分離ユニットA7aの入力口A7a1に流入する。
アシストガス供給装置A7に供給する圧縮空気は、圧縮空気ラインAPから供給されるものに限らず、例えば、圧縮空気ラインAPに対し独立設置した、いわゆる別置きのコンプレッサから供給されるものであってもよい。
【0090】
気体分離ユニットA7aは、例えば、気体分離膜である中空糸膜フィルタを有し、分子のサイズ違いを利用して空気から酸素を分離する。これにより、酸素が除かれた窒素リッチガスAG1が出力口A7a2から流出する。また、中空糸膜フィルタによって分離された酸素リッチガスAG2が出力口A7a3から流出する。
通常、中空糸膜フィルタを用いて分離生成される窒素リッチガスAG1の窒素濃度は、圧縮空気の供給圧力や中空糸膜フィルタの経年劣化にもよるが、90%以上〜99.5%未満(体積比率)であり、残りの大部分は、概ね、分離しきれなかった酸素である。すなわち、窒素リッチガスAG1において、酸素は、濃度が少なくとも0.5%以上かつ10%未満の範囲の値として含まれる。
【0091】
窒素の濃度範囲は、使用時間の経過に伴うフィルタの分離機能低下を考慮したものであって、この範囲の中で使用時間に伴い低下する。すなわち90%に低下した時点で中空糸膜フィルタの寿命とする。
窒素リッチガスAG1は、窒素ボンベ由来の、99.999%以上の高純度の窒素ガスに比べて酸素ガスの混合比率が十分高いため、窒素と酸素との混合ガスと見なせる。そこで、窒素リッチガスAG1は、以下、混合ガスAG1とも称する。
また、アシストガス供給装置A7は、窒素リッチガスを生成出力するものであるから、窒素リッチガス発生装置として機能する。
窒素と酸素との混合ガスを精製する方法は、窒素ボンベと、大気又は酸素ボンベと、を使い混合する方法や、PSA(Pressure Swing Adsorption)法によって窒素リッチガスを得て、大気又は酸素ボンベからの酸素と混合する方法もとり得る。これらの場合、高価な窒素ボンベやPSA装置が必要となるが、少なくとも本発明の加工方法で用いるアシストガスのガス圧は、後述のように1.0MPa以下の低圧で使用するため、従来の高価な窒素を1.0MPaを超える高圧で使用する加工方法に対し、アシストガスの消費コストは低くなる。
【0092】
図25において、出力口A7a2から流出した混合ガスAG1は、電磁開閉弁A7cを経て、加工ヘッドA2の本体部A2aに供給される。
電磁開閉弁A7cの開閉動作は、制御装置A5によって制御される。
【0093】
レーザ加工装置A51におけるアシストガス供給装置A7は、工場などにおいて一般的に敷設された圧縮空気ラインAPからの1.0MPa程度の高圧空気を得て窒素リッチの混合ガスAG1を生成し、昇圧せずにノズルA2bの開口部A2b2から噴射させる。圧縮空気ラインAPにおける空気圧に対し、気体分離ユニットA7aを通過した混合ガスAG1の圧力は低下し、1.0MPa以下になっている。
【0094】
上述からわかるように、アシストガスAAGを、窒素ボンベを用いることなく空気から生成した窒素リッチの混合ガスAG1とし、さらに、生成した混合ガスAG1を1.0MPa未満のガス圧で噴射する。これにより良好な切断品質でのレーザ切断加工が可能であれば、高価なボンベは不要であり、かつガス圧が低く噴射量が少なくて済むので、レーザ切断加工は低コストとなる。
【0095】
そこで、アシストガスAAGを、アシストガス供給装置A7によって空気から生成した混合ガスAG1として併用し、従来よりも十分低圧の0.6MPのガス圧で、鉄系の板材を良好切断可能な条件が見いだせるか否か、を実験で確認した。また、切断可能な条件が見いだせた場合の切断性及び切断性が最適となる切断速度である最適切断速度AV(m/min)を評価した。
【0096】
実験に用いた板材の板厚At及び材質、並びに固定する加工条件は次のとおりである。
板厚At:1.6mm,3.2mm,4.5mm,6.0mm,9.0mm の5種
材質 :SPH(熱間圧延鋼板)
<固定加工条件>
ガス圧:0.6MPa
レーザ光の出力AM:6kW
ノズル段差Hn(
図2参照):5.5mm
ギャップAGp:0.3mm
【0097】
切断性は、ワークAWの切断部における、ノズルA2bとは反対側の面から突出するドロスの最大高さ(ドロス高さ)で評価した。良劣は、ドロス高さが製品として求められる、予め設定した所定の基準値以下となる場合を良とし、以下、切断性が良となる切断を、この例でも良切断と称する。
【0098】
実験の結果、板厚Atに応じた開口径ADのノズルA2bを選択することで、上記の各板厚AtのワークAWを良切断できることが明らかになった。
板厚Atと、その板厚を良切断可能なノズルA2bの開口径ADと、の関係は、次のとおりである。
(板厚At) (開口径AD)
1.6mm 4mm
3.2mm〜6.0mm 7mm
9.0mm 10mm
さらに、この条件で、各板厚Atにおいて切断性が最も優れたものとなる最適切断速度AV(m/min)を求め、加工する板材の板厚Atを横軸、最適切断速度AVを縦軸として
図26の実線のグラフを得た。
【0099】
図26には、比較実験として、アシストガスAAGを従来の窒素ボンベ由来の純度99.999%以上の窒素ガスとし、窒素ガスにおいて良切断となるよう板厚Atに応じて設定された既知の標準条件で同じ材料を切断した場合の、板厚Atと最適切断速度AVとの関係を、破線で示してある。レーザ光の出力AMは、混合ガスAG1の場合と同じ6kWである。
【0100】
アシストガスAAGを窒素ガスとした場合の、レーザ切断加工での標準条件は次のとおりである。
<標準条件>
(板厚At) (開口径AD) (ガス圧)
1.6mm 2.0mm 1.2MPa
3.2mm 2.5mm 1.8MPa
4.5mm,6.0mm 4.0mm 1.6MPa
9.0mm 7.0mm 1.5MPa
レーザ光の出力AM:6kW
【0101】
図26から明らかなように、板厚Atが1.2〜9.0mmの範囲で、アシストガスAAGを混合ガスAG1とした切断加工の方が、窒素ガスとした場合よりも最適切断速度が高速で良好な切断性が得られることがわかった。
【0102】
同じガス圧において最適切断速度が速いと、所定経路の切断加工を短時間で実行できるので、アシストガスAAGの消費量は少なくなる。
比較実験のガス圧が最低でも1.2MPaであることに対し、この実験の混合ガスAG1のガス圧は半分以下の0.6MPaである。そのため、アシストガスAAGを混合ガスAG1とした場合の消費量は、窒素ガスとした場合よりも顕著に少ないことは明らかである。
【0103】
図27は、最適切断速度AVにおける各板厚でのドロス高さを、混合ガスAG1の場合及び比較としての窒素ガスの場合について示したグラフである。
図27に示されるように、板厚Atが1.6〜9.0mmの全範囲において、混合ガスAG1の場合のドロス高さが窒素ガスのドロス高さ以下となっており、切断性に優れていることがわかる。
特に、ドロス高さがほぼ同等の板厚4.5mmの場合を除き、混合ガスAG1のドロス高さは、窒素ガスの場合の約半分程度であり、極めて良好な切断性が得られることが明らかとなった。
【0104】
アシストガスAAGを混合ガスAG1とした場合、窒素ガスとした場合に比べて、低いガス圧、高速の切断、低いドロス高さ、で加工できる理由は、上記実験の切断面観察などから次のように推察された。
混合ガスAG1の酸素の体積比率が0.5%以上あると、切断部位に顕著な酸化反応が生じ、その反応熱によってカーフ内の溶融金属の粘度が低下して溶融範囲が更に拡張する。
カーフ内の溶融範囲が拡張することで、溶融金属の総量は増えるが、レーザ光のみで加熱される場合よりも、酸化反応熱による加熱効果が融解金属の粘度が低下させることに寄与し、アシストガスAAGが低圧の噴流であっても、溶融金属はカーフ外へ排出される。これにより、切断速度の高速化が図られる。
【0105】
また、カーフ内の溶融範囲の拡張によってカーフ幅が広がり、アシストガスAAG噴流がカーフ内部で受ける抵抗が低減する。
これにより、より低いガス圧でもカーフ内にアシストガスAAGを貫流させることが可能になると共に、カーフ内の溶融金属の排出が維持され、結果として1.0MPa以下の低ガス圧化が図られると共に、ドロス高さの低下が図られる。
つまり、板厚領域が中厚板材及び厚板材のSPH材(熱間圧延鋼板)の切断加工を、アシストガスAAGを窒素リッチである混合ガスAG1とし、アシストガスAAGのガス圧を1MPa以下とし、ノズル2bとして開口径ADが標準条件よりも大きいノズルを用いて実行すると、標準条件の場合と比較して、切断速度が向上し、ドロス高さが低減する効果が得られる、ということである。
【0106】
本発明の実施例2は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0107】
上述のレーザ加工方法では、切断性をドロス高さで評価する例を説明したが、ドロス高さのみに限定されるものではない。ドロス高さの大小の他に、切断面の面粗さなどの他の項目の優劣を組み合わせて総合的に評価してもよい。
上述のレーザ加工方法では、被切断材としてSPHの板材を用いた例を説明したが、SPC(冷間圧延鋼板)やステンレス鋼などを含む鉄系材料に対し同様に適用でき同様の効果が得られる。
ガス圧は、0.6MPaでの例を説明したが、1.0MPa以下の少なくとも0.6MPa以上の範囲で、同様の効果が得られる。
制御装置A5は、レーザ加工装置A51に備えられていなくてもよい。例えば、制御装置A5を別体としてレーザ加工装置A51の近傍又は遠隔位置に配置し、レーザ加工装置A51に対し、無線又は有線で通信可能なものとしてもよい。
【0108】
レーザ加工装置A51は、次の構成を有するものとしてもよい。
すなわち、レーザ加工装置A51は、波長が1μm帯のレーザ光を生成出力するレーザ発振器A6と、酸素濃度0.5%以上かつ10%未満の範囲の値の窒素リッチガスAG1を生成出力する窒素リッチガス発生装置であるアシストガス供給装置A7と、を有する。
レーザ加工装置A51は、さらに所定の板厚Atに対するノズルA2bの開口径ADを設定し、予め把握した加工条件を、板厚At毎に記憶する記憶部A12を有する。
記憶する加工条件には最適切断速度AVを含む。最適切断速度AVは、次のように決められる速度である。
すなわち、アシストガス供給装置A7からの酸素濃度0.5%以上かつ10%未満の範囲の値の窒素リッチガスAG1をアシストガスAGとし、鉄系板材のワークAWを、アシストガスAGを1.0MPa以下のガス圧で噴射しレーザ光ALsで切断したときに、切断可能かつ最も切断性に優れる速度である。
そして、レーザ加工装置A51は、記憶部A12に記憶された加工条件のなかから、次に加工する板厚Atに対応する加工条件を選択し、選択された加工条件に基づいて、レーザ発振器6,アシストガス供給装置A7,及び加工ヘッドA2の動作を制御する制御装置A5を、備える。