特許第6696688号(P6696688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696688
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】列車制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   B60L15/40 E
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-41195(P2016-41195)
(22)【出願日】2016年3月3日
(65)【公開番号】特開2017-158364(P2017-158364A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 純子
(72)【発明者】
【氏名】射場 智
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽平
(72)【発明者】
【氏名】宮島 康行
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−098821(JP,A)
【文献】 特開2006−292625(JP,A)
【文献】 特開2010−098849(JP,A)
【文献】 特開2006−074876(JP,A)
【文献】 特開2016−019411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生ブレーキでブレーキ制御した時に参照する第1の減速情報と、空気ブレーキでブレーキ制御した時に参照する第2の減速情報と、を記憶する記憶部と、
列車において、前記空気ブレーキ及び前記回生ブレーキのうち作動しているブレーキを判定する判定部と、
前記列車の速度を検出する検出部と、
回生ブレーキ作動時は、ブレーキ指令が一定時間以上保持されている時に、前記第1の減速情報で示された減速度と、前記検出部で検出された前記列車の速度の減速度と、に基づいて、前記第1の減速情報で示された減速度と、前記列車の実際の減速度と、の違いを示した減速度合いを算出し、空気ブレーキ作動時は、前記検出部で検出された前記列車の速度の減速量と、前記ブレーキ指令に対応する前記第2の減速情報で示された減速度を所定時間で積分した値と、に基づいて、前記第2の減速情報で示された減速度と、前記列車の実際の減速度と、の違いを示した減速度合いを算出する減速度比率算出部と、
前記判定部による判定結果に応じて定められる、前記第1の減速情報、及び前記第2の減速情報のうちいずれか一方に対して、前記減速度比率算出部で算出された前記減速度合いに従って調整する調整部と、
前記判定部による判定結果に応じて定められる前記第1の減速情報及び前記第2の減速情報のうちいずれか一方と、前記列車の位置及び速度と、に基づいて、前記列車が目標位置で停止するように、前記列車のブレーキ指令を算出する制御指令算出部と、
を備える列車制御装置。
【請求項2】
さらに、前記判定部は、ブレーキを制御する制動制御装置から出力される信号に基づいて前記空気ブレーキ及び前記回生ブレーキのうち作動しているブレーキを判定する、
請求項に記載の列車制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、列車を駅などの目標位置に停止するための定位置停止制御を行う装置が導入されていく傾向にある。これにより、運転士の負担軽減や、ワンマン運転化による人件費削減や、運転士の技量によらず目標位置に停止させることが可能となるため遅延発生を防止することが可能となる。
【0003】
定位置停止制御を行う際には列車の減速特性に関する情報(減速特性モデル)を用いるが、列車の減速特性は、個体差や環境要因に応じて変動する傾向にある。このため、列車の減速特性に応じて減速特性モデルを調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−74876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、一定時間以上ブレーキ指令を保持して減速度が安定してから減速度推定を行い、ブレーキ指令に対応する規定の減速度と比較して減速特性モデルを調整している。このため、例えば、電空切替後の空気ブレーキの減速特性が強めに変動した場合、一定時間ブレーキ指令を保持すると、目標位置までの残距離に比べて速度が落ちすぎ、目標位置前に停止(ショート停車)したり、残りの行程を低速で進行することで目標位置に停止するまでの時間が延びたりする可能性がある。
【0006】
かといって、列車の位置と速度からショート停車が予測された時点でブレーキ指令を弱め始めると、ブレーキ指令に対応した減速度が安定するまでブレーキ指令を保持することができず、減速特性モデルの調整ができず、実際の減速特性とずれの生じたままの減速特性モデルに基づいてブレーキ指令を算出することになる。このため、適切なブレーキ指令を算出できずに停止位置精度が悪化する、という問題があった。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記に鑑みてなされたものであって、ブレーキ指令変更や電空切替の直後から減速特性の変動を検出することで、減速特性が変動しても停止位置精度や乗り心地の悪化を防ぐ列車制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の列車制御装置は、記憶部と、検出部と、減速度比率算出部と、調整部と、制御指令算出部と、を備える。記憶部は、回生ブレーキでブレーキ制御した時に参照する第1の減速情報と、空気ブレーキでブレーキ制御した時に参照する第2の減速情報と、を記憶する。検出部は、列車の速度を検出する。減速度比率算出部は、回生ブレーキ作動時は、ブレーキ指令が一定時間以上保持されている時に、第1の減速情報で示された減速度と、検出部で検出された列車の速度の減速度と、に基づいて、第1の減速情報で示された減速度と、列車の実際の減速度と、の違いを示した減速度合いを算出し、空気ブレーキ作動時は、検出部で検出された列車の速度の減速量と、ブレーキ指令に対応する第2の減速情報で示された減速度を所定時間で積分した値と、に基づいて、第2の減速情報で示された減速度と、列車の実際の減速度と、の違いを示した減速度合いを算出する。調整部は、判定部による判定結果に応じて定められる、第1の減速情報、及び第2の減速情報のうちいずれか一方に対して、減速度比率算出部で算出された減速度合いに従って調整する。制御指令算出部は、判定部による判定結果に応じて定められる第1の減速情報及び第2の減速情報のうちいずれか一方と、列車の位置及び速度と、に基づいて、列車が目標位置で停止するように、列車のブレーキ指令を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の車両制御システムの構成を例示した図である。
図2図2は、実施形態の減速特性モデルによる、ブレーキ指令に対応した減速度を例示した図である。
図3図3は、実施形態の回生ブレーキが作動している場合における、ブレーキ指令、減速度及び第1の減速特性モデルによる減速度との対応関係を例示した図である。
図4図4は、実施形態の空気ブレーキが作動している場合における、ブレーキ指令、速度及び第2の減速特性モデルによる減速度との対応関係を例示した図である。
図5図5は、実施形態の列車制御装置における停止制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に基づく実施例の列車制御システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の車両制御システムの構成を例示した図である。図1に示されるように車両制御システムは、列車1と、レール190と、ATC地上装置180と、で構成されている。
【0012】
レール190間には、地上子191が設けられている。地上子191は、地点情報を記憶し、列車1に設けられた車上子151との間で信号の送信を可能としている。
【0013】
ATC地上装置180は、レール(軌道回路)190を介して各閉塞区間の列車在線有無を検知し、在線状況に応じた信号現示を、レール190から受電器152を介してATC車上装置140に送信する。
【0014】
列車1には、TG(速度発電機)150と、モータ161と、空気ブレーキ装置160と、受電器152と、車上子151と、が設けられている。列車1は、モータ161と、空気ブレーキ装置160と、により車輪が駆動/制動されてレール190上を走行する。また、モータ161は、回生ブレーキとして制動可能とする。
【0015】
列車1内には、速度位置検出部120と、ATC車上装置140と、駆動/制動制御装置130と、列車制御装置100と、が設けられている。
【0016】
速度位置検出部120は、TG150から出力されたパルス信号や、地上子191から車上子151を介して受信した地点情報に基づいて、列車1の速度と位置を検出する。
【0017】
ATC車上装置140は、列車1の先行列車への衝突や脱線を抑止するためのブレーキ指令を駆動/制動制御装置130に出力する。ATC車上装置140は、ATC地上装置180からの信号現示を、受電器152を介して受信すると、この信号現示に基づく制限速度と、速度位置検出部120で検出した列車1の速度と、を比較し、列車1の速度が制限速度を超過している場合に、駆動/制動制御装置130にブレーキ指令を出力する。
【0018】
駆動/制動制御装置130は、ATC車上装置140からのブレーキ指令と、列車制御装置100からの力行指令・ブレーキ指令と、運転士が操作する主幹制御器(マスコン)からの力行指令・ブレーキ指令と、に基づいてモータ161と、空気ブレーキ装置160とを制御する。
【0019】
列車制御装置100は、条件記憶部101と、車両特性モデル記憶部102と、特性パラメータ記憶部103と、制御指令算出部104と、減速度比率算出部105と、特性パラメータ調整部106と、ブレーキ判定部107と、を備える。列車制御装置100は、上記の構成を用いて、列車1を駅の所定位置(停止目標位置)に停止させるためのブレーキ指令を算出し、駆動/制動制御装置130に出力する。さらに、列車制御装置100は、制限速度を守りながら駅間を走行させるための力行指令・ブレーキ指令を算出してもよい。
【0020】
条件記憶部101は、路線情報と、運行情報と、を記憶する。路線情報は、路線の勾配、曲線(曲率半径)、各閉塞区間の制限速度情報且つ閉塞長(閉塞区間の距離)、及び線形情報(閉塞区間の並び)を含んでいる。運行情報は、各駅の停止目標位置、及び運転種別ごとの停車駅と各駅間の所定走行時間を含んでいる。
【0021】
車両特性モデル記憶部102は、車両情報を記憶している。車両情報には、列車1の列車長、列車1の重量、力行指令・ブレーキ指令に対応した加速度・減速度の特性(加速特性モデルと減速特性モデル)、空気抵抗情報、勾配抵抗情報、曲線抵抗情報、及び電空切替開始速度・終了速度が含まれている。
【0022】
減速特性モデルは、各ブレーキ指令(ノッチ)に対応する規定の減速度、無駄時間、時定数を含み、ブレーキの種類毎に記憶されている。本実施形態では、回生ブレーキを掛けた場合に用いられる第1の減速特性モデルと、空気ブレーキを掛けた場合に用いられる第2の減速特性モデルと、を記憶している。第1の減速特性モデルは、後述する第1の特性パラメータと組み合わせることで、ブレーキ指令に従って、モータ161で回生ブレーキを掛けた場合の、応答遅れを考慮した列車1の減速度を導出できる。第2の減速特性モデルは、後述する第2の特性パラメータと組み合わせることで、ブレーキ指令に従って、空気ブレーキ装置160で空気ブレーキを掛けた場合の、応答遅れを考慮した列車1の減速度を導出できる。
【0023】
空気抵抗情報は、列車1の速度に基づいた空気抵抗による減速度を示した情報、勾配抵抗情報は、勾配に基づいた勾配抵抗による減速度を示した情報、曲線抵抗は、曲率に基づいた曲線抵抗による減速度を示した情報とする。
【0024】
特性パラメータ記憶部103は、回生ブレーキ及び空気ブレーキのそれぞれについて、特性パラメータを記憶する。特性パラメータは、車両特性モデル記憶部102に記憶されている減速特性モデルを、列車1の実際の減速特性に近づくように補正して利用するためのパラメータである。また、本実施形態では、回生ブレーキ用の第1の特性パラメータと、空気ブレーキ用の第2の特性パラメータと、を記憶している。
【0025】
本実施形態は、特性パラメータと減速特性モデルとを組み合わせた情報を、ブレーキを掛けた場合の列車の減速度を示した減速情報として用いた例について説明するが、減速情報を、特性パラメータと減速特性モデルとを組み合わせた場合に制限するものではない。例えば、車両特性モデル記憶部102から特性パラメータ記憶部103に減速特性モデルがコピーされ、特性パラメータ調整部106が、特性パラメータを調整する代わりに、コピーした減速特性モデルを直接調整して、調整した減速特性モデルのみにより列車の減速度を求めるようにしても良い。
【0026】
制御指令算出部104は、速度位置検出部120で検出した列車1の速度と位置と、条件記憶部101から読み出した路線情報及び運行情報と、車両特性モデル記憶部102から読み出した車両情報と、特性パラメータ記憶部103から読み出した特性パラメータと、に基づいて、列車1を停止目標位置に停止させるためのブレーキ指令を算出する。また、第1の減速特性モデルと第1の特性パラメータ、及び第2の減速特性モデルと第2の特性パラメータのうち、どちらを使用するかは、ブレーキ判定部107の判定結果に基づくものとする。このように、本実施形態の制御指令算出部104は、現在の列車1の速度及び位置と減速特性モデルと特性パラメータとに基づいて、路線情報及び運行情報に基づいた停止目標位置に列車1が停止するように、列車1のブレーキ指令を算出する。
【0027】
減速度比率算出部105は、ブレーキ指令に従ってブレーキを掛けている場合の、実際のブレーキによる減速度と、減速特性モデルに基づいて算出される減速度と、の違いを示した減速度比を算出する。本実施形態の減速度比率算出部105は、空気ブレーキ及び回生ブレーキのどちらが掛けられているのかに応じて、異なる手法で減速度比を算出する。なお、本実施形態は、列車1の勾配及び曲線及び空気抵抗を考慮して減速度比を算出するが、列車1の曲線抵抗は、必ずしも用いずとも良い。
【0028】
特性パラメータ調整部106は、ブレーキ指令を導出するための減速情報の一つであり、特性パラメータ記憶部103に記憶されている特性パラメータ(第1の特性パラメータ又は第2の特性パラメータ)を、減速度比率算出部105で算出された減速度比に応じて調整する。具体的には、特性パラメータ調整部106は、減速度比率算出部105により算出された減速度比を、特性パラメータに所定の割合で反映する。例えば、反映の割合が20%であって、特性パラメータの初期値が1倍(換言すれば、減速特性モデル通りの減速度が発生すると想定する)の時に、3制御周期で、減速度比率が0.9倍、0.98倍、0.93倍の順で算出された場合に、特性パラメータ調整部106は、特性パラメータを、1+(0.9−1)*0.2=0.98倍、0.98+(0.98−0.98)*0.2=0.98倍、0.98+(0.93−0.98)*0.2=0.97倍の順で調整する。本実施形態では、ブレーキ判定部107で回生ブレーキが作動中と判定されたときは第1の特性パラメータを調整し、空気ブレーキが作動中と判定されたときは第2の特性パラメータを調整する。
【0029】
なお、減速度比算出部105で算出する減速度比は、列車1の実際の減速度と、減速特性モデルに基づいて算出された列車1の減速度と、の違いを示した減速度合いの一例として示したものであって、例えば、比率の代わりに偏差で違いを示すようにしてもよい。その場合は、特性パラメータも減速度の偏差を示す指標として調整する。また、減速特性モデルの無駄時間や時定数についても、対応する特性パラメータを設け、減速度と同様に、減速度比算出部105での比率ないし偏差の算出と、特性パラメータ調整部106での特性パラメータの調整と、を行うようにしてもよい。
【0030】
ブレーキ判定部107は駆動/制動制御装置130からの回生有効信号に基づいて回生ブレーキと空気ブレーキのどちらが作動しているかを判定する。
【0031】
さらには、列車制御装置100が、制限速度に沿って駅間を走行するための目標速度算出部や、駅間を予め定められた時間で走行するための走行計画算出部を備え、制御指令算出部104が、目標速度や走行計画に従って列車を次駅まで走行させるための力行指令・ブレーキ指令を算出するようにしてもよい。
【0032】
次に、列車制御装置100による、列車1を停止目標位置に停止させる制御を説明する。列車1が駅間を走行し、次の到着駅に接近すると、制御指令算出部104は定位置停止制御を開始する。定位置停止制御が開始されるまでの走行においては、運転士がマスコンを操作して力行指令・ブレーキ指令を出力してもよいし、制限速度に沿って設定した目標速度に追従するように制御指令算出部104が力行指令・ブレーキ指令を算出してもよいし、走行計画に従って制御指令算出部104が力行指令・ブレーキ指令を算出してもよい。
【0033】
定位置停止制御の開始判断は、例えば、次停車駅の停止目標位置までの残距離が所定値以下になったり、速度位置検出部120の検出した列車1の速度と位置が目標減速パターンに接近したり、速度位置検出部120の検出した列車1の速度と位置と所定のブレーキ指令から予測される停止位置が停止目標位置に近くなったりしたか否かに基づいて行われる。
【0034】
定位置停止制御を開始した後、制御指令算出部104は、列車1を停止目標位置に停止させるためのブレーキ指令を算出する。例えば、制御指令算出部104は、列車1の速度が目標減速パターンに追従するようにブレーキ指令を算出したり、速度位置検出部120の検出した列車1の速度と位置と現在のブレーキ指令から予測される停止位置と、停止目標位置との差が小さくなるようにブレーキ指令を算出したりする。
【0035】
図2は、本実施形態の減速特性モデルにおけるブレーキ指令と、ブレーキ指令に対応した減速特性モデルによる減速度と、を例示した図である。減速特性モデルでは、減速度の変化を一次遅れ応答として表し、ブレーキ指令が変更されてからの時間t1に対応した減速度β1を算出することができる。
【0036】
ブレーキ指令が変更されると、減速度は、ブレーキ指令の変更から無駄時間t11を経過した後、変更後のブレーキ指令に対応する規定の減速度に向けて変化していく。無駄時間t11を経過した後から、減速度の変化量が変更後のブレーキ指令に対応する規定の減速度までの約63%に達するまでの時間が時定数t12である。各ブレーキ指令(ノッチ)に対応する規定の減速度、無駄時間t11、時定数t12は、設計仕様、または、特性測定試験での測定結果に基づいて算出した値を、減速特性モデルにあらかじめ設定しておく。減速特性モデルの減速度に特性パラメータを乗じることにより、実際のブレーキの利き具合を考慮した減速度を算出することができる。
【0037】
換言すると、減速特性モデル及び特性パラメータを用いることで、列車1のブレーキ指令に対応した減速度を算出できる。本実施形態の制御指令算出部104は、算出された減速度を考慮して、列車1を停止目標位置に停止させるためのブレーキ指令を算出する。これにより、停止目標位置への停止制御を実現できる。
【0038】
上述したように、本実施形態では、車両特性モデル記憶部102及び特性パラメータ記憶部103には、第1の減速特性モデルと第1の特性パラメータと、第2の減速特性モデルと第2の特性パラメータと、が記憶されている。本実施形態では、駆動/制動制御装置130から回生有効信号‘ON’が送信されてきた場合には、ブレーキ判定部107により回生ブレーキが作動していると判断され、制御指令算出部104が、第1の減速特性モデルと第1の特性パラメータを用いて、ブレーキ指令を算出する。一方、駆動/制動制御装置130から回生有効信号‘OFF’が送信されてきた場合には、ブレーキ判定部107により空気ブレーキが作動していると判断され、制御指令算出部104は、第2の減速特性モデルと第2の特性パラメータを用いて、ブレーキ指令を算出する。
【0039】
次に、ブレーキ指令に従ってブレーキを掛けた場合に行われる、特性パラメータの調整について説明する。まずは、回生ブレーキを掛けた場合に行われる第1の特性パラメータの調整について説明する。
【0040】
図3は、本実施形態の、回生ブレーキが作動している場合における、ブレーキ指令、列車1の速度から算出された減速度から各種抵抗(勾配抵抗、曲線抵抗、及び空気抵抗)による減速度を減算した値、及び第1の減速特性モデルによる減速度の対応関係を例示した図である。(1)に示されるブレーキ指令に従って、回生ブレーキを作動させた場合を示している。この場合に、(2)は、検出した列車1の速度に基づいて算出された減速度から各種抵抗(勾配抵抗、曲線抵抗、及び空気抵抗)による減速度を減算した値を示している。また、(3)は、(1)で示されたブレーキ指令に対応した、第1の減速特性モデルから算出された減速度を示している。
【0041】
本実施形態の減速度比率算出部105は、ブレーキ判定部107により回生ブレーキが作動していると判断された場合に、制御指令算出部104のブレーキ指令が一定時間以上保持されると減速度の変化が安定したと判断し、速度位置検出部120の検出した列車1の速度の推移から減速度を算出し、勾配抵抗、曲線抵抗、及び空気抵抗による減速度を減算して、保持されているブレーキ指令による減速度βtを算出する。さらに、減速度比率算出部105は、第1の減速特性モデルから、当該ブレーキ指令に対応する規定の減速度βmを抽出する。
【0042】
そして、減速度比率算出部105は、実際の速度に基づいた減速度βtと、第1の減速特性モデルに基づいた減速度βmと、の違いを示した比率(以下、減速度比)を算出する。
【0043】
そして、特性パラメータ調整部106は、ブレーキ判定部107により回生ブレーキが作動していると判断された時、減速度比率算出部105が算出した減速度比を、第1の特性パラメータに所定の割合で反映する調整を行う。回生ブレーキの特性の変動は、編成ごとの個体差や降雨などの環境要因によるものである。このため、ブレーキ指令が一定時間以上保持されて減速度が安定している間(図3のt2)、減速度比の算出と特性パラメータの調整を繰り返すことにより、降雨などの環境要因による減速特性の変動を吸収して実際の減速特性に近い減速特性モデル及び特性パラメータの組み合わせを得ることができる。また、定位置停止制御を繰り返すほど個体差による変動を吸収して実際の減速特性に近い減速特性モデル及び特性パラメータを得ることができる。
【0044】
そして、制御指令算出部104は、ブレーキ判定部107により回生ブレーキが作動していると判断された時、第1の減速特性モデルと、調整された第1の特性パラメータと、を用いて、出力しようとするブレーキ指令を出力した場合に列車に生ずるはずの減速度を算出する。すなわち、出力しようとするブレーキ指令(ノッチ)について、そのブレーキ指令に切り換えた場合の第1の減速特性モデルでの減速度を求め、特性パラメータ1(1.1倍、0.95倍、等)を乗じて、列車に生ずるはずの減速度を算出する。そして、制御指令算出部104は、算出された減速度と、列車1の位置、及び速度と、に基づいて、列車1が停止目標位置に停止するように出力すべきブレーキ指令を算出する。
【0045】
ところで、空気ブレーキは、回生ブレーキと比べて変動が大きく、発生もしやすい。このため、特に減速の後半で速度が落ちてから、空気ブレーキの減速度が大きめに振れた場合、特性パラメータを調整するために減速度の変化が安定するまでブレーキ指令を保持すると、停止目標位置までの残距離に比べて速度が落ちすぎてしまう可能性がある。このような場合、乗り心地が悪いだけでなく、ブレーキ指令を弱めても間に合わずにショート停車となったり、ブレーキ指令を緩解まで弱めて残りの行程を低速で進行することで駅間走行時間が延びたりする可能性がある。かといって、速度の落ち込みを軽減するために、ブレーキ指令を一定時間保持しないうちに弱くしていくと、特性パラメータの調整が行えず、列車1の実際の減速度と、減速特性モデル及び特性パラメータによる、ブレーキ指令に対応した減速度と、の間にずれが生じ、適切なブレーキ指令を算出できずに停止位置精度が低下する可能性がある。そこで、本実施形態では、回生ブレーキを用いた場合と、空気ブレーキを用いた場合とで、ブレーキの減速度合い(例えば、減速度比)の算出手法を異ならせることとした。
【0046】
具体的には、ブレーキ判定部107により空気ブレーキが作動していると判断された時、減速度比率算出部105は、空気ブレーキを掛けている間の所定時間における、速度位置検出部120で検出した列車1の速度の低減量と、ブレーキ指令に対応する第2の減速度特性モデルによる減速度を所定時間で積分した積分値と、に基づいて、減速度比を算出する。減速度比は、第2の減速度特性モデルによる減速度と、列車1の実際の減速度と、の違いを示したブレーキの減速度合いの一例とする。
【0047】
なお、本実施形態は、減速度合いとして、減速度の違いを比率として算出する例について説明するが、偏差など減速度の違い(ブレーキの減速度合い)を算出できる手法であれば良い。
【0048】
そして、本実施形態の特性パラメータ調整部106が、減速度比に基づいて、第2の特性パラメータを調整する。本実施形態では、当該手法により、ブレーキ指令に対応する減速度の変化が安定しているか否かにかかわらず、第2の特性パラメータの調整が可能となる。
【0049】
図4は、本実施形態の空気ブレーキが作動している場合における、ブレーキ指令、列車1の検出速度、及び第2の減速特性モデルによる減速度の対応関係を例示した図である。図4に示されるように、(1)に示されるブレーキ指令に従って、空気ブレーキ装置160で空気ブレーキを作動させた場合を示している。(2)は、(1)で示されたブレーキ指令に対応した第2の減速特性モデルから算出された減速度を示している。また、(3)は、速度位置検出部120で検出された列車1の速度を示している。
【0050】
ところで、速度位置検出部120により検出される列車1の速度は、ブレーキ指令と比べて、検出に要する時間等によるずれが生じる。そこで、本実施形態では、当該ずれを考慮して、実際の速度に基づく減速量と、第2の減速特性モデルから算出された減速度の積分値と、を比較する。具体的には、TGパルス数の移動平均処理により検出する速度の検出遅れt4秒だけ、第2の減速特性モデルから算出された減速度を積分する範囲を、実際の速度に基づく減速量を算出する範囲とずらす。
【0051】
本実施形態では、(2)に示されるように、減速度比率算出部105が、第2の減速特性モデル及び第2の特性パラメータから算出された、時間t3+t4(t4は検出遅れに相当する時間)秒前から時間t4秒前までの減速度を積分し、積分値として、当該所定時間(時間t3+t4秒前〜時間t4秒前)の減速量S1を算出する。
【0052】
(3)に示されるように、減速度比率算出部105が、時間t3秒前に検出された列車1の速度V1と、現時刻に検出された列車1の速度V2と、の差分である減速量dVを算出する。さらに、勾配抵抗・曲線抵抗による減速量と、空気抵抗による減速量と、を算出する。
【0053】
(4)は、条件記憶部101に記憶された路線情報及び速度位置検出部120により検出された列車位置に基づいて算出された、勾配抵抗・曲線抵抗による減速度を示している。(4)に示されるように、減速度比率算出部105は、時間t3+t4秒前から時間t4秒前までの列車1の位置に基づいて、条件記憶部101に記憶されている路線情報から、列車1が走行している勾配・曲線を読みだして、勾配抵抗・曲線抵抗を算出する。そして、減速度比率算出部105は、時間t3+t4秒前から時間t4秒前までの勾配抵抗・曲線抵抗による減速度を積分して、減速量S2を算出する。
【0054】
(5)は、速度位置検出部120により検出された列車1の速度に基づく空気抵抗情報に基づいて算出された空気抵抗による減速度を示している。減速度比率算出部105は、時間t3秒前から現時刻までの列車1の空気抵抗による減速度を積分して、減速量S3を算出する。
【0055】
そして、減速度比率算出部105は、(dV―S2−S3)/S1により、すなわち、所定期間における減速量から、勾配抵抗・曲線抵抗・空気抵抗による減速量を減算した値と、第2の減速特性モデルから算出された減速量を比較して、減速度比を算出する。なお、本実施形態では、空気ブレーキを掛けている間の所定時間をt3秒間に設定し、t3秒間で積分する例について説明したが、時間t3は、実施の態様に応じて適切な時間が設定される。
【0056】
特性パラメータ調整部106は、ブレーキ判定部107により空気ブレーキが作動していると判断された時、減速度比率算出部105により算出された減速度比を用いて、第2の特性パラメータを調整する。空気ブレーキの特性の変動は、弁作動に伴う圧縮空気の流量特性や制輪子が車輪踏面ないしブレーキディスクに押しつけられる時の摩擦力の変動によるものであり、空気ブレーキを掛ける度に減速度や応答速度が異なる傾向がある。このため、減速度が変化しているか否かに関わらず直前のブレーキの効き具合(減速度比)を算出し、当該効き具合(減速度比)を用いて、第2の特性パラメータを調整することで、実際の減速特性に近づけることができる。
【0057】
そして、制御指令算出部104は、ブレーキ判定部107により空気ブレーキが作動していると判断された時は、第2の減速特性モデルと、調整された第2の特性パラメータと、を用いて、出力しようとするブレーキ指令を出力した場合に列車に生ずるはずの減速度を算出する。すなわち、出力しようとするブレーキ指令(ノッチ)について、そのブレーキ指令に切り換えた場合の第2の減速特性モデルでの減速度を求め、特性パラメータ2(1.1倍、0.95倍、等)を乗じて、列車に生ずるはずの減速度を算出する。そして、制御指令算出部104は、算出された減速度と、列車1の位置、及び速度と、に基づいて、停止目標位置に停止するために出力すべきブレーキ指令を算出する。これにより、ブレーキ指令変更や電空切替の直後から減速特性の変動を検出し、適切なブレーキ指令を算出できるので、減速特性が変動しても停止位置精度や乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0058】
次に、列車制御装置100における停止制御手順について説明する。図5は、本実施形態の列車制御装置100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0059】
まず、制御指令算出部104は、速度位置検出部120で検出された列車1の速度と位置とに基づいて、停止制御を開始するか否かを判定する(S501)。停止制御を開始しないと判定した場合(S501:No)、再びS501から制御を行う。
【0060】
一方、制御指令算出部104は、停止制御を開始すると判定した場合(S501:Yes)、ブレーキ判定部107による判定結果から、空気ブレーキによる制御か否かを判定する(S502)。空気ブレーキではない、換言すれば回生ブレーキと判断した場合(S502:No)、減速度比率算出部105は、前制御周期までに出力されたブレーキ指令に対応する第1の減速特性モデルによる減速度と、検出された列車1の速度による減速度、空気抵抗による減速度、及び勾配抵抗・曲線抵抗による減速度と、に基づいて減速度比を算出する(S503)。
【0061】
そして、特性パラメータ調整部106が、算出された減速度比を所定の割合で反映することにより、第1の特性パラメータを調整する(S504)。その後、制御指令算出部104は、第1の減速特性モデル及び第1の特性パラメータを参照し、ブレーキ指令を算出する(S505)。そして、算出されたブレーキ指令は、駆動/制動制御装置130に出力される。その後、S509に遷移する。
【0062】
一方、制御指令算出部104が、ブレーキ判定部107による判定結果から、空気ブレーキによる制御であると判断した場合(S502:Yes)、減速度比率算出部104は、前制御周期までに出力されたブレーキ指令に対応する第2の減速特性モデルによる減速度の積分と、空気抵抗による減速度、及び勾配抵抗・曲線抵抗による減速度との積分と、検出された列車1の減速量に基づいて、減速度比を算出する(S506)。
【0063】
そして、特性パラメータ調整部106が、算出された減速度比を所定の割合で反映することにより、第2の特性パラメータを調整する(S507)。その後、制御指令算出部104は、第2の減速特性モデル及び第2の特性パラメータを参照し、ブレーキ指令を算出する(S508)。そして、算出されたブレーキ指令は、駆動/制動制御装置130に出力される。その後、S509に遷移する。
【0064】
制御指令算出部104は、列車1が停止したか否かを判定する(S509)。停止していないと判定した場合(S509:No)、再びS502から処理を開始する。一方、停止したと判定した場合(S509:Yes)、処理を終了する。
【0065】
本実施形態では、回生ブレーキと空気ブレーキとで減速度比の算出手法を異ならせる例について説明したが、減速度比の算出手法を異ならせることに制限するものではない。例えば、本実施形態で示した空気ブレーキ用の減速度比の算出手法を、回生ブレーキ等他のブレーキに適用しても良い。
【0066】
本実施形態の列車制御装置100においては、上述した構成を備えることで、減速度が安定するまでブレーキ指令を保持することなく、ブレーキ指令変更や電空切替の直後からブレーキの減速度合いを推定でき、適切なブレーキ指令を算出できるので、減速特性が変動しても停止位置精度や乗り心地の悪化を防ぐことができる。ひいては、運転士の技量によらず安定してホームドア位置に合わせて列車を停止させ、停止位置修正による遅延発生を防止することで、列車運行を安定化させることができ、停止制御を行う際の運転士の負担も軽減できる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1…列車、100…列車制御装置、101…条件記憶部、102…車両特性モデル記憶部、103…特性パラメータ記憶部、104…制御指令算出部、105…減速度比率算出部、106…特性パラメータ調整部、107…ブレーキ判定部、120…速度位置検出部、130…駆動/制動制御装置、140…ATC車上装置、151…車上子、152…受電器、160…空気ブレーキ装置、161…モータ、180…ATC地上装置、190…レール、191…地上子
図1
図2
図3
図4
図5