特許第6696712号(P6696712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696712
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】缶用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20200511BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20200511BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20200511BHJP
   C09D 161/04 20060101ALI20200511BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   C09D201/02
   C09D191/06
   C09D163/10
   C09D161/04
   C09D5/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-1054(P2016-1054)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-122155(P2017-122155A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】慶長 和明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】天木 慎吾
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−191180(JP,A)
【文献】 特開2012−184330(JP,A)
【文献】 特開2004−292467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂(A)、並びに、融点が35〜50℃未満のワックス(b1)、融点が60℃以上〜90℃未満のマイクロクリスタリンワックス(b2)及び平均粒子径が1〜15μmで融点が100℃〜160℃のワックス(b3)の少なくとも3種類のワックス(B)を含有する缶用塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)の固形分量100質量部を基準にして、ワックス(B)の合計量が0.3〜10質量部であり、ワックス(B)における、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の割合が、ワックス(b1)0.1〜5質量部、ワックス(b2)0.1〜5質量部及びワックス(b3)0.1〜5質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物。
【請求項2】
水酸基含有樹脂(A)の固形分100質量部を基準にして、フェノール樹脂(C)を0.5〜20質量部含有する請求項1に記載の缶用塗料組成物。
【請求項3】
ワックス(B)が、カルナバワックスを含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の缶用塗料組成物。
【請求項4】
ワックス(b1)が、ラノリンワックスである請求項1〜3のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物。
【請求項5】
ワックス(b3)が、ポリエチレンワックスである請求項1〜のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物。
【請求項6】
水酸基含有樹脂(A)が、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂である請求項1〜のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物。
【請求項7】
缶蓋用の水性塗料組成物である請求項1〜のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物。
【請求項8】
塗膜の表面粗度(Sa値)が0.38μm以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物を塗装して得られた缶蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性などが良好で、製蓋性に優れる缶用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には、例えば、アルミニウム、ティンフリースチール、ブリキなどの金属基材が用いられている。これらの金属基材を加工して得られた、缶、缶蓋及びタブの外面には、成形性、意匠性、金属表面保護を目的として塗膜が形成されている。特に、缶蓋の塗膜は、成形時の厳しい加工に耐えるため塗膜形成後にワックスを塗布し、加工時の金型による缶成形時の塗膜への影響を軽減する、いわゆるアウターワックスと呼ばれるワックスが塗膜に塗布された後、加工される。
【0003】
上記アウターワックスは、成形性の向上が得られるものの、ワックス塗布や缶蓋成形時の条件によって、金型にワックスが堆積し固化することで缶蓋のサイズに異常が発生したり、固化したワックスが金型から滑落して缶蓋に付着して仕上り性が低下することがあり、改善が求められていた。その改善のため、あらかじめワックスを塗料に含有させたインナーワックス型の缶用塗料が開発されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、顔料、顔料分散樹脂及びバインダー樹脂を含有する缶蓋外面用水性塗料組成物であって、該顔料分散樹脂が、メタアクリル酸、スチレン及びエチルアクリレートを構成成分として有するアクリル共重合体を特徴とする缶蓋外面用水性塗料組成物が開示されている。
【0005】
他に、特許文献2には、融点が50〜90℃であるワックス(W1)、融点が100℃以上で平均粒子径が1〜10μmであるワックス(W2)、及びバインダー樹脂を含有することを特徴とする缶蓋外面用水性塗料組成物が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1又は2に記載の塗料組成物では、ワックスの総量を少なくすると、ワックスの堆積が少なくなるものの、動摩擦係数が上がり耐摩耗性や加工性が低下することがあった。一方、ワックスの総量を多くすると、動摩擦係数が低下して耐摩耗性や加工性が向上するものの、耐擦り傷性の低下や製蓋機にワックスが堆積することがあった。
【0007】
このような背景から、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性などが良好で、製蓋性に優れる缶用塗料組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−176714号公報
【特許文献2】特開2011−153247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性に優れ、且つインナーワックスでありながら、アウターワックスで塗膜に付与していた性能が得られるだけでなく、アウターワックスの塗布時に大きな問題となっている缶蓋成型機へのワックス堆積を低減できる、製蓋性に優れた缶用塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水酸基含有樹脂(A)、並びに、融点が35〜50℃未満のワックス(b1)、融点が50℃以上〜100℃未満のワックス(b2)及び平均粒子径が1〜15μmで融点が100℃〜160℃のワックス(b3)の少なくとも3種類のワックス(B)を含有する缶用塗料組成物によって、課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
1.水酸基含有樹脂(A)、並びに、融点が35〜50℃未満のワックス(b1)、融点が50℃以上〜100℃未満のワックス(b2)及び平均粒子径が1〜15μmで融点が100℃〜160℃のワックス(b3)の少なくとも3種類のワックス(B)を含有する缶用塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)の固形分量100質量部を基準にして、ワックス(B)の合計量が0.3〜10質量部であり、ワックス(B)における、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の割合が、ワックス(b1)0.1〜5質量部、ワックス(b2)0.1〜5質量部及びワックス(b3)0.1〜5質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物、
2.水酸基含有樹脂(A)の固形分100質量部を基準にして、フェノール樹脂(C)を0.5〜20質量部含有する1項に記載の缶用塗料組成物、
3.ワックス(B)が、カルナバワックスを含まないことを特徴とする1項又は2項に記載の缶用塗料組成物、
4.ワックス(b1)が、ラノリンワックスである1〜3項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
5.ワックス(b2)が、マイクロクリスタリンワックスである1〜4項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
6.ワックス(b3)が、ポリエチレンワックスである1〜5項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
7.水酸基含有樹脂(A)が、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂である1〜6項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
8.缶蓋用の水性塗料組成物である1〜7項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
9.塗膜の表面粗度(Sa値)が0.38μm以上である1〜8項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物、
10.1〜9項のいずれか1項に記載の缶用塗料組成物を塗装して得られた缶蓋、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の缶用塗料組成物は、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性に優れ、且つインナーワックスでありながらアウターワックスで塗膜に付与していた性能が得られるだけでなく、アウターワックスの塗布時に大きな問題となっている缶蓋成型機へのワックス堆積を低減できる。これらのことから製蓋性に優れた缶体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、水酸基含有樹脂(A)、並びに、融点が35〜50℃未満のワックス(b1)、融点が50℃以上〜100℃未満のワックス(b2)及び平均粒子径が1〜15μmで融点が100℃〜160℃のワックス(b3)の少なくとも3種類のワックス(B)を含有する缶用塗料組成物であって、水酸基含有樹脂(A)の固形分量100質量部を基準にして、ワックス(B)の合計量が0.3〜10質量部であり、ワックス(B)における、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の割合が、ワックス(b1)0.1〜5質量部、ワックス(b2)0.1〜5質量部及びワックス(b3)0.1〜5質量部であることを特徴とする缶用塗料組成物である。以下、詳細に説明する。
【0014】
[缶用塗料組成物]
水酸基含有樹脂(A)
水酸基含有樹脂(A)としては、例えば、水酸基を有する、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂等の樹脂が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも水酸基含有樹脂(A)は、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性の点から、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0015】
水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂
水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂としては、下記の樹脂(1)、樹脂(2)のいずれの樹脂であってもよい。樹脂(1):ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)(以下、「エポキシ樹脂(a1)」と略称することがある)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)(以下、「アクリル樹脂(a2)」と略称することがある)とをエステル付加反応させてなる樹脂が挙げられる。
【0016】
樹脂(1)においては、エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)とを、例えば、有機溶剤溶液中、エステル化触媒の存在下にて加熱することにより容易にエステル付加反応させることができる。
【0017】
樹脂(2):エポキシ樹脂(a1)にカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させてなる樹脂である。樹脂(2)においては、例えば、有機溶剤中において、ベンゾイルパーオキサイド等のラジカル発生剤の存在下にて、エポキシ樹脂(a1)に重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させることができる。
【0018】
上記樹脂(1)、樹脂(2)において使用されるエポキシ樹脂(a1)としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に高分子量まで重縮合させてなる樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に、縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られた樹脂、及び得られたこれらの樹脂又は上記低分子量エポキシ樹脂に、二塩基酸を反応させてなるエポキシエステル樹脂のいずれであってもよい。
【0019】
上記ビスフェノールとしては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニ
ル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンなどを挙げることができ、なかでもビスフェノール
A、ビスフェノールFが好適に使用される。上記ビスフェノール類は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0020】
上記エポキシエステル樹脂の製造に用いられる二塩基酸としては、下記式(1)
HOOC−(CH −COOH ・・・式(1)
(式中、nは1〜12の整数である。)で示される化合物が好適に用いられ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロフタル酸等を例示できる。
【0021】
エポキシ樹脂(a1)の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製のjER828(エポキシ当量約190)、jER1007(エポキシ当量約1,700)、jER1009(エポキシ当量約3,500)、jER1010(エポキシ当量約4,500);旭チバ社製のアラルダイトAER6099(エポキシ当量約3,500);及び三井化学(株)製のエポミックR−309(エポキシ当量約3,500)などを挙げることができる。
【0022】
エポキシ樹脂(a1)としては、なかでも数平均分子量が2,000〜35,000、好ましくは4,000〜30,000であり、エポキシ当量が1,000〜12,000好ましくは3,000〜10,000の範囲のビスフェノール型エポキシ樹脂であることが、得られた塗膜の耐食性から好適である。
【0023】
なお、本明細書における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した数平均分子量を、標準ポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。
【0024】
具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」「TSKgel G−3000HXL」「TSKgel G−2500HXL」及び「TSKgel G−2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0025】
前記樹脂(1)においては、エステル付加反応の際に、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基に、アクリル樹脂(a2)中のカルボキシル基がエステル付加反応するので、エポキシ樹脂(a1)中にエポキシ基が必要であり、エポキシ樹脂1分子当りエポキシ基は平均0.5〜2個、好ましくは0.5〜1.6個の範囲内であるのがよい。
【0026】
一方、前記(2)においては、グラフト反応がエポキシ樹脂主鎖の水素引き抜きによって起こりグラフト重合反応が進行するので、エポキシ樹脂(a1)中にエポキシ基は実質上存在しなくてもよい。樹脂(1)において使用されるアクリル樹脂(a2)は、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体とその他の重合性不飽和単量体とを単量体成分とする共重合体樹脂である。
【0027】
上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の単量体が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
その他の重合性不飽和単量体は、上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体と共重合可能な単量体であればよく、求められる性能に応じて適宜選択して使用することができるものであり、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族系ビニル単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−,i−又はt−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−,i−又はt−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2 〜8のヒドロキシアルキルエステル;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのN−置換アクリルアミド系又はN−置換メタクリルアミド系モノマーなどの1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0029】
このその他の重合性不飽和単量体としては、特にスチレン及びアクリル酸エチルの混合物が好ましく、スチレン/アクリル酸エチルの構成質量比が99.9/0.1〜20/80、さらには99/1〜40/60の範囲内であることが適している。
【0030】
アクリル樹脂(a2)は、単量体の構成比率、種類は特に制限されるものではないが、通常、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体が15〜80質量%、特に20〜60質量%であることが好ましく、その他のラジカル重合性不飽和単量体が85〜20質量%、特に80〜40質量%であることが好ましい。
【0031】
アクリル樹脂(a2)の調製は、例えば、上記した単量体の混合物を重合開始剤の存在下、有機溶剤中で溶液重合反応することにより容易に行うことができる。アクリル樹脂(a2)は、樹脂酸価が100〜400mgKOH/g、数平均分子量が5,000〜100,000の範囲内であるのがよい。
【0032】
上記反応は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)との均一な有機溶剤溶液中にエステル化触媒を配合せしめ、実質的にエポキシ基の全てが消費されるまで、通常、60〜130℃の反応温度にて約1〜6時間反応させることによって行うことができる。上記エステル化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミンなどの第3級アミン類やトリフェニルフォスフィンなどの第4級塩化合物などを挙げることができ、なかでも第3級アミン類が好適である。
【0033】
エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)との反応系における固形分濃度は、反応系が反応に支障のない粘度範囲内である限り特に限定されるものではない。また、エステル付加反応させる際にエステル化触媒を使用する場合には、その使用量は、エポキシ樹脂
(a1)中のエポキシ基1当量に対して通常、0.1〜1当量の範囲で使用するのがよい。
【0034】
水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂が、前記樹脂(2)による樹脂である場合、エポキシ樹脂(a1)にグラフト重合させるカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含有するその他ラジカル重合性不飽和単量体成分は、前記樹脂(1)におけるカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)の製造に用いられる単量体成分であるカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを挙げることができる。
【0035】
上記樹脂(2)におけるグラフト重合反応は、従来公知の方法で行うことができ、例えば80〜150℃に加熱されたエポキシ樹脂(a1)の有機溶剤溶液中に、ラジカル発生剤と重合性不飽和モノマー成分との均一な混合溶液を徐々に添加し、同温度に1〜10時間程度保持することによって行うことができる。上記ラジカル発生剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾイルオクタノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどを挙げることができる。
【0036】
有機溶剤としては、エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)又はカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体成分とを溶解し、且つこれらの反応生成物であるアクリル変性エポキシ樹脂(A)を中和、水性化する場合にエマルジョンの形成に支障を来さない有機溶剤である限り、従来公知のものを使用することができる。
【0037】
上記有機溶媒の具体例としては、イソプロパノール、ブチルアルコール、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタン、2−エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0038】
上記樹脂(1)又は樹脂(2)である水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂は、カルボキシル基を有し、樹脂酸価が10〜160mgKOH/g、さらには20〜100mgKOH/gの範囲内であることが分散性、塗膜性能などの観点から好ましい。
【0039】
水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂は、塩基性化合物で樹脂中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和することによって水性媒体中に分散可能となる。
【0040】
上記カルボキシル基の中和に用いられる塩基性化合物としては、アミン類やアンモニアが好適に使用される。上記アミン類の代表例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン類;ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルカノールアミン類;モルホリンなどの環状アミン類などを挙げることができる。アクリル変性エポキシ樹脂の中和程度は、特に限定されるものではないが、樹脂中のカルボキシル基に対して通常0.1〜2.0当量中和の範囲であることが好ましい。
【0041】
上記水性媒体は、水のみであってもよいが、水と有機溶剤との混合物であってもよい。この有機溶剤としては、従来公知のものをいずれも使用でき、前記水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂の製造の際に使用できる有機溶剤として挙げたものを好適に使用することができる。本発明の缶用塗料組成物における有機溶剤の量は、缶用塗料組成物の樹脂固形分に対して、環境保護の観点などから20質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲であることが望ましい。
【0042】
水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂を水性媒体中に中和、分散するには、常法によればよく、例えば中和剤である塩基性化合物を含有する水性媒体中に撹拌下に水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂を徐々に添加する方法、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂を塩基性化合物によって中和した後、撹拌下にて、この中和物に水性媒体を添加するか又はこの中和物を水性媒体中に添加する方法等を挙げることができる。
【0043】
ワックス(B)
本発明の缶用塗料組成物におけるワックス(B)としては、天然ワックス若しくは合成ワックス、グリセリド及びロウ、並びにこれらの酸化物や酸変性物等を使用できる。
【0044】
上記天然ワックスとしては、例えば牛脂あるいは豚脂を水素添加した水添硬化油脂、密ロウ、ラノリンワックス、鯨ロウ、水添鯨ロウ、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバワックス、シェラック等の動植物性ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、セリシンワックス等の鉱物性ワックス等を挙げることができる。
【0045】
上記合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、シリコンワックス等を挙げることができる。
【0046】
他に、水添硬化油脂、密ロウ、鯨ロウ、水添鯨ロウ、カルナバワックス、キャンデリアワックス、ライスワックス、ホホバワックス、シェラック、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、セリシンワックス等の天然ワックスが挙げられる。
【0047】
本発明の缶用塗料組成物は、上記ワックス(B)の中から、融点が35〜50℃未満のワックス(b1)の中から少なくとも1種類、融点が50℃以上〜100℃未満のワックス(b2)の中から少なくとも1種類、及び平均粒子径が1〜15μmでかつ融点が100℃〜160℃のワックス(b3)の中から少なくとも1種類のワックスを選択して使用する。
【0048】
このような特定の少なくとも3種類のワックスを使用することによって、塗膜の表面粗度を調整でき、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性に優れ、製蓋性に優れた缶体を提供できる。さらに、これらの3種類のワックス(B)の中に、カルナバワックスを含まないことが耐ワックス堆積性の為にも望ましい。
【0049】
ワックス(b1)
ワックス(b1)としては、融点が35〜50℃未満、好ましくは融点が37〜45℃のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性の向上の面から、ラノリンワックス、オリーブ油、パーム油、あまに油等を好適に使用することができる。
【0050】
なおワックス(b1)の市販品としては、CORONET(ラノリンワックス、商品名、コロネット社製)、精製ラノリン(ラノリンワックス、商品名、CRODA社製)、CERACOL 609N(ラノリンワックス、商品名、BYK社製)、アウターLo−1(オリーブ油、商品名、理研ビタミン社製)、精製パーム油(パーム油、商品名、日清製油株製社製)が挙げられる。
【0051】
ワックス(b2)
ワックス(b2)としては、融点が50℃以上〜100℃未満、好ましくは60℃〜90℃のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性の面から、マイクロクリスタリンワックスを好適に使用することができる。
【0052】
なおワックス(b2)の市販品としては、SR−16(マイクロクリスタリンワックス、商品名、興洋化学社製)、HI−DISPER 1260(マイクロクリスタリンワックス、商品名、株式会社岐阜セラツク製造所製)、トプコS923(マイクロクリスタリンワックス、商品名、東洋ペトロライト社製)等が挙げられる。
【0053】
ワックス(b3)
ワックス(b3)としては、平均粒子径が1〜15μm、好ましくは2〜11μmで、かつ融点が100℃〜160℃、好ましくは融点が120℃〜155℃のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性及び加工性の面から、ポリエチレンワックスを好適に使用することができる。
【0054】
なおワックス(b3)の市販品としては、例えば、CERAFLOUR 991(BYK社製、商品名、ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点115℃)、HIGH FLAT2352(株式会社岐阜セラツク製造所社製、商品名、酸化ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点138℃)、Lanco1370LF(日本ルーブリゾール社製、商品名、ポリプロピレンワックス、平均粒子径9μm、融点150℃)などを挙げることができる。
【0055】
本発明においてワックス(B)の融点は、示差走査熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/分で測定した吸熱ピーク温度を示す。なおワックスが複数の吸熱ピークを有する場合には、最大吸熱ピークをもって融点とした。また、ワックスの平均粒子径は、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製粒度分析計)を用いて測定した。
【0056】
本発明においてワックス(B)は、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の少なくとも3種類のワックスを用いることを特徴としており、その合計量は、水酸基含有樹脂(A)の固形分合計量100質量部を基準にして、0.3〜10質量部、好ましくは0.3〜6質量部、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲である。
【0057】
さらに、ワックス(B)における、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の各々の配合割合は、水酸基含有樹脂(A)の固形分100質量部を基準にして、ワックス(b1)を0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜2質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部、ワックス(b2)を0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜2質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部、ワックス(b3)を0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜2質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部の範囲内にあることが、表面粗度(Sa値)を調整でき、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性の面から望ましい。
【0058】
具体的には、ワックス(b1)は、動摩擦係数の低減、耐摩耗性の向上に寄与する。また、ワックス(b2)は、表面粗度(Sa値)の調整、耐摩耗性及び耐ワックス堆積性に寄与する。ワックス(b3)は、表面粗度(Sa値)の調整、耐傷付き性及び耐ワックス堆積性に寄与するものと考える。
フェノール樹脂(C)
本発明の缶用塗料組成物には、必要に応じて、フェノール樹脂(C)を含有することができる。上記フェノール樹脂(C)としては、例えば、フェノール化合物やビスフェノールAなどのフェノール類(c1)とホルムアルデヒドなどのアルデヒド類(c2)とを反応触媒の存在下で縮合反応させて、メチロール基を導入してなるレゾール型のフェノール樹脂を挙げることができる。
【0059】
上記フェノール類(c1)としては、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノールなどの2官能性フェノール化合物;石炭酸、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールなどの3官能性フェノール化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの4官能性フェノール化合物;などのフェノール化合物を1種、または2種以上混合して使用することができる。
【0060】
上記アルデヒド類(c2)としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はトリオキサンなどが挙げられ、1種で、または2種以上混合して使用することができる。前記メチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1〜6個、好ましくは1〜4個の1価アルコールを好適に使用することができる。好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどが挙げられる。
【0061】
本発明に使用するフェノール樹脂(C)は、数平均分子量が200〜2,000、好ましくは300〜1,200の範囲内であり、かつベンゼン核1核当たりのメチロール基の平均数が0.3〜3.0個、好ましくは0.5〜3.0個の範囲内であることが適当である。
【0062】
フェノール樹脂(C)は、必要に応じて配合することによって、加工性の向上を図ることができる。配合する場合、その配合割合は、水酸基含有樹脂(A)の固形分合計100質量部を基準にして、0.5〜20質量部、好ましくは1〜16質量部、さらに好ましくは1.2〜10質量部であることが、加工性の面から好適である。
缶用塗料組成物
本発明の缶用塗料組成物は、水酸基含有樹脂(A)が中和され水性媒体中に分散されている水性塗料組成物であって、その組成物中にワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)を含む少なくとも3種類のワックス(B)、必要に応じて、フェノール樹脂(C)、その他添加剤、例えば、界面活性剤、消泡剤、顔料、香料などを含有することができる。本発明の缶用塗料組成物の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、20〜45質量%、好ましくは22〜40質量%の範囲が、塗料安定性の面から適している。
本発明の缶用塗料組成物は、種々の基材に適用することができ、例えば、ブリキ、アルミニウム、ティンフリースチール、鉄、亜鉛、銅、亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板などの金属、これらの金属にリン酸塩処理やクロメート処理などの表面処理を施した化成処理金属板、及びこれらの金属板にエポキシ樹脂系やビニル樹脂系などのプライマーを塗装した金属板、並びにこれらの金属板を缶などに加工した基材などを挙げることができる。また、本発明の缶用塗料組成物の用途は、缶内外面、特に、厳しい製蓋性が要求される缶蓋用として有用である。
本発明の缶用塗料組成物の塗装は、公知の各種の方法、例えば、ロールコータ塗装、スプレー塗装等の塗装方法によって、乾燥膜厚で1〜20μm、好ましくは2〜10μmとなるように塗装し、素材到達温度で120〜300℃、好ましくは素材到達温度で200〜280℃の温度、約10秒〜30分間、好ましくは約15秒〜約15分間加熱乾燥して、塗膜を被覆した金属板としている。
【0063】
なお得られた塗膜の表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)は、0.38μm以上、好ましくは0.38以上でかつ0.5未満μmであることが、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性などが良好で、製蓋性に優れる缶体を得るためにも望ましい。表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)の測定は、株式会社キーエンス製の3次元画像処理システム(XGシリーズ)によって行うことができる。例えば、図1の3次元画像処理画像は、濃淡が鮮明で塗膜の凹凸が大きいことを表している。このような塗膜の凹凸、特に塗膜の凸部形状(製蓋機との接点部分)を工夫することによって、動摩擦係数の低減、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性の向上につながり、製蓋性に優れた缶体が得られることを見出した。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
水酸基含有樹脂(A)の製造
製造例1 エポキシ樹脂溶液No.1の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、jER828(注1) 558部、ビスフェノールA 329部、テトラブチルアンモニウムブロマイド 0.6部を仕込み、窒素気流下で160℃にて反応を行った。反応はエポキシ当量で追跡し、約5時間反応することにより、エポキシ樹脂溶液No.1を得た。得られたエポキシ樹脂No.1は、数平均分子量約8,000であった。
(注1)jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量約190。
【0065】
製造例2 エポキシ樹脂溶液No.2の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、jER828(注1)550部、ビスフェノールA 450部を入れ、攪拌しながら、窒素気流下で昇温した。ビスフェノールAが溶解し、混合物が透明になった時点(100℃付近)でトリ−n−ブチルアミン5.0部を仕込み、窒素気流下で160℃にて反応を行った。
反応はエポキシ当量で追跡し、約4時間反応することにより、エポキシ樹脂溶液No.2を得た。得られたエポキシ樹脂No.2は、数平均分子量約4,500であった。
【0066】
製造例3 アクリル樹脂溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、n−ブタノール 882部を仕込み、「メタクリル酸 180部、スチレン240部 、アクリル酸エチル180部 、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート 18部」の混合物を窒素気流下で100℃に加熱し、滴下ロートから約3時間を要して滴下し、滴下後さらに同温度にて2時間撹拌を続け、次いで冷却して固形分40%のアクリル樹脂溶液を得た。得られたアクリル樹脂は、数平均分子量約19,000、酸価196mgKOH/gを有していた。
【0067】
製造例4 水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.1の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、製造例1で得たエポキシ樹脂No.1溶液を80部 (固形分)、製造例3で得たアクリル樹脂溶液を20部 (固形分)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 33部を加えて100℃に加熱して溶解させた後、N,N−ジメチルアミノエタノール 2部を加えて約2時間反応を行った後、N,N−ジメチルアミノエタノール3部を加えて20分反応を継続した。その後、脱イオン水165部を1時間かけて滴下し、酸価34mgKOH/g、固形分30%の水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.1を得た。
【0068】
製造例5 水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.2の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、エチレングリコールモノブチルエーテル25部、製造例2で得たエポキシ樹脂溶液No.2を80部(固形分)入れ、攪拌しながら、窒素気流下で120℃まで昇温した。
エポキシ樹脂溶液No.2が完全に溶解した後、「スチレン4部、メタクリル酸メチル4部、アクリル酸n−ブチル6部、メタクリル酸6部、過酸化ベンゾイル1部」の混合溶液を、120℃で1時間掛けて滴下し、滴下終了後、120℃で1時間保持し、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.2を得た。その後、水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.2を90℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミン6.2部添加し、15分混合攪拌した。さらに、攪拌しながら、脱イオン水201部を1時間かけて滴下し、酸価44mgKOH/g、固形分30%の水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂溶液No.2を得た。
【0069】
フェノール樹脂(C)の製造
製造例6 フェノール樹脂溶液No.1の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、フェノール188部、37%ホルムアルデヒド水溶液324部を仕込み、50℃に加熱し内容物を均一に溶解した。次に、酢酸亜鉛を添加、混合して系内のpHを5.0に調整した後、90℃に加熱し5時間反応を行った。ついで50℃に冷却し、32%水酸化カルシウム水分散液をゆっくり添加し、pHを8.5に調整した後、50℃で4時間反応を行った。
【0070】
反応終了後、20%塩酸でpHを4.5に調整した後、キシレン/n−ブタノール/シクロヘキサン=1/2/1(質量比)の混合溶剤で樹脂分の抽出を行い、触媒、中和塩を除去し、ついで減圧下で共沸脱水し、固形分50%のフェノール樹脂溶液No.1を得た。フェノール樹脂溶液No.1の樹脂固形分は、数平均分子量は350、ベンゼン核1核当たりの平均メチロール基数は1.3であった。
【0071】
製造例7 フェノール樹脂溶液No.2の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、m−クレゾール108部、37%ホルムアルデヒド水溶液216部及び25%水酸化ナトリウム水溶液160部を仕込み、窒素気流下で50℃にて反応させた後、100℃まで昇温しさらに1時間反応させ、塩酸で中和後、キシレン/n−ブタノール=1/1(質量比)の混合溶剤で樹脂分の抽出を行い、触媒、中和塩を除去し、ついで減圧下で共沸脱水し、固形分50%のフェノール樹脂溶液No.2を得た。フェノール樹脂溶液No.2の樹脂固形分は、数平均分子量は350、ベンゼン核1核当たりの平均メチロール基数は0.7であった。
【0072】
実施例1 缶用塗料No.1
容器中で、製造例4で得たアクリル変性エポキシ樹脂溶液No.1を100部(固形分)、H−645ワックス(注2)0.5部、SR−16(注5)0.5部、CERAFLOUR991(注9)0.5部を均一に混合し、脱イオン水で調整して固形分30質量%の缶用塗料No.1を得た。
【0073】
実施例2〜21 缶用塗料No.2〜No.21
表1の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、缶用塗料No.2〜No.21を得た。併せて、下記の試験方法に従って試験した結果を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
比較例1 缶用塗料No.22
容器中で、製造例4で得た水酸基含有アクリル変性エポキシ樹脂No.1を100部(固形分)、HD−3028(注6)1部、CERAFLOUR 991(注9)1部を均一に混合し、脱イオン水で調整して固形分30質量%の缶用塗料No.22を得た。
【0076】
比較例2〜18 缶用塗料No.23〜No.39
表2の配合内容とする以外は、比較例1と同様にして、缶用塗料No.23〜No.39を得た。下記の試験方法に従って試験した結果を示す。
【0077】
【表2】
【0078】
(注2)H−645ワックス:中京油脂社製、ラノリン、融点40℃
(注3)精製パーム油:日清製油株製、パーム油、融点39℃
(注4)精製ラノリン:CRODA社製、ラノリンワックス、融点39℃
(注5)SR−16:興洋化学株製、マイクロクリスタリンワックス、融点83℃
(注6)HD−3028:株式会社岐阜セラツク製造所製、カルナバワックス、融点82℃(注7)スーパーハートラン:CRODA社製、ラノリンアルコール、融点65℃
(注8)Lanco1370LF:日本ルーブリゾール社製、ポリプロピレンワックス、融点150℃、平均粒子径9μm
(注9)CERAFLOUR 991:BYK社製、ポリエチレンワックス、融点115℃、平均粒子径5μm
(注10)Synfluo 178XF:MICRO POWDERS社製、マイクロクリスタリンワックス、融点106℃、平均粒子径4μm
(注11)CERAFLOUR 913:BYK社製、商品名、ポリプロピレンワックス、融点160℃、平均粒子径18μm。
【0079】
試験板の作成
厚さ0.26mmのアルミニウム板に各例で得た水性塗料組成物を乾燥塗膜重量が40mg/100cmとなるようにバーコータにて塗装し、乾燥機にて素材到達最高温度が270℃となるよう雰囲気温度315℃、風速30m/分の条件で17秒間焼付けて試験板を得た。
【0080】
(注12)表面粗度:
試験板の表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)を光干渉顕微鏡(株式会社キーエンス製XGシリーズ、商品名、3次元画像処理システム)を用いて測定し、試験板(5枚)の平均値を下記基準により評価した。なお外観を肉眼で観察して著しく外観不良の試験板は、表面粗度の測定から除外した。
◎は、表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)が、0.38以上で、かつ0.5未満である。・・3次元画像は図1に例示
○は、表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)が、0.3以上で、かつ0.38未満である。・・3次元画像は図2に例示
△は、表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)が、0.19以上で、かつ0.3未満である。・・3次元画像は図3に例示
×は、表面粗度(算術平均粗さ、Sa値)が、0.19未満である。・・3次元画像は図4に例示。
【0081】
(注13)動摩擦係数:
試験板に、鋼球3点より支持された1kgの質量を載せて、150cm/分の速度で引っ張り、動摩擦係数(μ値)を求めた。動摩擦係数(μ値)が小さいほど、スベリ性は良好である。
◎は、μ値が0.06未満
○は、μ値が0.06以上で、かつ0.1未満
△は、μ値が0.1以上で、かつ0.15未満
×は、μ値が0.15以上。
【0082】
(注14)耐摩耗性:
試験板に対して、バウデン磨耗試験機(神鋼造機社製、曽田式付着滑り試験機、摩擦部ボール圧子3/16インチ鋼球、荷重4kgf、摩擦速度7往復/分)にて摩擦試験を行い、塗膜にキズが発生するまでの摩擦回数を測定して、下記の基準によって評価した。
【0083】
◎は、摩擦回数が50回で、塗膜にキズがみられない
○は、摩擦回数が30回以上で、かつ49回以下で塗膜にキズが発生
△は、摩擦回数が10回以上で、かつ29回以下で塗膜にキズが発生
×は、摩擦回数が9回以下で、塗膜にキズが発生。
【0084】
(注15)耐傷付き性:
試験板に対して、トライボギア(新東科学株式会社製、商品名、HEIDON−22H、試験針150μm、引っ掻きスピード60mm/min)を使用し、試験針がアルミ板に到達した荷重で、耐傷付き性を評価した。
◎は、試験針がアルミ板に到達した荷重が300g以上
○は、試験針がアルミ板に到達した荷重が200g以上で、かつ300g 未満
△は、試験針がアルミ板に到達した荷重が150g以上で、かつ200g 未満
×は、試験針がアルミ板に到達した荷重が150g未満。
【0085】
(注16)加工性:
試験用塗装板を圧延方向に5cm、垂直方向に4cm切断した後、下部を短辺と平行に2つ折りにした。20℃の室内にて、この試験用塗装板の試験片の折曲げ部の間に、厚さ0.26mmのアルミニウム板を2枚挟み、特殊ハゼ折り型デュポン衝撃試験器にセットした。50cmの高さから接触面が平らな重さ1kgの鉄のおもりを落下させて、前記折曲げ部に衝撃を与えた後、折曲げ先端部に印加電圧6.5Vで6秒間通電し、前記折曲げ先端部の20mm幅の電流値(mA)を測定し、下記の基準で評価した。
◎は、10mA未満である
○は、10mA以上で、かつ20mA未満
△は、20mA以上で、かつ40mA未満
×は、40mA以上である。
【0086】
(注17)耐ワックス堆積性:
試験板9枚を用い、それらの試験板9枚の間にSUS板8枚を交互に挟んで層状にした状態で、圧着機でプレスする。プレスを5回行ったら試験板を全て交換し、再び試験板9枚の間に前回の5回のプレスで使用したのと同様のSUS板8枚を交互に挟み、さらにプレスを5回(合計10回)行った。プレス前後におけるSUS板の質量増加を測定し、下記の基準によって評価した。
◎は、SUS板の質量増加が、1.0mg未満である
○は、SUS板の質量増加が、1.0mg以上でかつ3.0mg未満である
△は、SUS板の質量増加が、3.0mg以上でかつ10.0mg未満である
×は、SUS板の質量増加が、10.0mg以上である。
【0087】
(注18)総合評価:
下記の基準にて総合評価を行った。なお、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性などが良好で製蓋性に優れることが望ましい。
◎は、動摩擦係数、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性の評価において◎の合計が3個以上で、かつ△以下の評価を含まない。
○は、動摩擦係数、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性の評価において◎の合計が2個以下で、かつ△以下の評価を含まない。
△は、動摩擦係数、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性の評価において◎の合計が2個以下で、かつ△以下の評価を含むが×がない。
×は、動摩擦係数、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性のいずれかの評価に×がある。
【産業上の利用可能性】
【0088】
動摩擦係数、耐摩耗性、耐傷付き性、加工性及び耐ワックス堆積性などが良好で、製蓋性に優れる缶体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】塗膜の凹凸が「◎」レベルの光干渉顕微鏡による3次元画像処理画像である
図2】塗膜の凹凸が「○」レベルの光干渉顕微鏡による3次元画像処理画像である
図3】塗膜の凹凸が「△」レベルの光干渉顕微鏡による3次元画像処理画像である
図4】塗膜の凹凸が「×」レベルの光干渉顕微鏡による3次元画像処理画像である
図1
図2
図3
図4