(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696738
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】基板一体型ガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20200511BHJP
H01M 2/08 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
B29C45/14
H01M2/08 Q
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-129820(P2015-129820)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-13273(P2017-13273A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】眞坂 武史
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−158241(JP,A)
【文献】
特開2011−129267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
H01M 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形すべきガスケットの延長形状と対応する所定のパターンで基板の表面に接着剤を塗布する塗布工程と、
前記基板を金型内に設置して型締めすることにより前記基板と前記金型の内面との間に画成される前記ガスケットの成形用のキャビティに未硬化の成形材料を充填して硬化させる工程と、
を含み、
前記塗布工程において、
前記ガスケットの延長形状に対応して延びる前記キャビティの延長方向に沿って延びる前記接着剤の主塗布領域と、
前記キャビティの外側で前記金型と密接可能な前記接着剤の部分塗布領域と、
前記キャビティの外側の位置から前記キャビティの内側の位置に達する前記接着剤の非塗布領域と、
を形成することを特徴とする基板一体型ガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を用いて基板と一体のガスケットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池には、燃料ガスや酸化ガスなどをシールするための手段として、
図6に示すように、燃料電池セルの構成部品であるセパレータ等の基板1に、ゴム弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット2を一体に接着した基板一体型ガスケットが設けられている。そして、この種の基板一体型ガスケットとしては、ガスケット2が接着剤層3を介して基板1に一体に接着されたものが知られている。
【0003】
図7は、このような基板一体型ガスケットの製造方法の典型的な従来技術を示すもので、すなわちこの製造方法においては、まず予め接着剤の塗布によって表面に接着剤層3を形成した基板1を、金型101,102間に位置決め固定し、この基板1の表面の接着剤層3と一方の金型101の内面との間に画成されたガスケット成形用キャビティ103内に、LIM(Liquid Injection Molding)などの手法によって液状ゴムを射出し、熱反応により架橋硬化させてガスケットを成形すると同時に接着剤層3を介して基板1に一体に接着している(例えば下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−168448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の基板一体型ガスケットの製造方法によれば、
図7に示す型締めの際に、金型101におけるキャビティ103の周囲の型押さえ面101aが基板1の表面の接着剤層3と密着した状態となるため、キャビティ103内の残留エア等による成形不良を防止するには、金型101に、キャビティ103から延びる所要数のエアベント(不図示)を設ける必要があり、したがって成形完了後、エアベント内に流入した液状ゴムの硬化物からなるバリを切除する後工程が必要となっていた。
【0006】
金型にキャビティから延びるエアベントを設ける必要がなく、このためエアベント内に形成されるバリを切除する後工程も不要とすることの可能な基板一体型ガスケットの製造方法を提供するこ
と。
【課題を解決するための手段】
【0007】
基板一体型ガスケットの製造方法は、成形すべきガスケットの延長形状と対応する所定のパターンで基板の表面に接着剤を塗布する塗布工程と、前記基板を金型内に設置して型締めすることにより前記基板と前記金型の内面との間に画成される
前記ガスケットの成形用のキャビティに未硬化の成形材料を充填して硬化させる工程と、
を含み、前記塗布工程において、
前記ガスケットの延長形状に対応して延びる前記キャビティの延長方向に沿って延びる前記接着剤の主塗布領域と、前記キャビティの外側で前記金型と密接可能な前記接着剤の部分塗布領域と、前記キャビティの外側の位置から前記キャビティの内側の位置に達する前記接着剤の非塗布領域
と、を形成す
る。
【0008】
上記方法によれば、型締めによって画成されるキャビティに充填された成形材料は、硬化によってキャビティと対応する形状のガスケットとして成形されると共に、接着剤層を介して基板に一体に接着される。そして、型締めの際には、キャビティの外側で互いに対向する金型と基板の間に、基板の表面の接着剤層のうちキャビティの外側に位置して形成された部分塗布領域が介在することによって、キャビティの外側の位置から前記キャビティの内側の位置に達する非塗布領域による微小隙間が形成され、この微小隙間は、成形材料の充填過程でキャビティ内のエアやガスの排出路となる
。
【発明の効果】
【0009】
キャビティへの成形材料の充填過程で、キャビティ内の残存エア等が、キャビティの外側に接着剤の非塗布領域によって形成される微小な隙間を通じて容易に排出されるため、成形不良を防止することができ、このため金型にエアベントを設ける必要がなく、エアベントに発生するバリを切除する後工程も不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
基板一体型ガスケットの製造方法
の実施の形態における型締め状態を示す部分的な断面斜視図である。
【
図2】
基板一体型ガスケットの製造方法
の実施の形態における基板上の接着剤層と金型との関係を示す部分的な平面図である。
【
図3】
基板一体型ガスケットの製造方法
の実施の形態における型締め状態を示すもので、(A)は
図2におけるA−A’断面図、(B)はB−B’断面図である。
【
図4】
基板一体型ガスケットの製造方法
の実施の形態における型開き状態を示す部分的な断面斜視図である。
【
図5】
基板一体型ガスケットの製造方法の他
の好ましい実施の形態における基板上の接着剤層と金型との関係を示す部分的な平面図である。
【
図6】基板一体型ガスケットの一例を示す部分的な断面図である。
【
図7】従来技術に係る基板一体型ガスケットの製造方法を示す部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
基板一体型ガスケットの製造方法を、
図4に示す基板一体型ガスケットの製造に適用した
実施の形態
として、図面を参照しながら説明する。
【0012】
まず
図1に示す型締め状態において、参照符号10はLIM成形用金型装置における上型、参照符号20はLIM成形用金型装置における下型、参照符号1はガスケットが一体に成形される基板である。
【0013】
下型20の上面には基板1が位置決め設置されており、下型20の上側に配置された上型10の下面には、図示の型締め状態において下型20上の基板1との間にガスケット成形用キャビティ40を画成するための溝状凹部11と、キャビティ40(溝状凹部11)の周囲で基板1を下型20との間で挟持するための型押さえ面12と、複数の液状成形材料を混合した液状ゴムをキャビティ40へ射出するための不図示のゲートが形成されている。
【0014】
キャビティ40となる溝状凹部11は、成形すべきガスケット(
図4に示すガスケット2)の延長形状と対応する所定のパターンで平面方向へ無端状に延びており、また、成形すべきガスケット(
図4に示すガスケット2)の断面形状に対応して、基板1側の扁平なベース成形部11aと、その上側のシールリップ成形部11bからなる。
【0015】
基板1の表面には、成形すべきガスケット(
図4に示すガスケット2)の延長形状、言い換えればキャビティ40の延長形状と対応する所定のパターンで予め接着剤層30が形成されている。詳しくは、基板1の表面に接着剤を塗布して接着剤層30を形成する工程では、
図2及び
図3にも示すように、キャビティ40となる溝状凹部11と対向される面に沿って延びる接着剤の主塗布領域31と、この主塗布領域31からその延長方向所定間隔で幅方向外側へ帯状に張り出し、型締めにおいてキャビティ40の外側で上型10の型押さえ面12と密接可能な接着剤の部分塗布領域32と、隣接する部分塗布領域32,32の間の非塗布領域33を形成する。非塗布領域33は、キャビティ40の外側の位置からキャビティ40内、すなわち溝状凹部11の幅方向端部11cより内側の位置に達するように延びている。
【0016】
基板1の表面に接着剤を塗布して上述のような領域31〜33を有する平面形状をなす接着剤層30を形成する方法としては、基板1の表面に非塗布領域33と対応する形状のマスクを敷設してその上から接着剤をスプレー塗布装置によって塗布する方法や、非塗布領域33と対応する形状のマスクを有するスクリーン版を用いてスクリーン印刷によって塗布する方法や、予め読み込んで記憶された塗布パターンのデータによってマスクレスで塗布するインクジェットによる塗布方法などが適用可能である。
【0017】
そしてこのような接着剤層30が形成された基板1を図示のように金型装置に設置して型締めすると、
図1及び
図3に示すように、基板1と上型10の型押さえ面12との間には、接着剤の部分塗布領域32が介在することによって、非塗布領域33には、部分塗布領域32との微小段差による隙間δが形成される。
【0018】
このため、複数の液状成形材料を混合した液状ゴムを、上型10の不図示のゲートを通じてキャビティ40へ射出すると、この液状ゴムがキャビティ40へ充填される過程で、キャビティ40内の残存エアや液状ゴムからの揮発ガスなどが、基板1と上型10の型押さえ面12との間に接着剤の非塗布領域33によってキャビティ40の延長方向所定間隔で形成された隙間δを通じて押し出され、外部へ排出される。
【0019】
また、隙間δは微小なものであるため、エアや揮発ガスなどは容易に通過可能である反面、エアや揮発ガスに比較して粘性が著しく大きい液状ゴムは容易に通過することができない。しかもキャビティ40へ充填された液状ゴムが隙間δへ流出することによるバリの形成が有効に抑制される。
【0020】
キャビティ40への液状ゴムの射出充填が完了したら、この液状ゴムを、加熱等の手段によって架橋硬化させることによって、
図4に示すように、扁平な帯状のベース2a及びその上面から断面V字状の山形に隆起したシールリップ2bを備えるゴム弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)製のガスケット2が成形されると共に、このガスケット2のベース2aが、接着剤層30を介して基板1に一体に接着されるので、上型10を基板1から分離して型開きを行うことによって、基板1にガスケット2が一体接着された構造の基板一体型ガスケットを取り出すことができる。
【0021】
そして上述の実施の形態によれば、液状ゴムをキャビティ40へ充填する過程でキャビティ40内の残存エアや揮発ガスなどが、接着剤の非塗布領域33による基板1と上型10の型押さえ面12との間の微小な隙間δを通じて容易に排出されるため、残存エアや揮発ガスなどによる成形不良を防止することができ、しかも上型10にキャビティ40からのエアや揮発ガスを排出するためのエアベントなどを別途に設ける必要がなく、またこのため、エアベントへの液状ゴムの流出によるバリの発生も起こり得ず、バリの切除工程を不要とすることができる。
【0022】
なお、上述の実施の形態では、基板1の表面に接着剤を塗布することによって形成される接着剤層30が、帯状の部分塗布領域32と非塗布領域33を主塗布領域31の延長方向所定間隔で交互に有するものとして説明したが、型締めによって、部分塗布領域32が基板1と上型10の型押さえ面12との間に介在して、非塗布領域33に部分塗布領域32との微小段差による隙間δが形成されるものであれば、部分塗布領域32と非塗布領域33の形成パターンは特に限定されない。
【0023】
たとえば、
図5に基板一体型ガスケットの製造方法の他の実施の形態として示すように、キャビティ40の外側の位置からキャビティ40内側の位置にかけて、多数の部分塗布領域32が六角格子状あるいは正方格子状などをなすように散在し、非塗布領域33がこれらの部分塗布領域32の間を連続して延びているものであっても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 基板
2 ガスケット
10 上型(金型)
12 型押さえ面
20 下型(金型)
30 接着剤層
31 主塗布領域
32 部分塗布領域
33 非塗布領域
40 キャビティ
δ 隙間