(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696799
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】エンジンの運転方法及び閉ループ制御系
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20200511BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20200511BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
F02M21/02 301B
F02D19/06 B
F02M21/02 N
F02M21/02 301P
F02D23/00 N
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-41905(P2016-41905)
(22)【出願日】2016年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-164413(P2016-164413A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】10 2015 003 013.2
(32)【優先日】2015年3月6日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
【氏名又は名称原語表記】MAN ENERGY SOLUTIONS SE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】カトリン・ヘルケルト
【審査官】
北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−062936(JP,A)
【文献】
特開2008−115737(JP,A)
【文献】
特開2010−276011(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0174855(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0220274(US,A1)
【文献】
特開平07−071296(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/035889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
F02D 19/06
F02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料が燃焼する際のエンジンを運転するための方法であって、
前記気体燃料を燃焼させるために、閉ループ制御された過給圧で供給される過給空気と、閉ループ制御されたガス圧で供給されるガスとから、ガス/空気混合気が形成され、前記ガス/空気混合気は、燃焼のために前記エンジンのシリンダに供給され、
過給圧閉ループ制御の過給圧目標値(28)と、前記過給圧と前記ガス圧との間の圧力差目標値(35)とに従属して、ガス圧閉ループ制御のためのガス圧目標値(30)が決定される方法において、
前記ガス圧目標値(30)は、さらに、前記過給圧閉ループ制御の過給圧現在値(29)に従属して決定され、すなわち、前記過給圧現在値(29)及び過給圧目標値(30)に従属して前記ガス圧目標値(30)のための予備制御成分(36)及び閉ループ制御成分(37)が決定され、その際、前記予備制御成分(36)は、補助変数(40)を決定するために前記閉ループ制御成分(37)を加算することによって補正され、前記補助変数(40)は、前記ガス圧目標値(30)を決定するために、前記圧力差目標値(35)を加算することによって補正され、
前記予備制御成分(36)が、前記過給圧現在値(29)の時間的導出に従属して、予備制御傾斜路(44)の勾配が決定され、かつ、前記過給圧目標値(28)に従属して、前記予備制御傾斜路(44)の終点が決定されるように決定されること、を特徴とする方法。
【請求項2】
前記閉ループ制御成分(37)が、前記過給圧現在値(29)が、第1の閉ループ制御回路の第1の制御装置(47)に関する入力変数を決定するために、前記予備制御成分(36)及び前記閉ループ制御成分(37)で補正されるように決定され、その際、前記第1の制御装置(47)の出力変数は、前記閉ループ制御成分(37)に対応することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の制御装置(47)が、PI制御装置であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス圧目標値(30)が、第2の閉ループ制御回路の第2の制御装置(57)に関する入力変数を決定するために、ガス圧現在値(31)で補正され、前記第2の制御装置(57)の出力変数(58)が、前記ガス圧閉ループ制御のガス圧制御パス(33)に関する制御変数(32)を決定するために、前記ガス圧目標値(30)で補正されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の制御装置(57)が、I制御装置であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記圧力差目標値(35)が、前記ガスの質に従属して決定されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
気体燃料の燃焼の際に、エンジンを運転するための閉ループ制御システムであって、過給圧閉ループ制御及びガス圧閉ループ制御を有する閉ループ制御システムにおいて、
前記気体燃料を燃焼させるために、閉ループ制御された過給圧で供給される過給空気と、閉ループ制御されたガス圧で供給されるガスとから、ガス/空気混合気が形成され、前記ガス/空気混合気は、燃焼のために前記エンジンのシリンダに供給され、
ガス圧目標値の生成は、過給圧現在値(29)及び過給圧目標値(28)に従属して、ガス圧目標値(30)のための予備制御成分(36)及び閉ループ制御成分(37)を決定し、前記ガス圧目標値の生成は、前記予備制御成分(36)及び前記閉ループ制御成分(37)を、前記ガス圧目標値(30)を決定するために、前記過給圧と前記ガス圧との間の圧力差目標値(35)で補正し、
前記ガス圧目標値の生成の前記予備制御成分(36)が、前記過給圧現在値(29)の時間的導出に従属して、予備制御傾斜路(44)の勾配を決定し、かつ、前記過給圧目標値(28)に従属して、前記予備制御傾斜路(44)の終点を決定すること、及び、
前記ガス圧目標値の生成の前記閉ループ制御成分(37)は、前記過給圧現在値(29)を、第1の閉ループ制御回路の第1の、好ましくはPI制御装置として構成された制御装置(47)に関する入力変数を決定するために、前記予備制御成分(36)及び前記閉ループ制御成分(37)で補正し、その際、第1の前記制御装置(47)の出力変数は、前記閉ループ制御成分(37)に対応することを特徴とする閉ループ制御システム。
【請求項8】
前記ガス圧閉ループ制御が、前記ガス圧目標値(30)を、第2の閉ループ制御回路の第2の、好ましくはI制御装置として構成された制御装置(57)に関する入力変数を決定するために、ガス圧現在値(31)で補正し、その際、前記ガス圧閉ループ制御が、第2の前記制御装置(57)の出力変数(58)を、前記ガス圧閉ループ制御のガス圧制御パス(33)に関する制御変数(32)を決定するために、前記ガス圧目標値(30)で補正することを特徴とする、請求項7に記載の閉ループ制御システム。
【請求項9】
前記圧力差目標値(35)を、ガスの質に従属して決定することを特徴とする、請求項7または8に記載の閉ループ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体燃料が燃焼する際のエンジンの運転方法に関する。本発明はさらに、当該方法を実施するための閉ループ制御系に関する。
【背景技術】
【0002】
実践から、燃料として、天然ガス等の気体燃料が燃焼するエンジンが知られている。当該エンジンは、純粋なガスエンジンであるか、又は、いわゆる二元燃料エンジンでもあり得る。二元燃料エンジンでは、液体燃料運転モードにおいて、ディーゼル又は重油等の液体燃料が燃焼し、気体燃料運転モードにおいて、気体燃料が燃焼する。エンジン内で気体燃料が燃焼する際、一方では過給空気が、他方では気体燃料が供給され、そこからガス/空気混合気が形成され、このガス/空気混合気は、燃焼のためにエンジンのシリンダに供給される。過給空気は、過給空気系を通じて、閉ループ制御された過給圧で供給され、気体燃料は、対応する燃料供給系を通じて、閉ループ制御されたガス圧で供給される。すなわち、過給空気の過給圧と、気体燃料のガス圧との間に、所望の圧力差が形成されるように供給が行われる。このために、過給圧閉ループ制御の過給圧目標値に従属して、及び、過給圧とガス圧との間の圧力差目標値に従属して、ガス圧閉ループ制御のためのガス圧目標値が決定される。実践から知られた、専ら過給圧目標値と圧力差目標値とに従属して、ガス圧目標値を決定する手順では、ガス圧閉ループ制御の質が限られてしまう。その点において、過給圧とガス圧との間の圧力差は、限られた質でのみ閉ループ制御され得る。さらに、負荷変動の際には、限られた質のガス圧閉ループ制御のみが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここから出発して、本発明の課題は、エンジンを運転するための新しい方法と、新しい閉ループ制御系と、を提供することにある。本課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。本発明によると、ガス圧目標値は、さらに過給圧閉ループ制御の過給圧現在値に従属して決定される。すなわち、過給圧現在値と過給圧目標値とに従属して、ガス圧目標値に関する予備制御成分(Vorsteueranteil)と閉ループ制御成分とが決定され、予備制御成分と閉ループ制御成分とは、ガス圧目標値を決定するために、圧力差目標値で補正される。本発明では、ガス圧閉ループ制御のためのガス圧目標値を、予備制御成分と閉ループ制御成分とを通じて決定することが提案される。それによって、特に負荷変動の際に、ガス圧閉ループ制御の質を改善することが可能になり、最終的には、より高い質又は正確性をもって、圧力差を調整することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の有利なさらなる構成によると、ガス圧目標値を決定するための予備制御成分は、過給圧現在値の時間的導出に従属して予備制御傾斜路の勾配が決定され、過給圧目標値に従属して予備制御傾斜路の終点が決定されるように決定される。このような予備制御傾斜路を通る予備制御成分は、特に負荷変動に際して、高い質のガス圧閉ループ制御を可能にする。
【0005】
本発明の有利なさらなる構成によると、ガス圧目標値を決定するための閉ループ制御成分は、過給圧現在値が、第1の閉ループ制御回路の第1の制御装置に関する入力変数を決定するために、予備制御成分及び閉ループ制御成分で補正されるように決定され、その際、第1の制御装置の出力変数は、ガス圧目標値を決定するための閉ループ制御成分に対応する。それによって、ガス圧閉ループ制御の質をさらに改善することができる。予備制御傾斜路又は予備制御成分は、閉ループ制御成分に影響を与え、それによって、ガス圧目標値に関する閉ループ制御成分を供給する制御装置の負荷が軽減される。
【0006】
本発明の有利なさらなる構成によると、ガス圧目標値は、第2の閉ループ制御回路の第2の制御装置のに関する入力変数を決定するために、ガス圧現在値で補正される。第2の制御装置の出力変数は、ガス圧閉ループ制御のガス圧制御パス(Gasdruckregelstrecke)に関する制御変数を決定するために、ガス圧目標値で補正される。ガス圧現在値は、専ら負荷圧目標値で補正され、第2の閉ループ制御回路において加工され、第1の閉ループ制御回路には供給されない。ガス圧現在値に関して、両方の閉ループ制御回路を分離することによって、特に負荷変動の際に、ガス圧閉ループ制御の質を改善することができる。
【0007】
本発明の有利なさらなる構成によると、圧力差目標値は、ガスの質に従属して決定される。圧力差目標値をガスの質に従属して決定することによって、ガス圧閉ループ制御の質をさらに改善することができる。
【0008】
当該方法を実施するための閉ループ制御系は、請求項8に規定されている。
【0009】
本発明の好ましいさらなる構成は、下位請求項及び以下の説明から明らかになる。本発明の実施例を、これに限定されることなく、図面を用いて詳細に説明する。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】二元燃料エンジンとして構成されたエンジンのブロック図である。
【
図3】エンジンを運転するための閉ループ制御系のブロック図である。
【
図4】本発明の一態様を明確にするためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、気体燃料が燃焼する際のエンジンの運転方法と、当該方法を実施するための閉ループ制御系とに関する。
【0012】
図1は、複数のシリンダ11を含む二元燃料エンジン10のブロック図を例示的に示している。液体燃料運転モードでは、全てのシリンダ11において、専ら液体燃料FKが燃焼する。気体燃料運転モードでは、二元燃料エンジンの全てのシリンダ11において、専ら気体燃料GKが、気体燃料GKを点火するための点火流体ZFを用いて燃焼する。
【0013】
図1に示された実施例において、二元燃料エンジン10には、排ガスターボチャージャ12が配設されており、二元燃料エンジン10のシリンダ11内において燃料が燃焼する際に発生する排ガスAGは、排ガスターボチャージャ12のタービン13に供給され、それによって、排ガスAGはタービン13内で膨張し、その際、力学的エネルギーが得られる。当該力学的エネルギーは、排ガスターボチャージャ12の圧縮機14において、燃料の燃焼のために二元燃料エンジン10のシリンダ11に供給されるべき過給空気LLを圧縮するために利用される。その際、気体燃料運転モードでは、過給空気LLと気体燃料GKとから、ガス‐空気混合気が形成され、当該混合気は、シリンダ11に供給され、点火流体ZFによって点火される。
【0014】
図2は、シリンダ11の領域における二元燃料エンジン10のさらなる詳細を示しており、シリンダ11のピストン15は、連接棒16を介して上下に移動できる。液体燃料運転モードでは、シリンダ11の燃焼室26に、液体燃料FKが燃料インジェクタ19を通じて導入され、過給空気LLが吸気弁17を通じて導入され、燃焼の際に生じる排ガスAGは、排気弁18を通じて、燃焼室26から排出される。液体燃料FKは、燃料ポンプ20を通じて、インジェクタ19に供給される。
【0015】
気体燃料運転モードでは、過給空気LLと気体燃料GKとの混合気は、吸気弁17を介して、シリンダ11の燃焼室26に導入され、当該ガス‐空気混合気の点火には、点火流体ZFが用いられ、当該点火流体は、点火流体ポンプ23、点火流体貯蔵装置22から出発して、点火流体インジェクタ21を通って、シリンダ11に供給される。すなわち、
図2の実施例では、少なくとも1つの接続導管25を介して燃焼室26と連結されているシリンダ11のさらなる燃焼室24に供給される。点火流体ZFを燃焼室26に直接導入することも可能であることを指摘しておく。
【0016】
本発明は、
図1及び
図2の二元燃料エンジン10において、エンジン内で気体燃料が燃焼する気体燃料運転モードを改善することができるような詳細に関する。
【0017】
しかしながら、本発明は、二元燃料エンジンでの使用に限定されるものではなく、専ら気体燃料の燃焼に資するガスエンジンでも使用され得ることが指摘される。そのような純粋なガスエンジンでも、ガスエンジンのシリンダには、過給空気LLと気体燃料GKとの混合気が供給され、燃焼の際に発生する排ガスAGは、ガスエンジンのシリンダから排出される。
【0018】
図3は、閉ループ制御系27のブロック図であり、当該閉ループ制御系を用いて、運転されるべきエンジンに、ガス/空気混合気を形成するために、気体燃料GKが、所定の閉ループ制御されたガス圧で供給され得る。つまり、気体燃料GKのガス圧と過給空気LLの過給圧との間に、所望の圧力差が維持又は形成されるように供給が行われる。
【0019】
ガス/空気混合気のための過給空気LLは、過給空気系によって供給され、過給空気閉ループ制御は、過給空気LLのための所定の閉ループ制御された過給圧を供給する。
【0020】
図3において詳細には示されていない過給圧閉ループ制御は、
図3においてブロックによって可視化されている過給圧目標値28と過給圧現在値29とに基づいており、過給圧閉ループ制御は、過給圧目標値28と過給圧現在値29との間の制御偏差に基づいて制御変数を生成し、それによって、過給圧現在値29は、過給圧目標値28に導かれる。すでに説明したように、過給圧閉ループ制御の詳細は、
図3には示されていない。
【0021】
過給空気のように、ガス/空気混合気の供給に用いられるガス又は気体燃料GKは、ガス供給系によって、閉ループ制御されたガス圧で供給され、ガス供給系のガス圧閉ループ制御34は、ガス圧目標値30をガス圧現在値31と比較し、それに従属して、ガス圧閉ループ制御34のガス圧制御パス33に関する制御変数を決定する。ガス圧閉ループ制御34は、ガス圧現在値31が、ガス圧目標値40に近づくように、又は、ガス圧目標値を追うように、制御変数32を決定する。ガス圧目標値30は、過給圧目標値28、過給圧現在値29、及び、圧力差目標値35に従属して決定される。これに関する詳細は、以下に記載される。
【0022】
ガス圧閉ループ制御34のためのガス圧目標値30の、過給圧現在値29、過給圧目標値28、及び、圧力差目標値35に従属した決定は、過給圧現在値39に従属して、及び、過給圧目標値28に従属して、一方では予備制御成分36が、他方では閉ループ制御成分37が、ガス圧目標値30に関して決定されるように行われ、予備制御成分36及び閉ループ制御成分37は、ガス圧目標値30を決定するために、圧力差目標値35で補正される。
【0023】
図3は、予備制御成分36と、微分器38によって得られた、予備制御成分36の第1の加算地点39における時間的導出とが、閉ループ制御成分37で補正され、補助変数40が決定されることを示しており、当該補助変数40は、第2の加算地点41において、ガス圧目標値30を決定するために、圧力差目標値35で補正される。
【0024】
ガス圧目標値30に関する予備制御成分36は、微分器42によって得られた過給圧現在値29の時間的導出に従属して、予備制御傾斜路44に関する勾配43が検出されるように決定され、予備制御傾斜路44の終点は、過給圧目標値28に従属して決定される。
図3から明らかであるように、予備制御傾斜路44に関する勾配43は、一方では、微分器42内で形成される過給圧現在値29の時間的導出に従属して検出され、他方では、予備制御傾斜路44に関する所定の最小勾配45に従属して決定される。勾配43としては、それぞれ、所定の最小値45及び微分器42によって形成された過給圧現在値29の時間的導出からの最大値が用いられる。
【0025】
ガス圧目標値30に関する閉ループ制御成分37は、過給圧現在値29が、予備制御成分36及び閉ループ制御成分37に従属する補助変数40で補正されるように決定される。すなわち、過給圧現在値29と、予備制御成分36及び閉ループ制御成分37に従属する補助変数40との間の差46を形成することによって決定される。この差46に従属して、第1の閉ループ制御回路の制御装置47は、出力変数として閉ループ制御成分37を検出する。
図3によると、第1の制御装置47は、比例成分48と積分成分49とを有しているので、第1の制御装置47はPI制御装置として構成されており、PI制御装置は、比例成分48と積分成分49とを加算地点50において重ね合わせることによって、ガス圧目標値30に関する閉ループ制御成分37を出力する。
【0026】
すでに説明したように、ガス圧目標値30は、予備制御成分36、閉ループ制御成分37、及び、圧力差目標値35に従属しており、
図4のブロック51は、エンジンの動作状態52に従属して、上述した方法で検出されたガス圧目標値30の代わりに、ガス圧閉ループ制御34に関する他のガス圧目標値も出力され得ることを明らかにしている。ブロック51は選択ブロックであり、当該選択ブロックは、エンジンの動作状態52に従属して、上述した方法で検出され、かつ、過給圧現在値29、過給圧目標値28、及び、圧力差目標値35に従属するガス圧目標値30を出力するか、又は、代替的なガス圧目標値30’若しくは30”若しくは30”’を出力する。
【0027】
漏れ試験機能53がアクティブである場合、選択ブロック51は、ガス圧目標値30”’として、一定のガス圧目標値を出力する。
【0028】
ブロック54を通じて圧力上昇が要求される場合、選択ブロック51は、ガス圧目標値30”として、圧力上昇におけるガス圧目標値に関するパラメータ化可能な傾斜路を選択するが、これは、二元燃料エンジンでは、液体燃料運転から気体燃料運転に切り替えられる前の場合である。
【0029】
ブロック55を通じて圧力低下が要求される場合、選択ブロック51は、ガス圧目標値30’として、圧力低下に関するパラメータ化可能な傾斜路を選択するが、これは、二元燃料エンジンでは、気体燃料運転モードから液体燃料運転モードへの切り替えが終わるときの場合である。
【0030】
気体燃料運転モードにおけるエンジンの運転に関する本発明にとって、本発明に従って検出されるガス圧目標値30は重要であり、当該ガス圧目標値は、予備制御成分36、閉ループ制御成分37、及び、圧力差目標値35に従属している。
【0031】
すでに説明したように、ガス圧閉ループ制御34は、減算地点56におけるガス圧目標値30とガス圧現在値31との間の差を形成しており、ガス圧現在値31とガス圧目標値30との間の差は、第2の閉ループ制御回路、すなわちガス圧閉ループ制御34の第2の制御装置57に、入力変数として供給される。この第2の制御装置57の出力変数58は、少なくともガス圧目標値30で補正され、それによって、ガス圧制御パス33に関する制御変数32が供給される。
【0032】
第2の制御装置57は、好ましくは、専ら積分成分を有しているI制御装置である。
【0033】
ガス圧目標値30の検出の際、過給圧現在値29及び過給圧目標値28は、対応するフィルタ59、60でフィルタにかけられ、それによって、ガス圧目標値30を決定する際の質が改善することが指摘される。同様に、好ましくは、ガス圧現在値31も、フィルタ61でフィルタにかけられる。
【0034】
本発明の有利なさらなる構成によると、ガス圧目標値30を決定するために用いられる圧力差目標値35は、ガス又は気体燃料GKの質に従属して決定される圧力差目標値であることが規定されている。
【0035】
このために、
図3の圧力差目標値生成ブロック61内では、まずガスの質から独立した圧力差目標値62が決定され、このガスの質から独立した圧力差目標値62は、修正ブロック63内で、ガスの質に関する係数64に従属して修正される。修正ブロック63は、出力変数として、ガスの質に従属した圧力差目標値35を出力する。
【0036】
したがって、二元燃料エンジン又はガスエンジンの気体燃料運転モードにおいて用いられるガス圧目標値30は、少なくとも3つの変数に従属する。すなわち、過給圧現在値29、過給圧目標値28、及び、圧力差目標値35であり、圧力差目標値35に関しては、ガスの質に従属する圧力差目標値であることが好ましい。過給圧現在値29及び過給圧目標値28に従属して、予備制御成分36及び閉ループ制御成分37が、ガス圧目標値30のために算定され、これらには少なくとも、好ましくはガスの質に従属する圧力差目標値35が重ねられ、その結果、ガス圧閉ループ制御34のためのガス圧目標値30が供給される。第1の閉ループ制御回路の第1の制御装置47は、ガス圧目標値30を、過給圧目標値28からの偏差まで追跡する。その際、予備制御成分36は、閉ループ制御成分37の負荷を軽減するので、質の高いガス圧目標値30を迅速に供給することができる。ガス圧目標値30は、ガス圧閉ループ制御34の第2の閉ループ制御回路の第2の制御装置57において用いられる。すなわち、一方では第2の制御装置57の上流において、ガス圧閉ループ制御のための制御偏差を検出するために、及び、第2の制御装置57の下流において、ガス圧制御パス33に関する制御変数32を決定する際に用いられる。
【0037】
ガス圧目標値30の予備制御成分36のための基盤として、過給圧目標値38が用いられる。圧力差目標値35に加算されると、ガス圧目標値30のための予備制御値が生じる。当該予備制御値は、安定挙動の場合、定常運転モードにおいて、実際に必要とされるガス圧目標値に対応する。負荷変動の際に、過給空気閉ループ制御の反応挙動の遅れを考慮するために、予備制御されたガス圧目標値30に、予備制御傾斜路44を通じて接近するが、当該予備制御傾斜路の勾配は、過給圧現在値29の第1の時間的導出に従属する。したがって、過給圧の時間挙動は、ガス圧目標値30に伝えられ、それによって安定した圧力挙動がもたらされる。ガス圧閉ループ制御34の反応遅れを補償するために、実際の予備制御成分36に、加算地点39における予備制御成分36の第1の時間的導出が重ねられる。
【0038】
ガス圧目標値30に関する閉ループ制御成分37を決定するために用いられる第1の閉ループ制御回路の第1の制御装置47は、予備制御成分36を、過給圧閉ループ制御の時間挙動の結果として生じる過給圧における制御偏差の分だけ修正する。比較的高速な予備制御成分36と正確な閉ループ制御成分37とを組み合わせることによって、明らかに改善された時間挙動が、閉ループ制御されたガス圧に関して、及び、過給圧とガス圧との間に生じる圧力差に関して得られる。すでに説明したように、制御装置47は、予備制御成分36によって負荷を軽減される。なぜなら、定常運転モードにおいて、制御装置47の積分成分は、完全に予備制御成分36に吸収され、それによって、閉ループ制御強化の最適化が可能になるからである。
【0039】
上述のように、圧力差目標値35は、好ましくは、ガスの質に従属する圧力差目標値である。この本発明のさらなる構成は、例えばガスの発熱量が減少する場合、一定の出力において、及び、ガス圧と過給圧との間の一定の圧力差において、ガス弁の通電時間が増大するという認識に基づいている。ガスの質が著しく変動することによって、圧力差を、ガスの特定の発熱量に合わせることは不可能になる。低い発熱量において、許容できないガスの高い噴射角が生じることを回避するためには、ガスの質に従属する圧力差目標値35を用いると有利である。
【0040】
効率が最適化された、ガスの質から独立した圧力差目標値62から出発して、ガスの質に従属する圧力差目標値35が、ガスの質に関する係数64に従属して決定される。
【0041】
ガスの現時点での発熱量の指標として、好ましくは、それ自体が知られているガスの質の制御に関する修正係数が用いられる。その際、ガスの発熱量の減少に伴って、修正係数は増大する。当該修正係数は、内部出力又は充填の算定を、外部出力に修正する。
【0042】
修正係数が、ガスの噴射時間が限界値に近づく値に達した場合、圧力差目標値は引き上げられる。この機能は、ガス噴射時間が一定であり続けるか、又はわずかに減少するようにパラメータ化されるべきである。その際、ガスの質に関する修正係数は、好ましくは最小値と最大値との両方によって限定されている。これは、
図4に可視化されており、
図4では、圧力差目標値に関する修正係数K2は、ガスの質に関する修正係数K1より上に記入されている。ガスの質に関する修正係数K1は、最小値K1‐minと最大値K1‐maxとによって限定されている。ガスの質に関する修正係数K1それぞれには、圧力差目標値に関する修正係数K2が割り当てられている。当該圧力差目標値は、最大値K3によって限定されている。
【0043】
すでに説明したように、ガス圧閉ループ制御34の制御変数32は、第2の制御装置57の出力変数58と、ガス圧目標値30との両方に従属する。加算地点65における制御装置57の出力変数58は、ガス圧目標値30で補正される。制御装置57の出力変数58は、ガス圧現在値31とガス圧目標値30との間の、減算地点56で形成される制御偏差に従属している。
【0044】
ガス圧制御パス33の要素は先行技術に対応している。したがって、ガス圧制御パス33は、ガス圧制御弁66を含んでおり、当該ガス圧制御弁は、パイロット制御装置67によって作動する。パイロット制御装置67のための入力信号は、いわゆるI/p変換器68の出力信号とオフセット値69とに従属する。I/p変換器68は、ガス閉ループ制御34の制御信号32から、パイロット制御装置67のための電流信号を生成する。パイロット制御装置67とI/p変換器68とは、好ましくは同じ原理で動作し、ガス圧制御弁66のための補助エネルギー源を供給している。オフセット値69は、調整ネジを通じて調整された、作動すべきガス圧制御弁66のバネのプレテンションのための一次圧に対応している。
【0045】
I/p変換器68、パイロット制御装置67、及び、圧力制御弁66が正常に動作している場合、安定した状態におけるガス圧現在値31は、ガス圧目標値30に対応している。調整誤差、ドリフト、及び、摩耗を補償するために、ガス圧と、したがって圧力差との正確な調整に関して、さらに第2の制御装置57を含む制御回路が必要であるが、当該制御回路はしかしながら、示されているように、純粋なI制御装置として構成され得る。なぜなら、干渉変数は徐々にしか変化しないからである。I/p変換器68、パイロット制御装置67、及び、圧力制御弁66の時間挙動における不十分さは、これによって十分に補償され得る。
【0046】
ガス圧閉ループ制御34における可能な限り効率的な制御のために、パイロット制御装置において典型的には調整ネジによって調整される正確なオフセット値69が知られていなければならない。代替的には、オフセット値69のパラメータ化を省略し、その代わりに制御装置67の出力を順応的に保存するという構成も考えられる。それによって、自動的に、全てのエラーの源が、補償−オフセットとして検出されるであろう。
【符号の説明】
【0047】
10 二元燃料エンジン
11 シリンダ
12 排ガスターボチャージャ
13 タービン
14 圧縮機
15 ピストン
16 連接棒
17 吸気弁
18 排気弁
19 燃料インジェクタ
20 燃料ポンプ
21 点火流体インジェクタ
22 点火流体貯蔵装置
23 点火流体ポンプ
24 燃焼室
25 接続導管
26 燃焼室
27 閉ループ制御系
28 過給圧目標値
29 過給圧現在値
30、30’ ガス圧目標値
30 過給圧目標値
31 ガス圧現在値
32 制御変数
33 ガス圧制御パス
34 ガス圧閉ループ制御
35 圧力差目標値
36 予備制御成分
37 閉ループ制御成分
38 過給圧目標値
38 微分器
39 第1の加算地点
39 過給圧現在値
40 補助変数
40 ガス圧目標値
41 第2の加算地点
42 微分器
43 勾配
44 予備制御傾斜路
45 最小値
45 最小勾配
46 差
47 第1の制御装置
48 比例成分
49 積分成分
50 加算地点
51、54、55 ブロック
52 動作状態
53 漏れ試験機能
56 減算地点
57 第2の制御装置
58 出力変数
59、60、61 フィルタ
61 圧力差目標値生成ブロック
62 圧力差目標値
63 修正ブロック
64 ガスの質に関する係数
65 加算地点
66 ガス圧制御弁
67 パイロット制御装置
68 I/p変換器
69 オフセット値
AG 排ガス
FK 液体燃料
GK 気体燃料
K1 修正係数
K1‐max 最大値
K1‐min 最小値
K2 修正係数
K3 最大値
LL 過給空気
ZF 点火流体