(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両には、駆動トルクを出力するエンジンに連結されて、トルクを所定の変速比で変換しつつ駆動軸に伝達する自動変速装置が備えられている。また、車両の駆動力を発生する装置としてエンジン及び駆動用モータを備えたハイブリッド車両においては、自動変速装置に駆動用モータが組み込まれる場合がある。自動変速装置には、油圧制御される複数のクラッチやブレーキが組み込まれている。また、自動変速装置に備えられる変速機構の一態様である無段変速機構には、油圧制御されるプライマリプーリ及びセカンダリプーリが組み込まれている。
【0003】
これらのクラッチやプーリ等に対して供給される作動油(オイル)の圧力を制御するため、自動変速装置には、複数の電磁弁を含むバルブユニットが備えられる。この場合、電磁弁のソレノイドやスプールに空気が噛み込まないように、バルブユニットは、常時作動油中に浸漬させておくことが必要とされる。また、電磁弁が作動油に浸漬されない場合には、電磁弁の温度が上昇し、電磁弁の損傷が引き起こされるおそれもあるため、バルブユニットは、常時作動油中に浸漬される場合が多い。さらに、バルブユニットに含まれる電磁弁が作動油中に浸漬されていれば、冷間始動時等において、作動油によって電磁弁を暖機することができる。
【0004】
油圧制御バルブユニットは、例えば、自動変速装置のミッションケースの底面や壁面に取り付けられる。ミッションケースの底面にバルブユニットが取り付けられる場合、バルブユニットは、ミッションケース内に供給されて貯留される作動油に常時浸漬された状態になり得る。一方、ミッションケースの壁面にバルブユニットが取り付けられる場合、バルブユニットを作動油に常時浸漬させるためには、バルブユニットが収容されるバルブ室内に作動油を所定量貯留させておく必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、ミッションケースの壁面に油圧制御バルブユニットが取り付けられた自動変速装置であって、バルブボディを収納するバルブボディカバーと、ミッションケースとの両者によって油溜りを形成して、ミッションケース内の作動油のオイルレベルと同等のオイルレベルを確保した自動変速装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された自動変速装置は、バルブユニットに含まれる電磁弁の一部がオイルレベルよりも上方に位置する状態で、当該電磁弁を冷却することができるものの、当該電磁弁のソレノイドやスプールに空気が噛み込むおそれがある。また、特許文献1に開示された自動変速装置は、バルブボディカバー内部がミッションケース内部と繋がっており、バルブボディカバーに囲まれた油溜りのオイルレベルがミッションケース内のオイルレベルと同じになるようにされている。このため、特許文献1に開示された自動変速装置では、バルブボディカバーの取付位置が限定される。
【0008】
一方、ミッションケース内のオイルレベルにかかわらず、バルブユニットが収容されるバルブ室のオイルレベルを所定レベル以上にするためには、所望のオイルレベルよりも上方に作動油の流入口及び排出口を設けて、バルブ室内に作動油を貯留することが考えられる。しかしながら、作動油の流入口及び排出口を、単に所望のオイルレベルよりも上方に設けただけでは、バルブ室に流入し排出される比較的高温の作動油は、バルブ室内に貯留される作動油の油面付近を流れることになって、バルブ室内の作動油の温度のバラつきが生じ得る。上述のように、バルブ室に流入する作動油は、発熱する電磁弁を冷却するのみならず、冷間始動時等において電磁弁を暖機するためにも利用される。このため、比較的高温の作動油がバルブ室内の作動油の油面付近を流れると、バルブ室内の作動油の底部側に位置する電磁弁の暖機が遅れるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ミッションケースの側面に設けられるバルブ室内の電磁弁を常時作動油に浸漬させつつ、バルブ室内の作動油の温度のバラつきを抑制可能な、新規かつ改良された自動変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車両のパワーユニットの少なくとも一部を内部に収容するミッションケースと、ミッションケースの側面に設けられ、油圧制御バルブユニットが縦置きに収容されるバルブ室と、バルブ室に作動油を流入させる流入口と、バルブ室から作動油を排出する排出口と、流入口の高さ位置及び排出口の高さ位置よりも下方に設けられて、流入口を介してバルブ室に流入し排出口を介して排出される作動油が通過する通過路と、を備え
、
前記流入口及び前記排出口が、少なくとも前記油圧制御バルブユニットに含まれる電磁弁の高さ位置よりも上方に設けられ、前記通過路が前記電磁弁よりも下方に設けられる自動変速装置が提供される。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、車両のパワーユニットの少なくとも一部を内部に収容するミッションケースと、ミッションケースの側面に設けられ、油圧制御バルブユニットが縦置きに収容されるバルブ室と、バルブ室に作動油を流入させる流入口と、バルブ室から作動油を排出する排出口と、流入口の高さ位置及び排出口の高さ位置よりも下方に設けられて、流入口を介してバルブ室に流入し排出口を介して排出される作動油が通過する通過路と、を備え、バルブ室は、ミッションケースの外周面にカバーが取り付けられて形成され、通過路は、ミッションケースの外周面とカバーの内周面との間に設けられた隔壁により形成され
る自動変速装置が提供される。
【0013】
隔壁は、ミッションケースの外周面又はカバーの内面のうちの少なくとも一方に設けられてもよい。
【0014】
自動変速装置は、ハイブリッド車両用の変速装置であり、油圧制御バルブユニットは、車両駆動用モータの動力の伝達の可否を切り替えるモータ用クラッチの断接を制御する第1の油圧制御バルブユニットであり、自動変速装置は、ミッションケースの底部に、モータ用クラッチ以外の制御対象を制御する第2の油圧制御バルブユニットが横置きに収容される主バルブ室を備えてもよい。
【0015】
自動変速装置は、主バルブ室を流れる作動油の温度に応じて第1の油圧制御バルブユニットの制御特性が設定されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、ミッションケースの側面に設けられるバルブ室内の電磁弁を常時作動油に浸漬させつつ、バルブ室内の作動油の温度のバラつきを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.自動変速装置の全体構成>
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明を適用可能な自動変速装置の一例について簡単に説明する。
図1は、エンジン1に連設された自動変速装置2を示す模式図である。
図2は、自動変速装置2のケース及びバルブ室の構成例を示す模式図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態にかかる自動変速装置2は、エンジン1の出力軸に、発電用及び駆動力発生用のモータ4が、直接的にあるいはトルクコンバータやギヤ等の動力伝達機構を介して連結されるハイブリッド車両に搭載される自動変速装置2である。本実施形態において、自動変速装置2は、変速機構3及びモータ4を含む。例えば、エンジン1又はモータ4のうちの少なくとも一方からの出力トルクが無段式の変速機構3に入力され、変速機構3からギヤ5、前輪出力軸9及びデファレンシャル機構8を介して図示しない駆動輪に出力される。
【0021】
なお、以下、本実施形態においては、無段式の変速機構3を備える例を説明するが、変速機構は有段式の変速機構であってもよい。
【0022】
無段式の変速機構3は、エンジン1からの出力トルクにより駆動されるプライマリ軸と、これに平行なセカンダリ軸とを有する。プライマリ軸にはプライマリプーリが設けられ、セカンダリ軸にはセカンダリプーリが設けられている。プライマリプーリ及びセカンダリプーリには、それぞれ油室が区画されており、油室内の圧力を調整することにより、プーリ溝幅を変化させることができる。これらのプーリ溝幅を調整して、駆動ベルト等の動力伝達部材の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸の回転数を無段変速してセカンダリ軸に伝達することが可能になる。
【0023】
また、セカンダリ軸には、ギヤ5を介して前輪出力軸9が連結されており、前輪出力軸9は、デファレンシャル機構8を介して前輪に連結されている。さらに、自動変速装置2は、前輪出力軸9に平行となる図示しない後輪出力軸を有し、前輪出力軸と後輪出力軸とは、図示しないギヤ及びトランスファクラッチを介して連結されていてもよい。後輪出力軸は、図示しないプロペラシャフト及びリアデファレンシャル機構を介して後輪に連結され得る。
【0024】
また、無段式の変速機構3に対してエンジン1からの出力トルクを伝達するため、エンジン1の出力軸とプライマリ軸との間には、図示しないトルクコンバータ及び前後進切替機構等が設けられている。前後進切替機構は、遊星歯車列やクラッチ機構、ブレーキ機構等によって構成され、プライマリ軸の回転方向を切り替え可能になっている。
【0025】
モータ4には、インバータ6が接続され、インバータ6により、バッテリ7からの直流電力が交流電力に変換されてモータ4に供給されてモータ4が駆動される。また、モータ4で発電された電力がインバータ6を介してバッテリ7に供給されて、バッテリ7が充電される。モータ4とプライマリ軸とはモータ用クラッチを介して連結されており、モータ4とプライマリ軸との間の動力伝達の可否を切り替え可能になっている。
【0026】
図2に示すように、本実施形態にかかる自動変速装置2は、ミッションケースとして第1のケース10、第2のケース20及び第3のケース30を備える。第2のケース20は、エンジン1側に設けられ、内部にトルクコンバータが収容されるコンバータケースである。第3のケース30は、内部に前後進切替機構や無段式の変速機構3等が収容されるメインケースである。第1のケース10は、内部に主としてモータ4が収容されるモータケースである。
【0027】
なお、
図2に示したミッションケースの構成は一例であって、第1のケース10、第2のケース20及び第3のケース30のうちの幾つかのケースが一体となっていてもよい。また、ミッションケースが、第1のケース10、第2のケース20及び第3のケース以外のケースをさらに有していてもよい。例えば、ミッションケースは、内部にトランスファクラッチが収容されるトランスファケースをさらに有していてもよい。さらに、それぞれのケースの配列順序も上記の例に限られない。
【0028】
上述したプライマリプーリ、セカンダリプーリ、トルクコンバータ、前後進切替機構、又はトランスファクラッチ等に作動油を供給するために、第3のケース30の底部には、主油圧制御バルブユニット(第2の油圧制御バルブユニット)が収容される主バルブ室90が設けられている。また、上述したモータ用クラッチに作動油を供給するために、第1のケース10の側面には、油圧制御バルブユニット(第1の油圧制御バルブユニット)が収容されるバルブ室100が設けられている。バルブ室100は、例えば、主バルブ室90とは別に追加的に設けられ得る。また、バルブ室100は、例えば、レイアウト上の理由により、第1のケース10の側面に設けられ得る。
【0029】
主バルブ室90に収容される主油圧制御バルブユニットは、例えば、自動変速装置2の油圧回路の主油路のライン圧を制御する電磁比例弁を備える、また、主油圧制御バルブユニットは、バルブ室100に収容された油圧制御バルブユニットへ供給する油圧を制御する電磁比例弁や、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの油室へ供給する油圧を制御する電磁比例弁、前後進切替機構その他のクラッチ等へ供給する油圧を制御する電磁比例弁、その他の減圧弁等を備える。主油圧制御バルブユニットには、図示しないオイルポンプにより圧送される作動油が供給され、各電磁弁が図示しないトランスミッション制御装置により制御されることで、各部への油圧が制御される。
【0030】
主バルブ室90は、ミッションケース(第3のケース30)の底部に設けられ、主バルブ室90内には、主油圧制御バルブユニットが横置きに配置される。つまり、複数のバルブが略同一の高さ位置に配置される(以下、主バルブ室90を、「横置きバルブ室90」と称する場合がある。)。かかる主バルブ室90には、ミッションケース(第3のケース30)内に供給され落下する作動油が流れ込むようになっており、主油圧制御バルブユニットは常時作動油に浸漬され、作動油によって電磁比例弁が暖機あるいは冷却され得る。横置きの主バルブ室90内では、作動油が全体に分散しながら流れやすいことから、作動油の温度のバラつきは小さくなっている。
【0031】
主バルブ室90には、温度センサとして、例えば、サーミスタ95が設けられている。サーミスタ95は、主バルブ室90内の作動油の温度を検出する。主油圧制御バルブユニットに含まれる電磁弁のソレノイドは、油温によって特性が変化し得る。また、電磁弁のスプール等の動作も、油温によって変化し得る。このため、電磁弁は、サーミスタ95により検出される油温に応じて制御特性を補正しつつ制御される。例えば、トランスミッション制御装置は、油温に応じて電磁弁の制御量を補正する補正マップを参照して、電磁弁の制御量を補正してもよい。
【0032】
バルブ室100に収容される油圧制御バルブユニットは、例えば、モータ用クラッチへ供給する油圧を制御する電磁比例弁、その他の減圧弁等を備える。油圧制御バルブユニットには、主油圧制御バルブユニットを介して作動油が供給され、電磁弁が図示しないトランスミッション制御装置により制御されることで、各部への油圧が制御される。
【0033】
バルブ室100は、ミッションケース(第1のケース10)の側面に設けられ、バルブ室100内には、油圧制御バルブユニットが縦置きに配置される。つまり、複数のバルブが、異なる高さ位置に配置される(以下、バルブ室100を、「縦置きバルブ室100」と称する場合がある。)。かかるバルブ室100には、ミッションケース(第1のケース10)内に供給される作動油が流れ込み、さらに、バルブ室100からミッションケース(第2のケース20)内へと作動油が排出される。バルブ室100内に収容された油圧制御バルブユニットは、バルブ室100内に貯留される作動油に浸漬され得る。
【0034】
本実施形態にかかる自動変速装置2では、バルブ室100がミッションケース(第1のケース10)の側面に設けられているものの、内部に収容された電磁弁が作動油に浸漬され、かつ、作動油の温度のバラつきが抑制されている。なお、本実施形態にかかる自動変速装置2では、バルブ室100に温度センサは設けられていない。
【0035】
<2.バルブ室(縦置きバルブ室)の構成例>
次に、
図3〜
図6を参照して、ミッションケース(第1のケース10)の側面に設けられた縦置きバルブ室100の構成例について具体的に説明する。
図3は、第1のケース10を第3のケース30側から見た斜視図であり、
図4は、第1のケース10を第2のケース20側から見た斜視図である。
図5は、第1のケース10の側面図である。
図6は、第1のケース10の側面に取り付けられるカバー150の斜視図である。
【0036】
第1のケース10は、ケース本体11と、第1のフランジ13と、第2のフランジ15とを有する。第1のフランジ13は、ケース本体11の第2のケース20側の端部に設けられて第2のケース20に当接して連結される。第2のフランジ15は、ケース本体11の第3のケース30側の端部に設けられて第3のケース30に当接して連結される。第1のケース10は、第2のケース20に対向する面に、モータ収容部19を有する。この他、第1のケース10は、第2のケース20及び第3のケース30に対向する面に、回転軸あるいは軸受が保持される複数の保持孔を有する。
【0037】
かかる第1のケース10の側面には、バルブ室100を構成する凹部110が設けられている。凹部110の周縁部101は、装着されるカバー150の外周部に設けられたフランジ部151が当接して取り付けられる当接面となっている。第1のケース10の凹部110に対してカバー150が取り付けられることにより、凹部110及びカバー150の内周部によりバルブ室100が形成される。カバー150のフランジ部151と凹部110の周縁部101との間には、シールリング等のシール部材が配置され、カバー150は第1のケース10に対して液密に取り付けられる。
【0038】
凹部110の内部には、油圧制御バルブユニットが固定される固定部103が設けられている。油圧制御バルブユニットは、当該固定部103に縦置きに固定される。また、凹部110の内部の上方側には、作動油の流入口131と排出口121とが設けられている。作動油の流入口131は、凹部110内の第3のケース30側の上部に設けられている。また、作動油の排出口121は、凹部110内の第2のケース20側の上部に設けられている。流入口131は、第1のケース10内に供給された作動油をバルブ室100内に流入させる。排出口121は、バルブ室100内に流入した作動油を第2のケース20側に排出する。なお、流入口131及び排出口121の位置は逆であってもよい。バルブ室100内への作動油の流入、及び、バルブ室100からの作動油の排出は、個別のポンプ等を用いることなく、ミッションケース内への作動油の流れにより達成される。
【0039】
また、凹部110の内部には、ケース側隔壁111が設けられている。同様に、カバー150の内周部には、カバー側隔壁153が設けられている。カバー側隔壁153は、カバー150を第1のケース10に取り付けた際にケース側隔壁111に当接するように、ケース側隔壁111に対応する位置に設けられている。つまり、カバー150が第1のケース10に取り付けられた際に、ケース側隔壁111及びカバー側隔壁153が共働して、作動油の流れを遮るようになっている。
【0040】
かかるケース側隔壁111及びカバー側隔壁153は、縦方向(上下方向)に沿って設けられている。ケース側隔壁111及びカバー側隔壁153の下部は、それぞれ凹部110又はカバー150の内周部の下側の面に接しておらず、間隙が設けられている。かかる間隙は、流入口131を介してバルブ室100に流入し、排出口121を介して排出される作動油の通過路119となる。ケース側隔壁111及びカバー側隔壁153の上部は、少なくとも作動油の油面よりも高い位置まで延設されていればよく、それぞれ凹部110又はカバー150の内周部の上側の面に接していなくてもよい。かかるケース側隔壁111及びカバー側隔壁153は、バルブ室100内に貯留される作動油の油面側を、作動油の流入口131が設けられた領域と、排出口121が設けられた領域とに区画するように設けられている。このとき、油圧制御バルブユニットは、流入口131が設けられた領域に配置される。
【0041】
なお、ケース側隔壁111及びカバー側隔壁153により、バルブ室100における作動油の流れが完全に遮られなくてもよく、作動油の流れに対して所定程度の抵抗が与えられるようにケース側隔壁111及びカバー側隔壁153が設けられていればよい。
【0042】
バルブ室100内に流入する作動油の油面は、流入口131又は排出口121のうちのいずれか高さ位置が低い開口の位置に形成される。本実施形態にかかる自動変速装置2では、作動油の流入口131と排出口121とが略同一の高さ位置に設けられており、バルブ室100内に流入する作動油の油面は、流入口131及び排出口121の高さ位置に形成される。固定部103に固定される油圧制御バルブユニットのうち、少なくとも電磁弁は、油面の位置よりも下方に、つまり、流入口131及び排出口121の高さ位置よりも下方に配置される。これにより、少なくとも電磁弁が常時作動油に浸漬され、ソレノイドやスプールに空気が噛み込まれることがない。
【0043】
また、バルブ室100内に貯留される作動油の油面側が、流入口131が設けられた領域と、排出口121が設けられた領域とに区画されていることから、流入口131を介してバルブ室100内に流入した作動油が排出口121から排出されるまでに、一旦貯留された作動油の下側に向かい、通過路119を通過した後に上昇して、排出口121に至るようになる。したがって、油温の低い作動油が、貯留する作動油の下側に滞留することがなくなり、バルブ室100内の温度のバラつきが抑制される。その結果、電磁弁等の暖機の遅れが抑制される。
【0044】
図7は、参考例として、流入口131及び排出口121がバルブ室100の上方側に設けられているものの、流入口131の高さ位置及び排出口121の高さ位置よりも下方に設けられる作動油の通過路が設けられていないバルブ室100の場合の作動油の流れを示す説明図である。
【0045】
例えば、冷間始動時等においては、バルブ室100内に貯留されている作動油の油温は低く、エンジン1の始動後に時間が経つにつれて、自動変速装置2のミッションケース内を循環する作動油の油温は上昇する。しかしながら、貯留する作動油のうち、低温の作動油が下側に沈みやすいために、流入口131を介してバルブ室100内に流入する暖められた作動油が油面OL付近を流れて排出口121から排出され、油温の高い作動油ばかりが循環するようになる。その結果、バルブ室100内の作動油のうち油面OLに近い領域の作動油の油温が上昇する一方、低温の作動油が下側に沈んで滞留し、油温のバラつきが生じることとなる。これにより、バルブ室100内の作動油に浸漬された電磁弁50の暖機の遅れが発生し得る。
【0046】
これに対して、
図8は、本実施形態にかかる自動変速装置2のバルブ室100内の作動油の流れを示す説明図である。本実施形態にかかる自動変速装置2では、バルブ室100内に、流入口131の高さ位置及び排出口121の高さ位置よりも下方に設けられて、流入口131を介してバルブ室100に流入し排出口121を介して排出される作動油が通過する通過路119が形成されている。通過路119は、少なくとも電磁弁20よりも下方に設けられることが好ましい。ここでいう「電磁弁20よりも下方」とは、通過路119の高さ位置が、電磁弁20の高さ位置と同等である場合も含む。
【0047】
このため、流入口131を介してバルブ室100に流入する比較的高温の作動油が排出口121から排出される際には、必ず下側の通過路119を通過することとなる。したがって、低温の作動油が下側に滞留することがなくなり、バルブ室100内の作動油の油温のバラつきが抑制される。その結果、バルブ室100内の作動油に浸漬された電磁弁50の暖機の遅れを防ぐことができる。
【0048】
このように、本実施形態にかかる自動変速装置2は、流入口131を介してバルブ室100に流入する作動油が、一旦下方の通過路119を通過するように構成されていることで、バルブ室100内の作動油の油温のバラつきを抑制することができる。したがって、バルブ室100内の下側に電磁弁50を浸漬させたとしても、電磁弁50の暖機の遅れを防ぐことができる。
【0049】
また、通過路119は、バルブ室100内に隔壁を設けることによって容易に形成することができる。さらに、通過路119を通過する作動油の流れは、個別のポンプ等を用いることなく、ミッションケース内の作動油の流れによって形成され得る。したがって、本実施形態によれば、容易に縦置きバルブ室100内の油温のバラつきを抑制することができる。
【0050】
なお、バルブ室100内に隔壁を設けるにあたり、ケース側隔壁111及びカバー側隔壁153をそれぞれ設けることは必須ではなく、例えば、第1のケース10の凹部110のみから隔壁を立ち上げてもよく、あるいは、カバー150の内面のみから隔壁を立ち上げてもよい。さらには、通過路119が、流入口131の高さ位置及び排出口121の高さ位置よりも下方に設けられて、流入口131を介してバルブ室100に流入し排出口121を介して排出される作動油が通過するように構成される限り、その形成の仕方は限定されない。
【0051】
さらに、バルブ室100内の作動油の油温のバラつきが抑制されることにより、電磁弁50の周囲の作動油の油温と、主バルブ室90内の作動油の油温との差が小さくなる。したがって、バルブ室100内に温度センサを備えることなく、主バルブ室90に備えられたサーミスタ95により検出される油温に基づいて、バルブ室100内の電磁弁50の制御特性を補正しつつ制御することができる。例えば、トランスミッション制御装置は、主バルブ室90に設けられたサーミスタ95により検出される油温に基づき、油温と電磁弁50の補正量との関係をあらかじめ設定した補正マップを参照して、電磁弁50の制御量を補正してもよい。
【0052】
<3.変形例>
ここまで、本実施形態にかかる自動変速装置2について説明した。本実施形態にかかる自動変速装置2の構成は、上述の態様に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。以下、自動変速装置2の一変形例を説明する。
【0053】
図9は、変形例にかかる自動変速装置のミッションケース(第1のケース10)の側面図である。変形例にかかる自動変速装置では、バルブ室100内に縦方向(上下方向)に沿って配置される隔壁141だけでなく、隔壁141から、流入口131が設けられた領域側へと横方向に延びる隔壁143が設けられている。隔壁143には、複数の通過孔145が設けられている。バルブ室100内に備えられる油圧制御バルブユニット60の電磁弁50は、隔壁141,143によって区画された2つの領域のうち、流入口131が設けられた領域に配置されている。
【0054】
かかる隔壁143は、流入口131を介してバルブ室100に流入した作動油を通過させるものの、当該作動油の流れに対して抵抗を与え得る。このため、
図10に示すように、流入口131を介してバルブ室100に流入した作動油は、通過路119に向けて一定の流れを形成することなく、隔壁143よりも上流側の、流入口131が設けられた領域内で分散しやすくなる。このため、電磁弁50が配置された領域内での作動油の油温のバラつきが、より抑制されやすくなる。
【0055】
かかる隔壁143の通過孔145の態様は、特に限定されない。例えば、通過孔145の大きさや形状は、適宜選択されてよい。また、通過孔145は、隔壁143に設けられた開口であってもよいし、隔壁143の端部に設けられた溝ないしスリットとカバー150の内周面とにより形成されてもよい。
【0056】
<4.まとめ>
以上、本実施形態にかかる自動変速装置2は、油圧制御バルブユニット60が縦置きに取り付けられる縦置きバルブ室100の上方に、作動油の流入口131及び排出口121を備える。したがって、バルブ室100内に取り付けられる油圧制御バルブユニット60に含まれる電磁弁50が、バルブ室100内に貯留される作動油に常時浸漬され得る。
【0057】
また、自動変速装置2は、バルブ室100内の下方に、流入口131を介してバルブ室100内に流入し、排出口121から排出される作動油が通過する通過路119を有する。したがって、作動油は、必ず下側に移動した後に上昇して排出口121から排出される。このため、例えば、冷間始動時等においても、低温の作動油がバルブ室100内の下側に沈んで滞留することがなくなり、バルブ室100内の作動油の油温のバラつきを抑制することができる。これにより、電磁弁50の暖機の遅れが発生することを防ぐことができる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
例えば、上記の実施形態では、ミッションケース(第3のケース30)の底部に、主油圧制御バルブユニットが横置きに収容される主バルブ室90が設けられ、ミッションケース(第1のケース10)の側面に、別の油圧制御バルブユニットが縦置きに収容されるバルブ室100が設けられていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、自動変速装置2のクラッチやプーリ等へ供給される油圧を制御するすべての油圧制御バルブユニットが、ミッションケースの側面に設けられたバルブ室に縦置きに配置された自動変速装置であっても本発明を適用することができる。この場合、油圧制御バルブユニットに含まれる少なくとも電磁弁がすべて作動油に浸漬されるように流入口及び排出口が設けられ、かつ、バルブ室の下方に通過路が設けられればよい。かかる自動変速装置であっても、少なくとも電磁弁が常時作動油に浸漬されるとともに、バルブ室内の作動油の油温のバラつきが抑制され、電磁弁の暖機の遅れを防ぐことができる。
【0060】
また、上記の実施形態では、ハイブリッド車両に搭載される自動変速装置2を例にとって説明したが、本発明はかかる例に限定されない。自動変速装置は、車両の駆動力を発生する装置としてエンジンのみを備えた車両に搭載される自動変速装置であってもよい。