(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
まず、本発明の実施形態における燃料電池の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態における燃料電池スタック(燃料電池)の、セル積層方向に沿った断面を示す概略断面図である。
図2は、
図1のA−A断面図であって、全体として略直方体形状を成す燃料電池スタックの略中央近傍において、セル積層方向に垂直な断面(平板状を成す単セルに沿った断面)を示すものである。
【0014】
燃料電池スタック1は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力を発生する。
図1に示すように、燃料電池スタック1は、矩形状の単セル20を複数積層したセル積層体2と、ケース3と、第1の衝撃保護体4と、第2の衝撃保護体5とを備える。
【0015】
単セル20(
図2参照)は、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合してなる膜電極接合体を、セパレータによって挟持することにより構成されている。なお、燃料電池スタック1における膜電極接合体の積層数は、燃料電池スタック1に要求される出力に応じて任意に設定可能である。複数の単セル20は、セル積層方向S(
図1)に沿って積層され、セル積層体2を構成している。
【0016】
ケース3は、略直方体形状の容器であり、セル積層体2と、第1の衝撃保護体4と、第2の衝撃保護体5と、を少なくとも収容する。ケース3は、セル積層体2と所定間隔の隙間をあけた状態でセル積層体2を覆うように設けられている。
【0017】
ケース3とセル積層体2のセル積層方向Sに沿う側面との間には、衝撃保護体(第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5)が配置されている。この第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5は、セル積層方向Sに垂直な断面でみたときに、
図2に示すように、単セル20の角部20cを間に挟むように配置されている。
【0018】
第1衝撃保護体4は、略長方形断面を成すセル積層体2のセル積層方向Sに沿う側面のうち短面側の側面(
図1に示す短面2A)に沿って、セル積層方向Sに延在して配置される。セル積層方向Sに対して垂直な断面でみたときには、
図2に示すように、第1衝撃保護体4は、単セル20の短辺20aの両端側(言い換えれば、単セル20の角部20c近傍)に配置されている。本実施形態では、第1衝撃保護体4は、略四角断面を成す棒状部材で構成される。しかしながらこの例に限定されず、本実施形態における第1衝撃保護体4は、セル積層体2の単セル20間のずれの発生を抑制可能な機能を有していれば、その形状や個数等を適宜変更することが可能である。
【0019】
第2衝撃保護体5は、セル積層体2のセル積層方向Sに沿う側面のうち長面側の側面(
図1に示す長面2B)に沿って、セル積層方向Sに延在して配置される。セル積層方向Sに対して垂直な断面でみたときには、
図2に示すように、第2衝撃保護体5は、単セル20の長辺20bの両端側(言い換えれば、単セル20の角部20c近傍)に配置されている。本実施形態では、第2衝撃保護体5は、略四角断面を成す棒状部材で構成される。しかしながら、この例に限定されず、本実施形態における第2衝撃保護体5は、セル積層体2の単セル20間のずれの発生を抑制可能な機能を有していれば、その形状や個数等を適宜変更することが可能である。
【0020】
ところで、セル積層体2の単セル20間のずれは、セル積層方向S(
図1参照)に対して垂直な方向(
図2では上下方向(矢印P方向))で発生しやすい。
図2の矢印Pは、振動の衝撃加速度が加わる方向を示す。
図2の矢印P方向に振動に起因する衝撃加速度が加わると、第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5は衝撃加速度を受け止め、衝撃反力Fa、Fbとそれに伴う搖動モーメントMa、Mb(搖動モーメントMa、Mbは、
図2に示す距離a、bを用いて、Ma=Fa×a、Mb=Fb×bと示される。距離a、bの詳細は後述)が発生する。この搖動モーメントMaと、搖動モーメントMbは相互に逆回転方向であり、これら搖動モーメントの大きさが異なる場合には、セル積層体2の単セル20間にずれが生じるおそれがある。つまり、燃料電池スタック1におけるセル積層体2の単セル20間のずれの発生を抑制するためには、搖動モーメントを抑制することが好ましい
【0021】
そこで、搖動モーメントを抑制する方法として、ケース3とセル積層体2との間に配置する複数の衝撃保護体のそれぞれの弾性率を同じにし、当該衝撃保護体の強度を上げることで(部材を厚くすることで)、搖動モーメントを抑制するという考え方がある。しかしながら、この手法では、衝撃保護体の厚さを大きくしているため、燃料電池スタックの体格が大きくなるという問題が発生してしまう。このような燃料電池スタックの体格が大きくなる問題を解決することを意図して、衝撃保護体の厚みを薄くした場合、各々の衝撃保護体が同じ弾性率であると搖動モーメントが抑制できなくなってしまう。
【0022】
以上に鑑みて、本発明者らは種々の実験を重ねた結果、次のように衝撃保護体の弾性率を設定すれば、衝撃保護体の厚みを薄くしながら搖動モーメントを抑制できるという知見を見出した。この知見に基づき本実施形態では、第1衝撃保護体4の弾性率Eaと、第2衝撃保護体5の弾性率Ebとの比は、
図2に示す距離a、距離bを用いた場合、下記式(1)の関係を満たすように設定される。
Ea/Eb=b/a・・・(1)
(b/a≒(長辺20bの幅Db)/(短辺20aの幅Da))
【0023】
上記式(1)における距離aは、次のように設定されている。すなわち、
図2に示すセル積層方向に垂直な断面でみたときに、第1衝撃保護体4を通り、単セル20における第1衝撃保護体4が配置された一辺(
図2に示す短辺20a)に沿う方向に対して垂直な方向に延びる第1延長線L1と、単セル20の重心Gを通り、上記短辺20aに沿う方向に対して垂直な方向に延びる第1重心延長線L1gとの間の距離を、距離aと設定する。
【0024】
上記式(1)における距離bは、次のように設定されている。すなわち、
図2に示すセル積層方向に垂直な断面でみたときに、第2衝撃保護体5を通り、単セル20における第2衝撃保護体5が配置された他辺(
図2に示す長辺20b)に沿う方向に対して垂直な方向に延びる第2延長線L2と、単セル20の重心Gを通り、長辺20bに沿う方向に対して垂直な方向に延びる第2重心延長線L2gとの間の距離を、距離bと設定する。
【0025】
以上のように本実施形態では、上記式(1)に示す関係に基づき、第1衝撃保護体4の弾性率と第2衝撃保護体5との弾性率とを設定している。これにより、
図2に示す、単セル20の重心Gを中心として発生する互いに逆方向の搖動モーメント(Ma、Mb)を同じ値にすることができ、逆方向の搖動モーメントが互いに相殺されることとなる。そのため、セル積層体2の搖動が抑制され、セル積層体2の単セル20間のずれの発生を抑制することができる。
【0026】
なお、燃料電池スタック1の長辺方向(
図2では左右方向)の両端部には、セル積層方向に連通した連通孔30が複数形成されている。両端部のうち一方側の3つの連通孔30は、酸化剤ガス供給連通孔、燃料ガス供給連通孔、冷却媒体供給連通孔のいずれかを構成するものである。この酸化剤ガス供給連通孔は、酸化剤ガス(例えば酸素含有ガス)を供給する一方、燃料ガス供給連通孔は、燃料ガス(例えば水素含有ガス)を供給し、冷却媒体供給連通孔は冷却媒体を供給するものである。両端部のうちの他方側の3つの連通孔30は、酸化剤ガス排出連通孔、燃料ガス排出連通孔、冷却媒体排出連通孔のいずれかを構成するものである。この酸化剤ガス排出連通孔は、酸化剤ガスを排出するためのものであり、燃料ガス排出連通孔は燃料ガスを排出するためのものであり、冷却媒体排出連通孔は冷却媒体を排出するためのものである。
【0027】
続いて変形例について説明する。
図3(A)は第1変形例における燃料電池スタックのセル積層方向に垂直な断面を示す。
図3(B)は、第2変形例における燃料電池スタックのセル積層方向に垂直な断面を示す。
図3に示す変形例における燃料電池スタックは、
図1及び
図2で示した第1衝撃保護体及び第2衝撃保護体の個数や形状等を変化させたもので、それ以外の構成や機能は同じである。従って、既に説明した構成や機能と同じ部分についてはその説明を省略する。
【0028】
第1変形例における燃料電池スタック1では、
図3(A)に示すように、第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5は、単セル20の長辺20b及び短辺20aに沿って断続的に配置されている。詳細には、セル積層方向に対して垂直な断面でみたときに、第1衝撃保護体4は、単セル20の短辺20aの両端側(言い換えれば、角部20c近傍)に配置されると共に、短辺20aの中央側に1つ配置、すなわち計6個配置されている。第2衝撃保護体5は、単セル20の長辺20bの両端側(言い換えれば、角部20c近傍)に配置されると共に、単セル20の長辺20bの中央側に1つ配置、すなわち計6個配置されている。
【0029】
第2変形例における燃料電池スタック1では、第1衝撃保護体4の厚さtaと、第2衝撃保護体5の厚さtbとを異ならせている。例えば
図3(B)に示すように、第1衝撃保護体4により大きい衝撃反力が発生するように、第1衝撃保護体4の厚さtaを第2衝撃保護体5の厚さtbよりも薄くすることが好適である。なお、第1衝撃保護体4の厚さtaとは、セル積層方向に対して垂直な断面でみたときの、第1衝撃保護体4の厚さ方向(
図3では左右方向)の大きさ(幅)を意味する。第2衝撃保護体5の厚さtbとは、セル積層方向に対して垂直な断面でみたときの、第2衝撃保護体5の厚さ方向(
図3では上下方向)の大きさ(幅)を意味する。
【0030】
以上説明した本実施形態では、第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5のそれぞれは、
図2に示したように、単セル20の4つの角部20cを挟むように配置されているが(言い換えれば、第1衝撃保護体4を角部20c近傍に4個、第2衝撃保護体5を角部20c近傍に4個)、この例に限定されない。例えば、単セル20における対向する一対の角部近傍(すなわち、2つの角部20c近傍)のみに第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5を配置しても良い。この場合、第1衝撃保護体4は2個、第2衝撃保護体5は2個配置されることとなる。その他、第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5としての機能を有していれば、第1衝撃保護体4及び第2衝撃保護体5の個数や形状等を適宜変更することが可能である。
【0031】
他の変形例として、第1衝撃保護体4の材料の硬度Kaと、第2衝撃保護体の材料の硬度Kbとの比は、
図2に示す距離a、距離bを用いた場合、下記式(2)の関係を満たすように設定しても良い(
図4(A)参照)。
Ka/Kb=b/a・・・(2)
【0032】
また、第1衝撃保護体4をケース3内に収容するときの予圧縮率Raと、第2衝撃保護体5をケース3内に収容するときの予圧縮率Rbとを異ならせてもよい。予圧縮率は,予圧縮による保護体の厚さの変形量Δtを予圧縮前の厚さtで除した値である。振動に起因する衝撃加速度が燃料電池スタックに加わった場合に生じる衝撃反力Fa、Fb(
図2参照)を仮定した場合に、衝撃反力Fa、Fbと予圧縮率Ra、Rbとの関係を、
図4(B)に示す関係に基づき設定しても良い。より詳しくには,第1衝撃保護体4と第2衝撃保護体5の横弾性係数をGとすると,予圧縮率Raと衝撃反力Faの関係はFa=G{(Ra−1)+1/(Ra−1)
2},予圧縮率Rbと衝撃反力Fbの関係はFb=G{(Rb−1)+1/(Rb−1)
2}となる。したがって
図2に示す距離a、距離bを用いた場合、予圧縮率Ra,Rbは,下記式(3)の関係を満たすように設定される。
{(Ra−1)+1/(Ra−1)
2}/{(Rb−1)+1/(Rb−1
)
2}=b/a・・・(3)
【0033】
また、第1衝撃保護体4の予圧縮前の厚さtaと、第2衝撃保護体5の予圧縮前の厚さtbとを異なる厚さとする場合には、次のように設定することが好適である。すなわち、振動に起因する衝撃加速度が燃料電池スタックに加わった場合に生じる衝撃反力Fa、Fb(
図2参照)を仮定した場合に、衝撃反力Fa、Fbと厚さの逆数1/ta、1/tbとの関係を、
図4(B)に示す関係に基づき設定することが好適である。より詳しくには、第1衝撃保護体4と第2衝撃保護体5について、横弾性係数G、予圧縮による厚さの変形量Δtの場合,厚さtaと衝撃反力Faの関係はFa=GΔt{(1/ta−1/Δt)+1/(1/ta−1/Δt)
2},厚さtbと衝撃反力Fbの関係はFb=GΔt{(1/tb−1/Δt)+1/(1/tb−1/Δt)
2}となる。したがって
図2に示す距離a、距離bを用いた場合、厚さta,tbは,下記式(4)の関係を満たすように設定される。
{(1/ta−1/Δt)+1/(1/ta−1/Δt)
2}/{(1/tb−1/Δt)+1/(1/tb−1/Δt)
2}=b/a・・・(4)
予圧縮による厚さの変形量Δtが大きい場合は,簡易的に下記式(5)の関係を満たすように設定してもよい。
{(1/ta−1)+1/(1/ta−1)
2}/{(1/tb−1)+1/(1/tb−1)
2}=b/a・・・(5)
【0034】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。