(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記巻き取り半径検出手段は、前記スプールの回転を検出する回転検出手段と、該回転検出手段の検出信号に基づいて前記スプールに巻回される釣糸の巻き取り半径を算出する半径算出手段とによって構成され、
前記巻き取り半径検出手段により検出される前記スプールの釣糸巻き取り半径は、前記半径算出手段により算出された釣糸の巻き取り半径であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
前記制御手段は、前記巻き取り半径検出手段により検出された釣糸の巻き取り半径に比例する大きさの電流を前記制動手段に印加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用リール。
前記制動手段は、パウダクラッチ、ヒステリシスクラッチ、磁気粘性流体を用いたクラッチ、電磁アクチュエータを用いたクラッチ、渦電流ブレーキ方式、発電ブレーキ方式、及び、回生ブレーキ方式のうちのいずれかから成るドラグ装置であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の魚釣用リール。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る魚釣用リールの実施形態について説明する。
まず、
図1を参照して、本発明に係る魚釣用リールの基本的構成の一例を概略的に説明する。図示の魚釣用リールは、両軸受型リールとして構成されており、釣糸109を巻回可能なスプール101と、スプール101を回転可能に支持する支軸としてのスプール軸102と、印加される電流に応じてスプール101の回転に対する制動力を電磁的に変化可能な制動手段としての電磁ドラグ装置103と、スプール101の回転を検出する回転検出手段としての回転検出器104と、電磁ドラグ装置103に印加される電流を制御する制御手段としての制御装置105と、スプール101の回転に対する制動力を設定する(したがって、電磁ドラグ装置103に対する印加電流を設定する)ための設定手段としての操作レバー106と、スプール軸102を支持するリール本体を形成するサイドプレート107と、例えばハンドル操作によってスプール101を回転させるトルクを発生させるための駆動部108とを備える。
【0017】
スプール101は、両側にフランジ101a,101aを有する円筒状を成し、両側のフランジ101a,101aを繋ぐ巻回胴部101bに釣糸109を巻回することができる。スプール101は駆動部108から伝わるトルクによって回転され、駆動部108からスプール101に伝わるトルクの大きさは、電磁ドラグ装置103によって調整される。なお、スプール101を回転可能に支持するスプール軸102はサイドプレート107によって両端が支持される。
【0018】
特に、本構成では、スプール軸102が駆動部108によって回転され、駆動部108からのトルクがスプール軸102および電磁ドラグ装置103を介してスプール101に伝えられるようになっている。この場合、駆動部108は、スプール軸102に直結されるハンドルによって構成されてもよく、あるいは、ハンドルを歯車等の適切な伝達機構を介してスプール軸102に結合することによって構成されてもよい。また、駆動部108は、このようなハンドルによってユーザが手動でトルクを発生させるものであってもよいが、モータや原動機によってトルクを発生させるものであってもよい。
【0019】
また、電磁ドラグ装置103は、駆動部108とスプール101との間のトルク伝達を継脱する、いわゆるクラッチの役割を果たす。この電磁ドラグ装置103の作用により、スプール101に巻き取られる釣糸109に過大な張力がかかった際には、釣糸109の破断を避けるべくスプール101を空転させることができる。この場合、制御装置105から電磁ドラグ装置103に印加される電流の大きさによって、スプール101の空転が始まる閾値となる張力(ドラグ力)を調節することが可能となっている。また、操作レバー106は、ユーザが所望のドラグ力(したがって、釣糸の所望の設定張力(目標張力)T)を任意に設定入力できる操作部であり、入力されるドラグ力をボリューム抵抗等を利用して電気信号に変換する。
【0020】
また、制御装置105は、回転検出器104から検出信号を受けてスプール101の回転状態、特にスプール101の回転量を検出する信号処理回路としての回転検出部1051と、回転検出部1051により検出されるスプール101の回転量に基づいてスプール101に巻回される釣糸109の巻き取り半径R(本発明では、スプールに巻回される釣糸109の最大外径部分の半径を釣糸巻き取り半径Rと定義する)を算出する半径算出手段としての半径算出部1052と、半径算出部1052により算出された釣糸の巻き取り半径と操作レバー106からの操作信号(設定張力)とに基づいて電磁ドラグ装置103に印加すべき電流の大きさを決定する電流決定部1053と、電流決定部1052で決定される信号を外部電源(図示せず)から供給される電力によって増幅(制御)して電磁ドラグ装置103の励磁コイルに供給する増幅部1054とを有する。
【0021】
この場合、回転検出器104は、いわゆるインクリメンタル式のロータリーエンコーダーであり、スプール101と同期して回転するパルス板とフォトセンサとによって構成される。パルス板には円周上に等間隔のスリットが設けられる。フォトセンサによってスリットの有無を検出することができるため、パルス板の回転と同期したパルス波信号が得られる。このパルス波の数を数えることで、スプール101の回転量を計測できる。また、フォトセンサを複数配置することにより、スプールの回転方向の検出を行なうこともできる。しかしながら、スプール101の回転検出方法はこの方式に限らず、その他の公知技術を用いてもよい。
【0022】
半径算出部1052は、前述したように回転検出部1051からの検出信号を利用してスプール101に巻回された釣糸109の半径Rを検出する。一般に、釣糸109の伸びは無視できる程度に小さく、スプール101への釣糸109の巻き取りに十分な再現性があると見なせるため、所定の釣糸巻き取り半径R0からの半径変化量は、スプール101の回転量によって一意に決まる。そのため、本実施例では、電源投入時や釣糸巻き取り量が100%になったとき等にユーザからの入力を受け付けることにより、既知の釣糸巻き取り半径R0を一つ得る。その後は、回転検出部1051によってスプール101の回転量を測定することによって、スプール101に巻回される釣糸109の巻き取り半径Rを常時算出することができる。つまり、この構成において、半径算出部1052は、回転検出器104および回転検出部1051と共に、スプール101の巻き取り半径Rを検出する巻き取り半径検出手段を構成すると言える。
【0023】
前述したように、電流決定部1053は、電磁ドラグ装置103に通電する電流を決定し、また、ユーザは、操作レバー106によって目標張力Tを設定する。ここで、電磁ドラグ装置103の発生するトルク(制動力)Mと、釣糸巻き取り半径Rおよび目標張力Tとの間には、M=TRの関係が成り立つ。前述したように、電磁ドラグ装置103は、印加される電流の大きさによってトルク(スプール101の回転に対する制動力)を調整することができるため、釣糸巻き取り半径Rおよび目標張力Tが得られれば、電磁ドラグ装置103に印加すべき電流を決定することができる。
【0024】
つまり、本実施形態では、電磁ドラグ装置103が、印加される電流の大きさに比例したトルク(制動力)をスプール101に付与する(印加される電流の大きさに比例したトルクを発生する)ようになっているため、電流決定部1053は、半径算出部1052により算出された釣糸の巻き取り半径Rおよび操作レバー106により設定される目標張力Tに比例する大きさの電流を電磁ドラグ装置103に印加すべき電流として決定する。なお、電流と発生トルクとが比例しないようなドラグ装置を用いる場合であっても、ドラグ装置が発生するトルクが釣糸巻き取り半径Rに比例するように電流を決定する。電流と発生トルクとの間の関係を事前に調べておくことで、このような電流を決定できる。なお、このようにして電流決定部1053により決定された電流は、前述したように増幅部1054によって電力を増幅されて、電磁ドラグ装置103内の励磁コイルに通電される。
【0025】
ところで、スプール101の回転に対する制動力、言い換えると、スプール101の空転が始まる閾値となる張力(ドラグ力)を調整するための電磁ドラグ装置103の調整形態は、例えば
図2〜
図6に示されるように様々なものが考えられる。なお、
図2〜
図4において、
図1と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0026】
図2は、電磁ドラグ装置103がパウダクラッチから成る構成を示す。図示のように、スプール101の一端には円筒容器1031が取り付けられ、一方、スプール軸102には摩擦板1032が円筒容器1031内に収納されるように取り付けられている。摩擦板1032および円筒容器1031は、それぞれが鉄などの強磁性材料によって形成され、わずかな空隙を隔てて対向している。この空隙には磁粉1033が充填されている。
【0027】
円筒容器1031の外周には励磁コイル1034が配置される。制御装置105(
図1参照)から励磁コイル1034に通電がなされると、摩擦板1032を軸方向(図中の左右方向)で貫くような磁場が形成される。この磁場によって磁粉1033が鎖状に繋がり、摩擦板1032から円筒容器1031へトルクが伝えられる。伝えられるトルクの大きさは、制御装置105(
図1参照)から励磁コイル1034に通電される電流の大きさによって決まる。なお、励磁コイル1034への通電によって効率的に磁場を形成するために、適切な補助ヨークを設けてもよい。また、円筒容器1031に磁粉1033(
図2中に網掛け模様で示される)を封入する代わりに、後述する
図5および
図6に示されるように磁気粘性流体(Magnetorheological Fluid;MR流体とも称される)のような外部磁場に応答する機能性材料を封入してもよい。磁気粘性流体を封入することで、姿勢差によって磁粉が片寄ってしまう不具合を避けることができる。
【0028】
図3は、電磁ドラグ装置103がヒステリシスクラッチ(ヒステリシスブレーキ)113から成る構成を示す。図示のように、スプール101は、硬磁性材料からなる円筒状のヒステリシスロータ1131を一端に有する。また、スプール軸102は外ヨーク1132および内ヨーク1133を有する。
図3の(b)に示されるように、外ヨーク1132および内ヨーク1133は、その内周および外周に爪状の磁極1132a,1133aを有しており、ヒステリシスロータ1131とその内側および外側で対向する。また、外ヨーク1132の外周には励磁コイル1134が配置される。
【0029】
制御装置105(
図1参照)から励磁コイル1134に通電を行なうと、外ヨーク1132と内ヨーク1133との間に磁場が形成され、この磁場により、外ヨーク1132と内ヨーク1133との間に配置されたヒステリシスロータ1131が励磁される。ヒステリシスロータ1131にはヒステリシス特性があるため、この励磁には時間的な遅れが生じる。この遅れにより、スプール軸202からスプール201へトルクを伝達することができる。この方式では、駆動部108(
図1参照)側とスプール101側とを接触させずにトルクを伝えることができるため、摩耗の影響が無く、耐久性のよい電磁ドラグ装置103を実現できる。なお、本構成では、効率よく磁場を形成するために、必要に応じて補助ヨークを設置してもよい。
【0030】
図4は、電磁ドラグ装置103がボイスコイルモータやソレノイドアクチュエータなどの電磁アクチュエータ123を用いたクラッチから成る構成を示す。図示のように、スプール101の一端には摩擦板121が取り付けられている。また、非磁性材料からなる接触子122がスプール軸102に対して回転不能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。接触子122には円筒形のコイル123が取り付けられている。また、コイル123には、径方向に着磁された円筒形状の永久磁石124およびコの字型断面を有する回転体である強磁性材料のヨーク125によって、径方向に磁場が作用している。
【0031】
このような構成において制御装置105(
図1参照)からコイル123に通電を行なうと、ローレンツ力が生じて接触子122に軸方向の力が作用する。この力により接触子122が摩擦板121に接触することによって、スプール軸102からスプール101へトルクが伝達される。このトルクは、ローレンツ力に半径と摩擦係数とを乗じたものとなるため、コイル123への通電を調整する(コイル123へ印加する電流の大きさを調整する)ことによってトルクを調整することができる。
【0032】
図5および
図6は、電磁ドラグ装置103が磁気粘性流体を用いたクラッチから成る構成を詳細に示す。この構成において、両軸受型リールである魚釣用リールのリール本体1は、左側板1A、右側板1B、および、両側板1A,1B間に回転自在に支持したスプール3(
図1〜
図4のスプール101に対応する)を備えている。この構成では、右側板1B側にハンドル5を設けており、ハンドル5を巻き取り操作することでスプール3を回転駆動する構成となっている(右ハンドル式)。
【0033】
リール本体1は、左右の側板1A,1Bを構成するフレーム7(
図1〜
図4のプレート107に対応する)を備えている。このフレーム7は、例えば、アルミニウム合金の金属材等によって一体形成されており、左側板(反ハンドル側の側板)1Aそのものを構成するとともに、後述するカバー体15を装着した状態で右側板1Bを構成している。すなわち、フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bとを備えており、左側板7Aがリール本体1の左側板1Aを構成し、右枠体7Bにカバー体15を装着することでリール本体1の右側板1Bを構成している。
【0034】
フレーム7は、左側板7Aと右枠体7Bとを連結する連結部を備えている。この連結部は、例えば、スプール3の前方および後方に設けるとともに、スプール3の下方に設けることができ(連結部7C)、これらの連結部は、左側板7Aおよび右枠体7Bとともに一体形成されている。なお、連結部7Cには、釣竿のリールシートに装着されるリール脚8が一体的に装着されている(リール脚はフレーム7と一体形成されていてもよい)。
【0035】
フレーム7の左側板7Aは、外周形状が側面視円形状に構成されており、左側板7Aには、スプール3のフランジ部3Aが収容される環状の凹所7aが形成されている(凹所7aの内径は、スプール3のフランジ部3Aの外径よりも僅かに大きく形成されている)。また、左側板7Aの中心領域には、凹部7bが形成されており、その凹部7b内には軸受10が配設され、スプール3の中央部を挿通するスプール軸21(
図1〜
図4のスプール軸102に対応する)の左側端部を回転自在に支持している。
【0036】
フレーム7の右枠体7Bは、スプール3が挿脱できるようにリング状に形成されている。この右枠体7Bには、カバー体15が止めビス16によって被着されており、カバー体15とスプール3のフランジ部3Aの外側面(円形の外側面)3bとの間にはスペースSが形成されている。このスペースS内には、ハンドル5の回転駆動力をスプール3に伝達する巻き取り駆動機構、磁気制動手段、および、磁場発生手段が配設されている。なお、リング状に形成された右枠体7Bの一部には、略半円状に膨出する膨出部7Dが形成されており、その部分に後述するドライブギアが収容できるように構成されている。
【0037】
スプール3は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部3Bと、その両側に形成されたフランジ部3Aとを備えている。スプール3の中心部は、スプール軸21が挿通されるように貫通孔3Cが形成されており、貫通孔3C内には、スプール3とスプール軸21との間に軸受17が配設されて、スプール3は、スプール軸21に対して相対回転可能に支持されている。
【0038】
右枠体7Bに被着されるカバー体15は、スペースSが生じるように凹状に形成されている。この場合、カバー体15は、基本的に側面視で円形状に構成されているが、ハンドル5の巻き取り効率を向上するために、ハンドル軸5Aには大きいドライブギアを装着するようにしている。このドライブギアは、前述したように、右枠体7Bに形成された膨出部7Dに収容されることから、カバー体15には、この膨出部7Dを覆うように膨出部15Aが形成されている。
【0039】
次に、前述したスペースS内に配設される巻き取り駆動機構、磁気制動手段、および、磁場発生手段について説明する。
【0040】
前述したように、ハンドル5を回転操作すると、その回転駆動力は、巻き取り駆動機構20(
図1〜
図4の駆動部108に対応する)を介してスプール軸21に伝達され、スプール軸21の回転駆動力は、スプール軸21とスプール3との間に配設される磁気制動手段40(
図1〜
図4の電磁ドラグ装置103に対応する)によって生じる制動力によってスプール3に伝達される。本構成の巻き取り駆動機構20には、ハンドル5の巻き取り駆動力をスプール3側に伝達するに際して、高速巻き取り状態/低速巻き取り状態を切り換える公知の変速装置20Aが組み込まれている。
【0041】
変速装置20Aは、スプール軸21に並設される高速従動ギア22、低速従動ギア23と、それぞれのギアに噛合され、ハンドル5が装着された筒状のハンドル軸5Aに並設された高速ドライブギア24、低速ドライブギア25とを備えている。なお、スプール軸21は、カバー体15に配設される軸受26、後述する収容部材(密閉空間を有するケース部材)との間に配設される軸受27、および、前述した軸受10,17によって左右側板間に回転自在に支持されている。また、ハンドル軸5Aは、カバー体15に配設される軸受28,29によって回転自在に支持されている。
【0042】
変速装置20Aは、ハンドル軸5A内に軸方向に移動可能に配設され、複数のバネ部材30a,30bの付勢力によって位置決めされる切り換えシャフト30と、切り換えシャフト30の軸方向移動によって、高速ドライブギア24および低速ドライブギア25に対して選択的に係合して高速巻き取り状態/低速巻き取り状態に切り換える切換部材31と、ハンドル軸5A周りに回動可能に装着され、切り換えシャフト30を軸方向に駆動させる切換レバー33とを備えており、切換レバー33を所定角度回動操作することにより、切り換えシャフト30が軸方向に移動され、切換部材31が高速ドライブギア24または低速ドライブギア25に係合してスプール3の巻き取りスピードが変更されるようになっている。
【0043】
また、ハンドル軸5Aには、カバー体15との間に公知の一方向クラッチ35が配設されており、ハンドル5の釣糸巻き取り方向の回転を許容し、逆回転を阻止している。なお、本発明の巻き取り駆動機構20は、この実施形態に限らず、スプール軸に直接ハンドル軸を取り付けるような構成でも実現可能である。また、駆動源としてモータやエンジン等を用い、巻き取り駆動機構がその駆動源からトルクを伝達しても良い。
【0044】
スペースS内に配設される磁気制動手段40は、前述した巻き取り駆動機構20(変速装置20A)を介して回転駆動されるスプール軸21とスプール3との間に配設されている。
なお、本発明は、このような構成に限定されることはない。たとえば、ハンドル5に与えられた巻き取り駆動力は、従動ギアやドライブギアを介しスプール3に伝わるが、磁気制動手段40は、その間の任意の場所に配置可能である。
以下、磁気制動手段40について詳しく説明する。
【0045】
磁気制動手段40は、磁場の大きさに応じて結合力が変化する磁気反応摩擦材であるMR流体を有する構成であり、このような磁気反応摩擦材を収容した収容部材を、スプール3とスプール軸21との間に配設し、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して所望の制動力を付与するよう構成されている。磁気制動手段40は、スプール3のフランジ部3Aの外側面と対向して配設されており、両者の間にはリール本体を構成する枠体等が介在しない構成となっている。本構成では、フランジ部3Aの外側面に環状の凹所3aが形成されており、凹所3aの底面(フランジ部の外側面となる)3bに磁気制動手段40を構成する円板状のスプールヨーク41が固定されている。すなわち、磁気制動手段40の構成部材がフランジ部3Aの外側面3bに密着して配設されており、両者の間に間隙が存在しない状態で対向している。
【0046】
円板状のスプールヨーク41は、フランジ部3Aの輪帯状の周縁面3cに当て付くとともに、凹所3a内に入り込むように屈曲部41aが形成されており、屈曲することで形成された当接面41bがフランジ部3Aの凹所3aの底面3bに密着して固定されている。また、スプールヨーク41の中心部分には、スプール軸21を挿通させる開口41cが形成されるとともに、その周囲には環状壁部41dが形成されており、環状壁部41dがスプール3の開口内壁部3dに圧入された状態でスプールヨーク41はスプール3のフランジ部3Aの外側面3bに密着、固定されている。なお、スプールヨーク41は、磁気回路が形成可能な材料、たとえば純鉄等の強磁性体によって構成されている。
【0047】
磁気制動手段40は、スプールヨーク41に被着される収容部材43を備えている。収容部材43は収容空間(密閉空間)S1を備えた略カップ形状に形成されており、開口側に形成されたフランジ部43aをスプールヨーク41の屈曲部41aの段差に圧入することでスプールヨーク41に対して固定されている。収容部材43には、スプール軸21が挿通する開口43bが形成されるとともに、スプール軸21との間に軸受27を配設する環状突起43cが形成されており、スプール軸21に対して相対回転可能な関係となっている。なお、収容部材43は、アルミニウムや樹脂材料等、非磁性材料によって構成されている。
【0048】
収容部材43の収容空間S1内には、磁気反応摩擦材(MR流体・・・
図6中にドット模様で示される)が密封されるとともに、磁気反応摩擦材に対する剪断応力によってスプール3に対して制動力を付与する制動板が配設されている。この場合、磁気反応摩擦材は、そこに付与される磁場の大きさによってその結合力が変化する特性を備えており、制動板が回転することによって生じる剪断応力の大きさが変わることでスプール3に対する制動力が調整可能となっている。すなわち、後述する磁場発生手段によって生じる磁場の大きさを可変制御することによって、スプール3に対する制動力が調整される。
【0049】
本構成の制動板は、スプール3に対して大きな制動力が作用するように多板式に構成されている。以下、制動板の構成について説明する。
【0050】
収容部材43の内周面には、2枚の円板状の制動板(スプール側制動板;第1制動板)45が、スペーサ45aを介在して一体的に固定(収容部材に固定)されている。第1制動板45は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、スペーサ45aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。この場合、スペーサ45aは、2枚の第1制動板45の間、一方の第1制動板45と収容部材43の内壁面との間、および、他方の第1制動板45とスプールヨーク41の内面との間に、以下の第2制動板47が入り込んで所定の隙間を維持できる厚さに形成されている。
【0051】
収容部材43に挿通されるスプール軸21には、スペーサ45aによって維持される間隔に制動板(スプール側制動板;第2制動板)47が回り止め固定されている。この場合、第2制動板47間には、スペーサ47aが介在されており、このスペーサ47aは、第2制動板47を所定の間隔で維持できる厚さに形成されている。第2制動板47は、純鉄等の強磁性材料によって構成され、スペーサ47aは、アルミニウム等の非磁性材料によって構成されている。
【0052】
前述したように、本構成における制動板は、スプール3側の第1制動板45が2枚、スプール軸21側の第2制動板47が3枚で構成される多板式となっており、これにより、収容部材43の収容空間S1内に密封される磁気反応摩擦材に対して大きな制動力を生じさせることが可能となっている。なお、スプール軸21とスプールヨーク41との間、及び、スプール軸21と収容部材43との間には、環状の弾性シール材48a,48bが配設されており、収容部材43の収容空間S1内を密封している。
【0053】
リール本体1には、前述した構成の磁気制動手段40に対して異なる強度の磁場を付与する磁場発生手段50が装着されている。この磁場発生手段50は、制御装置105(
図1参照)からの電流の印加により異なる磁力を発生させる励磁コイル51を備えている。励磁コイル51は、スプール軸21を中心軸として円筒形状に巻回されるコイルであり、純鉄等の磁性材料で形成された励磁ヨーク52に装着されている。この場合、励磁ヨーク52は、断面L字型となった環状の周壁52aを備えており、側板を構成する右枠体7Bに固定されている。そして、励磁コイル51は、励磁ヨーク52の環状の周壁52aの内側に固定され、収容部材43の径方向外方に配設された状態となっている。すなわち、スプール3のフランジ部の外側面3bに対向する(密着する)ようにして磁気反応摩擦材を収容した収容部材43を配設するとともに、収容部材43の径方向外方に励磁コイル51を配設しており、これにより磁気制動手段40および磁場発生手段50を軸方向にコンパクト化することが可能となる。
【0054】
前述したように、励磁コイル51が、断面L字型となった環状の励磁ヨーク52の周壁52aの内側に固定され、かつ、収容部材43の径方向外方に配設されることで、励磁コイル51に通電した際、スプールヨーク41から励磁ヨーク52に亘って磁気回路を形成することができ、収容部材43に配設された制動板を横切る磁場(スプール軸21方向に沿った磁場)を発生させる。この場合、スペースS内には、前述した駆動装置105が配設されており(
図5参照)、この制御装置105により外部電源(図示せず)から供給される電流値を制御することにより、励磁コイル51で発生する磁場の強さ(制動板を通過する磁場の強度)を調整することが可能となっている。なお、励磁コイル51に対する電流量は、リール本体1の外部に装着した操作部材、たとえばカバー体15に対して回動可能な操作レバー57(
図1〜
図4の操作レバー106に対応する)を配設し、その回動位置に応じて印過電流を可変制御することで調整される。
【0055】
このような構成によれば、制御装置105を介して励磁コイル51に対して電流を通電すると、励磁コイル51は磁束を発生し磁気回路を形成する。この磁気回路は、スプールヨーク41、制動板45,47、および、励磁ヨーク52を一周するように形成され、第1制動板45、第2制動板47の間に強力な磁場を発生させ、各制動板の間で磁気反応摩擦材が鎖状に連結する。
【0056】
この状態でハンドル5を回転操作すると、巻き取り駆動機構20の一部である従動ギア22,23を介して一体回転するスプール軸21が回転駆動される。このとき、スプール軸21に回り止め固定された第2制動板47が回転駆動され、磁気反応摩擦材には剪断応力が作用して、第1制動板45を介して収容部材43と一体回転するスプール3に摩擦トルクを伝達する。この摩擦トルクは、磁気反応摩擦材に働く磁束密度の大きさ、すなわち、励磁コイル51に通電する電流の大きさによって調整することができ、これにより、スプール3に対して所望の制動力を付与した状態での巻き取りをすることが可能となる。この場合、制動板は多板で構成されているため、各制動板間で発生する剪断応力が大きくなり、大きな制動力を生じさせることが可能となる。
【0057】
なお、釣糸の繰り出し(魚のヒット等)に伴うスプール3の逆回転に制動力を付与する制動状態について説明すると、励磁コイル51の通電状態(磁気反応摩擦材の鎖状連結状態)において、釣糸に張力が作用してスプール3に逆回転方向の力が作用した場合、スプール3と一体的な第1制動板45と、スプール軸21と一体的な第2制動板47は摩擦連結され、そして巻き取り駆動機構20を介して一方向クラッチ35でハンドル軸5Aは逆転止めされているので、励磁コイル51への制御電流値に応じてスプール3の制動状態を調節できる。
【0058】
以上、電磁ドラグ装置103の様々な形態について概略的に或いは詳細に説明してきたが、いずれの場合においても、電磁ドラグ装置103に対する電流の印加形態は、
図1に関連して前述したように制御装置105により制御される。すなわち、回転検出器104から検出信号を受けて回転検出部1051がスプール101の回転量を検出し、回転検出部1051により検出されるスプール101の回転量に基づいて半径算出部1052がスプール101に巻回される釣糸109の巻き取り半径Rを算出し、また、電磁ドラグ装置103は、印加される電流の大きさに比例したトルク(制動力)をスプール101に付与するようになっているため、電流決定部1053は、半径算出部1052により算出された釣糸の巻き取り半径Rおよび操作レバー106により設定される目標張力Tに比例する大きさの電流を電磁ドラグ装置103に印加すべき電流として決定する。したがって、釣糸109の放出や巻取りに伴って釣糸巻き取り半径Rが変化しても、ドラグ力の変化を避けることができる。これにより、ドラグ機構の設定ドラグ力を常に最適にすることができ、釣糸109に作用する張力が大きくなりすぎて破断させてしまったり、張力が小さすぎて釣糸109をスプール101に巻き取れなくなるといった状態を避けることができる。
【0059】
図7は、釣糸に作用する張力T(釣糸巻き取り半径R)とスプール回転量Nとの間の関係を本発明の実施例と従来との比較で示すグラフ図である。図示のように、釣糸巻き取り半径(釣糸半径)Rは、スプール101に巻回される釣糸109の放出と共に徐々に小さくなる。従来の構成は、釣糸巻き取り半径(釣糸半径)Rとは無関係にドラグ装置が発生するトルクMが一定であったため、釣糸の張力T1はM/Rとなり、スプール回転量の増加とともに大きくなる(
図7中「従来張力T1」参照)。それにより、初期状態よりも大きな張力が釣糸にかかることになり、釣糸が破断する危険性が高まる。一方、前述した本発明の実施形態の構成では、ドラグ装置103が発生するトルクMを釣糸巻き取り半径(釣糸半径)Rに比例させて変化させているため、釣糸の張力T2は、スプール回転量Nに依存せず、常に一定となる(
図7中「本実施例張力T2」参照)。つまり、本発明の実施形態の構成では、前述したような電磁ドラグ装置103および制御装置105を用いることにより、釣糸巻き取り半径Rの変化に伴う釣糸張力の変動を自動的に補正することができる。
なお、釣糸の張力を検出する張力センサを用い、その信号をフィードバック制御することによっても、釣糸巻き取り半径Rの変化に伴う釣糸張力の変動を自動的に補正することは可能である。これに対して本発明では、張力センサを必須としないため、装置全体の小型化が実現可能である。また、フィードフォワード制御であることから、張力が発振してしまう危険性が無いという効果がある。
【0060】
なお、前述した実施形態では、釣糸巻き取り半径Rの算出に回転検出センサ(回転検出器104)が利用されたが、本発明はこの方法に限定しない。例えば、距離センサを利用して直接に釣糸巻き取り半径Rを計測してもよい。この場合、距離センサとしては、超音波センサおよびレーザ変位計などの非接触式センサや、ばねによって釣糸にプローブを接触させるまでの移動量をボリューム抵抗の抵抗変化量等で測定する接触式センサなど、公知のものを利用可能である。
【0061】
また、本発明の魚釣用リールは、前述した実施形態のように、いわゆる両軸受けリールと呼ばれるような、駆動部108がステップ軸102を回転させるタイプのものだけでなく、スピニングリールと呼ばれるような、駆動部108が糸巻き101の周囲にあるラインガイドを回転させるようなタイプのものであってもよい。この場合、電磁ドラグ装置103は、前述した実施形態のように駆動部108と連結させて構成してもよく、あるいは、リール本体に固定されたスプール軸とスプールとの間に設けられてもよい。
【0062】
また、電磁ドラグ装置103として、上述した方式の他にも、渦電流を利用した渦電流ブレーキ方式や、電動機を発電機として利用することでブレーキ力を発生する発電ブレーキ方式、発電によって得られた電力を充電等により回収する回生ブレーキ方式を用いても良い。これらの渦電流ブレーキ方式、発電ブレーキ方式、回生ブレーキ方式では、スプール101とスプール軸102に速度差が生じない場合は制動力を生じないため、単独でドラグ装置を構成することは難しい一方、磨耗部分が存在しないため、耐久性が良い。したがって、例えばマグロ釣り等の大きな制動力を求められ、発熱対策や磨耗対策が必要なリールでは、前述の方式(パウダクラッチ、ヒステリシスクラッチ、磁気粘性流体を用いたクラッチ、電磁アクチュエータを用いたクラッチ)に加え、これらの方式のドラグ装置を補助的に用いることも考えられる。この場合では、補助的に用いたドラグ装置との合力による制動力が、半径検出手段104により検出される巻取り半径に基づいて決まるように、それぞれのドラグ装置への通電量を決定すればよい。
【0063】
次に、
図8および
図9を参照して、本発明の魚釣用リールの他の態様について説明する。なお、前述した
図1と同様の構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
図8に示されるように、この態様に係る魚釣用リール100は、スプール101と、スプール軸102と、電磁ドラグ装置103と、回転検出器104と、制御装置205と、操作レバー106と、サイドプレート107と、駆動部108と、張力検出器(張力検出手段)209とを少なくとも備える。
【0064】
制御装置205は、回転検出部1051と、半径算出部1052と、電流決定部1053と、増幅部1054と、張力検出部2055とを備える。張力検出部2055は、張力検出器209によって計測された釣糸109の張力(スプール101に巻回される釣糸109に作用する張力)を電気信号に変換する。張力検出器209は、釣糸109を挟み込むように設置され、歪みゲージなどの機電変換素子によって釣糸109に作用する張力に応じた電圧を出力する。
【0065】
電流決定部1053は、半径算出部1052によって得られた釣糸巻き取り半径Rだけでなく、張力検出部2055によって得られた張力信号も併せて使用することにより、目標張力Tに基づきドラグ装置103の設定トルク(ドラグ装置103に印加されるべき電流)を決定する。
【0066】
図9は、制御装置205の制御ブロック図である。図示のように、この制御形態では、張力検出器209を利用することにより、302に示されるようなフィードバック制御を実現することができる。ここでは、操作レバー106により設定される目標張力T0と張力検出部2055により検出される測定張力Tmとの差に対して比例要素、微分要素、および、積分要素を組み合わせたPID制御を行なっている。また、301では、
図1に関連して前述した態様と同様、半径算出部1052によって得られた釣糸巻き取り半径Rに比例させるフィードフォワード制御を行なっている。303において、これらの2つの制御法(PID制御およびフィードフォワード制御)を所定の割合で合成することにより、ドラグ装置103に印加すべき電流を決定している。
【0067】
図1に関連して前述した態様では、釣糸巻き取り半径Rを検出することにより半径変化に伴うドラグ力の変化が補正されるが、そのようなフィードフォワード制御のみでは、釣糸109にかかる予期しない摩擦力の変化など、外乱による張力変化を補正することができない。これに対し、
図8および
図9に示される制御形態では、前述のようにフィードバック成分を有するため、外乱に対する張力のばらつきを補正することができる。また、純粋なフィードバック制御と比較すると、外乱の量が所定の値よりも低い条件において、釣糸巻き取り半径Rを検出することによって応答性が早くなり、短い時間で目標張力に収束するという効果、および、張力の発散や振動が起こりにくいという効果等が得られる。
【0068】
なお、前述したように、回転検出センサ(回転検出器104)からの信号に基づいて半径算出部1052により釣糸巻き取り半径Rを算出する代わりに、距離センサ等を利用して直接に釣糸巻き取り半径Rを計測してもよい。その例が
図10に示される。
図10では、制御装置305に半径検出部1059が更に設けられ、この半径検出部1059は、超音波センサおよびレーザ変位計などの非接触式センサや、ばねによって釣糸にプローブを接触させるまでの移動量をボリューム抵抗の抵抗変化量等で測定する接触式センサなどを利用して、スプール101に巻回される釣糸109の巻き取り半径Rを直接に計測する。この計測値に基づいて、電流決定部1053は、スプール101に巻回される釣糸109の張力を設定張力(目標張力)Tに維持するように増幅部1054を介して対応する電流を電磁ドラグ装置103に印加する。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した実施形態における各部材の材質、形状、寸法、形態、数、または、配置等は適宜変更され得る。また、前述した実施形態では、両軸受型リールを例にとって説明されたが、本発明の魚釣用リールはスピニングリールも含む。また、前述した実施形態では、スプールを手動で巻き取る形式の両軸受型リールについて説明したが、スプールを駆動モータによって回転駆動する電動タイプの両軸受型リールに適用することも可能である。このような構成では、駆動モータを駆動する外部電源から電流を励磁コイルに印加することも可能となる。