(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の圧電センサの実施の形態について説明する。なお、本発明の圧電センサは、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0014】
本発明の圧電センサは、エラストマーおよび圧電粒子を含む圧電層と、エラストマーおよび導電材を含む電極層と、を有する圧電素子を備える。
【0015】
<圧電層>
圧電層を構成するエラストマーとしては、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いればよい。弾性率が比較的小さく柔軟なエラストマーとして、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンなどが挙げられる。また、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。変性エラストマーとしては、例えば、カルボキシル基変性ニトリルゴム(X−NBR)、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)などが挙げられる。
【0016】
圧電層に荷重が加わった時に発生する起電界(V/m)は、圧電層の圧電歪み定数(C/N)、誘電率(F/m)、および加わった荷重(N/m
2)により、次式(a)で示される。
起電界=圧電歪み定数/誘電率×荷重 ・・・(a)
起電界を大きくするという点においては、圧電層の誘電率は小さい方が望ましい。この場合、比誘電率が比較的小さいエラストマーを採用することが望ましい。例えば、比誘電率が15以下(測定周波数100Hz)のエラストマーとして、ウレタンゴム、シリコーンゴム、NBR、H−NBRなどが好適である。
【0017】
圧電粒子は、圧電性を有する化合物の粒子である。圧電性を有する化合物としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する強誘電体が知られており、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ビスマスランタン(BLT)、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SBT)などが挙げられる。圧電粒子としては、これらのうちの一種類あるいは二種類以上を用いればよい。
【0018】
圧電粒子の粒子径は、特に限定されない。例えば、平均粒子径が異なる複数種の圧電粒子粉末を用いると、エラストマー中に大粒径の圧電粒子と小粒径の圧電粒子とを混在させることができる。この場合、大粒径の圧電粒子の間に小粒径の圧電粒子が入り込み、圧電粒子に圧力が伝わりやすくなる。これにより、圧電層の圧電歪み定数が大きくなり、起電圧を大きくすることができる。
【0019】
圧電粒子は、単粒子でも複数の粒子が集合した集合体であってもよい。複数の圧電粒子からなる集合体を含む場合には、柔軟性と圧電性とのバランスが取りやすくなる。例えば、エラストマーに圧電粒子を多量に配合すると、圧電性は向上するが、エラストマーの体積割合が小さくなるため柔軟性は低下する。反対に、圧電粒子の配合量が少ないと、エラストマーの体積割合が大きくなるため柔軟性は向上するが、圧電性は低下する。本発明者の検討によると、圧電層の柔軟性、具体的には破断伸びが大きくなることにより、伸縮を繰り返しても起電圧の変化が小さくなる、すなわち伸縮耐久性が向上することが確認されている。このため、圧電粒子の配合量をできるだけ少なくして所望の圧電性を確保することが望ましい。
【0020】
高い圧電性を得るためには、圧電粒子同士の繋がりが重要である。
図5に、圧電粒子が単粒子からなる場合の分散状態を模式的に示す。
図6に、圧電粒子が集合体からなる場合の分散状態を模式的に示す。
図5に示すように、圧電粒子80は、エラストマー81中に充填されている。個々の圧電粒子80は、略球状を呈している。このため通常は、圧電粒子80を多量に配合して最密充填構造に近づけることにより、圧電粒子80同士の繋がりを確保する。これに対して、
図6に示すように、複数の圧電粒子80が集合した塊状の集合体82を配合すると、その形状が立体障害になり、密な充填構造にならなくても圧電粒子80同士の繋がりを構築することができる。つまり、圧電粒子80の体積割合が小さくても所望の圧電性を確保することができる。これにより、圧電性、柔軟性、伸縮耐久性の全てを満足しやすくなる。例えば、圧電センサを、エラストマーおよび圧電粒子を含む圧電層と、エラストマーおよび導電材を含む電極層と、を有する圧電素子を備え、該圧電粒子は、複数の圧電粒子が集合した集合体を含む構成にするとよい。当該構成によると、柔軟で高感度の圧電センサを実現することができる。
【0021】
複数の圧電粒子が集合した集合体としては、個々の粒子が静電力などにより凝集した凝集体、個々の粒子が化学結合した結合体などが挙げられる。個々の粒子が分離しにくく圧電粒子の連結構造を構築しやすいという観点から、後者の結合体が好適である。結合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、単粒子からなる粉末を焼成した後、粉砕して製造することができる。凝集体と結合体との違いは、次のようにして分析することができる。まず、圧電層を加熱してエラストマー成分を取り除く。次に、残った圧電粒子を良溶媒に分散させて、超音波処理する。その結果、個々の粒子に分離したら凝集体、分離しなければ結合体と判断する。ここで、良溶媒とは、圧電粒子を分散させた場合に沈降しにくい極性溶媒をいう。具体的には、SP値(溶解度パラメータ)が8以上13以下であり、かつエラストマーを溶解できる溶剤であればよい。例えば、2−メトキシエタノールが挙げられる。
【0022】
複数の圧電粒子が集合した集合体は、個々の圧電粒子の平均粒子径の2倍より大きい直径を有する粒子として定義することができる。ここで、集合体の直径(d2)としては、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置において測定したメディアン径を採用する。圧電粒子の平均粒子径(d1)としては、集合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、偏りがないよう任意に選出された100個以上の圧電粒子の最大径の平均値を採用する。そして、2d1<d2を満たすものが集合体である。
【0023】
圧電粒子を表面処理するなどして、エラストマーと圧電粒子とを化学結合させてもよい。圧電粒子を表面処理する方法としては、エラストマーポリマーと反応可能な官能基を有する表面処理剤を圧電粒子に予め反応させておき、当該圧電粒子をエラストマーポリマーと混合する方法や、圧電粒子の表面を酸、アルカリまたは亜臨界水で溶解して水酸基を生成させた後、水酸基と反応可能な官能基を有するエラストマーポリマーと混合する方法などが挙げられる。圧電粒子がエラストマーに化学結合していると、伸縮を繰り返しても圧電粒子が位置ずれしにくい。また、エラストマーから圧電粒子が剥離しにくいため、物性や出力の初期値からの変動が少なくなる。このため、出力が安定すると共に、圧電層の耐へたり性が向上する。また、圧電層の破断伸びが大きくなるため、伸長時に局所破壊などによる圧電性能の低下を抑制することができる。その結果、伸長した状態においても高い圧電性能を維持することができる。
【0024】
圧電粒子の配合量は、圧電層、ひいては圧電素子の柔軟性と、圧電層の圧電性能と、を考量して決定すればよい。圧電粒子の配合量が多くなると、圧電層の圧電性能は向上するが柔軟性は低下する。したがって、使用するエラストマーと圧電粒子との組み合わせにおいて、所望の柔軟性を実現できるよう、圧電粒子の配合量を調整することが望ましい。
【0025】
圧電層は、エラストマーおよび圧電粒子に加えて、圧電粒子よりも比誘電率が小さい補強粒子を含んでいてもよい。補強粒子の比誘電率は、圧電粒子の比誘電率よりも小さいことを条件として、例えば100以下、さらには30以下であることが望ましい。
【0026】
比誘電率が大きい圧電粒子が連結した構造は、外力が圧電粒子に伝わりやすいため、前述した式(a)の圧電歪み定数の向上が期待できる。しかしながら、比誘電率が大きい圧電粒子が連結することで、圧電層全体としての誘電率が上昇してしまう。これに対して、圧電層に圧電粒子と補強粒子との両方が含まれる場合、比誘電率が大きい圧電粒子同士の繋がりが、それよりも比誘電率が小さい補強粒子の介在により分断される。これにより、圧電層全体としての誘電率の上昇を抑制することができる。一方、補強粒子と圧電粒子とにより粒子の連結構造は維持されているため、圧電歪み定数を維持することができる。すなわち、圧電層に補強粒子が含まれる場合には、圧電歪み定数を維持したまま、圧電粒子のみが含まれる場合よりも圧電層全体の誘電率を小さくすることができる。よって、前述した式(a)により、大きな起電界を得ることができる。
【0027】
補強粒子としては、電気抵抗が大きい粒子が望ましい。補強粒子の電気抵抗が大きいと、圧電層の絶縁破壊強度が大きくなる。これにより、後述する圧電層の分極処理において、高い電界を印加して処理時間を短くすることができる。加えて、分極処理中に破壊する圧電素子の数を減らすことができるため、生産性が向上する。
【0028】
また、補強粒子は、エラストマーに化学結合していることが望ましい。この場合、エラストマー中に補強粒子のネットワークが形成されるため、架橋剤、添加剤、空気中の水分などがイオン化した不純物イオンが動きにくくなり、圧電層の電気抵抗が増加する。補強粒子とエラストマーとの化学結合は、例えば、補強粒子を表面処理するなどして実現することができる。表面処理の方法としては、エラストマーポリマーと反応可能な官能基を有する表面処理剤を補強粒子に予め反応させておき、当該補強粒子をエラストマーポリマーと混合する方法や、補強粒子の表面を酸、アルカリまたは亜臨界水で溶解して水酸基を生成させた後、水酸基と反応可能な官能基を有するエラストマーポリマーと混合する方法などが挙げられる。補強粒子がエラストマーに化学結合していると、伸縮を繰り返しても補強粒子が位置ずれしにくい。また、エラストマーから補強粒子が剥離しにくいため、物性や出力の初期値からの変動が少なくなる。このため、出力が安定すると共に、圧電層の耐へたり性が向上する。また、圧電層の破断伸びが大きくなるため、伸長時に局所破壊などによる圧電性能の低下を抑制することができる。その結果、伸長した状態においても高い圧電性能を維持することができる。
【0029】
補強粒子の種類は特に限定されない。例えば、二酸化チタン、シリカ、チタン酸バリウムなどの酸化物、ゴム、樹脂などの粒子を用いることができる。但し、ゴム粒子などの比較的柔らかい粒子を含む場合には、加わった荷重が樹脂粒子にて減衰し、圧電粒子に伝わりにくくなるおそれがある。圧電粒子に力を伝達しやすくして、前述した式(a)における圧電層の圧電歪み定数を大きくし、起電界を大きくするという観点から、補強粒子としては、マトリックスのエラストマーよりも弾性率が大きい粒子を採用する方がよい。例えば、比誘電率が小さく、耐絶縁破壊性の向上効果が大きいなどの理由から、二酸化チタンなどの金属酸化物粒子が好適である。金属酸化物粒子の製造方法としては、結晶性が低く比誘電率が小さい粒子が得られるという理由から、ゾルゲル法が好適である。
【0030】
圧電層は、エラストマーポリマーに圧電粒子の粉末や架橋剤などを加えた組成物を、所定の条件下で硬化させて製造される。その後、圧電層には分極処理が施される。すなわち、圧電層に電圧を印加して、圧電粒子の分極方向を所定の方向に揃える。
【0031】
本発明者が検討したところ、薄膜状の圧電素子においては、圧電層の引張方向に垂直な断面積が小さい方が、加えられた荷重に対する感度が大きいことが確認された。よって、圧電層は薄い方が望ましい。例えば、圧電層の厚さは200μm以下、さらには100μm以下が望ましい。一方、薄過ぎると分極処理時に絶縁破壊しやすくなる。このため、圧電層の厚さは、10μm以上、さらには20μm以上が望ましい。
【0032】
<電極層>
電極層を構成するエラストマーとしては、圧電層のエラストマーと同様に、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いればよい。弾性率が比較的小さく柔軟であり、圧電層に対する粘着性が良好なエラストマーとして、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、H−NBRなどが挙げられる。
【0033】
導電材の種類は、特に限定されない。例えば、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金などからなる金属粒子、酸化亜鉛、酸化チタンなどからなる金属酸化物粒子、チタンカーボネートなどからなる金属炭化物粒子、銀、金、銅、白金、およびニッケルなどからなる金属ナノワイヤ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびグラフェンなどの導電性炭素材料の中から、適宜選択すればよい。また、銀被覆銅粒子など、金属で被覆された粒子を用いてもよい。導電材としては、これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。なお、電極層は、その他の成分として、架橋剤、分散剤、補強材、可塑剤、老化防止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0034】
電極層の体積抵抗率は、自然状態およびそれから一軸方向に10%伸長した状態に至るまでの伸長状態のいずれにおいても100Ω・cm以下である。10Ω・cm以下であるとより好適である。電極層の電気抵抗が大きいと、圧電層で発生した起電圧が電極層で降下してしまい、出力される電圧が小さくなる。すなわち、センサのS/N比が低下する。また、伸長により電気抵抗が大きく上昇する電極層を用いると、自然状態における出力と伸長状態における出力とが大きく異なり、荷重を正確に検出できないという問題が生じる。したがって、伸縮可能で伸長しても圧電性を維持できる柔軟な圧電層と、伸縮可能で伸長しても導電性を維持できる柔軟な電極層とを組み合わせることにより、伸長された状態でも使用可能な圧電素子を実現することができる。
【0035】
導電材の配合量は、電極層が所望の体積抵抗率を実現できるよう、適宜決定すればよい。導電材の配合量が多くなると、電極層の体積抵抗率を小さくすることができるが柔軟性は低下する。例えば、導電材としてケッチェンブラック(登録商標)を使用した場合、エラストマー100質量部に対して、導電材の配合量を5質量部以上50質量部以下にすることが望ましい。
【0036】
<圧電素子>
圧電素子は、圧電層と電極層とが積層されてなる。例えば、一対の電極層を、圧電層中の圧電粒子の分極方向に離間して配置すればよい。圧電粒子が圧電層の厚さ方向に分極している場合には、一対の電極層を、圧電層の厚さ方向の二面に一つずつ配置すればよい。圧電粒子が圧電層の厚さ方向に交差する面方向に分極している場合には、一対の電極層を、圧電層の厚さ方向に交差する一面上に離間して配置すればよい。電極層は、圧電層の表面全体に形成してもよく、一部のみに形成してもよい。
【0037】
圧電素子の破断伸びは、10%以上であることが望ましい。30%以上であるとより好適である。本明細書において、破断伸びは、JIS K6251:2010に規定される引張試験により測定される切断時伸びの値である。引張試験は、ダンベル状5号形の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行うものとする。
【0038】
圧電素子の弾性率は、10MPa以上500MPa以下であることが望ましい。本明細書において、弾性率は、JIS K7127:1999に規定される引張試験により得られる応力−伸び曲線から算出した値である。引張試験は、試験片タイプ2の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行うものとする。
【0039】
圧電素子は、一軸方向に10%伸長した状態において、次式(I)を満たすことが望ましい。次式(I)は、柔軟性、および伸長時においても使用できるか否かを示す指標である。すなわち、次式(I)を満たす圧電素子は、柔軟であり、伸長時においても変形により起電圧を生じさせることができる。一方、次式(I)を満たさない場合には、伸長した際の起電圧の変化が大きく、正確なセンシングが難しくなる。
0.5<V2/V1 ・・・(I)
[式(I)中、V1は自然状態における圧電素子の起電圧(V)、V2は一軸方向に10%伸長した状態における圧電素子の起電圧(V)。]
自然状態における起電圧V1は、次のようにして測定すればよい。まず、圧電素子を伸長しない自然状態で高分子計器(株)製の反発弾性試験機に設置する。次に、懸垂長さ2000mmにて吊り下げられた直径14mm、質量300gの鋼球を、振り幅(水平方向における試験片からの距離)15mmにて振り子運動させて圧電素子に衝突させる。そして、衝突時に生じる起電圧のピーク値をオシロスコープ(テクトロニクス社製「TPS2012B」)で測定する。これを五回繰り返して、起電圧のピーク値の五回の平均値を自然状態の起電圧V1とする。また、圧電素子を一軸方向に10%伸長した状態で反発弾性試験機(同上)に設置して、上記同様の方法にて測定された起電圧のピーク値の五回の平均値を、伸長状態の起電圧V2とすればよい。
【0040】
圧電素子は、圧電層、電極層に加えて保護層を有する。保護層は、圧電層および電極層のうち、少なくとも電極層に積層されるように配置される。例えば、圧電層と電極層との積層体の積層方向外側の一方または両方に、保護層を配置すればよい。また、一対の電極層間に圧電層が介装されたユニットを複数積層する場合には、積層方向に隣接する電極層間に保護層を配置してもよい。
【0041】
保護層は、圧電層および電極層と共に伸縮可能であることが望ましい。保護層にも、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いることが望ましい。エラストマー製の保護層を配置することにより、圧電素子の絶縁性を確保し、外部からの機械的応力による圧電素子の破壊を抑制することができる。また、保護層が伸長することにより圧電層の歪みを増加させて、センサの感度を向上させることができる。
【0042】
弾性率が比較的小さく柔軟であり、電極層に対する粘着性が良好なエラストマーとして、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、NBRなどが挙げられる。繰り返し使用した場合にセンサの感度の変化を小さくするためには、保護層は耐へたり性に優れることが望ましい。また、保護層は、外部の機械的応力から圧電素子を保護する役割を果たすため、摩耗耐久性や引き裂き耐久性に優れることが望ましい。また、伸長時に保護層が破断して圧電素子が破壊することを防ぐため、保護層の破断伸びは圧電層の破断伸びよりも大きいことが望ましい。
【0043】
前述したように、圧電素子の積層方向に力を加えた場合(圧電素子を圧縮した場合)、保護層が面方向に伸長することにより、圧電層にせん断力が作用する。これにより、圧電層には、積層方向の押圧力に加えて面方向の引張力が加わることになり、圧電層の歪みが増大する。その結果、圧電層で発生する電荷量が増大し、センサの感度が向上する。保護層による感度向上効果は、保護層の引張方向における弾性率が小さい程顕著である。この点、本発明の圧電センサによると、保護層の弾性率は、保護層に隣接し一対の電極層とその間に介装される圧電層からなる一組の積層体の合成弾性率よりも小さい。したがって、圧電層の歪みが増大しやすく、保護層による感度向上効果が発揮されやすい。
【0044】
弾性率は、縦軸に応力、横軸に伸び(歪み)をとった応力−伸び(歪み)曲線の傾きとして得ることができる。しかし、弾性体の場合には、歪みの増加に伴い傾きが変化するため、どこの歪み領域で傾きを求めるかにより弾性率の値が異なる。従来のPZTに代表される圧電セラミックスや、PVDF、ポリ乳酸に代表される圧電樹脂は、伸長率が極小さい領域でしか使用することができないため、歪み量が極小さい領域の弾性率を考慮すればよい。しかしながら、本発明の圧電センサは、柔軟で伸縮可能であるため、伸長率が大きい(歪みが大きい)領域における弾性率をも考慮して設計する必要がある。
【0045】
例えば、保護層は伸長率が25%以下の領域で弾性変形可能であり、同領域における保護層の弾性率は、50MPaより小さいことが望ましい。これを式に示すと次式(α)になる。伸長率が25%以下の領域における保護層の弾性率は、20MPaより小さく、さらには10MPaより小さいとより好適である。
【数1】
【0046】
また、保護層による感度向上効果は、保護層の引張方向における弾性率と、圧電層の引張方向における弾性率と、の差が小さい程顕著である。したがって、保護層と、一対の電極層とその間に介装される圧電層からなる一組の積層体と、は伸長率が25%以下の領域で弾性変形可能であり、さらに伸長率が10%以上25%以下の領域における保護層の弾性率と一組の積層体の合成弾性率とは、次式(β−1)を満たすことが望ましい。次式(β−2)を満たすとより好適である。保護層と一組の積層体とが式(β−1)または式(β−2)を満たす場合には、10%以上伸長された状態においてもセンサの感度を向上させることができる。
【数2】
【0047】
エラストマーのポアソン比は略0.5である。このため、保護層がエラストマーからなる場合には、厚さ方向に加えられた力がそのまま面方向の力として作用する。このため、保護層の厚さが大きいほど、圧電層の歪み増大効果が大きく、センサの感度向上効果が大きくなる。一方、保護層の厚さが大きくなると、圧電素子が大きくなる。このため、保護層の厚さは、設置場所や用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、5μm以上5mm以下にするとよい。
【0048】
<圧電センサ>
本発明の圧電センサの一実施形態を図面を用いて説明する。
図1に、本実施形態の圧電センサの上面図を示す。
図2に、
図1のII−II断面図を示す。
図1においては、保護層13aを透過して示す。
図1、
図2に示すように、圧電センサ1は、圧電素子10と、制御回路部30と、を備えている。圧電素子10は、圧電層11と、一対の電極層12a、12bと、一対の保護層13a、13bと、を備えている。圧電素子10の破断伸びは、50%である。
【0049】
圧電層11は、X−NBRとチタン酸バリウム粒子とを含んでいる。圧電層11は、正方形の薄膜状を呈している。圧電層11には分極処理が施されており、チタン酸バリウム粒子は、圧電層11の厚さ方向(上下方向)に分極している。電極層12aは、アクリルゴム、導電性カーボンブラック、およびカーボンナノチューブを含んでいる。電極層12aは、正方形の薄膜状を呈している。電極層12aは、圧電層11の上面に配置されている。電極層12aの右端には、配線20aが接続されている。電極層12bは、電極層12aと同じ材料からなり、正方形の薄膜状を呈している。電極層12bは、圧電層11の下面に配置されている。電極層12bの右端には、配線20bが接続されている。上方から見て、圧電層11および電極層12a、12bの大きさは同じである。電極層12a、12bの自然状態の体積抵抗率は0.2Ω・cm、左右方向(一軸方向)に10%伸長した状態の体積抵抗率は0.1Ω・cmである。保護層13aは、シリコーンゴム製であって、正方形の薄膜状を呈している。保護層13aは、圧電層11および電極層12a、12bよりも大きく、上方から圧電層11および電極層12a、12bを被覆している。保護層13bは、シリコーンゴム製であって、正方形の薄膜状を呈している。保護層13bは、圧電層11および電極層12a、12bよりも大きく、電極層12bの下面を被覆している。電極層12aと制御回路部30とは、配線20aにより電気的に接続されている。電極層12bと制御回路部30とは、配線20bにより電気的に接続されている。圧電素子10に荷重が加わると、圧電層11に電荷が発生する。発生した電荷は、制御回路部30にて電圧や電流の変化として検出される。これにより、加えられた荷重が検出される。
【0050】
本実施形態において、圧電素子10を構成する圧電層11および電極層12a、12bのマトリックスは、いずれもエラストマーである。また、保護層13a、13bもエラストマー製である。そして、圧電素子10の破断伸びは10%以上である。したがって、圧電素子10は、柔軟で伸縮可能である。このため、圧電素子10を伸びたり曲がったりする被着体に配置しても、被着体の動きを阻害しにくい。また、被着体が複雑な形状を有する場合にも、その形状に沿うように圧電素子10を配置することができる。
【0051】
電極層12a、12bは、自然状態およびそれから一軸方向に10%伸長した状態に至るまでの伸長状態の体積抵抗率が100Ω・cm以下である。すなわち、電極層12a、12bは、自然状態において高い導電性を有するだけでなく、一軸方向に最大10%まで伸長した伸長状態においても電気抵抗の増加が小さく、高い導電性を有する。このため、伸長された状態においても、出力が低下しにくく、圧電層11に加わった荷重を正確に検出することができる。
【0052】
このように、圧電センサ1によると、曲げ、伸び、圧縮などの変形を伴う被着体に配置して、被着体が変形していない状態においては勿論、変形時においても被着体に加わる荷重を検出することができる。すなわち、被着体の一次変形状態においてさらに二次変形した場合にも、被着体に加わった荷重を検出することができる。
【0053】
圧電センサ1は、静電容量型センサと比較して、センサの感度(S/N比)が高いため、小さな荷重を検出しやすい。また、荷重を電圧値や電流値で検出できるため、静電容量から荷重を検出する場合と比較して、回路構成を簡素化することができる。また、圧電素子10への通電が不要であるため、駆動のための電源も必要ない。ちなみに、圧電素子10の静電容量についても測定すれば、圧電センサ1に静電容量型センサとしての機能を付加することができる。例えば、静電容量の変化により面圧分布などの静荷重を検出し、電圧の変化により振動などの動荷重を検出することができる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0055】
<圧電層の製造>
[圧電層1〜4]
まず、エラストマーとしてのカルボキシル基変性水素化ニトリルゴムポリマー(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)100質量部をアセチルアセトンに溶解して、ポリマー溶液を調製した。次に、調製したポリマー溶液に、圧電粒子としてのチタン酸バリウムの粉末(共立マテリアル(株)製「BT9DX−400」)を加えて混練した。ポリマー分100質量部に対するチタン酸バリウムの粉末の配合量は、後出の表1、表2に示すように、圧電層1では650質量部、圧電層2では480質量部、圧電層3では350質量部、圧電層4では800質量部とした。続いて、混練物を三本ロールに五回繰り返し通して、スラリーを得た。そして、得られたスラリーに、架橋剤のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部を加えてエア攪拌機で混練した後、スラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ50μmの圧電層1〜4を製造した。
【0056】
[圧電層5]
エラストマーとしてポリウレタンポリマー(東ソー(株)製「N5139」)を用いた点、および架橋剤としてポリイソシアネート(東ソー(株)製「コロネート(登録商標)HX」)を2質量部用いた点以外は、圧電層2と同様にして圧電層5を製造した。
【0057】
[圧電層6]
まず、エラストマーとしてのシリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製「KE−1935」)のA液とB液とを同じ質量で混合した混合液100質量部に、チタン酸バリウムの粉末(同上)を480質量部加えて混練した。次に、混練物を三本ロールに五回繰り返し通して、スラリーを得た。そして、得られたスラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ50μmの圧電層6を製造した。
【0058】
[圧電層7]
圧電粒子としてチタン酸ジルコン酸鉛の粉末(林化学工業(株)製「PZT−ALT」)を1050質量部用いた点以外は、圧電層5と同様にして圧電層7を製造した。
【0059】
[圧電層8]
圧電粒子としてニオブ酸カリウムの粉末(フルウチ化学(株)製「ピエゾファイン」)を350質量部用いた点以外は、圧電層5と同様にして圧電層8を製造した。
【0060】
[圧電層9〜11]
圧電層2の製造に使用したスラリーに、架橋剤のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部と補強粒子としての二酸化チタンゾルとを加えてエア攪拌機で混練した後、スラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ50μmの圧電層9〜11を製造した。スラリーのポリマー分100質量部に対する二酸化チタンゾルの配合量は、後出の表2に示すように、圧電層9では1質量部、圧電層10では5質量部、圧電層11では20質量部とした。
【0061】
二酸化チタンゾルは、次のようにして製造した。まず、有機金属化合物のテトラi−プロポキシチタン0.01molに、アセチルアセトン0.02molを加えてキレート化した。次に、得られたキレート化物に、イソプロピルアルコール0.083molと、メチルエチルケトン0.139molと、水0.08molと、を添加しながら撹拌し、添加終了後に40℃に昇温してさらに2時間撹拌した。それから室温で一晩静置して、二酸化チタンゾルを得た。
【0062】
[圧電層12、13]
圧電層2の製造に使用したスラリーに、補強粒子が分散したスラリーを加え、さらに架橋剤のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部を加えてエア攪拌機で混練した後、スラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ50μmの圧電層12、13を製造した。スラリーのポリマー分100質量部に対する補強粒子が分散したスラリーの配合量は、後出の表2に示すように、圧電層12では5質量部、圧電層13では20質量部とした。
【0063】
補強粒子が分散したスラリーは、次のようにして製造した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴムポリマー(同上)をアセチルアセトンに溶解して調製したポリマー溶液に、補強粒子としての二酸化チタンの粉末(アナターゼ型、和光純薬工業(株)、製品コード205−01715)を加えて混練した。次に、混練物を三本ロールに五回繰り返し通して、補強粒子が分散したスラリーを得た。
【0064】
[圧電層14]
圧電粒子としてチタン酸バリウム粒子の結合体の粉末a(日本化学工業(株)製「BTD−UP」)を480質量部用いた点以外は、圧電層1〜4と同様にして圧電層14を製造した。
【0065】
[圧電層15]
圧電粒子としてチタン酸バリウム粒子の結合体の粉末bを480質量部用いた点以外は、圧電層1〜4と同様にして圧電層15を製造した。使用したチタン酸バリウム粒子の結合体の粉末bは、チタン酸バリウムの粉末(単粒子の粉末、日本化学工業(株)製「BT−UP2」)を1050℃で180分間焼成した後、ボールミルで粉砕して製造した。
【0066】
図7に、焼成前のチタン酸バリウムの粉末(単粒子)のSEM写真を示す。
図8に、焼成および粉砕後のチタン酸バリウムの粉末b(結合体)のSEM写真を示す。
図7、
図8に示すように、焼成および粉砕することにより、複数のチタン酸バリウム粒子が集合してなる結合体が生成されていることが確認できる。
【0067】
[圧電層a]
比較のため、PVDF(クレハエラストマー(株)製)からなる厚さ40μmの圧電層を圧電層aとした。
【0068】
[圧電層b]
比較のため、エポキシ樹脂にチタン酸バリウム粒子が分散されてなる圧電層を圧電層bとした。圧電層bは、次のように製造した。まず、ビスフェノールA(三菱化学(株)製「jER(登録商標)828」)100質量部に、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(昭和電工(株)製「BRG♯558」4.8質量部を加えてポリマー溶液を調製した。次に、調製したポリマー溶液に、チタン酸バリウムの粉末(同上)を480質量部加えて混練した。続いて、混練物を三本ロールに五回繰り返し通して、スラリーを得た。そして、得られたスラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ50μmの圧電層bを製造した。
【0069】
<電極層の製造>
[電極層1]
まず、エラストマーとしてのエポキシ基含有アクリルゴムポリマー(日本ゼオン(株)製「Nipol(登録商標)AR42W」)100質量部を、ブチルセロソルブアセテートに溶解して、ポリマー溶液を調製した。次に、調製したポリマー溶液に、導電性カーボンブラック(ライオン(株)製「ケッチェンブラックEC600JD」)10質量部と、カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製「VGCF(登録商標)」)16質量部と、分散剤としてのポリエステル酸アマイドアミン塩12質量部と、を添加して、ビーズミルにて分散させて導電塗料を調製した。続いて、導電塗料を離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ20μmの電極層を製造した。
【0070】
[電極層2]
カーボンナノチューブおよび分散剤を配合せずに導電塗料を調製した点以外は、電極層1と同様にして電極層2を製造した。
【0071】
[電極層3]
導電性カーボンブラックを、ライオン(株)製「ケッチェンブラックEC600JD」から三菱化学(株)製「#3050B」に変更し、カーボンナノチューブおよび分散剤を配合せずに導電塗料を調製した点以外は、電極層1と同様にして電極層3を製造した。
【0072】
[電極層4]
銀ペースト(藤倉化成(株)製「ドータイト(登録商標)D−362」)を、離型処理されたPETフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ20μmの電極層4を製造した。
【0073】
<保護層の製造>
[保護層]
シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製「KE1935」)のA液とB液とを同じ質量で混合し、真空脱泡して気泡を抜いた後、離型処理されたPETフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ10μmの保護層を製造した。
【0074】
<圧電素子の製造>
製造した圧電層、電極層、保護層を適宜組み合わせて、次のようにして種々の圧電素子を製造した。まず、圧電層の厚さ方向の二面(上面および下面)に各々電極層を配置して、ラミネーター(フジプラ(株)製「LPD3223」)を用いて圧電層と電極層とを圧着した。次に、予めエキシマ処理を施した保護層を電極層に積層して、ラミネーター(同上)を用いて保護層と電極層とを圧着した。エキシマ処理には、浜松ホトニクス(株)製エキシマランプ光源「FLAT EXCIMER」を使用した。得られた保護層/電極層/圧電層/電極層/保護層からなる積層体の電極層に直流電源を接続し、圧電層に10V/μmの電界を1時間印加して、分極処理を行った。
図9に、製造された圧電素子の上下方向断面図を示す。
図9に示すように、圧電素子40は、上から順に保護層43a、電極層42a、圧電層41、電極層42b、保護層43bが積層されてなる。製造された圧電素子は、縦、横30mmの正方形状の検出部を有する。
【0075】
<圧電素子の評価>
表1および表2に、製造した圧電素子の構成、特性、および評価結果を示す。表1および表2中、ε(比誘電率)、体積抵抗率、弾性率、破断伸び、起電圧、伸縮耐久性の測定方法は、以下の通りである。
【0076】
[エラストマーの比誘電率]
圧電粒子および補強粒子を配合せずに、ポリマーのみから製造した成形体を、サンプルホルダー(ソーラトロン社製、12962A型)に設置し、誘電率測定インターフェイス(同社製、1296型)および周波数応答アナライザー(同社製、1255B型)を併用して、比誘電率を測定した(周波数100Hz)。
【0077】
[圧電粒子、補強粒子の比誘電率]
測定により比誘電率が既知となったエラストマーのポリマーに、圧電粒子または補強粒子を配合して複合体を製造した。この際、配合量が異なる種々の複合体を製造し、各々について、エラストマーの比誘電率を測定したのと同じ方法で比誘電率を測定した。そして、次式(b)により、配合した粒子の比誘電率を算出した。
Logε=V
fLogε
f+V
pLogε
p ・・・(b)
[ε:複合体の比誘電率、V
f:粒子の体積比率(%)、ε
f:粒子の比誘電率、V
p:エラストマーの体積比率(%)、ε
p:エラストマーの比誘電率。]
[電極層の体積抵抗率]
(1)自然状態の体積抵抗率
厚さ20μmの電極層を幅10mm、長さ40mmの短冊状に切り出して試験片とし、長さ方向に20mm離間する位置に標線を付けた。標線位置に銅箔製の端子を取り付けて、標線間の電気抵抗を測定した。測定された電気抵抗値と試験片の寸法とに基づいて、次式(c)により体積抵抗率を算出し、電極層の自然状態の体積抵抗率とした。
体積抵抗率(Ω・cm)=電気抵抗値(Ω)×試験片の断面積(cm
2)/標線間距離(cm) ・・・(c)
(2)伸長状態の体積抵抗率
引張試験機((株)島津製作所製)を用いて、電極層の試験片を長さ方向に伸長した。試験片を10%伸長させた状態で、標線間の電気抵抗を測定し、先の式(c)により体積抵抗率を算出し、電極層の10%伸長時の体積抵抗率とした。試験片を50%伸長させた場合についても同様に体積抵抗率を算出し、電極層の50%伸長時の体積抵抗率とした。伸長状態における試験片の断面積は、試験片のポアソン比を0.5と仮定して算出した。
【0078】
[弾性率]
圧電素子についてJIS K 7127:1999に規定される引張試験を行い、得られた応力−伸び曲線から弾性率を算出した。引張試験は、試験片タイプ2の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行った。
【0079】
[破断伸び]
圧電素子についてJIS K 6251:2010に規定される引張試験を行い、切断時伸びを算出した。引張試験は、ダンベル状5号形の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行った。
【0080】
[起電圧]
JIS K 6255:2013に規定される振子式試験に類似する方法で起電圧を測定した。まず、圧電素子を自然状態で高分子計器(株)製の反発弾性試験機に設置した。次に、懸垂長さ2000mmにて吊り下げられた直径14mm、質量300gの鋼球を、振り幅(水平方向における試験片からの距離)15mmにて振り子運動させて圧電素子に衝突させた。そして、衝突時に生じる起電圧のピーク値をオシロスコープ(テクトロニクス社製「TPS2012B」)で測定した。これを五回繰り返して、起電圧のピーク値の五回の平均値を自然状態の起電圧V1とした。また、圧電素子を一軸方向に10%伸長した状態で反発弾性試験機(同上)に設置して、上記同様の方法にて測定された起電圧のピーク値の五回の平均値を、伸長状態の起電圧V2とした。
【0081】
[伸縮耐久性]
圧電素子について伸縮試験を行い、試験前後における起電圧の変化により伸縮耐久性を評価した。伸縮試験においては、圧電素子を面方向の一方向に10%伸長した後復元させるというサイクルを1万回繰り返した。伸縮は、2サイクル/秒の速さで行った。そして、前述した自然状態の起電圧の測定方法により、試験前後の圧電素子の起電圧を測定し、次式(d)により、初期の起電圧に対する変化率を算出した。
起電圧の変化率(%)=V1/V3×100 ・・・(d)
[V1:初期(自然状態)の起電圧(V)、V3:伸縮試験後の起電圧(V)。]
【表1】
【表2】
【0082】
まず、圧電層に補強粒子が含まれない参考例1〜8の圧電素子について説明する。表1に示すように、参考例1〜8の圧電素子によると、圧電素子の破断伸びは40%以上であった。電極層の体積抵抗率は、自然状態および10%伸長時で3Ω・cm以下、50%伸長時で5Ω・cm以下であった。これにより、参考例1〜8の圧電素子を構成する電極層は、自然状態およびそれから一軸方向に10%伸長した状態に至るまでの伸長状態の体積抵抗率が100Ω・cm以下という条件を満足すると判断できる。また、参考例1〜8の圧電素子におけるV2/V1の値は0.5%より大きく、前述した式(I)の条件を満足している。また、伸縮を繰り返した後の起電圧の変化率も150%以下であり、伸縮を繰り返した後でも起電圧の変化が小さく、伸縮耐久性に優れることが確認された。また、圧電素子の弾性率が大きいと、被着体の動きを阻害するおそれがある。この点、参考例1〜8の圧電素子の弾性率は500MPa以下である。よって、表1に〇印で示すように、参考例1〜8の圧電素子は、被着体に対する追従性が良好であり、被着体の動きを阻害しにくいことが確認された。
【0083】
これに対して、PVDF製の圧電層を有する比較例1の圧電素子、およびエポキシ樹脂をマトリックスとする圧電層を有する比較例5の圧電素子においては、表2に示すように弾性率が大きく、伸長させた後に元の形状に復元しなかった。このため、伸長状態の起電圧を測定することができず、伸縮耐久性を評価するに至らなかった。また、参考例16の圧電素子においては、圧電粒子の配合量が多いため、圧電素子の弾性率が大きくなり、破断伸びも10%未満であった。このため、伸長状態の起電圧を測定することができず、伸縮耐久性を評価するに至らなかった。また、比較例3の圧電素子においては、伸長時に電極層の体積抵抗率が大幅に増加したため、起電圧が大幅に低下した。また、銀ペースト製の電極層を有する比較例4の圧電素子においては、伸長時に電極層の体積抵抗率が大幅に増加して絶縁状態になったため、伸長状態の起電圧を測定することができず、伸縮耐久性を評価するに至らなかった。
【0084】
次に、圧電層に補強粒子が含まれる参考例9〜13の圧電素子について説明する。表2に示すように、参考例9〜13の圧電素子の構成は、圧電層に補強粒子が配合されている点を除いて、参考例3の圧電素子の構成と同じである。したがって、参考例9〜13の圧電素子は、参考例3の圧電素子と同様に、伸縮を繰り返した後でも起電圧の変化が小さく、伸縮耐久性に優れる。また、参考例9〜13の圧電素子においては、参考例3の圧電素子と比較して、自然状態における起電圧が大きくなった。これは、補強粒子を配合したことによる大きな効果である。また、補強粒子は表面に水酸基を有し、エラストマーに化学結合している。このため、伸縮を繰り返した後の起電圧の変化率がより小さくなった。
【0085】
次に、圧電粒子として個々の粒子が化学結合した結合体を用いた参考例14、15の圧電素子について説明する。表1、2に示すように、参考例14、15の圧電素子の構成は、使用した圧電粒子が異なる点を除いて、参考例3の圧電素子の構成と同じである。参考例14、15の圧電素子によると、チタン酸バリウム粒子(単粒子)を用いた参考例3の圧電素子と比較して、弾性率が小さく、破断伸びが大きくなった。一方、参考例14、15の圧電素子の起電圧は、参考例3の圧電素子のそれよりも大きくなった。そして、参考例14、15の圧電素子の伸縮耐久性は、参考例3の圧電素子のそれと同等レベルであった。このように、参考例14、15の圧電素子によると、高い圧電性を確保しつつ柔軟性を大幅に向上させることができた。これは、圧電粒子の集合体を用いると、圧電粒子同士の連結構造が形成されやすくなるため、圧電粒子の配合量を増加させなくても高い圧電性が得られるためである。
【0086】
図10に、チタン酸バリウム粒子の体積割合と発生電界との関係を示す。
図10に示すように、圧電層14で使用した結合体の場合、圧電層1で使用した単粒子と比較して、低充填率でも大きな電界が発生することがわかる。同様に、圧電層15で使用した結合体の場合、焼成前の単粒子と比較して、低充填率でも大きな電界が発生することがわかる。
【0087】
一例として、参考例2の圧電素子に振動を加えた場合に発生する起電圧のグラフを示す。
図3は、圧電素子を面方向の一方向に1%伸長した状態で厚さ方向に振動を加えた場合の起電圧のグラフである。
図4は、圧電素子を面方向の一方向に10%伸長した状態で厚さ方向に振動を加えた場合の起電圧のグラフである。
図3、
図4中、起電圧は太線で、荷重は細線で示されている。圧電素子には、(有)旭製作所製の疲労耐久試験機「APC−1000」を用いて、荷重p−pが1.7Nのサイン波状の振動を加えた。
【0088】
図3、
図4に示すように、圧電素子は、伸長された状態においても圧電性能を維持しており、加えられた荷重を検出できることがわかる。
【0089】
<圧電素子における保護層の検討>
保護層の種類、厚さを変更して圧電素子を製造し、自然状態および伸長状態の起電圧を測定した。圧電素子の構成は保護層/電極層/圧電層/電極層/保護層であり、製造方法は上述した通りである。保護層としては、次の三種類を使用した。
【0090】
[保護層1]
シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製「KE2004−5」)のA液とB液とを同じ質量で混合し、真空脱泡して気泡を抜いた後、離型処理されたPETフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ1mmの保護層1を製造した。
【0091】
[保護層2]
シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製「KE1935」)のA液とB液とを同じ質量で混合し、真空脱泡して気泡を抜いた後、離型処理されたPETフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ1mmの保護層2を製造した。なお、保護層2は、上述した参考例1〜15の圧電素子に使用した保護層の厚さ違いである。
【0092】
[保護層3]
市販のNBRシート(商品コード「07−012−02−04」、厚さ2mm)を使用した。
【0093】
表3に、圧電素子の構成、積層体の合成弾性率、保護層の弾性率および破断伸び、圧電素子の起電圧の測定結果を示す。弾性率、破断伸び、起電圧の測定は、上述した方法に準じて行った。積層体の合成弾性率は、圧電層の弾性率と電極層の弾性率とを別々に求め、それらを足し算した値である。20%伸長状態の起電圧は、圧電素子を一軸方向に20%伸長した状態で反発弾性試験機(同上)に設置して測定された起電圧のピーク値の五回の平均値である。
【表3】
【0094】
表3に示すように、保護層1、2の弾性率は10MPaより小さく、保護層1、2は、上述した弾性率の式(α)を満たす。また、保護層1を有する実施例17の圧電素子、保護層2を有する実施例18の圧電素子は、いずれも式(β−1)および式(β−2)を満たす。したがって、実施例17、18の圧電素子においては、保護層を有さない参考例17の圧電素子よりも、起電圧が大きくなった。実施例17、18の圧電素子においては、保護層による圧電層の歪み増大効果が存分に発揮されていることがわかる。また、保護層の厚さが1mmの実施例18の圧電素子においては、保護層の厚さが10μmの参考例15の圧電素子と比較して、起電圧が大きくなった。これは、保護層の厚さが大きい分だけ、圧電層の歪み増大効果が大きくなったためと考えられる。一方、参考例18の圧電素子においては、保護層3は上述した弾性率の式(α)を満たすものの、式(β−1)を満たさない。このため、参考例18の圧電素子の起電圧は、保護層を有さない参考例17の圧電素子と同等レベルであった。また、PVDF製の圧電層を有する比較例6の圧電素子においては、伸長率10%以上になると積層体が弾性領域を超えてしまった。すなわち、比較例6の圧電素子は柔軟な保護層を有しているが、圧電層の柔軟性が乏しいため、大きく伸長する用途には使用できないことが確認された。