(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1.ステアリング装置22の構成)
ステアリング装置の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。ステアリング装置22は、操舵トルクを電動モータによるアシストトルクにより補助することが可能な車両の電動パワーステアリング装置である。
【0015】
ステアリング装置22は、ダンパ装置20を備えていると共に、操舵機構24と、転舵機構26と、操舵補助装置28と、を備えている。ステアリング装置22は、転舵シャフトをその転舵シャフトの軸方向Aに沿って移動させることにより、その転舵シャフトの両端それぞれに連結されている転舵輪を転舵させる装置である。
【0016】
操舵機構24は、ステアリングホイール30と、ステアリングシャフト32と、を有している。ステアリングホイール30は、車両運転者による操作可能に車室内に配設されており、回転可能に支持されている。ステアリングホイール30は、車両運転者の回転操作により回転する。ステアリングホイール30には、ステアリングシャフト32の一端部が連結されている。ステアリングシャフト32は、車体に固定されたハウジング34に回転可能に保持されている。ステアリングシャフト32は、ステアリングホイール30の回転に伴って回転する。ステアリングシャフト32の他端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン36が形成されている。
【0017】
転舵機構26は、上記ピニオン36と共にラックアンドピニオン機構を構成するラック38が形成された転舵シャフト40を有している。ラック38は、転舵シャフト40の何れか一端に偏った位置に設けられている。ステアリングシャフト32のピニオン36と転舵シャフト40のラック38とは、互いに噛合している。ステアリングシャフト32は、車両運転者の回転操作によってステアリングホイール30に加わったトルクを転舵シャフト40に伝達する。転舵シャフト40は、車幅方向に延在している。転舵シャフト40は、ステアリングシャフト32の回転に伴ってその軸方向Aすなわち車幅方向に移動する。すなわち、ステアリングシャフト32の回転は、ラックアンドピニオン機構により転舵シャフト40の軸方向Aへの直線移動に変換される。
【0018】
転舵シャフト40の両端部には、ボールジョイント42を介してタイロッド44が揺動可能に連結されている。タイロッド44には、ナックルアーム46を介して転舵輪48が連結されている。転舵輪48は、転舵シャフト40の軸方向Aへの移動により転舵される。この転舵輪48の転舵により車両は左右に操舵される。
【0019】
操舵補助装置28は、電動モータを駆動源として車両運転者がステアリングホイール30を回転操作するときの操舵トルクを補助する装置である。操舵補助装置28は、ボールネジ機構50と、電動モータ52と、駆動力伝達機構54と、を有している。操舵補助装置28は、電動モータ52の発生した回転トルクを、駆動力伝達機構54を介してボールネジ機構50に伝達すると共に、そのボールネジ機構50によって転舵シャフト40を軸方向Aに直線移動させる力に変換することで、転舵機構26に転舵輪48の転舵を補助する補助力を付与する。ステアリング装置22は、いわゆるラックパラレル型のステアリング装置である。
【0020】
ボールネジ機構50は、ボールネジ部56と、ボールネジナット58と、を有する。ボールネジ部56は、転舵シャフト40の外周面に螺旋状に複数回巻かれて形成された外周溝である。ボールネジ部56は、転舵シャフト40の、ラック38とは異なる位置に設けられており、ラック38が設けられた一端部とは反対側の他端部に偏った位置に設けられている。ボールネジナット58は、筒状に形成されており、転舵シャフト40と同軸に配置されている。ボールネジナット58は、その内周面に螺旋状に複数回巻かれて形成された内周溝を有している。
【0021】
ボールネジ部56の外周溝とボールネジナット58の内周溝とは、径方向に対向配置されており、両溝間で複数の転動ボール60が転動する転動路62を形成する。この転動路62内には、複数の転動ボール60が転動可能に配列されている。ボールネジ部56の外周溝とボールネジナット58の内周溝とは、複数の転動ボール60を介して螺合している。転動ボール60は、ボールネジナット58に設けられるデフレクタ(図示せず)により無限循環される。
【0022】
転舵シャフト40は、軸方向Aへ移動可能にハウジング34に挿通されてそのハウジング34に保持されている。ハウジング34は、筒状に形成されている。ハウジング34は、小径部64と、大径部66と、を有している。小径部64は、転舵シャフト40の外径に比して僅かに大きな内径を有している。小径部64には、ステアリングシャフト32が挿通されるステアリングシャフト挿通部68が連結されている。大径部66は、小径部64の内径に比して大きな内径を有している。大径部66には、ボールネジ機構50が収容されると共に、駆動力伝達機構54が収容される。
【0023】
ハウジング34の大径部66とボールネジ機構50のボールネジナット58との間には、軸受部69が介在している。すなわち、ボールネジナット58は、軸受部69を介してハウジング34の大径部66に回転可能に支持されている。軸受部69は、ボールベアリングなどにより構成され、例えば複列アンギュラ玉軸受である。
【0024】
尚、ハウジング34は、第1ハウジング34aと第2ハウジング34bとに転舵シャフト40の軸方向へ接離可能に構成されていてよい。このハウジング34の接離部分は、大径部66である。すなわち、ハウジング34は、大径部66において軸方向へ接離可能である。これは、大径部66にボールネジ機構50と駆動力伝達機構54とを収容するためである。第1ハウジング34aは、ステアリングシャフト挿通部68を含むと共に、大径部66の一部を含む。また、第2ハウジング34bは、大径部66の残り部分を含む。ハウジング34の第1ハウジング34aと第2ハウジング34bとは、互いに嵌合される。この嵌合は、大径部66にボールネジ機構50と駆動力伝達機構54とが収容された後に行われる。
【0025】
操舵補助装置28は、また、トルクセンサ70と、電子制御ユニット(以下、ECUと称す。)72と、を有している。トルクセンサ70は、ステアリングシャフト32に配設されている。トルクセンサ70は、ステアリングシャフト32の捩れ量に応じた信号を出力する。ECU72及び電動モータ52は、ハウジング34の大径部66近傍に固定されるケース74に収容されている。ECU72と電動モータ52とは、ケース74内において隣接して配設されている。電動モータ52は、その出力軸が転舵シャフト40の軸方向Aに対して平行となるように配置されている。トルクセンサ70は、電源線及び信号線を纏めたワイヤハーネス76を介してECU72に電気的に接続されている。トルクセンサ70の出力信号は、ECU72に供給される。
【0026】
ECU72は、トルクセンサ70から入力される信号に基づいてステアリングホイール30に加わるトルクを検出すると共に、その検出トルクに基づいて電動モータ52によるアシストトルクを設定して電動モータ52の出力を制御する。電動モータ52は、ECU72からの指令に従ってアシストトルクを発生する。電動モータ52により発生されたアシストトルクは、駆動力伝達機構54に伝達される。
【0027】
駆動力伝達機構54は、入力側が電動モータ52の出力軸に接続されていると共に、出力側がボールネジナット58の外周側に接続された構造を有している。具体的には、駆動力伝達機構54は、駆動プーリ78と、ベルト80と、従動プーリ82と、を有する。駆動プーリ78は、電動モータ52の出力軸が挿通される貫通孔を有し、その電動モータ52の出力軸に連結されている。従動プーリ82は、ボールネジ機構50のボールネジナット58が挿通される貫通孔を有し、そのボールネジナット58に連結されている。駆動プーリ78及び従動プーリ82はそれぞれ、外歯を有する歯付きプーリである。ベルト80は、内歯を有する歯付きベルトであって、環状のゴム部材である。ベルト80は、駆動プーリ78の外歯及び従動プーリ82の外歯に噛合している。
【0028】
駆動力伝達機構54は、駆動プーリ78と従動プーリ82との間でベルト80を介して電動モータ52の発生する回転トルクを伝達するベルト伝達機構である。ベルト80は、駆動プーリ78の回転を従動プーリ82へ滑りなく伝達する。電動モータ52から駆動力伝達機構54にアシストトルクが伝達されると、従動プーリ82と一体化されたボールネジナット58が回転駆動されて、複数の転動ボール60を介して転舵シャフト40が軸方向Aに移動される。
【0029】
上記のステアリング装置22において、ステアリングホイール30が操作されると、その操舵トルクがステアリングシャフト32に伝達され、ピニオン36とラック38とからなるラックアンドピニオン機構を介して転舵シャフト40が軸方向Aに移動される。また、ステアリングシャフト32に伝達された操舵トルクは、トルクセンサ70を用いてECU72に検出される。ECU72は、操舵トルク及び電動モータ52の回転位置などに基づいて電動モータ52の出力制御を行う。電動モータ52は、ECU72からの指令に従ってアシストトルクを発生する。このアシストトルクは、駆動力伝達機構54及びボールネジ機構50を介して転舵シャフト40を軸方向に移動させる駆動力に変換される。
【0030】
転舵シャフト40が軸方向に移動されると、ボールジョイント42、タイロッド44、及びナックルアーム46を介して転舵輪48の向きが変更される。従って、かかるステアリング装置22によれば、ステアリングシャフト32への操舵トルクに応じた電動モータ52によるアシストトルクを転舵シャフト40の軸方向移動に付与することができるので、運転者がステアリングホイール30を操作する際の操舵力を軽減することができる。
【0031】
(2.ダンパ装置20の構成)
ダンパ装置20について、
図3−
図6を参照して説明する。転舵機構26の転舵シャフト40には、大径部材84が装着されている。大径部材84は、転舵シャフト40の軸方向両端部それぞれに設けられており、転舵シャフト40と同軸に連結されている。大径部材84は、転舵シャフト40の外径に比して大きな外径を有している。転舵シャフト40の軸方向端部には、軸方向に向けて開口する凹部86が形成されている。凹部86は、内面に雌ネジが形成された雌ネジ部である。大径部材84の軸方向端部には、軸方向に向けて突出する凸部88が形成されている。凸部88は、外面に雄ネジが形成された雄ネジ部である。大径部材84は、凸部88が転舵シャフト40の凹部86に螺合されることにより、転舵シャフト40と連結される。
【0032】
大径部材84の軸方向両端部にはそれぞれ、軸方向に向けて開口する開口部90が形成されている。開口部90は、凸部88が設けられた軸方向端部とは反対側の軸方向端部に設けられた略球状の孔である。開口部90は、その孔中心が転舵シャフト40の軸中心Cに一致するように配置されている。開口部90には、ボールジョイント42を構成するボールスタッド92のボール先端が収容されている。ボールスタッド92は、そのボール先端が開口部90に緩衝材94を介して収容されつつ回動自在である。
【0033】
ハウジング34の軸方向両端部にはそれぞれ、大径部材84を収容する大径収容部96が形成されている。大径収容部96は、大径部材84の外径に比して大きな径を有するように形成されている。ハウジング34は、ストッパ部98を有している。ストッパ部98は、ハウジング34の円筒内面から径方向内方に延びており、円環状に形成されている。ストッパ部98は、大径収容部96を形成するための壁部材である。ストッパ部98の軸中心には、転舵シャフト40が貫通する貫通孔が設けられている。ストッパ部98は、転舵シャフト40の外径に比して大きな内径を有している。ストッパ部98は、大径部材84の軸方向端面84aに対して軸方向に対向するストッパ面(すなわち対向面)98aを有している。ストッパ面98aは、段差の無い平面であって、ストッパ部98は、段差の無い平面壁である。
【0034】
ダンパ装置20は、転舵シャフト40の軸方向移動に伴って大径部材84の軸方向端面84aがハウジング34のストッパ部98のストッパ面98aに当接する際の衝撃を吸収するための装置であって、その衝撃吸収により駆動力伝達機構54のベルト80の歯とびなどを防止する装置である。ダンパ装置20は、大径部材84と、ハウジング34と、衝撃吸収部材100と、を備えている。衝撃吸収部材100は、弾性体102と、保持プレート104と、リングプレート106と、を有している。
【0035】
弾性体102は、所定の径方向厚さを有する略円筒形状に形成された部材である。弾性体102は、軸方向Aへの弾性を有している。弾性体102は、弾性を有する材料であれば、架橋ゴム、熱硬化性又は熱可塑性を有する合成樹脂系エラストマー等の材料を用いて成形されている。架橋ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のジエン系ゴム、及びこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたゴムなどがある。熱硬化性合成樹脂系エラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム等のオレフィン系ゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどがある。熱可塑性合成樹脂系エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、塩化ビニル系等のエラストマーがある。尚、弾性体102の耐熱性、耐寒性、耐候性の観点からは、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴムなどを用いることが好適であり、また、弾性体の耐油性の観点からは、極性基を有するアクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどを用いることが好適である。
【0036】
保持プレート104は、弾性体102を保持するプレート部材であって、略円筒形状に形成された部材である。保持プレート104は、鉄などの金属により成形されている。保持プレート104は、軸方向Aに延びる円筒部110と、円筒部110の軸方向一端部から径方向外方に延在するフランジ部112と、を有し、円筒部110とフランジ部112とが一体となって断面L字状に形成されている。保持プレート104は、円筒部110及びフランジ部112により弾性体102を保持する。
【0037】
円筒部110は、その内周面が転舵シャフト40の外周面に対向し、その転舵シャフト40が挿通される貫通孔が形成されている部位である。円筒部110は、弾性体102の内径と略同じかつハウジング34のストッパ部98の内径と略同じ外径を有していると共に、転舵シャフト40の外径に比して大きな内径を有している。円筒部110の軸方向先端と、ハウジング34のストッパ部98とは、互いに軸方向に対向している。
【0038】
フランジ部112は、円筒部110の軸方向端部のうちハウジング34のストッパ部98から遠い側の軸方向端部に設けられている。フランジ部112は、そのフランジ面が大径部材84の軸方向端面84aに対向しており、その大径部材84の軸方向端面84aが接触し得る部位である。フランジ部112と大径部材84の軸方向端面84aとは、転舵シャフト40の軸方向Aへの通常移動域では
図5に示す如く互いに接触せずに離間しており、転舵シャフト40の軸方向Aへの移動量が所定量に達した場合に互いに接触する。フランジ部112は、ハウジング34の内径と略同じ或いはその内径に比して僅かに小さな外径を有している。フランジ部112の径方向幅は、弾性体102の径方向幅に略一致している。
【0039】
弾性体102は、保持プレート104の円筒部110及びフランジ部112に接着されて、保持プレート104に一体化されている。保持プレート104は、フランジ部112において大径部材84の軸方向端面84aが接触して軸方向Aに押圧されることにより衝撃力を受けて、弾性体102にフランジ部112とハウジング34のストッパ部98との挟持による圧縮力を加えながら衝撃を伝達する。
【0040】
保持プレート104の円筒部110は、弾性体102が無変形状態にあるときにその円筒部110の軸方向他端とハウジング34のストッパ部98のストッパ面98aとが所定間隔Dを空けるように形成配置されている。この所定間隔Dは、弾性体102が想定される最大圧縮力で軸方向Aに圧縮変形した際の最大圧縮代Xよりも大きくなるように設定されている。円筒部110は、弾性体102の径方向内方への弾性変形を規制して、その弾性体102が転舵シャフト40に干渉するのを防止する機能を有している。
【0041】
弾性体102は、保持プレート104の円筒部110の軸方向他端よりもその軸方向他方へ向けて突出しており、転舵シャフト40側に露出している。弾性体102の軸方向他端部の内径側には、テーパ状の拡径部114が形成されている。拡径部114は、弾性体102が軸方向Aに圧縮変形した際に保持プレート104の円筒部110の軸方向他端とハウジング34のストッパ部98のストッパ面98aとの間から径方向内方へはみ出さないようにするために設けられている。
【0042】
弾性体102は、弾性体102本体の外周面から径方向外方に向けて突出する凸部116を有している。凸部116は、弾性体102の軸方向他端部に設けられている。凸部116は、弾性体102の外周面において円環状に形成され、或いは、周方向に等間隔で複数配置されている。ハウジング34の大径収容部96には、弾性体102の凸部116が収容される凹部118が形成されている。弾性体102の凸部116とハウジング34の凹部118とは、両者の嵌合により弾性体102ひいては保持プレート104を軸方向において位置決めする機能を有している。
【0043】
ハウジング34の大径収容部96の内周面は、弾性体102本体の外径に略一致する内径を有する第1内周面119−1と、弾性体102の凸部116の外径に略一致する内径を有する第2内周面119−2と、を有する。第2内周面119−2の内径は、第1内周面119−1の内径に比して大きい。
【0044】
尚、凸部116は、弾性体102が軸方向Aに圧縮変形した際に過大な力がハウジング34の凹部118に作用しないように、テーパ状に形成されていてよい。この際、弾性体102は、リングプレート106の後述する第2プレート部124の径方向外面に接する部位から軸方向Aに対して傾斜するように形成されてもよく、また、ハウジング34の凹部118に嵌る部位のみ軸方向Aに対して傾斜するように形成されてもよい。
【0045】
また、弾性体102の軸方向他端部には、軸方向に向けて開口する開口溝120が形成されている。開口溝120は、弾性体102の軸方向端面において円環状に形成された溝である。開口溝120は、拡径部114と凸部116との間の略径方向中間に配置されている。すなわち、弾性体102の凸部116は、開口溝120の径方向外方に位置している。
【0046】
リングプレート106は、弾性体102とハウジング34のストッパ部98との軸方向間に配置される、略円環状に形成されるプレート部材である。リングプレート106は、鉄などの金属により成形されている。尚、リングプレート106は、弾性体102に接着されて固定されていてよい。この場合、弾性体102がゴム材料で成形されていれば、リングプレート106と弾性体102とは加硫接着されていてよい。また、リングプレート106は、弾性体102と共にインサート成形されていてよい。リングプレート106は、ハウジング34のストッパ部98に支持されながら、保持プレート104のフランジ部112との間で弾性体102を挟持し得る環状部材である。
【0047】
リングプレート106は、その軸方向長さが、弾性体102の無変形状態における保持プレート104の円筒部110の軸方向他端とハウジング34のストッパ部98のストッパ面98aとの所定間隔Dに比して大きくなるように形成されている。尚、リングプレート106は、その軸方向長さが、その弾性体102の無変形状態における所定間隔Dに比して小さいが、弾性体102が軸方向Aに圧縮変形したときにおける間隔に比して大きくなるように形成されていてよい。
【0048】
リングプレート106は、第1プレート部122と、第2プレート部124と、を有している。第1プレート部122は、ハウジング34のストッパ部98に対して軸方向に隣接して配置された、そのストッパ部98のストッパ面98aが接触し得る環状プレートである。第2プレート部124は、第1プレート部122に対して弾性体102側の軸方向に隣接して配置されている。第2プレート部124は、弾性体102に対して軸方向に隣接して配置された、その弾性体102が接触し得る環状プレートである。第1プレート部122と第2プレート部124とは、一体で成形された一体部材である。このため、リングプレート106の部品点数が削減されると共に、リングプレート106の組み付け性が向上する。
【0049】
第1プレート部122は、ハウジング34の大径収容部96の第1内周面119−1の内径と同じ或いは僅かに小さな外径を有している。第1プレート部122の外周面とハウジング34の第1内周面119−1の内周面とは、互いにほとんど隙間なく対向している。この第1プレート部122の外径は、弾性体102本体の外径と略同じである。第1内周面119−1は、第1プレート部122の径方向への移動を規制する機能を有する。
【0050】
第1プレート部122は、ハウジング34のストッパ部98の内径に比して大きな内径を有している。この第1プレート部122の内径は、保持プレート104の円筒部110の外径に比して大きい。このため、弾性体102の圧縮変形により保持プレート104が軸方向Aに変位しても、その保持プレート104の円筒部110の軸方向先端が第1プレート部122に干渉することは回避される。
【0051】
第1プレート部122は、軸方向Aに所定厚さを有している。この第1プレート部122の軸方向Aへの所定厚さは、弾性体102が最大圧縮代Xだけ変形したときにも保持プレート104の円筒部110の軸方向先端がハウジング34のストッパ部98に干渉することが回避されるように設定されている。
【0052】
第2プレート部124は、弾性体102の開口溝120の大きさに合致する大きさを有しており、その開口溝120の径方向幅と略同じ径方向幅を有していると共に、その開口溝120の軸方向幅と略同じ軸方向厚さを有している。第2プレート部124の軸方向Aへの軸方向厚さは、凸部116及び拡径部114の応力変形を抑えて保護するのに必要な大きさであって、かつ、リングプレート106全体の軸方向長さが弾性体102の無変形状態における上記所定間隔Dに比して大きくなるのに必要な大きさに設定されている。第2プレート部124は、弾性体102の開口溝120に嵌合される。第2プレート部124は、弾性体102の凸部116を介してハウジング34の大径収容部96の凹部118に径方向で対向する。
【0053】
第2プレート部124は、第1プレート部122の外径に比して小さくかつハウジング34の大径収容部96の第2内周面119−2の内径に比して小さな外径を有している。第2プレート部124の外周面とハウジング34の第1内周面119−1の内周面とは、互いに隙間空間を空けて対向している。この隙間空間には、凸部116を含む弾性体102が収容される。この第2プレート部124の外径は、弾性体102の外径に比して小さい。第2内周面119−2は、第2プレート部124との間に凸部116を含む弾性体102を収容する空間を形成する。第2プレート部124は、第1プレート部122の内径に比して大きな内径を有している。
【0054】
リングプレート106は、その外周側において第1プレート部122と第2プレート部124とにより段差が形成されると共に、その内周側において第1プレート部122と第2プレート部124とにより段差が形成された部材である。第2プレート部124の径方向外方には、弾性体102の凸部116及びその凸部116に連続する部位が配置されている。第2プレート部124の径方向内方には、弾性体102の拡径部114が配置されている。
【0055】
上記構造を有するダンパ装置20においては、転舵シャフト40の軸方向Aへの移動量が所定量に達すると、まず、その転舵シャフト40の軸方向端部に装着された大径部材84の軸方向端面84aが衝撃吸収部材100の保持プレート104のフランジ部112に接触して、その後、大径部材84から保持プレート104のフランジ部112へ大きな衝撃力が付与される。
【0056】
上記の衝撃力がフランジ部112に付与されると、保持プレート104がハウジング34のストッパ部98に近づく軸方向Aへ押圧されて移動する。この際、弾性体102は、その軸方向Aへ押圧されて、ストッパ部98に保持されているリングプレート106と保持プレート104のフランジ部112とにより挟持されつつ、逃げ場を求めて隙間空間を埋めるように径方向内方や径方向外方へ向けて変形する。
【0057】
そして、最終的には、弾性体102は、
図6に示す如く、ハウジング34の大径収容部96、保持プレート104の円筒部110及びフランジ部112、並びにリングプレート106により囲まれる空間内でそれらの接触面を全方位へ押圧しながら圧縮変形し、保持プレート104のフランジ部112が軸方向Aに最大圧縮代Xだけ変位した後の上記空間内で充満された状態となる。このため、大径部材84から衝撃吸収部材100の保持プレート104に付与された衝撃力は、弾性体102の弾性変形の作用により吸収される。
【0058】
弾性体102は、上記空間内で充満された状態では、軸方向Aにおける弾性率が急激に高まる。弾性体102が無変形状態にあるとき、保持プレート104の円筒部110の軸方向他端とハウジング34のストッパ部98のストッパ面98aとは、上記最大圧縮代Xよりも大きい所定間隔Dを空けて配置されている。このため、弾性体102の弾性変形及び衝撃吸収部材100による衝撃吸収を、保持プレート104の円筒部110がハウジング34のストッパ部98と干渉することなくそのストッパ部98に対して非接触状態を維持したまま、実現することができる。
【0059】
また、弾性体102の内部に発生する応力は、主に弾性体102の本体で発生して、ハウジング34の大径収容部96、保持プレート104の円筒部110及びフランジ部112、並びにリングプレート106に付与される。一方、弾性体102の凸部116は、開口溝120の径方向外方に配置されているので、弾性体102の本体内で上昇した応力はリングプレート106の第2プレート部124に遮られてその凸部116に伝わり難い。このため、弾性体102の凸部116の応力はあまり大きくならないので、その凸部116が破壊されるのを抑えることができ、弾性体102の耐久性を向上させることができる。
【0060】
また、弾性体102の拡径部114は、開口溝120の径方向内方に配置されているので、弾性体102の本体内で上昇した応力はリングプレート106の第2プレート部124に遮られてその拡径部114に伝わり難い。このため、弾性体102の拡径部114の応力はあまり大きくならず、弾性体102の肉片の移動がリングプレート106に遮られるので、弾性体102の一部が保持プレート104とハウジング34のストッパ部98との間から径方向内方へはみ出すのを防止することができ、その間に噛み込まれるのを回避することができる。
【0061】
また、衝撃吸収部材100のリングプレート106は、弾性体102に対して軸方向に隣接して配置され、その開口溝120に嵌ってその弾性体102が接触する第2プレート部124と、ハウジング34のストッパ部98に対して軸方向に隣接して配置され、そのストッパ部98のストッパ面98aが接触する第1プレート部122と、を有している。そして、第1プレート部122の内径は、第2プレート部124の内径に比して小さいが、ハウジング34のストッパ部98の内径に比して大きい。このため、弾性体102が弾性変形する過程で、保持プレート104の円筒部110がハウジング34のストッパ部98と干渉することは回避されると共に、その円筒部110がリングプレート106と干渉することは回避される。
【0062】
尚、弾性体102の弾性変形時に保持プレート104の円筒部110の干渉を回避するうえでは、リングプレート106の第1プレート部122の部位をハウジング34の一部としてハウジング34と一体化し、ハウジング34の形状をストッパ部98のストッパ面98aに段差を設けた形状とする構造が考えられる。しかし、かかる構造では、ハウジング34を段差を有するように座繰り加工することが要求されるので、ハウジング加工に手間がかかり、加工コストが高い。
【0063】
これに対して、本実施形態において、ハウジング34のストッパ部98は段差の無い平面壁であって、そのストッパ面98aは段差の無い平面である。また、リングプレート106は、その第1プレート部122の内径がハウジング34のストッパ部98の内径に比して大きくなるように形成されている。このため、ハウジング34を加工するうえで段差が設けられるように座繰り加工することは不要であるので、ハウジング34の形状を特にストッパ部98にて段差の無い簡易形状とすることができ、ハウジング34の加工工数の削減及びその加工コストの削減を図ることができる。
【0064】
また、弾性体102の弾性変形時に保持プレート104の円筒部110をハウジング34のストッパ部98やリングプレート106の第1プレート部122と干渉させないためには、保持プレート104のフランジ部112の初期配置位置を維持したままその円筒部110の軸方向長さを短くする構造、或いは、保持プレート104の初期配置位置をストッパ部98側からより離れた位置とする構造が考えられる。しかし、かかる構造では、保持プレート104に保持される弾性体102の容積が変わることでダンパ性能が低下し、或いは、保持プレート104に保持される弾性体102が圧縮変形時に転舵シャフト40側へ逃げ易くなることでその転舵シャフト40に干渉するなどの不都合が生じ得る。
【0065】
これに対して、本実施形態において、リングプレート106は、上述の如く、その第1プレート部122の内径がハウジング34のストッパ部98の内径に比して大きくなるように形成されている。すなわち、リングプレート106の第1プレート部122とハウジング34のストッパ部98とで、保持プレート104の円筒部110の軸方向他端の干渉を回避するための座繰り部が設けられる。このため、保持プレート104のフランジ部112の初期配置位置を維持したままその円筒部110の軸方向長さを短くすることは不要であると共に、保持プレート104の初期配置位置をストッパ部98側からより離れた位置とすることは不要である。
【0066】
更に、リングプレート106は、第2プレート部124の内径が第1プレート部122の内径に比して大きく、両プレート部122,124により段差が形成された部材である。弾性体102の拡径部114は第2プレート部124の径方向内側に嵌合しており、上記の段差にはその拡径部114が配置されている。このため、第2プレート部124の内径が第1プレート部122の内径と同じである段差の無い対比構造に比べて、弾性体102の容積を確保することができると共に、弾性体102の弾性変形時における逃げ場を確保することができる。
【0067】
従って、本実施形態によれば、保持プレート104の形状変更及び配置変更を伴うことなく、弾性体102の弾性変形時にストッパ部98のストッパ面98aを段差の無い平面とした簡易形状のハウジング34に対してその保持プレート104の円筒部110が干渉するのを回避することができる。
【0068】
以上、説明したことから明らかなように、ダンパ装置20は、軸方向に移動し得る転舵シャフト40に装着され、転舵シャフト40の外径に比して大きな外径を有する大径部材84と、転舵シャフト40を軸方向に移動可能に保持すると共に、大径部材84の軸方向端面84aに対して軸方向に対向する対向面が段差の無い平面であるストッパ部98を有する筒状のハウジング34と、大径部材84とストッパ部98との間に配置され、大径部材84の軸方向端面84aがストッパ部98に当接する際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材100と、を備える。衝撃吸収部材100は、軸方向への弾性を有する弾性体102と、軸方向に延びる円筒部110、及び、円筒部110の軸方向一端部から径方向外方に延在し、大径部材84の軸方向端面84aが接触し得るフランジ部112を有し、弾性体102を円筒部110及びフランジ部112により保持する保持プレート104と、弾性体102とストッパ部98との間に配置され、フランジ部112との間で弾性体102を挟持し得る環状のリングプレート106と、を有する。リングプレート106は、ストッパ部98が接触し得る、ストッパ部98の内径に比して大きくかつ円筒部110の外径に比して大きな内径を有する第1プレート部122と、第1プレート部122に対して弾性体102側の軸方向に隣接して配置され、弾性体102が接触し得る、第1プレート部122の内径に比して大きな内径を有する第2プレート部124と、を有する。
【0069】
この構成によれば、リングプレート106の第1プレート部122がハウジング34のストッパ部98の内径に比して大きくかつ保持プレート104の円筒部110の外径に比して大きな内径を有すると共に、第2プレート部124がその第1プレート部122の内径に比して大きな内径を有するので、弾性体102の弾性変形により保持プレート104が軸方向Aに変位しても、その保持プレート104の円筒部110の軸方向先端がリングプレート106に干渉することは回避される。また、ハウジング34のストッパ部98における大径部材84に対して軸方向に対向する対向面が段差の無い平面であると共に、そのハウジング34とリングプレート106の第1プレート部122とで、保持プレート104とハウジング34との干渉を回避するための座繰り部が設けられるので、弾性体102の弾性変形時に簡易形状のハウジング34に対する保持プレート104の干渉を回避することができる。更に、このようにハウジング34に対する保持プレート104の干渉を回避するうえで、その保持プレート104の形状変更及び配置変更を行うことは不要である。
【0070】
ダンパ装置20において、第1プレート部122と第2プレート部124とは、一体部材である。この構成によれば、リングプレート106の部品点数を削減すると共に、リングプレート106の組み付け性を向上させることができる。
【0071】
ダンパ装置20において、第2プレート部124の外径は、第1プレート部122の外径に比して小さい。この構成によれば、第2プレート部124の径方向外側に弾性体102を配置する空間を形成することができる。
【0072】
ダンパ装置20において、弾性体102は、径方向外方に向けて突出する凸部116を有し、ハウジング34の内周面は、第1プレート部122の外周面に対向し、第1プレート部122の径方向移動を規制する第1内周面119−1と、第2プレート部124の外周面に対向し、第2プレート部124との間に凸部116を収容する空間を形成する第2内周面119−2と、を有する。この構成によれば、ハウジング34の第1内周面119−1により第1プレート部122の径方向移動を規制することができると共に、ハウジング34の第2内周面119−2と第2プレート部124との間に形成される空間に弾性体102の凸部116を収容することができるので、弾性体102の軸方向Aへの抜け止めを確保することができると共に、衝撃吸収部材100の衝撃吸収機能を向上させることができる。
【0073】
ダンパ装置20は、ステアリング装置22に設けられ、転舵シャフト40は、両端部がタイロッド44を介して転舵輪48に連結される。この構成によれば、ステアリング装置22の転舵シャフト40の軸方向Aへの移動に伴って、衝撃吸収部材100の保持プレート104の円筒部110の軸方向先端がリングプレート106に干渉することは回避される。すなわち、衝撃吸収能力に優れたダンパ装置20を、高い耐久性が要求される自動車などのステアリングに適用することができる。
【0074】
ところで、上記の実施形態においては、リングプレート106の第1プレート部122と第2プレート部124とが一体で成形された一体部材である。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、リングプレート106の第1プレート部122と第2プレート部124とが別体で成形された別体部材であってもよい。かかる変形形態の構造においては、第1プレート部122と第2プレート部124とを別々に組み付けることができると共に、上記実施形態と略同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記の実施形態においては、リングプレート106の第1プレート部122の外径がハウジング34の大径収容部96の第1内周面119−1の内径と同じ或いは僅かに小さい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、第1プレート部122の外径がハウジング34の大径収容部96の第1内周面119−1の内径に比して小さくてもよい。かかる変形形態では、凸部116の寸法を維持しつつ、上記実施形態と略同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、上記の実施形態においては、リングプレート106の第2プレート部124の外径が第1プレート部122の外径に比して小さい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、第1プレート部122の外径を第2プレート部124の外径と同じとしてもよい。かかる変形形態でも、上記実施形態と略同様の効果を得ることができる。
【0077】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。