【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の目的は、7xxxシリーズアルミニウム合金から製造される装甲部品であって、アルミニウム合金は主に
‐8.4重量%≦Zn≦10.5重量%
‐1.3重量%≦Mg≦2重量%
‐1.2重量%≦Cu≦2重量%
‐少なくとも一つの分散質形成元素であり、分散質形成元素の総含有量は0.05重量%より高い
‐実質的にはアルミニウム、偶発的元素、および不純物である残余
からなり、
7xxx合金は厚さが約0.5から約3インチ、すなわち約12.7から約76.2mmのプレートの形状であり、
7xxx合金は過時効されて
(i)下記のような弾道限界V50のフラグメント疑似粒子:
V50(FSP 20mm)>1633T
2−1479T+1290
(但し上記式において、Tはプレートの厚さであり(単位インチ)、およびV50の単位はフィート/秒である)
(ii)下記のような弾道限界V50の装甲貫通:
V50(0.30cal AP M2)>−282T
2+1850T+610
(但し上記式において、Tはプレートの厚さであり(単位インチ)、およびV50の単位はフィート/秒である)
が得られる、
ことを特徴とする装甲部品に関する。
【0013】
亜鉛、マグネシウム、および銅は、本発明による装甲部品のアルミニウム合金の主要な合金元素である。50年以上前に装甲用途用に開発されたアルミニウム合金AA7039と比較すると、前記アルミニウム合金は銅を含み、Zn含有量が高く、Mg含有量が低い。
【0014】
亜鉛は、第一の主要合金元素である。本発明の枠内で定義された範囲のMgおよびCu含有量と組み合わされて、APおよびFSP弾道試験で、すなわち同一の鋳造合金から製造されたサンプルについて同時に得られる最も高い結果は、Zn含有量が約8.4重量%以上および約10.5重量%以下で得られる。Zn含有量は好ましくは、約8.5重量%から約9.5重量%、より好ましくは約8.5重量%から約9.0重量%である。
【0015】
マグネシウム含有量は、亜鉛含有量よりかなり低い。有利には、Mg/Zn比は0.20以下であり、但しMgおよびZnはアルミニウム合金中のマグネシウムおよび亜鉛の重量パーセンテージである。本発明の枠内で定義された範囲のZnおよびCu含有量と組み合わされて、APおよびFSP弾道試験で同時に得られる最も高い結果は、マグネシウム含有量が約1.3重量%未満、および約2重量%より高いときに得られた。好ましくは、マグネシウム含有量は、約1.5重量%から約2重量%、より好ましくは約1.8重量%から約2.0重量%、すなわち約1.75重量%から約2.04重量%である。
【0016】
AA7039と比較すると、銅はさらに主要な合金元素である。本発明の枠内で定義された範囲のZnおよびMg含有量と組み合わされて、APおよびFSP弾道試験で同時に得られる最も高い結果は、銅含有量が約1.2重量%以上および2重量%以下で得られた。好ましくは、Cu含有量は約1.4重量%から約1.8重量%である。本出願人はまた、銅およびマグネシウム含有量(重量%)がほぼ同じとき、一般的に0.9≦Cu/Mg≦1.1のとき、同時に最も高い装甲貫通(AP)抵抗およびフラグメント疑似粒子(FSP)抵抗が得られることに気づいた。
【0017】
Zr、Sc、V、Hf、Ti、CrおよびMnのような分散質形成元素を添加して、粒子構造を制御する。分散質形成元素の最適レベルは処理によって変化する。好ましくは、分散質形成元素は主にジルコニウムである。好ましくは、Zr含有量は約0.15重量%未満、より好ましくは約0.08重量%未満である。
【0018】
別の分散質形成元素を単独で、または他の分散質形成元素とともに添加することができる。例えば、スカンジウムを分散質形成元素として添加してもよい。その含有量は好ましくは約0.3重量%未満、およびより好ましくは約0.18重量%未満である。ジルコニウムと組み合わせるとき、ScおよびZrの合計は、好ましくは約0.17重量%未満である。クロム、ハフニウムまたはバナジウムは、約0.3重量%未満、好ましくは約0.15重量%の含有量で添加することができる。マンガンは単独で、または他の分散質形成元素の一つと組み合わせて添加することができる。Mn添加の好ましい最大値は約0.30重量%である。
【0019】
残余は、実質的にアルミニウム、偶発的元素、および不純物である。「実質的に」とは、少量の他の元素が意図的に添加されることを意味すると理解されよう。「偶発的元素および不純物」とは、合金に意図的に添加されるわけではないが、製造過程の結果として、または個別の合金元素の天然不純物として、不可避的に合金中に発生する元素および不純物の含有を意味すると理解されよう。Fe含有量は、好ましくは約0.3重量%未満、より好ましくは約0.1重量%未満である。Si含有量は、好ましくは約0.2重量%未満、より好ましくは約0.1重量%未満である。好ましくは、100重量%とした合金の総重量に基づき、総不純物含有量は約0.15重量%以下で、各々他の不純物元素は約0.05重量%まで存在する。
【0020】
本発明による合金製品は、従来の溶融方法によって製造され、インゴット型に鋳造される。ホウ化チタンまたは炭化チタンなどの結晶成長抑制剤を使用することがある。スカルピングおよび460〜520℃で5〜60時間均質化した後、インゴットはさらに熱間加工、通常は複数の工程で熱間圧延され、厚さが0.5〜3インチであるターゲットゲージに近いプレートが得られる。次に製品は、好ましくは460〜480℃で1〜5時間固溶化熱処理され、95℃未満に焼入れされる。製品はさらに、例えば2%まで、一般的には1〜3%の範囲で、例えば引き伸ばしによって加工され、次に時効させて、組み合わされた目標弾道特性を得る:
V50(FSP 20mm)>1633T
2−1479T+1290 (I)
V50(0.30cal AP M2)>−282T
2+1850T+610 (II)
(但し上記式において、Tはプレートの厚さであり(単位インチ)、およびV50の単位はフィート/秒である)
【0021】
使用する単位が国際単位系であるならば、適合すべき不等式は下記の通りである:
V50(FSP 20mm)>0.7715T
2−17.75T+393 (I’)
V50(0.30cal AP M2)>−0.1331T
2+22.22T+186 (II’)
(但し上記式において、Tはプレートの厚さ(単位mm)であり、23mm〜41mmの範囲であり、およびV50の単位はm/sである)
【0022】
本発明によると、装甲部品の7xxx合金プレートの厚さは約0.5〜3インチ、すなわち約12.7〜76.2mmである。しかしながら、米軍規格によって、そのような厚さには最小FSP 20mmおよび0.3cal AP M2 V50値が要求されるので、満たすべき弾道APおよびFSP不等式は、より狭い厚さ範囲(0.9”〜1.5”)に関連する(例えば、MIL−DTL−46063HおよびMIL−DTL−32375を参照)。このため、「7xxx合金は過時効され、・・・が得られる」の文章、それに続く前記7xxx合金が厚さ0.9”〜1.5”のプレートの形状であるときだけ測定することができる特定の弾道特性によって、前記範囲の厚さを有するプレートの形状の7xxx合金について規定された時間‐温度、過時効スケジュールが、特許請求された範囲内の0.9”より薄い厚み、または1.5”より厚い厚みを有するプレートの形状の前記7xxx合金にも適用されることを意味することが理解されよう。
【0023】
それらに対して実行される時効処理が何であれ、公知の合金はそのような有利な性能バランスを示さない。時効処理が、高いV50(0.3cal AP M2)値を得ることに適し不等式(II)を満たすならば、FSP特性は劣り、したがってV50(FSP 20mm)は不等式(I)に適合しない。同様に、時効処理が、高いV50(FSP 20mm)値を得ることに適し不等式(I)を満たすならば、AP特性は劣り、したがってV50(0.3cal AP M2)は不等式(II)に適合しない。
【0024】
好ましくは、均質化は約493〜507℃で約20時間実施され、さらにインゴットは第一の通路で、440℃近傍の温度で熱間圧延され、圧延製品は次に約470〜475℃で約2〜4時間固溶化熱処理され、次に冷水への浸漬または冷水の噴霧、または急速冷却によって焼入れされ、続いて少なくとも二つの工程で過時効処理される。一般的な二段過時効処理は、約110〜130℃で約4〜8時間、加えて約140〜160℃で約12〜20時間である。好ましい二段過時効処理は、約115〜125℃で約5〜7時間、加えて約145〜155℃で約14〜18時間である。
【0025】
別の実施態様では、時効処理の150℃での総等価時間は25時間を越えず、好ましくは約5時間から約25時間の範囲にあり、さらに好ましくは約10時間から約20時間の範囲にある。150℃での等価時間t(eq)は、下記式によって定義される。
【0026】
【数1】
【0027】
上記の式において、Tは時間t(単位は時間)とともに進行する処理の瞬間的ケルビン温度であり、T
refは150℃(432K)に選択した基準温度である。t(eq)は時間で表示される。15683Kの一定値は、Mgの拡散活性化エネルギー、Q=130400J/molから派生する。t(eq)として与えられた式は、加熱および冷却工程を考慮する。
【0028】
本発明の好ましい一実施態様では、合金の化学組成は下記の通りである:
8.5重量%≦Zn≦9.5重量%、
1.5重量%≦Mg≦2重量%、
1.4重量%≦Cu≦1.8重量%、
Fe<0.1重量%、
Si<0.1重量%、
0.05重量%≦Zr≦0.15重量%、残余はアルミニウムおよび偶発的元素および不純物。
【0029】
ある実施態様では、化学組成および製造方法によって、より良好なV50弾道結果を得ることができる。例えば、FSP弾道限界は下記のようになる:
V50(FSP 20mm)>1633T
2−1479T+1320 (I−a)、またはさらに
V50(FSP 20mm)>1633T
2−1479T+1350 (I−b)、
一方、AP弾道限界は、なお不等式(II)に適合する。
【0030】
別の実施態様では、FSP弾道限界は下記のようになる:
V50(0.30cal AP M2)>−282T
2+1850T+700 (II−a)、またはさらに
V50(0.30cal AP M2)>−282T
2+1850T+790 (II−b)
一方、FSP弾道限界は、なお不等式(I)に適合する。
【0031】
好ましい一実施態様では、7xxx合金の化学的組成は
8.5重量%≦Zn≦9.0重量%
1.8重量%≦Mg≦2重量%
1.4重量%≦Cu≦1.8重量%
Fe<0.1重量%
Si<0.1重量%
0.05重量%≦Zr≦0.15重量%、残余はアルミニウムおよび偶発的元素および不純物であり、
7xxx合金は厚さ0.5〜3インチのプレートの形状であり、
7xxx合金は過時効されて
(i)下記のようなV50弾道限界のフラグメント疑似粒子:
V50(FSP 20mm)>1633T
2−1479T+1350 (I−b)
(但し上記式において、Tはプレートの厚さであり(単位インチ)、およびV50の単位はフィート/秒である)
(ii)下記のようなV50弾道限界の装甲貫通:
V50(0.30cal AP M2)>−282T
2+1850T+790 (II−b)
(但し上記式において、Tはプレートの厚さであり(単位インチ)、およびV50の単位はフィート/秒である)
が得られる。
【0032】
さらに、本発明による装甲プレートを溶接して、装甲外殻を製造することができる。§5.9 of the Ground Combat Vehicle Welding Code 19207−12472301によると、引張り試験サンプルを機械加工して、突合せ溶接の溶接後強さを測定した。そのサンプルは、0.5”プレートを端と端を合わせて配置して、MIG技術を使用してそれらを溶接することによって得られた。このようにして得られた突合せ溶接は、41ksiより高い最大引張強さを示し、それは溶接前の引張強さの少なくとも45%に等しい。本発明者は、フィラーワイヤの適切な選択によって、突合せ溶接は44ksiより高く、さらには47ksiより高い引張強さを有することがあることに気づいた。後者の場合、溶接後の最大引張強さは、溶接前の引張強さの少なくとも50%に等しい。