(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
化合物1が、N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩である、請求項3に記載の組成物。
前記式(I)の化合物が、前記(L)リンゴ酸塩及び/または前記(D)リンゴ酸塩の結晶性N−1型またはN−2型である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
前記組成物が、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与されることを特徴とする、請求項22に記載の組成物。
前記組成物が、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与されることを特徴とし、前記医薬組成物が3ヶ月を超えて毎日投与されることを特徴とする、請求項22に記載の組成物。
前記組成物が、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与されることを特徴とし、前記医薬組成物が5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、65、70、75、80、85、90または95mg/日の用量で投与されることを特徴とする、請求項22に記載の組成物。
前記SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌の検出が、FISH、CISHまたはSISHアッセイを用いて行われる、請求項22に記載の組成物。
前記SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌の前記検出が、ゲノムPCR、直接シークエンス法、PCRシークエンス法、RT−PCRまたは同様のアッセイのいずれかの形態を用いて行われる、請求項22に記載の組成物。
前記SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌の前記検出が、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1若しくはFIG−ROS1融合ポリペプチドまたはそれらの断片に特異的に結合する抗体を用いて行われる、請求項22に記載の組成物。
前記有効量の式I、Iaの化合物または化合物1が、腫瘍サイズの減少、転移の減少、完全寛解、部分寛解、安定的疾患、全奏効率の増加または病理学的完全奏効からなる群から選択される少なくとも1つの治療効果をもたらす、請求項1〜30のいずれか一項に記載の組成物。
化合物1が、N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩である、請求項36に記載の組成物。
前記式(I)の化合物が、前記(L)リンゴ酸塩及び/または前記(D)リンゴ酸塩の結晶性N−1型またはN−2型である、請求項32〜38のいずれか一項に記載の組成物。
前記組成物が、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を更に含む医薬組成物として、前記癌性細胞に投与されることを特徴とする、請求項32〜39のいずれか一項に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0022】
略語及び定義
以下の略語及び用語については、本出願の全体を通して以下に示す意味を有する。
【表A-1】
【表A-2】
【0023】
記号「−」は、単結合を意味し、「=」は、二重結合を意味する。
【0024】
化学構造が図示または記載される場合、別途明記されない限り、全ての炭素は、原子価4に従った水素置換を有することが想定される。例えば、以下の模式図の左側の構造には、9つの水素があることが示唆される。この9つの水素を右側の構造に示す。構造中の特定の原子は、置換として1つの水素または複数の水素(明確に定義された水素)を有するものとして、例えば、−CH
2CH
2−のように文字式で示される場合もある。上述の記述法については、当該化学分野にて一般的であり、さもなければ複雑になる構造の説明に簡潔さ及び単純さをもたらすことは、当業者によって理解される。
【化8】
【0025】
基「R」が、例えば、次式のように、環系上に「浮遊している」ように示される場合、
【化9】
別途定めのない限り、置換基「R」は、環系のどの原子上に存在してもよく、安定した構造が形成されるのであれば、図示され、含意され、または明白に定義された、環原子のうちの1つの水素の置換が想定される。
【0026】
基「R」が、例えば、次式のように、縮合環系上に浮遊しているように示される場合、
【化10】
別途定めのない限り、置換基「R」は、縮合環系のどの原子上に存在してもよく、安定した構造が形成されるのであれば、環原子のうちの1つの図示された水素(例えば、上式中の−NH−)、含意された水素(例えば、上式のように、図示されていないが存在が理解される水素)、または明白に定義された水素(例えば、上式中「Z」が=CH−に等しい場合)の置換が想定される。示した例において、「R」基は、縮合環系の5員環または6員環のいずれに存在してもよい。基「R」が、例えば、次式のように、飽和炭素を含有する環系上に存在するように示される場合、
【化11】
この例にて、「y」は2以上であり得、それぞれのRにより、現に図示され、含意され、または明白に定義された、環上の水素が置換されることが想定され、また更に、別途定めのない限り、得られる構造が安定であれば、2つの「R」は、同じ炭素上に存在してもよい。単純な例としては、Rがメチル基の場合であり、示された環の炭素(「環状」炭素)上にジェミナルジメチルが存在し得る。別の例としては、同じ炭素上の2つのRは、その炭素を含め、環を形成してもよく、したがって、例えば、次式のように示される環を有するスピロ環式環(「スピロシクリル」基)構造を与える。
【化12】
【0027】
「ハロゲン」または「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を指す。
【0028】
本明細書で使用するとき、「ROS1」タンパク質またはポリペプチドは、哺乳動物のROS1、例えば、ヒトROS1キナーゼタンパク質(ROS1遺伝子によってコードされる)を含む。これは、2347アミノ酸長の受容体チロシンキナーゼであり、異常発現して癌をもたらす傾向がある。完全長ヒトROS1キナーゼ(ヒトROS1タンパク質のアミノ酸配列を有するもの)の説明については、UniProtアクセッション番号P08922に認めることができる。更に、複数のROS1の天然バリアントが知られている(例えば、Greenmanら、Nature 446:153−158,2007参照)。マウス完全長ROS1のヌクレオチド及びアミノ酸配列が知られている(例えば、UniProtアクセッション番号Q78DX7参照)。生物学の当業者であれば、慣用的実験を用いて、非ヒト哺乳動物のROS1ホモログ中の対応する配列を容易に決定することができるであろう。
【0029】
「野生型」ROS1とは、正常な個体(例えば、癌に罹患していない正常な個体)の健康な(または正常な)組織(例えば、非癌性組織)中の完全長ROS1キナーゼ(すなわち、ヒトROS1の場合、2347アミノ酸長のポリペプチド(配列番号1)またはシグナルペプチド配列が除去された後の2320アミノ酸長のポリペプチド(成熟配列))を意味する。ROS1キナーゼ(完全長または切断型)は、ヒトの正常肺組織では発現しないと思われる。しかしながら、以下に記載の方法を使用して、本発明者らは、本明細書に記載の化合物を用いる、肺癌細胞中のROS1キナーゼの特異的阻害に関する驚くべき発見をなした。標準的細胞(例えば、非癌性肺細胞)中で発現が見られない、異型細胞(この場合、癌細胞)におけるこのような発現は、異常である。
【0030】
別のタンパク質、例えば、SLC34A2、CD74またはFIGとの融合体の形態で異常に発現したROS1キナーゼは、膠芽細胞腫(Charestら、Charestら、Genes Chromosomes Cancer 37:58−71,2003;Charestら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:916−921,2003参照)、肝臓癌(例えば、PCT公開番号WO2010/093928参照)、胆管癌(Guら、PLOS one 2011 Jan 6;6(1):e15640.doi:10.1371/journal.pone.0015640参照)、NSCLC腺癌(Kurtis D.Daviesら、Identifying and Targeting ROS1 Gene Fusions in Non−Small Cell Lung Cancer,Clin Cancer Res.2012 September 1;18(17):4570−4579参照)にて報告されている。
【0031】
本明細書で使用するとき、「ROS1融合体」という用語は、ROS1タンパク質のキナーゼドメインを含むROS1ポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)の一部が別のポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)の全部または一部に融合したものを指し、その第2のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの名称が融合体に付けられる。(「融合体」という用語は、第1の遺伝子由来のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの全部または一部が、第2の遺伝子に由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの全部または一部に融合したものを単に意味する。)例えば、SLC34A2−ROS1融合体は、SLC34A2ポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)の一部と、キナーゼドメインROS1を含むROS1ポリペプチド(または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)の一部との融合体である。ROS1融合体は、多くの場合、染色体転座または逆位から生じる。多数のROS1融合体が知られており、それらの全てが本発明のROS1融合体であり、限定するものではないが、メンバーとしてSLC34A2−ROS1(VS)、SLC34A2−ROS1(S)、SLC34A2−ROS1(L)が含まれるSLC34A2−ROS1融合タンパク質(米国特許出願公開第20100143918号参照)、CD74−ROS1(米国特許出願公開第20100221737号参照)並びにメンバーとしてFIG−ROS1(S)、FIG−ROS1(L)及びFIG−ROS1(XL)が含まれるFIG−ROS1融合タンパク質(PCT国際公開番号WO2010/093928参照)が挙げられ、これらの開示の全体をそれぞれ本明細書に援用する。ROS1ポリペプチドまたはROS1融合体の後に続く(L)、(S)、(VS)、(VL)、(XS)または(XL)という表記は、一般に、それぞれ長い、短い、特に短い、特に長い、極めて短い、極めて長いROS1ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。
【0032】
既知のROS1融合タンパク質の全てが完全長ROS1の完全なキナーゼドメインを含む。したがって、本明細書で使用するとき、「ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチド」(または「ROS1キナーゼ活性を持つポリペプチド」)は、完全長ROS1タンパク質の完全なキナーゼドメインを含むタンパク質(またはポリペプチド)を意味し、したがって、ROS1キナーゼ活性を保持する。ROS1キナーゼ活性を有するタンパク質の非限定的な例としては、完全長ROS1タンパク質、メンバーとしてSLC34A2−ROS1(VS)、SLC34A2−ROS1(S)、SLC34A2−ROS1(L)が含まれるSLC34A2−ROS1融合タンパク質(米国特許出願公開第20100143918号参照)、CD74−ROS1(米国特許出願公開第20100221737号参照)並びにメンバーとしてFIG−ROS1(S)、FIG−ROS1(L)及びFIG−ROS1(XL)が含まれるFIG−ROS1融合タンパク質(PCT国際公開番号WO2010/093928参照)、並びに完全長ROS1キナーゼタンパク質のキナーゼドメインを保持するROS1キナーゼのあらゆる切断型及び変異型が挙げられるが、これらに限定されない。ROS1の代表的なキナーゼドメインを配列番号2に記載する。「ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチド」は、そのアミノ酸配列に配列番号2またはそのキナーゼ活性部分を含むものである。
【0033】
本明細書で使用するとき、「ポリペプチド」(または「アミノ酸配列」または「タンパク質」)は、決められた順序の連結から形成された高分子、好ましくは、a−アミノ酸、D−、L−アミノ酸及びこれらの組み合わせの高分子を指す。1つのアミノ酸残基と次のアミノ酸残基との連結は、アミド結合またはペプチド結合と呼ばれる。ポリペプチドの非限定的な例としては、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列及びそれらの断片または一部が挙げられ、天然分子または合成分子を指す。ポリペプチドにはまた、糖タンパク質及びリポタンパク質などの誘導体化された分子並びに低分子量ポリペプチドも含まれる。「アミノ酸配列」及び同様の用語、例えば、「ポリペプチド」または「タンパク質」は、示したアミノ酸配列について、列挙したタンパク質分子に関連する完全な天然アミノ酸配列に限定するという意味ではない。
【0034】
本発明のポリペプチドのいくつかのアミノ酸配列は、変異体タンパク質の構造及び機能に大きな影響をもたらすことなく、変更することができることは当該技術分野において認識されている。配列中にこうした変化が企図される場合、タンパク質上には活性を決定する必須領域(例えば、ROS1のキナーゼドメイン)が存在することに留意する必要がある。一般に、類似の機能を果たす残基が使用されることを条件として、三次構造を形成する残基を置き換えることが可能である。他の場合、残基の種類は、タンパク質の非必須領域で変更が生じるのであれば、全く重要でない場合もある。
【0035】
したがって、本発明のROS1活性を有するポリペプチドには、実質的なROS1キナーゼ活性を示す、本明細書に記載の完全長ROS1タンパク質または種々のROS1融合ポリペプチドのバリアントが更に含まれる。いくつかの非限定的な保存的置換は、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu及びIleの間の相互交換;ヒドロキシル残基SerとThrの交換;酸性残基AspとGluの交換;アミド残基AsnとGlnの交換;塩基性残基LysとArgの交換;並びに芳香族残基PheとTyrの交換が挙げられる。当業者に知られている保存的アミノ酸置換の更なる例は、芳香族:フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン(例えば、トリプトファン残基をフェニルアラニンで置換する);疎水性:ロイシン、イソロイシン、バリン;極性:グルタミン、アスパラギン;塩基性:アルギニン、リシン、ヒスチジン;酸性:アスパラギン酸、グルタミン酸;低分子:アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン、グリシンである。上に詳述したように、どのアミノ酸変更が表現型的にサイレントである可能性があるか(すなわち、機能に大きな悪影響を及ぼさないと思われるか)に関する更なるガイダンスについては、Bowieら、Science 247、上掲に見出すことができる。
【0036】
「SLC34A2」は、ヒトSLC34A2遺伝子タンパク質またはSLC34A2遺伝子によってコードされているナトリウム依存性リン酸輸送タンパク質2Bを指し得る。ヒトSLC34A2タンパク質(アイソフォームA、NCBIアクセッション番号NP_001171469を有するもの)は、689アミノ酸タンパク質である。SLC34A2については、本明細書にて更に記載する。
【0037】
CD74はまた、HLA−DR抗原関連インバリアント鎖またはCD74(分化抗原分類74)としても知られる、HLAクラスII組織適合性抗原γ鎖を指し、ヒトにおいてはCD74遺伝子によってコードされているタンパク質である。例示的なヒトCD74タンパク質は、NCBIアクセッション番号NP_001020329を有するものであり、mRNAは、アクセッション番号NM_001025158である。CD74は、160個のアミノ酸を有し、第5染色体(5q32)上に位置するCD74遺伝子によってコードされている。CD74は、9つのエクソンを有する。CD74については、本明細書にて更に記載する。
【0038】
FIG(膠芽細胞腫における融合)はまた、「ゴルジ装置関連PDZ及びコイルドコイルモチーフ含有」または「GOPC」タンパク質とも呼ばれ、第6染色体6q21上に位置する遺伝子によってコードされている。ヒトにおけるこのタンパク質は、462個のアミノ酸を有する。FIGは、選択的スプライシングによって生成される3つのアイソフォームがある。本発明にて言及するヒトFIGタンパク質の例は、UniProtKB識別子Q9HD26−1を有するものである。
【0039】
「SLC34A2−ROS1融合タンパク質または遺伝子」は、パートナーSLC34A2とROS1との体細胞遺伝子融合体を指す。いくつかの実施形態において、SLC34A2−ROS1融合タンパク質は、SLC34A2などの融合パートナーのN末端ドメインと、ROS1タンパク質のC末端キナーゼドメインとを含む。融合パートナーのN末端ドメインは、融合タンパク質のN末端に位置し得、ROS1タンパク質のC末端キナーゼドメインは、融合タンパク質のC末端に位置し得る。融合パートナーは、SLC34A2タンパク質のN末端ドメインであってよく、融合タンパク質のN末端に位置する。この場合、融合タンパク質は、N末端にSLC34A2タンパク質のN末端ドメインと、C末端にROS1タンパク質のC末端キナーゼドメインとを含む、SLC34A2−ROS1タンパク質として表すことができる。別の実施形態は、融合パートナーのN末端ドメインをコードする遺伝子が5’末端に位置し、ROS1タンパク質のC末端キナーゼドメインをコードする遺伝子が3’末端に位置する、融合タンパク質をコードする融合遺伝子を提供する。いくつかの実施形態において、SLC34A2タンパク質の部分は、異常な染色体転座の結果、機能性キナーゼドメインを含むROS1タンパク質の部分にインフレームで融合し、SLC34A2を有するROS1染色体再構成が生じる。いくつかの実施形態において、SLC34A2−ROS1融合タンパク質は、融合SLC34A2エクソン4−ROS1エクソン32を含み得る。いくつかの実施形態において、SLC34A2−ROS1融合タンパク質は、融合SLC34A2エクソン4−ROS1エクソン34を含み得、本発明にて用いられる機能性ROS1キナーゼドメインを有するSLC34A2−ROS1融合タンパク質または遺伝子は、2つの転座パートナーであるSLC34A2及びROS1に関する他の切断点を含んでもよい。代表的なSLC34A2−ROS1融合タンパク質は、癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができ、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0040】
「CD74−ROS1融合タンパク質または遺伝子」は、パートナーCD74とROS1との体細胞遺伝子融合体を指す。代表的なCD74−ROS1融合タンパク質は、癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができ、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0041】
「FIG−ROS1融合タンパク質または遺伝子」は、パートナーFIGとROS1との体細胞遺伝子融合体を指す。いくつかの実施形態において、ヒト第6染色体の位置6q21における240キロベースの染色体内ホモ欠失がFIG−ROS1遺伝子座の形成の要因である。いくつかの実施形態において、FIG−ROS1転写物は、7つのFIGエクソン及び9つのROS1由来エクソンによってコードされる。いくつかの実施形態において、FIG−ROS1遺伝子は、構成的活性及び機能性のあるROS1キナーゼドメインを有するインフレーム融合タンパク質をコードする。代表的なFIG−ROS1融合タンパク質は、癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができ、その内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0042】
本発明の目的における「患者」には、ヒト及び他の動物、特に哺乳類、並びに他の生命体が含まれる。したがって、方法は、ヒトの治療及び獣医学的用途の両方に適用可能である。別の実施形態において、患者は哺乳動物であり、別の実施形態において、患者はヒトである。
【0043】
化合物の「薬学的に許容可能な塩」は、薬学的に許容され、かつ親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味する。薬学的に許容可能な塩は、無毒であることが理解される。好適な薬学的に許容可能な塩に関する更なる情報は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company,Easton,PA,1985(参照により本明細書に援用する)またはS.M.Berge,ら、“Pharmaceutical Salts,” J.Pharm.Sci.,1977;66:1−19に見出すことができ、両文献を参照により本明細書に援用する。
【0044】
薬学的に許容可能な酸付加塩の例には、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、並びに有機酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、グルコヘプトン酸、4,4’−メチレンビス−(3−ヒドロキシ−2−エン−1−カルボン酸)、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert−ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸、p−トルエンスルホン酸及びサリチル酸などと形成されたものが挙げられる。
【0045】
「プロドラッグ」とは、例えば、血液中の加水分解によって、インビボで(通常迅速に)変換されて、上式の親化合物を生じる化合物を指す。一般的な例には、カルボン酸部分を持つ活性形を有する化合物のエステル型及びアミド型が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の化合物の薬学的に許容可能なエステルの例には、アルキル基が直鎖または分枝鎖であるアルキルエステル(例えば、約1〜約6個の炭素を有するもの)が挙げられるが、これらに限定されない。許容可能なエステルにはまた、シクロアルキルエステル及びアリールアルキルエステル、例えば、限定するものではないが、ベンジルが挙げられる。本発明の化合物の薬学的に許容可能なアミドの例には、一級アミド並びに二級及び三級アルキルアミド(例えば、約1〜約6個の炭素を有するもの)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の化合物のアミド及びエステルは、従来の方法に従って調製することができる。プロドラッグについての丹念な考察は、T.Higuchi and V.Stella,“Pro−drugs as Novel Delivery Systems,” Vol.14 of the A.C.S.Symposium Series及びBioreversible Carriers in Drug Design,Edward B.Roche編、American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に記載されており、本出願において両文献を参照により本明細書に援用する。
【0046】
「ROS1」または「ROS1タンパク質」は、膜貫通型受容体チロシンキナーゼであり、本明細書にて更に説明する。
【0047】
「治療上有効な量」は、患者に投与されたとき、疾患の症状を改善する、本発明の化合物の量である。治療上有効な量は、単独でまたは他の活性成分と組み合わせて、c−Met及び/若しくはVEGFR2の調節に有効であるか、または癌の治療若しくは予防に有効である化合物の量を含むことが意図される。「治療上有効な量」を構成する本発明の化合物の量は、化合物、疾患状態及びその重症度、治療対象の患者の年齢などに応じて変動する。治療上有効な量は、当業者であれば、その知識及び本開示を考慮して、決定することができる。
【0048】
本明細書で使用するとき、疾患、障害または症候群を「治療すること」またはこれらの「治療」には、(i)当該疾患、障害または症候群がヒトに生じるのを予防すること、すなわち、当該疾患、障害若しくは症候群に曝されているか、またはその素因のある可能性があるものの、まだその疾患、障害または症候群の症状を経験または呈示していない動物において、その疾患、障害または症候群の臨床症状が発現しないようにすること、(ii)当該疾患、障害または症候群を後退させ、または阻害すること、すなわち、その発症を抑えること、及び(iii)当該疾患、障害または症候群を緩和すること、すなわち、その疾患、障害または症候群を後退させることが含まれる。当該技術分野で周知のように、全身送達対局所送達、年齢、体重、全般的な健康、性別、食事、投与時期、薬物相互作用及び状態の重症度についての調整が必要な場合があり、それらは慣用的実験によって確認できる。
【0049】
本明細書に記載の反応のそれぞれに関する「収率」は、理論収率のパーセンテージとして表す。
【0050】
実施形態
一実施形態において、式Iの化合物は、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。
【化13】
式中、
R
1は、ハロであり、
R
2は、ハロであり、
Qは、CHまたはNである。
【0051】
別の実施形態において、式Iの化合物は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【化14】
前述のように、化合物1は、本明細書において、N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミドと称する。WO2005/030140(参照により全体を本明細書に援用する)は、化合物1を開示し、その作製法を記載し(WO2005/030140、実施例12、37、38及び48)、キナーゼのシグナル伝達を阻害、制御及び/または調節するための本化合物の治療活性についても開示している(WO2005/030140、アッセイ、表4、項目289)。実施例48は、WO2005/030140の段落[0353]に記載されている。
【0052】
他の実施形態において、式I、Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、医薬組成物として投与され、この医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を更に含む。具体的な実施形態において、式Iの化合物は、化合物1である。
【0053】
本明細書に記載の式Iの化合物、式Ia及び化合物Iには、列挙した化合物、並びに個々の異性体及び異性体の混合物のいずれもが含まれる。それぞれの場合において、式Iの化合物には、列挙した化合物の薬学的に許容可能な塩、水和物及び/または溶媒和物、並びにそれらのあらゆる個々の異性体または異性体の混合物が含まれる。
【0054】
他の実施形態において、式I、Iaの化合物または化合物1は、(L)−リンゴ酸塩であってよい。式Iの化合物及び化合物1のリンゴ酸塩は、PCT/US2010/021194及びUSSN61/325095に記載されており、両出願の全体を参照により本明細書に援用する。
【0055】
他の実施形態において、式Iの化合物は、(D)−リンゴ酸塩であり、R−リンゴ酸塩とも称される。
【0056】
他の実施形態において、式Iaの化合物は、リンゴ酸塩である。
【0057】
他の実施形態において、式Iaの化合物は、(L)−リンゴ酸塩であり、S−リンゴ酸塩とも称される。
【0058】
他の実施形態において、化合物1は、(D)−リンゴ酸塩であり、S−リンゴ酸塩とも称される。
【0059】
他の実施形態において、化合物1は、リンゴ酸塩である。
【0060】
他の実施形態において、化合物1は、(L)−リンゴ酸塩であり、S−リンゴ酸塩とも称される。
【0061】
別の実施形態において、リンゴ酸塩は、米国特許出願第61/325095号に開示されている化合物1の(L)リンゴ酸塩及び/または(D)リンゴ酸塩の結晶性N−1型またはN−2型である。また、化合物1のリンゴ酸塩のN−1及び/またはN−2の結晶形態を含む、結晶性エナンチオマーの性質については、WO2008/083319(参照により全体を援用する)を参照されたい。このような形態の作製法及び特性評価法については、PCT/US10/021194に十分に記載されており、当該開示の全体を参照により本明細書に援用する。
【0062】
別の実施形態において、本発明は、NSCLCを後退させ、または阻害するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示する実施形態のいずれかにおいて、そのような治療を必要とする患者に、治療上有効な量の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。具体的な実施形態において、式Iの化合物は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0063】
別の実施形態において、本発明は、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを後退させ、または阻害するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示する実施形態のいずれかにおいて、そのような治療を必要とする患者に、治療上有効な量の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。具体的な実施形態において、式Iの化合物は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0064】
別の実施形態において、本発明は、CD74−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを後退させ、または阻害するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示する実施形態のいずれかにおいて、そのような治療を必要とする患者に、治療上有効な量の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。具体的な実施形態において、式Iの化合物は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0065】
別の実施形態において、本発明は、FIG−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを後退させ、または阻害するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示する実施形態のいずれかにおいて、そのような治療を必要とする患者に、治療上有効な量の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。具体的な実施形態において、式Iの化合物は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0066】
別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、1つまたは複数の他の治療の前、それと同時、またはその後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、1つまたは複数の治療の後に投与される。「治療」は、外科手術、化学療法剤、ホルモン療法、抗体、免疫療法、放射性ヨウ素療法及び放射線を含む、当業者に利用可能な治療選択肢のいずれかを意味する。特に、「治療」は、別の化学療法剤または抗体を意味する。
【0067】
したがって、別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。
【0068】
別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。
【0069】
別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、HER−2抗体治療後に投与される。別の実施形態において、HER−2抗体は、トラスツズマブである。
【0070】
別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。
【0071】
別の実施形態において、式I、Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、錠剤またはカプセル剤にて、1日1回経口投与される。これらの実施形態及び他の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0072】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、カプセル剤または錠剤にて、経口投与される。
【0073】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、最大100mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0074】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、100mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0075】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、95mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0076】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、90mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0077】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、85mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0078】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、80mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0079】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、75mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0080】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、70mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0081】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、65mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0082】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、60mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0083】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、55mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0084】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、50mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0085】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、45mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0086】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、40mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0087】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、35mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0088】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、30mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0089】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、25mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0090】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、20mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0091】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、15mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0092】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、10mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0093】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、5mgの化合物1を含有するカプセル剤または錠剤にて、1日1回経口投与される。
【0094】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、以下の表に記載する錠剤にて、1日1回経口投与される。
【表B】
【0095】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、以下の表に記載する錠剤にて、1日1回経口投与される。
【表C】
【0096】
別の実施形態において、化合物1は、その遊離塩基またはリンゴ酸塩として、以下の表に記載する錠剤にて、1日1回経口投与される。
【表D】
【0097】
上記の錠剤配合のうちのいずれも、所望される化合物1またはその薬学的に許容可能な塩の用量に応じて調整することができる。したがって、配合成分のそれぞれの量を比例調整して、前述の段落に記載した化合物1の種々の量を含有する錠剤配合を得ることができる。別の実施形態において、製剤は、20、40、60または80mgの化合物1またはその薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0098】
いくつかの実施形態において、本発明は、哺乳動物における異常細胞増殖の進行を阻害し、または後退させるための方法を提供し、この方法は、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質及びFIG−ROS1(VL)融合タンパク質並びにヒト第6染色体(6q22)上のROS1遺伝子にコードされている機能性C末端ROS1キナーゼドメインを含有する他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌である。一実施形態において、癌は肺腺癌である。別の場合において、肺腺癌は、非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、CD74−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、FIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与される。別の実施形態において、式Iの化合物は、別の形態の治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物は、クリゾチニブ治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物は、カルボプラチン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。
【0099】
いくつかの実施形態において、本発明は、哺乳動物における異常細胞増殖の進行を阻害し、または後退させるための方法を提供し、この方法は、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質及びFIG−ROS1(VL)融合タンパク質並びにヒト第6染色体(6q22)上のROS1遺伝子にコードされている機能性C末端ROS1キナーゼドメインを含有する他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌である。一実施形態において、癌は肺腺癌である。別の場合において、肺腺癌は、非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、CD74−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、FIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物は、別の形態の治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物は、カルボプラチン治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、式Iaの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。
【0100】
他の実施形態において、本発明は、哺乳動物における異常細胞増殖の進行を阻害し、または後退させるための方法を提供し、この方法は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質及びFIG−ROS1(VL)融合タンパク質並びにヒト第6染色体(6q22)上のROS1遺伝子にコードされている機能性C末端ROS1キナーゼドメインを含有する他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌である。一実施形態において、癌は肺腺癌である。別の場合において、肺腺癌は、非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、CD74−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、FIG−ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、肺腺癌は、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌である。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物として投与される。別の実施形態において、化合物1は、別の形態の治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、ドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、シスプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、カルボプラチン及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはゲムシタビン及び/またはドセタキセル治療後に投与される。別の実施形態において、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩は、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチン治療後に投与される。
【0101】
別の実施形態において、本発明は、哺乳動物における異常細胞増殖の進行を予防し、治療し、阻害し、または後退させるための方法を提供し、この方法は、化合物1またはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質、FIG−ROS1(VL)融合タンパク質または他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌であり、癌は、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンの治療レジメンによる処置を以前に受けており、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性がある。いくつかの実施形態において、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性のある癌は、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質及びFIG−ROS1(VL)融合タンパク質から選択される1つまたは複数のROS1融合タンパク質を有し、かつ/あるいはSLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質またはFIG−ROS1(VL)融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに変異を有する。一実施形態において、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性のある癌は、CD74−ROS1融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに変異を有する癌である。関連する実施形態において、癌は、ROS1キナーゼドメインに変異を有する、クリゾチニブ難治性であるCD74−ROS1融合遺伝子陽性の肺腺癌、例えば、クリゾチニブ難治性CD74−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCである。別の実施形態において、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性のある癌は、CD74−ROS1融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに、E1990G、G2032R、L2026M、L1951R、M2128V、K2003I及びこれらの組み合わせから選択される変異を有する、癌、例えば、クリゾチニブ耐性肺腺癌、例えば、クリゾチニブ耐性NSCLCである。
【0102】
別の実施形態において、本発明は、哺乳動物における異常細胞増殖、例えば癌の進行を予防し、治療し、阻害し、または後退させるための方法を提供し、この方法は、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質、FIG−ROS1(VL)融合タンパク質または他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌であり、癌は、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンの治療レジメンによる処置を以前に受けており、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性がある。いくつかの実施形態において、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性のある癌は、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質及びFIG−ROS1(VL)融合タンパク質から選択される1つまたは複数のROS1融合タンパク質を有し、かつ/あるいはSLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質またはFIG−ROS1(VL)融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに変異を有する。一実施形態において、クリゾチニブに耐性のある癌は、CD74−ROS1融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに変異を有する癌である。関連する実施形態において、癌は、ROS1キナーゼドメインに変異を有する、クリゾチニブ難治性であるCD74−ROS1融合遺伝子陽性の肺腺癌、例えば、クリゾチニブ難治性CD74−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCである。別の実施形態において、クリゾチニブに耐性のある癌は、CD74−ROS1融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに、E1990G、G2032R、L2026M、L1951R、M2128V、K2003I及びこれらの組み合わせから選択される変異を有する、癌、例えば、クリゾチニブ耐性肺腺癌、例えば、クリゾチニブ耐性NSCLCである。上述した各種実施形態において、哺乳動物における異常細胞増殖の進行を予防し、治療し、阻害し、または後退させるための方法は、式Iの化合物若しくは式Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩を、約0.01mg/kg〜約100mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約75mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約50mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約40mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約30mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約20mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約15mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約10mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約5mg/kgまたは約0.1mg/kg〜約1mg/kgの範囲である代表的な治療上有効な用量で、それを必要とする患者に投与することを含み、異常細胞増殖は、ROS1融合タンパク質、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質、FIG−ROS1(VL)融合タンパク質または他のROS1融合タンパク質によって媒介される癌であるか、あるいはROS1融合タンパク質に1つまたは複数の変異、例えば、SLC34A2−ROS1融合タンパク質、CD74−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1融合タンパク質、FIG−ROS1(L)融合タンパク質、FIG−ROS1(S)融合タンパク質、FIG−ROS1(VL)融合タンパク質または他のROS1融合タンパク質のROS1キナーゼドメインに変異を有する癌であり、いくつかの実施形態において、クリゾチニブ及び/またはカルボプラチンの治療レジメンによる処置を以前に受けており、かつクリゾチニブ及び/またはカルボプラチンに耐性のある癌、例えば、クリゾチニブ耐性癌、例えば、クリゾチニブ耐性肺腺癌、例えば、クリゾチニブ耐性NSCLCである。
【0103】
投与
純粋な形態または適切な医薬組成物での式Iの化合物、式Ia若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩の投与は、同様の有用性を提供する、許容される投与様式または薬剤のいずれかを介して行うことができる。したがって、投与は、例えば、錠剤、坐剤、丸剤、軟質及び硬質ゼラチン剤(カプセル剤でも錠剤でもよい)、散剤、液剤、懸濁液またはエアロゾルなどの固体、半固体、凍結乾燥粉末または液体の剤形、特に、正確な投与量を簡単に投与するのに好適な単位剤形で、例えば、経口的、経鼻的、非経口的(静脈内、筋肉内または皮下)、局所的、経皮的、膣内、膀胱内、槽内または経直腸的であってよい。
【0104】
組成物は、従来の薬物担体または賦形剤と、活性物質である式Iの化合物とを含み、加えて、担体及び補助剤などを含んでよい。
【0105】
補助剤には、保存剤、湿潤剤、懸濁化剤、甘味剤、矯味剤、着香剤、乳化剤及び分散剤が挙げられる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などにより担保することができる。また、等張化剤、例えば、糖類、塩化ナトリウムなどを含めることが望ましい場合がある。注入可能な医薬品形態の持続的吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを使用することによりもたらすことができる。
【0106】
所望により、式Iの化合物の医薬組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、抗酸化剤など、例えば、クエン酸、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、ブチル化ヒドロキシトルエンなどの少量の補助物質を含有してもよい。
【0107】
組成物の選択は、薬物投与形態(例えば、経口投与の場合は、錠剤、丸剤またはカプセル剤の形態の組成物)及び薬剤物質のバイオアベイラビリティなどの各種要因に依存する。近年、表面積を増加させることにより、すなわち、粒径を小さくすることで、バイオアベイラビリティの向上が可能であるという原理に基づいて、バイオアベイラビリティに劣る薬剤物質に関する医薬組成物が特に開発されている。例えば、米国特許第4,107,288号は、活性物質が巨大分子の架橋マトリックス上に担持された、10〜1,000nmの範囲の大きさの粒子を有する医薬組成物について記載している。米国特許第5,145,684号は、薬剤物質を表面改質剤の存在下でナノ粒子(平均粒径400nm)に粉砕し、次いで液体媒体中に分散させて、著しく高いバイオアベイラビリティを示す医薬組成物を得る、医薬組成物の製造について記載している。
【0108】
非経口注入に適した組成物は、生理学的に許容される滅菌した水性若しくは非水性溶液、分散液、懸濁液または乳濁液、及び注入可能な滅菌溶液または分散液中に再構成される滅菌粉末を含み得る。好適な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルの例には、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールなど)、それらの好適な混合物、植物油(オリーブ油など)及びオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、また界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0109】
具体的な投与経路の1つは、治療する疾患状態の重症度に応じて調整することができる、簡便な1日の投与計画を用いる、経口投与である。
【0110】
経口投与用の固体剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤が挙げられる。このような固体剤形の場合、活性化合物は、少なくとも1つの通常の不活性な賦形剤(または担体)、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、あるいは(a)充填剤または増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及びケイ酸、(b)結合剤、例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及びアラビアゴム、(c)保湿剤、例えば、グリセロール、(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、複合ケイ酸塩及び炭酸ナトリウム、(e)溶解遅延剤、例えば、パラフィン、(f)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物、(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール、ステアリン酸マグネシウムなど、(h)吸着剤、例えば、カオリン及びベントナイト、並びに(i)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムまたはこれらの混合物と混合される。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。
【0111】
上記の固体剤形は、腸溶性コーティングなどのコーティング及びシェル並びに当該技術分野において既知の他のものを用いて調製することができる。これらは、安定化剤を含んでもよく、また、腸管のある特定の部分で活性化合物または化合物を遅延方式で放出するような組成物であってよい。使用することができる組み込み組成物の例は、ポリマー物質及びワックスである。活性化合物はまた、適切であれば、上記の賦形剤のうちの1つまたは複数を含むマイクロカプセル化の形態であってもよい。
【0112】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容可能な乳剤、液剤、懸濁液、シロップ剤及びエリキシル剤が挙げられる。このような剤形は、例えば、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩及び任意選択の医薬品補助剤を、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどの担体;可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド;油、特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル;またはこれらの物質の混合物などに溶解、分散させ、これにより、溶液または懸濁液を形成することなどによって調製される。
【0113】
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天並びにトラガカントまたはこれらの物質の混合物などを含み得る。
【0114】
直腸投与用の組成物は、例えば、坐薬であってよく、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩と、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコールまたは坐剤用ワックスなどの好適な非刺激性賦形剤または担体とを混合することによって調製することができる。これらは、常温では固体であるが、体温で液状になるため、好適な体腔中で溶融し、その中の活性成分が放出される。
【0115】
式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩の局所投与の剤形には、軟膏剤、散剤、スプレー剤及び吸入剤が挙げられる。活性成分は、生理学的に許容される担体及び必要な場合には任意の保存剤、緩衝剤または噴射剤と滅菌条件下で混合される。眼用組成物、眼用軟膏剤、散剤及び液剤もまた、本開示の範囲内であることが企図される。
【0116】
圧縮ガスを用いて、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩をエアロゾル形態で分散させることができる。この目的に好適な不活性ガスは、窒素、二酸化炭素などである。
【0117】
一般に、意図する投与方法に応じて、薬学的に許容可能な組成物は、約1重量%〜約99重量%の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩と、99重量%〜1重量%の好適な医薬品賦形剤とを含む。一例において、組成物は、式I、式Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩が約5重量%〜約75重量%であり、残りが好適な医薬品賦形剤である。
【0118】
このような剤形を調製するための実際の方法は、当業者に知られており、当業者には明らかであろう。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1990)を参照されたい。投与する組成物は、いずれにせよ、本開示の教示に従って疾患状態を治療するために、治療上有効な量の式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む。
【0119】
本開示の化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、治療上有効な量で投与され、この量は、使用される特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用期間、年齢、体重、全般的な健康、性別及び食事、投与の様式及び時間、排出速度、薬物の組み合わせ、特定の疾患状態の重症度並びに対象が受けている療法を含む、種々の要因に応じて変化する。式I、式Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、1日当たり約0.1〜約1,000mgの範囲の用量で患者に投与することができる。体重約70キログラムの正常なヒト成人の場合、1日当たり約0.01〜約100mg/体重kgの範囲の用量が一例である。しかしながら、用いられる具体的な用量は、変動し得る。例えば、用量は、患者の要件、治療を施す状態の重症度、及び用いられる化合物の薬理活性を含む多数の要因に依存し得る。特定の患者に対する最適量の決定は、当業者によく知られている。
【0120】
他の実施形態において、式I、式Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、他の癌治療と同時に患者に投与することができる。かかる治療には、とりわけ、他の癌化学療法、ホルモン補充療法、放射線治療または免疫療法が挙げられる。他の療法の選択は、化合物の代謝安定性及び作用期間、年齢、体重、全般的な健康、性別、食事、投与の様式及び時間、排出速度、薬物の組み合わせ、特定の疾患状態の重症度並びに対象が受けている療法を含む、種々の多数の要因に依存する。
【0121】
別の態様において、本発明は、ROS1融合体に関連する疾患、例えば、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性NSCLC、CD74−ROS1融合遺伝子陽性NSCLC及びFIG−ROS1融合遺伝子陽性NSCLC、並びに他のROS1融合遺伝子陽性NSCLCを検出、診断及び治療するための方法を提供する。このような疾患の検出及び診断のための方法について、本明細書にて更に詳述する。これらの疾患の治療は、SLC34A2−ROS1融合遺伝子陽性NSCLC、CD74−ROS1融合遺伝子陽性NSCLC及びFIG−ROS1融合遺伝子陽性NSCLCなどのROS1融合に関連する疾患を有すると特定されたか、またはその診断を受けた患者に、式Iの化合物または式Iの化合物のリンゴ酸塩若しくは式Iの化合物の別の薬学的に許容可能な塩を含む、治療上有効な量の医薬組成物を投与することにより、良好に達成することができ、具体的な実施形態では、式Iの化合物は、化合物1または化合物1のリンゴ酸塩である。
【0122】
別の態様において、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、肺癌を予防または治療するために、患者に投与される。これらの実施形態のいくつかにおいて、方法は、活性成分として、ROS1融合タンパク質に対する少なくとも1つの阻害薬、当該融合タンパク質をコードするROS1融合遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬またはそれらの組み合わせ含む組成物を、必要とする患者に投与することを含む。
【0123】
ROS1並びに融合パートナーSLC34A2、CD74及びFIG
ROS1タンパク質、SLC34A2タンパク質、CD74タンパク質及びFIGタンパク質、SLC34A2−ROS1融合体若しくはCD74−ROS1融合体若しくはFIG−ROS1融合体または時に単に「ROS1融合タンパク質及び核酸」と呼ぶものは、検出、診断の方法、検出及び診断のためのキット、スクリーニングの方法、治療及び予防の方法、並びに肺癌患者のための様々な療法、治療薬及び他の薬物成分の有効性を測定するための方法を含め、以下に記載する種々の治療と組み合わせて使用することができる。
【0124】
ROS1タンパク質は、オルファン膜貫通型受容体チロシンキナーゼである。ヒトROS1キナーゼタンパク質(ROS1遺伝子によってコードされる)は、2347アミノ酸長の受容体チロシンキナーゼであり、異常発現して癌をもたらす傾向がある。完全長ヒトROS1キナーゼ(ヒトROS1タンパク質のアミノ酸配列を有するもの)の説明については、UniProtアクセッション番号P08922(E.C.−2.7.10.1)に見出すことができる。表1に示すように、ROS1のシグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及びキナーゼドメインは、配列番号1の以下のアミノ酸残基に認められる。
【0126】
ヒトROS1タンパク質は、ヒト第6染色体上に位置するヒトROS1遺伝子によってコードされ得る。ROS1タンパク質のC末端ドメインは、ROS1遺伝子の31番目若しくは32番目若しくは34番目のエクソンから最後のエクソン(例えば、32番目または34番目のエクソン)までのポリヌクレオチドまたはその断片によってコードされるアミノ酸配列を含み得る。ROS1タンパク質のC末端ドメインは、31番目または32番目のエクソンの開始位置から連続して少なくとも約100のアミノ酸を含み得る。例えば、ROS1タンパク質のC末端ドメインは、32番目のエクソン(長い形態)または34番目のエクソン(短い形態)の開始位置からROS1タンパク質のC末端に向かって、連続して約100〜約700のアミノ酸、連続して約200〜約600のアミノ酸、または連続して約250〜約500のアミノ酸、または連続して約270〜約425のアミノ酸、または連続して約270〜約450のアミノ酸、または連続して約475〜約625のアミノ酸を含み得る。ROS1タンパク質の推定切断点は、SLC34A2−ROS1融合タンパク質及びCD74−ROS1融合タンパク質については1750または1852〜1853aa、FIG−ROS1融合タンパク質については1880〜1881aaである。
【0127】
1つの例示的実施形態において、ヒトSLC34A2タンパク質(mRNA NM_001177998)をコードするヒトSLC34A2遺伝子は、ヒト第4染色体(4p15.2)上に局在し、13のエクソンと、アミノ酸長が約690のアミノ酸とを含む。この遺伝子によってコードされているタンパク質は、pH感受性ナトリウム依存性リン酸輸送体である。この遺伝子の欠損は、肺胞微石症の一因である。2つの異なるアイソフォームをコードする3つの転写バリアントが、この遺伝子について確認されている。SLC34A2タンパク質は、ヒトなどの哺乳動物に由来し得る。SLC34A2−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、SLC34A2遺伝子の1番目のエクソンから12番目のエクソン、または1番目のエクソンから4番目のエクソン、または1番目のエクソンから2番目のエクソンのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含み得る。SLC34A2遺伝子の構造中に最近観察されたこれらのエクソンは、429及び2076の推定切断点を有する。SLC34A2−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、SLC34A2タンパク質の1番目の位置から連続して少なくとも約30〜250のアミノ酸(すなわち、少なくとも1番目から250番目の位置までのアミノ酸配列またはその断片)を含み得る。SLC34A2−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、SLC34A2タンパク質の1番目のアミノ酸位置から連続して約30〜250のアミノ酸、連続して約30〜225のアミノ酸、連続して約40〜200のアミノ酸、または連続して約40〜175のアミノ酸を含み得る。
【0128】
1つの例示的実施形態において、SLC34A2−ROS1融合は、ROS1の3’領域がSLC34A2の5’領域に融合する、ヒト第6染色体と第4染色体との間の染色体転座である。融合タンパク質は、当業者に知られている及び/または本明細書に記載される各種方法を用いて、検出及び検証される。いくつかの実施形態では、次いで、式Iの化合物またはそれらの薬学的に許容可能な塩が、肺癌を予防または治療するために、それを必要とする患者に投与される。いくつかの実施形態において、活性成分として、SLC34A2−ROS1融合タンパク質に対する少なくとも1つの阻害薬、当該融合タンパク質をコードするSLC34A2−ROS1融合遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬またはそれらの組み合わせを含む組成物が、それを必要とする患者に投与される。
【0129】
SLC34A2−ROS1融合タンパク質において、融合または融合領域は、SLC34A2遺伝子とROS1遺伝子の種々のエクソン間に生じ得る。多くの融合が当業者に知られている。かかる融合の例には、SLC34A2遺伝子の2番目及び/または4番目のエクソンと、ROS1遺伝子の32番目(長い、L)及び/または34番目のエクソン(短い、S)とが挙げられ、これは、融合点または切断点とも呼ばれる。ROS1とSLC34A2の他の融合または切断点も知られており、これらは癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができる。「融合領域」という用語は、融合点周辺のポリヌクレオチド断片(約10〜30ヌクレオチド)またはポリペプチド(約5〜30アミノ酸)断片を指し得る。
【0130】
CD74−ROS1融合は、ROS1の3’領域がCD74の5’領域に融合する、ヒト第5染色体と第6染色体との間のROS1関連染色体転座である。融合タンパク質は、当業者に知られている及び/または本明細書に記載される各種方法を用いて、検出及び検証される。CD74−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、CD74遺伝子の1番目のエクソンから12番目のエクソン、または1番目のエクソンから4番目のエクソン、または1番目のエクソンから2番目のエクソンのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含み得る。CD74−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、CD74タンパク質の1番目の位置から連続して少なくとも約30〜250のアミノ酸(すなわち、少なくとも1番目から250番目の位置までのアミノ酸配列またはその断片)を含み得る。CD74−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、CD74タンパク質の1番目のアミノ酸位置から連続して約30〜250のアミノ酸、連続して約30〜225のアミノ酸、連続して約40〜200のアミノ酸、若しくは連続して約40〜210のアミノ酸またはその断片を含み得る。
【0131】
融合タンパク質において、融合または融合領域は、CD74遺伝子とROS1遺伝子の種々のエクソン間に生じ得る。多くの融合が当業者に知られている。こうしたCD74−ROS1融合体の例には、CD74遺伝子の6番目のエクソンがROS1遺伝子の32番目または34番目のエクソンに融合したものが挙げられ、融合点または切断点とも呼ばれる。ROS1とCD74の他の融合または切断点も知られており、これらは癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができる。「融合領域」という用語は、融合点周辺のポリヌクレオチド断片(約10〜30ヌクレオチド)またはポリペプチド(約5〜30アミノ酸)断片を指し得る。
【0132】
融合タンパク質FIG−ROS1は、FIG(GOPCとして知られる)の5’領域がROS1の3’領域に融合している、ヒト第6染色体上の染色体内欠失から生じる。FIG−ROS1融合体は、胆管癌及び卵巣癌の患者由来のサンプルにて、それぞれ8.7%及び0.5%の頻度で特定されている。FIG−ROS1融合タンパク質は、当業者に知られている及び/または本明細書に記載される各種方法を用いて、検出及び検証することができる。FIG−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、FIGタンパク質の1番目の位置から連続して少なくとも約150〜500のアミノ酸(すなわち、少なくとも1番目から500番目の位置のアミノ酸配列またはその断片)を含み得る。FIG−ROS1融合タンパク質のN末端ドメインは、FIGタンパク質の1番目のアミノ酸位置から連続して約150〜約500のアミノ酸、連続して約200〜450のアミノ酸、連続して約220〜425のアミノ酸、若しくは連続して約220〜約420アミノ酸またはその断片を含み得る。
【0133】
FIG−ROS1融合タンパク質において、融合または融合領域は、FIG遺伝子とROS1遺伝子の種々のエクソン間に生じ得る。複数のFIG−ROS1融合体が当業者に知られている。かかる融合体の例には、FIG遺伝子の4番目または8番目のエクソンがROS1遺伝子の35番目または36番目のエクソンに融合したものが挙げられ、融合点または切断点とも呼ばれる。ROS1とFIGの他の融合または切断点も知られており、これらは癌データベースv.68の体細胞変異に関するCOSMIC−Catalogue(cancer.sanger.ac.uk/cancergenome/projects/cosmic/)に見出すことができる。「融合領域」という用語は、融合点周辺のポリヌクレオチド断片(約10〜30ヌクレオチド)またはポリペプチド(約5〜30アミノ酸)断片を指し得る。
【0134】
他のROS1融合パートナーには、本明細書に詳述するSLC34A2、CD74及びFIG融合に加えて、TPM3、SDC4、EZR及びLRIG3を挙げることができる。(本明細書の
図1及び例えばTakeuchi K,Soda M,Togashi Y,Suzuki R,Sakata S,Hatano S,et al.RET,ROS1 and ALK fusions in lung cancer.Nat Med.2012,and Kurtis D.Davies,Anh T.Le,Mariana F.Theodoro,Margaret C.Skokan,Dara L.Aisner,Eamon M.Berge,Luigi M.Terracciano,Matteo Incarbone,Massimo Roncalli,Federico Cappuzzo,D.Ross Camidge,Marileila Varella−Garcia,and Robert C.Doebelet,Identifying and Targeting ROS1 Gene Fusions in Non−Small Cell Lung Cancer,(2012),Clin Cancer Res.2012 September 1;18(17):4570−4579を参照されたい。)ROS1融合タンパク質に関するこれらの開示内容については、その全体を本明細書に援用する。
【0135】
一実施形態において、本発明のROS1融合タンパク質は、機能性キナーゼドメインをもたらすヒトROS1タンパク質のC末端ドメイン(例えば、配列番号1に記載のヒトROS1)を含み、このドメインは、ROS1タンパク質の32番目のエクソンの開始位置に該当するアミノ酸から始まりROS1タンパク質のC末端に向かって連続する約50〜300のアミノ酸から本質的になる。
【0136】
本明細書で使用するとき、エクソン番号は、米国国立衛生研究所(Bethesda,Maryland USA)が運営する国立生物工学情報センター(NCBI)によって割り当てられたエクソン番号に従ってナンバリングされる。いくつかの例示的実施形態において、融合タンパク質SLC34A2−ROS1は、NCBIに従って特定されるアミノ酸配列のうちのいずれかを有し得る。DNA分子のヌクレオチド配列及びDNA分子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、自動DNAシークエンサーまたは自動ペプチドシークエンサーによって決定することができる。こうした自動シークエンシング手段によって決定された(ヌクレオチドまたはアミノ酸)配列は、実際の配列と比較して、部分的な誤差を含み得る。一般に、自動シークエンシングによって決定された配列は、実際の配列と比較して、少なくとも約90%、少なくとも20の約95%、少なくとも約99%または少なくとも約99.9%の配列同一性を有し得る。したがって、融合タンパク質、融合遺伝子または融合領域は、NCBIに従って特定された配列と比較して、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または少なくとも約99.9%の配列同一性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有し得る。
【0137】
説明を簡潔にするために、以下の開示は、ROS1融合タンパク質SLC34A2−ROS1について言及するが、本明細書に記載する他のROS1融合タンパク質にも該当し得る。例とするSLC34A2−ROS1融合タンパク質は、いくつかの実施形態において、SLC34A2の80〜200個のN末端アミノ酸残基と、ROS1の少なくとも300個のC末端残基(好ましくは300〜500個の範囲のC末端アミノ酸残基)から構成され得る。融合遺伝子は、ヘリカルドメインとともに、タンパク質チロシンキナーゼドメインを有する。いかなる理論に束縛されるものではないが、SLC34A2−ROS1融合タンパク質の三次構造は、自己リン酸化反応によって発癌性タンパク質チロシンキナーゼドメインを活性化するホモ二量体化を誘導すると考えられる。総合すると、SLC34A2−ROS1融合遺伝子は、高度に発現され、次いで、翻訳後、SLC34A2により二量体化され得る。その後、二量体化したROS1タンパク質チロシンキナーゼドメインは、異常に刺激され得、これにより、例えば、ROS1融合関連NSCLC肺癌に見られるような発癌経路の刺激が促進される。
【0138】
融合体が検出された場合、SLC34A2−ROS1の融合タンパク質をコードするSLC34A2−ROS1の融合遺伝子と認められる。肺癌を診断するための情報を得る方法は、対象から得た試験サンプルにて、本明細書に記載の融合体を検出するステップを含む。診断は、融合タンパク質をコードする融合遺伝子及び癌に罹患していない個体からの標準サンプルと比較したROS1の過剰発現を比較するものであり、少なくとも1つの要素が選択され、試験サンプル中に検出された場合、その対象について、癌患者、肺癌患者、NSCLC肺癌患者、ROS1融合関連NSCLC患者及び/またはSLC34A2−ROS1融合関連NSCLC患者のいずれかまたは全てであると特定することができる。
【0139】
第6染色体の欠失、逆位または転座は、ヒト第6染色体中の欠失、逆位若しくは転座領域にハイブリダイズする(相補的に結合する)ことができるポリヌクレオチド(プローブ)及び/またはヒト第6染色体の欠失、逆位若しくは転座を検出することができる(例えば、ヒト第6染色体中の逆位領域を含む連続して100〜200のヌクレオチドを有するポリヌクレオチド断片を生成することができる)プライマー対を用いることによって検出され得る。融合タンパク質、融合遺伝子及び融合領域については、本明細書に記載されている。例示的実施形態において、融合タンパク質はまた、融合タンパク質または融合遺伝子または融合遺伝子に対応するmRNAの存在について、例えば、当該技術分野において知られており、また本明細書に記載するROS1特異的またはROS1融合特異的抗体を使用して検出することによっても検出され得る。
【0140】
融合タンパク質の存在は、融合タンパク質と融合タンパク質に特異的に結合する物質(例えば、抗体またはアプタマー)との相互作用を測定する一般的なアッセイによって検出することができる。一般的なアッセイは、免疫クロマトグラフィー、免疫組織化学的染色法、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(LIA)、ウェスタンブロット、FACSなどであってよい。
【0141】
加えて、融合遺伝子またはmRNAの存在は、融合遺伝子またはmRNAにハイブリダイズする(相補的に結合する)ことができるポリヌクレオチドを用いて、PCR、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)などの一般的なアッセイによって検出することができる。FISHについては、以下により詳細に説明する。融合遺伝子は、大量並列シークエンシング技術による全トランスクリプトーム(RNA)及び/または全ゲノムDNAシークエンシングの積分法を用いることによって、検出及び/または検証することができる。融合遺伝子またはmRNAにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドは、siRNA、オリゴヌクレオチド、DNAプローブまたはDNAプライマーであってよく、試験サンプル中の融合したまたは切断された遺伝子または転写物との直接ハイブリダイゼーションによって、融合遺伝子またはmRNAを検出することができる。
【0142】
更なる実施形態において、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を本発明の方法に使用する(Vermaら、Human Chromosomes:A Manual Of Basic Techniques,Pergamon Press,New York,N.Y.(1988)に記載の通り)。FISHアッセイは、1つまたは複数のプローブセットを用いて実施することができ、実施形態としては、例えば、(1)ROS1遺伝子を含有する染色体部位(第1の染色体部位)を標的にする第1のプローブセットであって、第1の蛍光物質で標識したプローブ1Aと、第2の蛍光物質で標識したプローブ1Bとからなり、プローブ1Aは、前述の第1の染色体部位内の5’領域である第1の領域に相補的であり、プローブ1Bは、前述の第1の領域から離れて位置し、かつ前述の第1の染色体部位内の3’領域である第2の領域に相補的であり、ROS1遺伝子の切断点は、SLC34A2とROS1の遺伝子間の転座によってSLC34A2−ROS1融合遺伝子が生じる場合、前述の第1の領域の3’末端部、前述の第1の領域と第2の領域の間、または前述の第2の領域の5’末端部に位置する、第1のプローブセット;(2)SLC34A2遺伝子を含有する染色体部位(第2の染色体部位)を標的にする第2のプローブセットであって、第1の蛍光物質で標識したプローブ2Aと、第2の蛍光物質で標識したプローブ2Bとからなり、プローブ2Aは、前述の第2の染色体部位内の5’領域である第1の領域に相補的であり、プローブ2Bは、前述の第1の領域から離れて位置し、かつ前述の第2の染色体部位内の3’領域である第2の領域に相補的であり、SLC34A2遺伝子の切断点は、SLC34A2とROS1の遺伝子間の転座によってSLC34A2−ROS1融合遺伝子が生じる場合、前述の第1の領域の3’末端部、前述の第1の領域と第2の領域の間、または前述の第2の領域の5’末端部に位置する、第2のプローブセット;(3)前述のプローブ2Aと前述のプローブ1Bとからなる第3のプローブセット、並びに(4)ROS1遺伝子を含有する染色体部位(第3の染色体部位)に相補的であるプローブ4AとSLC34A2遺伝子を含有する染色体部位(第4の染色体部位)相補的であるプローブ4Bとからなる第4のプローブセットが提供される。
【0143】
前述の第1の染色体部位の長さは、0.5〜2.0Mbであり得る。前述の第2の染色体部位の長さは、0.5〜2.0Mbであり得る。前述の第3の染色体部位の長さは、0.5〜2.0Mbであり得る。前述の第4の染色体部位の長さは、0.5〜2.0Mbであり得る。
【0144】
いくつかの実施形態において、FISHアッセイは、他の物理的染色体マッピング技術及び遺伝子マップデータと相関し得る。FISH技術については、よく知られている(例えば、米国特許第5,756,696号、同第5,447,841号、同第5,776,688号及び同第5,663,319号参照)。遺伝子マップデータの例は、1994 Genome Issue of Science(265:1981f)に見出すことができる。物理的染色体マップ上のROS1タンパク質をコードする遺伝子及び/またはROS1融合ポリペプチドの場合にはROS1融合タンパク質の融合パートナー(例えば、FIG遺伝子、SLC34A2遺伝子またはCD74遺伝子)をコードする遺伝子の位置と、特定の疾患または特定の疾患素因との間の相関関係は、当該遺伝子疾患に関連するDNAの領域を限定するのに役立ち得る。本発明のヌクレオチド配列を用いて、正常個体、キャリアまたは罹患した個体の間の遺伝子配列の違いを検出することができる。
【0145】
遺伝子マップを拡張するために、染色体調製物のin situハイブリダイゼーション及び確立された染色体マーカーを用いる連鎖解析などの物理的マッピング技術を用いることができる。多くの場合、特定のヒト染色体の数または腕が未知であっても、マウスなどの別の哺乳動物種の染色体上の遺伝子配置により、関連するマーカーが明らかになる場合がある。新しい配列は、物理的マッピングによって、染色体の腕またはその部分に割り当てることができる。これは、ポジショナルクローニングまたは他の遺伝子発見技術を用いて疾患遺伝子を調査する研究者に貴重な情報を提供する。遺伝子連鎖によって疾患または症候群が特定のゲノム領域に大まかに局在化された場合(例えば、ATの場合11q22−23(Gattiら、Nature 336:577−580(1988)))、当該領域にマッピングされた任意の配列は、更なる研究に関連する遺伝子または制御遺伝子である場合がある。本発明のROS1融合体またはその部分をコードするヌクレオチド配列はまた、正常個体、キャリアまたは罹患した個体間の転座、逆位などによる染色体位置の違いを検出するために用いることができる。
【0146】
ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、完全長ROS1またはSLC34A2−ROS1若しくはCD74−ROS1若しくはFIG−ROS1(S)などのROS1融合ポリヌクレオチド)を検出する方法(例えば、PCR及びFISH)の全ては、ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチドまたはROS1キナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出する他の方法と組み合わせてもよいことは、理解されるべきである。例えば、生体サンプルの遺伝物質中のFIG−ROS1融合ポリヌクレオチド(例えば、循環腫瘍細胞中のFIG−ROS1)の検出に続けて、FIG−ROS1ポリヌクレオチドが生体サンプル中でFIG−ROS1融合ポリペプチドとして実際に発現しているかどうかを決定するために、サンプルのタンパク質のウェスタンブロット分析または免疫組織化学(IHC)分析を行うことができる。このようなウェスタンブロットまたはIHC分析は、検出対象のFIG−ROS1ポリヌクレオチドによってコードされているポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いて実施してもよいし、完全長FIG(例えば、タンパク質のN末端に結合する)または完全長ROS1(例えば、ROS1のキナーゼドメイン中のエピトープに結合する)のいずれかに特異的に結合する抗体を用いて分析を実施してもよい。このようなアッセイは、当該技術分野において既知である(例えば、米国特許第7,468,252号参照)。
【0147】
別の例には、DakoのCISH技術により、同じ組織片上で、免疫組織化学を伴う色素in situハイブリダイゼーションが可能である。Elliotら、Br J Biomed Sci 2008;65(4):167−171,2008 for a comparison of CISH and FISHを参照されたい。
【0148】
本発明の別の態様は、ROS1キナーゼによって誘導される肺癌に罹患しているか、またはその肺癌の疑いのある患者を診断するための方法を提供する。この方法は、当該肺癌であるか、または肺癌の疑いのある生体サンプル(少なくとも1つの核酸分子を含有する生体サンプル)を、ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸分子、例えば、完全長ROS1ポリヌクレオチドまたはROS1融合ポリヌクレオチド(例えば、FIG−ROS1融合ポリヌクレオチド、SLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドまたはCD74−ROS1融合ポリヌクレオチド)などにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブと接触させることを含み、当該生体サンプル中で当該プローブが少なくとも1つの核酸分子にハイブリダイゼーションした場合、当該患者をROS1キナーゼによって誘導される肺癌に罹患しているか、またはその肺癌の疑いがあると特定する。
【0149】
本発明の更に別の態様は、ROS1キナーゼによって誘導される肺癌に罹患しているか、またはその肺癌に罹患している疑いのある患者を診断するための方法を提供する。この方法は、当該肺癌であるか、または肺癌の疑いのある生体サンプル(当該生体サンプルは少なくとも1つのポリペプチドを含有する)を、ROS1キナーゼ活性を有するポリペプチド(例えば、FIG−ROS1融合ポリペプチド、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1融合ポリペプチド)に特異的に結合する試薬と接触させることを含み、当該生体サンプル中で当該試薬が少なくとも1つの融合ポリペプチドに特異的に結合した場合、当該患者をROS1キナーゼによって誘導される肺癌に罹患しているか、またはその肺癌の疑いがあると特定する。
【0150】
種々の実施形態において、ROS1キナーゼによって誘導される肺癌または肺癌の疑いの特定により、当該肺癌に罹患しているか、またはその肺癌の疑いのある患者をROS1阻害治療薬に応答する可能性が高いと特定する。
【0151】
SLC34A2とROS1の遺伝子間の転座を検出するためのキットは、1つまたは複数のプローブセットを含み得る。(1)第1のプローブセットは、第1の蛍光物質で標識したプローブ1Aと、第2の蛍光物質で標識したプローブ1Bとを含み、プローブ1Aは、前述の第1の染色体部位内の5’領域である第1の領域に相補的であり、プローブ1Bは、前述の第1の領域から離れて位置し、かつ前述の第1の染色体部位内の3’領域である第2の領域に相補的であり、ROS1遺伝子の切断点は、SLC32A2とROS1の遺伝子間の転座によってSLC34A2−ROS1融合遺伝子が生じる場合、前述の第1の領域の3’末端部、前述の第1の領域と第2の領域の間、または前述の第2の領域の5’末端部に位置する;(2)SLC32A2遺伝子を含有する染色体部位(第2の染色体部位)を標的にする第2のプローブセットであって、第1の蛍光物質で標識したプローブ2Aと、第2の蛍光物質で標識したプローブ2Bとからなり、プローブ2Aは、前述の第2の染色体部位内の5’領域である第1の領域に相補的であり、プローブ2Bは、前述の第1の領域から離れて位置し、かつ前述の第2の染色体部位内の3’領域である第2の領域に相補的であり、SLC32A2遺伝子の切断点は、SLC32A2とROS1の遺伝子間の転座によってSLC34A2−ROS1融合遺伝子が生じる場合、前述の第1の領域の3’末端部、前述の第1の領域と第2の領域の間、または前述の第2の領域の5’末端部に位置する、第2のプローブセット;(3)前述のプローブ2Aと前述のプローブ1Bとからなる第3のプローブセット、並びにROS1遺伝子を含有する染色体部位(第3の染色体部位)に相補的であるプローブ4AとSLC32A2遺伝子を含有する染色体部位(第4の染色体部位)相補的であるプローブ4Bとからなる第4のプローブセット。
【0152】
SLC34A2−ROS1転座の疑いのある患者を特定するのに有用なキットは、プローブの使用説明書、DNA対比染色液、ハイブリダイゼーション用緩衝液、封入剤及びコントロールスライドを含む群から選択される1つまたは複数の要素を含む。キットは、本発明の検出方法を簡便にかつ効率的に実施できるようにするものである。キットは、必要な要素(必須構成要素)として、前述の第1のプローブセット、第2のプローブセット、第3のプローブセットまたは第4のプローブセットを含み得る。また、2つまたはそれ以上の種類のプローブセットをキットに含めてもよい。例えば、キットには、第1のプローブセット及び第3のプローブセットを組み込むことができる。各プローブセットに関する詳細は上述したので、ここでは繰り返さない。
【0153】
SLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドの有無の検出は、前述の融合ポリペプチドをコードしているゲノムDNAまたは当該ゲノムDNAの転写物を直接用いて実施することができるが、その転写物の翻訳生成物(前述の融合ポリペプチド)を間接的に用いて実施してもよい。
【0154】
融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAは、第6染色体(6q22)の117.61〜117.75Mb領域の間の逆位によって形成されるので、本発明の現象を「SLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドの有無の検出」にて検出することができる。この逆位検出において、例えば、ROS1遺伝子のキナーゼドメインコード領域から上流の5’側領域とROS1遺伝子の当該コード領域から下流の3’側領域との間のスプリットを検出してもよいし、ヘリカルドメインの一部または全てのコード領域とSLC32A2遺伝子のコード領域から上流の5’側領域とSLC34A2遺伝子のヘリカルドメインのコード領域から下流の3’側領域との間のスプリットを検出してもよい。
【0155】
本発明における「SLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドの有無の検出」には、当業者に知られた利用可能な技術を用いることができる。「前述の融合ポリペプチドをコードするゲノムDNA」が対象物である場合、例えば、蛍光などを用いたin situハイブリダイゼーション(ISH)、ゲノムPCR、直接シークエンス法、サザンブロット法またはゲノムマイクロアレイ解析を用いることができる。「前述のゲノムDNAの転写物」が対象物である場合、例えば、RT−PCR、直接シークエンス法、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはcDNAマイクロアレイ解析を用いることができる。
【0156】
本発明のキットに、他の要素を更に含めてもよい。これらの他の要素の例には、プローブの使用説明書、DAPIなどのDNA対比染色液、ハイブリダイゼーション用緩衝液、洗浄緩衝液、溶媒、封入剤、コントロールスライド、反応容器及び他の器具である。また、診断目的に関する明細書が含まれてもよい。更に、癌患者の染色体サンプル中におけるSLC34A2−ROS1転座の検出(陽性特定)が、ROS1キナーゼ阻害薬を用いるこれらの患者にて、どのように設定されるべきかを示す明細書などを含めてもよい。加えて、治療コースを決定するための手順及びこの手順の説明を含めてもよい。
【0157】
比較的に長いプローブ(約200kb(プローブ1A)〜約1,370kb(プローブ4B))が企図される。したがって、プローブと標的配列との間の相補性は、本発明において意図される特異的なハイブリダイゼーションが達成される限り、高度に限定される必要はない。標的配列間の類似性の例は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%である。
【0158】
第1のプローブセット及び第2のプローブセットを使用する場合、SLC34A2遺伝子とROS1遺伝子との間で転座が生じている染色体サンプルでは、2つの蛍光シグナルは、離れて別々に検出され、転座が生じていない染色体サンプルでは、2つの蛍光シグナルは、典型的に、互いに近接して観察されるか、または2つの蛍光シグナルの組み合わせであるシグナル(黄色)が観察される。したがって、SLC34A2遺伝子とROS1遺伝子との間の転座の有無は、蛍光シグナルのパターンに反映される。その結果、SLC34A2遺伝子とROS1遺伝子との間の転座は、蛍光シグナルのパターンから判定することができる。
【0159】
上で得た判断は、典型的に、好ましくは、コントロール(試験サンプル)との結果の比較に基づいてなされる。ここで、コントロールは、非小細胞肺癌に罹患している患者に由来する染色体サンプルまたは前癌性病変を呈する患者に由来する染色体サンプルである。加えて、前癌性病変のない患者に由来する染色体サンプル、癌に罹患していない患者に由来する染色体サンプル、健常な対象から採取した染色体サンプルも同様にコントロールとして使用することができる。また、細胞株由来の染色体サンプルもコントロールに使用することができる。
【0160】
融合遺伝子がSLC34A2−ROS1の融合タンパク質をコードする融合遺伝子SLC34A2−ROS1である場合、融合遺伝子SLC34A2−ROS1(または任意の他のROS1融合遺伝子、例えば、CD74−ROS1及びFIG−ROS1)は、融合領域にハイブリダイズする(相補的に結合する)ことができるポリヌクレオチド(プローブ)及び/または融合領域を含む連続して100〜200のヌクレオチドを有するポリヌクレオチド断片を生成することができるプライマー対を用いることによって検出することができる。加えて、1つの例示的実施形態において、融合タンパク質SLC34A2−ROS1は、融合タンパク質SLC34A2−ROS1の融合領域に特異的に結合する抗体またはアプタマーを用いて検出することができる。
【0161】
更に、検出は、発色in situハイブリダイゼーション(CISH)法と銀in situハイブリダイゼーション(SISH)法の組み合わせである融合アッセイによって実施することができる。本明細書における「融合点」は、SLC34A2の各遺伝子に由来する部分がROS1遺伝子に由来する部分に融合する点を指す。
【0162】
「融合領域(または逆位領域)にハイブリダイズすることができる」という用語は、相補的配列、または融合領域(または逆位領域)の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有することを指し得る。別の実施形態は、融合領域にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド及び融合領域を含む連続して100〜200のヌクレオチドを有するポリヌクレオチド断片を生成することができるプライマー対からなる群から選択される1つまたは複数を含む、癌を診断するための組成物を提供する。また、ヒト第6染色体内の逆位領域にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド、ヒト第6染色体の逆位領域を含む連続して100〜200のヌクレオチドを有するポリヌクレオチド断片を生成することができるプライマー対、及び融合領域に結合する抗体またはアプタマー。別の実施形態は、癌を診断するための融合タンパク質及び/または融合遺伝子の使用を提供する。患者は、いずれの哺乳動物であってもよく、例えば、ヒトまたはサルなどの霊長類、マウスまたはラットなどのげっ歯類、特にヒトである。言及する任意のアッセイでの使用に好適な試験サンプルは、細胞(例えば、肺細胞)、組織(例えば、肺組織)、体液(例えば、血液)、循環腫瘍DNA、循環腫瘍細胞であってよい。サンプルは、腫瘍の外科的生検、腫瘍のコア生検、腫瘍、胸水の微細針吸引生検、並びに患者から細胞及び組織を分離する他の既知の方法による採取を含む、当業者に知られている任意の方法で採取され得る。例えば、FISHアッセイ(本明細書に記載される)を循環腫瘍細胞で実施することができる。
【0163】
患者は、キナーゼ阻害薬による治療を受けているか、キナーゼ阻害薬での治療計画がある者であり得る。試験サンプルは、ヒト癌細胞に由来する細胞またはその抽出物を含み得る。
【0164】
別の実施形態は、融合パートナーのN末端ドメインをコードする遺伝子が5’末端に位置し、ROS1タンパク質のC末端ドメインをコードする遺伝子が3’末端に位置する、融合タンパク質をコードする融合遺伝子を提供する。1つの例示的実施形態において、融合タンパク質がSLC34A2−ROS1タンパク質である場合、当該融合遺伝子は、SLC34A2のN末端ドメインをコードする遺伝子が5’末端に位置し、ROS1タンパク質のC末端ドメインをコードする遺伝子が3’末端に位置する、SLC34A2−ROS1遺伝子として表すことができる。
【0165】
別の実施形態は、融合遺伝子と、当該融合遺伝子に機能的に連結した任意選択の転写エレメント(例えば、プロモーターなど)とを含む発現ベクターを提供する。別の実施形態は、発現ベクターを用いて形質転換した形質転換細胞を提供する。
【0166】
治療または診断の過程で採取される生物学的標本(生検サンプルなど)は、ホルマリン固定されることが多いが、この場合、in situハイブリダイゼーションの使用が有利である。これは、検出対象であるDNAゲノムがホルマリン固定下で安定であり、かつ検出感度が高いためである。
【0167】
in situハイブリダイゼーションにおいて、生物学的標本中のSLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAは、少なくとも15ヌクレオチド塩基の鎖長を有する下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドをハイブリダイズすることによって検出することができる。
(a)SLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及びROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも1つのプローブであるポリヌクレオチド
(b)SLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位にハイブリダイズするプローブであるポリヌクレオチド
【0168】
in situハイブリダイゼーションにおいて、生物学的標本中のCD74−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAは、少なくとも15塩基の鎖長を有する下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドをハイブリダイズすることによって検出することができる。
(a)CD74タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及びROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも1つのプローブであるポリヌクレオチド
(b)CD74タンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位にハイブリダイズするプローブであるポリヌクレオチド
【0169】
in situハイブリダイゼーションにおいて、生物学的標本中のFIG−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAは、少なくとも15塩基の鎖長を有する下記の(a)または(b)のポリヌクレオチドをハイブリダイズすることによって検出することができる。
(a)FIGタンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及びROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも1つのプローブであるポリヌクレオチド
(b)FIGタンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位にハイブリダイズするプローブであるポリヌクレオチド
【0170】
しかしながら、遺伝子のDNA配列は、自然界で(すなわち、非人工的に)変異する場合がある。したがって、このような天然バリアントもまた本発明の対象となり得る(以下同様)。
【0171】
(a)に記載した本発明のポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの標的塩基配列である、ROS1結合パートナー(すなわち、SLC34A2、CD74またはFIGタンパク質)をコードするポリヌクレオチド、またはROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズすることによって、生物学的標本にて前述したROS1融合タンパク質をコードするゲノムDNAの存在を検出することができれば、いかなるものであってもよい。好ましくは、以下に示す(a1)〜(a4)である。
【0172】
(a1)SLC34A2遺伝子のエクソン1〜2のヘリカルドメインの一部または全てのコード領域及び当該コード領域から上流の5’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「5’SLC34A2プローブ1」ともいう)と、ROS1遺伝子のキナーゼドメインのコード領域及び当該コード領域から下流の3’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「3’ROS1プローブ1」ともいう)との組み合わせ
【0173】
(a2)ROS1遺伝子のキナーゼドメインのコード領域から上流の5’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「5’ROS1プローブ1」ともいう)とROS1遺伝子のキナーゼドメインのコード領域及び当該コード領域から下流の3’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「3’ROS1プローブ1」ともいう)との組み合わせ
【0174】
(a3)ROS1遺伝子のフィブロネクチンIII型9のコード領域及び当該領域から上流の5’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「5’ROS1プローブ2」ともいう)とROS1遺伝子の膜貫通ドメインのコード領域及び当該コード領域から下流の3’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「3’ROS1プローブ2」ともいう)との組み合わせ
【0175】
(a4)SLC34A2遺伝子のヘリカルドメインの一部または全てのコード領域及び当該コード領域から上流の5’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「5’SLC34A2プローブ1」ともいう)と、SLC34A2遺伝子のコイルドコイルドメインのコード領域当該コード領域から下流の3’側領域にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下「3’SLC34A2プローブ1」ともいう)との組み合わせ
【0176】
in situハイブリダイゼーションに用いる(a1)のポリヌクレオチドにハイブリダイズする領域(標的塩基配列)は、標的塩基配列に対する特異性及び検出感度の理由から、好ましくは、SLC34A2遺伝子とROS1遺伝子の融合部位から1,000,000塩基以内の領域であり、in situハイブリダイゼーションに用いる(a2)〜(a4)のポリヌクレオチドにハイブリダイズする領域は、同じ理由から、好ましくは、SLC34A2遺伝子またはROS1遺伝子の切断点から1,000,000塩基以内の領域である。
【0177】
in situハイブリダイゼーションに用いる上記の(a)または(b)に記載するポリヌクレオチドは、標的塩基配列に対する特異性及び検出感度の理由から、好ましくは、前述の標的塩基配列の全てを網羅することができる複数の種類のポリペプチドからなる集団である。この場合、集団を構成するポリヌクレオチドの長さは、少なくとも15塩基、好ましくは100〜1000塩基である。
【0178】
in situハイブリダイゼーションに用いる上記の(a)または(b)に記載したポリヌクレオチドは、好ましくは、検出用の蛍光色素などによって標識される。このような蛍光色素の例には、DEAC、FITC、R6G、TexRed及びCy5が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光色素の他に、DABなどの色素(色原体)または酵素的金属沈着に基づく銀などによって、前述のポリヌクレオチドを標識してもよい。
【0179】
in situハイブリダイゼーションにおいて、5’SLC34A2プローブ1及び3’ROS1プローブ1を使用する場合、5’ROS1プローブ1及び3’ROS1プローブ1を使用する場合、5’ROS1プローブ2及び3’ROS1プローブ2を使用する場合、または5’SLC34A2プローブ1及び3’SLC34A2プローブ1を使用する場合、これらのプローブは、互いに異なる色素で標識されるのが好ましい。このように異なる色素で標識したプローブの組み合わせを用いてin situハイブリダイゼーションを実施する場合、5’SLC34A2プローブ1の標識によって生じたシグナル(例えば、蛍光)と3’ROS1プローブ1の標識によって生じたシグナルとが重なるとき、SLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAが検出されたと判定することができる。一方、5’ROS1プローブ1の標識によって生じたシグナルと3’ROS1プローブ1の標識によって生じたシグナルとが分離しているとき、5’ROS1プローブ2の標識によって生じたシグナルと3’ROS1プローブ2の標識によって生じたシグナルとが分離しているとき、または5’SLC34A2プローブ1の標識によって生じたシグナルと3’SLC34A2プローブ1の標識によって生じたシグナルとが分離しているとき、SLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAが検出されたと判定することができる。
【0180】
ポリヌクレオチドの標識化は、既知の技術によって行うことができる。例えば、ニックトランスレーションまたはランダムプライマー法により蛍光色素などで標識した基質塩基をポリヌクレオチドに組み込むことで、そのポリヌクレオチドを標識化することができる。in situハイブリダイゼーションにおいて、上記の(a)または(b)に記載したポリヌクレオチドと前述の生物学的標本をハイブリダイズするときに使用する条件は、関連するポリヌクレオチドの長さなどの各種要因に応じて異なり得るが、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の一例は0.2×SSC、65℃であり、低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の一例は2.0×SSC、50℃である。前述の条件と同じストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、塩濃度(SSCの希釈比)及び温度並びに界面活性剤(NP−40など)の濃度、ホルムアミドの濃度及びpHなどの各種条件を適切に選択することによって達成できることに留意されたい。例えば、スクリーニングのための一般的なハイブリダイゼーション条件に関して、中〜高ストリンジェンシー条件下にて、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列若しくはその断片またはその相補的配列にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド組成物が提供される。ハイブリダイゼーション技術は、分子生物学分野にてよく知られている。例示として、本発明のポリヌクレオチドと他のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを試験するのに適した中程度にストリンジェントな条件は、5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の溶液中での予洗、50℃〜60℃、5×SSC、終夜でのハイブリダイズ、次いで、0.1%SDSを含有する2×、0.5×及び0.2×SSCをそれぞれ用いた65℃で20分間の2回の洗浄が含まれる。当業者であれば、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度及び/またはハイブリダイゼーションを行う温度を変更することなどによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを容易に操作することができることを理解するであろう。例えば、別の実施形態において、好適である高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、60〜65℃または65〜70℃にハイブリダイゼーションの温度を上げるという点を除いて、上述のものが含まれる。
【0181】
前述のin situハイブリダイゼーション以外で、上記の(a)または(b)に記載したポリヌクレオチドを用いてSLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出するための方法の例は、サザンブロット、ノーザンブロット及びドットブロットである。これらの方法において、前述の融合遺伝子は、前述の生物学的標本から得た核酸抽出物を転写した膜上に、中〜高ストリンジェンシー条件下にて、上記の(a)または(b)に記載したポリヌクレオチドをハイブリダイズすることによって検出される。(a)のポリヌクレオチドを使用する場合、SLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリペプチド及びROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリペプチドが、膜上に展開された同じバンドを認識するとき、SLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAが検出されたと判定することができる。
【0182】
ゲノムマイクロアレイ解析及びDNAマイクロアレイ解析は、上記(b)のポリヌクレオチドを用いて、SLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出するための更なる方法である。これらの方法において、(b)のポリヌクレオチドのアレイを基板上に固定し、生物学的標本をアレイ上のポリヌクレオチドと接触させることによって、関連するゲノムDNAを検出する。PCRまたはシークエンシングにおいて、以下に記載する(c)のポリヌクレオチドを使用して、生物学的標本から作製したDNA(ゲノムDNA、cDNA)またはRNAを鋳型として用いると、SLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドの一部または全てを特異的に増幅することができる。(c)SLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位を挟み込むように設計された一対のプライマーであるポリヌクレオチド。「一対のプライマーであるポリヌクレオチド」は、標的となる前述の融合ポリヌクレオチドなどの塩基配列において、一方のプライマーがSLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズし、もう一方のプライマーがROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプライマーセットである。これらのポリヌクレオチドの長さは、通常、15〜100塩基であり、好ましくは17〜30塩基である。
【0183】
PCRによる検出の精度及び感度の観点から、(c)に記載した本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、SLC34A2タンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位から5000塩基以内である前述の融合ポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な配列である。
【0184】
「一対のプライマーであるポリヌクレオチド」は、標的となるSLC34A2−ROS1融合ポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて、既知の技術によって適切に設計することができる。「一対のプライマーであるポリヌクレオチド」の有利な例は、SLC34A2−ROS1−F1、SLC34A2−int15−F1、SLC34A2−int15−F2、SLC34A2−ex16−F1、SLC34A2−ex23−F1、SLC34A2−ex24−F1、SLC34A2−F−orf2438及びSLC34A2−int15−F3.5からなる群から選択される1つのプライマーと、SLC34A2−ROS1−R1、ROS1−int11−R3、ROS1−int7−R1、ROS1−int11−R0.5、ROS1−int11−R1、ROS1−int7−R2及びROS1−R−orf2364からなる群から選択される1つのプライマーとからなるプライマーセットである。より好ましくは、SLC34A2−ROS1−F1とSLC34A2−ROS1−R1、SLC34A2−int15−F1とSLC34A2−ROS1−R1、SLC34A2−int15−F2とROS1−int11−R3、SLC34A2−ex16−F1とSLC34A2−ROS1−R1、SLC34A2−ex23−F1とSLC34A2−ROS1−R1、またはSLC34A2−ex24−F1プライマーとROS1−int7−R1プライマーである。
【0185】
いくつかの実施形態において、本発明は、SLC34A2−ROS1融合体を特定、評価または検出する方法;癌、例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体を有する癌に罹患している対象を特定、評価、検査、及び/または治療する方法;単離されたSLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1の核酸分子、核酸構築物、核酸分子を含有する宿主細胞;精製されたSLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1のポリペプチド及び結合物質;検出試薬(例えば、プローブ、プライマー、抗体、キット、例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1核酸またはタンパク質の特異的検出が可能なもの);例えば、5’SLC34A2−3’ROS1、5’CD74−3’ROS1または5’FIG−3’ROS1融合を阻害する、例えば、新規キナーゼ阻害薬と相互作用する分子を特定するためのスクリーニングアッセイ;並びに癌、例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体の1つまたは複数を有する癌に罹患している対象を検査、特定、評価及び/または治療するためのアッセイ及びキットを提供する。本明細書にて特定する組成物及び方法は、例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1の新規阻害薬を特定すること、対象、例えば、癌に罹患している患者を検査、特定または選択すること、及び癌の治療または予防することに使用できる。
【0186】
SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1及びFIG−ROS1核酸分子。一態様では、本発明は、SLC34A2またはCD74またはFIG遺伝子の断片及びROS1癌原遺伝子の断片を含む、核酸分子(例えば、単離されたまたは精製された核酸分子)を特徴とする。一実施形態において、核酸分子は、融合体、例えば、SLC34A2、CD74またはFIGの少なくとも1つのエクソンとROS1のエクソン(例えば、ROS1チロシンキナーゼドメインまたはその断片をコードする1つまたは複数のエクソン)のインフレーム融合体を含む。
【0187】
例示的実施形態において、5’SLC34A2−3’ROS1核酸分子は、コードされた5’SLC34A2−3’ROS1融合体が構成的キナーゼ活性を有するように、例えば、本明細書にて言及される癌の細胞中で、例えば、野生型ROS1と比較して、活性、例えば、キナーゼ活性が増大するように、十分なSLC34A2及び十分なROS1配列を含む。一実施形態において、コードされた5’SLC34A2−3’ROS1融合体は、SLC34A2由来の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、9、10または11個のエクソンと、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、9,10、11、12または13個のROS1エクソンとを含む。一実施形態において、コードされた5’SLC34A2−3’ROS1融合ポリペプチドは、ヘリカルドメインまたはその機能性断片と、ROS1チロシンキナーゼドメインまたはその機能性断片とを含む。
【0188】
例示的実施形態において、5’CD74−3’ROS1核酸分子は、コードされた5’CD74−3’ROS1融合体が構成的キナーゼ活性を有するように、例えば、本明細書にて言及される癌の細胞中で、例えば、野生型ROS1と比較して、活性、例えば、キナーゼ活性が増大するように、十分なCD74及び十分なROS1配列を含む。一実施形態において、コードされた5’CD74−3’ROS1融合体は、CD74由来の少なくとも1、2、3、4、5、6個のエクソンと、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、9,10、11、12または13個のROS1エクソンとを含む。一実施形態において、コードされた5’CD74−3’ROS1融合ポリペプチドは、II型膜タンパク質ドメインのヘリカルシグナルアンカーまたはその機能性断片と、ROS1チロシンキナーゼドメインまたはその機能性断片とを含む。
【0189】
例示的実施形態において、5’FIG−3’ROS1核酸分子は、コードされた5’FIG−3’ROS1融合体が構成的キナーゼ活性を有するように、例えば、本明細書にて言及される癌の細胞中で、例えば、野生型ROS1と比較して、活性、例えば、キナーゼ活性が増大するように、十分なFIG及び十分なROS1配列を含む。一実施形態において、コードされた5’FIG−3’ROS1融合体は、FIG由来の少なくとも1、2、3、4、5、6、7または8個のエクソンと、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、9,10、11、12または13個のROS1エクソンとを含む。一実施形態において、コードされた5’FIG−3’ROS1融合ポリペプチドは、コイルドコイルドメインまたはその機能性断片と、ROS1チロシンキナーゼドメインまたはその機能性断片とを含む。
【0190】
一実施形態において、SLC34A2−ROS1融合核酸分子は、SLC34A2のエクソン2及び/または4とROS1のエクソン32及び/または34及び/または35とのインフレーム融合体を有するヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、切断点を含むヌクレオチド配列を含む。例えば、SLC34A2−ROS1融合体は、SLC34A2の少なくともエクソン4またはその断片(例えば、SLC34A2のエクソン1〜4またはその断片)とROS1の少なくともエクソン32及び/若しくは34またはその断片(例えば、ROS1のエクソン30〜43またはその断片)とのインフレーム融合体を含み得る。ある特定の実施形態において、SLC34A2−ROS1融合体は、5’−SLC34A2〜3’−ROS1の構造内にある。一実施形態において、核酸分子は、SLC34A2遺伝子のエクソン1〜4またはその断片のヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、ROS1遺伝子のエクソン30〜43、例えば、32及び/若しくは34及び/若しくは35若しくはその断片のヌクレオチド配列、またはそれに実質的に同一の配列を含む。
【0191】
一実施形態において、CD74−ROS1融合核酸分子は、CD74のエクソン1〜6とROS1のエクソン32及び/または34とのインフレーム融合体を有するヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、切断点を含むヌクレオチド配列を含む。例えば、CD74−ROS1融合体は、CD74の少なくともエクソン6またはその断片(例えば、CD74のエクソン1〜6またはその断片)とROS1の少なくともエクソン32及び/若しくは34及び/または35またはその断片(例えば、ROS1のエクソン30〜43またはその断片)とのインフレーム融合体を含み得る。ある特定の実施形態において、CD74−ROS1融合体は、5’−CD74〜3’−ROS1の構造内にある。一実施形態において、核酸分子は、CD74遺伝子のエクソン1〜6またはその断片のヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、ROS1遺伝子のエクソン30〜43、例えば、32及び/若しくは34及び/若しくは35若しくはその断片のヌクレオチド配列、またはそれに実質的に同一の配列を含む。
【0192】
一実施形態において、FIG−ROS1融合核酸分子は、FIGのエクソン1〜8、例えば、1〜4または1〜8とROS1のエクソン32及び/または34及び/または35とのインフレーム融合体を有するヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、切断点を含むヌクレオチド配列を含む。例えば、FIG−ROS1融合体は、FIGの少なくともエクソン4及び/若しくはエクソン8またはその断片(例えば、FIGのエクソン1〜4若しくは1〜8またはその断片)とROS1の少なくともエクソン32及び/若しくは34及び/若しくは35またはその断片(例えば、ROS1のエクソン30〜43またはその断片)とのインフレーム融合体を含み得る。ある特定の実施形態において、FIG−ROS1融合体は、5’−CD74〜3’−ROS1の構造内にある。一実施形態において、核酸分子は、CD74遺伝子のエクソン1〜6またはその断片のヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、核酸分子は、ROS1遺伝子のエクソン30〜43、例えば、32及び/若しくは34及び/若しくは35若しくはその断片のヌクレオチド配列、またはそれに実質的に同一の配列を含む。
【0193】
他の実施形態において、SLC34A2−ROS1融合核酸分子は、SLC34A2遺伝子の断片及びROS1癌原遺伝子の断片を含む、SLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、ヘリカルドメインまたはその機能性断片及びROS1チロシンキナーゼドメインまたはその機能性断片を含むSLC34A2−ROS1融合ポリペプチドをコードする。
【0194】
別の実施形態において、CD74−ROS1融合核酸分子は、ROS1転写物とCD74転写物との間の融合連結体を含むCD74−ROS1融合体を含む。別の実施形態において、核酸分子は、融合体、例えば、ROS1の少なくともエクソン32若しくは34若しくは35またはその断片(例えば、ROS1のエクソン30〜43またはその断片)と少なくともエクソン1またはその断片(例えば、CD74のエクソン1〜6またはその断片)とのインフレーム融合体を含む。ある特定の実施形態において、CD74−ROS1融合体は、5’−CD74〜3’−ROS1の構造内にある。一実施形態において、核酸分子は、ROS1遺伝子のエクソン30〜43、例えば、エクソン32、34若しくは35若しくはその断片に対応するヌクレオチド、またはそれに実質的に同一の配列を含む。
【0195】
別の実施形態において、FIG−ROS1融合核酸分子は、ROS1転写物とFIG転写物との間の融合連結体を含むFIG−ROS1融合体を含む。別の実施形態において、核酸分子は、融合体、例えば、ROS1の少なくともエクソン32若しくは34若しくは35またはその断片(例えば、ROS1のエクソン30〜43またはその断片)と少なくともエクソン4若しくは8またはその断片(例えば、FIGのエクソン1〜8またはその断片)とのインフレーム融合体を含む。ある特定の実施形態において、FIG−ROS1融合体は、5’−FIG〜3’−ROS1の構造内にある。一実施形態において、核酸分子は、ROS1遺伝子のエクソン30〜43、例えば、エクソン32、34若しくは35若しくはその断片に対応するヌクレオチド、またはそれに実質的に同一の配列を含む。
【0196】
関連する態様において、本発明は、本明細書に記載のSLC34A2−ROS1、CD74−ROS1及びFIG−ROS1融合核酸分子を含む核酸構築物を特徴とする。ある特定の実施形態において、核酸分子は、天然または異種制御配列に機能的に連結している。また、本明細書に記載のSLC34A2−ROS1核酸分子を含むベクター及び宿主細胞、例えば、本明細書に記載の核酸分子及びポリペプチドを生成するのに適したベクター及び宿主細胞も含まれる。
【0197】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載のSLC34A2−ROS1融合体をコードする核酸分子の発現を減少させるか、または阻害する核酸分子を特徴とする。このような核酸分子の例には、例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1及びFIG−ROS1をコードする核酸またはSLC34A2−ROS1、CD74−ROS1及びFIG−ROS1の転写制御領域にハイブリダイズし、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1のmRNA発現を阻害し、または減少させる、アンチセンス分子、リボザイム、RNAi、三重らせん分子が挙げられる。
【0198】
本発明はまた、本明細書に記載のROS1融合体の特定に有用であり、当該融合体を含むか、当該融合体に隣接するか、ハイブリダイズするか、または別様に当該融合体に基づく、プローブ、プライマー、ベイトまたはライブラリーメンバーに好適な核酸分子、例えば、核酸断片を特徴とする。ある特定の実施形態において、プローブ、プライマーまたはベイト分子は、本明細書に記載のROS1融合核酸分子の捕捉、検出または単離を可能にするオリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、本明細書に記載のROS1融合核酸分子の断片に実質的に相補的なヌクレオチド配列を含み得る。核酸断片(例えば、オリゴヌクレオチド)と標的ROS1融合体の配列間の配列同一性は、それらの配列が標的配列の捕捉、検出または単離を可能にするのに十分に相補的であれば、正確である必要はない。一実施形態において、核酸断片は、約5〜25、例えば、10〜20または10〜15ヌクレオチド長であるオリゴヌクレオチドを含むプローブまたはプライマーである。他の実施形態において、核酸断片は、約100〜300ヌクレオチド、130〜230ヌクレオチド、150〜200ヌクレオチド、200〜350、350〜950、300〜600、500〜1000、750〜2000、ヌクレオチド00ヌクレオチド長であるオリゴヌクレオチドを含むベイトであり、ROS1融合核酸を必ずしも含む必要はない。
【0199】
一実施形態において、核酸断片は、例えば、ハイブリダイゼーションにより、SLC34A2−ROS1融合体またはCD74−ROS1融合体またはFIG−ROS1融合体を特定または捕捉するために使用することができる。例示的な例において、核酸断片は、例えば、中〜高ストリンジェンシー条件下のハイブリダイゼーションにより、本明細書に記載のSLC34A2−ROS1融合体またはCD74−ROS1融合体またはFIG−ROS1融合体を特定または捕捉する際に使用するためのプローブ、プライマーであり得る。一実施形態において、核酸断片は、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1の切断点を特定または捕捉するために有用であり得る。1つの例示的実施形態において、核酸断片は、SLC34A2のエクソン4または13とROS1のエクソン32、34または35とのインフレーム融合体を生成する染色体再構成内のヌクレオチド配列(例えば、第6染色体上の転座内の配列)にハイブリダイズする。
【0200】
本明細書に記載のプローブまたはプライマーは、例えば、ROS1再構成及び結合パートナー特定のためのFISH検出若しくはPCR増幅またはRT−PCT確認に使用することができる。検出がPCRに基づく1つの例示的実施形態において、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合連結体の増幅は、例えば、本明細書に記載のSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合連結体、例えば、本明細書に記載の染色体再構成の変異体または連結体に隣接する配列を増幅するためのプライマーまたはプライマー対を用いて行うことができる。一実施形態において、一対の単離オリゴヌクレオチドプライマーは、SLC34A2−ROS1融合体の位置を含むか、またはその位置に隣接する領域を増幅することができる。例えば、SLC34A2、CD74またはFIGのゲノムまたはmRNA配列内のヌクレオチド配列をハイブリダイズするように、フォワードプライマーを設計することができる。種々の実施形態において、ROS1、SLC34A2及びFIG(ヒトを含む様々な種)のプライマーは、Qiagenから市販されている(カタログ番号:QF0018545、QF00449078及びQF00278992;Qiagen,Gaithersburg,MD,USA)。他の実施形態において、ROS1融合ポリヌクレオチドの存在の確認は、SLC34A2エクソン4及びCD74エクソン6のフォワードプライマーと、ROS1エクソン32及びエクソン34のリバースプライマーとがそれぞれ対になったものを含むPCRプライマーのパネルを用いて、患者の腫瘍サンプルにおいて実施することができる。腫瘍サンプルに由来するRNAは、Agencourt Formapure法(Agencourt Biosciences,Beverly,MA,USA)を使用してFFPE組織から抽出し、Invitrogen(Carlsbad,CA,USA)から市販されているSuperscript III cDNA合成キットを用いて逆転写することができる。SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1の切断点を決定するために、次のプライマー:SLC34A2エクソン4のフォワード、TCGGATTTCTCTACTTTTTCGTG(配列番号3);CD74エクソン6のフォワード、CTCCTGTTTGAAATGAGCAGG(配列番号4);ROS1エクソン32のリバース、GGAATGCCTGGTTTATTTGG(配列番号5);及びROS1エクソン34のリバース、TGAAACTTGTTTCTGGTATCCAA(配列番号6)を用いることができる。PCR増幅は、任意のPCRサーマルサイクラー、例えば、Eppendorf Mastercycler Gradient(Eppendorf,Hamburg,Germany)上で、40ngのcDNAとともにPlatinum Taqポリメラーゼ(Invitrogen)を標準条件下で用いて実施することができる。cDNAは、BigDye3.0キット(Life Technologies,Carlsbad,CA)を用いて配列決定した。
【0201】
核酸断片は、例えば、放射標識、蛍光標識、生物発光標識、化学発光標識、酵素標識、結合対標識を用いて検出可能に標識してもよいし、親和性タグ、タグまたは識別子(例えば、アダプター、バーコードまたは他の配列識別子)を含めることができる。
【0202】
別の例示的実施形態において、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体の存在を決定する方法は、対象由来のサンプル中にSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合核酸分子またはポリペプチドが存在するという情報を直接得ることを含む。サンプルは、体液、細胞、組織、例えば、腫瘍組織からなるサンプルであってよく、核酸サンプル、タンパク質サンプル、腫瘍生検または循環腫瘍細胞若しくは核酸を挙げることができ、肺癌(NSCLC、SCLC、SCCまたはその組み合わせ)及び腺癌または黒色腫から選択され得る。
【0203】
核酸分子内のSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体を検出する方法は、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、増幅系アッセイ、PCR−RFLPアッセイ、リアルタイムPCR、シークエンシング、スクリーニング解析、FISH、スペクトル核型分析またはMFISH、比較ゲノムハイブリダイゼーション)、in situハイブリダイゼーション、SSP、HPLCまたは質量分析遺伝子型解析のいずれかの使用による。
【0204】
タンパク質サンプルをSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに特異的に結合する試薬に接触させることと、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドと試薬との複合体の形成を検出することとを含む、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドまたはタンパク質を検出する方法が記載される。ポリペプチド検出法は、結合した試薬と結合していない試薬の検出を容易にする、検出可能な基で標識した試薬を用いることを含み、この試薬は抗体分子であり、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体のレベルまたは活性を評価し、対象において治療を開始する前、治療中または治療後にSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体を検出し、癌の診断時にSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体を検出し、所定の間隔、例えば、第1の時点及び少なくともそれ以後の時点でSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体を検出する。
【0205】
治療への応答もまた含まれ、具体的には、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合体の存在の決定に応じて、(1)患者集団を層化すること、(2)治療に応答する可能性が高い対象若しくは低い対象を特定若しくは選択すること、(3)治療選択肢を選択すること、及び/または(4)対象の疾患経過を予測することの1つまたは複数が用いられる。
【0206】
SLC34A2−ROS1若しくはCD74−ROS1若しくはFIG−ROS1融合体またはそれらの切断点を含む断片をコードする、単離されたまたは精製された核酸分子は、NSCLC及び肺腺癌ROS1融合遺伝子陽性癌の確認手段並びに本発明の化合物を用いた直接特異的治療に用いることができる。ROS1融合遺伝子陽性癌、例えば、ROS1再構成NSCLCの直接特異的治療には、他の構築物を用いることができ、これには、天然または異種制御配列に機能的に連結した、単離されたまたは精製されたSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合核酸分子が挙げられる。SLC34A2−ROS1若しくはCD74−ROS1若しくはFIG−ROS1融合体またはそれらの切断点を含む断片をコードする核酸分子を含む、単離されたまたは精製されたベクター。ベクターを含む宿主細胞。アンチセンス分子、リボザイム、siRNAまたは三重らせん分子から選択することができる、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合をコードする核酸分子の発現を特異的に減少させる、または阻害する核酸分子。単離されたまたは精製されたSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドまたはそれらの切断点を含む断片。ROS1キナーゼ活性及び/または二量体化若しくは多量体化作用を有する、単離されたまたは精製されたSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチド。SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに特異的に結合する、単離されたまたは精製された抗体分子。SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに対する単一特異性抗体分子である、抗体分子。
【0207】
本発明におけるSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドの翻訳産物を検出するための方法の例は、免疫染色、ウェスタンブロット、ELISA、フローサイトメトリー、免疫沈降及び抗体アレイ解析である。これらの方法において、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに結合する抗体が用いられる。このような抗体の例は、SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質とROS1タンパク質との融合部位を含有するポリペプチドに特異的な抗体(以下「融合部位特異的抗体」ともいう)、ROS1タンパク質の上述の融合部位からC末端側の領域からなるポリペプチドに結合する抗体(以下「ROS1−C末端抗体」ともいう)、及びSLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質の上述の融合部位からN末端側の領域からなるポリペプチドに結合する抗体(以下「SLC34A2またはCD74またはFIG−N末端抗体」ともいう)である。ここで、「融合部位特異的抗体」とは、上述の融合部位を含有するポリペプチドに特異的に結合するが、野生型(正常型)SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質にも、野生型(正常型)ROS1タンパク質にも結合しない抗体を意味する。
【0208】
SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドは、上述の融合部位特異的抗体または上述のROS1−C末端抗体とSLC34A2若しくはCD74若しくはFIG−N末端抗体との組み合わせによって検出することができる。しかしながら、ROS1タンパク質の発現は、例えば、正常肺細胞ではほとんど検出されないため、免疫染色にてROS1−C末端抗体を単独で使用した場合でも、肺腺癌組織におけるSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドの存在を検出することができる。
【0209】
種々の実施形態において、本発明に係るROS1融合ポリペプチドの特定のための免疫組織化学的染色(IHC)及びウェスタンブロットの適用は、Cell Signaling Technology(Danvers,MA,USA)から市販されている、phospho−ROS1、ROS1抗体を用いて実施することができる。一実施形態において、ROS1融合遺伝子陽性癌細胞、例えば、NSCLC ROS1再構成性肺癌細胞の特定は、ウサギ抗ROS1モノクローナル抗体D4D6、カタログ番号3287(Cell Signaling Technology,Danvers,MA,USA)を用いて行うことができる。
【0210】
いくつかの実施形態において、「SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに結合する抗体」は、当業者であれば、適切な既知の方法を選択することによって、作製することができる。このような既知の方法の例は、ROS1タンパク質であるSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドのC末端部分からなる前述のポリペプチド、SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質などのN末端部分からなる前述のポリペプチドなどを免疫動物に接種することによって、動物の免疫系を活性化した後、その動物の血清を回収する方法(ポリクローナル抗体)、並びにハイブリドーマ法、組み換えDNA法及びファージディスプレイ法などのモノクローナル抗体を作製するための方法である。標識物質を結合させた抗体を使用する場合、その標識を検出することによって、標的タンパク質を直接検出することができる。標識物質は、抗体に結合させることができ、検出することができれば、特に制限されない。例としては、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン及び放射性物質が挙げられる。更に、標識物質を結合させた抗体を用いて標的タンパク質を直接検出する方法に加えて、標識物質に結合するタンパク質G、タンパク質Aまたは二次抗体を用いて標的タンパク質を間接的に検出する方法も用いることができる。
【0211】
上述の方法によって、対象から分離した標本中にSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの存在が検出された場合、式I、Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩などのROS1チロシンキナーゼ阻害薬による癌治療の有効性は、その患者において高いと判断され、一方、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドの存在が検出されない場合、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬による癌治療の有効性は、その患者において低いと判断される。
【0212】
上述のように、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドの有無の検出には、少なくとも15塩基の鎖長を有する、以下の(a)〜(c)に記載するポリヌクレオチドのいずれかを有利に用いることができる。
(a)SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブ及びROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも1つのプローブであるポリヌクレオチド;
(b)SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位にハイブリダイズするプローブであるポリヌクレオチド;
(c)SLC34A2またはCD74またはFIGタンパク質をコードするポリヌクレオチドとROS1タンパク質をコードするポリヌクレオチドの融合部位を挟み込むように設計された一対のプライマーであるポリヌクレオチド。
【0213】
これらのポリヌクレオチドは、標的遺伝子の特定の塩基配列に相補的な塩基配列を有する。ここで、「相補的」とは、例えば、中〜高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするのであれば、完全に相補的でないことを意味し得る。例えば、これらのポリペプチドは、特定の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する。
【0214】
(a)〜(c)のポリヌクレオチドにおいて、DNAまたはRNAの一部または全ては、ヌクレオチドがPNA(ポリアミド核酸、ペプチド核酸)、LNA(商標、ロックド核酸、架橋型核酸)、ENA(商標、2’−O、4’−C−エチレン−架橋型核酸)、GNA(グリセロール核酸)及びTNA(トレオース核酸)などの人工核酸で置換されてもよい。
【0215】
更に、上述した通り、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドに結合する抗体は、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドの翻訳産物の検出に有利に使用される。したがって、本発明は、この抗体を含む、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬による癌治療の有効性を決定するための薬物を提供する。
【0216】
本発明の融合遺伝子の検出方法は、試験対象から得たサンプルにおいて、本明細書に係るポリヌクレオチドの存在を検出するステップを含む。試験対象から得たサンプルとして、試験対象から採取した物質(生体から分離したサンプル)、特に、採取された任意の種類の体液(好ましくは血液)、肺胞及び気管支洗浄物、生検を経たサンプル並びに痰サンプルが用いられる。好ましくは、試験対象の肺内の罹患部分に由来する生検サンプルまたは痰サンプルが用いられる。このサンプルからゲノムDNAを抽出し、使用することができる。加えて、その転写物(ゲノムの転写及び翻訳の結果として生成される産物、例えば、mRNA、cDNA及びタンパク質)を使用することができる。特に、mRNAまたはcDNAを作製し、使用するのが好ましい。
【0217】
ゲノムDNAは、既知の方法で抽出することができ、この抽出は、市販のDNA抽出キットを使用して容易に行うことができる。
【0218】
検出ステップは、周知の遺伝子解析法(例えば、PCR、LCR(リガーゼ連鎖反応)、SDA(ストランド置換増幅)、NASBA(核酸配列に基づく増幅)、ICAN(等温キメラプライマー開始核酸増幅)、LAMP(ループ介在等温増幅)法、TMA(Gen−ProbeのTMAシステム)法、in situハイブリダイゼーション法及びマイクロアレイなどの遺伝子検出方法として一般に使用されている周知の方法)に従って実施することができる。例えば、検出対象のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸をプローブとして用いるハイブリダイゼーション技術、検出対象のポリヌクレオチドにハイブリダイズするDNAをプライマーとして用いる遺伝子増幅技術などが使用される。
【0219】
具体的には、試験対象から得たサンプルに由来する核酸、例えば、mRNAなどを用いて検出を行う。mRNAの量は、検出対象のポリヌクレオチド配列を特異的に増幅することができるように設計されたプライマーを用いる遺伝子増幅反応の方法によって測定される。本発明の検出方法にて用いるプライマーまたは検出キットに含まれるプライマーは、検出対象のポリヌクレオチド配列を特異的に増幅することができ、検出対象のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計されるプライマーであれば、特に制限されない。PCR増幅モニター法に使用するプライマーは、プライマー設計ソフトウェア(例えば、PE Biosystems製のPrimer Express)などを用いて設計することができる。加えて、PCR産物のサイズが大きくなると増幅効率が悪くなるので、センスプライマー及びアンチセンスプライマーは、mRNAまたはcDNAが増幅したときに得られる増幅産物の大きさが1kb以下になるように設計するのが適切である。
【0220】
より具体的には、センスプライマー(5’プライマー)はSLC34A2をコードする部分から設計され、アンチセンスプライマー(3’プライマー)はROS1をコードする部分から設計される。本発明の検出キットに含まれるプライマーを用いることが好ましく、検出キットに最も好適に含まれるプライマーを用いることがより好ましい。PCR増幅モニター法において、単一の反応液で全ての融合ポリヌクレオチドを検出するために、それぞれの遺伝子に対応する上述のセンスプライマーを混合することによって、マルチプレックスPCRを設計することも可能である。それぞれの増幅技術に適した方法により、標的遺伝子(全遺伝子またはその特定の部分)が増幅されたかどうかを確認することができる。例えば、PCR法において、PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、臭化エチジウム染色にかけることなどによって、標的サイズを有する増幅断片が得られたかどうかを確認することができる。標的サイズを有する増幅断片が得られた場合、これは、試験対象から得たサンプル中に検出対象のポリヌクレオチドが存在することを示す。検出対象のポリヌクレオチドの存在は、このようにして検出することができる。
【0221】
本発明の融合遺伝子の検出方法は、好ましくは、試験対象から得たサンプル中における特定のポリヌクレオチドの存在を遺伝子増幅反応によって検出するステップと、標的サイズを有する増幅断片が得られたかどうかを検出するステップとを含む。
【0222】
ハイブリダイゼーション技術を用いる検出は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法及びRNAプロテクション法を用いて実施される。ハイブリダイゼーションに使用するプローブとして、中〜高ストリンジェンシー条件下(好ましくは高ストリンジェンシー条件下)で、検出対象のポリヌクレオチド若しくはその相補鎖にハイブリダイズする少なくとも32の連続する塩基からなる核酸分子の中心として、融合点の上流及び下流それぞれ16塩基からなる配列を含むか、またはその相補鎖を含む、プローブを用いることができる。
【0223】
RT−PCRなどの遺伝子増幅技術を用いることも可能である。RT−PCR法において、PCR増幅モニター(リアルタイムPCR)法を遺伝子増幅プロセス中に行うことによって、検出対象のポリヌクレオチドの存在をより定量的に分析することができる。PCR増幅モニター法を使用することができる。リアルタイムPCRは、周知の方法であり、この方法のための市販の機器及びキットを使用して、簡便に行うことができる。
【0224】
本発明の実施形態のいくつかに係る融合タンパク質の検出方法は、試験対象から得たサンプル中の特定のポリペプチド、すなわち、検出対象のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(以下「検出対象のポリペプチド」という)の存在を検出するステップを含む。このような検出ステップは、試験対象から得たサンプル(例えば、試験対象から得た癌組織または癌細胞)に由来する可溶化液を調製し、この液体中に含まれる検出対象のポリペプチドを抗SLC34A2または抗CD74または抗FIG抗体及び抗ROS1抗体と混合することによって行われる、イムノアッセイ法または酵素活性アッセイ法によって実施することができる。好ましくは、検出対象のポリペプチドに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いる技術、例えば、酵素免疫アッセイ法、二重抗体サンドイッチELISA、蛍光免疫アッセイ法、ラジオイムノアッセイ法及びウェスタンブロット法を使用することができる。
【0225】
本発明の検出方法において、検出対象のポリヌクレオチドまたは検出対象のポリペプチドが試験対象から得たサンプルから検出された場合、試験対象はポリヌクレオチド陽性を有する癌に罹患した対象(患者)であり、ROS1阻害薬を用いた治療が提供される。
【0226】
本発明の検出キットは、本発明の検出方法において、検出対象のポリヌクレオチドを特異的に増幅することができるように設計された少なくともセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む。センスプライマー及びアンチセンスプライマーセットは、検出対象のポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして機能するポリヌクレオチドのセットである。
【0227】
一実施形態において、融合遺伝子の検出のための本発明のプライマーセットは、(1)SLC34A2またはCD74またはFIGをコードする部分から設計されたセンスプライマーと、ROS1をコードする部分から設計されたアンチセンスプライマーとを含む、SLC34A2またはCD74またはFIGとROS1遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットを含み、アンチセンスプライマーは、中〜高ストリンジェンシー条件下(好ましくは高ストリンジェンシー条件下)で「検出対象のポリヌクレオチド」にハイブリダイズする核酸分子(好ましくは少なくとも16塩基からなる核酸分子)からなり、センスプライマーは、ストリンジェントな条件下(好ましくは高ストリンジェンシー条件下)で「検出対象のポリヌクレオチド」の相補鎖にハイブリダイズする核酸分子(好ましくは少なくとも16塩基からなる核酸分子)からなる。
【0228】
プライマーセット(1)のより具体的変形であるプライマーセットには、以下のプライマーセット(2)及びプライマーセット(3)が含まれる。
【0229】
(2)任意の連続する少なくとも16塩基からなるオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマーのプライマーセット。
【0230】
(3)任意の連続する少なくとも16塩基からなるオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマーのプライマーセット。
【0231】
これらのプライマーセット(1)〜(3)において、センスプライマー及びアンチセンスプライマーを選択する位置の間隔は、好ましくは1kb以下であるか、センスプライマー及びアンチセンスプライマーによって増幅される増幅産物のサイズは、好ましくは1kb以下である。
【0232】
加えて、プライマーは、通常、15〜40塩基からなる鎖長、好ましくは16〜24塩基からなる鎖長、より好ましくは18〜24塩基からなる鎖長、特に好ましくは20〜24塩基からなる鎖長を有する。
【0233】
プライマーセットは、検出対象のポリヌクレオチドを増幅及び検出するために使用することができる。更に、特に限定されないが、本発明のプライマーセットに含まれる各プライマーは、例えば、化学合成によって作製することができる。
【0234】
ROS1融合ポリヌクレオチドを検出するために使用することができる代表的なROS1、SLC34A2またはCD74プライマーを表2に記載する。
【表2】
【0235】
抗癌剤をスクリーニングする方法は、融合タンパク質を発現する細胞にサンプル化合物を接触させることと、その細胞中の融合タンパク質発現レベルを測定することとを含み、サンプル化合物で処置した細胞中の融合タンパク質発現レベルが、サンプル化合物で処置する前の発現レベルまたは非処置細胞中の発現レベルと比較して減少している場合、このサンプル化合物は抗癌剤の候補化合物であると判定される。
【0236】
抗癌剤をスクリーニングする方法は、サンプル化合物の処置前の細胞中の融合タンパク質発現レベルを測定するステップを更に含み得る。この場合、サンプル化合物は、サンプル化合物の処置後の融合タンパク質発現レベルが同じ細胞中のサンプル化合物による処置前の発現レベルと比較して減少している場合、抗癌剤の候補化合物であると判定され得る。あるいは、抗癌剤をスクリーニングする方法は、融合タンパク質を発現する細胞を供給することと、供給された細胞の一部にサンプル化合物を接触させることとを含み得る。この場合、サンプル化合物は、サンプル化合物と接触させた細胞中の融合タンパク質発現レベルがサンプル化合物に接触させていない細胞中の発現レベルと比較して減少している場合、抗癌剤の候補化合物であると判定され得る。
【0237】
スクリーニング方法に使用する細胞は、融合遺伝子または融合タンパク質が発現及び/または活性化している癌細胞に由来する細胞、細胞の抽出物または細胞の培養物であってよい。癌細胞は、上述した通り、固形癌細胞、特に肺癌、例えば、肺腺癌などの非小細胞肺癌であってよい。
【0238】
更に別の実施形態は、肺癌に対する抗癌剤をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、融合タンパク質を発現する細胞をサンプル化合物で処理することと、その細胞中の融合タンパク質発現レベルを測定することとを含み、サンプル化合物で処置した細胞中の融合タンパク質発現レベルが、サンプル化合物で処置する前の発現レベルまたは非処置細胞中の発現レベルと比較して減少している場合、このサンプル化合物は肺癌に対する抗癌剤の候補化合物であると判定される。
【0239】
ROS1融合タンパク質(すなわち、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1及びFIG−ROS1)は、肺癌の診断または肺癌の治療若しくは予防若しくは治療のためのマーカーとして使用することができる。肺癌の治療または予防は、治療上有効な量の融合タンパク質に対する少なくとも1つの阻害薬、当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬またはそれらの組み合わせを、必要とする患者に投与するステップを含む。阻害薬は、式I、Ia若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩であり得る。
【0240】
別の実施形態は、癌を予防及び/または治療する方法を提供し、この方法は、薬学上(治療上)有効な量の融合タンパク質に対する少なくとも1つの阻害薬、当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬またはそれらの組み合わせを、必要とする患者に投与するステップを含み、これらのいずれかは、式1の化合物及び本明細書にて開示した他の特定の化合物であってよい。方法は、このような治療を施すステップに先立って、癌の予防及び/または治療を必要とする患者を特定するステップを更に含み得る。別の実施形態は、癌を予防及び/または治療するための組成物を提供し、融合タンパク質に対する少なくとも1つの阻害薬(式1を含む)を単独でまたは当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する少なくとも1つの阻害薬若しくはそれらの組み合わせとともに投与することを含む。別の実施形態は、癌を予防及び/または治療するために、融合タンパク質に対する阻害薬、当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子に対する阻害薬、ROS1をコードする遺伝子に対する阻害薬またはそれらの組み合わせの使用を提供する。阻害薬は、式I、Ia若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩であり得る。
【0241】
本発明において、癌は、肺癌、特に、小細胞肺癌(SCLC)または非小細胞肺癌(NSCLC)、例えば、肺腺癌、扁平上皮細胞肺癌または大細胞肺癌であり得る。
【0242】
ROS1融合タンパク質に対する阻害薬が、融合タンパク質に特異的に結合するアプタマー、融合タンパク質に特異的に結合する抗体からなる群から少なくとも1つ選択され、融合遺伝子またはROS1をコードする遺伝子に対する阻害薬が、融合遺伝子またはROS1をコードする遺伝子に特異的に結合することができる、siRNA、shRNA、miRNA及びアプタマーからなる群から少なくとも1つ選択される、組成物。
【0243】
ROS1及び/またはROS1キナーゼ活性(例えば、転写、翻訳または安定性)の発現を阻害する任意のROS1キナーゼ阻害薬は、単独で使用してもよいし、式I、Iaの化合物若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩と組み合わせて使用してもよい。
【0244】
阻害薬は、ROS1に特異的であってもよいし、特異的でなくてもよい(例えば、非特異的キナーゼ阻害薬、複数標的阻害薬)。いくつかのROS1キナーゼ阻害薬が開発されており、これらの臨床応用は、調査段階である。ROS1キナーゼ活性の下流に、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)及び細胞外シグナルキナーゼ1/2(ERK)などのキナーゼ(Wixted JHら、J Biol Chem 2011)並びにSTAT3(Hwang JHら、Mol Endocrinol 2003;17:1155−1166)がある。こうした下流シグナル伝達経路を阻害する薬物も同様に、ROS1キナーゼ阻害薬の代替物として、または補助剤として、単独でまたは式1の化合物と組み合わせて用いることができる。
【0245】
一様式では、SLC34A2−ROS1若しくはCD74−FIG転座またはFIG−ROS1欠失を有すると判断された対象はまた、転座部位以外の部位にROS1変異を有すると判断される。ROS1変異の一例は、構成的キナーゼ活性を可能にする活性化変異である。ROS1活性化変異は、野生型変異と比較して、活性の増加を引き起こす無作為の変異である。例えば、ROS1活性化変異は、恒常的なROS1活性化をもたらし得る。更に、ROS1阻害薬の使用に関連または起因する二次的なROS1活性化変異バリアントが存在し得る。ROS1シグナル活性の増加を引き起こす変異は、例えば、キナーゼドメインの点変異、欠失、挿入、重複若しくは逆位またはこれらの2つ以上の組み合わせにより生じ、ROS1シグナルの増加を誘発する。本明細書に記載のROS1融合転座または欠失とROS1変異の両方を有すると判断された対象については、ROS1キナーゼ阻害薬による治療を行う決定もなされ得る。加えて、この決定に基づいて、治療/療法が実施され得る。
【0246】
上述の通り、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬による癌治療の有効性は、本発明の方法によってSLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチドが検出された患者において高いと考えられる。このため、SLC34A2−ROS1またはCD74−ROS1またはFIG−ROS1融合遺伝子及びROS1遺伝子を有する癌患者にROS1チロシンキナーゼ阻害薬を選択的に投与することによって、癌治療を効果的に行うことができる。したがって、本発明は、癌を治療するための方法を提供し、この方法は、式I、Ia若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩であるROS1チロシンキナーゼ阻害薬を、当該ROS1チロシンキナーゼ阻害薬による癌治療の有効性が、本明細書に記載する上述の診断方法によって高いと判定された患者に投与するステップを含む。
【0247】
本発明において、「標本」は、生物学的標本(例えば、細胞、組織、器官、体液(血液、リンパ液など)、消化液、喀痰、肺胞/気管支洗浄物、尿、便)だけでなく、これらの生物学的標本から得た核酸抽出物(ゲノムDNA抽出物、mRNA抽出物またはmRNA抽出物から作製したcDNA作製物若しくはcRNA作製物)またはタンパク質抽出物も含む。この標本はまた、ホルマリン固定処理、アルコール固定処理、凍結処理またはパラフィン包理処理を行ったものであってよい。
【0248】
更に、ゲノムDNA、mRNA、cDNAまたはタンパク質は、当業者であれば、標本の種類、状態などを考慮して、好適な周知の技術を選択した後、作製することができる。
【0249】
活性成分である上述の物質(ポリヌクレオチド、抗体)に加えて、本発明の薬物は、他の薬学的に許容可能な成分を含み得る。こうした成分の例には、緩衝剤、乳化剤、懸濁化剤、安定剤、保存剤、生理食塩水などが挙げられる。緩衝剤としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩などを用いることができる。乳化剤としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガカントなどを用いることができる。懸濁化剤としては、モノステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウムなどを用いることができる。安定剤としては、プロピレングリコール、亜硫酸ジエチル、アスコルビン酸などを用いることができる。保存剤としては、アジ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノールなどを用いることができる。
【0250】
更に、ポリヌクレオチド及び抗体を含む調製物に加えて、基質、陽性対照(例えば、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1若しくはFIG−ROS1融合ポリヌクレオチド、SLC34A2−ROS1、CD74−ROS1またはFIG−ROS1融合ポリペプチドまたはこれらを有する細胞など)と当該ポリヌクレオチド及び抗体に付けた標識を検出するために必要な陰性対照、in situハイブリダイゼーションなどに使用する対比染色試薬(DAPIなど)、抗体(例えば、二次抗体、タンパク質G、タンパク質A)を検出する際に必要な分子、並びに抗体の希釈または洗浄に使用する緩衝液などの調製物を、本発明の方法に使用するためのキットとして組み合わせることができる。このキットには、キットの使用説明書を含めてよい。本発明はまた、本発明の方法にて使用するための前述のキットを提供する。
【0251】
本発明に記載の検出方法は、融合パートナーのN末端ドメインとキナーゼドメインをコードするROS1タンパク質のC末端ドメインとから実質的になる融合タンパク質を検出するときに、特に有用である。融合タンパク質は、SLC34A2タンパク質またはその断片のN末端ドメインとキナーゼドメインをコードするROS1タンパク質のC末端ドメインとから実質的になるSLC34A2−ROS1融合タンパク質であり得る。融合タンパク質は、CD74タンパク質またはその断片のN末端ドメインとキナーゼドメインをコードするROS1タンパク質のC末端ドメインとから実質的になるCD74−ROS1融合タンパク質であり得る。融合タンパク質は、FIGタンパク質またはその断片のN末端ドメインとキナーゼドメインをコードするROS1タンパク質のC末端ドメインとから実質的になるFIG−ROS1融合タンパク質であり得る。方法は、肺癌、特に非小細胞肺癌を診断するために用いることができ、第6染色体におけるROS1関連染色体再構成(逆位、転座または欠失を含む)、タンパク質が他のタンパク質と融合している融合タンパク質、融合タンパク質をコードしている融合遺伝子及び癌に罹患していない個体からの標準サンプルと比較したROS1の過剰発現のうちの少なくとも1つを検出することを含む。上記群から選択される上述の染色体再構成のうちの1つが試験サンプル中に検出される場合、式I、Ia若しくは化合物1またはそれらの薬学的に許容可能な塩などのROS1阻害薬の治療のための個体。
【0252】
化合物1の調製
N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミド及びその(L)−リンゴ酸塩の調製
【0253】
N−(4−[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミド及びその(L)−リンゴ酸塩の調製のために使用する合成経路をスキーム1に示す。
【化15】
【0254】
4−クロロ−6,7−ジメトキシ−キノリンの調製
6,7−ジメトキシ−キノリン−4−オール(10.0kg)及びアセトニトリル(64.0L)を順に反応器に投入した。得られた混合物を約65℃まで加熱し、オキシ塩化リン(POCl
3、50.0kg)を加えた。POCl
3の添加後、反応混合物の温度を約80℃まで上昇させた。出発材料の残余が2%未満になったとき(インプロセス高速液体クロマトグラフィー[HPLC]分析)、反応完了とみなした(約9.0時間)。反応混合物を約10℃まで冷却し、次いで、ジクロロメタン(DCM、238.0kg)、30%NH
4OH(135.0kg)及び氷(440.0kg)の冷却溶液に入れてクエンチした。得られた混合物を約14℃まで加温し、相分離した。有機相を水(40.0kg)で洗浄し、真空蒸留によって濃縮して溶媒(約190.0kg)を除去した。メチル−t−ブチルエーテル(MTBE、50.0kg)をバッチに加え、混合物を約10℃まで冷却した。その間に生成物が結晶化した。固体を遠心分離により回収し、nヘプタン(20.0kg)で洗浄し、約40℃で乾燥させて、表題化合物(8.0kg)を得た。
【0255】
6,7−ジメチル−4−(4−ニトロ−フェノキシ)−キノリンの調製
4−クロロ−6,7−ジメトキシ−キノリン(8.0kg)、4ニトロフェノール(7.0kg)、4ジメチルアミノピリジン(0.9kg)及び2,6ルチジン(40.0kg)を順に反応器に投入した。反応器の内容物を約147℃まで加熱した。反応が完了したら(インプロセスHPLC分析による測定で出発材料の残余が5%未満、約20時間)、反応器の内容物を約25℃まで冷却した。メタノール(26.0kg)を加え、続けて水(50.0kg)に溶解させた炭酸カリウム(3.0kg)を加えた。反応器の内容物を約2時間攪拌した。得られた固体沈殿物を濾過し、水(67.0kg)で洗浄し、25℃で約12時間乾燥させて、表題化合物(4.0kg)を得た。
【0256】
4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミンの調製
ギ酸カリウム(5.0kg)、ギ酸(3.0kg)及び水(16.0kg)を含有する溶液を、約60℃まで加熱したテトラヒドロフラン(THF、40.0kg)中の6,7−ジメトキシ−4−(4−ニトロ−フェノキシ)−キノリン(4.0kg)、10%パラジウム炭素(50%水湿潤、0.4kg)の混合物に加えた。添加は、反応混合物の温度が約60℃に留まるように実施した。インプロセスHPLC分析を用いた測定で、反応が完了したとみなされたら(出発材料の残余が2%未満、通常15時間)、反応器の内容物を濾過した。濾液を約35℃で真空蒸留して元の体積の半分まで濃縮すると、生成物が沈殿した。生成物を濾過により回収し、水(12.0kg)で洗浄し、約50℃で真空下にて乾燥させ、表題化合物(3.0kg;97%の曲線下面積(AUC))を得た。
【0257】
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸の調製
市販のシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸(2 1、10.0kg)のTHF(63.0kg)冷却溶液(約4℃)に、バッチ温度が10℃を超えないような速度で、トリエチルアミン(8.0kg)を加えた。この溶液を約30分間攪拌し、次いで、バッチ温度を10℃未満に維持しながら塩化チオニル(9.0kg)を加えた。添加が完了したら、バッチ温度が10℃を超えないような速度で、THF(25.0kg)中の4−フルオロアニリン(9.0kg)の溶液を加えた。混合物を約4時間攪拌し、次いで、酢酸イソプロピル(87.0kg)で希釈した。この溶液を、水酸化ナトリウム水溶液(水50.0L中に2.0kg溶解)、水(40.0L)及び塩化ナトリウム水溶液(水40.0L中に10.0kg溶解)で順に洗浄した。有機溶液を真空蒸留によって濃縮し、続いてヘプタンを添加すると、固体が沈殿した。固体を遠心分離により回収し、次いで、約35℃で真空下にて乾燥させて、表題化合物(10.0kg)を得た。
【0258】
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドの調製
THF(11kg)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF;0.02kg)の混合物中の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸(2.0kg)の溶液に、バッチ温度が30℃を超えないような速度で、塩化オキサリル(1.0kg)を加えた。この溶液を更なる処理を行わずに次の工程に使用した。
【0259】
N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミドの調製
THF(27.0kg)及び水(13.0kg)中の4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミン(3.0kg)及び炭酸カリウム(4.0kg)の混合物に、バッチ温度が30℃を超えないような速度で、先の工程の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドを含有する溶液を加えた。反応が完了したら(通常10分)、水(74.0kg)を加えた。混合物を15〜30℃で約10時間撹拌すると、生成物が沈殿した。生成物を濾過により回収し、予め作製したTHF(11.0kg)及び水(24.0kg)の溶液で洗浄し、約65℃で真空下にて約12時間乾燥させて、表題化合物(遊離塩基、5.0kg)を得た。
1H NMR(400MHz,d
6−DMSO):δ10.2(s,1H),10.05(s,1H),8.4(s,1H),7.8(m,2H),7.65(m,2H),7.5(s,1H),7.35(s,1H),7.25(m,2H),7.15(m,2H),6.4(s,1H),4.0(d,6H),1.5(s,4H).LC/MS:M+H=502.
【0260】
N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミド、(L)リンゴ酸塩の調製
エタノール中のシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド遊離塩基(1 5、5.0kg)の溶液に、約25℃のバッチ温度を維持しながら、水(2.0kg)中のL−リンゴ酸(2.0kg)の溶液を加えた。次いで、炭素(0.5kg)及びチオールシリカ(0.1kg)を加え、得られた混合物を約78℃まで加熱し、この時点で水(6.0kg)を加えた。次いで、反応混合物を濾過し、続いてイソプロパノール(38.0kg)を添加し、約25℃まで冷却した。生成物を濾過により回収し、イソプロパノール(20.0kg)で洗浄し、約65℃で乾燥させて、表題化合物(5.0kg)を得た。
【0261】
N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミド及びその(L)−リンゴ酸塩の代替調製
N−(4−{[6,7−ビス(メチルオキシ)キノリン−4−イル]オキシ}フェニル)−N’−(4−フルオロフェニル)シクロプロパン−1,1−ジカルボキサミド及びその(L)−リンゴ酸塩の調製に使用することができる、PCT/US2012/024591(内容全体を参照により援用する)に記載の代替合成経路をスキーム2に示す。
【化16】
【0262】
4−クロロ−6,7−ジメトキシ−キノリンの調製
6,7−ジメトキシ−キノリン−4−オール(47.0kg)及びアセトニトリル(318.8kg)を順に反応器に投入した。得られた混合物を約60℃まで加熱し、オキシ塩化リン(POCl
3、130.6kg)を加えた。POCl
3の添加後、反応混合物の温度を約77℃まで上昇させた。出発材料の残余が3%未満になったとき(インプロセス高速液体クロマトグラフィー[HPLC]分析)、反応完了とみなした(約13時間)。反応混合物を約2〜7℃まで冷却し、次いで、ジクロロメタン(DCM、482.8kg)、26%NH
4OH(251.3kg)及び水(900L)の冷却溶液に入れてクエンチした。得られた混合物を約20〜25℃まで加温し、相分離した。AW hyflo super−cel NF(セライト;5.4kg)床を通して有機相を濾過し、濾過床をDCM(118.9kg)で洗浄した。合わせた有機相をブライン(282.9kg)で洗浄し、水(120L)と混合した。相を分離し、有機相を真空蒸留により濃縮して、溶媒を除去した(約95Lの残量)。有機相を入れた反応器にDCM(686.5kg)を投入し、真空蒸留にて濃縮して、溶媒を除去した(約90Lの残量)。次いで、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE、226.0kg)を投入し、混合物の温度を−20〜−25℃に調整し、2.5時間維持すると、固体沈殿物が生じた。次いで、これを濾過し、n−ヘプタン(92.0kg)で洗浄し、フィルター上で窒素下にて約25℃で乾燥させ、表題化合物(35.6kg)を得た。
【0263】
4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミンの調製
20〜25℃で、4−クロロ−6,7−ジメトキシキノリン(35.3kg)、ナトリウムt−ブトキシド(21.4kg)及びDMA(167.2kg)を入れた反応器に、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA、184.3kg)中に溶解させた4−アミノフェノール(24.4kg)を投入した。次いで、この混合物を100〜105℃まで約13時間加熱した。インプロセスHPLC分析を用いた測定で、反応が完了したとみなされたら(出発材料の残余が2%未満)、反応器の内容物を15〜20℃に冷却し、15〜30℃の温度を維持する速度で、水(予め冷却、2〜7℃、587L)を投入した。得られた固体沈殿物を濾過し、水(47L)及びDMA(89.1kg)の混合物で洗浄し、最後に水(214L)で洗浄した。次いで、濾過ケーキをフィルター上で約25℃にて乾燥させて、粗製4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミン(LODに基づく算出で59.4kg含湿、41.6kg乾燥)を得た。粗製4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミンを、テトラヒドロフラン(THF、211.4kg)及びDMA(108.8kg)の混合物中で約1時間還流(約75℃)させ、次いで、0〜5℃まで冷却し、約1時間熟成させた後、固体を濾過し、THF(147.6kg)で洗浄し、フィルター上で真空下にて約25℃で乾燥させて、4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミン(34.0kg)を得た。
【0264】
4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミンの代替調製
4−クロロ−6,7−ジメトキシキノリン(34.8kg)及び4−アミノフェノール(30.8kg)及びナトリウムtert−ペントキシド(1.8当量)88.7kg、THF中35重量%)を反応器に投入し、続いて、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA、293.3kg)を投入した。次いで、この混合物を105〜115℃まで約9時間加熱した。インプロセスHPLC分析を用いた測定で、反応が完了したとみなされたら(出発材料の残余が2%未満)、反応器の内容物を15〜25℃に冷却し、20〜30℃の間の温度を維持しながら、水(315kg)を2時間かけて加えた。次いで、反応混合物を20〜25℃で更に1時間攪拌した。粗生成物を濾過により回収し、水88kg及びDMA82.1kgの混合物で洗浄し、続けて水175kgで洗浄した。生成物を濾過乾燥機で53時間乾燥させた。LODは、1%w/w未満を示した。
【0265】
代替手順において、1.6当量のナトリウムtert−ペントキシドを使用し、反応温度を110〜120℃上昇させた。加えて、冷却温度を35〜40℃に上げ、水添加の開始温度を35〜40℃に調整したが、発熱して45℃になった。
【0266】
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸の調製
THF(89.6kg)中のシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸(24.7kg)の冷却溶液(約5℃)に、バッチ温度が5℃を超えないような速度で、トリエチルアミン(19.5kg)を加えた。この溶液を約1.3時間攪拌し、次いで、バッチ温度を10℃未満に維持しながら塩化チオニル(23.1kg)を加えた。添加が完了したら、温度を10℃未満に維持しつつ、溶液を約4時間攪拌した。次いで、バッチ温度が10℃を超えないような速度で、THF(33.1kg)中の4−フルオロアニリン(18.0kg)の溶液を加えた。混合物を約10時間撹拌した時点で、反応完了とみなした。次いで、反応混合物を酢酸イソプロピル(218.1kg)で希釈した。この溶液を、水(415L)で更に希釈した水酸化ナトリウム水溶液(10.4kg、水119L中に50%溶解)、次いで水(100L)、最後に塩化ナトリウム水溶液(水100L中に20.0kg溶解)で順に洗浄した。有機溶液を40℃未満で真空蒸留によって濃縮し(100Lの残量)、続いてn−ヘプタン(171.4kg)を添加すると、固体が沈殿した。固体を濾過により回収し、n−ヘプタン(102.4kg)で洗浄して、湿った粗製の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸(29.0kg)を得た。粗製1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸をメタノール(139.7kg)中に約25℃で溶解し、続いて、水(320L)を加えると、スラリーが生じた。これを濾過により回収し、水(20L)及びn−ヘプタン(103.1kg)で順に洗浄した後、フィルター上で窒素下にて約25℃で乾燥させて、表題化合物(25.4kg)を得た。
【0267】
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドの調製
THF(96.1kg)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF;0.23kg)の混合物中の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸(22.8kg)の溶液に、バッチ温度が25℃を超えないような速度で、塩化オキサリル(12.6kg)を加えた。この溶液を更なる処理を行わずに次の工程に使用した。
【0268】
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドの代替調製
1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボン酸(35kg)、DMF344g及びTHF175kgを反応器に投入した。反応混合物を12〜17℃になるように調整し、次いで、反応混合物に19.9kgの塩化オキサリルを1時間かけて投入した。反応混合物を12〜17℃で3〜8時間攪拌した。この溶液を更なる処理を行わずに次の工程に使用した。
【0269】
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミドの調製
THF(245.7kg)及び水(116L)中の化合物4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミン(23.5kg)及び炭酸カリウム(31.9kg)の混合物に、バッチ温度が30℃を超えないような速度で、先の工程の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドを含有する溶液を加えた。反応が完了したら(約20分)、水(653L)を加えた。混合物を20〜25℃で約10時間撹拌すると、生成物が沈殿した。生成物を濾過により回収し、予め作製したTHF(68.6kg)及び水(256L)の溶液で洗浄し、最初にフィルター上で窒素下にて約25℃で乾燥させ、次いで真空下にて約45℃で乾燥させて、表題化合物(41.0kg、38.1kg、LODに基づいて算出)を得た。
【0270】
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミドの代替調製
4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミン(35.7kg、1当量)、続いて、THF412.9kgを反応器に投入した。水(169kg)中のK
2CO
3(48.3)の溶液を反応混合物に投入した。4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニルアミンを入れた反応器に、上記の1−(4−フルオロ−フェニルカルバモイル)−シクロプロパンカルボニルクロリドの代替調製に記載した酸塩化物溶液を、20〜30℃の温度を維持しながら、最低2時間かけて移した。反応混合物を20〜25℃で最低3時間撹拌した。次いで、反応温度を30〜25℃に調整し、混合物を攪拌した。攪拌を停止し、混合物の相を分離させた。下層の水相を除去し、捨てた。残った上層の有機相に804kgの水を加えた。この反応物を15〜25℃で最低16時間攪拌した。
【0271】
生成物が沈殿した。生成物を濾過し、水179kg及びTHF157.9kgの混合物で2回に分けて洗浄した。粗生成物を真空下で少なくとも2時間乾燥させた。次いで、乾燥させた生成物をTHF285.1kg中に収集した。得られた懸濁液を反応容器に移し、懸濁液が透明な(溶解した)溶液になるまで攪拌した。これには、約30分間の30〜35℃までの加熱を要した。次いで、456kgの水及び20kgのSDAG−1エタノール(2時間にわたってメタノールで変性させたエタノール)を溶液に加えた。混合物を15〜25℃で少なくとも16時間攪拌した。生成物を濾過し、水143kg及びTHF126.7の混合物で2回に分けて洗浄した。生成物を40℃の最大温度設定値で乾燥させた。
【0272】
代替手順において、酸塩化物形成中の反応温度は、10〜15℃に調整した。再結晶温度は、15〜25℃から45〜50℃、1時間に変え、次いで、2時間にわたって15〜25℃まで冷却した。
【0273】
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド、リンゴ酸塩の調製
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド(1−5;13.3kg)、L−リンゴ酸(4.96kg)、メチルエチルケトン(MEK;188.6kg)及び水(37.3kg)を反応器に投入し、混合物を約2時間、加熱還流させた(約74℃)。反応器温度を50〜55℃まで下げ、反応器の内容物を濾過した。上記のこれらの連続工程を、同様量の出発材料(13.3kg)、L−リンゴ酸(4.96kg)、MEK(198.6kg)及び水(37.2kg)から出発して、更に2回繰り返した。合わせた濾液を、MEK(1133.2kg)を用いて、約74℃、大気圧で、共沸乾燥させた(およその残量711L;KF≦0.5%w/w)。反応器の内容物の温度を20〜25℃に低下させ、約4時間保持すると、固体沈殿物が生じた。これを濾過し、MEK(448kg)で洗浄し、真空下で50℃にて乾燥させて、表題化合物(45.5kg)を得た。
【0274】
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド、(L)リンゴ酸塩の代替調製
シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド(47.9kg)、L−リンゴ酸(17.2)、メチルエチルケトン658.2kg及び水129.1kg(37.3kg)を反応器に投入し、混合物を50〜55℃で約1〜3時間加熱し、次いで55〜60℃で更に4〜5時間加熱した。混合物を1μmカートリッジを通す濾過により清澄にした。反応器温度を20〜25℃に調整し、最高ジャケット温度55℃、150〜200mmHgの真空で、558〜731Lの体積範囲まで真空蒸留した。
【0275】
真空蒸留を更に2回、それぞれ380kg及び380.2kgのメチルエチルケトンを投入して、行った。3回目の蒸留後、159.9kgのメチルエチルケトンを投入することによって、シクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミドが18v/wになるようにバッチ体積を調整し、880Lの全体積を得た。245.7のメチルエチルケトンを調整することによって、更なる真空蒸留を実施した。反応混合物を20〜25℃で少なくとも24時間穏やかに攪拌した。生成物を濾過し、415.1kgのメチルエチルケトンで3回に分けて洗浄した。45℃のジャケット温度設定点で真空下にて生成物を乾燥させた。
【0276】
代替手順において、添加順序を変更し、水129.9kg中に溶解したL−リンゴ酸溶液17.7kgを、メチルエチルケトン(673.3kg)中のシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸[4−(6,7−ジメトキシ−キノリン−4−イルオキシ)−フェニル]−アミド(4−フルオロ−フェニル)−アミド(48.7kg)に添加するようにした。
【0277】
生物学的実施例
HCC−78及びNCI−H2228細胞の成長
HCC−78とNCI−H2228の両細胞をそれぞれDSMZとATCCから凍結生体サンプルとして受け取り、これをT−75フラスコ(Nunc)中に解凍し、付着細胞の場合は80〜90%コンフルエントになるまで、浮遊細胞の場合は細胞密度が1〜2×10
6細胞/mLになるまで、成長させた。
【0278】
NCI−H2228(活性化EML4−ALK融合を有するヒト肺NSCLC腺癌細胞株(ATCC、CRL5935))を、RPMI1640(ATCC30−2001)、10%FBS、1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含む黒色96ウェルプレート(Costar、3904)上に、0.1ml中3.5×10
4細胞/ウェル及び2.5×10
4細胞/ウェルの密度でそれぞれ48時間または72時間播種した。
【0279】
HCC−78(活性化SLC34A2−ROS1融合体及びphosphor−Metを有するヒト肺NSCLC腺癌細胞株(DSMZ、ACC563))を、RPMI1640(ATCC30−2001)、10%FBS(加熱不活性、Cellgro)、1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含む黒色96ウェルプレート(Costar、3904)上に、0.1ml中2.5×10
4細胞/ウェル及び2×10
4細胞/ウェルの密度でそれぞれ48時間または72時間播種した。
【0280】
37℃、加湿5%CO
2雰囲気下で16時間、細胞を成長させた。新鮮な血清不含培地または血清含有培地中のDMSOまたは化合物1の連続希釈物を細胞に加え、37℃、加湿5%CO
2雰囲気下で48時間または72時間インキュベートし、5’−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン(BrdU)標識溶液(Roche)を2〜4時間加えた。浮遊細胞をフィルタープレート(Corning,3504)に移し、アッセイを実施した。細胞の増殖は、BrdUの取り込みをモニターすることによって、アッセイした。細胞増殖ELISAの試薬であるBrdU(化学発光)キット(Roche Biosciences,11 669 915 001)を製造者の説明書に従って用いた。BrdU標識後、FixDenat溶液で細胞を固定した。抗BrdUペルオキシダーゼ(POD)複合体を加え、プレートを1×PBSで洗浄した。基質溶液を加え、Victor Wallac Vプレートリーダー(Perkin Elmer)上で発光測定値を得た。化合物1処理の細胞増殖とDMSO処理サンプルとを比較することによって、増幅阻害パーセンテージを算出した。阻害パーセンテージ値が5〜8の化合物1の濃度をIC
50値の算出に用いた。
【0281】
生物学的実施例
ROS1リン酸化反応の阻害
HCC−78細胞(活性化SLC34A2−ROS1融合及びphosphor−Metを有するヒト肺NSCLC腺癌細胞株(DSMZ、ACC563))を、10%FBS(加熱不活性、Cellgro)及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Cellgro)を含有するRPMI1640(ATCC、30−2001)を含む6ウェルプレート(Nunclon、152795)上に3×10
5細胞/ウェルで播種した。最終濃度0.3%DMSO(ビヒクル)で10%FBSを含む新鮮な培地中のDMSOまたは化合物1の連続希釈物を細胞に加え、3時間インキュベートした。処理後、細胞を回収し、冷却したPBSで洗浄し、冷却した0.15mLの溶解緩衝液(50mM Tris HCl、pH8.0、150mM NaCl、1% NP40、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1mM EDTA、50mM NaF、1mMピロリン酸ナトリウム、1mM Na3VO
4、2mM PMSF、10μg/mLアプロチニン、5μg/mLロイペプチン及び5μg/mLペプスタチンA)で直ちに溶解した。溶解物を回収し、BCA法(Pierce)を用いてタンパク質濃度を測定した。溶解物を回収し、BCA法(Pierce)を用いてタンパク質濃度を測定した。溶解物をNuPage LDSサンプル緩衝液(Invitrogen NP0007)及び還元剤(Invitrogen #NP0004)と混合し、次いで、70℃で10分間加熱した。NuPage 10%Bis Trisゲル(Invitrogen、NP0302)上に20μgのタンパク質をロードした。タンパク質をニトロセルロース膜(Invitrogen、LC2001)上に移し、Odysseyブロッキング緩衝液(Li−Cor、927 40000)で1時間ブロックし、0.1%Tween20を含有するOdysseyブロッキング緩衝液中に希釈した抗ROS1マウスモノクローナル抗体(1:1000)(Cell Signaling Technology、3266)及び抗phospho ROS1(Y2274)ウサギ抗体(1:1000)(Cell Signaling Technology、3077)とともに4℃で終夜インキュベートした。膜をTBS T緩衝液(50mM Tris HCl、pH7.2;150mM NaCl;0.1% Tween20)でそれぞれ10分間4回洗浄し、0.1% Tween20及び0.01% SDSを含有するOdysseyブロッキング緩衝液中のヤギ抗マウスIRDye680(Li−Cor、926 32220)及びヤギ抗ウサギIRDye800(Li−Cor、926 32211)二次抗体で室温にて60分間ブロットした。膜をTBS−T緩衝液でそれぞれ10分間4回洗浄し、PBSで2回すすいだ。Odysseyスキャナー(Li−Cor)を用いて膜をスキャニングし、ImageQuant(Molecular Devices)を用いて各バンドのシグナル強度を定量化した。ビヒクル(DMSO)対照と比較した化合物処理物のシグナルに基づいてIC
50値を算出した。
【0282】
化合物1の3−[(1R)−1−(2,6−ジクロロ−3−フルオロフェニル)エトキシ]−5−(1−ピペリジン−4−イルピラゾール−4−イル)ピリジン−2−アミン(クリゾチニブ、XALKORI(登録商標))を単回漸増用量で投与したHCC−78NSCLC細胞におけるSLC34A2−ROS1媒介キナーゼ活性の阻害を
図1に示す。
図1は、ROS1融合キナーゼに対する化合物1の強力な阻害活性をはっきりと示しており、インビトロで試験した濃度において、比較対照の3−[(1R)−1−(2,6−ジクロロ−3−フルオロフェニル)エトキシ]−5−(1−ピペリジン−4−イルピラゾール−4−イル)ピリジン−2−アミン(クリゾチニブ)よりも強力である。
【0283】
生物学的実施例
HCC−78 NSCLC細胞のROS1依存的増殖
活性物質とHCC−78 NSCLC細胞を各種濃度で48時間または72時間インキュベーションした後の化合物1及び比較対照の3−[(1R)−1−(2,6−ジクロロ−3−フルオロフェニル)エトキシ]−5−(1−ピペリジン−4−イルピラゾール−4−イル)ピリジン−2−アミン(クリゾチニブ)のIC
50値を算出した。HCC−78NSCLC細胞の増殖の定量化は、BrdU ELISA(化学発光、Roche Biosciences、カタログ番号11 669 915 001)を製造者の推奨に従って実施した。IC
50値(A〜E)(50%阻害濃度)の特定を上記の記載に従って決定し、GraphPad Prismソフトウェアを用いてコンピュータで決定した。
【0285】
他の実施形態
上述の開示について、明確さと理解のために、例示及び実施例を用いて、ある程度詳細に説明し、本発明について、様々な具体的かつ好ましい実施形態及び技術を参照して説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲内に留まりつつ、多数の変更及び修正がなされ得ることは理解されるべきである。添付の特許請求の範囲内で、変更及び修正を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、上記の記述は、例示を意図するものであり、限定の意図はないことを理解されたい。
【0286】
したがって、本発明の範囲は、上記の記述を参照して決定されるべきではなく、むしろ、以下の添付の特許請求の範囲を参照し、かかる請求項が権利主張する等価物の全範囲を含め、決定されるべきである。