(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、直線状に長い形状のプレス成形品を成形する場合に、どの位置にビードを成形することが有効であるかについては特定されていなかった。
【0006】
本開示の一局面は、スプリングバックの量を有効に低減するための技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、プレス成形品の製造方法であって、金属製の板状部材に所定の形状を成形することと、板状部材における所定の形状の成形により変形しない部分に凸部を成形することと、凸部を潰すことと、を含む。
【0008】
このような製造方法によれば、金属製の板状部材に所定の形状を成形することに起因する、プレス成形品のスプリングバックの量を低減することが可能となる。すなわち、板状部材に所定の形状が成形されることにより発生する応力は、プレス成形品のスプリングバックの要因となり得る。ただし、上記製造方法では、板状部材における所定の形状の成形により変形しない部分に凸部が成形された後、当該凸部が潰される。これにより、所定の形状が成形されることにより発生する応力を抑制する応力が板状部材に発生する。したがって、上記製造方法によれば、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整することで、プレス成形品のスプリングバックの量を低減することが可能となる。
【0009】
本開示の一態様では、凸部は、所定の形状が成形される部分と隣り合う位置に成形されてもよい。このような製造方法によれば、所定の形状が成形される部分と隣り合わない位置に凸部が成形される製造方法と比較して、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0010】
本開示の一態様では、プレス成形品は、直線状に長い形状であってもよい。この場合、凸部は、所定の形状が成形される部分と、プレス成形品の長手方向に沿って隣り合う位置に成形されてもよい。このような製造方法によれば、所定の形状が成形される部分と、プレス成形品の長手方向に沿って隣り合わない位置に凸部が成形される製造方法と比較して、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0011】
本開示の一態様では、プレス成形品は、直線状に長い形状であってもよい。この場合、凸部は、プレス成形品の長手方向と直交する幅方向の端部の縁となる部分を含む位置に、縁から幅方向に沿って延びる形状に成形され、縁から離れるほど幅が狭くなる形状であってもよい。プレス成形品は、縁に近い部分ほど応力の影響を受けやすい。一方、凸部は、その幅が広いほど、当該凸部が潰されることにより発生する応力が大きくなる。したがって、上記製造方法によれば、例えば幅が一定の凸部を成形する場合と比較して、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0012】
本開示の一態様では、凸部は、縁から離れるほど幅が狭くなる三角形状の先端部を有する形状であってもよい。このような製造方法によれば、例えば半円形状の凸部と比較して、縁から離れた部分をより少ない力で平らに潰しやすくすることができる。
【0013】
本開示の一態様では、凸部は、縁に近い部分の幅が一定の形状であってもよい。このような製造方法によれば、凸部が成形される位置に多少のばらつきがあっても、凸部におけるプレス成形品の縁に近い部分は一定の幅が確保される。したがって、凸部が成形される位置のばらつきに起因する効果のばらつきを抑制することができる。
【0014】
本開示の一態様では、プレス成形品は、当該プレス成形品の長手方向に沿った直線状の折曲部に沿って所定の角度に折り曲げられた形状であってもよい。この場合、凸部は、プレス成形品において折曲部を挟む両側の縁となる部分を含む位置に成形されてもよい。このような形状のプレス成形品では、折曲部付近は応力の影響を受けにくく、折曲部を挟む両側の縁に近いほど応力の影響を受けやすい。したがって、上記製造方法によれば、プレス成形品において折曲部を挟む両側の縁となる部分を含む位置とは異なる位置に凸部が形成される場合と比較して、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0015】
本開示の一態様では、所定の形状を成形することと、凸部を成形することと、が1つの工程で行われ、その後の工程で凸部が潰されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.プレス成形品の構成]
図1に示すプレス成形品1は、金属製の自動車用部品である。具体的には、プレス成形品1は、自動車の左右両側に設けられるフレーム部品を補強するために用いられる。なお、プレス成形品1の材料としては、例えば、薄板鋼板や表面処理鋼板などの鋼板が用いられる。
【0018】
プレス成形品1は、直線状に長い形状の板状部品である。プレス成形品1は、当該プレス成形品1の長手方向Aに沿った直線状の折曲部11に沿って所定の角度θ、例えば90度に折り曲げられた形状である。つまり、長手方向Aに垂直なプレス成形品1の断面は、L字状である。なお、角度θは、設計要求により指定される完成品の角度である。
【0019】
プレス成形品1は、複数の段差部12を有する。段差部12とは、プレス成形品1における成形加工が施されていない部分の面である基準面に対して突出した又は凹んだ部分である。段差部12は、プレス成形品1の剛性を高める機能を有する。また、段差部12は、前述したフレーム部品に対して、例えばスポット溶接等の溶接を行うための溶接面としても機能し得る。なお、プレス成形品1には、1つ以上の貫通孔13が形成されていてもよい。
【0020】
[2.製造方法]
次に、プレス成形品1の製造方法について説明する。プレス成形品1の製造工程には、
図2及び
図3に示す第1の曲げ工程と、
図4及び
図5に示す第2の曲げ工程と、
図6及び
図7に示す第3の曲げ工程と、が含まれる。
【0021】
<前工程>
第1の曲げ工程の前工程では、金属製の平面状の板状部材91に対してトリム加工が行われ、不要な部分が除去される。
図8に示すように、トリム加工後の板状部材91は、互いに平行に配置された2つの帯状部91aが1つ以上の連結部91bによって連結された形状である。プレス成形品1は、これら2つの帯状部91aのそれぞれから製造される。つまり、本実施形態では、1つの板状部材91から、最終的に2つのプレス成形品1が製造される。なお、厳密には、1つの板状部材91から製造される2つのプレス成形品1は、自動車における左側及び右側に配置されるものであり、細かな形状は異なり得る。
【0022】
<第1の曲げ工程>
図2及び
図3に示す第1の曲げ工程では、トリム加工後の板状部材91に対して、上型101及び下型102を用いたプレス加工が行われる。具体的には、第1の曲げ工程では、板状部材91に対して、次の(1a 第1の曲げ加工)〜(1c 第2の成形加工)の加工が、1つの工程で、つまり同時に行われる。なお、
図3に示す板状部材91の断面は、後述する
図10のIII−III断面図である。
【0023】
(1a 第1の曲げ加工)
板状部材91を、互いに平行な2つの折曲線に沿って折り曲げる第1の曲げ加工が行われる。第1の曲げ加工で折り曲げられる2つの箇所は、板状部材91から製造される2つのプレス成形品1のそれぞれの折曲部11に相当する箇所であって、
図8において破線11aで示された部分である。第1の曲げ加工はいわゆる予備曲げ加工である。すなわち、板状部材91は、この段階では角度θまでは折り曲げられず、角度θよりも大きい角度に折り曲げられる。
【0024】
(1b 第1の成形加工)
図9及び
図10に示すように、板状部材91の平面部分に、成形前よりも表面積が増大する所定の形状である複数の段差部12を成形する第1の成形加工が行われる。具体的には、段差部12は、板状部材91における基準面に対して前述したフレーム部品側へ突出した位置にある平面状の座面121と、座面121の外周を囲む斜面122と、を有する。段差部12において、座面121は、第1の成形加工により変形しない部分であり、斜面122は、第1の成形加工により変形する部分である。成形により変形する部分とは、成形により部分的に引張変形又は圧縮変形が発生する部分のことをいう。座面121は、長手方向Aと垂直な幅よりも、長手方向Aに沿った長さの方が大きい形状である。本実施形態では、段差部12は、板状部材91における長手方向Aと直交する幅方向の端部の縁となる部分を含む位置に成形される。板状部材91には、段差部12が成形されることにより応力が発生する。この応力は、板状部材91が反るように変形するスプリングバックの要因となり得る。
【0025】
(1c 第2の成形加工)
板状部材91の平面部分であって、段差部12の成形により変形しない部分、この例では段差部12が成形されない部分に、複数の凸部93を成形する第2の成形加工が行われる。凸部93は、板状部材91の平面部分の両面のうち一方の面から力が加えられることにより、当該面が凹み、他方の面が突出した部分である。本実施形態において、凸部93はいわゆるビードである。凸部93は、段差部12が成形される部分と、長手方向Aに沿って隣り合う位置に成形される。具体的には、凸部93は、プレス成形品1における長手方向Aと直交する幅方向の縁となる部分を含む位置に、縁から幅方向に沿って延びる形状に成形される。換言すれば、凸部93は、プレス成形品1において折曲部11を挟む両側の縁となる部分を含む位置に成形される。凸部93は、
図11に示すように、平面視において、換言すれば、板状部材91の平面部分の面と直交する方向から見て、プレス成形品1の縁となる位置から離れるほど、換言すれば折曲部11に近づくほど、幅が狭くなる三角形状の先端部を有する形状であって、当該縁に近い部分の幅が一定の形状である。凸部93は、
図12に示すように、板状部材91における基準面に対して、曲面状、具体的には円錐面状に突出している。凸部93は、前述したフレーム部品側とは反対側、つまり、段差部12とは反対側へ突出している。
【0026】
<第2の曲げ工程>
図4及び5に示す第2の曲げ工程では、第1の曲げ工程後の板状部材91に対して、上型201及び下型202を用いたプレス加工が行われる。具体的には、第2の曲げ工程では、板状部材91に対して、次の(2a 第2の曲げ加工)〜(2b 第3の成形加工)の加工が、1つの工程で、つまり同時に行われる。
【0027】
(2a 第2の曲げ加工)
板状部材91における第1の曲げ加工で折り曲げた箇所、つまり、プレス成形品1の折曲部11に相当する箇所であって
図8において破線11aで示された部分で、板状部材91を、第1の曲げ加工よりも角度θに近い角度まで折り曲げる第2の曲げ加工が行われる。
(2b 第3の成形加工)
第2の成形加工で成形されたすべての凸部93を平面状に潰す第3の成形加工が行われる。板状部材91には、凸部93が潰されることにより、第1の成形加工で段差部12が成形されることにより発生した応力を抑制する応力が発生する。その結果、板状部材91において発生する応力のバランスが調整される。ここで、凸部93を潰すとは、凸部93を成形する前の平面部分の形状に近づけるように成形することを意味する。
【0028】
<第3の曲げ工程>
図6及び
図7に示す第3の曲げ工程では、第2の曲げ工程後の板状部材91に対して、上型301及び下型302を用いたプレス加工が行われる。具体的には、第3の曲げ工程では、板状部材91に対して、次の(3a 第3の曲げ加工)の加工が行われる。
【0029】
(3a 第3の曲げ加工)
板状部材91における第2の曲げ加工で折り曲げた箇所、つまり、プレス成形品1の折曲部11に相当する箇所であって
図8において破線11aで示された部分で、板状部材91を、角度θまで折り曲げる第3の曲げ加工が行われる。
<後工程>
第3の曲げ工程の後、板状部材91の連結部91bが切断されるなどして、2つのプレス成形品1が完成する。
【0030】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)プレス成形品1の製造方法には、板状部材91に段差部12を成形することと、板状部材91における段差部12の成形により変形しない部分に凸部93を成形することと、凸部93を潰すことと、が含まれる。
【0031】
このような製造方法によれば、板状部材91に段差部12を成形することに起因する、プレス成形品1のスプリングバックの量を低減することが可能となる。すなわち、板状部材91に段差部12が成形されることにより発生する応力は、プレス成形品1のスプリングバックの要因となり、長手方向Aに沿った反りが生じ得る。ただし、本実施形態の製造方法では、板状部材91における段差部12の成形により変形しない部分に凸部93が成形された後、当該凸部93が潰される。これにより、段差部12が成形されることにより発生する応力を抑制する応力が板状部材91に発生する。したがって、上記製造方法によれば、プレス成形品1において発生する応力のバランスを調整することで、プレス成形品1のスプリングバックの量を低減することができる。
【0032】
(2)凸部93は、段差部12が成形される部分と隣り合う位置に成形される。したがって、段差部12が成形される部分と隣り合わない位置に凸部93が成形される製造方法と比較して、プレス成形品1において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0033】
(3)凸部93は、段差部12が成形される部分と長手方向Aに沿って隣り合う位置に成形される。したがって、段差部12が成形される部分と長手方向Aに沿って隣り合わない位置に凸部93が成形される製造方法と比較して、プレス成形品1において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
【0034】
(4)凸部93は、プレス成形品1における長手方向Aと直交する幅方向の縁となる部分を含む位置に、縁から幅方向に沿って延びる形状に成形され、縁から離れるほど幅が狭くなる形状である。プレス成形品1は、縁に近い部分ほど応力の影響を受けやすい。一方、凸部93は、その幅が広いほど、当該凸部93が潰されることにより発生する応力が大きくなる。したがって、例えば幅が一定の凸部を成形する場合と比較して、プレス成形品において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。また、プレス成形品における縁となる部分を含まない位置に、例えば円形状の凸部を成形する場合と比較して、より少ない力で平らに潰しやすくすることができる。
【0035】
(5)凸部93は、プレス成形品1の縁から離れるほど幅が狭くなる三角形状(円錐形状を含む)の先端部を有する。したがって、例えば半円形状の凸部を成形する場合と比較して、縁から離れた部分をより少ない力で平らに潰しやすくすることができる。
【0036】
(6)凸部93は、縁に近い部分の幅が一定の形状である。したがって、凸部93が成形される位置に多少のばらつきがあっても、凸部93におけるプレス成形品1の縁に近い部分は一定の幅が確保される。したがって、凸部93が成形される位置にばらつきが生じても縁部では一定の応力緩和効果が得られるので加工精度に起因する効果のばらつきを抑制することができる。
【0037】
(7)凸部93は、プレス成形品1において折曲部11を挟む両側の縁となる部分を含む位置に成形される。このような形状のプレス成形品1では、折曲部11付近は応力の影響を受けにくく、折曲部11を挟む両側の縁に近いほど応力の影響を受けやすい。したがって、プレス成形品1において折曲部11を挟む両側の縁となる部分を含む位置とは異なる位置に凸部93が形成される場合と比較して、プレス成形品1において発生する応力のバランスを調整しやすくすることができる。
(8)第2の成形加工において、凸部93は、前述したフレーム部品側とは反対側へ突出するように成形される。したがって、フレーム部品に対してプレス成形品1が溶接により組み付けられる際に、凸部93、より正確には第3の成形加工で潰された凸部93が、溶接に影響しにくくすることができる。
【0038】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0039】
(1)上記実施形態では、段差部12を成形することと、凸部93を成形することと、が一つの工程で行われ、その後の工程で凸部93が潰される製造方法を例示したが、成形の順序は上記実施形態で例示した順序に限定されるものではない。例えば、段差部12が成形される工程よりも前の工程で凸部93が成形されてもよい。この場合、凸部93を潰すタイミングは、段差部12が成形される工程よりも前の工程、段差部12が成形される工程と同じ工程、段差部12が成形される工程よりも後の工程、のいずれであってもよい。また例えば、段差部12が成形される工程よりも後の工程で凸部93が成形され、その後の工程で凸部93が潰されてもよい。
【0040】
(2)凸部が成形される位置は、板状部材91において、段差部12が成形される部分と長手方向Aに沿って隣り合う位置に限定されるものではない。例えば、段差部12における第1の成形加工により変形しない部分である座面121に、凸部93が成形されてもよい。
【0041】
(3)第1の成形加工で成形される形状は、段差部12に限定されるものではなく、他の形状であってもよい。
(4)プレス成形品1の材料は鋼板に限定されるものではなく、例えば、ステンレススチールやアルミニウム合金などであってもよい。
【0042】
(5)上記実施形態では、自動車の左右両側に設けられるフレーム部品を補強するプレス成形品1を例示したが、プレス成形品はこれに限定されるものではない。例えば、プレス成形品は、他の自動車用部品であってもよく、また、自動車用部品以外の部品であってもよい。
【0043】
(6)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。