特許第6696972号(P6696972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6696972ループス腎炎を処置するためのジンセノサイドM1の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696972
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】ループス腎炎を処置するためのジンセノサイドM1の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20200511BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20200511BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   A61K31/704
   A61K31/573
   A61P13/12
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-508732(P2017-508732)
(86)(22)【出願日】2015年5月4日
(65)【公表番号】特表2017-514897(P2017-514897A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】CN2015078187
(87)【国際公開番号】WO2015165422
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】61/987,631
(32)【優先日】2014年5月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516328764
【氏名又は名称】リー シャウ−ロン
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202577
【弁理士】
【氏名又は名称】林 浩
(72)【発明者】
【氏名】リー シャウ−ロン
(72)【発明者】
【氏名】リー ユー−チー
(72)【発明者】
【氏名】チェン アン
(72)【発明者】
【氏名】フア クオ−フェン
(72)【発明者】
【氏名】カ シュク−マン
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0178436(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102793874(CN,A)
【文献】 米国特許第07932057(US,B1)
【文献】 Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine,2015年,Article ID 727650
【文献】 Zhong Xi Yi Jie He Xue Bao[Abstract],2010年,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20727331
【文献】 Biol Pharm Bull,2002年,Vol.25,p.743-747
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする被検体におけるループス腎炎を処置するための、治療有効量のジンセノサイドM1を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物は、前記被検体の(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;ならびに(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮からなる群から選択されるループス腎炎の1つまたは複数の症状を減少させるまたは軽減するのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は前記被検体の糸球体周囲の単核白血球炎症を減少させるのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記被検体においてタンパク尿もしくは血尿を減少させるまたは血清尿素窒素レベルもしくは血清クレアチニンレベルを低下させるのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ジンセノサイドM1は、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、細胞傷害性薬、免疫抑制剤および血管拡張薬からなる群から選択されるループス腎炎を処置するための1つまたは複数の治療薬と組み合わせて投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
必要とする被検体のループス腎炎を処置するための医薬組成物を製造するための、ジンセノサイドM1の使用。
【請求項7】
前記医薬組成物は、前記被検体の(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;ならびに(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮からなる群から選択されるループス腎炎の1つまたは複数の症状を減少させるまたは軽減するのに効果的である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬組成物は前記被検体の糸球体周囲の単核白血球炎症を減少させるのに効果的である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬組成物は、前記被検体のタンパク尿もしくは血尿を減少させるまたは血清尿素窒素レベルもしくは血清クレアチニンレベルを低下させるのに効果的である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬組成物は、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、細胞傷害性薬、免疫抑制剤および血管拡張薬からなる群から選択されるループス腎炎を処置するための1つまたは複数の治療薬と組み合わせて投与される、請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループス腎炎を処置するためのジンセノサイドM1の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ループス腎炎は、全身性エリテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)の患者のサブポピュレーションに起こり、著しく高い罹患率および死亡率を伴う、SLEの最も重度の合併症の1つである。全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗体産生および異常な細胞免疫による多臓器損傷を含む自己免疫障害である。重度のループス腎炎患者では、末期腎不全の累積リスクが特に高かった。重度のループス腎炎患者の病理組織は、1982年の世界保健機関分類(World Health Organization Classification)によりカテゴリーIII、カテゴリーIVならびにカテゴリーVcおよびVdと最初に定義された明確な損傷のパターンを含む。ループス腎炎の発生または進行の正確なメカニズムは不明のままである。ループス腎炎の決定的な処置はない。ループス腎炎の現在の治療には、コルチコステロイドと他の細胞傷害性薬剤または免疫調節剤との様々な組み合わせがあるが、これらの多くは様々な副作用を有する。
【0003】
ニンジン(ginseng)の主要な活性成分ジンセノサイドは、種々の薬理活性、たとえば抗腫瘍活性、抗糖尿病活性、抗疲労(antifatique)、抗アレルギー活性および抗酸化活性を有することが知られている。ジンセノサイドは、17個の炭素原子が4つの環に配置されたゴナンステロイド核からなる基本的な構造を共有する。ジンセノサイドは体内で金属化され、いくつかの最近の研究からは、ジンセノサイド代謝物が、天然に存在するジンセノサイドよりむしろ体内で吸収されやすく、活性成分として働くことが示唆される。中でも、ジンセノサイドM1は、ヒト腸内細菌によるギペノサイド経路を経たプロトパナキサジオール系ジンセノサイドの代謝物の1つとして知られている。これまで、ループス腎炎の処置におけるジンセノサイドM1の作用を報告した従来技術の参考文献はない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、ジンセノサイドM1がループス腎炎の症状を軽減するのに効果的であることが、予想外に見出される。したがって本発明は、被検体のループス腎炎の処置のための新規なアプローチを提供する。
【0005】
特に、本発明は、治療有効量のジンセノサイドM1を被検体に投与することを含む、ループス腎炎の処置を必要とする被検体を処置するための方法を提供する。
【0006】
具体的には、本発明の方法は、(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;ならびに(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質(特に糸球体周囲の)単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮からなる群から選択される、被検体のループス腎炎の1つまたは複数の症状を減少させるのに効果的である。さらに、本発明の方法は、被検体のタンパク尿もしくは血尿を減少させるまたは血清尿素窒素レベルもしくは血清クレアチニンレベルを低下させるのにも効果的である。
【0007】
いくつかの実施形態では、ジンセノサイドM1は、以下に限定されるものではないが、コルチコステロイド(プレドニゾロンなど)、非ステロイド性(non−steriodal)抗炎症薬(NSAID:non−steroidal anti−inflammatory drug)、細胞傷害性薬(シクロホスファミド、クロラムブシルおよびアザチオプリンなど)、免疫抑制剤(シクロスポリンおよびミコフェノール酸モフェチルなど)、および血管拡張薬(アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤など))など当該技術分野において公知の、ループス腎炎を処置するための1つまたは複数の治療薬と組み合わせて投与される。
【0008】
ループス腎炎を処置するための薬物を製造するための、ジンセノサイドM1の使用をさらに提供する。
【0009】
本発明の一実施形態または複数の実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本発明の他の特徴または利点は、いくつかの実施形態の以下の詳細な説明、およびさらに添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【0010】
本発明を説明するため、実施形態を図に示す。しかしながら、本発明は、示された好ましい実施形態に限定されるものではないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】マウスの尿タンパク質、血尿および腎機能の評価を示す。(A)尿中アルブミン/クレアチニン比、(B)血尿レベル、(C)血中尿素窒素(BUN:blood urea nitrogen)レベル、(D)血清クレアチニン。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05および**p<0.01、および***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図2A】H&E染色による腎臓の病理組織学的評価(元の倍率、各々×400)を示す。
図2B】スコアリング(半定量的解析)を示す。各バーは平均±SEを表す。***p<0.005は統計学的有意性を示す。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図3】マウスの血清抗dsDNA抗体レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
図4A】マウスの腎組織中のスーパーオキシドアニオンレベルを示す。各バーは平均±SEを表す。**p<0.01,***p<0.005。
図4B】マウスの腎臓のin situ ROS(reactive oxygen species)産生(元の倍率は各々×400)を示す。
図4C】陽性染色の核の%の半定量的解析を示す。各バーは平均±SEを表す。**p<0.01,***p<0.005。
図5A】炎症性サイトカインINF−γの血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図5B】炎症性サイトカインMCP−1の血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図5C】炎症性サイトカインIL−12 p70の血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図5D】炎症性サイトカインIL−6の血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図5E】炎症性サイトカインTNF−αの血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図5F】炎症性サイトカインIL−10の血清レベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「#」は「不検出」を意味する。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図6】マウスの脾細胞におけるT細胞の増殖を示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.005。符号「ns」は「有意差なし」を意味する。
図7】TLR(Toll−like receptor)7のmRNAレベルを示す。各バーは平均±SEを表す。*p<0.05,**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0012】
他に記載がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解している意味を有する。本明細書で使用する場合、以下の用語は、他に記載がない限り、それらに準ずる意味を有する。
【0013】
本明細書では冠詞「1つの(「a」および「an」)」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)をいうのに使用される。例として、「1つのエレメント(an element)」は1つのエレメントまたは2つ以上のエレメントを意味する。
【0014】
本発明では、ジンセノサイドM1が、それを、ループスを起こしやすいNZB/W F1マウスに投与することにより、ループス腎炎の発生を予防できることが意外にも見出される。特に、ループス腎炎の動物は、(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;あるいは(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質(特に糸球体周囲の)単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮、またはタンパク尿もしくは血尿、または血清尿素窒素レベルもしくは血清クレアチニンレベルの上昇を含む様々な症状を呈することが見出される。本発明の方法は、ジンセノサイドM1を投与することにより、ループス腎炎の患者のこれらの症状のいずれか1つを改善するのに効果的である。
【0015】
ジンセノサイドM1、20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオールは、当該技術分野において公知のサポニン代謝物の1つである。ジンセノサイドM1の化学構造は、以下の通りである。
【化1】
【0016】
ジンセノサイドM1は、ヒト腸内細菌によるギペノサイド経路を経たプロトパナキサジオール系ジンセノサイドの代謝物の1つとして知られている。ジンセノサイドM1は、摂取後に血液中または尿中で見出され得る。ジンセノサイドM1は、その全内容を本明細書に援用する台湾特許出願第094116005(I280982)号および米国特許第7,932,057号などの当該技術分野において公知の方法により、真菌発酵を介してニンジン植物から調製することができる。ある種の実施形態では、ジンセノサイドM1を調製するためのニンジン植物は、ウコギ(Araliaceae)科、トチバニンジン(Panax)属、たとえばチョウセンニンジン(P.ginseng)およびトチバニンジン(P.pseudo−ginseng)(サンシチ(Sanqi)とも呼ばれる)を含む。一般に、ジンセノサイドM1の調製方法は、(a)ニンジン植物材料(たとえば葉または茎)の粉末を用意するステップ;(b)ニンジン植物材料を発酵させるための真菌を用意するステップであって、発酵温度は20〜50℃にわたり、発酵湿度は70〜100%にわたり、pH値は4.0〜6.0にわたり、発酵期間は5〜15日にわたるステップ;(c)発酵産物を抽出および採取するステップ;および(d)発酵産物から20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオールを単離するステップを含む。
【0017】
本発明ではジンセノサイドM1を「単離された」または「精製された」と記載する場合、完全に単離されたまたは精製されたのではなく、比較的に単離されたまたは精製されたものと理解すべきである。たとえば、精製されたジンセノサイドM1とは、その天然に存在する形態と比較してより精製されたものをいう。一実施形態では、精製されたジンセノサイドM1を含む調製物は、全調製物の50%超、60%超、70%超、80%超、90%超または100%(w/w)の量でジンセノサイドM1を含み得る。本明細書で比率または投与量を示すのに特定の数字を使用する場合、前記数字は一般に、その数字より10%超および未満の範囲内、またはさらに詳しくは5%超および未満の範囲内のものを含むことを理解すべきである。
【0018】
本発明は、ループス腎炎を処置するための方法であって、治療有効量のジンセノサイドM1を、そうした処置を必要とする被検体に投与することを含む方法を提供する。さらに提供するのは、ループス腎炎の処置を必要とする被検体のそうした処置を行うための薬物を製造するための、ジンセノサイドM1の使用である。本発明の薬物は、(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;ならびに(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質(特に糸球体周囲の)単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮からなる群から選択される、被検体のループス腎炎の1つまたは複数の症状を減少させるのに効果的である。さらに本発明の薬物は、被検体のタンパク尿もしくは血尿を減少させるまたは血清尿素窒素レベルもしくは血清クレアチニンレベルを低下させるのにも効果的である。
【0019】
本明細書に使用される「個体」または「被検体」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物、たとえばコンパニオンアニマル(イヌ、ネコおよび同種のものなど)、農用動物(雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマおよび同種のものなど)、または実験動物(ラット、マウス、モルモットおよび同種のものなど)を含む。
【0020】
「処置すること」という用語は、本明細書で使用する場合、障害、障害の症状もしくは状態、障害により引き起こされた身体障害または障害の進行、を治癒させる、癒やす、軽減する、緩和する、変化させる、治療する、寛解させる、改善する、またはそれらに作用することを目的として、1種または複数種の活性剤を含む組成物を、障害、障害の症状もしくは状態、または障害の進行に悩む被検体に外用または投与することをいう。
【0021】
本明細書に使用される「治療有効量」という用語は、処置される被検体に治療効果を与える活性成分の量をいう。たとえば、ループス腎炎を処置するための有効量は、ループス腎炎を有する被検体の(1)糸球体における:固有細胞の増殖、半月体、好中球浸潤およびフィブリノイド壊死;または(2)尿細管間質コンパートメントにおける:間質(特に糸球体周囲の)単核白血球炎症およびタンパク円柱を伴う尿細管萎縮、またはタンパク尿もしくは血尿、または異常に高い血清尿素窒素レベルまたは血清クレアチニンレベルなどの1つまたは複数の症状または状態を防止する、改善する、軽減するまたは減少させることができる量である。これらの症状は、たとえば尿タンパク質、血中尿素窒素または血清クレアチニンの量を解析することにより、または腎臓切片を解析することにより、様々な疾患進行関連指標に基づき、当該技術分野において公知の方法を用いて判定および評価することができる。治療有効量は、投与の経路および頻度、前記薬を投与される個体の体重および種、ならびに投与の目的など様々な理由に応じて変化してもよい。当業者は、それぞれの場合に本明細書の開示内容、確立された方法、および当業者自身の経験に基づき投与量を決定してもよい。たとえば、ある種の実施形態では、本発明に使用されるジンセノサイドM1の経口投与量は、1日10〜1,000mg/kgである。いくつかの例では、本発明に使用されるジンセノサイドM1の経口投与量は、1日100〜300mg/kg、1日50〜150mg/kg、1日25〜100mg/kg、1日10〜50mg/kg、または1日5〜30mg/kgである。さらに、本発明のいくつかの実施形態では、ジンセノサイドM1は、一定期間定期的に投与され、たとえば、少なくとも15日間、1ヶ月間または2ヶ月間以上連日投与される。
【0022】
本発明によれば、ジンセノサイドM1は、ループス腎炎を処置するための活性成分として使用することができる。一実施形態では、治療有効量の活性成分は、送達および吸収を目的として、薬学的に許容されるキャリアと共に適切な形態の医薬組成物に製剤化してもよい。投与モードに応じて、本発明の医薬組成物は好ましくは約0.1重量%〜約100重量%の活性成分を含み、重量パーセントは全組成物の重量に基づき計算される。
【0023】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」は、キャリアが組成物中の活性成分との適合性があり、好ましくは前記活性成分を安定化でき、処置を受ける個体に安全であることを意味する。前記キャリアは、活性成分に対する希釈剤、ビヒクル、賦形剤またはマトリックスであってもよい。適切な賦形剤の一部の例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガントガム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。組成物は、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油など滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエートなどの防腐剤;甘味料;ならびに着香剤をさらに含んでもよい。本発明の組成物は、患者への投与後の活性成分の迅速放出、持続放出または遅延放出の作用を持たせてもよい。
【0024】
本発明によれば、前記組成物の形態は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ、パケット(packet)剤、トローチ、エリキシル剤(elixers)、懸濁剤、ローション、溶液剤、シロップ、軟質および硬質ゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射液、ならびに分包散剤であってもよい。
【0025】
本発明の組成物は、経口法、非経口法(筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内など)、経皮法、坐剤法および経鼻法などの任意の生理学的に許容される経路により送達することができる。非経口投与については、本発明の組成物は好ましくは、溶液を血液に対して等張にするのに十分な塩またはグルコースなどの他の物質を含んでもよい滅菌水溶液の形態で使用される。水溶液は、必要に応じて(好ましくは3〜9のpH値で)適切に緩衝化してもよい。滅菌条件下での適切な非経口組成物の調製は、当業者によく知られている標準的な薬理学的技法を用いて達成することができ、追加の創造的労力は必要としない。
【0026】
本発明によれば、ジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を活性成分として含む組成物は、ループス腎炎の個体を処置するのに使用してもよい。具体的には、ジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を活性成分として含む組成物は、疾患の発症を予防するため、または症状を改善させるため、または症状の悪化を遅延させるためループス腎炎の個体またはループス腎炎に罹患するリスクがある個体に投与してもよい。
【0027】
さらに、本発明によれば、ジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を活性成分として含む組成物は、既存の治療方法または薬物、たとえば、薬物治療、以下に限定されるものではないが、コルチコステロイド(プレドニゾロンなど)、非ステロイド性(non−steriodal)抗炎症薬(NSAID)、細胞傷害性薬(シクロホスファミド、クロラムブシルおよびアザチオプリンなど)、免疫抑制剤(シクロスポリンおよびミコフェノール酸モフェチルなど)、および血管拡張薬(アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤など))と組み合わせて使用してもよい。一実施形態では、組み合わせて使用される薬物または治療方法は、同時に(並行)使用しても、あるいは連続的に使用してもよい。薬物が組み合わせて使用される場合、薬物は同じ処方中で混合しても、あるいは別のカプセル、丸剤、錠剤および注射薬など異なる処方に別々に組み込んでもよい。
【0028】
本発明について、限定ではなく実証を目的として提供する以下の例によりさらに説明する。
【実施例】
【0029】
1.材料および方法
1.1 動物モデルおよび実験プロトコル
雌NZB/W F1マウスをジャクソンラボラトリー(Jackson Laboratory)から購入した。動物実験はすべて、国防医学院の動物実験委員会、台湾(the Institutional Animal Care and Use Committee of The National Defense Medical Center,Taiwan)の倫理的承認を受けて実施し、実験動物の管理使用に関するNIH指針(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)の倫理規定に準拠して行った。
【0030】
Shuiら著、2007年[51]に記載されているように、リポ多糖(LPS:lipopolysaccharide、20mg/kg体重)(シグマ(Sigma)、ミズーリ州(NO)、米国)の週2回の腹腔内注射により、8週齢雌NZB/W F1マウスを用いて重度進行性ループス腎炎(ASLN:accelerated severe lupus nephritis)マウスモデルを樹立した。ASLN誘発のためのLPSの初回投与から2日後、マウスを、各々6匹を超えるマウスの2群に分け、マウスを屠殺するまでジンセノサイドM1またはビヒクル(生理食塩水)を毎日強制経口投与した。生理食塩水を注射した8週齢NZB/W F1雌マウス(自己抗体産生の開始前)を正常対照として使用した。マウスはすべて、疾患誘導後5週目に殺した。脾臓の組織標本、腎皮質組織、血液および尿を表記の時期に採取し、解析前に適切に保管した。
【0031】
1.2 ジンセノサイドM1
ジンセノサイドM1、20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオールは、台湾特許出願第094116005(I280982)号および米国特許第7,932,057号に記載された方法など当該技術分野において公知の方法により調製した。
【0032】
1.3 尿タンパク質および腎機能の解析
以前記載されたように(Ka,S.M.ら著、Decoy receptor 3 ameliorates an autoimmune crescentic glomerulonephritis model in mice.Journal of the American Society of Nephrology、第18巻:p.2473〜2485;2007年)、尿サンプルを代謝ケージ内で毎週採取し、尿タンパク質レベルを測定し、血清サンプルを採取して血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン(Cr)の血清レベルを測定した。
【0033】
1.4 病理学的評価
以前記載されたように、腎組織をホルマリン固定してパラフィンに包埋し、切片(3μm)を調製し、腎臓病理組織に対してヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。定量解析は、光学顕微鏡(Olympus BX51、反射蛍光システム(Reflected Fluorescence System)、日本)により行った。腎臓の病態の検査およびスコアリングは、病理学者が盲検方式で行い、腎臓の病変の重症度をスコア化した。増殖、好中球浸潤、半月体形成、フィブリノイド壊死および糸球体周囲の炎症を示す糸球体の割合は、無作為にサンプル採取した少なくとも100の糸球体から算出した。
【0034】
1.5 血清抗dsDNA抗体の測定
抗dsDNA抗体の血清レベルを、抗マウスdsDNA酵素免疫測定法(ELISA)キット(アルファダイアグノスティック(Alpha Diagnostic)、テキサス州、米国)を用いて製造者の指示に従い測定した。ELISAプレートリーダー(バイオテック(Bio−Tek)、ヴァーモント州、米国)を用いて450nmの吸光度を測定した。
【0035】
1.6 T細胞活性化の解析
マウス由来の脾細胞を以前記載されたように調製し、次いで予め4℃にて一晩0.25μg/mlの抗マウスCD3(145−2C11)抗体(BDバイオサイエンス(BD Biosciences))でコートした96ウェル平底マイクロタイタープレートのウェル(2.5×10細胞/ウェル)に3ウェルずつ培養した。48時間後、以前記載されたように培養物を1μlのH−メチルチミジン(アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)でパルスし、16〜18時間後に回収し、Top Count(パッカード、パーキンエルマー(Packard,PerkinElmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて取り込まれたH−メチルチミジンを測定した。
【0036】
1.7 反応性酸素種(ROS)の測定
腎のin situスーパーオキシドアニオン産生を、ジヒドロエチジウム(DHE:dihydroethidium)標識により判定した。蛍光画像は、腎断面ごとに核全体における陽性核の割合をカウントすることにより定量化した。血清および腎臓組織中のスーパーオキシドアニオンレベルを、以前記載されたように測定し、結果を1ミリグラム乾燥重量当たり15分毎の相対発光単位(RLU:reactive luminescence units)(すなわち、RLU/15分/mg乾燥重量)として表した。
【0037】
1.8 血清サイトカインの検出
標準的なプロトコルに従いBD Cytometric Bead Array Mouse Inflammationキット(BDバイオサイエンス)、続いてフローサイトメトリー(BDバイオサイエンス)を使用することにより、血清中のINF−γ、MCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNF−αおよびIL−10のレベルを検出する。
【0038】
1.9 リアルタイムPCR
腎皮質RNAを、製造者の指示に従いTRIzol試薬(インビトロジェン(Invitrogen))を用いて抽出し、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を使用してToll様受容体(TLR)7遺伝子発現を測定した。リアルタイム定量は、製造者の指示に従いBio−Rad iCycler iQシステムを用いて行った。増幅は、2−ΔCt法を用いてGAPDHの値に対して正規化した。
【0039】
1.10 統計解析
結果を平均値±SEMとして示す。2群間の比較は、スチューデントt検定を用いて行った。p値が<0.05の場合に統計学的に有意と見なした。
【0040】
2.結果
2.1 ジンセノサイドM1はループス腎炎を寛解させた
タンパク尿を検出すると、正常対照群のマウスと比較してASLN群のマウスは、タンパク尿(図1A)および血尿(図1B)の有意な増加を示した(p<0.005)。タンパク尿および血尿の量は、ASLN群のマウスと比較してASLN+LCHK168群のマウスで有意に減少した。LCHK168で処置したマウスの腎機能の保護を検出すると、正常対照群のマウスと比較してASLN群のマウスは、BUN(図1C)および血清クレアチニン(図1D)の有意な増加を示した(p<0.05)。ASLN群のマウスと比較して、BUNおよびクレアチニンの血清レベルは、ASLN+LCHK168群のマウス(p<0.05)で有意に減少した。
【0041】
さらに、光学顕微鏡は、ビヒクルで処置した疾患対照ASLNマウス(ASLN+ビヒクルマウス)において、好中球浸潤、糸球体半月体様の形成および尿細管間質(特に糸球体周囲の)炎症、尿細管萎縮およびタンパク円柱、ならびにフィブリノイド壊死を含む重度の腎病変を示した(図2)。対照的にASLN+M1マウスでは、軽度の糸球体増殖が存在したものの、そうした腎病変が大きく減少した(すべてp<0.005)(図2)。
【0042】
2.2 血清自己抗体レベルの測定
腎臓における自己抗体誘導性の免疫複合体沈着がループス腎炎の主な原因と考えられるため、我々は血清中の抗dsDNA自己抗体レベルを測定した。図3に示すように、血清抗dsDNA抗体レベルは、ASLN群のマウスで正常対照マウスより有意に高かった。次いで、ASLN+LCHK168群のマウスではASLN群のマウスと比較して、dsDNAの血清レベルは、有意に減少した(p<0.01)。
【0043】
2.3 ジンセノサイドM1は腎臓のROS産生を減少させた
正常対照マウスと比較してASLN群のマウスは、早くも3週目に腎臓のROS産生の発現の有意な増加を示し、ASLN群のマウスでは5週目で劇的に増加した。ASLN+LCHK168群のマウスではASLN群のマウスと比較して、腎臓のROS産生の発現は有意に減少した(p<0.01)(図4A)。
【0044】
腎臓の局所的ROS産生をさらに詳しく検出するため、腎組織のROS産生のin situ検出を、DHEアッセイを用いて行った。図4Bおよび4Cに示すように、正常マウスの腎臓ではDHE蛍光は弱かったが、ASLN対照マウスの腎臓ではDHE蛍光は3週目で有意に増加し、5週目でさらに一層増強しており、したがってASLN群のマウスでは正常対照マウスと比較してin situ ROS産生が増加することが示唆された。対照的に、ASLN+LCHK168処置群では3週目および5週目の両方で非常に弱いDHE蛍光強度が観察された。
【0045】
2.4 LCHK168を用いた血清炎症性サイトカイン発現の抑制。
マウスにおけるインターフェロンγ(INF−γ)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の血清レベルを測定する。図5Aに示すように、INF−γの血清レベルは、ASLN群のマウスでは早くも3週目に有意に増加し、5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではINF−γの発現は有意に減少した(p<0.01)。次いで、図5B〜Fに示すように、MCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の血清レベルは、ASLN群のマウスでは早くも3週目に有意に増加し、5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではMCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の発現は、有意に減少した(p<0.005)。
【0046】
2.5 ジンセノサイドM1はT細胞の増殖を阻害した
正常対照マウスと比較して、ASLN群のマウスは、脾細胞において早くも3週目にT細胞の増殖の有意な増加を示し、ASLN群のマウスでは5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスでは脾細胞におけるT細胞の増殖は有意に減少した(p<0.01)(図6)。
【0047】
2.6 Toll様受容体7mRNA産生の阻害。
リアルタイムRT−PCRの結果から、図7に示すように腎臓のTLR7mRNAレベルの増加が立証され、TLR7のmRNAレベルは、ASLN群のマウスでは有意に増加した(p<0.005)。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではTLR7のmRNAレベルは有意に減少した(p<0.01)。
【0048】
要約すると、我々の研究は、ジンセノサイドM1が、ループス腎炎の発生を予防するのに効果的であることを示す。これらすべての知見から、ジンセノサイドMはループス腎炎の処置のための新規薬剤候補にさらになり得ることが示唆される。
【0049】
本発明が属する当業者であれば、本発明をさらに説明する必要なく、本発明の記載に基づき最も広い範囲に利用することができると考えられる。したがって、提供した記載および特許請求の範囲は、本発明の範囲を何らかの点で限定するものではなく、例示目的であると理解されるべきである。

図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7