【実施例】
【0029】
1.材料および方法
1.1 動物モデルおよび実験プロトコル
雌NZB/W F1マウスをジャクソンラボラトリー(Jackson Laboratory)から購入した。動物実験はすべて、国防医学院の動物実験委員会、台湾(the Institutional Animal Care and Use Committee of The National Defense Medical Center,Taiwan)の倫理的承認を受けて実施し、実験動物の管理使用に関するNIH指針(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)の倫理規定に準拠して行った。
【0030】
Shuiら著、2007年[51]に記載されているように、リポ多糖(LPS:lipopolysaccharide、20mg/kg体重)(シグマ(Sigma)、ミズーリ州(NO)、米国)の週2回の腹腔内注射により、8週齢雌NZB/W F1マウスを用いて重度進行性ループス腎炎(ASLN:accelerated severe lupus nephritis)マウスモデルを樹立した。ASLN誘発のためのLPSの初回投与から2日後、マウスを、各々6匹を超えるマウスの2群に分け、マウスを屠殺するまでジンセノサイドM1またはビヒクル(生理食塩水)を毎日強制経口投与した。生理食塩水を注射した8週齢NZB/W F1雌マウス(自己抗体産生の開始前)を正常対照として使用した。マウスはすべて、疾患誘導後5週目に殺した。脾臓の組織標本、腎皮質組織、血液および尿を表記の時期に採取し、解析前に適切に保管した。
【0031】
1.2 ジンセノサイドM1
ジンセノサイドM1、20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオールは、台湾特許出願第094116005(I280982)号および米国特許第7,932,057号に記載された方法など当該技術分野において公知の方法により調製した。
【0032】
1.3 尿タンパク質および腎機能の解析
以前記載されたように(Ka,S.M.ら著、Decoy receptor 3 ameliorates an autoimmune crescentic glomerulonephritis model in mice.Journal of the American Society of Nephrology、第18巻:p.2473〜2485;2007年)、尿サンプルを代謝ケージ内で毎週採取し、尿タンパク質レベルを測定し、血清サンプルを採取して血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン(Cr)の血清レベルを測定した。
【0033】
1.4 病理学的評価
以前記載されたように、腎組織をホルマリン固定してパラフィンに包埋し、切片(3μm)を調製し、腎臓病理組織に対してヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。定量解析は、光学顕微鏡(Olympus BX51、反射蛍光システム(Reflected Fluorescence System)、日本)により行った。腎臓の病態の検査およびスコアリングは、病理学者が盲検方式で行い、腎臓の病変の重症度をスコア化した。増殖、好中球浸潤、半月体形成、フィブリノイド壊死および糸球体周囲の炎症を示す糸球体の割合は、無作為にサンプル採取した少なくとも100の糸球体から算出した。
【0034】
1.5 血清抗dsDNA抗体の測定
抗dsDNA抗体の血清レベルを、抗マウスdsDNA酵素免疫測定法(ELISA)キット(アルファダイアグノスティック(Alpha Diagnostic)、テキサス州、米国)を用いて製造者の指示に従い測定した。ELISAプレートリーダー(バイオテック(Bio−Tek)、ヴァーモント州、米国)を用いて450nmの吸光度を測定した。
【0035】
1.6 T細胞活性化の解析
マウス由来の脾細胞を以前記載されたように調製し、次いで予め4℃にて一晩0.25μg/mlの抗マウスCD3(145−2C11)抗体(BDバイオサイエンス(BD Biosciences))でコートした96ウェル平底マイクロタイタープレートのウェル(2.5×10
5細胞/ウェル)に3ウェルずつ培養した。48時間後、以前記載されたように培養物を1μlの
3H−メチルチミジン(アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)でパルスし、16〜18時間後に回収し、Top Count(パッカード、パーキンエルマー(Packard,PerkinElmer)、ボストン、マサチューセッツ州)を用いて取り込まれた
3H−メチルチミジンを測定した。
【0036】
1.7 反応性酸素種(ROS)の測定
腎のin situスーパーオキシドアニオン産生を、ジヒドロエチジウム(DHE:dihydroethidium)標識により判定した。蛍光画像は、腎断面ごとに核全体における陽性核の割合をカウントすることにより定量化した。血清および腎臓組織中のスーパーオキシドアニオンレベルを、以前記載されたように測定し、結果を1ミリグラム乾燥重量当たり15分毎の相対発光単位(RLU:reactive luminescence units)(すなわち、RLU/15分/mg乾燥重量)として表した。
【0037】
1.8 血清サイトカインの検出
標準的なプロトコルに従いBD Cytometric Bead Array Mouse Inflammationキット(BDバイオサイエンス)、続いてフローサイトメトリー(BDバイオサイエンス)を使用することにより、血清中のINF−γ、MCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNF−αおよびIL−10のレベルを検出する。
【0038】
1.9 リアルタイムPCR
腎皮質RNAを、製造者の指示に従いTRIzol試薬(インビトロジェン(Invitrogen))を用いて抽出し、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を使用してToll様受容体(TLR)7遺伝子発現を測定した。リアルタイム定量は、製造者の指示に従いBio−Rad iCycler iQシステムを用いて行った。増幅は、2
−ΔCt法を用いてGAPDHの値に対して正規化した。
【0039】
1.10 統計解析
結果を平均値±SEMとして示す。2群間の比較は、スチューデントt検定を用いて行った。p値が<0.05の場合に統計学的に有意と見なした。
【0040】
2.結果
2.1 ジンセノサイドM1はループス腎炎を寛解させた
タンパク尿を検出すると、正常対照群のマウスと比較してASLN群のマウスは、タンパク尿(
図1A)および血尿(
図1B)の有意な増加を示した(p<0.005)。タンパク尿および血尿の量は、ASLN群のマウスと比較してASLN+LCHK168群のマウスで有意に減少した。LCHK168で処置したマウスの腎機能の保護を検出すると、正常対照群のマウスと比較してASLN群のマウスは、BUN(
図1C)および血清クレアチニン(
図1D)の有意な増加を示した(p<0.05)。ASLN群のマウスと比較して、BUNおよびクレアチニンの血清レベルは、ASLN+LCHK168群のマウス(p<0.05)で有意に減少した。
【0041】
さらに、光学顕微鏡は、ビヒクルで処置した疾患対照ASLNマウス(ASLN+ビヒクルマウス)において、好中球浸潤、糸球体半月体様の形成および尿細管間質(特に糸球体周囲の)炎症、尿細管萎縮およびタンパク円柱、ならびにフィブリノイド壊死を含む重度の腎病変を示した(
図2)。対照的にASLN+M1マウスでは、軽度の糸球体増殖が存在したものの、そうした腎病変が大きく減少した(すべてp<0.005)(
図2)。
【0042】
2.2 血清自己抗体レベルの測定
腎臓における自己抗体誘導性の免疫複合体沈着がループス腎炎の主な原因と考えられるため、我々は血清中の抗dsDNA自己抗体レベルを測定した。
図3に示すように、血清抗dsDNA抗体レベルは、ASLN群のマウスで正常対照マウスより有意に高かった。次いで、ASLN+LCHK168群のマウスではASLN群のマウスと比較して、dsDNAの血清レベルは、有意に減少した(p<0.01)。
【0043】
2.3 ジンセノサイドM1は腎臓のROS産生を減少させた
正常対照マウスと比較してASLN群のマウスは、早くも3週目に腎臓のROS産生の発現の有意な増加を示し、ASLN群のマウスでは5週目で劇的に増加した。ASLN+LCHK168群のマウスではASLN群のマウスと比較して、腎臓のROS産生の発現は有意に減少した(p<0.01)(
図4A)。
【0044】
腎臓の局所的ROS産生をさらに詳しく検出するため、腎組織のROS産生のin situ検出を、DHEアッセイを用いて行った。
図4Bおよび4Cに示すように、正常マウスの腎臓ではDHE蛍光は弱かったが、ASLN対照マウスの腎臓ではDHE蛍光は3週目で有意に増加し、5週目でさらに一層増強しており、したがってASLN群のマウスでは正常対照マウスと比較してin situ ROS産生が増加することが示唆された。対照的に、ASLN+LCHK168処置群では3週目および5週目の両方で非常に弱いDHE蛍光強度が観察された。
【0045】
2.4 LCHK168を用いた血清炎症性サイトカイン発現の抑制。
マウスにおけるインターフェロンγ(INF−γ)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の血清レベルを測定する。
図5Aに示すように、INF−γの血清レベルは、ASLN群のマウスでは早くも3週目に有意に増加し、5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではINF−γの発現は有意に減少した(p<0.01)。次いで、
図5B〜Fに示すように、MCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の血清レベルは、ASLN群のマウスでは早くも3週目に有意に増加し、5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではMCP−1、IL−12 p70、IL−6、TNFαおよびIL−10の発現は、有意に減少した(p<0.005)。
【0046】
2.5 ジンセノサイドM1はT細胞の増殖を阻害した
正常対照マウスと比較して、ASLN群のマウスは、脾細胞において早くも3週目にT細胞の増殖の有意な増加を示し、ASLN群のマウスでは5週目で劇的に増加した。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスでは脾細胞におけるT細胞の増殖は有意に減少した(p<0.01)(
図6)。
【0047】
2.6 Toll様受容体7mRNA産生の阻害。
リアルタイムRT−PCRの結果から、
図7に示すように腎臓のTLR7mRNAレベルの増加が立証され、TLR7のmRNAレベルは、ASLN群のマウスでは有意に増加した(p<0.005)。ASLN群のマウスと比較して、ASLN+LCHK168群のマウスではTLR7のmRNAレベルは有意に減少した(p<0.01)。
【0048】
要約すると、我々の研究は、ジンセノサイドM1が、ループス腎炎の発生を予防するのに効果的であることを示す。これらすべての知見から、ジンセノサイドMはループス腎炎の処置のための新規薬剤候補にさらになり得ることが示唆される。
【0049】
本発明が属する当業者であれば、本発明をさらに説明する必要なく、本発明の記載に基づき最も広い範囲に利用することができると考えられる。したがって、提供した記載および特許請求の範囲は、本発明の範囲を何らかの点で限定するものではなく、例示目的であると理解されるべきである。