特許第6697319号(P6697319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697319
(24)【登録日】2020年4月28日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】車両用自動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20200511BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20200511BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20200511BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20200511BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20200511BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T7/12 C
   B60T8/00 C
   B60T8/171 Z
   B60T8/17 D
   B60T8/1755 Z
   B60T8/48
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-90441(P2016-90441)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197052(P2017-197052A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 祐介
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−515271(JP,A)
【文献】 特開2002−283987(JP,A)
【文献】 特開2009−292206(JP,A)
【文献】 特開2015−145185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00−8/1769
B60T 8/32−11/34
B60T 15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるブレーキ操作部と、
前記ブレーキ操作部に連設して該ブレーキ操作部での操作量に応じたマスタピストンの動作量でブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記マスタシリンダにマスタポートを介してブレーキ液を供給するリザーバタンクと、
前記マスタシリンダからのブレーキ液圧で車輪にブレーキ力を発生させるホイールシリンダと、
前記マスタシリンダと上記ホイールシリンダとを接続する液圧回路と、
前記液圧回路に設けられて該液圧回路に供給されるブレーキ液を蓄圧する蓄圧手段と、
前記液圧回路を経由するブレーキ液の変化量を求めるブレーキ液変化量演算手段と、
自動ブレーキ作動条件が満足されると前記液圧回路に介装された液圧ポンプを駆動させて、前記ブレーキ操作部の操作とは独立に、前記マスタシリンダ側のブレーキ液を前記ホイールシリンダに供給するブレーキ制御手段と
を備える車両用自動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御手段は、自動ブレーキ作動条件が満足されたときの前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液の変化量を監視するブレーキ液監視手段を更に有し、
前記ブレーキ液監視手段は、前記ブレーキ液変化量演算手段で求めた前記変化量が予め設定した規定値から外れている場合、前記マスタシリンダ側のブレーキ液を前記液圧ポンプを経て前記蓄圧手段に蓄圧させた後、前記液圧回路に対するブレーキ液の供給状態を検出した計測物理量と設定物理量とを比較し、該計測物理量が該設定物理量に達したとき前記蓄圧手段へのブレーキ液の蓄圧を遮断させるブレーキ液引込み処理を行う
ことを特徴とする車両用自動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記マスタシリンダはタンデム形であり、該マスタシリンダと前記ホイールシリンダとが二系統の前記液圧回路を介して接続されており、
前記ブレーキ液監視手段は、二系統の前記液圧回路の少なくとも一方を経由するブレーキ液の前記変化量が予め設定した規定値から外れている場合、前記両液圧回路に対して前記ブレーキ液引込み処理を行う
ことを特徴とする請求項1記載の車両用自動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記設定物理量は設定時間であり、又前記計測物理量は、前記ブレーキ液監視手段が前記ブレーキ液引込み処理を開始したときからの経過時間である
ことを特徴とする請求項1〜2の何れか1項に記載の車両用自動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記設定物理量は設定流量であり、又前記計測物理量は前記液圧ポンプ下流のブレーキ液の流量である
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の車両用自動ブレーキ装置。
【請求項5】
前記設定物理量は設定ブレーキ液圧であり、又前記計測物理量は前記液圧ポンプ下流のブレーキ液圧である
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の車両用自動ブレーキ装置。
【請求項6】
前記設定物理量は前記蓄圧手段の蓄圧容量に基づいて設定される
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の車両用自動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の極緩踏力でのブレーキを意図しないブレーキ操作により、ブレーキ液の流量比が低下した場合であっても、ブレーキ応答性を直ちに回避させることができるようにした車両用自動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者がブレーキペダルを開放している状態であっても、必要に応じて主ブレーキを作動させる車両用自動ブレーキ装置が知られており、ブレーキアシスト制御装置、自動緊急ブレーキ装置、横すべり防止制御装置、車間距離維持制御装置、車線逸脱防止支援装置等において既に機能している。
【0003】
この車両用自動ブレーキ装置は、例えば、特許文献1(特開2016−20130号公報)に開示されているように、マスタシリンダの液圧を電動ポンプで吸い込み、加圧して制動を必要とする車輪に設けられているホイールシリンダに連通するソレノイドバルブを開弁させ、このホイールシリンダに液圧を供給してブレーキキャリパを締結作動させるようにしている。又、運転者が緊急停止させるべくブレーキペダルを踏み込んだ場合であっても、その踏力が弱く、車両を緊急停止させることが困難と判断された場合には、ブレーキアシスト制御が作動し、運転者の踏力が補助される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−20130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転者がブレーキペダルを開放している状態では、ブレーキ液が貯留されているリザーバタンクがマスタポートを介してマスタシリンダに連通されているため、上述した文献に開示されているような自動ブレーキ装置が作動すれば、電動ポンプの駆動によりリザーバタンクに貯留されているブレーキ液がマスタシリンダを介してホイールシリンダに供給される。一方、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ状態では、マスタポートはマスタピストンによって遮断されるため、マスタシリンダ内のブレーキ液が電動ポンプの駆動によってホイールシリンダに供給されてブレーキアシストが行われる。
【0006】
ところで、運転者がブレーキペダルをつま先で軽く踏んでいる極緩踏力では、このブレーキペダルの微動により、マスタピストンが僅かに移動してマスタポートの開口面積を絞ってしまう場合がある。
【0007】
自動ブレーキ装置が作動する際にマスタポートが絞られていると、電動ポンプによりリザーバタンクに貯留されているブレーキ液を吸い込む際の通過抵抗が大きくなり、流量比(フローレート)が低下して、ブレーキ応答性が低下してしまう不都合が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、運転者の極緩踏力によるブレーキペダル操作で、リザーバタンクとマスタシリンダとを連通するマスタポートの開口面積が絞られて流量比が低下した場合であっても、ブレーキ応答性を直ちに回復させることのできる車両用自動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、運転者によって操作されるブレーキ操作部と、前記ブレーキ操作部に連設して該ブレーキ操作部での操作量に応じたマスタピストンの動作量でブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、前記マスタシリンダにマスタポートを介してブレーキ液を供給するリザーバタンクと、前記マスタシリンダからのブレーキ液圧で車輪にブレーキ力を発生させるホイールシリンダと、前記マスタシリンダと上記ホイールシリンダとを接続する液圧回路と、前記液圧回路に設けられて該液圧回路に供給されるブレーキ液を蓄圧する蓄圧手段と、前記液圧回路を経由するブレーキ液の変化量を求めるブレーキ液変化量演算手段と、自動ブレーキ作動条件が満足されると前記液圧回路に介装された液圧ポンプを駆動させて、前記ブレーキ操作部の操作とは独立に、前記マスタシリンダ側のブレーキ液を前記ホイールシリンダに供給するブレーキ制御手段とを備える車両用自動ブレーキ装置において、前記ブレーキ制御手段は、自動ブレーキ作動条件が満足されたときの前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液の変化量を監視するブレーキ液監視手段を更に有し、前記ブレーキ液監視手段は、前記ブレーキ液変化量演算手段で求めた前記変化量が予め設定した規定値から外れている場合、前記マスタシリンダ側のブレーキ液を前記液圧ポンプを経て前記蓄圧手段に蓄圧させた後、前記液圧回路に対するブレーキ液の供給状態を検出した計測物理量と設定物理量とを比較し、該計測物理量が該設定物理量に達したとき前記蓄圧手段へのブレーキ液の蓄圧を遮断させるブレーキ液引込み処理を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動ブレーキ作動時の液圧回路を経由するブレーキ液の変化量が予め設定した規定値から外れている場合、マスタシリンダに滞留しているブレーキ液を吸い込んで蓄圧手段に蓄圧させるようにしたので、運転者の極緩踏力によるブレーキペダル操作で、リザーバタンクとマスタシリンダとを連通するマスタポートの開口面積がマスタピストンによって絞られた場合、このマスタピストンを引込んで、マスタポートを閉塞させることができる。そして、その後、蓄圧手段に対する液路を遮断することで、マスタシリンダに滞留するブレーキ液をホイールシリンダに直ちに供給することができ、流量比の低下を抑制して、ブレーキ応答性を直ちに回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用自動ブレーキ装置の概略構成図
図2】(a)は開放状態にあるブレーキ液圧発生部の一部断面側面図、(b)は極緩踏力にてブレーキペダルを踏んでいる状態のブレーキ液圧発生部の一部断面側面図
図3】ブレーキ制御ユニットの概略構成図
図4】ブレーキ液監視ルーチンを示すフローチャート
図5】マスタピストン引込み処理ルーチンを示すフローチャート
図6】(a)は極緩踏力にてブレーキペダルを踏んでいるときのマスタピストンの状態を示すマスタシリンダの要部断面図、(b)マスタシリンダ内のブレーキ液を引込んだ状態を示すマスタシリンダの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。本実施形態による自動ブレーキ装置は、図1に示すブレーキ液圧発生部1、及びブレーキ液圧回路2と、図3に示すブレーキ制御手段としてのブレーキ制御ユニット3とを主な構成としており、このブレーキ制御ユニット3にブレーキ液監視手段としてのブレーキ液監視部3aが設けられている。
【0013】
ブレーキ液圧発生部1は、マスタシリンダ4と、このマスタシリンダ4に取付けられたリザーバタンク5と、このマスタシリンダ4にブレーキブースタ6を介して連設されているブレーキ操作部としてのブレーキペダル7とを有し、リザーバタンク5にはブレーキ液が貯留されている。又、ブレーキペダル7がオペレーティングロッド8を介してブレーキブースタ6に連設されている。
【0014】
図2に示すように、マスタシリンダ4はタンデム形であり、内部に第1、第2マスタピストン9a,9bが摺動自在に挿通されており、第2マスタピストン9bにブレーキブースタ6がプッシュロッド9を介して連設されている。 このマスタシリンダ4内は、第1マスタピストン9aによって第1液圧室11aが区画形成され、又、第1、第2マスタピストン9a,9b間に第2液圧室11bが区画形成されている。
【0015】
更に、第1、第2液圧室11a,11bに第1、第2圧縮ばね12a,12bがそれぞれ介装されており、これによって、第1マスタピストン9aは第1圧縮ばね12aによって第2マスタピストン9bの方向へ常時、押圧付勢され、第2マスタピストン9bは第2圧縮ばね12bの付勢力を受けて、ブレーキブースタ6の方向へ押圧付勢されている。又、リザーバタンク5と各液圧室11a,11bとが第1、第2マスタポート5a,5bを介してそれぞれ連通されている。
【0016】
又、マスタシリンダ4と車両の各車輪15a〜15dに設けられた主ブレーキの構成要素であるブレーキキャリパのホイールシリンダ13a〜13dとがブレーキ液圧回路2を介して連通されている。図1に示すように、このブレーキ液圧回路2は、第1液圧回路22と第2液圧回路23の二系統で構成されている。本発明によるブレーキ液圧回路2はクロス配管、或いは前後配管であり、第1液圧回路22が前右と後左或いは前左右の車輪15a,15bに設けたブレーキキャリパのホイールシリンダ13a,13bに連通され、第2液圧回路23が前左と後右或いは後左右の車輪15c,15dに設けたブレーキキャリパのホイールシリンダ13c,13dに接続されている。
【0017】
尚、第1液圧回路と第2液圧回路とは同一の構成であるため、以下においては同じ符号を付して説明を簡略にする。又、以下のブレーキ液圧回路22,23の構成を説明するに際しては、便宜的に、マスタシリンダ4からブレーキキャリパのホイールシリンダ13a〜13d側への流れを基準に、マスタシリンダ4側を上流、ホイールシリンダ13a〜13d側を下流として説明する。
【0018】
マスタシリンダ4には、第1、第2液圧室11a,11bに連通する第1、第2給排ポート14a,14bが設けられており、この各給排ポート14a,14bに第1液路L1の上流が接続され、下流が第2液路L2の中途に接続されている。第2液路L2はその上流側が蓄圧手段としての低圧アキュムレータ24に接続されている。又、この第2液路L2の下流側が第3液路L3、第4液路L4に分岐接続されており、この各液路L3,L4の下流が、各車輪15a,15b(15c,15d)に設けたブレーキキャリパを動作させて、各車輪15a,15b(15c,15d)にブレーキ力を発生させるホイールシリンダ13a,13b(13c,13d)に接続されている。
【0019】
一方、第3、第4液路L3,L4の中途に第5、第6液路L5,L6の上流が接続され、この第5、第6液路L5,L6の下流が第7液路に接続されており、この第7液路L7の下流が低圧アキュムレータ24に接続されている。
【0020】
第1液路L1にゲートインバルブ25が設けられ、又、第2液路L2の第1液路L1よりも下流に液圧ポンプ26が介装されている。更に、第1、第2液圧回路22,23の各液圧ポンプ26が共通の電動モータ27に接続されている。
【0021】
又、ゲートインバルブ25の上流側の第1液路L1と液圧ポンプ26の下流側の第2液路L2とが第8液路L8を介してバイパス接続されており、この第8液路L8にバイパスバルブ28が介装されている。更に、第2液路L2の第8液路L8よりも下流に第1ブレーキ液検知手段29a(第2ブレーキ液検知手段29b)が介装されている。このブレーキ液検知手段29a(29b)は、液圧ポンプ26から吐出されるブレーキ液の液圧を検出する液圧センサ、流量を検出する流量センサ等である。更に、第3、第4液路L3,L4に加圧バルブ30,31が介装され、第5、第6液路L5,L6に減圧バルブ32,33が介装されている。
【0022】
これら各バルブ25,28,30〜33(図3では「ブレーキアクチュエータ」と総称)は電磁ソレノイドバルブであり、ブレーキ制御ユニット3からの自動ブレーキ駆動信号に従って切換え動作される。このブレーキ制御ユニット3は、マイクロコンピュータを主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM、及び不揮発性メモリ等を有しており、ROMにはCPUが実行する各種プログラム、マップを代表とする固定データ等が記憶されている。更に、ブレーキ制御ユニット3は、図3に示すブレーキ液監視部3aを実行する機能を有している。
【0023】
このブレーキ液監視部3aは、ブレーキ制御ユニット3から出力される自動ブレーキ駆動信号をトリガとして起動され、先ず、第1、第2ブレーキ液検知手段29a,29bで検出したブレーキ液特性から自動ブレーキ作動時の立ち上がり変化量を求め、この変化量が規定内(正常)か否かを調べ、規定内に収まっていない場合、マスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bに滞留しているブレーキ液を第1、第2液圧回路22,23側に吸引して、マスタピストン9a,9bをブレーキ作動方向へ引込むマスタピストン引込み処理を実行させる。
【0024】
ブレーキ液監視部3aは、具体的には、図4に示すブレーキ液監視ルーチンに従ってブレーキ液特性を監視する。このルーチンでは、先ず、ステップS1で、ブレーキ制御ユニット3から出力される自動ブレーキ駆動信号を検出したか否かを調べる。
【0025】
自動ブレーキは、運転者がブレーキペダル7を開放している場合やブレーキペダル7を踏み込んでいてもその踏込み量が少ない場合において、必要に応じて、運転者のブレーキ操作とは独立してブレーキを作動させるものである。自動ブレーキ駆動信号は、ブレーキアシスト制御装置、自動緊急ブレーキ装置、横すべり防止制御装置、車間距離維持制御装置、車線逸脱防止支援装置等において、予め設定された自動ブレーキ動作条件が満足した場合に出力されて、自動ブレーキが作動する。
【0026】
又、自動ブレーキが非作動状態にあるとき、電動モータ27は停止しており、従って、液圧ポンプ26も停止されている。この状態では、ゲートインバルブ25が閉弁、バイパスバルブ28、加圧バルブ30,31が開弁、減圧バルブ32,33が閉弁しているノーマル状態となっている。
【0027】
従って、運転者がブレーキペダル7を踏み込むと、マスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bで発生したブレーキ液圧が、第1液路L1、第8液路L8、第2液路L2を経て、第3液路L3と第4液路L4とに分岐して各車輪15a〜15dに設けたブレーキキャリパのホイールシリンダ13a〜13dに供給される。そして、このブレーキ液圧により各車輪15a〜15dにブレーキ力が発生する。
【0028】
一方、ブレーキ制御ユニット3から自動ブレーキ駆動信号が出力されると、電動モータ27が駆動し、バイパスバルブ28、減圧バルブ32,33は閉弁状態となり、ゲートインバルブ25、加圧バルブ30,31が開弁状態となる。その結果、電動モータ27の駆動により液圧ポンプ26が回転し、ブレーキペダル7の操作とは独立にマスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bを介してリザーバタンク5に貯留されているブレーキ液が第1液路L1に吸い込まれる。
【0029】
そして、この第1液路L1に吸い込まれたブレーキ液は、図1の破線矢印に示すように、第2液路L2を経て、第3液路L3、第4液路L4に分岐されて、各ブレーキキャリパのホイールシリンダ13a〜13dに供給されて、各車輪15a〜15dにブレーキ力が発生する。尚、横すべり防止制御装置等のように、特定の車輪を制動するような場合は、対応する加圧バルブ30,31のみを開弁させる。
【0030】
上述したステップS1で、自動ブレーキ駆動信号が出力されていないと判定した場合は、そのままルーチンを抜ける。一方、自動ブレーキ駆動信号を検出した場合は、ステップS2へ進み、第1、第2ブレーキ液検知手段29a,29bで検出したブレーキ特性を読込む。その後、ステップS3へ進み、このブレーキ特性から両ブレーキ液圧の所定時間(例えば、0.5[sec])の変化量を算出する。
【0031】
この変化量は、第1、第2ブレーキ液検知手段29a,29bが液圧センサの場合は、ブレーキ液圧の上昇率、上昇加速度等から求める。又、流量センサの場合は、変化量を積算流量から求める。尚、第1、第2ブレーキ液特性、及び、これらの変化量は、自動ブレーキ駆動信号が検出されなくなるまで算出される。又、このステップS3での処理が、本発明のブレーキ液変化量演算手段に対応している。
【0032】
次いで、ステップS4,S5へ進み、ステップS4において第1ブレーキ液検知手段29aで検出したブレーキ液の変化量が、予め設定した規定の範囲内に収まっているか否か、すなわち、正常範囲にあるか否かを調べる。そして、規定内の場合は、第1液圧回路22を経由するブレーキ液圧は正常であると判定して、そのままルーチンを抜ける。
【0033】
又、ステップS5において、第2ブレーキ液検知手段29bで検出したブレーキ液の変化量が、予め設定した規定の範囲内に収まっているか否か、すなわち、正常範囲にあるか否かを調べる。そして、規定内の場合は、第2液圧回路23を経由するブレーキ液圧は正常であると判定して、そのままルーチンを抜ける。
【0034】
又、ステップS4,S5の少なくとも一方で、ブレーキ液圧の変化量が規定値から外れていると判定した場合は、ステップS6へ進み、マスタピストン引込み処理を実行してルーチンを抜ける。
【0035】
図2(a)に示すように、運転者がブレーキペダル7を開放している状態では、マスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bとリザーバタンク5とを連通する第1、第2マスタポート5a,5bは全開状態となっている。そのため、液圧ポンプ26の回転により、リザーバタンク5に貯留されているブレーキ液は小さい通過抵抗で第1、第2マスタポート5a,5bを通過して第1、第2液圧室11a,11bに流入し、第1、第2液圧回路22,23へ供給される。
【0036】
一方、図2(b)に示すように、運転者がブレーキペダル7を極緩踏力Fpで踏んでいる状態、すなわち、運転者がブレーキ操作を意図せずにブレーキペダル7をちょい踏みしている状態では、図6(a)に示すように、マスタシリンダ4に挿通されている第1、第2マスタピストン9a,9bが押圧されて、第1、第2マスタポート5a,5bの開口面積が全開状態のA1からA2の状態に絞られる。
【0037】
その結果、この第1、第2マスタポート5a,5bが絞りとなって大きな通過抵抗が発生し、第1、第2液圧回路22,23を経由してホイールシリンダ13a〜13dに供給されるブレーキ液の流量比(フローレート)が制限され、圧力上昇に遅れが生じてブレーキ応答性の低下を招く。そのため、本実施形態では、ステップS6において、マスタピストン引込み処理を実行し、第1、第2マスタピストン9a,9bを引込んで、図6(b)に示すように、第1、第2マスタポート5a,5bを閉弁させる。尚、図6(b)では、説明を容易にするために第1、第2圧縮ばね12a,12bを省略している。
【0038】
このステップS6でのマスタピストン引込み処理は、図5に示すマスタピストン引込み処理サブルーチンに従って実行される。
【0039】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS11で減圧バルブ32,33を開弁させ、ステップS12へ進み、マスタピストン引込み処理開始時から計測したブレーキ液の供給状態を示す計測物理量としての物理量Mvと設定物理量Moとを比較する。そして、物理量Mvが設定物理量Moに達するまで待機し、設定物理量Moに達したとき(Mv≧Mo)、ステップS13へ進み、減圧バルブ32,33を閉弁させ、自動ブレーキ作動時の液路に戻してルーチンを抜ける。
【0040】
ステップS11で、減圧バルブ32,33を開弁させると、第3、第4液路L3,L4を経て、低圧アキュムレータ24に液圧ポンプ26が連通される。そのため、この液圧ポンプ26から吐出されるブレーキ液は、ホイールシリンダ13a,13b(13c,13d)と低圧アキュムレータ24との双方に蓄圧される。特に、低圧アキュムレータ24の容量分が増加したことにより、液圧ポンプ26から吐出されるブレーキ液の流速が加速され、相対的に、マスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bに滞留するブレーキ液の、第1、第2油圧回路22,23側への引込み流速が急増する。
【0041】
その結果、第1、第2液圧室11a,11bから吸い出される単位時間当たりのブレーキ液量が、リザーバタンク5から第1、第2マスタポート5a,5bを通過して第1、第2液圧室11a,11bに流入するブレーキ液量よりも多くなり、吸い出されるブレーキ液流速の急増により、第1、第2マスタピストン9a,9bがブレーキ作動方向へ引込まれ、図6(b)に示すように、第1、第2マスタポート5a,5bが閉塞される。
【0042】
又、ステップS12で読込まれる物理量Mvは、例えば経過時間、液圧ポンプ26下流のブレーキ液流量或いはブレーキ液圧であり、対応する設定物理量Moは設定時間、設定流量、設定液圧である。
【0043】
設定物理量Moが設定時間の場合、この設定時間は液圧ポンプ26の単位時間当たりの吐出量と低圧アキュムレータ24の蓄圧容量とに基づき、この低圧アキュムレータ24が飽和状態となる時間に基づいて設定される。又、設定流量の場合、低圧アキュムレータ24が飽和状態となる積算流量に基づいて設定される。更に、設定液圧の場合、低圧アキュムレータ24が飽和状態に達したときのブレーキ液圧に基づいて設定される。尚、物理量Mvの内、ブレーキ液流量、ブレーキ液圧は、第1、第2ブレーキ液検知手段29a,29bによって検出される。
【0044】
従って、マスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bに滞留するブレーキ液は、低圧アキュムレータ24が飽和状態に達するまで吸引され、その際、マスタピストン9a,9bがブレーキ作動方向へ引込まれて、第1、第2マスタポート5a,5bを閉塞する。すると、第1、第2液圧室11a,11bは、第1、第2給排ポート14a,14bにのみ連通されるため、この第1、第2液圧室11a,11bに滞留するブレーキ液が第1、第2液圧回路22,23側に吸い出され、同時に、マスタピストン9a,9bがブレーキ作動方向へ引込まれる。
【0045】
その結果、フローレートの低下が抑制され、第1、第2液圧室11a,11bに滞留するブレーキ液が、第1、第2液圧回路22,23を経て各車輪15a〜15dに設けたブレーキキャリパのホイールシリンダ13a〜13dに供給されて、ブレーキ応答性が直ちに回復される。
【0046】
又、減圧バルブ32,33が遮断されると、低圧アキュムレータ24に蓄圧されているブレーキ液が、内装する調圧ばね等の調圧付勢部材の付勢力で液圧ポンプ26の方向へ吐出される。そのため、液圧ポンプ26から吐出されるブレーキ液量が増加し、それによって、各ホイールシリンダ13a〜13dに供給されるブレーキ液の流量比(フローレート)が増加し、早期に圧力上昇させて、ブレーキ動作させることができる。
【0047】
一方、上述したように、このマスタピストン引込み処理により、マスタピストン9a,9bが引込まれると、このマスタピストン9a,9bに連設するブレーキペダル7が踏込み方向へ回動するため、運転者の極緩踏力Fpがブレーキ動作を加勢することになり、自動ブレーキ作動時のブレーキ応答性をより一層向上させることができる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、自動ブレーキ作動時に、運転者がブレーキ操作を意図しない極緩踏力によってブレーキペダルをちょい踏みしていることにより、リザーバタンク5とマスタシリンダ4の第1、第2液圧室11a,11bとを連通するマスタポート5a,5bの開口面積が、図6(a)に示すようなAの状態に絞られ、リザーバタンク5に貯留されているブレーキ液が第1、第2液圧室11a,11bに流入する際の通過抵抗によって、ホイールシリンダ13a〜13dに供給されるブレーキ液の流量比(フローレート)が制限された場合、マスタシリンダ4のブレーキ液を液圧ポンプ26を介してアキュムレータ24に蓄圧させるようにしたので、第1、第2液圧室11a,11bからの液圧ポンプ26によって吸い込まれるブレーキ液量が急増し、マスタピストン9a,9bがブレーキ作動方向へ引込まれて、第1、第2マスタポート5a,5bが閉塞される。
【0049】
その後、減圧バルブ32,33を閉弁させることで、第1、第2液圧室11a,11bに滞留するブレーキ液をホイールシリンダ13a〜13dに供給させることができ、フローレートの低下が抑制されて、ブレーキ応答性を直ちに回復させることができる。
【0050】
又、減圧バルブ32,33が閉弁すると、低圧アキュムレータに蓄圧されたブレーキ液が液圧ポンプ26を経てホイールシリンダ13a〜13dに供給されるため、ブレーキ応答性をより一層効率良く回復させることができる。
【0051】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、図1に示す第1、第2液圧回路22,23は一例であり、蓄圧手段は低圧アキュムレータ24に限らず、液圧回路22,23に別途介装するようにしても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…ブレーキ液圧発生部、
2…ブレーキ液圧回路、
3…ブレーキ制御ユニット、
3a…ブレーキ液監視部、
4…マスタシリンダ、
5…リザーバタンク、
5a,5b…マスタポート、
6…ブレーキブースタ、
7…ブレーキペダル、
9a…第1マスタピストン、
9b…第2マスタピストン、
11a…第1液圧室、
11b…第2液圧室、
13a〜13d…ホイールシリンダ、
22…第1液圧回路、
23…第2液圧回路、
24…低圧アキュムレータ、
25…ゲートインバルブ、
26…液圧ポンプ、
27…電動モータ、
28…バイパスバルブ、
29a…第1ブレーキ液検知手段、
29b…第2ブレーキ液検知手段、
30,31…加圧バルブ、
32,33…減圧バルブ、
Fp…極緩踏力、
L1〜L8…第1〜第8液路、
Mv…物理量、
Mo…設定物理量
図1
図2
図3
図4
図5
図6