(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697467
(24)【登録日】2020年4月28日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】オスペミフェン及びフィスペミフェンを調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 41/16 20060101AFI20200511BHJP
C07C 43/23 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
C07C41/16
C07C43/23 E
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-534591(P2017-534591)
(86)(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公表番号】特表2018-501273(P2018-501273A)
(43)【公表日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】IB2015060007
(87)【国際公開番号】WO2016108172
(87)【国際公開日】20160707
【審査請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】MI2014A002267
(32)【優先日】2014年12月29日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513190416
【氏名又は名称】オロン エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】クリスチアーノ,タニア
(72)【発明者】
【氏名】アルペジャーニ,マルコ
【審査官】
高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−518150(JP,A)
【文献】
特表平10−505079(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103242142(CN,A)
【文献】
特表2013−517320(JP,A)
【文献】
特開2009−215189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/16
C07C 43/23
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オスペミフェン又はフィスペミフェンを調製するためのプロセスであって、式4:
【化1】
で示される化合物と、式7:
【化2】
[式中、Xは、脱離基であり、そしてYは、基−(OCH
2CH
2)
nOH(式中、nは、0又は1である)である]で示される化合物を反応させ、式8:
【化3】
[式中、Yは、上に定義されるとおりである]で示される化合物を得ることを含む、プロセス。
【請求項2】
Xが、塩素、臭素、ヨウ素、メシルオキシ又はトシルオキシより選択される脱離基である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプロセスであって、Xが、請求項中で定義されるとおりであり、そしてnが、0である、式8(式中、Yは、−OHである)で示される化合物を得るための、プロセス。
【請求項4】
請求項1又は2記載のプロセスであって、Xが、請求項中で定義されるとおりであり、そしてnが、1である、式8(式中、Yは、−OCH2CH2OHである)で示される化合物を得るための、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の目的
本発明の目的は、活性成分であるオスペミフェン(ospemifene)及びフィスペミフェン(fispemifene)を調製するためのプロセスである。
【背景技術】
【0002】
先行技術
その化学名が2−{4−[(1Z)−4−クロロ−1,2−ジフェニル−1−ブテン−1−イル]フェノキシ}エタノール(図面)であるオスペミフェンは、非ステロイド性の選択的なエストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であり、これは閉経後に誘発される、外陰部の及び膣の萎縮を処置するために最近承認された医薬の活性成分である。
【0003】
特許文献1及び2に開示されているオスペミフェンの調製には、スキーム1で報告する反応シークエンスが含まれる:
【0004】
【化1】
【0005】
第1工程は、相転移の条件下、ベンジル−(2−ブロモエチル)エーテルを用いる
1のアルキル化を含む。得られた生成物
2と、トリフェニルホスフィン及び四塩化炭素を反応させてクロロ−誘導体
3を得、そこからベンジル保護基を水素化分解により除去してオスペミフェンを得る。
【0006】
より直接的にオスペミフェンを調製する方法は、特許文献3に開示されており、スキーム2で説明する。
【0007】
【化2】
【0008】
化合物 X−CH
2−CH
2−O−PG(式中、PGは、ヒドロキシ保護基であり、そしてXは、脱離基(具体的には、塩素、臭素、ヨウ素、メシルオキシ又はトシルオキシ)である)で
4をアルキル化することにより中間体
5(PG=保護基)を得、次いで保護基を除去することによりオスペミフェンに変換する。
【0009】
或いは(特許文献3)、式 X−CH
2−COO−R(式中、Xは、脱離基であり、そしてRは、アルキルである)で示される化合物でフェノール
4をアルキル化して式
6で示される化合物を得、次いでそのエステル基を還元してオスペミフェンを得る(スキーム3)。
【0010】
【化3】
【0011】
オスペミフェンの合成プロセスはまた、以下の文献に開示されている(スキーム2及び3に示すものとの関連はない):特許文献4、5、6、7及び8。
【0012】
その化学名が(Z)−2−[2−[4−(4−クロロ−1,2−ジフェニルブタ−1−エニル)フェノキシ]エトキシ]エタノール(図面)であるフィスペミフェンは、非ステロイド性の選択的なエストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であり、最初に特許文献9に開示された。特許文献10及び11は、男性のアンドロゲン欠乏症に関連する症状の治療及び予防における当該生成物の使用を示唆している。当該生成物は、男性の神経障害を処置するための臨床試験段階にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/07402号
【特許文献2】国際公開第97/32574号
【特許文献3】国際公開第2008/099059号
【特許文献4】中国特許出願公開第104030896号明細書
【特許文献5】国際公開第2014/060640号
【特許文献6】国際公開第2014/060639号
【特許文献7】中国特許出願公開第103242142号明細書
【特許文献8】国際公開第2011/089385号
【特許文献9】国際公開第01/36360号
【特許文献10】国際公開第2004/108645号
【特許文献11】国際公開第2006/024689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
文献に記載されているオスペミフェン及びフィスペミフェンの合成経路の評価によると、
4がトレミフェン(toremifene)(エストロゲン受容体のアンタゴニスト)(ITMI20050278)の合成における重要な中間体でもあるため、化合物
4を使用するもの(スキーム2及び3)が特に興味深い。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の説明
本発明者らは、驚くべきことに、フェノール
4を、式
7:
【化4】
[式中、Xは、脱離基であり、そしてYは、−(OCH
2CH
2)
nOH基(式中、nは、0又は1である)であるか;或いは、X及びYは、一緒になって、酸素原子を表す]で示されるアルキル化剤でアルキル化し、式
8:
【化5】
[式中、Yは、上に定義されるとおりである]で示される化合物を得ることによって、
オスペミフェン及びフィスペミフェンを有利に合成できることを見出した。
【0016】
Yが、−(OCH
2CH
2)
nOH(式中、nは、0である)である場合、式
8は、オスペミフェンを表す。
【0017】
Yが、−(OCH
2CH
2)
nOH(式中、nは、1である)である場合、式
8は、フィスペミフェンを表す。
【0018】
したがって、フェノール
4は、アルキル化試薬中に存在するヒドロキシル官能基の保護及びその後の脱保護を必要とせずに、本発明によりアルキル化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】オスペミフェン及びフィスペミフェンの構造式
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
式
7で示される化合物の脱離基Xは、好ましくは、ハロゲン(例えば、塩素、臭素又はヨウ素)、或いはアルキルの又はアリールのスルホン酸エステル(例えば、メシルオキシ若しくはトシルオキシ)である。
【0021】
本発明の一つの実施態様において、式
7で示される化合物中、Xは、上で定義されるように脱離基であり、そしてYは、−(OCH
2CH
2)
nOH(式中、nは、0である)であり、スキーム4で報告するように
7と
4との反応でオスペミフェンを得る。
【0023】
本発明の別の実施態様において、式
7で示される化合物中、X及びYは、一緒になって、酸素原子を表し、式
7で示される化合物は、酸化エチレンであり、スキーム5で報告するように
7と
4との反応でオスペミフェンを得る。
【0025】
本発明の別の実施態様において、Xは、上で定義されるように脱離基であり、そしてnは、1であり、スキーム6で報告するように
7と
4との反応でフィスペミフェンを得る。
【0027】
フェノール
4とアルキル化試薬
7(式中、Xは、上で定義されるように脱離基であり、そしてYは、上で定義されるように−(OCH
2CH
2)
nOH基である)との間の反応は、非プロトン性溶媒中(好ましくは、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、tert−ブチルメチルエーテル)、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン)、ニトリル(例えば、アセトニトリル)及び炭化水素(例えば、トルエン及びキシレン)より選択される)、塩基(好ましくは、アルカリ金属の或いはアルカリ土類金属の、アルコキシド、アミド、炭酸塩、酸化物又は水素化物(例えば、カリウムtert−ブトキシド、リチウムビス−トリメチルシリルアミド、炭酸セシウム及び炭酸カリウム、酸化カルシウム及び水素化ナトリウム)より選択される)の存在下、達成され得る。
【0028】
反応は、フェノール
4のアルカリ塩又はアルカリ土類塩をインサイチュで形成することを含み得るか、或いは当該塩を単離し、次にアルキル化試薬
7と反応させ得る。好都合に単離することができるフェノール
4の塩の例は、ナトリウム塩及びカリウム塩である。当該塩は、公知の方法により(例えば、対応する水酸化物での処理(文献ITMI20050278に記載されているような、水酸化カリウム水溶液を用いた処理による、フェノール
4のカリウム塩の調製を参照のこと)により)調製することができるか、又は本出願の実施例に記載されているように、フェノール
4のナトリウム塩を調製するための対応するアルコキシド(例えば、メタノール中のナトリウムメチラート)から調製することができる。
【0029】
アルキル化反応において使用するための、インサイチュで調製され得るか又は単離され得るフェノール
4の他の塩は、第四級アンモニウム塩(好ましくはテトラブチルアンモニウム塩)である。
【0030】
フェノール
4とアルキル化試薬
7(式中、Xは、上で定義されるように脱離基であり、そしてYは、上で定義されるように−(OCH
2CH
2)
nOH基である)との間の反応はまた、水と混和しない有機溶媒と、無機塩基(例えば、アルカリの或いはアルカリ土類の、水酸化物又は炭酸塩)の水溶液とを含む二相性液体−液体系中(例えば、トルエンと水酸化カリウムの水溶液からなる二相系中)で、達成され得る。
【0031】
反応はまた、有機溶媒(例えば、トルエンのような芳香族炭化水素)又は塩素系溶媒(塩化メチレンのような)、上で定義されるような無機塩基(例えば、炭酸カリウム)、及び触媒のうち相転移の条件下での反応によく使用されるもの(例えば、第四級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド及び類似の塩のような))を含む二相性固体−液体系中で、実施することができる。
【0032】
フェノール
4とエチレンオキシド(式
7(式中、X及びYは、一緒になって、酸素原子を表す)からなる)との間の反応は、プロトン性又は非プロトン性溶媒中、酸性又は塩基性触媒の存在下で達成され得るか、或いは、第四級アンモニウム塩又はホスホニウム塩によって触媒され得る。
【0033】
反応は、所望の生成物を得るのに十分な時間及び温度で実施される。得られる生成物の収率及び純度を最適化するための最も有効な反応条件は、当業者によって容易に特定され得る。
【0034】
式
4及び式
7の生成物は、公知の生成物である。
【0035】
ここで、本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1
水素化ナトリウム(4.2g)を、不活性ガスの環境中、4−(4−クロロ−1,2−ジフェニル−ブテン−1−イル)フェノール(10g)のテトラヒドロフラン(120mL)中溶液に少しずつ添加し、混合物を室温で1時間、撹拌下で維持する。2−ヨードエタノール(11mL)を滴下して加え、反応混合物を約9時間還流する。水を加え、混合物を濃縮し、酢酸エチルで抽出する。有機相を炭酸ナトリウム水溶液で、次に水で洗浄し、次に減圧下で濃縮する。メタノール−水(約5:1)からの残留物を結晶化した後で、9.9gの粗オスペミフェンを得る。
【0037】
実施例2
ナトリウムメチラートのメタノール(6.25mL)中溶液を、不活性ガスの環境中、4−(4−クロロ−1,2−ジフェニル−ブテン−1−イル)フェノール(10g)のメタノール(100mL)中溶液に加え、撹拌下、室温で1時間維持する。混合物を減圧下で濃縮し、テトラヒドロフラン(100mL)に溶かす。2−ヨードエタノール(3.5mL)のテトラヒドロフラン(30mL)中溶液を滴下して加え、反応混合物を約3時間還流する。水を加え、混合物を濃縮し、酢酸エチルで抽出する。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で、最後に水で洗浄する。次に得られた溶液を減圧下で濃縮し、メタノール−水から結晶化させて、5.8gの粗オスペミフェンを得る。
【0038】
実施例3
カリウムtert−ブチラート(2.0g)を、不活性ガスの環境中、4−(4−クロロ−1,2−ジフェニル−ブテン−1−イル)フェノール(5g)のtert−ブタノール(75mL)中溶液に加え、撹拌下、室温で1時間維持する。溶媒を減圧下で濃縮し、濃縮物をテトラヒドロフラン(50mL)に溶かす。2−ヨードエタノール(1.7mL)のテトラヒドロフラン(15mL)中溶液を約30分間で加え、次に反応混合物を約2時間還流する。次に、実施例1に記載されているようにプロセスを続け、2.9gの粗オスペミフェンを得る。
【0039】
実施例4
50%水酸化カリウム水溶液(4.4mL)を、不活性ガス環境中、4−(4−クロロ−1,2−ジフェニル−ブテン−1−イル)フェノール(2g)のトルエン(20mL)中溶液に加え、室温で15分間、撹拌下で維持する。2−ヨードエタノール(2.2mL)を約30分間で加え、反応混合物を還流し、その温度で約7時間維持する。水の添加の後、相を分離する。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で、最後に水で洗浄する。次に有機相を減圧下で濃縮する。メタノール−水(約5:1)からの残留物を結晶化した後に、0.85gの粗オスペミフェンを得る。