(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697546
(24)【登録日】2020年4月28日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータ
(51)【国際特許分類】
A61B 18/02 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
A61B18/02
【請求項の数】12
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-513601(P2018-513601)
(86)(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公表番号】特表2018-534006(P2018-534006A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】IB2016055697
(87)【国際公開番号】WO2017051367
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2018年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】518083261
【氏名又は名称】メディデータ エスピー. ゼット オー. オー.
【氏名又は名称原語表記】MEDIDATA SP. Z O.O.
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】スヴァルスキ, ピオトル
(72)【発明者】
【氏名】ステック, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】チョウダリ, サンジーヴ
【審査官】
菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/160574(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0276704(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0069901(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0276700(US,A1)
【文献】
特表2009−524469(JP,A)
【文献】
特表2008−509751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付部品、縦軸に沿って延出し第一の端部および第二の端部を有するリジットなピン、断熱部品およびリジットなエフェクターチップを備え、
前記ピンの前記第一の端部が前記締付部品と接続し、前記ピンの前記第二の端部が前記エフェクターチップと接続し、前記エフェクターチップは前記ピンの前記縦軸に対して第一の平面に沿って60°〜90°の角度で恒久的に屈曲し、前記エフェクターチップはまた前記縦軸に対して第二の平面に沿って5°〜60°の角度で恒久的に屈曲し、
前記断熱部品は断熱カバーからなり、前記断熱カバーは前記ピンよりも短く、前記断熱カバーは前記ピン上に位置し前記ピンの前記縦軸に沿って第一の設定と第二の設定との間で摺動可能であり、
前記第一の設定において前記断熱カバーが前記ピンのカバリングを除去し、これにより前記エフェクターチップはこれが固定される第一の適用位置と、これが時計方向若しくは反時計方向に回転する第二の適用位置をとり、
前記第二の設定において前記断熱カバーが前記エフェクターチップをカバーする休止位置となる、
低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータ。
【請求項2】
前記第二の平面に沿って前記エフェクターチップが10°〜45°の角度で屈曲していることを特徴とする、請求項1に記載のクライオアプリケータ。
【請求項3】
前記第一の平面に沿って前記エフェクターチップが75°〜90°の角度で屈曲していることを特徴とする、請求項1または2に記載のクライオアプリケータ。
【請求項4】
前記断熱カバーの末端が、前記断熱カバーの中間部分よりも大きい直径を有するリングである、請求項1から3に記載のクライオアプリケータ。
【請求項5】
前記断熱カバーの末端が円錐台であることを特徴とする、請求項1から4に記載のクライオアプリケータ。
【請求項6】
前記断熱カバーがポリテトラフルオロエチレンで作られていることを特徴とする、請求項1から5に記載のクライオアプリケータ。
【請求項7】
前記ピンが耐酸性の鋼で作られていることを特徴とする、請求項1から6に記載のクライオアプリケータ。
【請求項8】
前記エフェクターチップが金と銅の合金で作られていることを特徴とする、請求項1から7に記載のクライオアプリケータ。
【請求項9】
前記ピンが1H18N9T鋼で作られていることを特徴とする、請求項1から8に記載のクライオアプリケータ。
【請求項10】
前記エフェクターチップが金とアルミニウムの合金から作られていることを特徴とする、請求項7または9に記載のクライオアプリケータ。
【請求項11】
前記第一の平面は前記第二の平面と非並行であることを特徴とする、請求項1に記載のクライオアプリケータ。
【請求項12】
前記第一の平面は前記第二の平面に対して垂直であることを特徴とする、請求項11に記載のクライオアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、心臓外科手術の間に組織、特に、心臓組織を局所的に凍結するために設計された低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータである。本発明は、心不整脈、特に心房細動を治療するために心房の冷凍アブレーションを実施するように設計される。本発明は、主に小開胸切除術(minithoractonomy)による心内膜および心外膜アブレーションを意図する。
【背景技術】
【0002】
様々な心臓介入処置(ほとんどの場合、僧帽弁の修復または交換)が実施されているが、いわゆる随伴心房細動(accompanying atrial fibrillation)の外科的アブレーションが治療標準と認められている。この方法は、ポーランド、欧州および米国の著名な心臓学および心臓外科手術学会の治療ガイドラインで推奨されている。
【0003】
保護権PL65217Y1の記述から、液体窒素とSuwalski心臓外科手術クライオアプリケータのセットを使用した心臓外科手術器具を開示する実用新案が知られている。PL65217Y1明細書で開示されているクライオアプリケータは、締付部品、断熱部品およびエフェクターチップからなる。締付スリーブスロット中に取り付けられた各締付部品は、同じ形状および横断面を有する。締付部品は2つのスリーブの形態を有し、一方は直径Bを示し、クライオアプリケータの端部上に位置する他方は直径A、すなわち供給ラインの第一内部チューブの締付成分の直径を示す。クライオアプリケータスロット中に取り付けられた締付部品は、末端が外半径差の小さな2つのリングである。第一クライオアプリケータのエフェクターチップはアーチフラグメントとして形成され、わずかに傾いている。第二クライオアプリケータのエフェクターチップもアーチフラグメントとして形成されているが、第一チップよりも短い。第三クライオアプリケータのエフェクターチップは、他のものよりも大きな直径を有し、断熱部品に関してある角度で屈曲している。第四クライオアプリケータのエフェクターチップはアーチフラグメントとして形成され、第一および第二チップよりも長い。第五クライオアプリケータのエフェクターチップはT字型である。
【0004】
上記クライオアプリケータの欠点は、いわゆる小開胸切除術によって心臓にアクセス可能であり、他の胸部位置でのアクセスが著しく制限されている低侵襲手術の間の適切な操作が可能でないことである。さらに、クライオアプリケータは複数のエフェクターチップを含む。
【0005】
末端がアブレーションニードルである屈曲したエフェクターチップからなる米国特許第2014066914号の凍結療法器具も知られている。冷媒は、液体窒素、亜酸化窒素(N
2O)、二酸化炭素(CO
2)、クロロジフルオロメタン、ポリジメチルシロキサン、エチルアルコール、クロロフルオロカーボンまたは他の好適な流体である。本発明は、特別なニードルを使用した心臓組織穿刺によって機能する、貫通カテーテル(「ニードル様アブレーションチップ」)を記載する。それは筋肉内冷凍アブレーションであって、心外膜アブレーションではない。ジュール・トムソン現象、つまり、高圧縮ガスを低圧チャンバ(例えば、CO
2N
2Oなど)に急速に減圧して、即時温度降下をもたらすことに関連したガス転換を使用して、低温を達成する。
【発明の概要】
【0006】
本発明による低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータは、締付部品、断熱部品およびエフェクターチップからなる。これは、ピン(1)が1つの端部で締付部品(2)と接続され、そして第二の端部(3)でエフェクターチップと接続され、エフェクターチップ(3)は側面図においてピン縦軸に関して60°〜90°、好ましくは75°〜90°の角度で屈曲し、一方、上面図において5°〜60°、好ましくは10°〜45°の角度で屈曲していることを特徴とする。さらに、断熱カバー(4)はピン(1)上に位置し、縦軸に沿って摺動することが可能である。エフェクターチップ形状は、回転後に他の適用の実施を可能にし、断熱カバーの可動性は、クライオアプリケータの露出した低温部分の調節を保証する。
【0007】
好ましい変形において、断熱カバー(4)はピン(1)よりも短い。他の好ましい変形では、断熱カバー(4)は、その中間部分よりも大きな直径を有するリング(5)が末端にある。他の好ましい変形では、断熱カバー(4)は末端が円錐台(6)である。他の好ましい変形では、断熱カバー(4)はポリテトラフルオロエチレンで作られている。他の好ましい変形では、ピン(1)は耐酸性鋼、特に1H18N9T鋼で作られている。他の好ましい変形では、エフェクターチップ(3)は、金と銅または金とアルミニウムの合金で作られている。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的および解決すべき技術的障害は、低侵襲手術用低圧クライオアプリケータを得ることであり、したがって、典型的な胸骨切開ではなく小開胸切除術を用いて、すなわち胸部の最前部ではなく、腋窩下の右側で心臓にアクセスする。さらに、多数のエフェクターチップは問題を提起した。左心房および右心房は非常に複雑な空間的構造を有する三次元的解剖学的形態であるので、技術的問題を解決することは困難である。胸骨切開(古典的アクセス法)と比較してアクセス角の変更および外皮(手術創傷)からの距離の増加も、全く新しい概念を必要とする。平均心房サイズは約3〜6cmであるので、利用可能な空間は非常に限定されることも留意すべきである。さらに、外皮における限定された小開胸切除術手術創傷は胸骨切開中よりも約4〜5倍小さく、それは長さおよび幅を指す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるクライオアプリケータの長所は、本願で開示される角度によって2平面でエフェクティブチップを屈曲させることにより、実用新案PL65217Y1の場合と同様に、そして断熱カバーを移動させることができるために、エフェクティブチップを複数ではなく1つだけ使用して小開胸切除術により外科手術を実施することが可能であることである。エフェクターチップ形状を左心房および右心房の形状(適切なアクセション角度を得る)に対して同時に調節し、同時にクライオアプリケータの低温部分を被覆または露出できることによって有益な効果が得られる。ピンに関する断熱カバーの軸可動性は、特定の患者の構造および全アブレーション処置中の特定の解剖学的位置における適用の両方に応じて、同時に数センチメートルの小さな部分でアブレーションを妨害または不可能にすることができる場所で貫通部分の直径を同時に増加させることなく、外科手術中の変化する解剖学的状態に対するカバー位置の動的調節を可能にする(処置は、左心房および右心房内のクライオアプリケータを使用する複数の適用からなる)。さらに、断熱カバーはピンアイシングを防止して、処置の安全性を増加させる(他の組織のランダム凍結)。
【0010】
エフェクターチップの屈曲は、クライオアプリケータの時計回りまたは反時計回りの回転のみで、胸部からクライオアプリケータを除去する必要なしに次の適用の正確な実行(回転後、屈曲は新しい適用位置に適応する)を可能にする方法で調節される。
【0011】
断熱カバーの軸方向の摺動が同時に可能な本発明のエフェクターチップを用いた操作は、冷凍アブレーション効果に相乗的に影響を及ぼし、その結果:
・作業時間を短縮する;
・エフェクターチップ置換を必要としない(したがって、心臓外科医の気を散らさない);
・1つのエフェクターチップで操作する方法を実施する方が複数よりも簡単なので、クライオアプリケータを手動で制御するのが容易になり、その結果、操作リスクを低減する;
・良好なエフェクターチップの当接を確実にし、それによって、アブレーションラインの連続性を確実にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータは、図面中で示した例で示される。
【
図1】
図1は、より長い断熱カバーを有する本発明によるクライオアプリケータの側面図を示す。
【
図2】
図2は、より短い断熱カバーを有する本発明によるクライオアプリケータの側面図を示す。
【
図3】
図3は、断熱カバーのない本発明による クライオアプリケータの上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による低侵襲外科的心臓アブレーション用クライオアプリケータは、締付部品、断熱部品およびエフェクターチップからなる。耐酸性鋼(好ましくは1H18N9T鋼)で作られたピン(1)は、1つの端部で締付部品(2)と、そして第二の端部で金と銅の合金で作られたエフェクターチップ(3)と接続されている。銅の使用のために、この合金は良好な熱伝導率を提供し、金の使用は酸化を著しく低減する。さらに、アルミニウムを銅の代わりに使用できる。しかしながら、エフェクターチップ(3)をピン(1)縦軸に関して側面図において60°〜90°の角度で、そして上面図において5°〜60°の角度で屈曲させる。それでも、ほとんどの人間工学では、ピン(1)縦軸に関して側面における屈曲については75°〜90°の角度であり、上面図において10°〜45°であった。さらに、断熱カバー(4)はピン(1)上に位置し、縦軸に沿って摺動する可能性がある。断熱カバー(4)は場合によってピン(1)と等しい長さであるか、または短くてもよく、これにより断熱カバー(4)の移動、したがってピン(1)のカバリング除去またはエフェクターチップ(3)のカバリングが可能になる。さらに、断熱カバー(4)は、直径の滑らかな変化を得るために、末端が円錐台(6)である。
【0014】
液体窒素はクライオアプリケータを通って流れる冷媒であり、したがって断熱カバー(4)は、その断熱材としての特性に加えて、心臓外科手術中の断熱カバー(4)の操作の間に好ましい潤滑性も有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作られている。断熱カバーがさらにクライオアプリケータに冷媒を供給する器具中に移動できなくするために、その中間部分よりも大きな直径を有するリング(5)で断熱カバー(4)を閉鎖する。
【0015】
応用例。本発明は、心房の外科的アブレーションを意図する。アブレーションは心房内の適切な形状を有する瘢痕の制御された生成に基づき、この瘢痕は、心臓における電気的パルスの異常な(不整脈の場合)シーケンスを修正する。本発明によるクライオアプリケータの使用は、低温の発生により、心筋細胞の局所壊死および瘢痕形成を誘導する、心房組織に対して前記形状を有するクライオアプリケータを適用することによる前記瘢痕の生成である、いわゆる冷凍アブレーションの実施(医学、例えば皮膚科学、外科手術、腫瘍学の多くの分野で数十年にわたって使用されている技術)を意味する。
【0016】
低温の発生は、発生器に由来し、クライオアプリケータを通る低圧窒素の流れによって実施され、エフェクターチップ(3)の−180℃から−160℃の温度への冷却をもたらす。望ましい温度範囲は、液体窒素発生器の制御ユニット中に位置するサーミスタによって制御される。1回の適用は約1分間持続する。アブレーションライン治療パターンを生成させるために約2〜4回の適用が必要である。本発明の使用は、心臓または他の組織上にさらなる切開は必要ない。心臓外科手術全体は12〜15分間延長される。低温を有するものを含む様々なエネルギー源を用いたアブレーションに関する多くの刊行物では、同時に高い治療有効性を有する主な心臓外科手術の一般的結果に対する悪影響は報告されていなかった。
【0017】
本発明の形状は、胸骨切開による典型的な手術中の使用を可能にするが、小開胸切除術による低侵襲手術に調節される。それは、器具全体の長さ、そして特に、特定のアクセション角度から左心房および右心房の形状に、そして必要な幅で適用を実施するためにその適切な直径に適合された、エフェクティブチップ(3)の適切な形状に関連する。
クライオアプリケータは、変形、腐食または低温下での物理的もしくは化学的特性の変化に対して耐性である金属合金で作られていた。クライオアプリケータを通る液体窒素流は、低圧法を使用して実施する。さらに、本発明は電気的に中性である。
【符号の説明】
【0018】
1・・・ピン、2・・・締付部品、3・・・エフェクターチップ、4・・・断熱カバー、5・・・リング、6・・・円錐台