(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二供給管および前記排気管が接続され、前記複数の反応室のすべてと連通するように配置されたパージ室をさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の原子層堆積装置。
【背景技術】
【0002】
ALDは、ピンホールのない緻密な薄膜を基材表面形状に沿って形成できる方法として、半導体の高誘電率材料(High−K)や絶縁層に使用されている。
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、OLED)のディスプレーや照明への商品化がはじまり、スマートフォンなどに使用され始めた。これらのOLEDディスプレーはガラス基材を使用しており、落下によるディスプレーの破損や軽量化、持ち運び性の点から、ポリマー等からなるフレキシブル基材を使用したOLEDディスプレー、OLED照明の開発が望まれている。しかし、OLEDディスプレー、OLED照明に使用されている材料は水蒸気や酸素により劣化しやすいために、これらの蒸気やガスを遮断する機能が要求されている。具体的には水蒸気透過率が10
−6g/m
2/day以下が望まれている。
特許文献1に、OLEDに用いるガスバリア層として、ALDで形成された酸化アルミニウムが有効であることが記述されており、ALDがOLED用の高いガスバリア性を実現する有望な製造方法であることが示唆されている。
【0003】
ALDの基本的な流れについて説明する。第一ステップにおいて、反応容器に静置された基材にガス状の第一前駆体を供給し、第一前駆体を基材に飽和吸着(化学吸着)させる。続く第二ステップにおいて、反応容器にパージガスを導入し基材表面の余剰の第一前駆体(物理吸着したもの)を除去する。続く第三ステップにおいて、反応容器にガス状の第二前駆体を導入し、表面に飽和吸着した第一前駆体と第二前駆体とを反応させて、原子層を形成する所望の物質を形成させる。続く第四ステップにおいて、再び反応容器にパージガスが導入され、基材表面の余剰の第二前駆体が除去される。通常これら4ステップによりALDの基本単位である1サイクルが構成される。ALDにおいて、上記サイクルは、形成する薄膜の厚み等に応じて所望の回数繰り返される。
【0004】
上述した、反応容器内のガスの切り替えを行うALDは、例えば特許文献2および非特許文献1に記載されており、時間分割ALD(Temporal ALD。以下、「TALD」と称することがある。)とも呼ばれる。ALDの各ステップにおいては、基材の材質と前駆体の組成、およびそれらの反応性によって適正な暴露条件(前駆体の分圧、暴露時間、基材の温度等)が決定される。TALDでは、反応容器に供給される前駆体ガスが収容された前駆体容器、および前駆体容器と反応容器とを接続する配管の温度調整によって前駆体ガスの蒸気圧を制御する。前駆体ガスの流量は、マスフローメーター等を用いて制御し、暴露時間は、反応容器にガスを供給する配管を開閉する高速バルブを用いて制御する。TALDでは、暴露条件を適正な範囲に調整することにより、ピンホールのない高品質な薄膜を形成することができる。
【0005】
TALDでは、高品質の薄膜を形成できるものの、通常1サイクルに数十秒から数分を要するため、処理能力(throughput)に改善の余地がある。
処理能力の改善に関して、基材を異なるガス雰囲気の空間に順次移動させながら各ステップを行う、空間分割ALD(Spatial ALD。以下、「SALD」と称することがある。)が、近年、注目されている。
SALDでは、第一前駆体のガス雰囲気空間に基材を所定時間滞在させて、第一ステップを行う。次に、基材をパージガスの雰囲気空間に移動して第二ステップを行う。さらに、基材を第二前駆体のガス雰囲気空間に移動して第三ステップを行い、最後に基材をパージガスの雰囲気空間に移動して第四ステップを行うと、上述した1サイクルが完了する。
SALDでは、複数の基材を上述した各空間に配置できるため、複数の基材のALDを併行して進めることができる、その結果、処理能力の向上が期待できる。
【0006】
特許文献3には、金属箔やポリマー、繊維等からなるフレキシブル基材にSALDにより薄膜を形成する装置が開示されている。特許文献3に記載の装置では、パージゾーンで仕切られた第一前駆体ゾーンと第二前駆体ゾーンを、フレキシブル基材が複数回通過しながらSALDが実行される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態の原子層堆積装置1を側方からみた内部構造を示す模式図である。原子層堆積装置1は、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll、RTR)でフレキシブル基材2の面上にSALDにより原子層を堆積して薄膜を形成する装置である。
【0018】
原子層堆積装置1は、フレキシブル基材2が送り出される巻出し室10と、原子層が堆積させたフレキシブル基材2が巻き取られる巻き取り室30と、巻き出し室10と巻き取り室30との間に配置された複数の反応室20とを備える。
【0019】
巻き出し室10は、巻き出しロール11を備える。巻き出しロール11には、原子層の形成対象であるフレキシブル基材2がロール状に巻かれて配置される。巻き出しロール11が回転されると、フレキシブル基材2が反応室20に送り出される。
巻き取り室30は、巻き取りロール31を備える。巻き取りロール31が回転されると、反応室20から出てきたフレキシブル基材2が巻き取りロール31に巻き取られる。
巻き出しロール11および巻き取りロール31は、フレキシブル基材2に弛み等が生じないよう、同調して回転駆動される。回転駆動のための駆動源(図示略)は、巻き出しロール11および巻き取りロール31の一方に設けられてもよいし、両方に設けられてもよい。
【0020】
反応室20は、ALDの1サイクルにおける各ステップをSALDで実行できるように、複数設けられる。本実施形態では、
図1に示すように、第一反応室20Aから第九反応室20Iまでの計9つの反応室が、フレキシブル基材2の搬送方向に並べて配置されている。
【0021】
図2は、原子層堆積装置1を上方からみた内部構造を示す模式図である。
図2に示すように、各反応室20A〜20Iには、それぞれ、第一供給管21、第二供給管22、および第三供給管の3つの供給管が接続されている。各反応室に接続された第一供給管21は、上流側で一つに合流し、第一供給部26に接続されている。第一供給部26には、第一前駆体を含むガス(以下、「第一前駆体ガス」と称することがある。)が収容されている。各反応室に接続された第二供給管22は、上流側で一つに合流し、第二供給部27に接続されている。第二供給部27には、パージガスが収容されている。各反応室に接続された第三供給管23は、上流側で一つに合流し、第三供給部28に接続されている。第三供給部28には、第二前駆体を含むガス(以下、「第二前駆体ガス」と称することがある。)が収容されている。
【0022】
各反応室に接続された第一供給管21は、それぞれ開閉のいずれかに切り替え可能なバルブ31aと、バルブ31aと各反応室との間に設けられたマスフローメーター32aとを有する。同様に、各反応室に接続された第二供給管22は、バルブ31bと、マスフローメーター32bとを有する。さらに、各反応室に接続された第三供給管23は、バルブ31cと、マスフローメーター32cとを有する。
【0023】
各反応室20A〜20Iにおいて、供給管が接続された側面と反対側の側面には、それぞれ排気管24が接続されている。各反応室に接続された排気管24は、下流側で一つに合流し、排気用のポンプ25に接続されている。
各反応室に接続された排気管24は、それぞれ開閉のいずれかに切り替え可能なバルブ36と、バルブ36と各反応室との間に設けられたコンダクタンス可変バルブ37とを有する。
【0024】
図3は、原子層堆積装置1の機能ブロック図である。原子層堆積装置1は、装置全体の制御を行う制御部40と、制御部40に接続されたインターフェース部45とを備える。
制御部40は、各反応室20A〜20Iに配置された、バルブ31a〜31c、マスフローメーター32a〜32c、バルブ36、およびコンダクタンス可変バルブ37と接続されており、上述の各バルブの開閉や開度を独立して制御可能に構成されている。
また、各反応室20A〜20Iには、ヒータ38が取り付けられている。各ヒータ38は、制御部40に接続されている。したがって、制御部40は、各反応室内の温度を独立して制御可能に構成されている。さらに、排気管のポンプ25と制御部40も接続されている。
【0025】
上記のように構成された、本実施形態の原子層堆積装置1の使用時の動作について説明する。
準備工程として、フレキシブル基材2のロールを巻き出しロール11に取り付け、一端を反応室20Aに進入させ、反応室20Aから20Iを順に通過させる。そして、反応室20Iから出てきた一端を巻き取りロール31に取り付ける。
フレキシブル基材2の材質は、作製する積層体により適宜決定されるが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。
【0026】
次に、各供給部26〜28に、使用する前駆体ガスおよびパージガスを準備する。例えば、酸化アルミニウムの原子層堆積を行う場合、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)、窒素をそれぞれ第一前駆体およびパージガスとして用い、H
2Oを第二前駆体ガスとして用いることができる。前駆体としてTMAおよびH
2Oを用いる場合、通常は室温でも供給部では十分なガス圧を得ることができる。
【0027】
次に、使用者がインターフェース部45を用いて、使用する前駆体ガスおよびパージガスの種類、各反応室の温度や導入されるガスの種類、分圧、流量等のガス条件、フレキシブル基材2の搬送速度等を制御部40に入力して原子層堆積装置1に設定する。使用する前駆体ガスおよびパージガスの種類や条件等が、固定である場合や前回の操業時と同一である等により既に制御部40に与えられている場合は、この設定入力が省略されてもよい。
【0028】
設定が終了すると、まず制御部40がポンプ25を作動させて各反応室の排気を行い、真空状態にする。続いて、適宜ヒータ38を動作させることにより、各反応室20A〜20Iの温度条件がそれぞれ設定された範囲に調節される。温度調節には、公知のフィードバック制御等が用いられてもよい。
各反応室の温度は、フレキシブル基材2の耐熱性、前駆体の反応性と前駆体の耐熱性(熱分解温度)等を考慮し選定される。例えば、フレキシブル基材2の材質がPETの場合、耐熱性は120℃以下とされるため、反応室の温度は100℃前後に設定される。反応室の温度が100℃であっても、TMAとH
2Oを使用するALDは反応が進行する。
【0029】
続いて制御部40は、各反応室に接続されたバルブおよびコンダクタンス可変バルブを開閉制御し、各反応室の内部状態を設定に基づいて調節する。
反応室内に第一前駆体ガスまたは第二前駆体ガスが供給される場合、制御部40は、例えば対応するバルブ31aまたは31cを開放する。この状態で、対応するマスフローメーター32aまたは32cの値を参照しつつ、対応する排気管24のバルブ36およびコンダクタンス可変バルブ37を調整して排気速度を調整することにより、反応室内が所望の前駆体ガスで満たされ、かつ前駆体ガスのガス条件が設定された範囲に調節される。
反応室内にパージガスが供給される場合、制御部40は、例えば対応するバルブ31bおよび36を開放する。この状態で、対応するマスフローメーター32bの値を参照しつつ、対応する排気管24のコンダクタンス可変バルブ37を調整して排気速度を調整することにより、反応室内がパージガスで満たされ、かつパージガスのガス条件が設定された範囲に調節される。
【0030】
制御部40による上述した制御により、各反応室20A〜20Iは、割り当てられたALDのステップにおける最適な暴露条件に調節される。この状態で、フレキシブル基材2を巻き出し室10から巻き取り室30に向かって設定された所望の速度で搬送することにより、SALDの各ステップがフレキシブル基材2に対して実行される。その結果、フレキシブル基材2上に、所望の物質からなる原子層が堆積される。原子層堆積が終了したフレキシブル基材2は、順次巻き取りロール31に巻き取られる。
【0031】
本実施形態の原子層堆積装置1によれば、複数の反応室20A〜20Iが、それぞれ第一供給管21ないし第三供給管23を備えているため、各反応室を、第一または第二前駆体の反応空間とすること、およびパージの空間とすることのいずれも可能である。したがって、様々な前駆体の組み合わせやサイクル構成に好適に対応することができ、汎用性の高い装置とすることができる。
【0032】
また、各反応室に設けられた各供給管21〜23には、それぞれバルブ31a〜31cおよびマスフローメーター32a〜32cが設けられ、各排気管24には、バルブ36およびコンダクタンス可変バルブ37が設けられている。これにより、各反応室のガス条件を制御部40が独立して設定可能に構成されている。その結果、例えば同じガスが導入される反応室であっても、何回目のサイクルであるか等により、分圧や流量等を異ならせてそれぞれ異なるガス条件に調節することができる。その結果、SALDにおける各ステップの暴露条件を容易に調節し、ALDによる成膜を好適に行うことができる。
【0033】
さらに、原子層堆積装置1のメリットとして、各ステップを行う時間についても容易に調節することができるという点が挙げられる。
図4に示す例では、反応室20A、20C、20E、20G、および20Iにパージガスが供給され、反応室20Bおよび20Fに第一前駆体ガスが、反応室20Dおよび20Hに第二前駆体ガスが、それぞれ供給されている。これにより、一回の搬送でALDが2サイクル行われる態様になっている。
図4では、各反応室に供給されるガスを模様で示している。
【0034】
図4に示す状態から、例えば反応室20Aに供給されるガスを第一前駆体ガスに変更すると、反応室の態様は
図5に示すようになる。
図5に示す態様では、
図4同様、一回の搬送で2サイクルが行われるが、1回目のサイクルにおいて、第一前駆体の反応ステップは、
図4の態様の倍の長さの時間行われる。このように、原子層堆積装置1においては、反応室ごとのガス条件を異ならせることができるだけでなく、各ステップの暴露時間の調節も容易に行うことができる。
【0035】
次に、本発明の第二実施形態について、
図6および
図7を参照して説明する。本実施形態の原子層堆積装置と第一実施形態の原子層堆積装置1との異なるところは、複数の反応室の配置態様である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0036】
図6は、本実施形態の原子層堆積装置101を側方からみた内部構造を示す模式図である。
図6に示すように、本実施形態の原子層堆積装置101においては、複数の反応室の並ぶ方向が、上下を繰り返すように配置されている。すなわち、巻き出しロール11から巻き出されたフレキシブル基材2は、まず装置の上側に設けられた反応室a1に入る。反応室a1に入ったフレキシブル基材2は、ガイドローラー102により方向を変えられ、反応室a1の下方に位置する反応室a2に移動する。その後フレキシブル基材2は、反応室a2の下方にある反応室a3に入り、反応室a3内のガイドローラー102により方向を変えられて上方の反応室a4に向かう。
【0037】
このように、フレキシブル基材2は、ガイドローラー102により上方への搬送と下方への搬送とを繰り返しながら、各反応室を通過しつつ巻き取り室30に向かって移動する。各ガイドローラー102は、形成された原子層に対する影響を最小限にするために、フレキシブル基材2のうち、搬送方向と直交する幅方向の両端部のみと接触するように配置されている。
【0038】
図6では複雑になるため、図示を省略しているが、巻き出し室10と連通する反応室a1から巻き取り室30と連通するa27までのすべての反応室が、それぞれバルブおよびマスフローメーターを備えた3つの供給管21〜23、バルブおよびコンダクタンス可変バルブを備えた排気管24を備えている。また、原子層堆積装置101が、制御部40およびインターフェース部45を備えている点も、図示を省略するが第一実施形態と同様である。
【0039】
本実施形態の原子層堆積装置101においても、第一実施形態の原子層堆積装置1と同様に、SALDにおける各ステップの暴露条件を容易に調節することができる。
また、複数の反応室がガイドローラー102を備えるため、複数の反応室を並び順が上下に蛇行するように配置しても、フレキシブル基材2の搬送方向を適宜変更することにより、好適に複数の反応室を通過させてSALDを実行することができる。さらに、装置の大型化抑制も可能となる。
【0040】
本実施形態では、一つの反応室において、上流側および下流側に位置する反応室が、上方または下方に位置するため、ある反応室に供給されたガスが、比重の違い等により連通した他の反応室に進入する可能性が高くなる。これを好適に防ぐには、パージガスが供給される反応室の内圧が、第一前駆体ガスおよび第二前駆体ガスが供給される反応室の内圧よりも少し高くなるように制御部40を設定すればよい。また、反応室の連通路にガスの反応室間の移動を抑制するフラップ状の進入防止部を設けてもよい。さらに、上述した内圧制御と進入防止部とが併用されてもよい。
このようなガスの進入防止対策は、フレキシブル基材が水平に搬送される第一実施形態において行われてもよいことは当然である。
【0041】
また、
図7に示す変形例のように、反応室が上下方向に3つ以上並べられ、より多くの反応室a1からa57を備える構成とされてもよい。
図7では、反応室が上下方向に5つ並べられているが、上下方向に並べられる数は、例えば2や4等の偶数であってもよい。
【0042】
次に、本発明の原子層堆積装置を用いたSALDの態様と、それを実行するための各反応室の設定について、複数の例を用いて説明する。
【0043】
(設定例1)
設定例1は、原子層堆積装置101を用いて、PET製のフレキシブル基材に酸化アルミニウムからなる原子層をプラズマALDにより形成する例である。
設定例1では、TMA、窒素、酸素を、それぞれ第一前駆体、パージガス、および第二前駆体として用いる。
【0044】
反応室a1からa27までの複数の反応室のうち、a1、a5、a9、a13、a17、a21、およびa25の各反応室には、TMAが導入される。a3、a7、a11、a15、a19、a23、およびa27の各反応室には、酸素が導入される。酸素を導入する反応室には、予め図示しないプラズマ電極を配置しておき、SALDの開始前に酸素プラズマを発生させる。プラズマ電極が予めすべての反応室に設置され、酸素が供給される反応室のプラズマ電極にのみ通電されてもよい。
残りのa2、a4、a6、a8、a10、a12、a14、a16、a18、a20、a22、a24、およびa26の各反応室には、窒素が導入される。
【0045】
この状態で巻き取り室からフレキシブル基材2を送り出すと、まず反応室a1でTMAがフレキシブル基材2の表面に化学吸着される。続く反応室a2では、フレキシブル基材2に物理吸着しているTMAが、パージガスである窒素によりフレキシブル基材2から除去される。さらに、反応室a3において、フレキシブル基材2に化学吸着したTMAが酸素プラズマに暴露されて、酸化アルミニウムの原子層が堆積形成される。反応室a4において、余剰の酸素が除去されると、SALDの1サイクルが完了する。以後、同様の工程が繰り返され、巻き取り室30に到達するまでに、フレキシブル基材2に対して7サイクルのSALDが実行される。
【0046】
図8は、設定例1において、第一前駆体ガスのガス条件を反応室ごとに異ならせた例を示す表である。
図8に示す例では、第一サイクルの反応室a1でTMAの分圧を最も高くし、第二サイクル以降、徐々に分圧が低くなるよう設定している。各反応室において、フレキシブル基材2の搬送距離(例えば0.3メートル(m))および搬送速度(例えば36m/秒)は一定であるため、各反応室におけるフレキシブル基材2の滞在時間は同一である。このため、分圧と滞在時間の積で表される暴露量(ラングミュアー(L))が反応室a1で最も高く、サイクルが進むにつれて低下し、第4サイクル以降は一定となるように設定されている。
本実施形態の原子層堆積装置においては、このような調節も容易に行うことができる。
【0047】
(設定例2)
設定例2は、第一前駆体が供給される反応室の一部において、ステップの所要時間を異ならせている例である。第一前駆体およびパージガスは設定例1と同一であり、第二前駆体ガスとしてH
2Oを用いている。
【0048】
図9は、設定例2における各反応室の設定の一例を示す表である。
図9に示す例では、巻き出し室10につながる反応室a1からa9までの9つの反応室に、第一前駆体としてTMAを含む第一前駆体ガスが供給される。したがって、第一サイクルにおける第一前駆体の化学吸着ステップの時間は、0.5×9=4.5秒となる。第二サイクル以降における化学吸着ステップは、一つの反応室を用いて、かつ第一サイクルよりも低い分圧の条件で行われている。
【0049】
図8および
図9に示した例では、第一サイクルにおけるTMAの暴露量を第二サイクル以降に比して大きく設定することにより、フレキシブル基材2の内部へのTMA浸透量が増加し、吸着量が増加する。その結果、フレキシブル基材表面へのTMAの飽和吸着を確実にし、基材と原子層との界面に緻密な層を形成することができる。
【0050】
(設定例3)
設定例3は、原子層堆積装置101を用いて、PET製のフレキシブル基材に混合酸化物からなる原子層を形成する例である。この例では、TMAおよび塩化チタン(IV、TiCl
4)の2種類の第一前駆体を用いる。パージガスとしては、窒素と二酸化炭素の混合ガス(N
2+CO
2)を用い、第二前駆体を酸素とする。すなわち、この実施例では、パージガスに第二前駆体が含まれており、プラズマにより第二前駆体が反応可能な状態となる。
【0051】
図10は、設定例3における各反応室の設定の一例を示す表である。
図10に示す例では、まずフレキシブル基材2を第一前駆体の反応室とパージ反応室とに繰り返し移動させ、TMAの浸透及び吸着を促進する(反応室a1からa10)。その後、フレキシブル基材2は、第一前駆体ガス(TMA)、パージガス、第一前駆体ガス(塩化チタン(IV))、パージガスの反応室に順次移動されるが、パージガスの反応室の一部でプラズマを発生させることにより(N
2+CO
2プラズマ)、パージと共に第一前駆体の酸化反応が行われる(反応室a11からa27)。N
2+CO
2プラズマによるパージ兼酸化のステップは、活性種(原子状酸素など)のプラズマ電極からの拡散長さより反応室の大きさを大きくすることで実施可能である。
上記のような設定により、フレキシブル基材2上に酸化アルミニウムおよび酸化チタンの混合酸化物からなる原子層を堆積形成することができる。
【0052】
(設定例4)
設定例4は、設定例3における第一前駆体の一方を変更した例である。この例では、塩化チタン(IV)に代えて、トリス(ディメチルアミノ)シラン(3DMAS)を用いる。
【0053】
図11は、設定例4における各反応室の設定の一例を示す表である。
図10に示す例では、フレキシブル基材2を第一前駆体ガス(TMA)、パージガス(N
2+CO
2)、パージ兼酸化(N
2+CO
2プラズマ)、パージガス、第一前駆体ガス(3DMAS)、パージガス(N
2+CO
2)、パージ兼酸化(N
2+CO
2プラズマ)、パージガス、の順に移動させてサイクルを行う。ここで、3DMASの吸着ステップには、連続する2つの反応室が割り当てられている。
【0054】
一般に、3DMASは、TMAより飽和吸着に要する暴露量が大きい、すなわち、同じ前駆体分圧ではより長い飽和吸着時間を要する。
図11の例のように、3DMASに割り当てる反応室をTMAよりも多くすることで、フレキシブル基材の搬送速度を落とさずに3DMASを用いたSALDを実行することができる。この例では、原子層堆積装置101を用いて、酸化アルミを4サイクル分、酸化ケイ素を3サイクル分それぞれ堆積させることができる。
図7に示すようなより多くの反応室を備える装置を用いれば、サイクル数を適宜増加させることが可能である。
設定例4では、3DMASのパージ兼酸化のステップに複数の反応室を割り当てることにより、酸化反応を促進することも可能である。
【0055】
設定例3および4では、2種類の第一前駆体を用いている。このように、2種類の第一前駆体(例えば第一前駆体Aおよび第一前駆体B)を用いて三元系の金属酸化物の原子層堆積を本発明の原子層堆積装置で行う場合は、第四供給部および第四供給管を設け、例えば第一供給部に第一前駆体Aを、第四供給部に第一前駆体Bを、それぞれ収容すればよい。なお、三元系のALDを行う場合でも、パージガスが第二前駆体を含まない態様に設定されてよいことは当然である。
【0056】
以上、本発明の各実施形態および設定例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組合せを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0057】
例えば、上述の各実施形態では、すべての反応室に3つの供給管が設けられる例を説明したが、必ずしも複数の反応室のすべてがすべての供給管を備えなくてもよい。一例として、巻き出し室に隣接する反応室においては、第二前駆体ガスを供給する第三供給管が備えられなくてもよい。また、設定の自由度は低下するが、複数の反応室の一部にのみ、2つ以上の供給管が接続された構成としてもよい。
また、必ずしも複数の反応室の供給管が単一の供給部に接続されなくてもよい。したがって、各供給管がそれぞれ異なる供給部からガスの供給を受ける構成であってもよい。
【0058】
また、排気管は、必ずしもすべての反応室に設けられる必要はなく、一部の反応室のみに設けられてもよい。ただし、複数の反応室で一つの排気管を共用する構成の場合、排気に伴うガスの流れにより、複数の前駆体が同一の反応室に存在する可能性が生じないように設定するのが好ましい。
【0059】
さらに、複数の反応室の少なくとも一つを連結および切り離し可能に構成することで、サイクルやステップ等の具体的内容に応じて必要最小限の反応室でSALDを実行可能な構成にしてもよい。逆に、連結および切り離し可能に構成された反応室ユニットを追加することにより、ステップやサイクルの増加に対応可能な構成にすることもできる。
例えば、ALDで形成される原子層の厚みを10〜20ナノメートル(nm)程度としたい場合、通常はALDを100サイクル以上行う必要がある。このように、ステップやサイクルの大幅な増加が必要な場合は、巻き出し室および巻き取り室を連結および切り離し可能に構成して、上述した原子層堆積装置どうしが連結できるように装置を構成してもよい。このように構成する場合は、巻き出し室および巻き取り室にも複数の供給管を備えるように構成すると、暴露条件の設定がより容易となる。
【0060】
上述の設定例でも少し触れたが、複数の反応室の一部または全部にプラズマ電極が設けられてもよい。プラズマの活性種を第二前駆体として使用する場合、
図12に示すように、フレキシブル基材2の厚さ方向片側にのみプラズマ電極60を配置すると、フレキシブル基材2の片面側にプラズマの活性種60aが集中し、フレキシブル基材2の片面のみに原子層堆積を行うことができる。フレキシブル基材2の両面に原子層堆積を行いたい場合は、
図13に示すように、フレキシブル基材2の厚さ方向両側にプラズマ電極60を配置すればよい。
第二前駆体として機能する元素がパージガス内に含まれ、プラズマの活性種を第二前駆体とする態様でのみSALDを行う場合、本発明の原子層堆積装置は、第三供給部および第三供給管を備えない構成とされてもよい。
【0061】
また、
図14に示す変形例のように、ガイドローラー102を備えた複数の反応室20と、第二供給管および排気管(不図示)が接続され、複数の反応室20と連通して配置された単一のパージ室103とを備えるように原子層堆積装置が構成されてもよい。このような構成では、対応可能なサイクル態様等が若干減少するものの、パージにおけるガス条件の設定が単一である等の場合であれば問題なく使用でき、装置の構成も簡素にすることが可能である。
本変形例においては、複数の反応室20には第一供給管および第三供給管のみを接続し、パージ空間として使用しない構成としてもよい。
【0062】
また、反応室にガイドローラーを設ける場合、ガイドローラーを反応室内において移動可能に配置してもよい。この場合、反応室内における搬送距離を微調節することが可能となり、反応室の割り当てによる設定よりさらに細かい設定が可能となる。
【0063】
この他、グロー放電によるプラズマ処理が可能となるように巻き出し室を構成してもよい。また、形成された原子層上にオーバーコート層等の他の層を形成できるように巻き取り室を構成してもよい。
オーバーコート層等の形成に代えて、形成された原子層薄膜を保護するために、基材表面に保護フィルム(合紙)が配置されてから巻き取りロールに巻かれるように巻き取り室が構成されてもよい。
【0064】
また、本発明の原子層堆積装置では、巻き出しロールおよび巻き取りロールを逆転可能に構成することにより、SALDを繰り返し行うことも可能である。すなわち、巻き出しロールからの送り出しが終了した後、各反応室の設定が巻き取り室側から同一に並ぶように再設定する。暴露条件の再設定完了後、巻き取り室から巻き出し室に向けてフレキシブル基材を移動させることにより、同一のSALDを再度行うことができる。ここで、各反応室の設定態様を、予め巻き出し室側からの並びと巻き取り室側からの並びとが同一となるように設定すると、暴露条件の再設定工程が不要となり、さらに効率よくSALDを連続実行することができる。