特許第6697785号(P6697785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697785
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】液体調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/21 20160101AFI20200518BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20200518BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20200518BHJP
   A23L 13/30 20160101ALN20200518BHJP
【FI】
   A23L27/21 B
   A23L5/00 J
   !A23L35/00
   !A23L13/30
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-4551(P2017-4551)
(22)【出願日】2017年1月13日
(65)【公開番号】特開2018-110567(P2018-110567A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591141050
【氏名又は名称】仙味エキス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】筬島 一治
(72)【発明者】
【氏名】木野内 美和
(72)【発明者】
【氏名】二宮 聖生
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−176815(JP,A)
【文献】 特開2004−242646(JP,A)
【文献】 特開2008−007419(JP,A)
【文献】 醸協,2013年,Vol.108, No.12,p.873-880
【文献】 日本食品工業学会誌,1986年,Vol.33, No.11,p.791-797
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/21
A23L 5/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/BIOSIS(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉及び/又は魚介類原料を0.5〜5時間反応させる条件でコラゲナーゼタイプのプロテアーゼで処理し、次に、これを10〜24時間反応させる条件でエンド型アルカリプロテアーゼで処理する工程により分解液化することを特徴とする、液体調味料の製造方法。
【請求項2】
アミノ酸及び核酸の析出が低減又は抑制された液体調味料を製造することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ処理が、原料に0.5〜2倍量の加水を行い、コラゲナーゼタイプのプロテアーゼを加えて液温50〜60℃で0.5〜5時間反応させる条件であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
エンド型アルカリプロテアーゼ処理が、コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ処理後に、エンド型アルカリプロテアーゼを加えて液温50〜60℃で10〜24時間反応させる条件であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ及びエンド型アルカリプロテアーゼが、細菌由来のプロテアーゼであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
畜肉及び/又は魚介類原料が、畜肉及び/又は魚介類の肉、あるいは該肉及びその骨、殻から選ばれる少なくとも1以上をそのまま、又は、細分化あるいはミンチ状に加工したものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体調味料の製造方法に関するものである。詳細には、畜肉や魚介類を原料とし、この原料を用いたタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)による酵素分解法での天然液体調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜肉や魚介類等を原料とする天然調味料は、現在、多くの加工食品や調理食品などに広く使用されており、そのニーズは極めて高い。この調味料の製造方法は、一般に、熱水抽出法と酵素分解法の大きく2つの方法が知られているが、それぞれに解決すべき課題があることも知られている。
【0003】
熱水抽出法においては、長時間にわたる原料の熱水処理が必要であるにもかかわらず、抽出される成分は限られており、調味料として使用するには分離精製及び濃縮などの濃度を上げる工程を追加することが必要となるため、製品収量の低減につながるという課題や、抽出残渣としての廃棄物が大量に発生してしまうという課題があり、加えて、その濃度を上げる工程によって得た抽出処理液においては、時間の経過とともにチロシン等の製品の品質を害する不要なアミノ酸や核酸などが白色の析出物として生じ、製造工程中での当該析出物の除去、製品の賞味期限の短縮化、保管場所の限定(低温保存)等の対応が必要になるという課題があった。また、熱水抽出法では熱が過剰に加えられるため抽出処理液中の成分が加熱変性を起こして有効成分等が分解し、褐色系の色を示しやすく、原料本来の風味とは異なるロースト臭等の加工臭を呈するという問題もあった。
【0004】
特にこのロースト臭は、香ばしい香りとして畜肉や魚介類等を原料とする調味料の良い点の一つとなる場合もあるが、実際に調理に使用する際には、その褐色系の色の濃さや加工臭の強さが逆に料理の外観や風香味を壊してしまうことが往々にして生じ、風香味を中心としたレシピ組みが困難となり、使用量を調整したり、別の調味料や香料等を加える等して味や風味を改善することが必要となっていた。
【0005】
一方、酵素分解法においては、分解率を重視する傾向が強いため不均一な分解となることが多く、生成されたペプチドやアミノ酸等が不均一なものとなり、そのままでも時間の経過とともに製品の品質を害する不要なアミノ酸等が白色の析出物として生じ、製造工程中での当該析出物の除去、製品の賞味期限の短縮化などの対応が必要になるという課題があった。また、液化をより進めるために酵素の使用量を増やしたり処理時間を長くすることで分解率をより高める方法もあるが、これは製品自体の生産効率の低下をまねくので、あえて液化が不十分な状態で工程を終えることが多く、そのため遠心分離機等での分離精製工程や濃縮などの濃度を上げる工程を追加することが必要となり、その場合には製品収量の低減につながるという課題や、分解残渣としての廃棄物が大量に発生してしまう課題もあった。更に、場合によっては工程数が増えるため、その処理時間経過中に液化処理液中の成分が熱変性を起こし、製品が褐色系の色を示したり、原料本来の風味とは異なる加工臭を呈するという課題もあった。
【0006】
そして、畜肉や魚介類のエキス調味料製造で酵素分解法は多く利用されているが、熱水抽出法で得た抽出液を酵素処理する場合も多く見受けられ(例えば特許文献1、2)、畜肉原料や魚介類原料を直接酵素処理する方法も知られているが(例えば特許文献3)、分解率を偏重した方法が多く、製品の生産効率、風香味、褐変、析出などを総合的に考慮して設計された酵素分解法はほとんど見受けられない。
【0007】
このような技術背景において、畜肉や魚介類原料の味や風味をそのまま保持し、且つ、加熱変性を低減あるいは抑制した天然調味料、特にチロシン等の製品の品質を害する不要なアミノ酸等の析出が低減又は抑制された天然液体調味料及びその効率的な製造方法の開発が当業界において求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−106539号公報
【特許文献2】特開2015−198588号公報
【特許文献3】特開2001−069950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、原料となる畜肉及び/又は魚介類の味や風味を保持し、且つ、加熱変性が低減あるいは抑制された液体調味料の効率的な製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、畜肉及び/又は魚介類原料をコラゲナーゼタイプのプロテアーゼで処理し、次に、これをエンド型アルカリプロテアーゼで処理する工程により分解液化して液体調味料とすることで、加熱変性が低減あるいは抑制され、且つ、原料の味や風味がそのまま保持された天然液体調味料を高い製品収量で得ることができ、更に、製造又は保存時のチロシン等の製品の品質を害する不要なアミノ酸や核酸の析出も低減あるいは抑制できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)畜肉及び/又は魚介類原料をコラゲナーゼタイプのプロテアーゼ(至適pHが弱酸性から中性域のもの)で処理し、次に、これをエンド型アルカリプロテアーゼ(至適pHが中性域からアルカリ性のもの)で処理する工程により分解液化することを特徴とする、畜肉及び/又は魚介類の液体調味料の製造方法。
(2)アミノ酸及び核酸(チロシン等)の析出が低減又は抑制された液体調味料を製造することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ処理が、原料に0.5〜2倍量、好ましくは0.8〜1.5倍量の加水を行い、コラゲナーゼタイプのプロテアーゼを加えて液温50〜60℃、好ましくは54〜58℃で0.5〜5時間、好ましくは2〜4時間反応させる条件であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)エンド型アルカリプロテアーゼ処理が、コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ処理後に、エンド型アルカリプロテアーゼを加えて液温50〜60℃、好ましくは54〜58℃で10〜24時間、好ましくは15〜20時間反応させる条件であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ及びエンド型アルカリプロテアーゼが、細菌由来のプロテアーゼであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)畜肉及び/又は魚介類原料が、畜肉及び/又は魚介類の肉、あるいは畜肉及び/又は魚介類の肉及びその骨、殻から選ばれる少なくとも1以上をそのまま、又は、細分化あるいはミンチ状に加工したものであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、畜肉及び/又は魚介類原料について、効率良く均一に液化できるため、調味料製品の収量増加ができ、且つ、原料の味や風味をそのまま残した液体調味料を得ることができる。そして、この液体調味料はほぼ均質なペプチドとなっているため、製品製造又は保存時におけるチロシン等の品質を害する不要なアミノ酸や核酸の析出を低減あるいは抑制できる効果ももたらされ、更には、濃縮工程などを経ることなく液体調味料の濃度を上げることができるため、従前の製造方法よりも工程の簡略化が可能となる。また、分解率の向上により、分解残渣としての廃棄物が減量し、従前の製造方法よりも格別に製品収量が高く、且つ廃棄物の少ない調味料の製造が可能となる。
【0013】
このような製品収量の増加や工程の簡略化による生産効率の向上及び分解残渣の減量に伴う廃棄コストの低減は、製品のコストダウンという効果も副次的にもたらす。
【0014】
更に、工程の簡略化によって従前の製造方法に比べて加熱時間を短くできるため、原料由来の色調をそのまま保持し、褐色が薄くロースト臭等の加工臭のない自然な味風味を持つ天然液体調味料を製造することが可能となる。これは、本発明の畜肉や魚介類を原料とする調味料を調理に使用する場合において、今まで課題となっていた色や味、風味の問題が解消されているため、天然の味や風味を中心としたレシピを組むことが可能となり、使用者の好む色や味風味に仕上げをアレンジすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、畜肉及び/又は魚介類を原料とする液体調味料の製造方法に関し、その原料となる畜肉や魚介類の種類は特段限定されないが、好適な畜肉原料としては牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、羊肉などが例示され、好適な魚介類としては、魚類、貝類、甲殻類などが例示される。また、畜肉と魚介類の混合物を原料としても良い。なお、原料は肉質部分のみを選択して用いても良いし、肉質部分に加えて骨、殻などが含まれた状態で用いても良い。
【0016】
次に、このような原料をそのまま、又は、細分化(細かく切断するなど)あるいはミンチ状に加工したものに対して、最初にコラゲナーゼタイプ(コラーゲン分解タイプ)のプロテアーゼで処理して肉質全体を柔軟にして大きく分解する。本発明では、得られる調味料の風香味や製造効率等を目的のものとするために、原料を最初にコラゲナーゼタイプという比較的特殊なタイプのプロテアーゼで処理することが極めて重要である。このコラゲナーゼタイプのプロテアーゼは、至適pHが弱酸性から中性域(例えばpH5〜7)のものを用い、細菌(特にストレプトマイセス(Streptomyces)属)由来のものが好ましい。また、反応条件は、原料に0.5〜2倍量、好ましくは0.8〜1.5倍量の加水を行い、このコラゲナーゼタイプのプロテアーゼを原料の0.5〜3重量%加えて、液温50〜60℃、好ましくは54〜58℃で0.5〜5時間、好ましくは2〜4時間反応させる条件が例示される。なお、酵素反応前にpH調整を行う必要性はない。
【0017】
このコラゲナーゼタイプのプロテアーゼ反応工程の次に、エンド型アルカリプロテアーゼにより、最初の反応で柔軟化し大きく分解したタンパク質を小さく均質化して味の良いペプチドとする処理を行うことで効率良く原料を液化処理する。本発明では、2段階目の酵素反応においてエキソ型ではなくエンド型のアルカリプロテアーゼで処理することも、上記目的のために極めて重要である。このエンド型アルカリプロテアーゼは、至適pHが中性域からアルカリ性(例えばpH7〜10)のものを用い、これも細菌(特にバチルス(Bacillus)属)由来が好ましい。また、反応条件は、前記酵素反応物にエンド型アルカリプロテアーゼを原料の0.01〜1重量%加えて、液温50〜60℃、好ましくは54〜58℃で10〜24時間、好ましくは15〜20時間反応させる条件が例示される。ここで、該反応で用いる酵素はアルカリプロテアーゼであるため、酵素反応前にアルカリ側にpH調整を行ってもよいが、このpH調整は必須ではなく、コラゲナーゼタイプのプロテアーゼ反応後の弱酸性から中性域のままで該反応を行っても良い。
【0018】
本発明では、上述の通り、最初にコラゲナーゼタイプのプロテアーゼ反応工程、次にエンド型アルカリプロテアーゼ反応工程という特定酵素による酵素反応をこの順序で行うことが、目的の効果を奏するために必須である。さらに。酵素反応条件は、上記範囲を逸脱すると、望む風味や性状等が得られない場合があり、また、チロシンなどの製品の品質を害する不要なアミノ酸等が析出物として生じる可能性もあり、あまり好ましくない。
【0019】
この2段階反応で得られた酵素分解液(液状あるいは粘性のあるペースト状)は、必要に応じて酵素完全失活処理(加熱沸騰など)、清澄化処理(濾過など)、殺菌処理、容器充填などを行い製品とする。なお、本発明では、得られた酵素分解液をそのまま天然液体調味料製品とするのが品質や効率等の面から最も効果的である。しかし、これを加熱変性しない程度において公知の濃縮法などによって濃縮した濃縮液体調味料としたり、公知の粉末化方法や顆粒化方法により粉末調味料や顆粒化調味料とするなど、他の形態とすることを完全に除外するものではない。
【0020】
また、上記液体調味料は、他の副原料を加えることなくそのまま天然調味料として用いることができるものであり、そのような態様で製品とするのが最も好適である。けれども、ここに副原料を添加して最終製品とすることを完全に除外するものではない。添加できる副原料としては、調味料の原料として用いることができる食品原料は全て使用でき、特段の制限はない。例えば、醤油、味噌、酢、ソース、発酵調味料(みりん、酒など)、塩類、糖類、香辛料、甘味料、酸味料、香料、着色料、果汁類、油脂類、増粘剤(ガム類)などが例示される。
【0021】
このようにして、畜肉及び/又は魚介類原料をコラゲナーゼタイプのプロテアーゼで処理し、次に、これをエンド型アルカリプロテアーゼで処理する工程により分解液化して液体調味料を製造することで、加熱変性が低減あるいは抑制され、且つ、原料の味や風味がそのまま保持された液体調味料を、高い製品収量で得ることができる。また、調味料製造時や保管時(特に常温保管時)における製品の品質を害する不要なアミノ酸等の析出も低減あるいは抑制できる。つまり、原料の味や風味がそのまま保持され且つ品質を害する不要な成分の析出がない畜肉及び/又は魚介類の液体調味料を高い収率で得ることができる。
【0022】
なお、本発明において「天然調味料」あるいは「天然液体調味料」とは、原料となる畜肉及び/又は魚介類とその分解酵素及び水以外の成分が添加されていない態様の調味料あるいは液体調味料を意味し、「加熱変性」とは加熱を伴う工程を経ることにより好ましくない又は目的としていない風香味や色に変化することを意味する。
【0023】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0024】
(ビーフエキスの製造)
以下のように、本発明に係るビーフエキス(ビーフ液体調味料)製造試験を行った。
【0025】
牛肉をミンチ処理したものを原料とし、そこに原料と等量の加水を行い、原料の1.5重量%のコラゲナーゼタイプのプロテアーゼであるデナチームPMC SOFTER(ナガセケムテックス株式会社製品)を使用して56℃で3時間反応させ、次に原料の0.1重量%のエンド型アルカリプロテアーゼであるビオプラーゼSP−20FG(ナガセケムテックス株式会社製品)を使用して56℃で15〜20時間反応させた。その後、反応液中の酵素を失活させるために加熱沸騰処理を行い、200meshの漉し器で分解残渣を取り除いた。回収した液を殺菌処理し、所定の容器に充填して液状のビーフエキスを得た。
【0026】
得られたビーフエキスは、原料牛肉の風香味をほぼそのまま維持し、且つ、熱変性は極めて少なく、製造及び保存時のアミノ酸等の析出も全くない良好な天然液体調味料であった。また、製品収量も極めて高かった。
【実施例2】
【0027】
(ビーフエキスを使用したメンチカツの製造)
本発明のビーフエキスと市販品ビーフエキスの調理食品への使用効果を比較確認するため、以下のようにメンチカツを製造した。
【0028】
実施例1のビーフエキス(本発明品)及び熱水抽出タイプの他社ビーフエキス(市販品)を使用して、下記表1に示す配合でビーフエキスのみを入れ替えて、常法により2種のメンチカツを製造した。
【0029】
【表1】
【0030】
得られた2種のメンチカツについて、訓練された複数名のパネラーによる味及び風味の比較官能テストを行った。なお、評価はメンチカツの先味、風味、ビーフ感、本物感についてそれぞれ◎(非常に良好)、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)の4段階で評価した。その結果、下記表2に示すように、先味についてはいずれも良好以上の評価が得られたが、他の項目の評価で大きな差が認められた。具体的には、本発明品を使用したメンチカツは、味や風味のバランスがとれており、専門店で味わうようなビーフ感、本物感があるが、他社市販品を使用したメンチカツは、牛肉の味が薄く、ロースト臭による焦げ感があるため、風味のバランスを欠いており、更にビーフ感が弱く本物感がないとの評価であった。
【0031】
【表2】
【実施例3】
【0032】
(ポークエキスの製造)
以下のように、本発明に係るポークエキス(ポーク液体調味料)製造試験を行った。
【0033】
豚肉をミンチ処理したものを原料とし、そこに原料と等量の加水を行い、原料の1.5重量%のコラゲナーゼタイプのプロテアーゼであるデナチームPMC SOFTER(ナガセケムテックス株式会社製品)を使用して56℃で3時間反応させ、次に原料の0.1重量%のエンド型アルカリプロテアーゼであるビオプラーゼSP−20FG(ナガセケムテックス株式会社製品)を使用して56℃で15〜20時間反応させた。その後、反応液中の酵素を失活させるために加熱沸騰処理を行い、200meshの漉し器で分解残渣を取り除いた。回収した液を殺菌処理し、所定の容器に充填して液状のポークエキスを得た。
【0034】
得られたポークエキスは、実施例1のビーフエキスと同様に、原料豚肉の風香味をほぼそのまま維持し、且つ、熱変性は極めて少なく、製造及び保存時のアミノ酸等の析出も全くない良好な天然液体調味料であった。また、製品収量も極めて高かった。
【実施例4】
【0035】
(ポークエキスを使用した豚骨ラーメンスープの製造)
本発明のポークエキスと市販品ポークエキスの加工食品への使用効果を比較確認するため、以下のように豚骨ラーメンスープ製造した。
【0036】
実施例3のポークエキス(本発明品)及び熱水抽出タイプの他社ポークエキス(市販品)を使用して、下記表3に示す配合でポークエキスのみを入れ替えて、常法により2種の豚骨ラーメンスープを製造した。
【0037】
【表3】
【0038】
得られた2種の豚骨ラーメンスープについて、実施例2と同様に訓練された複数名のパネラーによる味及び風味の比較官能テストを行った。なお、評価は、これも実施例2と同様に、豚骨ラーメンスープの先味、風味、豚骨感、本物感についてそれぞれ◎(非常に良好)、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)の4段階で評価した。その結果、下記表4に示すように、先味についてはいずれも良好以上の評価が得られたが、他の項目の評価で大きな差が認められた。具体的には、本発明品を使用した豚骨ラーメンスープは、味及び風味の一体感があり、ラーメン店で味わうような豚骨感、本物感があるが、他社市販品を使用した豚骨ラーメンスープは、スープとしての味自体はあるものの、ロースト臭が感じられ、風味のバランスが悪く、豚骨感、本物感がないとの評価であった。
【0039】
【表4】
【実施例5】
【0040】
(他種酵素分解エキスとの比較確認)
本発明のビーフエキスと、本発明とは別の製法で得た酵素分解ビーフエキスとを比較確認するため、以下の試験を実施した。
【0041】
実施例1のビーフエキス(本発明品)と、実施例1と同様に牛肉をミンチ処理したものを原料とし、そこに原料と等量の加水を行い、原料の0.5重量%の市販エンド型アルカリプロテアーゼ及びエキソ型中性プロテアーゼを同時使用して56℃で17時間反応させ、その後、反応液中の酵素を失活させるために加熱沸騰処理を行い、遠心分離処理による分解残渣の除去後に濃縮処理及び殺菌処理、容器充填を行ったビーフエキス(比較品A)、及び、同様に牛肉をミンチ処理したものを原料とし、そこに原料と等量の加水を行い、原料の0.3重量%の市販酸性プロテアーゼを使用して49℃で3時間反応させ、次に0.1重量%の市販ペプチダーゼを使用して50℃で17時間反応させ、その後、反応液中の酵素を失活させるために加熱沸騰処理を行い、遠心分離処理による分解残渣の除去及び殺菌処理、容器充填を行ったビーフエキス(比較品B)の3種を用意した。
【0042】
これらのビーフエキスについて、訓練された複数名のパネラーによる味及び風味の比較官能テストを行った。なお、評価は、エキスの味、風味、ビーフ感についてそれぞれ◎(非常に良好)、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)の4段階で評価した。その結果、下記表5に示すように、風味及びビーフ感の評価で大きな差が認められた。具体的には、本発明品は風味に原料の牛肉感があり、強くビーフ感を感じるが、比較品A及び比較品Bは、風味に畜肉感はあるものの原料である牛の特徴が薄く、ロースト臭による焦げ感も加わってビーフ感が感じられないとの評価であった。特に比較品Bは、味も含めた全ての項目で薄いとの評価であった。
【0043】
【表5】
【0044】
なお、鶏肉を原料として、上記実施例1、3と同じ方法でチキン液体調味料製造試験もあわせて実施し、得られたチキンエキスは、同様に、原料鶏肉の風香味をほぼそのまま維持し、且つ、熱変性は極めて少なく、製造及び保存時のアミノ酸等の析出も全くない良好な天然液体調味料であること、及び、製品収量が極めて高いことが明らかとなった。
【0045】
以上の実施例より、牛肉、豚肉、あるいは鶏肉をコラゲナーゼタイプのプロテアーゼで処理し、次に、これをエンド型アルカリプロテアーゼで処理する工程により分解液化して液体調味料を製造することで、加熱変性が極めて少ない、且つ、原料の味や風味がそのまま保持された、製造及び保存時のアミノ酸等の析出も全くない新規な天然液体調味料を高い製品収量で得られること、及び、これは熱水抽出法や他の酵素分解法で得た調味料よりも優れた品質であることが示された。
【0046】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0047】
本発明は、原料となる畜肉及び/又は魚介類の味や風味を保持し、且つ、加熱変性が低減あるいは抑制された液体調味料の効率的な製造方法等を提供することを目的とする。
【0048】
そして、畜肉及び/又は魚介類原料をコラゲナーゼタイプのプロテアーゼで処理し、次に、これをエンド型アルカリプロテアーゼで処理する工程により分解液化して液体調味料を製造することで、加熱変性が低減あるいは抑制され、且つ、原料の味や風味がそのまま保持された天然液体調味料を、高い製品収量で得ることができる。