特許第6697801号(P6697801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697801
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20200518BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   H05B6/10 331
   H05B6/36 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-11163(P2016-11163)
(22)【出願日】2016年1月24日
(65)【公開番号】特開2017-130432(P2017-130432A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌訓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
【審査官】 礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−273851(JP,A)
【文献】 特開2002−334808(JP,A)
【文献】 特開2005−174671(JP,A)
【文献】 特許第3624983(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00 − 6/10
H05B 6/14 − 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いU字形状に形成されその両端部に端子板がそれぞれ接続固定された断面円形のなまし銅管からなるコイル本体と、該コイル本体のU字の内側に配置された弾性を有する絶縁体と、該絶縁体と前記コイル本体の外周側を被覆する弾性を有する被覆部材とを備え、
前記コイル本体が、前記なまし銅管の折り曲げにより、加熱部を形成するU字部及び所定長さの一対の直線部を有し、
前記絶縁体が、前記コイル本体のU字面と直交する方向の曲げに追従して曲げが可能で前記加熱部の長さと略同一な所定板厚の樹脂板で形成されて、該樹脂板の前記U字面と直交する面が前記コイル本体の一対の直線部で挟持された状態で配置されると共に、前記被覆部材が、前記コイル本体の外面に当接しつつ前記絶縁体との間に所定の空間を有して巻回配置されたガラステープで形成され、
前記コイル本体を前記なまし銅管の弾性を利用して前記U字面と直交する方向に曲げた際に、前記絶縁体と被覆部材が同方向に略同時に曲げられることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
細長いU字形状に形成されその両端部に端子板がそれぞれ接続固定された断面円形のなまし銅管からなるコイル本体と、該コイル本体のU字の内側に配置された弾性を有する絶縁体と、該絶縁体と前記コイル本体の外周側を被覆する弾性を有する被覆部材とを備え、
前記コイル本体が、前記なまし銅管の折り曲げにより、加熱部を形成するU字部及び所定長さの一対の直線部を有し、
前記絶縁体が、前記コイル本体のU字面と直交する方向の曲げに追従して曲げが可能で所定間隙を有して連設された所定長さの複数のコアで形成されて、該コアの前記U字面と直交する面が前記コイル本体の一対の直線部で挟持された状態で配置されると共に、前記被覆部材が、前記コイル本体の外面に当接しつつ前記絶縁体との間に所定の空間を有して巻回配置されたガラステープで形成され、
前記コイル本体を前記なまし銅管の弾性を利用して前記U字面と直交する方向に曲げた際に、前記絶縁体と被覆部材が同方向に略同時に曲げられることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記コイル本体は、前記各直線部の端部に外側に折り曲げられた接続部をそれぞれ有すると共に前記各端子板も基端側に内側に折り曲げられた接続部をそれぞれ有し、この両接続部が互いに接続固定されることで、前記各端子板の先端側が前記コイル本体のU字幅より大きな間隙を有して、前記絶縁体の前記U字面と直交する両面とそれぞれ平行状態で対向配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記端子板は、I型コアの周囲に所定回数巻回された一次コイル及び二次コイル、該一次コイル及び二次コイルを取り囲むように配置されたリングコア、及び前記リングコアの外周側に配置された筒状ケースを備えた出力変成器の出力端子に、直接もしくは接続ケーブルを介して接続されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記出力変成器は、前記筒状ケースが絶縁性の円筒状パイプで形成されると共に、該円筒状パイプの外周面に絶縁性の設置板が配設されていることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記コイル本体の両端部が前記一対の端子板の外側面にそれぞれ固定されると共に、該コイル本体の両端部に前記なまし銅管内に冷却媒体を循環供給可能なホースコネクタがそれぞれ固定されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蒸気タービン室内のフランジを締付けるための大型の金属製ボルトに設けられた軸孔内に挿入されて、軸孔内を誘導加熱で加熱する際に使用される誘導加熱コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱コイルは、例えば特許文献1に開示されている。この誘導加熱コイルは、細長いU字形状に形成された円形断面の金属パイプからなる複数のU字状コイルを有してU字面内で弾性的に曲げることが可能なコイル本体と、このコイル本体のU字の内側に配設されコイル本体と同じ方向に曲げることが可能な複数の薄板を積層した磁性体等を備えている。そして、コイル本体をU字面内で曲げると磁性体の各薄板が相互に摺動して曲げられ、金属製ボルトの頭部上方にフランジ等が位置する場合でも、曲げた加熱コイルを軸孔内に挿入できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3624983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような誘導加熱コイルにあっては、コイル本体が複数のU字状コイルで形成されると共に、磁性体も複数の薄板で形成されこの薄板が互いに摺動することで曲げることが可能な構造となっているため、加熱コイルを曲げるための構造が極めて複雑となってその曲げ作業が面倒であると共に、加熱コイルの部材数が多くなって加熱コイル自体が重くなり軸孔への挿入作業が面倒になる等、軸孔の加熱作業の作業能率が劣る。また同時に、コイル本体や磁性体等の複雑な構造により、加熱コイルの製造も煩雑となってコスト高になる等、加熱コストがアップし易いという不都合も有している。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、曲げ作業や取り扱い等を容易に行うことができて、軸孔の加熱作業の能率向上が図れると共に、構成簡易にして容易に製造できて、コイル自体のコストや加熱作業のコストの低減化が図れる誘導加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、細長いU字形状に形成されその両端部に端子板がそれぞれ接続固定された断面円形のなまし銅管からなるコイル本体と、該コイル本体のU字の内側に配置された弾性を有する絶縁体と、該絶縁体と前記コイル本体の外周側を被覆する弾性を有する被覆部材とを備え、前記コイル本体が、前記なまし銅管の折り曲げにより、加熱部を形成するU字部及び所定長さの一対の直線部を有し、前記絶縁体が、前記コイル本体のU字面と直交する方向の曲げに追従して曲げが可能で前記加熱部の長さと略同一な所定板厚の樹脂板で形成されて、該樹脂板の前記U字面と直交する面が前記コイル本体の一対の直線部で挟持された状態で配置されると共に、前記被覆部材が、前記コイル本体の外面に当接しつつ前記絶縁体との間に所定の空間を有して巻回配置されたガラステープで形成され、前記コイル本体を前記なまし銅管の弾性を利用して前記U字面と直交する方向に曲げた際に、前記絶縁体と被覆部材が同方向に略同時に曲げられることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、細長いU字形状に形成されその両端部に端子板がそれぞれ接続固定された断面円形のなまし銅管からなるコイル本体と、該コイル本体のU字の内側に配置された弾性を有する絶縁体と、該絶縁体と前記コイル本体の外周側を被覆する弾性を有する被覆部材とを備え、前記コイル本体が、前記なまし銅管の折り曲げにより、加熱部を形成するU字部及び所定長さの一対の直線部を有し、前記絶縁体が、前記コイル本体のU字面と直交する方向の曲げに追従して曲げが可能で所定間隙を有して連設された所定長さの複数のコアで形成されて、該コアの前記U字面と直交する面が前記コイル本体の一対の直線部で挟持された状態で配置されると共に、前記被覆部材が、前記コイル本体の外面に当接しつつ前記絶縁体との間に所定の空間を有して巻回配置されたガラステープで形成され、前記コイル本体を前記なまし銅管の弾性を利用して前記U字面と直交する方向に曲げた際に、前記絶縁体と被覆部材が同方向に略同時に曲げられることを特徴とする
【0008】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記コイル本体が、前記各直線部の端部に外側に折り曲げられた接続部をそれぞれ有すると共に前記各端子板も基端側に内側に折り曲げられた接続部をそれぞれ有し、この両接続部が互いに接続固定されることで、前記各端子板の先端側が前記コイル本体のU字幅より大きな間隙を有して、前記絶縁体の前記U字面と直交する両面とそれぞれ平行状態で対向配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、前記端子板が、I型コアの周囲に所定回数巻回された一次コイル及び二次コイル、該一次コイル及び二次コイルを取り囲むように配置されたリングコア、及び前記リングコアの外周側に配置された筒状ケースを備えた出力変成器の出力端子に、直接もしくは接続ケーブルを介して接続されることを特徴とする。また、請求項5に記載の発明は、前記出力変成器が、前記筒状ケースが絶縁性の円筒状パイプで形成されると共に、該円筒状パイプの外周面に絶縁性の設置板が配設されていることを特徴とする。またさらに、請求項6に記載の発明は、前記コイル本体の両端部が前記一対の端子板の外側面にそれぞれ固定されると共に、該コイル本体の両端部に前記なまし銅管内に冷却媒体を循環供給可能なホースコネクタがそれぞれ固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のうち請求項1または2に記載の発明によれば、コイル本体をなまし銅管の弾性を利用して所定方向に曲げた際に、弾性を有する絶縁体と被覆部材が同方向に略同時に曲げられるため、加熱コイルの曲げ作業が容易になったり取り扱い等を容易に行うことができて、軸孔の加熱作業の能率向上が図れると共に、構成簡易にして加熱コイル自体を容易に製造できる等、コイル自体のコストや加熱作業のコストの低減化を図ることができる。
【0011】
また、絶縁体が、U字面と直交する方向に曲げが可能な樹脂板かもしくは連設状態のコアであるため、コイル本体と略同一長さで所定板厚の樹脂板の使用により、加熱コイルの構成を一層簡素化できたり、その重量の軽量化を図ることができ、また、間隙を有する連設状態のコアの使用により、加熱コイルの加熱効率を高めて加熱作業のコストの一層の低減化を図ることができる。また、絶縁体がU字面と直交する方向に曲げられるため、絶縁体とコイル本体との位置関係を保持しつつ、加熱コイルの長手方向の形状を安定化させて、軸孔の全域に均一な加熱状態を容易に得ることができる。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、コイル本体の両端部の接続部と各端子板の基端側の接続部とが互いに接続固定されて、各端子板の先端側がコイル本体のU字幅より大きな間隙を有して対向配置されているため、端子板と出力変成器の出力端子との接続作業を容易に行うことができると共に、U字の幅が狭いコイル本体であっても端子板同士の接触等を確実に防止して常に安定した加熱状態を容易に得ることができる
【0013】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、端子板が、I型コアに巻回された一次コイル及び二次コイルを取り囲むようにリングコアを配置すると共に、リングコアの外側に配置された筒状カバーを備えた出力変成器の出力端子に、直接もしくは接続ケーブルを介して接続されるため、小型で軽量な出力変成器を加熱作業現場の近傍に配置して加熱作業を容易に行うことができる等、加熱効率や加熱作業能率の一層の向上を図ることができる
【0014】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、出力変成器の筒状ケースが絶縁性の円筒状パイプで形成されると共に、円筒状パイプの外周面に絶縁性の設置板が配設されているため、出力変成器を加熱作業現場のフランジ面等の設置面上に設置(載置)した際に、円筒状パイプの回転が規制されて、出力変成器に接続固定される加熱コイルの軸孔に対する位置関係を所定に確保できる等、軸孔の安定かつ効率的な加熱状態を容易に得ることができる
【0015】
またさらに、請求項6に記載の発明によれば、請求項1ないし5に記載の発明の効果に加え、コイル本体の両端部が一対の端子板の外側面にそれぞれ固定されると共に、コイル本体の両端部になまし銅管内に冷却媒体を循環供給可能なホースコネクタがそれぞれ固定されているため、コイル本体の冷却を確実に行うことができて、加熱コイルの発熱による加熱効率の低下を抑制して、加熱作業のより一層の能率向上を図ることができる
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係わる誘導加熱コイルの一実施形態を示す概略側面図
図2】同その平面図
図3】同図1のA−A線に沿った断面図
図4】同加熱コイルの接続状態の一例を示す説明図
図5】同本発明に係わる誘導加熱コイルの他の実施形態を示す概略側面図
図6】同その平面図
図7】同図5のB−B線に沿った断面図
図8】同図5のC−C線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1図4は、本発明に係わる誘導加熱コイルの一実施形態を示している。図1図3に示すように、誘導加熱コイル1(加熱コイル1という)は、細長いU字(ヘアピン)形状に折り曲げ形成されたコイル本体2と、このコイル本体2の端部に電気的及び機械的に接続固定された一対の端子板3と、前記コイル本体2のU字の内側に配置された絶縁体4と、この絶縁体4と前記コイル本体2の外周側を被覆する被覆部材5(図3参照)とを備えている。
【0018】
前記コイル本体2は、所定外径で所定肉厚(例えば外径=6mmで肉厚=1.0mm)を有して、外周面が絶縁材で被覆されていない断面円形の裸のなまし銅管をU字形状に折り曲げることにより形成され、加熱部2aを形成するU字部2a1及び所定長さの一対の直線部2a2と、加熱部2aの各直線部2a2の端部に形成された接続部2bを有している。接続部2bは、側面視略L字形状に形成されて、加熱部2aの各直線部2a2に対して所定角度(例えば20度程度)U字の外側に折り曲げられた一対の水平部2b1と、この各水平部2b1に垂直方向にそれぞれ連設された垂直部2b2とで形成されている。
【0019】
前記端子板3は、板厚が例えば3mmの側面視で略長方形状の銅板で形成され、その高さ(幅)方向の中央には反コイル本体2側となる基端側から先端側に向けて固定用溝3aがそれぞれ形成されると共に、先端側にはコイル本体2の接続部2bに対応して内側に折り曲げられた接続部3bが形成されている。この接続部3bの外側面に前記コイル本体2の接続部2bがロー付け固定されることで、コイル本体2と端子板3が一体化されて、一対の端子板3間にコイル本体2のU字の幅より広い間隙(例えば12mm)が確保されている。また、各接続部2bの垂直部2b2の先端は、各端子板3の高さ方向の外側(上方)に所定寸法突出し、この突出部分にホースコネクタ6がそれぞれ固定されている。
【0020】
前記絶縁体4は、所定板厚(例えば5mm)で前記加熱部2aの長さと略同一長さの板状のフッ素樹脂で形成され、コイル本体2のU字内に一対の直線部2a2で挟持された状態で配置されている。また、前記被覆部材5は、所定厚さ(例えば0.16mm)のガラステープを三重巻きすることにより形成され、このとき、図3に示すように、被覆部材5はコイル本体2の外面に当接しつつ絶縁体4との間には所定の空間7が形成された状態となっている。
【0021】
そして、前記絶縁体4と被覆部材5は、コイル本体2がなまし銅管の弾性を利用して図1の二点鎖線a、bで示すように、U字面と直交する矢印イ、ロ方向に所定のアール(例えばR=250)まで曲げられた際に、フッ素樹脂の弾性とガラステープの弾性により、コイル本体2の曲げに追従してそれぞれ同方向に略同時に曲げられるようになっている。
【0022】
図4は、前記加熱コイル1の接続状態を示している。図4に示すように、加熱コイル1は、その各端子板3が出力変成器10の出力端子11に直接接続固定されると共に、出力変成器10の入力端子12が接続ケーブル13を介してトランジスタインバータ14に接続され、かつ入力端子12側方のホースコネクタ15と冷却水供給装置16とが冷却水ホース17で接続されている。
【0023】
ここで、本発明の加熱コイル1が接続される前記出力変成器10の構成について説明する。出力変成器10は、図4に示すように、円筒状ケース10aによりその外形形状が所定長さの円筒形状に形成され、その出力(二次コイル)側には一対の前記出力端子11が設けられ、その入力(一次コイル)側には一対の前記入力端子12が設けられている。
【0024】
前記出力端子11は、前縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなる端子部11aと、この両端子部11aに固定されその先端が両外面側に突出して蝶ナット11bがそれぞれねじ込まれたボルト11cと、端子部11aの外側面にロー付け固定されると共に二次コイルの端部に接続された銅パイプやホースコネクタ11d等をそれぞれ有している。また、前記入力端子12は、絶縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなる端子部12aと、この端子部12aを固定するボルト及びナットをそれぞれ有すると共に、この入力端子12の側方には、冷却水供給用の前記ホースコネクタ15が配設されている。
【0025】
さらに、出力変成器1は、所定長さの例えば塩ビパイプ等からなる絶縁性の前記円筒状ケース10aの内部に、フェライトコアを複数個連設することにより全体形状が直方体形状に形成されて例えば垂直状態で配置されたI型コアと、このI型コアの高さ方向の中間位置の周囲に水平状態で配設され、銅の角パイプによって平面視で略コ字状に形成された単巻き状の二次コイルと、この二次コイルの上下面でI型コアの周囲に所定回数巻回され外周面が絶縁材で被覆された銅の丸パイプからなる一次コイルと、これら一次コイルと二次コイルの外周面を覆うように長手方向に連設配置された複数個のリングコア(いずれも図示せず)等を有している。
【0026】
そして、一次コイルの両端が前記入力端子12の一対の端子部12aにそれぞれ接続され、二次コイルの両端が前記出力端子11の一対の端子部11aにそれぞれ接続されている。また同時に、前記入力端子11の側方に設けられたホースコネクタ15が、一次コイルの丸パイプの端部と二次コイルの角パイプの端部に図示しない冷却水ホース等でそれぞれ接続されている。
【0027】
なお、前記出力変成器1の円筒状ケース10aの長手方向の例えば中間位置には、設置板18が配設されている。この設置板18は、所定長さで所定幅の例えばTCボード等の絶縁性の板材で形成され、出力変成器10の円筒状ケース10aの外周面に複数の板体からなる支持部材18aで支持されている。そして、支持部材18aが円筒状ケース10aの外周面にその回動が規制された状態で支持固定されることで、水平な設置板18が出力端子11の垂直な各端子部11aに対して直交するようになっている。
【0028】
このように構成された出力変成器10に前記加熱コイル1は、次のように接続される。すなわち、後述するようにコイル本体2が所定形状に曲げられた加熱コイル1の各端子板3を、その固定用溝3aを出力変成器10の出力端子11の各端子部11aに設けられているボルト11cと各蝶ナット11b間に嵌挿し、螺ナット11bを締付けることで端子部11aの外側面に面接触の圧接状態で固定する。このとき、加熱コイル1の出力変成器10の出力端子11に対する固定角度(向き)は、例えば加熱コイル1(コイル本体2)が端子部11aに対して90度下方に向くように設定される。
【0029】
そして、加熱コイル1の各端子板3を出力変成器10の出力端子11にそれぞれ固定したら、加熱コイル1の各端子板3に設けられているホースコネクタ6と、出力変成器10の各端子部11aに設けられたホースコネクタ11dとを冷却水ホース8でそれぞれ接続する。これにより、加熱コイル1が出力変成器10の出力端子11に接続固定され、出力変成器10の二次コイルの両端が一対の端子板3に電気的にそれぞれ接続されると共に、それぞれ一対のホースコネクタ11d、6と冷却水ホース8等により冷却水の循環流路が形成される。
【0030】
なお、前記出力変成器10は、その入力端子12が、例えば同軸の接続ケーブル13を介してトランジスタインバータ14の出力端子に電気的に接続されると共に、ホースコネクタ15が冷却水ホース17を介して、トランジスタインバータ14と同一の筐体内に配置された冷却水供給装置16に接続される。これにより、トランジスタインバータ14の所定周波数の電流が、接続ケーブル13、入力端子12を介して一次コイルに供給され、二次コイルに誘起される電流が出力端子11、端子板3を介して加熱コイル1のコイル本体2に供給される。また、冷却水供給装置16から、冷却水が冷却水ホース17、一次コイル、二次コイル、冷却水ホース8を介してコイル本体2に循環供給される。
【0031】
つまり、前記加熱コイル1はその端子板3が、円筒状ケース10a内に連設状態のI型コアやリングコアを有すると共にこれらのコアに対して一次コイルと二次コイルを効率的に配置した出力変成器10の出力端子11に直接接続されることになる。その結果、トランジスタインバータ14から出力変成器10に入力される電流を所定に設定することで、出力変成器10から加熱コイル1に所望の電流を直接供給できて、出力変成器10と加熱コイル1間の電流ロスを考慮する必要がなく、加熱作業現場における加熱コイル1の加熱条件の設定が簡単かつ確実に行えることになる。
【0032】
また、出力変成器10自体が、I型コアやリングコア及び一次コイルや二次コイルの効果的な配置により、磁束の漏れ等を抑えて一次コイルと二次コイルの結合係数(巻数比率)が高められることから、小型で高出力の出力変成器10が得られ、本発明の加熱コイル1のように加熱作業現場で加熱コイル1を移動させつつ作業を行う場合に最適な出力変成器10として使用できることになる。
【0033】
なお、前記出力変成器10の構成は、例示した例に限定されず、例えば、平面視コ字状の板状の二次コイルのコ字状凹部内に直方体形状のI型コアを配置し、二次コイルの上下でI型コアの外側に、薄い絶縁板等を介して一次コイルを複数回巻回すると共に、二次コイルの外側にリングコアを配置する構成としても良い。また、出力変成器10の設置板18の配設位置も、円筒状ケース10aの長手方向の中間位置に限らず、長手方向の両端部に配設しても良いし、筒状ケースも円筒状に限らず角筒状であっても良い。さらに、設置板18を円筒状ケース10aに支持固定する構成も、図示した支持部材18aに限定されず、設置板18を円筒状ケース10aの所定位置に支持固定可能な適宜の構成を採用することができる。
【0034】
次に、前記加熱コイル1の使用方法の一例について説明する。先ず、加熱作業現場に設置してあるトランジスタインバータ14や冷却水供給装置16に、接続ケーブル13等を介して出力変成器10を接続する。そして、出力変成器10を加熱作業現場の近傍に位置させ、その設置板18をフランジ面や作業台等の設置面に載置して出力変成器10を設置する。このとき、出力変成器10は、設置面上に載置した際に、その設置板18により円筒状ケース10a(出力変成器10)の回転が規制された状態で設置面上に保持されることになる。
【0035】
出力変成器10を設置面上に設置したら、加熱箇所の金属製ボルトの軸孔の状況に応じて、図1の実線で示す直線状態の加熱コイル1のコイル本体2を所定形状に曲げつつ、金属製ボルトの軸孔に挿入する。このとき、加熱コイル1は、コイル本体2のU字面と直交する方向に曲げが可能であることから、曲げ方向を考慮しながら軸孔内に挿入する。軸孔に加熱コイル1をセットしたら、設置面上に設置されている出力変成器10の出力端子11の各端子部11aに、前述したように加熱コイル1の各端子板3を差し込み蝶ナット11bで固定する。これにより、加熱コイル1と出力変成器10が一体化されて、軸孔の誘導加熱が可能な状態に設定される。
【0036】
そして、この状態を維持、すなわち出力変成器10に接続固定された加熱コイル1の軸孔への挿入状態を維持しつつ、例えば出力変成器10に設けた図示しない加熱スイッチやリモコンを操作して、トランジスタインバータ14から出力変成器10を介してコイル本体2に所定周波数の電流を供給すると共に、冷却水供給装置16から出力変成器10の各コイルやコイル本体2のなまし銅管内に冷却水を循環供給する。
【0037】
コイル本体2に例えば高周波電流が供給されると、その渦電流により金属製ボルトの軸孔内面が誘導加熱されて金属製ボルトが膨張してフランジの孔から抜き取られる。また、加熱時に循環供給される冷却水により、出力変成器10とコイル本体2が冷却されて、これらの発熱による加熱効率の低下が抑制される。この作業を隣接する金属製ボルトに順に繰り返すことで、多数の金属製ボルトで固定されている蒸気タービン室内のフランジの金属製ボルトが抜き取られることになる。
【0038】
この軸孔の加熱による金属製ボルトの抜き取り時に、小型で持ち運び等が容易な出力変成器10の出力端子11に加熱コイル1が直接接続固定されていることから、金属製ボルト間の移動や設置及び作業開始や作業終了時の移動等が簡単に行えることになる。なお、金属製ボルトの軸孔に加熱コイル1がその軸方向から直線的に挿入できる場合は、加熱コイル1を曲げることなく、図1に示す直線状態で挿入して加熱作業が行われることは言うまでもない。
【0039】
このように、前記加熱コイル1によれば、コイル本体2をなまし銅管の弾性を利用してU字面と直交する方向に曲げた際に、それぞれ弾性を有する絶縁体4と被覆部材5が同方向に略同時に曲げられるため、大きな曲げ力を必要としない等、曲げ作業が容易になったり加熱コイル1自体の取り扱い等を容易に行うことができて、金属製ボルトの軸孔の加熱作業の能率向上が図れると共に、構成簡易にして加熱コイル1自体を容易に製造できる等、加熱コイル1自体のコストや加熱作業のコストの低減化を図ることができる。
【0040】
また、絶縁体4が、U字面と直交する方向に曲げが可能な樹脂板で形成されているため、コイル本体2と略同一長さで所定板厚のフッ素樹脂板の使用により、コイル本体2のU字形状や一対の直線部2a2間の絶縁状態を安定維持しつつ、加熱コイル1の構成を一層簡素化できたり、その重量の軽量化を図ることができる。また同時に、絶縁体4がU字面と直交する方向に曲げられることから、絶縁体4とコイル本体2との位置関係を安定維持して、コイル本体2の一対の直線部2a2の接触(短絡)を防止しつつ、加熱コイル1の長手方向の形状を安定化させ、軸孔の略全域に均一な加熱状態を容易に得ることができる。
【0041】
また、各端子板3が、I型コアに巻回された一次コイル及び二次コイルを取り囲むようにリングコアが配置されると共にリングコアの外側に配置された円筒状ケース10aを備えた出力変成器10の出力端子11に直接接続固定されるため、小型で軽量な出力変成器10を加熱作業現場の近傍に配置して加熱作業を容易に行うことができる等、加熱効率や加熱作業能率の一層の向上を図ることができる。
【0042】
特に、出力変成器10が絶縁性の円筒状ケース10aや絶縁性の設置板18及び支持部材18aを有していることから、出力変成器10の外径形状を小さくしつつ所定の設置面に安定設置できると共に、円筒状ケース10aや設置板18自体の発熱を防止できて、加熱作業を一層安全に行うことができる。また、円筒状ケースの長手方向の中間位置に設置板18や支持部材18aが配設されているため、これらを出力変成器10の重量バランサーとして機能させることができると共に、上部の支持部材18aをつり上げ板として機能させることができる等、外径形状が円筒状の出力変成器10の使い勝手等を一層高めることが可能になる。
【0043】
さらに、コイル本体2の両端の接続部2bが一対の端子板3の外側面にそれぞれロー付け固定されると共に、接続部2bの垂直部2b先端になまし銅管内に冷却水を循環供給可能なホースコネクタ6がそれぞれ固定されているため、コイル本体2の冷却を確実に行うことができて、発熱による加熱コイル1の加熱効率の低下を抑制して、加熱作業のより一層の能率向上を図ることができる。
【0044】
また、コイル本体2の接続部2bの水平部2b1及び垂直部2b2と端子板3の基端側の接続部3bとが互いに接続固定されて、一対の端子板3の基端側がコイル本体2のU字幅より大きな間隙を有して対向配置されているため、端子板3と出力変成器10の出力端子11との接続作業を容易に行うことができると共に、コイル本体2のU字幅が狭い場合であっても、一対の端子板3同士の接触等を確実に防止して常に安定した加熱状態を容易に得ることができる。
【0045】
これらのことから、金属製ボルトの軸孔を加熱するための加熱コイル1の構成を極めてシンプルとし、曲げ加工が容易でかつコスト安価な加熱コイル1が得られ、例えば極めて多数の金属製ボルトの加熱を必要とする蒸気タービン室内での加熱作業の際に、使用(曲げや通電による加熱)で曲げ難くなった加熱コイル1を使い捨てとして、新しい曲げ易い加熱コイル1を使用して加熱作業を行うことができる等、加熱作業のより一層の能率向上を図ることが可能になる。
【0046】
図5図8は、本発明に係わる加熱コイル1の他の実施形態を示している。以下、前記実施形態と同一部位には同一符号を付して説明する。この実施形態の加熱コイル1の特徴は、前記絶縁体4として、フッ素樹脂等の弾性を有する樹脂板に代えて、所定間隙で連設された複数個のコア4aで形成した点にある。すなわち、所定板厚で所定長さの直方体形状のコア4aを、コイル本体2の長手方向に互いに所定の間隙19を有して複数個(図では6個)連設して、コイル本体2のU字内に配置する。そして、なまし銅管からなるコイル本体2と各コア4aを、ガラステープからなる被覆部材5を被覆することで、各コア4aをコイル本体2のU字内に所定の間隙19を有して配置する。
【0047】
この実施形態の加熱コイル1によれば、各コア4aが所定の間隙19を有して連設されていることから、コイル本体2をU字面と直交する方向に曲げた際に、長さの短い隣接するコア4aもその互いの端面角部が当接するまでガラステープで覆われつつ曲げられることになる。この加熱コイル1においても、前記実施形態の加熱コイル1と同様の作用効果が得られる他に、コイル本体2のU字内に複数のコア4aが配置されているため、各コア4aで磁束の漏れ等を抑制して加熱コイル1の加熱効率を高めることができ、加熱コイル1に接続される出力変成器10やトランジスタインバータ14等の一層の小型化や加熱作業のコストの一層の低減化を図ること等ができる。この例の場合、コア4a間の間隙19内に適宜の弾性を有する絶縁材を介在させることもできる。
【0048】
なお、前記実施形態における、各寸法はコイルの外径が18mmの場合を示しているが、本発明の加熱コイル1は、例えば軸孔の内径が10〜30mmの金属製ボルトに適用できるように、その外径も8〜28mm程度に設定され、この寸法に応じて前記各寸法が所定に設定されるようになっている。
【0049】
また、前記実施形態においては、絶縁体4として樹脂板やコア4aを使用したが、本発明はこれに限定されず、例えば板状の絶縁体4に代えて角柱状のフッ素樹脂等の弾性に優れた絶縁体4を使用して、コイル本体2をU字面内とU字面と直交する方向に曲げが可能としたり、あるいはなまし銅管の外周面全域を絶縁性と耐熱性に優れた所定厚さの絶縁部材で被覆することで、この絶縁部材に前記絶縁体4と被覆部材5の両機能を持たせて、コイル本体2を例えば全方向に曲げが可能に構成することもできる。
【0050】
さらに、前記各実施形態における、コイル本体2の接続部2bの形態、端子板3の形態、加熱コイル1と出力変成器10の接続構造等は一例であって、例えば加熱コイル1の端子板3を長さの短い接続ケーブルを介して出力変成器10の出力端子11に接続して、加熱コイル1の引き廻しを一層容易にする等、同等の作用効果が得られかつ本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、蒸気タービン室のフランジ締付け用の金属製ボルトへの適用に限らず、中心位置に軸孔を有してボルトの締付けや緩めに加熱が必要な全ての金属製ボルト、あるいは孔内を加熱する必要がある全ての金属製品にも利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・誘導加熱コイル、2・・・コイル本体、2a・・・加熱部、2b・・・接続部、3・・・端子板、3a・・・固定用溝、3b・・・接続部、4・・・絶縁体、4a・・・コア、5・・・被覆部材、6・・・ホースコネクタ、7・・・空間、10・・・出力変成器、11・・・出力端子、12・・・入力端子、13・・・接続ケーブル、14・・・トランジスタインバータ、15・・・ホースコネクタ、16・・・冷却水供給装置、17・・・冷却水ホース、18・・・設置板、18a・・・支持部材、19・・・間隙。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8